特許異議申立
2022-701242
回転電機制御システム
- 審判番号
- 2022-701242
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-509572
- 登録番号
- 7092257
- 請求日
- 2022年12月14日
- 審決日
- 2023年07月21日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社アイシン
- 【権利者代理人】弁理士法人R&C
- 【異議申立人】株式会社 ユビランド・インターナショナル
- 審判長/審判官
- 審判長 柿崎 拓
- 審判官 五十嵐 康弘
- 審判官 窪田 治彦
- 分類
- P1651.121-YAA(H02P)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7092257号発明「回転電機制御システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7092257号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第7092257号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7092257号の請求項1~4に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)3月26日(優先権主張 平成31年3月28日)を国際出願日とする出願であって、令和4年6月20日にその特許権の設定登録がされ、令和4年6月28日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和4年12月14日に特許異議申立人株式会社ユビランド・インターナショナル(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和5年3月6日付けで取消理由を通知した。特許権者株式会社アイシン(以下、「特許権者」という。)は、その指定期間内である令和5年4月26日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、令和5年6月8日に意見書を提出した。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1) 訂正事項1
ア 訂正事項1-1
請求項1に、
「 N相(Nは自然数)のコイルセットをM個(Mは2以上の自然数)備えた交流の回転電機を制御対象とする回転電機制御システムであって、
複数のスイッチング素子を備え、直流電源及びそれぞれの前記コイルセットに接続されて直流とN相の交流との間で電力を変換するM個のインバータと、
N相の1つの前記コイルセットに対して1組設けられて、それぞれの前記コイルセットに流れる各相の交流電流を検出するM組の電流センサと、
複数の前記スイッチング素子を制御するためのスイッチング制御信号を生成して前記インバータを制御するインバータ制御装置と、を備え、」
と記載されているのを、
「 N相(Nは自然数)のコイルセットをM個(Mは2以上の自然数)備え、車両の駆動力源となる交流の回転電機を制御対象とする回転電機制御システムであって、
複数のスイッチング素子を備え、直流電源及びそれぞれの前記コイルセットに接続されて直流とN相の交流との間で電力を変換するM個のインバータと、
N相の1つの前記コイルセットに対して1組設けられて、それぞれの前記コイルセットに流れる各相の交流電流を検出するM組の電流センサと、
複数の前記スイッチング素子を制御するためのスイッチング制御信号を生成して前記インバータを制御するインバータ制御装置と、を備え、」
に訂正する。
イ 訂正事項1-2
請求項1に、
「 前記インバータ制御装置は、M組の前記電流センサのN相の各相における検出値の全てを用いて、前記回転電機の電流フィードバック制御を行い、M個の前記インバータに共通する前記スイッチング制御信号を生成するものであり、
前記インバータ制御装置は、同じタイミングにおけるM組の前記電流センサの前記検出値を平均し、1つの前記コイルセットに流す電流である目標電流との偏差に基づいて、前記回転電機の電流フィードバック制御を行う、又は、
前記インバータ制御装置は、同じタイミングにおけるM組の前記電流センサの前記検出値を加算し、M組の前記コイルセットに流す電流を合算した電流である目標電流との偏差に基づいて、前記回転電機の電流フィードバック制御を行う、回転電機制御システム。」
と記載されているのを、
「 前記インバータ制御装置は、M組の前記電流センサのN相の各相における検出値の全てを用いて、前記回転電機の電流フィードバック制御を行い、M個の前記インバータに共通する前記スイッチング制御信号を生成するものであり、
前記インバータ制御装置は、同じタイミングにおけるM組の前記電流センサの前記検出値を平均して前記回転電機に流れる実電流を求め、1つの前記コイルセットに流す電流を目標電流として、当該実電流と当該目標電流との偏差に基づいて、前記回転電機の電流フィードバック制御を行い、M個の前記インバータに共通する前記スイッチング制御信号を生成する、又は、
前記インバータ制御装置は、同じタイミングにおけるM組の前記電流センサの前記検出値を加算して前記回転電機に流れる実電流を求め、M組の前記コイルセットに流す電流を合算した電流を目標電流として、当該実電流と当該目標電流との偏差に基づいて、前記回転電機の電流フィードバック制御を行い、M個の前記インバータに共通する前記スイッチング制御信号を生成する、回転電機制御システム。」
に訂正する。
ウ 一群の請求項について
訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、本件訂正によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~4は一群の請求項を構成する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否等
(1) 訂正事項1について
ア 訂正事項1-1について
(ア)訂正の目的
訂正事項1-1は、訂正前の請求項1における発明特定事項である「回転電機制御システム」が制御対象とする「交流の回転電機」について、「N相(Nは自然数)のコイルセットをM個(Mは2以上の自然数)備えた」ものであったところ、「N相(Nは自然数)のコイルセットをM個(Mは2以上の自然数)備え、車両の駆動力源となる」ものに限定するものである。
