特許異議申立
2025-700047
作業車
- 審判番号
- 2025-700047
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-176258
- 登録番号
- 7513680
- 請求日
- 2025年01月08日
- 審決日
- 2025年04月28日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社クボタ
- 【権利者代理人】弁理士法人R&C
- 【異議申立人】堀内 志穂
- 審判長/審判官
- 審判長 古屋野 浩志
- 審判官 油原 博
- 審判官 立澤 正樹
- 分類
- P1651.121-Y (A01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第44条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7513680号発明「作業車」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7513680号の請求項1~2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 出願分割の経緯の概略
本願は、令和4年11月2日に出願された特許法第44条第1項の規定による特許出願であって、平成27年12月25日に出願した特願2015-254613号を最先の出願とする、いわゆる第4世代の分割出願であるところ、出願の分割の経緯は、次のとおりである。なお、括弧内は当該出願の提出日を示す。
最先の出願 :特願2015-254613号(平成27年12月25日)
第1世代分割:特願2019-26703号(平成31年2月18日)
第2世代分割:特願2019-113832号(令和元年6月19日)
第3世代分割:特願2021-53484号(令和3年3月26日)
本願 :特願2022-176258号(令和4年11月2日)
2 本願特許の経緯
特許第7513680号(以下「本件特許」という。)については、請求項1~2に係る特許についての出願が令和4年11月2日に出願され、令和6年7月1日にその特許権の設定登録がされ、同年同月9日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、令和7年1月8日に特許異議申立人 堀内 志穂(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ特許庁において受理された。
第2 本件発明
特許第7513680号の請求項1~2の特許に係る発明(以下「本件特許発明1」等という。)は、それぞれ特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
走行装置を有する走行機体と、
前記走行装置を操向可能な操向ユニットと、
衛星測位システムにより位置情報を取得する受信装置と、
慣性計測装置と、
前記受信装置からの情報及び前記慣性計測装置からの情報に基づいて前記前記操向ユニットを制御する制御部と、が備えられ、
前記走行機体の前部に設けられたボンネットが備えられ、
前記ボンネットの上方を延びるフレームが備えられ、
前記受信装置と前記慣性計測装置と、が前記走行機体における同じ箇所である前記フレームに支持されている作業車。
【請求項2】
前記慣性計測装置は、傾きを計測できる請求項1に記載の作業車。」
第3 異議申立理由の概要
本件特許発明1~2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~8号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1~2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第4 証拠
1 証拠一覧
甲第1号証:特開2008-131880号公報
甲第2号証:特開2007-209271号公報
甲第3号証:特開平9-154308号公報
甲第4号証:特開2007-218642号公報
甲第5号証:特開2008-250995号公報
甲第6号証:特開2012-193965号公報
甲第7号証:特開2011-191087号公報
甲第8号証:特開2001-264107号公報
2 各証拠について
(1) 甲第1号証(以下「甲1」という。以下同様)
