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特許拒絶査定不服審判

2023-001870

脳のガンマ振動を同期化する視覚刺激を用いた認知症の治療

審判番号
2023-001870
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-520207外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2023年02月03日
審決日
2024年01月09日
公報発行日
2024年06月28日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .113-ZB (A61N) / P18 .121-ZB (A61N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-520207号「脳のガンマ振動を同期化する視覚刺激を用いた認知症の治療」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 4月18日国際公開、WO2019/075094、令和 2年12月17日国内公表、特表2020-536643号〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 11項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本願は、2018年(平成30年)10月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2017年10月10日、(US)アメリカ合衆国、2017年10月11日、(US)アメリカ合衆国、2018年 9月19日、(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続きの経緯は以下のとおりである。

令和 3年10月 8日 :手続補正書の提出
令和 3年11月 9日付け:拒絶理由通知書
令和 4年 2月 9日 :意見書、手続補正書の提出
令和 4年 5月 6日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和 4年 8月 3日 :意見書、手続補正書の提出
令和 4年10月 3日付け:令和 4年 8月 3日の手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 5年 2月 3日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 5年 3月 9日 :審判請求書の手続補正書(方式)の提出

第2 令和 5年 2月 3日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

令和 5年 2月 3日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正の内容について

(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載

本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。

「【請求項1】
その必要のある対象において認知症またはアルツハイマー病を治療するためのデバイスであって、
A)30Hz~50Hzの周波数を有し、かつ50%の負荷サイクルを有する慢性視覚刺激を、少なくとも22日間、少なくとも1日あたり1時間、前記対象に非侵襲的に送達することが可能であり、前記送達により前記デバイスが、前記対象の少なくとも前頭前野皮質(PFC)および海馬を含む、前記対象の複数の脳領域において同期化ガンマ振動を同調させることが可能である、前記デバイス。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載

本件補正前の、令和 4年 2月 9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
その必要のある対象において認知症またはアルツハイマー病を治療するためのデバイスであって、
A)30Hz~50Hzの周波数を有する慢性視覚刺激を前記対象に非侵襲的に送達し、前記対象の少なくとも前頭前野皮質(PFC)および海馬を含む、前記対象の複数の脳領域において同期化ガンマ振動を同調させることが可能である、前記デバイス。」

2 補正の適否について

本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「慢性視覚刺激」について「50%の負荷サイクルを有する」という限定を付加し、以下同様に、「デバイス」について、慢性視覚刺激の送達を「少なくとも22日間、少なくとも1日あたり1時間、」「することが可能であり」という限定を付加し、「同期化ガンマ振動を同調させることが可能である」ことについて「前記送達により」同調させることが可能であるという限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明

本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献1の記載事項、認定事項及び引用発明

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ア 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第2017/091698号(国際公開日2017年 6月 1日、以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(なお、下線及び翻訳は当審が付した。以下同様である。)。

「CLAIMS
1. A method for at least one of preventing, mitigating, and treating dementia in a subject comprising inducing synchronized gamma oscillations in at least one brain region of the subject.
・・・
6. The method of any of claims 1-5, wherein the synchronized gamma oscillations are induced in a brain-region specific manner.
続きを表示(全16行)
7. The method of claim 6, wherein the synchronized gamma oscillations correspond to synchronized activation in at least one of a hippocampus region and a sensory cortex region.
8. The method of any of claims 1-7, wherein the dementia is associated with at least one of Alzheimer's Disease, vascular dementia, frontal temporal dementia, Lewy Body dementia, and age-related cognitive decline.
・・・
10. A method for at least one of preventing, mitigating, and treating dementia in a subject comprising providing a stimulus -emitting device configured to emit a stimulus having at least one predetermined frequency for inducing in vivo synchronized gamma oscillations in at least one brain region of the subject.
11. The method of claim 10, wherein the at least one predetermined frequency of the stimulus is about 35 Hz to about 45 Hz.
12. The method of claim 11, wherein the at least one predetermined frequency of the stimulus is about 40 Hz.
13. The method of any of claims 10-12, wherein the stimulus-emitting device is at least one of a haptic device, a light-emitting device, and a sound-emitting device.
14. The method of claim 13, wherein the light-emitting device is a fiber optic device.
15. The method of any of claims 10-14, wherein the duration of the administration of the stimulus to the subject is about one hour.
16. The method of claim any of claims 10-15, wherein the administration of the stimulus to the subject is repeated over a time period.
17. The method of claim 16, wherein the administration of the stimulus to the subject is repeated at least once per day over the time period, the time period being at least one of 2 days, 3 days, 4 days, 5 days, 6 days, one week, two weeks, three weeks, and one month.
・・・」