よって、訂正事項1-1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)特許請求の範囲の拡張、変更
訂正事項1-1は、上記(ア)のとおり、発明特定事項を限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ウ)新規事項
訂正事項1-1により限定された事項は、本件特許の明細書における【0011】、【0014】に記載された事項であるから、訂正事項1-1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
イ 訂正事項1-2について
(ア)訂正の目的
訂正事項1-2は、訂正前の請求項1における発明特定事項である「M個の前記インバータに共通する前記スイッチング制御信号を生成する」「インバータ制御装置」について、「同じタイミングにおけるM組の前記電流センサの前記検出値を平均し、1つの前記コイルセットに流す電流である目標電流との偏差に基づいて、前記回転電機の電流フィードバック制御を行う」、又は、「同じタイミングにおけるM組の前記電流センサの前記検出値を加算し、M組の前記コイルセットに流す電流を合算した電流である目標電流との偏差に基づいて、前記回転電機の電流フィードバック制御を行う」ものであり、偏差が目標電流と何の偏差であるか、必ずしも明らかでなかったところ、同じタイミングにおけるM組の電流センサの検出値を平均して求められる回転電機に流れる実電流、又は、同じタイミングにおけるM組の電流センサの検出値を加算して求められる回転電機に流れる実電流と、目標電流との偏差であることを明確にするとともに、当該偏差に基づいて、回転電機の電流フィードバック制御を行い、「M個の前記インバータに共通する前記スイッチング制御信号を生成する」ことを明確にするものである。
よって、訂正事項1-2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)特許請求の範囲の拡張、変更
訂正事項1-2は、上記(ア)のとおり、明瞭でない記載の釈明をするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ウ)新規事項
訂正事項1-2により訂正された事項は、本件特許の明細書における【0025】~【0029】、【0036】~【0037】に記載された事項であるから、訂正事項1-2による訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
ウ 一群の請求項について
本件訂正請求は、訂正前の請求項1~4の記載を訂正しようとするものであり、一群の請求項〔1~4〕に対して請求されているから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~4に係る発明(以下「本件発明1~4」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
本件発明1
「 N相(Nは自然数)のコイルセットをM個(Mは2以上の自然数)備え、車両の駆動力源となる交流の回転電機を制御対象とする回転電機制御システムであって、
複数のスイッチング素子を備え、直流電源及びそれぞれの前記コイルセットに接続されて直流とN相の交流との間で電力を変換するM個のインバータと、
N相の1つの前記コイルセットに対して1組設けられて、それぞれの前記コイルセットに流れる各相の交流電流を検出するM組の電流センサと、
複数の前記スイッチング素子を制御するためのスイッチング制御信号を生成して前記インバータを制御するインバータ制御装置と、を備え、
前記インバータ制御装置は、M組の前記電流センサのN相の各相における検出値の全てを用いて、前記回転電機の電流フィードバック制御を行い、M個の前記インバータに共通する前記スイッチング制御信号を生成するものであり、
前記インバータ制御装置は、同じタイミングにおけるM組の前記電流センサの前記検出値を平均して前記回転電機に流れる実電流を求め、1つの前記コイルセットに流す電流を目標電流として、当該実電流と当該目標電流との偏差に基づいて、前記回転電機の電流フィードバック制御を行い、M個の前記インバータに共通する前記スイッチング制御信号を生成する、又は、
前記インバータ制御装置は、同じタイミングにおけるM組の前記電流センサの前記検出値を加算して前記回転電機に流れる実電流を求め、M組の前記コイルセットに流す電流を合算した電流を目標電流として、当該実電流と当該目標電流との偏差に基づいて、前記回転電機の電流フィードバック制御を行い、M個の前記インバータに共通する前記スイッチング制御信号を生成する、回転電機制御システム。」
本件発明2
「 前記インバータ制御装置は、前記回転電機のロータに備えられた永久磁石の磁束の方向であるd軸と前記d軸に直交するq軸とのdq軸直交ベクトル座標系において、前記回転電機の目標トルクに基づく電流指令と、前記回転電機に流れる実電流との偏差に基づいて前記回転電機をフィードバック制御するものであり、
前記インバータ制御装置は、N相の交流電流である前記実電流を前記dq軸直交ベクトル座標系の2相電流に変換し、
前記dq軸直交ベクトル座標系における前記電流指令である2相電流指令と前記2相電流との偏差に基づいて、前記dq軸直交ベクトル座標系における2相電圧指令を演算し、
前記2相電圧指令を、N相の前記コイルセットに印加するN相電圧指令に変換し、
前記N相電圧指令に基づいて前記スイッチング制御信号を生成する、請求項1に記載の回転電機制御システム。」
本件発明3
「 前記ロータの回転を検出する回転センサを備え、
前記インバータ制御装置は、前記回転センサにより検出された前記ロータの回転位置に基づいてN相の座標系と前記dq軸直交ベクトル座標系との間の座標変換を行う、請求項2に記載の回転電機制御システム。」
本件発明4
「 それぞれの前記コイルセットは、それぞれ中性点において各相のコイルが接続されたスター結線の3相コイルである、請求項1から3の何れか一項に記載の回転電機制御システム。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1~4に係る特許に対して、当審が令和5年3月6日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)請求項1に係る特許は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。よって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)請求項2~4に係る特許は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。よって、請求項2~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
