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特許拒絶査定不服審判

2023-000684

免疫機能を調節するため及び腸の炎症を治療するためのベータ-1,3-グルカンの使用

審判番号
2023-000684
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2021-076044外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2023年01月16日
審決日
2024年07月24日
公報発行日
2025年01月31日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2021- 76044「免疫機能を調節するため及び腸の炎症を治療するためのベータ-1,3-グルカンの使用」拒絶査定不服審判事件〔令和3年8月19日出願公開、特開2021-120383〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 10項目
理 由

第1 手続の経緯

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本願は、2016年(平成28年)10月27日(パリ条約による優先権主張 2015年10月28日、2016年3月9日、いずれも(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2018-522054号の一部を令和3年4月28日に新たな出願としたものであり、その主な手続の経緯は、次のとおりである。

令和 4年 1月24日付け 拒絶理由通知書

同年 4月28日 意見書及び手続補正書の提出

同年 9月12日付け 拒絶査定

令和 5年 1月16日 審判請求書及び手続補正書の提出

第2 令和5年1月16日提出の手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

令和5年1月16日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正の内容

(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載

本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は補正箇所を示す。)

「【請求項1】
高脂血症、メタボリックシンドローム、炎症性腸疾患、大腸炎、及びクローン病からなる群より選択される疾患をもつヒトにおける前記疾患を治療するための経口投与用の組成物であって、
前記組成物が、50重量%乃至70重量%のベータ-1,3-グルカンを含むユーグレナバイオマスを含み、
前記ユーグレナは従属栄養的に増殖させたものであり、
前記組成物が発酵を利用して増殖させたユーグレナのベータ-1,6-グリコシド結合を含まないベータ-1,3-グルカンの有効量を含有し、前記有効量が、0.1mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重乃至100mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重である、
組成物。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載

本件補正前の、令和4年4月28日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。

「【請求項1】
高脂血症、メタボリックシンドローム、炎症性腸疾患、大腸炎、及びクローン病からなる群より選択される疾患をもつヒトにおける前記疾患を治療するための経口投与用の組成物であって、
前記組成物が、50重量%乃至70重量%のベータ-1,3-グルカンを含むユーグレナバイオマスを含み、
前記組成物が発酵を利用して増殖させたユーグレナのベータ-1,6-グリコシド結合を含まないベータ-1,3-グルカンの有効量を含有し、前記有効量が、0.1mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重乃至100mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重である、
組成物。」

2 補正の適否

本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ユーグレナ」を「従属栄養的に増殖させたもの」に限定する補正であって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の、請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明

本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項

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ア 原査定の拒絶の理由において「引用文献1」として引用され、本願優先日前に公開された文献である、「朝山雄太ほか、ユーグレナの栄養特性と機能性、ジャパンフードサイエンス、2012年、Vol.7、pp.28~34」(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。なお、原文にない下線は、当審が付した。(以下同様。)

(摘記1a)

「特集 機能性食品素材の開発
ユーグレナの栄養特性と機能性」(28頁の表題)

(摘記1b)

「ユーグレナを含有する食品が,市場に流通するようになったのは2005年に(株)ユーグレナ(以下ユーグレナ社と記す)が,世界で初めてユーグレナの食としての屋外培養を実施した後である.
ユーグレナを含有する食品が市場に流通するに伴って,ヒト有用性調査やユーグレナ特有の成分であるパラミロンの機能性研究も,より活発に行われるようになった.本報告では,これまでに解明されているユーグレナの機能性や栄養的価値および安全性についてまとめて報告する.」(28頁左欄16行~右欄1行)

(摘記1c)

「パラミロンはユーグレナが特異的にその細胞内に蓄積するβ-1,3-グルカンの結晶体である(写真1).パラミロンは単糖のグルコースのみから構成され,そのすべてがβ-1,3-結合で連なっている.」(29頁左欄12~15行)

(摘記1d)

「2-1 ユーグレナ摂取が血中脂質および脂質排出に及ぼす影響
ユーグレナ社が実施したヒト有用性調査では,血中脂質が高めの男女30名にユーグレナ1g(250mg/cap×4粒/day)を2カ月間継続して投与し続けると,血中総コレステロールおよび血中LDLコレステロールが有意に(Wilcoxonの符合順位検定)減少する結果が得られている(図1).
・・・
以上のような結果は,ユーグレナに特有のβグルカンである「パラミロン」に起因する可能性が指摘されている.」(29頁右欄3行~30頁左欄下から3行)

(摘記1e)

「総括
ユーグレナは,2005年に屋外大量培養に成功した比較的新しい食品原料であるが,古くから食としての利用に注目されており,安全性や機能性,食としての価値に関するデータが豊富に揃っている素材であると言える.・・・またその機能性も徐々に報告され始めており,血中脂質量の減少や脂質排出のデータから,抗メタボリックシンドローム素材としての側面を有していると言える.」(34頁左欄9~23行)

(摘記1f)

「
[図:0001417963000001.jpg]
」(29頁図1)

イ 原査定の拒絶の理由において「引用文献2」として引用され、本願優先日前に公開された「国際公開第2015/156339号」(以下、「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。

(摘記2a)

「技術分野
[0001] 本発明は、新規な免疫バランス調整剤に関する。」([0001])

(摘記2b)

「発明が解決しようとする課題
[0008] 本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、生体のTh1/Th2/Th17免疫バランスを調整する新規な免疫バランス調整剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、ユーグレナ由来物質の新規な利用法となる免疫バランス調整剤を提供することにある。
課題を解決するための手段
続きを表示(全12行)
[0009] 本発明者らは、ユーグレナ由来物質の免疫に関与するメカニズムについて鋭意研究した結果、ユーグレナそのものやパラミロン、パラミロン加工品等のユーグレナ由来物質を生体に投与すると、免疫系に関与する特定のサイトカインの産生が促進され、他のサイトカインの産生が抑制されることを見出した。
つまり、生体の免疫系は、T細胞、B細胞や、多数のサイトカインなど、機能の異なる種々の細胞やサイトカインが、相互に作用して、全体として成り立っているものであるところ、本発明者らは、生体にユーグレナ、パラミロン又はパラミロン加工品等のユーグレナ由来物質を投与すると、生体のTh1/Th2/Th17免疫バランスが、Th1又はTh2又はTh17側に移行して適正なバランスに調整することを見出して、本発明をするに至った。
[0010] 前記課題は、本発明の免疫バランス調整剤によれば、ユーグレナ由来物質を含み、生体においてTh1,Th2及びTh17がそれぞれ誘導する免疫反応のバランスであるTh1/Th2/Th17免疫バランスを調整することにより解決される。
このように構成しているため、Th1/Th2/Th17免疫バランスのTh1側又はTh2側又はTh17側への偏向が関与して生ずる好ましくない体質を改善する体質改善剤や、Th1側又はTh2又はTh17側への偏向が関与して生ずる疾患の疾患予防剤、治療剤等に用いることができる。
・・・
[0016]
・・・
このように構成しているため、例えば、Th1/Th2/Th17免疫バランスのTh1及び/又はTh17への偏向が関与する疾患、例えば、糖尿病、肝障害、気道炎症、宿主対移植片反応、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、動脈硬化、乾癬、胃炎等の予防又は治療に用いることができる。特にTh17への偏向が関与した疾患、例えば、慢性関節炎リウマチ、多発性硬化症、乾癬、炎症性腸疾患等の予防又は治療に用いることができる。・・・」([0008]~[0016])

(摘記2c)

「[0029]
・・・
ユーグレナ由来物質としては、パラミロンを含むものが好ましく、ユーグレナ又はユーグレナの乾燥品のほか、パラミロン、パラミロン粉末や、パラミロンの加工品等が含まれる。また、ユーグレナ又はユーグレナの乾燥品に、パラミロン又はパラミロン加工品が添加されたものでもよい。
[0030] ユーグレナ細胞としては、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis),特に、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株を用いることができるが、そのほか、ユーグレナ・グラシリス・クレブス,ユーグレナ・グラシリス・バルバチラス等の種や、ユーグレナ・グラシリス(E. gracilis)Z株の変異株SM-ZK株(葉緑体欠損株)や変種のvar. bacillaris、これらの種の葉緑体の変異株等の遺伝子変異株由来のβ-1,3-グルカナーゼ、Euglena intermedia, Euglena piride、及びその他のユーグレナ類、例えばAstaia longaであってもよい。・・・」([0029]~[0030])

(摘記2d)

「[0031] ユーグレナ細胞の培養において、培養液としては、例えば、窒素源,リン源,ミネラルなどの栄養塩類を添加した培養液、例えば、改変Cramer-Myers培地((NH4)2HPO4 1.0g/L,KH2PO4 1.0g/L,MgSO4・7H2O 0.2g/L,CaCl2・2H2O 0.02g/L,Fe2(SO2)3・7H2O 3mg/L,MnCl2・4H2O 1.8mg/L,CoSO4・7H2O 1.5mg/L,ZnSO4・7H2O 0.4mg/L,Na2MoO4・2H2O 0.2mg/L,CuSO4・5H2O 0.02g/L,チアミン塩酸塩(ビタミンB1) 0.1mg/L,シアノコバラミン(ビタミンB12)、(pH3.5))を用いることができる。なお、(NH4)2HPO4は、(NH4)2SO4やNH3aqに変換することも可能である。また、そのほか、ユーグレナ 生理と生化学(北岡正三郎編、株式会社学会出版センター)の記載に基づき調製される公知のHutner培地,Koren-Hutner培地を用いてもよい。
・・・
[0033] ・・・
ユーグレナは、光照射下で培養(明培養)されてもよく、無照射で培養(暗培養)されてもよい。」([0031]~[0033])

(摘記2e)

「[0034] ユーグレナ細胞の分離は、例えば、培養液の遠心分離または単純な沈降によって行われ得る。
パラミロン(Paramylon)は、約700個のグルコースがβ-1,3-結合により重合した高分子体(β-1,3-グルカン)であり、ユーグレナ属が含有する貯蔵多糖である。パラミロン粒子は、扁平な回転楕円体粒子であり、β-1,3-グルカン鎖がらせん状に絡まりあって形成されている。
[0035] パラミロンは、すべての種,変種のユーグレナ細胞内に顆粒として存在し、その個数,形状,粒子の均一性は、種により特徴がある。
パラミロンは、グルコースのみからなり、E. gracilis Zの野生株と葉緑体欠損株SM-ZKから得られたパラミロンの平均重合度は、グルコース単位で約700である。・・・
」([0034]~[0035])

(摘記2f)

「[0049] 本実施形態の免疫バランス調整剤は、体重40~90kgの人であれば、パラミロン又はパラミロン加工品の量が、1日あたり0.05g以上,好ましくは、1g以上の量になるように、投与される。」([0049])

(摘記2g)

「[0052] 更に、本実施形態の免疫バランス調整剤は、Th1/Th2/Th17免疫バランスがTh1及び/又はTh17に偏向した体質の改善、Th1/Th2/Th17免疫バランスのTh1及び/又はTh17への偏向が関与する疾患の予防又は治療に用いることができる。Th1/Th2/Th17免疫バランスのTh1及び/又はTh17への偏向が関与する疾患として、例えば、糖尿病、肝障害、気道炎症、宿主対移植片反応、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、動脈硬化、乾癬、胃炎等の予防又は治療、治療後の補助的な体調の微調整に用いることができる。特にTh17への偏向が関与する疾患として、例えば、慢性関節炎リウマチ、多発性硬化症、乾癬、炎症性腸疾患等の予防又は治療、治療後の補助的な体調の微調整に用いることができる。」([0052])

(摘記2h)