ア 記載事項
甲1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下同様。)。
(ア)「【0001】
本発明は、自律走行が可能である農用作業車の技術に関し、より詳しくは、目標経路に対する自律走行位置を表示する表示装置の技術に関する。
(イ)「【0013】
まず始めに、本発明を実施するための最良の形態に係る田植機の全体構成について、図1及び図2を用いて説明する。
ここで説明する田植機1は、例えば6条植えの乗用田植機とし、機体の後部に昇降リンク機構27を介して植付部4を装着している。
また、車体フレーム3の前部上方にエンジン2を搭載し、前下部にフロントアクスルケース6aを介して前輪6を支持するとともに、後部にリアアクスルケース8aを介して後輪8を支持している。
前記エンジン2はボンネット9に覆われ、該ボンネット9の上方には門型状の取付フレーム24を配設している。そして、前記取付フレーム24の左右両側に予備苗載台10・10を配設し、また上部中央に後述するGPSアンテナ101および操作筐体128を固設している。
また、ボンネット9後部のダッシュボード5上にメーターパネル7やハンドル14を配置しており、該ボンネット9の両側とその後部の車体フレーム3上は車体カバー12で覆われている。
ハンドル14の後方位置には座席13を配置し、ボンネット9の両側と座席13の前部、座席13の左右両側、及び座席13の後方をステップとしている。」
(ウ)「【0015】
次に、本発明の一実施例に係る農用作業車のメーターパネルについて、図1乃至図6を用いて説明をする。
図1または図2に示す如く、田植機1のメーターパネル7は、座席13に着座したオペレータ前方のダッシュボード5上に、オペレータから容易に視認できる車体中央付近の位置に配設されている。」
(エ)「【0018】
自律走行位置表示ランプ45は、左方ズレ表示ランプ45aと、正常走行表示ランプ45bと、右方ズレ表示ランプ45cにより構成している。
図4に示す如く、本発明において、自律運転SW48が「入」の状態であり、田植機1が自律走行する時(S01)には、田植機1は処理部110により生成した目標経路に沿って自律的に走行するようにしている。このとき、自律走行中の実際の走行経路をGPSユニット102により測定し(S02)、目標経路と実際の走行経路の差異(ズレ量)を処理部110で演算し(S03)、予め設定した閾値と比較して判定をするようにしている(S04)。」
(オ)「【0033】
図7に示す如く、本発明のGPSの実施の一形態であるGPSユニット102は、主に、田植機1本体に搭載される移動局ユニット103と、圃場(本実施例では水田等)の近くに設置される基準局ユニット104からなる。該基準局ユニット104は地面に固定された基準局の役割を果たし、移動局ユニット103は位置を求めようとする移動局(観測点)として機能する。
【0034】
移動局ユニット103は、アンテナ108を具備したGPSアンテナ101の他、信号処理部109や、信号記憶部106や、該信号処理部109及び該信号記憶部106を収納する操作筐体128等から構成される。
本実施例では、操作筐体128上の図示しないボタン等を操作することより、GPSアンテナ101のアンテナ108で受信されたGPS衛星125・125・・・からの電波信号が、有線若しくは無線によって信号処理部109(本実施例では操作筐体128に収納されている。)を経て、信号記憶部106(本実施例では操作筐体128に収納されている。)に記憶される。
また、本実施例においては、GPSアンテナ101は、棒状の取り付けポール120の上端部に取り付けられ、該GPSアンテナ101の下方に操作筐体128を配設するようにしている。これにより、オペレータが操作筐体128を操作する際に、オペレータにより電波信号が遮られて通信が途絶えることがないような構成としている。
また、圃場計測時など、GPSアンテナ101を持って移動しながら計測を行う場合に、取り付けポール120を持つことにより、GPSアンテナ101が常に頭上に位置するような構成としている。
そして、GPSアンテナ101と取り付けポール120を田植機1に取り付けた状態で、該信号記憶部106に記憶された情報をRTK演算部に送信する。RTK演算部では、後述する基準局ユニット104から送信されてくる情報を記憶している記憶部105の情報と、信号記憶部106から送信されてくる情報とを演算し、車体位置を認識する。」