甲第1号証:特開2016-21803号公報
甲第2号証:特開2012-161154号公報
甲第3号証:特開2003-40123号公報
2 甲号証の記載
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載事項
(ア)「【0001】
本発明は、電流制御部を備えた3相電流フィードバック方式により、多系統モータ巻線を有するモータを、巻線系統毎のモータ駆動回路を介して制御するモータ制御装置並びにそれを搭載した電動パワーステアリング装置及び車両に関し、特に多系統モータ巻線の駆動系統数に応じて電流制御部のパラメータを切替えて変更する機能を具備し、系統の切替時においても異音や振動発生のないモータ制御装置並びにそれを搭載した電動パワーステアリング装置及び車両に関する。車両に搭載される電動パワーステアリング装置は、少なくとも操舵トルクに基づいて演算された電流指令値により、車両の操舵系にモータ(例えばブラシレスモータ)によるアシスト力を付与するものであり、ブリッジ回路で成るインバータによって駆動制御される。」(下線は当審にて付与した。以下同様。)
(イ)「【0013】
本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、モータの電気的応答特性が、故障発生で片系統を遮断することによって変化することにより、電流応答特性が変化することで、異音/振動/操舵違和感に繋がることを防ぐため、当該故障前後で、電流フィードバック制御部のパラメータを切替えることで、その電流応答特性変化を防ぐことが可能なモータ制御装置並びにそれを搭載した電動パワーステアリング装置及び車両を提供することにある。」
(ウ)「【0019】
3相モータ200は図3に示すように、内周面に内方に突出形成されてスロットSLを形成する磁極となるティースTを有するステータ12Sと、このステータ12Sの内周側にティースTと対向して回転自在に配置された永久磁石PMを表面に配置した8極の表面磁石型のロータ12Rとを有するSPMモータの構成を有する。ここで、ステータ12SのティースTの数を相数×2n(nは2以上の整数)で、例えばn=2に設定して、8極、12スロットの構成としている。
【0020】
そして、ステータ12SのスロットSLに、図4に示す2系統で、その各々の同相の磁極がロータ磁石に対し同位相となる多相モータ巻線となる第1の3相モータ巻線L1と第2の3相モータ巻線L2とが巻回されている。第1の3相モータ巻線L1は、U相コイルL1u、V相コイルL1v及びW相コイルL1wの一端が互いに接続されてスター結線とされ、各相コイルL1u、L1v及びL1wの他端がモータ制御装置20に接続され、個別にモータ駆動電流I1u、I1v及びI1wが供給されている。
【0021】
各相コイルL1u、L1v及びL1wには、それぞれ2つのコイル部L1ua,L1ub、L1va,L1vb及びL1wa,L1wbが形成されている。これらコイル部L1ua,L1va及びL1waは、時計方向のティースT1、T2及びT3に集中巻きで巻回されている。また、コイル部L1ub,L1vb及びL1wbはティースT1、T2及びT3とは、ロータ12Rを挟んで対角となる時計方向のティースT7、T8及びT9に集中巻きで巻回されている。
【0022】
また、第2の3相モータ巻線L2は、U相コイルL2u、V相コイルL2v及びW相コイルL2wの一端が互いに接続されてスター結線とされ、各相コイルL2u、L2v及びL2wの他端がモータ制御装置100に接続され、個別にモータ駆動電流I2u、I2v及びI2wが供給されている。
【0023】
各相コイルL2u、L2v及びL2wには、それぞれ2つのコイル部L2ua,L2ub、L2va,L2vb及びL2wa,L2wbが形成されている。これらコイル部L2ua,L2va及びL2waは、時計方向のティースT4、T5及びT6に集中巻きで巻回されている。また、コイル部L1ub,L1vb及びL1wbはティースT4、T5及びT6とは、ロータ12Rを挟んで対角となる時計方向のティースT10、T11及びT12に集中巻きで巻回されている。」
(エ)「【0026】
このような2系統巻線を有する3相モータに対して、個別のインバータから電流を供給し、一方のインバータのスイッチング手段に導通不可となるOFF故障(オープン故障)が生じた場合に、故障が生じた故障スイッチング手段を特定し、故障スイッチング手段を除くスイッチング手段を制御すると共に、故障スイッチング手段を含む故障インバータ以外の正常インバータを制御するモータ制御装置の例を、図5に示して説明する。
【0027】
モータ制御装置100は異常検出部111を含み、モータ電流指令値を演算する制御演算部110と、制御演算部110から出力される電圧指令値V1*及びV2*が個別に入力されるモータ駆動回路120A及び120Bと、これらモータ駆動回路120A及び120Bの出力側と3相モータ200の第1のモータ巻線L1及び第2のモータ巻線L2との間に介挿されたモータ電流遮断回路130A及び130Bとを備えている。
【0028】
3相モータ200は、ロータの回転位置を検出するホール素子などの回転位置センサ101を備えており、回転位置センサ101からの検出値がロータ回転角検出回路102に入力され、ロータ回転角検出回路102でロータ回転角θmが検出される。モータ制御装置100内の制御演算部110には、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTs及び車速センサ12で検出された車速Vsが入力されると共に、ロータ回転角検出回路102から出力されるロータ回転角θmが入力される。更に、モータ駆動回路120A及び120B内の電流検出回路121A及び121Bから出力されるモータ200の第1のモータ巻線L1及び第2のモータ巻線L2の各相コイルから出力されるモータ電流I1d及びI2dが制御演算部110に入力されている。また、モータ駆動回路120A及び120Bには、直流電源としてのバッテリ103からノイズフィルタ104を経て直流電流が供給されている。
【0029】
制御演算部110では、モータ駆動回路120A及び120Bの正常時には操舵トルクTs及び車速Vsを基に予め設定されたマップAを参照して電流指令値I1*及びI2*を算出し、モータ駆動回路120A及び120Bの異常時には操舵トルクTs及び車速Vsを基に予め設定されたマップBを参照して電流指令値I1*及びI2*を算出する。
