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特許異議申立

2022-701305

ジクロロシランの精製方法

審判番号
2022-701305
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-081067
登録番号
7099978
請求日
2022年12月26日
審決日
2023年09月19日
公報発行日
2023年12月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】信越化学工業株式会社
  • 【権利者代理人】大野 聖二
  • 【権利者代理人】大野 浩之
  • 【異議申立人】中川 賢治
審判長/審判官
  • 審判長 原 賢一
  • 審判官 松井 裕典
  • 審判官 金 公彦
分類
P1651.121-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B) / P1651.536-YAA(C01B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項
データ出所
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特許第7099978号発明「ジクロロシランの精製方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7099978号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 特許第7099978号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7099978号の請求項1~12に係る特許についての出願は、平成31年 4月22日を出願日とする出願であり、令和 4年 7月 4日にその特許権の設定登録がされ、同年同月12日に特許公報が発行され、その後、同年12月26日に、その請求項1~12に係る特許を対象として、特許異議申立人中川 賢治(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされ、令和5年 3月15日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年 5月18日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があったものである。 なお、当審は申立人に、上記訂正請求があった旨を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人はそれに対し応答しなかった。 第2 訂正の適否 1 訂正事項 上記令和 5年 5月18日に請求された訂正の請求(以下、この訂正を「本件訂正」という。)は、本件特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~12について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。) (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「該蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ、 前記不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で0.2mol%以上である」 とあるのを、 「該蒸留精製工程が、シラン系ガスを蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程と、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程とを含み、 該蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ、 前記不活性ガスの供給量は、前記還流工程における還流量と前記缶出戻し工程における戻し量との総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で0.2mol%以上30mol%以下であり、 前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下である」 に訂正する。 (請求項1を直接又は間接的に引用する請求項4~7、10~12についても同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に 「該蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ、 前記不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下である」 とあるのを、 「該蒸留精製工程が、シラン系ガスを蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程と、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程とを含み、 該蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ、 前記不活性ガスの供給量は、前記還流工程における還流量と前記缶出戻し工程における戻し量との総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下であり、 前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下である」 に訂正する。 (請求項2を直接又は間接的に引用する請求項4~7、10~12についても同様に訂正する。) (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に 「シラン系ガス中に占めるジクロロシランの割合が90wt%を超える地点よりも上流側で実行する」 とあるのを、 「シラン系ガス中に占めるジクロロシランの割合が90wt%を超える地点よりも上流側で実行し、 前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下である」 に訂正する。 (請求項3を直接又は間接的に引用する請求項4~7、10~12についても同様に訂正する。) (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項8に 「前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度を25℃以下とする、請求項1~7の何れか1項に記載のジクロロシランの精製方法。」 とあるのを、 「ジクロロシランを含むシラン系ガスからジクロロシランを精製する方法であって、 前記シラン系ガスからジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去する蒸留精製工程を備え、 該蒸留精製工程が、シラン系ガスを、シラン系ガス供給口から供給する工程と、蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程と、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程とを含み、 該蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ、 前記不活性ガスの供給量は、前記シラン系ガス供給口から供給される量、前記還流工程における還流量及び前記缶出戻し工程における戻し量の総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下であり、 前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下であることを特徴とするジクロロシランの精製方法。」 に訂正する。 (請求項8を直接又は間接的に引用する請求項9~12についても同様に訂正する。) 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の在否 (1)訂正事項1について ア 目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の在否 訂正事項1は、「蒸留精製工程」が「シラン系ガスを蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程と、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程とを含」むことを限定し、「精製対象である前記シラン系ガスに対する比率」における「精製対象である前記シラン系ガス」が「前記還流工程における還流量と前記缶出戻し工程における戻し量との総和」であることを限定し、「不活性ガスの供給量」が「精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で」「30mol%以下」であることを限定し、さらに、「蒸留精製工程」に関し「蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下である」ことを限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 そして、上記訂正は特許請求の範囲の減縮を行う訂正であるので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 イ 新規事項の有無 (ア)訂正事項1における訂正の内、「該蒸留精製工程が、シラン系ガスを蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程と、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程とを含」む点について 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)の明細書の【0025】に「蒸留塔1の上部に着目すると、シラン系ガスに含まれている上記不純物は、蒸留塔1内に供給された不活性ガスに同伴されるかたちで塔頂部へと導かれ、ジクロロシランガスとともに、凝縮器2へと送られる。凝縮器2では、ジクロロシランガスが液化され、低沸点物ガスは流路9を介して系外排出される一方、ジクロロシラン液は還流タンク3へと送られる。還流タンク3では、液化したジクロロシランが流路8を介して系外へと取り出される一方、ガス成分は流路7を介して蒸留塔1に戻される。」との記載があり、「シラン系ガスを蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程」に相当するジクロロシランであるシラン系ガスの流れが記載されていること、また、【0027】に「蒸留塔1の底部に着目すると、塔底の液は、その一部が流路6Aを介してポンプにより強制的に供給側の流路5に送液される」との記載があり、「蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程」に相当する液の流れが記載されていることから、訂正事項1における訂正の内、「該蒸留精製工程が、シラン系ガスを蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程と、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程とを含」む点は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (イ)訂正事項1における訂正の内、「前記還流工程における還流量と前記缶出戻し工程における戻し量との総和に対して」について 本件特許明細書等の【0043】には「上記の還流量および戻し量の総和(ペーパーロード量)に対して1.3mol%の高純度N2ガスを、蒸留塔の中段から、6Nm3/hr導入した。」との記載がある。 ここで本件特許明細書等の【0042】には「次いで、蒸留塔の内部圧力を0.03MPa、塔頂温度を16.5℃に維持する条件で蒸留運転を行った。なお、運転中の還流は2トン/hrであり、缶出からの蒸留塔への戻し量は1トン/hrであった。」との記載があり、【図2】からは、流路6Aを介して供給側の流路5に送液されるシラン系ガス缶出戻しの液量が1000kg/hrであることが読み取れる。1トンと1000kgは等しいので、【0042】及び【0043】における「戻し量」とは、「流路6Aを介して供給側の流路5に送液されるシラン系ガス缶出戻し」の液量を指していることが分かる。 このことから、訂正事項1における訂正の内、「前記還流工程における還流量と前記缶出戻し工程における戻し量との総和に対して」との記載は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 【図2】 [図:0001404793000001.jpg] (ウ)訂正事項1における訂正の内、「精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で」「30mol%以下であ」る点について 本件特許明細書等の【0032】には「不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下であることが好ましく」との記載があることから、訂正事項1における訂正の内、「精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で」「30mol%以下であ」る点は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (エ)訂正事項1における訂正の内、「前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下である」点について 訂正前の請求項8には「前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度を25℃以下とする、請求項1~7の何れか1項に記載のジクロロシランの精製方法。」との記載があり、訂正事項1における訂正の内、「前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下である」点は、前記訂正前の請求項8に記載されていた事項を請求項1に組み込むものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (オ)上記(ア)~(エ)に記載したとおり、訂正事項1は本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (2)訂正事項2について ア 目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の在否 訂正事項2は、「蒸留精製工程」が「シラン系ガスを蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程と、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程とを含」むことを限定し、「精製対象である前記シラン系ガスに対する比率」における「精製対象である前記シラン系ガス」が「前記還流工程における還流量と前記缶出戻し工程における戻し量との総和」であることを限定し、さらに、「蒸留精製工程」に関し「蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下である」ことを限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 そして、上記訂正は特許請求の範囲の減縮を行う訂正であるので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 イ 新規事項の有無 (ア)訂正事項2における訂正の内、「該蒸留精製工程が、シラン系ガスを蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程と、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程とを含」む点について この点は、前記(1)イ(ア)で述べた訂正事項1における点と同じであるから、前記(1)イ(ア)で述べたように、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (イ)訂正事項2における訂正の内、「前記還流工程における還流量と前記缶出戻し工程における戻し量との総和に対して」について この点は、前記(1)イ(イ)で述べた訂正事項1における点と同じであるから、前記(1)イ(イ)で述べたように、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (ウ)訂正事項2における訂正の内、「前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下である」点について この点は、前記(1)イ(エ)で述べた訂正事項1における点と同じであるから、前記(1)イ(エ)で述べたように、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (エ)上記(ア)~(ウ)に記載したとおり、訂正事項2は本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (3)訂正事項3について ア 目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の在否 訂正事項3は、「蒸留精製工程」に関し「蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下である」ことを限定した訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 そして、上記訂正は特許請求の範囲の減縮を行う訂正であるので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 イ 新規事項の有無 訂正前の請求項8には「前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度を25℃以下とする、請求項1~7の何れか1項に記載のジクロロシランの精製方法。」との記載があり、訂正事項3は、前記訂正前の請求項8に記載されていた事項を請求項3に組み込むものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (4)訂正事項4について ア 目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の在否 (ア)訂正事項4の内、「ジクロロシランを含むシラン系ガスからジクロロシランを精製する方法であって、 前記シラン系ガスからジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去する蒸留精製工程を備え、」 「該蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ、 前記不活性ガスの供給量は、」「精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下であり、 前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下であることを特徴とするジクロロシランの精製方法。」