特許異議申立
2016-700041
感圧接着剤
- 審判番号
- 2016-700041
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2011-552382
- 登録番号
- 特許第5753103号(P5753103)
- 請求日
- 2016年01月21日
- 審決日
- 2017年05月25日
- 公報発行日
- 2017年08月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】テーザ・ソシエタス・ヨーロピア
- 【権利者代理人】江崎 光史
- 【権利者代理人】鍛冶澤 實
- 【権利者代理人】篠原 淳司
- 【権利者代理人】中村 真介
- 【権利者代理人】清田 栄章
- 【異議申立人】信越化学工業 株式会社
- 【異議申立人代理人】特許業務法人英明国際特許事務所
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 冨士 良宏
- 審判官 日比野 隆治
- 審判官 原 賢一
- 分類
- P1651.113-YAA(C09J) / P1651.121-YAA(C09J) / P1651.536-YAA(C09J) / P1651.537-YAA(C09J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条特許法36条4項1号特許法36条6項2号特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第3項、特許法第120条の5第7項、特許法第113条第4号、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5753103号発明「感圧接着剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5753103号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-18〕について訂正することを認める。
特許第5753103号の請求項1、3ないし7、9ないし12、14、15、17、18に係る特許を維持する。
特許第5753103号の請求項2、8、13、16に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯等
1 本件特許異議申立に係る特許
本件特許異議申立に係る特許第5753103号は、特許権者であるテーザ・ソシエタス・ヨーロピアより、平成22年2月16日(優先日:平成21年3月4日)、特願2011-552382号として出願され、平成27年5月29日、発明の名称を「感圧接着剤」、請求項の数を「18」として特許権の設定登録を受けたものである(以下、請求項1ないし18に係る特許をそれぞれ「本件特許1」ないし「本件特許18」といい、まとめて「本件特許」という。)。
2 手続の経緯
本件特許異議申立における手続の経緯は、おおよそ次のとおりである。
平成28年 1月21日 信越化学工業株式会社より特許異議申立
同年 1月22日 中川賢治より特許異議申立
同年 6月17日付 取消理由通知
同年 9月16日 意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
同年11月 1日 意見書の提出(信越化学工業株式会社)
同年11月 2日 意見書の提出(中川賢治)
同年12月21日付 取消理由通知
平成29年 4月 3日 意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
同年 4月28日 意見書の提出(中川賢治)
同年 5月 9日 意見書の提出(信越化学工業株式会社)
第2 訂正の適否
1 訂正事項
前記平成29年4月3日提出の訂正請求書による、特許請求の範囲についての訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1ないし18について訂正することを求めるものであり、その内容は次のとおりである。
なお、平成28年9月16日になされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げされたものとみなす。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「タッチパネルの接着および製造のための」とあるのを、「容量式タッチパネルの製造における、ITO膜間の、ITO膜と保護フィルムもしくは携帯電話ウィンドウとの間の、またはITO膜と背面補強プレートとの間の接着のための」と訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「ポリシロキサンをベースとする接着剤の使用であって、前記接着剤がASTM D 1003に従って86%を超える透過率およびASTM D 1003に従って5%未満のヘーズを有し」とあるのを、「ポリシロキサンをベースとする接着剤の使用であって、ITO膜が構造化された表面を持ち、接着材が50g/m2を超える量でおよび50~200μmの厚さでITO膜の構造化された表面上に施与され、かつ前記接着剤がASTM D 1003に従って86%を超える透過率およびASTM D 1003に従って5%未満のヘーズを有し」と訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「前記接着剤が感圧接着剤であり、および」という要件を追加する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2に記載の使用」とあるのを、「請求項1に記載の使用」と訂正する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5のいずれか一つに記載の使用」とあるのを、「請求項1、3、4および5のいずれか一つに記載の使用」と訂正する。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~8のいずれか一つに記載の使用」とあるのを、「請求項1、3、4、5、6および7のいずれか一つに記載の使用」と訂正する。