「[0057](実施例1)
ユーグレナグラシリス粉末((株)ユーグレナ製)を、実施例1のユーグレナとした。
(実施例2)
結晶性のパラミロンを、以下の手順により調製した。
続きを表示(全15行)
つまり、実施例1のユーグレナグラシリス粉末((株)ユーグレナ製)を蒸留水に入れ、室温で2日間撹拌した。これを超音波処理して細胞膜を破壊し、遠心分離により粗製パラミロン粒子を回収した。回収したパラミロン粒子を1%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液に分散し、95℃で2時間処理し、再度遠心分離により回収したパラミロン粒子を0.1%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液に分散して50℃で30分間処理した。当該操作により脂質やタンパク質を除去し、その後アセトンおよびエーテルで洗浄した後、50℃で乾燥して、精製パラミロン粒子を得た。
調製したパラミロン1gを、公知のカプセルに格納して、実施例2の免疫バランス調整剤を調製した。
[0058](実施例3)
実施例2で調製したパラミロンを用いて、特許第5612875号記載の方法に従い、アモルファスパラミロンを調製した。
つまり、実施例2で調製した結晶性のパラミロン粉末を、1Nの水酸化ナトリウム水溶液に、パラミロン粉末を5%(w/v)添加して溶解させ、1~2時間スターラで撹拌して、アルカリ処理した。その後、1Nの塩酸を、パラミロン粉末が溶解した1N水酸化ナトリウム水溶液に滴下して中和した。遠心分離の後上澄みを捨て、沈殿を蒸留水で洗浄する工程を繰り返した後、沈殿したゲルを回収し、凍結させた後凍結乾燥機で凍結乾燥し、実施例3のアモルファスパラミロンを得た。
[0059](実施例4)
実施例2で調製したパラミロンを用いて、以下の手順により、エマルジョンパラミロンを調製した。
結晶性のパラミロン粉末((株)ユーグレナ製,メジアン径2.591μm)にイオン交換水を加え、パラミロン濃度が10wt%のパラミロンスラリーを得た。
湿式微粒化装置(スターバースト18KW中型機,株式会社スギノマシン製,斜向衝突チャンバ-)の装置回路内をイオン交換水に置換した。装置のノズルを加圧して、パラミロンスラリーを回路内に供給し、初期吐出液を、回路内デッドボリュームとして廃棄した。その後、相互に角度を持って対向する一対のノズルからパラミロンスラリーの噴流をそれぞれ噴出させて、相互に衝突させる斜向衝突による噴流衝突を行った。流出路からスラリー処理物を回収して、1パスとした。このときの処理圧力は、245MPa,スラリー処理量は、240mL,ノズル径は、0.17mmとした。
この処理を3回繰り返して3パスの処理を行い、実施例4のエマルジョンパラミロンを得た。
実施例4のエマルジョンパラミロンは、スラリー調製時に加えたイオン交換水と分離せず、水と結合して膨潤していた。実施例4のエマルジョンパラミロンのメジアン径は、27.127μm(レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置,堀場製作所,LA-960にて測定)であった。」([0057]~[0059])

(摘記2i)

「[0095](試験例7 マウスのコラーゲン関節炎モデルを用いた関節リウマチに対する作用の評価)
実施例1~4の被験物質の関節リウマチに対する作用について、マウスのコラーゲン関節炎モデルを用いて評価を行った。
・・・
[0096] マウスを、無処置動物群、対照群、ユーグレナ群、パラミロン群、アモルファスパラミロン群、エマルジョンパラミロン群に群分けした(各群n=5)。固型飼料CE-2(日本クレア株式会社)に実施例1~4の被験物質をそれぞれ2%混餌し、それぞれ、ユーグレナ群、パラミロン群、アモルファスパラミロン群、エマルジョンパラミロン群のマウスに、ブースト5日後から毎日経口で自由摂取させた。
続きを表示(全41行)
[0097] コラーゲンに感作させた日(以下、「感作日」という。)より、四肢における関節炎の症状について、肉眼観察によりスコア付を行い、四肢のスコアの合計値を算出した。
スコア付は、垣本ら(新生化学実験講座12,分子免疫学II,東京化学同人:360-372,1989.)のスコアに準じて、表6の関節炎スコアに従って、3回/週(月・水・金)の頻度で評価を行い、四肢のスコアの合計値を算出した。
[0098][表6]
[図:0001417963000002.jpg]
[0099] 関節炎スコアの測定結果を図28に示す。
スコア測定最終日において、対照群と比較してユーグレナ群、パラミロン群、アモルファスパラミロン群、エマルジョンパラミロン群すべての群において、有意に低値となり、被験物質を継続摂取することによる関節炎症状の抑制が認められた。
[0100] 感作日の7週間後に、動物をイソフルランによる吸入麻酔下で開腹し、腹部後大静脈から採血を行った。得られた血液は、遠心分離して血清を分取し、血清中のコラーゲンIgGの定量(ELISA法)を行った。
抗コラーゲンIgGの測定結果を、図29に示す。
エマルジョンパラミロン群については、対照群と同程度の値であったが、ユーグレナ群、パラミロン群、アモルファスパラミロン群では、対照群と比較して、低値を示していた。
[0101] 感作日の7週間後に、採血を行った動物は、採血後、放血安楽致死をさせ、鼠径部リンパ節(無処置を除く全群)、膝関節(全群・両側)の順に摘出した。
鼠径部リンパ節については、リンパ球を分画後3等分し、抗CD3抗体を添加した培地でそれぞれ培養を行った。培養開始後約48時間後に培養上清を採取し、培養上清のサイトカイン(IL-17A,IFN-γ)分泌量を、マルチプレックスサスペンションアレイにて測定した。
[0102] 測定結果を、図30,図31に示す。
測定したサイトカインIL-17A,IFN-γについて、ユーグレナ群、パラミロン群、アモルファスパラミロン群、エマルジョンパラミロン群いずれも、対照群と比較して、低値を示していた。
図30,図31の結果より、ユーグレナ群、パラミロン群、アモルファスパラミロン群、エマルジョンパラミロン群において、Th1/Th17系のサイトカインであるIL-17A,IFN-γが抑制されたことが確認され、Th1/Th2/Th17免疫バランスを、Th1又はTh17が誘導する免疫反応が抑制される方向,つまり、Th2が誘導する免疫反応がTh1又はTh17が誘導する免疫反応に対して相対的に優位になる方向に調整されたことが確認された。
[0103] 摘出後の左膝関節を、10%中性緩衝ホルマリンで固定し、10%ギ酸ホルマリン脱灰液にて脱灰後、図32(A)の大腿骨滑車溝で、断面Aで切り出し、パラフィン切片を作製後にH.E.染色を行った。
評価は、次の膝関節組織の評価法に従った。即ち、滑膜の組織については、浮腫,炎症性細胞浸潤,滑膜細胞増生,肉芽組織形成,線維化,関節腔内滲出物、大腿骨滑車溝の組織については、パンヌス形成,関節軟骨の破壊(変性・線維化),骨破壊(吸収),骨棘形成(反応性類骨形成)について、認められた所見を、変化なし(評点0),軽微(評点1),軽度(評点2),中等度(評点3),高度(評点4)の5段階で評価した。
なお、各群の代表例の選択については、四肢の合計スコアの平均値の近い動物を指標に選択した。無処置群と対照群は2例,被験物質摂取群は3例を選択した。
結果を、表7,表8に示す。
[0104][表7]
[図:0001417963000003.jpg]
[0105]
[表8]
[図:0001417963000004.jpg]
[0106] 各群の代表例の左膝関節組織の病理標本の写真を、図33~図38に示す。
図33に示すように、無処置群では、滑膜及び大腿骨滑車溝に、関節炎に起因すると考えられる所見は認められなかった。
図34の対照群では、滑膜の浮腫,炎症,肉芽組織形成,線維化,滲出物が軽微(評点1)から中等度(評点2)に認められた。大腿骨滑車溝については,パンヌス形成及び軟骨破壊が軽度(評点2)に認められた。
図35のユーグレナ群及び図37のアモルファスパラミロン群については、滑膜の肉芽組織形成が軽微(評点1)に認められた以外は、所見は認められなかった。
図36のパラミロン群では、滑膜の炎症,肉芽組織形成,線維化及び大腿骨滑車溝のパンヌス形成,軟骨破壊が、軽微(評点1)から軽度(評点2)に認められた。
図38のエマルジョンパラミロン群については、対照群とほぼ同様で、滑膜の浮腫・炎症、肉芽組織形成、線維化、滲出物が軽微(評点1)に認められた。大腿骨滑車溝については、パンヌス形成及び軟骨破壊が軽度(評点2)に認められた。
[0107] 感作日の7週間後に摘出した鼠径部リンパ節について、フローサイトメーターを用いて細胞集団の分布解析を行った。抑制性T細胞の測定には、Mouse Th17/Treg Phenotyping Kit (BD pharmingen)を用いた。
フローサイトメーターを用いた解析で得られたCD4陽性T細胞中のIL-17産生細胞数の割合を、図39に示す。
図39のIL-17A産生細胞数について、パラミロン群、アモルファスパラミロン群については、対照群よりも減少していた。エマルジョンパラミロン群では、対照群と比較して有意に減少していた。
[0108] 対照群では、関節炎スコアの経日的な増加,血清IgG濃度の増加が認められた。膝関節の病理組織学的検査では、滑膜の炎症,肉芽組織形成,線維化,滲出物,大腿骨滑車溝については、パンヌス形成及び軟骨破壊が、それぞれ軽微から中等度に認められた。
[0109] 以上の病態に対して、ユーグレナ群,パラミロン群,アモルファスパラミロン群及びエマルジョンパラミロン群については、肉眼的スコアが対照群と比較して低値に推移し、統計学的な有意差も認められた。血清IgG濃度については、アモルファスパラミロン群について低値が認められた。
病理組織学的検査では、ユーグレナ群及びアモルファスパラミロン群で、滑膜の肉芽組織形成が軽微に認められた以外は、所見は認められなかった。パラミロン群については、滑膜の炎症,肉芽組織形成,線維化及び大腿骨滑車溝のパンヌス形成,軟骨破壊が認められたものの、その程度は、対照群と比較して顕著ではなかった。
リンパの培養上清中のサイトカインについては、Anti-CD3刺激により、ユーグレナ群,パラミロン群,アモルファスパラミロン群及びエマルジョンパラミロン群で、いずれも対照群と比較して分泌の低下が認められた。特に、ユーグレナ群及びアモルファスパラミロン群で、その低下は顕著であった。
以上より、マウスのコラーゲン関節炎モデルを用いてユーグレナ由来物質の自己免疫疾患に対する作用について検討を行った結果、ユーグレナ群,パラミロン群,アモルファスパラミロン群及びエマルジョンパラミロン群で、関節炎の発症抑制作用が認められた。特に、ユーグレナ群及びアモルファスパラミロン群では、その作用が顕著であり、組織学的にも顕著な抑制が認められた。」([0095]~[0109])

(摘記2j)

「
[図:0001417963000005.jpg]
[図:0001417963000006.jpg]
[図:0001417963000007.jpg]
続きを表示(全14行)
[図:0001417963000008.jpg]
・・・
[図:0001417963000009.jpg]
[図:0001417963000010.jpg]
[図:0001417963000011.jpg]
[図:0001417963000012.jpg]
[図:0001417963000013.jpg]
[図:0001417963000014.jpg]
[図:0001417963000015.jpg]
」([図28]~[図39])

ウ 原査定の拒絶の理由において「引用文献3」として引用され、本願優先日前に公開された文献である、「特表2011-503161号公報」(以下、「引用文献3」という。)には、以下の記載がある。

(摘記3a)

「【請求項1】
動物における炎症性腸疾患および異常な腸機能の関連疾患の処置または予防に使用するための酵母由来のグルカンであって、1個またはそれ以上のベータ-(1,3)-側鎖が結合したベータ-(1,3)-バックボーンを有する、酵母由来のグルカン。
・・・
【請求項6】
繰り返しのベータ-(1,6)-結合型グルコシル・ユニットを本質的に含まない、請求項1~5いずれか一項記載のグルカン。
・・・
【請求項11】
経口投与される、請求項1~10のいずれか一項記載のグルカン。
・・・」(特許請求の範囲)

(摘記3b)

「【技術分野】
【0001】
本発明は、腸管の炎症性疾患を処置または予防するためのグルカンの使用に関する。本発明はまた、腸管の炎症性疾患を処置または予防するためのキク科植物(Asteraceae)由来のミール、特にタンパク質の使用に関する。」(【0001】)

(摘記3c)

「【0004】
潰瘍性大腸炎およびクローン病は、腸管の不治の慢性疾患である。この2つの疾患は、その共通する症状から、炎症性腸疾患(以下、IBDと称する)をもたらす2つの主要な状態であるとして、しばしば一まとめにされる。」(【0004】)

(摘記3d)

「【0036】
好ましいグルカンは、繰り返しのベータ-1,6-結合型グリコシル・ユニットを実質的に含まない。・・・
【0040】
本発明への適用に最も好ましいグルカン供給源は、サッカロマイセス・セレビシエの細胞壁である。これらのうち、本発明の使用に好ましい供給源は、ノルウェーを拠点とする企業であるバイオテック・ファーマコン(Biotec Pharmacon)ASAにより生産されるような可溶性の酵母製品のSBG(可溶性ベータ-グルカン)である。
【0041】
この製品は、NMRおよび化学分析によりベータ-1,3およびベータ-1,6-連結型D-グルコース側鎖を含むベータ-1,3-結合型D-グルコースポリマーから成ることが特徴付けられた非誘導型(化学的な修飾基の観点から)の水溶性のベータ-1,3/1,6-グルカンであり、その側鎖中のベータ-1,6部分(バックボーン/側鎖の分岐点では含めない)の数は酵母細胞壁中の該グルカンの構造と比較して大幅に減少している。・・・」(【0036】~【0041】)

(摘記3e)

