特許異議申立
2024-700415
シイタケ容器栽培方法
- 審判番号
- 2024-700415
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-136425
- 登録番号
- 7372699
- 請求日
- 2024年05月01日
- 審決日
- 2026年02月13日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社北研
- 【権利者代理人】福田 信雄
- 【異議申立人】後藤 由美
- 審判長/審判官
- 審判長 有家 秀郎
- 審判官 居島 一仁
- 審判官 立澤 正樹
- 分類
- P1651.121-YAA(A01G) / P1651.537-YAA(A01G) / P1651.536-YAA(A01G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第120条の5第9項、特許法第29条、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7372699号発明「シイタケ容器栽培方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7372699号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。
特許第7372699号の請求項1~8、10及び11に係る特許を維持する。
特許第7372699号の請求項9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許の請求項1~11に係る特許についての、出願から現在までの手続きの経緯の概略は次のとおりである。
令和4年 8月30日 :出願(特願2022-136425号)
令和5年10月24日 :特許権の設定登録
同年11月 1日 :特許掲載公報の発行
令和6年 5月 1日 :前記請求項1~11に係る特許に対する特許異
議申立人 後藤 由美(以下「申立人」とい
う。)による特許異議の申立て
同年 9月27日付:取消理由通知書
同年11月21日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和7年 1月10日 :訂正請求書の手続補正書(方式)の提出
同年 4月 4日 :申立人による意見書(以下、「意見書1」とい
う。)の提出
同年 7月18日付:取消理由通知書(決定の予告)
同年 9月 4日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年10月31日 :申立人による意見書(以下、「意見書2」とい
う。)の提出
なお、令和7年9月4日に訂正請求書が提出されたことにより、令和7年1月10日に提出された手続補正書(方式)により補正された令和6年11月21日に提出された訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和7年9月4日に提出された訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)の趣旨は、特許第7372699号の特許請求の範囲を、本件訂正請求の訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、その内容は、次の訂正事項1~訂正事項4からなるものである(下線は訂正箇所を示す)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「c)酸素透過性があり、かつ、暗条件の環境下で、接種した菌糸を培地に蔓延させる菌糸培養前期工程と、」と記載されているのを、「c)酸素透過性があり、かつ、容器本体の胴部を遮光しない暗条件の環境下で、接種した菌糸を培地に蔓延させる菌糸培養前期工程と、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~11も同様に訂正する)。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「d)酸素透過性があり、かつ、明条件の環境下で、原基形成を促す菌糸培養後期工程と、」と記載されているのを、「d)酸素透過性があり、かつ、容器本体の開口部と胴部共に光照射を行う明条件の環境下で、原基形成を促す菌糸培養後期工程と、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~11も同様に訂正する)。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「から構成されることを特徴とするシイタケ容器栽培方法。」と記載されているのを、「から構成され、該種菌接種工程で用いる該シイタケ種菌は、子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株であることを特徴とするシイタケ容器栽培方法。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~11も同様に訂正する)。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項9を削除する。
(5) 一群の請求項についての説明
訂正前の請求項1~11について、請求項2~11はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1~訂正事項3によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~11に対応する訂正後の請求項1~11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否について
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「菌糸培養前期工程」において「暗条件の環境下で、接種した菌糸を培地に蔓延させる」ことの「暗条件」を「容器本体の胴部を遮光しない暗条件」と特定し、限定したものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1の「菌糸培養後期工程」において「明条件の環境下で、原基形成を促す」ことの「明条件」を「容器本体の開口部と胴部共に光照射を行う明条件」と特定し、限定したものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(3) 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項1の「種菌接種工程」において「散布」される「シイタケ種菌」を「子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」と特定し、限定したものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(4) 訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項9を削除するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
3 新規事項の有無について
(1) 訂正事項1について
本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」といい、特許請求の範囲及び図面を含むものを「本件明細書等」という。)の発明の詳細な説明の段落【0059】に「菌糸培養前期ならびに後期工程における光の影響を検討するために、光照射期間による発生率へ影響を調査した。暗培養条件は1ルクス未満、明培養条件は5~100ルクスの光量で8時間点灯とした。また、培地側面部である胴部10(すなわち子実体発生部位以外の部分)への光の影響を確認するためにビン側面に100%遮光のため黒フィルムを被覆した区も設定した。」と記載され、段落【0061】に「すなわち本実施例で使用した専用品種HS911では、容器全体に菌糸が蔓延するタイミング、具体的には種菌接種後、菌糸培養前期である3週間ないし4週間までは暗培養とし、それ以降の菌糸培養後期は光照射を行う明培養とすることが最も適していることが分かった。」と記載され、表2に光条件として「0~21日 暗培養」、「0~21日 暗培養 容器側面遮光被覆」、「0~28日 暗培養」と記載され、これらを総合すると、「0~21日 暗培養 容器側面遮光被覆」と対比される「0~21日 暗培養」及び「0~28日 暗培養」が「容器側面遮光被覆」がされていないことは明らかであるから、「菌糸培養前期工程」を「容器本体の胴部を遮光しない暗条件の環境下で」行うことが記載されている。
(2) 訂正事項2について
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0061】に「具体的には種菌接種後、菌糸培養前期である3週間ないし4週間までは暗培養とし、それ以降の菌糸培養後期は光照射を行う明培養とすることが最も適していることが分かった。
光照射部位については、子実体発生部位である培地上面部31のみならず培地側面部である胴部11にも光照射を行なうことで発生率が高くなる傾向があった。このことは、子実体発生部位でない部分、すなわち培地側面分である胴部11にも光照射を行なうことで菌糸活力の増大、培地分解腐朽、子実体発生部位への原基形成が促進されていることを示唆している。」と記載されている。
また、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0032】に「容器本体10は、保形性を備えると共に、首部13及び胴部11に透光性を備え、上面に開口部12を配した筒状であり、一定量の培地30が充填可能な容器である(図1、図2(d))。」と記載され、図1の「培地上面部31」と、図示はないが図1からみて明らかな「容器本体10」の上面の「開口部」との位置関係からみて、「容器本体の開口部と胴部共に光照射」を行うことで、「子実体発生部位である培地上面部31のみならず培地側面部である胴部11にも光照射」が行なわれることは明らかである。
よって、本件明細書等には、「原基形成を促す菌糸培養後期工程」が、「容器本体の開口部と胴部共に光照射を行う明条件の環境下で」行うことが記載されている。
(3) 訂正事項3について
本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0045】~【0047】に「種菌接種工程」について記載されており、同段落【0047】に「また、本工程で用いる種菌は、子実体発生面に菌糸塊を形成する前記菌糸培養後期工程において、褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株を用いると好適である。培養完了時に発生面の褐変化が多い品種は、発生率が低いことが確認されている。」と記載されているから、本件明細書等には、「該種菌接種工程で用いる該シイタケ種菌は、子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株であること」が記載されている。
(4) 新規事項についての小括
よって、訂正事項1~訂正事項3に係る訂正のそれぞれは、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、訂正事項4は、訂正前の請求項9の記載を削除するものであるから、訂正事項1~訂正事項4のそれぞれは、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
よって、訂正事項1~訂正事項4に係る訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合するものである。
4 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
前記2に示したとおり、訂正事項1~訂正事項3のそれぞれは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、請求項1に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、訂正事項4は、訂正前の請求項9の記載を削除するものであるから、請求項9に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項1~訂正事項4のそれぞれは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
