特許異議申立
2024-700503
農業用延伸フィルム
- 審判番号
- 2024-700503
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-087375
- 登録番号
- 7389711
- 請求日
- 2024年05月29日
- 審決日
- 2024年09月02日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】MKVアドバンス株式会社
- 【権利者代理人】小野 誠
- 【権利者代理人】金山 賢教
- 【異議申立人】天野 麻美
- 審判長/審判官
- 審判長 古屋野 浩志
- 審判官 加藤 範久
- 審判官 土屋 真理子
- 分類
- P1651.121-Y (A01G) / P1651.536-Y (A01G) / P1651.537-Y (A01G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第113条第4号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7389711号発明「農業用延伸フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7389711号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7389711号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和2年5月19日に出願された特願2020-87375号であって、令和5年11月21日にその特許権の設定登録がされ、同月30日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和6年5月29日に特許異議申立人天野麻美(以下「申立人」という。)により、請求項1~6に係る特許に対して、特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~6の特許に係る発明(以下、それぞれを「本件特許発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
透明微粒子及び基材樹脂を含む農業用延伸フィルムであって、前記透明微粒子の屈折率と、前記基材樹脂との屈折率差が0.02以下であり、波長555nmにおける直光線透過率が80%以上であり、且つJIS K-6732 附属書 べた付き性試験方法 に準ずる方法における剥離力が、30gf/3cm未満であり、
基材樹脂を構成する熱可塑性樹脂100重量部に対して、透明微粒子を0.2重量部~0.8重量部含むことを特徴とする、該農業用延伸フィルム。
【請求項2】
前記透明微粒子の屈折率と、前記基材樹脂との屈折率差が0.01以下である、請求項1に記載の農業用延伸フィルム。
【請求項3】
前記透明微粒子の平均粒径が200nm以上30μm以下である、請求項1又は2に記載の農業用延伸フィルム。
【請求項4】
前記透明微粒子が、アクリル樹脂を主成分とする有機系微粒子である、請求項1~3のいずれか1項に記載の農業用延伸フィルム。
【請求項5】
前記基材樹脂を構成する熱可塑性樹脂が塩化ビニル系樹脂である、請求項1~4のいずれか1項に記載の農業用延伸フィルム。
【請求項6】
前記農業用延伸フィルムの長手方向と幅方向の積算延伸倍率が3.0倍以上10倍以下であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の該農業用延伸フィルムの製造方法。」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人による特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
1 特許異議申立理由1
本件特許発明1~3、5、6は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1~3、5、6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 特許異議申立理由2
本件特許発明1~6は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 特許異議申立理由3
本件特許発明1~6は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 特許異議申立理由4
本件特許発明1~6は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第4 証拠
1 証拠一覧
甲第1号証:特開2004-123795号公報
甲第2号証:特開昭60-104141号公報
甲第3号証:特開昭59-169817号公報
甲第4号証:特開2000-280424号公報
甲第5号証:特開2007-202501号公報
甲第6号証:JISK6732:2006 農業用ポリ塩化ビニルフィルム、https://kikakurui.com/k6/K6732-2006-01.html
甲第7号証:上田光(外2名)、「カレンダーの構造と保守」、日本ゴム協会誌、第50巻、第2号、114~127頁、1977年、https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu1944/50/2/50_2_114/_article/-char/ja/
2 各証拠について
(1)甲1
ア 記載事項
特許異議申立人が甲第1号証として提出した特開2004-123795号公報(以下「甲1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下同様。)。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、農業用塩化ビニル系樹脂フィルムに関し、特に、透明性、耐候性、換気作業性が良好であり、低温衝撃性(耐脆性破壊)を向上させた農業用塩化ビニル系樹脂フィルムに関する。」
(イ)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、かかる状況にあって、フィルムの透明性や耐候性を損なうことなく、低温下における脆性破壊耐性を向上させ、サイド換気部に使用しても、フィルム同士の癒着やブロッキングがなく、スムーズに開閉できる農業用塩化ビニル系樹脂フィルムを提供することを目的として、塩化ビニル系樹脂にABS系樹脂を配合することを提案しているが、これに軟質アクリル系樹脂を配合することにより、さらに性能が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。」
