特許異議申立
2022-701032
金属材料の製造仕様決定方法、製造方法、および製造仕様決定装置
- 審判番号
- 2022-701032
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-006221
- 登録番号
- 7056592
- 請求日
- 2022年10月19日
- 審決日
- 2024年04月24日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】JFEスチール株式会社
- 【権利者代理人】杉村 憲司
- 【権利者代理人】齋藤 恭一
- 【権利者代理人】橋本 大佑
- 【権利者代理人】川原 敬祐
- 【異議申立人】小菅 公義
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 大山 健
- 審判官 田々井 正吾
- 分類
- P1651.113-YAA(B21B) / P1651.121-YAA(B21B) / P1651.537-YAA(B21B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第126条第7項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7056592号発明「金属材料の製造仕様決定方法、製造方法、および製造仕様決定装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7056592号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕、7について訂正することを認める。
特許第7056592号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7056592号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願(特願2019-6221)は、平成31年1月17日に出願したものであって、令和4年4月11日にその特許権の設定登録がされ、令和4年4月19日に特許掲載公報が発行された。
そして、本件特許異議の申立ての経緯は、概略次のとおりである。
令和4年10月19日 : 特許異議申立人小菅公義(以下「申立人」という。)による全請求項(請求項1~7)に係る特許に対する特許異議の申立て
令和4年12月14日付け : 取消理由通知
令和5年 2月 9日 : 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和5年 3月29日 : 申立人による意見書の提出
令和5年 7月11日付け : 取消理由通知(決定の予告)(以下「決定の予告」という。)
令和5年 9月 5日 : 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和5年11月 6日 : 申立人による意見書(以下「申立人意見書」という。)の提出
令和6年 1月30日付け : 審尋
令和6年 2月26日 : 特許権者による回答書(以下「回答書」という。)の提出
なお、令和5年2月9日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
特許権者は、令和5年9月5日提出の訂正請求書により、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~7を、以下のとおりに訂正(以下「本件訂正」という。)することを請求する。
(1)訂正事項
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「金属材料の製造中の所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データを製造仕様の一部として取得するステップと、
前記1つ以上の実績データと、前記1つ以上の実績データを含む前記製造仕様および材料特性を結びつけた予測モデルとに基づき逆解析を行い、材料特性の推定値が所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算し、前記制御量を指示値として前記プロセスに伝送することで前記所定工程後に係る製造仕様を製造中に最適化するステップ」
と記載されているのを、本件訂正により、
「金属材料の製造中に、精錬工程及び鋳造工程を含む製造工程の所定工程後に確定した複数の実績データであって、前記精錬工程及び前記鋳造工程での製造条件を少なくとも含む前記実績データを製造仕様の一部として取得するステップと、
前記実績データと、前記実績データを含む前記製造仕様および材料特性を結びつけ、少なくともドロップアウト率を含むハイパーパラメータが最適化されて学習された、複数の隠れ層を含む中間層を含むニューラルネットワークモデルとに基づき逆解析を行い、1つの前記ニューラルネットワークモデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算し、前記制御量を指示値として前記プロセスに伝送することで前記所定工程後に係る製造仕様を製造中に最適化するステップ」(下線部は訂正箇所について特許権者が付した。訂正事項2~4についても同様。)と訂正する。
(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。)
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記所定工程は、二次精錬工程であり、前記1つ以上の実績データは成分組成調整後の実績データを含む」
と記載されているのを、本件訂正により、
「前記所定工程は、二次精錬工程であり、前記実績データは成分組成調整後の実績データを含む」と訂正する。
(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~6も同様に訂正する。)
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に、
「前記予測モデルは、前記製造仕様と前記材料特性の実績データとに基づき学習された深層学習モデル、または統計学習モデルを含む機械学習モデルである」
と記載されているのを、本件訂正により、
「前記ニューラルネットワークモデルは、前記製造仕様と前記材料特性の実績データとに基づき学習された深層学習モデルである」と訂正する。
(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6も同様に訂正する。)
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に、
「金属材料の製造中の所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データを製造仕様の一部として取得する通信部と、
前記1つ以上の実績データと、前記1つ以上の実績データを含む前記製造仕様および材料特性を結びつけた予測モデルに基づき逆解析を行い、材料特性の推定値が所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算し、前記制御量を指示値として前記プロセスに伝送することで前記所定工程後に係る製造仕様を製造中に最適化する探索処理部」
と記載されているのを、本件訂正により、
「金属材料の製造中に、精錬工程及び鋳造工程を含む製造工程の所定工程後に確定した複数の実績データであって、前記精錬工程及び前記鋳造工程での製造条件を少なくとも含む前記実績データを製造仕様の一部として取得する通信部と、
前記実績データと、前記実績データを含む前記製造仕様および材料特性を結びつけ、少なくともドロップアウト率を含むハイパーパラメータが最適化されて学習された、複数の隠れ層を含む中間層を含むニューラルネットワークモデルとに基づき逆解析を行い、1つの前記ニューラルネットワークモデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算し、前記制御量を指示値として前記プロセスに伝送することで前記所定工程後に係る製造仕様を製造中に最適化する探索処理部」と訂正する。
