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特許異議申立

2022-701085

電界発光素子

審判番号
2022-701085
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-121308
登録番号
7063950
請求日
2022年11月08日
審決日
2023年02月27日
公報発行日
2023年03月31日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド
  • 【権利者代理人】村山 靖彦
  • 【権利者代理人】実広 信哉
  • 【権利者代理人】阿部 達彦
  • 【権利者代理人】塩尻 一尋
  • 【権利者】キング・アブドゥラジズ・シティ・フォー・サイエンス・アンド・テクノロジー
  • 【権利者代理人】村山 靖彦
  • 【権利者代理人】実広 信哉
  • 【権利者代理人】阿部 達彦
  • 【権利者代理人】塩尻 一尋
  • 【異議申立人】並木 晶子
審判長/審判官
  • 審判長 松波 由美子
  • 審判官 清水 康司
  • 審判官 杉山 輝和
分類
P1651.113-Y (H05B) / P1651.121-Y (H05B) / P1651.537-Y (H05B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第36条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7063950号発明「電界発光素子」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7063950号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7063950号(請求項の数14。以下,「本件特許」という。)に係る出願(以下,「本件特許出願」という。)は,2015年(平成27年)11月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2014年11月28日,英国)を国際出願日とする特願2017-547082号の一部を令和2年7月15日に新たな特許出願とした外国語書面出願であって,令和4年4月25日にその特許権の設定登録がされ,令和4年5月9日に特許掲載公報が発行された。 その後,令和4年11月8日に特許異議申立人(以下,「申立人」という。)より本件特許の請求項1ないし14に係る特許に対して本件特許異議の申立てがされた。 第2 本件特許の請求項1ないし14に係る発明 本件特許の請求項1ないし14に係る発明(以下,それぞれを「本件特許発明1」ないし「本件特許発明14」といい,本件特許発明1ないし14を総称して「本件特許発明」ということがある。)は,本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものと認められるところ,本件特許発明1ないし14は,次のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 絶縁材料のマトリクス又はブレンド中に埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子の層を含み,絶縁材料が,絶縁性ポリマー又は絶縁性有機分子を含み,前記半導体性ペロブスカイトナノ粒子が,AMX3構造を有し,Aが一価カチオンであり,Mが二価カチオンであり,かつ,Xがハライドアニオンである,有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトを含み, 前記一価カチオンAが, ・一級,二級,又は三級のアンモニウムカチオン[HNR1R2R3]+(式中,R1,R2,及びR3のそれぞれが同じであるか異なり,水素,非置換又は置換C1~C20アルキル基,及び非置換又は置換C5~C18アリール基から選択される)であり,且つ/または ・式:[R1R2N-CH=NR3R4]+: 【化1】 [図:0001395251000001.jpg] (式中,R1,R2,R3,及びR4のそれぞれは同じであるか異なり,水素,非置換又は置換C1~C20アルキル基,及び非置換又は置換C5~C18アリール基から選択される)のものであり,且つ/または ・式:(R1R2N)(R3R4N)C=NR5R6: 【化2】 [図:0001395251000002.jpg] (式中,R1,R2,R3,R4,R5,及びR6のそれぞれは同じであるか異なり,水素,非置換又は置換C1~C20アルキル基,及び非置換又は置換C5~C18アリール基から選択される)のものであり,且つ/または ・セシウム(Cs+)又はルビジウム(Rb+)を含むアルカリ金属カチオンである,発光リン光体。 【請求項2】 絶縁材料が,絶縁性ポリマーである,請求項1に記載の発光リン光体。 【請求項3】 絶縁性ポリマーが,極性ポリマーである,請求項2に記載の発光リン光体。 【請求項4】 絶縁材料が,絶縁性有機分子である,請求項1に記載の発光リン光体。 【請求項5】 絶縁性有機分子が,極性有機分子である,請求項4に記載の発光リン光体。 【請求項6】 絶縁材料が,以下の式: 【化3】 [図:0001395251000003.jpg] を有する,ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物/4,4-オキシジアニリン/m-フェニレンジアミンポリマー(PIP)のポリアミック酸を含むポリイミド,ポリスチレン,または以下の式: 【化4】 [図:0001395251000004.jpg] のポリ(9-ビニルカルバゾール),または以下の式: 【化5】 [図:0001395251000005.jpg] の有機化合物,4,4-ビス(N-カルバゾリル)-1,1-ビフェニルである,請求項1に記載の発光リン光体。 【請求項7】 絶縁材料のマトリクス又はブレンド中に埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子の層の厚さが,500nm以下である,請求項1から6のいずれか一項に記載の発光リン光体。 【請求項8】 Xが,クロライド,ブロマイド,アイオダイド,及びフルオライドから選択されるハライドアニオンであり,AMX3構造中,各ハライドは同じであっても異なっていてもよい,請求項1から7のいずれか一項に記載の発光リン光体。 【請求項9】 ペロブスカイト物質が, A1-iBiMX3構造を有し,式中, ・A及びBはそれぞれ請求項1において一価カチオンAとして規定される一価カチオンであって,A及びBは異なり; ・Mは請求項8に規定される二価金属カチオンであり; ・Xは請求項8に規定されるハライドアニオンであり;且つ ・iは0と1の間であり,あるいは, AMX3-kYk構造を有し,式中, ・Aは請求項1に規定される一価カチオンであり; ・Mは請求項8に規定される二価金属カチオンであり; ・X及びYはそれぞれ請求項8においてハライドアニオンXとして規定されるハライドアニオンであって,X及びYは異なり;且つ ・kは0と3の間であり,あるいは, AM1-jNjX3構造を有し,式中, ・Aは請求項1に規定される一価カチオンであり; ・M及びNはそれぞれ請求項8において二価金属カチオンMとして規定される二価金属カチオンであり; ・Xは請求項8に規定されるハライドアニオンであり;且つ ・jは0と1の間であり,あるいは, A1-iBiM1-jNjX3-kYk構造を有し,式中, ・A及びBはそれぞれ請求項1において一価カチオンAとして規定される一価カチオンであり,A及びBは異なり; ・M及びNはそれぞれ請求項8において二価金属カチオンMとして規定される二価金属カチオンであり; ・X及びYはそれぞれ請求項8においてハライドアニオンXとして規定されるハライドアニオンであって,X及びYは異なり;且つ ・iは0と1の間であり,jは0と1の間であり,kは0と3の間である,請求項8に記載の発光リン光体。 【請求項10】 半導体性ペロブスカイトナノ粒子が,半導体性ペロブスカイトナノ結晶である,請求項1から9のいずれか一項に記載の発光リン光体。 【請求項11】 半導体性ペロブスカイトナノ粒子:絶縁材料の質量比が,0.01:1~2:1,0.1:1~10:1,1:1~5:1,及び1:1~2:1を含む0.01:1~20:1である,請求項1に記載の発光リン光体。 【請求項12】 請求項1から11のいずれか一項に規定される発光リン光体により放射される波長を選択する方法であって,半導体性ペロブスカイトナノ粒子の絶縁材料に対する質量比を選択することによって前記波長の前記選択を達成する工程を含む,方法。 【請求項13】 請求項1から11のいずれか一項に規定される発光リン光体により放射される波長を選択する方法であって,絶縁材料のマトリクス又はブレンド中に埋め込まれたペロブスカイトナノ粒子の大きさを変えることによって前記波長の前記選択を達成する工程を含む,方法。 