(翻訳)

「【特許請求の範囲】
1.対象における認知症の予防、軽減及び治療のうちの少なくとも1つのための方法であって、前記対象の少なくとも1つの脳領域において、同期ガンマ振動を誘導することを含む、前記方法。
・・・
6.前記同期ガンマ振動が、脳領域特異的に誘導される、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
続きを表示(全16行)
7.前記同期ガンマ振動が、海馬領域及び感覚野領域の少なくとも一方における同期的活動化に対応する、請求項6に記載の方法。
8.前記認知症が、アルツハイマー病、血管性認知症、前頭側頭認知症、レビー小体認知症、及び加齢関連認知低下のうちの少なくとも1つと関連する、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
・・・
10.対象における認知症の予防、軽減、及び治療のうちの少なくとも1つのための方法であって、前記対象の少なくとも1つの脳領域においてインビボで同期ガンマ振動を誘導するための少なくとも1つの所定の周波数を有する刺激を放出するように構成された、刺激放出装置を提供することを含む、前記方法。
11.前記刺激の前記少なくとも1つの所定の周波数が、約35Hz~約45Hzである、請求項10に記載の方法。
12.前記刺激の前記少なくとも1つの所定の周波数が、約40Hzである、請求項11に記載の方法。
13.前記刺激放出装置が、触覚装置、発光装置、及び放音装置のうちの少なくとも1つである、請求項10~12のいずれかに記載の方法。
14.前記発光装置が、光ファイバー装置である、請求項13に記載の方法。
15.前記対象に対する前記刺激の投与期間が、約1時間である、請求項10~14のいずれかに記載の方法。
16.前記対象に対する前記刺激の投与が、ある期間にわたって繰り返される、請求項10~15のいずれかに記載の方法。
17.前記対象に対する前記刺激の投与が、前記期間にわたって少なくとも1日1回繰り返され、前記期間が、2日、3日、4日、5日、6日、1週間、2週間、3週間、及び1か月のうちの少なくとも1つである、請求項16に記載の方法。
・・・」

「[0003] The present disclosure relates generally to systems and methods for preventing, mitigating, and/or treating dementia in a subject. More specifically, the present disclosure relates to systems and methods for inducing synchronized gamma oscillations in at least one brain region of subject.」

(翻訳)

「[0003]本開示は、概して、対象における認知症を予防、軽減、及び/または治療するためのシステムならびに方法に関する。より具体的には、本開示は、対象の少なくとも1つの脳領域において、同期ガンマ振動を誘導するためのシステム及び方法に関する。」

「[0191] In some embodiments, the gamma oscillations are induced by a visual stimulus such as a flashing light at about 20 Hz to about 100 Hz. In particular embodiments, the gamma oscillations are induced by flashing light at about 20 Hz to about 50 Hz. In further embodiments, the gamma oscillations are induced by flashing light at about 35 Hz to about 45 Hz. In yet further embodiments, the gamma oscillations are induced by flashing light at about 40 Hz. In some embodiments, the subject receives (e.g., is placed in a chamber with or wears a light blocking device emitting) about 20 Hz to about 100 Hz flashing light, or about 20 Hz to about 50 Hz flashing light or about 35 Hz to about 45 Hz flashing light, or about 40 Hz flashing light.」

(翻訳)