(ウ)「【0034】
さらに、充填剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤等、他の通常の樹脂添加剤を必要に応じて含有させることができる。充填剤は通常フィルムのベタツキを抑制したり、あるいは保温性を維持するために用いられ、このようなものとしては、シリカ、タルク、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト、ケイ酸カルシウム、水酸化マグネシウム、カオリンクレー、マイカ、アルミナ、炭酸マグネシウム、リン酸リチウム、ゼオライト、リチウム・アルミニウム複合水酸化物塩、リチウム・マウネシウム・アルミニウム複合水酸化物縮合ケイ酸塩などの無機質系のものが挙げられる。充填剤は、フィルムの厚さに応じて、種類と配合量が決められるが、基材の塩化ビニル系樹脂に対し、通常0.05~10重量%、好ましくは0.1~7重量%の範囲で用いられる。
【0035】
上記塩化ビニル系樹脂に各樹脂添加剤を配合するには、それぞれ必要量秤量し、リボンブレンダー、バンバリーミキサー、スーパーミキサーその他従来から知られている配合機、混合機に仕込み混練すればよい。
【0036】このようにして得られる樹脂組成物は、それ自体既知の方法、例えばカレンダー法、押出成形法、溶液流延法などによりフィルム状に成形することができる。
【0037】
本発明のフィルムの厚さは、あまり薄いと強度が不十分となるので好ましくなく、逆に厚すぎるとフィルム化作業その他に不便をきたすので、一般には0.03~0.3mm、好ましくは0.05~0.2mmの範囲とするのが適当である。」
(エ)「【0039】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の例に限定されるものではない。なお、各実施例および比較例の評価は、以下に示す方法によって行った。
・・・(中略)・・・
【0042】
(3)換気作業性(ベタツキ性)JIS K 6732に準拠した方法でフィルム試料の30mm幅あたりの剥離強さを引張試験機(島津製作所社製「オートグラフ」)で測定した。評価基準は次のとおり。
◎ 20グラム未満
○ 20グラム以上80グラム未満
△ 80グラム以上160グラム未満
× 160グラム以上
【0043】
(基体フィルムの調整)
実施例1~3、比較例1~6
塩化ビニル樹脂(平均重合度1300) 100重量部
ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP) 47重量部
トリクレジルフォスフェート(TCP) 5重量部
エポキシ樹脂 2重量部
バリウム-亜鉛系複合液状安定剤 1.5重量部
バリウム-亜鉛系複合粉体安定剤 1.0重量部
メチレンビスステアリン酸アミド 0.4重量部
エチレンビスステアリン酸アミド 0.5重量部
紫外線吸収剤、光安定剤 0.3重量部
よりなる樹脂組成物を準備し、表1に示した種類および量のABS系樹脂、軟質アクリル系樹脂、防滴剤を配合した。
【0044】
各配合物をスーパーミキサーで10分間攪拌混合した後、180℃に加熱したミルロール上で混練し、厚さ0.10mmの基体フィルムを得た。得られたフィルムを評価し、その結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
[図:0001415329000001.jpg]
【0046】
表1中の注記*1~*5は以下のとおりである。
*1:ABS樹脂(ブタジエン含有量薬30%)
〔日本エイアンドエル社製、商品名「クララスチックK-2540A」〕
*2:ABS樹脂(ブタジエン含有量薬20%)
〔旭化成社製、商品名「スタイラック220」〕
*3:軟質アクリル系樹脂
〔クラレ社製、商品名「パラペットSA1000-NP」〕
*4:ソルビタンモノステアレート(溶融開始温度45~50℃)
〔理研ビタミン社製、商品名「SA-6638」〕
*5:ソルビタンモノべへネート(溶融開始温度74~80℃)
〔理研ビタミン社製、商品名「B-300」〕
*6:グリセリンモノべへネート(溶融開始温度74~80℃)
〔理研ビタミン社製、商品名「B-100」〕」
イ 甲1発明等
前記アから、甲1には、表1において「換気作業性」が「◎」となっている実施例2~4に着目すると、次の発明が記載されていると認められる(以下「甲1発明」という。)。
<甲1発明>
「透明性、耐候性、換気作業性が良好であり、低温衝撃性(耐脆性破壊)を向上させた農業用塩化ビニル系樹脂フィルムであって、(【0001】)
塩化ビニル樹脂よりなる樹脂組成物を準備し、ABS系樹脂、軟質アクリル系樹脂、防滴剤を配合した配合物から得た基体フィルムにおいて、(【0043】、【0044】)
換気作業性(ベタツキ性)JIS K 6732に準拠した方法でフィルム試料の30mm幅あたりの剥離強さを引張試験機で測定した結果、換気作業性が20グラム未満である(【0042】、【0045】の【表1】)
農業用塩化ビニル系樹脂フィルム。」
また、甲1には、次の技術が記載されている(以下「甲1記載技術1」、「甲1記載技術2」という。)。
<甲1記載技術1>
「農業用塩化ビニル系樹脂フィルムにおいて、塩化ビニル系樹脂に必要に応じて充填剤を含有させ、充填剤としてハイドロタルサイトが挙げられ、充填剤は基材の塩化ビニル系樹脂に対し0.1~7重量%の範囲で用いられる技術。」(【0034】)
<甲1記載技術2>
「農業用塩化ビニル系樹脂フィルムにおいて、樹脂組成物をカレンダー法によりフィルム状に成形する技術。」(【0036】)
(2)甲2について
特許異議申立人が甲第2号証として提出した特開昭60-104141号公報(以下「甲2」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 第3頁左上欄第11行~右上欄第8行
「本発明者等の検討によれば、無機質赤外線吸収剤含有農業用フイルムに従来提案された無機質赤外線吸収剤のうち、赤外線吸収率が比較的高い水酸化マグネシウムの屈折率約1.56、二酸化ケイ素の約1.5~1.6程度に対して、本発明で利用するハイドロタルサイト類の屈折率は約1.48~1.5程度であつて、農業用フイルムの熱可塑性樹脂としてよく利用される例えば低密度ポリエチレンの屈折率約1.49程度、ポリ塩化ビニルの屈折率約1.5程度とよく一致することも、平均2次粒子径条件及びBET比表面積条件の充足と相俟って本発明農業用フイルムがベース樹脂のフイルムの透明性を、何等、損なうことなしに優れた可視光透過性を示す一因子となつているものと推測される。」
イ 第4頁左上欄第9~16行
