特許異議申立
2023-700410
モータ制御装置
- 審判番号
- 2023-700410
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-163148
- 登録番号
- 7159704
- 請求日
- 2023年04月21日
- 審決日
- 2023年12月15日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社アドヴィックス
- 【権利者代理人】恩田 誠
- 【権利者代理人】恩田 博宣
- 【異議申立人】藤江 桂子
- 審判長/審判官
- 審判長 村上 聡
- 審判官 柿崎 拓
- 審判官 伊藤 秀行
- 分類
- P1652.537-YAA(H02P) / P1652.113-YAA(H02P) / P1652.121-YAA(H02P)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7159704号発明「モータ制御装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7159704号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第7159704号の請求項1、7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7159704号の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成30年8月31日に出願され、令和4年10月17日にその特許権の設定登録がされ、令和4年10月25日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 5年 4月21日 : 特許異議申立人藤江桂子(以下「特許異議申立人」という。)による請求項1及び7に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 5年 6月28日付け: 取消理由通知
令和 5年 9月 1日 : 特許権者株式会社アドヴィックス(以下「特許権者」という。)による意見書及び訂正請求書の提出
令和 5年 9月25日付け: 通知書(訂正請求があった旨の通知)
なお、令和5年9月25日付け通知書(訂正請求があった旨の通知)により、特許異議申立人に、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人による意見書の提出はされていない。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
特許権者が令和5年9月1日にした訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである(下線は、訂正箇所を示すため当審で付与した。)。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「給電によってブラシレスモータのロータを回転させる回転制御部と、
前記回転制御部による前記ブラシレスモータへの給電に伴う前記ロータの回転方向を判定する回転方向判定部と、
前記回転制御部による前記ブラシレスモータへの給電によって同ブラシレスモータのコイルに流れる電流の向きと、前記回転方向判定部によって判定された前記ロータの回転方向とを基に、前記ロータの磁極を判別する磁極判別部と、を備える
モータ制御装置。」
とあるのを、
「給電によってブラシレスモータのロータを回転させる回転制御部と、
前記回転制御部による前記ブラシレスモータへの給電に伴う前記ロータの回転方向を判定する回転方向判定部と、
前記回転制御部による前記ブラシレスモータへの給電によって同ブラシレスモータのコイルに流れる電流の向きと、前記回転方向判定部によって判定された前記ロータの回転方向とを基に、前記ロータの磁極を判別する磁極判別部と、
前記回転制御部による前記ブラシレスモータへの給電によって前記ロータを回転させる前に、ベクトル制御の回転座標の実際のd軸である実d軸の方向に前記回転座標におけるd軸と推定されている軸である推定d軸の方向が近づくように当該推定d軸の方向を修正する事前修正処理を実行する回転座標設定部と、を備える
モータ制御装置。」
と訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~7についても同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に
「ベクトル制御の回転座標におけるd軸と推定されている軸を推定d軸とした場合、
前記回転座標の実際のd軸である実d軸の方向と前記推定d軸の方向との誤差が所定の磁極判定許可範囲に含まれているか否かを判定する誤差判定部を備え、
前記回転制御部は、前記誤差判定部によって前記誤差が前記磁極判定許可範囲に含まれているとの判定がなされているときに、前記ブラシレスモータへの給電によって前記ロータを回転させ、
前記磁極判別部は、前記誤差判定部によって前記誤差が前記磁極判定許可範囲に含まれているとの判定がなされている状況下での前記回転制御部による前記ブラシレスモータへの給電によって前記コイルに流れる電流の向きと、前記回転方向判定部によって判定された前記ロータの回転方向とを基に、前記ロータの磁極を判別する
請求項1に記載のモータ制御装置。」
とあるのを、
「給電によってブラシレスモータのロータを回転させる回転制御部と、
前記回転制御部による前記ブラシレスモータへの給電に伴う前記ロータの回転方向を判定する回転方向判定部と、
前記回転制御部による前記ブラシレスモータへの給電によって同ブラシレスモータのコイルに流れる電流の向きと、前記回転方向判定部によって判定された前記ロータの回転方向とを基に、前記ロータの磁極を判別する磁極判別部と、を備え、