(9) 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項11に「前記オルガノポリシロキサンと前記オルガノポリシロキサン樹脂との比が、」とあるのを、「前記オルガノポリシロキサンa)と前記オルガノポリシロキサンb)樹脂との比が、」と訂正する。
(10) 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1~10のいずれか一つに記載の使用」とあるのを、「請求項1、3、4、5、6、7、9および10のいずれか一つに記載の使用」と訂正する。
(11) 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項12に「前記オルガノポリシロキサンと前記オルガノポリシロキサン樹脂との比が、」とあるのを、「前記オルガノポリシロキサンa)と前記オルガノポリシロキサンb)樹脂との比が、」と訂正する。
(12) 訂正事項12
特許請求の範囲の請求項13を削除する。
(13) 訂正事項13
特許請求の範囲の請求項14に「請求項1~13のいずれか一つに記載の使用」とあるのを、「請求項1、3、4、5、6、7、9、10、11および12のいずれか一つに記載の使用」と訂正する。
(14) 訂正事項14
特許請求の範囲の請求項16を削除する。
(15) 訂正事項15
特許請求の範囲の請求項18に、「請求項15~17のいずれか一つに記載の使用」とあるのを、「請求項15または17に記載の使用」と訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1~8、10、12~15について
訂正事項1~3は、本件特許明細書の【0050】、【0051】、【0053】、【図5】の記載及び訂正前の【請求項2】、【請求項13】の記載に基づいて、訂正前の接着剤の使用形態及び種類をさらに限定するものである。
また、訂正事項4、7、12、14は、請求項を削除するものであるとともに、訂正事項5、6、8、10、13、15は、当該請求項の削除に伴い、引用請求項の選択肢を限定するものである。
したがって、これらの訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものと認められる。
(2) 訂正事項9、11について
訂正事項9、11は、訂正前の請求項11、12記載のオルガノポリシロキサン及びオルガノポリシロキサン樹脂と、請求項1記載の成分との対応関係を明確化するものである。
したがって、これらの訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。
3 小括
前記2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1ないし18について訂正を求めるものであり、その訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし18について訂正することを認める。
第3 本件特許請求の範囲の記載
前記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし18の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
容量式タッチパネルの製造における、ITO膜間の、ITO膜と保護フィルムもしくは携帯電話ウィンドウとの間の、またはITO膜と背面補強プレートとの間の接着のためのポリシロキサンをベースとする接着剤の使用であって、ITO膜が構造化された表面を持ち、接着材が50g/m2を超える量でおよび50~200μmの厚さでITO膜の構造化された表面上に施与され、かつ前記接着剤がASTM D 1003に従って86%を超える透過率およびASTM D 1003に従って5%未満のヘーズを有し、
前記接着剤が感圧接着剤であり、および
前記接着剤が、以下の成分、すなわち
a)少なくとも1つのジオルガノシロキサン単位を有するヒドロキシ官能化オルガノポリシロキサン、
b)式:(R13SiO1/2)x(SiO4/2)1を有するオルガノポリシロキサン樹脂(式中、R1は置換または非置換の一価炭化水素基、水素原子またはヒドロキシ基であり、xは0.5~1.2の間の数である)、
c)場合によって、安定剤、
d)場合によって、開始剤
を有する縮合架橋性シリコーンをベースとするか、または
前記接着剤が、以下の成分、すなわち
a)少なくとも1つのジオルガノシロキサン単位および各分子中に少なくとも2つのケイ素結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、
b)式:(R13SiO1/2)x(SiO4/2)1を有するオルガノポリシロキサン樹脂(式中、R1は、置換または非置換の一価炭化水素基、水素原子またはヒドロキシ基であり、xは、0.5~1.2の数である)、
c)各分子中に少なくとも平均2個のケイ素結合水素原子を有し、但し成分b)とは異なるオルガノポリシロキサン、
d)元素周期表の第10族の有機金属触媒、
e)場合によって、インヒビター
を有する付加架橋性シリコーンをベースとし、
ここで、前記オルガノポリシロキサンc)はオレフィン系二重結合を含まず、このオルガノポリシロキサンの量が、前記成分a)、b)および含有される場合にはe)の全アルケニル基1モル当たり0.01~10モルのケイ素結合水素原子が存在するように選択されているオルガノポリシロキサンである、
