特許異議申立
2022-701061
コンバイン
- 審判番号
- 2022-701061
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-184597
- 登録番号
- 7084973
- 請求日
- 2022年10月27日
- 審決日
- 2023年07月27日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人 佐野特許事務所
- 【異議申立人】堀内 志穂
- 審判長/審判官
- 審判長 住田 秀弘
- 審判官 太田 恒明
- 審判官 ▲高▼橋 祐介
- 分類
- P1651.121-Y (A01D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7084973号発明「コンバイン」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7084973号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7084973号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成27年12月11日に出願された特願2015-242691号の一部が令和1年9月5日に新たな特許出願(特願2019-161769)とされ、さらにその一部を令和2年11月4日に新たな特許出願(特願2020-184597)として出願され、令和4年6月7日にその特許権の設定登録がされ、同月15日に特許掲載公報が発行された。
その特許について、同年10月27日に特許異議申立人堀内 志穂(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は令和5年2月15日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である同年4月19日に特許権者からの意見書が特許庁で受領され、当審が同年5月29日付けでその意見書の主張に対して反論があるか申立人に審尋したところ、申立人は同年6月27日に回答書を提出した。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、各々を「本件特許発明1」等という。)は、特許請求の範囲の請求項1~5に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。なお、符号A等は分説のため当審で付与した。分説された本件特許発明1等の発明特定事項を、符号に基づき以下「発明特定事項A」等という。
「 【請求項1】
A 走行機体に搭載された動力源であるエンジンと、前記エンジンの排気ガス中の窒素酸化物質を除去する排気ガス浄化装置と、前記排気ガス浄化装置に供給される還元剤を収容する還元剤タンクと、収穫した穀物を搬入する穀物タンクとを備えたコンバインにおいて、
B 前記還元剤タンクを前記穀物タンクの近傍に設けると共に、
C 前記還元剤タンクの近傍には尿素水の給水用容器を搭載可能な補給台を設けた
D ことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
E 前記還元剤タンクを前記穀物タンクの後方側に設けた
F ことを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。
【請求項3】
G 前記補給台は、前記還元剤タンクの近傍に設けた
H ことを特徴とする請求項2に記載のコンバイン。
【請求項4】
I 前記補給台は、折り畳み可能とした
J ことを特徴とする請求項1~3に記載のコンバイン。
【請求項5】
K 前記補給台は、前記還元剤タンクの後方に設けた
L ことを特徴とする請求項4に記載のコンバイン。」
第3 特許異議申立理由、取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
申立人による異議申立理由の概要は、次のとおりである。
本件特許発明1~5は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証~甲第4号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 令和5年2月15日付けの取消理由の概要
当審が令和5年2月15日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、申立人による異議申立理由の概要と同様である。
第4 証拠
1 証拠一覧
申立人により、申立書とともに提出された証拠は、次のとおりである。
甲第1号証:特開2014-108064号公報