(2)一群の請求項
本件訂正前の請求項1~6は、その請求項2~6が、本件訂正前の請求項1の記載を引用し、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正される関係にあるから、本件訂正の訂正事項1~3は、一群の請求項〔1~6〕について請求されている。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
請求項〔1~6〕、7についての訂正(訂正事項1~訂正事項4)について、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否を、以下に検討する。
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1の目的について検討する。
(ア)本件訂正前の請求項1の「金属材料の製造中の所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データ」及び「前記1つ以上の実績データ」を、本件訂正により「金属材料の製造中に、精錬工程及び鋳造工程を含む製造工程の所定工程後に確定した複数の実績データであって、前記精錬工程及び前記鋳造工程での製造条件を少なくとも含む前記実績データ」(下線部は当審で付した。以下同様。)及び「前記実績データ」とする点は、実績データが「精錬工程及び鋳造工程での製造条件」を含むことを限定するものである。
(イ)また、本件訂正前の請求項1の「予測モデル」を、本件訂正により「少なくともドロップアウト率を含むハイパーパラメータが最適化されて学習された、複数の隠れ層を含む中間層を含むニューラルネットワークモデル」とする点は、「予測モデル」が「ニューラルネットワークモデル」であることを特定し、さらにニューラルネットワークの構成を限定するものである。
(ウ)そして、本件訂正前の請求項1の「材料特性の推定値が所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算し」を、本件訂正により「1つの前記ニューラルネットワークモデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算し」とする点は、材料特性の推定値が1つのニューラルネットワークモデルから出力される互いに相反する複数の材料特性の推定値であること、及びそのそれぞれが所望の値に漸近するように演算が行われることを限定するものである。
(エ)上記(ア)~(ウ)のとおり、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
(ア)本件訂正前の実績データが「金属材料の製造中に、精錬工程及び鋳造工程を含む製造工程の所定工程後に確定した複数の実績データであって、前記精錬工程及び前記鋳造工程での製造条件を少なくとも含む前記実績データ」であることは、本件明細書等の段落【0018】、【0077】、図7に記載されている。
(イ)また、本件訂正前の「予測モデル」を、「少なくともドロップアウト率を含むハイパーパラメータが最適化されて学習された、複数の隠れ層を含む中間層を含むニューラルネットワークモデル」とすることは、本件明細書等の段落【0032】、【0073】等に記載されている。
(ウ)続いて、本件訂正前の「材料特性の推定値が所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算し」との記載を、「1つの前記ニューラルネットワークモデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算し」とすることが新規事項の追加に該当するか検討する。
a 本件明細書等の段落【0075】には、「本実施例では既に成分組成およびスラブサイズが確定された出鋼スラブに対して、ニューラルネットワークモデルによる材料特性の推定が行われ、推定される材料特性が目標の材料特性に漸近するように、続く加熱炉以降のプロセスについて必要な制御量を演算した。具体的には降伏応力および全厚伸びのそれぞれについて推定値と目標値の差を求め、両者の差の合計が最小値となるように逐次最小二乗法を用いて演算した。収束までの繰り返し回数は500回とした。・・・」と記載されている。そして、ここでのニューラルネットワークモデルは、段落【0072】記載のとおり、事前学習として製造仕様実績と材料特性実績とを結びつける学習を実施したものであって、学習に供された材料特性実績に関し、段落【0073】には「・・・材料特性実績として、冷却後厚鋼板の幅中央部から板幅方向が引張方向と一致するように採取したJISZ 2201 1B号の全厚試験片を用いて引張試験を実施し、降伏応力(YS)および全厚伸びを求め、学習に供された。学習データ数は欠損データ等のノイズを除去した計470のサンプルを用いた。・・・」と記載されており、1つのニューラルネットワークモデルの学習用データとして、降伏応力及び全厚伸びの2つの材料特性実績が用いられているから、上記段落【0075】の材料特性の推定(降伏応力の推定及び全厚伸びの推定)は、このニューラルネットワーク1つのみで行われていることが認められる。
b これらの記載から、本件明細書等には、1つのニューラルネットワークモデルが降伏応力及び全厚伸びを含んで学習されること、及び当該1つのニューラルネットワークモデルが降伏応力及び全厚伸びの材料特性の推定値を出力し、そのそれぞれの推定値と目標値の差を求めて両者の差の合計が最小値となるように逐次最小二乗法を用いて演算することが記載されているといえる。
そして、降伏応力及び全厚伸びのそれぞれについて、推定値と目標値の差を求めて両者の差の合計が最小値となるように逐次最小二乗法を用いて演算する際に、それらの合計が最小値となるためには、降伏応力及び全厚伸びの推定値のそれぞれが所望の値(推定値と目標値の差の合計が最小値になるための値)に漸近する必要があることは明らかである。さらに、金属材料の強度を示す「降伏応力」と金属材料の衝撃エネルギー吸収能(延性)を示す「全厚伸び」とは互いにトレードオフの関係、すなわち、互いに相反する材料特性であるといえることは技術常識(必要ならば、回答書1~2ページの「(2-2)1(1)イについて」、及び下記第5のA[取消理由1(明確性)について]の3(1)イの説示等を参照。)であるから、本件訂正後の「1つの前記ニューラルネットワークモデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算」することは、本件明細書等に実質的に記載されていたといえる。
(エ)上記(ア)~(ウ)のとおりであるから、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
本件訂正前の「前記1つ以上の実績データ」を、本件訂正により「前記実績データ」とする訂正は、訂正事項1により、請求項1の「実績データ」が「複数の実績データ」に限定されたことに伴い、実績データが「1つ」の場合を除くものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更する訂正ではないこと、及び本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2の発明特定事項を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