使用。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
接着剤が縮合架橋性シリコーンをベースとする場合に、前記接着剤に、ペルオキソ開始剤が配合されていることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記ペルオキソ開始剤が過酸化ベンゾイルであることを特徴とする、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記ペルオキソ開始剤が、前記接着剤の固体成分に対して0.2~5重量%の量で使用されていることを特徴とする、請求項3または4に記載の使用。
【請求項6】
前記接着剤が、化学線で架橋されることを特徴とする、請求項1、3、4および5のいずれか一つに記載の使用。
【請求項7】
前記化学線が、少なくとも10kGyの線量の電子線であることを特徴とする、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
前記オルガノポリシロキサン樹脂(MQ樹脂)の重量平均分子量MWが、500g/mol~100000g/molの範囲であることを特徴とする、請求項1、3、4、5、6および7のいずれか一つに記載の使用。
【請求項10】
前記オルガノポリシロキサン樹脂(MQ樹脂)の重量平均分子量MWが、1000g/mol~25000g/molの範囲であることを特徴とする、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記オルガノポリシロキサンa)と前記オルガノポリシロキサン樹脂b)との比が、重量パーセントで20:80~80:20の範囲であることを特徴とする、請求項1、3、4、5、6、7、9および10のいずれか一つに記載の使用。
【請求項12】
前記オルガノポリシロキサンa)と前記オルガノポリシロキサン樹脂b)との比が、重量パーセントで30:70~60:40の範囲であることを特徴とする、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
前記接着剤が接着テープの形態で提供されることを特徴とする、請求項1、3、4、5、6、7、9、10、11および12のいずれか一つに記載の使用。
【請求項15】
前記接着テープが少なくとも1つの接着層を有する、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
(削除)
【請求項17】
前記接着層が50~100μmの範囲の層厚を有し、または前記接着層が150~200μmの範囲の層厚を有することを特徴とする、請求項15に記載の使用。
【請求項18】
前記接着層が、1回のコーティングステップのみで製造されることを特徴とする、請求項15または17に記載の使用。」
(以下、各請求項に記載された事項により特定される発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明18」といい、それらを総称して「本件発明」という。)
第4 平成28年12月21日付け取消理由通知に記載した取消理由(記載不備)について
1 取消理由(記載不備)の概要
当審は、本件特許は特許法第36条第6項第2号、同条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件(明確性要件、実施可能要件、サポート要件)を満たしていない特許出願に対してされたものである、と判断した。
その理由は、おおむね次のとおりであった。
(1) 本件訂正前の請求項1に記載された「タッチパネルの製造におけるITO膜の接着のためのポリシロキサンをベースとする接着剤の使用であって、ITO膜が構造化された表面を持ち、接着材が50g/m2を超える量で及び50~200μmの厚さでITO膜の構造化された表面上に施与され、かつ前記接着剤がASTM D 1003に従って86%を超える透過率およびASTM D 1003に従って5%未満のヘーズを有し」は、接着剤の接着対象、すなわち、ITO膜とどのような部材とを接着するのか、及び、当該ITO膜の「構造化された表面」の意図するところが判然としないため、特許を受けようとする発明を明確に記載したものとはいえない(明確性要件違反)。
(2) 本件訂正前の請求項1に係る発明は、タッチパネルの方式(容量式であるのか、抵抗式であるのか、あるいは両者を対象とするのか)やITO膜の接着形態(ITO膜を何と接着するのか)までを限定するものではないところ、発明の詳細な説明には、図5に示された形態、すなわち、容量式タッチパネルにおいて、構造化ITO膜8と構造化ITO膜8との間、及び、構造化ITO膜8と保護フィルムまたは形態電話ウィンドウ7との間などに、シリコーン系感圧接着剤層を設けた形態についての説明を認めることができるものの、それ以外の形態については、何ら説明がない上、これを実施することが可能であることを認めるに足りる技術常識も存しないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当該請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない(実施可能要件違反)。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、当該図5の容量式タッチパネルの形態以外の形態を前提するものであっても、当業者が本件発明の課題を解決できると認識することはできず、このような形態であっても、本件発明の課題を解決できることを示す、本件特許に係る出願当時の技術常識の存在を認めるに足りる証拠はない。したがって、本件発明の特許請求の範囲は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものということはできない(サポート要件違反)。