【請求項14】 請求項1から11のいずれか一項に規定される発光リン光体により放射される波長を選択する方法であって,半導体性ペロブスカイトナノ粒子物質またはその前駆体を選択し,且つ/または絶縁材料を選択することによって前記波長の前記選択を達成する工程を含む,方法。」 第3 申立ての理由の概要 特許異議申立書に記載された申立ての理由(以下,「申立理由」という。)は,概略,次のとおりである。 申立理由1(新規性欠如):本件特許発明1ないし9,12ないし14は,本件特許出願の優先権主張の日(以下,「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり,それらの特許は,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない発明についてされたものであるから,同法113条2項に該当し,取り消されるべきものである。 申立理由2(進歩性欠如):本件特許発明1ないし14は,本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が本件優先日前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり,それらの特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから,同法113条2項に該当し,取り消されるべきものである。 申立理由3(サポート要件違反):本件特許発明1ないし14は,発明の詳細な説明に記載したものでなく,それらの特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法113条4項に該当し,取り消されるべきものである。 申立理由4(明確性要件違反):本件特許発明1ないし14は,明確でなく,それらの特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法113条4項に該当し,取り消されるべきものである。 申立人が提出した証拠方法は,次のとおりである。 甲1:特表2009-530488号公報(主引用例) 甲2:特開2008-227330号公報 甲3:Kenichiro TANAKA外8名,“Electronic and Excitonic Structures of Inorganic-Organic Perovskite-Type Quantum-Well Crystal(C4H9NH3)2PbBr4”,Japanese Journal of Applied Physics,2005年,Vol.44,No.8,p.5923-5932 甲4:Shigeki Kasiwamura外1名,“Thin films of microcrystaline(CH3NH3)(C6H5C2H4NH3)2Pb2Br7 and related compounds: fabrication and optical properties”,Synthetic Metals 96,1998年,p.133-136 甲5:George C.Papavassilion外2名,“Organic-Inorganic Hybrid Compounds Based on Lead Halide Units: Preparation from Melts and through Grinding Effects”,Z.Naturforsch.2010,65b,2010年,p.516-520 甲6:特開2014-78392号公報(主引用例) 甲7:韓国公開特許第10-2014-0007045号公報 第4 主引用例の記載及び当該記載から把握された発明 1 甲1 (1)甲1の記載 甲1は,本件優先日前に頒布された刊行物であるところ,当該甲1には,次の記載がある。(下線は,後述する甲1発明の構成に特に関連する箇所を示すために付したものである。) ア 「【請求項1】 下記式を有する発光材料であって, [AaBbXxX’x’X’’x’’][ドーパント] 式中, Aが,第IA族の元素のうちの少なくとも1つから選択され, Bが,第VA族の元素,第IB族の元素,第IIB族の元素,第IIIB族の元素,第IVB族の元素,及び第VB族の元素のうちの少なくとも1つから選択され, X,X’及びX’’が独立に,第VIIB族の元素のうちの少なくとも1つから選択され, 前記ドーパントが電子受容体及び電子供与体を含み, aが1~9の範囲内にあり, bが1~5の範囲内にあり, x,x’及びx’’の合計が1~9の範囲内にあり, (a)量子効率が少なくとも20パーセントで,(b)スペクトル幅が半値全幅で100nmを超えず,(c)ピーク発光波長が近赤外域にあるフォトルミネセンスを示す発光材料。 ・・・(中略)・・・ 【請求項13】 その中にドーパントが分散しているペロフスカイトを基礎とする微細構造を有する,請求項1に記載の発光材料。 【請求項14】 発光材料を形成する方法であって, 第IA族の元素のうちの少なくとも1つから選択されるAと,第VIIB族の元素のうちの少なくとも1つから選択されるXとの原料を設けること, 第IIIB族の元素,第IVB族の元素及び第VB族の元素のうちの少なくとも1つから選択されるBの原料を設けること, 前記A及びXの原料と前記Bの原料とを反応させて,aが1~9の範囲内にあり,bが1~5の範囲内にあり,xが1~9の範囲内ある式[AaBbXx]を有する発光材料を形成すること を含む方法。」 イ 「【0002】 [発明の分野] [0002]本発明は一般に,発光材料に関する。より詳細には,本発明は,可視域又は近赤外域の光を放出する発光材料に,また偽造防止用途,在庫品用途,発電用途及び他の用途におけるこのような材料の使用に関する。 【0003】 [発明の背景] [0003]認証又は識別しようとする物体に,物体自体の一部であっても,又は物体に結合していてもよい特定のマーキングを設けることがある。例えば,一般的に使用されるマーキングはバーコードであり,このバーコードは,物体に直接又は物体と結合しているラベルに印刷されたエレメントの線状アレイを備える。・・・(中略)・・・バーコードは物体の場所又は身元を追跡するために有用ではあるが,これらのマーキングは容易に複製することができ,したがって,偽造防止の点では有効性が限られている。 【0004】 [0004]こうした背景の下,本明細書中に記載されている発光材料を開発する必要性が生じた。 【0005】 [発明の概要] [0005]一態様において,本発明は発光材料に関する。一実施形態において,この発光材料は式[AaBbXxX’x’X’’x’’][ドーパント]を有する。式中,Aが,第IA族の元素のうちの少なくとも1つから選択され,Bが,第VA族の元素,第IB族の元素,第IIB族の元素,第IIIB族の元素,第IVB族の元素,及び第VB族の元素のうちの少なくとも1つから選択され,X,X’及びX’’が独立に,第VIIB族の元素のうちの少なくとも1つから選択され,ドーパントが電子受容体及び電子供与体を含み,aが1~9の範囲内にあり,bが1~5の範囲内にあり,x,x’及びx’’の合計が1~9の範囲内にある。この発光材料は,(a)量子効率が少なくとも20パーセントで,(b)スペクトル幅が半値全幅で100nmを超えず,(c)ピーク発光波長が近赤外域にあるフォトルミネセンスを示す。 【0006】 [0006]これとは別の態様において,本発明は,発光材料を形成する方法に関する。一実施形態において,この方法は,第IA族の元素のうちの少なくとも1つから選択されるAと,第VIIB族の元素のうちの少なくとも1つから選択されるXとの原料(source)を設けることを含む。この方法はまた,第IIIB族の元素,第IVB族の元素及び第VB族の元素のうちの少なくとも1つから選択されるBの原料を設けることも含む。この方法はさらに,前記A及びXの原料と前記Bの原料とを反応させて,aが1~9の範囲内にあり,bが1~5の範囲内にあり,xが1~9の範囲内ある式[AaBbXx]の発光材料を形成することを含む。 【0007】 [0007]本発明の様々な実施形態による発光材料は,多くの所望の特性を示すことができる。一部の諸実施形態において,これらの発光材料は,量子効率が高く,スペクトル幅が狭く,ピーク発光波長が可視域や近赤外域など所望の波長域内にあるフォトルミネセンスを示すことができる。また,これらのフォトルミネセンス特性は,広範な励起波長域にわたって比較的非感受性であることがある。これらの発光材料は,それらのバンドギャップエネルギーや電気伝導率に関してなど,他の望ましい特性を有することができる。有利には,偽造防止用途,在庫品用途,発電用途及び他の用途で使用するために,これらの発光材料を容易に加工することができる。例えば,これらの発光材料を使用して,複製が困難なセキュリティマーキングを形成することができ,したがって,これらの発光材料を偽造防止用途において有利に使用することができる。別の例として,これらの発光材料を使用して,識別マーキングを形成することができ,したがって,これらの発光材料を在庫品用途において有利に使用することができる。」 ウ 「【0018】 [0033]本明細書中で使用する用語「ルミネセンス」,「ルミネセンスを示す」及び「ルミネセンスの」は,エネルギー励起に応じた光の放出を指す。