【0030】
また、制御演算部110では、算出した電流指令値I1*及びI2*とロータ回転角θmとに基づいて、ベクトル制御のd-q座標系のd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を算出し、算出したd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*をロータ回転角θmに従って2相/3相変換してU相電流指令値Iu*、V相電流指令値Iv*及びW相電流指令値Iw*を算出する。そして、算出したU相電流指令値Iu*、V相電流指令値Iv*及びW相電流指令値Iw*と電流検出回路121A及び121Bで検出した電流検出値の相毎の加算値との電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwを算出し、これら電流偏差ΔIu、ΔIb及びΔIwについてPI制御演算等を行ってモータ駆動回路120A及び120Bに対する3相の電圧指令値V1*及びV2*を算出し、算出した3相の電圧指令値V1*及びV2*をモータ駆動回路120A及び120Bに入力する。
【0031】
また、制御演算部110には、モータ電流遮断回路130A及び130Bとモータ200の第1モータ巻線L1及び第2モータ巻線L2との間に設けられた異常検出回路131A及び131Bで検出したモータ電流検出値I1ud、I1vd、I1wd及びI2ud、I2vd、I2wdが入力されている。そして、制御演算部110は、入力されるモータ電流検出値I1ud~I1wd及びI2ud~I2wdと自身が算出した各相電流指令値Iu*、Iv*及びIw*とを比較してインバータ122A及び122Bを構成するスイッチング素子としての電界効果トランジスタ(FET)Q1~Q6のオープン故障(OFF故障)及びショート故障(ON故障)を検出する異常検出部111を備えている。この異常検出部111では、インバータ122A及び122Bを構成するFETのオープン故障又はショート故障を検出したときに、異常を検出したモータ駆動回路120A又は120Bのゲート駆動回路123A又は123Bに対して異常検出信号SAa又はSAbを入力する。
【0032】
モータ駆動回路120A及び120Bのそれぞれは、制御演算部110から出力される3相の電圧指令値V1*及びV2*が入力されてゲート信号を形成すると共に、異常時電流制御部を兼ねるゲート駆動回路123A及び123Bと、これらゲート駆動回路123A及び123Bから出力されるゲート信号が入力されるインバータ122A及び122Bとを備えている。
【0033】
ゲート駆動回路123A及び123Bのそれぞれは、制御演算部110から電圧指令値V1*及びV2*が入力されると、これら電圧指令値V1*及びV2*と三角波のキャリア信号Scとを基に6つのPWM信号を形成し、これらPWM信号をインバータ122A及び122Bに入力する。」
(オ)「【0034】
また、ゲート駆動回路123Aは、制御演算部110から異常検出信号SAaが入力されていない正常であるときには、モータ電流遮断回路130Aに対してハイレベルの3つのゲート信号を出力すると共に、電源遮断回路124Aに対してハイレベルの2つのゲート信号を出力し、異常検出信号SAaが入力された異常であるときには、モータ電流遮断回路130Aに対してローレベルの3つのゲート信号を同時に出力し、モータ電流を遮断すると共に、電源遮断回路124Aに対してローレベルの2つのゲート信号を同時に出力し、バッテリ電力を遮断する。
【0035】
同様に、ゲート駆動回路123Bは、制御演算部110から異常検出信号SAbが入力されていない正常であるときには、モータ電流遮断回路130Bに対してハイレベルの3つのゲート信号を出力すると共に、電源遮断回路124Bに対してハイレベルの2つのゲート信号を出力し、異常検出信号SAbが入力された異常であるときには、モータ電流遮断回路130Bに対してローレベルの3つのゲート信号を同時に出力し、モータ電流を遮断すると共に、電源遮断回路124Bに対してローレベルの2つのゲート信号を同時に出力し、バッテリ電力を遮断する。」
(カ)「【0036】
インバータ122A及び122Bのそれぞれは、ノイズフィルタ104及び電源遮断回路124A及び124Bを介してバッテリ103のバッテリ電流が入力され、入力側に平滑用の電解コンデンサCA及びCBが接続されている。
【0037】
インバータ122A及び122Bは、6個のスイッチング素子としてのFETQ1~Q6を有し、2つのFETを直列に接続した3つのスイッチングアームSAu、SAv及びSAwを並列に接続した構成を有する。そして、各FETQ1~Q6のゲートにゲート駆動回路123A及び123Bから出力されるゲート信号が入力されることにより、各スイッチングアームSAu、SAv及びSAwのFET間からU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwがモータ電流遮断回路130A及び130Bを介してモータ200の第1巻線L1及び第2巻線L2に入力する。」
(キ)図3として次の図が記載されている。
[図:0001402772000001.jpg]
(ク)図4として次の図が記載されている。
[図:0001402772000002.jpg]
(ケ)図5として次の図が記載されている。
[図:0001402772000003.jpg]
イ 上記アよりわかること
(ア)上記ア(エ)、同(カ)、同(ケ)には、インバータ122A、インバータ122Bのそれぞれにバッテリ103のバッテリ電流が入力される点、インバータ122A、インバータ122Bがスイッチング素子としてのFETQ1~Q6を有し、FETQ1~Q6のゲートにゲート信号が入力されることにより、各スイッチングアームのFET間からU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwがモータ200の第1巻線L1及び第2巻線L2に入力される点が記載されている。そうすると、インバータ122A、インバータ122Bは、バッテリ103の直流電流をU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwに変換しているといえる。
ウ 甲第1号証に記載された発明
以上によれば、甲第1号証は次の発明(以下「引用発明」という。)を開示していると認められる。
「第1の3相モータ巻線L1と第2の3相モータ巻線L2を備え、車両の操舵系にアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置のモータ200を制御対象とするモータ制御装置100であって、
