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特許異議申立

2023-700608

作業車

審判番号
2023-700608
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-053485
登録番号
7192018
請求日
2023年06月09日
審決日
2024年05月20日
公報発行日
2024年08月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社クボタ
  • 【権利者代理人】弁理士法人R&C
  • 【異議申立人】堀内 志穂
審判長/審判官
  • 審判長 居島 一仁
  • 審判官 有家 秀郎
  • 審判官 西田 秀彦
分類
P1651.851-YAA(A01B) / P1651.121-YAA(A01B) / P1651.537-YAA(A01B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7192018号発明「作業車」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7192018号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第7192018号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7192018号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、平成29年3月14日に出願された特願2017-48682号の一部を、令和3年3月26日に新たな特許出願としたものであって、令和4年12月9日に設定登録がされ、同月19日に特許掲載公報が発行された。 これに対し、特許異議申立人 堀内 志穂(以下「申立人」という。)より、令和5年6月9日に、特許異議申立書(以下「申立書」という。)が提出され、本件特許の請求項1ないし3に係る特許に対して、特許異議の申立てがされた。 その後の経緯は、次のとおりである。 令和5年 8月25日付け: 取消理由通知書 同年10月26日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の 提出 同年12月 6日 : 申立人による意見書の提出 令和6年 1月15日付け: 取消理由通知書(決定の予告) 同年 3月14日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の 提出 同年 4月23日 : 申立人による意見書の提出 なお、令和5年10月26日にされた訂正の請求は、令和6年3月14日に新たな訂正の請求がされたことにより、取り下げられたものとみなす(特許法120条の5第7項)。 第2 訂正の適否 1 訂正請求の趣旨と訂正の内容 令和6年3月14日付け訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許第7192018号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は以下のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。) ・訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「 走行機体を走行させる走行装置と、 対地作業を行うことが可能な作業装置と、 測位情報に基づいて目標ラインに沿って前記走行機体を走行させるように前記走行装置を自動操向する自動操向オン状態と、前記走行装置を自動操向しない自動操向オフ状態と、を切り換え可能な自動操向制御部と、 前記自動操向制御部を前記自動操向オフ状態から前記自動操向オン状態へ手動操作に基づいて切り換え可能な切換操作具と、 前記作業装置による対地作業に不適な条件の存否を判定する判定部と、を備え、 前記自動操向オフ状態において前記切換操作具に対する手動操作が行われた際に、前記判定部により前記条件が存在しないと判定されることにより、前記自動操向制御部が前記自動操向オン状態となり自動操向制御が開始される作業車。」と記載されているのを、 「 走行機体を走行させる走行装置と、 対地作業を行うことが可能な作業装置と、 測位情報に基づいて目標ラインに沿って前記走行機体を走行させるように前記走行装置を自動操向する自動操向オン状態と、前記走行装置を自動操向しない自動操向オフ状態と、を切り換え可能な自動操向制御部と、 前記自動操向制御部を前記自動操向オフ状態から前記自動操向オン状態へ手動操作に基づいて切り換え可能な切換操作具と、 前記作業装置による対地作業に不適な条件の存否を判定する判定部と、を備え、 前記不適な条件として複数の条件が設定され、 前記不適な条件が、前記目標ラインに沿った目標方位と前記走行機体の進行方向である自機方位とのズレ量が所定以上であることを含み、且つ、 前記不適な条件が、前記作業装置が上昇非作業位置であること、及び、前記走行機体の車速を所定以上としうる変速状態となっていることのうちの少なくともいずれか一つを含み、 前記自動操向オフ状態において前記切換操作具に対する手動操作が行われた際に、前記判定部により前記複数の条件のうちのいずれの条件も存在しないと判定されることにより、前記自動操向制御部が前記自動操向オン状態となり自動操向制御が開始される作業車。」 に訂正する。 (請求項1の記載を引用する請求項2~3も同様に訂正する) 2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無、訂正の単位、及び独立特許要件について (1)訂正の目的について 訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1に係る発明において、「前記作業装置による対地作業に不適な条件」について、「複数の条件が設定され」ること、及び、「前記不適な条件が、前記目標ラインに沿った目標方位と前記走行機体の進行方向である自機方位とのズレ量が所定以上であることを含み、且つ、前記不適な条件が、前記作業装置が上昇非作業位置であること、及び、前記走行機体の車速を所定以上としうる変速状態となっていることのうちの少なくともいずれか一つを含」むことを限定するとともに、「判定部」による「前記条件が存在しない」という「判定」について、「前記複数の条件のうちのいずれの条件も存在しない」という「判定」であることを限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 上記(1)で説示したとおり、訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1に係る発明について限定を行うものであり、発明のカテゴリーや対象又は目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)新規事項の有無について 願書に添付した明細書には、次の記載がある。 「【0066】 〔自動操向のオンオフの切り換えについて〕 図6に示すように、自動操向オフ状態の場合に、切換操作具50が操作されると(♯1:はい)、対地作業に不適な条件の有無が判定される(♯2)。