ルミネセンスは,原子又は分子の励起電子状態からの緩和に基づいて発生させることができ,ルミネセンスには,例えば,化学ルミネセンス,エレクトロルミネセンス,フォトルミネセンス,熱ルミネセンス,摩擦ルミネセンス及びこれらの組合せが含まれる。例えば,エレクトロルミネセンスの場合には,電気的励起に基づいて励起電子状態をもたらすことができる。蛍光及び燐光を含むことができるフォトルミネセンスの場合には,光の吸収などの光励起に基づいて励起電子状態をもたらすことができる。一般に,ある材料へ入射する光及びその材料によって放出される光は,同一又は異なる波長を有することができる。」 エ 「【0040】 [0055]本発明の一部の実施形態によると,発光材料を形成するための一方法は,一組の成分を高収率で,また適度な温度及び圧力で発光材料に変換することを含む。この方法は,下記式により表すことができる。 【0041】 原料(B) + 原料(A,X) → 発光材料 (I) 【0042】 [0056]式(I)において,原料(B)はBの原料として働き,一部の例においては,原料(B)がドーパントの原料として働くこともできる。適切な酸化状態を有する元素から,それら元素の基底電子状態が満たされたs軌道を含み,また基底電子状態を(ns)2と表すことができるように,Bを選択することができる。Bの例には,バナジウム(例えば,V(III)又はV+3のような)など第VA族の元素,銅(例えば,Cu(I)又はCu+1のような),銀(例えば,Ag(I)又はAg+1のような),金(例えば,Au(I)又はAu+1のような)など第IB族の元素,亜鉛(例えば,Zn(II)又はZn+2のような),カドミウム(例えば,Cd(II)又はCd+2のような),水銀(例えば,Hg(II)又はHg+2のような)など第IIB族の元素,ガリウム(例えば,Ga(I)又はGa+1のような),インジウム(例えば,In(I)又はIn+1のような),タリウム(例えば,TI(I)又はTI+1のような)など第IIIB族の元素,ゲルマニウム(例えば,Ge(II)又はGe+2或いはGe(IV)又はGe+4),スズ(例えば,Sn(II)又はSn+2或いはSn(IV)又はSn+4),鉛(例えば,Pb(II)又はPb+2或いはPb(IV)又はPb+4)など第IVB族の元素,並びにビスマス(例えば,Bi(III)又はBi+3)など第VB族の元素が含まれる。 ・・・(中略)・・・ 【0044】 [0058]式(I)において,原料(A,X)はA及びXの原料として働くが,一部の例においては,原料(A,X)がドーパントの原料として働くこともできる。Aは,ナトリウム(例えば,Na(I)又はNa1+のような),カリウム(例えば,K(I)又はK1+のような),ルビジウム(例えば,Rb(I)又はRb1+のような),セシウム(例えば,Cs(I)又はCs1+のような)など,第IA族の元素から選択することができる金属である。一方Xは,フッ素(例えば,F-1のような),塩素(例えば,Cl-1のような),臭素(例えば,Br-1のような),ヨウ素(例えば,I-1のような)など,第VIIB族の元素から選択することができる。原料(A,X)の例には,AX型のハロゲン化アルカリが含まれる。Aがセシウムである場合,例えば,原料(A,X)は,フッ化セシウム(I)(すなわち,CsF),塩化セシウム(I)(すなわち,CsCl),臭化セシウム(I)(すなわち,CsBr),ヨウ化セシウム(I)(すなわち,CsI)など,1種又は複数種のハロゲン化セシウム(I)を含むことができる。混合ハロゲン化物を有する発光材料を結果として形成するために,異なる種類の原料(A,X)を使用する(例えば,X,X’及びX’’が独立に第VIIB族の元素から選択される原料(A,X),原料(A,X’)及び原料(A,X’’))ことが考えられる。」 オ 「【0061】 発光材料で形成されるナノ粒子 [0074]本発明の一部の実施形態による発光材料を,様々な製品を形成するために容易に加工することができ,さらにこれらの製品を,偽造防止用途,在庫品用途及び他の用途において使用することができる。例えば,これらの発光材料を,サブnm範囲,nm範囲,μm範囲など,ある範囲のサイズを有する粒子を形成するために容易に加工することができる。粒子を形成するための方法には,ボールミル粉砕,ジャー粉砕(jar milling),超音波処理,或いは他の任意の適切な磨砕(grinding)又は粉化(powdering)技法が含まれる。以下にさらに説明するように,粒子はそれぞれ,任意の適切なコーティング又はカプセル化技法を用いて形成することができる外層を備えることができる。得られた粒子は,それらの形状及びサイズに関して単分散であっても多分散であってもよい。 【0062】 [0075]一部の偽装防止及び在庫品用途向けに,発光材料を加工して,下位nm範囲,中間nm範囲,上位nm範囲など,nm範囲のサイズを有する粒子を形成することができる。得られた粒子は,それらの形状及びサイズのいずれか又は両方に関して単分散であってもよい。ナノ粒子のこのような特性は,インク組成物へのナノ粒子の取り込みを容易にするために望ましく,さらに,このインク組成物を使用して物体用のマーキングを形成することができる。特に,このような特性により,組成物内でナノ粒子の十分な分散が可能となることがあり,また標準的なコーティング又は印刷技法を用いてこの組成物を容易に塗布することが可能となることがある。加えて,得られたマーキング内の粒子の存在は,マーキングが偽造防止用途向けに目立たないマーキングとして働くことができるように,比較的目立たなくてもよい。 ・・・(中略)・・・ 【0066】 偽造防止用途及び在庫品用途向けのマーキング [0079]本発明の一部の実施形態は,偽造防止用途及び在庫品用途への発光材料の使用に関する。特に,発光材料で形成されたナノ粒子を使用して,物体用のマーキングを形成することができる。これらのマーキングは,複製が困難なセキュリティマーキングとして働くことができ,したがって,偽造防止用途において有利に使用することができる。例えば,これらのマーキングを使用して,それらのマーキングを有する物体が本物又は正本であるかどうか検証することができる。或いは,又は加えて,これらのマーキングは識別マーキングとして働くことができ,したがって,在庫品用途において有利に使用することができる。例えば,これらのマーキングを使用して,在庫品管理の一環としてそれらのマーキングを有する物体の身元又は場所を追跡することができる。 ・・・(中略)・・・ 【0070】 マーキングの形成 [0083]様々な方法を使用して,本明細書中に記載されているマーキングを形成することができる。一部の例においては,コーティング,インク又はワニス組成物を,その中に分散している一組のナノ粒子を含むように形成することができる。この組成物は,以下の成分,溶媒,分散剤(例えば,カップリング剤),湿潤剤(例えば,ドデシル硫酸ナトリウム,高分子界面活性剤,他の任意の適切なイオン性又は非イオン性界面活性剤などの界面活性剤),ポリマー結合剤(又は他のビヒクル),消泡剤,防腐剤,安定剤及びpH調整剤のうちの1つ又は複数と共に,顔料(pigment)としてナノ粒子を含むことができる。次に,コーティング又は印刷技法を使用して,基板として働く関心のある物体(或いは,この関心のある物体と結合している又はこの関心のある物体を取り囲む別の物体)上にこの組成物を塗布した。したがって,例えば,ローラコーティング又はスプレーコーティングなど,標準的なコーティング技法を用いて,或いはインクジェット印刷,オフセット印刷,グラビア印刷,フレキソ印刷,凹版印刷,スクリーン印刷など,標準的な印刷技法を用いてマーキングを形成することができる。標準的なコーティング又は印刷技法を用いると,空間的パターン内にランダムなアレイとしてナノ粒子を堆積させることができ,これにより画像を素早く適合させることが可能となる。」 カ 「【0104】 実施例20 インク組成物の形成 [00115]ポリエチレンとドコサンとの溶融混合物を調製し,ポリエチレン対ドコサンの重量比を2対1とした。この溶融混合物に,発光材料で形成されたナノ粒子を添加し,溶融混合物に対するナノ粒子の比率を,溶融混合物2重量部当たりナノ粒子1重量部など,1,000重量部当たり1重量部から最大等重量部の範囲内とした。次いで,得られたインク組成物を,標準的なコーティング又は印刷技法を用いて1枚の紙に塗布した。」 (2)甲1に記載された発明 ア 前記(1)アないしカで摘記した甲1の記載から,請求項13に係る発明の発光材料を用いた実施例20に係る紙(以下,便宜上,マーキングを形成した紙を「マーキング紙」という。)であって,偽造防止用途向けに用いられるマーキング紙を把握することができるところ,当該発明の構成は次のとおりである。(参考までに,各構成の末尾に,認定の根拠とした記載箇所を括弧書きで示す。) 