特許拒絶査定不服審判
2023-020329
標的化核酸編集のための系、方法、及び組成物
- 審判番号
- 2023-020329
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-516525
- 請求日
- 2023年11月30日
- 審決日
- 2026年03月25日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ザ・ブロード・インスティテュート・インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人特許事務所サイクス
- 【請求人】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
- 【請求人代理人】弁理士法人特許事務所サイクス
- 【請求人】プレジデント アンド フェロウズ オヴ ハーヴァード カレッジ
- 【請求人代理人】弁理士法人特許事務所サイクス
- 審判長/審判官
- 審判長 長井 啓子
- 審判官 小暮 道明
- 審判官 深草 亜子
- 分類
- P18 .121-Z (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第29条、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-516525「標的化核酸編集のための系、方法、及び組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 3月28日国際公開、WO2019/060746、令和 2年12月10日国内公表、特表2020-535802〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年9月21日(パリ条約による優先権主張 2017年9月21日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和 4年10月18日付け 拒絶理由通知書
令和 5年 4月18日 意見書、手続補正書の提出
令和 5年 7月27日付け 拒絶査定
令和 5年11月30日 審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和5年11月30日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年11月30日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、
「【請求項1】
触媒的に不活性なCas13エフェクタータンパク質(dCas13)、または前記触媒的に不活性なCas13エフェクタータンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含む、エンジニアリングされた天然に存在しない系であって、前記dCas13が、前記C末端上の少なくとも20、少なくとも40、少なくとも60、少なくとも80、少なくとも100、少なくとも120、少なくとも140、少なくとも160、少なくとも180、少なくとも200、少なくとも220、少なくとも240、少なくとも260、または少なくとも300アミノ酸短縮されるか、および/または、前記dCas13が、前記N末端上の少なくとも20、少なくとも40、少なくとも60、少なくとも80、少なくとも100、少なくとも120、少なくとも140、少なくとも160、少なくとも180、少なくとも200、少なくとも220、少なくとも240、少なくとも260、または少なくとも300アミノ酸短縮される、系。」
から、
「【請求項1】
触媒的に不活性なCas13エフェクタータンパク質(dCas13)、または前記触媒的に不活性なCas13エフェクタータンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含む、エンジニアリングされた天然に存在しない系であって、
dCas13がC末端Δ1026-1090、C末端Δ1053-1090、またはC末端Δ934-1090で短縮されており、前記短縮のアミノ酸位置が、Prevotella sp.P5-125 Cas13bタンパク質のアミノ酸位置に対応するか、または
dCas13がN末端Δ1-125、N末端Δ1-88、またはN末端Δ1-72で短縮されており、前記短縮のアミノ酸位置が、Prevotella sp.P5-125 Cas13bタンパク質のアミノ酸位置に対応する、系。」(以下、「本件補正発明」という。)
に補正された。(下線部は補正箇所である。)
2 補正の適否
本件補正は、触媒的に不活性なCas13エフェクタータンパク質(dCas13)の短縮について、
「dCas13が、前記C末端上の少なくとも20、少なくとも40、少なくとも60、少なくとも80、少なくとも100、少なくとも120、少なくとも140、少なくとも160、少なくとも180、少なくとも200、少なくとも220、少なくとも240、少なくとも260、または少なくとも300アミノ酸短縮されるか、および/または、前記dCas13が、前記N末端上の少なくとも20、少なくとも40、少なくとも60、少なくとも80、少なくとも100、少なくとも120、少なくとも140、少なくとも160、少なくとも180、少なくとも200、少なくとも220、少なくとも240、少なくとも260、または少なくとも300アミノ酸短縮される」