「【0097】
(実施例)
実施例1.実験大腸炎における可溶性のベータ-グルカンの効果。
1.1 実験計画:
続きを表示(全23行)
炎症性腸疾患(ここでは潰瘍性大腸炎により例示される)の処置における可溶性グルカン(ここでは、バイオテック・ファーマコンASAのSBG製品)の効果を評価するためのモデルを確立した。
【0098】
実験大腸炎は、飲用水に溶解させたデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)に7日間曝すことにより誘導した。・・・
【0123】
SBG経口投与は、急性大腸炎の全身性炎症を制限する。
SBG経口投与が全身性炎症に影響を及ぼしうるかどうかを調べるために、様々な炎症メディエーターのレベルを、犠牲にした後の4つの実験群のマウスにおいて決定した。
【0124】
図8で見ることができるように、TNFα、IFNγ、IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-3、IL-5、IL-6、IL-10、IL-13、IL-17、GM-CSF、MCP-1およびMIP-1βのレベルはすべて、対照群と比較して、DSSマウスで増大した。しかしながら、これらの炎症メディエーターレベルは、DSS群と比較してDSS+SBG群では減少しており、このことは、SBGが疾患に付随して増加するこられの炎症メディエーターのレベルを減少させることにより急性大腸炎における全身性炎症を低下させうることを示すものである。
【0125】
IL-4、IL-9、IL-12p40、IL-12p70、エオタキシン、ランテス(Rantes)、KC、MIP-1αおよびG-CSFのレベルにおける全体的な差異は、DSS群とDSS+SBG群との間には認められなかった。
【0126】
1.4 結論:
実施例1は、DSS誘導型の実験的IBDにおけるSBG経口投与の有益な効果を明らかに実証する。
1)経口SBG処置は、実験動物における大腸炎に付随する体重減少を軽減する。
2)経口SBG処置は、実験的IBDにおける大腸炎に付随する死亡を低下させる。
3)経口SBG処置は、実験的大腸炎における大腸の炎症および組織損傷を軽減する。
4)経口SBG処置は、実験的大腸炎における大腸炎に付随する大腸の短縮化を低減する。
5)経口SBG処置は、大腸炎に付随する胸腺の退縮を制限する。
6)経口SBG処置は、急性大腸炎における全身性の炎症を制限する。」(【0097】~【0126】)

エ 原査定の拒絶の理由において「引用文献4」として引用され、本願優先日前に公開された「国際公開第02/098433号」(以下、「引用文献4」という。)には、以下の記載がある。

(摘記4a)

「技術分野
本発明は腸疾患、特に炎症性腸疾患に有効な腸疾患の予防、改善及び/又は治療用に適した新規薬剤に関する。本発明においては安全性が高く経口投与が可能であり、広く多くの患者に簡便に適用することができる。更に、本発明は腸疾患の予防、改善及び/又は治療方法や、上記薬剤に使用する特定有効成分の当該薬剤への使用等にも関する。」(1頁3~8行)

(摘記4b)

「本発明者等は上記課題解決に向けて鋭意研究を重ねた結果、特定の分子量を有する植物由来のβ(1→3)グルカンを自由飲水で与えたマウスによるモデル動物試験で前記目的とする薬効を有することを見出し、目的とする腸疾患の予防、改善及び治療等用の薬剤として使用できることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに到った。」(2頁1~5行)

(摘記4c)

「好適な実施の形態
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、この実施例により本発明は何等制限されるものではない。この実施例において使用される%値は、特に説明が無い限り重量%で示されている。
(試料及び実験動物)
・・・
続きを表示(全24行)
(きのこ熱水抽出物の蟻酸分解物の調製)
・・・
尚、ドライLは生シイタケ(Lentinus edodes)子実体1kgを熱水5000mlに溶解しエタノール5000mlで沈殿化(320g)したものである。
・・・
(実施例1)
炎症性腸疾患(DSS誘導炎症性腸疾患)モデルを用いたドライL経口摂取薬効検定
ドライL分解物の経口摂取によりDSS誘導炎症性腸疾患は抑制されるのが確かめられた。以下、具体的に説明する。
炎症性腸疾患(以下、「IBD」と称する。)モデルとして、マウスにデキストラン硫酸(以下、「DSS」と称する。)水溶液を飲水させる系が知られている。この系を用い、ドライL60分蟻酸分解物水溶液を前投与することで発症が抑制若しくは促進されるかの検討を行った。
IBDを発症すると、体重の減少が起こる。発症の指標として、血便、体重減少及び生存率を用い検討した。
C57/BL6 雌13週齢より、ドライL60分蟻酸分解物水溶液、ドライL30分蟻酸分解物水溶液、対照として滅菌水を、それぞれ飲水させ、飲水開始10日目、DSS1%水溶液に切り換え、週1回体重測定を行い、逐次生存の確認を行った。
DSS1%水溶液切り換え10日目の体重減少は、対照群16%に比べ、ドライL60分蟻酸分解物水溶液飲水群12.5%とドライL60分蟻酸分解物水溶液飲水群で有意に低いことが確認された(図1b参照。)。DSS1%水溶液切り換え34日目の発症率(血便発生率)は対照群100%に比べ、ドライL60分蟻酸分解物水溶液飲水群で37%とドライL60分蟻酸分解物水溶液飲水群で、有意に発症の抑制が確認された。また、ドライL30分蟻酸分解物水溶液飲水群において、発症率75%と発症の抑制が確認された(図1a参照。)。
DSS1%水溶液切り換えより34日目にDSS2%水溶液に切り換えた。DSS2%水溶液への切り換えより11日目の生存率は、対照群0%に比べ、ドライL60分蟻酸分解物水溶液飲水群100%と、ドライL60分蟻酸分解物水溶液飲水群において著明な発症の抑制が確認された(図2参照。)。また、DSS2%水溶液への切り換えより7日目までの体重変化は、切り換え開始時の体重を1とした割合をとると、対照群で0.8に対して、ドライL60分蟻酸分解物水溶液飲水群0.9とドライL60分蟻酸分解物水溶液飲水群の体重減少は対照群より少なく、IBD発症が抑制されることが確認された(図3参照。)。
以上の結果から明らかな如く、IBD(炎症性腸疾患)モデルにおいて、ドライL60分蟻酸分解物水溶液の飲水により、炎症性腸疾患が有意に抑制されることが確認された。
(実施例2)
炎症性腸疾患(DSS誘導炎症性腸疾患)モデルを用いたきのこ酵素分解物の経口摂取薬効検定
シイタケ熱水抽出物の酵素分解物の経口摂取によりDSS誘導炎症性腸疾患は抑制されるのが確かめられた。 以下、具体的に説明する。
炎症性腸疾患(以下、「IBD」と称する。)モデルとして、マウスにデキストラン硫酸(以下、「DSS」と称する。)水溶液を飲水させる系が知られている。この系を用い、シイタケ熱水抽出物酵素分解物水溶液を前投与することで発症が抑制若しくは促進されるかの検討を行った。
C57/BL6 雌13週齢より、シイタケ熱水抽出物酵素分解物水溶液、対照として滅菌水を、それぞれ飲水させ、飲水開始10日目にDSS1%水溶液に切り換え、週1回体重測定を行い、逐次生存の確認を行った。
DSS1%水溶液切り換え後10日目の体重減少は、対照群19%に比べ、シイタケ熱水抽出物酵素分解物水溶液9.5%とシイタケ熱水抽出物酵素分解物水溶液飲水群で有意に低いことが確認された。DSS1%水溶液切り換え30日目の発症率(血便発生率)は対照群100%に比べ、シイタケ熱水抽出物酵素分解物水溶液飲水群で17%とシィタケ熱水抽出物酵素分解物水溶液飲水群で、有意に発症の抑制が確認された。
以上の結果から、酵素分解物水溶液の飲水により、炎症性腸疾患が対照群と比較して有意に抑制されることが理解される。」(6頁4行~9頁下から6行)

(摘記4d)

「請求の範囲
1.5000~20000の分子量を有する植物由来のβ(1→3)グルカンを有効成分として含有することを特徴とする腸疾患の予防、改善及び/又は治療用薬剤。
2.当該植物がきのこ類である請求の範囲1記載の薬剤。
3.当該β(1→3)グルカンが、グルカンの加水分解により得られたものである請求の範囲1又は2記載の薬剤。
続きを表示(全11行)
4.当該β(1→3)グルカンが、きのこの水抽出物から得られたものである請求の範囲1~3何れか記載の薬剤。
5.きのこの水抽出物から得られたものが、きのこの水抽出-アルコール沈殿物から得られたもの又は当該沈殿物を更に分解して低分子量化したものである請求の範囲4記載の薬剤。
6.経口投与用である請求の範囲1~4何れか記載の薬剤。
7.当該腸疾患が炎症性腸疾患である請求の範囲1記載の薬剤。
8.5000~20000の分子量が平均分子量で表して5000~20000の分子量である請求の範囲1記載の薬剤。
9.きのこ類がシイタケである請求の範囲2記載の薬剤。
・・・」(請求の範囲)

オ 原査定の拒絶の理由において「引用文献5」として引用され、本願優先日前に公開された文献である、「宮武和孝ほか、原生動物の作り出すバイオ粒子,パラミロンの性質と利用、J.Soc.PowderTechnol.Japan、1995年、Vol.32、No.8、pp.566~572」(以下、「引用文献5」という。)には、以下の記載がある。

(摘記5a)

「3.3 パラミロンの分離と精製
ユーグレナは光合成で生成したグルコースまたは培養液中のグルコースなどの炭素源をパラミロンに変換する。このグルコースの供給をプログラムした制御方法により,高収量でユーグレナ細胞にパラミロンを蓄積する培養法が開発され,乾燥細胞重量の70%近くまでパラミロン含量が増加している8)。培養液よりユーグレナ細胞を遠心分離により集め,水洗する。再び,水に懸濁し,超音波により細胞膜を破砕し,遠心分離によりパラミロンを集める。この粗製パラミロンを1%ドデシル酸ナトリウム(SDS)で95度,1時間,さらに0.1%SDS,50度,30分,順次処理し,脂質,タンパク質を除去する。さらに遠心分離により,パラミロンを集め,これを数回水で洗滌し,アセトン,エーテル洗滌して,精製パラミロンを得ることができる。」(569頁左欄9~23行)

カ 原査定の拒絶の理由において「引用文献6」として引用され、本願優先日前に公開された文献である、「嵐田亮、微細藻類ユーグレナの特徴と食品・環境分野への応用、光合成研究、2012年、Vol.22、No.1、pp.33~38」(以下、「引用文献6」という。)には、以下の記載がある。

(摘記6a)

「2.3. パラミロン(炭水化物)の代謝
高等植物の場合、光合成によって獲得した炭水化物を葉から根に輸送し、デンプンとして蓄えるが、ユーグレナの場合はパラミロン(paramylon)と呼ばれる独自の貯蔵多糖を蓄える。増殖の時期や培養条件によっては、パラミロン含有率が乾燥重量あたり50%を超える場合もある9)。パラミロンはデンプンと同じグルコースの重合体(重合度 700-750)で、β-1,3-結合のみで構成されるという特徴を持つ10)。グルコースがβ-1-3-結合で構成された多糖は一般にβグルカンと呼ばれ、酵母の細胞壁、アガリクス、霊芝等に含まれることが知られている。」(34頁左下欄下から6行~右欄6行)

キ 本願優先日前に公開された文献である、「赤司昭ほか、微細藻類 Euglena gracilis 新規株 EDO-1の従属栄養培養、神鋼環境ソリューション技報、2015年9月15日発行、Vol.12、No.1、pp.9~15」(周知技術を示す文献。以下、「引用文献7」という。)には、以下の記載がある。

(摘記7a)

「4.従属栄養条件によるE.gracilis EOD-1の培養
4.1 ユーグレナの培養方法と当社の培養方針
ユーグレナの培養方法には大別して3つの方法がある。一つ目は二酸化炭素を炭素源、光(太陽光など)をエネルギー源とする光独立栄養(いわゆる光合成)培養法、二つ目は炭素源としてグルコースなどの有機性炭素を利用して暗所・好気条件下で培養する従属栄養培養法、三つ目はそれらの中間に位置づけられる光従属栄養法である。
光合成法と従属栄養法におけるバイオマス生産性を比較すると(表3),圧倒的に従属栄養法の方が高いことがわかる。すなわち,光合成法での培地1L 当たりのバイオマス生産性はわずか0.2 g/d 程度であるのに対し,従属栄養培養の場合その10倍にあたる2g/d 以上のバイオマス生産性が期待できる。また,単位面積当たりの生産性を比較すると,光独立栄養培養法の場合,光照射が効率よく行われるためには培養池の水深を浅くする(通常,20 cm 程度)必要があるため,両者の差はさらに拡大する。従属栄養培養法は光独立栄養培養法の250倍以上のバイオマス生産性が期待できる(光独立栄養培養における培養池の水深を20 cm,従属栄養培養における培養槽の水深を5m とした場合)。さらに,工業規模で光独立栄養培養を行う場合,屋外で解放系のポンドを用いて培養する方法が一般的である。したがって,気候の変動(水温や日照量・時間)や細菌や捕食性微生物のコンタミネーションなどの影響を受けやすく,生産性や品質が安定しないなどの欠点がある(いわば農業生産に相当)。一方,従属栄養培養の場合,閉鎖系リアクタ(培養槽)を用い滅菌条件下で培養されるため,一定品質のバイオマスを高い生産性で安定に生産可能である(いわば工業生産に相当)。
以上の比較検討結果より,当社ではE. gracilis EOD-1の培養法として,従属栄養培養法を採用することとした。」(12頁右欄4行~13頁左欄下から9行)

