特許異議申立
2022-700997
容器詰め炭酸アルコール飲料及びその製造方法
- 審判番号
- 2022-700997
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-073776
- 登録番号
- 7053351
- 請求日
- 2022年10月07日
- 審決日
- 2023年01月20日
- 公報発行日
- 2023年02月24日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】アサヒビール株式会社
- 【権利者代理人】田中 伸一郎
- 【権利者代理人】▲吉▼田 和彦
- 【権利者代理人】須田 洋之
- 【権利者代理人】山崎 一夫
- 【権利者代理人】服部 博信
- 【権利者代理人】松田 七重
- 【異議申立人】山本 美映子
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 磯貝 香苗
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.536-Y (C12G) / P1651.537-Y (C12G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7053351号発明「容器詰め炭酸アルコール飲料及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7053351号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7053351号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、
平成30年4月6日に出願され、令和4年4月4日にその特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、同年同月12日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、当該特許に対して、
令和4年10月7日に特許異議申立人 山本美映子 により特許異議申立(対象請求項:全請求項)がなされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし11に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
甘味度が2以下であり、冷涼感付与物質と、0.05~20ppmのリモネンとを含有し、前記冷涼感付与物質が、メントール又はその誘導体である、容器詰め炭酸アルコール飲料。
【請求項2】
前記冷涼感付与物質の含有量が、0.1~1000ppmである、請求項1に記載の容器詰め炭酸アルコール飲料。
【請求項3】
甘味料を含有しない、請求項1又は2に記載の容器詰め炭酸アルコール飲料。
【請求項4】
リモネンと前記冷涼感付与物質との含有量の比(リモネン(ppm)/冷涼感付与物質(ppm))が、0.0001~10である、請求項1乃至3のいずれかに記載の容器詰め炭酸アルコール飲料。
【請求項5】
アルコール度数が、4~15v/v%の範囲である、請求項1乃至4のいずれかに記載の容器詰め炭酸アルコール飲料。
【請求項6】
ガス圧が、2.5~3.6GVの範囲である、請求項1乃至5のいずれかに記載の容器詰め炭酸アルコール飲料。
【請求項7】
更に、柑橘フレーバーまたは柑橘果汁を含有する、請求項1乃至6のいずれかに記載の容器詰め炭酸アルコール飲料。
【請求項8】
無果汁である、請求項1乃至7のいずれかに記載の容器詰め炭酸アルコール飲料。
【請求項9】
アルコール源が蒸留酒である、請求項1乃至8のいずれかに記載の容器詰めアルコール飲料。
【請求項10】
甘味度が2以下である容器詰め炭酸アルコール飲料の製造方法であって、
アルコールを含有する原料液と、冷涼感付与物質と、リモネンとを混合する工程を含み、
前記炭酸アルコール飲料中のリモネンの含有量が0.05~20ppmであり、
前記冷涼感付与物質が、メントール又はその誘導体である、製造方法。
【請求項11】
甘味度が2以下であり、冷涼感付与物質を含有する容器詰め炭酸アルコール飲料において、リモネンを0.05~20ppmの含有量になるように添加することを含み、前記冷涼感付与物質が、メントール又はその誘導体である、容器詰め炭酸アルコール飲料の苦味低減方法。
第3 特許異議申立書に記載した申立理由の概要
令和4年10月7日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載された申立理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、下記の点で、本件特許発明1ないし11を実施するために過度な試行錯誤が必要であるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許発明1ないし11は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由1及び申立理由2の概略は次のとおりである。
ア 冷涼感付与物質の含有量について
本件特許発明1においては炭酸アルコール飲料における冷涼感付与物質の含有量が特定されていない。
