特許異議申立
2021-700483
ビジネスシャツ用編地及びビジネスシャツ
- 審判番号
- 2021-700483
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-203057
- 登録番号
- 6796049
- 請求日
- 2021年05月20日
- 審決日
- 2022年01月12日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東洋紡STC株式会社
- 【権利者代理人】風早 信昭
- 【権利者代理人】浅野 典子
- 【異議申立人】野田 澄子
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 直欣
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 矢澤 周一郎
- 分類
- P1651.113-YAA(D04B) / P1651.121-YAA(D04B) / P1651.537-YAA(D04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6796049号発明「ビジネスシャツ用編地及びビジネスシャツ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6796049号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。
特許第6796049号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6796049号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成29年10月20日の出願であって、令和2年11月17日にその特許権の設定登録がされ、令和2年12月2日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年 5月20日 :特許異議申立人野田澄子(以下「申立人」という。)による請求項1~4に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年11月 1日付け:取消理由通知書
令和3年11月30日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出(以下、訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
第2 本件訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、次のとおりであり、以下「訂正事項」という。
本件訂正前の明細書の段落【0068】に記載された
「【表1】
[図:0001384128000001.jpg]
」を、
「【表1】
[図:0001384128000002.jpg]
」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正の目的の適否について
訂正事項は、明細書の【0068】【表1】中の「KES測定値」の「B(N・cm2/cm)」及び「2HB(N・cm/cm)」を、それぞれ「B(gf・cm2/cm)」及び「2HB(gf・cm/cm)」に変更するものである。
「KES測定値」の単位に関して、本件特許の願書に最初に添付した明細書及び本件特許の明細書には、「曲げ剛性B値」について、「gf・cm2/cm」(【0031】、【0032】、【0045】)、「曲げ戻り性(2HB)」について、「gf・cm/cm」(【0031】、【0033】、【0045】)と記載されている。
また、【0068】【表1】の実施例1~6における「B(曲げ剛性)」及び「2HB(曲げ戻り性)」は、数値をそのままとして単位のみを「gf・cm2/cm」及び「gf・cm/cm」に読み替えると、請求項1に記載された数値範囲に含まれることから、請求項1の単位の記載と明細書の【0068】【表1】の単位の記載とが整合していない。
そうすると、本件訂正前の明細書の【0068】【表1】中の「KES測定値」の「B(N・cm2/cm)」及び「2HB(N・cm/cm)」は、それぞれ「B(gf・cm2/cm)」及び「2HB(gf・cm/cm)」が本来の記載であると認める。
したがって、訂正事項は、誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(2)新規事項の有無について
訂正事項は、本件特許の請求項1、並びに明細書【0031】~【0033】及び【0045】の記載に基づくものであるから、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面、並びに本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
また、訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)明細書の訂正と関係する請求項について
訂正事項は、請求項1~4の全てについて行うものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合する。