ク 本願優先日前に公開された文献である、「米国特許出願公開第2013/0216586号明細書」(周知技術を示す文献。以下、「引用文献8」という。)には、以下の記載がある。なお、原文が外国語のため、当審による訳文にて示す。

(摘記8a)

「ベータグルカンは、ユーグレナ由来とすることができ、従属栄養的に成長したユーグレナ由来とすることができる。」(2頁右欄下から21行~19行)

ケ 本願優先日前に公開された文献である、「市川伸哉ほか、ユーグレナの生産する機能性粉体の開発と応用、FRAGRANCE JOURNAL、1991年、5巻、pp.84~92」(周知技術を示す文献。以下、「引用文献9」という。)には、以下の記載がある。

(摘記9a)

「3.ユーグレナの培養
3-1.使用株について
ユーグレナは自然界では主として光合成による独立栄養系で生育しているが,グルコースなどの栄養源の存在下では,これをエネルギー源として従属栄養系での生育も可能である。ユーグレナの生育速度や細胞内のパラミロンの含有量を高めるためには、従属栄養系での培養の方が優れていることがわかっており,また企業レベルでの培養管理の面からも光を用いずに培養した方がより有利である。ユーグレナには変種も含めいくつかの種が知られるが,この中で,大量培養に適した株を検討した結果,Euglena gracilis株が生育に優れていることがわかり,以下の検討に用いることにした。」(85頁左欄下から2行~右欄11行)

コ 本願優先日前に公開された文献である、「メルク マニュアル 第16版、1997年、(有)メディカルブックサービス、pp.1003~1008」(技術常識を示す文献。以下、「引用文献10」という。)には、以下の記載がある。

(摘記10a)

「脂質代謝異常
・・・
高リポ蛋白血症(HLP)
(高脂血症)
続きを表示(全12行)
コレステロール(総コレステロール[TC])およびトリグリセリド(Tgs)を含めて,大部分の血漿中の脂質は血漿中を遊離した形で溶けて循環しているわけではなく,蛋白質と結合し,リポ蛋白と呼ばれる巨大分子複合体として運搬されている。主要はリポ蛋白の各クラス-カイロミクロン,超低比重(プレβ)リポ蛋白(VLDL),低比重(β)リポ蛋白(LDL),そして高比重(α)リポ蛋白(HDL)-は,かなり密接な相互関係を有するのだが,通常は物理学的特徴(例,電気泳動距離や超遠心分離後の密度など)によって分類される。・・・
総コレステロール(TC)とトリグリセリドの正常血漿中濃度
・・・TC濃度200mg/dL以下を目標値として200から240mg/dLを高め境界値,240mg/dL以上をハイリスクとして定義している。
・・・
II型高リポ蛋白血症(HLP)
・・・
治療
・・・LDLコレステロールの軽度または中等度の上昇については,ふつう食生活の変化で十分であり,これが第一段階の治療である。食事療法は通常,薬物療法の追加が必要であると決定する前に,最低でも6か月は試みられるべきである。重症,または家族性の高コレステロール血症(例,TC240mg/dL以上,LDL160mg/dL以上)については,ただちに薬剤を投与するのが適切である(後述の各論,参照)。」(1003頁23行~1008頁最下行)

サ 本願優先日前に公開された文献である、「小田栄司ほか、LDLコレステロールとメタボリックシンドロームとの関係,および,その関係における性差、人間ドック、2009年、24(3)、pp.67~73」(技術常識を示す文献。以下、「引用文献11」という。)には、以下の記載がある。

(摘記11a)

「要約 目的:LDLコレステロールは,一般に,メタボリックシンドローム(MS)の成分とは考えられていないが,MSと関係していると考えられるので,この関係を解析する.
・・・
結果:男女とも,LDLコレステロールの上昇に伴って,MSの頻度が上昇したが,女性の方が男性よりも急峻に上昇した.・・・」(67頁要約)

シ 本願優先日前に公開された文献である、「佐藤誠也ほか、メタボリックシンドローム治療、脈管学、2006年、46、pp.475~480」(技術常識を示す文献。以下、「引用文献12」という。)には、以下の記載がある。

(摘記12a)

「(4)薬物療法
メタボリックシンドロームの主要因は内臓脂肪蓄積であることから,治療の主な部分は生活習慣の是正となる。しかし,それだけで内臓脂肪の減少や各危険因子のコントロールが十分となる場合は実際には多くなく,その場合は薬物療法の適応となる。海外の研究で2型糖尿病患者の血糖コントロールを厳格に行っても,心筋梗塞などの心血管イベントの発症予防は不十分だったとの報告がある5)。つまりメタボリックシンドロームにおいて,血糖コントロールのみ行っても,その他の高血圧・脂質代謝異常に対する治療が不十分な場合,粥状動脈硬化が進行してしまう可能性が高いと考えられる。一方,デンマークで行われたSteno-2Study6)では,高血糖・高血圧・脂質代謝異常といった危険因子すべてに介入することで,心血管イベントの発症率がどうなるかを検討している。315人の2型糖尿病患者を2群に割り付け,強化集学的療法と通常療法をそれぞれ実施した。強化集学的療法群には収縮期血圧130mmHg未満,拡張期血圧80mmHg未満,HbAlc6.5%未満,血清総コレステロール175mg/dl未満,血清トリグリセリド150mg/dl未満を目標とし,全例にアスピリンとACE阻害剤の投与を行った。その結果,7.8年の観察期間で強化集学的療法群の心血管イベントは,通常療法群と比べて53%も抑制できたと報告している(Fig.2)。メタボリックシンドロームの治療に置き換えて考えれば,糖尿病・高血圧・高脂血症を合併している患者はすべての疾患について治療を行うことで,心血管疾患のリスクをかなり下げることができると考えられる(Fig.3)。
・・・
2)高脂血症
メタボリックシンドローム患者の脂質代謝異常の特徴として,VLDL(very low density lipoprotein)・LDL(low density lipoprotein)コレステロールの増加,HDL(high density lipoprotein)コレステロールの減少がある。スタチンは,LDLコレステロールを大幅に下げる効果がある。実際にメタボリックシンドローム患者にスタチンを用いたところ,主な心疾患イベントのリスクを48%減少させた9,10)との報告があり,スタチンが有効であると思われる。」(478頁左欄11行~479頁左欄下から3行)

(3)引用文献1を主引例とする進歩性について

ア 引用文献1に記載された発明

引用文献1には、血中脂質が高めの男女にユーグレナ1g(250mg/cap×4粒/day)を投与した結果、血中総コレステロールおよび血中LDLコレステロールが有意に減少したことが記載され(摘記1d)、ユーグレナ250mg入りcap(カプセル)は組成物の形態と認められるから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

<引用発明1>

「血中脂質が高めの男女にユーグレナ1g(250mg/cap×4粒/day)を投与することで血中総コレステロール及び血中LDLコレステロールを減少させるための組成物。」

イ 本件補正発明と引用発明1の対比

(ア)引用発明1の「血中脂質が高めの男女」は、ユーグレナ摂取前の総コレステロール値が250mg/dL、LDLコレステロール値が150mg/dLであるから(摘記1f)、本件補正発明の「高脂血症」の「疾患をもつヒト」に相当する(必要であれば、摘記10a参照。)。

そして、本件補正発明の「高脂血症」は、本願明細書の【0078】に「高脂血症は、血中コレステロール(すなわち、高コレステロール血症)又は血中トリグリセリド(高トリグリセリド血症)レベルの上昇をもたらすいずれの疾患も含む」と記載されているように、血中コレステロールの上昇によりもたらされる疾患であるから、「血中コレステロールを減少させる」ことは、「高脂血症の治療」に相当する。

そうすると、引用発明1の「血中脂質が高めの男女」の「血中総コレステロール及び血中LDLコレステロールを減少するための組成物」は、本件補正発明の「高脂血症」の「疾患をもつヒトにおける前記疾患を治療するための」「組成物」に相当する。

また、引用文献1には、「血中脂質量の減少や脂質排出のデータから、抗メタボリックシンドローム素材としての側面を有している」と記載されているから(摘記1e)、引用発明1である、血中総コレステロール及び血中LDLコレステロール、すなわち、血中脂質量を減少させるための組成物は、メタボリックシンドロームのヒトの治療をするための組成物としての側面を有しているといえる。このことは、LDLコレステロールの上昇にともなって、メタボリックシンドローム(MS)の頻度が上昇し、スタチンのようなLDLコレステロールを下げる効果のある薬剤がメタボリックシンドロームの治療に有効であるとされていることからも、明らかである(必要であれば、摘記11a、12a参照。)。

そうすると、引用発明1の「血中脂質が高めの男女」の「血中総コレステロール及び血中LDLコレステロールを減少させるための組成物」は、本件補正発明の「メタボリックシンドローム」の「疾患をもつヒトにおける前記疾患を治療するための」「組成物」にも相当する。

以上によれば、引用発明1の「血中脂質が高めの男女」の「血中総コレステロール及び血中LDLコレステロールを減少させるための組成物」は、本件補正発明の「高脂血症、メタボリックシンドローム、炎症性腸疾患、大腸炎、及びクローン病からなる群より選択される疾患をもつヒトにおける前記疾患を治療するための」「組成物」に相当する。

(イ)本件補正発明の「ユーグレナバイオマス」について、本願明細書【0056】には、「「バイオマス」という用語はユーグレナ細胞材料を記述するために使用される。生成物は加工されてもよく、未加工であってもよい。例えば、ユーグレナバイオマスは乾燥されてもよく、湿った細胞マスとして提供されてもよい。」と定義されている。

一方、引用文献1には、「パラミロンはユーグレナが特異的にその細胞内に蓄積するβ-1,3-グルカンの結晶体である」と記載されているから(摘記1c)、引用発明1の「ユーグレナ」は、「ユーグレナ細胞材料」であって「β-1,3-グルカン」を含むものである。

そうすると、引用発明1の「ユーグレナ」は、本件補正発明の「ベータ-1,3-グルカンを含むユーグレナバイオマス」に相当する。

(ウ)引用文献1には、「パラミロンは単糖のグルコースのみから構成され,そのすべてがβ-1,3-結合で連なっている」と記載されており(摘記1c)、全てがβ-1,3-結合で連なっていれば、β-1,6-結合は含まないから、引用発明1の「ユーグレナ」は、本件補正発明の「ベータ-1,6-グリコシド結合を含まないベータ-1,3-グルカン」を含有するものに相当する。

(エ)引用発明1は、「ユーグレナ1g(250mg/cap×4粒/day)」とあるとおり、カプセルで投与するものであるところ、引用文献1の表題に「特集 機能性食品素材の開発 ユーグレナの栄養特性と機能性」と記載されているように(摘記1a)、ユーグレナは食品素材であるから、引用発明1のカプセルでの投与は経口投与と認められる。

そうすると、引用発明1のカプセルで投与する組成物は、本件補正発明の「経口投与用の組成物」に相当する。

(オ)以上によれば、本件補正発明と引用発明1は、以下の点において、一致及び相違する。

<一致点>

「高脂血症、メタボリックシンドローム、炎症性腸疾患、大腸炎、及びクローン病からなる群より選択される疾患をもつヒトにおける前記疾患を治療するための経口投与用の組成物であって、前記組成物が、ベータ-1,3-グルカンを含むユーグレナバイオマスを含み、前記組成物がユーグレナのベータ-1,6-グリコシド結合を含まないベータ-1,3-グルカンを含有する組成物。」

<相違点1-1>

ユーグレナが、本件補正発明は、「従属栄養的に増殖させたもの」であって、「発酵を利用して増殖させた」ものであるのに対し、引用発明1は、そのようなものであるか不明な点

<相違点1-2>

ユーグレナバイオマスが、本件補正発明は、「50重量%乃至70重量%」のベータ-1,3-グルカンを含むものであるのに対し、引用発明1は、そのようなものであるか不明な点

<相違点1-3>

本件補正発明は、「有効量が、0.1mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重乃至100mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重である」のに対し、引用発明1は、そのようなものであるか不明な点