を
「dCas13がC末端Δ1026-1090、C末端Δ1053-1090、またはC末端Δ934-1090で短縮されており、前記短縮のアミノ酸位置が、Prevotella sp.P5-125 Cas13bタンパク質のアミノ酸位置に対応するか、または
dCas13がN末端Δ1-125、N末端Δ1-88、またはN末端Δ1-72で短縮されており、前記短縮のアミノ酸位置が、Prevotella sp.P5-125 Cas13bタンパク質のアミノ酸位置に対応する」
と限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について以下に検討する。
(1) 本件補正発明の優先日について
ア 優先権基礎出願の出願書類に記載された事項
優先権基礎出願(米国特許仮出願第62/561,669号)の出願書類には、次の事項が記載されている。
なお、英文で記載されているため、当審合議体による翻訳文にて記載した。また、原文にない下線は、強調のために当審合議体が付したものである。以下、同様である。
(ア) 特許請求の範囲
「1. a)ターゲティング成分または前記ターゲティング成分をコードするヌクレオチド配列、およびb)塩基編集成分または前記塩基編集成分をコードするヌクレオチド配列を含む、標的遺伝子座で核酸を改変するのに好適なエンジニアリングされた天然に存在しない系。
2. 前記ターゲティングドメインが、DNA結合タンパク質もしくはその機能性部分、またはRNA結合タンパク質もしくはその機能性部分である、請求項1に記載の系。
・・・
4. 前記RNA結合タンパク質が、Cas13タンパク質であり、前記系が、ガイド配列を含むガイド分子、または前記ガイド分子をコードするヌクレオチド配列をさらに含む、請求項2に記載の系。
5. 前記Cas9、Cpf1、またはCas13が、失活Cas9、失活Cpf1、または失活Cas13である、請求項3または4に記載の系。」
(イ) 第420-458頁(実施例3)
「実施例3
[0830] (略)
[0834]ここで、哺乳類細胞におけるRNAノックダウン活性のためのCas13酵素の全てのファミリーを評価し、Prevotella sp.P5-125由来のCas13bオルソログ(PspCas13b)を、哺乳類細胞適用に最も効率的かつ特異的なものとして同定する。次いで、ADAR2デアミナーゼドメイン(ADARDD)を触媒的に不活性なPspCas13bに融合して、レポーターおよび内因性転写物、ならびに疾患関連突然変異のプログラム可能なA→I(G)置換(REPAIR)のRNA編集を実証する。最後に、dCas13b-ADAR2DD融合物の特異性を改善して、特異性が170倍超増加したREPAIRv2を生成するための合理的な突然変異誘発スキームを採用する。 (略)
Cas13-ADAR融合物は、標的化RNA編集を可能にする
[0867]PspCas13bが、哺乳類細胞におけるmRNAの一貫して、ロバストかつ特異的なノックダウンを達成したことを考えると、それは、プログラム可能なRNA編集のためにADAR(ADARDD)のデアミナーゼドメインを動員するRNA結合プラットフォームとして適応することができたと想定された。ヌクレアーゼ活性が欠如しているPspCas13b(dPspCas13b、ここからはdCas13bと呼ぶ)をエンジニアリングするため、HEPNドメインにおいて保存触媒残基を変異させて、ルシフェラーゼRNAノックダウン活性の損失が観察された(図57A)。dCas13b-ADARDD融合物が、ガイドRNAによって標的アデノシンに動員することができ、ハイブリダイズしたRNAが、ADAR活性のための必須の二本鎖基質を生成することができることを仮定した(図50A)。標的アデノシン脱アミノ化率を強化するため、初期のRNA編集設計に2つの追加の改変を導入した:標的アデノシンの反対側のミスマッチシチジン(これは脱アミノ化頻度を増加させることが以前に報告されている)を導入し、Cas13bを、過剰活性化した突然変異を含むヒトADAR1またはADAR2のデアミナーゼドメインと融合し、触媒活性(ADAR1DD(E1008Q)(25)またはADAR2DD(E488Q)(19))を強化した。 (略)
[0873]REPAIRv1系を疾患細胞に送達することは、治療的使用の前提条件であるため、従って、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターなどの治療上適切なウイルスベクターにパッケージングすることができるREPAIRv1構築物を設計しようとした。AAVベクターは、4.7kbのパッケージング制限を有し、プロモーターおよび発現調節エレメントと共に、大きいサイズのdCas13b-ADARDD(4473bp)を収容することができない。サイズを低下させるため、RNA編集活性のためのADAR2DD(E488Q)に融合したdCas13の様々なN末端およびC末端短縮を試験した。試験した全てのC末端短縮は、まだ機能しており、かつ、ルシフェラーゼシグナルを回復することができることが判明し(図59)、最大の短縮であるC末端Δ984-1090(融合タンパク質の合計サイズは4,152bp)は、AAVベクターのパッケージング制限内に収まるほど十分に小型であった。 (略)」
(ウ) [0054]、図48
[0054] 図48 Cas13b 12のC末端短縮は、ADAR編集において依然として活性が高い。
