特許異議申立
2022-701123
積層体および化粧シート
- 審判番号
- 2022-701123
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-152460
- 登録番号
- 7066993
- 請求日
- 2022年11月16日
- 審決日
- 2023年03月10日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】凸版印刷株式会社
- 【権利者代理人】廣瀬 一
- 【権利者代理人】宮坂 徹
- 【権利者代理人】田中 秀▲てつ▼
- 【異議申立人】弁理士法人 WisePlus
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 茂夫
- 審判官 筑波 茂樹
- 審判官 田合 弘幸
- 分類
- P1651.537-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7066993号発明「積層体および化粧シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7066993号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第7066993号の請求項1~9に係る特許についての出願は、平成29年8月7日に出願され、令和4年5月6日にその特許権の設定登録がされ、同年5月16日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和4年11月16日に特許異議申立人弁理士法人WisePlus(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
2 本件発明
特許第7066993号の請求項1~9に係る特許についての発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
複数の樹脂層からなる積層体であって、
上記積層体の最表面側に位置するトップコート層に、pKaが4.0から7.0の光安定剤と、光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5である紫外線吸収剤とが含有しており、
上記トップコート層は、熱硬化層と、上記熱硬化層の上に形成された光硬化層とを備え、
上記熱硬化層と上記光硬化層のいずれか一方の硬化層は、上記光安定剤と上記紫外線吸収剤とを含み、且つ他方の硬化層は、上記光安定剤と上記紫外線吸収剤のいずれか一方のみを含んでいることを特徴とする積層体。
【請求項2】
上記光安定剤は、アミノエーテル基を有し分子量が600以上のヒンダードアミン系光安定剤であることを特徴とする請求項1に記載した積層体。
【請求項3】
上記紫外線吸収剤は、トリアジン骨格もしくはベンゾトリアゾール骨格を有し、分子量が400以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した積層体。
【請求項4】
上記トップコート層は、無機粒子からなる光沢調整剤を含むことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1項に記載した積層体。
【請求項5】
樹脂の主成分がオレフィン系樹脂であり、且つpKaが7.0以下の化合物を、樹脂材料100質量部に対して0.3質量部以上含有した樹脂層であるオレフィン樹脂層を有し、
上記トップコート層は、上記オレフィン樹脂層の上に形成されていることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載した積層体。
【請求項6】
上記熱硬化層は、上記光安定剤と上記紫外線吸収剤とを含むことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか1項に記載した積層体。
【請求項7】
上記トップコート層は、硬化性樹脂として熱硬化性樹脂のみを含んだ上記熱硬化層と、上記熱硬化層の上に形成され、硬化性樹脂として光硬化性樹脂のみを含んだ上記光硬化層と、上記熱硬化層と上記光硬化層との間に位置し、硬化性樹脂として熱硬化性樹脂と光硬化性樹脂とを含んだ熱硬化・光硬化ハイブリッド層と、を備えることを特徴とする請求項1~請求項6のいずれか1項に記載した積層体。
【請求項8】
上記熱硬化・光硬化ハイブリッド層における上記熱硬化性樹脂は、メチルメタクリレートと2-ヒドロキシエチルメタクリレートとを構成成分とする樹脂であり、
上記熱硬化・光硬化ハイブリッド層における上記光硬化性樹脂は、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを構成成分とする樹脂であることを特徴とする請求項7に記載した積層体。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載した積層体を備えた化粧シート。」
3 申立理由の概要