ベクトル制御の回転座標におけるd軸と推定されている軸を推定d軸とした場合、
前記回転座標の実際のd軸である実d軸の方向と前記推定d軸の方向との誤差が所定の磁極判定許可範囲に含まれているか否かを判定する誤差判定部を備え、
前記回転制御部は、前記誤差判定部によって前記誤差が前記磁極判定許可範囲に含まれているとの判定がなされているときに、前記ブラシレスモータへの給電によって前記ロータを回転させ、
前記磁極判別部は、前記誤差判定部によって前記誤差が前記磁極判定許可範囲に含まれているとの判定がなされている状況下での前記回転制御部による前記ブラシレスモータへの給電によって前記コイルに流れる電流の向きと、前記回転方向判定部によって判定された前記ロータの回転方向とを基に、前記ロータの磁極を判別する
モータ制御装置。」
と訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~7についても同様に訂正する。)。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載された「モータ制御装置」について、さらに「前記回転制御部による前記ブラシレスモータへの給電によって前記ロータを回転させる前に、ベクトル制御の回転座標の実際のd軸である実d軸の方向に前記回転座標におけるd軸と推定されている軸である推定d軸の方向が近づくように当該推定d軸の方向を修正する事前修正処理を実行する回転座標設定部」を備えることを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
本件特許の特許請求の範囲、明細書又は図面(以下「特許明細書等」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付加した。以下、同様である。)。
(ア)「【請求項5】
前記回転座標設定部は、前記回転制御部による前記ブラシレスモータへの給電によって前記ロータを回転させる前に、前記実d軸の方向に前記推定d軸の方向が近づくように当該推定d軸の方向を修正する事前修正処理を実行し、
前記回転方向判定部は、前記回転座標設定部による前記事前修正処理の実行によって得られる情報と、前記回転座標設定部による前記事後修正処理の実行によって得られる情報とを基に、前記ロータの回転方向を判定する
請求項3又は請求項4に記載のモータ制御装置。」
(イ)「【0020】
モータ制御装置10は、ベクトル制御によってブラシレスモータ100を駆動させる。このようなモータ制御装置10は、指令電流算出部11、指令電圧算出部12、2相/3相変換部13、インバータ14、3相/2相変換部15及びロータ位置推定部16を有している。」
(ウ)「【0023】
なお、推定d軸とは、ベクトル制御の回転座標上の制御軸のうち、d軸と推定されている軸のことである。回転座標上での実際のd軸のことを実d軸という。また、回転座標上での実際のq軸のことを実q軸といい、回転座標上の制御軸のうちのq軸と推定されている軸のことを推定q軸という。」
(エ)「【0027】
ロータ位置推定部16は、ロータ回転角θを推定する。こうしたロータ位置推定部16は、機能部として、交流電圧発生部161、制御軸修正部162、回転制御部163、回転方向判定部164及び磁極判別部165を有している。
・・・(中略)・・・
【0029】
図1に戻り、制御軸修正部162は、交流電圧発生部161によって外乱出力処理が実行されているときに、推定d軸の方向を修正し、推定d軸の方向を実d軸の方向にほぼ一致させるための処理を実行する。こうした制御軸修正部162は、回転座標設定部162aと、誤差判定部162bとを含んでいる。」
(オ)「【0030】
回転座標設定部162aは、推定d軸の方向を修正し、推定d軸の方向を実d軸の方向に接近させる修正処理を実行する。すなわち、回転座標設定部162aは、修正処理では、3相/2相変換部15から入力されたq軸電流Iqをバンドパスフィルタに通すことにより、q軸電流Iqの高周波成分である推定q軸高周波電流Iqhを検出する。そして、制御軸修正部162は、修正処理では、検出した推定q軸高周波電流Iqhを用い、制御軸の方向、すなわち推定d軸の方向及び推定q軸の方向を修正する。」
(カ)「【0040】
本処理ルーチンにおいて、はじめのステップS11では、修正処理の一つである事前修正処理が実行される。事前修正処理とは、回転制御部163による回転処理の実行に伴うブラシレスモータ100への給電によってロータ105を回転させる前に実行される修正処理のことである。具体的には、回転座標設定部162aは、事前修正処理の開始に先立って外乱出力処理の実行を交流電圧発生部161に指示する。この指示によって外乱出力処理の実行が開始され、外乱電圧信号Vdh*が第1の加算器17に入力されるようになると、回転座標設定部162aは、事前修正処理を開始する。そして、誤差判定部162bによってd軸誤差が磁極判定許可範囲に含まれているとの判定がなされると、回転座標設定部162aは、事前回転処理(当審注:「事前修正処理」の誤記と認められる。)を終了し、外乱出力処理の停止を交流電圧発生部161に指示する。外乱電圧信号Vdh*が第1の加算器17に入力されなくなると、処理が次のステップS12に移行される。」
(キ)「【0075】
・事後修正処理は、実d軸の方向に推定d軸の方向を接近させることができるのであれば、上記実施形態で説明した内容となる異なる内容の処理であってもよい。
・事前修正処理は、実d軸の方向に推定d軸の方向を接近させることができるのであれば、上記実施形態で説明した内容となる異なる内容の処理であってもよい。」
