特許拒絶査定不服審判
2023-017059
表面特性の特定
- 審判番号
- 2023-017059
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-183062
- 請求日
- 2023年10月06日
- 審決日
- 2026年03月31日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
- 【請求人代理人】弁理士法人北青山インターナショナル
- 審判長/審判官
- 審判長 濱野 隆
- 審判官 小島 寛史
- 審判官 柳 重幸
- 分類
- P18 .121-WZ (G01S)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-183062「表面特性の特定」拒絶査定不服審判事件〔令和4年2月8日出願公開、特開2022-24024〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)1月29日を国際出願日とする外国語特許出願(特願2019-539239号)の一部を、令和3年11月10日に新たな外国語書面出願としたものであって(パリ条約による優先権主張 2017年1月27日 米国、2017年7月7日 米国)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。(以下、2017年1月27日を「優先日」という。)
令和3年11月19日 :翻訳文、手続補正書の提出
令和4年12月 2日付け:拒絶理由通知書
令和5年 5月 8日 :意見書、手続補正書の提出
同月31日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年 6月 6日 :原査定の謄本の送達)
同年10月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和6年12月12日付け:拒絶理由通知書
令和7年 3月17日 :意見書、手続補正書の提出
同年 6月12日付け:拒絶理由通知書
同年 9月17日 :意見書、手続補正書の提出
なお、令和7年6月12日付けで当審において通知した拒絶理由を、以下「当審拒絶理由」といい、これに対して、同年9月17日に請求人から提出された意見書を、以下、単に「意見書」という。
2 本願発明について
(1) 本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和7年9月17日に提出された手続補正書により補正された請求項1に記載された次に示す事項により特定されるとおりのものである。
「グラウンド特性に基づいて自律車両制御装置が乗物を操縦するための方法であって、
表面貫通レーダー(SPR)信号をSPRシステムから表面に向けて送信するステップと、
前記SPRシステムで、少なくとも部分的に、前記表面に関連する表面領域からのSPR信号の反射と、前記表面の後ろの表面下領域からのSPR信号の反射とを含む応答信号を受信するステップと、
前記応答信号の強度と位相の少なくとも一方を測定するステップと、
前記応答信号の強度および位相の少なくとも一方に少なくとも部分的に基づいて、複数の事前定義された表面特性に関連する信号応答の既知の強度または位相と前記応答信号の測定された強度または位相とを相関させること、および/または、クリアな表面特性の既知の強度または位相と前記応答信号の測定された強度または位相との間の差を計算すること、および/または、降水状態の表面特性の既知の強度または位相と前記応答信号の測定された強度または位相との間の差を計算することによって、前記表面の表面特性を特定するステップと、
少なくとも部分的に、前記表面の表面特性に基づいて、前記乗物を操縦するステップとを含み、
前記応答信号の強度と位相の少なくとも一方を測定するステップは、前記応答信号内の複数の周波数のうちの各周波数について、強度と位相の少なくとも一方を測定するステップを含むことを特徴とする方法。」
(2) 本願発明の分説
検討の便宜上、本願発明の構成を次のように構成Xと構成Aから構成Fまでに分説する。また、参考図として、本願の【図1】及び【図2】を併せて掲載する。
<本願発明の分説>
X グラウンド特性に基づいて自律車両制御装置が乗物を操縦するための方法であって、
A 表面貫通レーダー(SPR)信号をSPRシステムから表面に向けて送信するステップと
B 前記SPRシステムで、少なくとも部分的に、前記表面に関連する表面領域からのSPR信号の反射と、前記表面の後ろの表面下領域からのSPR信号の反射とを含む応答信号を受信するステップと、
C 前記応答信号の強度と位相の少なくとも一方を測定するステップと、
D 前記応答信号の強度および位相の少なくとも一方に少なくとも部分的に基づいて、
D-1 複数の事前定義された表面特性に関連する信号応答の既知の強度または位相と前記応答信号の測定された強度または位相とを相関させること、および/または、
D-2 クリアな表面特性の既知の強度または位相と前記応答信号の測定された強度または位相との間の差を計算すること、および/または、
D-3 降水状態の表面特性の既知の強度または位相と前記応答信号の測定された強度または位相との間の差を計算すること
によって、前記表面の表面特性を特定するステップと、
E 少なくとも部分的に、前記表面の表面特性に基づいて、前記乗物を操縦するステップとを含み、
F 前記応答信号の強度と位相の少なくとも一方を測定するステップは、前記応答信号内の複数の周波数のうちの各周波数について、強度と位相の少なくとも一方を測定するステップを含むことを特徴とする
X 方法。
<参考図>
【図1】
[図:0001438611000001.jpg]
【図2】
[図:0001438611000002.jpg]
(3) 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある。
「【0003】
発明の分野
[0003]本発明は、一般に、表面特性を特定するための方法およびシステムに関する。この方法およびシステムは、車両を制御するために使用され得る。
【0004】
発明の背景
[0004]車両の自律航法では、実世界の環境を感知したり、環境(道路など)の広範な事前知識を必要とする。実世界の環境は変化に富んでおり、詳細な事前のマップは路面状態などの航行条件の変化を考慮していない。したがって、表面特性の特定を実現する方法およびシステムが求められており、これは車両の自律航行を支援し得る。
【発明の概要】
【0005】
[0005]本技術の例示的な実施形態は、表面特性を特定する方法を含む。
【0006】
[0006]一実施形態では、表面特性を特定する方法は、表面貫通レーダー(SPR)信号をSPRシステムから表面に向けて送信するステップを含み得る。この方法はまた、SPRシステムで応答信号を受信するステップを含み得る。応答信号は、少なくとも部分的に、表面に関連付けられた表面領域からのSPR信号の反射を含み得る。この方法はさらに、応答信号の強度および位相のうちの少なくとも一方を測定するステップを含み得る。この方法はさらに、応答信号の強度および位相の少なくとも一方に少なくとも部分的に基づいて、表面の表面特性を特定するステップを含み得る。