ウ 判断

(ア)相違点1-1について

引用文献1には、引用発明1のユーグレナの培養方法について特に記載されていない。

そこで、本願優先日前に知られたユーグレナの培養方法について検討すると、引用文献2には、ユーグレナは培地を用いて培養することができ、光照射下又は無照射下で培養してもよいと記載され(摘記2d)、引用文献7には、「ユーグレナの培養方法には大別して3つの方法」があり、その二つ目として「炭素源としてグルコースなどの有機性炭素を利用して暗所・好気条件下で培養する従属栄養培養法」が挙げられると記載され(摘記7a)、引用文献8には、ユーグレナとして「従属栄養的に成長」したものが記載され(摘記8a)、引用文献9には、ユーグレナは、グルコースなどの栄養源の存在下で、グルコースをエネルギー源として「従属栄養系での生育」も可能であることが記載されている(摘記9a)。

すなわち、本願優先日前、グルコースなどの栄養源を添加した培地を用いてユーグレナを従属栄養的に増殖させることは周知技術である。

そして、本願明細書【0166】に、「ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンは、発酵を利用してユーグレナを増殖させることによって作られる」こと、同【0168】に、「発酵を利用して増殖させるユーグレナは、増殖培地を用いて培養される」ことが記載されているように、増殖培地を用いた、ベータ-1,3-グルカンの作成を伴う培養は、「発酵を利用」した増殖に相当するから、ユーグレナの増殖方法として、従属栄養的に増殖させること、発酵を利用して増殖させることは、本願優先日前の周知技術である。

そうすると、引用発明1のユーグレナとして、本願優先日前の周知技術に基づいて、「従属栄養的に増殖させたもの」であって、「発酵を利用して増殖させたもの」を用いることは、当業者が容易に行うことである。

(イ)相違点1-2について

引用文献1には、引用発明1のユーグレナに含まれるベータ-1,3-グルカンの量について特に記載されていない。

しかしながら、引用文献6には、ユーグレナの増殖の時期や培養条件によってパラミロン含有率が乾燥重量あたり50%を超える場合もあると記載されているところ(摘記6a)、パラミロンは、ベータ-1,3-グルカンのみからなるから(摘記6a)、引用文献6には、ユーグレナは、増殖の時期や培養条件によってベータ-1,3-グルカンを50重量%以上含むことが記載されているといえる。また、引用文献5には、培養したユーグレナは、乾燥細胞重量の70%近くまでパラミロン含量が増加していると記載され(摘記5a)、上記のとおりパラミロンは、ベータ-1,3-グルカンのみからなるから、引用文献5には、ユーグレナは、培養により70重量%近くまでのベータ-1,3-グルカンを含むことが記載されているといえる。

そうすると、培養したユーグレナは、通常、50重量%乃至70重量%程度のベータ-1,3-グルカンを含むと認められる。

一方、引用文献1の記載から、ユーグレナを含有する食品が市場に流通するようになったのは、屋外(大量)培養の実施後であり、引用文献1の報告もそれに伴うものと認められるから(摘記1b、1e)、引用発明1の「ユーグレナ1g(250mg/cap×4粒/day)」に用いられているユーグレナは、培養したユーグレナであると考えるのが自然である。

そうすると、引用発明1のユーグレナについて、培養したユーグレナにおける通常の範囲である「50重量%乃至70重量%」のベータ-1,3-グルカンを含むものとすることは、当業者が容易に行うことである。

また、仮に、引用発明1のユーグレナが培養されていないものであるとしても、上記(ア)のとおり、引用発明1のユーグレナとして、「従属栄養的に増殖させ」、「発酵を利用して増殖させ」た培養ユーグレナを用いることで、引用発明1のユーグレナを培養したユーグレナにおける通常の範囲である「50重量%乃至70重量%」のベータ-1,3-グルカンを含むものとすることは、当業者が容易に行うことである。

(ウ)相違点1-3について

引用発明1のユーグレナの投与量は、1gであるところ、仮に体重60kgのヒトの体重あたりに換算すると、1g/60kg=約17mgとなる。引用発明1のユーグレナに含まれるベータ-1,3-グルカンの含有量は不明であるが、上記(イ)のとおり、引用発明1のユーグレナは培養したユーグレナと考えるのが自然であり、培養したユーグレナは、50重量%乃至70重量%程度のベータ-1,3-グルカンを含むと認められるから、引用発明1における1gのユーグレナは、その50重量%乃至70重量%のベータ-1,3-グルカンを含むものとして、体重60kgのヒトの体重あたりに換算すると、約17mgの50~70%である約8.5~11.9mg程度のベータ-1,3-グルカンを含有するといえる。

そうすると、引用発明1におけるベータ-1,3-グルカンの含有量は、「0.1mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重乃至100mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重」に包含されるから、相違点1-3は、実質的な相違点ではないといえる。

また、仮に、引用発明1のユーグレナが培養されていないものであるとしても、上記(ア)のとおり、引用発明1のユーグレナとして、「従属栄養的に増殖させ」、「発酵を利用して増殖させ」た培養ユーグレナを用いることで、自ずと、ベータ-1,3-グルカンの含有量は、「0.1mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重乃至100mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重」に包含されるといえる。

さらに、引用発明1のユーグレナに含まれるベータ-1,3-グルカンの量が50重量%乃至70重量%ではなく、例えば、1重量%乃至100重量%という広範囲であるとしても、同様に換算すると約0.17~17mg/kg体重であるから、結局のところ、引用発明1におけるベータ-1,3-グルカンの含有量は、「0.1mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重乃至100mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重」に包含され、相違点1-3は、実質的な相違点ではないといえる。

また、引用発明1において、ユーグレナの機能がパラミロン(ベータ-1,3-グルカン)に起因する可能性が指摘されているのであるから(摘記1d)、引用発明1におけるベータ-1,3-グルカンの好ましい有効量を検討し、「0.1mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重乃至100mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重」という範囲を設定することに、格別の困難性は見いだせない。

(エ)本件補正発明の効果について

a 本願明細書には、引用発明1と同様の高脂血症やメタボリックシンドロームに関連して、以下の実施例が記載されている。

「【0315】
実施例7:ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンを投与することによるマウスにおける高脂血症の治療
ユーグレナを本明細書に記載のように滅菌発酵槽で増殖させた。発酵槽内でユーグレナバイオマスが標的密度に達したら、ユーグレナをろ過、溶解し、ベータ-1,3-グルカンを精製した。ユーグレナ由来の精製ベータ-1,3-グルカンを下記のマウス実験に用いた。リン酸緩衝生理食塩水を対照として投与した。
【0316】
続きを表示(全12行)
第1の実験では、Balb/cマウスにベータグルカンを含まない高コレステロール餌(毎日約16mgのコレステロール)を14日間与えた。この期間の後、マウスに、ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカン又は対照を含有し、コレステロールのレベルが正常(約110mg/dL)の飼料をさらに30日間与えた。絶食の12時間後に血清を採取し、血中コレステロール及びトリグリセリドを測定した。図10Aに図示するように、マウスの血清コレステロールレベルは、高コレステロール給餌の間に平均が約115mg/dLから約265mg/dLに上昇した。正常量のコレステロールを含む飼料に戻した後にリン酸緩衝化生理食塩水を投与した対照マウスでは、コレステロールレベルは少なくとも34日目まで上昇したままであり、44日目には約181mg/dLに減少した。対照的に、ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンを投与したマウスでは、血中コレステロールレベルの即時且つ着実な減少がみられた。トリグリセリドレベルについても同様の結果が得られた。図10Bに見られるように、マウスが高コレステロール飼料を摂取した間に血清トリグリセリドレベルは約105mg/dLから約138mg/dLに上昇した。対照マウスは、正常コレステロール飼料での30日後に血清トリグリセリドレベルがわずかに減少しただけであった。対照的に、ベータグルカンを投与したマウスでは、血清トリグリセリドレベルの即時且つ継続的な減少がみられ、44日目には実験の開始時よりも低かった。
【0317】
第2の実験では、精製ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカン又は対照とともに、Balb/cマウスに高コレステロール飼料(毎日約16mgのコレステロール)を14日間給餌した。14日後、マウスに正常コレステロール飼料(約110mg/dL)を与え、同じベータグルカン生成物又は対照をさらに30日間投与した。絶食の12時間後に血清を採取し、血中コレステロール及びトリグリセリドを測定した。図11Aに図示するように、対照のみを投与したマウスの血清コレステロールは、高コレステロール飼料を用いた14日間に最も上昇し、約118mg/dLから約275mg/dLに上昇した。ユーグレナ(ユーグレナ)由来の精製ベータ-1,3-グルカンを投与したマウスは、約118mg/dLから約230mg/dLへの血清コレステロールの小さな増加を示した。トリグリセリドレベルについても同様の結果が得られた。図11Bに見られるように、対照マウスの血清トリグリセリドレベルは、高コレステロール飼料を与えられた間に最も増加した(約105mg/dLから約145mg/dL)。対照マウスは、正常コレステロール飼料での30日間の後に血清トリグリセリドレベルのわずかな減少のみがみられた。対照的に、ベータグルカンを投与したマウスでは、正常コレステロール飼料に戻した後に血清トリグリセリドレベルの即時且つ継続的な減少が見られ、44日目には実験の開始時よりも低かった。
【0318】
実施例8:ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンを摂取することによる個人の代謝の健康状態への影響を評価するための臨床試験
治験を利用して、ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンを摂取することの、コレステロールレベル、血糖値、感染症、及び炎症に対する影響を評価する。(登録施設内審査委員会によって承認された)書面によるインフォームドコンセントと選考過程を予め整えた後に参加者を募集する。試験は4週間の期間であり、評価はベースライン、2及び4週間のベータ-1,3-グルカン摂取時に行われる。ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンをカプセルの形で投与して、各個人に250mgの1日投与量を与える。
【0319】
代謝の健康状態に対するベータグルカンの影響は、グルコースや脂質代謝に関するマーカーの空腹時血中レベル、全身の健康状態やウエルネスの評価、及び血圧や血液化学の測定のうちの1つ以上を用いて測定される。血液化学の分析としては、タンパク質カルボニル含量(酸化ストレスのマーカー)、急性期炎症マーカー(C反応性タンパク質や、アルファ-1酸糖タンパク質、フィブリノゲン、血小板第4因子など)、代謝バイオマーカー(C-ペプチドや、コルチゾール、膵臓ポリペプチド、プロインスリン、ペプチドYYなど)、サイトカインパネル、及び抗体分析を挙げることができる。」

b 上記実施例7は、滅菌発酵槽で増殖させたユーグレナバイオマスを精製したベータ-1,3-グルカンを、リン酸緩衝生理食塩水を対照としてマウスに投与した結果、マウスの血中コレステロールレベルと血清トリグリセリドレベルが低下したことを示す実施例である。

実施例7で用いられたベータ-1,3-グルカンは精製の程度が不明であるから、ユーグレナバイオマスに含まれるベータ-1,3-グルカンの含有量が「50重量%乃至70重量%」であるかは不明であり、ユーグレナが「従属栄養的に増殖させた」ものであるかも不明であり、「有効量」も不明であるから、実施例7は、本件補正発明の具体例とはいえないものの、実施例7によれば、ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンの投与により、対照であるリン酸緩衝生理食塩水の投与と比較して、マウスにおける高脂血症を治療するための組成物としての効果を奏することは理解できるから、本件補正発明が、高脂血症を治療するための組成物としての効果を奏することは理解できる。

また、上記実施例8は、治験を利用して、ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンを摂取することの、コレステロールレベル、血糖値等に対する影響を評価するために、ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンを250mg投与する臨床試験であるが、ベータ-1,3-グルカンの含有量が「50重量%乃至70重量%」であるかは不明であり、ユーグレナが「従属栄養的に増殖させた」ものであるかも不明であるから、実施例8は、本件補正発明の具体例とはいえず、そもそもコレステロールレベル、血糖値等に対する影響を評価した結果は記載されていないので、実施例8からは、本件補正発明の効果を理解することはできない。

以上によれば、本願明細書の記載に基づいて、本件補正発明が、高脂血症を治療するための組成物としての効果を奏することは理解できる。

c しかしながら、引用発明1も「血中脂質が高めの男女」の「血中総コレステロール及び血中LDLコレステロールを減少させるための組成物」、すなわち、高脂血症の治療のための組成物であることは、上記イ(ア)のとおりであるから、引用発明1も高脂血症の治療のための組成物としての効果を奏するものである。

したがって、本件補正発明の効果は、引用発明1から予測し得るものである。

エ 請求人の主張について

(ア)請求人は、令和4年4月28日提出の意見書において、以下の主張(1-1)を挙げ、また、令和5年1月16日提出の審判請求書において、以下の主張(1-2)及び(1-3)を挙げて、本件補正発明は、引用文献1、5及び6の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないと主張している。

主張(1-1)

本件補正発明の特徴の一つは、所定量のベータ-1,3-グルカンを含むユーグレナバイオマスを含むことであり、本件補正発明は、同等量のベータ-1,3-グルカンを投与した場合、精製ベータ-1,3-グルカンに比して、ユーグレナバイオマスとして投与することにより炎症性腸疾患に対して優れた効果を示す(実施例12乃至19等)という予測し得ない効果を奏するのに対し、引用文献1には、主としてユーグレナから単離したパラミロンの作用等について記載され、当業者であれば、引用文献1からは、精製したパラミロン/グルカンはユーグレナ自体より優れた作用を有すると理解するから、本件補正発明は、引用文献1、5及び6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

