特許異議申立
2022-701005
木材チップ及びその用途
- 審判番号
- 2022-701005
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-537202
- 登録番号
- 7053962
- 請求日
- 2022年10月11日
- 審決日
- 2023年08月28日
- 公報発行日
- 2023年11月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本製紙株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 【異議申立人】赤松 智信
- 審判長/審判官
- 審判長 前川 慎喜
- 審判官 居島 一仁
- 審判官 西田 秀彦
- 分類
- P1651.113-YAA(A01G) / P1651.121-YAA(A01G) / P1651.536-YAA(A01G) / P1651.537-YAA(A01G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第36条、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7053962号発明「木材チップ及びその用途」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7053962号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。
特許第7053962号の請求項1、2及び5~13に係る特許を維持する。
特許第7053962号の請求項3及び4に係る特許についての特許異議申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7053962号(以下「本件特許」という。)の請求項1~13に係る特許についての出願は、令和3年3月11日を国際出願日とする日本語特許出願であって(優先権主張 令和2年3月27日)、本件特許について、令和4年4月4日にその特許権の設定登録がされ、同月12日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後の特許異議の申立ての経緯は以下のとおりである。
令和4年10月11日 :特許異議申立人 赤松 智信(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和5年 1月13日付け:取消理由通知書
同年 3月20日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 6月 1日付け;通知書(訂正請求があった旨の通知)
なお、通知書(訂正請求があった旨の通知)に対し、申立人からは何ら応答がなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
特許権者により令和5年3月20日に提出された訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)の内容(以下「本件訂正」という。)は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所を示す。)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ユーカリ属植物」とあるのを、「樹齢10年以下の、Eucalyptus pellitaとEucalyptus brassianaとのハイブリッド、又はEucalyptus urophyllaとEucalyptus grandisのハイブリッドであるユーカリ属植物」と訂正する。
なお、請求項1の記載を引用する請求項2~13についても同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「燃料用である、請求項1~4のいずれか1項に記載の木材チップ。」とあるのを、「燃料用である、請求項1又は2に記載の木材チップ。」と訂正する。
なお、請求項5の記載を引用する請求項6~13についても同様に訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5のいずれか1項に記載の木材チップと、他の木材チップを含む、木材チップ混合材。」とあるのを、「請求項1、2及び5のいずれか1項に記載の木材チップと、他の木材チップを含む、木材チップ混合材。」と訂正する。
なお、請求項6の記載を引用する請求項7~9についても同様に訂正する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~5のいずれか1項に記載の木材チップ及び請求項6に記載の混合材の少なくともいずれかから製造されるパルプ。」とあるのを、「請求項1、2及び5のいずれか1項に記載の木材チップ及び請求項6に記載の混合材の少なくともいずれかから製造されるパルプ。」と訂正する。
なお、請求項7の記載を引用する請求項8及び9についても同様に訂正する。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10に「ユーカリ属植物の樹木から、請求項1~5のいずれか1項に記載の木材チップを製造する工程、及び前記木材チップをパルプ化する工程を含む、パルプの製造方法。」とあるのを、「ユーカリ属植物の樹木から、請求項1、2及び5のいずれか1項に記載の木材チップを製造する工程、及び前記木材チップをパルプ化する工程を含む、パルプの製造方法。」と訂正する。
なお、請求項10の記載を引用する請求項12及び13についても同様に訂正する。