【0007】
[0007]様々な実装例において、この方法は、応答信号、測定された応答信号の強度、測定された応答信号の位相、および特定された表面特性の少なくとも1つを、乗物の1以上の制御システムに送信するステップを含み得る。この方法はまた、応答信号、応答信号の測定強度、応答信号の測定位相、および特定された表面特性のうちの少なくとも1つに基づいて乗物を制御することを含み得る。表面特性の特定は、伝達関数と周波数応答の少なくとも一方に基づいてもよい。表面特性は、雪、氷、水、泥、泥水、砂、塩の少なくとも1つであり得る。」
「【0015】
[0020]以下で説明する様々な実施形態では、地面(ground)および表面(surface)に言及している。地面には、土壌、アスファルト層やコンクリート層、砂利、砂などの路面または舗道が含まれ、表面とは空気、配列物、流体、雪、雨、スラッジ、泥、または自由空間との界面であることが理解されよう。場合によっては、表面には、トンネル、坑道、および乗物が移動する他の通路を囲む面も含まれる。本書で使用される表面領域という用語は、表面上の状態または物質の層の深さを含む。例えば、表面領域には、道路上の雪の層の中、または地面および/または地面自体の一部の泥の層の中にあるものも含まれ得る。
【0016】
[0021]より一般的には、本明細書では、表面貫通レーダー(SPR)および地面貫通レーダー(GPR)に言及する。本書で用いられる場合、SPRは、表面下領域からデータを取得するように構成されたレーダーシステムを意味する。SPRは、壁面、天井、床面、またはトンネルや通路に沿った1以上の表面の背後にある表面下領域のデータを取得するように構成および方向付けすることができる。場合によっては、SPRは表面のデータも取得することができる。GPRシステムは、地下領域からデータを取得するように構成されたSPRシステムの一種であり、地表のデータも取得できることが認識されよう。本書で使用される表面下領域とは、地表の下の地下領域など、表面の裏の領域をいう。あるいは、表面下領域は、壁や天井構造の内部および/または背後の領域など、構造物の表面の背後の領域であり得る。」
3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由のうち、本願の請求項1に係る発明に対する、引用文献2を主たる引用文献とした進歩性の欠如の理由の概要は、次のとおりである。
本願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において発行された、下記引用文献に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献2.特開平10-103964号公報
4 引用文献2の記載事項及び引用発明の認定
(1) 引用文献2に記載された事項
当審拒絶理由において引用され、本願の優先日前に発行された文献である特開平10-103964号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある(なお、当合議体により、後記(2)の引用発明の認定に用いる記載に下線を付している。)。
ア 【請求項2】~【請求項3】
「【請求項2】 車両に搭載され、車両の走路に沿って埋設される金属製の電波反射体をミリ波以上の波長の電波によって探索し、車両位置を検出する装置であって、
電波反射体に向けて、円偏波の電波を送信する送信アンテナと、
送信される電波に対して、円偏波の旋回方向が逆になる反射波を受信する逆旋受信アンテナと、
逆旋受信アンテナによって受信される反射波に基づいて車両位置を検出する位置検出手段とを含むことを特徴とする車両位置検出装置。
【請求項3】 前記逆旋受信アンテナとともに、送信される電波に対して、円偏波の旋回方向が同一の反射波を受信する同旋受信アンテナと、
同旋受信アンテナの受信レベル変化に基づいて、路面状態の変化を検知する路面状態検知手段とを備えることを特徴とする請求項1または2記載の車両位置検出装置。」
イ 段落【0002】
「【0002】
【従来の技術】従来より、車両の自動運転を行うために走路に対する車両の相対位置を検出する技術が知られている。」
ウ 段落【0014】~【0015】、【図1】~【図2】
「【0014】
【発明の実施の形態】図1は、本発明の実施の一形態の概略的な構成を示す。車両1が走行する路面2には、金属製の電波反射体であるレーンマーカ3が埋設される。車両1には、送信アンテナ4および逆旋受信アンテナ5が搭載され、送信アンテナ4からはセンシング用電波6が送信され、レーンマーカ3からの反射波7は逆旋受信アンテナ5によって受信される。送信アンテナ4から送信されるセンシング用電波6は、路面2に対して電波接地角ψとなるように送信される。センシング用電波6は円偏波であり、逆旋受信アンテナ5はセンシング用電波6の円偏波の旋回方向が反転した円偏波の反射波7を受信する。位置検出装置8は、逆旋受信アンテナ5の受信レベルに基づいて、レーンマーカ3に基づく車両1の相対位置を検出する。たとえば、送信アンテナ4および逆旋受信アンテナ5は、レーンマーカ3の位置を中心として、車両1の走行方向に垂直な幅方向に等間隔となるように搭載され、この状態で逆旋受信アンテナ5の受信レベルが最大となるように送信アンテナ4および逆旋受信アンテナ5の指向特性が調整される。この調整の際に、路面2に対する電波接地角ψは、路面2のブリュースタ角以下にされる。レーンマーカ3は、たとえば厚さ1~10mm程度のアルミニウム(Al)板が好適に使用される。長さは約1m程度、幅は約30cm程度である。」
「【図1】
[図:0001438611000003.jpg]
」
「【0015】図2は、図1の実施形態の概略的な電気的構成を示す。位置検出装置8内には、送信アンテナ4から円偏波として送信するセンシング用電波6の元となる高周波出力を発生する発振器10と、レーンマーカ3からの反射波7を受信する逆旋受信アンテナ5からの受信信号を、中間周波数信号に変換するための高周波信号を発振するローカル発振器11と、逆旋受信アンテナ5の受信信号とローカル発振器11の高周波信号とを混合するミキサ12と、ミキサ12からの出力に含まれる中間周波数信号を増幅して、反射波7の信号レベルから車両1のレーンマーカ3に対する相対的位置を検出する処理器13とを含む。発振器10が発振する高周波の周波数は、ミリ波帯以下であることが好ましい。送信アンテナ4は、旋回方向16の円偏波のセンシング用電波6を送信する。金属製のレーンマーカ3から反射される反射波7は、旋回方向16とは逆の旋回方向17を有する円偏波となり、逆旋受信アンテナ5によって受信される。路面2など、導電性を有する金属製のレーンマーカ3とは異なる電気絶縁性を有する部分からの反射波は、円偏波の旋回方向がセンシング用電波6の旋回方向16と同一となり、逆旋受信アンテナ5によっては非常に低い受信レベルでしか受信されない。」
