特許異議申立
2023-700662
金属材料の製造仕様決定方法、製造方法、および製造仕様決定装置
- 審判番号
- 2023-700662
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-014442
- 登録番号
- 7197037
- 請求日
- 2023年06月23日
- 審決日
- 2024年09月12日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】JFEスチール株式会社
- 【権利者代理人】杉村 憲司
- 【権利者代理人】齋藤 恭一
- 【権利者代理人】橋本 大佑
- 【異議申立人】小菅 公義
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 大山 健
- 審判官 田々井 正吾
- 分類
- P1651.121-ZAA(B21B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第126条第6項、特許法第126条第7項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7197037号発明「金属材料の製造仕様決定方法、製造方法、および製造仕様決定装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7197037号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕、7について訂正することを認める。
特許第7197037号の請求項1~7に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7197037号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成31年1月17日に出願された特願2019-6221の一部を、令和4年2月1日に新たな出願(特願2022-14442)としたものであって、令和4年12月19日にその特許権の設定登録がされ、令和4年12月27日に特許掲載公報が発行された。
そして、本件特許異議の申立ての経緯は、概略次のとおりである。
令和5年 6月23日 : 特許異議申立人小菅公義(以下「申立人」という。)による全請求項(請求項1~7)に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年11月14日付け : 取消理由通知
令和6年 1月12日 : JFEスチール株式会社(以下「特許権者」という。)による訂正請求書及び意見書の提出
令和6年 2月21日 : 申立人による意見書の提出
令和6年 5月 1日付け : 取消理由通知[決定の予告](以下「決定の予告」という。)
令和6年 6月28日 : 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出(以下、この訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。また、この意見書を「権者意見書」という。)
令和6年 8月 1日 : 申立人による意見書の提出
なお、令和6年1月12日提出の訂正請求書に係る訂正請求(以下「先の訂正請求」という。)については、取り下げられたものとみなす(特許法第120条の5第7項)。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
特許権者は、本件訂正により、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~7を、次のとおり訂正することを請求する。
(1)訂正事項
A [請求項1~6について]
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「金属材料の製造中の所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データを取得するステップと、
前記1つ以上の実績データと、製造仕様および材料特性を結びつけた予測モデルとに基づき逆解析を行い、材料特性の推定値が所望の値に漸近するように前記所定工程後に係る製造仕様を製造中の制御量のフィードフォワード処理により最適化するステップ」
と記載されているのを、本件訂正により、
「金属材料の製造中の所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データを取得するステップと、
前記1つ以上の実績データと、製造仕様および材料特性を結びつけた予測モデルとに基づき逆解析を行い、1つの前記予測モデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように前記所定工程後に係る製造仕様を製造中の制御量のフィードフォワード処理により最適化するステップ」(下線部は訂正箇所について特許権者が付した。訂正事項2についても同様。)と訂正する。
(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。)
B [請求項7について]