これらの記載によると、まず、前記(ウ)には、ベクトル制御の回転座標上でのd軸と推定されている軸を推定d軸ということ、及びベクトル制御の回転座標上での実際のd軸を実d軸ということが記載されている。また、前記(イ)及び(エ)によると、モータ制御装置10は、回転座標設定部162aを備えているといえ、前記(オ)には、回転座標設定部162aが、推定d軸の方向を修正し、推定d軸の方向を実d軸の方向に接近させる修正処理を実行するものであることが記載されている。さらに、前記(カ)には、該回転座標設定部162aが、回転制御部163による回転処理の実行に伴うブラシレスモータ100への給電によってロータ105を回転させる前に、事前修正処理を実行することが記載されている。そして、この前記(カ)に記載された事前修正処理は、誤差判定部162bによってd軸誤差が磁極判定許可範囲に含まれているとの判定がなされるまで行われるものと解されるが、前記(キ)によると、事前修正処理は、前記(カ)に記載されたような判定がなされるまで行われるものに限らず、実d軸の方向に推定d軸の方向を接近させることができるものであればよいものと解される。以上を踏まえると、本件特許の明細書(以下「特許明細書」という。)の記載から、モータ制御装置10が、回転制御部163によるブラシレスモータ100への給電によってロータ105を回転させる前に、ベクトル制御の回転座標の実際のd軸である実d軸の方向に回転座標におけるd軸と推定されている軸である推定d軸の方向を接近させるように推定d軸の方向を修正する事前修正処理を実行する回転座標設定部162aを備えることが把握できる。また、【請求項5】の記載(前記(ア)参照。)によると、本件特許の特許請求の範囲の記載からも、同様の事項が把握できる。
すると、訂正事項1は、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、前記アに示したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
エ 独立特許要件
請求項1及び7に係る特許について特許異議の申立てがされているので、訂正後の請求項1及び7に記載されている事項により特定される発明に独立特許要件は課されない。
また、後記「第6」に示すように、訂正後の請求項1に係る発明によると、請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しないものであるところ、訂正後の請求項1に係る発明を、さらに限定した訂正後の請求項3~6に記載されている事項により特定される発明についても、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、本件訂正前の請求項1の記載を引用する請求項2の記載を、当該請求項1の記載を引用しないものとするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げられる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件
訂正事項2は、前記アに示したように、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであること、及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
また、訂正事項2は、前記したように、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる事項を目的とするものであるから、独立特許要件は課されない。
3 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~7について、請求項2~7は請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、本件訂正によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~7は一群の請求項を構成する。
そして、本件訂正請求は、本件訂正により、訂正前の請求項1~7の記載を訂正しようとするものであり、一群の請求項1~7に対して請求されているから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
4 まとめ
前記のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項及び読み替えて準用する第7項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の請求項1及び7に係る発明
本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1及び7に係る発明(以下「本件特許発明1」及び「本件特許発明7」という。)は、訂正後の請求項1及び7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
給電によってブラシレスモータのロータを回転させる回転制御部と、
前記回転制御部による前記ブラシレスモータへの給電に伴う前記ロータの回転方向を判定する回転方向判定部と、
前記回転制御部による前記ブラシレスモータへの給電によって同ブラシレスモータのコイルに流れる電流の向きと、前記回転方向判定部によって判定された前記ロータの回転方向とを基に、前記ロータの磁極を判別する磁極判別部と、
前記回転制御部による前記ブラシレスモータへの給電によって前記ロータを回転させる前に、ベクトル制御の回転座標の実際のd軸である実d軸の方向に前記回転座標におけるd軸と推定されている軸である推定d軸の方向が近づくように当該推定d軸の方向を修正する事前修正処理を実行する回転座標設定部と、を備える
モータ制御装置。
【請求項7】
前記回転制御部は、前記ブラシレスモータへの給電に伴う前記ロータの回転量が規定量以下であるときには、前記ブラシレスモータへの給電を大きくすることで前記ロータを回転させる