本件特許における発明の課題は、「甘味料の含有量が少ない飲料(又は甘味料不使用の飲料)であって、冷涼感付与物質を含有する炭酸アルコール飲料およびその製造方法を提供すること」である(本件特許明細書【0008】)。
上記の「不快な苦み」というのは、具体的には、冷涼感付与物質の苦みとアルコールに由来する刺激感のある苦みが合わさった不快な苦みであり(本件特許明細書【0007】)、甘味料の使用量の少ない(又は甘味料不使用の)炭酸アルコール飲料において爽快感を増強されるために添加した冷涼感付与物質に由来するものである。そのため、本件特許における発明の課題は、冷涼感付与物質に由来する不快な苦みが感じられる範囲において、その苦みを改善することにあるものと理解することができる。
これについて、本件特許発明1では、上記のとおり冷涼感付与物質の含有量は特定されておらず、発明の詳細な説明においては、冷涼感付与物質が1ppm~120ppmのものについて発明の効果が確認されたことが記載されているのみである(本件特許明細書【0037】表1~表5)。
飲料に含まれる冷涼感付与物質の含有量が、冷涼感付与物質に起因する不快な苦味に影響を及ぼすことは明らかである。そして、少なくともその不快な苦味が感じられる閾値に満たない量で冷涼感付与物質が飲料に含まれる場合は、発明の課題に示された不快な苦味そのものが感じられる飲料とはならない。この点から、本件特許発明1は、そもそも発明の課題を有しないものまで幅広く含んでしまっている。また、上記閾値に満たない程度のごくわずかな量で冷涼感付与物質を含む本件特許発明の飲料は、冷涼感付与物質を含まずにそれ以外の発明特定事項を全て満たす他の炭酸アルコール飲料と実質的に変わらないといえる。
また、本件特許発明2については、冷涼感付与物質の含有量が0.1~1000ppmであると特定されているものの、本件特許の発明の詳細な説明においては、冷涼感付与物質が1ppm~120ppmのものについて発明の効果が確認されているのみである(本件特許明細書【0037】表1~表5)。そのため、本件特許発明2における冷涼感付与物質の含有量は、発明の詳細な説明に裏付けを以て記載されているとはいえず、冷涼感付与物質の含有量を1ppm~120ppmの範囲を逸脱するものであっても、発明の課題を解決することができるのか、或いはそもそも発明の課題を有しないものまで含んでしまっているのか明らかではない。よって、本件特許発明2も、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
さらに、本件特許発明1及び本件特許発明2に関しては、発明の詳細な説明に示された1ppm~120ppmの冷涼感付与物質以外の範囲でも発明の効果が奏されるのかどうかは明らかではなく、当業者が本件特許の明細書等の記載及び出願日当時の技術常識を考慮しても、本件特許発明1及び本件特許発明2に含まれる実施の形態以外の部分についてはその実施をすることができない。
そのため、本件特許発明1及び本件特許発明2について、本件特許の発明の詳細な説明は、いわゆる当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。また、他の本件特許発明についても上記と同様の理由がある。
イ 冷涼感付与物質の種類について
本件特許発明では冷涼感付与物質の種類がメントール又はその誘導体であることが特定されているが、本件特許の発明の詳細な説明においてはメントール誘導体の一種類のみ(具体的には、1-Menthyl(3S)-3-hydroxybutanoate)について発明の効果が確認されたことが記載されているのみであって、1-Menthyl(3S)-3-hydroxybutanoate以外のあらゆるメントール誘導体、そしてメントールそれ自体についても、同様に本件特許発明の効果が奏されるのかどうか明らかでない。
よって、そのようなメントール及びその誘導体を本件特許発明の冷涼感付与物質として用いることについては、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をする必要があり、本件特許の出願日当時の技術水準を考慮しても当業者がどのように実施するかを理解できるとはいえない。
また、本件特許の出願日当時の技術水準に照らしても、本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張乃至一般化できるとはいえないため、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
さらに、メントールまたはその誘導体の構造が異なれば、本件特許発明の課題である不快な苦みが感じられる閾値をはじめ、本件特許発明の作用効果が確認される冷涼感付与物質の含有量の範囲が異なってくることは、当業者の技術常識から明らかである。そのため、仮に冷涼感付与物質の含有量を1ppm~120ppmに特定したとしても、1-Menthyl(3S)-3-hydroxybutanoate以外のメントール誘導体、またはメントールそれ自体を用いた場合にも、同程度の含有量のときに本件特許発明の効果が得られるかどうかは明らかではない。また、当該含有量の範囲で、本件特許発明の課題が必ず解決されるともいえない。
ウ 実施例の評価結果について
本件特許明細書においては、実施例の評価方法として、5名の専門パネルによる官能評価を行い、評価項目は「苦みの強さ」、「爽快感の強さ」、及び「飲料としての総合評価」としたことが記載されている(本件特許明細書【0034】)。そして、各項目については1乃至5の5段階で評価を行い、いずれの項目も、5名の専門パネルの評価結果の平均値を結果としたことが記載されている(本件特許明細書【0034】【0035】)。