また、訂正事項1と同様の理由により、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正前の「前記予測モデルは、前記製造仕様と前記材料特性の実績データとに基づき学習された深層学習モデル、または統計学習モデルを含む機械学習モデルである」を、「前記ニューラルネットワークモデルは、前記製造仕様と前記材料特性の実績データとに基づき学習された深層学習モデルである」とする訂正は、訂正事項1と同様に、予測モデルがニューラルネットワークモデルであることを限定するものであり、さらに、訂正前の予測モデルの選択的事項である「統計学習モデルを含む機械学習モデル」であることを削除し、「前記製造仕様と前記材料特性の実績データとに基づき学習された深層学習モデル」であることに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更する訂正ではないこと、及び本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、本件訂正前の請求項5の発明特定事項を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
また、訂正事項1と同様の理由により、予測モデルがニューラルネットワークモデルであることは本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、本件訂正前の請求項7に対して、実質的に訂正事項1と同様の訂正をするものであるから、訂正事項4は、訂正事項1(上記(1))と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とし、同条第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。
3 独立特許要件
本件においては、本件訂正前の全請求項(請求項1~7)について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~訂正事項4に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 小括
上記のとおり、本件訂正前の請求項〔1~6〕、7についての訂正事項1ないし訂正事項4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~6〕、7について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許請求の範囲は以下のとおりである。(以下、請求項1~7に係る発明を、それぞれ「本件発明1」などという。また、合わせて、「本件発明」という場合がある。)
「【請求項1】
金属材料の製造中に、精錬工程及び鋳造工程を含む製造工程の所定工程後に確定した複数の実績データであって、前記精錬工程及び前記鋳造工程での製造条件を少なくとも含む前記実績データを製造仕様の一部として取得するステップと、
前記実績データと、前記実績データを含む前記製造仕様および材料特性を結びつけ、少なくともドロップアウト率を含むハイパーパラメータが最適化されて学習された、複数の隠れ層を含む中間層を含むニューラルネットワークモデルとに基づき逆解析を行い、1つの前記ニューラルネットワークモデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算し、前記制御量を指示値として前記プロセスに伝送することで前記所定工程後に係る製造仕様を製造中に最適化するステップと
を含む前記金属材料の製造仕様決定方法。
【請求項2】
前記所定工程は、二次精錬工程であり、前記実績データは成分組成調整後の実績データを含む、請求項1に記載の製造仕様決定方法。
【請求項3】
前記金属材料は厚鋼板である、請求項1または2に記載の製造仕様決定方法。
【請求項4】
前記材料特性は一様伸びを含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の製造仕様決定方法。
【請求項5】
前記ニューラルネットワークモデルは、前記製造仕様と前記材料特性の実績データとに基づき学習された深層学習モデルである、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の製造仕様決定方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の製造仕様決定方法を用いて決定された製造仕様で金属材料を製造する製造方法。
【請求項7】
金属材料の製造中に、精錬工程及び鋳造工程を含む製造工程の所定工程後に確定した複数の実績データであって、前記精錬工程及び前記鋳造工程での製造条件を少なくとも含む前記実績データを製造仕様の一部として取得する通信部と、
前記実績データと、前記実績データを含む前記製造仕様および材料特性を結びつけ、少なくともドロップアウト率を含むハイパーパラメータが最適化されて学習された、複数の隠れ層を含む中間層を含むニューラルネットワークモデルとに基づき逆解析を行い、1つの前記ニューラルネットワークモデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算し、前記制御量を指示値として前記プロセスに伝送することで前記所定工程後に係る製造仕様を製造中に最適化する探索処理部と
を有する製造仕様決定装置。」
第4 決定の予告において通知した取消理由について
1 取消理由の概要
令和5年2月9日提出の訂正請求により訂正された請求項1~7(以下、この訂正請求により訂正された請求項1~7を、それぞれ「先の訂正に係る請求項1」などという。)に係る特許に対して、当審が決定の予告において通知した取消理由1、2の要旨は、次のとおりである。
取消理由1:(明確性)本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
取消理由2:(進歩性)先の訂正に係る請求項1~7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(甲1発明又は甲2発明)に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、先の訂正に係る請求項1~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 証拠
(1)決定の予告で引用した文献
甲第1号証:特開2003-268428号公報
甲第2号証:茂森弘靖、「局所回帰モデルを用いた鉄鋼製品の品質設計と品質制御」、京都大学、2013年3月25日、p.1-43,65-79
甲第4号証:特開平8-240587号公報
甲第5号証:再公表特許第98/006550号
(なお、以下では、甲号証について、それぞれ「甲1」などという。また、甲4は、先の訂正に係る請求項4~6について通知した文献である。)
(2)申立人が証拠として提示したその他の文献
甲3:「JFEスチールのTMCP技術の進歩とそれによる高性能厚板」、JFE技報、2014年2月、第33号、p.1~6
甲6:特開2018-169993号公報
甲7:特開2018-138327号公報
第5 決定の予告で通知した取消理由についての当審の判断
A [取消理由1(明確性)について]
1 取消理由1の概要及び判断
(1)概要
先の訂正に係る請求項1等には「予測モデル」が記載されていないから、先の訂正に係る請求項5の「前記予測モデル」が何を指すのか不明である。
また、先の訂正に係る請求項1の「ニューラルネットワークモデル」と、先の訂正に係る請求項5の「前記製造仕様と前記材料特性の実績データとに基づき学習された深層学習モデル、または統計学習モデルを含む機械学習モデル」の関連が不明である。
(2)判断
請求項5は、本件訂正により、「前記ニューラルネットワークモデルは、前記製造仕様と前記材料特性の実績データとに基づき学習された深層学習モデルである」と訂正された。
これにより、請求項1の「ニューラルネットワークモデル」と請求項5の「前記ニューラルネットワークモデル」及び「深層学習モデル」の関係が明確となったから、当該取消理由1は解消した。
2 取消理由1についてのむすび
したがって、本件発明1~7は明確であり、取消理由1(明確性)によって請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
3 記載不備(サポート要件、明確性)についての申立人の主張