甲第2号証:特開2007-186049号公報
甲第3号証:特開2007-269160号公報
甲第4号証:特開平11-243753号公報
2 各証拠について
(1)甲1
申立人が甲第1号証として提出した特開2014-108064号公報(以下「甲1」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンからの排気ガスを浄化する排気浄化装置を備えるコンバインに関する。」
イ 「【0020】
コンバインは、図1~図3に示すとおり、刈取った穀稈を全稈投入して脱穀する所謂普通型コンバインであり、図1に示すように、機体フレーム1の下方には土壌面を走行するための左右一対のクローラからなる走行装置2が設けられ、機体フレーム1の上方左側には脱穀・選別を行う脱穀装置3が設けられ、脱穀装置3の前方には圃場の穀桿を収穫する刈取装置4が設けられている。刈取装置4で刈取られた穀稈は、この刈取装置4の後側に配置される搬送エレベータ7によって、全稈投入型の脱穀装置3へ移送され、脱穀装置3で脱穀・選別された穀粒は脱穀装置3の右側に設けられたグレンタンク5に貯留される。そして、グレンタンク5に一時的に貯留された穀粒は、排出装置8により、機外へと排出される。
【0021】
また、機体フレーム1の上方右側には操作者が搭乗する操縦部6が設けられ、操縦部6の下方にはエンジンEを格納したエンジンルームが設けられている。」
ウ 「【0031】
……
〈排気処理装置〉
エンジンEから排出される排気ガスを浄化するために、脱穀装置3とグレンタンク5の間には、排気処理装置50が設けられている。この排気処理装置50は、排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するDPF51(Diesel particulate filter,粒子状物質捕集フィルター)と、排気が流入する管路内に供給される尿素水により、窒素酸化物を反応させるSCR52(Selective Catalytic Reduction,選択還元触媒)を含む。本発明のSCR触媒部に相当するSCR52は、管路内の窒素酸化物量を検出する検出センサと、この検出センサにより検出された窒素酸化物の量に応じて管路内へ尿素水を噴射するノズルを有し、管路内に噴射された尿素水が加水分解してアンモニアガスに変化することで、このアンモニアにより窒素酸化物は窒素ガスと水とに還元される。」
エ 「【0036】
……
〈尿素水タンク〉
SCR52に供給する尿素水を貯蔵する尿素水タンク56は、グレンタンク5後部の下側、すなわち、前記後部傾斜面5Cの下側に配置されている。後部傾斜面には、尿素水タンク55を支持する搭載フレーム57が設けられている。
……
【0039】
尿素水タンク56に尿素水を補給するための給水口は、エンジンEの燃料タンクの給油口とともに、縦揚穀部8Aと脱穀装置3の間から後方へ向けて開口される。」
オ 「【図5】
[図:0001400483000001.jpg]
」
カ 甲1発明
以上のことから、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、本件特許発明1の発明特定事項A等に概ね対応させて符号a等を付与し、引用箇所の段落番号等を併記した。
「a1 機体フレーム1の上方左側には脱穀・選別を行う脱穀装置3が設けられ、脱穀装置3の前方には圃場の穀桿を収穫する刈取装置4が設けられていて、刈取装置4で刈取られた穀稈は、この刈取装置4の後側に配置される搬送エレベータ7によって、全稈投入型の脱穀装置3へ移送され、脱穀装置3で脱穀・選別された穀粒は脱穀装置3の右側に設けられたグレンタンク5に貯留され(【0020】)、また、機体フレーム1の上方右側には操作者が搭乗する操縦部6が設けられ、操縦部6の下方にはエンジンEを格納したエンジンルームが設けられている(【0021】)コンバイン(【0020】)において、
a2 エンジンEから排出される排気ガスを浄化するために、脱穀装置3とグレンタンク5の間には、排気処理装置50が設けられていて、この排気処理装置50は、排気が流入する管路内に供給される尿素水により、窒素酸化物を反応させるSCR52(Selective Catalytic Reduction,選択還元触媒)を含み(【0031】)、
a3,b,e SCR52に供給する尿素水を貯蔵する尿素水タンク56は、グレンタンク5後部の下側に配置されていて(【0036】)、
c 尿素水タンク56に尿素水を補給するための給水口は、エンジンEの燃料タンクの給油口とともに、縦揚穀部8Aと脱穀装置3の間から後方へ向けて開口される(【0039】)
d コンバイン(【0020】)。」
(2)甲2