したがって、明細書を、訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正することを認める。
第3 本件発明
特許第6796049号の請求項1~4に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリエステル繊維を75重量%以上含むビジネスシャツ用編地において、白色金属酸化物を0.6~5.0重量%含むポリエステル繊維を25~97重量%含み、かつ単糸繊度が3~17dtexの生糸のポリエステルフィラメントを3~25重量%含むこと、並びにタテ方向及びヨコ方向の平均値として曲げ剛性B値及び曲げ戻り性(2HB)がそれぞれ0.017~0.060gf・cm2/cm、0.001~0.045gf・cm/cmであることを特徴とするビジネスシャツ用編地。
【請求項2】
コース密度が40~100個/2.54cm、ウェール密度が30~80個/2.54cmのシングル丸編からなり、ニットループ数に対するウエルト数の比率を0.2~1.1とした柄組織からなる丸編地であることを特徴とする請求項1に記載のビジネスシャツ用編地。
【請求項3】
裏のコース密度が40~100個/2.54cm、ウェール密度が30~80個/2.54cmのダブル丸編からなり、ニットループ数に対するウエルト数の比率を0.2~1.1とした柄組織からなることを特徴とする請求項1に記載のビジネスシャツ用編地。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のビジネスシャツ用編地を身頃に使用していることを特徴とするビジネスシャツ。」
第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由(サポート要件)
請求項1には、「タテ方向及びヨコ方向の平均値として曲げ剛性B値及び曲げ戻り性(2HB)がそれぞれ0.017~0.060gf・cm2/cm、0.001~0.045gf・cm/cmである」と記載されている。
明細書の【0068】【表1】に記載された実施例において、「ハリコシ官能評価」が「4」とされている実施例1~6の「タテ方向及びヨコ方向の平均値として」の「曲げ剛性B値」及び「曲げ戻り性(2HB)」は、「gf」でなく「N」を用いており、請求項1に記載された数値範囲に含まれていないと認められるため、請求項1に係る発明が、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されていない。
したがって、請求項1~4は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
よって、請求項1~4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 当審の判断
本件訂正により、明細書の【0068】【表1】に記載された実施例において、「ハリコシ官能評価」が「4」とされている実施例1~6の「タテ方向及びヨコ方向の平均値として」の「曲げ剛性B値」及び「曲げ戻り性(2HB)」が、本件特許の請求項1に記載された数値範囲に含まれるものとなった。
よって、本件発明1~4は、発明の詳細な説明に記載したものである。
第5 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由の概要
(1)申立理由1(新規性)
請求項1及び4に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)申立理由2(進歩性)
請求項1~4に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(3)申立理由3(サポート要件)
請求項1に係る発明は、編ループを形成するポリエステル繊維の繊度を20~180dtexにしたことを発明特定事項としておらず、ハリ及びコシが弱くなることが想定される範囲を包含している。
したがって、請求項1~4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(4)申立理由4(明確性)
請求項1に係る発明の発明特定事項である「ビジネスシャツ」の用語は、外延を一義的に特定できないため、本件発明において、どのような編地が「ビジネスシャツ用編地」に該当するのかを明確に理解することができない。
したがって、請求項1~4に係る発明は、明確でない。
[引用文献等一覧]
甲1:特開2007-113157号公報
甲2:“化学繊維の用語集”,[online],日本化学繊維協会,インターネット
<URL:https://www.jcfa.gr.jp/about_kasen/knowledge/word/11.html>
2 引用発明
(1)甲1には、次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、機能的で肌触りの良好な制電性経編地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリエステル繊維、アクリル繊維又はウール繊維からなる衣服を着脱する際、他の衣料や人体との摩擦により静電気が発生し、衣服が身体にまとわりつくなどの好ましくない現象が発生する。これは一般に「不快感静電気現象」と呼ばれている。