対地作業に不適な条件としては、苗植付装置Wが上昇非作業状態であること、走行機体Cの旋回完了後に所定の走行距離を走行していないこと、目標ラインLMに沿った目標方位と走行機体Cの進行方向である自機方位NAとのズレ量が所定量以上であること、走行機体Cの車速を所定値以上としうる変速状態となっていること等が含まれている。対地作業に不適な条件が存在しない場合(♯2;いいえ)、自動操向オン状態に切り換えられる(♯4)。一方、対地作業に不適な条件が存在する場合(♯2;はい)、自動操向オフ状態が維持されると共に、オペレータに自動操向不可の旨が報知される(♯3)。その後、対地作業に不適な条件が存在しなくなってから、切換操作具50が操作されると(♯2;はい)、自動操向オフ状態から自動操向オン状態に切り換わる(♯4)。 ・・・・ 【0071】 (2)上記実施形態では、対地作業に不適な条件として、苗植付装置Wが上昇非作業状態であることが含まれているものを例示しているが、これに限られない。例えば、対地作業に不適な条件に、苗植付装置Wが上昇非作業状態であることが含まれていなくてもよい。 【0072】 (3)上記実施形態では、対地作業に不適な条件として、走行機体Cの旋回完了後に所定の走行距離を走行していないことが含まれているものを例示しているが、これに限られない。例えば、対地作業に不適な条件として、走行機体Cの旋回完了後に所定の走行距離を走行していないことが含まれていなくてもよい。 【0073】 (4)上記実施形態では、対地作業に不適な条件として、走行機体Cの車速を所定値以上としうる変速状態となっていることが含まれているものを例示しているが、これに限られない。例えば、対地作業に不適な条件として、走行機体Cの車速を所定値以上としうる変速状態となっていることが含まれていなくてもよい。」 上記段落【0066】の記載より、「対地作業に不適な条件」として「有無」が判定される条件が複数設けられること、及び、複数設けられた「対地作業に不適な条件」が「存在しない」と判定された場合に、「自動操向オン状態に切り換えられる」ことが示されている。 したがって、訂正事項1による訂正のうち、「対地作業に不適な条件として複数の条件が設定され」、「前記複数の条件のうちいずれの条件も存在しない」と判定されることにより「自動操向オン状態」となることとした点は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「願書に添付した明細書等」という。)に記載されたすべての事項に対して、新たな技術的事項を追加するものではない。 また、上記段落【0066】の記載より、「対地作業に不適な条件」として、「苗植付装置Wが上昇非作業状態であること」、「走行機体Cの旋回完了後に所定の走行距離を走行していないこと」、「目標ラインLMに沿った目標方位と走行機体Cの進行方向である自機方位NAとのズレ量が所定量以上であること」、及び「走行機体Cの車速を所定値以上としうる変速状態となっていること」が示されたうえで、段落【0071】-【0073】の記載より、「苗植付装置Wが上昇非作業状態であること」、「走行機体Cの旋回完了後に所定の走行距離を走行していないこと」、及び「走行機体Cの車速を所定値以上としうる変速状態となっていること」については、「対地作業に不適な条件」として「含まれていなくてもよい」ことが示されている。 上記段落【0066】及び段落【0071】-【0073】の記載を総合すれば、例示された複数の条件のうち、ある一つの条件を「含む」ものとし、かつ、条件とすることに関して任意性が言及された一部の条件については「少なくともいずれか一つを含」むものとすることは、導出できた事項であり、新たな技術的事項を追加するものとはいえない。 したがって、訂正事項1による訂正のうち、「前記不適な条件が、前記目標ラインに沿った目標方位と前記走行機体の進行方向である自機方位とのズレ量が所定以上であることを含み、且つ、 前記不適な条件が、前記作業装置が上昇非作業位置であること、及び、前記走行機体の車速を所定以上としうる変速状態となっていることのうちの少なくともいずれか一つを含」むことを特定した点は、願書に添付した明細書等に記載されたすべての事項に対して、新たな技術的事項を追加するものではない。 よって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (4)独立特許要件について 本件においては、訂正前の全ての請求項1ないし3について、特許異議の申立てがされているので、訂正事項1において、請求項1ないし3について、特許請求の範囲の減縮が行われていても、訂正の適否の要件として、訂正後の請求項1ないし3に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (5)訂正の単位について 本件訂正前の請求項1ないし3について、請求項2及び3は請求項1を直接又は間接的に引用しているから、本件訂正前の請求項1ないし3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 したがって、訂正事項1により、本件訂正前の請求項1ないし3に係る発明についてする本件訂正は、一群の請求項1ないし3に係る発明について、訂正をするものである。 (6)申立人の意見における主張について 申立人は、令和6年4月23日付け意見書において、本件訂正後の請求項1において、対地作業に不適な条件に関して、 (A)前記目標ラインに沿った目標方位と前記走行機体の進行方向である自機方位とのズレ量が所定以上であること。 (B)前記作業装置が上昇非作業位置であること。 (C)前記走行機体の車速を所定以上としうる変速状態となっていること。 のうち、(B)と(C)について「少なくともいずれか1つ」とすることは、複数の条件を単に列記する明細書の段落【0053】等の記載から導出されないから、新規事項の追加である旨を主張している(同意見書第1頁下から11行-第3頁第16行)。 しかしながら、願書に添付された明細書等の段落【0066】に記載された上記条件(A)、(B)及び(C)のうち、条件(A)を「含」むものとし、かつ、段落【0071】及び【0073】で「不適な条件として・・・含まれていなくてもよい」ことが記載された条件(B)及び条件(C)について、「少なくともいずれか一つを含」むものとすることは、上記(3)で指摘したとおり、願書に添付された明細書等に記載されたすべての事項に対して、新たな技術的事項を追加するものではない。 したがって、申立人による上記主張を考慮しても、本件訂正について、上記(1)~(6)の判断を変更すべき事情は見いだせない。 3 小括 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであって、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-3〕について、本件訂正を認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められたので、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、各々を「本件発明1」等といい、請求項1ないし3に係る発明をまとめて「本件発明」という。)