[図:0001438625000001.jpg]
(エ) [0065]、図59
[0065] 図59 dCas13bの短縮は、機能性RNA編集を依然として有する。dCas13bの様々なN末端およびC末端短縮により、ルシフェラーゼシグナルの回復によって測定されるように、RNA編集が可能になる。
[図:0001438625000002.jpg]
イ 優先権主張の検討
優先基礎出願の出願書類の図59には、dCas13bの様々なN末端およびC末端短縮が記載されており(上記ア(エ))、前記dCas13bはヌクレアーゼ活性が欠如しているPspCas13b(dPspCas13b)であり(上記ア(イ)[0867])、前記PspCas13bはPrevotella sp.P5-125由来のCas13bオルソログである(上記ア(イ)[0834])。図48には、Cas13b 12の様々なN末端およびC末端短縮が記載されている(上記ア(ウ))。前記Cas13b 12がいかなるものであるのかが明記されていないが、本願の発明の詳細な説明には、Cas13b 12(PspCas13b)と記載されている(【0949】段落)。そして、本願の発明の詳細な説明で用いられる文言と、本願の優先基礎出願の出願書類中で用いられる文言は同じことを意味すると通常いえるから、優先権基礎出願の出願書類には、Prevotella sp.P5-125 Cas13bタンパク質のアミノ酸位置に対応するアミノ酸位置で表して、C末端Δ1026-1090、C末端Δ1053-1090、C末端Δ984-1090、N末端Δ1-125、N末端Δ1-88、またはN末端Δ1-72で短縮されているdCas13bが記載されている(上記ア(イ)-(エ))。前記dCAS13bは、請求項5における失活Cas13に該当するから(上記ア(ア))、優先権基礎出願の出願書類には、
「触媒的に不活性なCas13エフェクタータンパク質(dCas13)、または前記触媒的に不活性なCas13エフェクタータンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含む、エンジニアリングされた天然に存在しない系であって、
dCas13がC末端Δ1026-1090、またはC末端Δ1053-1090で短縮されており、前記短縮のアミノ酸位置が、Prevotella sp.P5-125 Cas13bタンパク質のアミノ酸位置に対応するか、または
dCas13がN末端Δ1-125、N末端Δ1-88、またはN末端Δ1-72で短縮されており、前記短縮のアミノ酸位置が、Prevotella sp.P5-125 Cas13bタンパク質のアミノ酸位置に対応する、系。」
が記載されているものの、dCas13がC末端Δ934-1090で短縮されている系は記載されておらず、記載されているに等しいといえる事情も見出せない。
したがって、本件補正発明のうち、
「触媒的に不活性なCas13エフェクタータンパク質(dCas13)、または前記触媒的に不活性なCas13エフェクタータンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含む、エンジニアリングされた天然に存在しない系であって、
dCas13がC末端Δ934-1090で短縮されており、前記短縮のアミノ酸位置が、Prevotella sp.P5-125 Cas13bタンパク質のアミノ酸位置に対応する、系。」(以下、「本件補正発明Δ934-1090」という。)
については、優先権主張の利益を享受することができない。
ウ 審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において、本件補正発明は、優先権基礎出願の出願書類(図48および図59、および実施例3)に記載されており、優先権主張の利益を享受することができると主張している。しかし、図48および図59には、Prevotella sp.P5-125 Cas13bタンパク質のアミノ酸位置に対応するアミノ酸位置で表して、C末端Δ1026-1090、C末端Δ1053-1090、C末端Δ984-1090、N末端Δ1-125、N末端Δ1-88、またはN末端Δ1-72で短縮されているdCas13bが記載されているものの(上記ア(イ)-(エ))、C末端Δ934-1090で短縮されているdCas13bは記載されていない。図48および図59の文字は不鮮明であるが、図59について述べている「最大の短縮であるC末端Δ984-1090(融合タンパク質の合計サイズは4,152bp)」との記載を参照すれば(上記ア(イ)[0873])、Δ934-1090ではなくΔ984-1090が記載されていることは明らかである。そして、実施例3には、上記ア(イ)[0873]以外に、dCas13bの短縮に関する記載はない。そうすると、本件補正発明Δ934-1090については、審判請求人の主張は採用できない。
エ 小括
以上のとおり、本件補正発明Δ934-1090は、優先権主張の利益を享受することができないから、特許法第29条に規定される要件の判断の基準日は、現実の国際出願日である平成30年(2018年)9月21日である。