「本発明の農業用フイルムで利用する上記ハイドロタルサイト類は、更に、平均2次粒子径が約5μm以下、例えば約0.1μm~約5μm、好ましくは約4μm以下、より好ましくは約3μm以下、とくには約2μm以下の平均2次粒子径条件及びBET比表面積が約30m2/g以下、例えば約1~約30m2/g、好ましくは約25m2/g以下のBET比表面積条件を充足する。」
ウ 第5頁右上欄第1~13行
「本発明の農業用フイルムにおいて、前記平均2次粒子径条件及びBET比表面積条件を充足する式(1)ハイドロタルサイト類の使用量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して約1~約20重量部の範囲で適宜に選択できる。上記量範囲を逸脱して、過少量にすぎると、所望の赤外吸収能が低下して、赤外線が農業用フイルムを透過放散するのを阻止する能力が不充分となり、所望の保温性を賦与し難くなり、又、過剰量にすぎるとフイルムの透明性の低下が大きくなつて可視光透過性に実質的な悪化を生じ、さらにフイルムの機械的強度などの物性にも悪影響を生ずるおそれがあるので、上記量範囲において適宜に選択される。」
(3)甲3~甲5について
特許異議申立人が甲第3号証として提出した特開昭59-169817号公報(以下「甲3」という。)、甲第4号証として提出した特開2000-280424号公報(以下「甲4」という。)、甲第5号証として提出した特開2007-202501号公報(以下「甲5」という。)には、それぞれ、摘記は省略するが、農業用フィルムを延伸して製造することが記載されている。
(4)甲6について
特許異議申立人が甲第6号証として提出したJISK6732:2006 農業用ポリ塩化ビニルフィルム(以下「甲6」という。)には、摘記は省略するが、「べた付き性試験方法」としてロードセル容量1kgf、試験速度毎分100mm、チャート速度毎分50mmとする測定条件が記載されている。
(5)甲7について
特許異議申立人が甲第7号証として提出した上田光(外2名)、「カレンダーの構造と保守」、日本ゴム協会誌、第50巻、第2号、114~127頁、1977年(以下「甲7」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 116頁右欄12~17行
「図4は農業用広幅フィルムをはじめ一般雑貨用など軟質PVCフィルム-シート生産用の逆L型異型ロール式カレンダーラインである。このカレンダーラインのもう一つの特徴はテイクオフロール直後にテンタ装置を備えてカレンダーから出たフィルム幅を1.5倍から2倍程度まで延伸するものである。」
第5 当審の判断
1 特許異議申立理由1について
(1)本件特許発明1と甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「農業用塩化ビニル系樹脂フィルム」は、本件特許発明1の「農業用延伸フィルム」のうちの「農業用」「フィルム」に相当する。
また、甲1発明の「塩化ビニル樹脂」は、「基体フィルム」を構成する「樹脂」であって熱可塑性を有することは明らかであるから、本件特許発明1の「基材樹脂」を構成する「熱可塑性樹脂」に相当する。
そして、甲1発明の「換気作業性(ベタツキ性)JIS K 6732に準拠した方法でフィルム試料の30mm幅あたりの剥離強さを引張試験機で測定した結果、換気作業性が20グラム未満である」ことは、本件特許発明1の「JIS K-6732 附属書 べた付き性試験方法 に準ずる方法における剥離力が、30gf/3cm未満であ」ることに相当する。
してみれば、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の一致点で一致し、相違点1及び2で、相違する。
<一致点>
「基材樹脂を構成する熱可塑性樹脂を含む農業用フィルムであって、
JIS K-6732 附属書べた付き性試験方法に準ずる方法における剥離力が、30gf/3cm未満である
該農業用フィルム。」
<相違点1>
本件特許発明1は、基材樹脂を構成する熱可塑性樹脂100重量部に対して、「前記基材樹脂との屈折率差が0.02以下であ」る「透明微粒子」を「0.2重量部~0.8重量部含む」「延伸」フィルムであるのに対し、甲1発明は、そのような透明微粒子を含んでおらず、「延伸」フィルムであるか不明な点。
<相違点2>
本件特許発明1は「波長555nmにおける直光線透過率が80%以上であ」るのに対し、甲1発明は波長555nmにおける直光線透過率に関する特定を有さない点。
(2)相違点についての判断
相違点1から判断する。
甲1記載技術1の「ハイドロタルサイト」は、本件特許発明1の「透明微粒子」に相当するから、甲1記載技術1の「塩化ビニル系樹脂に充填剤としてハイドロタルサイトを含有させ」ることは、本件特許発明1の「基材樹脂を構成する熱可塑性樹脂」に対して「透明微粒子を」「含む」ことに相当する。
しかし、甲1記載技術1の「ハイドロタルサイト」の屈折率がどの程度であるか定かではないし、さらに、甲1記載技術は「充填剤」を「基材の塩化ビニル系樹脂に対し0.1~7重量%の範囲で」含有させるものに留まり、その数値範囲内でさらに「0.2重量部~0.8重量部」と特定したものでもないし、そのような数値範囲を示唆するものでもない。
したがって、甲1発明に甲1記載技術1を適用しても、基材樹脂を構成する熱可塑性樹脂100重量部に対して、「前記基材樹脂との屈折率差が0.02以下であ」る「透明微粒子」を「0.2重量部~0.8重量部含む」「延伸」フィルムであるという相違点1に係る本件特許発明1の構成を有するものにはならない。
また、ハイドロタルサイトの屈折率について、甲2に、「本発明で利用するハイドロタルサイト類の屈折率は約1.48~1.5程度であって、農業用フィルムの熱可塑性樹脂としてよく利用されるポリ塩化ビニルの屈折率約1.5程度とよく一致する」ことで、「本発明農業用フィルムが優れた可視光透過性を示す」旨が記載されている。しかし、甲1発明に、甲1記載技術1における、数ある充填剤の中でハイドロタルサイトを選択して組み合わせた上で、さらに甲2にあるようなポリ塩化ビニルの屈折率とよく一致するハイドロタルサイトを選択することは、いわゆる「容易の容易」であって、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。さらに、甲2に記載された技術は、「ハイドロタルサイト類の使用量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して約1~約20重量部とする」ものであって、「上記量範囲を逸脱して、過少量にすぎると、所望の赤外吸収能が低下して、赤外線が農業用フィルムを透過放散するのを阻止する能力が不充分とな」って好ましくないとされているものであるから、本件特許発明1のように「0.2重量部~0.8重量部」と特定したものでもないし、そのような数値範囲に変更することの阻害要因を有するものである。