は、令和6年3月14日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の、請求項1ないし3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 走行機体を走行させる走行装置と、 対地作業を行うことが可能な作業装置と、 測位情報に基づいて目標ラインに沿って前記走行機体を走行させるように前記走行装置を自動操向する自動操向オン状態と、前記走行装置を自動操向しない自動操向オフ状態と、を切り換え可能な自動操向制御部と、 前記自動操向制御部を前記自動操向オフ状態から前記自動操向オン状態へ手動操作に基づいて切り換え可能な切換操作具と、 前記作業装置による対地作業に不適な条件の存否を判定する判定部と、を備え、 前記不適な条件として複数の条件が設定され、 前記不適な条件が、前記目標ラインに沿った目標方位と前記走行機体の進行方向である自機方位とのズレ量が所定以上であることを含み、且つ、 前記不適な条件が、前記作業装置が上昇非作業位置であること、及び、前記走行機体の車速を所定以上としうる変速状態となっていることのうちの少なくともいずれか一つを含み、 前記自動操向オフ状態において前記切換操作具に対する手動操作が行われた際に、前記判定部により前記複数の条件のうちのいずれの条件も存在しないと判定されることにより、前記自動操向制御部が前記自動操向オン状態となり自動操向制御が開始される作業車。 【請求項2】 前記自動操向オン状態において、前記作業装置が下降作業状態から上昇非作業状態に切り換えられると、前記自動操向制御部が前記自動操向オフ状態に切り換えられる請求項1に記載の作業車。 【請求項3】 前記自動操向オン状態において、ステアリングハンドルの切れ角が所定角度以上になると、前記自動操向制御部が前記自動操向オフ状態に切り換えられる請求項1又は2に記載の作業車。」 第4 証拠方法、特許異議申立理由の概要、及び先の取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由の概要 1 証拠一覧 申立人が提示する証拠は、以下のとおりである。なお、以下では甲第1号証、甲第2号証等を、それぞれ「甲1」、「甲2」等という。 甲1: 特開2016-24541号公報 (平成28年2月8日公開) 甲2: 特開2007-60982号公報 (平成19年3月15日公開) 2 特許異議申立理由の概要 申立人が申立書において主張する特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。 (甲1を主たる証拠とした進歩性欠如) 請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。 請求項2及び請求項3に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、これらの発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきである。 3 先の取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由の概要 本件訂正前(当審注;令和5年10月26日にされた訂正の請求後)の請求項1ないし3に係る特許に対して、当審が令和6年1月15日付けの取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由(以下、単に「取消理由通知に記載した取消理由」という。)の概要は、次のとおりである。 (甲1を主たる証拠とした進歩性欠如) 請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。 請求項2及び請求項3に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、これらの発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきである。 第5 当審の判断 事案に鑑み、甲1を主たる理由とした進歩性欠如の特許異議申立理由及び取消理由通知に記載した取消理由について判断し(後記1及び2)、その後に、申立人が令和6年4月23日提出の意見書において主張する、進歩性欠如以外の特許要件に関する主張について、判断する(後記3)。 1 先行技術文献の記載等 (1)甲1 ア 記載事項 甲1には、次の記載がある(下線は、当審において付した。以下、同様。)。 (ア)「【0011】 本発明による走行作業機及びそれに用いられる自動操舵システムの具体的な実施形態を説明する前に、図1から図4を用いて、本発明の基本原理を説明する。図1では、本発明を特徴付けている基本的な機能が、機能ブロック図の形で示されている。図2と図3とでは、基準経路と目標走行経路とを生成する技術が模式的に示されている。図4は走行機体1の向きを考慮した、人為操舵から自動操舵への移行制御の基本的な流れが示されている。ここでは、走行作業機として、田植機や播種機(直播機とも呼ばれる)などの直線またはほぼ直線状の作業走行を繰り返す植播系圃場作業機が想定されている。この作業機は、圃場を自走する走行機体1と、走行機体1の後部に昇降可能に取り付けられている圃場作業装置2とからなる。この作業機には、特に本発明に関係する制御系として、測位データを出力する測位ユニット5、状態検出手段6、機器制御ユニット7、演算制御ユニット8が備えられている。これらの測位ユニット5、状態検出手段6、機器制御ユニット7、演算制御ユニット8は車載LANで接続されており、相互にデータ交換可能である。演算制御ユニット8からの指令に基づいて機器制御ユニット7は、走行機体1や圃場作業装置2に装備された動作機器に対して、油圧制御信号や電子制御信号を与えるものである。」 (イ)「【0014】 演算制御ユニット8には、オペレーションプログラムやアプリケーションブログラムや各種データを格納する情報格納部80、基準経路生成部81aを含む経路算定部81、操舵データ出力部82、自動操舵部83、向き算定部84、自動操舵管理部85が構築されている。情報格納部80には、作業対象となっている圃場の地図位置や当該圃場の境界線を規定する畦の位置データなどの圃場情報や、実施されるべき圃場作業に関する機器設定データ、例えば作業幅などの作業情報が格納可能である。」 (ウ)「【0019】 なお、この植播系圃場作業機の走行経路として、圃場作業装置2を用いて圃場作業(田植や播種など)を行いながら長い距離を直進走行する走行経路(直線状走行経路)と、その走行経路の端部で行われる圃場作業を伴わないで方向転換走行(180°旋回)するために人為操舵される走行経路(方向転換非作業走行経路)が設定される。ここでは、基準経路を生成するために、人為操舵での作業走行を経て、枕地でUターン旋回を行った後、走行機体1は、最初の目標走行経路に対して、自動操舵で走行することになる。その際、操舵データ出力部82は、測位ユニット5から得られた測位データ(自機の位置と向き)と走行すべき目標走行経路とから、操舵データを生成して、自動操舵部83に出力する(図2のステップ#06参照)。