申立人が甲第2号証として提出した特開2007-186049号公報(以下「甲2」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバイン等の移動農機に係り、詳しくはエンジン駆動用の燃料を貯留する燃料タンクに燃料を補給する燃料補給構造に関する。」
イ 「【0016】
すなわち、コンバイン1は、圃場や路上を走行するための左右一対のクローラ走行装置2,2と、該クローラ走行装置2,2に支持された機体フレーム(走行機体)3と、を備え、該機体フレーム3の前部には、稲を刈取るための刈取部4が昇降自在に架設されており、その後方一側には、刈取り後の稲を導いて脱穀処理する脱穀部5が搭載されている。また、脱穀部5の他側には、コンバイン1を操作するレバー類が配置された操作部7を挟んで運転席6が配設されると共に、その後方には、グレンタンク(穀粒タンク)9が搭載されている。該グレンタンク9の後方には、該グレンタンク9から穀粒を外部へ搬出する排出オーガ8の縦螺旋8aが配置されている。更に、コンバイン1の最後尾には排藁処理装置10が配設されており、該排藁処理装置10により、脱穀後の排藁が細断或いは長藁のまま機外に排出される。
【0017】
また、図2に示すように、運転席6の下部にはコンバイン1の動力源となるエンジン32が搭載されており、該エンジン32の動力は、脱穀部5、刈取部4、クローラ走行装置2,2に伝達される。……」
ウ 「【0020】
また、脱穀機5とグレンタンク9との間の空間部には、エンジン32の駆動用燃料を貯留する燃料タンク22が配設されており、該燃料タンク22には、該タンク22に燃料を補給するための給油口16が給油パイプ34を介して連通している。そして、図1ないし図3に示すように、機体フレーム3に備えたグレンタンク9の後方には、排出オーガ8の縦螺旋8aを覆う開閉カバー13が開閉自在に配設されている。
【0021】
図4に示すように、給油口16に対して開閉するように支持される開閉カバー13は、グレンタンク9の背面にヒンジ18,18を介して開閉自在に取り付けられている。該開閉カバー13にて開閉される機体後方の空間33内には、上記排出オーガ8の縦螺旋8aと、該縦螺旋8aの開閉カバー13側に立設される給油口16とが配設されている。なお、符号17は給油口16を閉塞するキャップを示し、符号21は排藁処理装置10のカッター部を示している。
【0022】
そして、開閉カバー13の裏面13aには、図4及び図5に示すように、開閉カバー13を開放したときに燃料容器30を載置し得る状態となるように燃料容器載置台19が支持されている。この燃料容器載置台19は、開閉カバー13の裏面13aに、図4矢印A方向に回動し得るように支持されており、20リットル程度の燃料収容可能な燃料容器30を載置して燃料補給する補給位置(図4の実線位置)と、収納する収納位置(図4の二点鎖線位置)とに切り換え自在に設けられる。即ち、燃料容器載置台19は、上記補給位置から上記収納位置に向けて跳ね上げた状態で収納し得るように、一端部19aが開閉カバー13の裏面13aに回動支持部31によって軸支されている。」
エ 「【図4】
[図:0001400483000002.jpg]
」
オ 甲2記載事項
以上のことから、甲2には、次の事項(以下「甲2事項」という。)が記載されていると認められる。なお、引用箇所の段落番号等を併記した。
「機体フレーム(走行機体)3を備え、該機体フレーム3の後方一側には、刈取り後の稲を導いて脱穀処理する脱穀部5が搭載されており、また、脱穀部5の他側には、コンバイン1を操作するレバー類が配置された操作部7を挟んで運転席6が配設されると共に、その後方には、グレンタンク(穀粒タンク)9が搭載されており(【0016】)、
運転席6の下部にはコンバイン1の動力源となるエンジン32が搭載されており(【0017】)、
脱穀機5とグレンタンク9との間の空間部には、エンジン32の駆動用燃料を貯留する燃料タンク22が配設されており、該燃料タンク22には、該タンク22に燃料を補給するための給油口16が給油パイプ34を介して連通しており、そして、機体フレーム3に備えたグレンタンク9の後方には、排出オーガ8の縦螺旋8aを覆う開閉カバー13が開閉自在に配設されており(【0020】)、
給油口16に対して開閉するように支持される開閉カバー13は、グレンタンク9の背面にヒンジ18,18を介して開閉自在に取り付けられており(【0021】)、
開閉カバー13の裏面13aには、開閉カバー13を開放したときに燃料容器30を載置し得る状態となるように燃料容器載置台19が支持されており、この燃料容器載置台19は、開閉カバー13の裏面13aに、回動し得るように支持されており、20リットル程度の燃料収容可能な燃料容器30を載置して燃料補給する補給位置と、収納する収納位置とに切り換え自在に設けられる(【0022】)、