これに対して、本件特許明細書の表1に示された飲料No.3(実施例)の「苦味の強さ」は、評価結果が2.7として表されている(本件特許明細書【0037】)。
これを上記の評価方法に照らし合わせてみると、1乃至5の5段階評価で評価を行ったことから、各専門パネルの評価結果は1、2、3、4又は5のいずれかになることは明らかであるものの、その合計値から5名の専門パネルの評価結果の平均値を算出しても、2.7とはなり得ない。平均値について四捨五入することを考慮しても、上記方法によれば5名にの評価結果の合計値は13又は14となるはずであるから、その平均値は2.6か2.8のいずれかにしかならない。上記のように平均値として算出不能な評価結果は、飲料No.3の「苦味の強さ」のみならず、他の評価項目や、他の飲料サンプルにおいても多く見られ、これらの点から、本件特許明細書に記載の実施例は、実際に試験を行って得られた結果なのか疑わしい。
以上のように、本件特許明細書の実施例においては、明らかな記載不備があり、そのような評価試験の結果を見ても、本当に本件特許発明の効果が確認されたといえるのか、判断することも評価することもできない。
よって、本件特許発明1ないし11について、発明の詳細な説明は当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。また、発明の効果が得られるのかどうか確認できない以上、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているともいえないから、本件特許発明1ないし11は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
第3 当審の判断
以下に記載するように、それ以外の特許異議申立人の申立理由はいずれにも理由がないと判断する。
1 申立理由1(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件特許発明1ないし9は物の発明であり、本件特許発明10は物を製造する方法の発明であり、本件特許発明11は方法の発明である。
物の発明についての実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要し、
物を製造する方法の発明についての実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造する方法を使用し、その物を製造する方法により製造した物の使用をすることができる程度の記載があることを要し、
方法の発明についての実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用できる程度の記載があることを要す。
以上を踏まえて以下に検討する。
(2)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1ないし11の各発明特定事項について、その実現方法を含め具体的に記載されており、具体的な実施例の記載もある。
したがって、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし9の物を生産し、使用することができる程度の記載があり、本件特許発明10の製造方法を使用し、製造した物の使用をすることができる程度の記載があり、本件特許発明11の方法を使用できる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし11に関し、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、ア(冷涼感付与物質の含有量について)、イ(冷涼感付与物質の種類について)、ウ(実施例の評価結果について)、各々主張するが、本件特許発明1ないし11を実施できる程度の開示があるかについては上記(2)で検討したとおりであり、特許異議申立人の主張はいずれも(2)の判断には影響しない。
(4)申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下に検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2 のとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明には概ね次の記載がある。
(説明のため下線は当審にて付与した。)
「【0007】
本発明者は、甘味料の使用量が少ない(又は甘味料不使用の)炭酸アルコール飲料において、更に爽快感を増強させようと試み、メントール等の冷涼感付与物質を添加することを検討している。しかしながら、そのような飲料に単に冷涼感付与物質を含有させると、冷涼感だけでなく、冷涼感付与物質の苦味とアルコールに由来する刺激感のある苦味が合わさった不快な苦味が強く感じられやすくなる、という問題点があった。
【0008】
そこで、本発明の課題は、甘味料の含有量が少ない飲料(又は甘味料不使用の飲料)であって、冷涼感付与物質を含有する炭酸アルコール飲料において、不快な苦みを改善することができる、炭酸アルコール飲料及びその製造方法を提供することにある。」
「【0015】