【0003】
また、静電気が高電位で放出された場合、このような日常生活での現象に留まらず、例えば、精密機械産業の生産現場においては、機械制御の一部を乱す「不良品発生現象」が発生することさえある。
【0004】
このように、静電気発生に起因する現象は、時と場所によっては重大な問題を引き起こす可能性があることが知られている。」
「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0008】
本発明は、上記の問題を解決するものであり、静電気の発生を防ぎ、肌触りがよく、透け難く、かつ過酷な使用条件や洗濯方法に対しても寸法変化が少なく、着用時や洗濯時のピリング性、スナッキング性に優れ、さらには制菌性能や吸水性能をも有する制電性経編地を提供することを技術的な課題とするものである。」
「【発明の効果】
【0011】
本発明の制電性経編地は、制電糸が交編されているため静電気の発生を抑制することができる。また、セルロース系繊維が交編されていること、並びに吸水吸湿加工されていることにより肌触りが良く、さらにFDポリエステル糸が交編されているため透け難いという効果も有している。本発明の制電性経編地は、また、寸法変化が少なく、抗ピリング性、抗スナッキング性に優れ、制菌性をも有している。したがって、本発明の制電性経編地は、制服、作業服等に好適に用いることができる。」
「【0018】
また、本発明で使用するFDポリエステル繊維とは、酸化チタンを1質量%以上含むポリエステル繊維のことであり、通常FDと称される。」
「【0038】
(実施例1)
極限粘度(フェノールと四塩化エタンとを質量比1/1で混合したものを溶媒とし、20℃で測定)が0.84のポリブチレンテレフタレート75質量部と、平均粒径0.2μmの導電性カーボンブラック(ファーネスブラック)25質量部とを溶融混練、常法によりチップ化して、導電性ポリマー部Aとして使用するポリマー組成物を得た。また、ポリエチレンテレフタレートに酸成分としてイソフタル酸8モル%を共重合した共重合ボリエステル(極限粘度0.61)を常法によりチップ化し、非導電性ポリマー部Bとして使用するポリマー組成物を得た。
【0039】
そして、通常の複合溶融複合紡糸装置により、導電性ポリマー部Aの比率が20質量%となり、単繊維の横断面形状が図1のようになるよう設計された紡糸口金を用いて、紡糸温度270℃で各ポリマー粗成物を吐出して冷却、オイリングしながら3000m/分の速度で巻取り、繊度28dtex2fの導電性繊維を得た。この繊維の電気抵抗値は2.6×106Ω/cmであった。
【0040】
次に、編機としてカールマイヤー社製、型式KS-3を使用し、針密度28本/2.54cm、筬数3にて、下記表1のように設計された、密度55コース/2.54cm、31ウェール/2.54cmの生機を得た。なお、組織は図2に準じ、1レピートあたりの配列は下記表2に準じた。表2において、○はFDポリエステル繊維(生糸、繊度56dtex18f)を、◎は上記導電性繊維と綿40番手単糸とを600T/Mで合撚したものを、●は上記導電性繊維(当審注:「上記導電性繊維」は「綿40番手単糸」の誤記と認める。)とセミダル(以下、SDと記すことがある)ポリエステル繊維(繊度22dtex1f)とを600T/Mで合撚したものを、△はFDポリエステル繊維(仮撚加工糸、繊度84dtex72f)を表す。
【0041】
【表1】
[図:0001384128000003.jpg]
【0042】
【表2】
[図:0001384128000004.jpg]
【0043】
そして、この生機を精練、リラックス、プレセット、晒し、染色、乾燥、ファイナルセットして本発明の制電性経編地を得た。なお、染色液の中に下記の吸水吸湿剤及び制菌剤を添加し、温度135℃、時間45分、pH5~6、浴比1:10の条件で吸水吸湿加工及び制菌加工を染色と同時に行った。
【0044】
吸水吸湿剤:高松油脂(株)製、テレフタル酸・エチレングリコール系共重合体「SR1000(商品名)」 5%omf
制菌剤:大阪化成(株)製、有機窒素イオウ系化合物「マルカサイドYP-DP(商品名)」 3%omf
得られた制電性経編地においては、密度が60コース/2.54cm、37ウェール/2.54cmであり、目付けが230g/m2あった。また、繊維の含有量としては、導電性繊維が0.1質量%、セルロース系繊維が19.8質量%、FDポリエステル繊維が77.2質量%、SDポリエステル繊維が2.9質量%であった。」
(2)上記(1)から、甲1には、特に実施例1に着目すると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「フルダルポリエステル繊維が77.2質量%、セミダルポリエステル繊維が2.9質量%である制電性経編地において、フルダルポリエステル繊維は、酸化チタンを1質量%以上含むポリエステル繊維であり、フロント筬に使用される繊維は、フルダルポリエステル繊維(生糸、繊度56dtex18f)で、ランナー長129cm、1レピート当たりの配列数28本であり、ミドル筬に使用される繊維は、綿40番手単糸とセミダルポリエステル繊維(22dtex1f)とを600T/Mで合撚したもの、ランナー長42cm、1レピート当たりの配列数27本と、綿40番手単糸と導電性繊維(28dtex2f)とを600T/Mで合撚したもの、ランナー長42cm、1レピート当たりの配列数1本とであり、バック筬に使用される繊維は、フルダルポリエステル繊維(仮撚加工糸、繊度84dtex72f)で、ランナー長191cm、1レピート当たりの配列数28本である制服、作業服等に用いられる制電性経編地。」