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7に、
「金属材料の製造中の所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データを取得する通信部と、
前記1つ以上の実績データと、製造仕様および材料特性を結びつけた予測モデルに基づき逆解析を行い、材料特性の推定値が所望の値に漸近するように前記所定工程後に係る製造仕様を製造中の制御量のフィードフォワード処理により最適化する探索処理部」
と記載されているのを、本件訂正により、
「金属材料の製造中の所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データを取得する通信部と、
前記1つ以上の実績データと、製造仕様および材料特性を結びつけた予測モデルに基づき逆解析を行い、1つの前記予測モデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように前記所定工程後に係る製造仕様を製造中の制御量のフィードフォワード処理により最適化する探索処理部」と訂正する。
(2)一群の請求項
本件訂正前の請求項1~6は、請求項2~6が、請求項1の記載を引用する関係にあり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正の訂正事項1は、一群の請求項〔1~6〕について請求されている。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
A [一群の請求項〔1~6〕]
請求項〔1~6〕についての訂正(訂正事項1)について、訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否を以下に検討する。
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の所定工程後に係る製造仕様を製造中の制御量のフィードフォワード処理により最適化するステップに対し、材料特性の推定値について、1つの予測モデルによる互いに相反する複数の金属材料のものであること、及び「それぞれの」所望の値に漸近するように行われることを限定するものである。
したがって、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
本件明細書等の段落【0075】には、「本実施例では既に成分組成およびスラブサイズが確定された出鋼スラブに対して、ニューラルネットワークモデルによる材料特性の推定が行われ、推定される材料特性が目標の材料特性に漸近するように、続く加熱炉以降のプロセスについて必要な制御量を演算した。具体的には降伏応力および全厚伸びのそれぞれについて推定値と目標値の差を求め、両者の差の合計が最小値となるように逐次最小二乗法を用いて演算した。収束までの繰り返し回数は500回とした。・・・」(下線部は当審で付した。以下同様。)と記載されている。ここでのニューラルネットワークモデルは、段落【0072】記載のとおり、事前学習として製造仕様実績と材料特性実績とを結びつける学習を実施したものであって、学習に供された材料特性実績に関し、段落【0073】には「・・・材料特性実績として、冷却後厚鋼板の幅中央部から板幅方向が引張方向と一致するように採取したJISZ 2201 1B号の全厚試験片を用いて引張試験を実施し、降伏応力(YS)および全厚伸びを求め、学習に供された。学習データ数は欠損データ等のノイズを除去した計470のサンプルを用いた。・・・」と記載されており、1つのニューラルネットワークモデルの学習用データとして、降伏応力及び全厚伸びの2つの材料特性実績が用いられているから、上記段落【0075】の材料特性の推定(降伏応力の推定及び全厚伸びの推定)は、このニューラルネットワーク1つのみで行われていることが認められる。そして、ニューラルネットワークモデルは予測モデルに該当する(段落【0027】)とともに、金属材料の強度を示す「降伏応力」と金属材料の衝撃エネルギー吸収能(延性)を示す「全厚伸び」とは互いにトレードオフの関係、すなわち、互いに相反する材料特性であるといえることは技術常識(必要ならば、権者意見書3ページ等を参照。)である。
そして、互いに相反する複数の金属材料の材料特性のそれぞれについて、推定値と目標値の差を求めて両者の差の合計が最小値となるように逐次最小二乗法を用いて演算する際に、それらの合計が最小値となるためには、降伏応力及び全厚伸びの推定値がそれぞれの所望の値(推定値と目標値の差の合計が最小値になるための値)に漸近する必要があることは明らかであるから、本件訂正後の「1つの前記予測モデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように」フィードフォワード処理することは、本件明細書等に実質的に記載されていたといえる。
したがって、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
B [請求項7]