と訂正する点については、「請求項1~7の何れか1項」を引用する従属請求項であった請求項8の内、請求項2を直接引用する請求項8を独立請求項の形に書き下したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすること」を目的とするものである。また併せて、請求項1、3~7を引用する請求項8が訂正後の請求項8では除かれていることになるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 (イ)訂正事項4の内、「該蒸留精製工程が、シラン系ガスを、シラン系ガス供給口から供給する工程と、蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程と、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程とを含」む点は、「蒸留精製工程」をさらに限定した訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 (ウ)訂正事項4の内、「前記シラン系ガス供給口から供給される量、前記還流工程における還流量及び前記缶出戻し工程における戻し量の総和に対して」の点は、「精製対象である前記シラン系ガスに対する比率」における「精製対象である前記シラン系ガス」が「前記シラン系ガス供給口から供給される量、前記還流工程における還流量及び前記缶出戻し工程における戻し量の総和」であることを限定した訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 (エ)上記(ア)~(ウ)で述べたとおり、訂正事項4は特許請求の範囲の減縮を行う訂正、及び、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとする訂正であるので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 イ 新規事項の有無 (ア)訂正事項4の内、「ジクロロシランを含むシラン系ガスからジクロロシランを精製する方法であって、 前記シラン系ガスからジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去する蒸留精製工程を備え、」 「該蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ、 前記不活性ガスの供給量は、」「精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下であり、 前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下であることを特徴とするジクロロシランの精製方法。」と訂正する点については、請求項2を引用する請求項8を独立請求項の形に書き下したものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (イ)訂正事項4の内、「該蒸留精製工程が、シラン系ガスを、シラン系ガス供給口から供給する工程と、蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程と、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程とを含」む点について 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)の明細書の【0025】に「蒸留塔1の上部に着目すると、シラン系ガスに含まれている上記不純物は、蒸留塔1内に供給された不活性ガスに同伴されるかたちで塔頂部へと導かれ、ジクロロシランガスとともに、凝縮器2へと送られる。凝縮器2では、ジクロロシランガスが液化され、低沸点物ガスは流路9を介して系外排出される一方、ジクロロシラン液は還流タンク3へと送られる。還流タンク3では、液化したジクロロシランが流路8を介して系外へと取り出される一方、ガス成分は流路7を介して蒸留塔1に戻される。」との記載があり、「シラン系ガスを蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程」に相当するジクロロシランの流れが記載されていること、また、【0027】に「蒸留塔1の底部に着目すると、塔底の液は、その一部が流路6Aを介してポンプにより強制的に供給側の流路5に送液される」との記載があり、「蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程」に相当する液の流れが記載されていること、さらに、【0054】に「仕込んだものと同じ成分の低沸分を不純物として含むクロロシラン系ガスを、シラン系ガス供給口から1トン/hrで供給した。」との記載があり「シラン系ガスを、シラン系ガス供給口から供給する工程」に相当するガス供給の流れが記載されていることから、訂正事項4における訂正の内、「該蒸留精製工程が、シラン系ガスを、シラン系ガス供給口から供給する工程と、蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程と、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程とを含」む点は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (ウ)訂正事項4の内、「前記シラン系ガス供給口から供給される量、前記還流工程における還流量及び前記缶出戻し工程における戻し量の総和に対して」の点について a 本件明細書等の【0032】には「前記不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下であることが好ましく」との記載があり、不活性ガスの供給量は、精製対象であるシラン系ガスを基準としていることがわかる。 b 本件特許明細書等の【0055】には「上記の還流量および戻し量の総和(ペーパーロード量)に対して9.7mol%の高純度N2ガスを、蒸留塔の中段から、60Nm3/hr導入した。」との記載がある。 ここで本件特許明細書等の【0054】には「次いで、蒸留塔の内部圧力を0.03MPa、塔頂温度を16.5℃に維持する条件で蒸留運転を行った。なお、運転中の還流は2トン/hrであり、缶出からの蒸留塔への戻し量は1トン/hrであった。」との記載があり、【図3】からは、流路6Aを介して供給側の流路5に送液されるシラン系ガス缶出戻しの液量が1000kg/hrであることが読み取れる。1トンと1000kgは等しいので、【0054】及び【0055】における「戻し量」とは、「流路6Aを介して供給側の流路5に送液されるシラン系ガス缶出戻し」の液量を指していることが分かると共に、不活性ガス量の供給量の基準となる精製対象であるシラン系ガスには、まず、還流工程における還流量、及び、缶出戻し工程における戻し量が含まれることがわかる。 【図3】 [図:0001404793000002.jpg] c 本件特許明細書等の【0054】には「仕込んだものと同じ成分の低沸分を不純物として含むクロロシラン系ガスを、シラン系ガス供給口から1トン/hrで供給した。」と記載されている。このクロロシラン系ガスは蒸留塔に導入されることになるので、精製対象のガスの一部であることは明らかである。 d 上記a~cを踏まえると、上記aの「精製対象である前記シラン系ガス」が、「シラン系ガス供給口から」の供給量と、「還流量」と、「シラン系ガス缶出戻し」の「戻し量」の「総和」であることが分かる。 そのため、訂正事項4の内、「前記シラン系ガス供給口から供給される量、前記還流工程における還流量及び前記缶出戻し工程における戻し量の総和に対して」の点は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (エ)上記(ア)~(ウ)に記載したとおり、訂正事項4は本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (5)別の訂正単位とする求めについて 本件訂正では、訂正後の請求項8について、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することの求めがなされているところ、訂正後の請求項9は訂正後の請求項8を引用し、訂正後の請求項8、9を直接または間接的に引用する請求項10~12は訂正後の請求項1~7も引用し、訂正後の請求項1~12は、一群の請求項を構成しているため、この一群の請求項に含まれる訂正後の請求項8については、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することの求めを認めることはできない。 3 小括 本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~12〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2及び3のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、且つ、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~12〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正は容認し得るものであるから、異議申立ての対象及び独立特許要件の判断の対象である本件訂正後の請求項1~12に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 ジクロロシランを含むシラン系ガスからジクロロシランを精製する方法であって、 前記シラン系ガスからジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去する蒸留精製工程を備え、 該蒸留精製工程が、シラン系ガスを蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程と、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程とを含み、 該蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ、 前記不活性ガスの供給量は、前記還流工程における還流量と前記缶出戻し工程における戻し量との総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で0.2mol%以上30mol%以下であり、 前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下であることを特徴とするジクロロシランの精製方法。 【請求項2】 ジクロロシランを含むシラン系ガスからジクロロシランを精製する方法であって、 前記シラン系ガスからジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去する蒸留精製工程を備え、 該蒸留精製工程が、シラン系ガスを蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程と、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程とを含み、 該蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ、 前記不活性ガスの供給量は、前記還流工程における還流量と前記缶出戻し工程における戻し量との総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下であり、 前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下であることを特徴とするジクロロシランの精製方法。 【請求項3】 ジクロロシランを含むシラン系ガスからジクロロシランを精製する方法であって、 前記シラン系ガスからジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去する蒸留精製工程を備え、 該蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ、 前記不活性ガスの供給を、前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔のガス導入口からガス排出口に至る経路中の、前記シラン系ガス中に占めるジクロロシランの割合が90wt%を超える地点よりも上流側で実行し、 前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下であることを特徴とするジクロロシランの精製方法。 【請求項4】 前記不純物は、塩化水素、モノシラン、モノクロロシラン、ジシラン、ホウ素化合物である、請求項1~3の何れか1項に記載のジクロロシランの精製方法。 【請求項5】 前記不活性ガスは、ヘリウム、アルゴン、窒素、水素の何れかのガス若しくはこれらの何れかの混合ガスである、請求項1~4の何れか1項に記載のジクロロシランの精製方法。 【請求項6】 前記不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で0.5mol%以上である、請求項1~5の何れか1項に記載のジクロロシランの精製方法。 【請求項7】 前記不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で3mol%以下である、請求項1~6の何れか1項に記載のジクロロシランの精製方法。 【請求項8】 ジクロロシランを含むシラン系ガスからジクロロシランを精製する方法であって、 前記シラン系ガスからジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去する蒸留精製工程を備え、 該蒸留精製工程が、シラン系ガスを、シラン系ガス供給口から供給する工程と、蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程と、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程とを含み、 該蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ、 前記不活性ガスの供給量は、前記シラン系ガス供給口から供給される量、前記還流工程における還流量及び前記缶出戻し工程における戻し量の総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下であり、 前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下であることを特徴とするジクロロシランの精製方法。 【請求項9】 前記蒸留塔の塔頂の温度を17℃以下とする、請求項8に記載のジクロロシランの精製方法。 【請求項10】 前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度を8℃以上とする、請求項1~9の何れか1項に記載のジクロロシランの精製方法。 【請求項11】 前記蒸留塔の塔頂の温度を10℃以上とする、請求項10に記載のジクロロシランの精製方法。 【請求項12】 前記蒸留精製工程を複数備えている、請求項1~11の何れか1項に記載のジクロロシランの精製方法。」 第4 令和 5年 3月15日付けで通知した取消理由、及びこの取消理由において採用しなかった申立人による特許異議の申立理由の概要 1 令和 5年 3月15日付けで通知した取消理由 (1)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(取消理由1) ア 訂正前の請求項1、4~6、8~12に係る発明は、特許請求の範囲の記載が後記第5の1(1)ア(ア)の点で不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 イ 訂正前の請求項1~7、10~12に係る発明は、特許請求の範囲の記載が後記第5の1(1)ア(イ)の点で不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 ウ 訂正前の請求項1、2、4~12に係る発明は、特許請求の範囲の記載が後記第5の1(2)アの点で不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(取消理由2) 訂正前の請求項1、2、4~12に係る発明は、特許請求の範囲の記載が後記第5の2(1)アの点で不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 取消理由において採用しなかった申立人による特許異議の申立理由の概要 異議申立書の22~24頁には、明確性要件、実施可能要件、サポート要件についての理由が(ア)~(カ)の6個列挙されているが、(ア)~(カ)のそれぞれが、どの請求項を対象とした理由であるのか、また、明確性要件、実施可能要件、サポート要件のうち、いずれを理由とするものであるのかが明確に記載されていない。そのため、異議申立書の記載を総合的に判断して、下記のとおり、申立の理由と対象の請求項を整理した。なお、(カ)の理由については、上記1(1)イが該当する。 (1)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(申立理由1) ア 訂正前の請求項1、2、4~12に係る発明は、特許請求の範囲の記載が後記第5の3(1)アの点で不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(異議申立書23頁の(ア)の理由) イ 訂正前の請求項4~12に係る発明は、特許請求の範囲の記載が後記第5の3(2)アの点で不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(異議申立書23頁の(イ)の理由) ウ 訂正前の請求項1~12に係る発明は、特許請求の範囲の記載が後記第5の3(3)アの点で不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(異議申立書23頁の(エ)の理由)(下記の甲第3号証を参考とする。) (2)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)(申立理由2) ア 訂正前の請求項1~12に係る発明は、発明の詳細な説明の記載が後記第5の4(1)アの点で不備のため、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(異議申立書23頁の(ウ)の理由) イ 訂正前の請求項1~12に係る発明は、発明の詳細な説明の記載が後記第5の4(2)アの点で不備のため、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(異議申立書24頁の(オ)の理由) (3)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(申立理由3) 訂正前の請求項1~12に係る発明は、下記に記載の甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載される技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 甲第1号証:特開2012-144427号公報 甲第2号証:特開2012-158515号公報 甲第3号証:大江修造,トコトンやさしい蒸留の本,日刊工業新聞社,2015年9月30日,第52~53頁 (以下、甲第1号証を略して、「甲1」などという。) 