よって、訂正事項1~訂正事項4に係る訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合するものである。
5 独立特許要件について
本件訂正により、本件訂正後の請求項1~11に係る発明は、特許請求の範囲の減縮が行われているところ、本件特許異議申立事件において、実質的にすべての請求項が申立の対象とされているため、本件訂正後の請求項1~11に係る発明について、特許法120条の5第9項で準用する同法126条7項の独立特許要件は適用されない。
6 まとめ
以上のとおり、訂正事項1~訂正事項4による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き1号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
前記第2のとおり本件訂正は認めることができるので、本件特許の請求項1~11に係る発明(以下「本件特許発明1」等といい、全体を「本件特許発明」という。)は、令和7年9月4日に提出された訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
透光性と保形性を備え、上面に開口部を配して一定量の培地が充填可能な筒状の容器本体と、該容器本体上面の開口部を封する透光性、通気性、保形性を備えた蓋体とを備えた栽培容器を用い、
a)殺菌処理した培地を該容器本体に充填し、該蓋体で封する、又は、該培地を充填した後に該容器本体を該蓋体で封して殺菌処理する、培地製造工程と、
b)該蓋体を外し、該培地表面にシイタケ種菌を散布した後に、該容器本体を再び該蓋体で封する種菌接種工程と、
c)酸素透過性があり、かつ、容器本体の胴部を遮光しない暗条件の環境下で、接種した菌糸を培地に蔓延させる菌糸培養前期工程と、
d)酸素透過性があり、かつ、容器本体の開口部と胴部共に光照射を行う明条件の環境下で、原基形成を促す菌糸培養後期工程と、
e)該原基形成が完了したら、該容器本体から該蓋体を外し、子実体の成長を促す子実体生育工程と、
f)成熟した該子実体を採取する採取工程と、
から構成され、
該種菌接種工程で用いる該シイタケ種菌は、子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株であることを特徴とするシイタケ容器栽培方法。
【請求項2】
前記容器本体は、円筒状、四角筒状、多角筒状のいずれかであり、前記開口部の胴部に対する径率が、70%以上であり、前記開口部直径の前記容器本体の高さに対する比率が50%以上としたことを特徴とする請求項1に記載のシイタケ容器栽培方法。
【請求項3】
前記容器蓋体は、フィルタを用いず、嵌合部の隙間を通してのみ酸素供給および二酸化炭素排出が行なわれることを特徴とする請求項1に記載のシイタケ容器栽培方法。
【請求項4】
前記培地製造工程において、前記培地を、培地頂点と容器天端の距離が5~20mmになるように充填したことを特徴とする請求項1に記載のシイタケ容器栽培方法。
【請求項5】
前記培地製造工程において、前記培地の上面の形状を平型、台形型、饅頭型、円錐形、すり鉢型のいずれかとし、その高低差が20mm以内であることを特徴とする請求項1に記載のシイタケ容器栽培方法。
【請求項6】
前記培地製造工程において、接種孔が
a)前記培地上面の中央部の一箇所
b)前記培地上面の外縁部の複数箇所
c)前記培地上面の中央部から略等距離の位置の複数箇所
の少なくとも1つに当てはまる位置に開けられていることを特徴とする請求項1に記載のシイタケ容器栽培方法。
【請求項7】
前記菌糸培養前期工程は、0.5ルクス未満の暗条件としたことを特徴とする請求項1に記載のシイタケ容器栽培方法。
【請求項8】
前記菌糸培養後期工程は、100ルクス以上の明るさで、常時点灯もしくは間欠点灯としたことを特徴とする請求項1に記載のシイタケ容器栽培方法。
【請求項9】(削除)
【請求項10】
前記子実体生育工程において、培養完了し前記蓋体を除去したタイミングで、
a)前記培地上面部に少なくとも一箇所の穴あけを行なう
b)前記培地上面部の一部を菌糸ごと除去する
c)前記栽培容器に刺激を加える
のうち、少なくとも1つを行うことを特徴とする請求項1に記載のシイタケ容器栽培方法。
【請求項11】
前記蓋体は、嵌込み式であり、
前記嵌合部の隙間は、前記蓋体の内周の軸方向に形成された溝と、前記容器の首部とによって、形成されていることを特徴とする請求項3に記載のシイタケ容器栽培方法。」
第4 証拠方法、特許異議申立理由の概要、及び、先の取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由の概要
1 証拠方法
申立人が特許異議申立書とともに提出した証拠は次のとおり。
甲第1号証:片桐一弘, 外2名, 「既存の栽培施設を活用した菌床シイタケビン栽培技術の開発」, 長野県林業総合センター研究報告, 長野県林業総合センター, 2019年3月, 33号, p.19-33
<URL:https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030927476.pdf>
甲第2号証:広田産業株式会社ウェブサイト内の信越農材株式会社を紹介するページ
<URL:http://www.hirota-sangyo.co.jp/shinetu.htm>
甲第2の1号証:平成19年(2007年)9月5日の信越農材株式会社ウェブサイト
<URL:https://web.archive.org/web/20070905044822/http://www.hirota-sangyo.co.jp/shinetu.htm>
甲第3号証:「菌床培地の褐色被膜が形成されない!-その原因と対策-」, 技術情報カードNo.44, 徳島県立農林水産総合技術センター森林林業研究所, 平成14年12月
<URL:https://www.pref.tokushima.lg.jp/tafftsc/material/kyushinrin/card2.html>
甲第4号証:特開2018-102272号公報
甲第5号証:特開2006-141288号公報
甲第6号証:特開2019-30232号公報
また、以下「甲第1号証」等を「甲1」等という場合がある。
2 異議申立理由の概要
(1) 異議申立理由1(サポート要件違反)
本件特許の請求項1~11に係る発明は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないため、これらの発明にかかる特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2) 異議申立理由2(実施可能要件違反)
本件特許の請求項1~11に係る発明は、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、これらの発明にかかる特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3) 異議申立理由3(明確性要件違反)
本件特許の請求項1~11に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確ではないから、これらの発明にかかる特許は、特許請求の範囲の記載は特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
(4) 異議申立理由4(進歩性の欠如)
本件特許の請求項1~8、10及び11に係る発明は、本件出願の日前に日本国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明及び甲2~6に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 先の取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
取消理由(進歩性) 請求項1~8、10及び11に係る発明は、甲1に記載された発明、並びに甲2、4、5及び6に記載された技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~8、10及び11に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである。
第5 取消理由についての当審の判断
以下、取消理由通知に記載した取消理由について検討する。
1 引用文献について
(1) 甲1について
ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がある(下線は当審合議体が付与した。以下同様。)
(ア) 19頁要旨部
「エノキタケ等のビン栽培に慣れたきのこ生産者が,容易に菌床シイタケを栽培できるよう,栽培の全工程を既存きのこビンで栽培する,シイタケビン栽培技術の開発に取り組み,以下の結論を得た。
〇1(当審注:○の中に数字を表す。以下同様。)既存きのこビンを用いてシイタケを菌床栽培するには,ビン内部での子実体発生を防ぎ、ビン口部に原基を多数形成させることが重要と考えられた。
○2本試験で用いた市販11品種の中で,ビン栽培に適性があると考えられた品種は,北研600号,森XR1,北研603号,北研607-S号,北研73号の5品種であった。
○3栽培時における光を制御(遮断,照射)することによって,子実体発生量の増加効果があることが分かった。
○4ビン栽培でも袋栽培と同程度の子実体収量が得られることが分かった。
○5培養時の通気性の改善や,栄養材の選択により,子実体発生量が増加することが分かった。
○6新たな容器として検討した,広口円筒容器は,高い子実体収量及び品質が得られる可能性が示唆された。」
(イ) 19頁本文右欄8~13行
「2.2 試験の方法
2.2.1 栽培ビン及び袋
栽培ビンは,ナメコ及びブナシメジ栽培用のビンを用いた。比較対照として,当所で菌床シイタケ栽培に使用する一般的なきのこ栽培用の袋も用いた(表-1)。」
(ウ) 19頁本文右欄下から8~20頁左欄3行
「2.2.2 供試菌,培地組成及び培養条件
供試菌は北研600号(H600)と北研607-S号(H607)を用いた。培地はブナオガコとフスマを容積比10:2で混合し,含水率を64%に調整した。これを3種類の容器(表-1)に充填し,ビンは中心に直径17mmの接種孔を1カ所,袋は直径13mmの接種孔を2カ所開けた後,高圧殺菌(120℃,60分)した。殺菌後の培地を冷却後,菌を1ビン当り5g,1袋当り10g接種し,室温20℃に設定した培養室で90日間培養した。なお,作業時以外は暗培養とした。
2.2.3 子実体発生条件,発生量調査
培養終了後,ビンはキャップ栓を外し,袋は全て除去した後,表面を水道水で軽く洗浄し,明所下(24時間蛍光灯を点灯),室温15℃に設定した発生室内で,64日間子実体発生量調査を行った。なお,途中17日間は,発生室の空調施設の改修工事のため,日平均気温4~8℃で管理した。菌床の水分管理として,ビンはビン口部に一日1回程度軽く散水した。袋は一日1回程度,約5分間散水し,さらに発生処理後48日目(以下「発生( )日目」)に浸水処理(16時間)を行った。また,ビン内に発生し,収穫不可能な子実体を,発生14日目から観察し,43日目に1ビン当りの個数を調査した。子実体は傘が7分開きを基本に収穫し発生個数・生重量を測定した。」
(エ) 22頁左欄8行~23頁右欄最終行
「4 培養時における光の遮断及び照射に関する栽培試験
4.1 試験の目的
2.3より,ビン栽培で収量を増やすためには,ビン内部での子実体発生を防ぎ,ビン口部に原基を多数形成させることが重要と考えられた。一方,シイタケの原基形成には微弱ながら光が必要4)とされている。また,青色LED(以下「LED」)を培養期間中に照射すると原基形成が促進されて,子実体発生量が増加するとの報告5)がある。そこで,ビン内部における原基形成を抑え,かつビン口部の原基形成の促進を図るため,ビン口部以外の光を遮断し,その上でビン口部へ光を照射する栽培試験を行った。
4.2 試験の方法
4.2.1 ビンの遮光方法
容器は全てナメコビンを使用した。遮光はビン口部を除き「アルミ箔で覆う」「黒い袋に入れる」「黒く塗る」の3つの方法で行い,対照区として遮光無し(無処理)のビンも用いた(表-4,写真-3)。なお,遮光は培養開始時から子実体発生量調査終了時まで継続した。
4.2.2 供試菌,培地組成,培養条件