「[0191]いくつかの実施形態では、ガンマ振動は、約20Hz~約100Hzの閃光等の視覚刺激によって誘導される。特定の実施形態では、ガンマ振動は、約20Hz~約50Hzの閃光によって誘導される。さらなる実施形態では、ガンマ振動は、約35Hz~約45Hzの閃光によって誘導される。さらに別の実施形態では、ガンマ振動は、約40Hzの閃光によって誘導される。いくつかの実施形態では、対象は、約20Hz~約100Hzの閃光、もしくは約20Hz~約50Hzの閃光、もしくは約35Hz~約45Hzの閃光、または約40Hzの閃光を(例えば、発する遮光装置を備えたチャンバー内に配置されて、または、発する遮光装置を身に着けて)受ける。」

「[0350] Another study was conducted to examine whether chronic gamma exposure and/or administration in accordance with some embodiments influences spatial learning and memory in a subject. FIG. 80 A is a flow diagram illustrating the study. As shown at 8000 in FIG. 80A, C57BL/6 mice were exposed to either normal room light (N =7) or a 40-Hz light flicker (N =7) in accordance with some embodiments for one hour per day for two weeks. During the third week, shown at 8002, the mice continued to be exposed to either normal room light or a 40-Hz light flicker for one hour each morning and then also subjected to a Morris water maze test each afternoon.
[0351] FIG. 80B is a plot depicting the latency to find the platform by the mice exposed to normal room light (NRL) and the mice exposed to the 40-Hz light flicker (40-Hz) on Days 1 - 4 of the third week. Following the third week, a probe test was conducted by removing the hidden platform. FIG. 80C is a bar graph depicting the total time (seconds per 30-second trial) spent searching for the platform in the target quadrant during the probe test. Similar to one week of treatment, chronic three week treatment enhanced spatial learning in accordance with some embodiments.
[0352] Reversal learning was conducted using the same groups of mice from FIGS. 80 A- 80C. FIG. 81 A is a flow diagram illustrating the expanded study. As shown at 8100 in FIG. 81 A, the C57BL/6 mice were exposed to either normal room light or a 40-Hz light flicker in accordance with some embodiments for one hour per day for two weeks. During the third week, shown at 8102, the mice continued to be exposed to either normal room light or a 40- Hz light flicker for one hour each morning and then also subjected to a Morris water maze test each afternoon. During the fourth week, shown at 8104, the mice continued to be exposed to either normal room light or a 40-Hz light flicker for one hour each morning and then also subjected to a Morris water maze reversal test each afternoon. FIG. 81B is a plot depicting the latency to find the platform by the mice exposed to normal room light (NRL) and the mice exposed to the 40-Hz light flicker (40-Hz) on Days 1-4 of the fourth week in accordance with some embodiments.」

(翻訳)