2 前記記載不備に関する取消理由についての判断
当審は、本件訂正により、前記記載不備に関する取消理由は解消したものと判断する。
その理由は以下のとおりである。
(1) 明確性要件について
本件訂正後の請求項1には、「容量式タッチパネルの製造における、ITO膜間の、ITO膜と保護フィルムもしくは携帯電話ウィンドウとの間の、またはITO膜と背面補強プレートとの間の接着のためのポリシロキサンをベースとする接着剤の使用であって、ITO膜が構造化された表面を持ち、接着材が50g/m2を超える量でおよび50~200μmの厚さでITO膜の構造化された表面上に施与され、かつ前記接着剤がASTM D 1003に従って86%を超える透過率およびASTM D 1003に従って5%未満のヘーズを有し」と記載されているから、ITO膜の接着対象は明らかであり、この点に不明確なところは見当たらない。また、ITO膜の「構造化された表面」については、一般に、容量式のタッチパネルにおいては、パターニングされたITO膜(透明導電膜)が使用されていることを斟酌すると(乙第9号証として提出された特開2007-272259号公報の【図1】、【図3】、【図4】などを参照)、当該「構造化された表面」とは、単に、パターニングされたITO膜のことを指すものと解するのが妥当であり、上記本件訂正後の記載は、このパターニングされたITO膜上に、接着剤を施与することを意図したものと捉えるのが合理的である。
したがって、本件訂正の請求項1の記載には、明確性要件違反というほどの記載不備はないというべきである。
(2) 実施可能要件・サポート要件について
本件訂正により、請求項1に係る発明における、タッチパネルの方式及びITO膜の接着形態は、発明の詳細な説明に記載された図5の形態(容量式タッチパネル)に限定されたため、当該図5以外の形態に関する実施可能要件違反・サポート要件違反は存しない。
なお、異議申立人(中川賢治)は、平成29年4月28日付け意見書において、容量式タッチパネルには、表面型と投影型の2種類があり、容量式タッチパネルの意味するところが不明瞭である旨指摘するが、前記のとおり、本件訂正後の請求項1に記載された容量式タッチパネルは、パターニングされたITO膜を有し、これと特定の接着対象との間に、特定のシリコーン系感圧接着剤層が設けられている形態を具備するものとして把握することができ、表面型か、投影型かの特定がないことにより、当該容量式タッチパネルの意味するところが不明確になっているとまではいえない。
第5 平成28年6月17日付け取消理由通知に記載した取消理由(新規性・進歩性、記載不備)について
1 取消理由(新規性・進歩性、記載不備)の概要
(1) 当審は、異議申立人が提出した証拠に基づき、本件発明は特許法第29条第1項第3号(新規性)に該当するか、同条第2項(進歩性)の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は同法第29条に違反してされたものである、と判断した。
(2) また、当審は、本件特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)を満たしていない特許出願に対してされたものである、と判断した。
明確性要件違反とした理由は、おおむね以下のとおりであった。
ア 本件訂正前の請求項11、12には、「オルガノポリシロキサンと前記オルガノポリシロキサン樹脂との比」について記載されているところ、これらの請求項が直接的あるいは間接的に引用する請求項1には、付加架橋性シリコーンの場合に2つのオルガノポリシロキサンが存在するから、当該請求項11、12に記載された「オルガノポリシロキサン」がどのオルガノポリシロキサンを意図したものかが明確でない。
イ 請求項13に記載された「微細構造化表面」の意図するところが明確でない。
2 新規性・進歩性に関する取消理由についての判断
(1) 証拠類
本件特許については、信越化学工業株式会社及び中川賢治から特許異議の申立てがなされており、両者が提出した証拠類は以下のとおりである(前者からの証拠を甲1-1などとし、後者からの証拠を甲2-1などとして整理した。)。
甲1-1 :特開2006-152266号公報
甲1-2 :信越化学工業株式会社 シリコーン電子材料技術研究所 第一部開発室 黒田泰嘉による実験成績証明書
甲1-2-2:エイキット株式会社 神奈川事業所による試験報告書
甲1-3 :特開2003-122503号公報
甲1-4 :特表2004-536940号公報
甲1-5 :特開2004-225005号公報
甲1-6 :「粘着ハンドブック(第3版)」(2005年10月1日 発行)、日本粘着テープ工業会編集・発行、第2、3、 42~45頁
甲1-7 :特開2007-191637号公報
甲1-8 :特開2002-275450号公報
甲1-9 :特開2007-133839号公報
甲2-1 :特表2004-503028号公報
甲2-2 :「SR1000 MQ RESIN」(2009年1月 29日、URL「http://www.gesilicones.com/
siliconesweb/aml/en/documents/datasheets.html」か
ら入手)
甲2-3 :特開2004-101851号公報
甲2-4 :特開2006-152266号公報(甲1-1と同じ)
甲2-5 :特開2004-225005号公報
甲2-6 :特開平5-214316号公報
甲2-7 :特開2008-303253号公報
甲2-8 :特開平2-66908号公報
甲2-9 :特開2003-342542号公報
甲2-10 :特開2004-231723号公報
甲2-11 :特表2004-536940号公報(甲1-4と同じ)