(カ)「【0038】
処理部110はCPUやRAMやROM等を備える制御手段であり、その内部に自律走行プログラム121を格納し、GPSユニット102により得られた位置情報や、処理部110に接続される内界センサ122や傾斜センサ123等の各種センサからの信号に基づいて、当該圃場における自律走行経路を生成するとともに自律走行手段124に指令を出して田植機1に自律走行をさせたり、自律走行の目標経路を生成するものである。
自律走行プログラム121は、田植機1に自律走行による田植作業を行わせるためのプログラムである。自律走行プログラム121に基づく自律走行の詳細については後述する。
【0039】
また、自律走行手段124としては、例えば油圧アクチュエータを用いることができ、該油圧アクチュエータと前記ハンドル14をリンク機構等により連結する構成とし、処理部110からの信号に応じて油圧アクチュエータを伸縮させるようにして、油圧アクチュエータの伸縮に応じてハンドル14を左右に回動させて自動的に操舵するように構成することができる。これにより、目標経路と実際の走行経路の差異を処理部110にフィードバックすることにより、目標経路と実際の走行経路にズレが生じている場合であっても、ハンドル14を自動的に回動させて走行経路を補正して、田植機1を正確に目標経路に沿って自律走行させることができる。また、自律走行中に機体を停止および発進させる構成については、処理部110からの信号に応じてクラッチ部およびブレーキ部を、例えば油圧アクチュエータ等で作動制御する構成とすることができる。
以上が、本発明に適用する一実施例に係るGPSについての説明である。」
(キ)「【0049】
次に、本発明の一実施例に係る自律走行位置表示ランプの点灯状況について、図12または図13を用いて説明をする。
図13に示す如く、目標経路(n=0)上に田植機1の基準点が位置しており、かつ、目標経路方向と進行方向が一致している場合(即ち、図13中のP01、P04、P05またはP08)には、正常走行表示ランプ45bが点灯するようにしている。
また、目標経路(n=0)上に田植機1の基準点が位置しておらず、かつ、目標経路方向と進行方向は一致している場合(即ち、図13中のP06またはP07)には、正常走行表示ランプ45bは点灯せず、その代わりに、目標経路(n=0)に対して進行方向に向かって右側に機体が変位している場合(即ち、図13中のP06)には右方ズレ表示ランプ45cが点灯し、あるいは、目標経路(n=0)に対して進行方向に向かって左側に機体が変位している場合(即ち、図13中のP07)には左方ズレ表示ランプ45aが点灯するようにしている。
さらに、目標経路(n=0)上に田植機1の基準点が位置しているが、目標経路方向と進行方向が一致していない場合(即ち、図13中のP02またはP03)には、三灯全ての各ランプ45a・45b・45cを点灯するようにしている。」
(ク)「【図1】
[図:0001423529000001.jpg]
」
イ 認定事項について
段落【0013】や【0034】の記載を踏まえると、GPSアンテナ101及び操作筐体128から構成される移動局ユニット103は、棒状の取り付けポール120を介して門型状の取付フレーム24の上部中央に取り付けられ、また、段落【0015】及び【0038】の記載を踏まえると、「123」として示される「傾斜センサ」は、座席13を構成する背もたれの下方に設けられることがみてとれる。
そうすると、引用文献1には、次の事項が記載されていると認められる(以下「認定事項」という。)。
「GPSアンテナ101及び操作筐体128から構成される移動局ユニット103は、棒状の取り付けポール120を介して門型状の取付フレーム24の上部中央に取り付けられ、また、傾斜センサ123は、座席13の背もたれの下方に設けられること。」
ウ 甲1発明
前記(ア)~(キ)及び上記認定事項から、甲1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「甲1発明」という。)。
<甲1発明>
「田植機1は、6条植えの乗用田植機とし、機体の後部に昇降リンク機構27を介して植付部4を装着し、また、田植機1の車体フレーム3の前部上方にエンジン2を搭載し、車体フレーム3の前下部に前輪6を支持するとともに、車体フレーム3の後部に後輪8を支持し、エンジン2はボンネット9に覆われ、該ボンネット9の上方には門型状の取付フレーム24を配設し、また上部中央にGPSアンテナ101および操作筐体128を前記取付フレーム24の上部中央に固設し、(【0013】)