供試菌は北研600号を用い,培地組成等は2.2.2に示した当所の常法とした。培養は室温20℃に設定した培養室で,91日間行った。
4.2.3 光照射方法
菌床シイタケ栽培においては,菌糸が培地全体に蔓延するまでの期間である接種後約30日間は,LED照射は適さないとの報告5)がある。よって本試験では,培養30日目まで暗培養とし,31日目から蛍光灯照射,LED照射,暗培養の3区に分けた。蛍光灯及びLED区は1日8時間連続照射し,その他の時間は暗培養とした(写真-4)。LEDの照射量は,光量子量が10.5μmol/m-2s-1付近が適しているとの報告6)があることから,LEDの照射量は10.2μmol/m-2s-1,蛍光灯は10.9μmol/m-2s-1に設定した。LEDはパナソニック(株)ライティング社製「MS-M260BGP」を用いた。光の測定には,ライカ社製ライトメーターL1-250Aを使用し,隅の4点を測定して平均値を求めた(以下の試験も同じ)。
4.2.4 子実体発生条件,発生量調査
子実体発生操作,水分管理は2.2.3に示した当所の常法とした。室温15℃に設定した発生室内で,147日間子実体発生量調査を行った。
4.3 結果と考察
子実体発生量等の調査結果を表-5に示す。
子実体生重量は,全ての光照射区で遮光区のほうが無処理区より多かった。特にLED区の生重量は,各遮光区と無処理区間に平均12.7倍の大きな差が見られ,黒塗り区と無処理区間には有意差が認められた。発生個数をみると,生重量と同様に,遮光区と無処理区間に大きな差が見られた。また,LED区の黒塗り区と無処理区間には有意差が認められた。
次に,蛍光灯区及びLED区と暗培養区間を比較すると,生重量・発生個数ともに,後者のほうが前者より多い傾向が見られた。なお,遮光区分別に光照射について検討したところ,蛍光灯・LED・暗培養区間に有意差は認められなかった。」
(オ) 27頁右欄1行~28頁左欄22行
「7 培養中の変温管理と通気性に関する栽培試験
7.1 試験の目的
6.1では培養温度を3区分設定し,それぞれ定温管理した。本試験では,ビン栽培に適した培養方法を検討するために,培養中段階的に温度を上げる栽培試験を行った。
・・・(中略)・・・
7.3 結果と考察
子実体発生量の調査結果を図-4に示す。培養中の変温管理について,キャップ栓無区(18,20,18-23)及びキャップ栓有区(18C,20C,18-23C)で,それぞれ有意差は認められなかった。次に,温度区分の違う3試験区を,キャップ栓の有無について比較すると,20℃定温区を除き,キャップ栓無区のほうがキャップ栓有区より生重量が有意に多かった。
以上の結果より,培養中の変温管理は今回の試験では子実体収量増加に対して効果が確認できなかった。一方で、通気性改善のためキャップ栓をしない培養方法は,ビン栽培に適していると考えられた。しかし,キャップ栓をせずに,ビンを袋に入れて培養する方法は作業が煩雑であることから,今後は,キャップ栓の通気性の改善を検討する必要があると思われた。」
(カ) 31頁右欄下から6行~右欄11行
「10 総合考察
エノキタケ等のビン栽培に慣れたきのこ生産者が容易に菌床シイタケを栽培できるよう,栽培の全工程を既存きのこビンで栽培するシイタケビン栽培技術の開発に取り組み,以下の結果を得た。
・・・(中略)・・・
○6キャップ栓をしない培養方法は,ビン栽培に適していると考えられた。キャップ栓をせずに,ビンを袋に入れて培養する方法は作業が煩雑であることから,今後は,キャップ栓の通気性の改善を検討する必要があると思われた。
○7ビン栽培において,使用する栄養材によっては,子実体発生量が増加する場合があることが分かった。それには,品種間差や、培養時の光照射の有無が関係していることが示唆された。
○8既存きのこ栽培ビンのほか,新たな容器について検討した。広口円筒容器は,慣行法であるPP袋と比較し,子実体発生量,発生経過に大きな差がないことから,シイタケ菌床栽培の新たな栽培容器として有望と考えられた。また,上面栽培法8)と類似した発生特性を示したことから,広口円筒容器を用いた栽培では,高い子実体収量及び品質が得られる可能性が示唆された。」
(キ) 表-1、表-4及び表-5
「
[図:0001435153000001.jpg]
[図:0001435153000002.jpg]
[図:0001435153000003.jpg]
」
(ク) 写真-4
「
[図:0001435153000004.jpg]
」
(ケ) 写真から看取できる事項
前記(エ)の「4.1」の「青色LED(以下「LED」)を培養期間中に照射する」及び「ビン口部へ光を照射する栽培試験」との記載を踏まえ、前記(ク)の写真-4から次の事項が看取(以下「写真看取事項」という。)できる。
<写真看取事項>
「青色LED(以下「LED」)を培養期間中にビンの上方からビン口部へ光を照射すること。」
イ 甲1発明
前記アより、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。なお、甲1では、照射量の単位を「μmol/m-2s-1」としているが、技術常識からみて、「μmol・m-2s-1」の明らかな誤記として扱う。
<甲1発明>
「栽培ビンは、ポリプロピレン製であって、口径77mm、キャップ栓を有する容器であるナメコビンを用い、(前記ア(イ)及び(キ))
供試菌は北研600号(H600)を用い、培地を容器に充填し、ビンは中心に直径17mmの接種孔を1カ所開けた後、高圧殺菌(120℃,60分)し、殺菌後の培地を冷却後、菌を1ビン当り5g接種し、(前記ア(ウ))
シイタケの原基形成には微弱ながら光が必要とされ、青色LED(以下「LED」)を培養期間中にビンの上方からビン口部へ光を照射すると原基形成が促進されて、子実体発生量が増加するから、培養は室温20℃に設定した培養室で、91日間行い、培養30日目まで暗培養とし、31日目から蛍光灯照射、LED照射する区に分け、LEDの照射量は10.2μmol・m-2s-1、蛍光灯は10.9μmol・m-2s-1に設定し、蛍光灯及びLED区は1日8時間連続照射し、その他の時間は暗培養とし、(前記ア(エ)及び写真看取事項)
遮光方法に関し、遮光無し(無処理)のビンを用い、遮光は培養開始時から子実体発生量調査終了時まで継続し、(前記ア(エ))
培養終了後,ビンはキャップ栓を外し、64日間子実体発生量調査を行い、(前記ア(ウ))
キャップ栓をしない培養方法は,ビン栽培に適していると考えられ、キャップ栓をせずに、ビンを袋に入れて培養する方法は作業が煩雑であることから、今後は、キャップ栓の通気性の改善を検討する必要があり、(前記ア(カ))
エノキタケ等のビン栽培に慣れたきのこ生産者が、容易に菌床シイタケを栽培できるよう、栽培の全工程を既存きのこビンで栽培する、シイタケビン栽培方法。(前記ア(ア))」
(2) 甲2について
ア 甲2の記載事項
甲2には、次の記載がある。なお、甲2の1に、少なくとも以下に示す記載と同様の記載があるから、以下に示す記載事項は、平成19年(2007年)9月5日に公開されていたものと認める。
(ア) 「信越農材株式会社」についての記載欄
「広田産業株式会社のグループ会社として、きのこ関連資材・機材の販売と商品開発、コンテナー等の農業関連製品の販売をしております。又、お客様の要望に応え新製品開発のご相談も承りますのでお気軽にお問合せください。
きのこ栽培に必要なブロービン、キャップ、コンテナーなど、より生産性の高い、低コストの栽培環境のために、作業性、収量性に優れた資材・機材を提供しております。又、自社開発製品を中心に果実用コンテナーなど農業関連資材の販売もしております。」
(イ) 「きのこ栽培ビン(ブロービン)」の表
「
[図:0001435153000005.jpg]
」
(ウ) 「きのこ栽培用キャップ(PP栓)・その他」の表
「
[図:0001435153000006.jpg]
」
イ 甲2記載技術
甲2には、次の技術的事項(以下、「甲2記載技術」という。)が記載されて
いる。
<甲2記載技術>
「きのこ栽培ビンにおいて、ナメコビン800SB広口は、ビン口内径が72φ、胴径が95mm、高さが140mmであり、対応するきのこ栽培用キャップであるナメコキャップ800は、フィルタがないものであること。」
(3) 甲3について
ア 甲3の記載事項
甲3には、以下の記載がある。
(ア) 「はじめに」欄(1頁左欄2行~右欄4行)
「徳島市内の歯床シイタケ生産者から、菌床培地の表面が褐変しないという相談を受けました。
菌床シイタケ栽培では、培養が進むにつれて培地が収縮し、培地表面が白色から褐色に変化してきます。この褐色の被膜は、培地内部への害菌の侵入を阻止する防波堤のような役割をしていると考えられています。また、きのこの元となる原基は、この褐色被膜の下にたくさん形成されるようです。したがって、褐色被膜が培地表面に形成されないと図-1のように原基形成の遅れによるシイタケ発生量の減少や、培地内部への害菌の侵入によって、シイタケ菌が死滅により培地が崩壊して結果的に発生量が減少する恐れがあります。」
(イ) 「原因は?」欄(1頁右欄7行~2頁左欄27行)
「培地表面が褐変しない原因として、培地作成時には次のようなことが考えられます。
○1(当審注:○の中に数字を表す。以下同様。) 培地の含水率力が高すぎるため、培地内部の空隙量が少なくなり酸素不足となる。
○2 粒径の小さなおが屑を多く使用したため、培地内部の空隙量が少なくなり酸素不足となる。
○3 殺菌不良で培地内部に害菌が棲息している。
○4 不良種菌の使用
ところが、この生産者の場合、培地の作成・殺菌・接種が同じ日の培地でも褐色被膜が形成される培地と形成されない培地が存在することが分かりました。このことから、褐色被膜が形成されない現象は培地作成時が原因ではなく培養に問題があると推察されました。
褐色被膜が形成されない培地は、培養室の通路沿いにある培養棚、もしくは棚の上部で培養している培地には見られず、通路に面していない場所にある培養棚の中心部より下で培養している培地に多く見られました。このことから培養室内の換気不足で二酸化炭素濃度が高くなって、褐色被膜が形成されない培地が生じるのではないかと考えました。そこで、褐色被膜が形成された正常な培地がある通路に面した培養棚付近と褐色被膜が形成されない培地が多く見られる通路に面していない培養棚の中心部付近の二酸化炭素濃度と温度をそれぞれ測ってみました。その結果、通路に面した培養棚付近の二酸化炭素濃度は2,100~3,100ppm、温度は22.1±0.2℃、通路に面していない培養棚の中心部付近では2,100~2,400ppm、21.0±0.2℃となり、両者に大きな差は見られませんでした。このことから、この生産者の場合、褐色被膜が形成されない原因は、培養室の換気不足ではないことが分かりました。
培養室をよく見ると、通路に面していない場所にある培養棚の中心部付近は、培地に光が当たっていないことが分かりました。この生産者は、種菌接種40~45日後までは培地を薄暗い1次培養棟で、その後、明るい2次培養棟で培養を行っています。つまり、通路に面していない場所にある培養棚の中心部付近にある培地は、1次培養中まったく光が当たらない状態となる可能性が考えられます。そこで、光が培養中に全く当たらないと培地にどのような影響を及ぽすか再現試験を実施しました。
(ウ) 「再現試験の方法と結果」欄(2頁左欄30行~右欄13行)
「再現試験では、試験方法を次のように設定しました。
[図:0001435153000007.jpg]
試験の結果は次のとおりでした。
図-2,3,4は、暗黒培養終了後(接種40日後)、接種55日後、培菱終了後(接種90日後)の培地の状態です。明らかに接種40日後まで暗黒で培養した暗黒培養区の培地は、対照区の培地に比べて褐変の遅れや色が薄い、培地の隆起が少ない等の現象が見られました。このことから、この生産者の場合、培地表面に褐色被膜が形成されない原因は、1次培養中の光不足が原因と断定しました。
そのため、対策として、培養棚の間隔を広げて通路に面していない培養棚の中心部にも光が届くようにする。1次培養期間を30日以内とし、光が必須条件である原基形成が始まる時期までには、光のよく当たる2次培養棟への移動を完了する。といった処置を講ずることにしました。その結果、培地が褐変しない、培地表面の褐色被膜が形成されない現象は回避することができました。」
イ 甲3記載技術
甲3には、次の技術的事項(以下、「甲3記載技術」という。)が記載されて
いる。
<甲3記載技術>
