特許異議申立
2022-701193
シングル丸編地
- 審判番号
- 2022-701193
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-018694
- 登録番号
- 7079110
- 請求日
- 2022年12月01日
- 審決日
- 2023年07月04日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東レ株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 【権利者】ミツカワ株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 【異議申立人】野田 澄子
- 審判長/審判官
- 審判長 山崎 勝司
- 審判官 中野 裕之
- 審判官 稲葉 大紀
- 分類
- P1651.121-YAA(D04B) / P1651.537-YAA(D04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7079110号発明「シングル丸編地」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7079110号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第7079110号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7079110号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成30年2月5日に出願され、令和4年5月24日にその特許権の設定登録がされ、令和4年6月1日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。
令和4年12月 1日 :特許異議申立人野田澄子(以下「申立人」という。)による本件特許に対する特許異議の申立て
令和5年 2月15日付け:取消理由通知書
令和5年 4月17日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和5年 6月 5日 :申立人による意見書の提出
第2 本件訂正
1 本件訂正の内容
令和5年4月17日に提出された訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。また、訂正自体を、「本件訂正」という。)の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。
(1)訂正事項1-1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1における「ループ密度が4500個/6.45cm2以上、15000個/6.45cm2以下」との記載を、
「ループ密度が4500個/6.45cm2以上、7626個/6.45cm2以下」と訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)
(2)訂正事項1-2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1における「ポリブチレンテレフタレート及び/ またはポリトリメチレンテレフタレートを含むポリエステル系合成繊維が1~2本」との記載を、
「ポリブチレンテレフタレートの単独成分またはポリブチレンテレフタレートの単独成分を配したサイドバイサイド構造、芯鞘構造の合成繊維からなるポリエステル系合成繊維が1~2本」と訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)
(3)訂正事項1-3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1における「前記ポリブチレンテレフタレート及び/ またはポリトリメチレンテレフタレートを含むポリエステル系合成繊維のカバーファクター」との記載を、
「前記ポリブチレンテレフタレートの単独成分またはポリブチレンテレフタレートの単独成分を配したサイドバイサイド構造、芯鞘構造の合成繊維からなるポリエステル系合成繊維のカバーファクター」と訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)
(4)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2における「前記ポリブチレンテレフタレート及び/またはポリトリメチレンテレフタレートを含むポリエステル系合成繊維が形成するニット編目の割合」との記載を、
「前記ポリブチレンテレフタレートの単独成分またはポリブチレンテレフタレートの単独成分を配したサイドバイサイド構造、芯鞘構造の合成繊維からなるポリエステル系合成繊維が形成するニット編目の割合」と訂正する。
(請求項2の記載を引用する請求項3、4も同様に訂正する。)
(5)一群の請求項
訂正前の請求項1~4は、請求項2~4が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~4〕に対して請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1-1について