申立人は、申立人意見書において、請求項1及び請求項7について、記載不備(サポート要件、明確性)がある旨を主張しているから以下に検討する。
(1)サポート要件について
ア 主張の概要
請求項1及び請求項7の「1つの前記ニューラルネットワークモデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように」の記載について、特許権者が主張する明細書の段落【0027】~【0039】、【0073】、【0075】、【0077】、及び図4、8には、「互いに相反する」の記載はなく、互いに相反する材料特性として、「降伏応力及び全厚伸び」以外のありとあらゆるものを含むようには記載されておらず、当業者であっても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない(申立人意見書4ページ)。
イ 判断
本件発明の解決しようとする課題に関連して、本件発明の詳細な説明の段落【0002】に「このような鋼材においては、強度および靭性などの機械的性質および溶接性に優れていることに加えて、外力に対して構造物の構造安全性を担保するために衝撃エネルギー吸収能に優れることが要求される場合がある。」、段落【0003】に「船体用の鋼板自体にエネルギー吸収能を持たせて、船舶の衝突時に船体の破壊を防止することが望まれている。」との記載があり、実験結果について、段落【0077】に「図8に逆解析によって得られた最適化された製造仕様にて実際に製造を行った際の降伏応力(YS)と一様伸び(EL)との関係を示す。本実施例の方法を用いると、比較例よりも、降伏応力を維持しつつ、高い一様伸びの厚鋼板を得ることができた。」との記載があるから、本件明細書等には、本件発明が、金属材料の強度と衝撃エネルギー吸収能の両立を目的とするものであることが示唆されているといえる。
さらに、金属材料の強度と衝撃エネルギー吸収能に関連する材料特性として、段落【0018】に「また例えば、材料特性は、金属材料の一様伸びを含んでもよい。一様伸びを含めることにより、外力に対して構造物の構造安全性を担保するための衝撃エネルギー吸収能の要求を満足させる場合等に製造仕様決定装置10を利用可能である。また例えば材料特性は、所望の厚鋼板規格を満たすように降伏応力、引張応力、靱性値、表面硬度、断面硬度の群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。」と記載され、段落【0073】及び【0075】には「全厚伸び」について記載されている。すなわち、本件発明の詳細な説明には、強度を示す材料特性として、降伏応力、引張応力、表面硬度及び断面硬度などが記載され、衝撃エネルギー吸収能を示す材料特性として、一様伸び及び全厚伸びが記載されている。そして、これらの材料特性は、「降伏応力及び全厚伸び」に限られず、例えば「引張応力及び一様伸び」のようなその他の互いに相反する材料特性も含み得ることは明らかであるから、請求項1及び請求項7の「互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性」にまで拡張ないし一般化できるものと認められる。
したがって、請求項1及び請求項7の「互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性」は、本件発明の詳細な説明に記載されているといえる。
したがって、上記アについての申立人の主張は採用できない。
(2)明確性について
ア 主張の概要
(ア)請求項1及び請求項7の「前記精錬工程及び前記鋳造工程での製造条件を少なくとも含む前記実績データを製造仕様の一部として取得する」との記載について、「精錬工程・・・での製造条件」及び「鋳造工程での製造条件」のいずれか一方のみが「実績データ」に含まれることを排除していない(申立人意見書4~5ページ)。
(イ)請求項1及び請求項7の「1つの前記ニューラルネットワークモデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように」との記載について、「複数の前記金属材料の材料特性」がどのような観点で「互いに相反する」のか理解できない。また、「複数の前記金属材料の材料特性」には3つ以上の金属材料の材料特性が含まれるが、3つ以上の金属材料の材料特性について「互いに相反する」とは、3つ以上の金属材料の材料特性の全てが負の相関を持つものを指すのか否か理解できない(申立人意見書5~6ページ)。
イ 判断
(ア)本件明細書等の段落【0077】及び図7に示されている実施形態、及び特許権者の回答書4ページにおける回答に鑑みれば、請求項1及び請求項7の「前記精錬工程及び前記鋳造工程での製造条件を少なくとも含む前記実績データ」は、精錬工程での製造条件と、鋳造工程での製造条件の両方を含む実績データを意味するものと認められる。
したがって、上記ア(ア)についての申立人の主張は採用できない。
(イ)上記(1)イで説示したとおり、本件明細書等には、本件発明が金属材料の強度と衝撃エネルギー吸収能の両立を目的とするものであることが示唆されているところ、金属材料の強度と、衝撃エネルギー吸収能(延性)とが互いにトレードオフの関係にあることは技術常識(必要ならば、特許権者の回答書の1~2ページ等を参照。)であり、請求項1及び請求項7においては、互いにトレードオフの関係にある材料特性を「互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性」と記載したと理解できるから、請求項1及び請求項7の「1つの前記ニューラルネットワークモデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように」との記載が不明確であるとはいえない。また、「互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性」が、金属材料の3つ以上の材料特性を含むものであるとしても、そのような3つ以上の材料特性のうち、強度を示す特性と衝撃エネルギー吸収能を示す特性が互いにトレードオフの関係にあることを意味していると理解できるものである。
したがって、上記ア(イ)についての申立人の主張は採用できない。
B [取消理由2(進歩性)について]
1 甲1について
(1)甲1の記載及び甲1から理解できる事項
ア 甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。なお、下線は当審で付したものである(以下同様)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、製品品質制御装置に係り、特に、鋳造された鋼材を、加熱、圧延、冷却、熱処理などして製品の材質を作り込む際に用いるのに好適な、上工程の製造実績(成分や操業条件)から要求仕様(機械試験特性値範囲)を満足する下工程の製造条件(成分や操業条件)の指示値を決定することが可能な、製品品質制御装置に関する。
・・・
【0003】製造の途中において、それまでの工程(上工程)で製造実績が品質設計で決定した指示値と異なった場合、それ以降の工程(下工程)で品質設計で決定したとおりに製造すると、要求仕様を満足する品質が得られない。そのため、製造の途中で、上工程の製造実績を元に、要求仕様を満足するように下工程の製造条件指示値を変えている。
・・・
【0016】製造実績収集装置22は、図2に示す如く、過去に製造した製品14毎に、素材(鋳片)10の成分の指示値と実績値、および、加熱、圧延、冷却、熱処理などの製造プロセス12における操業条件の指示値と実績値、を収集し、製品品質制御装置20へ供給する。また、材料試験実績収集装置24は、同じく、過去に製造された製品14毎に、製品の材料試験で得られる機械試験特性値実績(強度、靭性等。以下材質実績値と称する)を収集し、製品品質制御装置20へ供給する。
【0017】製品品質制御装置20は、図3に示す如く、下工程の製造条件作成手段202、材質推定手段204、及び、製造情報記憶手段206を備えており、上工程の製造実績の誤差及び材質モデルの誤差を加味して、要求仕様をする下工程の製造条件(成分および操業条件)の指示値を出力するものである。