「【図2】
[図:0001438611000004.jpg]
」
エ 段落【0018】~【0021】、【図4】~【図6】
「【0018】図4は、本発明の実施の他の形態の概略的な電気的構成を示す。本実施形態で、図2に示す構成に対応する部分には同一の参照符を付し、重複した説明を省略する。本実施形態の位置検出装置18は、発信周波数が可変である発振器20を含む。また送信アンテナ4から送信された円偏波の旋回方向と同一の旋回方向を有する円偏波を受信する同旋受信アンテナ21と、同旋受信アンテナ21に受信される電波に対応する電気信号を、位置検出装置18内のローカル発振器11によって発信される高周波信号と混合し、中間周波数信号を得るためのミキサ22と、ミキサ22からの中間周波数信号に基づいて路面状態を検知する路面状態検知手段25と、路面状態検知手段25の検知結果に基づいて発振器20の発信周波数を変化させる周波数変化手段26とを備える。同旋受信アンテナ21によって受信される反射波27は、その円偏波としての旋回方向28がセンシング用電波6の旋回方向16と同一であり、路面2などからの反射波となる。」
「【図4】
[図:0001438611000005.jpg]
」
「【0019】図5は、図4の周波数変化手段26によって、発振器20によって発振されるセンシング周波数fを変化させる動作を示す。ステップa1から動作を開始し、ステップa2ではパラメータmを0に初期化する。ステップa3では路面状態検知手段25によって、同旋受信アンテナ21の受信レベルに基づく路面状態検知が行われる。初期のセンシング周波数をfとする。ステップa4では、路面状態検知手段25の出力に基づいて、路面状態に変化があるか否かを判断する。変化がないときにはステップa3に戻る。変化があると、ステップa5で、パラメータmが0以上であるか否かを判断する。パラメータmが0以上であれば、ステップa6でセンシング周波数をΔfだけ増加するように変化させる。ステップa7では、同旋受信アンテナ21の受信レベルが周波数変化によって減少しているか否かを判断する。減少していると判断されるときには、ステップa8でパラメータmを1だけ増加させ、ステップa3に戻る。ステップa7で同旋受信アンテナ21の受信レベルの減少がないと判断されるときには、ステップa9でパラメータmが0であるか否かを判断する。1回でもステップa8を通ればパラメータmは0でなくなり、ステップa9ではステップa2に戻る。
【0020】ステップa9でパラメータmが0であると判断されるときには、ステップa10に移り、センシング周波数をΔfだけ減少するように変化させる。ステップa11では、同旋受信アンテナ21の受信レベルが減少しているか否かを判断する。減少していると判断されるときには、ステップa12でパラメータmの値を1だけ小さくし、ステップa3に戻る。ステップa11で同旋受信アンテナ21の受信レベルが減少していると判断されないときには、ステップa3(当合議体注:【図5】のフローチャートによれば、「ステップa3」は「ステップa2」の誤記と認められる。)に戻る。動作開始直後を除いて、ステップa3ではセンシング周波数がf+m×Δfとなり、ステップa2に戻ってm=0と再初期化されると、f+m×Δfが新たな初期値fとして取扱われる。」
「【図5】
[図:0001438611000006.jpg]
」
「【0021】図6は、図4の路面状態検知手段25によって検知される路面2の状態の1例を示す。路面2の表面に雪や雨による水膜等29が形成されると、路面2の表面状態が変化し、路面2で反射されるセンシング用電波の円偏波の方向と同一方向の反射波の強度が変化する。路面2の表面に雪、水膜等29が存在すると、車両の走行時にタイヤがスリップしやすくなったりするので、走行速度を落としたり、アンチロックブレーキングシステム(ABS)を採用している場合には、その制御状態を変えることもできる。」
「【図6】
[図:0001438611000007.jpg]
」
オ 段落【0029】
「【0029】また本発明によれば、同旋受信アンテナを車両に設け、送信アンテナから送信される円偏波の電波に対して旋回方向が同一の反射波を受信し、受信レベルの変化によって、路面状態検知手段は路面状態を検知する。旋回方向が送信される電波と同一の反射波は、金属製の電波反射体ではなく路面で反射されたものである。路面の反射状態は、表面に水膜や雪が存在すると変化するので、同旋受信アンテナへの受信レベルの変化から水膜や雪の存在を容易に検知することができる。水膜や雪などの路面状態を検知すれば、車両の走行速度やブレーキの制御などを、路面状態に合わせて適切に行うことができる。」
(2) 引用発明の認定
前記(1)に摘記した引用文献1の記載事項を総合すると、引用文献1の主に【図4】~【図6】及びその説明(特に前記(1)の摘記事項エを参照)には、「本発明の実施の他の形態」(第2の実施形態)として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠となる記載箇所を括弧内に示した。
<引用発明>
「 車両に搭載され、車両の走路に沿って埋設される金属製の電波反射体をミリ波以上の波長の電波によって探索し、車両位置を検出する装置であって、
電波反射体に向けて、円偏波の電波を送信する送信アンテナと、
送信される電波に対して、円偏波の旋回方向が逆になる反射波を受信する逆旋受信アンテナと、
逆旋受信アンテナによって受信される反射波に基づいて車両位置を検出する位置検出手段とを含み、(【請求項2】)
前記逆旋受信アンテナとともに、送信される電波に対して、円偏波の旋回方向が同一の反射波を受信する同旋受信アンテナと、
同旋受信アンテナの受信レベル変化に基づいて、路面状態の変化を検知する路面状態検知手段とを備えるものであり、(【請求項3】)
車両1が走行する路面2には、金属製の電波反射体であるレーンマーカ3が埋設され、車両1には、送信アンテナ4および逆旋受信アンテナ5が搭載され、
送信アンテナ4からはセンシング用電波6が送信され、レーンマーカ3からの反射波7は逆旋受信アンテナ5によって受信され、
送信アンテナ4から送信されるセンシング用電波6は、路面2に対して電波接地角ψとなるように送信され、
センシング用電波6は円偏波であり、
逆旋受信アンテナ5はセンシング用電波6の円偏波の旋回方向が反転した円偏波の反射波7を受信するものであり、(【0014】)
位置検出装置18は、発信周波数が可変である発振器20を含み、
また送信アンテナ4から送信された円偏波の旋回方向と同一の旋回方向を有する円偏波を受信する同旋受信アンテナ21と、
同旋受信アンテナ21に受信される電波に対応する電気信号を、位置検出装置18内のローカル発振器11によって発信される高周波信号と混合し、中間周波数信号を得るためのミキサ22と、
ミキサ22からの中間周波数信号に基づいて路面状態を検知する路面状態検知手段25と、
路面状態検知手段25の検知結果に基づいて発振器20の発信周波数を変化させる周波数変化手段26とを備え、