請求項1~請求項6のうち何れか一項に記載のモータ制御装置。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1及び7に係る特許に対して、当審が令和5年6月28日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(サポート要件)請求項1及び7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、以下の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
本件訂正前の請求項1に係る発明は、「ロータの磁極を判別するに際し、判別に要する時間の短縮化」を発明の課題とするものであり(段落【0004】参照)、該課題を解決するためには、本件訂正前の請求項2で特定されているように、「ベクトル制御の回転座標におけるd軸と推定されている軸」である「推定d軸の方向」と「回転座標の実際のd軸である実d軸の方向」との誤差について「誤差判定部によって誤差が磁極判定許可範囲に含まれているとの判定がなされている状況下で」、磁極判別部が「回転制御部によるブラシレスモータへの給電によってコイルに流れる電流の向きと、回転方向判定部によって判定されたロータの回転方向とを基に、ロータの磁極を判別する」ことが必要であると認められる。
よって、本件訂正前の請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていない。その結果、本件訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。
この点は、請求項1を直接引用する本件訂正前の請求項7の記載も同様である。
よって、本件訂正前の請求項1、7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
2 当審の判断
(1)サポート要件の判断について
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との記載を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆が無くとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件特許発明1について
ア 特許明細書の段落【0004】には、「発明が解決しようとする課題」として「ロータの磁極を判別するに際し、判別に要する時間の短縮化が求められている。」ことが記載されている。
イ そして、特許明細書の段落【0019】~【0067】には、前記課題を解決するための手段が、モータ制御装置の実施形態として記載されており、具体的には、回転座標設定部162aが、推定d軸の方向を修正し、推定d軸の方向を実d軸の方向に接近させる修正処理を実行し(段落【0030】参照。)、実d軸の方向と推定d軸の方向との誤差であるd軸誤差(段落【0033】参照。)が、磁極判定許可範囲に含まれているとの判定が誤差判定部162bによってなされると、回転座標設定部162aは、前記修正処理を終了し(段落【0034】参照。また、該「修正処理」は、段落【0040】によると、「事前修正処理」という用語でも説明されている。)、その後、回転制御部163は、推定q軸の方向に電流ベクトルが発生するように回転処理を実行し(段落【0035】参照。)、回転方向判定部164は、回転制御部163によるブラシレスモータ100への給電に伴うロータ105の回転方向を判定し(段落【0037】参照。)、磁極判別部165が、回転制御部163による回転処理の実行によって生成されたパルス信号Iq’*の電流の向きと、回転方向判定部164によって判定されたロータ105の回転方向とを基に、ロータ105の磁極を判別する磁極判別処理を実行する(段落【0038】参照。)ことが記載されている。また、該実施形態の作用及び効果について、ロータ105を回転させることのできる程度の電流を各コイル101~103に流すことにより、ロータ105の磁極が判別されるので、判別に要する消費電力を少なくすることができること(段落【0061】参照。)、さらに、事前修正処理を実行した後に回転処理が実行される結果、位相差Δθがほぼ「0°」である状態、又は位相差Δθがほぼ「180°」である状態で回転処理を実行させることができるため、位相差Δθが「90°」である状態、又は位相差Δθが「-90°」である状態で回転処理が実行されて、ロータ105が回転しないという事象の発生を抑制できること(段落【0062】参照。)が記載されている。
ウ また、段落【0068】~【0078】には、前記実施形態を変更して実施することができる旨が記載され、段落【0075】には、「事前修正処理は、実d軸の方向に推定d軸の方向を接近させることができるのであれば、上記実施形態で説明した内容となる異なる内容の処理であってもよい。」と記載されている。
エ 以上を踏まえると、発明の詳細な説明に記載された「ロータの磁極を判別するに際し、判別に要する時間の短縮化が求められている。」という課題は、具体的には、位相差Δθが「90°」である状態、又は「-90°」である状態で回転処理が実行されてロータ105が回転しないという事象の発生を抑制することでも解決されるものと把握でき、実施形態として記載された事項(前記イ参照。)のように、実d軸の方向と推定d軸の方向との誤差であるd軸誤差が、磁極判定許可範囲に含まれているとの判定が誤差判定部162bによってなされるまで、回転座標設定部162aが事前修正処理を実行すれば、位相差Δθがほぼ「0°」である状態、又はほぼ「180°」である状態で回転処理を実行させることができ、このとき、回転制御部163が電流ベクトルを発生させる推定q軸の方向は、実d軸とほぼ直交することになるから、該回転処理において、ロータ105が回転しないという事象の発生を抑制でき、前記課題を解決することができると認識できる。