FETQ1~Q6を有し、バッテリ103の直流電流をU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwに変換し、前記モータ200の前記第1の3相モータ巻線L1及び前記第2の3相モータ巻線L2に入力するインバータ122A、インバータ122Bと、
前記第1の3相モータ巻線L1及び前記第2の3相モータ巻線L2の各相コイルから出力されるモータ電流I1d及びモータ電流I2dを検出する電流検出回路121A及び電流検出回路121Bと、
前記電流検出回路121A及び前記電流検出回路121Bから出力される前記モータ電流I1d及び前記モータ電流I2dが入力され、PI制御演算等を行って3相の電圧指令値V1*及び電圧指令値V2*を前記ゲート駆動回路123A及び前記ゲート駆動回路123Bに入力する制御演算部110と、
前記制御演算部110から出力される3相の電圧指令値V1*及び電圧指令値V2*が入力されて、前記FETQ1~Q6のゲートに入力されるゲート信号を出力するゲート駆動回路123A及びゲート駆動回路123Bと、を備え、
前記制御演算部110は、電流検出回路121A及び電流検出回路121Bで検出した電流検出値の相毎の加算値と、U相電流指令値Iu*、V相電流指令値Iv*及びW相電流指令値Iw*との電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwを算出し、これらの偏差に基づいて、前記モータ200の電流フィードバック制御を行う、モータ制御装置100」
(2)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載事項
(ア)「【0038】
図4および図5に基づき、マイコン51における制御処理を説明する。
三相二相変換部62は、電流検出回路52にて算出された電流検出値Iu1、Iv1、Iw1、Iu2、Iv2、Iw2、および、モータ10の回転角度θeを読み込み、d軸電流検出値Idおよびq軸電流検出値Iqを算出する。
【0039】
制御器63では、操舵トルクに基づいて算出されるd軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*と、d軸電流検出値Idおよびq軸電流検出値Iqとから、電流フィードバック制御演算を行い、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*を算出する。より詳細には、d軸電流指令値Id*とd軸電流検出値Idとの電流偏差ΔId、および、q軸電流指令値Iq*とq軸電流検出値Iqとの電流偏差ΔIqを算出し、電流指令値Id*、Iq*に追従させるべく、電流偏差ΔId、ΔIqが0に収束するように電圧指令値Vd*およびVq*を算出する。
二相三相変換部64では、制御器63で算出された電圧指令値Vd*、Vq*、および、モータ10の回転角度θeに基づき、三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を算出する。」
(3)甲第3号証
ア 甲第3号証の記載事項
(ア)「【0013】
【発明が解決しようとする課題】上述したように、従来の電動パワーステアリング装置のブラシレスDCモータ24及びその駆動回路13は、ステータ24aのコイル及びスイッチング回路8(ブリッジ回路)がそれぞれ1系統で構成されている。その為、スイッチング回路8の半導体素子が、仕様を超える温度、過負荷、過電圧、又はモータの地絡により、ショートモード破損(短絡)又はオープンモード破損(断線)したときには、モータが駆動せず、操舵補助及び操舵が困難となる場合があるという問題がある。」
(イ)「【0024】図2は、ブラシレスDCモータ25、モータ駆動回路13a及びモータ電流検出回路17aの構成例を示すブロック図である。ブラシレスDCモータ25は、A,B2系統の各コイルの各一方の端子がそれぞれスター結線されたステータ25aと、永久磁石で構成され各コイルが発生させる回転磁界により回転するロータ25bと、このロータ25bの回転位置を検出するロータ位置検出器14(レゾルバ)とを備えている。
【0025】モータ駆動回路13aは、A系統のスイッチング回路8a(ブリッジ回路)及びB系統のスイッチング回路8b(ブリッジ回路)を備え、スイッチング回路8aは、正極側端子と接地端子との間に直列接続されたトランジスタQ1a,Q2a(スイッチング素子)と、逆方向に直列接続されたダイオードD1a,D2aとが並列接続され、直列接続されたトランジスタQ3a,Q4aと、逆方向に直列接続されたダイオードD3a,D4aとが並列接続され、直列接続されたトランジスタQ5a,Q6aと、逆方向に直列接続されたダイオードD5a,D6aとが並列接続されている。
【0026】トランジスタQ1a,Q2aの共通接続節点と、ダイオードD1a,D2aの共通接続節点とには、A系統のスター結線されたUa相のコイルの他方の端子が接続され、トランジスタQ3a,Q4aの共通接続節点と、ダイオードD3a,D4aの共通接続節点とには、A系統のスター結線されたVa相のコイルの他方の端子が接続され、トランジスタQ5a,Q6aの共通接続節点と、ダイオードD5a,D6aの共通接続節点とには、A系統のスター結線されたWa相のコイルの他方の端子が接続されている。ダイオードD1a~D6aは、フリーホイーリングダイオードであり、トランジスタQ1a~Q6aのオフ時に発生する慣性電流を環流させて、トランジスタQ1a~Q6aを保護すると共にノイズの発生を抑制する。
【0027】B系統のスイッチング回路8bは、スイッチング回路8aと同様に、正極側端子と接地端子との間に直列接続されたトランジスタQ1b,Q2bと、逆方向に直列接続されたダイオードD1b,D2bとが並列接続され、直列接続されたトランジスタQ3b,Q4bと、逆方向に直列接続されたダイオードD3b,D4bとが並列接続され、直列接続されたトランジスタQ5b,Q6bと、逆方向に直列接続されたダイオードD5b,D6bとが並列接続されている。
【0028】トランジスタQ1b,Q2bの共通接続節点と、ダイオードD1b,D2bの共通接続節点とには、B系統のスター結線されたUb相のコイルの他方の端子が接続され、トランジスタQ3b,Q4bの共通接続節点と、ダイオードD3b,D4bの共通接続節点とには、B系統のスター結線されたVb相のコイルの他方の端子が接続され、トランジスタQ5b,Q6bの共通接続節点と、ダイオードD5b,D6bの共通接続節点とには、B系統のスター結線されたWb相のコイルの他方の端子が接続されている。ダイオードD1b~D6bは、ダイオードD1a~D6aと同様に、フリーホイーリングダイオードであり、トランジスタQ1b~Q6bのオフ時に発生する慣性電流を環流させて、トランジスタQ1b~Q6bを保護すると共にノイズの発生を抑制する。