炭酸アルコール飲料における炭酸ガスの含有量は、特に限定されるものではないが、好ましくは2.5~3.6GV(ガスボリューム)である。
低甘味度の炭酸アルコール飲料の中でも、炭酸ガスの含有量が比較的高い(例えば2.5ガスボリューム以上)飲料は、すっきりとした爽快な刺激感をより強く与えることから、食事との相性がよい。一方で、炭酸ガス含有量が高い飲料では、冷涼感付与物質添加に伴う不快な苦みが強調されやすくなる。しかし、本実施態様によれば、リモネンの添加により冷涼感付与物質添加に伴う不快な苦みが抑制できる。従って、炭酸ガスの含有量が高い飲料に本実施態様を適用することにより、苦みを強調することなくより強い爽快感を得ることが可能になる。」
「【0021】
好ましい冷涼感付与物質は、メントール又はその誘導体である。
メントール誘導体としては、例えば、下記式(I)で表される化合物が例示される。
【化1】
[図:0001394031000001.jpg]
式(I)中、R1は、1つ以上の水酸基により置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基、又は、1つ以上の水酸基により置換されていてもよい炭素数1~6のアルキル基で置換されたカルボニル基を表す。
【0022】
好ましいメントール誘導体としては、以下の化合物が挙げられる。
【化2】
[図:0001394031000002.jpg]
【0023】
(リモネン)
リモネンは、冷涼感付与物質添加に伴う不快な苦みを抑制するために添加される。
リモネンの含有量は、例えば、0.01~100ppm、好ましくは0.05~50ppm、より好ましくは0.05~20ppm、更に好ましくは0.05~15ppm、特に好ましくは0.1~10ppm、最も好ましくは0.2~7.5ppmである。
【0024】
また、リモネンと冷涼感付与物質との含有量の比(リモネン(ppm)/冷涼感付与物質(ppm))は、例えば0.0001~10、好ましくは0.001~1、より好ましくは0.0025~0.5である。
【0025】
リモネンの由来は特に限定されず、例えば、柑橘系香料由来であってもよいし、柑橘系果汁由来であってもよいし、あるいはそれ以外の添加剤に由来するものであってもよい。」
「【0033】
表1に示される処方に従って、原料用アルコール(95%エタノール)、酸味料、重曹、メントール誘導体(l-Menthyl(3S)-3-hydroxybutanoate;冷涼感付与物質)、リモネン、及び炭酸水を混合し、冷涼感付与物質及びリモネンの含有量のみが異なる、飲料No.1乃至24に係る飲料を調製した。
いずれの飲料も、アルコール濃度は9v/v%であり、炭酸ガスボリュームは3.3GV、酸度は0.11(g/100ml)であった。
【0034】
得られた各飲料について、5名の専門パネルによる官能評価を行った。評価項目は、「苦みの強さ」、「爽快感の強さ」、及び「飲料としての総合評価」とした。各項目について、1乃至5の5段階で評価した。
[苦みの強さ]は、値が大きいほど、苦みが強いことを示す。
[爽快感の強さ]は、値が大きいほど、爽快感が強いことを示す。
「飲料としての総合評価」は、値が大きいほど、飲料としての総合評価が高いことを示す。
【0035】
いずれの項目も、5名の専門パネルの評価結果の平均値を結果とした。結果を表1乃至5に示す。
【0036】
No.1、2、6、10、17、及び21に係る飲料を比較すると、冷涼感付与物質の含有量を増やすことにより、爽快感が強くなるとともに、苦味も強くなることが判る。
これに対して、リモネンを添加すると、苦みの強さが低減され、爽快感がより強くなる傾向にあることが判る。
また、この傾向は、少なくとも、冷涼感付与物質が1ppm~120ppmであり、リモネンが0.1~20ppmの含有量である場合に確認された。
【0037】
【表1】
[図:0001394031000003.jpg]
【表2】
[図:0001394031000004.jpg]
【表3】
[図:0001394031000005.jpg]
【表4】
[図:0001394031000006.jpg]
【表5】
[図:0001394031000007.jpg]
」
(4)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0007】【0008】によると、本件特許発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「甘味料の含有量が少ない飲料(又は甘味料不使用の飲料)であって、冷涼感付与物質を含有する炭酸アルコール飲料において、不快な苦みを改善することができる、炭酸アルコール飲料及びその製造方法を提供する」ことであり、甘味度が2以下の容器詰め炭酸アルコール飲料において、メントール又はその誘導体である冷涼感付与物質に対し、0.05~20ppmのリモネンを含有させることによって、上記発明の課題を解決しようとするものである。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0021】【0022】によると、冷涼感付与物質はメントール又はメントール誘導体であり、メントール誘導体としては、【0021】の式(I)で表される化合物が使用されることが説明されている。