請求項7についての訂正(訂正事項2)について、訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否を以下に検討する。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、本件訂正前の請求項7に対して、実質的に訂正事項1と同様の訂正をするものであるから、訂正事項2は、訂正事項1(上記A(1))と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とし、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
3 独立特許要件
本件においては、本件訂正前の全請求項(請求項1~7)について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1、2に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 小括
上記のとおり、本件訂正前の請求項〔1~6〕、7についての訂正事項1、2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~6〕、7について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、訂正後の本件特許請求の範囲は以下のとおりである。(以下、請求項1~7に係る発明を、それぞれ「本件発明1」などという。また、合わせて、「本件発明」という場合がある。)
「【請求項1】
金属材料の製造中の所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データを取得するステップと、
前記1つ以上の実績データと、製造仕様および材料特性を結びつけた予測モデルとに基づき逆解析を行い、1つの前記予測モデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように前記所定工程後に係る製造仕様を製造中の制御量のフィードフォワード処理により最適化するステップと
を含む前記金属材料の製造仕様決定方法。
【請求項2】
前記所定工程は、二次精錬工程であり、前記1つ以上の実績データは成分組成調整後の実績データを含む、請求項1に記載の製造仕様決定方法。
【請求項3】
前記金属材料は厚鋼板である、請求項1または2に記載の製造仕様決定方法。
【請求項4】
前記材料特性は一様伸びを含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の製造仕様決定方法。
【請求項5】
前記予測モデルは、前記製造仕様と前記材料特性の実績データとに基づき学習された深層学習モデル、または統計学習モデルを含む機械学習モデルである、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の製造仕様決定方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の製造仕様決定方法を用いて決定された製造仕様で金属材料を製造する製造方法。
【請求項7】
金属材料の製造中の所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データを取得する通信部と、
前記1つ以上の実績データと、製造仕様および材料特性を結びつけた予測モデルに基づき逆解析を行い、1つの前記予測モデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように前記所定工程後に係る製造仕様を製造中の制御量のフィードフォワード処理により最適化する探索処理部と
を有する製造仕様決定装置。」
第4 決定の予告の概要及び申立人の証拠方法について
1 決定の予告の概要
本件訂正前の請求項1~7(先の訂正請求により訂正された請求項1~7)に係る特許に対して、当審が令和6年5月1日付けで特許権者に通知した決定の予告の要旨は、次のとおりである。
(進歩性)本件訂正前の請求項1~7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(甲1発明若しくは甲2発明)及び甲第4号証に記載の技術的事項に基づいて、又は、甲1発明若しくは甲2発明及び甲第4号証に記載の技術的事項並びに甲第3号証に記載の技術的事項に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 申立人の証拠方法
申立人は、特許異議申立書において、証拠方法として以下の文献を提出した。
甲第1号証:特開2003-268428号公報
甲第2号証:茂森弘靖、「局所回帰モデルを用いた鉄鋼製品の品質設計と品質制御」、京都大学、2013年3月25日、p.1-43,65-79
甲第3号証:特開平8-240587号公報
甲第4号証:再公表特許第98/06550号
甲第5号証:特開2018-169993号公報
甲第6号証:特開2018-138327号公報
(なお、以下では、それぞれ、「甲1」などという。)
第5 当審の判断
1 甲1について
(1)甲1の記載及び甲1から理解できる事項
ア 甲1の記載