3 申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「フルダルポリエステル繊維」及び「セミダルポリエステル繊維」は「ポリエステル繊維」であり、両者を合計すると「80.1質量%」(=77.2質量%+2.9質量%)であるから、甲1発明の「フルダルポリエステル繊維が77.2質量%、セミダルポリエステル繊維が2.9質量%である」ことは、本件発明1の「ポリエステル繊維を75重量%以上含む」ことに相当する。
甲1発明の「制服、作業服等に用いられる制電性経編地」と本件発明1の「ビジネスシャツ用編地」とは、「衣服用編地」の限りで一致する。
甲1発明の「酸化チタン」は「白金金属酸化物」であるから、甲1発明の「フルダルポリエステル繊維が77.2質量%」であり、「フルダルポリエステル繊維は、酸化チタンを1質量%以上含むポリエステル繊維」であることは、本件発明1の「白色金属酸化物を0.6~5.0重量%含むポリエステル繊維を25~97重量%含」むことに相当する。
甲1発明の「フロント筬に使用される繊維」の1レピート当たりの使用量は、202272dtex・cm(=56dtex×129cm×28本)であり、甲1発明の「ミドル筬に使用される繊維」の1レピート当たりの使用量は、綿40番手単糸が147.6dtexであることは技術常識であるから、199701.6dtex・cm(=(147.6+22)dtex×42cm×27本+(147.6+28)dtex×42cm×1本)であり、甲1発明の「バック筬に使用される繊維」の1レピート当たりの使用量は、449232dtex・cm(=84dtex×191cm×28本)であること、甲1発明の「フロント筬に使用される繊維」、「ミドル筬に使用される繊維」、「バック筬に使用される繊維」のうち、「生糸」は「フロント筬に使用される繊維」であり、当該「生糸」の「単糸繊度」は「3.1dtex」(=56dtex÷18)、「フロント筬に使用される繊維」の混率は、「約23.8重量%」(=202272÷(202272+199701.6+449232))であることから、甲1発明の「フロント筬に使用される繊維は、フルダルポリエステル繊維(生糸、繊度56dtex18f)で、ランナー長129cm、1レピート当たりの配列数28本であり、ミドル筬に使用される繊維は、綿40番手単糸とセミダルポリエステル繊維(22dtex1f)とを600T/Mで合撚したもの、ランナー長42cm、1レピート当たりの配列数27本と、綿40番手単糸と導電性繊維(28dtex2f)とを600T/Mで合撚したもの、ランナー長42cm、1レピート当たりの配列数1本とであり、バック筬に使用される繊維は、フルダルポリエステル繊維(仮撚加工糸、繊度84dtex72f)で、ランナー長191cm、1レピート当たりの配列数28本である」ことは、本件発明1の「単糸繊度が3~17dtexの生糸のポリエステルフィラメントを3~25重量%含む」ことに相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、かつ、相違する。
[一致点]
「ポリエステル繊維を75重量%以上含む衣服用編地において、白色金属酸化物を0.6~5.0重量%含むポリエステル繊維を25~97重量%含み、かつ単糸繊度が3~17dtexの生糸のポリエステルフィラメントを3~25重量%含む衣服用編地。」
[相違点1]
「衣服用編地」に関して、本件発明1は「ビジネスシャツ用編地」であるのに対し、甲1発明は「制服、作業服等に用いられる制電性経編地」である点。
[相違点2]
本件発明1は「タテ方向及びヨコ方向の平均値として曲げ剛性B値及び曲げ戻り性(2HB)がそれぞれ0.017~0.060gf・cm2/cm、0.001~0.045gf・cm/cmである」のに対して、甲1発明はその点が不明である点。
イ 新規性についての判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
本件特許の明細書には、本件発明1の「ハリ、コシがあること」の「代用メジャー」として「曲げ剛性B値」及び「曲げ戻り性(2HB)」を測定する旨、並びに「ハリコシ」及び「柔らかさ」と、「曲げ剛性B値」及び「曲げ戻り性(2HB)」の数値範囲の関係について記載されている(本件特許の明細書の【0031】~【0033】)。
甲1発明は、制電性経編地を構成する繊維が特定されているものの、甲1には、「曲げ剛性B値」及び「曲げ戻り性(2HB)」を示唆する記載はなく、甲1発明に係る制電性経編地を構成する繊維からは、「曲げ剛性B値」及び「曲げ戻り性(2HB)」がどの程度なのか推認することができない。