「菌床シイタケ栽培では、培養が進むにつれて培地が収縮し、培地表面が白色から褐色に変化し、この褐色の被膜は、培地内部への害菌の侵入を阻止する防波堤のような役割をしていると考えられ、きのこの元となる原基は、この褐色被膜の下にたくさん形成されるため、褐色被膜が培地表面に形成されないと原基形成の遅れによるシイタケ発生量の減少や、培地内部への害菌の侵入によって、シイタケ菌が死滅により培地が崩壊して結果的に発生量が減少する恐れがあり、北研600号で、接種40日後まで暗黒で培養した暗黒培養区の培地は、対照区の培地に比べて褐変の遅れや色が薄い、培地の隆起が少ない等の現象が見られること。」
(4) 甲4について
ア 甲4の記載事項
甲4には、以下の記載がある。
(ア) 段落【0001】
「本発明は、展伸性と酸素透過性及び透光性を備えたポリメチルペンテン性フィルム体を活用したキノコの栽培方法に関する。」
(イ) 段落【0029】~【0031】
「【0029】
先ず、殺菌・充填工程にあっては、殺菌処理した培地3を容器本体2に充填する方法があり、具体的には、培地3全体を蒸気滅菌する。
又は、培地3を容器本体2に充填し、一旦縁部にフィルム体4を装着した後に、殺菌処理する方法がある。具体的には、培地3を充填した容器本体2の縁部をフィルム体4で覆い、120℃60分間の蒸気殺菌をする。
いずれが良いかは個別に判断するが、比較的規模が大きな場合には、前者が好適であり、規模の小さな場合には後者が適したものとなる。
【0030】
この充填工程にあって最も望ましい形態は、図3(a)に示す如く、容器本体2の上縁部まで培地3を入れ、その表面を摺り切りの平坦状とすることである。
その理由は、後工程で培地にフィルム体を被せたとき、該フィルム体と培地が密着状態となり、隙間空間を極少とすることができるからである。もし、大きな隙間空間が存在すると、発生した炭酸ガスがその比重の重さから空間に滞留して、キノコ菌の呼吸の妨げとなり、又、培地表面からの水分蒸散のできる空間が大きくなり培地表面の水分が減少してしまうからである。
【0031】
平坦状に至らない場合には、容器本体の天端から少なくとも20mm以内に収まる空間とすることが望ましい。
上記と同様、溜まり空間を一定限度に抑えることで、キノコ菌への呼吸の妨げ及び表面の水分減少を最小限に抑えることができるからである。
【0032】
器本体に培地が充填されたら、培地表面に栽培対象となるキノコの種菌を接種する接種工程を行う。
上記充填工程で、フィルム体4を被せた場合には、該フィルム体4を外して接種する。
接種は、通常の種菌の接種と同様で、微粒子の種菌を水との懸濁液とし、噴霧状に降りかける等して行う(図3(b)参照)。
そして、容器本体2をフィルム体4で被覆して固着手段5で密着固定する(図3(c)参照)。
固着手段5は、上記の如く、容器本体2の上外縁部を平滑面に形成するか、ゴム紐又はテープ、糸紐等で縛着する等して、フィルム体に後述する菌糸塊による隆起作用が加わったとき、該フィルム体が容器本体から外れることなく、その密着性を保つものとする。
該フィルム体4の固着は、雑菌侵入によるコンタミネーションを防止する為のものである。」
イ 甲4記載技術
甲4には、次の技術的事項(以下、「甲4記載技術」という。)が記載されている。
<甲4記載技術>
「キノコの栽培方法において、培地を容器本体に充填する充填工程にあって最も望ましい形態は、容器本体の上縁部まで培地を入れ、その表面を摺り切りの平坦状とすることであるが、平坦状に至らない場合には、容器本体の天端から少なくとも20mm以内に収まる空間とすることが望ましく、溜まり空間を一定限度に抑えることで、キノコ菌への呼吸の妨げ及び表面の水分減少を最小限に抑えることができるようにすること。」
(5) 甲5について
ア 甲5の記載事項
甲5には、以下の記載がある。
(ア) 段落【0001】
「【0001】
本発明は、キノコの菌床栽培用のブロック状培地と、その培地を製造するための装置に関する。」
(イ) 段落【0016】~【0018】
「【0016】
本発明はキノコ培地と、その培地の製造装置であり、各発明を実施するための最良の形態をそれぞれ説明する。
まず、本発明のキノコ培地の形態について説明する。
本発明のキノコ培地は、楢の木のオガコ、とうもろこしの実が付く芯などセルロースを多く含む植物を粉砕して得られた小片乃至粒子を主成分とし、こぬかなどの栄養体を混合した原料に水を含ませて、図10に示すようなプレス形成装置などにより製造されるキノコ菌床栽培用のブロック状培地におけるものである。
例えば、しいたけの場合では、その培地の大きさは、通常、底面は縦横12×24cmで高さ15cm程度のサイズが多い。
従来の上面平らな培地では、椎の木のチップと楢の木のオガコを嵩比8対2で混合し、ふすまとこぬかの栄養体及び水を添加したものを用いた場合、図9の(ロ)に示すように、菌糸の成長過程で、袋の境目附近には湿り気が多く、表面を這い上がるように菌糸が成長する10~15mm程度の高さまで菌糸塊の土手(図9(ロ)中の符号Aに示す)が周囲の肩口部分に成長する。
【0017】
したがって、本発明では減量空間4を、上記菌糸塊Aのような土手ができないように、上面平らな培地での菌糸の成長過程において上面周囲の肩口部分に生じる菌糸塊の大きさを基にして、図1の(イ)及び(ロ)に示すように、四角形のブロック状培地の周囲の肩口部分に、菌糸の成長過程において上面周囲の肩口部分に生じる菌糸塊の成長高さが、菌糸塊が生じない上面の高さを越えない容量となる減量空間4を形成するのが好ましい。
しかし、その減量空間4は、それほど大きな容量ではなくても、肩口を減量形成することにより菌糸塊の成長が抑制され、土手となるような高さにはならなくなる。したがって、本発明では土手となるような高さに至らない程度の少ない容量の減量空間4であっても良い。
そして、その容量で減量空間4の形状を、培地周囲の垂直側壁面2の上端縁2aから中央部に向けて途中4bまで(図の符号4aから4bまで)平面状(図2の(イ)に示す)、湾曲面状(図2の(ロ)に示す)又は屈曲面状(図2の(ハ)に示す)の競り上がり状態となるように形成する。
【0018】
また、従来の上面平らな培地では、キノコの成長過程で、中央部が10~15mm程度と最も深く周辺近くまで広がった窪み(図9の(ハ)の符号Bに示す)ができる。なお、図9中の符合Dは菌種の接種孔である
したがって、本発明では培地の上面の中央域に増量培地5を、図4の(イ)、(ロ)及び(ハ)に示すように、上面平らな培地でのキノコの成長過程においてその培地が収縮される時にその中央域に生じる窪みの大きさを基に、その窪みの大きさと同量又はそれより多い容量となる増量培地5を形成する。
そして、その増量培地5の形状は、上面の中央部を頂上とする半球状6(図4の(イ))、円錐状7(図4の(ロ))、四角錐状8(図4の(ハ))、円錐台状9(図5の(イ))又は四角錐台状10(図5の(ロ))状に盛り上がり状態となるように形成する。また、その増量培地5には、図6に示すように、偏りがあっても良い。
このように形成することによって、キノコの成長過程において培地が収縮されてもその中央部に窪みが生じないので水溜りができなくなる。」
(ウ) 段落【0020】
「【0020】
また、菌の接種のために、前記培地の上面3の中央域には、図1の(イ)に示すように、培地1の上面3から中間までの深さの接種孔32を複数間隔を置いておいて形成することもできる。」
イ 甲5記載技術
甲5には、次の2つの技術的事項(以下、それぞれを「甲5記載技術1」及び「甲5記載技術2」という。)が記載されている。
<甲5記載技術1>
「キノコ培地において、培地の上面の中央域に増量培地を、上面平らな培地でのキノコの成長過程においてその培地が収縮される時にその中央域に生じる窪みの大きさを基に、その窪みの大きさと同量又はそれより多い容量となる増量培地を形成し、その増量培地の形状は、上面の中央部を頂上とする半球状、円錐状、四角錐状、円錐台状又は四角錐台状に盛り上がり状態となるように形成し、キノコの成長過程において培地が収縮されてもその中央部に窪みが生じないので水溜りができなくすること。」
<甲5記載技術2>
「キノコ培地において、菌の接種のために、培地の上面の中央域に、培地の上面から中間までの深さの接種孔を複数間隔を置いておいて形成すること。」
(6) 甲6について
ア 甲6の記載事項
甲6には、以下の記載がある。
(ア) 段落【0001】
「本発明は、しいたけの人工栽培、特に菌床栽培におけるしいたけの発生方法に関するものである。」
(イ) 段落【0022】~【0024】
「【0022】
さて上記培養の過程にあって、しいたけは、一つの菌床を一回限りのきのこ発生で終了させるのでなく、生育したきのこを菌床から刈り取った後、再度その菌床に発芽刺激を付与することで2回目のきのこを生育させる。そして、これを2~12回程度繰り返す栽培法を採る。即ち、一つの菌床から複数回きのこを発生させる方法となる。
この一つの菌床から複数回の発生にあっては、冒頭に説明した如く、菌床と原基になんらかの刺激を与えないと、発芽が極めて低調となり、やがてきのこが発生しなかったり、又は、その収量が少量で効率の悪いものとなってしまう傾向がある。
【0023】
そこで、本発明では、上記問題の解決策として、「被膜」に着目することになるが、この被膜とは、上記の如く、原基形成と並行して進められる、菌床表面の菌糸塊が成長して色の褐変化を伴って一定層に形成される膜をいうものである。
この被膜は、1~7mm程度の厚みを備えたものとなり、その硬さは、膜としての一定の硬度を備えるものの、過度に硬いものではなく、例えればソフトボール球の表面の如き、比較的柔軟な弾性を備えたものとなる。
この被膜が菌床全面に亘って形成されたものとなる。
【0024】
さて斯かる被膜に対し、本発明しいたけの発生方法は、しいたけ菌を接種し菌糸蔓延で培地を分解腐朽させて培養する過程において菌床表面に形成された被膜に対し、表面被膜を破ってその下の菌糸層まで到達する断面積0.5~20mm2の細孔を穿つ処理を施す。
即ち、発芽時における菌床に対し、上記過程で形成される被膜の表面に、被膜を破ってその下の菌糸層まで到達する細孔を穿つ処理を施し、それによって発芽に至る刺激を与えるものとする(以下これを細孔発芽処理という)。
その細孔とは、断面積0.5~20mm2(直径約1~5mmに相当)の孔体で、それが被膜を破った後、その下の菌糸層まで到達する深さの孔体とする。
この孔体は、円孔が代表的であるが、これに限らず、楕円形、三角形、四角形、星形等を断面形状とする孔体を含む。」
イ 甲6記載技術
甲6には、次の技術的事項(以下、「甲6記載技術」という。)が記載されて
いる。
<甲6記載技術>
「しいたけの発生方法において、発芽時における菌床に対し、上記過程で形成される被膜の表面に、被膜を破ってその下の菌糸層まで到達する細孔を穿つ処理を施し、それによって発芽に至る刺激を与えること。」
2 対比・検討・判断
(1) 本件特許発明1
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
(ア) 甲1発明の「ナメコビン」は「ポリプロピレン製」の「容器」であるから、保形性を有することは自明であり、「培地を容器に充填」するものであって「キャップ栓」を有するから、上面に開口部を配して培地が充填可能な筒状の本体を有することも自明である。
そして、甲1に「容器」遮光として、「ビン口部を除き「アルミ箔で覆う」「黒い袋に入れる」「黒く塗る」の3つの方法」(前記1(1)ア(エ)参照。)が記載され、甲1は「青色LED(以下「LED」)を培養期間中にビンの上方からビン口部へ光を照射する」ものであって、「培養終了後,ビンはキャップ栓を外」すから、「キャップ栓」が透光性を有しないと「ビン口部へ光を照射」することができないことは明らかであり、これらに加え、「ポリプロピレン製」のビン構造からみて、甲1発明の「ナメコビン」及び「キャップ栓」が透光性を有することも自明である。
そうすると、本件特許発明1の「透光性と保形性を備え、上面に開口部を配して一定量の培地が充填可能な筒状の容器本体と、該容器本体上面の開口部を封する透光性、通気性、保形性を備えた蓋体とを備えた栽培容器」と、甲1発明の「ナメコビン」は、「透光性と保形性を備え、上面に開口部を配して一定量の培地が充填可能な筒状の容器本体と、該容器本体上面の開口部を封する透光性、保形性を備えた蓋体とを備えた栽培容器」である点で一致する。
(イ) 本件特許発明1の「a)殺菌処理した培地を該容器本体に充填し、該蓋体で封する、又は、該培地を充填した後に該容器本体を該蓋体で封して殺菌処理する、培地製造工程」と、甲1発明の「供試菌は北研600号(H600)を用い、培地を容器に充填し、ビンは中心に直径17mmの接種孔を1カ所開けた後、高圧殺菌(120℃,60分)」することは、「a)該培地を充填した後に該容器本体を殺菌処理する、培地製造工程」である点で一致する。