自動操舵部83は、操舵データに基づいて目標走行経路に沿うように、機器制御ユニット7を介して、走行機体1を自動操舵する(図2のステップ#07参照)。」 (エ)「【0021】 向き算定部84は、測位ユニット5からの測位データに基づいて目標走行経路に対する走行機体1の向きを算定する。自動操舵管理部85は、人為操舵による走行中から自動操舵による走行への移行において、向き算定部84で算定された走行機体1の向きが所定の許容範囲を超えている限り、自動操舵走行への移行を禁止する機能と、人為操舵走行で目標走行経路に進入した前記走行機体の向きが許容範囲内であれば、人為操舵走行から自動操舵に自動的に移行させる許可機能とを有する。以下、この2つの機能を統合させた形で、本発明の基本原理を図1と図4を用いて説明する。」 (オ)「【0023】 ここで、向き算定部84は、設定されている目標走行経路の向きと位置のデータ、及び測位ユニット5から刻々と入力されてくる測位データとから目標走行経路に対する走行機体1の向き:θを算定する(図4のステップ#12参照)。さらに、算定された向き:θが前もって設定されている許容範囲に入るかどうかチェックされる(図4のステップ#13参照)。向き:θが許容範囲に入っていなければ、人為操舵を続行させて、向き:θが許容範囲に入るのを待つ(図4のステップ#14参照)。向き:θが許容範囲に入ると、自動操舵に移行することを許可する(図4のステップ#15参照)。この人為操舵から自動操舵への移行は、その旨の報知とともに自動的に行うのが好ましいが、人為操舵から自動操舵への移行許可だけを報知して、実際の自動操舵への移行は、運転者による対応するボタンやスイッチの操作をトリガーとしてもよい。いずれにしても、自動操舵に移行すれば、操舵データ出力部82が自動操舵部83に操舵データを出力し、自動操舵部83が受け取った操舵データに基づいて、機器制御ユニット7を介して走行機体1を自動操舵する(図4のステップ#16参照)。 【0024】 なお、直線状の自動操舵により作業走行から手動操舵による枕地旋回走行への切り替えは人為的な操作をトリガーとして実行されてもよいし、状態検出手段6からの状態信号に基づいて自動的に行われる構成を採用してもよい。 【0025】 次に、図面を用いて、本発明による走行作業機の具体的な実施形態の1つを説明する。 この実施形態では、走行作業機は、植播系圃場作業機の一例である乗用田植機として構成されており、基本的には、図1から図4を用いて説明した、本発明の基本原理、及び基本的な制御機能部を備えている。図5は、この実施形態において、圃場作業機の一例として採用された乗用田植機の側面図であり、図6は平面図である。走行機体1は、車体フレーム10の下部に左右一対の前輪11a及び左右一対の後輪11bを備えている。走行機体1の後部に、粉粒体タンク12aが備えられた粉粒体供給装置12が配備されている。走行機体1の後方に、車体横方向に並んだ6つの苗植付機構21、及び車体横方向に並んだ6つの粉粒体供給部22が備えられた水田作業装置2が連結されている。つまりこの実施形態では、圃場作業装置2として水田作業装置2が走行機体1に支持されている。この乗用田植機は、水田作業装置2を下降作業状態に下降させた状態で走行機体1を走行させることにより、苗植作業と施肥作業とを行うものである。」 (カ)「【0041】 図8に模式的に示されているだけであるが、ステアリングハンドル33bと、前輪11aとは、電動パワーステアリング装置40を介して連動連結している。詳述すると、ステアリングハンドル33bのハンドルシャフト41には、ステアリングハンドル33bの回動トルクを検出するトルクセンサ42が設けられている。このトルクセンサ42の検出結果に基づいてステアリングハンドル33bを回動させるアシスト力を付与するための電動モータ43が電磁クラッチ44及びギヤ機構45を介してハンドルシャフト41に連動連結されている。このハンドルシャフト41と操向輪としての前輪11aとは、図示されていないピットマンアーム、ナックルアーム、タイロッド等の連係機構を介して連動されている。トルクセンサ42の検出信号は、機器制御ユニット7に入力される。機器制御ユニット7は、トルクセンサ42の検出結果等に基づいて制御信号を生成し、モータ制御回路7Aを介して電動モータ43、及び電動モータ43の出力の伝動の入り切りを行う電磁クラッチ44を駆動制御する。なお、自動操舵時には、機器制御ユニット7からの制御信号により、電動モータ43が制御され、トルクセンサ42の検出信号とは関係なく、ステアリングハンドル33bが自動的に操作される。」 (キ)「【0044】 図9には、この乗用田植機に装備されている制御系が示されている。この制御系は、図1から図4を用いて説明された目標経路の算定と、算定された目標走行経路に基づく自動操舵とに関する基本原理を流用している。図9の機能ブロック図には、図1における制御系の機能ブロック図では示されていなかったいくつかの機能部が示されている。例えば、演算制御ユニット8の各機能部とデータ交換可能に接続している、作業設定部86、この乗用田植機を用いた圃場作業に関して運転者に与える種々の支援を管理する運転支援ユニット89、外部から有線または無線等で入力される信号を処理する入力信号処理部65、報知処理ユニット64などである。運転支援ユニット89には、運転者に有益な情報を生成する報知情報生成機能を実現するため、警告報知部89aや表示データ生成部88などが構築されている。」 (ク)「【0051】 運転支援ユニット89が作り出す機能には、走行機体1の操縦支援や水田作業装置2の操作支援だけではなく、圃場作業に必要な資材の補給支援機能も含まれている。乗用田植機において、それ自体は公知であるが、苗や肥料の残量を検出する残量検出ユニット(図示されていない)や資材詰まりなどの資材補給不能を検出する補給不能検出ユニット(図示されていない)が備えられている。運転支援ユニット89は、状態検出手段6を通じて送られてくる資材残量が閾値レベルを下回ると、そのことを報知する。また、運転支援ユニット89は、状態検出手段6を通じて補給不能が検知されると、その旨の報知情報を生成して報知処理ユニット64を通じて報知する。その際、自動操舵がONされておれば、自動操舵の停止を指令し、さらには走行機体1の停止を指令するように構成してもよい。 【0052】 運転支援ユニット89は、目標走行経路の位置情報と自機位置の情報(測位データ)と状態信号(上昇・下降操作状態や植付クラッチの切り・入り操作状態など)とから、目標走行経路の走行時に水田作業装置2が非作業状態であることや目標走行経路外の走行時に水田作業装置2が非作業状態であることを検知することができる。これらのことは異常事態であるので、これを検知すると、運転支援ユニット89は、警告報知部89aの機能を用いて警告を報知する。また、目標走行経路外の走行時には、作業走行ができない旨、つまり植付作業の禁止を報知することも有益である。 【0053】 さらに、運転支援ユニット89は、向き算定部84からの得られる実機の向き(走行機体1の目標走行経路に対する角度)や目標走行経路からの位置ずれに基づいて走行機体1の向きが許容角度を超えている場合や、走行機体1の位置ずれが許容距離を超えている場合には、警告報知部89aの機能を用いてその旨の警告を報知すること可能である。」 (ケ)「【0055】 演算制御ユニット8に構築されている、情報格納部80、基準経路生成部81aを含む経路算定部81、操舵データ出力部82、自動操舵部83、向き算定部84、自動操舵管理部85、表示データ生成部88、警告報知部89aの機能説明は、図1から図4を用いて説明された内容が援用される。その要点だけを繰り返すと、水田作業装置2を用いて苗植付作業を行うにあたって、最初の人為操舵による苗植付作業走行時に、基準経路生成部81aは、水田作業装置2の下降操作に基づいて作業走行の開始を表す作業開始イベントを検知し、枕地に達することによる水田作業装置2の上昇操作に基づいて作業走行の終了を表す作業終了イベントを検知する。さらに、基準経路生成部81aは、作業開始イベントが行われた自機位置と作業終了イベントが行なわれた自機位置とから基準経路を生成する。経路算定部81は、当該基準経路に基づいて、その以降の目標走行経路を算定する。したがって、運転者は、最初の作業走行だけを手動操作で行えば、枕地での非作業旋回走行を除いて、実質的には直線状の目標走行経路に沿った作業走行は自動操舵に委ねることができる。そして、その人為操舵による非作業旋回走行から自動操舵による作業走行への移行時に生じやすい制御ハンチング等の不都合を回避するため、自動操舵管理部85は、走行機体1の向きが所定の許容範囲に入るまで、自動操舵への移行を中断させる。その際、運転者は、図10に例示するディプレイ64aの画面100を見ながら人為操舵を続け、走行機体1の向きが、必要の場合は走行機体1と目標走行経路との距離も、所定の許容範囲に入るように操縦する。 【0056】 なお、自動操舵での直線状の作業走行中に何らかの要因で、緊急避難的に作業走行経路を外れなければならないことが起こり得る。そのような時には、ステアリングハンドル33bの操作量、軸トルク、前輪切れ角などは自動制御時にはあり得ない異常値になる。このことを利用して、そのような異常値が生じた場合、自動操舵管理部85は、自動操舵部83に自動操舵の動作停止を中断する指令を与えることができる。これにより、異常時の迅速な処理が可能となる。」 イ 記載された発明 上記アより、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 <甲1発明> 「走行機体1と、走行機体1の後部に昇降可能に取り付けられている圃場作業装置2とからなり、(段落【0011】) 走行機体1は、操向輪としての前輪11aと、後輪11bとを備え、(段落【0025】、【0041】) 測位データを出力する測位ユニット5、状態検出手段6、機器制御ユニット7、演算制御ユニット8が備えられている、作業機であって、(段落【0011】) 走行経路として、圃場作業装置2を用いて圃場作業を行いながら長い距離を直進走行する走行経路(直線状走行経路)と、圃場作業を伴わないで方向転換走行するために人為操舵される走行経路(方向転換非作業走行経路)が設定され、(【0019】) 演算制御ユニット8が有する自動操舵部83は、自動操舵で走行する際、測位ユニット5から得られた測位データと走行すべき目標走行経路とから生成される操舵データに基づいて、目標走行経路に沿うように走行機体1を自動操舵し、(段落【0014】、【0019】) 演算制御ユニット8が有する自動操舵管理部85は、人為操舵による走行中から自動操舵による走行への移行において、目標走行経路に対する走行機体1の向きが所定の許容範囲を超えている限り、自動操舵走行への移行を禁止する機能と、人為操舵走行で目標走行経路に進入した前記走行機体の向きが許容範囲内であれば、人為操舵走行から自動操舵に移行させる許可機能とを有し、(段落【0014】、【0021】) 人為操舵から自動操舵への移行許可だけを報知して、実際の自動操舵への移行は、運転者による対応するボタンやスイッチの操作をトリガーとしてもよく、(段落【0023】) 直線状の自動操舵による作業走行から手動操舵による枕地旋回走行への切り替えは、人為的な操作をトリガーとして実行されてもよいし、状態検出手段6からの状態信号に基づいて自動的に行われる構成を採用してもよく、(段落【0024】) 演算制御ユニット8の運転支援ユニット89は、状態検出手段6を通じて圃場作業に必要な資材の補給不能が検知され報知する際、自動操舵がONされておれば、自動操舵の停止を指令してもよく、(段落【0044】、【0051】) 演算制御ユニット8の運転支援ユニット89は、上昇・下降操作状態から、目標走行経路の走行時に水田作業装置2が非作業状態であることや目標走行経路外の走行時に水田作業装置2が非作業状態であることを検知すると、警告を報知し、(段落【0044】、【0052】) 運転支援ユニット89は、走行機体1の向きが許容角度を超えている場合や、走行機体1の位置ずれが許容距離を超えている場合には、警告を報知し、(段落【0053】) 人為操舵による非作業旋回走行から自動操舵による作業走行への移行時に生じやすい制御ハンチング等の不都合を回避するため、自動操舵管理部85は、走行機体1の向きが所定の許容範囲に入るまで、自動操舵への移行を中断させ、その際、運転者は、人為操舵を続け、走行機体1の向きが、必要の場合は走行機体1と目標走行経路との距離も、所定の許容範囲に入るように操縦し、(段落【0055】) 自動操舵での直線状の作業走行中に、作業走行経路を外れなければならないことが起こり、ステアリングハンドル33bの操作量が自動制御時にはあり得ない値になった場合、自動操舵管理部85は、自動操舵部83に自動操舵を中断する指令を与える、(段落【0056】)、 作業機。(段落【0011】)」 (2)甲2 甲2には、次の記載がある。 ア「【0010】 この発明の実施例を図面に基づき説明する。 図1は、作業車両の一例である乗用型トラクタを示すものであり、このトラクタ車体1前部のボンネット2内にエンジンEを搭載し、このエンジンEの回転動力をミッションケ-ス3内の変速装置に伝え、この変速装置で減速された回転動力を前輪4と後輪5とに伝えるようにしている。ステアリングハンドル6はこれの旋回操作によって左右の前輪4,4を操向操舵する構成としている。該ハンドル6の前側に操作ボックス7を、後方には運転席8を設置している。 【0011】 前記ミッションケ-ス3の上部には油圧シリンダケ-ス9が設けられ、この油圧シリンダケ-ス9の左右両側にリフトア-ム10を回動自在に枢着している。油圧シリンダケ-ス9内にはロ-タリ作業機Rを昇降させる昇降アクチュエータ11として油圧昇降シリンダが具備されている。油圧昇降シリンダ11内に昇降バルブ12を介して作動油を供給するとリフトア-ム10が上昇回動し、油圧昇降シリンダ11内の作動油を昇降バルブ12を介して排出するとリフトア-ム10は下降するようになっている。13は作業機昇降用ポジションレバ-である。前記ロ-タリ作業機Rは、車体に対しトップリンク16やロアリンク17等の三点リンク機構を介して連結され、前記リフトア-ム10とロアリンク17とはリフトロッド18によって連結されている。 【0012】 車体1には、車体の進路を検出するためのセンサ21としての画像認識装置(例えば、ステレオ画像処理機構を用いて畝、畦の形状を検出する装置)が搭載されてあり、この画像認識装置21の出力信号が制御手段23としてのコントローラに入力されるようになっている。