コンバイン1(【0016】)。」
(3)甲3
申立人が甲第3号証として提出した特開2007-269160号公報(以下「甲3」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバイン等の移動農機に係り、詳しくは駆動源たるエンジンの燃料を貯留する燃料タンクヘの燃料補給構造に関する。」
イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下図面に沿って、本発明に係る移動農機を適用したコンバインの好ましい実施の形態について説明する。
【0017】
先ず、図1はコンバインの全体側面図である。即ち、1はコンバインの走行機体であって、該走行機体1は、通常のコンバインと同様に、下部に備えた左右一対の走行部2,2に支持された機体フレーム3を設け、その上部に、前方より順に、穀稈の刈取りや搬送を行う前処理搬送部4,機体の走行や各作業部の操縦操作を行う操縦部5,収穫された穀粒の一時貯留を行うグレンタンク6,脱穀後の排稈処理を行う排稈処理部7等が備えられている。
【0018】
そして、走行機体1の各駆動部を駆動する駆動源としてのエンジン8は、前記操縦部5の運転席5a下方に、また、燃料の給油口9は、前記グレンタンク6の後方で、前記排稈処理部7の側方に設けられ、その上端にはキャップ9aが取付けられている。」
ウ 「【0022】
また、前記グレンタンク6の後部には、前記エンジン8への燃料を収納する燃料タンク15が備えられ、前記給油口9との間は給油パイプ16で連結されている。」
エ 「【0024】
更に、図3は要部の後方斜視図であって、前記開閉カバー12を開放した状態を示す。即ち、前記開閉カバー12は、上下方向のカバー回動軸12bを支点として、図の如く開放可能となっており、前記給油口9に隣接する部位には後述する支持部材17が固設され、該支持部材17に支持された燃料容器置き台18が設けられている。」
オ 「【0029】
そして、前記燃料容器置き台18は前記支持部20の先端側に、該支持部20の左右両側に突出するストッパピンからなる突起21を設けており、その反対側である基端側は燃料容器22(図5参照)を載置し得るように略円形状に折り曲げられて載置部23を構成しており、該燃料容器置き台18を使用しない状態の時には、前記載置部23の一部が前記取付ステー24に固着の取付具24bを介して装着された止め具としてのクランプ25で前記載置部23が上下方向に向いた姿勢で保持されるようになっている。ここで、26は、前記オーガ縦パイプ10の通過する孔を示す。
【0030】
また、図5は要部の作用説明図であって、図4の姿勢に収納されていた燃料容器置き台18を図4の矢印C方向に回動させて、載置部23をクランプ25の係止から外し、次いで矢印A方向に引出して支持部20先端に設けた突起21が前記モータベース19の端部19aに当接する前に図5の矢印E方向に回動して、前記突起21が支持部材17の奥側側壁17cに当接する迄手前に引出せば、前記燃料容器置き台18は載置部23が水平方向に向いて燃料容器22の載置位置となる。」
カ 「【図3】
[図:0001400483000003.jpg]
」
キ 甲3記載事項
以上のことから、甲3には、次の事項(以下「甲3事項」という。)が記載されていると認められる。なお、引用箇所の段落番号等を併記した。
「1はコンバインの走行機体であって、該走行機体1は、通常のコンバインと同様に、下部に備えた左右一対の走行部2,2に支持された機体フレーム3を設け、その上部に、前方より順に、穀稈の刈取りや搬送を行う前処理搬送部4,機体の走行や各作業部の操縦操作を行う操縦部5,収穫された穀粒の一時貯留を行うグレンタンク6,脱穀後の排稈処理を行う排稈処理部7等が備えられており(【0017】)、
走行機体1の各駆動部を駆動する駆動源としてのエンジン8は、前記操縦部5の運転席5a下方に、また、燃料の給油口9は、前記グレンタンク6の後方で、前記排稈処理部7の側方に設けられ、その上端にはキャップ9aが取付けられており(【0018】)、
前記グレンタンク6の後部には、前記エンジン8への燃料を収納する燃料タンク15が備えられ、前記給油口9との間は給油パイプ16で連結されており(【0022】)、
前記開閉カバー12は、上下方向のカバー回動軸12bを支点として、開放可能となっており、前記給油口9に隣接する部位には支持部材17が固設され、該支持部材17に支持された燃料容器置き台18が設けられており(【0024】)、