第5 当審の判断 当審は、上記第4の1の取消理由及び第4の2の申立理由のいずれにも理由がないと判断する。 以下、その理由について詳述する。 1 取消理由1(サポート要件違反)について (1)第4の1(1)ア及びイの理由について 事案に鑑み、第4の1(1)ア及びイをまとめて検討する。 ア 第4の1(1)ア及びイの理由の概要 (ア)第4の1(1)アの理由の概要 第4の1(1)アの理由の概要は以下のとおりである。 訂正前の本件発明1においては、「前記不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で0.2mol%以上であること」と特定されているものの、「不活性ガスの供給量」の「精製対象である前記シラン系ガスに対する比率」の上限について何ら特定されていない。 これに対し、本件明細書の【0032】には、「不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下であることが好ましく、より好ましくは、3mol%以下であ」り、「これは、不活性ガスの供給モル分率が大きすぎると回収効率が低下するためである」との記載があり、不活性ガスの供給量が精製対象であるシラン系ガスに対する比率で相当大きな値をとる場合、ジクロロシランの回収効率が著しく低くなり、本件発明の課題である「ジクロロシランの蒸留精製」が行えないことになる。 そして、訂正前の本件発明1は、「不活性ガスの供給量」の「精製対象である前記シラン系ガスに対する比率」が相当大きな値をとる場合をも包含している。 したがって、訂正前の本件発明1は、本件発明の課題を解決できない場合をも包含しているものであるから、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。 また、訂正前の本件発明1を直接的又は間接的に引用する訂正前の本件発明4~6、8~12(ただし、請求項7を直接的又は間接的に引用するものを除く)について検討しても事情は同じである。 (イ) 第4の1(1)イの理由の概要 第4の1(1)イの理由の概要は以下のとおりである。 訂正前の本件発明の課題を解決するための蒸留精製方法について、本件明細書の実施例1~4の記載によれば、「蒸留塔の内部圧力を0.03MPa、塔頂温度を16.5℃に維持する条件」(【0042】、【0045】、【0050】及び【0054】)で、所定量の高純度N2ガスを蒸留塔に導入して蒸留運転を行い(【0043】、【0046】、【0051】及び【0055】)、その結果、「ジクロロシラン中のボロン成分の濃度」が、精製前の4.5ppbaから0.005~0.02ppbaにまで低減されており(【0044】、【0047】、【0049】、【0052】、【0056】及び表1)、いずれの実施例も、ジクロロシランの蒸留精製が十分に行われているといえる。 一方、本件明細書の比較例2の記載によれば、「蒸留塔の内部圧力は0.03MPa、塔頂温度は28℃に維持」する条件(【0060】)で、実施例2及び3と同じく13.5mol%の高純度N2ガスを蒸留塔に導入して蒸留運転を行い(【0061】)、その結果、「ジクロロシラン中のボロン成分の濃度」が、精製前の4.5ppbaから3.0ppbaとなっている(【0062】及び表1)。この結果について、【0063】によれば、比較例2において「温度(28℃)」と「塔頂温度を高くしたことにより、BCl3と思われるボロン成分が共沸によってジクロロシランに混入したこと」で、「ジクロロシラン中のボロン成分の濃度は、実施例1の値よりも2桁高い数字」となっているのであるから、比較例2は、ジクロロシランの蒸留精製が十分に行われているとはいえず、本件発明の課題を解決できないものであることが分かる。 そして、【0035】の「好ましくは、蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度を25℃以下とし」との記載も踏まえて、実施例1~4と比較例2とを比較すると、本件発明の課題を解決するためには、【0010】に課題を解決する手段として記載される「蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させること」に加え、当該「蒸留精製工程」を実施する蒸留塔の塔頂の温度を、実施例1~4で採用される25℃以下の温度範囲とすることが必要であるといえる。 しかしながら、訂正前の本件発明1は、蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度について何ら特定しておらず、本件発明の課題を解決できない前記比較例2を包含し得るため、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。 また、訂正前の本件発明2、訂正前の本件発明3、及び訂正前の本件発明1~3のいずれかを直接的又は間接的に引用する訂正前の本件発明4~7及び10~12(ただし、訂正前の本件発明8を直接的又は間接的に引用するものを除く)について検討しても事情は同じである。 イ 第4の1(1)ア及びイの理由に関する当審の判断 (ア)サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (イ)本件発明1~12に係る発明の課題について 本件明細書の記載によれば、「ジクロロシランはシリコン半導体関連の加工用ガス材料等として使用されており、pptレベルでの含有金属不純物濃度管理など、その品質には厳しい要求がなされる」(【0002】)ところ、「ジクロロシランの精製方法」として「有機物」(【0003】)や「金属塩化物」(【0005】)のような「添加物を必要とする蒸留精製方法の場合、本来の除去対象であるリン化合物やホウ素化合物等の不純物は勿論のこと、付加物に転化されずに残存する添加物の除去も必要になるという問題がある」(【0008】)との事情に鑑みて、本件発明は、「有機物や金属塩化物の添加を不要とした、ジクロロシランの蒸留精製方法を提供すること」(【0009】)を課題とするものであるといえる。 (ウ)本件発明1~12の課題を解決することができることに関する発明の詳細な説明の記載について a 本件発明1~12の課題を解決するための蒸留精製方法について、本件明細書の実施例1~4の記載によれば、「蒸留塔の内部圧力を0.03MPa、塔頂温度を16.5℃に維持する条件」(【0042】、【0045】、【0050】及び【0054】)で、所定量の高純度N2ガスを蒸留塔に導入して蒸留運転を行い(【0043】、【0046】、【0051】及び【0055】)、その結果、「ジクロロシラン中のボロン成分の濃度」が、精製前の4.5ppbaから0.005~0.02ppbaにまで低減されており(【0044】、【0047】、【0049】、【0052】、【0056】及び表1)、いずれの実施例も、ジクロロシランの蒸留精製が十分に行われているといえる。 一方、本件明細書の比較例2の記載によれば、「蒸留塔の内部圧力は0.03MPa、塔頂温度は28℃に維持」する条件(【0060】)で、実施例2及び3と同じく13.5mol%の高純度N2ガスを蒸留塔に導入して蒸留運転を行い(【0061】)、その結果、「ジクロロシラン中のボロン成分の濃度」が、精製前の4.5ppbaから3.0ppbaとなっている(【0062】及び表1)。この結果について、【0063】によれば、比較例2において「温度(28℃)」と「塔頂温度を高くしたことにより、BCl3と思われるボロン成分が共沸によってジクロロシランに混入したこと」で、「ジクロロシラン中のボロン成分の濃度は、実施例1の値よりも2桁高い数字」となっているのであるから、比較例2は、ジクロロシランの蒸留精製が十分に行われているとはいえず、本件発明1~12の課題を解決できないものであることが分かる。 そして、【0035】の「好ましくは、蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度を25℃以下とし」との記載も踏まえて、実施例1~4と比較例2とを比較すると、本件発明1~12の課題を解決するためには、【0010】に課題を解決する手段として記載される「蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させること」に加え、当該「蒸留精製工程」を実施する蒸留塔の塔頂の温度を、実施例1~4で採用される25℃以下の温度範囲とすることが必要であるといえる。 b 本件明細書【0010】の「本発明に係るジクロロシランの精製方法は、ジクロロシランを含むシラン系ガスからジクロロシランを精製する方法であって、前記シラン系ガスからジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去する蒸留精製工程を備え、該蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させることを特徴とする。」との記載、及び、【0032】の「前記不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下であることが好ましく、より好ましくは、3mol%以下である。これは、不活性ガスの供給モル分率が大きすぎると回収効率が低下するためである。」との記載、並びに、【0034】の「不活性ガスの供給は、蒸留精製工程を実施する蒸留塔のガス導入口(蒸留塔の下部)からガス排出口(蒸留塔の塔頂部)に至る経路中の、シラン系ガス導入部より上側から行うことが好ましく、より好ましくは、シラン系ガス中に占めるジクロロシランの割合が90wt%を超える地点よりも上流側から供給する。」との記載によれば、「蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ」るに際し、「前記不活性ガスの供給量」を「精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下」とする、又は、「不活性ガスの供給」を「シラン系ガス中に占めるジクロロシランの割合が90wt%を超える地点よりも上流側」から行うことにより、好適な「ジクロロシランの精製」が行えることがわかる。 c 上記a及びbを踏まえると、上記(イ)の課題を解決するためには、「蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ」、かつ、「蒸留精製工程」を実施する蒸留塔の塔頂の温度を、「25℃以下の温度範囲」とし、さらに、「前記不活性ガスの供給量」を「精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下」とする、又は、「不活性ガスの供給」を「シラン系ガス中に占めるジクロロシランの割合が90wt%を超える地点よりも上流側」から行うことが肝要であるといえる。 (エ)本件明細書の発明の詳細な説明に記載される本件発明の課題を解決することができると認識できる範囲と本件発明1~12の対比 a 上記(ウ)で述べたように、ジクロロシランの精製方法が、「蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ」、かつ、「蒸留精製工程」を実施する蒸留塔の塔頂の温度を、「25℃以下の温度範囲」とし、さらに、「前記不活性ガスの供給量」を「精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下」とする、又は、「不活性ガスの供給」を「シラン系ガス中に占めるジクロロシランの割合が90wt%を超える地点よりも上流側」から行うものであれば、課題を解決することができる。 b 本件発明1、及び、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明4~7、10~12は、「蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ」る点、「不活性ガスの供給量は」「精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で0.2mol%以上30mol%以下であ」る点、及び、「蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下である」点を発明特定事項として備えている。 また、本件発明2、8、及び、本件発明2又は8を直接又は間接的に引用する本件発明4~7、9~12は、「蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ」る点、「不活性ガスの供給量は」「精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下であ」る点、及び、「蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下である」点を発明特定事項として備えている。 また、本件発明3、及び、本件発明3を直接又は間接的に引用する本件発明4~7、10~12は、「蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ」る点、「不活性ガスの供給を、」「前記シラン系ガス中に占めるジクロロシランの割合が90wt%を超える地点よりも上流側で実行」する点、及び、「蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下である」点を発明特定事項として備えている。 そうすると、本件発明1~12は、上記aに記載した上記(イ)の発明の課題を解決するために必要な手段を含んでいるといえ、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであって、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるから、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するものということができる。 (2)第4の1(1)ウの理由について ア 第4の1(1)ウの理由の概要 第4の1(1)ウの理由の概要は以下のとおりである。 本件明細書においては、「不活性ガスの供給量」の「比率」を求めるにあたり、実施例1~4のとおり、環流量及び缶出からの戻し量の総和を基準とすることが記載されており、それ以外のものを基準とすることについて本件明細書中に記載を見いだせない。 しかしながら、訂正前の本件発明1及び2には、「不活性ガスの供給量」の「比率」を求めるにあたり、「精製対象である前記シラン系ガス」の量を基準とすることについて特定があるのみであって、環流量及び缶出からの戻し量の総和を基準とすることについて特定がなく、訂正前の本件発明1及び2が、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。 また、訂正前の本件発明1及び2のいずれかを直接的又は間接的に引用する訂正前の本件発明4~12について検討しても事情は同じである。 イ 第4の1(1)ウの理由に関する当審の判断 (ア)サポート要件の判断手法 a サポート要件の判断手法は、上記(1)イ(ア)に記載したとおりである。 b 上記aによれば、請求項に記載される発明は、発明の詳細な説明に記載された発明である必要がある。そうすると、本件発明1、2、及び、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用する本件発明4~7、10~12は「不活性ガスの供給量は、前記還流工程における還流量と前記缶出戻し工程における戻し量との総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で」「30mol%以下」である点を特定事項とする発明であり、本件発明8、及び、本件発明8を直接又は間接的に引用する本件発明9~12は「不活性ガスの供給量は、前記シラン系ガス供給口から供給される量、前記還流工程における還流量及び前記缶出戻し工程における戻し量の総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下」である点を特定事項とする発明であるから、上記「不活性ガスの供給量は、前記還流工程における還流量と前記缶出戻し工程における戻し量との総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で」「30mol%以下」である点、及び、「不活性ガスの供給量は、前記シラン系ガス供給口から供給される量、前記還流工程における還流量及び前記缶出戻し工程における戻し量の総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下」である点が、発明の詳細な説明にされたものであるかについて、以下検討する。 (イ)本件発明1、2、及び、本件発明1又は2を直接又は間接的に引用する本件発明4~7、10~12の、不活性ガスの供給量の比率を求める際の基準となるシラン系ガスに関する発明の詳細な説明の記載について 本件明細書、【0032】には「前記不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下であることが好ましく」との記載があり、【0043】には「上記の還流量および戻し量の総和(ペーパーロード量)に対して1.3mol%の高純度N2ガスを、蒸留塔の中段から、6Nm3/hr導入した。」との記載がある。 当該記載からは、「不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下」であり、かつ、「精製対象である前記シラン系ガス」が、より具体的には「還流量および戻し量の総和」であることが理解できる。これは、本件発明1、2、4~7、10~12の「不活性ガスの供給量は、前記還流工程における還流量と前記缶出戻し工程における戻し量との総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で」「30mol%以下」である点に対応するものである。 (ウ)本件発明8、及び、本件発明8を直接又は間接的に引用する本件発明9~12の、不活性ガスの供給量の比率を求める際の基準となるシラン系ガスに関する発明の詳細な説明の記載について a 本件明細書、【0032】には「前記不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下であることが好ましく」との記載があり、【0043】には「上記の還流量および戻し量の総和(ペーパーロード量)に対して1.3mol%の高純度N2ガスを、蒸留塔の中段から、6Nm3/hr導入した。」との記載がある。 当該記載からは、「不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下」であり、かつ、「精製対象である前記シラン系ガス」が、より具体的には「還流量および戻し量」を含むことが理解できる。 b さらに、【0054】には「仕込んだものと同じ成分の低沸分を不純物として含むクロロシラン系ガスを、シラン系ガス供給口から1トン/hrで供給した。」と記載されている。この「シラン系ガス供給口」から「供給」される「クロロシラン系ガス」は蒸留塔に導入されることになるので、精製対象のガスの一部であることは明らかである。 そして、【0032】の「前記不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下であることが好ましく」との記載によれば、精製対象のシラン系ガスは、不活性ガスの供給量の計算に用いられるものであるので、上記「シラン系ガス供給口」から「供給」される「クロロシラン系ガス」は、不活性ガスの供給量の計算に用いられることになる。 