(2) 引用例2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の国際出願日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であって、本件補正発明Δ934-1090に対する先行技術文献であるScience,2017年11月24日,Vol.358,pp.1019-1027(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「CRISPR-Cas13によるRNA編集」 (表題)
イ 「核酸編集は、遺伝病を治療する上で大きな可能性を有しており、特にRNAレベルでは、疾患に関連する配列を修復して機能的なタンパク質産物を得ることができる。VI型CRISPR-Casシステムは、プログラム可能な単一エフェクターであるRNAガイド型リボヌクレアーゼ Cas13を含んでいる。我々は、強力なノックダウンを可能とする Cas13オルソログを工学的に構築するためにVI型システムをプロファイリングし、触媒活性を失わせたCas13(dCas13)を用いて、ADAR2(RNAを基質とするアデノシンデアミナーゼ2型)のアデノシンからイノシンへの脱アミノ化活性を哺乳類細胞内の転写産物へ誘導することにより、RNA編集を実証した。このシステムは、プログラム可能なA→I置換のためのRNA編集(REPAIR)と呼ばれ、厳密な配列制約を持たず、病原性変異を含む全長転写産物を編集するために使用できる。さらに我々は、このシステムを工学的に改変して高特異性の変異体を作製し、ウイルス送達を容易にするためにシステムを小型化した。REPAIRは、研究、治療、そしてバイオテクノロジーに広く応用可能な、有望なRNA編集プラットフォームを提示するものである。」(要旨)
ウ 「Prevotella sp.P5-125由来のCas13b(PspCas13b)」(p.1020右欄第29行)
エ 「ヌクレアーゼ活性が欠如しているPspCas13b(dPspCas13b、ここからはdCas13bと呼ぶ)をエンジニアリングするため、HEPNドメインにおいて保存触媒残基を変異させて、ルシフェラーゼRNAノックダウン活性の損失が観察された(図S4A)。dCas13b-ADARDD融合物が、ガイドRNAによって標的アデノシンに動員され、ハイブリダイズしたRNAが、ADAR活性のための必須の二本鎖基質を生成することができることを仮定した(図2A)。」(p.1021右欄第3~11行)
オ 「この活性の実証から、dCas13b-ADAR2DD(E488Q)をさらなる特徴付けのために選択して、このシステムをプログラム可能なA→I置換のためのRNA編集バージョン1(REPAIRv1)と命名した。」(p.1022右欄第18-22行)
カ 「REPAIRv1系を疾患細胞に送達することは、治療的使用の前提条件であるため、従って、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターなどの治療上適切なウイルスベクターにパッケージングすることができるREPAIRv1構築物を設計しようとした。AAVベクターは、4.7kbのパッケージング制限を有し、プロモーターおよび発現調節エレメントと共に、大きいサイズのdCas13b-ADARDD(4473bp)を収容することができない。サイズを低下させるため、RNA編集活性のためのADAR2DD(E488Q)に融合したdCas13の様々なN末端およびC末端短縮を試験した。試験した全てのC末端短縮は、まだ機能しており、かつ、ルシフェラーゼシグナルを回復することができることが判明し(図S7)、最大の短縮であるC末端Δ984-1090(融合タンパク質の合計サイズは4,152bp)は、AAVベクターのパッケージング制限内に収まるほど十分に小型であった。」(p.1022右欄 下から13行-p.1023左欄第5行)
キ (図S7)
[図:0001438625000003.jpg]
図S7:dCas13bの短縮は、機能性RNA編集を支持する。
(3) 引用発明
引用例2の図S7には、dCas13bの様々なN末端およびC末端短縮が記載されており(上記(2)キ)、前記dCas13bはヌクレアーゼ活性が欠如しているPspCas13b(dPspCas13b)であり(上記(2)エ)、前記PspCas13bはPrevotella sp.P5-125由来のCas13bである(上記(2)ウ)。さらに、引用例2に記載の、REPAIRv1系を疾患細胞に送達するためのREPAIRv1構築物とはdCas13bをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドであり(上記(2)カ)、ルシフェラーゼシグナルを回復させた試験ではREPAIRv1構築物がコードするdCas13bがタンパク質として発現されていると認められ(上記(2)カ)、図S7には、Prevotella sp.P5-125 Cas13bタンパク質のアミノ酸位置に対応するアミノ酸位置で表して、C末端Δ1026-1090、C末端Δ1053-1090、C末端Δ984-1090、N末端Δ1-125、N末端Δ1-88、またはN末端Δ1-72で短縮されているdCas13bが記載されている(上記(2)ウ-キ)。ここでREPAIRv1系とは、REPAIRv1構築物から発現されたタンパク質dCas13bを含むものであることが文脈上明らかだから、引用例2には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「触媒的に不活性なCas13エフェクタータンパク質(dCas13)を含むREPAIRv1系、または前記触媒的に不活性なCas13エフェクタータンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含むREPAIRv1構築物であって、