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、製品品質制御装置に係り、特に、鋳造された鋼材を、加熱、圧延、冷却、熱処理などして製品の材質を作り込む際に用いるのに好適な、上工程の製造実績(成分や操業条件)から要求仕様(機械試験特性値範囲)を満足する下工程の製造条件(成分や操業条件)の指示値を決定することが可能な、製品品質制御装置に関する。」
「【0003】製造の途中において、それまでの工程(上工程)で製造実績が品質設計で決定した指示値と異なった場合、それ以降の工程(下工程)で品質設計で決定したとおりに製造すると、要求仕様を満足する品質が得られない。そのため、製造の途中で、上工程の製造実績を元に、要求仕様を満足するように下工程の製造条件指示値を変えている。」
「【0016】製造実績収集装置22は、図2に示す如く、過去に製造した製品14毎に、素材(鋳片)10の成分の指示値と実績値、および、加熱、圧延、冷却、熱処理などの製造プロセス12における操業条件の指示値と実績値、を収集し、製品品質制御装置20へ供給する。また、材料試験実績収集装置24は、同じく、過去に製造された製品14毎に、製品の材料試験で得られる機械試験特性値実績(強度、靭性等。以下材質実績値と称する)を収集し、製品品質制御装置20へ供給する。
【0017】製品品質制御装置20は、図3に示す如く、下工程の製造条件作成手段202、材質推定手段204、及び、製造情報記憶手段206を備えており、上工程の製造実績の誤差及び材質モデルの誤差を加味して、要求仕様をする下工程の製造条件(成分および操業条件)の指示値を出力するものである。」
「【0019】材質推定手段204は、製造情報記憶手段206に蓄積された製造条件の実績値及び材質実績値をもとに、ある製造条件(素材の成分指示値及び操業条件の指示値)で製造した場合の製品材質を推定するとともに、その推定誤差も併せて求める。
【0020】また、製造条件作成手段202は、要求仕様及び上工程の製造実績を取得し、下工程の素材成分及び操業条件の指示値を変化させて、材質推定手段204に材質推定を行うように指示するとともに、その指示値に対する材質予測値及びその誤差範囲を求め、材質推定手段が求めた材質推定値および推定誤差を用いて、要求仕様の範囲内にある下工程の製造条件指示値を検索して出力するものである。」
「【0023】入力変数限定手段204Aは、材質を推定しようとする製品に関する入力情報、即ち、素材の成分指示値(含有元素、含有量等)及び製造プロセス12における加熱条件(鋼材抽出温度、在炉時間等)、圧延条件(鋼材温度履歴、圧延寸法、圧下率、圧延速度等)、冷却条件(鋼材温度履歴、冷却速度等)、熱処理条件(炉内温度履歴、炉内雰囲気等)などの操業条件の指示値を基に、入力変数限定ルールを参照して材質推定に使用する入力変数を選択・限定し、この結果を材質推定計算手段204Bに出力する。更に、入力された各指示値の中から限定された入力変数に対応する指示値を抽出して、材質推定計算手段204Bに出力する。」
「【0026】以上の構成からなる鋼材の製品品質制御装置20を用いて、下工程における操業条件を求める手順を、図6を参照して説明する。」
「【0028】次にステップS2で、初期入力された製品Pjに関する指示値をもとに、製造条件作成手段202は、材質推定手段204に製品材質の推定を行うよう指令を出し、材質推定手段204は、図7に示すサブルーチンに従って材質の推定を行う。
【0029】即ち、まずステップS21で、入力変数限定手段204Aは入力変数限定ルール格納手段204Cに格納されているルールを参照して、ステップSlで入力された製品Pjに関する指示値(素材の成分とその含有量、加熱炉における鋼材抽出温度や在炉時間、熱間圧延における圧延温度、圧下率、寸法、及び圧延速度、その他各種製造条件)を基に、材質に対する影響が大きい入力変数を選択する。例えば、素材成分中の不可避的不純物Pは通常含有量が0.01質量%以下であれば製品の材質に悪影響を及ぼさないが、これより多く含有されると材質に影響を与えるというルールがあれば、入力されたPの含有量が0.006質量%の場合は、Pは入力変数とはされないが、0.02質量%であれば、入力変数として選択されることになる。このようにして限定された入力変数、及びこれらの入力変数に相当する入力値(指示値)は材質推定計算手段204Bに供給される。」
「【0034】次いでステップS24に進み、入力値の近傍にある取得された事例のデータか材質に関連するデータ(図4の材質1~材質Mの実績値)を用いて、その入力値に対する材質推定値(出力値)とその推定誤差を計算する。
【0035】これには、様々な方法があるが、例えば上記のようにして取得された材質に関連する実績データの平均値[材質11~[材質M]を次式で算出し、これらを材質推定値として出力し、同じくそれらの標準偏差を計算し、推定誤差として出力することができる。・・・。
【0036】
[材質1]=Σ材質1i/N
[材質2]=Σ材質2i/N
・・・・・・・・・・・
[材質M]=Σ材質Mi/N ・・・(2)
ここで、i=1~N
【0037】出力値(材質推定値)としては、例えば、引張強度、降伏点、伸び、シャルピー吸収エネルギーなどの材質を表わす出力変数を用いることができる。
【0038】上述のステップS23、S24の処理は、いずれも材質推定計算手段204Bが行い、その結果は製造条件作成手段202に出力される。