(ウ) 甲1発明は、「容易に菌床シイタケを栽培できるよう、栽培の全工程を既存きのこビンで栽培する」ものであり、「供試菌は北研600号(H600)」であることからみて、「供試菌」である「北研600号(H600)」がシイタケであることは明らかである。
そうすると、本件特許発明1の「b)該蓋体を外し、該培地表面にシイタケ種菌を散布した後に、該容器本体を再び該蓋体で封する種菌接種工程」と、甲1発明の「供試菌は北研600号(H600)を用い、培地を容器に充填し、ビンは中心に直径17mmの接種孔を1カ所開けた後、高圧殺菌(120℃,60分)し、殺菌後の培地を冷却後、菌を1ビン当り5g接種」することは、「b)シイタケ種菌の種菌接種工程」である点で一致する。
(エ) 本件特許発明1の「c)酸素透過性があり、かつ、容器本体の胴部を遮光しない暗条件の環境下で、接種した菌糸を培地に蔓延させる菌糸培養前期工程」と、甲1発明の「培養30日目まで暗培養」とし、「遮光方法に関し、遮光無し(無処理)のビンを用い、遮光は培養開始時から子実体発生量調査終了時まで継続」することは、「c)容器本体の胴部を遮光しない暗条件の環境下で、接種した菌糸を培地に蔓延させる菌糸培養前期工程」という点で一致する。
(オ) 本件特許発明1の「d)酸素透過性があり、かつ、容器本体の開口部と胴部共に光照射を行う明条件の環境下で、原基形成を促す菌糸培養後期工程」と、甲1発明の「シイタケの原基形成には微弱ながら光が必要とされ、青色LED(以下「LED」)を培養期間中にビンの上方からビン口部へ光を照射すると原基形成が促進されて、子実体発生量が増加するから」、「31日目から蛍光灯照射,LED照射する区に分け、LEDの照射量は10.2μmol・m-2s-1,蛍光灯は10.9μmol・m-2s-1に設定し、蛍光灯及びLED区は1日8時間連続照射」することは、「d)明条件の環境下で、原基形成を促す菌糸培養後期工程」である点で一致する。
(カ) 甲1発明は、「シイタケの原基形成には微弱ながら光が必要とされ、青色LED(以下「LED」)を培養期間中に照射すると原基形成が促進されて、子実体発生量が増加する」ことに基づくものであるから、甲1発明の「培養終了後」は、「原基形成」が完了しているのは自明である。
そして、甲1発明は、「栽培」を行う点からみて「64日間子実体発生量調査」後に採取を行うことが自明であるから、甲1発明の「培養終了後,ビンはキャップ栓を外し、64日間子実体発生量調査を行」うことは、本件特許発明1の「e)該原基形成が完了したら、該容器本体から該蓋体を外し、子実体の成長を促す子実体生育工程」及び「f)成熟した該子実体を採取する採取工程」を含むものに相当する。
(キ) 甲1発明の「エノキタケ等のビン栽培に慣れたきのこ生産者が、容易に菌床シイタケを栽培できるよう、栽培の全工程を既存きのこビンで栽培する、シイタケビン栽培方法」は、本件特許発明1の「シイタケ容器栽培方法」に相当する。
よって、本件特許発明1と甲1発明は、次の一致点で一致し、相違点1~5で相違する。
<一致点>
「透光性と保形性を備え、上面に開口部を配して一定量の培地が充填可能な筒状の容器本体と、該容器本体上面の開口部を封する透光性、保形性を備えた蓋体とを備えた栽培容器を用い、
a)該培地を充填した後に該容器本体を殺菌処理する、培地製造工程と、
b)シイタケ種菌の種菌接種工程と、
c)容器本体の胴部を遮光しない暗条件の環境下で、接種した菌糸を培地に蔓延させる菌糸培養前期工程と、
d)明条件の環境下で、原基形成を促す菌糸培養後期工程と、
e)該原基形成が完了したら、該容器本体から該蓋体を外し、子実体の成長を促す子実体生育工程と、
f)成熟した該子実体を採取する採取工程と、
から構成されるシイタケ容器栽培方法。」
<相違点1>
本件特許発明1の「栽培容器」が「通気性」を有するのに対し、甲1発明の「ナメコビン」は、そのような特定がされていない点。
<相違点2>
本件特許発明1の「培地製造工程」が「殺菌処理した培地を該容器本体に充填し、該蓋体で封する、又は、該培地を充填した後に該容器本体を該蓋体で封して殺菌処理」するものであり、「種菌接種工程」が、「該蓋体を外し、該培地表面にシイタケ種菌を散布した後に、該容器本体を再び該蓋体で封する」ものであるのに対し、甲1発明は、「供試菌は北研600号(H600)を用い、培地を容器に充填し、ビンは中心に直径17mmの接種孔を1カ所開けた後、高圧殺菌(120℃,60分)し、殺菌後の培地を冷却後、菌を1ビン当り5g接種」するものであり、「高圧殺菌」において、「培地を容器に充填し」た後に「キャップ栓」で封することが特定されておらず、「接種」に関し、「ビンは中心に直径17mmの接種孔を1カ所開けた」ことが特定されているが、「キャップ栓」を外し、培地表面に菌を散布した後に、再び「キャップ栓」で封することが特定されていない点。
<相違点3>
本件特許発明1の「菌糸培養前期工程」及び「菌糸培養後期工程」のそれぞれにおいて、「酸素透過性があ」るのに対して、甲1発明の「培養30日目まで暗培養とし,31日目から蛍光灯照射,LED照射する区に分け、LEDの照射量は10.2μmol・m-2s-1,蛍光灯は10.9μmol・m-2s-1に設定し、蛍光灯及びLED区は1日8時間連続照射し,その他の時間は暗培養と」する「培養期間」はそのような特定がされていない点。
<相違点4>
本件特許発明1の「菌糸培養後期工程」が「容器本体の開口部と胴部共に光照射を行う明条件の環境下で」行うのに対し、甲1発明は「31日目から蛍光灯照射,LED照射する区に分け、LEDの照射量は10.2μmol・m-2s-1,蛍光灯は10.9μmol・m-2s-1に設定し、蛍光灯及びLED区は1日8時間連続照射」するときに、「培養期間中にビンの上方からビン口部へ光を照射する」ものであって、「遮光方法に関し、遮光無し(無処理)のビンを用い、遮光は培養開始時から子実体発生量調査終了時まで継続」する点。
<相違点5>
本件特許発明1の「種菌接種工程」において「散布」される「シイタケ種菌」が、「子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」であるのに対し、甲1発明の「培地を容器に充填し、ビンは中心に直径17mmの接種孔を1カ所開けた後、高圧殺菌(120℃,60分)し、殺菌後の培地を冷却後、菌を1ビン当り5g接種」に用いる「供試菌」が「北研600号(H600)」である点。
イ 相違点についての検討・判断
(ア) 相違点1及び相違点3について
相違点1及び相違点3は関連するものであるから、まとめて検討する。
甲1発明は、「キャップ栓をしない培養方法は,ビン栽培に適していると考えられ、キャップ栓をせずに,ビンを袋に入れて培養する方法は作業が煩雑であることから、今後は、キャップ栓の通気性の改善を検討する必要があり」とするものであるから、この示唆に従い、「ナメコビン」の「キャップ栓」の通気性を改善、すなわち、「キャップ栓」が通気性を有するように設計し、本件特許発明1の相違点1に係る構成のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
そして、甲1発明は、「培養終了後,ビンはキャップ栓を外」すから、「培養期間中」は、「ナメコビン」は「キャップ栓」で封されていることが自明であるから、「キャップ栓」が通気性を有するものに設計するのであれば、「培養期間中」が酸素透過性がある状態にあることは当然であるから、「ナメコビン」の「キャップ栓」の通気性を改善、すなわち、「キャップ栓」が通気性を有するように設計することにともない、本件特許発明1の相違点3に係る構成のようにすることも、当業者であれば容易に想到し得たことである。
(イ) 相違点2について
a 本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0044】に「・・・工程としては、培地を容器本体に充填し、その後、容器本体10を蓋体20で封して、殺菌処理を行う方法でもいいし、予め、殺菌処理を行った培地を容器本体10に充填し、蓋体20で封する方法でもよい。
蓋体20で封することで、培地の殺菌状態を保つことができる。」と記載され、同段落【0045】に「種菌接種工程では、培地製造工程にて殺菌し、冷却された後の栽培容器1について、蓋体20を外し、培地上面部31にシイタケ種菌を散布し接種した後、容器本体10を再び蓋体20で封する。」と記載されているが、「蓋体」を封してから殺菌を行った後に「蓋体」を開けてから接種を行い、再度「蓋体」で封することについて、特段の技術的意味を示す記載も示唆もない。
b 種菌の接種技術として、培地表面にのみ散布することや接種孔を設けることは例示するまでもない周知の技術であって、いずれかの接種技術を採用することは、当業者がなしえることであるから、甲1発明の「ビンは中心に直径17mmの接種孔を1カ所開けた後」、「菌を1ビン当り5g接種」する工程において、「接種孔を1か所開ける」ことに替えて、培地表面にのみ散布するようにすることは、当業者であれば適宜なし得ることである。
c そして、甲1発明は、「培養終了後,ビンはキャップ栓を外」すものであるから、「培養期間」前に「ナメコビン」は「キャップ栓」で封されなければならないものであり、前記aに示したとおり、本件特許発明1において、「蓋体」を封してから殺菌を行った後に「蓋体」を開けてから接種を行い、再度「蓋体」で封することに特段の技術的意味を有しないことからみて、前記bに示したとおり、「接種」を「接種孔を1か所開ける」ことに替えて、培地表面にのみ散布するようにした際に、甲1発明の「培地を容器に充填し」、「高圧殺菌(120℃,60分)」するのであれば、「培地を容器に充填し」た後に「キャップ栓」で封し、「接種」を培地表面にのみ散布するために、その前に「キャップ栓」外し、「接種」後に「キャップ栓」で封するするようにしてビン内への雑菌等の侵入・繁殖を抑えるようにすることは、当業者であれば、容易に想到し得ることである。
よって、甲1発明において、本件特許発明1の相違点2に係る構成のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
(ウ) 相違点4について
甲1発明において、「31日目から蛍光灯照射,LED照射する区に分け、LEDの照射量は10.2μmol・m-2s-1,蛍光灯は10.9μmol・m-2s-1に設定し、蛍光灯及びLED区は1日8時間連続照射」するときに、「培養期間中にビンの上方からビン口部へ光を照射する」ものであって、「遮光方法に関し、遮光無し(無処理)のビンを用い、遮光は培養開始時から子実体発生量調査終了時まで継続」するものであり、前記ア(ア)に示したとおり、甲1発明の「ナメコビン」及び「キャップ栓」が透光性を有することは自明である。
そうすると、甲1発明において、「培養期間中にビンの上方からビン口部へ光を照射する」「LED照射」を行う際に、透光性を有し、遮光無し(無処理)の「ナメコビン」及び透光性を有する「キャップ栓」を通して、LEDからの光が、「ナメコビン」の開口部及び胴部に届くことは明らかである。
よって、相違点4は実質的な相違点ではない。
また、相違する点があるとしても、甲1発明において、「遮光無し」の「ナメコビン」の胴部にもLEDの光が届くようにして、本件特許発明1の相違点4に係る構成のようにする程度のことは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
(エ) 相違点5について
a 「シイタケ種菌」が、「子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」であることについて本件明細書の発明の詳細な説明に次の記載がある。
(a) 段落【0056】~【0061】
「【0056】
(実施例1)
本実施例では、栽培に適した容器の種類を確認した。
培地組成は、広葉樹オガコとチップを容量比1:1で混合したものに栄養体としてシイタケ短期栽培用ニューバイデル(株式会社北研)を培地仕上がり重量比8%添加、含水率を60%に調整後、栽培容器に規定量充填して高圧殺菌(118℃・60分)を行なった。放冷後、種菌としてHS911(株式会社北研)の液体培養菌体を接種して、20℃・100日間培養した。発生は、蓋体を除去して17℃で行なった。