c 上記a及びbから、シラン系ガス供給口からの供給がある場合には、「不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下」であり、かつ、「精製対象である前記シラン系ガス」が、より具体的には「シラン系ガス供給口から」「供給」される量と「還流量」と「戻し量の総和」を意味することが理解できる。これは、本件発明8~12の「不活性ガスの供給量は、前記シラン系ガス供給口から供給される量、前記還流工程における還流量及び前記缶出戻し工程における戻し量の総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下」である点に対応するものである。 (エ)上記(イ)及び(ウ)によれば、本件発明1、2、4~7、10~12の「不活性ガスの供給量は、前記還流工程における還流量と前記缶出戻し工程における戻し量との総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で」「30mol%以下」である点、及び、本件発明8~12の「不活性ガスの供給量は、前記シラン系ガス供給口から供給される量、前記還流工程における還流量及び前記缶出戻し工程における戻し量の総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下」である点はいずれも発明の詳細な説明に記載されていることから、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するものということができる。 2 取消理由2(明確性要件違反)について (1)第4の1(2)の理由について ア 第4の1(2)の理由の概要 訂正前の本件発明1及び2では、「不活性ガスの供給量」が「精製対象である前記シラン系ガスに対する比率」で規定されているが、「不活性ガスの供給量」の「比率」を求めるための基準となる「精製対象である前記シラン系ガス」の量が、「ジクロロシランの精製方法」におけるどの部分のものであるのかについては、何ら特定されていない。 当該「精製対象である前記シラン系ガス」の量及びこれに対する「不活性ガスの供給量」の「比率」について、本件明細書の記載をみると、【0031】及び【0032】には、訂正前の本件発明1及び2における前記規定と同様の記載があるにとどまっている。そこで、本件明細書の実施例における「不活性ガスの供給量」の「比率」の具体的な求め方についてみると、同(4)及び(5)によれば、実施例1~3では、「低沸分を不純物として含むクロロシラン系ガス」の「仕込を行った」(【0041】、【0045】及び【0049】)後、【図2】の運転状態のもとで(【0043】、【0046】及び【0049】)、蒸留運転中の「2トン/hr」との「環流量」及び「1トン/hr」との「缶出からの蒸留塔への戻し量」の「総和(ペーパーロード量)」を基準として「高純度N2ガス」の比率が求められる(【0042】、【0043】、【0045】、【0046】、【0050】及び【0051】)一方、実施例4では、実施例1と同様の「仕込を行った」(【0053】)後、【図3】の運転状態のもとで「仕込んだものと同じ成分の低沸分を不純物として含むクロロシラン系ガスを、シラン系ガス供給口から1トン/hrで供給」した上で(【0054】)、蒸留運転中の「2トン/hr」との「環流量」及び「1トン/hr」との「缶出からの蒸留塔への戻し量」の「総和(ペーパーロード量)」を基準として「高純度N2ガス」の比率が求められている(【0054】及び【0055】)。ここで、「環流量」とは、蒸留塔1の塔頂部から凝縮器2及び環流タンク3を介して蒸留塔に戻される環流液の量であり(【0023】、【0025】、【図2】及び【図3】)、「缶出からの蒸留塔への戻し量」とは、蒸留塔1の底部から強制的に供給側の流路5に送液される缶出戻し液の量である(【0023】、【0027】、【図2】及び【図3】)。 そうすると、訂正前の本件発明1及び2の「不活性ガスの供給量」の「比率」を求めるための基準となる「精製対象である前記シラン系ガス」の量は、通常、蒸留精製工程を行っている系に存在する又は流れている実質的なシラン系ガス全体の量を指すものと解されるところ、本件明細書の実施例1~3では、【図2】によれば、環流タンク3からの流路8への取出及び蒸留塔1から缶出液の流路10への排出が行われない運転状態であり、実質的に系を流れるシラン系ガス全体の量は、環流量及び缶出からの戻し量の総和になると解されるから、この総和を基準として不活性ガスの供給量の比率を求めることは、前記の通常の解釈に合致しているといえる。 一方、実施例4では、【0054】及び【図3】によれば、環流タンク3からの流路8への取出及び蒸留塔1から缶出液の流路10への排出が行われ、かつ、シラン系ガス供給口からの供給が行われる運転状態であり、実質的に系を流れるシラン系ガス全体の量は、蒸留塔1への流入量に着目すると、環流量、缶出からの戻し量及び供給量の総和になると解されるから、環流量及び缶出からの戻し量のみの総和を基準として不活性ガスの供給量の比率を求めることは、前記の通常の解釈に合致しているとはいえない。 したがって、本件特許の請求項1及び2における、「不活性ガスの供給量」の「比率」を求めるための基準となる「精製対象である前記シラン系ガス」の量が、本件明細書の記載を参酌しても一義的に定まらないから、訂正前の本件発明1及び2は、明確であるとはいえない。 また、訂正前の本件発明1及び2のいずれかを直接的又は間接的に引用する訂正前の本件発明4~12について検討しても事情は同じである。 イ 第4の1(2)の理由に関する当審の判断 (ア)明確性要件の判断手法 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかという観点から判断されるべきである。 (イ)上記(ア)の判断手法に基づく判断 a 訂正前の本件発明1、2の「不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で」との記載は、令和 5年 5月18日受付の訂正請求書により「不活性ガスの供給量は、前記還流工程における還流量と前記缶出戻し工程における戻し量との総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で」との記載に訂正された。当該訂正により、不活性ガスの供給量」の「比率」を求めるための基準となる「精製対象である前記シラン系ガス」の量が「前記還流工程における還流量と前記缶出戻し工程における戻し量との総和」であることが明らかとなったため、本件発明1、2は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはない。 本件発明1、2のいずれかを直接的又は間接的に引用する本件発明4~7、10~12についても同様である。 b 本件発明8には、「不活性ガスの供給量は、前記シラン系ガス供給口から供給される量、前記還流工程における還流量及び前記缶出戻し工程における戻し量の総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で」との記載がある。 当該記載からは、「不活性ガスの供給量」の「比率」を求めるための基準となる「精製対象である前記シラン系ガス」の量が「シラン系ガス供給口から供給される量、前記還流工程における還流量及び前記缶出戻し工程における戻し量の総和」であることが明らかとなったため、本件発明8は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはない。 本件発明8を直接的又は間接的に引用する本件発明9~12についても同様である。 c 上記アに記載したとおり、実施例1~3の記載に基づけば、環流量及び缶出からの戻し量の総和を基準として不活性ガスの供給量の比率を求めることが通常の解釈に合致する。他方で、実施例4の記載に基づけば、環流量、缶出からの戻し量及び供給量の総和を基準として不活性ガスの供給量の比率を求めることが通常の解釈に合致する。そして、訂正前の本件発明1、2については、訂正前の本件発明1、2が実施例1~3に対応するものであるのか、実施例4に対応するものであるのかが明確ではなかったため、環流量及び缶出からの戻し量の総和を基準とするのか、シラン系ガス供給口からの供給量、環流量及び缶出からの戻し量の総和を基準とするのかも定かではなかった。 しかしながら、訂正後の本件発明1、2については「還流工程における還流量と前記缶出戻し工程における戻し量との総和に対して」との特定が加わったことにより、実施例1~3に対応する発明であることが明確化され、環流量及び缶出からの戻し量の総和を基準として不活性ガスの供給量の比率を求めるものであることが明確となった。 同様に、訂正後の本件発明8については「シラン系ガス供給口から供給される量、前記還流工程における還流量及び前記缶出戻し工程における戻し量の総和に対して」との特定が加わったことにより、実施例4に対応する発明であることが明確化され、シラン系ガス供給口からの供給量、環流量及び缶出からの戻し量の総和を基準として不活性ガスの供給量の比率を求めるものであることが明確となった。 そのため、「不活性ガスの供給量」の「比率」を求めるための基準となる「精製対象である前記シラン系ガス」の量が一義的に定まらないということはなく、取消理由は解消している。 3 申立理由1(明確性要件違反)について (1)第4の2(1)アの理由について ア 特許異議申立書に記載の論拠 不活性ガスの供給量に関し、訂正前の本件特許請求の範囲の【請求項1】では、「0.2mоl%以上」とされる一方、【請求項2】では「30mоl%以下」とされている。つまり、不活性ガスの供給量は「0.2mоl%以上」でもよいし、「30mоl%以下」でもよいのであるから、形式的にはゼロから無限大まで許容されることとなり、供給量に関しては全く何ら数値限定がされていないということになる。 したがって、本件特許請求の範囲における不活性ガスの供給量に関する数値限定は実質的な意味をなさず、不明確なものである。 イ 第4の2(1)アの理由に関する当審の判断 (ア)本件発明1、4~7、10~12 本件発明1には「不活性ガスの供給量は、前記還流工程における還流量と前記缶出戻し工程における戻し量との総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で0.2mol%以上30mol%以下」との記載があり、「不活性ガスの供給量」についての数値範囲は「精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で0.2mol%以上30mol%以下」と明記されていることから、不活性ガスの供給量に関して何ら数値限定がされていないということはなく、本件発明1の「不活性ガスの供給量」が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはない。 また、数値の技術的意味についても、本件明細書【0031】に「不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で0.2mol%以上であることが好ましく、より好ましくは、0.5mol%以上である。これは、不活性ガスの供給モル分率が大きいほど低沸物の除去効果が大きいためである。」との記載が、【0032】に「前記不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下であることが好ましく、より好ましくは、3mol%以下である。これは、不活性ガスの供給モル分率が大きすぎると回収効率が低下するためである。」との記載があることから、「低沸物の除去効果が大き」くすること、及び「回収効率」を「低下」させない範囲の不活性ガスの供給量であることが理解でき、供給量がゼロから無限大まで許容されるということはないから、不明確であるということはできない。 本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明4~7、10~12についても同様である。 (イ)本件発明2、4~7、10~12 本件発明2には「不活性ガスの供給量は、前記還流工程における還流量と前記缶出戻し工程における戻し量との総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下」との記載があり、「不活性ガスの供給量」についての数値範囲は「精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下」と明記されている。さらに、本件発明2には「不活性ガスを供給」との記載があることから、不活性ガスの供給量がゼロではない、言い換えると、不活性ガスの供給量は、精製対象であるシラン系ガスに対する比率で少なくとも0mol%より大きいことが理解できる。 してみると、「不活性ガスの供給量」についての数値範囲は、「精製対象であるシラン系ガスに対する比率」で0mol%より大きく「30mol%以下」であると理解できるため、不活性ガスの供給量に関して何ら数値限定がなされていないということはなく、本件発明2の「不活性ガスの供給量」が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはない。 また、数値の技術的意味についても、【0031】に「不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で0.2mol%以上であることが好ましく、より好ましくは、0.5mol%以上である。これは、不活性ガスの供給モル分率が大きいほど低沸物の除去効果が大きいためである。」との記載があり、下限値が大きくなるほど低沸物の除去効果が大きくなることがわかるため、「不活性ガスの供給量」の数値限定の意味が不明確であるということはできない。 本件発明2を直接又は間接的に引用する本件発明4~7、10~12についても同様である。 (ウ)本件発明8~12 本件発明8には「不活性ガスの供給量は、前記シラン系ガス供給口から供給される量、前記還流工程における還流量及び前記缶出戻し工程における戻し量の総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下」との記載があり、「不活性ガスの供給量」についての数値範囲は「精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下」と明記されている。そして、下限値が明記されていないとしても上記(イ)で述べたのと同様の理由により、「不活性ガスの供給量」について不明確であるとはいえない。 本件発明8を直接又は間接的に引用する本件発明9~12についても同様である。 (2)第4の2(1)イの理由について ア 特許異議申立書に記載の論拠 本件特許発明は、ジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去するものであるが、訂正前の請求項4では、除去すべき不純物として「ホウ素化合物」が挙げられている。しかし、ホウ素化合物であっても例えばBCI3(三塩化ホウ素)の蒸気圧はジクロロシランよりも低いから、訂正前の請求項4の記載は本件発明を不明確なものとしている。 イ 第4の2(1)イの理由に関する当審の判断 本件発明4には「前記不純物は、塩化水素、モノシラン、モノクロロシラン、ジシラン、ホウ素化合物である」との記載があり、本件発明4が引用する本件発明1~3には、いずれも「ジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物」との記載がある。 これら記載から、本件発明4の「ホウ素化合物」は、あらゆる「ホウ素化合物」を指すのではなく、「ジクロロシランよりも蒸気圧の高い」「ホウ素化合物」のみを指すことは明白である。 よって、本件発明4は不明確であるということはない。 本件発明4を直接又は間接的に引用する本件発明5~7、10~12についても同様である。 (3)第4の2(1)ウの理由について ア 特許異議申立書に記載の論拠 本件明細書の【図1】から【図3】には6Aというシラン系ガス缶戻しの経路が設けられている。甲1号証の【図1】や甲第3号証の図のように、通常このような経路は設けられていないものであるが、本件発明においては設けられるとしてもこのような循環経路を設けることにより、蒸留塔に供給するシラン系ガスの量が不明確となり、ひいては「不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率」を計算結果自体に影響するものであるから、本件発明の内容が不明確となるものである。 甲1「【図1】 [図:0001404793000003.jpg] 」 甲3(53頁図面) 「 [図:0001404793000004.jpg] 」 イ 第4の2(1)ウの理由に関する当審の判断 本件発明のように、6Aというシラン系ガス缶戻しの経路が設けられている場合でも、例えば、缶出戻し液の流路6A、及び、シラン系ガスの流路5と前記缶出戻し液の流路6Aの合流箇所より上流の流路5内に、それぞれ流量センサを設置すれば、蒸留塔に供給するシラン系ガスの量を正確に把握可能であることは、当業者にとって技術的な常識である。そのため、蒸留塔に供給するシラン系ガスの量が不明確であるとはいえない。 また、前述のとおり、蒸留塔に供給するシラン系ガスの量が不明確であるとはいえないため、申立人の「「不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率」を計算結果自体に影響するものであるから、本件発明の内容が不明確」との主張は前提を欠き、採用することはできない。 4 申立理由2(実施可能要件違反)について (1)第4の2(2)アの理由について ア 特許異議申立書に記載の論拠 第4の2(2)アの理由の概要は以下のとおりである。 本件明細書の【図2】は実施例1の運転状態を示しているものであるが(【0043】)、図2において「5」からは供給せず、「8」からは取出せず、「10」からも排出しないのであるから、何も生産していないこととなり、詳細な説明の記載と整合せず不明確な記載である。 イ 第4の2(2)アの理由に関する当審の判断 本件明細書の【図2】は実施例1の運転状態を示しており、実施例1に対応する発明は本件発明1である。そのため、本件発明1が実施可能要件を充足するかについて以下検討を行う。 (ア)本件発明1における実施可能要件の判断手法 発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に係る規定(実施可能要件)に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要すると解される。そして、この規定のいう「実施」とは、物の発明においては、当該発明にかかる物の生産、使用等をいうものであるから、実施可能要件を満たすといえるためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明に係るものを生産し、使用することができる程度のものでなければならない。 ここでは、実施例1に対応する本件発明1を、当業者が、明細書の発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、生産することができる程度の記載があるか否かで判断する。 (イ)本件明細書の発明の詳細な説明の記載 a 本件明細書には以下の記載がある。 「【0024】 ジクロロシランを含むシラン系ガスは流路5から蒸留塔1へと導かれる。