よって、甲1発明に甲1記載技術1を適用した上で更に甲2に記載の技術事項を考慮しても、相違点1に係る本件特許発明1の構成を有するものにはならない。
また、甲1記載技術2は、前記第4の2(1)イで示したとおり、農業用塩化ビニル系樹脂フィルムにおいて、樹脂組成物をカレンダー法によりフィルム状に成形する技術であるところ、甲7には、第4の2(5)アで摘記したとおり、農業用フィルムの生産用のカレンダーラインの特徴として、カレンダーから出たフィルム幅を1.5倍から2倍程度まで延伸する点が記載されている。しかし、甲7は、あくまでも「カレンダーから出た」フィルムを延伸することが記載されているのであって、カレンダー法が延伸する工程を含んでいるかは定かではなく、甲7から甲1記載技術2の「カレンダー法」が農業用フィルムを延伸させるものであると認めることはできない。
仮に、甲1記載技術2の「カレンダー法」が「延伸」させるものであったり、農業用フィルムにおいて「延伸」してフィルムを製造することが周知技術であったとしても、本件特許発明1は「透明微粒子」を含む農業用フィルムを「延伸」するものであって、そのような構成を有することによって「透明微粒子を含んだフィルムを延伸させると、マトリックスとなる樹脂は平面方向の面積が増大する反面で厚みが薄くなるが、内包する透明微粒子は変形しないため、フィルム表面に露出しやすくなる。これにより作業性が大幅に向上する効果がある」という効果を奏するものである。よって、甲1記載技術2は、透明微粒子を含む農業用フィルムを延伸したものではなく、また、甲3~甲5を参酌しても透明微粒子を含む農業用フィルムを延伸したものが周知技術であるとは認められない以上、上記相違点1に係る本件特許発明1の構成は、当業者が甲1記載技術2、又は、周知技術から当業者が適宜なし得たということはできない。
したがって、甲1発明に基づいて、相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは、甲1~7に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に想到し得たことではない。
そして、相違点1に係る構成が容易に想到できるものではないから、その余の相違点2について判断するまでもなく、本件特許発明1は甲1~7に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、甲1の実施例2を主たる引用発明(甲1発明)とし、さらに、甲1発明はハイドロタルサイトを含んだものとした上で、透明微粒子を含む点は、本件特許発明1と甲1発明との一致点とし、相違点1、3、4と相違点を分けて、以下のように主張している。(特許異議申立書の第15頁最下行~第16頁最下行、第18頁第9~16行)
(ア)農業用フィルムを延伸して製造することは、甲3~5に記載されているように周知であって、甲1に記載されたフィルムはカレンダー法で製造でき、甲7に記載されたようにカレンダー法は延伸するので、甲1発明のフィルムを延伸して製造することは容易である。
(イ)甲2によれば、ハイドロタルサイトの屈折率は1.48~1.5であり、ポリ塩化ビニルの屈折率は1.5であり、これらの屈折率差は0~0.02であって、さらに、甲2には屈折率を一致させることにより、透明性を良好にするという本件特許発明1の特徴が記載されている。
(ウ)甲1発明では基材樹脂を構成する熱可塑性樹脂(塩化ビニル樹脂)に対して、透明微粒子を0.1~7重量%含むものであって、甲1発明において、甲1発明の課題である良好な透明性を保つことを考慮して、透明微粒子の配合量を0.2重量部~0.8重量部とすることは単なる好適値の設定に過ぎず格別の効果もない。
上記主張について検討する。
まず、甲1発明を実施例2に着目して認定するのであれば、実施例2は、前記第4の2(1)ア(エ)で示したとおり、ハイドロタルサイトを含んでいるとは認められないので、本件特許発明1と甲1発明とは、前記イで示した相違点1のように、透明微粒子を含むこと自体も相違点となる。よって、甲1発明の認定、さらには、相違点の認定において、申立人の主張は適当なものではない。
そして、前記イで示した相違点1について、申立人は、フィルムの延伸、透明微粒子と基材樹脂の屈折率差、透明微粒子の含有量という3つの相違点に分けて検討し、各相違点について、それぞれ個別に、周知技術であったり、甲2に記載されていたり、好適値の設定に過ぎないと主張しているが、上記相違点に係る構成は、それぞれが有機的に関連しているので分けて検討するものではない。例えば、本件特許発明1は、透明微粒子を含むフィルムを延伸するからこそ、本件明細書の段落【0017】に記載されたように「マトリックスとなる樹脂は平面方向の面積が増大する反面で厚みが薄くなるが、内包する透明微粒子は変形しないため、フィルム表面に露出しやすくなる。これにより作業性が大幅に向上する効果がある」のであって、このような効果は「透明微粒子を含む」ことと「フィルムを延伸する」ことのそれぞれが奏する効果の総和を超えるものであるということができるので、各構成を分けて検討すべきものではない。そして、各構成を分けずに、一つの相違点として検討すると、前記イで示したとおり、甲1~7に基づいて、当業者が容易に想到し得たことではない。
よって、申立人の上記主張を考慮しても前記イの判断を変更すべき事情がない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないので、特許法第113条第2号に該当せず、特許異議申立理由1によって、取り消されるべきものではない。
(3)本件特許発明2、3、5、6について
前記第2で示したとおり、本件特許発明2、3、5、6は、いずれも本件特許発明1の構成を全て含むものであるから、甲1発明との対比における前記相違点1に係る構成を有するものである。
前記相違点1に係る構成は、前記(2)で示したとおり、甲1~7に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に想到し得たことではないので、本件特許発明2、3、5、6に係る特許は、本件特許発明1に係る特許と同じ理由により、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。したがって、特許法第113条第2号に該当せず、特許異議申立理由1によって、取り消されるべきものではない。
2 特許異議申立理由2について
(1)実施可能要件の判断基準
本件特許発明1ないし本件特許発明5は物の発明であるところ、物の発明の実施とは、その物の生産及び使用等をする行為であるから、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