上記条件の下、実際にビン栽培きのこで広く用いられている、なめこ用広口ビン(信越農材製800SB)、ぶなしめじ用ブロービン(同850)、エノキタケ用ブロービン2種類(同850SI-65と1100-70L)の試験区を設定し、発生率(発生容器数/全容器数)、きのこ発生個数・生重量・一個重を測定した(個数と生重量は発生容器のみで算出した)。
その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
[図:0001435153000008.jpg]
【0058】
蓋体の通気は、なめこ用容器では、蓋と容器本体嵌合部隙間の出入で行い、ぶなしめじ用とエノキタケ用容器では、蓋体内蔵の不織布フィルタを通じた出入で行った。
きのこ発生率(%)(発生容器数/供試容器数)、容器当たりのきのこ発生個数と生重は、エノキタケ用ブロービン2種類とぶなしめじ用ブロービンと比較して、なめこ用広口ビンで高値となった。
本願明細書記載のしいたけの容器栽培において、きのこを斉一かつ効率的に発生させるためには、第一にきのこが発生する面すなわち容器口部径が大きいことが必要である。また、容器に充填されている培地をしいたけ菌が効率的に利用するためには、第二に容器口部径と胴部径の差が小さいこと、すなわち容器口部径/容器胴部径率(%)が大きいことが必要である。さらに、培地内のしいたけ菌糸の伸長と原基形成に必要な酸素を効率的に供給できるように、酸素が供給される容器口部径が大きいとともに培地量が過剰ではない(培地高さが高くない)、すなわち容器口部径/容器高さ率(%)が大きいことが必要である。
以上の結果から、以降の実施例では容器標準系として、上記3要件を満たすことのできるなめこ広口ビンを用いることとした。なお、本願明細書記載のしいたけの容器栽培に用いる系は、この3要件を満たしていれば、なめこ広口ビンに限られるわけではない。
【0059】
(実施例2)
本実施例では、菌糸培養工程の光条件を確認した。
方法は実施例1と同様で、栽培容器はなめこ用広口ビンを用いた。
菌糸培養前期ならびに後期工程における光の影響を検討するために、光照射期間による発生率へ影響を調査した。暗培養条件は1ルクス未満、明培養条件は5~100ルクスの光量で8時間点灯とした。また、培地側面部である胴部10(すなわち子実体発生部位以外の部分)への光の影響を確認するためにビン側面に100%遮光のため黒フィルムを被覆した区も設定した。
【0060】
【表2】
[図:0001435153000009.jpg]
【0061】
その結果、光照射は必要であること、必要な期間は、培養中後期である菌糸培養後期であることが分かった。すなわち本実施例で使用した専用品種HS911では、容器全体に菌糸が蔓延するタイミング、具体的には種菌接種後、菌糸培養前期である3週間ないし4週間までは暗培養とし、それ以降の菌糸培養後期は光照射を行う明培養とすることが最も適していることが分かった。
光照射部位については、子実体発生部位である培地上面部31のみならず培地側面部である胴部11にも光照射を行なうことで発生率が高くなる傾向があった。このことは、子実体発生部位でない部分、すなわち培地側面分である胴部11にも光照射を行なうことで菌糸活力の増大、培地分解腐朽、子実体発生部位への原基形成が促進されていることを示唆している。」
(b) 段落【0074】~【0076】
「【0074】
(実施例7)
本実施例では、品種による発生へ及ぼす影響を確認した。
方法は実施例1と同様で、品種別に発生率(発生容器数/全容器数)、きのこ発生個数・生重量・一個重を測定した(個数と生重量は発生容器のみで算出した)。
対照は、本発明の標準系として供試しているHS911(株式会社北研)とし、試験区に従来栽培系(栽培容器として袋体を使用)で多く用いられている、北研600号、HS607、HS705、HS715、CA901、CA902、HS903、HS905(いずれも株式会社北研)を供試した。なお、HS911は請求項8に示したとおり、菌糸培養後期工程で培地上面(発生時に露出される部位)に菌糸塊は形成されるが、褐変被膜は形成しにくい特徴を有している(試験区として供試した他の品種はいずれも菌糸塊ならびに褐変被膜を良好に形成する)。
その結果を表7に示す。
【0075】
【表7】
[図:0001435153000010.jpg]
【0076】
培養完了時に発生面の褐変化が弱い対照(HS911)では、発生率100%、子実体発生個数、生重、一個重の結果から商品価値がある子実体が斉一に発生したが、培養完了時に発生面の褐変化が良好である試験品種すべてで発生率が低水準であった。このことから、本願発明の栽培には、対照(HS911)が最も適合していると考えられた。」
b 甲1発明の「北研600号」について
甲3記載技術から、一般的に「菌床シイタケ栽培では、培養が進むにつれて培地が収縮し、培地表面が白色から褐色に変化し、この褐色の被膜は、培地内部への害菌の侵入を阻止する防波堤のような役割をしていると考えられ、きのこの元となる原基は、この褐色被膜の下にたくさん形成されるため、褐色被膜が培地表面に形成されないと原基形成の遅れによるシイタケ発生量の減少や、培地内部への害菌の侵入によって、シイタケ菌が死滅により培地が崩壊して結果的に発生最が減少する恐れがあ」るものであり、「北研600号で、接種40日後まで暗黒で培養した暗黒培養区の培地は、対照区の培地に比べて褐変の遅れや色が薄い、培地の隆起が少ない等の現象が見られる」ことからみて、「北研600号」は、正常な栽培条件では、褐変被膜が形成するシイタケ菌株であることを理解することができる。
そうすると、甲1発明の「北研600号」は、正常な栽培条件では、褐変被膜が形成するシイタケ菌株であり、本件特許発明1の「子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」には該当しないと理解できる。
このことは、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0074】(前記a(b)を参照。)から、「北研600号」が「子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」に該当しないことを理解できることにも合致することである。
そうすると、相違点5は実質的な相違点である。
c 相違点5の想到容易性について
甲2~甲6に、「子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」を栽培する記載や示唆がないことからみて、甲1発明に甲2~甲6に記載された技術を適用しても、本件特許発明1の相違点5に係る構成のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
d 本件特許発明1の総合的な評価について
「子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」が周知の菌株であって、甲1発明の菌株として適用できる動機があるとしても、本件特許発明1は、前記の相違点5に係る構成に加え、「c)酸素透過性があり、かつ、容器本体の胴部を遮光しない暗条件の環境下で、接種した菌糸を培地に蔓延させる菌糸培養前期工程と、d)酸素透過性があり、かつ、容器本体の開口部と胴部共に光照射を行う明条件の環境下で、原基形成を促す菌糸培養後期工程」により、前記a(a)の「HS911では、容器全体に菌糸が蔓延するタイミング、具体的には種菌接種後、菌糸培養前期である3週間ないし4週間までは暗培養とし、それ以降の菌糸培養後期は光照射を行う明培養とすることが最も適している」効果、及び同(b)の「培養完了時に発生面の褐変化が弱い対照(HS911)では、発生率100%、子実体発生個数、生重、一個重の結果から商品価値がある子実体が斉一に発生」するという、他のシイタケ菌株では得られない格別の効果を奏するものであるから、本件特許発明1は、甲1発明、及び甲2~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書、意見書1及び意見書2では、本件特許発明1の相違点5に係る構成を有する特許登録時の請求項9に係る発明について進歩性欠如の主張を行っていない。
エ 本件特許発明1の小括
よって、本件特許発明1は、甲1発明、及び甲2~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(2) 本件特許発明2~8、10及び11について
本件特許発明2~8、10及び11のそれぞれは、本件特許発明1の構成を有し、さらに構成を付加したものである。
前記(1)で対比・判断したとおり、本件特許発明1は、甲1発明、及び甲2~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえないから、本件特許発明2~8、10及び11のそれぞれにおいて付加された構成について検討するまでもなく、本件特許発明2~8、10及び11のそれぞれは、甲1発明、及び甲2~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
3 取消理由(進歩性)の小括
本件特許発明1~8、10及び11のそれぞれは、甲1発明、及び甲2~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
第6 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
1 異議申立理由1(サポート要件違反)
(1) 判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2) 判断基準に基づく判断
前記(1)の判断基準に基づいて、判断する。
ア 本件特許発明が解決しようとする課題
(ア) 本件明細書の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には次の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、シイタケ等のきのこ栽培の効率化を実現するにあたって、一貫して保形性、透光性、通気性のある栽培容器を用いることで収容密度の向上、機械化・自動化による生産効率の向上や発生率(収量)の向上を具現化するとともに、菌床1世代に対して1回の収穫とし、発生面を培地底面や側面を閉ざした上面のみ開放とすることで、短縮された期間内に十分な菌床の熟成と子実体の発生が見込め、求める商品規格を満たすことができる栽培方法を具現化することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するため、本発明に係るシイタケ栽培方法は、透光性と保形性を備え、上面に開口部を配して一定量の培地が充填可能な筒状の容器本体と、該容器本体上面の開口部を封する透光性、通気性、保形性を備えた蓋体とを備えた栽培容器を用い、
a)殺菌処理した培地を容器本体に充填し、蓋体で封する、又は、培地を充填した後に容器本体を蓋体で封して殺菌処理する、培地製造工程と、
b)蓋体を外し、該培地表面にシイタケ種菌を散布した後に、容器本体を再び蓋体で封する種菌接種工程と、
c)酸素透過性があり、かつ、暗条件の環境下で、接種した菌糸を培地に蔓延させる菌糸培養前期工程と、
d)酸素透過性があり、かつ、明条件の環境下で、原基形成を促す菌糸培養後期工程と、
e)原基形成が完了したら、容器本体から蓋体を外し、子実体の成長を促す子実体生育工程と、
f)成熟した子実体を採取する採取工程と、
から構成される手段を採る。」
(イ) 本件明細書から把握できる課題について
前記(ア)を踏まえると、本件明細書から、本件特許発明が解決しようとする課題は次のものである。
「シイタケ等のきのこ栽培の効率化を実現するにあたって、一貫して保形性、透光性、通気性のある栽培容器を用いることで収容密度の向上、機械化・自動化による生産効率の向上や発生率(収量)の向上を具現化するとともに、菌床1世代に対して1回の収穫とし、発生面を培地底面や側面を閉ざした上面のみ開放とすることで、短縮された期間内に十分な菌床の熟成と子実体の発生が見込め、求める商品規格を満たすことができる栽培方法を具現化すること」
イ 課題を解決できると当業者が認識できるものか否かについて
本件特許発明1の「透光性と保形性を備え、上面に開口部を配して一定量の培地が充填可能な筒状の容器本体と、該容器本体上面の開口部を封する透光性、通気性、保形性を備えた蓋体とを備えた栽培容器を用い」ることにより、「一貫して保形性、透光性、通気性のある栽培容器を用いることで収容密度の向上、機械化・自動化による生産効率の向上や発生率(収量)の向上を具現化する」ことができる。