(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項11に「ユーカリ属植物の樹木から、請求項1~5のいずれか1項に記載の木材チップを製造する工程、及び前記木材チップを他の木材チップと混合し混合材を得る工程、及び、混合材をパルプ化する工程を含む、パルプの製造方法。」とあるのを、「ユーカリ属植物の樹木から、請求項1、2及び5のいずれか1項に記載の木材チップを製造する工程、及び前記木材チップを他の木材チップと混合し混合材を得る工程、及び、混合材をパルプ化する工程を含む、パルプの製造方法。」と訂正する。
なお、請求項11の記載を引用する請求項12及び13についても同様に訂正する。
(9) 一群の請求項について
訂正前の請求項1~13は、請求項2~13が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正は、一群の請求項1~13について請求されている。
2 訂正の目的の適否について
(1) 訂正事項1
訂正事項1における「ユーカリ属植物」とあるのを、「樹齢10年以下の、Eucalyptus pellitaとEucalyptus brassianaとのハイブリッド、又はEucalyptus urophyllaとEucalyptus grandisのハイブリッドであるユーカリ属植物」とする訂正は、訂正前の請求項1の「ユーカリ属植物」を具体的に特定し、さらに限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法120条の5第2項ただし書き1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2) 訂正事項2及び3
訂正事項2及び3のそれぞれは、訂正前の請求項3及び4を削除するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(3) 訂正事項4~8
訂正事項4~8のそれぞれは、訂正事項2及び3により請求項3及び4が削除されたため、請求項3及び4を引用しない形式にしたものであるから、同法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
3 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1) 訂正事項1
訂正前の請求項3に「ユーカリ属植物が、Eucalyptus pellitaとEucalyptus brassianaとのハイブリッド、又はEucalyptus urophyllaとEucalyptus grandisのハイブリッドである請求項1又は2に記載の木材チップ。」と記載され、本件特許に係る願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」といい、特許請求の範囲及び図面とあわせて「本件特許明細書等」という。)の段落【0019】に「木材チップの由来植物は、通常はクローン苗及び実生苗から育成した植林木である。樹齢は特に限定されず、木材チップが得られる樹齢であればよく(通常は2年以上)、好ましくは5年以上である。上限は品質面からは特に限定されないが、経済的な観点からは短いほうがよい。ユーカリ属植物の場合、植林地域にもよるが、通常は15年以下であり、好ましくは10年以下である。」との記載がある。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(2) 訂正事項2及び3
訂正事項2及び3のそれぞれに係る請求項3及び4の訂正は、前記2(2)に示したとおり請求項の削除を目的とするものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(3) 訂正事項4~8
訂正事項4~8のそれぞれに係る請求項3及び4の訂正は、前記2(3)に示したとおり訂正事項2及び3により請求項3及び4が削除されたため、請求項3及び4を引用しない形式にしたものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
4 小括
前記のとおり、訂正事項1~8に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、それぞれの訂正事項は、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。
第3 本件特許について
前記のとおり、本件訂正請求による訂正は全て認められたので、本件特許の請求項1~13に係る発明(以下、各々を「本件発明1」等といい、請求項1~13に係る発明をまとめて「本件発明」という。)は、令和5年3月20日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の、請求項1~13に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1~13の記載は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
容積重が635kg/m3以上であり、
カッパー価18の時のパルプ収率が48%以上60%以下であり、
繊維長が0.76mm以上1.10mm以下である、
樹齢10年以下の、Eucalyptus pellitaとEucalyptus brassianaとのハイブリッド、又はEucalyptus urophyllaとEucalyptus grandisのハイブリッドであるユーカリ属植物由来の木材チップ。
【請求項2】
発熱量が19.0MJ/kg以上である、請求項1に記載の木材チップ。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
燃料用である、請求項1又は2に記載の木材チップ。
【請求項6】