・・・
【0019】材質推定手段204は、製造情報記憶手段206に蓄積された製造条件の実績値及び材質実績値をもとに、ある製造条件(素材の成分指示値及び操業条件の指示値)で製造した場合の製品材質を推定するとともに、その推定誤差も併せて求める。
【0020】また、製造条件作成手段202は、要求仕様及び上工程の製造実績を取得し、下工程の素材成分及び操業条件の指示値を変化させて、材質推定手段204に材質推定を行うように指示するとともに、その指示値に対する材質予測値及びその誤差範囲を求め、材質推定手段が求めた材質推定値および推定誤差を用いて、要求仕様の範囲内にある下工程の製造条件指示値を検索して出力するものである。
・・・
【0026】以上の構成からなる鋼材の製品品質制御装置20を用いて、下工程における操業条件を求める手順を、図6を参照して説明する。
・・・
【0028】次にステップS2で、初期入力された製品Pjに関する指示値をもとに、製造条件作成手段202は、材質推定手段204に製品材質の推定を行うよう指令を出し、材質推定手段204は、図7に示すサブルーチンに従って材質の推定を行う。
・・・
【0034】次いでステップS24に進み、入力値の近傍にある取得された事例のデータか材質に関連するデータ(図4の材質1~材質Mの実績値)を用いて、その入力値に対する材質推定値(出力値)とその推定誤差を計算する。
【0035】これには、様々な方法があるが、例えば上記のようにして取得された材質に関連する実績データの平均値[材質11~[材質M]を次式で算出し、これらを材質推定値として出力し、同じくそれらの標準偏差を計算し、推定誤差として出力することができる。・・・。
【0036】
[材質1]=Σ材質1i/N
[材質2]=Σ材質2i/N
・・・・・・・・・・・
[材質M]=Σ材質Mi/N ・・・(2)
ここで、i=1~N
【0037】出力値(材質推定値)としては、例えば、引張強度、降伏点、伸び、シャルピー吸収エネルギーなどの材質を表わす出力変数を用いることができる。
【0038】上述のステップS23、S24の処理は、いずれも材質推定計算手段204Bが行い、その結果は製造条件作成手段202に出力される。
【0039】次に図6のステップS3に進み、材質推定手段204が求めた材質推定値及び推定誤差を用いて、製造条件作成手段202は、下記式に基づく判定、即ち、推定誤差を考慮した材質推定値が要求仕様の許容範囲内かどうかを判定する。
【0040】要求仕様の下限値≦材質推定値士推定誤差≦要求仕様の上限値・・・(3)
【0041】(3)式を満足した場合には、ステップS4に進んで、上記判定に使用した下工程の製造条件指示値を図示しない記憶手段に記憶し、ステップS5に進む。一方、ステップS3で(3)式を満足しなかった場合には、ステップS5に飛ぶ。
【0042】ステップS5では、取り得る下工程製造条件指示値の全てについて、材質推定を行ったか否かを判定し、判定結果が否である場合にはステップS6に進み、下記(4)式、(5)式に従って下工程製造条件指示値を変更し、ステップS2に戻る。
・・・
【0045】一方、ステップS5において、取り得る下工程製造条件指示値の全てについて、材質推定を行ったと判定された場合にはステップS7に進み、それら各製品の下工程製造条件指示値を出力して終了する。」
(【0035】の「[材質11」という記載は、「[材質1]」の誤記と認め、【0040】の「材質推定値士推定誤差」という記載は、「材質推定値±推定誤差」の誤記と認める。)
「【図3】
[図:0001413280000001.jpg]
」
「【図6】
[図:0001413280000002.jpg]
」
イ 段落【0034】、【0035】等から、材質推定手段204が、材質1~材質Mの複数を、材質推定値として推定していることが理解できる。そして、複数の材質推定値(材質1~材質M)を算出する計算式が、予測モデルであるといえるから、甲1の材質推定手段204は、入力値(【0020】、【0034】の上工程の複数の製造実績を含む製造条件)と複数の材質を結びつけた予測モデルを備えることは明らかである。
ウ 製品品質制御装置20は、上工程の製造実績の誤差及び材質モデルの誤差を加味して、要求仕様を満足する下工程の製造条件の指示値を出力するもの(段落【0017】)であって、その下工程の製造条件作成手段202は、要求仕様及び上工程の製造実績を取得し、材質推定手段204が求めた材質推定値及び推定誤差を用いて下工程の製造条件指示値を検索して出力するものであり、図6のフローチャートにおいて、S2~S5のループを繰り返して、要求仕様を満足する下工程の製造条件指示値を検索しているから、上工程の製造実績を含む製造条件と、予測モデルとに基づき逆解析を行い、複数の材質推定値(材質1~材質M)がそれぞれの所望の値に漸近するように(要求仕様を満足するように)、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量(下工程の製造条件指示値)をフィードフォワード演算して(S2~S5のループを繰り返す)、下工程の製造条件を製造中に最適化していることが理解できる。
エ 甲1の段落【0017】には「製品品質制御装置20は・・・要求仕様をする下工程の製造条件(成分および操業条件)の指示値を出力するものである。」、段落【0020】には「要求仕様の範囲内にある下工程の製造条件指示値を検索して出力するものである。」及び段落【0045】には「各製品の下工程製造条件指示値を出力」すると記載されており、製品品質制御装置20が出力する当該下工程製造条件指示値は、各製造プロセス(段落【0001】の「鋳造された鋼材を、加熱、圧延、冷却、熱処理などして製品の材質を作り込む」を参照。)の制御量の指示値として鋼材の製造プロセスに伝送されることは明らかである。
(2)甲1発明
上記(1)の甲1の記載及び甲1から理解できる事項からみて、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「鋼材の製造途中の上工程の複数の製造実績を製造条件の一部として取得するステップと、
前記上工程の製造実績と、前記上工程の製造実績を含む製造条件および複数の材質を結びつけた予測モデルとに基づき逆解析を行い、予測モデルによる複数の材質推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように、下工程の製造条件指示値をフィードフォワード演算し、前記下工程の製造条件指示値を前記鋼材の製造プロセスに伝送することで、下工程の製造条件を製造中に最適化しているステップと
を含む前記鋼材の製品品質制御方法。」
2 甲2について
(1)甲2の記載及び甲2から理解できる事項
甲2には、以下の記載がある。なお、甲2における句読点の表記(カンマやピリオド)は当審で修正した。
ア 「計算機技術の発展により、多くの製造業の現場において、品質管理や操業改善のために、大量の製造実績がデータベースに蓄積されるようになってきた。そのデータを有効活用して、より精密なモデルを構築する技術として、Just-In-Timeモデリングと呼ばれる手法に近年関心が集まっている。Just-In-Timeモデリングは、モデルパラメータの値をあらかじめ定めず、過去の大量の入出カデータを蓄積し、予測の必要が生じる毎に、要求点に近い過去のデータを重視して局所的な予測モデルを構築する方法である。」(1ページ「1.1」1~5行)
イ 「1.2.1 鉄鋼製品の品質設計と品質制御の特徴
鉄鋼製品の製造プロセス
・・・
鉄鋼製品の製造プロセスの一例として、図1.2に厚鋼板の製造プロセスを示す。
製鋼工程で化学成分を調整され、鋳造されたスラブは、加熱工程において所定の温度に加熱され、圧延工程においてリバース圧延により所定の寸法および形状に加工される。そして、冷却工程において所定の温度に冷却されることにより、鋼材の組織および材質が作りこまれる。製品の種類によっては、さらに熱処理工程において鋼材の組織および材質が調整されるものもある。
鉄鋼製品の品質設計