主張(1-2)

いずれの引用文献にも、ユーグレナが従属栄養的に増殖させたものであることについては、何ら記載されておらず、引用文献を組み合わせたとしても、本件補正発明の構成に至るものではなく、所定の増殖をしたユーグレナバイオマスを投与することにより優れた効果を示すことを予測することも困難であるから、本件補正発明は、引用文献1、5及び6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

主張(1-3)

本件補正発明は、経口投与される組成物において、所定の増殖をしたユーグレナのベータ-1,6-グリコシド結合を含まないベータ-1,3-グルカンの有効量が、0.1mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重乃至100mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重であるのに対し、いずれの引用文献にも当該構成については何ら開示・示唆されておらず、このような引用文献から本件補正発明の構成を想到することは困難であるから、本件補正発明は、引用文献1、5及び6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)上記主張(1-1)について検討する。

請求人は、「本件補正発明は、同等量のベータ-1,3-グルカンを投与した場合、精製ベータ-1,3-グルカンに比して、ユーグレナバイオマスとして投与することにより炎症性腸疾患に対して優れた効果を示す(実施例12乃至19等)という予測し得ない効果を奏する」と主張しているが、引用発明1は、炎症性腸疾患を治療するための組成物ではなく、「血中総コレステロール及び血中LDLコレステロールを減少させるための組成物」、すなわち、高脂血症又はメタボリックシンドロームを治療するための組成物である。そして、上記イ(エ)bのとおり、高脂血症に関する実施例である実施例7、8のベータ-1,3-グルカンが「50重量%乃至70重量%」であるかは不明であるから、実施例7、8の記載からは、本件補正発明が「50重量%乃至70重量%」のベータ-1,3-グルカンを含むことで、引用発明1の高脂血症又はメタボリックシンドロームを治療するための組成物からは、予測し得ないような優れた効果を奏するということはできない。

したがって、請求人の主張(1-1)は、採用できない。

(ウ)上記主張(1-2)について検討する。

請求人が主張するように、引用文献1には、ユーグレナを従属栄養的に増殖させることは記載されていないが、上記ウ(ア)のとおり、本願優先日前、ユーグレナを従属栄養的に増殖させることは周知技術であったから、引用発明1のユーグレナとして、本願優先日前の周知技術に基づいて、「従属栄養的に増殖させたもの」を用いることは、当業者が容易に行うことである。

そして、従属栄養的に増殖させることによる効果について検討すると、本願明細書【0166】には、以下の記載がある。

「【0166】
ユーグレナの発酵増殖
本明細書に記載の組成物及び方法に有用なユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンは、発酵を利用してユーグレナを増殖させることによって作られる。一般に、培養培地は培養物が従属栄養的に増殖するようにユーグレナに与えられる。しかし、ユーグレナは少なくとも部分的に光を当てて培養できることが企図される。ユーグレナが光合成を利用して増殖するのではなく従属栄養的に発酵される場合、ベータ-1,3-グルカンの大規模な生産は、藻類のための光合成増殖条件の大規模な設定及び発酵を利用した増殖中に得られる細胞密度に一部起因して、実質的に費用効果がより高い。」

しかしながら、引用文献7には、ユーグレナを従属栄養的に増殖させることで、光合成よりも生産性が高く、一定品質のバイオマスを高い生産性で安定に生産可能であることが記載され(摘記7a)、引用文献9には、ユーグレナの生育速度やパラミロンの含有量を高めるためには、従属栄養的に増殖させることが優れており、企業レベルでの培養管理の面からも光を用いずに培養した方がより有利であることが記載されているから(摘記9a)、ユーグレナを従属栄養的に増殖させることにより、光合成よりも生産性が高く、パラミロンの含有量を高められることは、本願優先日前の技術常識といえる。そうすると、本願明細書【0166】に記載されている従属栄養的に増殖させることの効果は、本願優先日前の技術常識から自明の効果にすぎない。

したがって、請求人の主張(1-2)は、採用できない。

(エ)上記主張(1-3)について検討する。

上記ウ(ウ)のとおり、引用発明1におけるベータ-1,3-グルカンの含有量は、「0.1mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重乃至100mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重」に包含されると認められるから、有効量が「0.1mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重乃至100mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重」であることは、実質的な相違点ではなく、仮に、相違点であったとしても、引用発明1において、好ましい有効量を検討し、「0.1mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重乃至100mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重」という範囲を設定することに、格別の困難性は見いだせない。

したがって、請求人の主張(1-3)は、採用できない。

(オ)以上のとおりであるから、請求人の主張(1-1)~(1-3)を検討しても、上記ア~ウは、左右されない。

オ 小括

したがって、本件補正発明は、引用文献1、5及び6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(4)引用文献2を主引例とする進歩性について

ア 引用文献2に記載された発明

引用文献2には、ユーグレナ由来物質を含みTh1/Th2/Th17免疫バランスを調整することで、Th1側又はTh2又はTh17側への偏向が関与して生ずる疾患を治療する治療剤が記載されている(摘記2b)。

そして、その具体例として、実施例1のユーグレナグラシリス粉末(摘記2hの[0057])を混餌した組成物を関節炎モデルのマウスに経口投与したところ(摘記2iの[0095]~[0096])、関節炎症状の抑制が認められたと記載されている(摘記2iの[0099]、摘記2jの図28)。

以上によれば、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

<引用発明2>

「ユーグレナグラシリス粉末を含むマウスの関節炎症状を抑制するための経口投与用組成物。」

イ 本件補正発明と引用発明2の対比

引用発明2の「ユーグレナグラシリス粉末」は、ユーグレナ細胞であるところ(摘記2c)、本件補正発明の「ユーグレナバイオマス」について、本願明細書【0056】には、「「バイオマス」という用語はユーグレナ細胞材料を記述するために使用される」と定義されているから、引用発明2の「ユーグレナグラシリス粉末」は、本件補正発明の「ユーグレナ」及び「ユーグレナバイオマス」に相当する。

また、引用文献2に、ユーグレナ細胞内にはパラミロンが存在し、パラミロンは、グルコースがβ-1,3-結合により重合した高分子体(β-1,3-グルカン)であると記載されているとおり(摘記2e)、引用発明2の「ユーグレナグラシリス粉末」は、β-1,3-グルカンを含むユーグレナ、すなわち、β-1,3-グルカンを含むユーグレナバイオマスである。そして、β-1,3-グルカンは、β-1,3-結合よりなるから、β-1,3-結合以外のベータ-1,6-グリコシド結合は含まないものである。

そうすると、引用発明2の「ユーグレナグラシリス粉末」は、本件補正発明の「ベータ-1,3-グルカンを含むユーグレナバイオマス」に相当し、「ベータ-1,6-グリコシド結合を含まないベータ-1,3-グルカン」を含有するものに相当する。

そして、引用発明2の「関節炎症状を抑制するための経口投与用組成物」は、本件補正発明の「疾患を治療するための経口投与用の組成物」に相当する。

以上によれば、本件補正発明と引用発明2は、以下の点において、一致及び相違する。

<一致点>

「疾患を治療するための経口投与用の組成物であって、前記組成物が、ベータ-1,3-グルカンを含むユーグレナバイオマスを含み、前記組成物がユーグレナのベータ-1,6-グリコシド結合を含まないベータ-1,3-グルカンを含有する組成物。」

<相違点2-1>

本件補正発明は、「高脂血症、メタボリックシンドローム、炎症性腸疾患、大腸炎、及びクローン病からなる群より選択される疾患をもつヒトにおける前記疾患を治療するための」組成物であるのに対し、引用発明2は、「マウスの関節炎症状を抑制するための」組成物である点

<相違点2-2>

ユーグレナが、本件補正発明は、「従属栄養的に増殖させたもの」であって、「発酵を利用して増殖させた」ものであるのに対し、引用発明2は、そのようなものであるか不明な点

<相違点2-3>

ユーグレナバイオマスが、本件補正発明は、「50重量%乃至70重量%」のベータ-1,3-グルカンを含むものであるのに対し、引用発明2は、そのようなものであるか不明な点

<相違点2-4>

本件補正発明は、「有効量が、0.1mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重乃至100mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重である」のに対し、引用発明2は、そのようなものであるか不明な点

ウ 判断

(ア)相違点2-1について

a 上記アのとおり、引用文献2には、ユーグレナ由来物質を含みTh1/Th2/Th17免疫バランスを調整することで、Th1側又はTh2又はTh17側への偏向が関与して生ずる疾患を治療する治療剤が記載されているところ(摘記2b)、治療することのできる免疫バランスの偏向が関与して生ずる疾患として、慢性関節炎リウマチと同様に、炎症性腸疾患が記載されている(摘記2bの[0016]、摘記2g)。

b さらに、本願優先日前、ベータ-1,3-グルカンを含む経口投与用組成物が、炎症性腸疾患を治療できることは、下記のとおり公知であった。

例えば、引用文献3には、酵母由来のベータ-1,3-グルカンを含むSBGの経口投与が、DSS誘導型のIBD(炎症性腸疾患)の治療に効果があったことが記載されている(摘記3a~3e)。

さらに、引用文献4には、シイタケなどの植物由来のβ(1→3)グルカン、すなわち、ベータ-1,3-グルカンを含む組成物の経口投与によりDSS誘導炎症性腸疾患を治療できたことが記載されている(摘記4a~4d)。

c 一方、上記イのとおり、引用発明2の「ユーグレナグラシリス粉末」は、β-1,3-グルカンを含むから、引用発明2は、ベータ-1,3-グルカンを含むマウスの関節炎症状を抑制するための経口投与用組成物である。

d 以上によれば、引用文献2に、関節炎と同様に治療することができる疾患として炎症性腸疾患が記載され、本願優先日前、ベータ-1,3-グルカンを含む経口投与用組成物が、炎症性腸疾患を治療できることが知られていたことに基づいて、引用発明2のベータ-1,3-グルカンを含むマウスの関節炎症状を抑制するための経口投与用組成物をヒトの炎症性腸疾患を治療するための組成物とすること、すなわち、「高脂血症、メタボリックシンドローム、炎症性腸疾患、大腸炎、及びクローン病からなる群より選択される疾患をもつヒトにおける前記疾患を治療するための」組成物とすることは、当業者が容易に行うことである。

(イ)相違点2-2について

引用文献2には、ユーグレナは培地を用いて培養することができ、光照射下又は無照射で培養してもよいと記載されている(摘記2d)。

また、上記(3)ウ(ア)のとおり、本願優先日前、ユーグレナの増殖方法として、従属栄養的に増殖させること、発酵を利用して増殖させることは周知技術であった。

そうすると、引用発明2のユーグレナグラシリス粉末として、引用文献2の記載及び本願優先日前の周知技術に基づいて、「従属栄養的に増殖させたもの」であって、「発酵を利用して増殖させたもの」を用いることは、当業者が容易に行うことである。

(ウ)相違点2-3について

引用文献2には、引用発明2のユーグレナグラシリス粉末に含まれるベータ-1,3-グルカンの量について特に記載されていない。

しかしながら、上記(3)ウ(イ)のとおり、引用文献5及び6の記載によれば、培養したユーグレナは、50重量%乃至70重量%程度のベータ-1,3-グルカンを含むと認められ、一方、引用発明2のユーグレナグラシリス粉末は、培養したユーグレナと考えるのが自然であるから、引用発明2のユーグレナグラシリス粉末について、培養したユーグレナの通常の範囲である「50重量%乃至70重量%」のベータ-1,3-グルカンを含むものとすることは、当業者が容易に行うことである。

また、仮に、引用発明2のユーグレナグラシリス粉末が培養されていないものであるとしても、上記(イ)のとおり、引用発明2のユーグレナグラリシス粉末として、「従属栄養的に増殖させ」、「発酵を利用して増殖させ」た培養ユーグレナを用いることで、引用発明2のユーグレナグラリシス粉末について、培養したユーグレナにおける通常の範囲である「50重量%乃至70重量%」のベータ-1,3-グルカンを含むものとすることは、当業者が容易に行うことである。

(エ)相違点2-4について

引用文献2には、引用文献2記載の免疫バランス調整剤は、体重40~90kgの人であれば、パラミロン又はパラミロン加工品の量、すなわち、ベータ-1,3-グルカンの量が、1日あたり0.05g以上、好ましくは1g以上の量になるように、投与されると記載されている(摘記2f)。そして、好ましい量である1gをkg体重あたりに換算すると、40kgのヒトでは、1g/40kg=25mg/kg体重、90kgのヒトでは、1g/90kg=11.1mg/kg体重となるから、引用発明2の組成物に含まれるベータ-1,3-グルカンの含有量を、25mg/kg体重や11.1mg/kg体重を含む範囲である「有効量が、0.1mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重乃至100mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重」とすることは、当業者が容易に行うことである。