【0029】モータ駆動回路13aは、また、マイクロコンピュータ19(図1)から、ブラシレスDCモータ25の回転方向指令及び出力レベル指令が与えられ、与えられた回転方向指令、出力レベル指令、及びロータ位置検出器14からのロータ25bの回転位置信号に基づき、トランジスタQ1a,Q1b~Q6a,Q6bの6組のゲートを、それぞれ組毎に同時的にオン/オフするゲート制御回路9aを備えている。モータ電流検出回路17aは、ブラシレスDCモータ25のUa,Va,Wa,Ub,Vb,Wb相の各コイルに流れる電流を検出して加算し、モータ電流値信号としてマイクロコンピュータ19に与える。」
(ウ)図2として次の図が記載されている。
[図:0001402772000004.jpg]
3 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と引用発明との対比
(ア) 引用発明の「3相」は、本件発明1の「N相(Nは自然数)」に相当し、引用発明の「第1の3相モータ巻線L1」及び「第2の3相モータ巻線L2」は、それぞれ本件発明1の「N相(Nは自然数)のコイルセット」あるいは「コイルセット」に相当する。また、引用発明の「第1の3相モータ巻線L1と第2の3相モータ巻線L2を備え」ることは、3相のモータ巻線を2個、備えたものといえるから、本件発明1の「N相(Nは自然数)のコイルセットをM個(Mは2以上の自然数)備え」ることに相当し、引用発明の「モータ200」は、第1の3相モータ巻線L1と第2の3相モータ巻線L2を備えることからみて、交流で駆動されていることが明らかであるから、本件発明1の「交流の回転電機」に相当する。そして、引用発明の「モータ制御装置100」は、車両の操舵系にアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置のモータ200を制御対象とするものであり、本件発明1の「回転電機制御システム」は、車両の駆動力源となる交流の回転電機を制御対象とするものであるから、両発明は「N相(Nは自然数)のコイルセットをM個(Mは2以上の自然数)備えた交流の回転電機を制御対象とする回転電機制御システム」という点で共通する。
(イ) 引用発明の「FETQ1~Q6」は、6つのスイッチング素子であるから、本件発明1の「複数のスイッチング素子」に相当し、引用発明の「インバータ122A、インバータ122B」は2つのインバータであるから、引用発明の「インバータ122A、インバータ122B」が「FETQ1~Q6を有し」ている点は、本件発明1の「M個のインバータ」が「複数のスイッチング素子を備え」る点に相当する。また、引用発明の「バッテリ103」は直流電流を発生させるものであるから、本件発明1の「直流電源」に相当し、引用発明の「U相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iw」は、3相の交流電流であるから、本件発明1の「N相の交流」に相当する。すると、引用発明の「バッテリ103の直流電流をU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwに変換し、前記モータ200の前記第1の3相モータ巻線L1及び前記第2の3相モータ巻線L2に入力するインバータ122A、インバータ122B」は、バッテリ103の直流を3相の交流に変換するものといえ、該インバータ122A、インバータ122Bがバッテリ103と第1の3相モータ巻線L1及び第2の3相モータ巻線L2とに接続されていることも明らかであるから、本件発明1の「直流電源及びそれぞれの前記コイルセットに接続されて直流とN相の交流との間で電力を変換するM個のインバータ」に相当する。
(ウ) 引用発明の「モータ電流I1d及びモータ電流I2d」は、「前記第1の3相モータ巻線L1及び前記第2の3相モータ巻線L2の各相コイルから出力される」電流であるから、本件発明1の「それぞれの前記コイルセットに流れる各相の交流電流」に相当する。また、引用発明の「電流検出回路121A」が「第1の3相モータ巻線L1」に対して設けられ、「電流検出回路121B」が「第2の3相モータ巻線L2」に対して設けられることは、本件発明1の「N相の1つの前記コイルセットに対して1組設けられ」ることに相当し、引用発明の「電流検出回路121A及び電流検出回路121B」は、本件発明1の「M組の電流センサ」に相当する。
(エ) 引用発明の「ゲート信号」は「FETQ1~Q6」に入力され、FETQ1~Q6を制御する信号であるから、本件発明1の「複数の前記スイッチング素子を制御するためのスイッチング制御信号」あるいは「スイッチング制御信号」に相当する。また、引用発明の「制御演算部110」は、「ゲート駆動回路123A及びゲート駆動回路123B」に3相の電圧指令値V1*及び電圧指令値V2*を入力し、「ゲート駆動回路123A及びゲート駆動回路123B」は、3相の電圧指令値V1*及び電圧指令値V2*が入力されて、前記FETQ1~Q6のゲートに入力される「ゲート信号」を出力するものであるから、引用発明の「制御演算部110」及び「ゲート駆動回路123A及びゲート駆動回路123B」が協働して「FETQ1~Q6」を制御するための「ゲート信号」を生成し、「インバータ122A、インバータ122B」を制御しているといえる。すると、引用発明の「制御演算部110」及び「ゲート駆動回路123A及びゲート駆動回路123B」を合わせたものは、本件発明1の「インバータ制御装置」に相当し、引用発明の「前記電流検出回路121A及び前記電流検出回路121Bから出力される前記モータ電流I1d及び前記モータ電流I2dが入力され、PI制御演算等を行って3相の電圧指令値V1*及び電圧指令値V2*を前記ゲート駆動回路123A及び前記ゲート駆動回路123Bに入力する制御演算部110と、制御演算部110から出力される3相の電圧指令値V1*及び電圧指令値V2*が入力されて、前記FETQ1~Q6のゲートに入力されるゲート信号を出力するゲート駆動回路123A及びゲート駆動回路123B」は、本件発明1の「複数の前記スイッチング素子を制御するためのスイッチング制御信号を生成して前記インバータを制御するインバータ制御装置」に相当する。