GPSユニット102は、主に、田植機1本体に搭載される移動局ユニット103と、圃場の近くに設置される基準局ユニット104からなり、【0033】)
移動局ユニット103は、GPSアンテナ101の他、信号処理部109や、信号記憶部106や、該信号処理部109及び該信号記憶部106を収納する操作筐体128から構成され、(【0034】)
移動局ユニット103を構成するGPSアンテナ101及び操作筐体128のうち、GPSアンテナ101は、棒状の取り付けポール120の上端部に取り付けられ、操作筐体128は、該GPSアンテナ101の下方に配設され、(【0034】)
GPSアンテナ101のアンテナ108で受信されたGPS衛星125・125からの電波信号が信号処理部109を経て、信号記憶部106に記憶され、該信号記憶部106に記憶された情報をRTK演算部に送信し、RTK演算部で、基準局ユニット104から送信されてくる情報を記憶している記憶部105の情報と、信号記憶部106から送信される情報とを演算して、車体位置を認識し、(【0034】)
処理部110は内部に自律走行プログラム121を格納した制御手段であり、GPSユニット102により得られた位置情報や、処理部110に接続される内界センサ122や傾斜センサ123からの信号に基づいて、当該圃場における自律走行経路を生成するとともに自律走行手段124に指令を出して田植機1に自律走行をさせたり、自律走行の目標経路を生成し、(【0038】)
自律走行手段124としては、油圧アクチュエータを用いることができ、該油圧アクチュエータと前記ハンドル14をリンク機構により連結する構成とし、処理部110からの信号に応じて油圧アクチュエータを伸縮させるようにして、油圧アクチュエータの伸縮に応じてハンドル14を左右に回動させて自動的に操舵するように構成し、(【0039】)
自律走行中の実際の走行経路をGPSユニット102により測定し、目標経路と実際の走行経路の差異(ズレ量)を演算し(【0018】)、目標経路と実際の走行経路の差異を処理部110にフィードバックすることにより、目標経路と実際の走行経路にズレが生じている場合であっても、ハンドル14を自動的に回動させて走行経路を補正して、田植機1を正確に目標経路に沿って自律走行させることができ、(【0039】)
目標経路に対して進行方向に向かって右側に機体が変位している場合、右方ズレ表示ランプが点灯し、さらに、目標経路上に田植機1の基準点が位置しているが、目標経路方向と進行方向が一致していない場合、各ランプを点灯し、(【0049】)
GPSアンテナ101及び操作筐体128から構成される移動局ユニット103は、棒状の取り付けポール120を介して門型状の取付フレーム24の上部中央に取り付けられ、また、傾斜センサ123は、座席13の背もたれの下方に設けられる、(認定事項)
農用作業車(【0001】)。」
(2) 甲5
ア 記載事項
甲5には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0012】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。
図1および図2を参照して、この発明の一実施形態の車両10は、自律で走行する自律走行(オート走行)と操作者の操作で走行する手動走行(マニュアル走行)とが可能な荒地走行用の4輪バギーであり、たとえば農作業や測量等に用いられる。」
(イ)「【0026】
図3をも参照して、リアカバー16b内には、車両10の走行を制御するための走行制御ユニット62、走行制御ユニット62に各種指示を与える指示制御ユニット64、前方障害物センサ58aおよび後方障害物センサ58bからの検出信号から非常停止制御信号を生成する第1論理回路66、GPS(Global Positioning System)衛星からの信号を受信することによって車両10の位置を検出する測位ユニット68、車両10の傾きを検出する姿勢センサ70、地図情報や各種プログラム等を格納するハードディスクドライブ(HDD:ハードディスクを含む)72、リモートコントローラ(以下、リモコンと略す)100と無線で通信するための通信機器74、ならびに発信機200からの信号を受信することによってスイッチ76aを動作させる受信機76が設けられている。」
(ウ)「【0047】