訂正事項1-1はループ密度の数値範囲を「15000個/6.45cm2以下」から「7626個/6.45cm2以下」と、より限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、明細書の発明の詳細な説明の実施例4(【0036】)には、ループ密度が「7626個/6.45cm2」としたことが記載されているから新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(2)訂正事項1-2、1-3、2について
訂正事項1-2、1-3、2は、「ポリブチレンテレフタレート及び/またはポリトリメチレンテレフタレート」と選択肢があったものを「ポリブチレンテレフタレート」に限定し、さらに、ポリブチレンテレフタレートを含むポリエステル系合成繊維について、「ポリブチレンテレフタレートの単独成分またはポリブチレンテレフタレートの単独成分を配したサイドバイサイド構造、芯鞘構造の合成繊維からなる」との構成を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、明細書の発明の詳細な説明には「ここでいうポリブチレンテレフタレート及び/またはポリトリメチレンテレフタレートを含むポリエステル系合成繊維とは、ポリブチレンテレフタレートまたはポリトリメチレンテレフタレートの単独成分からなる合成繊維でも良く、ポリエチレンテレフタレート等の他成分と組み合わせたサイドバイサイド構造、芯鞘構造等の複合断面形状の合成繊維であっても良い。」(【0016】)と記載され、実質的に「ポリブチレンテレフタレートの単独成分またはポリブチレンテレフタレートの単独成分を配したサイドバイサイド構造、芯鞘構造の合成繊維」が記載されているから、新規事項の追加に該当しない。
そして、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~4に係る発明(以下「本件発明1」等という。まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ループ密度が4500個/6.45cm2以上、7626個/6.45cm2以下であり、
ポリブチレンテレフタレートの単独成分またはポリブチレンテレフタレートの単独成分を配したサイドバイサイド構造、芯鞘構造の合成繊維からなるポリエステル系合成繊維が1~2本と、ポリブチレンテレフタレート及びポリトリメチレンテレフタレートを含まない繊維が1~5本とが交互に繰り返し編成されており、
前記ポリブチレンテレフタレートの単独成分またはポリブチレンテレフタレートの単独成分を配したサイドバイサイド構造、芯鞘構造の合成繊維からなるポリエステル系合成繊維のカバーファクターが1.3以上、2.7以下であることを特徴とするシングル丸編地。
【請求項2】
前記ポリブチレンテレフタレートの単独成分またはポリブチレンテレフタレートの単独成分を配したサイドバイサイド構造、芯鞘構造の合成繊維からなるポリエステル系合成繊維が形成するニット編目の割合が30~90%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のシングル丸編地。
【請求項3】
ウォッシュ&ウェア性が4級以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のシングル丸編地。
【請求項4】
ドレープ係数が0.18以上、0.40以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のシングル丸編地。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1~4に係る特許に対して、当審が令和5年2月15日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)進歩性
請求項1~4に係る発明は、引用文献1(甲第1号証)に記載された発明及び引用文献2、3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、請求項~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
引用文献一覧
引用文献1:特開2005-163225号公報(甲第1号証)
引用文献2:特開2017-48492号公報(当審で発見した、技術常識を示す文献)
引用文献3:特開2016-199816号公報(当審で発見した、技術常識を示す文献)
(2)サポート要件
請求項1~4に係る発明は、ビジネスシャツに求められる通気性とストレッチ性を有するか不明であり、また、適度なハリ、コシ感を付与するための手段として「ポリトリメチレンテレフタレート」が寄与しているかどうか不明であり、さらに、「15000個/6.45cm2」付近のループ密度が「ハリ、コシ感と防透性」に寄与しているかどうか不明である。そうすると、請求項1~4に係る特許は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
なお、申立人が主張する特許異議申立理由は全て通知された。
2 引用文献の記載
(1)引用文献1
ア 記載された事項
引用文献1には以下の記載がある(下線は当審で付した。以下同様。)。
(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】
吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とからなる編地であって、温度20℃、湿度65%RHの雰囲気中における該編地中の吸水自己伸張糸の糸長を(A)、他方、非自己伸張糸の糸長を(B)とするとき、A/Bが0.9以下であり、かつ該編地の密度が下記式を満足することを特徴とする湿潤時に通気性が向上する編地。Co×We≧2000
ただし、Coは2.54cmあたりのコース数であり、Weは2.54cmあたりのウエール数である。
【請求項2】
吸水自己伸張糸が、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなるポリエーテルエステル繊維である請求項1に記載の湿潤時に通気性が向上する編地。
【請求項3】
非自己伸張糸がポリエステル繊維である請求項1または請求項2に記載の湿潤時に通気性が向上する編地。」
「【請求項5】
編地の編組織がハーフ組織、サテン組織、天竺組織、スムース組織の群より選ばれる請求項1~4のいずれかに記載の湿潤時に通気性が向上する編地。」
(イ)技術分野、課題等
「【技術分野】
【0001】
本発明は、湿潤時により通気性が可逆的に向上し、かつ乾燥時には防風性に優れる編地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、編地は織物などに比べてソフトな風合い及びストレッチ性に優れており、一般衣料用・スポーツ衣料用として広く使用されている。その反面、編地は織物と比べて通気性が高く、秋冬物として用いた場合、風が通り易く寒いという欠点を有している。この欠点を解消するために、防風編地として、例えば、編地の編密度を向上させたもの、編地を多層としたもの、フィラメント数の多い糸条を用いたもの、さらには高熱収縮繊維を用いたものなどが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかるに、かかる編地をスポーツウエアーやインナーウエアーなどとして使用 すると、編地の通気度が低いため、肌から発汗した際ムレやベトツキが発生するという問題があった。
【0004】
このような発汗した際のムレやベトツキを低減させるために、本発明者らは特願2003-177763号において、湿潤時に通気性が向上し、一方、乾燥時には通気性が可逆的に低下する編地を提案した。かかる編地によれば、湿潤時に通気性が可逆的に向上するためムレやベトツキが発生するおそれはないものの、乾燥時において防風性の点で十分ではないということが判明した。
【特許文献1】特開2002-363843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、湿潤時に乾燥時よりも通気性が可逆的に向上し、かつ乾燥時には防風性に優れる編地および繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、先に特願2003-177763号において提案した編地の編密度を高めることにより、湿潤により通気性が可逆的に向上する効果が損なわれることなく、乾燥時には防風性に優れる所望の編地が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。」
(ウ)糸の構成
「【0013】
かかる吸水自己伸張糸としては、例えば、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリオキシエチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルエラストマーからなるポリエーテルエステル繊維や、ポリアクリル酸金属塩、ポリアクリル酸およびその共重合体、ポリメタアクリル酸およびその共重合体、ポリビニルアルコールおよびその共重合体、ポリアクリルアミドおよびその共重合体、ポリオキシエチレン系ポリマーなどを配合したポリエステル繊維、5-スルホイソフタル酸成分を共重合したポリエステル繊維などが例示される。なかでも、ポリエーテルエステル繊維は、通常弾性を有しているため、かかる弾性を利用して後記のように容易に非自己伸張糸との糸足差をもうけることができ好ましい。
【0014】
上記のポリエーテルエステル繊維において、ポリブチレンテレフタレートは、ブチレンテレフタレート単位を少なくとも70モル%以上含有することが好ましい。ブチレンテレフタレートの含有率は、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。酸成分は、テレフタル酸が主成分であるが、少量の他のジカルボン酸成分を共重合してもよく、またグリコール成分は、テトラメチレングリコールを主成分とするが、他のグリコール成分を共重合成分として加えてもよい。
【0015】
一方、ポリオキシエチレングリコールは、オキシエチレングリコール単位を少なくとも70モル%以上含有することが好ましい。オキシエチレングリコールの含有量は、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。本発明の目的の達成が実質的に損なわれない範囲内で、オキシエチレングリコール以外にプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリンなどを共重合させても良い。
【0016】