同旋受信アンテナ21によって受信される反射波27は、その円偏波としての旋回方向28がセンシング用電波6の旋回方向16と同一であり、路面2などからの反射波となり、(【0018】)
周波数変化手段26によって、発振器20によって発振されるセンシング周波数fを変化させる動作として、
ステップa1から動作を開始し、
ステップa2ではパラメータmを0に初期化し、
ステップa3では路面状態検知手段25によって、同旋受信アンテナ21の受信レベルに基づく路面状態検知が行われ、
初期のセンシング周波数をfとし、
ステップa4では、路面状態検知手段25の出力に基づいて、路面状態に変化があるか否かを判断し、
変化がないときにはステップa3に戻り、
変化があると、ステップa5で、パラメータmが0以上であるか否かを判断し、
パラメータmが0以上であれば、ステップa6でセンシング周波数をΔfだけ増加するように変化させ、
ステップa7では、同旋受信アンテナ21の受信レベルが周波数変化によって減少しているか否かを判断し、
減少していると判断されるときには、ステップa8でパラメータmを1だけ増加させ、ステップa3に戻り、
ステップa7で同旋受信アンテナ21の受信レベルの減少がないと判断されるときには、ステップa9でパラメータmが0であるか否かを判断し、
1回でもステップa8を通ればパラメータmは0でなくなり、ステップa9ではステップa2に戻り、(【0019】)
ステップa9でパラメータmが0であると判断されるときには、ステップa10に移り、センシング周波数をΔfだけ減少するように変化させ、
ステップa11では、同旋受信アンテナ21の受信レベルが減少しているか否かを判断し、
減少していると判断されるときには、ステップa12でパラメータmの値を1だけ小さくし、ステップa3に戻り、
ステップa11で同旋受信アンテナ21の受信レベルが減少していると判断されないときには、ステップa2に戻り、
動作開始直後を除いて、ステップa3ではセンシング周波数がf+m×Δfとなり、ステップa2に戻ってm=0と再初期化されると、f+m×Δfが新たな初期値fとして取扱われ、(【0020】)
路面2の表面に雪や雨による水膜等29が形成されると、路面2の表面状態が変化し、路面2で反射されるセンシング用電波の円偏波の方向と同一方向の反射波の強度が変化し、路面2の表面に雪、水膜等29が存在すると、車両の走行時にタイヤがスリップしやすくなったりするので、走行速度を落としたり、アンチロックブレーキングシステム(ABS)を採用している場合には、その制御状態を変えることもできる、(【0021】)
装置。」
5 引用文献7の記載事項及び周知技術7の認定
(1) 引用文献7に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の優先日前に発行された文献である特開2013-117528号公報(以下「引用文献7」という。)には、次の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
ア 段落【0001】
「【0001】
本発明は、路面の性質感知装置及びその方法に係り、より詳しくは、車両の前方に取り付けられた単一のレーザセンサを利用して路面の状態(幾何学的な不規則の程度)は勿論、その性質(雨道、雪道)まで感知することができる路面の性質感知装置及びその方法に関する。」
イ 段落【0012】~【0016】、【図1】
「【0012】
図1は、本発明の路面の性質感知装置の構成を示す図である。図1に示すように、レーザセンサを例に挙げて説明するが、赤外線センサなどのように光を利用した多様なセンサを利用することもできる。本発明の路面の性質感知装置は、反射率格納部10、反射量測定部20、反射率算出部30及び路面性質判断部40を含む。
【0013】
各構成要素は次のとおりである。まず反射率格納部10は、一般道路(Dryway)の反射率(基準反射率)を基準に雨道の反射率及び雪道の反射率を記録した反射率(albedo)テーブルを格納している。即ち、反射率格納部10は、一般道路の反射量を1に設定した基準反射率と対比した雨道の反射率及び雪道の反射率を記録した反射率(albedo)テーブルを格納している。例えば、一般道路の反射量が100、雨道の反射量が50、雪道の反射量が200とするとき、一般道路の反射率を1に設定すれば、雨道の反射率は0.5で、雪道の反射率は2である。
【0014】
一般に、レーザセンサの発光部で発光したレーザビームは、発散(Divergence)特性により反射され、引き返すレーザビームの強度が低くなる。この時、発光部は車両の進行方向路面に向けてレーザビームを発光する。併せて、路面の性質に従って反射して引き返すレーザビームの強度の低くなる割合が変化する。実験を介し構築した反射率テーブルは、以下の表1の通りである。
【0015】
【表1】
[図:0001438611000008.jpg]
【0016】
表1は、一般道路の反射率と対比した雨道の反射率及び雪道の反射率を表す。即ち、一般道路の反射量を1とした場合、雨道の反射量及び雪道の反射量の割合を表す。このとき、反射量は反射して引き返すビームの強度を意味する。」
「【図1】
[図:0001438611000009.jpg]
」
ウ 段落【0017】、【図2】
「【0017】
図2に示すように、雪道(snowyway)の場合、一般道路に比べ反射量(強度)が非常に高く、雨道の場合、鏡効果(mirroreffect)により一般道路に比べ反射量が少ない。まず、反射量測定部20は、レーザセンサの発光部を介し発光されたレーザビームが路面から反射され、受光部に受光されるレーザビームの量(以下、反射量)を測定する。次に、反射率算出部30は、基準反射率に基づき反射量測定部20が測定した反射量の割合(以下、反射率)を算出する。次に、路面性質判断部40は、反射率格納部10に格納されている反射率テーブルに基づき、反射率算出部30が算出した反射率を利用して路面の性質を判断する。即ち、路面性質判断部40は路面が雪道なのか雨道なのかを判断する。」
「【図2】
[図:0001438611000010.jpg]
」
エ 段落【0018】~【0019】、【図3】
「【0018】
本発明は、路面性質提供部(図示省略)をさらに含み、車両の走行を電子的に制御するシステムなどに路面性質判断部40が判断した路面の性質情報を提供することもできる。レーザセンサを利用して距離を算出する技術は、周知慣用の技術であるので、本発明でその詳細な説明を省略する。
【0019】
図3は、本発明の路面の性質感知方法の一実施例を示すフローチャートである。まず、反射率格納部10は、基準反射率と対比した雨道の反射率及び雪道の反射率を記録した反射率テーブルを格納する(301)。以後、反射量測定部20は、レーザセンサの発光部を介し発光したレーザビームが路面から反射され、受光部に受光されるレーザビームの量(以下、反射量)を測定する(302)。反射率算出部30は、基準反射率に基づき前記反射量測定部20が測定した反射量の割合(以下、反射率)を算出する(303)。路面性質判断部40は、反射率テーブルに基づき反射率算出部30が算出した反射率に該当する路面の性質を判断する(304)。このような過程を介し、本発明は、単一のレーザセンサに基づき路面が雪道なのか雨道なのかを迅速且つ正確に判断することができる。」