請求項1、2及び5のいずれか1項に記載の木材チップと、他の木材チップを含む、木材チップ混合材。
【請求項7】
請求項1、2及び5のいずれか1項に記載の木材チップ及び請求項6に記載の混合材の少なくともいずれかから製造されるパルプ。
【請求項8】
クラフトパルプである、請求項7に記載のパルプ。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のパルプを含むパルプ原料から製造される紙。
【請求項10】
ユーカリ属植物の樹木から、請求項1、2及び5のいずれか1項に記載の木材チップを製造する工程、及び
前記木材チップをパルプ化する工程
を含む、パルプの製造方法。
【請求項11】
ユーカリ属植物の樹木から、請求項1、2及び5のいずれか1項に記載の木材チップを製造する工程、及び
前記木材チップを他の木材チップと混合し混合材を得る工程、及び、
混合材をパルプ化する工程
を含む、パルプの製造方法。
【請求項12】
パルプが、クラフトパルプである、請求項10又は11に記載の製造方法。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか1項に記載の方法により得られるパルプを含む紙原料からシートを形成する工程
を含む、紙の製造方法。」
第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1~13に係る特許に対して、当審が令和5年1月13日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
取消理由1 (新規性) 請求項1、2、4、7~10、12及び13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、請求項1、2、4、7~10、12及び13に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
取消理由2 (進歩性) 請求項1~13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2、6、7号証に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
2 証拠
以下は、申立人により、特許異議申立書とともに提出された証拠である。
甲第1号証:田山正雄,他1名,「ユーカリパルプに關する研究」,パルプ紙工業雜誌,パルプ及紙技術協會,昭和29年4月20日,第8巻第2号,P570-576,654
甲第2号証:三谷守俊,他1名,「世界の輸送用バイオ燃料ポテンシャル:土地の利用性とバイオマスのフィードストックについて」,日本エネルギー学会誌,一般社団法人 日本エネルギー学会,2012年,第91巻第3号,P203-218
甲第3号証:「パルプのカッパー価」(TAPPI試験法 T236hm-85),TAPPIスタンダード日本語版 1986年版完全シート第I巻繊維原料およびパルプ試験法,有限会社中外産業調査会,昭和61年10月31日,P1-3
甲第4号証:「紙パルプ事典」<改訂第6版>,紙パルプ技術協会,平成26年7月30日,P78
甲第5号証:「クラフトパルプ」紙パルプ製造技術シリーズ○1,紙パルプ技術協会,1996年4月25日,P40-54(当審注:○1等は数字を○で囲む文字を表す。)
甲第6号証:栗延晋,他1名,「インドネシアにおけるユーカリ・ペリタの育種」,海外の森林と林業,公益財団法人 国際緑化推進センター,2011年,No.82,P44-48
甲第7号証:大江礼三郎,他2名,「ユーカリ材の抽出成分と黒液の濃縮,燃焼性」,紙パ技協誌,紙パルプ技術協会,1973年,第27巻第2号,P71-79
甲第8号証:香山彊,「パルプ・紙生産に対する熱帯産広葉樹材の混合使用」,紙パ技協誌,紙パルプ技術協会,第26巻第6号,1972年,P300-307
甲第9号証:「紙パルプ技術便覧」,紙パルプ技術協会,1992年1月30日,P105-109
甲第10号証:特開平6-133657号公報
甲第11号証:特開平9-285233号公報
(以下「甲第1号証」等を「甲1」等という場合がある。なお、甲第8-11号証は、以下では引用していない。)
第5 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1) 各甲号証の記載及び甲号証に記載された発明について
ア 甲1
(ア) 甲1の記載
甲1には以下の記載がある(下線は、当審で付加した。以下、同様。)。
a 570頁右欄26行~571頁9行
「試験材としては伊豆半島吉田産の本種(25年生胸高直徑約2尺)の枝を使用した。
本材の容積重,繊維長,化學組成等の測定を行つたが此等の結果と共にE.globulus Labillの一般的性質について概説する。 E.globulus Labillはオーストラリヤ及びタスマニヤが原産地でBlue gumと通稱され降雨量多く水はけの良好な砂土層に良く生長する。本種は我が國に最も適したユーカリの一つと言われ,東京以南の暖地に容易に生育すると考えられる。本種の生長も又速く現在伊豆地方にある同樹種中最も生長の良い物は25年生で高さ14間,胸高直徑2尺8寸にも達している。ヨーロッパに於ける例では本種の20年生林木の年平均幹材生長量は1町歩當り117石と言われ同地方の落葉松の生長量が17.5石であるのにくらべ著しく大きな生長量を示している。」
b 571頁左欄16~24行
「容積重の測定結果は氣乾容積重:0.77g/cm3(水分16.8%),絶乾容積重:0.68g/cm3である。
猶前に述べた如く容積重は立地條件により相當異りG.Jaymeの報告中には0.630g/cm3~0.875g/cm3と述べてある。何れにしても本種の材は相當重いと考えられる。繊維は枝を使つた爲若干幹の繊維長とは異なるかもしれないが非常に短く測定結果は次に示すが平均繊維長は0.762mmである。」