(オ)本件補正発明の効果について

a 本願明細書には、引用発明2と同様の炎症性腸疾患に関連して、以下の記載がある。

「【0120】
腸の炎症を治療する方法
炎症はベータ-1,3-グルカンによって調節される可能性がある。
・・・
【0121】
腸の炎症は消化管の全部又は一部を冒す可能性がある。腸の炎症は、自己免疫疾患の一種であり、小腸、大腸、腸、又はそれらのいずれかの組み合わせの炎症を指す。・・・腸の炎症の正確な根本的な生理的原因は不明であるが、一般には、遺伝的及び環境的要因が個人の免疫応答をシフトさせ、異常な免疫応答が生じると考えられている。」

b また、本願明細書には、腸の炎症について、以下の実施例が記載されている。

「【0320】
腸の炎症
実施例9:ベータ-1,3-グルカンを含むユーグレナバイオマスの経口投与
反復回分法を用いてバイオリアクターで発酵を利用してユーグレナを培養する。最後のステップでは、ユーグレナを約40グラムの乾燥重量/リットル~約80グラムの乾燥重量/リットルの細胞密度まで培養し、収穫する。ユーグレナ細胞はベータ-1,3-グルカン含有率が約50重量%である。タンジェンシャルフローろ過を用いてユーグレナ細胞培養物をろ過し、使用済み増殖培地を廃棄し、細胞を水で洗浄する。結果として得られるユーグレナバイオマスを薄いシートに圧延し、含水率10%未満に乾燥させる。乾燥バイオマスを1000ミクロン未満に微粉砕し、次いでユーグレナバイオマスをヒトに経口投与して腸の炎症を治療する。
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【0321】
実施例10:ベータ-1,3-グルカンを含むユーグレナバイオマスの栄養補助食品としての経口投与
反復回分法を用いてバイオリアクターで発酵を利用してユーグレナを培養する。最後のステップでは、ユーグレナを約40グラムの乾燥重量/リットル~約80グラムの乾燥重量/リットルの細胞密度まで培養し、収穫する。ユーグレナ細胞はベータ-1,3-グルカン含有率が約50重量%である。タンジェンシャルフローろ過を用いてユーグレナ細胞培養物をろ過し、使用済み増殖培地を廃棄し、細胞を水で洗浄する。次いで、ユーグレナバイオマスをドラム乾燥機で含水率5%未満に乾燥させる。乾燥フレークを、ハンマーミルを使用して平均粒径が250ミクロン未満の粉末に加工する。次いで、粉末を経口投与向けの錠剤に成形して、腸の炎症を治療する。代替的に、粉末を食品と混合し、食品と共に経口投与して腸の炎症を治療する。代替的に、粉末を経口投与用カプセルに入れ、腸の炎症を治療する。
【0322】
実施例11:ユーグレナからのベータ-1,3-グルカンの精製
・・・
【0325】
実施例12:化学的に誘発された急性大腸炎に対するユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンの前処理の効果を決定するための生体内研究
ベータ-1,3-グルカンを含むユーグレナバイオマスを、本明細書に記載のように発酵過程を用いて増殖させた。乾燥ユーグレナバイオマス及び精製ベータグルカン抽出物をマウスの研究においてテストした。有機炭素源としてグルコースを用いて増殖させたユーグレナ細胞から乾燥ユーグレナバイオマスを作製した。ユーグレナバイオマスは約50重量%のベータ-1,3-グルカンを含有し、遠心分離した後に、さらなる処理なしで乾燥させた。ユーグレナバイオマス生成物を分画してベータ-1,3-グルカンを単離し、次いでベータグルカン画分を繰り返し洗浄して非ベータグルカン細胞構成要素を除去すると、ベータ-1,3-グルカンの精製試料が得られた。精製試料はベータ-1,3-グルカンを約95重量%含んだ。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を陰性対照として投与した。
【0326】
乾燥ユーグレナバイオマス試料及び精製ベータ-1,3-グルカン試料を乾燥させ、500ミクロン未満の粒径に粉砕した。次いで、これらの乾燥粉末をPBSバッファーと混合し、適切な濃度に希釈した後に、C57BL/6Jマウスに強制経口投与によって与えた。試験の期間中(15日間)、マウスを、1日1回、絶食の2時間後に、(i)PBS(「なし」)、(ii)乾燥ユーグレナバイオマス(「A50」;250μg/マウス/日)、又は(iii)精製ベータ-1,3-グルカン(「AG」;125μg/マウス/日)のいずれかで治療した。この投薬により、乾燥ユーグレナバイオマスを投与されたマウスが、精製ベータ-1,3-グルカンを投与されたマウスと同等の投与量のベータ-1,3-グルカンを受けることを確実にした。・・・さまざまなパラメーターを用いて決定した、化学的に誘発された急性大腸炎に対するユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンの前治療の効果は実施例13~19に記載されている。
【0327】
実施例13:化学的に誘発された急性大腸炎をもつマウスの体重に対するユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンの前治療の効果
マウスを実施例12に記載のように治療した。各マウスの体重を実験中毎日記録した。体重の減少は大腸炎の兆候と考えられている。・・・
【0328】
・・・このデータは、精製されたベータ-1,3-グルカンを用いた治療が、特に他の因子(便の硬さ及び便血の存在など)と併せて考慮した場合に、DSS誘発急性大腸炎からの早期回復に有効であることを示唆する。
【0329】
・・・このデータは、乾燥ユーグレナバイオマスを用いた治療が、マウスにおけるDSSによって誘発された急性大腸炎の重症度を予防又は最小化するのに有効であることを示している。
・・・
【0331】
・・・
実施例14:化学的に誘発された急性大腸炎をもつマウスにおけるユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンの前処理の便の硬さに対する効果
化学的に誘発された急性大腸炎をもつマウスを実施例12に記載のように治療した。各マウスの便の硬さを実験中毎日記録した。体重の減少は大腸炎の兆候と考えられている。・・・
【0332】
・・・このデータは、乾燥ユーグレナバイオマスを用いた治療が、マウスにおけるDSSによって誘発された急性大腸炎の重症度を予防又は最少化するのに特に有効であることを示す。
【0333】
実施例15:化学的に誘発された急性大腸炎をもつマウスにおけるユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンの前治療の便血に対する効果
化学的に誘発された急性大腸炎をもつマウスを実施例12に記載のように治療した。各マウスの目に見える便血/直腸出血レベルの程度を実験中毎日記録した。・・・
【0334】
・・・このデータは、乾燥ユーグレナ・グラシリス又は精製ベータ-1,3-グルカンを用いた治療が、マウスにおけるDSSによって誘発された急性大腸炎の重症度を予防又は最少化するのに有効であることを示す。
【0335】
実施例16:化学的に誘発された急性大腸炎をもつマウスにおける結腸の長さに対するユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンの前治療の効果
化学的に誘発された急性大腸炎をもつマウスを実施例12に記載のように治療した。10日目にマウスを安楽死させ、続いて個々のマウスの結腸の長さを測定した(7頭のマウス/治療群)。・・・このデータは、乾燥ユーグレナバイオマスを用いた治療が、マウスにおけるDSSによって誘発された急性大腸炎を予防又は最少化するのに特に有効であることを示している。
【0336】
実施例17:化学的に誘発された急性大腸炎をもつマウスにおけるユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンの前治療の結腸の炎症に対する効果
化学的に誘発された急性大腸炎をもつマウスを実施例12に記載のように治療した。10日目にマウスを安楽死させた後に結腸の炎症の程度を測定した(3頭のマウス/治療群)。・・・
【0337】
・・・このデータは、乾燥ユーグレナ・グラシリス又は精製ベータ-1,3-グルカンを用いた治療が、マウスにおけるDSSによって誘発された急性大腸炎の重症度を予防又は最少化するのに有効であることを示す。
【0338】
実施例18:化学的に誘発された急性大腸炎をもつマウスにおけるユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンの前治療のTヘルパー細胞応答に対する効果
化学的に誘発された急性大腸炎をもつマウスを実施例12に記載のように治療した。Tヘルパー細胞機能に関連するサイトカインの頻度を、10日目に個々のマウスにおいて分析した(3頭のマウス/治療群)。・・・
【0339】
乾燥ユーグレナバイオマスで治療したマウスは、PBSで治療したマウスに比べて、CD4+T細胞を産生するTh1(IFN-γ)、Th17(IL-17及びIL-22)、並びにTh9(IL-9)の頻度が有意に低かった。精製ベータ-1,3-グルカンで治療したマウスは、PBSで治療したマウスに比べて、CD4+T細胞を産生するTh1(IFN-γ)のレベルが相対的に低い。・・・
【0340】
・・・
実施例19:化学的に誘発された急性大腸炎をもつマウスにおけるユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンの前治療のTヘルパー細胞サイトカインプロファイルに対する効果
化学的に誘発された急性大腸炎をもつマウスを実施例12に記載のように治療した。10日目に結腸免疫細胞によるサイトカイン産生を個々のマウスにおいて分析した(3頭のマウス/治療群)。・・・
【0341】
データは、乾燥ユーグレナバイオマスで治療したマウスにおいてTh1(IFN-γ)及びTh17(IL-17)サイトカインが抑制されたことを示す。精製ベータ-1,3-グルカンで治療したマウスにおいて、炎症促進性(IL-22、IL-9(Th9))と抗炎症性(IL-10、IL-4(Th2))の両方のサイトカインがより高いレベルで結腸免疫細胞によって産生された。乾燥ユーグレナバイオマスを用いた治療による大腸炎からの特に顕著なマウスの保護は、サイトカインIL-10の産生の増加及び炎症性免疫細胞の動員の阻害によるものと思われる。
【0342】
実施例20:個人における腸の炎症に対するユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンを摂取することの効果を評価するための臨床研究
治験を利用して、ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンを摂取することの腸の炎症の治療に対する効果を評価する。(登録施設内審査委員会によって承認された)書面によるインフォームドコンセントと選考過程を予め整えた後に参加者を募集する。試験は4週間の期間であり、評価はベースライン、2及び4週間のベータ-1,3-グルカン摂取時に行われる。ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンをカプセル形態で投与して、各個人に250mgの1日投与量を与える。
・・・
【0344】
図21に示すように、ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンの経口摂取は個人における炎症性好塩基球の数を減少させる。このデータは、ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンが個人の免疫系機能を調節することを示す。
【0345】
図22に示すように、ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンの経口摂取は個人における緊急の排便又は下痢の回数に影響する。このデータは、0~2週目の腸障害の統計的に有意な減少(p<0.05、*)及び2~4週目の統計的傾向に達している腸障害の増加(p<0.1、(*))を示す。このデータは、ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンが個人の腸の健康状態に関与することを示す。
【0346】
また、ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンの経口摂取は、酸化ストレスに対する個人の応答を調節し、炎症に関与しうる。・・・図23に示すように、ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンの経口摂取は個人のSODのレベルを増加させる。ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンの経口摂取の最初の2週間に平均SODレベルの有意な増加が見られ、続いて次の2週間に軽度の減少が見られた。本試験の最後の2週間にわたって軽度の減少があったにもかかわらず、4週間にわたる全体的な改善はすべての参加者に関して有意性が非常に高かった(p<0.01、**)。
【0347】
体内のフリーラジカルストレスの別の尺度は脂質過酸化である。脂質過酸化は、酸化的ストレスによって誘発される細胞損傷の主要な機序の1つである。・・・ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンの経口摂取の最初の2週間に脂質過酸化の有意な減少が見られ、続いて次の2週間に軽度の増加が見られた(図24)。本試験の最後の2週間にわたって軽度の増加があったにもかかわらず、4週間にわたる全体的な改善は有意性が非常に高かった(p<0.01、**)。」

c 上記aに摘記した本願明細書の記載によれば、本件補正発明は、異常な免疫応答が原因と考えられている腸の炎症を治療できるとの効果を奏するといえる。

しかしながら、上記アのとおり、引用文献2には、ユーグレナ由来物質を含みTh1/Th2/Th17免疫バランスを調整することで、Th1側又はTh2又はTh17側への偏向が関与して生ずる疾患を治療する治療剤が記載され、引用発明2は、その具体例であるから、引用発明2も免疫バランスを調整する効果を奏するものであり、引用文献2には、免疫バランスを調整することで治療し得る疾患として、炎症性腸疾患が記載されている。加えて、上記ウ(ア)bのとおり、引用文献3、4には、ベータ-1,3-グルカンを含む経口投与用組成物が炎症性腸疾患を治療できることが記載されているから、本件補正発明が腸の炎症を治療できるとの効果は、引用文献2~4の記載から予測し得るものである。

d 上記bに摘記した本願明細書記載の実施例9、10には、発酵を利用して培養した、ベータ-1,3-グルカンの含有率が50重量%であるユーグレナを投与して腸の炎症を治療すると記載されているが、ユーグレナが「従属栄養的に増殖させた」ものであるか不明であり、「有効量」も不明であるから、本件補正発明の具体例とはいえず、そもそも結果として治療できたことも記載されていない。