「[0350] いくつかの実施形態に従って、長期的なガンマ曝露及び/または投与が、対象の空間学習及び記憶に影響を与えるかどうかを調べるために別の試験を実施した。図80Aは、本試験を示す流れ図である。図80Aの8000で示すように、いくつかの実施形態に従って、C57BL/6マウスを、2週間、1日1時間、普通室内光(N=7)または40Hzの光の点滅(N=7)のいずれかに曝露した。8002で示される第3週の間、これらマウスを普通室内光または40Hzの光の点滅のいずれかに、毎朝1時間曝露し続け、その後毎日午後、同様にMorris水迷路試験に供した。
[0351] 図80Bは、第3週の1~4日目に、普通室内光(NRL)に曝露されたマウス及び40Hzの光の点滅(40Hz)に曝露されたマウスが台を見つけるまでの時間を示すプロットである。第3週の後、隠された台を取り除いてプローブ試験を実施した。図80Cは、プローブ試験中に目標象限内で台を探すのに費やされた合計時間(30秒の試験ごとの秒数)を示す棒グラフである。いくつかの実施形態に従って、1週間の処理と同様に、長期的な3週間の処理は、空間学習を強化した。
[0352] 図80A~80Cから同じ群のマウスを用いて逆転学習を実施した。図81Aは、拡張した試験を示す流れ図である。図81Aの8100に示すように、いくつかの実施形態に従って、C57BL/6マウスを、2週間、1日1時間、普通室内光または40Hzの光の点滅のいずれかに曝露した。8102で示される第3週の間、これらマウスを普通室内光または40Hzの光の点滅のいずれかに、毎朝1時間曝露し続け、その後毎日午後、同様にMorris水迷路試験に供した。8104で示される第4週の間、これらマウスを普通室内光または40Hzの光の点滅のいずれかに、毎朝1時間曝露し続け、その後毎日午後、同様にMorris水迷路再試験に供した。図81Bは、いくつかの実施形態に従って、第4週の1~4日目に、普通室内光(NRL)に曝露されたマウス及び40Hzの光の点滅(40Hz)に曝露されたマウスが台を見つけるまでの時間を示すプロットである。」
「Visual Stimulation Protocol
[0431] Fifteen minutes prior to the experiment 5XFAD mice were treated with saline (Control) or picrotoxin (0.18 mg/kg). For molecular and biochemical analyses mice were then placed in a dark chamber illuminated by an LED bulb and exposed to one of five stimulation conditions: dark, light, 20-Hz flicker, 40-Hz flicker, or 80-Hz flicker (12.5 ms light on, 12.5 ms light off) for one hour (see, e.g., FIG. 43A). For electrophysiological recordings each animal received dark, light, 40-Hz flicker, or random (light pulses were delivered with a random interval determined by a Poisson process with an average interval of 40 Hz) stimulation conditions interleaved in 10 s blocks during recordings.」

(翻訳)

「視覚刺激プロトコル
[0431] 実験の15分前、5XFADマウスを生理食塩水(対照)またはピクロトキシン(0.18mg/kg)で処理した。分子及び生化学的分析用に、その後マウスを、LED電球によって照らされる暗室に入れ、5つの刺激条件、すなわち、暗、明、20Hzの点滅、40Hzの点滅、または80Hzの点滅(12.5ミリ秒の光オン、12.5ミリ秒の光オフ)1時間(例えば、図43A参照)のうちの1つに曝露した。電気生理学的記録については、各動物は、記録中、10秒のブロックで交互配置された、暗、明、40Hzの点滅、またはランダム(光パルスは、平均間隔40Hzで、ポアソン過程により決定されたランダムな間隔で送った)刺激条件を受けた。」

図43A

[図:0001410850000001.jpg]

図81A(翻訳のみを示す。)

[図:0001410850000002.jpg]

図81B(翻訳のみを示す。)

[図:0001410850000003.jpg]

イ 引用文献1からの認定事項

引用文献1の段落[0431]には、「視覚刺激プロトコル」として「5つの刺激条件、すなわち、暗、明、20Hzの点滅、40Hzの点滅、または80Hzの点滅(12.5ミリ秒の光オン、12.5ミリ秒の光オフ)1時間(例えば、図43A参照)のうちの1つに曝露した。」と記載されている。

上記「12.5ミリ秒の光オン、12.5ミリ秒の光オフ」なる記載から、光の周期は合計の25ミリ秒であり、その周波数は1/0.025=40Hzであることが理解できる。

そして、光の周期25ミリ秒のうち、光オン時間が12.5ミリ秒であるから負荷サイクルは50%である。

よって、刺激は、40Hzの光の点滅の視覚刺激であり、かつ50%の負荷サイクルを有している。

ウ 引用発明

上記ア、イから、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>

「対象におけるアルツハイマー病、血管性認知症、前頭側頭認知症、レビー小体認知症、及び加齢関連認知低下のうちの少なくとも1つと関連する認知症の予防、軽減、及び治療のうちの少なくとも1つのための刺激放出装置である発光装置であって、
刺激が、40Hzの光の点滅の視覚刺激であり、かつ50%の負荷サイクルを有し、対象に対する前記刺激の投与が、1か月にわたって少なくとも1日1回繰り返され、前記対象に対する前記刺激の投与期間が、約1時間であり、前記対象の海馬領域及び感覚野領域の少なくとも一方においてインビボで同期的活動化に対応する同期ガンマ振動を誘導するための40Hzを有する刺激を放出するように構成された、刺激放出装置である発光装置。」