申立人は、請求項1を分説した以下の構成C及びDに関して、以下の(1)及び(2)の理由により、サポート要件を満たさず、請求項2~9の構成についても、以下の(3)の理由により、サポート要件を満たさないから、請求項1~9に係る特許(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明9」といい、これらをまとめて「本件特許発明」ともいう。)は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない出願に対してされたものであり、同法第113条第4号により、取り消されるべきものである旨主張する。
[請求項1]
A 複数の樹脂層からなる積層体であって、
B 上記積層体の最表面側に位置するトップコート層に、pKaが4.0から7.0の光安定剤と、光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5である紫外線吸収剤とが含有しており、
C 上記トップコート層は、熱硬化層と、上記熱硬化層の上に形成された光硬化層とを備え、
D 上記熱硬化層と上記光硬化層のいずれか一方の硬化層は、上記光安定剤と上記紫外線吸収剤とを含み、且つ他方の硬化層は、上記光安定剤と上記紫外線吸収剤のいずれか一方のみを含んでいることを特徴とする積層体。
(1)構成Cに関して
本件特許発明1は、構成Cとして「トップコート層は、熱硬化層と、上記熱硬化層の上に形成された光硬化層とを備え、」と規定している。
構成Cに関し、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0015】には「この他にも、表面硬度の向上を図る場合には、紫外線や電子線などの活性エネルギー線で硬化する樹脂を用いることが好ましい。」と記載されている。
しかしながら、段落【0016】には、「トップコート層2を複数の層、例えば、熱硬化樹脂を主成分とした熱硬化層と、紫外線硬化樹脂などの光硬化樹脂を主成分とした光硬化層の2層から構成しても良い。このように2層の硬化層から構成することで、化粧シート1の表面硬度を向上することができる。このとき、光硬化層を表層側とすることが好ましい。」と記載され、光硬化層は紫外線硬化樹脂から構成されることが記載されている。また、段落【0057】に記載された「光開始剤 品名:イルガキュア184」を含む光硬化組成物は紫外線硬化組成物であることが理解できる。
そして、本件特許発明は、安定した耐候性を有する化粧シートを提供するという課題を解決するため、トップコート層の条件を見出したものであるところ(段落【0005】、【0006】)、光硬化層として具体的に例示された紫外線硬化組成物以外の組成物に対しても本件特許発明の課題を解決できるとは推認できない。
よって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において、本件特許発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。
(2)構成Dに関して
本件特許発明1は、構成Dで「上記熱硬化層と上記光硬化層のいずれか一方の硬化層は、上記光安定剤と上記紫外線吸収剤とを含み、且つ他方の硬化層は、上記光安定剤と上記紫外線吸収剤のいずれか一方のみを含んでいることを特徴とする積層体。」と規定している。
構成Dに関し、令和3年4月19日付け意見書にて、本件特許権者は「補正後の本願請求項1に係る発明では、トップコート層が熱硬化層と光硬化層とを備え、その熱硬化層と光硬化層のいずれか一方の硬化層が光安定剤と紫外線吸収剤とを含み、且つ他方の硬化層が光安定剤と紫外線吸収剤のいずれか一方のみを含むため、引用発明と比較して、耐候性の安定性をさらに向上させることができるといった有利な効果を奏します。」と主張している。
本件特許明細書の段落【0017】には、「(光安定剤及び紫外線吸収剤)本実施形態では、トップコート層2は、pKaが4.0から7.0の光安定剤と、光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5の紫外線吸収剤を含有する。ここで、トップコート層2が複数の層で構成される場合には、その複数の層のうちの1以上の層に対して、pKaが4.0から7.0の光安定剤と、光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5である紫外線吸収剤とを含有させる。またこのとき、その他の層には、pKaが4.0から7.0の光安定剤、又は光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5である紫外線吸収剤の一方を含有させることが好ましい。」と記載されており、当該記載からは「引用発明と比較して、耐候性の安定性をさらに向上させることができるといった有利な効果」を奏するか否かは不明である。
また、実施例6は、「熱硬化層」、「光硬化層」の2層構成、実施例7は、「熱硬化層」、「熱硬化・光硬化ハイブリッド層」の2層構成、実施例8は、「熱硬化層」、「熱硬化・光硬化ハイブリッド層」、「光硬化層」の3層構成であるが、いずれの層にも紫外線吸収剤及び光安定剤が含有されており、上記構成Dを充足する実施例は存在しない。
すなわち、構成Dを満たす場合に本件特許発明の課題を解決できることは本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていない。
(3)本件特許発明2~9について
本件特許発明2~9では、それぞれ特許請求の範囲の請求項2~9で特定された構成(上記2参照)が規定されている。