「【図3】
[図:0001438611000011.jpg]
」
(2) 周知技術7の認定
前記(1)に摘記した引用文献7の記載事項に例示されるように、次の技術事項は、当業者にとって周知技術であったと認められる。(以下「周知技術7」という。)
<周知技術7>
「複数の路面の性質(雨道、雪道)に対する値を記録したテーブルを用い、測定値とテーブルにより路面の性質(路面が雪道なのか雨道なのか)を判断することにより、車両の走行を制御すること。」
6 引用文献8の記載事項、並びに、周知技術8-1及び周知技術8-2の認定
(1) 引用文献8に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の優先日前に発行された文献である特開2002-148148号公報(以下「引用文献8」という。)には、次の記載がある。
ア 段落【0001】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両が走行する一般道路や高速道路の路面の凍結箇所を検出し、車両運転者や道路管理者に通知する路面状態検出装置および交通流検出装置に関する。」
イ 段落【0017】~【0021】、【図1】
「【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係わる路面状態検出装置の構成図である。
【0018】支柱11に設けられた照射装置14は車両が走行する道路10の路面にレーザ光を照射するものであり単一波長のレーザ光を発生し、そのレーザ光を走査装置を用いて路面に面照射エリアIRを形成する。図1では面照射エリアIRに凍結エリアWが含まれている場合を示している。
【0019】また、支柱11にはカメラ12が設けられており、カメラ12は照射装置14でレーザ光を照射した路面の面照射エリアIRからの反射光を撮影する。カメラ12には照射装置14のレーザ光の波長に中心波長を持つバンドパスフィルタが取り付けており、照射装置14で照射した面照射エリアIRで反射するレーザ光の波長光のみを透過させる。
【0020】このカメラ12で撮影した照射エリアの画像は画像処理装置15に入力され、A/D変換回路16でディジタル信号に変換される。そして、データ抽出回路17において、そのデジタル信号に変換された照射エリアの画像データの中から反射光輝度および反射パターンが抽出される。
【0021】比較判定回路18は、データ抽出回路17で抽出された反射光輝度および反射パターンと、データベース19に予めに記憶された基準反射光輝度および基準反射パターンとを比較し、道路10の路面の乾燥または凍結の有無を判定する。そして、凍結があると判定した場合には、インターフェース回路20を介して、道路10の近傍に設けられた警告表示板21に出力し、凍結路面の情報を通行車両の運転者に提供する。」
「【図1】
[図:0001438611000012.jpg]
」
ウ 段落【0033】~【0036】、【図4】
「【0034】図4(a)に示すように、乾燥状態の場合は、道路10の路面の凸凹に応じて細かく曲がりくねった反射パターンが撮影される。また、凍結状態の場合は、図4(b)に示すように、車両の走行で発生する轍(わだち)部分22で窪んだ反射パターンが撮影される。
【0035】また、各路面状態における輝度は、乾燥状態は、走査線状の反射光の輝度に大きな変化はないが、凍結状態では轍部分22以外は鏡面状態なので輝度が暗いが轍部分22は、走行車両のタイヤで掻きあげられた氷片やシャーベット状の氷が散乱しているので明るい輝度として撮影される。
【0036】このような路面でのレーザ光の反射光をカメラ12で撮影し、その映像信号をA/D変換回路16でディジタル信号に変換した後、データ抽出回路17で抽出する。抽出した反射光輝度および反射パターンは、比較判定回路18で、予め乾燥状態や凍結状態の路面からの反射パターンと反射光の輝度データをファイルしてあるデータベース19の基準反射光輝度や基準反射パターンと比較される。比較の結果、凍結状態が検出されるとインターフェース回路20を介して、警報表示板21に、例えば、「この先凍結あり」等の表示が行われ、車両運転者への注意喚起と道路管理者に警報を発する。」
「【図4】
[図:0001438611000013.jpg]
」
(2) 周知技術8-1及び周知技術8-2の認定
前記(1)に摘記した引用文献8の記載事項に例示されるように、次の二つの技術事項は、それぞれ当業者にとって周知技術であったと認められる。(以下、それぞれ「周知技術8-1」、「周知技術8-2」という。)
<周知技術8-1>
「データベースに記憶された乾燥状態の路面からの反射光の輝度データを、検出した輝度データと比較して路面状態を検出すること。」
<周知技術8-2>
「データベースに記憶された乾燥状態以外の状態での路面からの反射光の輝度データを、検出した輝度データと比較して路面状態を検出すること。」
7 本願発明と引用発明の対比
(1) 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
ア 構成Xの観点
構成Xは、「グラウンド特性に基づいて自律車両制御装置が乗物を操縦するための方法」の発明であることを特定するものである。
(ア) 引用発明においては、「路面2の表面に雪や雨による水膜等29が形成されると、路面2の表面状態が変化」するところ、引用発明の「雪や雨による水膜等29が形成されると」「変化する」「路面2の表面状態」は、本願発明の「グラウンド特性」に相当する。
(イ) 引用発明の「車両」は、本願発明の「乗物」に相当するところ、引用発明においては、「路面2の表面に雪、水膜等29が存在すると、車両の走行時にタイヤがスリップしやすくなったりするので、走行速度を落としたり、アンチロックブレーキングシステム(ABS)を採用している場合には、その制御状態を変えることもできる」としており、「車両」を操縦するための制御装置が「車両」に備えられているといえる。
(ウ) そうすると、引用発明は、「路面2の表面状態」に基づいて車両制御装置により車両を操縦するための方法を前提としたものであるといえるから、本願発明の「グラウンド特性に基づいて自律車両制御装置が乗物を操縦するための方法」と、「グラウンド特性に基づいて車両制御装置により乗物を操縦するための方法」である点において共通する。
(エ) したがって、本願発明と引用発明は、構成Xの観点に関し、次の点において共通する。
a 「グラウンド特性に基づいて車両制御装置により乗物を操縦するための方法」の発明である点。
b また、本願発明と引用発明は、構成Xの観点に関し、次の点において相違する。
本願発明においては、「車両制御装置」が「自律車両制御装置」であり、「自律車両制御装置が乗物を操縦する」のに対して、