コントロ-ラ23の出力側には、画像認識装置21による進路検出結果に基づき、機体を操向操舵するための操向アクチュエータ25として操舵装置24を自動コントロールする操舵コントローラが接続されて自動操縦可能に設けられている。具体的には、左右の後車軸に油圧ブレーキ機構を構成し、このブレーキ機構に比例電磁バルブの通電によって圧油供給量を無段に変更制御しながら、所定の制動力を付与することによって、緩旋回から急旋回を実現できる構成としており、上記通電による電流制御を構成するものである。」 イ「【0014】 また、前記ステアリングハンドル6には、このハンドルによる人為的操向操作を検出するステアリングセンサ26が設けられており、この検出信号がコントローラ23に入力されるようになっている。そして、前記コントローラ23にはタイマー装置Tが具備され、前記ステアリングセンサ26が人為的操向操作を検出したときには、前記タイマー装置Tにより所定時間(2~3秒)にわたって自動操縦を停止し、手動で操縦できるように構成されている。所定時間経過後は自動操縦に自動復帰するようになっている。 【0015】 また、前記コントローラ23には、上記自動操縦時において、ポジションレバー13によって作業機Rを上昇操作したときには、リフトアーム角センサ27の作動により前記自動操向を停止(自動制御「切」とする)し、同作業機Rを下降したときには、リフトアーム角センサ27の作動で再度自動操向を復帰させる(一定時間後自動「入」とする)制御手段が備えられている。」 2 対比・判断 (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と、甲1発明とを対比する。 甲1発明において、「作業機」が「走行機体1」を有し、「走行機体1は、操向輪としての前輪11aと、後輪11bとを備え」る構成は、本件発明1において、「作業車」が「走行機体を走行させる走行装置」を備える構成に、相当する。 甲1発明において、「作業機」が「走行機体1の後部に昇降可能に取り付けられている圃場作業装置2」を有する構成は、本件発明1において、「作業車」が「対地作業を行うことが可能な作業装置」を備える構成に、相当する。 甲1発明において、「演算制御ユニット8が有する自動操舵部83」は、本件発明1において、「自動操向制御部」に、相当する。 甲1発明において、「演算制御ユニット8が有する自動操舵部83」により、「自動操舵で走行する際、測位ユニット5から得られた測位データと走行すべき目標走行経路とから生成される操舵データに基づいて、目標走行経路に沿うように走行機体1を自動操舵」される状態は、本件発明1において、「測位情報に基づいて目標ラインに沿って前記走行機体を走行させるように前記走行装置を自動操向する自動操向オン状態」に、相当する。 甲1発明において、「人為操舵による走行中」である「人為操舵走行」の状態は、本件発明1において、「前記走行装置を自動操向しない自動操向オフ状態」に、相当する。 甲1発明において、「自動操舵部83」により「自動操舵で走行」する状態と、「人為操舵走行」の状態とが「移行」する構成は、本件発明1において、「自動操向制御部」が「自動操向オン状態」と「自動操向オフ状態」とを「切り換え可能」である構成に、相当する。 甲1発明において、「実際の自動操舵への移行」について、「運転者による」「操作をトリガー」とする、「対応するボタンやスイッチ」は、本件発明1において、「前記自動操向制御部を前記自動操向オフ状態から前記自動操向オン状態へ手動操作に基づいて切り換え可能な切換操作具」に、相当する。 甲1発明において、「人為操舵による走行中から自動操舵による走行への移行において、目標走行経路に対する走行機体1の向きが所定の許容範囲を超えている限り、自動操舵走行への移行を禁止する機能」を有する、「演算制御ユニット8が有する自動操舵管理部85」は、「圃場作業装置2を用いて圃場作業を行いながら長い距離を直進走行する走行経路(直線状走行経路)」について「直線状の自動操舵による作業走行」を行うことを踏まえると、「圃場作業装置2を用いて圃場作業を行」う「自動操舵による作業走行」について「走行機体1の向きが所定の許容範囲を超えている」ことを判定したうえで「自動操舵走行への移行を禁止」していることが明らかであるから、本件発明1において、「前記作業装置による対地作業に不適な条件の存否を判定する判定部」に、相当する。 甲1発明において、「運転者による対応するボタンやスイッチの操作をトリガー」として、「実際の自動操舵への移行」がなされる構成と、本件発明1において、「前記自動操向オフ状態において前記切換操作具に対する手動操作が行われた際に、前記判定部により前記複数の条件のうちのいずれの条件も存在しないと判定されることにより、前記自動操向制御部が前記自動操向オン状態となり自動操向制御が開始される」構成とは、「前記自動操向オフ状態において前記切換操作具に対する手動操作が行われた際に、前記自動操向制御部が前記自動操向オン状態となり自動操向制御が開始される」点で、共通する。 甲1発明において、「作業機」は、本件発明1において、「作業車」に、相当する。 以上を整理すると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致する。 「走行機体を走行させる走行装置と、 対地作業を行うことが可能な作業装置と、 測位情報に基づいて目標ラインに沿って前記走行機体を走行させるように前記走行装置を自動操向する自動操向オン状態と、前記走行装置を自動操向しない自動操向オフ状態と、を切り換え可能な自動操向制御部と、 前記自動操向制御部を前記自動操向オフ状態から前記自動操向オン状態へ手動操作に基づいて切り換え可能な切換操作具と、 前記作業装置による対地作業に不適な条件の存否を判定する判定部と、を備え、 前記自動操向オフ状態において前記切換操作具に対する手動操作が行われた際に、前記自動操向制御部が前記自動操向オン状態となり自動操向制御が開始される作業車。」 そして、本件発明1と甲1発明とは、次の点で相違する。 <相違点1> 「切換操作具に対する手動操作が行われた際」の「自動操向制御」の開始に関し、 本件発明1においては、「前記作業装置による対地作業に不適な条件」として「複数の条件が設定され、前記不適な条件が、前記目標ラインに沿った目標方位と前記走行機体の進行方向である自機方位とのズレ量が所定以上であることを含み、且つ、前記不適な条件が、前記作業装置が上昇非作業位置であること、及び、前記走行機体の車速を所定以上としうる変速状態となっていることのうちの少なくともいずれか一つを含」むことが特定されたうえで、「前記自動操向オフ状態において前記切換操作具に対する手動操作が行われた際に、前記判定部により前記複数の条件のうちのいずれの条件も存在しないと判定されることにより、前記自動操向制御部が前記自動操向オン状態となり自動操向制御が開始される」ことが特定されているのに対し、 甲1発明においては、そのように特定されていない点。 イ 相違点についての判断 上記相違点1について判断する。 (ア)相違点1に係る構成の技術的意義 上記相違点1に係る本件発明1の構成に関し、本件明細書及び図面には、以下の記載及び図示がある。 