「ポリエチレンとドコサンの重量比2対1の溶融混合物に,発光材料で形成されたナノ粒子を,溶融混合物1,000重量部当たり1重量部から最大等重量部の範囲内で添加して得られたインク組成物を,標準的なコーティング又は印刷技法を用いて1枚の紙に塗布して得られるマーキング紙であって(【0104】), 前記発光材料は,下記[発光材料の式]を有し,(a)量子効率が少なくとも20パーセントで,(b)スペクトル幅が半値全幅で100nmを超えず,(c)ピーク発光波長が近赤外域にあるフォトルミネセンスを示し(請求項1),その中にドーパントが分散しているペロフスカイトを基礎とする微細構造を有する(請求項13), 偽造防止用途向けのマーキング紙(【0002】,【0062】)。 [発光材料の式] [AaBbXxX’x’X’’x’’][ドーパント] 式中, Aが,第IA族の元素のうちの少なくとも1つから選択され, Bが,第VA族の元素,第IB族の元素,第IIB族の元素,第IIIB族の元素,第IVB族の元素,及び第VB族の元素のうちの少なくとも1つから選択され, X,X’及びX’’が独立に,第VIIB族の元素のうちの少なくとも1つから選択され, 前記ドーパントが電子受容体及び電子供与体を含み, aが1~9の範囲内にあり, bが1~5の範囲内にあり, x,x’及びx’’の合計が1~9の範囲内にある。」(以下,「甲1発明」という。) イ なお,申立人は,特許異議申立書において,甲1には,ナノ粒子が,AMX3構造における一価カチオンAがCH3NH3+の有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトCH3NH3PbBr3を含むことが記載されている旨主張するが,甲1には,有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトCH3NH3PbBr3について,記載も示唆もされていない。 このことは,甲1の請求項1に, 「[AaBbXxX’x’X’’x’’][ドーパント] 式中, Aが,第IA族の元素のうちの少なくとも1つから選択され,」 なる発明特定事項が,請求項14に, 「第IA族の元素のうちの少なくとも1つから選択されるAと,第VIIB族の元素のうちの少なくとも1つから選択されるX・・・(中略)・・・第IIIB族の元素,第IVB族の元素及び第VB族の元素のうちの少なくとも1つから選択されるB・・・(中略)・・・aが1~9の範囲内にあり,bが1~5の範囲内にあり,xが1~9の範囲内ある式[AaBbXx]を有する発光材料」 なる発明特定事項が記載され,残余の請求項2ないし13及び15ないし21が,それぞれ請求項1及び14の記載を引用する形式で記載されていて,甲1の各請求項に係る発明が,一価カチオンAとして第IA族の元素を用いることを必須としていることからも明らかである。 したがって,申立人の前記主張は,採用できない。 2 甲6 (1)甲6の記載 甲6は,本件優先日前に頒布された刊行物であるところ,当該甲6には,次の記載がある。(下線は,後述する甲6発明の構成に特に関連する箇所を示すために付したものである。) ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 透明電極と背面電極との間に発光層が介在するEL素子であって,前記発光層が下記一般式(1)若しくは(2)に示す有機無機混成ペロブスカイト化合物,または下記一般式(3)に示す無機ペロブスカイト化合物の少なくとも一種を被膜形成または吸着させた多孔質微粒子で構成されていることを特徴とする分散型無機EL素子。 CH3NH3M1X3 (1) (式中,M1は,2価の金属イオンであり,Xは,F,Cl,Br,Iである。) (R1NH3)2M1X4 (2) (式中,R1は炭素数2以上のアルキル基,アルケニル基,アラルキル基,アリール基,複素環基または芳香族複素環基であり,M1は,2価の金属イオンであり,Xは,F,Cl,Br,Iである。) CsM2X3 (3) (式中,M2は,2価の金属イオンであり,Xは,F,Cl,Br,Iである。) 【請求項2】 前記多孔質微粒子表面に形成された被膜または吸着体が,上記一般式(1)若しくは(2)に示す有機無機混成ペロブスカイト化合物,または上記一般式(3)に示す無機ペロブスカイト化合物を構成し得る前駆体を含む溶液を用いて形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載した分散型無機EL素子。 ・・・(中略)・・・ 【請求項4】 前記前駆体を含む溶液が,界面活性剤または高分子バインダーをさらに含むことを特徴とする請求項1及至請求項3に記載した分散型無機EL素子。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本願発明は,発光層に有機無機混成ペロブスカイト化合物を用いた電界励起型の分散型無機EL素子に関する。 【背景技術】 【0002】 電界発光素子(以下,「EL素子」という。)は,電場の印加により物質が発光する現象を利用する素子である。・・・(中略)・・・EL素子には発光層を蒸着等の手段で数μmの薄膜として形成する薄膜型EL素子と,発光層をスクリーン印刷や塗布により数10μmの被膜として形成する分散型EL素子がある。 【0003】 分散型EL素子は,製造設備が簡単で,連続生産に適しており,フィルム状光源として液晶表示装置のバックライトとして応用が広がり,液晶表示装置の飛躍的発展に伴い需要を伸ばしている。そして,分散型LE素子は,発光材料として無機材料を使用する分散型無機EL素子が一般的であり,発光層として硫化亜鉛を使用したものが開示されている(特許文献1)。しかしながら,発光輝度,発光効率の点で有機ELやLEDと比較して十分ではない。発光輝度,発光効率を高めるため,バインダー中に蛍光体粉末および強誘電体超微粒子を分散した発光層とバインダー中に誘電体微粉末を分散した誘電層を積層して構成される分散型無機EL素子が開示されている(特許文献2,3)。 【0004】 蛍光体のエネルギー利用効率を向上させるため,蛍光体粒子表面に銀粒子等をスパッタ法で付着する方法が開示されている(特許文献4)。発光性物質を発光性のない多孔質基材表面こ担持する本願発明とは異なる。 【0005】 発光層を構成する素材として,層状ペロブスカイト化合物を用いたEL素子が開示されている(特許文献5,6)。キャリア注入型の発光素子であり,電界励起型である本願発明とは発光原理が異なる。また,非特許文献1にも,有機無機混成ペロブスカイト化合物を用いた発光方法が記載されている。これも,外部からUV光を照射した場合に,可視光を発光するものであり,電界励起型である本願発明とは発光原理が異なる。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本願発明は,絶縁性多孔質微粒子表面上に,発光体である有機無機ペロブスカイト化合物を,溶液を用いた自己組織化により形成することにより,簡易に発光層の形成が可能な電界励起型分散無機EL素子を提供することも目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本願発明の課題は,以下の態様により解決することができる。 【0010】 (態様1) 透明電極と背面電極との間に発光層が介在するEL素子であって,前記発光層が下記一般式(1)若しくは(2)に示す有機無機混成ペロブスカイト化合物,または下記一般式(3)に示す無機ペロブスカイト化合物の少なくとも一種を被膜形成または吸着させた多孔質微粒子で構成されていることを特徴とする分散型無機EL素子である。 CH3NH3M1X3 (1) (式中,M1は,2価の金属イオンであり,Xは,F,Cl,Br,Iである。) (R1NH3)2M1X4 (2) (式中,R1は炭素数2以上のアルキル基,アルケニル基,アラルキル基,アリール基,複素環基または芳香族複素環基であり,M1は,2価の金属イオンであり,Xは,F,Cl,Br,Iである。) CsM2X3 (3) (式中,M2は,2価の金属イオンであり,Xは,F,Cl,Br,Iである。) ・・・(中略)・・・ 【発明の効果】 【0015】 本願発明によって,製造方法が簡易で,かつ発光効率の高い電界励起型無機EL素子を提供することができる。」 ウ 「【0051】 (7)バインダー バインダーとしては,導電性塗料に使用されている各種の有機および無機バインダー,すなわち透明な有機または無機ポリマーまたはその前駆体が使用できる。 【0052】 有機バインダーは熱可塑性,熱硬化性,あるいは紫外線,電子線などの放射線硬化性のいずれであってもよい。適当な有機バインダーの例としては,ポリオレフィン系(ポリエチレン,ポリプロピレン等),ポリアミド系(ナイロン6,ナイロン11,ナイロン66,ナイロン6,10等),ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等),シリコーン系ポリマー,ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル,ポリ塩化ビニリデン,ポリアクリロニトリル,ポリアクリレート,ポリスチレン誘導体,ポリ酢酸ビニル,ポリビニルアルコール等),ポリケトン,ポリイミド,ポリカーボネート,ポリスルホン,ポリアセタール,フッ素樹脂,フェノール樹脂,尿素樹脂,メラニン樹脂,エポキシ樹脂,ポリウレタン,セルロース系ポリマー,蛋白質類(ゼラチン,カゼイン等),キチン,ポリペプチド,多糖類,ポリヌクレオチドなど有機ポリマー,ならびこれらのポリマーの前駆体(モノマー,オリゴマー)がある。