そうすると、相違点2は実質的な相違点であるから、相違点1について検討するまでもなく、甲1発明は本件発明1ではない。
ウ 進歩性についての判断
相違点2について検討する。
本件発明1は「ビジネスシャツとして必要とされるハリコシと柔らかさ、通気性、保形性を兼ね備えたビジネスシャツ用編地及びそれを使用したビジネスシャツを提供する」(本件特許の明細書の【0007】)という課題を解決するために、「曲げ剛性B値及び曲げ戻り性(2HB)」を「それぞれ0.017~0.060gf・cm2/cm、0.001~0.045gf・cm/cm」とするものである(本件特許の明細書の【0031】~【0033】)。
これに対し、甲1発明の課題は、「静電気の発生を防ぎ、肌触りがよく、透け難く、かつ過酷な使用条件や洗濯方法に対しても寸法変化が少なく、着用時や洗濯時のピリング性、スナッキング性に優れ、さらには制菌性能や吸水性能をも有する制電性経編地を提供すること」(甲1の【0008】)であり、本件発明1とは課題が異なることに加えて、甲1には、「曲げ剛性B値」及び「曲げ戻り性(2HB)」について記載も示唆もないから、「曲げ剛性B値及び曲げ戻り性(2HB)」を好適化することは、当業者であっても容易に想到し得ない。
また、相違点2に係る本件発明1の構成とすることについては、本件特許の出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、相違点1を検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 申立人の主張
(ア)相違点2に関する申立人の主張の概要
相違点2に関して、申立人は、「引用発明1では、構成要件Dで規定する曲げ剛性B値及び曲げ戻り性(2HB)の範囲を充足させるために必要な構成を具備しており、構成要件Dで規定する曲げ剛性B値及び曲げ戻り性(2HB)の範囲を満たしている蓋然性が極めて高いと言える。」(申立書14ページ4~7行。以下「主張1」という。)、及び「制服、作業服等に使用される制電性経編地である引用発明1において、優れたハリ及びコシを付与することは周知の課題であるので、所望のハリ及びコシを付与すべく、ハリ及びコシの指標である曲げ剛性B値及び曲げ戻り性(2HB)を好適な範囲に設定することは、当業者の通常の創作能力によってなし得ることに他ならない。また、本件特許明細書の実施例及び比較例を見ても、曲げ剛性B値及び曲げ戻り性(2HB)をそれぞれ0.017~0.060gf・cm2/cm、0.001~0.045gf・cm/cmと設定したことによって、予想外の効果が奏されるとも認められない。」(申立書14ページ下から6行~15ページ3行。以下「主張2」という。)と主張している。
(イ)主張1及び主張2について
上記述べたとおり、本件発明1と甲1発明とは課題が異なるものであるし、本件発明1の「曲げ剛性B値」及び「曲げ戻り性(2HB)」に関して、甲1には記載も示唆もないことから、甲1発明が「曲げ剛性B値」及び「曲げ戻り性(2HB)」の「数値範囲」について、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者の通常の創作能力によってなし得ることではない。したがって、数値範囲に係る効果について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明2~4について
本件発明4は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)イで検討したのと同じ理由により、甲1発明は本件発明4ではなく、また、本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)ウで検討したのと同じ理由により、当業者が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
4 申立理由3(サポート要件)について
本件発明1は、「ビジネスシャツとして必要とされるハリコシと柔らかさ、通気性、保形性を兼ね備えたビジネスシャツ用編地及びそれを使用したビジネスシャツを提供すること」(【0007】)を課題としている。
当該課題に関して、本件特許の明細書には、次の記載がある。
「【0016】
・・・本発明の編地では、保形性やハリ、コシをより高めるために、前述の方策に加えて、単糸繊度が3~17dtexの太いフィラメントを混用する。・・・単糸繊度が上記範囲未満であるとハリ、コシを向上させる効果が低くなる。混用の手段としては、他の糸と別の給糸にて交編してもよいし、他の糸と引き揃えて一緒に編こんでもよい。また、他の糸と混繊、混紡して複合糸にして編み込んでもよい。上述の太いフィラメントは、3~25重量%の割合で編地に混用することが好ましい。この太い繊維は、・・・3重量%未満では、ハリコシを高める効果が少なくなる。この単繊維繊度が太い繊維は、生糸を用いるのが好ましい。」
「【0031】