本件特許発明6は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法を使用し、その物を生産する方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
(2)発明の詳細な説明の記載
本件の明細書の発明の詳細な説明には以下の記載がある。
ア「【0007】
本発明は、高い透明性を維持しつつ、換気作業時の作業性が良い農業用延伸フィルムを提供することを目的とするものである。」
イ「【0012】
本発明においては、マトリックスとなる基材樹脂と屈折率の非常に近い透明微粒子を含有させることが重要であり、これにより、農業用フィルムとして透明でありながら、作業性を向上させることが可能になる。
【0013】
本発明における透明微粒子としては、後述する基材樹脂と屈折率が近しくあれば特に限定はしないが、例えば、シリカゾル及び/又はアルミナゾル等の無機系微粒子、或いは、ポリメチルメタクリレ-ト、ポリスチレン、ナイロン12、シリコーン、またはそれらの共重合体等の有機系微粒子を挙げることが出来る。
これらの中でも好ましく用いられるのは後者の有機系微粒子である。有機系微粒子はフィルム製造時には温度により軟化するため製造機器を傷つけにくく、且つ使用時には硬質であるため作業性の向上との両立が可能であるためである。
また、有機系微粒子として、アクリル樹脂を主成分とする有機系微粒子が、透明性や熱的性質が適しており、屈折率調整が容易であるため特に好ましい。ここで、アクリル樹脂主成分とするとは、有機系微粒子の主骨格がアクリル樹脂からなる微粒子で構成されていることであり、熱可塑性樹脂との屈折率を合わせるために任意の樹脂との共重合体を形成していても良い。
アクリル樹脂を主成分とする有機系微粒子としては、熱可塑性樹脂の成形温度で溶融せず形状を保ち、且つ、屈折率を熱可塑性樹脂の屈折率と合わせることができるものであれば特に限定はしないが、好ましくはアクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸共重合体、酢酸ビニル共重合体などである。
【0014】
透明微粒子としては、その一次平均粒子径が200μm~30μmの範囲、好ましくは1μm~20μmの範囲から選ぶのが好ましく、また、この範囲であれば、平均粒子径の異なる2種以上の透明微粒子を組み合わせて用いてもよい。平均粒子径が大きすぎると、使用時の粒子の脱離が発生しやすく、また粒子と樹脂との界面から破損しやすくなる可能性があり、また、平均粒子径が小さすぎると、粒子が表出しにくくなり十分な作業性を得ることが出来ない為好ましくない。
【0015】
透明微粒子としては、基材樹脂との屈折率差が0.02以下の範囲、好ましくは0.01以下であることが好ましい。屈折率差がかかる範囲以上である場合、十分な透明性を得ることが出来ない為好ましくない。
【0016】
農業用延伸フィルム中の透明微粒子の含有量は、基材樹脂を構成する熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.2重量部~1.0重量部、好ましくは0.3重量部~0.8重量部である。透明微粒子の含有量が1.0重量部以下であると、粒子と基材樹脂との界面から破損しにくくなり、また、フィルムが脆弱になることがない。また、透明微粒子の含有量が0.2重量部以上であると、粒子が表出しやすくなり十分な作業性を得ることが出来るため好ましい。
【0017】
また本発明においては、フィルムが延伸されていることが同様に重要である。透明微粒子を含んだフィルムを延伸させると、マトリックスとなる樹脂は平面方向の面積が増大する反面で厚みが薄くなるが、内包する透明微粒子は変形しないため、フィルム表面に露出しやすくなる。これにより作業性が大幅に向上する効果がある。」
ウ「【0032】
本発明の農業用延伸フィルムの厚みについては、強度やコストの点で0.01~1mmの範囲のものが好ましく、0.05~0.5mmのものがより好ましく、更に好ましくは0.05~0.2mmである。この範囲未満では強度的に問題があり、この範囲を超えると成形が困難なうえ、展張作業性に問題がある。
本発明の農業用延伸フィルムには、更にハウス展張時内側に防曇性塗膜を塗布したものを用いてもよい。また、農業用延伸フィルムをハウスに被覆した際に外側になる面に防塵性塗膜を形成してもよい。
【0033】
防曇性塗膜としては、無機質コロイドゾル及び/又は熱可塑性樹脂等のバインダー樹脂を主成分とする組成物等が挙げられる。好ましくは無機コロイド物質と親水性有機化合物を主成分とした防曇性塗膜や無機コロイド物質とアクリル系樹脂を主成分とする防曇性塗膜を用いることができる。またバインダー樹脂は添加しなくてもよく、コロイダルシリカやコロイダルアルミナ等の無機物を積層してもよい。本発明に形成することができる防曇性塗膜については、例えば、特開2008-067645号公報等に記載されている。」
エ「【0034】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の例に限定されるものではない。
【0035】
[実施例1~7、比較例1~4]
(1)塩化ビニル系樹脂フィルムの製造
ポリ塩化ビニル(重合度=1300) 100重量部
ジ-2-エチルヘキシルフタレート 45重量部
トリクレジルホスフェート 5重量部
エポキシ樹脂(商品名「EP-828」) 1.5重量部
Ba-Zn系液状安定剤 1重量部
ステアリン酸バリウム 0.2重量部
ステアリン酸亜鉛 0.4重量部
ソルビタンモノパルミテート 1.5重量部
βジケトン化合物(ジベンゾイルメタン) 0.1重量部
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤 0.04重量部
(商品名「TINUVIN-P」)
フッ素系界面活性剤(商品名「ユニダインDS-401」) 0.2重量部
以上あげた樹脂原料、樹脂添加物を秤量し、更にこれに、表1に示す特性の粒子を所定量配合した。これらをスーパーミキサーで10分間撹拌混合したのち、165℃に加温したロール上で混練し、L型カレンダー装置、及びそれに連なるテンター延伸装置によって、厚さ0.075mm、及び厚さ0.050mmの透明な塩化ビニル系樹脂フィルムを製造した。なお、比較例1に示す粒子を添加しない状態での基材樹脂の屈折率は1.53である。また、表1における微粒子の添加量は、塩化ビニル系樹脂フィルム全体の重量を100重量部とした添加量(重量部)である。
【0036】
(2)フィルムの評価
以下の方法においてフィルムの性能を評価し、その結果を第1表に示した。
(i)光学特性
実施例、比較例で作成したフィルムを、(株)島津製作所 分光光度計『UV-2450』により555nm直光線透過率を測定した。
この評価基準は、次のとおりである。
直進光線透過率