また、本件特許の発明の詳細な説明【0023】には、リモネンは冷涼感付与物質の添加による不快な苦味を抑制されるために添加されることが記載されており、本件特許の発明の詳細な説明【0024】【0025】によると、リモネンの由来は特に限定されず、例えば、柑橘系香料由来であってもよいし、柑橘系果汁由来であってもよいし、あるいはそれ以外の添加剤に由来するものであってもよいことが説明されている。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明【0037】【表1】~【表5】では、冷涼感付与物質のメントール誘導体として1-Menthyl(3S)-3-hydroxybutanoateとリモネンとを配合した甘味料不使用の炭酸アルコール飲料において、5名の専門パネリストによる官能評価で「苦味の強さ」「爽快感の強さ」「飲料としての総合評価」を5段階評価した結果を示しており、これら評価結果によると、冷涼感付与物質の含有量を増やすことにより爽快感が強くなるとともに苦味も強くなるが、リモネンの添加により苦味の強さが低減され、爽快感がより強くなるという結果が得られ、かつ、この傾向は、少なくとも冷涼感付与物質としてのメントール又はメントール誘導体が1~120ppmの範囲、リモネンが0.1~20ppmの範囲で実際に確認されたことが理解される。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明から、当業者は、甘味度が2以下であり、冷涼感付与物質としてメントール又はメントール誘導体を含有する容器詰め炭酸アルコール飲料において、リモネンを0.05~20ppmを含有するとの事項を満たすことにより、発明の課題が解決されるものと認識できる。
そして、本件特許発明1ないし11は、上記発明の課題を解決できるものと認識できる特定事項を全て有するものである。
以上の検討により、本件特許に関し、特許請求の範囲はサポート要件に適合している。
(5)特許異議申立人の主張について
上記第3 2 の特許異議申立人の主張ア、イ、ウについて検討する。
ア 冷涼感付与物質の含有量について
本件特許の発明の詳細な説明【0007】において「甘味料の使用量が少ない(又は甘味料不使用の)炭酸アルコール飲料において、更に爽快感を増強させようと試み、メントール等の冷涼感付与物質を添加することを検討している。しかしながら、そのような飲料に単に冷涼感付与物質を含有させると、冷涼感だけでなく、冷涼感付与物質の苦味とアルコールに由来する刺激感のある苦味が合わさった不快な苦味が強く感じられやすくなる、という問題点があった。」と説明されているように、本件特許発明は、甘味料の使用量が少ない(又は甘味料不使用の)炭酸アルコール飲料に配合される冷涼感付与物質に起因し、冷涼感付与物質の苦味とアルコール由来の刺激感のある苦味が合わさった不快な苦味が生じることに伴う課題を解決しようというものであり、その課題を解決することは上記(4)のとおり判断される。
なお、特許異議申立人は、冷涼感付与物質の濃度と発明の課題との関係について主張するが、当該主張は上記(4)の判断に何ら影響しない。
イ 冷涼感付与物質の種類について
本件特許発明の冷涼感付与物質であるメントールは2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサノールであり、メントール誘導体については、本件特許明細書【0021】式(1)で表されるような、2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサン-オキシ構造を持つ化合物群である。本件特許明細書【0037】表1~表5の実施例にて使用されているメントール誘導体はこれらの化合物群から選択される化合物のうち、本件特許明細書【0022】右側に表示されている1-Menthyl(3S)-3-hydroxybutanoateであり、当該実施例のメントール誘導体も2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサンーオキシ構造を持つ。本件特許明細書の発明の詳細な説明における実施例で使用された1-Menthyl(3S)-3-hydroxybutanoateの具体例から、共通した化合構造を有するメントール誘導体化合物についても同様の作用効果をもたらすことが当業者において理解される。よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
ウ 実施例の評価結果について
本件特許の発明の詳細な説明における本願実施例・比較実験例中の評価指標数値が一部不整合な数値とはなっていても、そのことのみを以て全ての本願実施例・比較実験例の内容が全く参照できないもの、とはいえない。
そして、本件特許の発明の詳細な説明は、甘味度が2以下の容器詰め炭酸アルコール飲料において、メントール又はその誘導体である冷涼感付与物質に対し、0.05~20ppmのリモネンを含有させることによって、発明の課題が解決されることが示されている。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
以上のとおりであるから、特許異議申立人の上記第3 2 ア、イ、ウの主張は採用できない。
(6)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし11は、特許異議申立書に記載した申立理由によっては、取消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700997