すなわち、本件特許発明2~9の構成には、光硬化層として具体的に例示された紫外線硬化組成物以外の組成物に対しても本件特許発明の課題を解決できるとは推認できる記載はなく、本件特許発明2~9は、発明の詳細な説明において、本件特許発明の課題を解決できることを認識できるように記載された範囲を超えているといえ、また、本件特許発明2~9にも本件特許発明1における構成Dを満たす場合に本件特許発明の課題を解決できることの記載はないため、本件特許発明2~9はサポート要件を満たさない。
4 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、次の記載がある(下線部は、当審において付与した。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムなどの樹脂製の積層体、およびこれを用いた建築内装材、玄関ドアなどの建築外装部材、建具の表面、家電品の表面材等に用いられる化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塩化ビニル製化粧シートに替わる化粧シートとして、オレフィン系樹脂を使用した化粧シートが多く提案されている。これらの化粧シートは、住宅や公共施設の建築内装材、玄関ドアなどの建築外装部材、建具の表面、家電品の表面材の保護に用いられる。そのため、日々直射日光や風雨に曝されることになり、極めて高い耐候性が要求される(特許文献1参照)。
特許文献1に記載の化粧シートは、光安定剤や紫外線吸収剤などをトップコート層に配合することで、耐候性向上を図っている。しかし、長期の使用により、トップコート層からブリードアウトすることで、光安定剤や紫外線吸収剤が消失することや酸素や光により各材料の化学構造が破壊されることで機能が消失することが知られている。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、トップコート層などの対象とする樹脂層に対し十分な耐候性が得られる量の紫外線吸収剤や光安定剤を含有させようとすると、樹脂層を構成する樹脂組成物中において配合した紫外線吸収剤や光安定剤の凝集が生じる場合がある。
さらに、樹脂組成物中において紫外線吸収剤や光安定剤の化学構造が壊れ、低分子化することで、樹脂層の表面から紫外線吸収剤や光安定剤が分解した成分が浮き出す、所謂ブリードアウトが発生しやすくなる。そして、他の樹脂層との密着性が低下するなどの問題が発生する。さらには、表層に浮き出て、べたつき等の問題を生じることとなる。
【0005】
本発明においては、上記のような点に着目してなされたもので、安定した耐候性を有する化粧シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明らは、経時的な紫外線吸収剤および光安定剤の分解を防ぎ、長期にわたって品質を低下させずに利用することを可能とする条件を種々検討して、好適なトップコート層の条件を見出した。
課題を解決するために、本発明の第1の態様の積層体は、複数の樹脂層からなる積層体であって、上記積層体の最表面側に位置するトップコート層に、pKaが4.0から7.0の光安定剤と、光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5である紫外線吸収剤とが含有していることを特徴とする。
また、本発明の第1の態様の化粧シートは、上記の積層体を備えることを特徴とする。」
「【0017】
(光安定剤及び紫外線吸収剤)
本実施形態では、トップコート層2は、pKaが4.0から7.0の光安定剤と、光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5の紫外線吸収剤を含有する。
ここで、トップコート層2が複数の層で構成される場合には、その複数の層のうちの1以上の層に対して、pKaが4.0から7.0の光安定剤と、光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5である紫外線吸収剤とを含有させる。またこのとき、その他の層には、pKaが4.0から7.0の光安定剤、又は光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5である紫外線吸収剤の一方を含有させることが好ましい。」
「【0020】
紫外線吸収剤は、トリアジン骨格もしくはベンゾトリアゾール骨格を有し分子量が400以上である紫外線吸収剤であることが好ましい。紫外線吸収剤の分子量は、その構造式から算出しても良いし、公知の方法で測定した数平均分子量であっても良い。
例えば、紫外線吸収剤は、下記ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する化合物(1)またはベンゾトリアゾール骨格を有する化合物(2)であり、これらは極大吸収を270nmから400nmに有する化合物が好ましい。上記の紫外線吸収剤は、光を吸収することで励起し、骨格に応じて、分子内で水素原子の移動が生じる。基底状態には、熱を放出して戻ることができる。これらは、それぞれ、反応式(3)、反応式(4)で示すことができる。」
「【0023】
【化3】
[図:0001396304000001.jpg]
【0024】
【化4】
[図:0001396304000002.jpg]
」
「【0030】
・・・