車両10は、自律走行モードにおいて、測位ユニット68からの位置に関する情報とHDD72に予め格納されている地図情報とに基づいて指示制御ユニット64がマイコン78に指示を与えることによって所定の走行経路を自律走行(オート走行)する。」
(エ)「【0053】
指示制御ユニット64は、マイコン78から入力される速度に関する情報や姿勢センサ70から入力される車両10の姿勢に関する情報等に基づいて車両10に異常が発生しているか否かを判定する。」
イ 甲5記載技術
前記(ア)~(エ)から、甲5には、次の技術が記載されていると認められる(以下「甲5記載技術」という。)。
<甲5記載技術>
「自律走行(オート走行)と操作者の操作で走行する手動走行(マニュアル走行)とが可能な農作業に用いられる4輪バギーにおいて、(【0012】)
リアカバー16b内にGPS(Global Positioning System)衛星からの信号を受信することによって車両10の位置を検出する測位ユニット68、車両10の傾きを検出する姿勢センサ70が設けられ、(【0026】)
測位ユニット68からの位置に関する情報とHDD72に予め格納されている地図情報とに基づいて所定の走行経路を自律走行し、(【0047】)
姿勢センサ70から入力される車両10の姿勢に関する情報等に基づいて車両10に異常が発生しているか否かを判定する、(【0053】)」こと。
(3) 甲2~甲4、甲6~甲8について
特許異議申立人が提出した甲2~甲4、甲6~甲8には、それぞれ、摘記は省略するが、GPS装置と姿勢計測装置が車両に備えられることが記載されている。
第5 当審の判断
1 本件特許発明1について
(1) 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明における田植機の「車体フレーム3」は、本件特許発明1の「走行機体」に相当する。また、甲1発明の「後輪8」は、車体フレームの後部に支持されるところ、エンジンからの動力がステアリング装置やトランスミッションやドライブシャフト等を通じて車輪に伝達されることが自明であるから、甲1発明の「走行装置」に相当する。そして、甲1発明において「後輪8」に支持される「車体フレーム」は、本件特許発明1の「走行装置を有する走行機体」に相当する。
イ 甲1発明において、リンク機構により連結される油圧アクチュエータとハンドルは、処理部110からの信号に応じて油圧アクチュエータを伸縮させ、その伸縮に応じてハンドルを左右に回動させ自動的に操舵するものであるところ、ハンドルの回転力がステアリング装置を介し車輪の向きを変化させることが自明であるから、甲1発明において、ステアリング装置を含む「リンク機構により連結される油圧アクチュエータとハンドル」は、本件特許発明1の「走行装置を操向可能な操向ユニット」に相当する。
ウ 甲1発明においては、GPSアンテナ101の他、信号処理部109、信号記憶部106、該信号処理部109及び該信号記憶部106を収納する操作筐体128から「移動局ユニット103」が構成され、GPS衛星125・125からの電波信号が該信号記憶部106に記憶されるとともに、該信号記憶部106に記憶された情報を用いて演算する「RTK演算部」が車体位置の情報を得ることが明らかであるから、GPS衛星125・125からの電波信号を信号処理部を通じて信号記憶部に記憶する「移動局ユニット103」及び該信号記憶部に記憶された情報から演算によって車体位置を認識する「RTK演算部」は、本件特許発明1の「衛生測位システムにより位置情報を取得する受信装置」に相当する。
エ 甲1発明の「傾斜センサ123」は、田植機の車体フレームに設けられて田植機の傾きを測定し、田植機の運動時における挙動を計測するものであるところ、傾斜の測定が慣性センサによりなされる技術常識を踏まえると、本件特許発明1における「慣性計測装置」に相当する。
オ 甲1発明の「処理部110」は、内部に自律走行プログラムを格納した制御手段であるから、「制御部」に相当する。
上記ウで示したように、甲1発明においては、移動局ユニット103及びRTK演算部から車体位置の情報を得るものといえるところ、甲1発明において、「移動局ユニット103」及び「RTK演算部」により得られる車体位置の「情報」は、本件特許発明1における「受信装置からの情報」に相当する。
さらに、甲1発明において、「傾斜センサ123の信号」は、該信号に基づき田植機を自律走行させるものであり、傾斜センサからの情報を処理部が得ているもの解せるから、本件特許発明1における「慣性計測装置からの情報」に相当する。