鉄鋼製品の品質指標としては、強度・伸び・靭性などの材質、厚み・幅・長さの寸法、形状、および、微量に含まれる鉄以外の化学成分の量などがある。
品質設計とは、顧客要求の製品仕様を満足する製造条件を決定する意思決定プロセスである。製品仕様には、製品のサイズ、強度(引張強度、降伏点、伸び)、靭性(吸収エネルギー、遷移温度)、 および、化学成分の含有量などがある。製造条件には、製鋼工程で調整される化学成分、加熱工程、圧延工程、冷却工程のそれぞれの温度などがある。品質設計はこれまで知識と経験が豊富な設計者により行われてきた。設計者は顧客要求の品質を満足するだけでなく、製造コストを最小化するための製造条件を決定する必要があり、一種の最適化問題を解いている。この最適化を行うために、 製造条件から品質を精度よく予測するモデルが必要となる。
鉄鋼製品の品質制御
品質設計の段階において、対象プロセスに関する知識が豊富な熟練者により、顧客の要求品質を満足するように各製造条件の基準値が製造前に決定されている。製造段階において、製造条件が基準値どおりに運転されるように各製造設備でレギュレーション制御が行われるが、外乱により実績値が基準値から乖離するため、その結果として製品の品質に目標値からのずれ、すなわち、品質制御誤差が生じる。品質制御誤差を低減するためにすでに処理が終了した工程の製造条件実績値をもとに、まだ処理が開始していない工程の適切な製造条件を導出し、そのように操作することで、品質を目標値に近づけるフィードフォワード制御が行われてきた。これを品質制御と呼んでいる。このフィードフォワード制御を行うために、製造条件から品質を精度よく予測するモデルが必要となる。」(2ページ「1.2」1行~3ページ18行)
ウ 「4.2.1 対象プロセス
本章においては、図1.2に示した厚鋼板の製造プロセスにおいて生産される制御圧延材および加速冷却材の材質制御を対象に議論する。
・・・
4.2.3 材質予測モデルの入出力変数
従来から次に示す入出力変数をもつモデルを用いて品質予測を行っている。従来は、線形重回帰モデルを用いて予測モデルを構築していた。
出力変数
材質予測モデルの出力変数は、制御変数である次の2つの材質特性値である。
・引張強度
・降伏点
入力変数
入力変数は、出力変数に影響を与える各プロセスの製造条件である。
制御圧延材の場合は、次の通りである。
・製品厚
・化学成分(C、Si、Mn、・・・)
・加熱工程出側温度(加熱条件)
・圧延工程待機時板厚(圧延条件)
・圧延工程待機時温度(圧延条件)
・圧延工程出側温度(圧延条件)
加速冷却材の場合は、次の通りである。
・製品厚
・化学成分(C、Si、Mn、・・・)
・加熱工程出側温度(加熱条件)
・圧延工程待機時板厚(圧延条件)
・圧延工程待機時温度(圧延条件)
・圧延工程出側温度(圧延条件)
・冷却開始温度(冷却条件)
・冷却停止温度(冷却条件)
4.2.4 材質制御の操作変数
操作変数は、入力変数の中で最も下流にあるものを選択する。制御圧延材の場合は圧延工程出側温度であり、加速冷却材の場合は冷却停止温度である。
それらよりも上流の製造条件の実績値をもとに、制御目的を実現する操作変数の値を計算する。」(66ページ「4.2」1行~67ページ最終行)
エ 「4.3.1 Just-In-Timeモデルを用いた品質制御システム
2.4節で説明した課題を解決するため、Just-In-Timeモデリングの一種である局所回帰モデルを用いた品質制御システムを開発した。本システムは、本章の材質制御だけでなく、次章の寸法制御に対しても適用した。
開発した品質制御システムの概要を図4.1に示す。本システムは、実績データベース、変数選択機能、局所回帰モデル作成機能、操作量決定機能から構成される。
鉄鋼製品は複数の工程を経て製造されるが、本システムは製造の途中でも計算できるように設計されている。既に実績値が存在する前工程とこれから操作することが可能な後工程に分け、制御変数の値が目標値に一致するように後工程の操作変数の値を計算する構成にしている。なお、第3章で説明した品質設計の段階において、対象プロセスに関する知識が豊富な熟練者により、顧客の要求品質を満足するように入力変数の基準値が製造前に決定され与えられている。
・・・
4.3.5 操作量決定機能
前節で求められた局所回帰モデルのパラメータθと操作変数以外の入力変数値をもとに、品質特性(出力変数)が目標値・・・となるよう、対象鋼材の操作変数の値を計算する。
・・・
材質制御の場合は、制御変数は引張強度と降伏点の2つ、操作変数は最終段の冷却温度(制御圧延材の場合は圧延工程出側温度、加速冷却材の場合は冷却設備での冷却停止温度)であり、この1つの操作変数で2つの変数を制御する。本問題に対しては、変数のもつ特徴を利用し式4.12に示すような構成とした。このような構成にした理由は、製造コストの観点から材質は目標値通りに制御することが望ましいが、材質は下限保証することが最も重要であり、冷却温度を低くすれば引張強度および降伏点は共に高くなる物理的特性をもつからである。」(68ページ「4.3」2行~72ページ6行)
オ 「図1.2
[図:0001413280000003.jpg]
」
カ 「図4.1
[図:0001413280000004.jpg]
」
キ 上記イの記載からみて、甲2記載の品質制御が、既存の品質制御、すなわち、金属材料の製造中の所定工程後に確定した実績データを取得し、前記実績データと、製造仕様および材料特性を結びつけた予測モデルとに基づき逆解析を行い、材料特性の推定値が所望の値に漸近するように、前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算し、前記制御量を指示値として前記プロセスに伝送することで前記所定工程後に係る製造仕様を製造中に最適化する製造仕様を決定するものを前提とすることが認められる。
ク 上記ウ、エの記載から、甲2の「局所回帰モデル」は、入力値(既に実績値が存在する前工程の複数の入力変数と、これから操作することが可能な後工程の操作変数の2種類)と、複数の材質(出力変数又は制御変数(引張強度と降伏点の2つ))を結びつけた予測モデルであることは明らかである。
ケ 上記イ~エの記載などから、甲2の「4.3.5」欄の「操作量決定機能」により、既に実績値が存在する前工程の複数の入力変数と、予測モデルとに基づき逆解析を行い、複数の材質(引張強度、降伏点)の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算して(出力変数について、目標値となる操作変数の値を求める)、後工程の製造条件を製造中に最適化していることが理解できる。
コ 図4.1には、「操作量決定機能」により求められた操作変数が、制御量の指示値としてプロセスに伝送されることが図示されている。
サ 図1.2などから、厚鋼板の製造プロセスが、精錬工程及び鋳造工程を含むことは明らかである。
(2)甲2発明
上記(1)の甲2の記載及び甲2から理解できる事項からみて、甲2には以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲2発明>
「精錬工程及び鋳造工程を含む、厚鋼板の製造工程において既に実績値が存在する前工程の複数の入力変数を製造条件の一部として取得するステップと、
前記既に実績値が存在する前工程の入力変数と、前記既に実績値が存在する前工程の入力変数を含む前記製造条件および出力変数である複数の材質を結びつけた予測モデルとに基づき逆解析を行い、1つの前記予測モデルの出力変数である複数の材質がそれぞれの所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算し、前記制御量を指示値として前記プロセスに伝送することで、これから操作することが可能な後工程の製造条件を製造中に最適化するステップと
を含む前記厚鋼板の材質制御方法。」
3 甲5について
(1)甲5の記載
甲5には、以下の記載がある。