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかし、上記従来の技術では、作業装置による対地作業に不適な条件が存在している場合であっても、切換操作具が手動操作されると、自動操向オフ状態から自動操向オン状態となって自動操向制御が実行されるようになっている。このため、例えば、切換操作具の誤操作により、不適切な状況下で自動操向制御が実行されるおそれがあった。 【0005】 上記実情に鑑み、本発明の目的は、不適切な状況下で自動操向制御が実行されることを回避できる作業車を提供することにある。」 「【0066】〔自動操向のオンオフの切り換えについて〕 図6に示すように、自動操向オフ状態の場合に、切換操作具50が操作されると(♯1:はい)、対地作業に不適な条件の有無が判定される(♯2)。対地作業に不適な条件としては、苗植付装置Wが上昇非作業状態であること、走行機体Cの旋回完了後に所定の走行距離を走行していないこと、目標ラインLMに沿った目標方位と走行機体Cの進行方向である自機方位NAとのズレ量が所定量以上であること、走行機体Cの車速を所定値以上としうる変速状態となっていること等が含まれている。対地作業に不適な条件が存在しない場合(♯2;いいえ)、自動操向オン状態に切り換えられる(♯4)。一方、対地作業に不適な条件が存在する場合(♯2;はい)、自動操向オフ状態が維持されると共に、オペレータに自動操向不可の旨が報知される(♯3)。その後、対地作業に不適な条件が存在しなくなってから、切換操作具50が操作されると(♯2;はい)、自動操向オフ状態から自動操向オン状態に切り換わる(♯4)。」 「 [図:0001413306000001.jpg] 」 上記段落【0066】の記載及び【図6】の図示より、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、「前記自動操向オフ状態において前記切換操作具に対する手動操作が行われた際」に「前記自動操向オン状態となり自動操向制御が開始される」までの、一連の処理に係る構成であると理解される。 また、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、「前記自動操向オフ状態において前記切換操作具に対する手動操作が行われた際」に「前記自動操向オン状態となり自動操向制御が開始される」までの一連の処理として、段落【0004】及び【0005】の記載に示される、切換操作具が手動操作された場合に、不適切な状況下で自動操向制御が実行されることを回避するという発明の課題を解決する、技術的意義を有すると理解される。 (イ)甲1発明に基づく容易想到性 甲1発明が有する、「人為操舵による走行中から自動操舵による走行への移行において、目標走行経路に対する走行機体1の向きが所定の許容範囲を超えている限り、自動操舵走行への移行を禁止する機能」は、「人為操舵から自動操舵への移行許可だけを報知して、実際の自動操舵への移行は、運転者による対応するボタンやスイッチの操作をトリガーとしてもよい」構成を踏まえると、「実際の自動操舵への移行」を「運転者による対応するボタンやスイッチの操作をトリガーとして」行うのに先だって、「人為操舵から自動操舵への移行許可だけを報知」するために利用される位置づけと理解されるから、「運転者による対応するボタンやスイッチの操作」がされた際に、「目標走行経路に対する走行機体1の向きが所定の許容範囲を超えている限り、自動操舵走行への移行を禁止する機能」が働き始めて、禁止条件が解除されることにより自動操舵走行への移行がなされる関係にはない。 また、甲1発明において、「運転者による対応するボタンやスイッチの操作」がされた際に、「目標走行経路に対する走行機体1の向きが所定の許容範囲を超えている」ことを含む、複数の禁止条件が解除されることにより、自動操舵走行への移行がなされる、という処理フローとなっているものでもない。 甲1発明が有する、「演算制御ユニット8の運転支援ユニット89」が、「上昇・下降操作状態から、目標走行経路の走行時に水田作業装置2が非作業状態であることや目標走行経路外の走行時に水田作業装置2が非作業状態であることを検知すると、警告を報知」する機能は、「目標走行経路の走行時」及び「目標走行経路外の走行時」のいずれにおいても「警告を報知」するから、「目標走行経路」上の「自動操舵走行」に関し、「運転者による対応するボタンやスイッチの操作」がされた際に「自動操舵走行への移行」が行われるうえでの不適な条件として、「水田作業装置2が非作業状態であること」を判定するものではない。 そして、甲1発明において、「運転者による対応するボタンやスイッチの操作」がされた際に「自動操舵走行への移行」が行われるうえでの不適な条件として、「目標走行経路に対する走行機体1の向きが所定の許容範囲を超えている」ことを含み、且つ、「水田作業装置2」が「上昇」した「非作業状態であること」及び車速を所定以上としうる変速状態となっていることのうちの少なくともいずれか一つを含む、複数の条件を設定し、設定した複数の条件のうちのいずれの条件も存在しないと判定されることにより、「自動操舵走行への移行」が行われるものとし、もって上記相違点1に係る本件発明1の構成に相当する構成とすることは、「運転者による対応するボタンやスイッチの操作」がされた際に「自動操舵走行への移行」が行われるまでの一連の処理を創設し、かつ、当該一連の処理の中で判定する条件について変更を重ねる必要があるから、動機付けがあったものではなく、当業者が容易に想到できたとはいえない。 したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の構成に至ることは、当業者が容易に想到できたとはいえない。 (ウ)甲2に記載された事項を考慮した容易想到性 甲2には、自動操縦と作業機の上昇に関し、上記1(2)に摘記した事項が記載されており、操舵装置24を自動コントロールする自動操縦可能な作業車両において、自動操縦時に作業機Rを上昇操作したときには、自動操向を停止する、という技術事項が開示されている。 しかしながら、甲1発明において、「水田作業装置2が非作業状態であることを検知すると、警告を報知」する処理は、「目標走行経路の走行時」及び「目標走行経路外の走行時」のいずれにおいても行われるものであるから、上記甲2の記載に示される、作業機の上昇操作がされたときに自動操向を停止する制御を、甲1発明において「運転者による対応するボタンやスイッチの操作」がされた際に、「自動操舵走行への移行」が行われるまでの一連の処理における不適な条件として、適用する動機付けがあるとはいえない。 したがって、甲1発明において、甲2に記載された事項を考慮しても、上記相違点1に係る本件発明1の構成に至ることは、当業者が容易に想到できたとはいえない。 ウ 申立人の意見書における、進歩性に関する主張について (ア)甲1に基づく容易想到性 申立人は、上記相違点1に関し、令和6年4月23日付け意見書において、甲1の段落【0021】に示される「人為操舵による走行中から自動操舵による走行への移行において、目標走行経路に対する走行機体1の向きが所定の許容範囲を超えている限り、自動操舵走行への移行を禁止する機能」及び段落【0052】に示される「水田作業装置2が非作業状態であることを検知すると、警告を報知」する機能から、想到容易である旨を主張している(同意見書第4頁第19行―第6頁第16行)。 