引用発明においては、「車両制御装置」が「自律車両制御装置」であるかどうか不明である点。
イ 構成Aの観点
構成Aは、「表面貫通レーダー(SPR)信号をSPRシステムから表面に向けて送信するステップ」を含むことを特定するものである。
(ア) 本願発明の「SPRシステム」について、本願の明細書の段落【0016】には、「SPRは、表面下領域からデータを取得するように構成されたレーダーシステムを意味する。…場合によっては、SPRは表面のデータも取得することができる。…本書で使用される表面下領域とは、地表の下の地下領域など、表面の裏の領域をいう。」と記載されていることを踏まえると、本願発明の「SPRシステム」とは、地表の下の地下領域など、表面の裏の領域(表面下領域)からデータを取得するように構成され、表面のデータも取得することができるレーダーシステムのことであると解するのが相当である。
(イ) 引用発明においては、「車両1が走行する路面2には、金属製の電波反射体であるレーンマーカ3が埋設され、車両1には、送信アンテナ4および逆旋受信アンテナ5が搭載され、送信アンテナ4からはセンシング用電波6が送信され、レーンマーカ3からの反射波7は逆旋受信アンテナ5によって受信され」るところ、「埋設され[た]」「レーンマーカ3」は、道路の表面である「路面2」の下の地下領域(表面下領域)にあることは明らかである。
そうすると、「送信アンテナ4」から「センシング用電波6」を送信して、「埋設され[た]」「レーンマーカ3」「からの反射波7」を「逆旋受信アンテナ5によって受信」することが可能な引用発明の「車両位置を検出する装置」は、表面下領域からデータを取得するように構成されたレーダーシステムであるといえる。
(ウ) 他方、引用発明においては、「送信アンテナ4から送信された円偏波の旋回方向と同一の旋回方向を有する円偏波を受信する同旋受信アンテナ21」を含むところ、「同旋受信アンテナ21によって受信される反射波27は、その円偏波としての旋回方向28がセンシング用電波6の旋回方向16と同一であり、路面2などからの反射波とな[る]」から、引用発明の「車両位置を検出する装置」は、「路面2などからの反射波」である「反射波27」を「同旋受信アンテナ21によって受信」するものであり、表面のデータも取得することができるレーダーシステムであるといえる。
(エ) 前記(イ)及び(ウ)をまとめると、引用発明の「車両位置を検出する装置」は、表面下領域からデータを取得するように構成され、表面のデータも取得することができるレーダーシステムであるといえるから、前記(ア)において示した解釈を踏まえると、本願発明の「SPRシステム」に相当する。
そして、引用発明の「センシング用電波6」は、本願発明の「表面貫通レーダー(SPR)信号」に相当する。
(オ) 引用発明においては、「センシング用電波6」の「レーンマーカ3からの反射波7」及び「路面2などからの反射波となる反射波27」が「受信され[る]」のであるから、「センシング用電波6」が道路の表面である「路面2」に向けて送信されることは明らかといえる。
(カ) そうすると、引用発明において「送信アンテナ4からはセンシング用電波6が送信され[る]」工程は、本願発明の「表面貫通レーダー(SPR)信号をSPRシステムから表面に向けて送信するステップ」に相当する。
(キ) したがって、本願発明と引用発明は、構成Aの観点に関し、次の点において一致する。
「表面貫通レーダー(SPR)信号をSPRシステムから表面に向けて送信するステップ」を含む点。
ウ 構成Bの観点
構成Bは、「前記SPRシステムで、少なくとも部分的に、前記表面に関連する表面領域からのSPR信号の反射と、前記表面の後ろの表面下領域からのSPR信号の反射とを含む応答信号を受信するステップ」を含むことを特定するものである。
(ア) 前記イを踏まえると、引用発明の「車両位置を検出する装置」においては、「レーンマーカ3からの反射波7は逆旋受信アンテナ5によって受信され」るとともに、「路面2などからの反射波」となる「反射波27」は、「同旋受信アンテナ21によって受信され[る]」ことになり、このことは、本願発明の「前記SPRシステムで、少なくとも部分的に、前記表面に関連する表面領域からのSPR信号の反射と、前記表面の後ろの表面下領域からのSPR信号の反射とを含む応答信号を受信するステップ」に相当する。
(イ) したがって、本願発明と引用発明は、構成Bの観点に関し、次の点において一致する。
「前記SPRシステムで、少なくとも部分的に、前記表面に関連する表面領域からのSPR信号の反射と、前記表面の後ろの表面下領域からのSPR信号の反射とを含む応答信号を受信するステップ」を含む点。
エ 構成Cの観点
構成Cは、「前記応答信号の強度と位相の少なくとも一方を測定するステップ」を含むことを特定するものである。
(ア) 引用発明においては「路面2などからの反射波となる反射波27は、同旋受信アンテナ21によって受信され」、「路面状態検知手段25によって、同旋受信アンテナ21の受信レベルに基づく路面状態検知が行われ[る]」ことから、「センシング用電波6」の「反射波27」の「受信レベル」(「反射波の強度」)が測定されていることは明らかであり、この測定の工程は本願発明の「前記応答信号の強度」「を測定するステップ」に相当する。
(イ) したがって、本願発明と引用発明は、構成Cの観点に関し、次の点において共通する。
「前記応答信号の強度」「を測定するステップ」を含む点。
オ 構成Dの観点
構成Dは、「前記応答信号の強度および位相の少なくとも一方に少なくとも部分的に基づいて」、以下の構成D-1、D-2及び/又はD-3によって、「前記表面の表面特性を特定するステップ」を含むことを特定するものである。
<構成D-1> 「複数の事前定義された表面特性に関連する信号応答の既知の強度または位相と前記応答信号の測定された強度または位相とを相関させること」
<構成D-2> 「クリアな表面特性の既知の強度または位相と前記応答信号の測定された強度または位相との間の差を計算すること」
<構成D-3> 「降水状態の表面特性の既知の強度または位相と前記応答信号の測定された強度または位相との間の差を計算すること」
(ア) 引用発明において「同旋受信アンテナ21の受信レベルに基づく路面状態検知が行われ[る]」工程は、本願発明の「前記応答信号の強度」「に少なくとも部分的に基づいて、」「前記表面の表面特性を特定するステップ」に相当する。
(イ) したがって、本願発明と引用発明は、構成Dの観点に関し、次の点において共通する。
「前記応答信号の強度」「に少なくとも部分的に基づいて、」「前記表面の表面特性を特定するステップ」を含む点。
(ウ) また、引用発明の「受信レベルに基づく路面状態検知」の具体的な工程内容は不明であり、本願発明と引用発明は、構成Dの観点に関し、次の点において相違する。
本願発明においては、