このシラン系ガスは、塩化水素、モノシラン、モノクロロシラン、ジシラン、ホウ素化合物といったような、ジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物(低沸点不純物)を含有している。このとき、例えば供給口Aから、ヘリウム、アルゴン、窒素、水素の何れかのガス若しくはこれらの何れかの混合ガスといったような不活性ガスが蒸留塔1へと導入されている。その結果、ジクロロシランを含むシラン系ガスは、蒸留塔1内で、上記不活性ガスと接触する。 【0025】 蒸留塔1の上部に着目すると、シラン系ガスに含まれている上記不純物は、蒸留塔1内に供給された不活性ガスに同伴されるかたちで塔頂部へと導かれ、ジクロロシランガスとともに、凝縮器2へと送られる。凝縮器2では、ジクロロシランガスが液化され、低沸点物ガスは流路9を介して系外排出される一方、ジクロロシラン液は還流タンク3へと送られる。還流タンク3では、液化したジクロロシランが流路8を介して系外へと取り出される一方、ガス成分は流路7を介して蒸留塔1に戻される。 ・・・ 【0027】 蒸留塔1の底部に着目すると、塔底の液は、その一部が流路6Aを介してポンプにより強制的に供給側の流路5に送液される一方、残りの液が流路6Bを介して加熱器4へと送液される。加熱器4で加熱された液は熱対流により蒸留塔1へと戻される。 ・・・ 【0041】 還流冷却器および蒸留塔を備えた内容量が13m3のSUS容器を窒素ガスで十分に置換した後、該SUS容器に、低沸分を不純物として含むクロロシラン系ガス(8トン)の仕込を行った。原料ガスの成分は表1に纏めた。なお、当該表1に示したSTCはテトラクロロシラン、TCSはトリクロロシラン、DCSはジクロロシラン、Nm3は流量単位のノルマルリューベ、MCSはモノクロロシラン、Bは硼素(ボロン)の意味である。 【0042】 次いで、蒸留塔の内部圧力を0.03MPa、塔頂温度を16.5℃に維持する条件で蒸留運転を行った。なお、運転中の還流は2トン/hrであり、缶出からの蒸留塔への戻し量は1トン/hrであった。 【0043】 この条件下において、上記の還流量および戻し量の総和(ペーパーロード量)に対して1.3mol%の高純度N2ガスを、蒸留塔の中段から、6Nm3/hr導入した。このときの運転状態を図2に示した。 【0044】 精製後のシラン系ガスの成分分析を行ったところ、ジクロロシラン濃度は99.9wt%であり、残りの0.1wt%はモノクロロシランであった。また、ジクロロシラン中のボロン成分の濃度は0.02ppbaであった。なお、精製前の原料中のモノクロロシラン濃度は2.4wt%であり、ボロン成分の濃度は4.5ppbaである。」 b 上記aの記載からは、「還流冷却器および蒸留塔を備えた内容量が13m3のSUS容器を窒素ガスで十分に置換した後、該SUS容器に、低沸分を不純物として含むクロロシラン系ガス(8トン)の仕込を行」い、「蒸留塔の内部圧力を0.03MPa、塔頂温度を16.5℃に維持」し、「不純物」を「不活性ガスに同伴されるかたちで」「ジクロロシランガスとともに」「蒸留塔」の「塔頭部」から「凝縮器へと送」り、「凝縮器」では「ジクロロシランガスが液化され」、かつ、「低沸点物ガス」が「流路」「を介して系外排出」され、「液化した」「ジクロロシラン液」は「還流タンクへと送られ」、「還流タンク」から「ジクロロシラン」の「ガス成分」が「流路」「を介して蒸留塔」「に戻され」、「運転中の還流」を「2トン/hr」とし、「還流タンク」から「液化したジクロロシランが流路」「を介して系外へと取り出され」、「塔底の液は、その一部が流路」「を介してポンプにより強制的に供給側の流路」「に送液され」、「缶出からの蒸留塔への戻し量」を「1トン/hr」とし、「還流量および戻し量の総和(ペーパーロード量)に対して1.3mol%の高純度N2ガスを、蒸留塔の中段から、6Nm3/hr導入」し、「ジクロロシランを含むシラン系ガスは、蒸留塔」内で「不活性ガスと接触」することで、濃度99.9wt%のジクロロシランを得ることができることが理解できる。 (ウ)上記(イ)を踏まえた実施可能要件の判断 a 上記(イ)bで述べた「還流冷却器および蒸留塔を備えた内容量が13m3のSUS容器を窒素ガスで十分に置換した後、該SUS容器に、低沸分を不純物として含むクロロシラン系ガス(8トン)の仕込を行」い、「凝縮器」で「低沸点物ガス」が「流路」「を介して系外排出」され、「還流タンク」から「液化したジクロロシランが流路」「を介して系外へと取り出」される点は、(精製前の不純物を含む)クロロシラン系ガスを仕込み、蒸留塔及び凝縮器を用いて不純物である低沸点物ガス(蒸気圧が高いガス)を除去し、純度の高められたジクロロシランを液として系外へ取り出しているものであるから、本件発明1の「シラン系ガスからジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去する蒸留精製工程」点に対応する。 b 上記(イ)bで述べた、「不純物」を「不活性ガスに同伴されるかたちで」「ジクロロシランガスとともに」「蒸留塔」の「塔頭部」から「凝縮器へと送」り、「凝縮器」で「ジクロロシランガスが液化され」、「液化した」「ジクロロシラン液」は「還流タンクへと送られ」、「還流タンク」から「ジクロロシラン」の「ガス成分」が「流路」「を介して蒸留塔」「に戻され」、「運転中の還流」を「2トン/hr」とする点は、ジクロロシランが、気体状態で蒸留塔から凝縮器へ向かい、凝縮器で液化した後に還流タンクへ向かい、還流タンク内で液体から気体に戻った後に還流タンクから蒸留塔に戻される、つまり還流しているものであるから、本件発明1の「シラン系ガスを蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程」に対応する。 c 上記(イ)bで述べた、「塔底の液は、その一部が流路」「を介してポンプにより強制的に供給側の流路」「に送液され」、「缶出からの蒸留塔への戻し量」を「1トン/hr」とする点は、塔底の液が供給側の流路に送られて再び蒸留塔に戻る、つまり缶出戻しをしているものであるから、本件発明1の「蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程」に対応する。 d 上記(イ)bで述べた、「高純度N2ガスを、蒸留塔の中段から、6Nm3/hr導入」し、「ジクロロシランを含むシラン系ガスは、蒸留塔」内で、「不活性ガスと接触」する点は、不活性ガスであるN2ガスとシラン系ガスを接触させているものであるから、本件発明1の「前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触」する点に対応する。 e 上記(イ)bで述べた、「還流量および戻し量の総和(ペーパーロード量)に対して1.3mol%の高純度N2ガスを、蒸留塔の中段から、6Nm3/hr導入」する点は、0.2mol%以上30mol%以下の数値範囲に収まる「1.3mol%」の不活性ガス(N2ガス)を導入しているものであるから、本件発明1の「不活性ガスの供給量は、前記還流工程における還流量と前記缶出戻し工程における戻し量との総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で0.2mol%以上30mol%以下」に対応する。 f 上記(イ)bで述べた、「塔頂温度を16.5℃に維持」する点は、ジクロロシランの精製を行っている蒸留塔の塔頂の温度を、25℃よりも低い16.5℃に維持しているものであるから、本件発明1の「蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下である」点に対応する。 g 上記a~fを踏まえると、上記(イ)bで述べた、「還流冷却器および蒸留塔を備えた内容量が13m3のSUS容器を窒素ガスで十分に置換した後、該SUS容器に、低沸分を不純物として含むクロロシラン系ガス(8トン)の仕込を行」い、「蒸留塔の内部圧力を0.03MPa、塔頂温度を16.5℃に維持」し、「不純物」を「不活性ガスに同伴されるかたちで」「ジクロロシランガスとともに」「蒸留塔」の「塔頭部」から「凝縮器へと送」り、「凝縮器」では「ジクロロシランガスが液化され」、かつ、「低沸点物ガス」が「流路」「を介して系外排出」され、「液化した」「ジクロロシラン液」は「還流タンクへと送られ」、「還流タンク」から「ジクロロシラン」の「ガス成分」が「流路」「を介して蒸留塔」「に戻され」、「運転中の還流」を「2トン/hr」とし、「還流タンク」から「液化したジクロロシランが流路」「を介して系外へと取り出され」、「塔底の液は、その一部が流路」「を介してポンプにより強制的に供給側の流路」「に送液され」、「缶出からの蒸留塔への戻し量」を「1トン/hr」とし、「還流量および戻し量の総和(ペーパーロード量)に対して1.3mol%の高純度N2ガスを、蒸留塔の中段から、6Nm3/hr導入」し、「ジクロロシランを含むシラン系ガスは、蒸留塔」内で「不活性ガスと接触」するという方法を採用することにより、本件発明1の「シラン系ガスからジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去する蒸留精製工程を備え、該蒸留精製工程が、シラン系ガスを蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程と、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程とを含み、該蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ、前記不活性ガスの供給量は、前記還流工程における還流量と前記缶出戻し工程における戻し量との総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で0.2mol%以上30mol%以下であり、前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下である」という条件を満たすジクロロシランの精製方法を実行することは、十分可能であるといえる。 そうすると、上記(イ)aで摘示した本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づけば、本件発明1のジクロロシランの精製方法を実施するのに、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤又は複雑高度な実験等をする必要があるとはいえず、当業者であれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、本件発明を実施することができるというべきであるから、本件明細書の詳細な説明の記載は、本件発明1について実施可能要件を満たしているといえる。 ウ 申立人の主張について 上記イで述べたように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1に対して実施可能要件を満たしているのであるから、申立人の上記アの主張は本件における実施可能要件の判断を左右するものではないが、念のため、申立人の主張についても検討する。 (ア)一般的に、生産方法は、連続式生産方法と、バッチ式生産方法とに分けられる。連続式生産方法というのは、原料供給、生産、製品取出を同時並行で行う方法であり、バッチ式生産方式というのは、原料供給、生産、製品取出を順次切り替えて行う方式である。 ここで、バッチ式生産方式の場合、生産と原料供給および製品取出は同時には実施されないが、生産中に原料供給及び製品取出しを同時に行わないからといって、生産をしていないということにはならない。 (イ)本件図面の【図2】は、「運転状態を示した」(【0043】)ものであり、シラン系ガスの流路5については「×:供給せず」の文字が、ジクロロシラン液の流路8については「×:取出せず」との文字が付されている。 このことから、本件発明の実施例1(【図2】)として記載されたジクロロシラン液の精製方法は、運転中には、最終製品であるジクロロシラン液の取出しを行わない、つまり、バッチ式の生産方法を採用した精製方法であるとわかる。 【図2】 [図:0001404793000005.jpg] (ウ)申立人は、「図2において「5」からは供給せず、「8」からは取出せず、「10」からも排出しないのであるから、何も生産していない」と主張するが、上記(イ)で述べたとおり、【図2】はバッチ式の生産方法であり、バッチ式の生産方法において、生産(精製)と、原料供給(流路5からのシラン系ガスの供給)および製品取出(流路8からのジクロロシラン液の取出)を同時に行わないからといって、生産をしていないということにはならないことは上記(ア)で述べたとおりであるから、申立人の主張は採用できない。 なお補足すると、流路10は、精製途中の缶出液を排出する流路であり、生産中(精製中)に流路10から缶出液を抜いてしまうと最終的に得られるジクロロシラン液が減ってしまうため、生産中(精製中)に流路10から排出を行わないことは自然であり、生産中(精製中)に流路10から排出を行っていないからといって、生産(精製)をしていないということにはならない。 (2)第4の2(2)イの理由について ア 特許異議申立書に記載の論拠 第4の2(2)イの理由の概要は以下のとおりである。 本件明細書の【図3】は実施例4の運転状態を示すものであるが、シラン系ガスの供給量が「1000kg/hr」と6Aからのシラン系ガス缶戻しが「1000kg/hr」の合計「2000kg/hr」であるのに対し、シラン系ガス留出が「2000kg/hr」と6Aからのシラン系ガス缶戻しの「1000kg/hr」の合計「3000kg/hr」となり、インアウトがバランスしていない。これは技術的にあり得ない状況であり、本件明細書の記載は不明確なものである。 イ 第4の2(2)イの理由に関する当審の判断 本件明細書の【図3】は実施例4の運転状態を示しており、実施例4に対応する発明は本件発明8である。そのため、本件発明8が実施可能要件を充足するかについて以下検討を行う。 (ア)本件発明における実施可能要件の判断手法 実施可能要件の判断手法については、上記(1)イ(ア)と同様であるので、実施例4に対応する本件発明8を、当業者が、明細書の発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、生産することができる程度の記載があるか否かで判断する。 (イ)本件明細書の発明の詳細な説明の記載 a 本件明細書には以下の記載がある。 「【0024】 ジクロロシランを含むシラン系ガスは流路5から蒸留塔1へと導かれる。このシラン系ガスは、塩化水素、モノシラン、モノクロロシラン、ジシラン、ホウ素化合物といったような、ジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物(低沸点不純物)を含有している。このとき、例えば供給口Aから、ヘリウム、アルゴン、窒素、水素の何れかのガス若しくはこれらの何れかの混合ガスといったような不活性ガスが蒸留塔1へと導入されている。その結果、ジクロロシランを含むシラン系ガスは、蒸留塔1内で、上記不活性ガスと接触する。 【0025】 蒸留塔1の上部に着目すると、シラン系ガスに含まれている上記不純物は、蒸留塔1内に供給された不活性ガスに同伴されるかたちで塔頂部へと導かれ、ジクロロシランガスとともに、凝縮器2へと送られる。凝縮器2では、ジクロロシランガスが液化され、低沸点物ガスは流路9を介して系外排出される一方、ジクロロシラン液は還流タンク3へと送られる。還流タンク3では、液化したジクロロシランが流路8を介して系外へと取り出される一方、ガス成分は流路7を介して蒸留塔1に戻される。 ・・・ 【0027】 蒸留塔1の底部に着目すると、塔底の液は、その一部が流路6Aを介してポンプにより強制的に供給側の流路5に送液される一方、残りの液が流路6Bを介して加熱器4へと送液される。加熱器4で加熱された液は熱対流により蒸留塔1へと戻される。 ・・・ 【0032】 また、前記不活性ガスの供給量は、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下であることが好ましく、より好ましくは、3mol%以下である。これは、不活性ガスの供給モル分率が大きすぎると回収効率が低下するためである。 ・・・ 【0053】 還流冷却器および蒸留塔を備えた内容量が13m3のSUS容器を窒素ガスで十分に置換した後、該SUS容器に、低沸分を不純物として含むクロロシラン系ガス(8トン)の仕込を行うのは実施例1と同様である。原料ガスの成分は表1に纏めた。 【0054】 次いで、蒸留塔の内部圧力を0.03MPa、塔頂温度を16.5℃に維持する条件で蒸留運転を行った。なお、運転中の還流は2トン/hrであり、缶出からの蒸留塔への戻し量は1トン/hrであった。さらに、仕込んだものと同じ成分の低沸分を不純物として含むクロロシラン系ガスを、シラン系ガス供給口から1トン/hrで供給した。このときの運転状態を図3に示した。 【0055】 この条件下において、上記の還流量および戻し量の総和(ペーパーロード量)に対して9.7mol%の高純度N2ガスを、蒸留塔の中段から、60Nm3/hr導入した。 【0056】 精製後のシラン系ガスの成分分析を行ったところ、ジクロロシラン濃度は99.95wt%であり、残りの0.05wt%はモノクロロシランであった。また、ジクロロシラン中のボロン成分の濃度は0.006ppbaであった。」 b 上記aで摘記した【0054】には「仕込んだものと同じ成分の低沸分を不純物として含むクロロシラン系ガスを、シラン系ガス供給口から1トン/hrで供給した。」と記載されている。このクロロシラン系ガスは蒸留塔に導入されることになるので、精製対象のガスの一部である。そして、精製対象のガスの一部であるならば、不活性ガス(N2ガス)の供給量を算出する際の対象となる「ペーパーロード量」に含まれることになる。 c 上記a及びbからは、「還流冷却器および蒸留塔を備えた内容量が13m3のSUS容器を窒素ガスで十分に置換した後、該SUS容器に、低沸分を不純物として含むクロロシラン系ガス(8トン)の仕込を行」い、「蒸留塔の内部圧力を0.03MPa、塔頂温度を16.5℃に維持」し、「不純物」を「不活性ガスに同伴されるかたちで」「ジクロロシランガスとともに」「蒸留塔」の「塔頭部」から「凝縮器へと送」り、「凝縮器」では「ジクロロシランガスが液化され」、かつ、「低沸点物ガス」が「流路」「を介して系外排出」され、「液化した」「ジクロロシラン液」は「還流タンクへと送られ」、「還流タンク」から「ジクロロシラン」の「ガス成分」が「流路」「を介して蒸留塔」「に戻され」、「運転中の還流」を「2トン/hr」とし、「還流タンク」から「液化したジクロロシランが流路」「を介して系外へと取り出され」、「塔底の液は、その一部が流路」「を介してポンプにより強制的に供給側の流路」「に送液され」、「缶出からの蒸留塔への戻し量」を「1トン/hr」とし、「仕込んだものと同じ成分の低沸分を不純物として含むクロロシラン系ガスを、シラン系ガス供給口から1トン/hrで供給し」、「シラン系ガス供給口から」の供給量、「還流量」および「戻し量の総和(ペーパーロード量)に対して9.7mol%の高純度N2ガスを、蒸留塔の中段から、60Nm3/hr導入」し、「ジクロロシランを含むシラン系ガスは、蒸留塔」内で、「不活性ガスと接触」することで、濃度99.95wt%のジクロロシランを得ることができることが理解できる。 (ウ)上記(イ)を踏まえた実施可能要件の判断 a 上記(イ)cで述べた「還流冷却器および蒸留塔を備えた内容量が13m3のSUS容器を窒素ガスで十分に置換した後、該SUS容器に、低沸分を不純物として含むクロロシラン系ガス(8トン)の仕込を行」い、「凝縮器」で「低沸点物ガス」が「流路」「を介して系外排出」され、「還流タンク」から「液化したジクロロシランが流路」「を介して系外へと取り出」される点は、(精製前の不純物を含む)クロロシラン系ガスを仕込み、蒸留塔及び凝縮器を用いて不純物である低沸点物ガス(蒸気圧が高いガス)を除去し、純度の高められたジクロロシランを液として系外へ取り出しているものであるから、本件発明8の「シラン系ガスからジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去する蒸留精製工程」点に対応する。 b 上記(イ)cで述べた、「仕込んだものと同じ成分の低沸分を不純物として含むクロロシラン系ガスを、シラン系ガス供給口から1トン/hrで供給」する点は、シラン系ガスである「仕込んだものと同じ成分の」「クロロシラン系ガス」を供給しているものであるから、本件発明8の「シラン系ガスを、シラン系ガス供給口から供給する工程」に対応する。 c 上記(イ)cで述べた、「不純物」を「不活性ガスに同伴されるかたちで」「ジクロロシランガスとともに」「蒸留塔」の「塔頭部」から「凝縮器へと送」り、「凝縮器」で「ジクロロシランガスが液化され」、「液化した」「ジクロロシラン液」は「還流タンクへと送られ」、「還流タンク」から「ジクロロシラン」の「ガス成分」が「流路」「を介して蒸留塔」「に戻され」、「運転中の還流」を「2トン/hr」とする点は、ジクロロシランが、気体状態で蒸留塔から凝縮器へ向かい、凝縮器で液化した後に還流タンクへ向かい、還流タンク内で液体から気体に戻った後に還流タンクから蒸留塔に戻される、つまり還流しているものであるから、本件発明8の「シラン系ガスを」「蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程」に対応する。 d 上記(イ)cで述べた、「塔底の液は、その一部が流路」「を介してポンプにより強制的に供給側の流路」「に送液され」、「缶出からの蒸留塔への戻し量」を「1トン/hr」とする点は、塔底の液が供給側の流路に送られて再び蒸留塔に戻る、つまり缶出戻しをしているものであるから、本件発明8の「蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程」に対応する。 e 上記(イ)cで述べた、「高純度N2ガスを、蒸留塔の中段から、60Nm3/hr導入」し、「ジクロロシランを含むシラン系ガスは、蒸留塔」内で、「不活性ガスと接触」する点は、不活性ガスであるN2ガスとシラン系ガスを接触させているものであるから、本件発明8の「前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触」する点に対応する。 f 上記(イ)cで述べた、「シラン系ガス供給口から」の供給量、「還流量」および「戻し量の総和(ペーパーロード量)に対して9.7mol%の高純度N2ガスを、蒸留塔の中段から、60Nm3/hr導入」する点は、30mol%以下の数値範囲に収まる「9.7mol%」の不活性ガス(N2ガス)を導入しているものであるから、本件発明8の「不活性ガスの供給量は、前記シラン系ガス供給口から供給される量、前記還流工程における還流量及び前記缶出戻し工程における戻し量の総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下」に対応する。 g 上記(イ)cで述べた、「塔頂温度を16.5℃に維持」する点は、ジクロロシランの精製を行っている蒸留塔の塔頂の温度を、25℃よりも低い16.5℃に維持しているものであるから、本件発明8の「蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下である」点に対応する。 h 上記a~gを踏まえると、上記(イ)cで述べた、「還流冷却器および蒸留塔を備えた内容量が13m3のSUS容器を窒素ガスで十分に置換した後、該SUS容器に、低沸分を不純物として含むクロロシラン系ガス(8トン)の仕込を行」い、「蒸留塔の内部圧力を0.03MPa、塔頂温度を16.5℃に維持」し、「不純物」を「不活性ガスに同伴されるかたちで」「ジクロロシランガスとともに」「蒸留塔」の「塔頭部」から「凝縮器へと送」り、「凝縮器」では「ジクロロシランガスが液化され」、かつ、「低沸点物ガス」が「流路」「を介して系外排出」され、「液化した」「ジクロロシラン液」は「還流タンクへと送られ」、「還流タンク」から「ジクロロシラン」の「ガス成分」が「流路」「を介して蒸留塔」「に戻され」、「運転中の還流」を「2トン/hr」とし、「還流タンク」から「液化したジクロロシランが流路」「を介して系外へと取り出され」、「塔底の液は、その一部が流路」「を介してポンプにより強制的に供給側の流路」「に送液され」、「缶出からの蒸留塔への戻し量」を「1トン/hr」とし、「仕込んだものと同じ成分の低沸分を不純物として含むクロロシラン系ガスを、シラン系ガス供給口から1トン/hrで供給し」、「シラン系ガス供給口から」の供給量、「還流量」および「戻し量の総和(ペーパーロード量)に対して9.7mol%の高純度N2ガスを、蒸留塔の中段から、60Nm3/hr導入」し、「ジクロロシランを含むシラン系ガスは、蒸留塔」内で、「不活性ガスと接触」するという方法を採用することにより、本件発明8の「シラン系ガスからジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去する蒸留精製工程を備え、該蒸留精製工程が、シラン系ガスを、シラン系ガス供給口から供給する工程と、蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程と、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程とを含み、該蒸留精製工程において、不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ、前記不活性ガスの供給量は、前記シラン系ガス供給口から供給される量、前記還流工程における還流量及び前記缶出戻し工程における戻し量の総和に対して、精製対象である前記シラン系ガスに対する比率で30mol%以下であり、前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下である」との条件を満たすジクロロシランの精製方法を実行することは、十分可能であるといえる。 そうすると、上記(イ)aで摘示した本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づけば、本件発明8のジクロロシランの精製方法を実施するのに、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤又は複雑高度な実験等をする必要があるとはいえず、当業者であれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、本件発明を実施することができるというべきであるから、本件明細書の詳細な説明の記載は、本件発明8について実施可能要件を満たしているといえる。 ウ 申立人の主張について 上記イで述べたように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は本件発明8に対して実施可能要件を満たしているのであるから、申立人の上記アの主張は本件における実施可能要件の判断を左右するものではないが、念のため申立人の主張についても検討する。 (ア)本件明細書【0054】の「運転中の還流は2トン/hr」、【図3】の「シラン系ガス留出2000kg/hr」との記載、及び、【0025】の「蒸留塔1の上部に着目すると、シラン系ガスに含まれている上記不純物は、蒸留塔1内に供給された不活性ガスに同伴されるかたちで塔頂部へと導かれ、ジクロロシランガスとともに、凝縮器2へと送られる。凝縮器2では、ジクロロシランガスが液化され、低沸点物ガスは流路9を介して系外排出される一方、ジクロロシラン液は還流タンク3へと送られる。還流タンク3では、液化したジクロロシランが流路8を介して系外へと取り出される一方、ガス成分は流路7を介して蒸留塔1に戻される。」との記載からは、蒸留塔1の塔頂から凝縮器2へ還流として2トン(2000kg)/hrが流出(アウト)すること、2トン(2000kg)/hrから系外排出される不純物と還流タンク3に残り最終的に系外へ取り出されるジクロロシラン液を除いた残部が還流タンク3から蒸留塔1へと戻される(イン)ことがわかる。 【図3】 [図:0001404793000006.jpg] (イ)本件明細書【0023】の「図1は、本発明に係るジクロロシランの精製方法を説明するためのブロック図である。図中、符号1は蒸留塔、符号2は凝縮器、符号3は還流タンク、符号4は加熱器、符号5はシラン系ガスの流路、符号6は缶出戻し液の流路、符号7は還流液の流路、符号8はジクロロシラン液の流路、符号9は低沸点物ガスの流路、符号10は缶出液の流路である。」との記載、【0027】の「蒸留塔1の底部に着目すると、塔底の液は、その一部が流路6Aを介してポンプにより強制的に供給側の流路5に送液される一方、残りの液が流路6Bを介して加熱器4へと送液される。加熱器4で加熱された液は熱対流により蒸留塔1へと戻される。」との記載、【0054】の「缶出からの蒸留塔への戻し量は1トン/hrであった。さらに、仕込んだものと同じ成分の低沸分を不純物として含むクロロシラン系ガスを、シラン系ガス供給口から1トン/hrで供給した。」との記載、及び、【図3】に図示された流路6A、6B、10の接続構成及び「シラン系ガス缶出戻し1000kg/hr」「シラン系ガス供給1000kg/hr」との記載からすると、蒸留塔1の底部から流路6Aへ1トン(1000kg)/hrで流出(アウト)すること、蒸留塔1の底部から流路6Bへ具体的な流量は不明であるものの流出(アウト)すること、蒸留塔1の底部から流路10へ具体的な流量は不明であるものの流出(アウト)すること、蒸留塔1の底部から流路6Bへ流れた全量が加熱器4から蒸留塔1へ戻される(イン)こと、「シラン系ガス缶出戻し1トン(1000kg)/hr」と「シラン系ガス供給1トン(1000kg)/hr」の合計である2トン/hrが蒸留塔1へ供給(イン)されることがわかる。 (ウ)本件明細書【0055】には「上記の還流量および戻し量の総和(ペーパーロード量)に対して9.7mol%の高純度N2ガスを、蒸留塔の中段から、60Nm3/hr導入した。」との記載があることから、蒸留塔に対して、60Nm3/hrのN2ガスが導入(イン)されていることがわかる。 (エ)本件明細書の【0054】には、「蒸留塔の内部圧力を0.03MPa、塔頂温度を16.5℃に維持する条件で蒸留運転を行った。」との記載がある。温度と圧力が一定であるということは、蒸留塔内のガス量が概ね等量に保たれていることを意味している。 (オ)上記(ア)~(ウ)を踏まえると、蒸留塔1へのインは、 ・還流タンク3から蒸留塔1へと戻される2トン(2000kg)/hrから系外排出される不純物と還流タンク3に残り最終的に系外へ取り出されるジクロロシラン液を除いた残部 ・蒸留塔1の底部から流路6Bへ流れた全量が加熱器4から蒸留塔1へと戻されるもの ・蒸留塔1へ供給供給される、「シラン系ガス缶出戻し1トン(1000kg)/hr」と「シラン系ガス供給1トン(1000kg)/hr」の合計である2トン/hr ・蒸留塔の中段から導入される60Nm3/hrのN2ガス の4種類であり、蒸留塔1からのアウトは、 ・蒸留塔1の塔頂から凝縮器2への還流、2トン(2000kg)/hr ・蒸留塔1の底部から流路6Aへの流れ、1トン(1000kg)/hr ・蒸留塔1の底部から流路6Bへの流れ ・蒸留塔1の底部から流路10への流れ の4種であると理解できる。そして、上記(エ)を踏まえると、蒸留塔内のガス量は概ね等量となるため、インの合計量とアウトの合計量は釣り合うことになる。 f 申立人は、インをシラン系ガス供給1000kg/hrと6Aからのシラン系ガス缶出戻し1000kg/hrの合計2000kg/hr、アウトをシラン系ガス留出2000kg/hrと6Aからのシラン系ガス缶出戻し1000kg/hrの合計3000kg/hrとし、インアウトがバランスしないと主張するが、インアウトの内訳は上記eのとおりであるため、インアウトがバランスしないとの主張は前提を欠き、採用することができない。 5 申立理由3(進歩性欠如)について (1)甲1~2に記載の事項(「・・・」は省略を表す。下線は当審にて付与した。) ア 甲1に記載の事項 (ア)「【請求項5】 ホウ素化合物量を低減した多結晶シリコンの製造方法であって、 流動層反応炉においてトリクロロシランを含有する反応ガスを生成するために、金属級シリコンを塩化水素と反応させるステップと、 前記流動層反応炉から蒸留ユニットへと延設されたトリクロロシランラインへ、不活性ガスを供給するステップと、 ベントガスを連続的に排出しつつ、精製のためにトリクロロシランを蒸留するステップと、 多結晶シリコンをシリコン芯棒上に析出するステップとを備えることを特徴とする方法。 【請求項6】 前記不活性ガスはArガスであることを特徴とする請求項5に記載の多結晶シリコンの製造方法。 【請求項7】 蒸留後のトリクロロシランは、したがって約0.030ppbwt未満のホウ素化合物に精製されることを特徴とする請求項5に記載の多結晶シリコンの製造方法。」 (イ)「【0001】 本発明は、ホウ素化合物量を低減した多結晶シリコンの製造装置および製造方法に関する。特にホウ素化合物は、トリクロロシランを蒸留により精製されることで、多結晶シリコン製造プロセスにおいて除去される。 【背景技術】 【0002】 多結晶シリコンは、シーメンス法として知られているプロセスにおいて、トリクロロシランと水素ガスとの反応により生成される。シーメンス法において、高純度多結晶シリコンは、化学式(1)で示されたトリクロロシランの水素還元および化学式(2)で示されたトリクロロシランの熱分解により、多結晶シリコンのシードロッド上に析出される。」 ・・・ 【0008】 本発明の目的の1つは、ホウ素化合物量を低減した多結晶シリコンの製造装置および製造方法を提供することである。 ・・・ 【0010】 本発明はまた、ホウ素化合物量を減じた多結晶シリコンの製造方法に関し、本方法は以下のステップを有する。(A)流動層反応炉内における、TCSを含有する反応ガスを生成するための金属級シリコンと塩化水素との反応。(B)流動層反応炉から蒸留ユニットに延設されたTCSラインへの不活性ガスの供給。(C)ベントガスを連続的に放出する処理における、TCS精製のための蒸留。(D)多結晶シリコンのシリコン芯棒上への析出。 【0011】 本発明の装置は、98重量%以上の純度を有する金属級シリコン顆粒を塩化水素と反応させる流動層反応炉を備える。未精製TCSは、流動層反応炉内において、約280℃(536°F)~約320℃(608°F)での反応により生成される。この温度範囲は、金属級シリコン顆粒と塩化水素ガスとの間の反応を促進するのに有効であり、塩化水素ガスが流動層反応炉中に均一に分散される。未精製TCSはホウ素化合物を含有し、凝縮された後にTCSタンクへと供給される。 【0012】 TCSタンクは、TCSを回収するために設けられ、TCSを連続的に蒸留プロセスへと供給することができる。TCSタンクは、TCSラインを介して蒸留プロセスへと接続されている。本発明においては、例えばHe、N2、Arのような不活性ガスを不活性ガス供給ユニットを経由して、TCS1kg当り約1.7×10-4Nm3の流量(もしくはTCS1kg当り約1.0×10-5Nm3~約3.3×10-4Nm3の範囲の流量)でTCSラインへ供給する。 【0013】 TCSは、TCSタンクから複数の蒸留ユニットを備えた蒸留プロセスへと供給される。各蒸留ユニットは、蒸留塔(もしくはカラム)、凝縮器、リボイラ、およびポンプを有する。通常、蒸留塔では連続的な分留が行われる。次に、第1蒸留プロセスにおいて、第1蒸留塔の塔頂部の蒸留温度を、およそトリクロロシランの沸点とおよそ四塩化ケイ素の沸点との間に設定することにより、トリクロロシランを蒸発し、蒸気留分として分離する。より具体的には、96kPa(ゲージ圧)における蒸留塔頂部の温度を、約46℃(115°F)~約56℃(133°F)の間に設定する。蒸留プロセスにおいては、沸点の高いホウ素化合物、四塩化ケイ素(SiCl4、略称「STC」、沸点:57.6℃)、ポリマー、および「底部残留物」としての少量のTCSを分離する。プロセスからの蒸気蒸留物すなわち蒸気留分は、沸点すなわち沸騰温度の低いホウ素化合物、TCS、および少量のジクロロシラン(略称「DCS」、沸点:8.4℃)を含有する。 【0014】 蒸気留分は凝縮器に供給され、液体へと凝縮される。凝縮器は排気ラインを有し、圧力変換器および圧力独立制御弁(以降「PIC-V」と称する)が排気ライン内に設置される。圧力変換器は、凝縮器内の圧力を検出する。凝縮器内の圧力が所定の圧力を超過すると、PIC-Vが開放され、凝縮器内の圧力が一定圧力付近に維持される。本発明においては、不活性ガスがTCSラインに供給されることにより、PIC-Vが連続的に開放される。例えばジボラン(B2H6)、トリクロロボラン(BCl3)、テトラボラン(B4H10)のような沸点の低いホウ素化合物は、凝縮器内で気体状態に留まり、排気ラインを介してプロセスから排出される。凝縮されたTCSは、ポンプにより蒸留塔へと還流される。凝縮されたTCSの一部は、他の、あるいは次の蒸留塔へと供給され、次の蒸留ユニットにて蒸留が繰り返される。 【0015】 蒸留物が蒸留塔の底部からリボイラへと供給される。残留物は加熱され、蒸留塔へ還流される。ペンタボラン(B5H9)、ペンタボラン(B5H11)、テトラクロロジボラン(B2Cl4)、ヘキサボラン(B6H10)、デカボラン(B10H14)のような沸点の高いホウ素化合物を含有した液体残留物が、リボイラから排出される。 【0016】 その後、第2蒸留プロセスにおいては、蒸留塔頂部の蒸留温度が、およそジクロロシランの沸点とおよそトリクロロシランの沸点との間に設定される。つまり、第2蒸留塔頂部の温度は、125kPa(ゲージ圧)にて、約50℃(122°F)~約60℃(140°F)の間に設定されるのが好ましい。純粋なトリクロロシランが、蒸留により、第1蒸気留分より分離される。また沸点の低いホウ素化合物、DCS、および少量のTCSが第2蒸留プロセスでの蒸留物として分離される。 【0017】 以上のプロセスが、追加の蒸留塔内で繰り返される。 【0018】 TCSは、上述の蒸留プロセスにより精製される。精製されたTCSは、多結晶シリコンを多結晶シリコン芯棒上に析出させる還元反応炉に供給される。 ・・・ 【0026】 He、N2、Arガス等の不活性ガス供給ユニット3は、TCSライン22上に設置され、不活性ガス供給ユニット3は、TCS1kg当り約1.7×10-4Nm3の流量、もしくはTCS1kg当り約1.0×10-5Nm3~約3.3×10-4Nm3の流量の範囲で、不活性ガスを供給する。この流量は、後に述べるPIC-V4f~6fを連続的に開放させるために選択したものであり、沸点の低いホウ素化合物とともに不活性ガスが連続的に放出されるようにするものである。不活性ガスは、TCSもしくは他のクロロシランと反応せず、多結晶シリコンを生成する際の障害とならない。 【0027】 各蒸留ユニット4~6は、蒸留塔4a~6a、凝縮器4b~6b、ポンプ4d~6d、およびリボイラ4c~6cを有する。蒸留塔4a~6aにより、連続分留形式の蒸留が行われる。蒸留塔4a~6aの塔頂部の蒸留温度が、およそTCSの沸点付近とテトラクロロシランの沸点付近との間に設定されることにより、TCSは蒸発され、蒸気留分として分離される。