◎…直光線透過率が、85.0%以上のもの。
○…直光線透過率が、80.0%以上、85.0%未満のもの。
×…直光線透過率が、80.0%未満のもの。
【0037】
(ii)作業性
引張り特性:実施例、比較例で得られたフィルムを、JIS K-6732 附属書 べた付き性試験方法 に準ずる方法にて評価を行った。なお、資料片は幅3cm、ロードセル容量は1kg、試験速度(剥離速度)は毎分100mmとし、チャートスピードは毎分50mmとした。
この評価基準は、次のとおりである。
作業性
◎…剥離力が、20gf/3cm未満のもの。
○…剥離力が、20gf/3cm以上 30gf/3cm未満のもの。
×…剥離力が、30gf/3cm以上のもの。
【0038】
[図:0001415329000002.jpg]
【0039】
実施例及び比較例の結果から、本発明における農業用延伸フィルムは高い透明性を維持しつつ、換気作業時の作業性が良いと言える。」
(3)判断基準に基づく判断
前記(1)の判断基準に基づいて、判断する。
本件特許発明1は、前記第2で示したとおり、「透明微粒子の屈折率と、前記基材樹脂との屈折率差が0.02以下であり」、「波長555nmにおける直光線透過率が80%以上であり」、「且つJIS K-6732 附属書べた付き性試験方法に準ずる方法における剥離力が、30gf/3cm未満であり、」「基材樹脂を構成する熱可塑性樹脂100重量部に対して、透明微粒子を0.2重量部~0.8重量部含む」ことを特徴とする、該農業用延伸フィルムであるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、摘記した段落【0012】、【0015】には、基材樹脂と透明微粒子の屈折率を非常に近くし、具体的には屈折率差が0.02以下の範囲とすると十分な透明性を有する点が記載されている。また、段落【0016】には、農業用延伸フィルム中の透明微粒子の含有量について、フィルムの脆弱性や作業性の観点で、基材樹脂を構成する熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.2重量部~0.8重量部とする点が記載され、段落【0017】には、透明微粒子を含んだフィルムを延伸させることで、透明微粒子がフィルム表面に露出しやすくなり作業性が大幅に向上する点が記載されている。
また、摘記は省略するが、段落【0018】~【0031】には、農業用延伸フィルムの製造方法に関し、具体的な説明が記載されている。
その上で、段落【0034】~【0039】には、実施例として、塩化ビニル系樹脂と【表1】に示す特性の透明微粒子を配合し、製造した塩化ビニル系樹脂フィルムが記載され、その光学特性(555nm直光線透過率)、作業性(JIS K-6732附属書 べた付き試験方法に準ずる方法における剥離力)が、いずれも本件特許発明1において特定される数値範囲内となることが示されている。
発明の詳細な説明におけるこれらの記載からすれば、農業用延伸フィルムという「物の発明」である本件特許発明1に関して、透明微粒子の屈折率と、基材樹脂との屈折率差が0.02以下であって、基材樹脂を構成する熱可塑性樹脂100重量部に対して、透明微粒子を0.2重量部~0.8重量部含むことで、「波長555nmにおける直光線透過率」と「JISK-6732 附属書 べた付き性試験方法に準ずる方法における剥離力」とが本件特許発明1で特定される数値範囲を満たす農業用延伸フィルムを生産し、使用することは、当業者にとって過度の試行錯誤を要するものではない。
申立人は、特許異議申立書において、段落【0032】、【0033】の記載において、「内側に防曇性塗膜を塗布したもの」として「防曇性塗膜」に「無機質コロイドゾル」や「コロイダルシリカ」を含むものが記載されていることに依拠して、どのような透明微粒子を、どのような量で、どこに含有させればよいか分からないので、実施可能要件違反であると主張している(特許異議申立書の第21頁下から9行~第22頁下から9行)が、段落【0032】、【0033】の「防曇性塗膜を塗布したもの」の記載は、「本発明の農業用延伸フィルムには、更にハウス展張時内側に防曇性塗膜を塗布したものを用いてもよい。」と記載されているように、本件特許発明1の農業用延伸フィルムがあった上で、任意付加的な事項として「内側に防曇性塗膜を塗布したもの」を用いることが記載されているに過ぎないのであって、段落【0032】、【0033】以外の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件特許発明1の農業用延伸フィルムを生産し、使用することは、当業者にとって過度の試行錯誤を要するものではないことは前記で示したとおりである。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1に係る農業用延伸フィルムを生産し、使用することができる程度の記載があるものである。
この点は、本件特許発明1を引用する本件特許発明2~5も同様であり、当業者が発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明2~5に係る農業用延伸フィルムを生産し、使用することができる程度の記載があるものである。
なお、申立人は、特許異議申立書の「理由の要点」において「請求項1記載の屈折率の測定方法と請求項3記載の平均粒径の定義と測定方法が不明確であるため容易に実施できない。」とも主張している(特許異議申立書の第3頁)。請求項1の「屈折率」、請求項3の「平均粒径」が意味するものの明確性については後述するが、少なくとも、本件特許明細書の段落【0034】~【0039】には、前記のとおり、実施例として、塩化ビニル系樹脂と【表1】に示す特性の透明微粒子を配合し、製造した塩化ビニル系樹脂フィルムが記載されており、当該実施例はいずれも、本件特許発明1の構成である屈折率差の数値範囲内のものであり、本件特許発明3の構成である平均粒径の数値範囲内のものであることから、本件特許発明1、3の農業用延伸フィルムを生産し、使用することは、当業者にとって過度の試行錯誤を要するものではないことは前記で示したとおりである。
また、本件特許発明6の製造方法の発明についても同様であり、「農業用延伸フィルムの長手方向と幅方向の積算延伸倍率が3.0倍以上10倍以下であること」も、本件特許明細書の段落【0020】等に記載されているので、当業者が発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明6に係る農業用延伸フィルムの製造方法を使用し、当該製造方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるものである。
(4)実施可能要件のまとめ