ア 「本発明は、多成分系材料の設計方法、最適化解析装置及び多成分系材料の最適化解析プログラムを記録した記録媒体にかかり、特に、多成分から構成される多成分系材料の材料設計、例えばタイヤ用ゴム配合設計に用いることが可能な多成分系材料の設計方法、最適化解析装置及び多成分系材料の最適化解析プログラムを記録した記録媒体に関する。・・・材料設計は、目的とする材料の機械的挙動を得るための成分の構成比や製造条件等を求めることである。この機械的挙動は材料自体の物性や大きさ等の物理量がある。」(8ページ5~13行)
イ 「この非線形演算部32に用いられているニューラルネットワークの一例としては、図4に示すように、ニューロンに対応する所定数のユニットI1、I2、・・・、Ip(p>1)から成る入力層、多数のユニットM1、M2、・・・、Mq(q>1)から成る中間層、及び所定数の出力ユニットU1、U2、・・・、Ur(r>1)から成る出力層から構成されている。なお、入力層のユニット数、及び出力層のユニット数は多成分系材料の構成比率及び製造条件の個数、機械的挙動の個数に応じて設定すればよい。・・・出力層のユニットには例えば、ヤング率、ポアソン比、tanδ、コストを出力値として用いることができる。」(22ページ下から5行~23ページ8行)
ウ 「【図4】
[図:0001413280000005.jpg]
」
(2)甲5に記載の技術的事項
上記アの記載から、甲5には、
「目的とする複数の材料特性を得るための成分の構成比や製造条件等を求めるために、複数のユニットからなる入力層と、複数のユニットからなる出力層からなるニューラルネットワークを用いること。」
との技術的事項(以下、「甲5に記載の技術的事項」という。)が記載されているといえる。
4 甲1発明に基づく進歩性欠如について
(1)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と、甲1発明とを対比する。
甲1発明の「鋼材」は本件発明1の「金属材料」に相当し、以下同様に、「製造条件」は「製造仕様」に、「複数の材質」は「材料特性」に、「下工程の製造条件指示値」は「製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量」に、「製品品質制御方法」は「製造仕様決定方法」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「鋼材の製造途中の上工程の複数の製造実績」と、本件発明1の「金属材料の製造中に、精錬工程及び鋳造工程を含む製造工程の所定工程後に確定した複数の実績データであって、前記精錬工程及び前記鋳造工程での製造条件を少なくとも含む前記実績データ」とは、「金属材料の製造中に、製造工程の所定工程後に確定した複数の実績データ」である限りで共通する。
さらに、甲1発明の「前記上工程の製造実績と、前記上工程の製造実績を含む製造条件および複数の材質を結びつけた予測モデル」と、本件発明1の「前記実績データと、前記実績データを含む前記製造仕様および材料特性を結びつけ、少なくともドロップアウト率を含むハイパーパラメータが最適化されて学習された、複数の隠れ層を含む中間層を含むニューラルネットワークモデル」とは、「前記実績データと、前記実績データを含む前記製造仕様および材料特性を結びつけた予測モデル」である限りで共通する。
加えて、甲1発明の「予測モデルによる複数の材質推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように、下工程の製造条件指示値をフィードフォワード演算」することと、本件発明1の「1つの前記ニューラルネットワークモデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算」することとは、「予測モデルによる複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算」する限りで共通する。
以上から、本件発明1と、甲1発明とは、以下の<一致点>で一致し、<相違点1>~<相違点3>で相違する。
<一致点>
金属材料の製造中に、製造工程の所定工程後に確定した複数の実績データを製造仕様の一部として取得するステップと、
前記実績データと、前記実績データを含む前記製造仕様および材料特性を結びつけた予測モデルとに基づき逆解析を行い、予測モデルによる複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算し、前記制御量を指示値として前記プロセスに伝送することで前記所定工程後に係る製造仕様を製造中に最適化するステップと
を含む前記金属材料の製造仕様決定方法。
<相違点1>
実績データが、本件発明1は、「金属材料の製造中に、精錬工程及び鋳造工程を含む製造工程の所定工程後に確定した複数の実績データであって、前記精錬工程及び前記鋳造工程での製造条件を少なくとも含む前記実績データ」とされているのに対し、甲1発明は、「鋼材の製造途中の上工程の複数の製造実績」であって、精錬工程及び鋳造工程の製造条件の両方での製造実績を含むか不明な点。
<相違点2>
予測モデルが、本件発明1では、「前記実績データと、前記実績データを含む前記製造仕様および材料特性を結びつけ、少なくともドロップアウト率を含むハイパーパラメータが最適化されて学習された、複数の隠れ層を含む中間層を含むニューラルネットワークモデル」であるのに対し、甲1発明では、「前記上工程の製造実績と、前記上工程の製造実績を含む製造条件および複数の材質を結びつけた予測モデル」であり、「ニューラルネットワークモデル」ではない点。
<相違点3>
本件発明1では、「1つの前記ニューラルネットワークモデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように」、フィードフォワード演算するのに対し、甲1発明では、「予測モデルによる複数の材質推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように」、フィードフォワード演算するものであり、複数の材料推定値が「互いに相反する」ものかどうか不明な点。
(2)判断
事案に鑑みて、相違点2から検討する。
相違点2における製造仕様と材料特性とを結びつけるニューラルネットワークモデルが、「少なくともドロップアウト率を含むハイパーパラメータが最適化されて学習された、複数の隠れ層を含む中間層を含むニューラルネットワークモデル」であることについて、上記3(2)の甲5に記載の技術的事項は該当しないし、その他の甲号証にも、記載されていない。
よって、甲1発明に、甲5に記載の技術的事項及びその他の甲号証に記載の技術的事項を適用しても、相違点2に係る本件発明1の構成には至らない。
ここで、申立人は、申立人意見書8ページにおいて、「複数の隠れ層を含む中間層を含むニューラルネットワークモデル」は甲5から自明であること、及び深層学習モデルのハイパーパラメータとしてドロップアウト率があり、ドロップアウト率を最適化して学習することは、本件特許の出願時の技術常識であることを主張し、参考資料1~3(なお、参考資料1~3については申立人回答書16~17ページを参照。)を提出した。
しかしながら、製造仕様と材料特性とを結びつけるニューラルネットワークモデルについて、「少なくともドロップアウト率を含むハイパーパラメータが最適化されて学習された、複数の隠れ層を含む中間層を含むニューラルネットワークモデル」とすることが技術常識であることを示す証拠は見当たらないし、甲1発明等から自明であるともいえない。
さらに、仮に、ニューラルネットワークモデルにおいて、「ドロップアウト率」を設定したり、「複数の隠れ層を含む中間層」を設定したりすることが知られていたとしても、甲1においては、複数の材質推定値(材質1~材質M)を算出する計算式(段落【0034】~【0037】を参照。)が、入力値と複数の材質を結びつけた予測モデルであるといえるところ、そのような甲1の計算式を、甲5に記載の技術的事項に照らしてニューラルネットワークモデルとするように改変した上で、さらに、製造仕様と材料特性とを精度良く結びつけるための、「ドロップアウト率」を設定するように改変し、「複数の隠れ層を含む中間層」を設定するように改変することは、多段階の改変(いわゆる、「容易の容易」)に該当し、当業者がそのような多段階の改変を容易に想到できたと評価するに足る証拠はないから、やはり甲1発明等に基づいて、相違点2に係る本件発明1とすることが当業者にとって容易になし得たということはできない。