そして、甲1発明において、移動局ユニット及びRTK演算部により得られる位置情報や、傾斜センサの信号に応じて、油圧アクチュエータを伸縮させ、その伸縮に応じてハンドルを左右に回動させ、自動的に操舵する処理部110は、本件特許発明1の「受信装置からの情報及び前記慣性計測装置からの情報に基づいて前記操向ユニットを制御する制御部」に相当する。
カ 甲1発明において、車体フレーム3の前部上方に搭載されたエンジン2を覆う「ボンネット」は、通常、車体フレーム3の前部に備えられるから、本件特許発明1における「走行機体の前部に設けられたボンネット」に相当する。
キ 甲1発明において、ボンネット9の上方に配設される門型状の「取付フレーム24」は、ボンネットの両側から上方に向かい、ボンネットの上方を跨ぐよう門型状に配設されるところ、該門型状の部分をボンネットより上に向かうようにするものといえるから、本件特許発明1における「ボンネットの上方に延びるフレーム」に相当する。
ク 甲1発明において、「移動局ユニット103」は、ウで示したように、GPSアンテナ101や操作筐体128を含むものであるところ、車体フレーム3のボンネットの上方に配設される門型状の取付フレーム24の上部中央に該移動局ユニット103を配設した取り付けポール120が固設されるから、本件特許発明1と甲1発明とは、「受信装置」におけるGPSアンテナから信号を処理し記憶する機能を有する部分「が走行機体におけるフレームに支持されている」点において一致する。
ケ 甲1発明の「農用作業車」は、本件特許発明1の「作業車」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
「走行装置を有する走行機体と、
前記走行装置を操向可能な操向ユニットと、
衛星測位システムにより位置情報を取得する受信装置と、
慣性計測装置と、
前記受信装置からの情報及び前記慣性計測装置からの情報に基づいて前記前記操向ユニットを制御する制御部と、が備えられ、
前記走行機体の前部に設けられたボンネットが備えられ、
前記ボンネットの上方を延びるフレームが備えられ、
受信装置におけるGPSアンテナから信号を処理し記憶する機能を有する部分が走行機体におけるフレームに支持されている作業車。」
<相違点1>
本件特許発明1では、前記受信装置が前記走行機体における前記フレームに支持されているのに対し、甲1発明では、受信装置における位置を演算する部位がフレームに支持されているか否か不明な点で相違する。
<相違点2>
本件特許発明1では、前記受信装置と前記慣性計測装置と、が前記走行機体における同じ箇所である前記フレームに支持されているのに対し、甲1発明では、受信装置の一部がフレームに支持され、傾斜センサが座席13の背もたれの下方に設けられる点で相違する。
(2)判断
相違点1、2について検討する。
甲1発明においては、目標経路と実際の走行経路のズレ量(目標経路に対し右側に機体が変位している場合や、目標経路方向と機体の進行方向とが一致している場合のズレ量)を演算し、目標経路と実際の走行経路にズレが、既に、生じている場合、当該ズレを修正することを課題とするものといえる(【0039】)ところ、受信装置のうちGPSアンテナから信号を処理し記憶する機能を有する部分を走行機体における取付フレームに支持し、また、傾斜センサを前記取付フレームとは異なる箇所である座席の背もたれの下方に設ける、という構成を採用することにより、上記課題を解決しているものといえる。
また、甲1発明においては、受信装置における位置を演算する部位がフレームに支持されているか否か不明であるところ、受信装置から取得される位置情報と実際の自機位置とのズレを発生させないようにするという本件特許発明1の課題を解決する必要性が甲1発明にはそもそも存在しないから、甲1発明から本件特許発明1とする動機付けがない。
また、甲5記載技術は、受信装置と、慣性計測装置とが、走行機体の同じ箇所であるリアカバー内に設けられるものの、リアカバー16b内に設けられた測位ユニット68と姿勢センサ70によって得られた車両の姿勢に関する情報に基づき、車両10の姿勢に異常が発生しているか否かを判定することを課題とするから、甲1発明と課題が共通しない。
そして、甲2~甲4、甲6~甲8についても、少なくとも受信装置と、慣性計測装置とが、走行機体の前部に設けられたボンネットの上方を延びるフレームという「同じ箇所」に配置されているものではない。