(オ) 引用発明の「制御演算部110」及び「ゲート駆動回路123A及びゲート駆動回路123B」は、「電流検出回路121A及び電流検出回路121B」から出力される「モータ電流I1d及びモータ電流I2d」、つまり「前記第1の3相モータ巻線L1及び前記第2の3相モータ巻線L2の各相コイルから出力されるモータ電流I1d及びモータ電流I2d」を全て用いて、PI制御演算等を行い、インバータ122A、インバータ122BのFETQ1~Q6のゲートに入力されるゲート信号を出力するから、引用発明の「前記電流検出回路121A及び前記電流検出回路121Bから出力される前記モータ電流I1d及び前記モータ電流I2dが入力され、PI制御演算等を行って3相の電圧指令値V1*及び電圧指令値V2*を前記ゲート駆動回路123A及び前記ゲート駆動回路123Bに入力する制御演算部110と、制御演算部110から出力される3相の電圧指令値V1*及び電圧指令値V2*が入力されて、前記FETQ1~Q6のゲートに入力されるゲート信号を出力するゲート駆動回路123A及びゲート駆動回路123B」を備えることと、本件発明1の「前記インバータ制御装置は、M組の前記電流センサのN相の各相における検出値の全てを用いて、前記回転電機の電流フィードバック制御を行い、M個の前記インバータに共通する前記スイッチング制御信号を生成するものであ」ることとは、「前記インバータ制御装置は、M組の前記電流センサのN相の各相における検出値の全てを用いて、前記回転電機の電流フィードバック制御を行い、M個の前記インバータに前記スイッチング制御信号を生成する」点において共通する。
(カ) 引用発明において、「電流検出回路121A及び電流検出回路121B」で検出する電流が交流であり、検出するタイミングによって電流検出値が異なることが技術常識であることを考慮すると、引用発明の「電流検出回路121A及び電流検出回路121Bで検出した電流検出値の相毎の加算値」は、同じタイミングの検出値を加算していることは明らかであり、本件発明1の「同じタイミングにおけるM組の前記電流センサの前記検出値を加算し」たものに相当する。また、引用発明の「U相電流指令値Iu*、V相電流指令値Iv*及びW相電流指令値Iw*」は「第1の3相モータ巻線L1」及び「第2の3相モータ巻線L2」に流す電流の指令値を合算したものであるかは明らかでないものの、引用発明の「U相電流指令値Iu*、V相電流指令値Iv*及びW相電流指令値Iw*」と、本件発明1の「M組の前記コイルセットに流す電流を合算した電流である目標電流」とは、「M組の前記コイルセットに流す電流である目標電流」である点において共通し、引用発明の「電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIw」は、本件発明1の「偏差」に相当する。そうすると、引用発明の「制御演算部110は、電流検出回路121A及び電流検出回路121Bで検出した電流検出値の相毎の加算値と、U相電流指令値Iu*、V相電流指令値Iv*及びW相電流指令値Iw*との電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwを算出し、これらの偏差に基づいて、前記モータ200の電流フィードバック制御を行う」ことと、本件発明1の「前記インバータ制御装置は、同じタイミングにおけるM組の前記電流センサの前記検出値を加算して前記回転電機に流れる実電流を求め、M組の前記コイルセットに流す電流を合算した電流を目標電流として、当該実電流と当該目標電流との偏差に基づいて、前記回転電機の電流フィードバック制御を行」うことは、「前記インバータ制御装置は、同じタイミングにおけるM組の前記電流センサの前記検出値を加算して前記回転電機に流れる実電流を求め、M組の前記コイルセットに流す電流を目標電流として、当該実電流と当該目標電流との偏差に基づいて、前記回転電機の電流フィードバック制御を行」う点において共通する。
以上の点を総合すると、本件発明1と引用発明とは、
「N相(Nは自然数)のコイルセットをM個(Mは2以上の自然数)備えた交流の回転電機を制御対象とする回転電機制御システムであって、
複数のスイッチング素子を備え、直流電源及びそれぞれの前記コイルセットに接続されて直流とN相の交流との間で電力を変換するM個のインバータと、
N相の1つの前記コイルセットに対して1組設けられて、それぞれの前記コイルセットに流れる各相の交流電流を検出するM組の電流センサと、
複数の前記スイッチング素子を制御するためのスイッチング制御信号を生成して前記インバータを制御するインバータ制御装置と、を備え、
前記インバータ制御装置は、M組の前記電流センサのN相の各相における検出値の全てを用いて、前記回転電機の電流フィードバック制御を行い、M個の前記インバータに前記スイッチング制御信号を生成するものであり、
前記インバータ制御装置は、同じタイミングにおけるM組の前記電流センサの前記検出値を加算して前記回転電機に流れる実電流を求め、M組の前記コイルセットに流す電流を目標電流として、当該実電流と当該目標電流との偏差に基づいて、前記回転電機の電流フィードバック制御を行い、M個の前記インバータに前記スイッチング制御信号を生成する回転電機制御システム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
回転電機制御システムが制御対象とする交流の回転電機について、本件発明は「車両の駆動力源」であるのに対して、引用発明は、「車両の操舵系にアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置のモータ200」である点。
[相違点2]
インバータ制御装置が生成するスイッチング制御信号について、本件発明1は、M個のインバータに「共通する」ものであるのに対し、引用発明は、ゲート駆動回路123A及びゲート駆動回路123Bから出力されるものであり、インバータ122A及びインバータ122Bに共通するものとはいえない点。
[相違点3]
M組のコイルセットに流す電流である「目標電流」について、本件発明1は、「M組の前記コイルセットに流す電流を合算した電流」であるのに対して、引用発明は、U相電流指令値Iu*、V相電流指令値Iv*及びW相電流指令値Iw*が第1の3相モータ巻線L1と第2の3相モータ巻線L2に流す電流を「合算した」電流であるか明らかでない点。
イ 相違点の検討
相違点1について
以下、前記[相違点1]について検討する。
上記2(1)ア(ア)、同(イ)によれば、引用発明は、多系統モータ巻線を有するモータを、巻線系統毎のモータ駆動回路を介して制御するモータ制御装置を搭載した電動パワーステアリング装置及び車両に関し、故障発生で片系統を遮断することによって電流応答特性が変化し、異音/振動/操舵違和感に繋がることを防ぐため、当該故障前後で、その電流応答特性変化を防ぐことを目的とするものである。