甲2-12 :「シリコーン材料ハンドブック」(改訂版:1995年 8月発行)、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会 社編集・発行、第23-37頁
甲2-13 :日本接着学会誌、Vol.33、No.4、1997、 pp.17-22
甲2-14 :接着の技術誌、Vol.15、No.2、1995、p p.22-25
(2) 甲1-1の記載とそこに記載された発明(甲1-1発明)
ア 本件特許に係る出願の優先日(2009年3月4日)前に頒布された刊行物である甲1-1、すなわち、特開2006-152266号公報には、次の記載がある。
(ア) 「【請求項1】
基材フィルムと、該基材フィルムの片面上に形成された粘着層とを備え、該粘着層が(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するジオルガノポリシロキサン及び(C)SiH基を含有するポリオルガノシロキサンを含むシリコーン組成物から調製された粘着性フィルムにおいて、アルケニル基が(A)ジオルガノポリシロキサン100g中に0.0007~0.05モルで含まれ、及び、(C)SiH基を含有するポリオルガノシロキサンが、(A)成分中のアルケニル基に対するSiH基のモル比が0.5~20となる量で該組成物中に含有されていることを特徴とする粘着性フィルム。
【請求項2】
シリコーン組成物が、95~40質量部の(A)ジオルガノポリシロキサンを含み、下記をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の粘着性フィルム。
(B)R13SiO0.5単位およびSiO2単位を含有し、R13SiO0.5単位/SiO2単位のモル比が0.6~1.7であるポリオルガノシロキサン(R1は炭素数1から10の1価炭化水素基。) 5~60質量部
(D)制御剤 (A)と(B)の合計100質量部に対して0~8.0質量部
(E)付加反応触媒 (A)と(B)の合計100質量部に対し、貴金属分として5~2000ppm
(F)有機溶剤 (A)と(B)の合計100質量部に対して 25~900質量部。
【請求項3】
シリコーン組成物の(A)成分と(B)成分の質量比が55/45~40/60であり、(A)成分のアルケニル基含有量が0.005~0.05モル/100gである、請求項1~3のいずれか1項に記載の粘着性フィルム。」
(イ) 「【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ(FPD)は、各種電子・電気機器の表示装置として多用されている。例えば、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、表面電解ディスプレイ(SED)、電界放出型ディスプレイ(FED)などの表示装置や、これらを利用したタッチパネルがあり、このようなディスプレイ表面の傷つき防止、汚れ防止、指紋付着防止、帯電防止、反射防止、防眩、のぞき見防止などの目的で、各種フィルムが貼付される。」
「【0058】
本発明のシリコーン粘着剤組成物を用いて製造したフィルムは、テレビ受像機、コンピューター用モニター、携帯情報端末用モニター、監視用モニター、ビデオカメラ、デジタルカメラ、携帯電話、携帯情報端末、自動車などの計器盤用ディスプレイ、種々の設備・装置・機器の計器盤用ディスプレイ、自動券売機、現金自動預け払い機、など、文字や記号、画像を表示するための種々のフラットパネルディスプレイ(FPD)に使用することができる。装置としては、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、表面電解ディスプレイ(SED)、電界放出型ディスプレイ(FED)などの表示装置や、これらを利用したタッチパネルに応用が可能である。本発明のフィルムは、これらの、ディスプレイ表面の傷つき防止、汚れ防止、指紋付着防止、帯電防止、反射防止、のぞき見防止などの目的で使用される。」
(ウ) 「【0054】
シリコーン粘着剤の塗工方法は、公知の塗工方式を用いて塗工すればよく、コンマコーター、リップコーター、ロールコーター、ダイコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、キスコーター、グラビアコーター、スクリーン塗工、浸漬塗工、キャスト塗工などが挙げられる。
【0055】
塗工量としては、硬化したあとの粘着剤層の厚みとして2~200μm、特に3~100μmとすることができる。」
「【0057】
上記のように,粘着テープは、粘着剤組成物を基材フィルムに直接塗工して製造してもよいし、剥離コーティングを行った剥離フィルムや剥離紙に塗工し、硬化を行った後、上記の基材に貼り合わせる転写法により製造してもよい。本発明のフィルムを保管、輸送する際の粘着層の保護のために、必要に応じて粘着層上に保護フィルムを設けることができる。」
「【0060】
下記の試験方法を用いた。
粘着力
シリコーン粘着剤組成物溶液を、厚み25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに硬化後の厚みが30μmとなるようにアプリケータを用いて塗工した後、120℃、1分の条件で加熱し硬化させ、粘着フィルムを作成した。このフィルムを10mm幅に切り取ったテープをステンレス板に貼りつけ、重さ2kgのゴム層で被覆されたローラーを2往復させることにより圧着した。室温で約20時間放置した後、引っ張り試験機を用いて300mm/分の速度で180゜の角度でテープをステンレス板から引き剥がすのに要する力(N/10mm)を測定した。」
(エ) 「【0065】
[実施例1-1]
次式で示されるビニル基含有ポリジメチルシロキサンA1(90部)(30%の濃度となるようにトルエンで溶解したときの粘度が5,000mPa・sであり、アルケニル基含有量0.002モル/100g)
【0066】
【化5】