前記燃料容器置き台18は前記支持部20の先端側に、該支持部20の左右両側に突出するストッパピンからなる突起21を設けており、その反対側である基端側は燃料容器22を載置し得るように略円形状に折り曲げられて載置部23を構成しており、該燃料容器置き台18を使用しない状態の時には、前記載置部23の一部が前記取付ステー24に固着の取付具24bを介して装着された止め具としてのクランプ25で前記載置部23が上下方向に向いた姿勢で保持されるようになっており(【0029】)、
燃料容器置き台18を回動させて、載置部23をクランプ25の係止から外し、次いで矢印A方向に引出して支持部20先端に設けた突起21が前記モータベース19の端部19aに当接する前に回動して、前記突起21が支持部材17の奥側側壁17cに当接する迄手前に引出せば、前記燃料容器置き台18は載置部23が水平方向に向いて燃料容器22の載置位置となる(【0030】)、
コンバイン(【0016】)。」
(4)甲4
申立人が甲第4号証として提出した特開平11-243753号公報(以下「甲4」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、コンバインの燃料供給構造に関する。」
イ 「【0006】
【発明の実施の形態】本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係わる燃料供給構造を備えたコンバインAを示し、このコンバインAは従来の大型コンバインと同様に、クローラ式の走行装置1aを有する機台1の前部に刈取部(不図示)を昇降可能に装架し、そして後方の左側にカッター等の排稈処理装置2を後述する構成によって備えた脱穀機3を搭載すると共に、右側に前方より運転席4と後部に穀粒排出装置5を有するグレンタンク(穀粒タンク)6を配置構成している。
【0007】そして、このコンバイAは、エンジン7を上記運転席4の座席シートの下部に搭載している。そして燃料タンク8は、図2,図3で示すように脱穀機3とグレンタンク6との後部側の間に形成される空間部内に設置し、燃料タンク8からエンジン7に燃料を送給するように形成し、更に燃料タンク8の給油口80を給油パイプ81を介して、前記グレンタンク7の後部と排稈処理装置2の右側の側壁20とで平面視において切欠状に形成されるコーナ部である「空間部K」において後方上方に向けて突設し、空間部Kの下側に、後述する構成によって設けたタンク載台9とによって本発明の燃料供給構造を構成している。
……
【0010】このタンク載台9は、20リットル程度の燃料を収容可能な燃料罐等の燃料容器(不図示)を載置できる強度を持つ平板で形成され、その基部を機台1の後端に設けた支軸90を支点に図3の実線で示す燃料供給作業を行う作業姿勢と、コンバイン作業を行う点線で示す格納姿勢とに切換回動可能に取付固定している。そして、タンク載台9は作業姿勢においてはその下部が機台1に設けたストッパ91に接当することにより下方への回動を防止されて位置決めされると共に、上方に回動させた格納姿勢においては、タンク載台9の内側後方に突設した丸棒状の取付片92を、機台1側に設けた弾性を有する二股状の挟持片からなる係止片93内に嵌挿することによって、タンク載台9を係脱可能に簡単に姿勢維持をするように構成している。」
ウ 「【図3】
[図:0001400483000004.jpg]
」
エ 甲4記載事項
以上のことから、甲4には、次の事項(以下「甲4事項」という。)が記載されていると認められる。なお、引用箇所の段落番号等を併記した。
「右側に前方より運転席4と後部に穀粒排出装置5を有するグレンタンク(穀粒タンク)6を配置構成しており(【0006】)、
エンジン7を上記運転席4の座席シートの下部に搭載しており、そして燃料タンク8は、脱穀機3とグレンタンク6との後部側の間に形成される空間部内に設置し、燃料タンク8からエンジン7に燃料を送給するように形成し、更に燃料タンク8の給油口80を給油パイプ81を介して、前記グレンタンク7の後部と排稈処理装置2の右側の側壁20とで平面視において切欠状に形成されるコーナ部である「空間部K」において後方上方に向けて突設し、空間部Kの下側に、タンク載台9とによって燃料供給構造を構成しており(【0007】)、
このタンク載台9は、20リットル程度の燃料を収容可能な燃料罐等の燃料容器を載置できる強度を持つ平板で形成され、その基部を機台1の後端に設けた支軸90を支点に図3の実線で示す燃料供給作業を行う作業姿勢と、コンバイン作業を行う点線で示す格納姿勢とに切換回動可能に取付固定している(【0010】)、
コンバインA(【0006】)。」
(5)周知技術1
上記(2)~(4)で示した甲2事項~甲4事項から、