「複数の事前定義された表面特性に関連する信号応答の既知の強度または位相と前記応答信号の測定された強度または位相とを相関させること、および/または、クリアな表面特性の既知の強度または位相と前記応答信号の測定された強度または位相との間の差を計算すること、および/または、降水状態の表面特性の既知の強度または位相と前記応答信号の測定された強度または位相との間の差を計算することによって」表面特性を特定する。
との限定があるのに対し、
引用発明の「受信レベルに基づく路面状態検知」の具体的な工程内容は不明である点。
カ 構成Eの観点
構成Eは、「少なくとも部分的に、前記表面の表面特性に基づいて、前記乗物を操縦するステップ」を含むことを特定するものである。
(ア) 引用発明においては、「路面2の表面に雪や雨による水膜等29が形成されると、路面2の表面状態が変化し、路面2で反射されるセンシング用電波の円偏波の方向と同一方向の反射波の強度が変化し、路面2の表面に雪、水膜等29が存在すると、車両の走行時にタイヤがスリップしやすくなったりするので、走行速度を落としたり、アンチロックブレーキングシステム(ABS)を採用している場合には、その制御状態を変えることもできる」としており、「路面2の表面状態」の「変化」に基づいて「車両の走行」に係る「制御状態」の変更を行っているから、かかる工程は、本願発明の「少なくとも部分的に、前記表面の表面特性に基づいて、前記乗物を操縦するステップ」に相当する。
(イ) したがって、本願発明と引用発明は、構成Eの観点に関し、次の点において共通する。
「少なくとも部分的に、前記表面の表面特性に基づいて、前記乗物を操縦するステップ」を含む点。
キ 構成Fの観点
構成Fは、「前記応答信号の強度と位相の少なくとも一方を測定するステップは、前記応答信号内の複数の周波数のうちの各周波数について、強度と位相の少なくとも一方を測定するステップ」を含むことを特定するものである。
引用発明は、本願発明の構成Fに相当する構成を備えることが明示されていないから、本願発明と引用発明は、次の点において一応相違する。
本願発明においては、
「前記応答信号の強度と位相の少なくとも一方を測定するステップは、前記応答信号内の複数の周波数のうちの各周波数について、強度と位相の少なくとも一方を測定するステップを含む」
と限定されているのに対し、
引用発明においては、明示的にそのような特定はなされていない点。
(2) 一致点及び相違点
前記(1)の対比分析の結果を整理すると、本願発明と引用発明は、次のアに示す一致点において一致し、後記イに示す相違点において相違すると認められる。
ア 一致点
「グラウンド特性に基づいて車両制御装置により乗物を操縦するための方法であって、
表面貫通レーダー(SPR)信号をSPRシステムから表面に向けて送信するステップと、
前記SPRシステムで、少なくとも部分的に、前記表面に関連する表面領域からのSPR信号の反射と、前記表面の後ろの表面下領域からのSPR信号の反射とを含む応答信号を受信するステップと、
前記応答信号の強度を測定するステップと、
前記応答信号の強度に少なくとも部分的に基づいて、前記表面の表面特性を特定するステップと、
少なくとも部分的に、前記表面の表面特性に基づいて、前記乗物を操縦するステップと、
を含む方法。」である点。
イ 相違点
(ア) 相違点1
本願発明においては、「車両制御装置」が「自律車両制御装置」であり、「自律車両制御装置が乗物を操縦する」のに対して、
引用発明においては、「車両制御装置」が「自律車両制御装置」であるかどうか不明である点。
(イ) 相違点2
本願発明が、以下の構成D-1、D-2及び/又はD-3によって、「前記表面の表面特性を特定する」ものであるのに対して、
<構成D-1>「複数の事前定義された表面特性に関連する信号応答の既知の強度または位相と前記応答信号の測定された強度または位相とを相関させること」
<構成D-2>「クリアな表面特性の既知の強度または位相と前記応答信号の測定された強度または位相との間の差を計算すること」
<構成D-3>「降水状態の表面特性の既知の強度または位相と前記応答信号の測定された強度または位相との間の差を計算すること」
引用発明において「受信レベルに基づく路面状態検知」の具体的な工程内容は不明である点。
(ウ) 相違点3(一応の相違点)
本願発明においては、
「前記応答信号の強度と位相の少なくとも一方を測定するステップは、前記応答信号内の複数の周波数のうちの各周波数について、強度と位相の少なくとも一方を測定するステップを含む」
と限定されているのに対し、
引用発明においては、明示的にそのような特定はなされていない点。
8 判断
(1) 相違点1について
引用文献2の段落【0002】において、「従来より、車両の自動運転を行うために走路に対する車両の相対位置を検出する技術が知られている。」と記載されていることを踏まえると、引用発明の「車両」は自動運転されるものを想定しているといえる。
そうすると、引用発明が前提として備える「車両」を操縦するための制御装置(前記7(1)ア(イ)を参照)について、「車両」が自律的に運転制御されるように「自律車両制御装置」として構成することは、当業者にとって自明な設計事項にすぎない。
したがって、引用発明において、前記相違点1に係る本願発明のごとく構成することに格別の困難性はない。
(2) 相違点2について
ア 構成D-1に係る相違点の検討
(ア) 前記5(2)で認定したように、
「複数の路面の性質(雨道、雪道)に対する値を記録したテーブルを用い、測定値とテーブルにより路面の性質(路面が雪道なのか雨道なのか)を判断することにより、車両の走行を制御すること。」
は周知技術(周知技術7)である。
(イ) ここで、上記周知技術7の「テーブル」に「記録」された「複数の路面の性質(雨道、雪道)に対する値」は本願発明の構成D-1の「複数の事前定義された表面特性に関連する信号応答の既知の強度」に相当するところ、「測定値とテーブルにより路面の性質(路面が雪道なのか雨道なのか)を判断する」手法として、テーブル値(既知の値)と測定値とを比較してその相関をとることは当業者にとって常套手段であって、設計事項の範囲内のものといえる。
(ウ) そして、引用発明と周知技術7は、いずれも路面状態(雨道、雪道)に基づいて車両の走行を制御することに関する技術であるから、周知技術7を引用発明の路面状態検知に採用することにより、前記相違点2に係る構成D-1とすることは、当業者が容易になし得たものである。
イ 構成D-2に係る相違点の検討
(ア) 前記6(2)で認定したように、
「データベースに記憶された乾燥状態の路面からの反射光の輝度データを、検出した輝度データと比較して路面状態を検出すること。」
は周知技術(周知技術8-1)である。
(イ) ここで、周知技術8-1の「データベースに記憶された乾燥状態の路面からの反射光の輝度データ」及び「検出した輝度データ」は、それぞれ本願発明の構成D-2の「クリアな表面特性の既知の強度」及び「応答信号の測定された強度」に相当する。