(x=3,800、 y=4、 z=0)
Me3SiO0.5単位、SiO2単位からなるポリシロキサンB(Me3SiO0.5単位/SiO2単位=0.85)の60%トルエン溶液(16.7部)、トルエン(60部)を混合した。この混合物(100部)に、次式のSiH基を有するポリオルガノシロキサンC1(0.35部)、エチニルシクロヘキサノール(0.20部)を添加し混合した。
【0067】
【化6】
上記の混合物(シロキサン分60%)(100部)にトルエン(50部)、白金分を0.5質量%含有する白金-ビニル基含有シロキサン錯体のトルエン溶液(0.5部)を添加しさらに混合し、シロキサン分約40%のシリコーン粘着剤組成物溶液を調製した。得られたシリコーン粘着剤組成物について、上述の方法に従い、各試験を行った。」
「【0080】
[実施例5]
次式で示されるビニル基含有ポリジメチルシロキサンA5(50部)(30%の濃度となるようにトルエンで溶解したときの粘度が23,000mPa・sであり、アルケニル基含有量0.04モル/100g)
【0081】
【化10】
(x=7,760、 y=240、 z=0)
ポリシロキサンBの60%トルエン溶液(83.3部)、トルエン(33.4部)からなる溶液に、28%アンモニア水(0.5部)を添加し室温で6時間撹拌した。その後、還流させながら4時間加熱してアンモニアガスと水を留去したのち放冷し、留出したトルエン量に相当するトルエンを加えた。この生成物(100部)に、架橋剤C1(1.54部)、エチニルシクロヘキサノール(0.20部)を添加し混合した。
【0082】
上記の混合物(シロキサン分60%)(100部)にトルエン(50部)、白金分を0.5質量%含有する白金-ビニル基含有シロキサン錯体のトルエン溶液(0.5部)を添加しさらに混合し、シロキサン分約40%のシリコーン粘着剤組成物溶液を調製した。得られたシリコーン粘着剤組成物について、上述の方法に従い、各評価を行った。」
イ 甲1-1に記載された発明(甲1-1発明)
甲1-1には、傷つき防止等のためにタッチパネル等に貼付する粘着性フィルムが開示され(摘記事項イ、ウ)、当該粘着性フィルムの粘着層は、以下に示す(A)ないし(F)の成分を含むシリコーン組成物(以下、単に「甲1-1に係る特定シリコーン粘着剤組成物」という。)から調製されるものである旨記載されている(摘記事項ア)。
・(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するジオルガノポリシ ロキサン:95~40質量部
・(B)R13SiO0.5単位およびSiO2単位を含有し、R13SiO0. 5単位/SiO2単位のモル比が0.6~1.7であるポリオル
ガノシロキサン(R1は炭素数1から10の1価炭化水素基。
):5~60質量部
・(C)SiH基を含有するポリオルガノシロキサン
・(D)制御剤:(A)と(B)の合計100質量部に対して0~8. 0質量部
・(E)付加反応触媒:(A)と(B)の合計100質量部に対し、貴 金属分として5~2000ppm
・(F)有機溶剤:(A)と(B)の合計100質量部に対して 25 ~900質量部。
・上記アルケニル基が(A)ジオルガノポリシロキサン100g中に0 .0007~0.05モルで含まれ、(C)SiH基を含有するポリ オルガノシロキサンが、(A)成分中のアルケニル基に対するSiH 基のモル比が0.5~20となる量で該組成物中に含有され、シリコ ーン組成物の(A)成分と(B)成分の質量比が55/45~40/ 60であり、(A)成分のアルケニル基含有量が0.005~0.0 5モル/100gであるシリコーン組成物。
そうすると、甲1-1には、次の発明が記載されているといえる(以下、甲1-1発明という。)。
「タッチパネルに粘着性フィルムを貼付するための、『甲1-1に係る特定シリコーン粘着剤組成物』の使用。」
(3) 甲2-1の記載とそこに記載された発明(甲2-1発明)
ア 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された刊行物である甲2-1、すなわち、特表2004-503028号公報には、次の記載がある。
(ア) 「【請求項11】
第一導電性コーティングを含む第一層と、
第二導電性コーティングを含む第二層と、
前記第一層と第二層の間に配置されたシリコーンベース感圧接着剤と、
を含むタッチスクリーン。」
「【請求項15】
前記感圧接着剤が、ダウ・コーニング7502シリコーン、ダウ・コーニング7502シリコーンおよびペルオキシド、UCT PS221シリコーン、ならびにUCT PS221シリコーンおよびペルオキシドの少なくとも1つを含む、請求項12記載のタッチスクリーン。
【請求項16】
前記第一および第二導電性コーティングが酸化スズインジウムを包含し、前記感圧接着剤が前記第一および第二導電性コーティングと適合性がある、請求項11に記載のタッチスクリーン。
【請求項17】
感圧接着剤が、溶媒、ペルオキシド触媒、シリコーンゴムおよび樹脂を含む、請求項16に記載のタッチスクリーン。」
(イ) 「【0025】
シリコーンベースPSA材料は一般的に、ゴムおよび樹脂を含む。ゴムは典型的に、-Si(R2)O-(Rはメチルまたはフェニルである)骨格を有する柔軟な、直鎖状シロキサンポリマーである。樹脂は典型的に、(CH3)3SiClのような一官能性シランでエンドキャップされた、加水分解三または四官能性シラン(CH3SiCl3またはSiCl4)から製造された硬質の高分枝/架橋製品である。適切な樹脂としては、例えば、コネチカット州、フェアフィールドのGeneral Electric Companyから市販品として入手可能なGE SR1000 MQ樹脂(ポリトリメチルヒドロシリルシリケート)が含まれる。」
(ウ) 「【0043】