c 571頁右欄13~16行
「3. パルプ蒸解試験
當研究所に於て作成したチップ(2cm×2.5cm×0.2cm程度)を使用して亞硫酸法,硫酸鹽法,中性亞硫酸ソーダセミケミカル法の各法に依り此のチップの蒸解を行つた。」
d 571頁右欄25~30行
「硫酸鹽蒸解液
NaOH 3.47%
Na2S 1.67%
Na2CO3 0.20%
硫化率 32.5%
(藥品量は何れもNa2Oとして計算した。)」
e 571頁右欄35~39行
「蒸解はS.P. の場合全蒸解時間8時間30分最高温度140℃, K.P. の場合170℃4時間20分, N.S.S.C.P. の場合170℃5時間で行つた。 蒸解したパルプは・・・」
f 574頁左欄7行~右欄2行
「結局E.globulus Labillは強度より考えるとそのK.P.及びN.S.S.C.Pは製紙用として單獨に使用し得ると考える。」
g 572頁左欄上段
第二表は、次のものである。「
[図:0001403653000001.jpg]
」
上記eの記載をふまえると、第二表から以下の点が看取できる。
a 硫酸鹽法によって、170℃4時間20分蒸解した際のパルプ収量が48.6%であること。
(イ) 甲1発明
前記(ア)より、甲1には、次の5つの発明(以下「甲1チップ発明」、「甲1パルプ発明」、「甲1紙発明」、「甲1パルプ方法発明」及び「甲1紙方法発明」という。)が記載されている。
(甲1チップ発明)
「ユーカリの一つである伊豆半島吉田産のE.globulus Labill(25年生胸高直徑約2尺)の枝を使用して作成したチップであって、
本種の生長も又速く現在伊豆地方にある同樹種中最も生長の良い物は25年生で高さ14間,胸高直徑2尺8寸にも達し、ヨーロッパに於ける例では本種の20年生林木の年平均幹材生長量は1町歩當り117石と言われ同地方の落葉松の生長量が17.5石であるのにくらべ著しく大きな生長量を示すものであり、
絶乾容積重は0.68g/cm3であり、
平均繊維長は0.762mmであり、
硫化率が32.5%の硫酸鹽蒸解液を用いた硫酸鹽法によって、170℃4時間20分蒸解した際のパルプ収量が48.6%であるチップ。」
(甲1パルプ発明)
「甲1チップ発明のチップを、硫化率が32.5%の硫酸鹽蒸解液を用いた硫酸鹽法によって、170℃4時間20分蒸解した際のパルプ。」
(甲1紙発明)
「甲1パルプ発明のパルプから製造される紙。」
(甲1パルプ方法発明)
「ユーカリの一つである伊豆半島吉田産のE.globulus Labill(25年生胸高直徑約2尺)の枝から、甲1チップ発明のチップを作成する工程と、 作成したチップを硫化率が32.5%の硫酸鹽蒸解液を用いた硫酸鹽法によって、170℃4時間20分蒸解する工程を含む、パルプの製造方法。」
(甲1紙方法発明)
「甲1パルプ方法発明によって得られるパルプから紙を製造する工程を含む、紙の製造方法。」
イ 甲2
(ア) 甲2の記載
甲2には以下の記載がある。
a 204頁右欄21~23行
「バイオマスの熱量は,通常GJ単位で表される。その熱量のHHV(高位熱量)とLHV(低位熱量)については,Faaijら6)に従う。」
b 210頁右欄3~9行
「5. バイオ燃料原料
5.1 食料(第一世代)と非食料(第二世代)
多くの文献データに基づき,Table 4にバイオ燃料の原料の,作物別と,伴われる残渣での,特徴的な熱量値(GJ/t),収量値(t/ha),エネルギー投入値(GJ/ha)等に関するデータを纏める。なお,これらの関係は,GJ/t × t/ha= GJ/ha である。」
c 210頁
Table 4は次のものである。「
[図:0001403653000002.jpg]
」
d 看取できる事項
前記a及びbの記載をふまえると、Table 4から次の点が看取できる。 「バイオ燃料の原料としてユーカリを用いた際のHHV(高位熱量)は、19.6GJ/tであること。」
(イ) 甲2記載技術
前記(ア)より、甲2には、次の技術的事項(以下「甲2記載技術」という。)が記載されている。
(甲2記載技術)
「バイオ燃料の原料としてユーカリを用いた際のHHV(高位熱量)は、19.6GJ/tであること。」
ウ 甲3
(ア) 甲3の記載
甲3には以下の記載がある。
a 1頁左欄1~3行
「1. 適用範囲および意義
この方法はパルプの相対的硬さ,漂白性,あるいは脱リグニンの程度を測定するのに適している。」
b 2頁左欄22~26行
「7. 計算
・・・
ここに:
K=カッパー価」
c 3頁左欄10~14行
「10.5 リグニンとの関係;収率70%以下のパルプに対しては,カッパー価は,Klason リグニンおよび,塩素価と本質的には直線的関係を持つ(1)。Klason リグニンの百分率は大体K×0.15に等しい。」
(イ) 甲3記載技術
前記(ア)より、甲3には、次の技術的事項(以下「甲3記載技術」という。)が記載されている。
(甲3記載技術)
「カッパー価は,脱リグニンの程度を測定するのに適しているものであり、Klason リグニンおよび,塩素価と本質的には直線的関係を持ち、Klason リグニンの百分率は大体カッパー価K×0.15に等しいこと。」
エ 甲4
(ア) 甲4の記載
甲4には以下の記載がある。
a 78頁右欄
「クラーゾン法 Klason method リグニンの単離または定量法の一つ。試料を72%硫酸で処理し,炭水化物などを分解し去り,リグニンを残物として分離定量する。分離したリグニンをクラーゾンリグニンまたは硫酸リグニンという。
→クラーゾンリグニン
クラーゾンリグニン Klason lignin =sulfuric acid lignin
→クラーゾン法」
(イ) 甲4記載技術
前記(ア)より、甲4には、次の技術的事項(以下「甲4記載技術」という。)が記載されている。