このような課題は、操舵を補助する電動パワーステアリング装置に独特の事情に基づくものであり、電動パワーステアリング装置の駆動力と車両の駆動力とは、要求されるトルク、要求される信頼度等も異なることも考慮すると、車両に関するモータ制御装置という点で利用分野が共通するとしても、引用発明の技術を、車両の駆動力源となる回転電機を制御対象とするモータ制御装置に転用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(イ) 相違点2について
以下、前記[相違点2]について、検討する。
上記2(3)ア(ア)及び同(イ)によれば、甲第3号証には、電動パワーステアリング装置のモータ駆動回路において、2系統のスイッチング回路8a、8bのトランジスタQ1a、Q1bーQ6a、Q6bを、それぞれ組毎に同時的にオン/オフするために、ゲート制御回路9aから共通の制御信号を出力する点が記載されている。
しかしながら、甲第3号証には、上記構成が一応記載されているものの、当該構成による効果等の技術的な意義は何ら記載されておらず、当該記載に接した当業者にとって、当該構成のみを抽出し、引用発明における、各FETQ1~Q6のゲートに入力されるゲート信号を共通化する積極的な動機があるとまではいえない。
また、2(1)ア(エ)、同(オ)によれば、甲第1号証に記載されたモータ制御装置におけるゲート駆動回路123A、123Bは、インバータ122A及び122Bを構成するFETのオープン故障又はショート故障を検出したときに、異常が検出されたインバータ122A又はインバータ122Bに対応するゲート駆動回路123A又はゲート駆動回路123Bに異常検出信号SAa又は異常検出信号SAbが入力され、異常検出信号SAa、SAbの入力の有無によって、それぞれ対応するモータ電流遮断回路130A、130Bにゲート信号を入力してモータ電流を遮断する役割も担っており、引用発明においては、ゲート駆動回路123A、123Bを独立して2つ設けておく積極的な事情があるといえる。このような事情も考慮すると、甲第3号証に記載された上記事項を引用発明に適用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そうすると、甲第3号証の記載を考慮しても、本件発明1の前記相違点2に係る発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ) 相違点3について
次に、前記[相違点3]について、検討する。
電流フィードバック制御は、電流偏差がゼロに近づくように制御するものであり、検出電流と電流目標値のそれぞれの値が対応するものとなっていることは技術常識である。そうすると、引用発明において、電流検出回路121A及び電流検出回路121Bで検出した電流検出値の相毎の加算値と、U相電流指令値Iu*、V相電流指令値Iv*及びW相電流指令値Iw*との電流偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwを算出し、これらの偏差に基づいて、モータ200の電流フィードバック制御を行うにあたって、U相電流指令値Iu*、V相電流指令値Iv*及びW相電流指令値Iw*は、電流検出回路121A及び電流検出回路121Bで検出した電流検出値の相毎の加算値に対応する値、つまり第1のモータ巻線L1のモータ電流I1dと、第2のモータ巻線L2のモータ電流I2dとの相毎の加算値に対応する値となっていることは自明であり、U相電流指令値Iu*、V相電流指令値Iv*及びW相電流指令値Iw*として、第1のモータ巻線L1に流す電流の値と、第2のモータ巻線L2に流す電流の値とを合算した値を用いていることも自明である。
そうすると、前記相違点3は、実質的な相違点とはいえない。また、仮に前記相違点3が実質的な相違点であるとしても、引用発明において、上記技術常識に基づき、本件発明1の前記相違点3に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和5年6月8日提出の意見書(以下、「申立人意見書」という。)において、参考資料1、2を提示するとともに意見を述べているので検討する。
申立人は、申立人意見書「3(2)訂正後の本件発明1について」において、二つのインバータへの指令を一つの共通信号として出力することは、参考資料1に記載のように周知技術であり、引用発明に適用することは当業者が容易に想到し得るものであると主張している(申立人意見書では、「周知の技術を引用文献2(甲3発明)に適用する」と述べているが、「引用発明」の誤記と思われる。)。しかしながら、上記3(1)イ(イ)で示したとおり、引用発明においては、ゲート駆動回路123A、123Bを独立して2つ設けておく積極的な事情があるといえるから、参考資料1に記載された上記技術を採用し、引用発明のゲート駆動回路123A及びゲート駆動回路123Bを共通化し、各スイッチング素子に対するスイッチング制御信号を共通化することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
また、申立人は、参考資料2には、二系統のインバータを共通のスイッチング制御信号で駆動する技術を車両の駆動力源となる交流の回転電機に適用することが記載されており、当業者であれば容易に想到し得るものであると主張している。
しかしながら、引用発明が課題とする点は、操舵を補助する電動パワーステアリング装置に独特の事情に基づくものであり、車両に関するモータ制御装置という点で利用分野が共通するとしても、引用発明の技術を、車両の駆動力源となる回転電機を制御対象とするモータ制御装置に転用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえないことは、上に説示したとおりである。
以上によれば、前記申立人の主張を採用することはできない。
エ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~4について
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4は、本件発明1を特定するための事項を全て含み、本件発明1をさらに減縮したものである。
そして、上記2(2)アのとおり、甲第2号証にはdq軸直交ベクトル座標系の2相電流の偏差を演算し、その後、3相の電圧指令値に変換してモータを制御することが記載されているが、この点を考慮しても、上記(1)イで示した相違点1、相違点2の判断を覆すものではない。
したがって、その余の事項を検討するまでもなく、本件発明2~4は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701242