より具体的には、80kPa(ゲージ圧力)における第1蒸留塔頂部の温度は、約45℃(113°F)~約55℃(131°F)の間に設定される。蒸留塔頂部の温度は、蒸気留分の還流率と、リボイラの温度とにより制御される。 【0028】 蒸気留分は、凝縮器4b~6bに供給され、凝縮器4b~6bにおいて液体へと凝縮される。凝縮器4b~6bは、排気ライン26と圧力変換器4e~6eを有し、PIC-V4f~6fが、排気ライン26上に設置される。圧力変換器4e~6eは、凝縮器4b~6b内の圧力を測定する。凝縮器4b~6b内の圧力は、圧力変換器4e~6eによる実測に基づき、PIC-V4f~6fにより均一に維持される。PIC-V4f~6fは、例えばそれぞれ、4fは96kPaG、5fは125kPaG、6fは96kPaGのような圧力で弁を開放するよう設定される。凝縮器4b~6b内の圧力が予め設定された圧力を超過すると、PIC-Vが開放されることにより、凝縮器4b~6b内の圧力が一定に維持される。ベントガス24は、凝縮器4b~6bよりプロセスから放出される。通常ベントガス24は、連続して排出される。これらのベントガスには、不活性ガスと、ジボラン(B2H6)、トリクロロボラン(BCl3)、テトラボラン(B4H10)のような沸点の低い種々のホウ素化合物とが含有される。そのため、沸点の低いホウ素化合物は、蒸留ユニット4~6から不活性ガスとともに排出される。凝縮器4b~6bおよび蒸留塔4a~6a内部の圧力は、TCSライン22内に不活性ガスを加えることにより上昇するため、PIC-Vは開放されたままとなる。凝縮したTCSは、ポンプ4d~6dにより蒸留塔へと還流される。凝縮したTCSの一部は、次の蒸留塔へと供給されてもよく、蒸留塔の数に応じて蒸留が繰り返される。最終的に精製され、凝縮したTCSが、ライン6gを経由して気化器7に供給される。」 (ウ)「1 流動層反応炉 2 トリクロロシラン(TCS)タンクユニット 2a トリクロロシラン(TCS)タンク 3 不活性ガス供給ユニット 4,5,6 蒸留ユニット 4e,5e,6e 圧力変換器 4f,5f,6f 圧力独立制御弁(PIC-V) 7 気化器 8 還元反応炉 22 トリクロロシラン(TCS)ライン 【図1】 [図:0001404793000007.jpg] 」 イ 甲2に記載の事項 (ア)「【請求項1】 TCS、DCS及びSTCを含むクロロシランからなるホウ素含有混合物を準備する工程、及び複数の蒸留塔中でクロロシランからなる前記混合物を蒸留により精製する工程を有し、低沸点のホウ素化合物を、ホウ素濃度が高められたDCSを含む塔頂流によって前記蒸留塔から分流し、及び高沸点のホウ素化合物を、高沸点物を含むホウ素濃度が高められた塔底流によって前記蒸留塔から分流する、クロロシランを蒸留により精製する方法。」 (イ)「【0001】 本発明は、クロロシランの蒸留による製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 例えば光起電力又は半導体工業において使用される多結晶シリコンの製造は、原料のトリクロロシラン(TCS)から出発する。 【0003】 このTCSは、主に3つの異なる方法によって製造される。 【0004】 A) Si + 3HCl → SiHCl3 + H2 +副生成物 B) Si + 3SiCl4 +2H2 → 4SiHCl3 + 副生成物 C) SiCl4 + H2 → SiHCl3 + HCl + 副生成物 これらのプロセスの場合に、他の副生成物又は不純物の他に、大量のジクロロシラン(DCS)が生じる。 【0005】 (A)による冶金学的シリコンの塩化水素処理の場合には、反応生成物中に約0.1~1.0%のDCSが含まれていることは公知である。 【0006】 (B)による冶金学的シリコンと四塩化ケイ素(STC)及び水素との反応は、特に、このプロセスのための触媒として銅を使用する場合に、原則として、反応生成物中に高いDCS含有量を生じさせる。 【0007】 (C)によるSTCの水素化の場合でも、反応生成物中に0.05~1.0%のDCSが見られる。 【0008】 DCSはそれ自体、半導体工業においてシリコンの堆積のためにも、有機官能性シランの製造のためにも使用することができる有用な生成物である。 【0009】 ただし、このことは、極めて高い純度を前提としている。例えば、半導体に適用するために、<10pptaのホウ素の濃度であるのが好ましい。 ・・・ 【0048】 350~400℃で流動層反応器中で市販の冶金学的シリコンをHClと反応させることにより得られた、TCS 86%、STC 13.5%、DCS 0.3%、ホウ素 3.2ppm並びに微量の他の不純物(メチルクロロシラン、炭化水素、高沸点物、例えばシロキサン及びジシラン)を含有するクロロシラン1(図1)からの混合物を、分離塔2に供給する。 【0049】 この場合、塔パラメータを、塔頂生成物3中にSTCが10ppm未満含まれ、塔底生成物4中にTCSが10ppm未満含まれるように選択する。 【0050】 この塔底生成物4を更なる塔5に供給し、そこでSTCの留分5aと高沸点物(例えばシロキサン、ジシラン、メチルトリクロロシラン及び場合による金属塩化物)の留分5bとに分離する。 【0051】 この高沸点の化合物5bを連続的に又はバッチ式で塔底から取り出すことができる、それというのもこの高沸点の化合物5bは、全体量の約1%だけに過ぎないためである。 【0052】 この塔2の塔頂生成物3は次の塔6中で、精製されたTCSを含む留分6bと、TCSの他に低沸点物を含む留分6aとを分離する。 【0053】 TCSを含む汚染されたDCSの複数の付加的な流がTCSよりも低い沸点を有する成分を無視できるほどわずかな量で含有する場合に限り、塔2からの塔頂生成物3に、塔6の前方で、このTCSを含む汚染されたDCSの複数の付加的な流れを導入することができる。 【0054】 この留分6bは更なる後処理のために提供される。 【0055】 この留分6aは、DCSの他に、なおかなりの量のTCS及び低沸点の不純物、例えばBCl3を含有する。 【0056】 この留分は付加的な塔7に供給され、特に有利な実施態様の場合に、付加的に不活性ガスを供給することができる。塔7は技術的に、前記塔7が過圧で運転できるように構成されている。 【0057】 塔7からの塔底生成物7bは、塔2中で使用するために再び返送される。 【0058】 塔7からの、かなりの量のホウ素を含有する排ガス7cは、スクラバーを介して更なる廃棄処理に供給することができる。 【0059】 塔7からの塔頂生成物7aは、DCSの他にホウ素不純物の大部分を含有する。 【0060】 この流は、従って、この系からホウ素不純物を効果的な付加的搬出のために用いられる。 ・・・ 【0081】 実施例3 低沸点物含有のTCS留分3を塔6中で蒸留し、この場合、塔頂の取り出しは、塔頂生成物6a中に10%のDCS濃度が生じるように選択した。 【0082】 6a中には88ppmのホウ素濃度が見られ、この塔の塔底生成物6bは、ホウ素 17ppbwを含有していた。 【0083】 記載された方法により、低沸点のホウ素化合物の99%を越える量を、塔頂生成物を介して分離することに成功した。 【0084】 このDCS含有留分6bを塔7中で、0.1~2.5barの過圧で蒸留した。 【0085】 塔底生成物7b中で、DCS<10ppm及びホウ素 2.6ppmを有する純粋なTCSが得られた。この生成物を、塔2に返送した。 【0086】 塔頂生成物7a中には、DCS 99.4%、モノクロロシラン 0.6%並びにホウ素 770ppmが見られた。 【0087】 全ての不純物の分離後に、このクロロシラン混合物1から、ホウ素 20ppb未満の純粋なTCS約83%を製造することができた。 【0088】 TCS留分7bの返送により、この収率は86%に高められた。 【0089】 更に、出発混合物の量に対して約13%のSTC留分5a(1ppmのホウ素含有量を有する)、及び出発混合物の量に対して0.3%のDCS留分7a(ホウ素 約770ppmを有する)が生じた。 【0090】 実施例4 低沸点物を含有するTCS留分3を、実施例3に記載されたように蒸留した。 【0091】 ただし、DCSを含有する、塔7への供給流6aに、更に、H2O 1ppmvより少ない残留水分を有する窒素6cを20m3/hで供給した。 【0092】 不活性ガスとして、Ar又はH2を使用することもできる。 【0093】 不活性ガスの供給する箇所は、流入箇所に行うか又は塔自体に行うこともできる。この実施例の場合には、不活性ガスを流入箇所に搬入した。」 (ウ)「【図1】 [図:0001404793000008.jpg] 」 (2)甲1に記載された発明 ア 上記(1)ア(ア)によれば、請求項5を引用する請求項7として、 「ホウ素化合物量を低減した多結晶シリコンの製造方法であって、 流動層反応炉においてトリクロロシランを含有する反応ガスを生成するために、金属級シリコンを塩化水素と反応させるステップと、 前記流動層反応炉から蒸留ユニットへと延設されたトリクロロシランラインへ、不活性ガスを供給するステップと、 ベントガスを連続的に排出しつつ、精製のためにトリクロロシランを蒸留するステップと、 多結晶シリコンをシリコン芯棒上に析出するステップとを備え、 蒸留後のトリクロロシランは、約0.030ppbwt未満のホウ素化合物に精製される、 多結晶シリコンの製造方法。」 が記載されている。 イ 上記アに記載した多結晶シリコンの製造方法において、中間生成物である「トリクロロシラン」の「精製」に着目すると、多結晶シリコンの製造方法は、 「前記流動層反応炉から蒸留ユニットへと延設されたトリクロロシランラインへ、不活性ガスを供給するステップと、 ベントガスを連続的に排出しつつ、精製のためにトリクロロシランを蒸留するステップと、を備え、 蒸留後のトリクロロシランは、約0.030ppbwt未満のホウ素化合物に精製される、 トリクロロシランの精製方法」 を包含しているといえる。 ウ 上記イの「トリクロロシランを蒸留するステップ」に関し、上記(1)ア(イ)には、「第1蒸留プロセスにおいて、第1蒸留塔の塔頂部の蒸留温度を、およそトリクロロシランの沸点とおよそ四塩化ケイ素の沸点との間に設定することにより、トリクロロシランを蒸発し、蒸気留分として分離する。より具体的には、96kPa(ゲージ圧)における蒸留塔頂部の温度を、約46℃(115°F)~約56℃(133°F)の間に設定する。蒸留プロセスにおいては、沸点の高いホウ素化合物、四塩化ケイ素(SiCl4、略称「STC」、沸点:57.6℃)、ポリマー、および「底部残留物」としての少量のTCSを分離する。プロセスからの蒸気蒸留物すなわち蒸気留分は、沸点すなわち沸騰温度の低いホウ素化合物、TCS、および少量のジクロロシラン(略称「DCS」、沸点:8.4℃)を含有する。」(【0013】)及び「その後、第2蒸留プロセスにおいては、蒸留塔頂部の蒸留温度が、およそジクロロシランの沸点とおよそトリクロロシランの沸点との間に設定される。つまり、第2蒸留塔頂部の温度は、125kPa(ゲージ圧)にて、約50℃(122°F)~約60℃(140°F)の間に設定されるのが好ましい。純粋なトリクロロシランが、蒸留により、第1蒸気留分より分離される。また沸点の低いホウ素化合物、DCS、および少量のTCSが第2蒸留プロセスでの蒸留物として分離される。 」(【0016】)との記載がある。 これら記載からは、「トリクロロシランを蒸留するステップ」が、具体的には、「第1蒸留プロセスにおいて」、「沸点すなわち沸騰温度の低いホウ素化合物、TCS、および少量のジクロロシラン」を「蒸気留分」として分離すると共に、「沸点の高いホウ素化合物、四塩化ケイ素」、「ポリマー」、「少量のTCS」を「底部残留物」として「分離」し、「第2蒸留プロセスにおいて」、「純粋なトリクロロシラン」を「蒸留により」「分離」し、「沸点の低いホウ素化合物、DCS、および少量のTCSが」「蒸留物として分離」されるものであることがわかる。 エ 上記イの「不活性ガス」に関し、上記(1)ア(イ)には「本発明においては、例えばHe、N2、Arのような不活性ガスを不活性ガス供給ユニットを経由して、TCS1kg当り約1.7×10-4Nm3の流量(もしくはTCS1kg当り約1.0×10-5Nm3~約3.3×10-4Nm3の範囲の流量)でTCSラインへ供給する。 」との記載があることから、「不活性ガス」を「TCS1kg当り約1.7×10-4Nm3の流量」で供給していることがわかる。(当審注:TCSはトリクロロシランの略である。) オ 上記イの「トリクロロシランを蒸留するステップ」に関し、上記(1)ア(イ)には、「第1蒸留プロセスにおいて、第1蒸留塔の塔頂部の蒸留温度を、およそトリクロロシランの沸点とおよそ四塩化ケイ素の沸点との間に設定することにより、トリクロロシランを蒸発し、蒸気留分として分離する。より具体的には、96kPa(ゲージ圧)における蒸留塔頂部の温度を、約46℃(115°F)~約56℃(133°F)の間に設定する。」(【0013】)及び「その後、第2蒸留プロセスにおいては、蒸留塔頂部の蒸留温度が、およそジクロロシランの沸点とおよそトリクロロシランの沸点との間に設定される。つまり、第2蒸留塔頂部の温度は、125kPa(ゲージ圧)にて、約50℃(122°F)~約60℃(140°F)の間に設定されるのが好ましい。」(【0016】)との記載がある。 これら記載からは、「第1蒸留プロセスにおいて」「蒸留塔頂部の温度を、約46℃(115°F)~約56℃(133°F)の間に設定」し、「第2蒸留プロセスにおいて」「第2蒸留塔頂部の温度」を「約50℃(122°F)~約60℃(140°F)の間に設定」することがわかる。 カ 上記イの「不活性ガス」に関し、上記(1)ア(ア)には、不活性ガスが「Arガス」(【請求項6】)であることが記載されている。 キ 上記ウの「第1蒸留プロセス」について、上記(1)ア(イ)の【0014】には「蒸気留分は凝縮器に供給され、液体へと凝縮され」、「凝縮されたTCSは、ポンプにより蒸留塔へと還流される」ことが記載されている。 ク 上記ア~キを踏まえると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「流動層反応炉から蒸留ユニットへと延設されたトリクロロシランラインへ、不活性ガスを供給するステップと、 ベントガスを連続的に排出しつつ、精製のためにトリクロロシランを蒸留するステップと、を備え、 蒸留後のトリクロロシランは、約0.030ppbwt未満のホウ素化合物に精製され、 前記トリクロロシランを蒸留するステップが、沸点すなわち沸騰温度の低いホウ素化合物、トリクロロシラン(TCS)、および少量のジクロロシランを蒸気留分として分離すると共に、沸点の高いホウ素化合物、四塩化ケイ素、ポリマー、少量のトリクロロシラン(TCS)を底部残留物として分離する第1蒸留プロセスと、純粋なトリクロロシランを蒸留により分離し、沸点の低いホウ素化合物、DCS、および少量のトリクロロシラン(TCS)を蒸留物として分離する第2蒸留プロセスとからなり、 前記不活性ガスをトリクロロシラン(TCS)1kg当り約1.7×10-4Nm3の流量で供給し、 前記第1蒸留プロセスにおいて蒸留塔頂部の温度を、約46℃(115°F)~約56℃(133°F)の間に設定し、前記第2蒸留プロセスにおいて第2蒸留塔頂部の温度を約50℃(122°F)~約60℃(140°F)の間に設定し、 前記不活性ガスがArガスであり、 前記第1蒸留プロセスにおいて、蒸気留分は凝縮器に供給され、液体へと凝縮され、凝縮されたトリクロロシラン(TCS)は、ポンプにより蒸留塔へと還流される、 トリクロロシランの精製方法」 (3)本件発明1について ア 対比 (ア)甲1発明の蒸留前の「トリクロロシラン」は、第1蒸留プロセスにより少量のジクロロシランが分離される(【0013】)。つまり、甲1発明の蒸留前の「トリクロロシラン」は、少量のジクロロシランを含んでいるものであるので、本件発明1の「ジクロロシランを含むシラン系ガス」に相当する。 (イ)甲1発明の「不活性ガス」は「Arガス」である。他方、本件発明1の【0030】には「不活性ガスは、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素、水素の何れかのガス若しくはこれらの何れかの混合ガスである」との記載があり「アルゴン」が含まれている。そのため、甲1発明の「不活性ガス」は、本件発明1の「不活性ガス」に相当する。 (ウ)甲1発明は「流動層反応炉から蒸留ユニットへと延設されたトリクロロシランラインへ、不活性ガスを供給するステップ」を有している。ここで、トリクロロシランライン内には、トリクロロシランが流れているため、供給された不活性ガスとトリクロロシランとが接触することは明らかである。 加えて、甲1発明の「トリクロロシラン」が、本件発明1の「シラン系ガス」に相当することは、上記(ア)で述べたとおりである。 そのため、甲1発明の「流動層反応炉から蒸留ユニットへと延設されたトリクロロシランラインへ、不活性ガスを供給」し(、不活性ガスとトリクロロシランとが接触する)「ステップ」は、本件発明1の「不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ」に相当する。 (エ)甲1発明は、「蒸気留分」を「凝縮器に供給」し、「液体へと凝縮」し、「凝縮されたTCS」を「ポンプにより蒸留塔へと還流」する構成を備えている。 ここで、「蒸気留分」は「沸点すなわち沸騰温度の低いホウ素化合物」、「トリクロロシラン」、「少量のジクロロシラン」「を含有」(【0013】)しているものであるので、本件発明1の「シラン系ガス」に相当する。 そのため、甲1発明の、「蒸気留分」を「凝縮器に供給」し、「液体へと凝縮」し、「凝縮されたTCS」を「ポンプにより蒸留塔へと還流」する点は、本件発明1の「シラン系ガスを蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程」に相当する。 (オ)甲1発明の「トリクロロシランの精製方法」と本件発明1の「ジクロロシランの精製方法」は「精製方法」である点で共通する。 (カ)上記(ア)~(オ)によると、本件発明1と甲1発明は 「シラン系ガスを蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程を含み、 不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと不活性ガスとを接触させる、 精製方法。」 の点で一致し、以下の点で一応相違する。 <相違点1> 本件発明1が、「ジクロロシランを含むシラン系ガスからジクロロシランを精製する方法」であるのに対し、甲1発明は、ジクロロシランを精製する方法ではなく、「トリクロロシランの精製方法」であり、精製対象が異なる点。 <相違点2> 本件発明1が、「シラン系ガスからジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去する蒸留精製工程を備え」るのに対し、甲1発明は、「トリクロロシラン」よりも「沸点の低い」、すなわち蒸気圧の高い不純物を除去する「第1蒸留プロセス」及び「第2蒸留プロセス」を備えるものの、ジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去する蒸留精製工程は備えていない点。 <相違点3> 本件発明1は、蒸留精製工程が、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程を含むのに対し、甲1発明は、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程を備えていない点。 <相違点4> 本件発明1では、不活性ガスの供給量が、還流工程における還流量と缶出戻し工程における戻し量との総和に対して、精製対象であるシラン系ガスに対する比率で0.2mol%以上30mol%以下であるのに対し、甲1発明では、不活性ガスの供給量は、トリクロロシラン(TCS)1kg当り約1.7×10-4Nm3である点。 <相違点5> 本件発明1では、蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下であるのに対し、甲1発明では、第1蒸留プロセスにおいて蒸留塔頂部の温度を、約46℃(115°F)~約56℃(133°F)の間に設定し、第2蒸留プロセスにおいて第2蒸留塔頂部の温度を約50℃(122°F)~約60℃(140°F)の間に設定する点。 イ 判断 事案に鑑み、前記ア(カ)の相違点1から検討する。 甲1発明は、「ホウ素化合物量を低減した多結晶シリコンの製造装置及び製造方法を提供すること」(【0008】)を課題としており、多結晶シリコンは、「トリクロロシランと水素ガスの反応により生成される」(【0002】)ものであるため、多結晶シリコンの製造の中途過程において、トリクロロシランの精製を行っているものである。 つまり、甲1発明において必要とされているのは、多結晶シリコンの材料であるところの、(精製された)トリクロロシランであって、ジクロロシランではない。 加えて、甲1の【0016】には、ジクロロシラン(DCS)が、沸点の低いホウ素化合物と共に蒸留物として分離される点が記載されていることから、甲1発明では、ジクロロシランは、精製すべき対象ではなく、不純物の一種と見做されていることがわかる。 そのため、甲1発明において、精製対象を、トリクロロシランから、あえて不純物であるジクロロシランに変更することを動機付けるような事情は存在しない。 そうすると、甲2の記載事項にかかわらず、上記相違点1に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。 念のため、甲2について検討すると、甲2には、トリクロロシラン(TCS)、ジクロロシラン(DCS)、四塩化ケイ素(STC)を含むクロロシランからなるホウ素含有混合物を蒸留し、純粋なトリクロロシランを得ると共に、ホウ素濃度の高められたジクロロシランを排出する、精製方法、が記載されている。甲2では、精製されているのはトリクロロシランであり、ジクロロシランは、精製とは真逆に、不純物(ホウ素)濃度が高められて排出されるものである。そのため、甲1発明に甲2に記載の事項を適用したとしても、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らない。 してみれば、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)小括 本件発明1は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明2について ア 対比 (ア)甲1発明の蒸留前の「トリクロロシラン」は、第1蒸留プロセスにより少量のジクロロシランが分離される(【0013】)。つまり、甲1発明の蒸留前の「トリクロロシラン」は、少量のジクロロシランを含んでいるものであるので、本件発明2の「ジクロロシランを含むシラン系ガス」に相当する。 (イ)甲1発明の「不活性ガス」は「Arガス」である。他方、本件発明2の【0030】には「不活性ガスは、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素、水素の何れかのガス若しくはこれらの何れかの混合ガスである」との記載があり「アルゴン」が含まれている。そのため、甲1発明の「不活性ガス」は、本件発明2の「不活性ガス」に相当する。 (ウ)甲1発明は「流動層反応炉から蒸留ユニットへと延設されたトリクロロシランラインへ、不活性ガスを供給するステップ」を有している。ここで、トリクロロシランライン内には、トリクロロシランが流れているため、供給された不活性ガスとトリクロロシランとが接触することは明らかである。 加えて、甲1発明の「トリクロロシラン」が、本件発明2の「シラン系ガス」に相当することは、上記(ア)で述べたとおりである。 そのため、甲1発明の「流動層反応炉から蒸留ユニットへと延設されたトリクロロシランラインへ、不活性ガスを供給」し(、不活性ガスとトリクロロシランとが接触する)「ステップ」は、本件発明2の「不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ」に相当する。 (エ)甲1発明は、「蒸気留分」を「凝縮器に供給」し、「液体へと凝縮」し、「凝縮されたTCS」を「ポンプにより蒸留塔へと還流」する構成を備えている。 ここで、「蒸気留分」は「沸点すなわち沸騰温度の低いホウ素化合物」、「トリクロロシラン」、「少量のジクロロシラン」「を含有」(【0013】)しているものであるので、本件発明2の「シラン系ガス」に相当する。 そのため、甲1発明の、「蒸気留分」を「凝縮器に供給」し、「液体へと凝縮」し、「凝縮されたTCS」を「ポンプにより蒸留塔へと還流」する点は、本件発明2の「シラン系ガスを蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程」に相当する。 (オ)甲1発明の「トリクロロシランの精製方法」と本件発明2の「ジクロロシランの精製方法」は「精製方法」である点で共通する。 (カ)上記(ア)~(オ)によると、本件発明2と甲1発明は 「シラン系ガスを蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程を含み、 不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと不活性ガスとを接触させる、 精製方法。」 の点で一致し、以下の点で一応相違する。 <相違点6> 本件発明2が、「ジクロロシランを含むシラン系ガスからジクロロシランを精製する方法」であるのに対し、甲1発明は、ジクロロシランを精製する方法ではなく、「トリクロロシランの精製方法」であり、精製対象が異なる点。 <相違点7> 本件発明2が、「シラン系ガスからジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去する蒸留精製工程を備え」るのに対し、甲1発明は、「トリクロロシラン」よりも「沸点の低い」、すなわち蒸気圧の高い不純物を除去する「第1蒸留プロセス」及び「第2蒸留プロセス」を備えるものの、ジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去する蒸留精製工程は備えていない点。 <相違点8> 本件発明2は、蒸留精製工程が、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程を含むのに対し、甲1発明は、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程を備えていない点。 <相違点9> 本件発明2では、不活性ガスの供給量が、還流工程における還流量と缶出戻し工程における戻し量との総和に対して、精製対象であるシラン系ガスに対する比率で30mol%以下であるのに対し、甲1発明では、不活性ガスの供給量は、トリクロロシラン(TCS)1kg当り約1.7×10-4Nm3である点。 <相違点10> 本件発明2では、蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下であるのに対し、甲1発明では、第1蒸留プロセスにおいて蒸留塔頂部の温度を、約46℃(115°F)~約56℃(133°F)の間に設定し、第2蒸留プロセスにおいて第2蒸留塔頂部の温度を約50℃(122°F)~約60℃(140°F)の間に設定する点。 イ 判断 事案に鑑み、前記ア(カ)の相違点6から検討する。 相違点6は、上記(3)ア(カ)の相違点1と同様の相違点である。そのため、上記(3)イに記載した理由と同様の理由により、相違点6に係る本件発明2は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)小括 本件発明2は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)本件発明3について ア 対比 (ア)甲1発明の蒸留前の「トリクロロシラン」は、第1蒸留プロセスにより少量のジクロロシランが分離される(【0013】)。つまり、甲1発明の蒸留前の「トリクロロシラン」は、少量のジクロロシランを含んでいるものであるので、本件発明3の「ジクロロシランを含むシラン系ガス」に相当する。 (イ)甲1発明の「不活性ガス」は「Arガス」である。他方、本件発明2の【0030】には「不活性ガスは、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素、水素の何れかのガス若しくはこれらの何れかの混合ガスである」との記載があり「アルゴン」が含まれている。そのため、甲1発明の「不活性ガス」は、本件発明3の「不活性ガス」に相当する。 (ウ)甲1発明は「流動層反応炉から蒸留ユニットへと延設されたトリクロロシランラインへ、不活性ガスを供給するステップ」を有している。ここで、トリクロロシランライン内には、トリクロロシランが流れているため、供給された不活性ガスとトリクロロシランとが接触することは明らかである。 加えて、甲1発明の「トリクロロシラン」が、本件発明3の「シラン系ガス」に相当することは、上記(ア)で述べたとおりである。 そのため、甲1発明の「流動層反応炉から蒸留ユニットへと延設されたトリクロロシランラインへ、不活性ガスを供給」し(、不活性ガスとトリクロロシランとが接触する)「ステップ」は、本件発明3の「不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ」に相当する。 (エ)甲1発明の「トリクロロシランの精製方法」と本件発明3の「ジクロロシランの精製方法」は「精製方法」である点で共通する。 (オ)上記(ア)~(エ)によると、本件発明3と甲1発明は 「不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと不活性ガスとを接触させる、 精製方法。」 の点で一致し、以下の点で一応相違する。 <相違点11> 本件発明3が、「ジクロロシランを含むシラン系ガスからジクロロシランを精製する方法」であるのに対し、甲1発明は、ジクロロシランを精製する方法ではなく、「トリクロロシランの精製方法」であり、精製対象が異なる点。 <相違点12> 本件発明3が、「シラン系ガスからジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去する蒸留精製工程を備え」るのに対し、甲1発明は、「トリクロロシラン」よりも「沸点の低い」、すなわち蒸気圧の高い不純物を除去する「第1蒸留プロセス」及び「第2蒸留プロセス」を備えるものの、ジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去する蒸留精製工程は備えていない点。 <相違点13> 本件発明3では、不活性ガスの供給を、前記蒸留精製工程を実施する蒸留塔のガス導入口からガス排出口に至る経路中の、前記シラン系ガス中に占めるジクロロシランの割合が90wt%を超える地点よりも上流側で実行しているのに対し、甲1発明では、不活性ガスを供給してはいるものの、供給箇所とガス中のジクロロシランの割合の関係は特定されていない点。 <相違点14> 本件発明3では、蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下であるのに対し、甲1発明では、第1蒸留プロセスにおいて蒸留塔頂部の温度を、約46℃(115°F)~約56℃(133°F)の間に設定し、第2蒸留プロセスにおいて第2蒸留塔頂部の温度を約50℃(122°F)~約60℃(140°F)の間に設定する点。 イ 判断 事案に鑑み、前記ア(カ)の相違点11から検討する。 相違点11は、上記(3)ア(カ)の相違点1と同様の相違点である。そのため、上記(3)イに記載した理由と同様の理由により、相違点11に係る本件発明3は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)小括 本件発明3は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (6)本件発明4~7について 本件発明4~7はいずれも本件発明1~3のいずれかを直接又は間接的に引用し、本件発明1~3のいずれかの構成をすべて具備するものであるから、本件発明1~3と同様に、本件発明4~7は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2に記載される技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。 (7)本件発明8について ア 対比 (ア)甲1発明の蒸留前の「トリクロロシラン」は、第1蒸留プロセスにより少量のジクロロシランが分離される(【0013】)。つまり、甲1発明の蒸留前の「トリクロロシラン」は、少量のジクロロシランを含んでいるものであるので、本件発明8の「ジクロロシランを含むシラン系ガス」に相当する。 (イ)甲1発明の「不活性ガス」は「Arガス」である。他方、本件発明2の【0030】には「不活性ガスは、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素、水素の何れかのガス若しくはこれらの何れかの混合ガスである」との記載があり「アルゴン」が含まれている。そのため、甲1発明の「不活性ガス」は、本件発明8の「不活性ガス」に相当する。 (ウ)甲1発明は「流動層反応炉から蒸留ユニットへと延設されたトリクロロシランラインへ、不活性ガスを供給するステップ」を有している。ここで、トリクロロシランライン内には、トリクロロシランが流れているため、供給された不活性ガスとトリクロロシランとが接触することは明らかである。 加えて、甲1発明の「トリクロロシラン」が、本件発明8の「シラン系ガス」に相当することは、上記(ア)で述べたとおりである。 そのため、甲1発明の「流動層反応炉から蒸留ユニットへと延設されたトリクロロシランラインへ、不活性ガスを供給」し(、不活性ガスとトリクロロシランとが接触する)「ステップ」は、本件発明8の「不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと前記不活性ガスとを接触させ」に相当する。 (エ)甲1発明は、「蒸気留分」を「凝縮器に供給」し、「液体へと凝縮」し、「凝縮されたTCS」を「ポンプにより蒸留塔へと還流」する構成を備えている。 ここで、「蒸気留分」は「沸点すなわち沸騰温度の低いホウ素化合物」、「トリクロロシラン」、「少量のジクロロシラン」「を含有」(【0013】)しているものであるので、本件発明8の「シラン系ガス」に相当する。 そのため、甲1発明の、「蒸気留分」を「凝縮器に供給」し、「液体へと凝縮」し、「凝縮されたTCS」を「ポンプにより蒸留塔へと還流」する点は、本件発明8の「シラン系ガスを」「蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程」に相当する。 (オ)甲1発明の「トリクロロシランの精製方法」と本件発明2の「ジクロロシランの精製方法」は「精製方法」である点で共通する。 (カ)甲1発明の「流動層反応炉から蒸留ユニットへと延設されたトリクロロシランライン」は、「流動層反応炉から蒸留ユニット」へと「トリクロロシラン」を供給するラインである、そのため、甲1発明の、「トリクロロシランライン」により、「流動層反応炉から蒸留ユニット」へと「トリクロロシラン」を供給する点は、本件発明8の「シラン系ガスを、シラン系ガス供給口から供給する工程」に相当する。 (キ)上記(ア)~(カ)によると、本件発明8と甲1発明は 「シラン系ガスを、シラン系ガス供給口から供給する工程と、蒸留塔から凝縮器を介して蒸留塔に戻す還流工程とを含み、 不活性ガスを供給して、前記シラン系ガスと不活性ガスとを接触させる、 精製方法。」 の点で一致し、以下の点で一応相違する。 <相違点15> 本件発明8が、「ジクロロシランを含むシラン系ガスからジクロロシランを精製する方法」であるのに対し、甲1発明は、ジクロロシランを精製する方法ではなく、「トリクロロシランの精製方法」であり、精製対象が異なる点。 <相違点16> 本件発明8が、「シラン系ガスからジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去する蒸留精製工程を備え」るのに対し、甲1発明は、「トリクロロシラン」よりも「沸点の低い」、すなわち蒸気圧の高い不純物を除去する「第1蒸留プロセス」及び「第2蒸留プロセス」を備えるものの、ジクロロシランよりも蒸気圧の高い不純物を除去する蒸留精製工程は備えていない点。 <相違点17> 本件発明8は、蒸留精製工程が、シラン系ガスを、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程を含むのに対し、甲1発明は、蒸留塔から供給側の流路に送液する缶出戻し工程を備えていない点。 <相違点18> 本件発明8では、不活性ガスの供給量は、シラン系ガス供給口から供給される量、還流工程における還流量及び缶出戻し工程における戻し量との総和に対して、精製対象であるシラン系ガスに対する比率で30mol%以下であるのに対し、甲1発明では、不活性ガスの供給量は、トリクロロシラン(TCS)1kg当り約1.7×10-4Nm3である点。 <相違点19> 本件発明8では、蒸留精製工程を実施する蒸留塔の塔頂の温度が25℃以下であるのに対し、甲1発明では、第1蒸留プロセスにおいて蒸留塔頂部の温度を、約46℃(115°F)~約56℃(133°F)の間に設定し、第2蒸留プロセスにおいて第2蒸留塔頂部の温度を約50℃(122°F)~約60℃(140°F)の間に設定する点。 イ 判断 事案に鑑み、前記ア(カ)の相違点15から検討する。 相違点15は、上記(3)ア(カ)の相違点1と同様の相違点である。そのため、上記(3)イに記載した理由と同様の理由により、相違点15に係る本件発明8は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)小括 本件発明8は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (8)本件発明9~12について 本件発明9~12はいずれも本件発明1~3、8のいずれかを直接又は間接的に引用し、本件発明1~3、8のいずれかの構成をすべて具備するものであるから、本件発明1~3、8と同様に、本件発明9~12は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2に記載される技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。 第6 むすび 上記第5で検討したとおり、本件特許1~12は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとも、同法第36条第6項第1号及び第2号並びに同法同条第4項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1~2及び申立理由1~3では、本件特許1~12を取り消すことはできない。 また、他に本件特許1~12を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-701305

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