(甲4記載技術)
「リグニンの単離または定量法の一つであるクラーゾン法によって、分離したリグニンをクラーゾンリグニンということ。」
オ 甲5
(ア) 甲5の記載
甲5には以下の記載がある。
a 40頁11~14行
「3.3 工程に関連した変数
木材の品質以外に,蒸解性,収率,パルプ特性に影響する因子として,蒸解時の操業因子がある。ここでは蒸解時の温度,有効アルカリ添加率,有効アルカリ濃度,硫化度などの工程に関連した変数について述べる。」
b 41頁11~18行
「前述の議論から,蒸解過程での成分の反応が,温度に敏感なことが明らかである。それらの成分の反応速度の温度依存性に関する知識は,蒸解を制御する点から重要である。脱リグニンは,100℃以下では起こりにくく,温度が160℃以上になると著しく促進される。このことから昇温時間と温度,最高温度および,そこでの保持時間などの組み合わせによって,脱リグニンの程度をコントロールできる。これらの変数を最適に選ぶ方法は,Vroomにより発明されたH-ファクターの概念により,単純化されている。それは蒸解時間と温度を一つの変数として表現し,全てのサイクルの時間と温度を一つの数値として表す方法である。この値をH-ファクターと呼び,相対反応速度(100℃の反応速度を1とした各温度での相対値)で蒸解時間に対してプロットした曲線の領域で表現している。」
c 41頁22~23行
「脱リグニン反応である場合,このxは木材重量当たりの溶出リグニン量であり,変化の速度は材中に残ったリグニン量(f)と,蒸解液中のNaOHとNa2Sの濃度に比例する。」
d 52頁2~3行
「高硫化度の場合は,パルプ中のリグニン含量はより少なくなった。」
e 44頁上段
図2.25は次のものである。
「
[図:0001403653000003.jpg]
」
f 44頁中段
表2.13は次のものである。
「
[図:0001403653000004.jpg]
」
g 看取できる事項
(a) 前記a及びbの記載をふまえると、図2.25から次の点が看取できる。
「H-ファクターが大きくなると、パルプ収率が少なくなるとともに、リグニンの含量が少なくなること。」
(b) 前記b及びcの記載をふまえると、表2.13から次の点が看取できる。
「NaOHとNa2Sを含有する蒸解液による脱リグニン反応の、170℃における相対速度定数は、921.4であること。」
(イ) 甲5記載技術
前記(ア)a~dの記載から、蒸解して得られるパルプがクラフトパルプであることは明らかであるため、前記(ア)より甲5には、次の技術的事項(以下「甲5記載技術」という。)が記載されている。
(甲5記載技術)
「クラフトパルプのパルプ収率に影響する因子として,蒸解時の操業因子である,蒸解時の温度,有効アルカリ添加率,有効アルカリ濃度,硫化度があり、脱リグニンの程度をコントロールできる変数として、相対反応速度で蒸解時間に対してプロットした曲線の領域で表現するH-ファクターを用い、 NaOHとNa2Sを含有する蒸解液による脱リグニン反応の、170℃における相対速度定数は、921.4であり、
H-ファクターが大きくなると、パルプ収率が少なくなるとともに、リグニンの含量が少なくなり、
高硫化度の場合は,パルプ中のリグニン含量はより少なくなること。」
カ 甲6
(ア) 甲6の記載
甲6には以下の記載がある。
a 47頁2~14行
「雑種とクローンの利用
他のユーカリと同様に,ユーカリ・ペリタの天然生個体から採種した家系にも自然交雑種が見出される。南カリマンタンの実生採種林では2年生前後からユーカリ・ブラシアーナ(E. brassiana)との種間雑種がペリタ純粋種の成長を明らかに上回るようになった(図4)。雑種の葉はやや長く,樹皮が薄く白いので容易に識別できる。同採種林での雑種の出現頻度は0.5% 程度であるが,20 家系に雑種が認められた。この雑種の成長は総じて良好であり,かつ林齢の増加とともにペリタとの成長の差は拡大している。特に雑種の上位5 個体の胸高直径の平均は,ペリタを60%前後上回る。」
(イ) 甲6記載技術
前記(ア)より、甲6には、次の技術的事項(以下「甲6記載技術」という。)が記載されている。
(甲6記載技術)
「ユーカリ・ペリタにも自然交雑種が見出され,2年生前後からユーカリ・ブラシアーナ(E. brassiana)との種間雑種がペリタ純粋種の成長を明らかに上回り,雑種の成長は総じて良好であり,かつ林齢の増加とともにペリタとの成長の差は拡大すること。」
キ 甲7
(ア) 甲7の記載
甲7には以下の記載がある。
a 72頁左欄2~7行
「(1)試 料
供試ユーカリ材は,西オーストラリヤ産E.calophylla(マリ),E.marginata(ジャラ),E.diversicolor(カリ)であって,単独種と断らない試料は,マリ材90部,ジャラ材5部,カリ材5部を混合した。比較として、北海道産雑広葉樹をL材試料として用いた。」
b 77頁右欄11~17行
「(2)混合蒸解と混合濃縮
ユーカリ材をL材に,0,15,30,50,100%配合し,活性アルカリ17%,最高温度160℃,液比1:4,硫化度25%,保持時間120分蒸解した黒液の濃縮時の粘度,沈でん量を第11,12図に示す。ユーカリ材の配合率が比較的低いところで粘度,沈でん量が増加する。第2表の実験にもこの傾向が表われている。」
(イ) 甲7記載技術
前記(ア)より、甲7には、次の技術的事項(以下「甲7記載技術」という。)が記載されている。
(甲7記載技術)
「ユーカリ材を北海道産雑広葉樹が用いられるL材試料に配合し,蒸解すること。」
(2) 新規性及び進歩性について
ア 本件発明1
(ア) 対比
本件発明1と甲1チップ発明とを対比する。