オ また、前記ウに記載されているように、前記実施形態を変更し、事前修正処理により、実d軸の方向に推定d軸の方向を接近させれば、位相差Δθが「90°」である状態、又は「-90°」である状態であったとしても、位相差Δθは「0°」又は「180°」の方向に接近し、位相差Δθが「90°」である状態、又は「-90°」である状態で回転処理が実行されることはなくなる、つまり回転制御部163が電流ベクトルを発生させる推定q軸の方向と実d軸の方向とが一致した状態で回転処理が実行されることはなくなると解される。すると、事前修正処理により、少なくとも実d軸の方向に推定d軸の方向を接近させることによっても、回転処理において、ロータ105が回転しないという事象の発生を抑制でき、前記課題を解決することができると認識できる。
カ そして、本件特許発明1は、「前記回転制御部による前記ブラシレスモータへの給電によって前記ロータを回転させる前に、ベクトル制御の回転座標の実際のd軸である実d軸の方向に前記回転座標におけるd軸と推定されている軸である推定d軸の方向が近づくように当該推定d軸の方向を修正する事前修正処理を実行する回転座標設定部」という発明特定事項を備えるものであり、前記ウに記載されているように実施形態を変更したものに対応し、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえるとともに、前記ウに記載されているように実施形態を変更したものも、前記オに記載したように、発明の詳細な説明の記載から前記課題を解決することができると認識できるから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が前記課題を解決できると認識できる範囲のものである。
キ 以上によると、特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するものである。
(3)本件特許発明7について
本件特許発明7は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含む発明であり、さらに「前記回転制御部は、前記ブラシレスモータへの給電に伴う前記ロータの回転量が規定量以下であるときには、前記ブラシレスモータへの給電を大きくすることで前記ロータを回転させる」という発明特定事項(以下「請求項7記載事項」という。)を備えるものである。
そして、請求項7記載事項は、特許明細書の段落【0069】に記載されているから、本件特許発明7は、発明の詳細な説明に記載された発明である。また、前記(2)に記載した本件特許発明1についての理由と同様の理由により、本件特許発明7は、発明の詳細な説明の記載により当業者が前記課題を解決できると認識できる範囲のものである。
以上によると、特許請求の範囲の請求項7の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するものである。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由について
特許異議申立書において、本件訂正前の請求項1に係る特許、及び請求項7に係る特許に対し、特許異議申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
(1)請求項1に係る発明は、甲第1号証(以下「甲1」という。)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に掲げられる発明に該当するから、請求項1に係る特許は取り消されるべきものである。又は、請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項1に係る特許は取り消されるべきものである。
(2)請求項7に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲第2号証(以下「甲2」という。)に基いて、又は甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、請求項7に係る特許は取り消されるべきものである。
甲1:特許第3408468号公報
甲2:特開2011-30393号公報
2 甲1及び甲2について
(1)甲1
ア 甲1の記載
特許異議申立人が提出した甲1には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0011】以上のように、同期電動機をサーボモータとして用いるサーボ制御システムにおける電流制御器30では、図3、図4に示すようにエンコーダ等のセンサ6で検出されるロータ位置の位相θsに90度を加算した励磁位相ψに基づいてサーボモータ各励磁相への電圧指令Vu、Vv、Vwを求めている。エンコーダ等のセンサ6でロータ位置の位相θsを検出するには、ステータへの励磁電流の励磁位相基準とエンコーダで検出されるロータ位置が所定位置関係になければならない。」
(イ)「【0013】そこで、本発明は、ロータを僅かに移動させるだけで、ステータ励磁位相基準に対するロータ位置を検出する方法を提供するものである。同期電動機を駆動したとき、そのトルクTの大きさは上述したように「|I||Φ|sinα」であり、その回転方向は、電流ベクトルIと磁束ベクトルΦのなす角αで決まる。この角αが0~180度の区間では、sinα>0で正方向にロータは回転する。また、α=180~360度では、sinα<0でロータは負方向に回転することになる。これを利用して本実施形態では、まず、ステータ励磁位相180度に直流電流を流しロータの回転方向を検出する。正方向に回転すれば、ロータ磁極位置(磁束Φの位置)はステータ励磁位相の180~360度の領域幅内にあり、負方向に回転すれば、ロータ磁極位置は0~180度の領域幅内にあることになる。次にロータ磁極位置がある領域(180~360度の領域か、0~180度の領域)の中間の励磁位相に直流電流を同様に流し、ロータの回転方向を検出し、ロータの磁極位置のある領域を検出する。以下これを繰り返し、このロータ磁極位置のある領域を順次小さな領域とすることによって、このロータ磁極位置を最終的に検出するものである。」
