特許異議申立
2022-700390
ポリエステルフィルム
- 審判番号
- 2022-700390
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-226484
- 登録番号
- 6961928
- 請求日
- 2022年05月02日
- 審決日
- 2023年04月28日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】東レ株式会社
- 【異議申立人】野田 澄子
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.537-ZAA (C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6961928号発明「ポリエステルフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6961928号の特許請求の範囲及び明細書を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
特許第6961928号の請求項1、3ないし7に係る特許を取り消す。
特許第6961928号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6961928号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成28年11月22日を出願日とする特許出願であって、令和3年10月18日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年11月5日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年5月2日に特許異議申立人 野田 澄子(以下、「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし7)がされ、同年8月22日付けで取消理由が通知され、同年10月19日に特許権者 東レ株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされるとともに意見書の提出がされ、同年同月31日に本件訂正請求の手続補正がされ、同年11月14日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年12月16日に特許異議申立人より意見書の提出がされた。
そして、令和5年1月26日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは何ら応答がなかったものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「少なくとも一方のポリエチレンテレフタレートフィルムの表面において、表面粗さSRa(nm)と、表面のぬれ張力N(mN/m)が下記式(1)および(2)を満足することを特徴とする離型用途に用いられるポリエチレンテレフタレートフィルム。
(1) -0.07×SRa+45 ≦ N ≦ -0.07×SRa+55
(2) 10nm≦SRa≦200nm」
と記載されているのを、
「少なくとも一方のポリエチレンテレフタレートフィルムの表面において、表面粗さSRa(nm)と、表面のぬれ張力N(mN/m)が下記式(1)、(2)および(3)を満足することを特徴とする離型用途に用いられるポリエチレンテレフタレートフィルム。
(1) -0.07×SRa+45 ≦ N ≦ -0.07×SRa+55
(2) 27nm≦SRa≦168nm
(3) 38mN/m≦N≦49mN/m」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3ないし7についても同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2」と記載されているのを、「請求項1」に訂正する。
請求項3の記載を直接又は間接的に引用する請求項4ないし7についても同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか」と記載されているのを、「請求項1または3」に訂正する。
請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5ないし7についても同様に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5のいずれか」と記載されているのを、「請求項1、3~5のいずれか」に訂正する。
請求項6の記載を引用する請求項7についても同様に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~6のいずれか」と記載されているのを、「請求項1、3~6のいずれか」に訂正する。
(7)訂正事項7
願書に添付した明細書の段落【0015】に記載された「密着性と剥離性の観点から好ましくは -0.06×SRa+45 ≦ N ≦ -0.06×SRa+55が好ましい。」を削除する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に対し、表面粗さSRaの範囲を「27nm≦SRa≦168nm」に減縮し、さらに、表面粗さSRaと表面のぬれ張力Nが「38mN/m≦N≦49mN/m」を満足することを限定するものであるから、訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、訂正前の特許請求の範囲の記載及び明細書の段落【0019】及び【0058】の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3ないし7についても同様である。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3ないし6について
訂正事項3ないし6は、訂正事項2により、訂正前の請求項2を削除することに伴い、引用先の請求項のうち、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項7について
訂正事項7は、本件特許の発明の詳細な説明において、明瞭でない記載を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1ないし7に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲及び明細書を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
なお、訂正特許請求の範囲の請求項1における「38mN/mN≦49mN/m」の記載は、「38mN/m≦N≦49mN/m」の誤記と認める。
「【請求項1】
少なくとも一方のポリエチレンテレフタレートフィルムの表面において、表面粗さSRa(nm)と、表面のぬれ張力N(mN/m)が下記式(1)、(2)および(3)を満足することを特徴とする離型用途に用いられるポリエチレンテレフタレートフィルム。