エンジンと、エンジンに供給される燃料を収容する燃料タンクと、収穫した穀物を搬入する穀物タンクとを備え、燃料タンクには該タンクに燃料を補給するための給油口が給油パイプを介して連通しているコンバインにおいて、給油口の近傍に、燃料の補給用容器を搭載可能な燃料容器載置台を設けること(以下「周知技術1」という。)
は、周知であると認められる。
第5 当審の判断
1 本件特許発明1と甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(1)発明特定事項Aについて
甲1発明では、「機体フレーム1の上方右側には操作者が搭乗する操縦部6が設けられ、操縦部6の下方にはエンジンEを格納したエンジンルームが設けられている」ところ、甲1発明の「エンジンE」が本件特許発明1の「走行機体に搭載された動力源であるエンジン」に相当することは明らかである。
また、甲1発明の「排気処理装置50」は、「エンジンEから排出される排気ガスを浄化するために、」「設けられてい」るものであり、また、「排気が流入する管路内に供給される尿素水により、窒素酸化物を反応させるSCR52(Selective Catalytic Reduction,選択還元触媒)を含」むから、甲1発明の「排気処理装置50」は、本件特許発明1の「前記エンジンの排気ガス中の窒素酸化物質を除去する排気ガス浄化装置」に相当する。
また、甲1発明では、「排気処理装置50」は「SCR52」「を含」むから、甲1発明の「SCR52に供給する尿素水」は、本件特許発明1の「前記排気ガス浄化装置に供給される還元剤」に相当する。加えて、甲1発明の「SCR52に供給する尿素水を貯蔵する尿素水タンク56」は、本件特許発明1の「前記排気ガス浄化装置に供給される還元剤を収容する還元剤タンク」に相当する。
また、甲1発明によれば、「刈取装置4で刈取られた穀稈は、この刈取装置4の後側に配置される搬送エレベータ7によって、全稈投入型の脱穀装置3へ移送され、脱穀装置3で脱穀・選別された穀粒は脱穀装置3の右側に設けられたグレンタンク5に貯留され」るから、甲1発明の「グレンタンク5」は、本件特許発明1の「収穫した穀物を搬入する穀物タンク」に相当する。
また、甲1発明の「コンバイン」は、本件特許発明1の「コンバイン」に相当する。
よって、甲1発明は、本件特許発明1の発明特定事項Aに相当する構成を有する。
(2)発明特定事項Bについて
上記(1)で述べたように、甲1発明の「尿素水タンク56」及び「グレンタンク5」は、それぞれ、本件特許発明1の「還元剤タンク」及び「穀物タンク」に相当する。ここで、発明特定事項a3,b,eによれば、甲1発明では、「尿素水タンク56は、グレンタンク5後部の下側に配置されてい」るから、甲1発明は、本件特許発明1と同様に、「前記還元剤タンクを前記穀物タンクの近傍に設ける」ものであるといえる。
よって、甲1発明は、本件特許発明1の発明特定事項Bに相当する構成を有する。
(3)発明特定事項Dについて
甲1発明の「コンバイン」は、本件特許発明1の「コンバイン」に相当する。
よって、甲1発明は、本件特許発明1の発明特定事項Dに相当する構成を有する。
(4)一致点・相違点
上記(1)~(3)からみて、本件特許発明1と甲1発明とは、
「A 走行機体に搭載された動力源であるエンジンと、前記エンジンの排気ガス中の窒素酸化物質を除去する排気ガス浄化装置と、前記排気ガス浄化装置に供給される還元剤を収容する還元剤タンクと、収穫した穀物を搬入する穀物タンクとを備えたコンバインにおいて、
B 前記還元剤タンクを前記穀物タンクの近傍に設けると共に、
D コンバイン。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1(発明特定事項C)>
本件特許発明1では、「前記還元剤タンクの近傍には尿素水の給水用容器を搭載可能な補給台を設けた」のに対し、
甲1発明では、そのように構成されていない点。
2 本件特許発明1についての判断
上記第4の2(5)で説示したとおり、給油口の近傍に、燃料の補給用容器を搭載可能な燃料容器載置台を設けることは、本件特許の原出願の出願前に周知の技術(周知技術1)であるところ、甲1発明の尿素水タンク56に尿素水を補給するための給水口近傍に、上記周知技術1に基づいて、燃料容器載置台を設けるか、または尿素水容器の載置台として設けることが容易想到かどうかについて、以下検討する。
(1)尿素水を補給するための構成について
ア 動機付けについて
燃料は頻繁に補給する必要があるのに対し、尿素水は、その補給頻度が燃料ほど多くなく、しかも、1回当たりの補給量も燃料に比べて少ない(つまり、容器も小さく、尿素水を充填した際の重量も小さい)傾向がある。よって、燃料と尿素水が共に液体であったとしても、そのような補給頻度や1回当たりの補給量の少ない尿素水においては、燃料の補給時に用いるような補給台を設ける必要性がみられない。このために、本件特許の原出願の出願前に燃料容器載置台が知られていたとしても、当該技術を甲1発明の尿素水の場合に適用する動機付けがあるとはいえない。