スペーサー30は、次の実施例のいずれかまたは同様の手順に従って製造されてよいシリコーンベースPSA材料を含み得、これらのそれぞれは接着剤および溶媒を含み、そして任意に樹脂および/またはペルオキシドを含む。
【0044】
実施例1
Dow Corning7502接着剤:100gm
ブチルCELLOSOLVE(登録商標)アセテート:50gm
GE SR1000MQ樹脂(ポリトリメチルヒドロシリルシリケート):7.5gm
Akzo Nobel ChemicalsPERKADOX(登録商標)50S-ps-a、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド:0.75gm」
「【0049】
好ましくは、実施例1~5のそれぞれは次のように配合される。接着剤(例えば、Dow Corning7502接着剤、UCT PS221等)を容器中に入れる。溶媒(例えば、COMSOLVE150(商標)溶媒、ブチルCELLOSOLVE(登録商標)アセテート溶媒等)を添加し、そして均質になるまで空気駆動プロペラ混合機で混合する。樹脂(例えば、GE SR1000樹脂)を添加してよい。完全に溶解するまで混合物を混合する。スクリーン印刷の使用前または間に、ペルオキシド(例えば、PERKADOX(登録商標)有機ペルオキシド)を添加でき、完全に溶解するまで混合できる。
【0050】
シート供給スクリーンプレス上の80メッシュステンレススチールスクリーン上に実施例1~5の材料を適用できる。接着剤を約90℃で約3分間乾燥させ、続いて強制空気トンネルオーブン中で約125~135℃で約3分間乾燥させる。乾燥時、接着剤は好ましくは約1ミル厚である。
【0051】
接着剤を層40上にスクリーン印刷し、そして直接的に対向層20に構築することができる。あるいは、後の使用のために、接着剤をフルオロシリコーンリリースライナー(例えば、マサチューセッツ州、ウォーススターのFURON Corporationから市販品として入手可能なFURON(登録商標)9022)で覆うことができる。あるいは、接着剤を層20単独または層20および層40の両方上にコートしてもよい。
【0052】
穴を有する長方形、円形、小点、マトリックス等を含む様々なパターンが表面に適用され得る。スクリーン印刷により、接着剤を必要な場所のみに適用する。ダイカット材料廃物は実質的に排除され、そしてシリコーンPSAのシートと比べて接着剤コストは減少し得る。
【0053】
シリコーンベースPSA材料は、概略的に、少なくとも約50重量%~70重量%が固体であり、そして約30重量%~50重量%が溶媒である。溶媒の蒸発のため、スクリーンが「プラグされる(plugged)」か、塞がれるか、乾燥されるか、またはもはや使用できなくなる前に、接着剤は都合よく数百の印刷パスを有することができる。接着剤層またはスペーサー30は、層66中のITOと適合性がある。
【0054】
1ヶ月後のタッチスクリーンの抵抗における変化を以下の表1に示す。従来の低い酸、低いイオン含有量のアクリル接着剤は、最初の2つの試験条件でそれぞれ、18.42%および24.34%の変化を示す。この変化は、表1に開示されたシリコーンベースPSA材料に関する変化より著しく大きい(そして予想外である)。従って、タッチスクリーンに関連する環境において、シリコーンベースPSAは層66とさらに適合性である(例えば、約10倍を超える)と考えられる。
【0055】
【表1】
」
イ 甲2-1に記載された発明(甲2-1発明)
甲2-1には、タッチスクリーンの導電性コーティング層間に、シリコーンベース感圧接着剤を配置することが記載されているから(摘記事項(ア))、甲2-1には、次の発明が記載されているといえる(以下、甲2-1発明という。)。
「タッチスクリーンの導電性コーティング層間におけるシリコーンベース感圧接着剤の使用。」
(4) 甲1-1発明を主引用発明とする場合
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と甲1-1発明とは、少なくとも次の点で相違する。
相違点:本件発明1は、「容量式タッチパネルの製造における、ITO膜間の、ITO膜と保護フィルムもしくは携帯電話ウィンドウとの間の、またはITO膜と背面補強プレートとの間の接着のためのポリシロキサンをベースとする接着剤の使用」であるのに対して、甲1-1発明は、そのような使用形態について特定するものではない点
(イ) 相違点の検討
甲1-1発明は、あくまで、「甲1-1に係る特定シリコーン粘着剤組成物」を、タッチパネルに粘着性フィルムを貼付する際に使用するものであって、容量式タッチパネルはもとより、タッチパネル自体を製造する際に使用するものではない。
この点につき、異議申立人 信越化学工業株式会社は、平成29年5月9日付け意見書において、参考資料3(特開2005-222266号公報)の【0029】の記載を引用して容易想到を主張するが、当該記載は、一般に、タッチパネルには、抵抗膜方式のほかにも、静電容量結合方式が知られていることを示すにとどまり、タッチパネル自体の製造とは関係しない上記甲1-1発明を、容量式タッチパネルの製造と結び付け得ることを示唆しているわけではない。
また、他の証拠をみても、甲1-1発明から本件発明1が容易想到であることを認めるに足りる記載は見当たらない。
したがって、当業者は、甲1-1発明に基いて、本件発明1を容易に発明することができるとはいえない。
(ウ) 小括
以上のとおり、本件発明1と甲1-1発明の間には実質的な相違点が存在し、当該相違点に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、甲1-1発明を主引用発明とする場合、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するといえず、また、同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえない。