(1) -0.07×SRa+45 ≦ N ≦ -0.07×SRa+55
(2) 27nm≦SRa≦168nm
(3) 38mN/mN≦49mN/m
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記ポリエチレンテレフタレートフィルムの長手方向の破断強度と幅方向の破断強度のうちの高い値A(MPa)が下記式(4)を満足することを特徴とする請求項1に記載のポリエチレンテレフタレートフィルム。
(4) 100MPa≦A≦210MPa
【請求項4】
前記ポリエチレンテレフタレートフィルムが、少なくとも、結晶核剤を含有する層(基材層)と、基材層に接しており、かつポリエチレンテレフタレートフィルム表面を有する層(外層)を有することを特徴とする請求項1または3に記載のポリエチレンテレフクレートフィルム。
【請求項5】
前記外層の厚みが、ポリエチレンテレフタレートフィルムの総厚みに対して5~15%であり、前記外層が粒子を含有することを特徴とする請求項4に記載のポリエチレンテレフタレートフィルム。
【請求項6】
前記ポリエチレンテレフタレートフィルムの総厚みが10μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項1、3~5のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレートフィルム。
【請求項7】
グリーンシート離型用途に用いられる請求項1、3~6のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレートフィルム。」
第4 取消理由の概要
令和5年1月26日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。
取消理由(サポート要件)
本件特許の請求項1及び3ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、それらの特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、取消理由の具体的理由は、おおむね次のとおりである。
本件特許の発明の詳細な説明の【0001】ないし【0006】によると、本件特許発明1ないし7が解決しようとする課題は、セラミックスラリーとの剥離性と密着性を持つ、ポリエステルフィルムを提供すること(以下、「発明の課題」という。)である。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0015】、【0018】及び【0019】には、本件特許発明1の発明特定事項である式(1)ないし(3)について記載されており、本件特許の発明の詳細な説明の【0034】ないし【0058】には、具体的な実施例が記載され、実施例1、2及び4の3つの実施例と、参考例3と、比較例1-6の6つの比較例のデータが示されている。ここで、本件特許発明1における、表面粗さSRaと表面のぬれ張力Nとの関係が、本件特許発明1に係る式(1)ないし(3)を満足する範囲を下記グラフ4に示す。
グラフ4
[図:0001401618000001.jpg]
グラフ4において、直線JE、直線EF、直線FG、直線GH、直線HI及び直線IJによって囲まれる範囲が、本件特許発明1に係る式(1)ないし(3)を満足する範囲であり、実施例1、2及び4、参考例3並びに比較例1ないし6で製造したポリエステルフィルムの各表面粗さSRaと各ぬれ張力Nの値をプロットしている。
ここで、上記グラフ4からもわかるように、本件特許発明1に係る式(1)ないし(3)を満足する範囲は広範囲に及ぶところ、本件特許発明1の課題を解決し得るデータは、実施例1、2及び4に示された3つのデータのみである。
そして、上記グラフ4からは、実施例1、2及び4に示された各表面粗さSRaの値と各ぬれ張力Nの値の場合には、密着性と剥離性に優れるポリエステルフィルムが得られ、比較例1ないし6に示された各表面粗さSRaの値と各ぬれ張力Nの値の場合には、密着性と剥離性に優れるポリエステルフィルムが得られないことは確認できるが、上記グラフ4に示す直線JE、直線EF、直線FG、直線GH、直線HI及び直線IJによって囲まれるすべての範囲において密着性と剥離性に優れるポリエステルフィルムが得られることを認識することはできない。
また、表面粗さSRaと表面のぬれ張力Nとの関係が、本件特許発明1に係る式(1)を満足するポリエステルフィルムは、剥離性と密着性に優れるということが、本件特許出願時における当業者の技術常識であったともいえない。
さらに、本件特許発明1に係る式(1)について、本件特許の発明の詳細な説明の【0015】には、「上記式(1)の範囲外になるとセラミックスラリーとの密着性が強すぎ、剥離出来ないという不具合が発生したり、反対に密着性が弱く、導通インクがセラミックスラリーとキャリアフィルム間に流れ出てしまうという不具合が発生する。」ことが記載されているが、発明の課題を解決するか否かの境界が式(1)であることについての技術的意味については何ら記載されておらず、さらに、式(1)中の「-0.07」、「-0.07×SRa」、「45」及び「55」のそれぞれの数字の技術的意味についても何ら記載されていないことから、式(1)の技術的意義を全く理解することができない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1に係る式(1)が満足する範囲と発明の課題との関係の技術的意味が、当業者といえども理解することはできない。
したがって、本件特許発明1は、発明の課題を解決するもの、すなわちサポート要件を満たすものということはできない。
本件特許発明1を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明3ないし7についても同様である。
第5 当審の判断
本件特許発明1及び3ないし7は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1及び3ないし7に記載された事項により特定される上記第3に記載したとおりのものである。
これに対し、令和5年1月26日付けで上記第4のとおりの取消理由(決定の予告)を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは何ら応答がなかった。
そして、上記第4の取消理由は妥当なものと認められるので、本件特許の請求項1及び3ないし7に係る特許は、この取消理由によって取り消すべきものである。
第6 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1及び3ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
請求項2に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-700390