(3)対比

ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「刺激放出装置である発光装置」は、本件補正発明の「デバイス」に相当する。

(イ)上記(ア)を踏まえると、引用発明の「対象におけるアルツハイマー病、血管性認知症、前頭側頭認知症、レビー小体認知症、及び加齢関連認知低下のうちの少なくとも1つと関連する認知症の予防、軽減、及び治療のうちの少なくとも1つのための刺激放出装置である発光装置」は、本件補正発明の「その必要のある対象において認知症またはアルツハイマー病を治療するためのデバイス」に相当する。

(ウ)引用発明の「発光装置」における「対象に対する前記刺激の投与が、1か月にわたって」いることは慢性視覚刺激と表現できるから、引用発明の「刺激が、40Hzの光の点滅の視覚刺激であり、かつ50%の負荷サイクルを有し、対象に対する前記刺激の投与が、1か月にわたって少なくとも1日1回繰り返され」ることは、本件補正発明の「30Hz~50Hzの周波数を有し、かつ50%の負荷サイクルを有する慢性視覚刺激」であることに相当する。

(エ)引用発明の「発光装置」における「対象に対する前記刺激の投与が、1か月にわたって」いることは慢性視覚刺激と表現でき、視覚刺激は非侵襲的に送達することが可能であるから、引用発明の「対象に対する前記刺激の投与が、1か月にわたって少なくとも1日1回繰り返され、前記対象に対する前記刺激の投与期間が、約1時間であ」ることは、本件補正発明の「慢性視覚刺激を、少なくとも22日間、少なくとも1日あたり1時間、前記対象に非侵襲的に送達することが可能であ」ることに相当する。

(オ)引用発明の「同期ガンマ振動を誘導する」ことは、本件補正発明の「同期化ガンマ振動を同調させる」ことに相当し、以下同様に、「同期ガンマ振動を誘導するための40Hzを有する刺激を放出するように構成された」ことは、「前記送達により前記デバイスが、」「同期化ガンマ振動を同調させることが可能である」ことに相当する。

(カ)上記(オ)を踏まえると、引用発明の「発光装置」が「前記対象の海馬領域及び感覚野領域の少なくとも一方においてインビボで同期的活動化に対応する同期ガンマ振動を誘導するための40Hzを有する刺激を放出するように構成された」ことと、本件補正発明の「前記送達により前記デバイスが、前記対象の少なくとも前頭前野皮質(PFC)および海馬を含む、前記対象の複数の脳領域において同期化ガンマ振動を同調させることが可能である」こととは、「前記送達により前記デバイスが、前記対象の海馬を含む、前記対象の脳領域において同期化ガンマ振動を同調させることが可能である」という限りで一致する。

イ 以上より、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】

「その必要のある対象において認知症またはアルツハイマー病を治療するためのデバイスであって、
30Hz~50Hzの周波数を有し、かつ50%の負荷サイクルを有する慢性視覚刺激を、少なくとも22日間、少なくとも1日あたり1時間、前記対象に非侵襲的に送達することが可能であり、前記送達により前記デバイスが、前記対象の少なくとも海馬を含む、前記対象の脳領域において同期化ガンマ振動を同調させることが可能である、前記デバイス。」

【相違点】

「同期化ガンマ振動を同調させることが可能である」ことに関し、本件補正発明は「少なくとも前頭前野皮質(PFC)および海馬を含む、前記対象の複数の脳領域において」同調させることが可能であるのに対し、引用発明は「海馬領域及び感覚野領域の少なくとも一方において」同調させることが可能である点。