イ 本件発明3~7、9~12、14、15、17、18について
本件発明3~7、9~12、14、15、17、18は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、これらの発明についても同様に、甲1-1発明を主引用発明とする場合、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するといえず、また、同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえない。
(5) 甲2-1発明を主引用発明とする場合
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と甲2-1発明との間にも、少なくとも、上記相違点が存在する。
(イ) 相違点の検討
甲2-1発明は、シリコーンベース感圧接着剤を、タッチスクリーンの導電性コーティング層間において使用するものであり、タッチパネルの型式までを限定するものではないが、甲2-1には、シリコーンベース感圧接着剤を、スペーサーとして、抵抗式タッチパネルに適用したことについてしか説明されていないから、抵抗式タッチパネルを前提としたものと解するのが相当である。
この点につき、異議申立人 中川賢治は、平成29年4月28日付け意見書において、甲2-1の【0002】の記載を引用して、甲2-1発明は、容量式タッチパネルをも予定したものである旨主張するが、当該記載は、一般に、タッチパネルには、容量型と抵抗型があることを示すにすぎず、甲2-1発明が、容量型をも予定したものと解するに足りる記載とはいいがたい。
また、他の証拠をみても、甲2-1発明を容量式タッチパネルに適用することを動機付ける記載は見当たらない。
したがって、当業者は、甲2-1発明に基いて、本件発明1を容易に発明することができるとはいえない。
(ウ) 小括
以上のとおり、本件発明1と甲2-1発明の間には実質的な相違点が存在し、当該相違点に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、甲2-1発明を主引用発明とする場合、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するといえず、また、同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえない。
イ 本件発明3~7、9~12、14、15、17、18について
本件発明3~7、9~12、14、15、17、18は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、これらの発明についても同様に、甲2-1発明を主引用発明とする場合、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するといえず、また、同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえない。
3 記載不備に関する取消理由についての判断
当審は、平成28年6月17日付け取消理由通知に記載した、記載不備に関する取消理由は、本件訂正により解消したものと判断する。
すなわち、本件訂正前の請求項11、12に記載された「オルガノポリシロキサンと前記オルガノポリシロキサン樹脂との比」について記載不備は、本件訂正により「前記オルガノポリシロキサンa)と前記オルガノポリシロキサン樹脂b)との比」と訂正されたことにより、請求項1記載の成分との対応関係が明確となったため解消しているといえるし、「微細構造化表面」についての記載不備を指摘した本件訂正前の請求項13は、本件訂正により削除されたから、これらの記載に起因する明確性要件違反は、いずれも解消しているということができる。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人 中川賢治は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「場合によって」なる文言、及び、同請求項8の意図は、いずれも不明確であるから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)を満たしていない特許出願に対してされたものであって、特許法第113条第4号の規定に該当するため、取り消されるべきものである旨主張する。
しかしながら、当該「場合によって」なる文言は、その文言により特定された成分が、任意成分であることを示すものであることは明らかであるし、当該請求項8は、本件訂正により削除されたので、いずれも明確性要件違反にあたるとはいえない。
したがって、当該主張を採用することはできない。
第7 結び
以上のとおり、本件特許1、3ないし7、9ないし12、14、15、17、18は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとも、同法第36条第4項第1号又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるともいえず、同法第113条第2号又は第4号に該当するとは認められないから、前記取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立の理由によって、取り消すことはできない。
また、前記のとおり、本件訂正により、請求項2、8、13、16は削除されたので、本件特許2、8、13、16に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないため、却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2016-700041