ポリエーテルエステル中のポリオキシエチレングリコールの割合は30~95重量%であり、好ましくは40~80重量%である。ポリオキシエチレングリコールの割合が30重量%よりも小さいと十分な吸湿性が得られず好ましくない。逆に、95重量%よりも大きいと曳糸性が低下するため好ましくない。」
「【0019】
他方、非自己伸張糸としては、木綿、麻などの天然繊維やレーヨン、アセテートなどのセルロース系化学繊維、さらにはポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレートに代表されるポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルニトリル、ポリプロピレンなどの合成繊維が例示される。なかでも、通常のポリエステル繊維が好ましく例示される。
【0020】
前記吸水自己伸張糸及び非自己伸張糸の繊維形態は特に限定されず、短繊維でもよいし長繊維でもよい。繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状が採用できる。吸水自己伸張糸及び非自己伸張糸の総繊度、単糸繊度、フィラメント数も特に限定されないが、風合いや生産性の点で総繊度30~300dtex、単糸繊度0.6~10dtex、フィラメント数1~300本の範囲が好ましい。
【0021】
本発明の織編物は、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とで構成される。その際、両者の重量比として、湿潤時に通気性を効果的に向上させる上で、前者:後者で10:90~60:40(より好ましくは20:80~50:50)の範囲であることが好ましい。
【0022】
本発明の編地において、その編組織は特に限定されるものではない。例えば、経編組織であれば、ハーフ、サテン、Wデンビ、シャークスキン、ベルベット、クインズコートなどの組織が好適に例示される。丸編組織としては、天竺、鹿の子、スムース、フライス、ポンチローマ、ミラノリブなどの組織が好適に例示される。これらのなかでも、編地の防風性の点で、経編組織であればハーフ、サテン、丸編組織であれば天竺、スムースが特に好ましい。なお、編地の層数は単層でもよいし、2層以上の多層であってもよい。
【0023】
吸水自己伸張糸と非自己伸張糸との糸配列としては特に限定されず、特願2003-177763号に示されたものでよい。すなわち、吸水自己伸張糸と非自 己伸張糸とが、経編組織または丸編組織の複合ループを形成している糸配列、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが編地中において1本交互(1:1)や複数本交互(2:2、3:3など)に配された糸配列、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが混繊糸、複合仮撚捲縮加工糸、合撚糸、カバリング糸などの複合糸として編地に含まれる態様などがあげられる。なかでも、吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが、経編組織または丸編組織の複合ループを形成していることが、湿潤時の通気性が向上しやすく好ましい。」
(エ)コース数、ウエール数
「【0030】
次に、本発明の編地において、編地の密度が下記式を満足する必要がある。
Co×We≧2000(好ましくはCo×We≧3000、特に好ましくは10000≧Co×We≧4000)
ただし、Coは2.54cmあたりのコース数であり、Weは2.54cmあたりのウエール数である。
【0031】
ここで、前記コース数とウエール数との積が2000より小さいと、本発明の主目的のひとつである乾燥時の防風性が得られず好ましくない。逆に、該コース数とウエール数との積が10000を越えると、乾燥時の防風性は良好であるが、湿潤時に通気性が向上しにくくなる恐れがある。
【0032】
前記コース数とウエール数としては、両者の積が2000以上であれば特に限定されないが、コース数で50コース/2.54cm以上(好ましくは60~120コース/2.54cm)、ウエール数で40コース/2.54cm以上(好ましくは50~80ウエール/2.54cm)であることが好ましい。」
(オ)糸の配列
「【0035】
吸水自己伸張糸と非自己伸張糸とが1:1に配列してなる丸編物では、乾燥時、該丸編物の複合ループにおいて、図2の(1)に示すように大ループは非自己伸張糸からなり、他方、小ループは吸水自己伸張糸からなる。そして、湿潤時、図2の(2)に非自己伸張糸からなる大ループはほとんど寸法変化しないが、吸水自己伸張糸からなる小ループは膨潤してそのループが大きくなる。その結果、編地の寸法がほとんど変化することなく、編地内の空隙が大きくなり通気性が向上する。」
(カ)実施例
「【0041】
[実施例1]
ハードセグメントとしてポリブチレンテレフタレートを49.8重量部、ソフトセグメントとして分子量4000のポリオキシエチレングリコール50.2重量部からなるポリエーテルエステルを、230℃で溶融し、所定の紡糸口金より吐出量3.05g/分で押出した。このポリマーを2個のゴデットロールを介して705m/分で引取り、さらに750m/分(巻取りドラフト1.06)で巻取り、44デシテックス/1フィラメントの弾性を有する吸水自己伸張糸を得た。この吸水自己伸張糸の湿潤時の繊維軸方向への膨潤率は10%であった。
【0042】