【0039】次に図6のステップS3に進み、材質推定手段204が求めた材質推定値及び推定誤差を用いて、製造条件作成手段202は、下記式に基づく判定、即ち、推定誤差を考慮した材質推定値が要求仕様の許容範囲内かどうかを判定する。
【0040】要求仕様の下限値≦材質推定値士推定誤差≦要求仕様の上限値・・・(3)
【0041】(3)式を満足した場合には、ステップS4に進んで、上記判定に使用した下工程の製造条件指示値を図示しない記憶手段に記憶し、ステップS5に進む。一方、ステップS3で(3)式を満足しなかった場合には、ステップS5に飛ぶ。
【0042】ステップS5では、取り得る下工程製造条件指示値の全てについて、材質推定を行ったか否かを判定し、判定結果が否である場合にはステップS6に進み、下記(4)式、(5)式に従って下工程製造条件指示値を変更し、ステップS2に戻る。」
「【0045】一方、ステップS5において、取り得る下工程製造条件指示値の全てについて、材質推定を行ったと判定された場合にはステップS7に進み、それら各製品の下工程製造条件指示値を出力して終了する。」
(当審注:【0035】の「[材質11」という記載は、「[材質1]」の誤記と認め、【0040】の「材質推定値士推定誤差」という記載は、「材質推定値±推定誤差」の誤記と認める。)
「【図3】
[図:0001418202000001.jpg]
」
「【図6】
[図:0001418202000002.jpg]
」
イ 段落【0024】、【0034】、【0035】等から、材質推定手段204が、製造情報記憶手段206に蓄積されたデータの中から入力値に近いデータを有する事例を抽出し、その事例の材質実績値を用いて、材質1~材質Mの複数を、材質推定値として推定していることが理解できる。そして、複数の材質推定値(材質1~材質M)を算出する計算式が、予測モデルであるといえるから、甲1の材質推定手段204は、入力値(上工程の複数の製造実績を含む製造条件:段落【0020】の上工程の製造実績を取得して材質推定手段204に材質推定を行うよう指示する旨の記載、あるいは段落【0029】の各種製造条件を含む入力値(指示値)を材質推定計算手段204Bに供給することの記載を参照。)と複数の材質を結びつけた(段落【0034】)予測モデルを備えることは明らかである。
ウ 製品品質制御装置20は、上工程の製造実績の誤差及び材質モデルの誤差を加味して、要求仕様を満足する下工程の製造条件の指示値を出力するもの(段落【0017】)であって、その下工程の製造条件作成手段202は、要求仕様及び上工程の製造実績を取得し、材質推定手段204が求めた材質推定値及び推定誤差を用いて下工程の製造条件指示値を検索して出力するものであり、図6のフローチャートにおいて、S2~S5のループを繰り返して、要求仕様を満足する下工程の製造条件指示値を検索しているから、上工程の製造実績を含む製造条件と、予測モデルとに基づき逆解析を行い、複数の材質推定値(材質1~材質M)がそれぞれの所望の値に漸近するように(要求仕様を満足するように)、製造プロセス全体のうち前記所定工程後のプロセスの制御量(下工程の製造条件指示値)をフィードフォワード演算して(S2~S5のループを繰り返す)、下工程の製造条件を製造中に最適化していることが理解できる。
エ 段落【0037】の「出力値(材質推定値)としては、例えば、引張強度、降伏点、伸び、シャルピー吸収エネルギーなどの材質を表わす出力変数を用いることができる。」との記載からみて、上記ウのフィードフォワード演算は、「引張強度」と「伸び」の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように行われているといえる。
(2)甲1発明
上記(1)の甲1の記載及び甲1から理解できる事項からみて、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「鋼材の製造途中の上工程の複数の製造実績を取得するステップと、
前記上工程の製造実績と、前記上工程の製造実績を含む製造条件および複数の材質を結びつけた予測モデルとに基づき逆解析を行い、前記予測モデルによる複数の材質推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように、下工程の製造条件指示値をフィードフォワード演算し、下工程の製造条件を製造中に最適化しているステップと
を含む前記鋼材の製品品質制御方法。」
2 甲4に記載の技術的事項について
(1)甲4の記載
ア 「本発明は、多成分系材料の設計方法、最適化解析装置及び多成分系材料の最適化解析プログラムを記録した記録媒体にかかり、特に、多成分から構成される多成分系材料の材料設計、例えばタイヤ用ゴム配合設計に用いることが可能な多成分系材料の設計方法、最適化解析装置及び多成分系材料の最適化解析プログラムを記録した記録媒体に関する。・・・材料設計は、目的とする材料の機械的挙動を得るための成分の構成比や製造条件等を求めることである。この機械的挙動は材料自体の物性や大きさ等の物理量がある。」(8ページ5~13行)