光安定剤は、下記ヒンダードアミン系の化合物(5)であり、上記ヒンダードアミン系の化合物は、反応式(6)の反応によりラジカルを捕捉することができる。」
「【0032】
【化6】
[図:0001396304000003.jpg]
」
「【0048】
<作用その他について>
紫外線吸収剤と光安定剤は分子間相互作用を必要とするため近接して存在するほうが好ましい。ここで、トリアジン骨格もしくはベンゾトリアゾール骨格の紫外線吸収剤とヒンダードアミン骨格の光安定剤を用いた場合の相互作用について見てみる。一般に紫外線吸収剤と光安定剤の分子間相互作用は、紫外線吸収剤の共役系と光安定剤のヒンダードアミン骨格の間で生じる。紫外線吸収剤は、光吸収した際に、トリアジン骨格もしくはベンゾトリアゾール骨格の窒素上に分子内水素結合を生じている存在確立が高い。言い換えると、ヒドロキシル基上の水素が解離しやすい状態にある。
【0049】
そして、pKaが7.0よりも大きい光安定剤を共存させることで、光を吸収し励起状態にある紫外線吸収剤は、光安定剤と酸塩基反応を経た、副反応を生じやすくなる。つまりは、紫外線吸収剤や光安定剤が本来生じている、上述の反応式(3)、反応式(4)及び反応式(6)の反応を経ることができず副反応が増加する。言い換えると、光により分解しやすくなり、耐候性の低下に繋がる。一方で、pKaが7.0以下の光安定剤を用いた場合、光を吸収し励起状態にある紫外線吸収剤のヒドロキシル基上の水素と酸塩基反応を生じにくいため、紫外線吸収剤や光安定剤が反応式(3)、反応式(4)及び反応式(6)の反応を経やすい。そのため、光に対する耐候性を向上させることができる。
このような事に鑑み、本実施形態では、トップコート層2を構成する樹脂組成物中に、pKaが4.0から7.0の光安定剤、光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5の紫外線吸収剤を含有させることで、耐候性の高いトップコート層2を有する積層体を提供し、その積層体を使用した、安定した耐候性を有する化粧シート1を提供することができる。」
5 当審の判断
(1)サポート要件について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当である。
そこで、本件特許発明が、上記要件に適合するか、以下検討する。
(2)本件特許発明1について
ア 本件特許明細書の段落【0002】~【0005】を参照すると、本件特許発明は、化粧シートには極めて高い耐候性が要求されるため、光安定剤や紫外線吸収剤などをトップコート層に配合することで、耐候性向上を図っているが、長期の使用により、光安定剤や紫外線吸収剤が消失することや、化学構造が破壊されることで機能が消失するという問題が発生することから、安定した耐候性を有する化粧シートを提供することを、その解決しようとする課題とするものである。
上記課題に対し、本件特許明細書の段落【0006】には、紫外線吸収剤および光安定剤の分解を防ぐことで、長期にわたって品質を低下させず利用することを可能とするトップコート層の条件を見出し、課題を解決するために、複数の樹脂層からなる積層体であって、上記積層体の最表面側に位置するトップコート層に、pKaが4.0から7.0の光安定剤と、光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5である紫外線吸収剤とが含有するものとしたことが記載されている。
そして、本件特許発明が安定した耐候性を有する機序(以下「本件特許発明の機序」という。)は、本件特許明細書の段落【0048】~【0049】の記載を参照すると、紫外線吸収剤と光安定剤は分子間相互作用を必要とするため近接して存在することが好ましいが、紫外線吸収剤とpKaが7.0よりも大きい光安定剤と共存させることで、光を吸収し励起状態にある紫外線吸収剤と、光安定剤との酸塩基反応が増加し、紫外線吸収剤及び光安定剤が本来生じている反応式(3)、反応式(4)及び反応式(6)の反応を経ることができず、光により分解されやすくなり耐候性が低下するところ、pKaが7.0以下の光安定剤と紫外線吸収剤とを共存させることにより、光を吸収し励起状態にある紫外線吸収剤と、光安定剤との酸塩基反応を生じにくくし、紫外線吸収剤及び光安定剤が本来生じている反応式(3)、反応式(4)及び反応式(6)の反応を経やすくして、光に対する耐候性を向上させることである。そして、このような事に鑑みて、本件特許発明では、トップコート層を構成する樹脂組成物中に、pKaが4.0から7.0の光安定剤と光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5の紫外線吸収剤を含有させたものといえる。
イ 本件特許発明1における構成C及びDには「上記トップコート層は、熱硬化層と、上記熱硬化層の上に形成された光硬化層とを備え、上記熱硬化層と上記光硬化層のいずれか一方の硬化層は、上記光安定剤と上記紫外線吸収剤とを含み」と記載され、構成Bには「上記積層体の最表面側に位置するトップコート層に、pKaが4.0から7.0の光安定剤と、光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5である紫外線吸収剤とが含有しており」と記載されている。すなわち、トップコート層が備える熱硬化層と光硬化層のいずれか一方に、紫外線吸収剤とpKaが7.0以下の光安定剤とが含まれている。そうすると、本件特許発明1のトップコート層は、上記本件特許発明の機序で説明された条件を満たすから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