そして、仮に、実施例9、10において腸の炎症の治療ができるとの結果が得られるとしても、上記cと同様に、腸の炎症が治療できるとの効果は、引用文献2~4の記載から予測し得るものである。

e 上記bに摘記した本願明細書記載の実施例11には、ベータ-1,3-グルカンを精製したことが記載されているだけであるから、実施例11からは本件補正発明が優れた効果を奏することは理解できない。続く実施例12には、発酵過程を用いて増殖させたユーグレナを遠心分離後、さらなる処理なしで乾燥した約50重量%のベータ-1,3-グルカンを含む「乾燥ユーグレナバイオマス(A50)」、又は、非ベータグルカン細胞構成要素を精製して除去した、約95重量%のベータ-1,3-グルカンを含む「精製ベータ-1,3-グルカン(AG)」を、DSSで急性大腸炎を誘発したマウスに経口投与することが記載され、その効果は、実施例13~19に記載されている、と記載されている。

そして、実施例13~19には、上記「約50重量%のベータ-1,3-グルカン」を含む「乾燥ユーグレナバイオマス(A50)」及び「約95重量%のベータ-1,3-グルカン」を含む「精製ベータ-1,3-グルカン(AG)」が急性大腸炎の治療において有効であったことが記載されている。詳細には、実施例13には、精製ベータ-1,3-グルカンはDSS誘発性急性大腸炎からの早期回復に有効であり、乾燥ユーグレナバイオマスは重症度を予防又は最小化するのに有効であると記載され、実施例14には、乾燥ユーグレナバイオマスが特に有効であると記載され、実施例15には、乾燥ユーグレナバイオマス又は精製ベータ-1,3-グルカンが重症度を予防又は最少化するのに有効であると記載され、実施例16には、乾燥ユーグレナバイオマスが特に有効であると記載され、実施例17には、乾燥ユーグレナ・グラシリス又は精製ベータ-1,3-グルカンが重症度を予防又は最少化するのに有効と記載され、実施例18には、乾燥ユーグレナバイオマスは、CD4+T細胞を産生するTh1(IFN-γ)、Th17(IL-17及びIL-22)、並びにTh9(IL-9)の頻度が有意に低く、精製ベータ-1,3-グルカンは、CD4+T細胞を産生するTh1(IFN-γ)のレベルが相対的に低いと記載され、実施例19には、乾燥ユーグレナバイオマスはTh1(IFN-γ)及びTh17(IL-17)サイトカインを抑制し、精製ベータ-1,3-グルカンは、炎症促進性(IL-22、IL-9(Th9))と抗炎症性(IL-10、IL-4(Th2))の両方のサイトカインをより高いレベルで産生し、乾燥ユーグレナバイオマスを用いた治療による大腸炎からの特に顕著なマウスの保護は、サイトカインIL-10の産生の増加及び炎症性免疫細胞の動員の阻害によるものと思われると記載されている。

実施例12~19のユーグレナは、「従属栄養的に増殖させた」ものであるか不明であり、体重あたりの「有効量」も不明であるから、実施例12~19は、本件補正発明の具体例とはいえないものの、約50重量%のベータ-1,3-グルカンを含む「乾燥ユーグレナバイオマス」の投与により、マウスにおけるDSS誘発性急性大腸炎を治療するための組成物としての効果を奏すること、約95重量%のベータ-1,3-グルカンを含む「精製ベータ-1,3-グルカン」よりも優れた効果を奏する評価項目もあることは理解できるから、本件補正発明が、炎症性腸疾患を治療するための組成物としての効果を奏すること、評価項目によっては、ベータ-1,3-グルカンの含有量が約95重量%よりも約50重量%の方が好ましい効果を奏することもあることは理解できる。

しかしながら、上記cと同様に、炎症性腸疾患を治療できるとの効果は、引用文献2~4の記載から予測し得るものである。

そして、引用文献2には、実施例1のユーグレナグラシリス粉末、実施例1のユーグレナグラシリス粉末から脂質やタンパク質を除去して精製した実施例2のパラミロン、実施例2のパラミロンから調製した実施例3のアモルファスパラミロン、実施例2のパラミロンから調製した実施例4のエマルジョンパラミロンをそれぞれ、ユーグレナ群、パラミロン群、アモルファスパラミロン群、エマルジョンパラミロン群として、関節炎モデルのマウスに経口投与して自己免疫疾患に対する作用について検討を行った結果(摘記2h及び摘記2iの[0095]~[0096])、ユーグレナ群、パラミロン群、アモルファスパラミロン群及びエマルジョンパラミロン群で関節炎の発症抑制作用が認められ、特に、ユーグレナ群、アモルファスパラミロン群では、その作用が顕著であり、組織学的にも顕著な抑制が認められたと記載されているから(摘記2iの[0109])、ユーグレナ群は、パラミロン群よりも、関節炎の発症抑制作用が顕著であると認められる。

上記実施例2のパラミロンは、実施例1のユーグレナグラシリス粉末から脂質やタンパク質を除去して精製したものであるから、実施例1のユーグレナ群は精製前のユーグレナであり、実施例2のパラミロン群は精製したユーグレナである。そうすると、引用文献2には、精製前のユーグレナも精製したユーグレナも関節炎の治療効果があるものの、特に、精製前のユーグレナの作用が顕著であったことが記載されているといえる。そして、上記ウ(ア)aのとおり、引用文献2には、関節炎と炎症性腸疾患は、免疫バランスの偏向が関与して生ずる疾患であり、免疫バランスを調整することで治療されることが記載されているから、精製後のユーグレナよりも精製前のユーグレナの方が関節炎に対して顕著な作用を示すのであれば、同じく免疫バランスを調整することで治療される炎症性腸疾患についても、精製後のユーグレナよりも精製前のユーグレナの方が顕著な作用を示すことは当業者が予測し得るといえる。

以上によれば、本願明細書に精製前の約50重量%のベータ-1,3-グルカンを含むユーグレナバイオマスを含む組成物が、精製後の約95重量%のベータ-1,3-グルカンを含む組成物よりも優れた効果を奏する評価項目もあることが記載されていても、当該効果は、引用文献2の記載から予測し得ない程優れたものであるとはいえない。

f さらに、上記bに摘記した本願明細書記載の実施例20は、ユーグレナ由来のベータ-1,3-グルカンを250mg経口投与して腸の炎症に対する効果を評価して、腸の健康状態に関与することを示すと記載されているが、ユーグレナが「従属栄養的に増殖させた」ものであるか不明であり、ユーグレナバイオマスに含まれるベータ-1,3-グルカンの量も不明であるから、本件補正発明の具体例とはいえないし、上記cと同様に、腸の炎症が治療できるとの効果は、引用文献2~4の記載から予測し得るものである。

g 以上のとおりであるから、本件補正発明が、引用文献2~6の記載から予測し得ないような優れた効果を奏するということはできない。

エ 請求人の主張について

(ア)請求人は、令和4年4月28日提出の意見書において、以下の主張(2-1)を挙げ、また、令和5年1月16日提出の審判請求書において、以下の主張(2-2)及び(2-3)を挙げて、本件補正発明は、引用文献2~6の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないと主張している。

主張(2-1)

本件補正発明の特徴の一つは、所定量のベータ-1,3-グルカンを含むユーグレナバイオマスを含むことであり、本件補正発明は、同等量のベータ-1,3-グルカンを投与した場合、精製ベータ-1,3-グルカンに比して、ユーグレナバイオマスとして投与することにより炎症性腸疾患に対して優れた効果を示す(実施例12乃至19等)という予測し得ない効果を奏するのに対し、引用文献2には、主としてユーグレナから単離したパラミロンの作用等について記載され、当業者であれば、引用文献2からは、精製したパラミロン/グルカンはユーグレナ自体より優れた作用を有すると理解する。

また、引用文献3は酵母由来のグルカンに関するものであり、引用文献4は加水分解により所定の分子量に調整された植物(きのこ類)由来のベータ-1,3-グルカンに関するものであり、本件補正発明の構成を何ら教示するものではない。

したがって、本件補正発明は、引用文献2~6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

主張(2-2)

いずれの引用文献にも、ユーグレナが従属栄養的に増殖させたものであることについて記載されておらず、引用文献を組み合わせたとしても、本件補正発明の構成に至るものではなく、所定の増殖をしたユーグレナバイオマスを投与することにより優れた効果を示すことを予測することも困難であるから、本件補正発明は、引用文献2~6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

主張(2-3)

本件補正発明は、経口投与される組成物において、所定の増殖をしたユーグレナのベータ-1,6-グリコシド結合を含まないベータ-1,3-グルカンの有効量が、0.1mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重乃至100mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重であるのに対し、いずれの引用文献にも当該構成については開示・示唆されておらず、このような引用文献から本件補正発明の構成を想到することは困難であるから、本件補正発明は、引用文献2~6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)上記主張(2-1)について検討する。

請求人は、「本件補正発明は、同等量のベータ-1,3-グルカンを投与した場合、精製ベータ-1,3-グルカンに比して、ユーグレナバイオマスとして投与することにより炎症性腸疾患に対して優れた効果を示す(実施例12乃至19等)という予測し得ない効果を奏する」と主張しているが、上記ウ(オ)eのとおり、引用文献2には、精製前のユーグレナも精製したユーグレナも関節炎の治療効果があるものの、特に、精製前のユーグレナの作用が顕著であったことが記載されているから、実施例12~19に精製ベータグルカンよりも精製前のユーグレナバイオマスの方が優れた効果を奏する評価項目もあることが記載されていても、当該効果は、引用文献2の記載から予測し得ない程優れたものであるということはできない。

また、上記ウ(ア)bのとおり、引用文献3及び4には、由来は異なるものの、ベータ-1,3-グルカンが炎症性腸疾患を治療できることが記載されており、そもそも引用文献2に治療することができる疾患として炎症性腸疾患が記載されているのであるから、ベータ-1,3-グルカンを含む引用発明2を炎症性腸疾患の治療するための組成物とすることは、当業者が容易に行うことである。

したがって、請求人の主張(2-1)は、採用できない。

(ウ)上記主張(2-2)について検討する。

請求人が主張するように、引用文献2には、ユーグレナを従属栄養的に増殖させることは記載されていないが、上記ウ(イ)のとおり、本願優先日前、ユーグレナを従属栄養的に増殖させることは周知技術であったから、引用発明2のユーグレナとして、本願優先日前の周知技術に基づいて、「従属栄養的に増殖させたもの」を用いることは、当業者が容易に行うことである。

そして、本願明細書に記載されている従属栄養的に増殖させることの効果は、本願優先日前の技術常識から予測し得る効果にすぎないことは、上記(3)エ(ウ)のとおりである。

したがって、請求人の主張(2-2)は、採用できない。

(エ)上記主張(2-3)について検討する。

上記ウ(エ)のとおり、引用文献2の記載に基づいて、「有効量が、0.1mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重乃至100mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重」とすることは、当業者が容易に行うことである。

したがって、請求人の主張(2-3)は、採用できない。

(オ)以上のとおりであるから、請求人の主張(2-1)~(2-3)を検討しても、上記ア~ウは、左右されない。

オ 小括

したがって、本件補正発明は、引用文献2~6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 本件補正についてのむすび

以上のとおり、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明

上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1~27に係る発明は、令和4年4月28日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~27に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
高脂血症、メタボリックシンドローム、炎症性腸疾患、大腸炎、及びクローン病からなる群より選択される疾患をもつヒトにおける前記疾患を治療するための経口投与用の組成物であって、
前記組成物が、50重量%乃至70重量%のベータ-1,3-グルカンを含むユーグレナバイオマスを含み、
前記組成物が発酵を利用して増殖させたユーグレナのベータ-1,6-グリコシド結合を含まないベータ-1,3-グルカンの有効量を含有し、前記有効量が、0.1mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重乃至100mgのベータ-1,3-グルカン/kg体重である、
組成物。」

2 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由のうち、本願発明に対応する請求項1に係る発明についての拒絶の理由は、次のとおりのものである。

本願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1、5及び6に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、さらに、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2~6に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 当審の判断

(1)引用文献の記載事項

原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1~6の記載事項は、上記第2の2(2)のとおりである。

(2)本願発明と引用文献に記載された発明の対比、判断

上記第2の2で検討したとおり、本願発明の「ユーグレナ」を「従属栄養的に増殖させたもの」に限定したものが本件補正発明であるから、本願発明は、本件補正発明を包含するものである。

そして、本件補正発明は、上記第2の2に説示したとおり、引用文献1、5及び6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、引用文献2~6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件補正発明を包含する本願発明も、同様の理由により、引用文献1、5及び6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、引用文献2~6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1、5及び6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、引用文献2~6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2023-000684

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