次に、「a)・・・培地製造工程」~「f)・・・採取工程」からなる工程で栽培し、「該容器本体上面の開口部を封する透光性、通気性、保形性を備えた蓋体とを備えた栽培容器」を用いることにより、「菌床1世代に対して1回の収穫とし、発生面を培地底面や側面を閉ざした上面のみ開放と」して、「短縮された期間内に十分な菌床の熟成と子実体の発生が見込め、求める商品規格を満たすことができる」ことものである。
そして、本件明細書の発明の詳細な説明の実施例において、本件特許発明1の「該種菌接種工程で用いる該シイタケ種菌は、子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株である」「HS911」を用いた実施例により、「発生率100%、子実体発生個数、生重、一個重の結果から商品価値がある子実体が斉一に発生したが、培養完了時に発生面の褐変化が良好である試験品種すべてで発生率が低水準であった」ことが示されていること等を参酌すると、本件特許発明が対象とする「子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」である「シイタケ種菌」については、本件特許発明の構成により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(3) 申立人の主張
ア 申立人の主張の概要
(ア) 主張1
申立人は、特許異議申立書(10頁下から5行~12頁1行)において、次の主張1を行っている。
主張1:「本件特許の特許請求の範囲の請求項1はシイタケ容器栽培方法に係る発明である。しかしながら、本件特許の実施例に記載されているシイタケ品種の種類は限定的であり、しかも、実施例に記載されているHS911以外のシイタケ品種は、本件発明の栽培方法には適していないという結論になっている。従って、請求項1の範囲内で、かつ、実施例で立証されているシイタケ品種以外のシイタケについても本件特許発明の効果を得ることができるか否かが不明であり、出願時の技術常識からみてかかる効果が推認できない。よって、請求項1に係る特許発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
具体的には、実施例7において、シイタケ品種として、HS911、北研600号、HS607、HS705、HS715、HS73、CA901、CA902、HS903、HS905(いずれも株式会社北研)の合計10品種が供試されている。
このうち、栽培試験の結果、HS911は発生率100%であったが、10品種のうち7品種は発生率が50%以下であり、本件特許明細書の段落0076にも「培養完了時に発生面の褐変化が良好である試験品種すべてで発生率が低水準であった。」と記載されていることから、本件特許発明の「培地開口部から高品質のきのこを安定的に発生させることが可能」という効果を発揮していない。
従って、実施例で本件特許発明の所望の効果が得られたHS911以外のシイタケ品種については、本件特許発明の効果を得ることができるか否かが不明であり、出願時の技術常識からみてかかる効果が推認できず、発明の詳細な説明の他所の記載から見ても、また、出願時の技術常識に照らしても、当該具体例から実施例には記載されていないシイタケ品種全体まで拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号の規定の要件を満たしていない。
・・・(略)・・・
このことは、請求項1に従属している請求項2-11についても同様である。」
(イ) 主張2
申立人は、意見書2(1頁下から3行~2頁6行)において、次の主張2を行っている。
主張2:「ア 本件訂正は、発明の成立に不可欠な技術的事項である「褐変被膜が形成しにくい」という発明特定事項を導入したものであるが、その技術的意味を客観的に裏付ける評価指標や基準値に関する開示は明細書中に一切存在しない。また実施例は「HS911」1例にすぎず、それ以外の菌株について技術的裏付けは一切示されていない。
イ にもかかわらず請求項は「褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」のように、シイタケ菌株一般に拡張されている。このような記載は、具体的開示なきまま発明概念を一般化するものであり、サポート要件の趣旨に正面から反する。」
イ 申立人の主張についての見解
主張1及び主張2をまとめて検討すると、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0074】に「HS911は請求項8に示したとおり、菌糸培養後期工程で培地上面(発生時に露出される部位)に菌糸塊は形成されるが、褐変被膜は形成しにくい特徴を有している(試験区として供試した他の品種はいずれも菌糸塊ならびに褐変被膜を良好に形成する)。」と記載されていることからみて、「子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」であることを特定する本件特許発明1において、「シイタケ菌株一般」に拡張しているとはいえない。
また、本件明細書の実施例において、「褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」として「HS911」の1例を示しているが、甲3記載技術の「菌床シイタケ栽培では、培養が進むにつれて培地が収縮し、培地表面が白色から褐色に変化し、この褐色の被膜は、培地内部への害菌の侵入を阻止する防波堤のような役割をしていると考えられ、きのこの元となる原基は、この褐色被膜の下にたくさん形成されるため、褐色被膜が培地表面に形成されないと原基形成の遅れによるシイタケ発生量の減少や、培地内部への害菌の侵入によって、シイタケ菌が死滅により培地が崩壊して結果的に発生最が減少する恐れがあ」ることを参酌すると、「子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」では、「褐変被覆が形成しにくい」という特性により、「褐変被覆を形成する」菌株と異なる特性を有することを推認し得るものであるから、他の「子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」にも本件明細書の実施例と同様の効果等を示す蓋然性があるといえる。
よって、実施例が1例のみ示していることをもって、本件特許発明1の構成により課題を解決し得ないとはいえない。
したがって、主張1及び主張2は、前記(2)イに示した判断を左右するものではなく、採用できない。
(4) 異議申立理由1(サポート要件違反)の小括
よって、申立人が主張するサポート要件違反(特許法36条6項1号違反)に係る取消理由は、採用すべき理由がない。
2 異議申立理由2(実施可能要件違反)
(1) 判断基準
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。
(2) 判断基準に基づく判断
本件明細書の発明の詳細な説明の記載について、前記(1)の判断基準に従って判断する。
本件明細書の発明の詳細な説明には、段落【0031】に「培地」、段落【0032】~【0035】に「栽培容器」、段落【0036】~【0041】に「蓋体」、段落【0042】~【0044】に「培地製造工程」、段落【0045】~【0047】に「種菌接種工程」、段落【0048】に「菌糸培養前期工程」、段落【0049】~【0050】に「菌糸培養後期工程」、段落【0051】~【0053】に「子実体生育工程」、段落【0054】~【0055】に「採取工程」について記載され、段落【0056】~【0076】に実施例1~実施例7が記載されており、特に実施例7(前記第5の2(1)イ(エ)a(b)を参照。)において、「子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株である」「HS911」を用いた実施例が記載されている。
これらを総合することにより、本件特許発明1~8、10及び11において特定された方法を用いて、「子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」のシイタケの栽培を過度の試行錯誤を要することなく実施することが理解できる。
(3) 申立人の主張
ア 申立人の主張の概要
(ア) 主張3
申立人は、特許異議申立書(11頁下から5~2行)において、主張1と同様の理由とした上で、次の主張3を行っている。
主張3:「また、同様の理由により、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が上記請求項に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の規定の要件を満たしていない。」
(イ) 主張4
申立人は、意見書2(2頁12行~最終行)において、次の主張4を行っている。
主張4:「ア 褐変の有無は菌株固有の性質だけでなく、培地の含水率等の外的条件によっても左右されることは、甲3号証の「培地表面が褐変しない原因として、培地作成時には次のようなことが考えられます。○1培地の含水率が高すぎるため、培地内部の空隙量が少なくなり酸素不足となる。○2粒径の小さなおが屑を多く使用したため、培地内部の空隙量が少なくなり酸素不足となる。○3殺菌不良で培地内部に害菌が棲息している。○4不良菌種の使用」(甲3号証の第1頁右欄)の記載から明らかである。したがって発明者の意図する技術思想を実現するには、褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株を再現可能な形で制御する条件が明細書に開示されていなければならないが、その記載はない。そのため本件明細書の開示では、第三者は過度の試行錯誤を回避して発明を実施することができず、再現性を欠く技術を保護する結果となる。これは特許制度の根幹である「技術公開と第三者保護の均衡」を損なうものである。
イ 本件特許発明1は請求項上「シイタケ容器栽培方法」の形式をとりながら、その成立に不可欠な技術的要件が「褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株の選定」という菌株固有の性質の特定に置かれている。このように、発明特定事項の核心が菌株の選択にある以上、本来は菌株選定のための具体的技術事項が明細書に記載されていなければならない。しかし明細書には、本件特許発明に適用し得るシイタケ菌株を再現的に取得するための手段も、判定指標も、条件再現のための技術的開示も存在しない。したがって、当業者はシイタケ容器栽培方法を実施しようとしても、前提となるシイタケ菌株を特定できず、方法発明として実施に至らない。このような請求項は、発明のカテゴリーと発明特定事項がねじれた状態にあり、特許制度が予定する予見可能性と第三者保護の観点からも許容されない。」
イ 申立人の主張についての見解
主張4について、「発明者の意図する技術思想を実現するには、褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株を再現可能な形で制御する条件が明細書に開示されていなければならないが、その記載はない」旨主張しているが、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0074】に「対照は、本発明の標準系として供試しているHS911(株式会社北研)とし、試験区に従来栽培系(栽培容器として袋体を使用)で多く用いられている、北研600号、HS607、HS705、HS715、CA901、CA902、HS903、HS905(いずれも株式会社北研)を供試した。なお、HS911は請求項8に示したとおり、菌糸培養後期工程で培地上面(発生時に露出される部位)に菌糸塊は形成されるが、褐変被膜は形成しにくい特徴を有している(試験区として供試した他の品種はいずれも菌糸塊ならびに褐変被膜を良好に形成する)。」と記載されることから、「HS911」という品種が、「子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」に該当し、他の品種が該当しないことを理解することができ、また、甲3記載技術に示されるとおり、一般的なシイタケ菌株が「褐変被膜が形成」することからみて、「シイタケ菌株」の中から一般的なシイタケ菌株と異なる特性を有する「HS911」の特性を参酌した上で、「子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」を判別することは、当業者において過度の試行錯誤なく、なし得ることと理解できる。
