特許異議申立
2022-700928
血液脳関門通過型ヘテロ2本鎖核酸
- 審判番号
- 2022-700928
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-540337
- 登録番号
- 7043078
- 請求日
- 2022年09月22日
- 審決日
- 2023年07月19日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】国立大学法人 東京医科歯科大学
- 【権利者代理人】弁理士法人平木国際特許事務所
- 【異議申立人】山内 康伸
- 審判長/審判官
- 審判長 福井 悟
- 審判官 藤井 美穂
- 審判官 飯室 里美
- 分類
- P1651.113-YAA(A61K) / P1651.121-YAA(A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7043078号発明「血液脳関門通過型ヘテロ2本鎖核酸」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7043078号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~15〕について訂正することを認める。
特許第7043078号の請求項1~11、13、15に係る特許を維持する。
特許第7043078号の請求項12、14に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯及び証拠方法
1.手続の経緯
特許第7043078号(請求項の数15。以下、「本件特許」という。)は、平成29年9月25日(優先権主張 平成28年9月23日)を国際出願日とする特許出願(特願2018-540337号)に係るものであって、令和4年3月18日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和4年3月29日である。)。
その後、令和4年 9月22日に、本件特許の請求項1~15に係る特許に対して、特許異議申立人である山内康伸(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
手続の経緯は以下のとおりである。
令和4年 9月22日提出 特許異議申立書
令和4年12月14日付け 取消理由通知書
令和5年 2月13日提出 訂正請求書、意見書(特許権者)
同年 2月28日付け 通知書(申立人宛て)
同年 3月29日提出 意見書(申立人)
なお、本件申立てに係る審理においては、請求項1~15、すなわち、全請求項を審理対象とし、審理対象でない請求項は存しない。
2.証拠方法
申立人が、異議申立書に添付した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:特表2015-502134号公報
甲第2号証:米国国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)、「TTRトランスチレチン(TTR transthyretin) [ホモ・サピエンス(ヒト)](Homo sapiens (human)) -遺伝子(Gene)-NCBI」、[online] 、[令和4年8月16日検索]、インターネットhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/7276#gene-expression及び部分翻訳文
甲第3号証:特表2012-521977号公報
甲第4号証:PARDRIDGE W. M., Advanced Drug Delivery Reviews,1995年,15,pp.5-36及び部分翻訳文
甲第5号証:ザ・ヒューマン・プロテイン・アトラス(THE HUMAN PROTEIN ATLAS)、「TTR」、[online]、[令和4年8月16日検索]、インターネット<https://www.proteinatlas.org/ENSG00000118271-TTR/brain>及び部分翻訳文
甲第6号証:特開2013-49714号公報
甲第7号証:特表2016-508367号公報
甲第8号証:中国特許出願公開第1687101号明細書及び翻訳文
甲第9号証:国際公開第2015-069906号及び部分翻訳文
甲第10号証:特表2014-534244号公報
申立人が、令和5年3月29日提出の意見書に添付した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第11号証:Pharmaceutical Research, Volume 24, p.1759-1771 (2007)及び部分訳文
甲第12号証:The Journal of Cell Biology, Volume 138, Number 4, 1997年8月25日,p.877-89、及び部分訳文
(以下、上記の甲第1号証~甲第12号証を、「甲1」~「甲12」という。)
特許権者が、令和5年2月13日提出の意見書に添付した証拠方法は、以下のとおりである。
乙第1号証:甲第3号証(特願2012-501385号)に対する平成26年3月4日付け拒絶理由通知書
乙第2号証:甲第3号証(特願2012-501385号)に対する平成26年8月8日付け意見書
乙第3号証:甲第4号証(PARDRIDGE W. M., Advanced Drug Delivery Reviews,1995年,15,pp.5-36)の抄訳文
乙第4号証:特願2008-527194号に対する平成23年11月30日付の意見書
乙第5号証:Wolfrum, C. et al.,Nat. Biotechnol.,25,1149-1157 (2007)(公開日:2007年9月16日)及びその抄訳文