本発明の編地の力学特性(曲げ剛性B値及び曲げ戻り性(2HB))は、KES(Kawabata’s Evaluation System for Fabrics)に従ったものである。本発明の編地は、ハリ、コシがあることが特徴であるが、その代用メジャーとしてKES-FB2で測定することができる。本発明の編地は、タテ方向及びヨコ方向の平均値として曲げ剛性B値が0.017~0.060gf・cm2/cmである。この範囲であると、編物でありながら織物に近いハリ感を得られやすくなる。また、本発明の編地は、曲げ戻り性(2HB)が0.001~0.045gf・cm/cmである。この範囲であると、織物に近いコシ感になりやすい。
【0032】
タテ方向及びヨコ方向の平均値としての曲げ剛性(B値)が0.060gf・cm2/cmを越えると、シャツとしては風合いが硬すぎて着心地が悪くなり易い。また、0.017未満になると、張りおよび腰が弱く、またビジネスシャツのシルエット性が低下する傾向にある。好ましくは、この曲げ剛性B値は0.018~0.050gf・cm2/cmであり、更に好ましくは0.018~0.040gf・cm2/cmである。
【0033】
また、タテ方向及びヨコ方向の曲げ戻り性(2HB)が0.001未満になると編地にコシが低下して柔らかくなり過ぎる傾向があり、0.060gf・cm/cmを越えてもビジネスシャツのシルエット性が低下しやすい傾向がある。好ましくは、この曲げ戻り性(2HB)は0.02~0.050gf・cm/cm以下である。」
そうすると、請求項1の「単糸繊度が3~17dtexの生糸のポリエステルフィラメントを3~25重量%含むこと」、及び「タテ方向及びヨコ方向の平均値として曲げ剛性B値及び曲げ戻り性(2HB)がそれぞれ0.017~0.060gf・cm2/cm、0.001~0.045gf・cm/cmであること」により、「編地」が「ハリコシ」と「柔らかさ」とを備えていること、すなわち、ビジネスシャツとして必要とされるハリコシと柔らかさを備えるという本件発明の課題を解決することが理解できる。
よって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~4は、発明の詳細な説明に記載したものである。
5 申立理由4(明確性)について
(1)請求項1~4に記載された用語「ビジネスシャツ」については、服飾に関する一般常識も勘案すれば、ビジネスの場で着用されるシャツであり、礼を失することのない程度にフォーマルなシャツであることは、当業者ならずとも容易に理解できるものであるから、明確である。
さらに、本件特許の明細書を参酌すると、「ビジネスシャツ」について【0002】には、「従来のワイシャツ、ドレスシャツ、オフィスシャツ、ユニフォームシャツ、襟付きカジュアルシャツ、ブラウス等のように、主にオフィスや工場現場等の仕事場で着用されるシャツは、糸を経方向に真っ直ぐに配列させたものに、緯糸を経糸に直交させて織り上げる織物が用いられている。」と記載されており、ビジネスシーンで着用されるシャツであることが明らかであるとともに、ワイシャツ、ドレスシャツ、カジュアルシャツ、ブラウス等が例示されている。
【0012】には、「ここでいうビジネスシャツとは、一般のビジネスシーンでも違和感のないシャツであり、例えば会社間の面談においても失礼のないレベルに許容される装いのシャツをいう。シャツの形態としては、例えば衿や前立てがある仕様のものが含まれる。」と記載されており、「ビジネスシャツ」に求められる外観の要件と例が記載されている。
【0038】には、「本発明の編地に使用されるビジネスシャツは、ビジネスシーンで使用できる衿付のシャツである。例えば、オフィスシャツ、事業所等で使用されるユニフォームシャツ、ドレスシャツ、カッターシャツ、ブラウス、ボタンダウンシャツ等が挙げられる。前立ては必ずしもある必要はないが、前立てがある仕様である方がよりフォーマルとなりビジネスシーンに使用しやすい。」と記載されており、「ビジネスシャツ」に求められる形状の要件と例が記載されている。
してみると、本件特許の明細書には、「ビジネスシャツ」についての定義、外観・形状の要件が記載されているし、例示もされているから、「ビジネスシャツ」がどのようなものであるのかは、当業者が十分に理解できる程度に説明されているといえる。
したがって、請求項1~4に記載された用語「ビジネスシャツ」は、明確である。
(2)申立人は、広辞苑には「ビジネスシャツ」という用語が掲載されていないこと、及びビジネス時に着用が許容されるシャツの種類が異なることは技術常識であることを根拠として、「ビジネスシャツ」という用語の外延を一義的に特定できず、不明確である旨主張している(申立書17ページ16行~18ページ11行)。
しかしながら、上記したように服飾に関する一般常識も勘案すれば、請求項1~4の用語「ビジネスシャツ」がどのようなものか明確であるといえるし、本件特許の明細書も参酌すれば、「ビジネスシャツ」についての定義、外観・形状の要件や例が記載されており、「ビジネスシャツ」なる用語が意味するところは、当業者が十分に理解できるものである。
(3)よって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~4は明確である。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由、及び申立人の主張する特許異議申立理由によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700483