そして、その余の主張4及び主張3については、前記(2)に示したとおりであるから、主張3及び主張4は、前記(2)に示した判断を左右するものでなく、採用できない。
(4) 異議申立理由2の小括
よって、申立人が主張する特許法36条4項1号違反に係る取消理由は、採用すべき理由がない。
3 異議申立理由3(明確性要件違反)
(1) 申立人の具体的な異議申立理由
申立人は、明確性要件違反について、特許異議申立書(12頁4行~13頁21行)において、次の具体的理由を示している。
理由1:「特許請求の範囲の請求項1に記載の発明特定事項のうち、「該原基形成が完了したら、」については、発明の詳細な説明には、原基形成の完了についての定義がなく、どの時点をもって原基形成が完了したと判断するのか不明であるため、発明の範囲が不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
シイタケの菌床栽培における「原基」とはシイタケの子実体の元となるものであり、菌床表面に形成された菌床被膜の直下にランダムに形成されるものであるため、目視で確認することは不可能である。また、仮に目視で確認することが可能だとしても、請求項1d)(構成要件E)の工程で原基形成が促されている限り、ランダムに形成される原基があるタイミングを境に原基形成を完全に終了することは考えにくく、原基形成が完了したと判断することは困難である。
従って「原基形成が完了」したとの用語は不明確であり具体的な方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できないため、明確性の要件に違反するものである。」
理由2:「また、請求項8に係る特許発明には「100ルクス以上」という限定がされているが、上限が不明であるため、発明の範囲が不明確である。
発明の詳細な説明には、菌糸培養後期工程における明条件として「100ルクス以上が望ましいが、光量が多すぎると発生成績(発生率等)が低下する傾向があるので、大幅に光量を上げる必要は無い。」と記載されている(段落0049)。100ルクス以上の光量条件を設定することが困難であり、常識的に上限値が想定できる場合であればともかく、晴れの日で約10万ルクス、曇り空でも約1万ルクスの光量であり、室内でも照明により自由に光量が設定できる状況では、上限値が定められていない請求項8に係る発明はその発明の範囲が不明確であると言わざるを得ない。」
理由3:「さらに、請求項9に係る発明には「褐変被膜が形成しにくい」という限定がされているが、「褐変被膜が形成しにくい」の意味が客観的ではなく曖昧であるため、発明の範囲が不明確である。
発明の詳細な説明を参酌すると、「褐変被膜が形成しにくい菌株」であると記載されており、専らシイタケ菌株(品種)の特性に依存しているかのように記載されている(段落0017、0047、0074)。
しかしながら、甲第3号証の第1頁右欄に「培地表面が褐変しない原因として、培地作成時には次のようなことが考えられます。○1培地の含水率が高すぎるため、培地内部の空隙量が少なくなり酸素不足となる。○2粒径の小さなおが屑を多く使用したため、培地内部の空隙量が少なくなり酸素不足となる。○3殺菌不良で培地内部に害菌が棲息している。○4不良菌種の使用」と記載されているように、褐変皮膜の形成は必ずしもシイタケ菌株の特性に依存しているのではなく、栽培条件等によっても左右される。
また、「褐変」が具体的にどの程度の色合いを意味するのかは発明の詳細な説明には一切記載がなく、カラーチャートの例示もないため何をもって「褐変」と判断するのか、また、「褐変皮膜を形成しにくい」シイタケ品種と「褐変皮膜を形成しやすい」シイタケ品種についての特定方法に関する説明がないため、何をもって「褐変皮膜を形成しにくい」と判断するのかが不明である。」
(2) 意見書2における申立人の主張
申立人は、意見書2(3頁5~13行)において、訂正後の請求項1について、次の主張5を行っている。
主張5:「ア 請求項の中心概念が「褐変被膜が形成しにくい」という相対的かつ主観的な表現であり、発明特定事項として技術的範囲を一義的に確定できない。比較対象・評価基準が明らかでない以上、技術的範囲は外的条件により恣意的に変動し得る余地を与えることになり、第三者が権利範囲を予測可能な形で把握することは不可能である。
イ 明確性要件の趣旨は「技術的範囲を一義的に確定できること」にある。本件特許発明1は、比較対象も評価基準も不明確である以上、明確性を根本から欠く発明である。」
(3) 判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の本件出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断するのが相当である。
(4) 判断基準に基づく判断
前記(3)の判断基準に基づいて、判断する。
ア 本件特許発明1について
(ア) 請求項1に記載された「該原基形成が完了したら、」について(理由1)
請求項1に記載された「該原基形成が完了したら、該容器本体から該蓋体を外し、子実体の成長を促す子実体生育工程」について検討すると、生物学的な「シイタケ」の成長過程において、「原基」の次に「子実体」が続くことは技術常識であり、シイタケの菌床栽培において、両過程の境界を厳密に定めることが困難であることも、申立人の主張のとおり技術常識といえる。
一方、「子実体育成工程」の前の工程といえる「菌糸培養後期工程」及び「子実体育成工程」について、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0049】~【0051】に次の記載がある。
「【0049】
(菌糸培養後期工程)
菌糸培養後期工程は、酸素透過性があり、明条件の環境下で、原基形成を促す工程である。酸素の供給は、容器本体10と蓋体20との嵌合部の隙間によって行われる。二酸化炭素の排出も嵌合部の隙間によって行われる。
・・・(略)・・・
【0050】
容器本体10の透光性について実施例2に沿って、説明する。
培養完了後、蓋体20除去によりビン開口部12の培地上面部から子実体発生を誘導するためには、原理的には、培養工程で該部位のみに光照射があれば、原基形成から発芽至る際に光照射されることで、事足りると思われる。そうであれば、容器本体10のうち首部13を除いた胴11部は透光性が無くても良い。例として、胴部11を黒色のビンとする、あるいは胴部を黒色基材被覆で遮光することが考えられる。
しかし、実際には子実体発生部位ではない部分にも光照射を行なうことで、菌糸活力増大、培地分解腐朽、子実体発生部位への原基形成~発芽~生育誘導がより効率的に進むことが実施例2によって、裏付けられている。
従って、容器本体10の首部13及び胴部11の透光性が必要である。
【0051】
(子実体生育工程)
子実体生育工程は、容器本体10から蓋体20を外し、子実体を発生させたい部位を開放し、特別の処理なく該部位から子実体の成長を促す工程である。
培養工程完了後、使用している品種に適した温度にした状態で、蓋体を除去する。適した温度とは、多くの場合、16~18℃である。
このとき、一般的な容器栽培きのこでは、何らかの発茸処理(例:菌掻きや覆土等)を行う。きのこ原基形成を誘導する必要があるためである。」
これらの記載からみて、「子実体生育工程」において、「該原基形成が完了したら、該容器本体から該蓋体を外し、子実体の成長を促す」ことにおける、「該原基形成が完了したら」とは、生物学的な「原基」と「子実体」との厳密な境界状態を表すのではなく、当該方法を実施する者にとって目視可能な「発芽」の時期と理解するのが自然である。
従って、本件特許発明1に係る請求項1に記載された「該原基形成が完了したら、該容器本体から該蓋体を外し、子実体の成長を促す子実体生育工程」における「原基形成が完了したら、」という記載は、本件明細書の記載及び技術常識を基礎とすると、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないと判断するのが相当である。
(イ) 請求項1に記載された「子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」について(理由3及び主張5)
理由3は、特許登録時の請求項9に係る発明についてのものであるが、理由中の記載は、訂正後の請求項1に記載されたものと同一であるから、請求項9を請求項1と読み替えて、理由3及び主張5をまとめて判断する。
「子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」について、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0074】に「対照は、本発明の標準系として供試しているHS911(株式会社北研)とし、試験区に従来栽培系(栽培容器として袋体を使用)で多く用いられている、北研600号、HS607、HS705、HS715、CA901、CA902、HS903、HS905(いずれも株式会社北研)を供試した。なお、HS911は請求項8に示したとおり、菌糸培養後期工程で培地上面(発生時に露出される部位)に菌糸塊は形成されるが、褐変被膜は形成しにくい特徴を有している(試験区として供試した他の品種はいずれも菌糸塊ならびに褐変被膜を良好に形成する)。」と記載されており、「HS911」という品種が、「子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」に該当し、他の品種が該当しないことを理解することができる。
また、甲3記載技術に示されるとおり、一般的なシイタケ菌株で「褐変被膜が形成」されることからみて、「シイタケ菌株」の中から一般的なシイタケ菌株と異なる特性を有する「HS911」の特性を参酌した上で、「子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」を判別し、当該記載の技術事項を特定することは、当業者において過度の試行錯誤なく、なし得ることと理解できる。
そうすると、本件特許発明1に係る請求項1に記載された「子実体発生面に菌糸塊を形成する該菌糸培養後期工程において褐変被膜が形成しにくいシイタケ菌株」は、本件明細書の記載及び技術常識(甲3記載技術)を基礎とすると、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないと判断するのが相当である。
イ 本件特許発明8について(理由2)
請求項8に、「前記菌糸培養後期工程は、100ルクス以上の明るさで、常時点灯もしくは間欠点灯とした」と記載されている。
この記載によると、「菌糸培養後期工程」では100ルクス以上の明るさ」で、「常時点灯もしくは間欠点灯」することが特定されている。
一方、「常時点灯もしくは間欠点灯」することの「明るさ」の上限については特定されていない。
しかしながら、本件明細書において、「シイタケ容器栽培」の「菌糸培養後期工程」における「常時点灯もしくは間欠点灯」する「明るさ」の上限を特定することに技術的意義がある旨の記載がなく、そのような上限を特定しないと本件特許発明の課題を解決できない理由があるとはいえない。
そして、他に「シイタケ容器栽培」の「菌糸培養後期工程」における「常時点灯もしくは間欠点灯」する「明るさ」の上限を特定しなければ、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確となる特段の事由を見いだすこともできない。
よって、本件特許発明8に係る請求項8に記載された「前記菌糸培養後期工程は、100ルクス以上の明るさで、常時点灯もしくは間欠点灯とした」は、本件明細書の記載を基礎とすると、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないと判断するのが相当である。
第7 まとめ
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、並びに特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、本件請求項1~8、10及び11に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件請求項1~8、10及び11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項9に対する本件特許異議の申立ては、申立ての対象となる請求項が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700415