一方、本願特許発明1は、走行機体の前部に設けられたボンネットの上方を延びるフレームという同じ箇所に受信装置と慣性計測装置が支持される構成を備えることにより、受信装置から取得される位置情報と実際の自機位置とのズレを生じさせず作業を正確に行うことができるという効果を奏するものと認められる。
よって、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2~甲8に記載された周知技術に基づいて当業者が容易になし得るものではない。
(3)申立人の主張について
申立人は、『甲2号証、甲第4号証~甲8号証には、「GPS衛星からの信号を受信する受信装置と、慣性計測装置とが、同じ箇所に配置されている」構成(構成C2)が開示されており、構成C2は周知慣用な技術である。(以下「主張1」という)。
・・・(中略)・・・GPSの測位結果を、慣性計測装置の計測結果で補正して精度を高めることは、甲3号証~甲第8号証に記載されているように周知慣用な技術である(以下「主張2」という)。』と主張している。
(特許異議申立書の第31頁第17~18行、第32頁第4~18行)
上記主張1、2について検討する。
まず、主張1について検討する。
甲2号証、甲4号証、甲6~8号証からすると、GPS衛星からの信号を受信する受信装置と、慣性計測装置とが、車両に配置されるものの、走行機体の前部に設けられたボンネットの上方を延びるフレームという「同じ箇所」に配置されていることが記載も示唆もされていない。
また、甲5号証は、受信装置と、慣性計測装置とが、走行機体の同じ箇所であるリアカバー内に設けられるものであり、甲5号証のみから、受信装置と、慣性計測装置とが、フレームという「同じ箇所」に支持されていることが周知慣用な技術とはいえない。
次に、主張2について検討する。
甲1発明においては、目標経路と実際の走行経路のズレ量(目標経路に対し右側に機体が変位している場合や、目標経路方向と機体の進行方向とが一致している場合のズレ量)を演算し、目標経路と実際の走行経路にズレが、既に、生じている場合、当該ズレを修正することを課題とするものといえる(【0039】)ところ、移動局ユニットのうちGPSアンテナから信号を処理し記憶する機能を有する部分を走行機体における取付フレームに、また傾斜センサを座席の背もたれの下方に、支持するという構成を採用することにより、上記課題を解決しているものであるから、受信装置から取得される位置情報と実際の自機位置とのズレを発生させないようにするという本件特許発明1の課題を解決する必要性が甲1発明にはそもそも存在しないから、甲1発明には本件特許発明1とする動機付けがない。
また、甲3~甲8記載技術は、何れも甲1発明と課題が共通していないから、甲1発明に、甲3号証~甲第8号証を適用する動機付けが存在しない。
よって、申立人の上記主張1、2を考慮しても前記(2)の判断を変更すべき事情がない。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないので、特許法第113条第2号に該当せず、特許異議申立理由によって、取り消されるべきものではない。
2 本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1に、さらに「前記慣性計測装置は、傾きを計測できる」という技術的事項を追加したものである。
ここで、甲1発明において「傾斜センサ123」は、田植機の傾きを測定可能なものであって、田植機の運動時における挙動を計測するものといえるから、本件特許発明2と甲1発明は、「慣性計測装置は、傾きを計測できる」点において一致する。
してみると、本件特許発明2と甲1発明とは、上記1(1)で示した一致点及び相違点に係る構成を有するものである。
したがって、上記1(2)に示した理由と同様の理由により、本件特許発明2は、上記甲1発明及び甲2~甲8発明に記載された周知技術に基づいて当業者が容易になし得るものではない。
以上のとおり、本件特許発明2は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないので、特許法第113条第2号に該当せず、特許異議申立理由によって、取り消されるべきものではない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700047