(4)判断

ア 相違点について検討する。

上記相違点に係る本件補正発明の構成は、「デバイス」が「30Hz~50Hzの周波数を有し、かつ50%の負荷サイクルを有する慢性視覚刺激を、少なくとも22日間、少なくとも1日あたり1時間、前記対象に非侵襲的に送達することが可能であり、前記送達により」可能となるものである。

そして、本件補正発明の「デバイス」と引用発明の「発光装置」とは、上記(3)イにおいて一致点として示したとおり、「30Hz~50Hzの周波数を有し、かつ50%の負荷サイクルを有する慢性視覚刺激を、少なくとも22日間、少なくとも1日あたり1時間、前記対象に非侵襲的に送達することが可能であ」るという点で、物としての差異はないから、引用発明も本件補正発明と同じ慢性視覚刺激を送達することが可能である。

そうすると、引用発明は、本件補正発明と同じ慢性視覚刺激を送達するのであるから、前記送達により、引用発明が「海馬領域」だけでなく、前頭前野皮質(PFC)を含む、複数の脳領域において同期化ガンマ振動を同調させることが可能であることは、明らかである。

したがって、上記相違点は実質的な相違点ではない。

イ また、仮に上記相違点が実質的な相違点であるとしても、認知症の発症に、前頭前野皮質(PFC)や海馬が深く関係していることは、従来周知の事項である(例えば、特開2013-233437号公報の段落【0004】、【0014】及び【0161】並びに特開2013-138850号公報の段落【0165】等を参照)。

そうすると、引用発明の「認知症」の「治療のための」「発光装置」は、「海馬領域及び感覚野領域の少なくとも一方における同期的活動化に対応する同期ガンマ振動を誘導する」ものであるところ、「海馬領域」だけでなく、認知症の発症に深く関係する前頭前野皮質(PFC)を含む、複数の脳領域において同期ガンマ振動を誘導するようにし、上記相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が格別の創意を要することなく容易になし得た程度のことである。

ウ 請求人は、審判請求書の手続補正書(方式)の3.(2)「出願人の意見」の4)において、「これらのことから、このような場合は、既存のデバイスと、『特定の疾患の治療のためのデバイス』との同一性や容易想到性は、厳格になり過ぎないように審査されるべきものと思料します。

なぜなら、『公知のデバイス』を使用し得る特定の処理によってある疾患を治療できることを初めて見いだした発明が、日本では保護され得ないことにもなるからです。

また、『特定の疾患の治療に対する特定の処理のためのデバイス』として特許になった場合、その特許は、そのデバイスをその用途(特定の疾患に対する特定の処理による治療)に用いることに権利が及ぶと解するべきと考えられます。したがって、その用途に用いないそのデバイスの販売、流通を妨げることはなく、第三者に予測できない不利益を与えることはないと思料します。」と主張する。

しかしながら、上記アで述べたとおり、本件補正発明と引用発明とは、慢性視覚刺激を送達するという点で、物としての差異はない。

そして、本件補正発明の用途は「認知症またはアルツハイマー病を治療するため」のものであるところ、引用発明の用途も「アルツハイマー病、血管性認知症、前頭側頭認知症、レビー小体認知症、及び加齢関連認知低下のうちの少なくとも1つと関連する認知症の予防、軽減、及び治療のうちの少なくとも1つのため」のものであり、用途についても両者に差異はない。

よって、上記請求人の主張は採用することができない。

エ したがって、本件補正発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正発明についてのむすび

よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明

令和 5年 2月 3日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和 4年 2月 9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~80に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基いて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3 引用文献の記載事項、認定事項及び引用発明

原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項、認定事項及び引用発明は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断

本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「慢性視覚刺激」について「50%の負荷サイクルを有する」という限定事項、「デバイス」について、慢性視覚刺激の送達を「少なくとも22日間、少なくとも1日あたり1時間」「することが可能であり」という限定事項、及び「同期化ガンマ振動を同調させることが可能である」ことについて「前記送達により」同調させることが可能であるという限定事項を削除したものである。

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明である又は引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明である又は引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し又は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2023-001870

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