dCas13がC末端Δ1026-1090、C末端Δ1053-1090、またはC末端Δ984-1090で短縮されており、前記短縮のアミノ酸位置が、Prevotella sp.P5-125 Cas13bタンパク質のアミノ酸位置に対応するか、または
dCas13がN末端Δ1-125、N末端Δ1-88、またはN末端Δ1-72で短縮されており、前記短縮のアミノ酸位置が、Prevotella sp.P5-125 Cas13bタンパク質のアミノ酸位置に対応する、系または構築物。」
(4) 対比
本件補正発明Δ934-1090と引用発明とを対比する。引用発明における「REPAIRv1系」は、「REPAIRv1構築物」から発現されるものであって、dCas13b-ADAR2DD(E488Q)を含み、dCas13b-ADAR2DD(E488Q)とは人工的なアミノ酸変異を含むdCas13bとADAR2DD(E488Q)の融合タンパク質である(上記(2)エ、オ)。そうすると、「REPAIRv1系」および「REPAIRv1構築物」は、いずれも、本件補正発明Δ934-1090における「エンジニアリングされた天然に存在しない系」に該当する。
よって、両者は、
「触媒的に不活性なCas13エフェクタータンパク質(dCas13)、または前記触媒的に不活性なCas13エフェクタータンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含む、エンジニアリングされた天然に存在しない系であって、
dCas13がC末端で短縮されており、前記短縮のアミノ酸位置が、Prevotella sp.P5-125 Cas13bタンパク質のアミノ酸位置に対応する」である点で一致し、
前記短縮が、本件補正発明Δ934-1090においてはC末端Δ934-1090であるのに対し、引用発明においてはC末端Δ1026-1090、C末端Δ1053-1090、C末端Δ984-1090、N末端Δ1-125、N末端Δ1-88、またはN末端Δ1-72である点(以下、「相違点」という。)で相違する。
(5) 判断
引用例2には、dCas13bの全長をコードするポリヌクレオチドを、RNA編集活性のためのADAR2DD(E488Q)をコードするポリヌクレオチドに融合し(4473bp)、さらにプロモーターおよび発現調節エレメントと組み合わせると、AAVベクターにパッケージングできる上限である4.7kbを超えてしまうことから、dCas13の様々なN末端およびC末端短縮を試験したこと、および試験したC末端Δ1026-1090、C末端Δ1053-1090およびC末端Δ984-1090(融合タンパク質の合計サイズは4,152bp)は、いずれも、RNA編集活性を維持し、かつAAVベクターのパッケージング制限内におさまることが記載されている(上記(2)イ、カ、キ)。
ここで、引用発明のREPAIRv1は、研究や治療をはじめとしたバイオテクノロジーに広く応用することを予定しているREPAIRの有用性を実証するためのバージョン1という1つの具体例なのだから(上記(2)イ、オ)、REPAIRv1構築物をAAVベクターへのパッケージングに最適な塩基長に近づけるため、ADAR2DD(E488Q)よりも大きいポリペプチドと組み合わせるため、または異なるエレメントを追加するため等の目的で、さらなる短縮型を網羅的に作製して試験を行い、その過程で、多くの短縮型の一つとしてC末端Δ934-1090で短縮されたdCAS13bを得ることは、周知技術を用いて当業者が容易になし得る事項である。
次に、本件補正発明Δ934-1090の奏する効果について検討する。本願の発明の詳細な説明には、N末端およびC末端の各々から20アミノ酸を徐々に短縮したCas13b12(PspCas13b)をADAR2DD(E488Q)に融合し、RNA編集活性を評価した結果が示されており(【0949】段落、図69)、タンパク質長が990、970、950、および930となる短縮型は、同程度のRNA編集活性を有することが見てとれる(図69 C末端の図の右から6-9個めの結果)。そして、本件補正発明Δ934-1090は概ね930となる短縮型に相当するところ、引用発明のC末端Δ984-1090は概ね990となる短縮型に相当することを考慮すると、C末端Δ934-1090で短縮することにより生じるタンパク質長933の短縮型が、引用発明と比べて当業者の予測し得ない顕著な効果を奏すると認めることはできない。
このとおり、本件補正発明Δ934-1090は、引用例2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(6) むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
第3 本願発明について
1. 本願発明
令和5年11月30日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~26に係る発明は、令和5年4月18日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1~26に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち、請求項1および2に係る発明は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