しかしながら、上記イ(イ)に示した理由から、上記申立人の主張は採用することができない。 (イ)周知技術に基づく容易想到性 また、申立人は、上記相違点1に関し、上記意見書において、例えば特許第5918162号公報の段落【0040】等の記載から、所定の速度以下で自動操向への切り替えが可能で、所定の速度を超えると自動操向に切り替えられないことは周知技術であるから、甲1発明及び当該周知技術に基づいて、想到容易である旨を主張している(同意見書第6頁第17行-同頁最終行)。 特許第5918162号公報の、段落【0040】及び【0048】の記載は、次のとおりである(下線は当審で付した。)。 「【0040】 次に、各モードへの具体的な移行制御を説明する。 まず、手動操作でトラクタ1を圃場内の作業開始位置に移動する。エンジン3が作動され、機体の走行が停止され、手動走行モード80とした状態において自動走行を開始する場合、制御部30は、自動走行開始条件が満たされているか判断する。つまり、車速が設定速度(この設定速度は急発進しないような遅い速度で、例えば1km/h)以下で、前後進切換レバー22が中立、かつ、クラッチペダル16、ブレーキペダル15、パーキングレバー39が操作されていない、かつ、副変速レバー20が低速位置、かつ、エンジン回転数が設定回転数以上(この設定回転数はエンジン3が作動している最低回転数で、例えば250rpm以上)、かつ、ステアリングハンドル4が直進位置(以下「直進位置」は殆ど旋回しない略直進状態の位置とする)、かつ、トラクタに異常が発生していない状態で、自動・手動切換スイッチ71がオン(自動走行)に切り換えられているかを判断する。この自動走行開始条件(移行条件1)を満たしていると、自動走行準備モード82に移行される。 前記トラクタの異常とは、バッテリの電圧が設定値(最低作動電圧)以下であったり、油圧が設定値(最低作動圧)以下であったり、冷却水の温度が設定値(オーバーヒート水温)以上であったり、センサが反応していない場合等である。 ・・・・・ 【0048】 また、前記自動走行準備モード82になると、制御部30は、エンジン3をアイドル回転に変更し、走行停止制御を行うので、強制的に一旦停止してから自動走行モード81に移行するので、急な変動が生じることがなく、確実に自動走行モード81へ移行ができ、安全性の向上が図れる。」 上記記載より、申立人が挙げる特許第5918162号公報には、手動走行モードから自動走行モードに移行する際には自動走行準備モードを経由し、自動走行準備モードでは強制的に一旦停止する機体について、急発進等の急な変動を防ぐために、自動走行準備モードへの移行について車速を低速とする条件を設ける、という技術事項が開示されているものであるから、「自動操舵走行への移行」に際して一旦停止するものではない甲1発明において、「運転者による対応するボタンやスイッチの操作」がされた際に「自動操舵走行への移行」が行われるうえでの条件として、「目標走行経路に対する走行機体1の向きが所定の許容範囲を超えている限り、自動操舵走行への移行を禁止する機能と、人為操舵走行で目標走行経路に進入した前記走行機体の向きが許容範囲内であれば、人為操舵走行から自動操舵に移行させる許可機能」と併せて適用する動機付けがあったとはいえない。 したがって、上記申立人の主張を考慮しても、相違点1に係る本件発明1の構成について、甲1発明及び申立人が主張する周知技術に基づいて、想到容易ということはできない。 エ 小括 上記アないしウのとおり、本件発明1は、甲1発明に基づいて、甲2に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって、本件発明1に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものではない。 (2)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の構成を有し、さらに構成を付加したものである。 そして、上記(1)に示したとおり、本件発明1は、甲1発明に基づいて、甲2に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の構成を有する本件発明2は、本件発明2において付加された構成について検討するまでもなく、甲1発明に基づいて、甲2に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、本件発明2に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものではない。 (3)本件発明3について 本件発明3は、本件発明1または2の構成を有し、さらに構成を付加したものである。 そして、上記(1)に示したとおり、本件発明1は、甲1発明に基づいて、甲2に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の構成を有する本件発明3は、本件発明3において付加された構成について検討するまでもなく、甲1発明に基づいて、甲2に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、本件発明3に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものではない。 3 申立人の意見書における、進歩性以外の特許要件に関する主張について 申立人は、令和6年4月23日付けの意見書において、進歩性以外の特許要件に関し、本件発明1における上記相違点1に係る構成について、以下の旨も主張している(同意見書第1頁下から11行-第4頁第18行)。 a 「走行機体の車速を所定以上としうる変速状態」の「所定以上」が不明確である。 b 「不適な条件」の選択肢について、「『A』を含み、且つ、『B』及び『C』のうちいずれか1つを含み」という記載が不明確である。 c 本件訂正について新規事項の追加について主張したのと同じ理由から、サポート要件違反である(当審注;申立人は同意見書において、サポート要件違反と本件訂正についての新規事項の追加とを、まとめて主張している。)。 しかしながら、上記a及び上記bの点について、特許請求の範囲における請求項1の記載は、第三者に不測の不利益を生じさせる程に不明確なものではない。 また、上記cの点について、上記第2の2(3)及び(6)において説示したのと同様の理由から、サポート要件違反に該当するものではない。 したがって、上記申立人の意見書における主張について考慮しても、本件発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。 第6 むすび 以上のとおり、本件発明1ないし3に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に本件発明1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700608

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