乙第6号証:Nagata, T. et al.,Nat. Biotechnol.,39,1529-1536 (2021)(公開日: 2021年8月12日) 及び付属書類、並びに抄訳文
(以下、上記の乙第1号証~乙第6号証を、「乙1」~「乙6」という。)
第2 訂正の適否
令和5年2月13日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、特許請求の範囲を、上記の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。
1.訂正の内容
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「二本鎖核酸剤であって、」とあるのを「二本鎖核酸剤であって、前記二本鎖核酸剤は血液脳関門(BBB)を通過し、」に訂正する。(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~11及び15も同様に訂正する)
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項12を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項13に「二本鎖核酸剤であって、」とあるのを「二本鎖核酸剤であって、前記二本鎖核酸剤は血液脳関門(BBB)を通過し、」に訂正する。(請求項13の記載を直接的又は間接的に引用する請求項15も同様に訂正する)
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項14を削除する。
2.一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~12、15は、本件訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項1によって記載が、訂正される本件訂正前の請求項1に連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項1~12、15は、一群の請求項に該当するものである。
本件訂正前の請求項14~15は、本件訂正前の請求項13を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項3によって記載が、訂正される本件訂正前の請求項13に連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項13~15は、一群の請求項に該当するものである。
そして、一群の請求項である本件訂正前の請求項1~12、15と本件訂正前の請求項13~15は、本件訂正前の請求項15で共通するから、本件訂正前の請求項1~15は、一つの一群の請求項といえる。
3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1
訂正事項1は、「前記二本鎖核酸剤は血液脳関門(BBB)を通過し、」との発明特定事項を追加することにより、本件訂正前の請求項1に記載されていた「二本鎖核酸剤」を、本件訂正前の請求項12や本件特許の設定登録時の明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0061】に記載されていた「血液脳関門(BBB)を通過」するものに限定するものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
(2) 訂正事項2
訂正事項2は、本件訂正前の請求項12を削除するものであるから、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
(3) 訂正事項3
訂正事項3は、本件訂正前の請求項13において、「前記二本鎖核酸剤は血液脳関門(BBB)を通過し、」との発明特定事項を追加することにより、本件訂正前の請求項13に記載されていた「二本鎖核酸剤」を、本件訂正前の請求項12や本件明細書の段落【0061】に記載されていた「血液脳関門(BBB)を通過」するものに限定するものであるから、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
なお、申立人は、令和5年3月29日提出の意見書において、訂正前の請求項14の記載に基づき、訂正事項3は、本件訂正前の請求項13を実質的に変更し、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない旨を主張する。
しかし、二本鎖核酸剤に、血液脳関門(BBB)を通過するものが含まれることは本件明細書に記載されていた事項であり、「二本鎖核酸剤」について、「血液脳関門(BBB)を通過」するものに限定することは特許請求の範囲の減縮に当たると認められるので、かかる主張は理由がない。
(4) 訂正事項4
訂正事項4は、本件訂正前の請求項14を削除するものであるから、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
4.独立特許要件
本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
5.まとめ
以上のとおり、本件訂正請求による訂正事項1~4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものであり、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合している。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを認める。
第3 本件発明