(3)小括
したがって、相違点1、3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲5に記載の技術的事項並びにその他の甲号証に記載の技術的事項によって、当業者が容易になし得たものということはできない。
(4)本件発明2~7について
本件発明2~6は本件発明1を引用する発明であるところ、甲1発明と、少なくとも相違点2で相違するから、上記(2)と同様の理由により、甲1発明及び甲5に記載の技術的事項並びにその他の甲号証に記載の技術的事項によって、当業者が容易になし得たものということはできない。
また、本件発明7は、本件発明1を装置の発明として表現したものに該当するから、上記(2)と同様の理由により、甲1発明及び甲5に記載の技術的事項並びにその他の甲号証に記載の技術的事項によって、当業者が容易になし得たものということはできない。
5 甲2発明に基づく進歩性欠如について
(1)本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と、甲2発明とを対比する。
甲2発明の「厚鋼板」は本件発明1の「金属材料」に相当し、以下同様に、「製造条件」は「製造仕様」に、「材質制御方法」は「製造仕様決定方法」に、それぞれ相当する。
また、甲2発明の「精錬工程及び鋳造工程を含む、厚鋼板の製造工程において既に実績値が存在する前工程の複数の入力変数」と、本件発明1の「金属材料の製造中に、精錬工程及び鋳造工程を含む製造工程の所定工程後に確定した複数の実績データであって、前記精錬工程及び前記鋳造工程での製造条件を少なくとも含む前記実績データ」とは、「金属材料の製造中に、製造工程の所定工程後に確定した複数の実績データ」である限りで共通する。
さらに、甲2発明の「前記既に実績値が存在する前工程の入力変数と、前記既に実績値が存在する前工程の入力変数を含む前記製造条件および出力変数である複数の材質を結びつけた予測モデル」と、本件発明1の「前記実績データと、前記実績データを含む前記製造仕様および材料特性を結びつけ、少なくともドロップアウト率を含むハイパーパラメータが最適化されて学習された、複数の隠れ層を含む中間層を含むニューラルネットワークモデル」とは、「前記実績データと、前記実績データを含む前記製造仕様および材料特性を結びつけた予測モデル」である限りで共通する。
加えて、甲2発明の「1つの前記予測モデルの出力変数である複数の材質がそれぞれの所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算」することと、本件発明1の「1つの前記ニューラルネットワークモデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算」することとは、「1つの前記予測モデルによる複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算」する限りで共通する。
以上から、本件発明1と、甲2発明とは、以下の<一致点>で一致し、<相違点4>~<相違点6>で相違する。
<一致点>
金属材料の製造中に、製造工程の所定工程後に確定した複数の実績データを製造仕様の一部として取得するステップと、
前記実績データと、前記実績データを含む前記製造仕様および材料特性を結びつけた予測モデルとに基づき逆解析を行い、1つの前記予測モデルによる複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算し、前記制御量を指示値として前記プロセスに伝送することで前記所定工程後に係る製造仕様を製造中に最適化するステップと
を含む前記金属材料の製造仕様決定方法。
<相違点4>
実績データが、本件発明1は、「金属材料の製造中に、精錬工程及び鋳造工程を含む製造工程の所定工程後に確定した複数の実績データであって、前記精錬工程及び前記鋳造工程での製造条件を少なくとも含む前記実績データ」とされているのに対し、甲2発明は、「精錬工程及び鋳造工程を含む、厚鋼板の製造工程において既に実績値が存在する前工程の複数の入力変数」であって、精錬工程及び鋳造工程の製造条件の両方での製造実績を含むか不明な点。
<相違点5>
予測モデルが、本件発明1では、「前記実績データと、前記実績データを含む前記製造仕様および材料特性を結びつけ、少なくともドロップアウト率を含むハイパーパラメータが最適化されて学習された、複数の隠れ層を含む中間層を含むニューラルネットワークモデル」であるのに対し、甲2発明では、「前記既に実績値が存在する前工程の入力変数と、前記既に実績値が存在する前工程の入力変数を含む前記製造条件および出力変数である複数の材質を結びつけた予測モデル」であり、「ニューラルネットワークモデル」ではない点。
<相違点6>
本件発明1では、「1つの前記ニューラルネットワークモデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように」、フィードフォワード演算するのに対し、甲2発明では、「1つの前記予測モデルの出力変数である複数の材質がそれぞれの所望の値に漸近するように」、フィードフォワード演算するものであり、複数の材質が「互いに相反する」ものかどうか不明な点。
(2)判断
事案に鑑みて、相違点5から検討する。
ここで、相違点5は、実質的に相違点2と同様の相違点であるから、上記4(2)で示したのと同様の理由により、甲2発明、甲5に記載の技術的事項及びその他の甲号証に記載の技術的事項に基づいて、相違点2に係る本件発明1とすることは当業者が容易になし得たということはできない。
さらに、相違点6についても検討すると、甲2は、複数の材質、すなわち、「引張強度」と「降伏点」の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量をフィードフォワード演算することが記載されているとはいえるものの(上記2(1)ケを参照。)、当該「引張強度」と「降伏点」はいずれも金属材料の強度を示す材料特性であるから、互いに相反する材料特性とはいえない。
したがって、互いに相反する複数の金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように、フィードフォワード演算することが、甲2発明等から容易になし得たということはできない。
したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲5に記載の技術的事項並びにその他の甲号証に記載の技術的事項によって、当業者が容易になし得たものということはできない。
また、本件発明2~6は本件発明1を引用する発明であるところ、甲2発明と、少なくとも相違点5~6で相違するから、同様の理由により、甲2発明及び甲5に記載の技術的事項並びにその他の甲号証に記載の技術的事項によって、当業者が容易になし得たものということはできない。
さらに、本件発明7は、本件発明1を装置の発明として表現したものに該当するから、同様の理由により、甲2発明及び甲5に記載の技術的事項並びにその他の甲号証に記載の技術的事項によって、当業者が容易になし得たものということはできない。
6 取消理由2についてのむすび
以上から、本件発明1~7は、甲1発明又は甲2発明、及び甲5に記載の技術的事項、並びにその他の甲号証に記載の技術的事項によって、当業者が容易になし得たものということはできないから、取消理由2(進歩性)によって請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由(甲1発明又は甲2発明に基づく、新規性及び進歩性欠如の申立)によっては、請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-701032