a 甲1チップ発明の「絶乾容積重は0.68g/cm3であ」ることは、「0.68g/cm3」の単位をkg/m3に換算すると、680kg/m3であることであるから、本件発明1の「容積重が635kg/m3以上であ」ることに相当する。
b 甲1チップ発明の「硫化率が32.5%の硫酸鹽蒸解液を用いた硫酸鹽法によって、170℃4時間20分蒸解した際のパルプ収量が48.6%である」ことと、本件発明1の「カッパー価18の時のパルプ収率が48%以上60%以下であ」ることは、「パルプ収率が48%以上60%以下であ」ることで共通する。
c 甲1チップ発明の「平均繊維長は0.762mmであ」ることは、本件発明1の「繊維長が0.76mm以上1.10mm以下である」ことに相当する。
d 甲1チップ発明の「ユーカリの一つである伊豆半島吉田産のE.globulus Labill(25年生胸高直徑約2尺)の枝を使用して作成したチップ」は、本件発明1の「ユーカリ属植物由来の木材チップ」に相当する。
e そうすると、本件発明1と甲1チップ発明とは、
「容積重が635kg/m3以上であり、
パルプ収率が48%以上60%以下であり、
繊維長が0.76mm以上1.10mm以下である、ユーカリ属植物由来の木材チップ。」
の点で一致し、以下の2点で相違する。
(相違点1)
パルプ収率について、本件発明1は、「カッパー価18の時」のパルプ収率である事項を特定しているのに対し、甲1チップ発明は、そのような事項が特定されていない点。
(相違点2)
「ユーカリ属植物」が、本件発明1は「樹齢10年以下の、Eucalyptus pellitaとEucalyptus brassianaとのハイブリッド、又はEucalyptus urophyllaとEucalyptus grandisのハイブリッドである」のに対し、甲1チップ発明は、「ユーカリの一つである伊豆半島吉田産のE.globulus Labill(25年生胸高直徑約2尺)」であって、「 本種の生長も又速く現在伊豆地方にある同樹種中最も生長の良い物は25年生で高さ14間,胸高直徑2尺8寸にも達し、ヨーロッパに於ける例では本種の20年生林木の年平均幹材生長量は1町歩當り117石と言われ同地方の落葉松の生長量が17.5石であるのにくらべ著しく大きな生長量を示すもの」である点。
(イ) 検討・判断
事案に鑑み相違点2から検討する。
a 甲1チップ発明は、「本種の生長も又速く現在伊豆地方にある同樹種中最も生長の良い物は25年生で高さ14間,胸高直徑2尺8寸にも達し、ヨーロッパに於ける例では本種の20年生林木の年平均幹材生長量は1町歩當り117石と言われ同地方の落葉松の生長量が17.5石であるのにくらべ著しく大きな生長量を示すもの」、すなわち、20年生、25年生の「E.globulus Labill」について記載されている。
b 一方、甲6記載技術は「ユーカリ・ペリタにも自然交雑種が見出され,2年生前後からユーカリ・ブラシアーナ(E. brassiana)との種間雑種がペリタ純粋種の成長を明らかに上回り,雑種の成長は総じて良好であり,かつ林齢の増加とともにペリタとの成長の差は拡大すること」(前記(1)カ(イ)を参照。)であり、甲6記載技術において、雑種の成長は総じて良好であることが示されており、パルプの材料となる樹木の成長を早めることは、当業者にとって自明な課題であるといえる。
c しかしながら、甲1チップ発明の「ユーカリ」として、甲6記載技術のように「2年生前後から」「ユーカリ・ペリタに」「見出され」る「ユーカリ・ブラシアーナ(E. brassiana)との種間雑種」のものを適用しても、「樹齢10年以下の」「ハイブリッド」のものを「木材チップ」として選択することについて、甲1及び甲6に記載も示唆もされておらず、そのような技術常識があるともいえない。
また、甲2記載技術~甲5記載技術及び甲7記載技術についても「樹齢10年以下の、Eucalyptus pellitaとEucalyptus brassianaとのハイブリッド、又はEucalyptus urophyllaとEucalyptus grandisのハイブリッドである」ものを採用することを示すものでも示唆するものでもない。
d したがって、当業者であっても、甲1チップ発明において相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることが容易に想到し得たとはいえない。
(ウ) 小括
したがって、相違点2は実質的なものであるから、本件発明1は、甲1チップ発明でない。
そして、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1チップ発明及び甲2~7記載技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない、
イ 本件発明2、5及び6
本件発明2、5及び6は、本件発明1の構成を全て有し、さらに限定を付加したものであるところ、前記アにおいて判断したとおりであるから、本件発明2は、甲1チップ発明でなく、また、本件発明2、5及び6は、甲1チップ発明及び甲2~7記載技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明7及び8
(ア) 本件発明7と甲1パルプ発明とを対比すると、少なくも前記相違点1及び2で相違する。
そうすると、相違点2について前記アにおいて判断したとおりであるから、本件発明7は、甲1パルプ発明でなく、甲1パルプ発明及び甲2~7記載技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ) 本件発明8は、本件発明7の構成を全て有し、さらに限定を付加したものであるところ、前記(ア)において判断したとおりであるから、本件発明8は、甲1パルプ発明でなく、甲1パルプ発明及び甲2~7記載技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明9