(ウ) 引用発明と周知技術8-1は、いずれも路面状態の特定に関する技術であり、また引用発明においても路面の乾燥状態を検知することは通常想定されるべき事項であって、さらにその際に、比較手法として差の計算を用いるか否かは設計事項の範囲内のものといえるから、周知技術8-1を引用発明の路面状態検知に採用することにより、前記相違点2に係る構成D-2とすることは、当業者が容易になし得たものである。
ウ 構成D-3に係る相違点の検討
(ア) 前記6(2)で認定したように、
「データベースに記憶された乾燥状態以外の状態での路面からの反射光の輝度データを、検出した輝度データと比較して路面状態を検出すること。」
は周知技術(周知技術8-2)である。
(イ) ここで、周知技術8-2の「データベースに記憶された乾燥状態以外の状態での路面からの反射光の輝度データ」は、本願発明の「降水状態の表面特性の既知の強度」と、「クリア以外の表面特性の既知の強度」である点で共通し、また周知技術8-2の「検出した輝度データ」は本願発明の「応答信号の測定された強度」に相当する。
(ウ) 引用発明と周知技術8-2は、いずれも路面状態の特定に関する技術であり、またその際に、比較手法として差の計算を用いるか否かは設計事項の範囲内のものといえるから、周知技術8-2を引用発明の「水膜や雪などの路面状態」を検知する工程として採用することにより、前記相違点2に係る構成D-3とすることは、当業者が容易になし得たものである。
エ 相違点2の検討のまとめ
前記ア~ウの検討結果を踏まえると、前記相違点2に係る構成は、引用発明並びに周知技術7、8-1及び8-2から当業者が容易に想到し得たものである。
(3) 相違点3(一応の相違点)について
ア 引用発明においては、「路面状態」や「同旋受信アンテナ21の受信レベル」などの条件に応じて、
「ステップa6でセンシング周波数をΔfだけ増加するように変化させ」
「ステップa10に移り、センシング周波数をΔfだけ減少するように変化させ[る]」
という操作の後に「路面状態検知手段25によって、同旋受信アンテナ21の受信レベルに基づく路面状態検知が行われ[る]」「ステップa3」に戻る工程が含まれていることから、複数の周波数について反射信号の信号レベルが検出されていることは明らかであって、このことは本願発明の「前記応答信号内の複数の周波数のうちの各周波数について、強度」「を測定するステップ」に相当する。
したがって、前記相違点3は実質的な相違点ではない。
イ 仮に前記相違点3が実質的な相違点であるとして検討しても、応答信号の周波数解析を行って各周波数についての信号レベルを抽出する信号処理を行うことは特に例を示すまでもなく周知慣用な手法にすぎず、異なる周波数での検出が行われる引用発明においてそのような手法を採用するか否かといったことは設計事項の範囲内のものといえるから、いずれにしても前記相違点3に係る構成は格別のものではない。
(4) 総合評価
前記(1)~(3)において検討したとおり、引用発明において、前記相違点1~3に係る本願発明の構成を備えるようにすることは、引用発明並びに周知技術7、8-1及び8-2に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
そして、前記相違点1~3を総合的に勘案しても、本願発明が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本願発明は、引用発明並びに周知技術7、8-1及び8-2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
9 請求人の主張について
(1) 請求人の主張内容
請求人は意見書の「(2)文献2に記載された発明」において、おおよそ次のように主張している。
引用発明は、円偏波の電波と路面に埋め込まれた金属製の電波反射体を用いた車両位置検出システムに関する発明であって、その目的は、路面からの反射を除去し、車線区分線を容易に検知できるようにすることである。引用文献2には、同軸受信アンテナの受信レベルの変化(増加)に基づいて路面上の雪や水の存在を「検知」し、送信周波数を変化させることで車線区分線からの反射波の検知精度を向上させることが記載されている。
これは、路面状況の「変化」または「存在」を検知することを示している。しかしながら、引用文献2には、複数の所定の表面特性に関連する既知の応答との相関関係を求めること、および/または既知の晴天時または降水時の応答との差を計算することにより、路面の特定の特性(例えば、雪、氷、水、泥など)を「特定」するための具体的な方法は開示されていない。引用発明は、路面状況の変化(例:雪や水膜の存在)を検知する機構は備えているものの、引用文献2は、レーダー信号解析に基づいて雪、氷、水、泥、泥水などの路面特性を「特定」するための具体的な方法については開示されていない。
本願発明が自律車両制御装置における表面特性の分類(例:雪、氷、泥)に焦点を当てているのとは相違し、引用発明は、信号受信レベルの変化を検出して一般的な路面異常(例:水膜や雪)の存在を推測し、単に干渉を最小限に抑えるように電波の周波数を調整する構成となっている。これは干渉を最小限に抑えるための受動的な方法であり、能動的な方法ではない。
これとは対照的に、本願発明は、特定の表面特性を能動的に特定する方法(例えば、周波数領域分析、既知の表面プロファイルとの相関および差異計算、センサー融合、および識別された表面特性に基づくリアルタイムナビゲーション制御の使用)に関する発明となっている。
したがって、本願発明の表面特性を特定するステップにおける具体的な構成は、引用文献2には直接開示されておらず、したがって、本願発明は、引用発明とは相違する。
(2) 請求人の主張についての検討
請求人の主張する、引用文献2において、
「複数の所定の表面特性に関連する既知の応答との相関関係を求めること、および/または既知の晴天時または降水時の応答との差を計算することにより、路面の特定の特性(例えば、雪、氷、水、泥など)を「特定」するための具体的な方法は開示されていない。」点、及び
「レーダー信号解析に基づいて雪、氷、水、泥、泥水などの路面特性を「特定」するための具体的な方法については開示されていない。」点
に関しては、前記8(2)において相違点2について説示したとおりである。
また、請求人は引用発明が「干渉を最小限に抑えるための受動的な方法であり、能動的な方法ではない。」のに対し、本願発明は「特定の表面特性を能動的に特定する方法(例えば、周波数領域分析、既知の表面プロファイルとの相関および差異計算、センサー融合、および識別された表面特性に基づくリアルタイムナビゲーション制御の使用)」であるとも主張しているが、前記8(1)において相違点1について説示したとおり、引用発明が前提として備える「車両」を操縦するための制御装置(前記7(1)ア(イ)を参照)について、「車両」が自律的に運転制御されるように「自律車両制御装置」として構成することは、当業者にとって自明な設計事項にすぎないから、請求人の当該主張は認められない。
したがって、請求人の前記主張を採用することはできない。
10 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-017059