該吸水自己伸張糸を100%のドラフト率でドラフトしながら整経しフルセットにてバック筬に通し、一方、非自己伸張糸として、湿潤時の膨潤率が1%以下である通常のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸をフルセットにてフロント筬に通し、28ゲージのトリコット経編機を用いて、90コース/2.54cm、28ウェール/2.54cmの機上密度にてハーフ組織(バック:10/12、フロント:23/10による編方)の経編地を編成し、該編地に常法の染色加工を施した。得られた編地の編密度は、105コース/2.54cm、58ウエール/2.54cmであり、該編地中における吸水自己 伸張糸の糸長Aと非自己伸張糸の糸長Bとの比A/Bは0.42であった。また、この編地の乾燥時の通気性は35cc/cm2・sec、湿潤時の通気性は87cc/cm2・secであり(通気性変化率149%)、乾燥時には防風性に優れ(低通気度)、一方湿潤時には通気性に優れており満足なものであった。【0043】
[実施例2]
実施例1と同じ吸水自己伸張糸をドラフト率150%でドラフトさせながら、実施例1と同じポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸と同時に28ゲージのシングル丸編機に給し、92コース/2.54cm、46ウエール/2.54cmの編密度にて
天竺組織の丸編地を編成し、該編地に常法の染色加工を施した。得られた編地の編密度は、106コース/2.54cm、60ウエール/2.54cmであり、該編地中における吸水自己伸張糸の糸長Aと非自己伸張糸の糸長Bとの比A/Bは0.54であった。また、この編地の乾燥時の通気性は45cc/cm2・sec、湿潤時の通気性は92cc/cm2・secであり(通気性変化率104%)、乾燥時には防風性に優れ(低通気度)、一方湿潤時には通気性に優れた編地であった。」
(キ)図
「【図2】
[図:0001402770000001.jpg]
」
イ 引用文献1に記載された発明
上記アの記載を総合し、特に(カ)の実施例2に着目すると、引用文献1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「106コース/2.54cm、60ウエール/2.54cmであり、
ハードセグメントとしてポリブチレンテレフタレートを49.8重量部、ソフトセグメントとしてポリオキシエチレングリコール50.2重量部を含むポリエーテルエステルからなる吸水自己伸張糸と、ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸からなる非自己伸張糸とが編成されている天竺組織の丸編地。」
(2)引用文献2の記載事項
ア 記載された事項
引用文献2には以下の記載がある。
「【請求項8】
表目カバーファクタが1.0以上であることを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の多層構造シングル丸編地。」
「【0058】
また、大きいブリッジ構造、物性的にも安定した編地を作成する方法として、生機の状態で安定した編地としつつ、染色加工工程の熱処理により生地表の編目 を高密度化する方法も挙げられる。この場合、ブリッジ部分を除く編目を形成する糸の太さと編目の長さによって密度が決定する。これを表目カバーファクタとし、表目カバーファクタが1.0以上であることが、大きいブリッジを持ち、ブリッジ抜けのない安定した編地である好ましい範囲として挙げられる。さらに好ましくは、表目カバーファクタが1.5以上の高密度でハリ・コシ感と嵩高性が得られる良好な編地となる。」
「【0086】
(9)表目カバーファクタ:
JISL1096(2015年度版)に記載の編目長及びカバーファクタの計算方法を参考に、表目カバーファクタを以下の式にて算出した。表目カバーファクタは、連続した10コース、20ウェルのループを平均値としている。ここで、完全編組織のコースの倍数が10コースとならない場合には、10コース以上で最小の完全編組織の倍数にて測定する。完全編組織とは、基本となる組織の最小単位のことである。
表目カバーファクタ(K)=√(繊度(tex))/編目長(mm:1編目分の編目長)
ここで、繊度は、1つの編目を形成する全ての繊度:tex
繊度は、1つの編目が多重ループの場合には、多重分の繊度となる。
また、編目長は、編目1つ分の長さ:mmであり、タック、ウェルト部分は除外する。
編目長は、分解糸から糸長を測定し、多重ループ部分の裏糸は、分解糸のニットループのみを電子顕微鏡などで読み取り、一つの編目として平均化している。」
イ 引用文献2に記載された事項
上記アの記載を総合すると、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2に記載された事項」という。以下同様。)が記載されている。
「多層構造シングル丸編地において、表目カバーファクタを1.5以上としたこと。」
(3)引用文献3の記載事項
ア 記載された事項
引用文献3には以下の記載がある。
「【請求項6】
生地の表組織のカバーファクターが1.0以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項記載の高視認性編物。但し、カバーファクターは以下の式で算出されるものとする。
カバーファクターCf=√NT/Sl
ここで、NT:繊度(tex),Sl:編目長(mm)とする。
編目長Sl=L/n
ここでL:解編した糸の長さ,n:解編した編目数とする。」