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1~6について、特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件を、充足する。
3 特許異議申立理由3について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2)判断基準に基づく判断
ア 解決しようとする課題
前記2(2)で摘記した本件特許明細書の段落【0007】の記載より、本件特許発明が解決しようとする課題は、「高い透明性を維持しつつ、換気作業時の作業性が良い農業用延伸フィルムを提供すること」である。
イ 課題を解決できると認識されるか否か
前記2(2)で摘記した本件特許明細書の段落【0012】、【0015】には、基材樹脂と透明微粒子の屈折率を非常に近くし、具体的には屈折率差が0.02以下の範囲とすると十分な透明性を有する点が記載されている。また、段落【0016】には、農業用延伸フィルム中の透明微粒子の含有量について、フィルムの脆弱性や作業性の観点で、基材樹脂を構成する熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.2重量部~0.8重量部とする点が記載され、段落【0017】には、透明微粒子を含んだフィルムを延伸させることで、透明微粒子がフィルム表面に露出しやすくなり作業性が大幅に向上する点が記載されている。
その上で、段落【0034】~【0039】には、実施例として、塩化ビニル系樹脂と【表1】に示す特性の透明微粒子を配合し、製造した塩化ビニル系樹脂フィルムが、光学特性(555nm直光線透過率)、作業性(JIS K-6732附属書 べた付き試験方法に準ずる方法における剥離力)が、いずれも本件特許発明1において特定される数値範囲内となることが示されている。
これら本件特許明細書の記載からすれば、本件特許発明1~6は、上記アに示した発明の課題を解決できると、合理的に認識することができる。
申立人は、特許異議申立書において、段落【0032】、【0033】の記載において、「内側に防曇性塗膜を塗布したもの」として「防曇性塗膜」に「無機質コロイドゾル」や「コロイダルシリカ」を含むものが記載されていることに依拠して、透明微粒子として外側表面に露出しない透明微粒子も含まれるため、発明の課題を解決するための手段が反映されていないのでサポート要件違反であると主張している(特許異議申立書の第21頁下から9行~第22頁下から6行)が、段落【0032】、【0033】の「内側に防曇性塗膜を塗布したもの」の記載は、「本発明の農業用延伸フィルムには、更にハウス展張時内側に防曇性塗膜を塗布したものを用いてもよい。」と記載されているように、本件特許発明1の農業用延伸フィルムがあった上で、任意付加的な事項として「防曇性塗膜を塗布したもの」を用いることが記載されているに過ぎないのであって、段落【0032】、【0033】以外の発明の詳細な説明の記載からすれば、本件特許発明1~6は、上記アに示した発明の課題を解決できると、合理的に認識することができることは前記で示したとおりである。
したがって、本件特許発明1~6は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(3)サポート要件のまとめ
よって、本件特許発明1~6は、特許法第36条第6項第1号に規定するサポート要件を、充足する。
4 特許異議申立理由4について
(1)明確性要件の判断基準
特許法36条6項2号の趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合に、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となることにより生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)申立人の具体的主張
申立人は、特許異議申立書において、以下の点で、本件特許発明が明確性要件違反であると主張している。
ア 本件特許明細書には、「屈折率」の測定方法、「平均粒径」の測定方法が一切記載されておらず、測定方法と測定条件が記載されていないと値が一義的に決まらないため、請求項1に記載の「屈折率」、請求項3に記載の「平均粒径」が不明確である。(特許異議申立書の第20頁第5~14行)
イ 請求項1に記載の「透明微粒子」の「透明」は、屈折率が基材樹脂と近いことのみを意味し、屈折率が基材樹脂と近い全ての微粒子であると解するのか、又は、文字通り「透明」な微粒子であって、かつ、屈折率が基材樹脂と近い微粒子であると解するのか、不明確である。(特許異議申立書の第20頁第15~第21頁第4行)
ウ 本件特許明細書の段落【0016】、【0017】には、所定量の透明微粒子を含むことにより、透明微粒子が外側表面に露出しべたつきを抑え作業性が向上する旨が記載されている一方、段落【0032】、【0033】には、内側に防曇性塗膜としてシリカゾル等を塗布できることが記載されており、シリカゾルは透明微粒子であるので、防曇性塗膜としてシリカゾル等が塗布された場合、フィルム内側表面にあるシリカゾルは外側表面に露出しないため作業性の向上に寄与することはない。よって、防曇性塗膜としてシリカゾル等が塗布された場合、請求項1で記載された透明微粒子の量の技術的意義がなくなるので、結果として、請求項1に記載の「透明微粒子」の意味、及び、その量の技術的意味が理解できず、不明確である。(特許異議申立書の第21頁第5行~第22頁第12行)
(3)判断基準に基づく判断
ア「屈折率」、「平均粒径」の測定方法等について
(ア)「屈折率」について
本件特許の請求項1には「前記透明微粒子の屈折率と、前記基材樹脂との屈折率差が0.02以下であり」と記載されている。「屈折率」について、本件特許明細書には、実施例として、段落【0035】には「これらをスーパーミキサーで10分間撹拌混合したのち、165℃に加温したロール上で混練し、L型カレンダー装置、及びそれに連なるテンター延伸装置によって、厚さ0.075mm、及び厚さ0.050mmの透明な塩化ビニル系樹脂フィルムを製造した。なお、比較例1に示す粒子を添加しない状態での基材樹脂の屈折率は1.53である。」と記載されているとともに、【表1】には、透明微粒子について、製造メーカーが「積水化成品工業株式会社」、品名が「MSX-5FBH」であって、屈折率が「1.53」であるものが記載されている。
本件特許明細書には、屈折率の具体的な測定方法等は記載されていないものの、基材樹脂については、具体的な製造工程や厚みが記載された上で、屈折率が1.53であることが記載されており、また、透明微粒子については、具体的な製造メーカーと品名が挙げられた上で屈折率が1.53であることが記載されていることから、屈折率の測定方法や測定条件は、これら基材樹脂と透明微粒子の屈折率が1.53となる測定方法や測定条件であるということになる。さらに、基材樹脂については、例えば、甲2に記載されているように、塩化ビニル樹脂の屈折率が1.5程度の値であることが技術常識である。