本件発明9と甲1紙発明とを対比すると、少なくも前記相違点1及び2で相違する。
そうすると、相違点2について前記アにおいて判断したとおりであるから、本件発明9は、甲1紙発明でなく、甲1紙発明及び甲2~7記載技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明10~13
(ア) 本件発明10と甲1パルプ方法発明とを対比する。
a 甲1パルプ方法発明の「ユーカリの一つである伊豆半島吉田産のE.globulus Labill(25年生胸高直徑約2尺)の枝から、」「チップを作成する工程」は、本件発明10の「ユーカリ属植物の樹木から、」「木材チップを製造する工程」に相当する。
b 甲1パルプ方法発明の「作成したチップを硫化率が32.5%の硫酸鹽蒸解液を用いた硫酸鹽法によって、170℃4時間20分蒸解する工程」において、チップを蒸解した結果、チップがパルプ化され、パルプが製造されることは明らかであるから、甲1パルプ方法発明の「作成したチップを硫化率が32.5%の硫酸鹽蒸解液を用いた硫酸鹽法によって、170℃4時間20分蒸解する工程」は、本件発明10の「前記木材チップをパルプ化する工程」に相当する。
c 甲1パルプ方法発明の「パルプの製造方法」は、本件発明10の「パルプの製造方法」に相当する。
d その余の点については、前記アに対比したとおりであるから、本件発明10と甲1パルプ方法発明は、前記相違点1及び2で相違し、その余の点で一致している。
そうすると、相違点2について前記アにおいて判断したとおりであるから、本件発明10は、甲1パルプ方法発明でなく、甲1パルプ方法発明及び甲2~7記載技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ) 本件発明11~13
本件発明11~13は、本件発明10の構成を全て有し、さらに限定を付加したものであるところ、前記(ア)において判断したとおりであるから、本件発明12は、甲1パルプ方法発明でなく、本件発明11~13は、甲1パルプ方法発明及び甲2~7記載技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 取消理由通知に記載した取消理由についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1、2及び5~13に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によって、取り消されるべきものではない。
2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人が、特許異議申立書において主張する申立人が、申立書において主張する、申立理由1は取消理由通知の取消理由1及び2に包含されることから、取消理由通知において採用しなかった申立理由2及び3について、以下に検討する。
(1) 申立理由2(実施可能要件)について
申立人は、本件特許明細書の実施例には、本件特許発明3で規定する2種類のハイブリッドしか記載されていない(本件特許明細書の段落[0033]の表2)から、当業者が上記2種類のハイブリッド以外のユーカリ属植物から、本件発明1の要件を満足する木材チップを得ようとすれば、過度の試行錯誤を要するから、本件発明1、2、4~13は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである旨主張している。
しかしながら、本件訂正により、本件発明1、2及び4~13は、「木材チップ」が、「樹齢10年以下の、Eucalyptus pellitaとEucalyptus brassianaとのハイブリッド、又はEucalyptus urophyllaとEucalyptus grandisのハイブリッドであるユーカリ属植物由来」であることが特定され、当業者が本件発明1、2及び5~13を実施するにあたって、過度の試行錯誤を強いるものではない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、2及び5~13を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、申立理由2を有しない。
(2) 申立理由3(サポート要件)について
ア 申立人による主張
申立人は、次の主張を行っている。
(ア) 実施例のカッパー価が不明
本件特許明細書には、実施例において、いかなるカッパー価において収率を測定したのか記載がない(本件特許明細書の段落[0030])。
そのため、実施例の木材チップが、本件特許発明1の構成Bを満たしているか否か不明である。
したがって、本件特許の請求項1および、これを引用する請求項2~13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
(イ) 実施例の有効アルカリ添加率が不明
本件特許明細書には、実施例において、重要な蒸解条件である有効アルカリ添加率の記載がない(本件特許明細書の段落[0030]、[0031])。
活性アルカリ濃度、有効アルカリ濃度、硫化度、最高温度、昇温時間、材種を特定したとしても、有効アルカリ添加率が収率に大きく影響を与えることは明らかである。そのため、当業者は、本件特許の実施例の追試を行うことができず、本件特許発明によれば、本件特許発明の効果を奏すると認識することができない。
したがって、本件特許の請求項1および、これを引用する請求項2~13に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
(ウ) 他の木材チップとの混合比