(ウ)「【0017】そして、試行カウンタnの値が設定されている繰り返し数Nを越えているか判断し(ステップS6)、越えてなければ360度を2nで割って、ロータ磁極位置(磁束位置)が予想される領域の位相幅の1/2の位相量βを求める。最初は、ロータ磁極位置は電気角0~360度の全領域にあることが推定され、試行カウンタnは「1」にセットされているから、推定領域の位相幅の1/2の位相量β=180度が求められる(ステップS7)。次に、現時点までに推定されている磁極位置(推定領域の一端であり、この実施形態では始点で位相角度が小さい方)θに推定領域の位相幅の1/2の位相量β及びロータ移動量δを加算してステータ励磁位相φを求める(ステップS8)。最初は、θ=0、β=180度、δ=0であるから、ステータ励磁位相φは「180度」として求まる。」
(エ)「【0021】前述したように、同期電動機で電流を流したとき発生するトルクの大きさは第2式で表され、そのトルクの向きは、磁束ベクトルと電流ベクトルとのなす角αが0度~180度の間では正(sinα>0)、180度~360度の間では負(sinα<0)であるから、励磁位相φ=180度に直流電流Iを流して、ロータが正方向に回転したときは、ロータの磁極位置は180度~360度の領域にある。そこで、この場合には、推定されていた磁極位置θ(=0)に磁極があると推定されていた領域の位相幅の1/2の位相量β(=180度)を加算し、新たな推定磁極位置θ(=180)を求める。すなわち、推定磁極位置θとして磁極位置が存在すると推定される領域の始点の位相が記憶されることになる。この場合では、ステータ励磁位相180度~360度の領域にロータ磁極位置があるものと推定されたことから、新たな推定磁極位置θとして180度が記憶される(ステップS14)。
【0022】又、ステップS13で、負方向に回転したと判別された場合には、ロータの磁極位置は0度~180度の領域にあるものであり、このときは、推定磁極位置θは更新せず、ロータ磁極位置があると推定された領域の0度~180度の始点「0度」がそのまま記憶される。」
(オ)前記(イ)の記載において、ステータ励磁位相180度に直流電流を流す際、前記(ウ)の記載によると、ロータ磁極位置は電気角0~360度の推定領域にあるとされ、該推定領域の一端であり位相角度が小さい方である0度を、推定されている磁極位置θとしていることが把握できる。そして、前記(エ)の記載によると、ステータ励磁位相180度に直流電流を流して正方向に回転すれば、推定磁極位置θを180度とし、負方向に回転すれば、推定磁極位置θを0度のままとしていることが把握できる。
すると、前記(イ)~(エ)の記載によると、推定磁極位置θを0度としてステータ励磁位相180度に直流電流を流し、ロータの回転方向を検出し、正方向に回転すれば、ロータ磁極位置は180~360度の領域幅内にあるため推定磁極位置θを180度とし、負方向に回転すれば、ロータ磁極位置は0~180度の領域幅内にあるため推定磁極位置を0度のままとしていることが把握できる。
イ 甲1発明
前記ア(ア)~(オ)によれば、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「推定磁極位置θを0度としてステータ励磁位相180度に直流電流を流し、ロータの回転方向を検出し、正方向に回転すれば、ロータ磁極位置は180~360度の領域幅内にあるため推定磁極位置θを180度とし、負方向に回転すれば、ロータ磁極位置は0~180度の領域幅内にあるため推定磁極位置を0度のままとし、次にロータ磁極位置がある領域の中間のステータ励磁位相に直流電流を同様に流し、ロータの回転方向を検出し、ロータの磁極位置のある領域を検出することを繰り返し、このロータ磁極位置のある領域を順次小さな領域とすることによって、ロータ磁極位置を最終的に検出する
同期電動機をサーボモータとして用いるサーボ制御システム。」
(2)甲2
特許異議申立人が提出した甲2には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
リニア型永久磁石同期モータと、このモータに取り付けられたエンコーダと、このエンコーダから出力される複数相の位置検出パルスから前記モータの速度及び磁極位置を演算する速度・位置演算手段と、前記モータの印加電圧の位相角指令値を演算する位相角指令演算手段と、前記モータに対する電流指令値を生成する電流指令値生成手段と、を備えたリニア型永久磁石同期モータの制御装置において、
前記位相角指令演算手段は、
電源投入時に所定の電流指令値に従い電流制御を行って静止状態のモータを移動させる摩擦脱出モードにおいて、前記位相角指令値を所定値に固定する機能と、
前記摩擦脱出モードに続く磁極位置検出モードにおいて、前記モータの移動方向が想定方向とは逆である場合に前記位相角指令値を180度反転させる機能と、前記モータの移動速度が制限値以上になった場合に前記位相角指令値の増加割合を低減させる機能と、を備え、
前記電流指令値生成手段は、
前記摩擦脱出モードにおいて、前記電流指令値をランプ関数的に増加させる機能と、前記モータの移動を検出した時点で前記電流指令値を第1の設定値まで低下させる機能と、