イ 相違点1に係る本件特許発明1の構成について
甲1発明に対して、尿素水を補給するための技術として周知技術1を適用した場合を仮定すると、その場合には、周知技術1のうち、液体の供給口の近傍に、当該液体の補給用容器を搭載可能である容器載置台を設ける点のみを抽出して適用することになり、給水口の近傍に、尿素水の給水用容器を搭載可能な載置台を設ける構成が導き出されることになる。
ここで、甲1発明では、「SCR52に供給する尿素水を貯蔵する尿素水タンク56は、グレンタンク5後部の下側に配置されてい」るのに対し、「尿素水タンク56に尿素水を補給するための給水口は、エンジンEの燃料タンクの給油口とともに、縦揚穀部8Aと脱穀装置3の間から後方へ向けて開口される」から、「給水口」が「SCR52に供給する尿素水を貯蔵する尿素水タンク56」の近傍であるとはいえない。
また、周知技術1は、「燃料タンクには該タンクに燃料を補給するための給油口が給油パイプを介して連通している」から、「給油口」が「燃料タンク」の近傍であるとはいえない。
そうすると、甲1発明に対して尿素水を補給するために周知技術1を適用して、給水口の近傍に、尿素水の給水用容器を搭載可能な載置台を設けるとしても、尿素水タンク56(本件特許発明1の「還元剤タンク」に相当する。)の近傍に、尿素水の給水用容器を搭載可能な載置台を設けることになるとはいえない。
よって、甲1発明に対して尿素水を補給するために周知技術1を適用したとしても、相違点1に係る本件特許発明1の構成における「前記還元剤タンクの近傍に」「補給台を設けた」点は導き出せないことから、相違点1に係る本件特許発明1の構成は、甲1発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
(2)燃料を補給するための構成について
ア 動機付けについて
甲1発明は、「エンジンE」や「エンジンEの燃料タンク」、「エンジンEの燃料タンクの給油口」を備えた「コンバイン」であるから、「エンジンEの燃料タンクの給油口」に燃料を補給するという限度で、周知技術1を付加することに動機付けがあるといえる。
イ 相違点1に係る本件特許発明1の構成について
しかしながら、上記(1)イで述べたことから、甲1発明に対して燃料を補給するために周知技術1を付加したとしても、尿素水タンク56の近傍に、尿素水の給水用容器を搭載可能な載置台を設けることになるとはいえない。
よって、甲1発明に対して燃料を補給するために周知技術1を付加することで相違点1に係る本件特許発明1の構成をなすことは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 本件特許発明2~5についての判断
本件特許発明2~5は、本件特許発明1の構成を全て有し、さらに限定を付加したものであるところ、上記1及び2において対比・判断したとおり、本件特許発明1は、甲1発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2~5も、甲1発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 申立人の回答書について
申立人は、令和5年6月27日に提出した回答書において、補給頻度は、コンバインの燃料タンクや尿素水タンク、連続稼働時間等の設計や仕様等により異なるものであり、燃料と尿素水タンクの補給頻度や、一度に補給する量が同程度になるように、燃料水タンクの容量を変更することも設計事項の範囲内のものであるから、補給頻度が異なるか否かは、燃料に関する載置台を尿素水に適用する際の阻害要件にはなりえない旨を、主張する。
しかしながら、燃料水タンクの容量を変更することは設計事項の範囲内であるとしても、燃料と尿素水タンクの補給頻度や、一度に補給する量が同程度になるようにすることには、動機付けがない。そうすると、燃料と尿素水タンクの補給頻度や、一度に補給する量が同程度になるように、燃料水タンクの容量を変更することは、設計事項の範囲内であるとはいえない。そして、仮に、燃料と尿素水タンクの補給頻度や、一度に補給する量が同程度になるように、燃料水タンクの容量を変更することは、設計事項の範囲内であるとしても、尿素水タンク56の近傍に、尿素水の給水用容器を搭載可能な載置台を設けることは、設計事項の範囲内であるとはいえない。
また、申立人の回答書によるその余の主張を考慮しても、上記2の判断を変更すべき事情は見いだせない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701061