これらは単に溶剤の蒸発により,あるいは熱硬化または光もしくは放射線照射による硬化により有機ポリマー系透明被膜(マトリックス)を形成することができる。 【0053】 有機ポリマー系バインダーとして好ましいのは,放射線もしくは光によりラジカル重合硬化可能な不飽和結合を有する化合物であり,これはビニル基ないしビニリデン基を有するモノマー,オリゴマー,あるいはポリマーである。この種のモノマーとしてはスチレン誘導体(スチレン,メチルスチレン等),アクリル酸もしくはメタクリル酸またはそれらの誘導体(アルキルアクリートもしくはメタクリレート,アリルアクリレートもしくはメタクリレート等),酢酸ビニル,アクリロニトリル,イタコン酸等がある。オリゴマーあるいはポリマーは,主鎖に二重結合を有する化合物または直鎖の両末端にアクリロイルもしくはメタクリロイル基を有する化合物が好ましい。この種のラジカル重合硬化性バインダーは,高硬度で耐擦過性に優れ,透明度の高い導電フィルム膜を形成することができる。」 (2)甲6に記載された発明 前記(1)アないしウで摘記した甲6の記載から,多孔質微粒子に被膜形成又は吸着させる材質として一般式(1)に示す有機無機混成ペロブスカイト化合物を用い,前駆体を含む溶液がさらに含むのが高分子バインダーである,請求項2の記載を引用する請求項4に係る分散型無機EL素子の発明を把握することができるところ,当該発明の構成は次のとおりである。(参考までに,各構成の末尾に,認定の根拠とした記載箇所を括弧書きで示す。) 「透明電極と背面電極との間に発光層が介在するEL素子であって,前記発光層が下記一般式(1)に示す有機無機混成ペロブスカイト化合物を被膜形成または吸着させた多孔質微粒子で構成され(請求項1), 前記多孔質微粒子表面に形成された被膜または吸着体が,上記一般式(1)に示す有機無機混成ペロブスカイト化合物を構成し得る前駆体と,高分子バインダーを含む溶液を用いて形成されたものである(請求項2,請求項4), 分散型無機EL素子。 CH3NH3M1X3 (1) (式中,M1は,2価の金属イオンであり,Xは,F,Cl,Br,Iである。)(請求項1)」(以下,「甲6発明」という。) 第5 判断 1 申立理由1(新規性欠如)及び申立理由2(進歩性欠如)について (1)甲1を主引用例とする新規性及び進歩性の有無について ア 本件特許発明1に対して (ア)対比 a ポリエチレン及びドコサンはいずれも「絶縁性ポリマー」であるから,甲1発明のインク組成物の層(以下,便宜上「インク層」という。)中のポリエチレン及びドコサンを「絶縁材料のマトリクス」又は「絶縁材料のブレンド」ということができる。 また,甲1発明の発光材料は,その中にドーパントが分散しているペロフスカイトを基礎とする微細構造を有するから,前記発光材料で形成されたナノ粒子を「ペロブスカイトナノ粒子」ということができる。 また,甲1発明の発光材料は,[AaBbXxX’x’X’’x’’][ドーパント]で表される材料であり,式中のAが,第IA族(甲1の【0042】,【0044】等の記載からみて旧IUPAC方式の名称であり,現行IUPAC方式では第1族すなわちアルカリ金属と認められる。)の元素のうちの少なくとも1つから選択され,Bが,第VA族(現行IUPAC方式では第5族すなわちバナジウム族と認められる。)の元素,第IB族(現行IUPAC方式では第11族すなわち銅族と認められる。)の元素,第IIB族(現行IUPAC方式では第12族すなわち亜鉛族と認められる。)の元素,第IIIB族(現行IUPAC方式では第13族すなわちホウ素族と認められる。)の元素,第IVB族(現行IUPAC方式では第14族すなわち炭素族と認められる。)の元素,及び第VB族(現行IUPAC方式では第15族すなわち窒素族と認められる。)の元素のうちの少なくとも1つから選択され,X,X’及びX’’が独立に,第VIIB族(現行IUPAC方式では第17族すなわちハロゲンと認められる。)の元素のうちの少なくとも1つから選択されるから,Aを一価カチオンと,Xをハライドアニオンということができ,甲1発明の発光材料で形成されたナノ粒子を,AaMmXx構造を有し,Aが一価カチオンであり,Xがハライドアニオンである,ハロゲン化物ペロブスカイトということができる。 したがって,甲1発明は,「絶縁材料のマトリクス又はブレンド中に埋め込まれたペロブスカイトナノ粒子の層を含み,絶縁材料が,絶縁性ポリマー又は絶縁性有機分子を含み,前記ペロブスカイトナノ粒子が,AaMmXx構造を有し,Aが一価カチオンであり,かつ,Xがハライドアニオンである,金属ハロゲン化物ペロブスカイトを含」む点で,本件特許発明1と一致する。 b 本件特許発明1の「発光リン光体」とは,本件特許明細書の【0001】に「本発明は,固体発光素子,及び特にペロブスカイト系発光ダイオード,ペロブスカイト系発光リン光体,及び関連する製造方法に関する。」と記載されており,発光ダイオードと発光リン光体を区別して用いていること,【0064】に「本出願人は,半導体性ペロブスカイト前駆体を,半導体性ペロブスカイトナノ粒子より広いバンドギャップを有する材料,好ましくはアルミナとブレンドし,それらを膜(フィルム)へと堆積させることが,そのペロブスカイトのフォトルミネッセンス効率を高めることを発見している。」と記載されており,フォトルミネッセンスの効率について言及していること,【0084】ないし【0086】,図6には,ペロブスカイト前駆体をアルミナとブレンドして膜へと堆積させた発光リン光体において,アルミナナノ粒子とペロブスカイトの比を変えることによって,又は異なるペロブスカイト物質を用いることによって,フォトルミネッセンスのピーク波長を調節できることが説明されていること,本件特許の審査過程において,特許権者が,「もとより,本願発明におきましては,本願新請求項1の「発光リン光体」が発光ダイオード(LED)とは相違することを意図しております。本願新請求項1に係る発光リン光体では,光はフォトルミネッセンス(PL)によって発生します。これは,光によってリン光体が励起されると,電子と正孔との対が形成され,この対の再結合によって光が発生するものです。」等と主張していること等からみて,フォトルミネッセンスを発光原理とする発光層を有する物を意味していると解するのが相当である。 ここで,甲1発明のマーキング紙は,インク層中のナノ粒子を形成する発光材料のフォトルミネッセンスを利用して,偽造防止用途向けに用いられるのであるから,本件特許発明1の「発光リン光体」に相当する。 c 前記a及びbに照らせば,本件特許発明1と甲1発明は, 「絶縁材料のマトリクス又はブレンド中に埋め込まれたペロブスカイトナノ粒子の層を含み,絶縁材料が,絶縁性ポリマー又は絶縁性有機分子を含み,前記ペロブスカイトナノ粒子が,AaMmXx構造を有し,Aが一価カチオンであり,かつ,Xがハライドアニオンである,金属ハロゲン化物ペロブスカイトを含む,発光リン光体。」 である点で一致し,次の点で相違する。 相違点1: 本件特許発明1のペロブスカイトナノ粒子が,半導体性ペロブスカイトナノ粒子であるのに対して, 甲1発明の発光材料で形成されたナノ粒子は,ペロブスカイトナノ粒子であるものの,半導体性ペロブスカイトナノ粒子であるものに特定されていない点。 相違点2: 本件特許発明1のペロブスカイトナノ粒子が,AMX3構造を有し,Mが二価カチオンであるのに対して, 甲1発明の発光材料で形成されたナノ粒子は,AMX3構造を有し,Mが二価カチオンであるものに特定されてはいない点。 相違点3: 本件特許発明1のペロブスカイトナノ粒子が,有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトを含むのに対して, 甲1発明の発光材料で形成されたナノ粒子は,有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトを含んでいない点。 相違点4: 本件特許発明1の一価カチオンAが, ・一級,二級,又は三級のアンモニウムカチオン[HNR1R2R3]+(式中,R1,R2,及びR3のそれぞれが同じであるか異なり,水素,非置換又は置換C1~C20アルキル基,及び非置換又は置換C5~C18アリール基から選択される)であり,且つ/または ・式:[R1R2N-CH=NR3R4]+: 【化1】 [図:0001395251000006.jpg] (式中,R1,R2,R3,及びR4のそれぞれは同じであるか異なり,水素,非置換又は置換C1~C20アルキル基,及び非置換又は置換C5~C18アリール基から選択される)のものであり,且つ/または ・式:(R1R2N)(R3R4N)C=NR5R6: 【化2】 [図:0001395251000007.jpg] (式中,R1,R2,R3,R4,R5,及びR6のそれぞれは同じであるか異なり,水素,非置換又は置換C1~C20アルキル基,及び非置換又は置換C5~C18アリール基から選択される)のものであり,且つ/または ・セシウム(Cs+)又はルビジウム(Rb+)を含むアルカリ金属カチオンである のに対して, 甲1発明の一価カチオンAは,第IA族の元素であるものの,セシウム又はルビジウムに特定されてはいない点。 (イ)新規性の有無について 前記(ア)cで述べた相違点のうち,少なくとも,相違点3は,実質的な相違点である。 そして,本件特許発明1と甲1発明との間に実質的な相違点が存在する以上,本件特許発明1は,甲1発明ではない。 (ウ)進歩性の有無について 事案に鑑みて,まず,相違点3について判断する。 甲1の【0003】,【0004】の記載(前記第4 1(1)イを参照。)からみて,甲1発明が解決しようとする課題は,バーコードは,物体の場所又は身元を追跡するためには有用であるが,容易に複製することができるため,偽造防止の点では有効性が限られていたことにあると解される。 また,甲1の【0005】ないし【0007】の記載(前記第4 1(1)イを参照。)から,式[AaBbXxX’x’X’’x’’][ドーパント]を有する発光材料(式中,Aが,第IA族の元素のうちの少なくとも1つから選択され,Bが,第VA族の元素,第IB族の元素,第IIB族の元素,第IIIB族の元素,第IVB族の元素,及び第VB族の元素のうちの少なくとも1つから選択され,X,X’及びX’’が独立に,第VIIB族の元素のうちの少なくとも1つから選択され,ドーパントが電子受容体及び電子供与体を含み,aが1~9の範囲内にあり,bが1~5の範囲内にあり,x,x’及びx’’の合計が1~9の範囲内にある。)は,量子効率が高く,スペクトル幅が狭く,ピーク発光波長が可視域や近赤外域など所望の波長域内にあるフォトルミネセンスを示すこと,広範な励起波長域にわたって比較的非感受性であること,及び,それらのバンドギャップエネルギーや電気伝導率に関してなど,他の望ましい特性を有することから,複製が困難なセキュリティマーキングを形成することができるため,偽造防止用途において有利に使用できる発光材料であることが,理解される。 したがって,甲1発明において,式[AaBbXxX’x’X’’x’’][ドーパント]を有する発光材料を用いることは,課題を解決するために必須の構成と解されるから,甲1発明において,当業者が,A,B,Xの少なくともいずれかとして有機化合物のカチオン又はアニオンを採用して,半導体性ペロブスカイトナノ粒子が有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトを含むような構成に変更しようとすることはない。 また,甲9には,有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトであるCH3NH3PbBr3のナノ粒子の調製方法や,当該ナノ粒子が均質な薄膜の調製を可能にすること等が記載されているものの,申立人が提出した他の証拠を含めて,当該材質のナノ粒子が,偽造防止用途において,甲1に記載された式[AaBbXxX’x’X’’x’’][ドーパント]を有する発光材料よりも,有利な特性を有することが示された証拠は見当たらないから,たとえ甲9の記載に接したとしても,当業者が,甲1発明において,発光材料として,CsSnBr2I,CsSnCl2I,CsSnF2I又はCsSnI3に代えて,CH3NH3PbBr3を採用しようとすることはないというべきである。 以上のとおりであるから,甲1発明において,相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項に相当する構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことではない。 イ 本件特許発明2ないし14に対して 本件特許の請求項2ないし14は,請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであり,本件特許発明2ないし14は,いずれも,本件特許発明1の発明特定事項を全て具備し,これに限定事項を付加したものに該当する。 そして,前記ア(イ)及び(ウ)で述べたとおり,本件特許発明1が甲1発明でなく,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上,本件特許発明2ないし14も甲1発明ではなく,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものでもない。 ウ 小括 以上のとおりであるから,甲1を主引用例とする申立理由1(新規性欠如)及び申立理由2(進歩性欠如)によって,本件特許発明1ないし14の特許を取り消すことはできない。 (2)甲6を主引用例とする新規性及び進歩性の有無について ア 本件特許発明1に対して (ア)対比 a 甲6発明の高分子バインダーは,本件特許発明1の「マトリクス又はブレンド」に対応し,その材料には,ポリマーが含まれているといえる。 また,甲1発明の「一般式(1)に示す有機無機混成ペロブスカイト化合物」は,一般式(1)が示す構造からみて,半導体性ペロブスカイトであり,有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトでもある。 そして,甲6発明の「有機無機混成ペロブスカイト化合物を被膜形成または吸着させた多孔質微粒子」は,その一部が,一般式(1)CH3NH3M1X3に示す半導体性ペロブスカイト(有機無機混成ペロブスカイト化合物)であるから,「マトリクス又はブレンド中に埋め込まれた少なくとも一部が半導体性ペロブスカイトで形成された粒子」である点で,本件特許発明1の「導体性ペロブスカイトナノ粒子」と一致し,多孔質微粒子で構成された甲6発明の「発光層」は,本件特許発明1の「マトリクス又はブレンド中に埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子の層」は,「マトリクス又はブレンド中に埋め込まれた,少なくとも一部が半導体性ペロブスカイトで形成された粒子の層」である点で一致する。 以上によれば,本件特許発明1と甲6発明は,「マトリクス又はブレンド中に埋め込まれた,少なくとも一部が半導体性ペロブスカイトで形成された粒子の層を含」む点で一致する。 b 甲6発明のマトリクス又はブレンドの材料は,一般式(1)CH3NH3M1X3に示す有機無機混成ペロブスカイト化合物を構成し得る前駆体と,高分子バインダーを含む溶液を用いて形成されたものであるところ,一般式(1)CH3NH3M1X3に示す有機無機混成ペロブスカイト化合物は,AMX3構造を有し,Aが一価カチオンであるCH3NH3+であり,Mが二価カチオンである2価の金属イオンであり,かつ,XがハライドアニオンであるF+,Cl+,Br+又はI+である有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトでもあるから,甲6発明の「一般式(1)に示す有機無機混成ペロブスカイト化合物」は,「AMX3構造を有し,Aが一価カチオンであり,Mが二価カチオンであり,かつ,Xがハライドアニオンである,有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトを含」む点で,本件特許発明1と一致する。 c 甲6発明の「有機無機混成ペロブスカイト化合物」における一価カチオンAは,CH3NH3+であるから,R1及びR2を水素とし,R3を非置換のC1アルキル基(メチル基)としたときの「一級アンモニウムカチオン[HNR1R2R3]+」に該当する。 したがって,甲6発明は, 「一価カチオンAが, ・一級,二級,又は三級のアンモニウムカチオン[HNR1R2R3]+(式中,R1,R2,及びR3のそれぞれが同じであるか異なり,水素,非置換又は置換C1~C20アルキル基,及び非置換又は置換C5~C18アリール基から選択される)であり,且つ/または ・式:[R1R2N-CH=NR3R4]+: 【化1】 [図:0001395251000008.jpg] (式中,R1,R2,R3,及びR4のそれぞれは同じであるか異なり,水素,非置換又は置換C1~C20アルキル基,及び非置換又は置換C5~C18アリール基から選択される)のものであり,且つ/または ・式:(R1R2N)(R3R4N)C=NR5R6: 【化2】 [図:0001395251000009.jpg] (式中,R1,R2,R3,R4,R5,及びR6のそれぞれは同じであるか異なり,水素,非置換又は置換C1~C20アルキル基,及び非置換又は置換C5~C18アリール基から選択される)のものであり,且つ/または ・セシウム(Cs+)又はルビジウム(Rb+)を含むアルカリ金属カチオンである」 点で,本件特許発明1と一致する。 d 本件特許発明1の「発光リン光体」と,甲6発明の「分散型無機EL素子」は,「発光体」である点で一致する。 