上記のとおり本件訂正は適法なので、訂正後の本件の請求項1~15に係る発明(以下、項番に従い、請求項●に係る発明を「本件発明●」といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。また、訂正前の本件発明を、「訂正前本件発明1」といい、これらを総称して、「訂正前本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~15に記載された、以下の事項によって特定されるとおりのものである(下線部は訂正箇所である。)。
「【請求項1】
第1核酸鎖と第2核酸鎖とからなる、被験体の中枢神経系において標的転写産物の発現量を減少させるための静脈内投与用または皮下投与用二本鎖核酸剤であって、
前記二本鎖核酸剤は血液脳関門(BBB)を通過し、
該第1核酸鎖は、標的転写産物の少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な塩基配列を含み、かつ、標的転写産物に対してアンチセンス効果を有し、
該第2核酸鎖は、該第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含み、かつ、トコフェロール、コレステロール、α-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-卜コトリエノール、δ-トコトリエノール、コレスタノール、ラノステロール、セレプロステロール、デヒドロコレステロールおよびコプロスタノールからなる群から選択されるいずれか一の脂質と結合しており、
該第1核酸鎖は、該第2核酸鎖にアニールしており、
該第1核酸鎖がギャップマーまたはミックスマーである、二本鎖核酸剤。
【請求項2】
被験体の中枢神経系疾患を治療するための、請求項1に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項3】
前記第1核酸鎖が、少なくとも4個の連続デオキシリボヌクレオシドを含む、請求項1または2に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項4】
前記第2核酸鎖が、前記第1核酸鎖中の少なくとも4個の連続デオキシリボヌクレオシドに相補的な、少なくとも4個の連続リボヌクレオシドを含む、請求項3に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項5】
前記第1核酸鎖が、13~20塩基長である、請求項1~4のいずれか一項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項6】
前記中枢神経系が、大脳皮質、大脳基底核、大脳白質、間脳、脳幹、小脳、および脊髄からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項7】
前記中枢神経系が、前頭葉、側頭葉、海馬、海馬傍回、頭頂葉、後頭葉、線条体、淡蒼球、前障、視床、視床下核、中脳、黒質、橋、延髄、小脳皮質、小脳核、頸髄、胸髄および腰髄からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項8】
前記二本鎖核酸剤の1回の投与量が5mg/kg以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項9】
前記第2核酸鎖が天然リボヌクレオシドを含まない、請求項1~8のいずれか一項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項10】
前記第2核酸鎖の核酸部分が修飾もしくは非修飾のヌクレオシド間結合により連結されたデオキシリボヌクレオシドおよび/または糖修飾ヌクレオシドから成る、請求項1~9のいずれか一項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項11】
前記第2核酸鎖に非切断性(uncleavable)リンカーを介してリガンドが結合している、請求項1~10のいずれか一項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項12】(削除)
【請求項13】
第1核酸鎖と第2核酸鎖とからなり、被験体の網膜において標的RNAの発現または編集を調節するための静脈内投与用または皮下投与用二本鎖核酸剤であって、
前記二本鎖核酸剤は血液脳関門(BBB)を通過し、
該第1核酸鎖は、標的RNAの少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な塩基配列を含み、かつ、標的RNAに対してアンチセンス効果を有し、
該第2核酸鎖は、該第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含み、かつ、トコフェロール、コレステロール、もしくは置換基を有していてもよいアルキル基と結合しており、
該第1核酸鎖は、該第2核酸鎖にアニールしており、
該第1核酸鎖がギャップマーまたはミックスマーであり、
該置換基を有していてもよいアルキル基は、以下の一般式(III)
【化1】
[図:0001402753000001.jpg]
[式中、Rxは、炭素数3~24個の直鎖状アルキレン基である。]
で示される基、
または以下の一般式(IV)
【化2】
[図:0001402753000002.jpg]
[式中、Ryは、炭素数1~15個の直鎖状アルキレン基である。]
で示される基である、二本鎖核酸剤。
【請求項14】(削除)
【請求項15】
前記第2核酸がトコフェロールと結合している、請求項1または13に記載の二本鎖核酸剤。」
第4 異議申立ての理由と当審が通知した取消理由
1.異議申立ての理由(以下、「申立理由」という。)の概要
(1)申立理由1(甲1に基づく新規性の欠如)
訂正前本件発明1、3~10、12、15は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由2(甲1、6~9に基づく進歩性の欠如)