「【0019】
表組織のカバーファクターは、1.0以上であることが好ましく、より好ましくは1.2以上である。カバーファクターが1.0未満であると、裏組織を構成するセルロース系繊維が表側より視認しやすくなり、視認性や耐光堅牢度の低下が懸念される。なお、カバーファクターの上限は規定しないが、2.5を超えると、密度が高過ぎて製編しにくい傾向となる。」
イ 引用文献3に記載された事項
上記アの記載を総合すると、引用文献3に記載された事項は次のとおりである。
「編物において、表組織のカバーファクターを1.2以上、2.5以下としたこと。」
3 当審の判断
(1)特許法第29条第2項について
ア 本件発明1
(ア)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「ハードセグメントとしてポリブチレンテレフタレートを49.8重量部、ソフトセグメントとしてポリオキシエチレングリコール50.2重量部を含むポリエーテルエステルからなる吸水自己伸張糸」は、その組成からみて、ポリエステル系の合成繊維といえ、本件発明1の「ポリブチレンテレフタレートの単独成分またはポリブチレンテレフタレートの単独成分を配したサイドバイサイド構造、芯鞘構造の合成繊維からなるポリエステル系合成繊維」と、「ポリブチレンテレフタレート」を含む「ポリエステル系合成繊維」の限りにおいて、一致する。
引用発明の「ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸からなる非自己伸張糸」は、本件発明1の「ポリブチレンテレフタレート及びポリトリメチレンテレフタレートを含まない繊維」に相当する。
引用発明の「編成されている」ことは、本件発明1の「編成されてお」ることに相当する。
引用発明の「天竺組織の丸編地」は、本件発明1の「シングル丸編地」に相当する。
そうすると、両者は以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「ポリブチレンテレフタレートを含むポリエステル系合成繊維と、ポリブチレンテレフタレート及びポリトリメチレンテレフタレートを含まない繊維が編成されているシングル丸編地。」
<相違点1>
「シングル丸編地」について、本件発明1は「ループ密度が4500個/6.45cm2以上、7626個/6.45cm2以下であ」るのに対して、引用発明はそのような特定をしていない点。
<相違点2>
「ポリブチレンテレフタレートを含むポリエステル系合成繊維」について、本件発明1は「ポリブチレンテレフタレートの単独成分またはポリブチレンテレフタレートの単独成分を配したサイドバイサイド構造、芯鞘構造の合成繊維からなるポリエステル系合成繊維」であるのに対して、引用発明は「ハードセグメントとしてポリブチレンテレフタレートを49.8重量部、ソフトセグメントとしてポリオキシエチレングリコール50.2重量部を含むポリエーテルエステルからなる吸水自己伸張糸」である点。
<相違点3>
「シングル丸編地」について、本件発明1は、「ポリブチレンテレフタレートの単独成分またはポリブチレンテレフタレートの単独成分を配したサイドバイサイド構造、芯鞘構造の合成繊維からなるポリエステル系合成繊維が1~2本と、ポリブチレンテレフタレート及びポリトリメチレンテレフタレートを含まない繊維が1~5本とが交互に繰り返し編成されて」いて、「ポリブチレンテレフタレートの単独成分またはポリブチレンテレフタレートの単独成分を配したサイドバイサイド構造、芯鞘構造の合成繊維からなるポリエステル系合成繊維」の「カバーファクターが1.3以上、2.7以下である」のに対して、引用発明はそうであるか不明である点。
(イ)判断
事案に鑑み、先ず相違点2について検討する。
引用発明の「ハードセグメントとしてポリブチレンテレフタレートを49.8重量部、ソフトセグメントとしてポリオキシエチレングリコール50.2重量部を含むポリエーテルエステルからなる吸水自己伸張糸」について、引用文献1に「ポリエーテルエステル中のポリオキシエチレングリコールの割合は30~95重量%であり、好ましくは40~80重量%である。ポリオキシエチレングリコールの割合が30重量%よりも小さいと十分な吸湿性が得られず好ましくない。逆に、95重量%よりも大きいと曳糸性が低下するため好ましくない。」(【0016】)と記載されている。
そうすると、引用発明は、「ポリエーテルエステル中のポリオキシエチレングリコールの割合は30~95重量%」とすることを前提として、「ハードセグメントとしてポリブチレンテレフタレートを49.8重量部、ソフトセグメントとしてポリオキシエチレングリコール50.2重量部を含むポリエーテルエステルからなる吸水自己伸張糸」を有するものであり、ポリブチレンテレフタレートの単独成分とするものではない。
また、「ポリブチレンテレフタレートの単独成分を配したサイドバイサイド構造、芯鞘構造」についても、引用文献1に記載も示唆もされていない。
よって、引用発明において、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは当業者であっても容易に想到し得たものではない。
したがって、相違点1、3、4について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2~4