ウ また、本件特許発明1のその余の構成についても、本件特許明細書に記載されている。そうすると、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する。
エ 申立人は、構成Cに関して、光硬化層として具体的に例示された紫外線硬化組成物以外の組成物に対しても本件特許発明の課題を解決できるとは推認できないと主張する。
しかしながら、上記イで説示したとおり、本件特許発明1は、トップコート層が備える熱硬化層と光硬化層のいずれか一方の硬化層は、pKaが4.0から7.0の光安定剤と、光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5である紫外線吸収剤とを含有しており、これにより、上記本件特許発明の機序に従い、安定した耐候性が得られるものである。そして、上記本件特許発明の機序は、光硬化層として具体的に例示された紫外線硬化組成物であることを要するものではないから、申立人のかかる主張には理由がない。
オ 申立人は、構成Dに関して、「引用発明と比較して、耐候性の安定性をさらに向上させることができるといった有利な効果」を奏するか否かは不明であると主張する。
しかしながら、サポート要件については、上記(1)で説示したとおり「特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か」を判断するのが相当であって、審査で引用された引用発明との比較で有利な効果を奏するか否かの判断を要するものではないから、申立人の主張には理由がない。
カ 申立人は、構成Dに関して、実施例6~8は、いずれの層にも紫外線吸収剤及び光安定剤が含有されており、上記構成D、すなわち、「熱硬化層と上記光硬化層のいずれか一方の硬化層は、上記光安定剤と上記紫外線吸収剤とを含み、且つ他方の硬化層は、上記光安定剤と上記紫外線吸収剤のいずれか一方のみを含んでいる」実施例は存在しないと主張する。
しかしながら、構成Dの「熱硬化層と上記光硬化層のいずれか一方の硬化層は、上記光安定剤と上記紫外線吸収剤とを含み」との構成における「いずれか一方の硬化層」に着目すると、pKaが4.0から7.0の光安定剤と、光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5である紫外線吸収剤とを含んでいるのであるから、上記本件特許発明の機序を有することは明らかであり、安定した耐光性を有する化粧シートを提供するという本件特許発明の課題を解決できるといえる。また、本件特許明細書の段落【0017】に「ここで、トップコート層2が複数の層で構成される場合には、その複数の層のうちの1以上の層に対して、pKaが4.0から7.0の光安定剤と、光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5である紫外線吸収剤とを含有させる。またこのとき、その他の層には、pKaが4.0から7.0の光安定剤、又は光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5である紫外線吸収剤の一方を含有させることが好ましい。」と、上記構成Dにおける「他方の硬化層」の構成についても記載されている。
そうすると、本件特許明細書の実施例6~8には、複数の硬化層のいずれの層にも紫外線吸収剤及び光安定剤が含有されているものが示されているとしても、構成Dが、本件特許発明の課題を解決しないものとも、本件特許明細書に記載されていないともいえないから、申立人の主張には理由がない。
(3)本件特許発明2~9について
本件特許発明2~9は、本件特許発明1の構成をすべて含み、さらに構成を付加したものである。
そして、上記(2)ア~ウで説示したとおり、本件特許発明1は、本件特許発明の課題を解決できることを認識できるように記載された範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、本件特許発明1の構成をすべて含み、さらに構成を付加したものである本件特許発明2~9についても同様に、本件特許発明の課題を解決できることを認識できるように記載された範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載されたものであって、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する。
また、申立人が主張する、光硬化層として具体的に例示された紫外線硬化組成物以外の組成物に対しても本件特許発明の課題を解決できるとは推認できる記載はない、構成Dを満たす場合に本件特許発明の課題を解決できることの記載はないとの点については、本件特許発明1について検討した上記(2)エ~カで説示したとおり理由がないから、本件特許発明1の構成をすべて含み、さらに構成を付加したものである本件特許発明2~9についても同様に理由がない。
6 むすび
以上のとおり、申立人の主張する特許異議の申立ての理由によっては、請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701123