イ 「この非線形演算部32に用いられているニューラルネットワークの一例としては、図4に示すように、ニューロンに対応する所定数のユニットI1、I2、・・・、Ip(p>1)から成る入力層、多数のユニットM1、M2、・・・、Mq(q>1)から成る中間層、及び所定数の出力ユニットU1、U2、・・・、Ur(r>1)から成る出力層から構成されている。なお、入力層のユニット数、及び出力層のユニット数は多成分系材料の構成比率及び製造条件の個数、機械的挙動の個数に応じて設定すればよい。・・・出力層のユニットには例えば、ヤング率、ポアソン比、tanδ、コストを出力値として用いることができる。」(22ページ下から5行~23ページ8行)
ウ 「【図4】
[図:0001418202000003.jpg]
」
(2)甲4に記載の技術的事項
上記(1)の記載から、甲4には、
「目的とする複数の材料特性を得るための成分の構成比や製造条件等を求めるために、複数のユニットからなる入力層と、複数のユニットからなる出力層からなるニューラルネットワークを用いること。」
との技術的事項(以下、「甲4に記載の技術的事項」という。)が記載されているといえる。
3 本件発明の進歩性について(甲1発明を主発明とした場合について)
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と、甲1発明とを対比する。
甲1発明の「鋼材」は本件発明1の「金属材料」に相当し、以下同様に、「鋼材の製造途中の上工程の複数の製造実績」及び「前記上工程の製造実績」は「金属材料の製造中の所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データ」及び「前記1つ以上の実績データ」に、「前記上工程の製造実績を含む製造条件」は「製造仕様」に、「複数の材質」は「材料特性」に、「前記上工程の製造実績を含む製造条件および複数の材質を結びつけた予測モデル」は「製造仕様および材料特性を結びつけた予測モデル」に、「製品品質制御方法」は「製造仕様決定方法」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「下工程の製造条件指示値をフィードフォワード演算し、下工程の製造条件を製造中に最適化している」ことは、本件発明1の「前記所定工程後に係る製造仕様を製造中の制御量のフィードフォワード処理により最適化する」ことに相当する。
さらに、甲1発明の「前記予測モデルによる複数の材質推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように」「フィードフォワード演算」することは、上記1(1)エに説示したとおり、甲1の段落【0037】の記載を参酌すれば「引張強度」と「伸び」の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように行われているものであるところ、「引張強度」と「伸び」とは互いに相反する複数の金属材料の材料特性であることは技術常識である(上記第2の2(1)ウ等を参照。)から、本件発明1の「前記予測モデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように」「フィードフォワード処理」することに相当する。
以上から、本件発明1と、甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
金属材料の製造中の所定工程後に確定した少なくとも1つ以上の実績データを取得するステップと、
前記1つ以上の実績データと、製造仕様および材料特性を結びつけた予測モデルとに基づき逆解析を行い、前記予測モデルによる互いに相反する複数の前記金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するように前記所定工程後に係る製造仕様を製造中の制御量のフィードフォワード処理により最適化するステップと
を含む前記金属材料の製造仕様決定方法。
<相違点1>
予測モデルによる互いに相反する複数の金属材料の材料特性の推定値がそれぞれの所望の値に漸近するようにフィードフォワード処理を行うことについて、本件発明1では、予測モデルが「1つ」であると特定されているのに対し、甲1発明では、予測モデルが1つであるか不明な点。
イ 判断
(ア)上記2(2)で説示したとおり、甲4には、「目的とする複数の材料特性を得るための成分の構成比や製造条件等を求めるために、複数のユニットからなる入力層と、複数のユニットからなる出力層からなるニューラルネットワークを用いること。」との技術的事項が、「1つの」「ニューラルネットワークモデル」として記載されている。
そして、甲1発明と甲4に記載の技術的事項とは、目的とする材料特性を得るための成分の構成比や製造条件等を求めるために予測モデルを使用する点で共通し、目的とする材料特性が複数である点でも共通するから、甲1発明に甲4に記載の技術的事項を適用し、実績データを含む製造仕様を複数の材料特性に結びつけるための「予測モデル」として、甲4に記載の「1つの」「ニューラルネットワークモデル」を採用して、予測モデルを1つのものとすることは、当業者が容易になし得るものである。
(イ)以上から、本件発明1は、甲1発明及び甲4に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものである。
(2)本件発明2について