訂正前本件発明2、11、13~14は、甲1に記載された主引用発明に、甲6~甲9に記載された副引用発明を適用することで、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2.取消理由通知で通知した取消理由の概要
当審が、令和4年12月14日付け取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)取消理由1(甲1、3~4、6に基づく進歩性の欠如)
訂正前本件発明1~15は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲1に記載された発明及び甲3~4、6に記載された周知技術ないし技術常識に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第5 当審の判断
本件発明1~11、13、15に係る特許は、以下で述べるように、当審が通知した上記の取消理由通知書に記載した取消理由1及び申立人による申立理由1~2によっては、取り消すことができない、と判断する。
1.取消理由通知書に記載した取消理由1(甲1、3~4、6に基づく進歩性の欠如)の検討
(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
ア.甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がある。なお、下線は合議体による。
甲1ア
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内の転写産物レベルを低減する方法であって、
該細胞と組成物とを接触させる工程を含み、
該組成物は、第2の核酸鎖がアニーリングしている第1の核酸鎖を含む二本鎖核酸複合体を含み、
第1の核酸鎖は、
(i)ヌクレオチドと任意にヌクレオチドアナログとを含み、該核酸鎖における該ヌクレオチド及び任意に含まれる該ヌクレオチドアナログの総数は8~100であり、
(ii)前記転写産物にハイブリダイズした際に、RNaseHによって認識される少なくとも4つの連続したヌクレオチドを含み、
(iii)前記転写産物にハイブリダイズする
核酸鎖であり、かつ、
第2の核酸鎖は、ヌクレオチドと任意にヌクレオチドアナログとを含む核酸鎖である、方法。
・・・
【請求項56】
精製又は単離された二本鎖核酸複合体であって、
第2の核酸鎖がアニーリングしている第1の核酸鎖を含み、
第1の核酸鎖は、
(i)ヌクレオチドと任意にヌクレオチドアナログとを含み、該核酸鎖における該ヌクレオチド及び任意に含まれる該ヌクレオチドアナログの総数は8~100であり、
(ii)転写産物にハイブリダイズした際に、RNaseHによって認識される少なくとも4つの連続したヌクレオチドを含み、
(iii)少なくとも1つの非天然ヌクレオチドを含み、かつ、
(iv)前記転写産物にハイブリダイズする
核酸鎖であり、かつ、
第2の核酸鎖は、ヌクレオチドと任意にヌクレオチドアナログとを含む核酸鎖である、二本鎖核酸複合体。
・・・」(特許請求の範囲)
甲1イ
「【技術分野】
【0001】
本発明は、標的遺伝子の発現をアンチセンス効果によって抑制する活性を有する二重鎖核酸に関し、より詳しくは、4塩基以上の連続した核酸を含む領域を含む、標的遺伝子の転写産物に相補的なアンチセンス核酸と、該核酸に相補的な核酸とを含む二重鎖核酸に関する。」(段落【0001】)
甲1ウ
「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ある実施形態において、二重鎖核酸複合体は、標的遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸を含み、通常RNA転写産物レベルを抑制するアンチセンス核酸を含む。本発明の他の目的は、二重鎖核酸複合体により、特異性高く効率良く標的部位にアンチセンス核酸鎖を送達することにある。」(段落【0010】)
甲1エ
「【0012】
・・・1の実施形態において、LNA/DNAギャップマーとそれに対するRNAからなる相補鎖とをアニーリングさせた二重鎖核酸複合体を新たに着想し、先ずはそのアンチセンス効果について評価した。その結果、前記二重鎖核酸のアンチセンス効果は、1本鎖のLNA/DNAギャップマーのそれと概して変わらず、むしろ用いるASOの鎖長によっては亢進することが明らかになった。また、本発明者らは、前記RNAを含む相補鎖にトコフェロールを結合させた二重鎖核酸を調製した。そして、当該二重鎖核酸をマウスに静脈投与し、そのアンチセンス効果を評価した。その結果、トコフェロールを結合させた相補鎖を含む二重鎖核酸は非常に高いアンチセンス効果を有していることが明らかになった。・・・
」(段落【0012】)
甲1オ
「【0016】
【図面の簡単な説明】
・・・
【図9】図9は、二重鎖核酸のある態様を示す概略図である。表記は図3~6におけるそれらと同義である。
・・・
【図15】図15は、二重鎖核酸複合体のアンチセンス効果を評価するために用いた、アンチセンス鎖と、相補鎖(cRNA(G))と、トコフェロール機能性部分を備えた相補鎖(Toc-cRNA(G))とを示す概略図である。「Toc」は、トコフェロールを示す。他の表記は、図3~6、9及び10におけるそれらと同義である。・・・
」(段落【0016】)
甲1カ
「【0024】
ある実施形態においては、第1の核酸鎖は、標的遺伝子の転写産物等の標的転写産物に相補的なアンチセンス核酸であって、第1の核酸鎖が前記転写産物にハイブリダイズした際に、少なくとも4つの連続したヌクレオチドを含む領域を有する核酸である。」(段落【0024】)
甲1キ
「【0044】