前記磁極位置検出モードにおいて、前記電流指令値を第1の設定値からランプ関数的に増加させる機能と、前記モータの移動速度が制限値に達した時に前記電流指令値を第2の設定値まで低下させ、前記モータの移動速度を低下させる機能と、前記モータが停止するまで、または所定時間に達するまで、前記電流指令値を第2の設定値からランプ関数的に増加させて前記モータの磁極位置を前記印加電圧の位置に一致させ、磁極位置を検出する機能と、を備えたことを特徴とするリニア型永久磁石同期モータの制御装置。」
イ 「【0001】
本発明は、電力変換器によって駆動されるリニア型永久磁石同期モータの制御装置に関し、特に、電源投入時のモータの初期磁極位置を高精度に検出して運転開始時の暴走やトルク不足を防止する機能を備えた制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
永久磁石同期モータは、高効率、省スペース等の利点を有することから普及が進んでおり、回転モータのみならずリニアモータとしても広く利用されている。永久磁石同期モータは、永久磁石回転子の磁極位置に応じた電圧を印加しないとトルクを発生できず、モータが逆回転してしまう等の問題があるので、磁極位置を正確に把握することが重要である。
周知のように、エンコーダを用いれば、その出力信号である位置信号に基づいてモータの速度及び磁極位置を演算することが可能であるが、電源投入時は初期磁極位置が不明であるため、この初期磁極位置を正確に検出して安定に起動する手段が必要となる。」
ウ 「【0006】
そこで、本発明の解決課題は、上記(1)~(4)の問題点を克服し、可動子の一方向のみの移動により、摩擦等の外乱があっても初期磁極位置を高精度かつ少ない演算量で推定すると共に、構成の簡略化を可能にした制御装置を提供することにある。」
エ 「【0010】
本発明においては、リニア型永久磁石同期モータに供給する電流をランプ関数的に移動させ、そのときの電流や速度を制御しながらモータの磁極位置が位相角指令値(電圧位相角)に一致するように引き込むものである。このため、可動子を両方向に移動させず一方向のみの移動によって初期磁極位置を検出可能であり、摩擦が大きいリニアサーボモータに対しても、容易かつ高い信頼性で初期磁極位置を推定してモータをスムーズに始動することができる。
また、複雑な演算処理も不要であり、制御装置の演算負荷の低減、回路構成の簡略化が可能である。」
3 本件特許発明1について
(1)本件特許発明1と甲1発明の対比
以下、本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「同期電動機」は、一般にブラシを備えないものであり、甲1発明の「ブラシレスモータ」に相当する。また、甲1発明の「次にロータ磁極位置がある領域の中間のステータ励磁位相に直流電流を同様に流し」という事項は、同期電動機のロータを回転させるものであり、ロータの回転を制御する手段により実行されることは明らかであるから、甲1発明の前記事項を備えることは、本件特許発明1の「給電によってブラシレスモータのロータを回転させる回転制御部」を備えることに相当する。
イ 甲1発明の「ロータの回転方向を検出し」という事項は、「次にロータ磁極位置がある領域の中間のステータ励磁位相に直流電流を同様に流」すことにより生じるロータの回転において、その回転方向を検出するものであり、また、該検出は、ロータの回転方向を検出する手段により実行されることは明らかであるから、甲1発明の前記事項を備えることは、本件特許発明1の「前記回転制御部による前記ブラシレスモータへの給電に伴う前記ロータの回転方向を判定する回転方向判定部」を備えることに相当する。
ウ 甲1発明の「ロータの磁極位置のある領域を検出することを繰り返し、このロータ磁極位置のある領域を順次小さな領域とすることによって、ロータ磁極位置を最終的に検出する」という事項は、ロータ磁極位置のある領域、あるいはロータ磁極位置を検出する手段により実行されることは明らかである。また、該ロータ磁極位置のある領域、あるいはロータ磁極位置を検出するためには、検出された「ロータの回転方向」の他、ステータ励磁位相に流す直流電流の向きも考慮していることは明らかであり、ステータ励磁位相がコイルにより構成されていることも明らかである。すると、甲1発明の前記事項を備えることと、本件特許発明1の「前記回転制御部による前記ブラシレスモータへの給電によって同ブラシレスモータのコイルに流れる電流の向きと、前記回転方向判定部によって判定された前記ロータの回転方向とを基に、前記ロータの磁極を判別する磁極判別部」を備えることとは、回転制御部によるブラシレスモータへの給電によって同ブラシレスモータのコイルに流れる電流の向きと、回転方向判定部によって判定されたロータの回転方向とを基に、ロータの磁極に関する判別を行う判別部を備える点において共通する。
エ 甲1発明の「同期電動機をサーボモータとして用いるサーボ制御システム」は、本件特許発明1の「モータ制御装置」に相当する。
オ そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の[一致点]で一致し、[相違点1]、「相違点2」で相違する。
[一致点]
「給電によってブラシレスモータのロータを回転させる回転制御部と、
前記回転制御部による前記ブラシレスモータへの給電に伴う前記ロータの回転方向を判定する回転方向判定部と、
前記回転制御部による前記ブラシレスモータへの給電によって同ブラシレスモータのコイルに流れる電流の向きと、前記回転方向判定部によって判定された前記ロータの回転方向とを基に、前記ロータの磁極に関する判別を行う判別部と、を備える
モータ制御装置。」
[相違点1]
ロータの磁極に関する判別を行う判別部について、本件特許発明1は、「ロータの磁極を判別する磁極判別部」であるのに対し、甲1発明は、「ロータの磁極位置のある領域を検出することを繰り返し、このロータ磁極位置のある領域を順次小さな領域とすることによって、ロータ磁極位置を最終的に検出する」ものであり、ロータ磁極位置を検出しているものの、ロータの磁極を判別しているとはいえない点。