本件発明2~4は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記アで検討したのと同様に、本件発明2~4は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)特許法第36条第6項第1号について
本件特許の明細書には以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の織物は、ストレッチ性に劣るため、身体の伸びに対する追従性が悪かった。また、特許文献1に記載の織物は、染色加工時に溶解性繊維を溶解するための工程が必要となるため、製造に手間がかかり経済的でないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、編物でありながら適度なハリ、コシ感を有し、仕立て映え性に優れると共に、通気性、ストレッチ性、防透性、形態安定性に優れ、製造も容易なシングル丸編地を提供することを目的とする。」
以上の記載より、本件発明は、「編物でありながら適度なハリ、コシ感を有し、仕立て映え性に優れると共に、通気性、ストレッチ性、防透性、形態安定性に優れ、製造も容易なシングル丸編地を提供すること」を課題(以下「本件課題」という。)とするものである。
そして、本件特許の明細書には、次の事項が記載されている。
「【0018】
本実施の形態に係るシングル丸編地は、ポリブチレンテレフタレート及び/またはポリトリメチレンテレフタレートを含むポリエステル系合成繊維が形成するニット編目の割合が全体のニット編み目の30~90%の範囲であることが好ましく、より好ましくは35~90%、更に好ましくは40~90%である。ポリブチレンテレフタレート及び/またはポリトリメチレンテレフタレートを含むポリエステル系合成繊維の編目の割合を前記割合とすることで、生地の染色加工時に糸が収縮し、ループ密度が高まりハリ、コシ感を付与できると共に、適度なストレッチ性、防透性を付与することができる。
【0019】
本実施の形態に係るシングル丸編地において、ポリブチレンテレフタレート及び/またはポリトリメチレンテレフタレートを含むポリエステル系合成繊維のカバーファクターは1.3以上であることが好ましく、より好ましくは1.4以上、更に好ましくは1.5以上である。カバーファクターを前記範囲とすることで適度なハリ、コシ感、ストレッチ性を付与することができる。」
さらに、実施例1(CF:1.97)、実施例2(CF:1.59)、実施例3(CF:1.94)、実施例4(CF:2.42)のいずれもが、「この生地の総合評価は、「ビジネスシャツ地として使用可能( ○ ) 」であった。」(【0033】~【0036】)とされ、適度なハリ、コシ感、ストレッチ性等を含めてみている「総合評価」が、ビジネスシャツ地として使用可能( ○ ) とされていることから、上記本件課題が解決されたものである。
そして、本件発明は、「シングル丸編地」が、「ポリエステル系合成繊維」と「ポリブチレンテレフタレート及びポリトリメチレンテレフタレートを含まない繊維」とが「交互に繰り返し編成され」ているので、ポリブチレンテレフタレートを含むポリエステル系合成繊維の編み目の割合が全体のニット編み目のおよそ30~90%程度のものを特定するもので、「ポリエステル系合成繊維のカバーファクターが1.3以上、2.7以下」とするものである。
そうすると、本件発明1~4には「通気性とストレッチ性」と「ハリ、コシ感」についての課題解決手段が反映されたものである。
なお、本件訂正に伴って、令和5年6月5日に提出された申立人の意見書では、「適度なハリ、コシ感を付与するための手段として「ポリブチレンテレフタレートの単独成分を配したサイドバイサイド構造、芯鞘構造の合成繊維」が寄与しているかどうか不明であって、本件訂正特許発明1に課題解決手段が反映されているとはいえない」旨の主張をしている(申立書第2ページ下から2行目から第3ページ上から2行目)。
確かに、本件発明1、2の「ポリエステル系合成繊維」は、「ポリブチレンテレフタレートの単独成分またはポリブチレンテレフタレートの単独成分を配したサイドバイサイド構造、芯鞘構造の合成繊維からなる」ものであり、「サイドバイサイド構造」、「芯鞘構造」について、「ポリブチレンテレフタレートの単独成分」以外の成分は特定されていない。
しかしながら、本件特許の明細書の「ポリブチレンテレフタレート及び/またはポリトリメチレンテレフタレートを含むポリエステル系合成繊維は染色加工時の熱による収縮が大きく、上記範囲で編成することにより、編地密度を高め適度なハリ、コシ感を付与することができる。」(【0015】)との記載からは、ポリブチレンテレフタレートを用いるのは熱収縮が大きくハリ、コシ感を付与することができることが理解できる。
してみると、「ポリブチレンテレフタレートの単独成分」以外の成分を特定しない「サイドバイサイド構造」、「芯鞘構造」においても、ポリエステル系合成繊維にポリブチレンテレフタレートを含まない場合よりは熱収縮が大きくなり、ハリ、コシ感を付与することが理解できる。
よって、編物でありながら適度なハリ、コシ感を有するものとするために必要な構成が本件発明1~4に課題解決手段として反映されたものである。
以上を総合すると、本件発明1~4は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。
第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701193