触媒的に不活性なCas13エフェクタータンパク質(dCas13)、または前記触媒的に不活性なCas13エフェクタータンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含む、エンジニアリングされた天然に存在しない系であって、前記dCas13が、前記C末端上の少なくとも20、少なくとも40、少なくとも60、少なくとも80、少なくとも100、少なくとも120、少なくとも140、少なくとも160、少なくとも180、少なくとも200、少なくとも220、少なくとも240、少なくとも260、または少なくとも300アミノ酸短縮されるか、および/または、前記dCas13が、前記N末端上の少なくとも20、少なくとも40、少なくとも60、少なくとも80、少なくとも100、少なくとも120、少なくとも140、少なくとも160、少なくとも180、少なくとも200、少なくとも220、少なくとも240、少なくとも260、または少なくとも300アミノ酸短縮される、系。
【請求項2】
前記Cas13エフェクタータンパク質の短縮型が、C末端Δ1026-1090、C末端Δ1053-1090、C末端Δ934-1090、C末端Δ884-1090、C末端Δ834-1090、C末端Δ784-1090、またはC末端Δ734-1090で短縮されており、前記短縮のアミノ酸位置が、Prevotella sp.P5-125 Cas13bタンパク質のアミノ酸位置に対応するか、または
前記Cas13エフェクタータンパク質の短縮型が、C末端Δ795-1095で短縮されており、前記短縮のアミノ酸位置が、Riemerella anatipestifer Cas13bタンパク質のアミノ酸位置に対応するか、または、
前記Cas13エフェクタータンパク質の短縮型が、C末端Δ875-1175、C末端Δ895-1175、C末端Δ915-1175、C末端Δ935-1175、C末端Δ955-1175、C末端Δ975-1175、C末端Δ995-1175、C末端Δ1015-1175、C末端Δ1035-1175、C末端Δ1055-1175、C末端Δ1075-1175、C末端Δ1095-1175、C末端Δ1115-1175、C末端Δ1135-1175、C末端Δ1155-1175で短縮されており、アミノ酸位置が、Porphyromonas gulae Cas13bタンパク質のアミノ酸位置に対応するか、または
前記Cas13エフェクタータンパク質の短縮型が、N末端Δ1-125、N末端Δ1-88、またはN末端Δ1-72で短縮されており、前記短縮のアミノ酸位置が、Prevotella sp.P5-125 Cas13bタンパク質のアミノ酸位置に対応する、
請求項1に記載の系。」
そこで、請求項2に係る発明について検討する。請求項2に係る発明は、Cas13エフェクタータンパク質の短縮型として複数の選択肢を有しており、そのうち、「C末端Δ934-1090」「で短縮されており、前記短縮のアミノ酸位置が、Prevotella sp.P5-125 Cas13bタンパク質のアミノ酸位置に対応する」ものを選択した発明は、
「触媒的に不活性なCas13エフェクタータンパク質(dCas13)、または前記触媒的に不活性なCas13エフェクタータンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含む、エンジニアリングされた天然に存在しない系であって、前記dCas13が、C末端Δ934-1090で短縮されており、前記短縮のアミノ酸位置が、Prevotella sp.P5-125 Cas13bタンパク質のアミノ酸位置に対応する、系。」(以下、「本願発明2Δ934-1090」という。)
である。
2. 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下のものを含む。
本願の請求項1-10、13、19-24に係る発明は、本願の国際出願日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるScience,2017年11月24日,Vol.358,pp.1019-1027(上記第2の2(2)の「引用例2」である。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、本願の請求項1-10、13、19-24に係る発明は、引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3. 引用例およびその記載事項
原査定の上記拒絶の理由に引用された引用例2の記載事項は、上記第2の2(2)に記載したとおりである。
4. 対比
本願発明2Δ934-1090は、本件補正発明Δ934-1090と同一であるから、引用発明と対比すると、上記相違点の他に、新たな相違点を有さない。
そうすると、本願発明2Δ934-1090は、本件補正発明Δ934-1090について述べた上記第2の2(5)と同様の理由により、引用例2の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明2Δ934-1090は、原査定の上記拒絶の理由で示されたとおり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-020329