本件特許の請求項6、請求項11においては、本件特許発明1に係る木材チップを、他の木材チップと混合するとされている。しかし、いずれにおいても、混合比が規定されていない。そのため、本件特許発明1に係る木材チップをごく僅かしか含まず、大部分が他の木材チップである態様も含まれることとなる。
そのように、大部分が他の木材チップである場合にも、本件特許発明の効果を奏するということはできない
したがって、本件特許の請求項6、請求項11、および、これらを引用する請求項7~9、12、13に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
イ サポート要件について
(ア) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(イ) 本件発明1、2及び5~13が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段について
本件発明1、2及び5~13が解決しようとする課題は、本件特許明細書の【0002】~【0009】の記載より、「パルプ等様々な用途に有用な木材チップ」において、「樹木の成長性、紙の嵩高性等単一の指標に着目しており、木材チップとしての複数の指標の組み合わせに着目するものではなかった」ことにあると認められ、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により、本件発明1に記載された「容積重が635kg/m3以上であり、
カッパー価18の時のパルプ収率が48%以上60%以下であり、
繊維長が0.76mm以上1.10mm以下である、
樹齢10年以下の、Eucalyptus pellitaとEucalyptus brassianaとのハイブリッド、又はEucalyptus urophyllaとEucalyptus grandisのハイブリッドであるユーカリ属植物由来の木材チップ」により、当業者が本件発明1、2及び5~13の課題を解決できると認識できるものである。
(ウ) 申立人の主張について
a 前記ア(ア)及び(イ)に関する主張について
前記(イ)を踏まえると、前記ア(ア)及び(イ)に関する申立人の主張にある「実施例のカッパー価」や「実施例の有効アルカリ添加率」について、本件発明1、2及び5~13において特定することを要することなく、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものである。
そして、前記ア(ア)及び(イ)の主張によっても、前記(イ)の判断は左右されない。
b 前記ア(ウ)に関する主張について
本件特許明細書の段落【0023】に、「〔木材チップ混合材〕
上記木材チップは、2以上を組み合わせて用いてもよいし、さらに上記木材チップ以外の他の木材チップと組み合わせて用いてもよい。他の木材チップとしては、容積重、パルプ収率及び繊維長の少なくともいずれかが異なる木材チップが挙げられる。他の木材チップと組み合わせる場合の配合比率は、用途に応じて適宜定めることができる。木材チップ混合材のサイズ及び用途の例は、木材チップと同様である。木材チップ混合材の製造方法は、混合材を構成する木材チップを混合し混合材を得る工程を含めばよく、特に限定されない。混合は、常法により行えば良い。」と記載されており、前記(イ)を踏まえると、前記ア(ウ)に関する申立人の主張にある「他の木材チップとの混合比」について、本件発明6~9及び11~13において特定することを要することなく、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものである。
そして、前記ア(ウ)の主張によっても、前記(イ)の判断は左右されない。
c 主張内容についての付言
なお、前記ア(ア)~(ウ)が主張内容が、仮に実施可能要件違反に関する主張を含むものであったとしても、前記ア(ア)の主張における「実施例のカッパー価」については、本件特許明細書の段落【0014】に「パルプ収率は、クラフトパルプを得る際のカッパー価18のときのパルプ収率の推定値である。パルプのカッパー価は、TAPPI試験法T236hm-85に従って算出される値である。パルプ収率の測定は、木材チップに薬品(アルカリと硫黄化合物)を混合し、高圧、高温の条件下で蒸解することにより得られたパルプ量と供試したチップ量から算出することで得られ、後段の実施例の測定方法も同様である。」と記載されており、実施例のカッパー価も18であることが読み取れ、また、前記ア(イ)及び(ウ)における「実施例の有効アルカリ添加率」や「他の木材チップとの混合比」についても、本件発明1、2及び5~13を実施する際に、適宜の範囲のものとする程度のことであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、2及び5~13を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
ウ 申立理由3のまとめ
よって、本件発明1、2及び5~13は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、申立理由3を有しない。
第6 まとめ
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1、2及び5~13に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1、2及び5~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件請求項3及び4に係る特許は、前記のとおり訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項3及び4に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-701005