e 前記aないしdに照らせば,本件特許発明1と甲6発明は, 「マトリクス又はブレンド中に埋め込まれた,少なくとも一部が半導体性ペロブスカイトで形成された粒子の層を含み,前記マトリクス又はブレンドの材料が,ポリマー又は有機分子を含み,前記少なくとも一部が半導体性ペロブスカイトで形成された粒子が,AMX3構造を有し,Aが一価カチオンであり,Mが二価カチオンであり,かつ,Xがハライドアニオンである,有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトを含み, 前記一価カチオンAが, ・一級,二級,又は三級のアンモニウムカチオン[HNR1R2R3]+(式中,R1,R2,及びR3のそれぞれが同じであるか異なり,水素,非置換又は置換C1~C20アルキル基,及び非置換又は置換C5~C18アリール基から選択される)であり,且つ/または ・式:[R1R2N-CH=NR3R4]+: 【化1】 [図:0001395251000010.jpg] (式中,R1,R2,R3,及びR4のそれぞれは同じであるか異なり,水素,非置換又は置換C1~C20アルキル基,及び非置換又は置換C5~C18アリール基から選択される)のものであり,且つ/または ・式:(R1R2N)(R3R4N)C=NR5R6: 【化2】 [図:0001395251000011.jpg] (式中,R1,R2,R3,R4,R5,及びR6のそれぞれは同じであるか異なり,水素,非置換又は置換C1~C20アルキル基,及び非置換又は置換C5~C18アリール基から選択される)のものであり,且つ/または ・セシウム(Cs+)又はルビジウム(Rb+)を含むアルカリ金属カチオンである,発光リン光体。」 で一致し,次の点で相違する。 相違点2-1: 本件特許発明1では,マトリックス又はブレンドとして,絶縁性ポリマー又は絶縁性有機分子を含む絶縁材料を用いているのに対して, 甲6発明では,高分子バインダーとして,絶縁性のものを用いることは特定されていない点。 相違点2-2: 本件特許発明1では,マトリクス又はブレンド中に埋め込まれた粒子が,半導体性ペロブスカイトナノ粒子であるのに対して, 甲6発明では,高分子バインダー中の粒子が,一般式(1)に示す有機無機混成ペロブスカイト化合物(半導体性ペロブスカイト化合物)を被膜形成または吸着させた多孔質微粒子である点。 相違点2-3: 本件特許発明1が,発光リン光体であるのに対して, 甲6発明が,分散型無機EL素子である点。 f なお,申立人は,甲6発明の分散型無機EL素子は,本件特許発明1の発光リン光体に相当する旨主張するが,前記第2で述べたように,「発光リン光体」とは,フォトルミネッセンスを発光原理とする発光層を有する物を意味していると解されるところ,「分散型無機EL素子」は,エレクトロルミネッセンスを発光原理とする発光層を有する素子であるから,「発光リン光体」には相当しない。 したがって,前記請求人の主張は採用できない。 (イ)新規性の有無について 前記(ア)dで述べた相違点2-1ないし相違点2-3のうち,少なくとも,相違点2-2及び相違点2-3は,実質的な相違点である。 そして,本件特許発明1と甲6発明との間に実質的な相違点が存在する以上,本件特許発明1は,甲6発明ではない。 (ウ)進歩性の有無について 事案に鑑みて,まず相違点2-3について判断する。 甲6発明は,エレクトロルミネッセンスを発光原理とする分散型無機EL素子の発明であるところ,当該分散型無機EL素子を,フォトルミネッセンスを発光原理とする発光リン光体として,構成し直すことは,たとえ当業者といえども容易に想到し得たこととはいえないし,そもそも,分散型無機EL素子を発光リン光体として構成することに動機付けが存在するとも認められない。 また,甲7には,AMX3構造(Aは有機アンモニウムイオン又はCs+,Mは2価の金属イオン,Xはハロゲンイオン)のペロブスカイト構造の有機金属ハロゲン化合物を含む光吸収体を備えた太陽電池について記載されているものの,当該甲7が存在するからといって,甲6発明において,分散型無機EL素子を,発光リン光体として構成し直すことが,当業者が容易に想到し得たということはできないし,そのように構成することに動機付けが存在するということもできない。申立人が提出した他の証拠についても同様である。 したがって,甲6発明において,相違点2-3に係る本件特許発明1の発明特定事項に相当する構成を採用することは,当業者といえども,容易に想到し得たことでない。 よって,相違点2-1及び相違点2-2について検討するまでもなく,本件特許発明1は,甲6発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件特許発明2ないし14に対して 本件特許の請求項2ないし14は,請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであり,本件特許発明2ないし14は,いずれも,本件特許発明1の発明特定事項を全て具備し,これに限定事項を付加したものに該当する。 そして,前記ア(イ)及び(ウ)で述べたとおり,本件特許発明1が甲6発明でなく,甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上,本件特許発明2ないし14も甲6発明ではなく,甲6発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものでもない。 ウ 小括 以上のとおりであるから,甲6を主引用例とする申立理由1(新規性欠如)及び申立理由2(進歩性欠如)によって,本件特許発明1ないし14の特許を取り消すことはできない。 2 申立理由3(サポート要件違反)について (1)請求項1ないし14に対して 申立人は,LEDと発光リン光体が全く異なるものであるとした場合,本件特許明細書には,実施例として「発光リン光体」を評価した例は記載されておらず,請求項1ないし14の記載は,サポート要件に違反する旨主張する。 そこで検討するに,本件特許明細書の発明の詳細な説明には, 「【発明が解決しようとする課題】 【0010】 したがって,膜中でのピンホールの形成のこの問題を克服する,半導体性ペロブスカイトナノ粒子膜を調製するための改善された方法を提供する必要がある。そのような膜の提供は,改善された固体発光素子及びその他の素子,例えば,太陽電池の製造を可能にし,そのような素子では半導体性ペロブスカイト膜が半導体として組み込まれることができる。そのような膜の発光特性も,それらの膜を発光性リン光体用途のために有用にしている。」 と記載されているところ,当該記載から,本件特許発明が解決しようとする課題は,発光リン光体として有用な半導体性ペロブスカイトナノ粒子膜を備える発光リン光体を提供することにあると解される。 そして,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,実施例の欄に,4,4-ビス(N-カルバゾリル)-1,1-ビフェニル(CBP)マトリクス中に埋め込まれたCH3NH3PbBr3ペロブスカイトナノ結晶の膜におけるフォトルミネッセンスのピーク波長が,ペロブスカイトの濃度が低下するにしたがって短波長側にシフトすること(【0078】,【0085】),CH3NH3PbBr3ペロブスカイトの濃度が低下するにつれて前記膜中に形成されるナノ結晶の径が小さくなること(【0079】),CH3NH3PbBr3ペロブスカイトナノ結晶が埋め込まれているマトリクスが異なると,フォトルミネッセンスのピーク波長等,発光スペクトルが異なるものとなること(【0080】,図5a,図5b),及び,CH3NH3PbBr2Iペロブスカイトナノ結晶のフォトルミネッセンスのピーク波長は,CH3NH3PbBr3ペロブスカイトナノ結晶のフォトルミネッセンスのピーク波長より長波長側にシフトすること,したがって,異なるペロブスカイト物質を用いることでピーク波長を調節できることが示されており,当該記載に接した当業者は,CH3NH3PbBr3やCH3NH3PbBr2Iと同じAMX3構造(Aが一価カチオン,Mが二価カチオン,Xがハライドアニオン)を有する有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトを含む半導体性ペロブスカイトナノ粒子であれば,CH3NH3PbBr3やCH3NH3PbBr2Iと同様のフォトルミネッセンス特性を示し,発光リン光体として有用であり,発明の課題を解決できるものと理解すると認められる。 そして,本件特許の請求項1には,AMX3構造(Aが一価カチオン,Mが二価カチオン,Xがハライドアニオン)を有する有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトを含む半導体性ペロブスカイトナノ粒子の層を有することが,発明特定事項として記載されており,請求項2ないし14は,当該請求項1の記載を引用する形式で記載されたものである。 そうすると,本件特許発明は,発明の詳細な説明の記載により,当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである,又は,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというべきであるから,本件特許の請求項1ないし14の記載は,サポート要件に適合する。 (2)請求項9に対して 申立人は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているのは,ペロブスカイト物質が,AMX3構造(A=CH3NH3,M=Pb,X=Br)を有するもののみであって,請求項9に記載されたA1-iBiMX3構造(A及びBが互いに異なる一価カチオン,Mが二価金属カチオン,Xがクロライド,ブロマイド,アイオダイド,及びフルオライドから選択されるハライドアニオン,iは0と1の間),AMX3-kYk構造(Aが一価カチオン,Mが二価カチオン,X及びYがクロライド,ブロマイド,アイオダイド,及びフルオライドから選択される互いに異なるハライドアニオン,kは0と1の間),AM1-jNjX3構造(Aが一価カチオン,M及びNが二価金属カチオン,Xがクロライド,ブロマイド,アイオダイド,及びフルオライドから選択されるハライドアニオン,jは0と1の間),A1-iBiM1-jNjX3-kYk構造(A及びBが互いに異なる一価カチオン,M及びNが二価金属カチオン,X及びYがクロライド,ブロマイド,アイオダイド,及びフルオライドから選択される互いに異なるハライドアニオン,iは0と1の間,jは0と1の間,kは0と1の間)のペロブスカイト物質が,本件特許発明の課題を解決できるのか不明であるから,請求項9の記載は,サポート要件に違反する旨主張する。 そこで検討するに,A1-iBiMX3構造(A及びBが互いに異なる一価カチオン,Mが二価金属カチオン,Xがクロライド,ブロマイド,アイオダイド,及びフルオライドから選択されるハライドアニオン,iは0と1の間)のペロブスカイト物質は,結晶構造のうち「(1-i)×100」%(個数ベース)がAMX3で表される部位であり,残余の「i×100」%(個数ベース)がBMX3で表される部位であって,AMX3及びBMX3はともにAMX3構造を有する有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトである。 そして,前記(1)で述べたように,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からは,当業者は,AMX3構造(Aが一価カチオン,Mが二価カチオン,Xがハライドアニオン)を有する有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトを含む半導体性ペロブスカイトナノ粒子であれば,発光リン光体として有用であり,発明の課題を解決できるものと理解すると認められるのであるから,絶縁材料のマトリクス又はブレンド中に埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子の層を含み,前記半導体性ペロブスカイトナノ粒子が,A1-iBiMX3構造(A及びBが互いに異なる一価カチオン,Mが二価金属カチオン,Xがクロライド,ブロマイド,アイオダイド,及びフルオライドから選択されるハライドアニオン,iは0と1の間)を有する有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトを含む半導体性ペロブスカイトナノ粒子の層を有する発光リン光体は,発明の課題を解決することができると当業者は理解するものと認められる。 また,AMX3-kYk構造(Aが一価カチオン,Mが二価カチオン,X及びYがクロライド,ブロマイド,アイオダイド,及びフルオライドから選択される互いに異なるハライドアニオン,kは0と1の間),AM1-jNjX3構造(Aが一価カチオン,M及びNが二価金属カチオン,Xがクロライド,ブロマイド,アイオダイド,及びフルオライドから選択されるハライドアニオン,jは0と1の間),A1-iBiM1-jNjX3-kYk構造(A及びBが互いに異なる一価カチオン,M及びNが二価金属カチオン,X及びYがクロライド,ブロマイド,アイオダイド,及びフルオライドから選択される互いに異なるハライドアニオン,iは0と1の間,jは0と1の間,kは0と1の間)を有する有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトについても,A1-iBiMX3構造(A及びBが互いに異なる一価カチオン,Mが二価金属カチオン,Xがクロライド,ブロマイド,アイオダイド,及びフルオライドから選択されるハライドアニオン,iは0と1の間)と同様に,結晶構造を構成するのは,AMX3,AMY3,ANX3,ANY3,BMX3,BMY3,BNX3,BNY3であって,これらはいずれもAMX3構造を有する有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトであるから,AMX3-kYk構造(Aが一価カチオン,Mが二価カチオン,X及びYがクロライド,ブロマイド,アイオダイド,及びフルオライドから選択される互いに異なるハライドアニオン,kは0と1の間),AM1-jNjX3構造(Aが一価カチオン,M及びNが二価金属カチオン,Xがクロライド,ブロマイド,アイオダイド,及びフルオライドから選択されるハライドアニオン,jは0と1の間),A1-iBiM1-jNjX3-kYk構造(A及びBが互いに異なる一価カチオン,M及びNが二価金属カチオン,X及びYがクロライド,ブロマイド,アイオダイド,及びフルオライドから選択される互いに異なるハライドアニオン,iは0と1の間,jは0と1の間,kは0と1の間)を有する有機金属ハロゲン化物ペロブスカイトを含む半導体性ペロブスカイトナノ粒子の層を有する発光リン光体は,発明の課題を解決することができると当業者は理解するものと認められる。 したがって,本件特許の請求項9の記載は,サポート要件に適合する。 (3)請求項11に対して 申立人は,半導体性ペロブスカイトナノ粒子:絶縁材料の質量比が,0.01:1~2:1,0.1:1~10:1,1:1~5:1,及び1:1~2:1を含む0.01:1~20:1であることによって,発明の課題を解決することができるか不明であるから,請求項11の記載がサポート要件に違反する旨主張する。 そこで検討するに,本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0078】には, 「図4aは,CBPマトリクス中のペロブスカイトナノ結晶を備えた試料(質量比を変えたもの)のフォトルミネッセンススペクトルを示している。特に,スペクトルは,4,4-ビス(N-カルバゾリル)-1,1-ビフェニル(CBP)マトリクス中に埋め込まれたCH3NH3PbBr3ペロブスカイトナノ結晶のフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを示している。試料は,測定時に407nmレーザーによって光学的に励起した。バルク(純粋な)のペロブスカイト薄膜のPLスペクトルは赤い曲線として示されている。発光のピークは,CBPマトリクス中のペロブスカイトの濃度(及び大きさ)が低下するにしたがって,より短い波長へとシフトする。」 と記載され,図4bには,CBP:Peの質量比が,Peのみ,1:1,3:1,4:1,10:1,15:1の場合のフォトルミネッセンスの発光スペクトルが示されており,当該図4bからは,CBPマトリックス中のペロブスカイト(Pe)の濃度が低下すると,ピーク波長が短波長側へシフトするものの,ピーク波長における光強度はさして変化しないことが看取される。 これらの事項から,当業者は,半導体性ペロブスカイトナノ粒子:絶縁材料の質量比が,0.01:1~20:1の範囲にある場合,当該絶縁材料のマトリクス又はブレンド中に埋め込まれた半導体性ペロブスカイトナノ粒子の層を有する発光リン光体は,発明の課題を解決することができると理解するものと認められる。 したがって,本件特許の請求項11の記載は,サポート要件に適合する。 (4)小括 前記(1)ないし(3)のとおりであるから,申立理由3によって本件特許発明1ないし14の特許を取り消すことはできない。 3 申立理由4(明確性要件違反)について 申立人は,本件特許の特許請求の範囲に記載の「発光リン光体」は,LEDと同じあるいは密接に関係するものであるか,逆に両者は全く異なるものであるかのいずれであるのかが明確でないから,本件特許発明1ないし14は明確性要件に違反する旨主張する。 そこで検討するに,前記第2で述べたように,本件特許明細書の【0001】及び【0064】の記載や,本件特許図面の図4aないし図6及び図8による図示,及び,本件特許の審査過程における特許権者の主張等からみて,本件特許発明の「発光リン光体」とは,フォトルミネッセンスを発光原理とする発光層を有する物を意味していると解されるのであって,LEDとは全く異なるものであることは明らかである。 したがって,申立理由4によって本件特許発明1ないし14の特許を取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから,特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては,請求項1ないし14に係る特許を取り消すことはできない。さらに,他に請求項1ないし14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。

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2022-701085

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