上記(1)の説示、及び甲1の段落【0001】、【0016】には、鋼材の製造プロセスが記載され、さらに段落【0001】には「上工程の製造実績(成分や操業条件)」と記載されていることに鑑みれば、甲1には、請求項2の発明特定事項が実質的に記載されているといえる。
以上から、本件発明2は、甲1発明及び甲4に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものである。
(3)本件発明3について
甲1発明の鋼材として厚鋼板を想定すること、又は鋼材の製造に関する発明を、厚鋼板の製造に適用することは、当業者にとって容易になし得ることである。
以上から、本件発明3は、甲1発明及び甲4に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものである。
(4)本件発明4について
甲1の段落【0037】に「材質推定値」の1つとして示されている「伸び」として、「一様伸び」を選択することは当業者にとっての選択的事項に過ぎない。
また、甲3(段落【0001】、【0008】、【0017】等を参照。)には、厚鋼板の製造において、その材質として一様伸びを選択することが記載されており、甲1発明に上記甲3に記載の技術的事項を適用して、鋼材の材質として一様伸びを選択し、本件発明4の構成とすることは、当業者が容易になし得るものである。
以上から、本件発明4は、甲1発明及び甲4に記載の技術的事項に基づいて、又は甲1発明及び甲4に記載の技術的事項並びに甲3に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものである。
(5)本件発明5について
甲1発明において、甲4に記載のニューラルネットワークモデルを採用することが容易想到であることは、上記3(1)イの相違点1の判断で説示したとおりであるところ、ニューラルネットワークモデルが、いわゆる深層学習モデルとして認識されることは当業者にとって自明な事項である。
以上から、本件発明5は、甲1発明及び甲4に記載の技術的事項に基づいて、又は甲1発明及び甲4に記載の技術的事項並びに甲3に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものである。
(6)本件発明6について
甲1には、金属材料を製造することが記載されているから、甲1には、請求項6の発明特定事項が実質的に記載されているといえる。
以上から、本件発明6は、甲1発明及び甲4に記載の技術的事項に基づいて、又は甲1発明及び甲4に記載の技術的事項並びに甲3に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものである。
(7)本件発明7について
本件発明7は、概ね本件発明1を装置の発明として表現したものであるところ、甲1には甲1発明の方法(製造仕様決定方法)を行う装置に係る発明(以下「甲1の装置に係る発明」という。)についても記載されているから、本件発明7は、甲1の装置に係る発明及び甲4に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものである。
(8)小括
以上より、本件発明1~6は、甲1発明及び甲4に記載の技術的事項に基づいて、又は甲1発明及び甲4に記載の技術的事項並びに甲3に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものであり、本件発明7は、甲1の装置に係る発明及び甲4に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものである。
4 特許権者の主張
特許権者は、権者意見書において、甲1に記載のモデルは、説明変数の要求点近傍でのみ精度が高いモデルとなっており(甲1の段落【0033】~【0035】)、逆問題を解く際に、複数の操作量がある場合には、操業の基準値近傍で操作量を決定するようにしているところ、これらのモデルでは、要求点の近傍でしか高精度な予測ができない(権者意見書6ページ)旨を主張するが、本件明細書には、本件発明1~7の予測モデルにおける予測の精度がどの程度のものであるかや、特許権者のいう「操業の基準値近傍」以外の範囲で高精度な予測ができることについて、明記されていないから、仮に、甲1に記載のモデルが要求点の近傍でしか高精度な予測ができないとしても、本件発明1~7との相違点とはならない。
したがって、特許権者の意見は採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、本件発明1~6は、甲1発明及び甲4に記載の技術的事項に基づいて、又は甲1発明及び甲4に記載の技術的事項並びに甲3に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものであり、本件発明7は、甲1の装置に係る発明及び甲4に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものであるから、請求項1~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1~7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700662