以上のことを踏まえると、請求項1の「屈折率」という記載が、本件特許明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(イ)「平均粒径」について
本件特許の請求項3には「前記透明微粒子の平均粒径が200nm以上30μm以下である」と記載されている。「平均粒径」について、本件特許明細書には、段落【0014】に「透明微粒子としては、その一次平均粒子径が200μm(当審注:「200μm」は「200nm」の誤記であると認められる。)~30μmの範囲、好ましくは1μm~20μmの範囲から選ぶのが好ましく」と記載され、さらに、実施例として、段落【0038】の【表1】には、透明微粒子について、製造メーカーが「積水化成品工業株式会社」、品名が「MSX-5FBH」であって、平均粒径が5(μm)であるものが記載されている。
本件特許明細書には、平均粒径について、「一次平均粒子径」と記載されているだけで、その具体的な測定方法等は記載されていないものの、実施例の透明微粒子について、具体的な製造メーカーと品名が挙げられた上で平均粒径が5μmであることが記載されていることから、平均粒径の測定方法や測定条件は、透明微粒子の平均粒径が5μmとなる測定方法や測定条件であるということになる。
さらに、透明微粒子の実施例として挙げられた積水化成品工業株式会社製のMSXシリーズが、真球状のメタクリル酸メチルとスチレンの共重合架橋樹脂粒子であって、そのような樹脂粒子の平均粒径は、所定の測定装置によって粒度分布を測定した上で求められることは、当業者の出願当時における技術常識である。
以上のことを踏まえると、請求項1の「平均粒径」という記載について、本件特許明細書にその直接的な定義が記載されていないからといって直ちに不明確であるということはできず、本件特許明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として検討すると、上記請求項1の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
イ「透明微粒子」の「透明」について
本件特許の請求項1には「透明微粒子及び基材樹脂を含む農業用延伸フィルムであって、前記透明微粒子の屈折率と、前記基材樹脂との屈折率差が0.02以下であり、波長555nmにおける直光線透過率が80%以上であり、且つJISK-6732 附属書 べた付き性試験方法に準ずる方法における剥離力が、30gf/3cm未満であり、
基材樹脂を構成する熱可塑性樹脂100重量部に対して、透明微粒子を0.2重量部~0.8重量部含むことを特徴とする、該農業用延伸フィルム。」と記載されている。
本件特許明細書には、「透明微粒子」の「透明」の定義について直接的に記載されてはいないが、請求項1の記載全体を踏まえると、「透明微粒子」の透明、つまりは光学特性について、「前記透明微粒子の屈折率と、前記基材樹脂との屈折率差が0.02以下であ」って、「透明微粒子及び基材樹脂を含む農業用延伸フィルム」の「波長555nmにおける直光線透過率が80%以上であ」るものを意味していると解することができ、「透明微粒子」を含む「農業用延伸フィルム」は明確に理解することができるので、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
ウ「透明微粒子」とその含有量について
本件特許の請求項1には「透明微粒子及び基材樹脂を含む農業用延伸フィルムであって」「基材樹脂を構成する熱可塑性樹脂100重量部に対して、透明微粒子を0.2重量部~0.8重量部含む」と記載されている。
当該記載は、「農業用延伸フィルム」に含まれるものとして「透明微粒子」があり、その含有量が「基材樹脂を構成する熱可塑性樹脂100重量部に対して」「0.2重量部~0.8重量部」であることを意味していると明確に理解できるから、当該記載自体が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
申立人は、特許異議申立書において、段落【0032】、【0033】の記載において、「内側に防曇性塗膜を塗布したもの」として「防曇性塗膜」に「シリカゾル」を含むものが記載されていることに依拠して、透明微粒子として外側表面に露出しない透明微粒子も含まれるため、防曇性塗膜としてシリカゾル等が塗布された場合、請求項1で記載された透明微粒子の量の技術的意義がなくなるので、結果として、請求項1に記載の「透明微粒子」の意味、及び、その量の技術的意味が理解できず、不明確であると主張しているが、段落【0032】、【0033】の「内側に防曇性塗膜を塗布したもの」の記載は、「本発明の農業用延伸フィルムには、更にハウス展張時内側に防曇性塗膜を塗布したものを用いてもよい。」と記載されているように、本件特許発明1の農業用延伸フィルムがあった上で、任意付加的な事項として「防曇性塗膜を塗布したもの」を用いることが記載されているに過ぎない。段落【0032】、【0033】以外の発明の詳細な説明の記載と請求項1の記載とが矛盾するものではないし、請求項1の記載自体が明確であることは前記で示したとおりである。
したがって、申立人の主張を踏まえても、本件特許の請求項1の「透明微粒子」及びその量に関する記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
エ その他の記載について
前記ア~ウで示した本件特許の請求項1、3の記載についての判断は、請求項1、3の記載を引用するその他の請求項2、4~6の記載についても同様であって、請求項2、4~6の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
また、本件特許の請求項1~6の前記ア~ウで示した点以外のその他の記載についても、第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確な点はない。
(4)明確性要件のまとめ
以上より、本件特許発明1~6は、特許法第36条第6項第2号に規定する明確性要件を、充足する。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1~6に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては取り消すことができない。
また、他に本件特許発明1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700503