[相違点2]
本件特許発明1は、「前記回転制御部による前記ブラシレスモータへの給電によって前記ロータを回転させる前に、ベクトル制御の回転座標の実際のd軸である実d軸の方向に前記回転座標におけるd軸と推定されている軸である推定d軸の方向が近づくように当該推定d軸の方向を修正する事前修正処理を実行する回転座標設定部」を備えるのに対し、甲1発明は、「次にロータ磁極位置がある領域の中間の励磁位相に直流電流を同様に流」す前に、「推定磁極位置θを0度としてステータ励磁位相180度に直流電流を流し、ロータの回転方向を検出し、正方向に回転すれば、ロータ磁極位置は180~360度の領域幅内にあるため推定磁極位置θを180度とし、負方向に回転すれば、ロータ磁極位置は0~180度の領域幅内にあるため推定磁極位置を0度のままとし」ているものの、この事項が「事前修正処理」といえるか明らかでなく、また、「ベクトル制御の回転座標の実際のd軸である実d軸の方向に前記回転座標におけるd軸と推定されている軸である推定d軸の方向が近づくように当該推定d軸の方向を修正」しているともいえない点。
(2)判断
ア 相違点についての検討
事案に鑑みて、[相違点2]から検討する。
まず、甲1発明において、「推定磁極位置θを0度としてステータ励磁位相180度に直流電流を流し、ロータの回転方向を検出し、正方向に回転すれば、ロータ磁極位置は180~360度の領域幅内にあるため推定磁極位置θを180度とし、負方向に回転すれば、ロータ磁極位置は0~180度の領域幅内にあるため推定磁極位置を0度のまま」とするという事項(以下「前者の事項」という。)は、ロータ磁極位置がある領域が0~360度である場合に、その中間のステータ励磁位相180度に直流電流を流し、ロータの回転方向を検出し、ロータ磁極位置のある領域を180~360度、又は0~180度という、より小さな領域として、推定磁極位置θの修正又は維持を行うものと解され、甲1発明における「次にロータ磁極位置がある領域の中間のステータ励磁位相に直流電流を同様に流し、ロータの回転方向を検出し、ロータの磁極位置のある領域を検出することを繰り返し、このロータ磁極位置のある領域を順次小さな領域とする」という事項(以下「後者の事項」という。)において、繰り返すとされている、ロータ磁極位置のある領域を順次小さな領域とするための処理と同様の処理が行われるものと解される。すると、甲1発明における、前者の事項と後者の事項とは、繰り返される一連の処理であると解するのが自然であって、前者の事項を後者の事項から切り離し、前者の事項のみを後者の事項の事前修正処理であると把握することはできない。
また、仮に前者の事項が後者の事項の事前修正処理であるとしても、前者の事項は、「ロータの回転方向を検出し、正方向に回転すれば、ロータ磁極位置は180~360度の領域幅内にあるため推定磁極位置θを180度とし、負方向に回転すれば、ロータ磁極位置は0~180度の領域幅内にあるため推定磁極位置を0度のまま」とするものであるから、本件特許発明1のように、実d軸の方向に推定d軸の方向が近づくように推定d軸の方向を修正しているとはいえない。このことは、例えば、ロータ磁極の実際の位置(実d軸)が270度や90度である場合、前者の事項を実行し、正方向の回転の検出により、推定磁極位置θ(推定d軸)を0度から180度に修正しても、負方向の回転の検出により、推定磁極位置θ(推定d軸)を0度に維持しても、ロータ磁極の実際の位置(実d軸)である270度や90度の方向に、推定磁極位置θ(推定d軸)の方向が近づくように、推定磁極位置θ(推定d軸)の方向が修正されているとはいえないことからも明らかである。
そして、甲1には、「ベクトル制御の回転座標の実際のd軸である実d軸の方向に前記回転座標におけるd軸と推定されている軸である推定d軸の方向が近づくように当該推定d軸の方向を修正する事前修正処理を実行する」ことについて、記載も示唆もされておらず、当該事項を備えることの動機付けとなる記載も存在しない。
すると、本件特許発明1と甲1発明との相違点である相違点2は実質的な相違点であり、また、甲1発明において、本件特許発明1の相違点2に係る発明特定事項を、当業者といえども容易に想到し得るものではない。
(3)まとめ
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 本件特許発明7について
本件特許発明7は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含む発明であり、本件特許発明1の相違点2に係る発明特定事項を備えるものである。そして、甲2には、前記2(2)ア~エに示したように、リニア型永久磁石同期モータにおいて、摩擦等の外乱があっても初期磁極位置を高精度かつ少ない演算量で推定できるように、摩擦脱出モードで電流指令値をランプ関数的に増加させることが記載されているとしても、相違点2に係る事項については何ら記載されていない。
すると、甲2に記載された事項を考慮しても、甲1発明において、本件特許発明7の相違点2に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものものではない。
したがって、本件特許発明7は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて、又は甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件の請求項1及び請求項7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1及び請求項7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700410