ある実施形態における第2の核酸鎖は、前述の第1の核酸鎖と相補的な核酸である。第2の核酸鎖の塩基配列と第1の核酸鎖の塩基配列とは、完全に相補的である必要はなく、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の相補性を有していればよい。」(段落【0044】)
甲1ク
「【0049】
第2の核酸鎖において、核酸の一部又は全部は、RNA分解酵素等の核酸分解酵素に対する耐性が高いという観点から、修飾されたヌクレオチドであってもよい。このような修飾としては、例えば、シトシンの5-メチル化・・・が挙げられる。また、ウラシル塩基をチミジン塩基に置換したRNAヌクレオチドの利用も考えられるが、薬物動態に優れているという観点から、ホスホロチオエート化が用いられる。また、かかる修飾は同一の核酸に対して、複数種組み合わせて施されていても良く、例えば、後述の実施例において用いられているように、酵素による切断に対する抵抗性を付与するため、同一のRNAに対して、ホスホロチオエ―ト化及び2’-O-メチル化を施してもよい。しかしながら、RNaseHによってRNAヌクレオチドが切断されることを期待し、又は望む場合には、ホスホロチオエ―ト化及び2’-O-メチル化のいずれかのみを施すことができる。」(段落【0049】)
甲1ケ
「【0051】
ある実施形態における二重鎖核酸複合体において、第2の核酸鎖に機能性部分が結合していてもよい。第2の核酸鎖と機能性部分との結合は、直接的な結合であってもよく、他の物質を介した間接的な結合であってもよいが、ある実施形態において、共有結合、イオン結合、水素結合等で第2の核酸鎖と機能性部分とが直接的に結合していることが好ましく、より安定した結合が得られるという観点から、共有結合がより好ましい。
【0052】
ある実施形態において、「機能性部分」の構造上、特に制限はなく、それを結合する二重鎖核酸複合体及び/又は核酸鎖に所望の機能を付与する。所望の機能としては、標識機能、精製機能及び標的への送達機能が挙げられる。・・・
・・・
【0054】
「標的への送達機能」を有する部分として、例えば、肝臓等に特異性高く効率的にある実施形態における二重鎖核酸複合体を送達できるという観点から、脂質が挙げられる。このような脂質としては、コレステロール、脂肪酸等の脂質(例えば、ビタミンE(トコフェロール類、トコトリエノール類)、ビタミンA,ビタミンD)、ビタミンK等の脂溶性ビタミン(例えば、アシルカルニチン)、アシルCoA等の中間代謝物、糖脂質、グリセリド、並びにそれらの誘導体等を例示することができるが、これらの中では、より安全性が高いという観点から、ある実施形態において、コレステロール、ビタミンE(トコフェロール類、トコトリエノール類)を利用することが好ましい。また、脳に特異性高く効率的に本発明の二重鎖核酸を送達できるという観点から、ある実施形態における「機能性部分」としては、糖(例えば、グルコース、スクロース)が挙げられる。・・・」
(段落【0051】~【0054】)
甲1コ
「【0070】
いくつかの実施形態における二重鎖核酸複合体を含む組成物は、公知の製剤学的方法により製剤化することができる。・・・
・・・
【0073】
いくつかの実施形態における組成物の好ましい投与形態としては特に制限はなく、経腸管的(経口的等)又は非経腸管的、より具体的には、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、皮内投与、気道内投与、直腸投与及び筋肉内投与、輸液による投与が挙げられる。
・・・
【0075】
いくつかの実施形態における組成物を投与又は摂取する場合、その投与量又は摂取量は、対象の年齢、体重、症状、健康状態、組成物の種類(医薬品、飲食品など)等に応じて、適宜選択されるが、ある実施形態にかかる組成物の有効摂取量は、ヌクレオチド換算で0.001mg/kg/日~50mg/kg/日であることが好ましい。」(段落【0070】~【0075】)
甲1サ
「【0108】
(実施例3)
次に、図15に示す通り、前記cRNA(G)の5’末端にトコフェロール(Toc)を結合させた相補的RNA鎖(Toc-cRNA(G))を作製した。さらにLNA/DNAギャップマー(アンチセンス鎖)をアニーリングさせることにより、間接的にトコフェロールをアンチセンス鎖に結合することに成功した。なお、実施例において用いたLNA/DNAギャップマー及び相補鎖(cRNA)の配列、構成及び鎖長は下記の通りである。
【0109】
アンチセンスLNA/DNAギャップマー鎖
1.ASO 12mer:5’-GCattggtatTC-3’(配列番号:1)
2.ASO 13mer:5’-GCattggtatTCA-3’(配列番号:5)
3.ASO 14mer:5’-AGCattggtatTCA-3’(配列番号:6)
(大文字:LNA、小文字:DNA、核酸間は全てホスホロチオエート結合である)
相補鎖
1.cRNA 12mer:5’-gsasAUACCAAUsgsc-3’(配列番号:2)
2.cRNA 13mer:5’-usgsasAUACCAAUsgsc-3’(配列番号:7)
3.cRNA 14mer:5’-usgsasAUACCAAUsgscsu-3’(配列番号:6)
(大文字:RNA、小文字:2’-OMe-RNA、下線付:PNA、s:核酸間がホスホロチオエート結合である)。
・・・
【0111】
そして、このように調製した、12塩基、13塩基又は14塩基の鎖長を有する、LNA/DNAギャップマー(ss-ASO)、LNA/DNAギャップマー及びcRNA(G)を含む二重鎖核酸複合体(LNA/cRNA(G))、並びにLNA/DNAギャップマー及びToc-cRNA(G)からなる二重鎖核酸複合体(LNA/Toc-cRNA(G))を0.75mg/kgずつ、それぞれマウスに尾静脈から静脈注射した。・・・そして、注射してから72時間後に、マウスをPBSにて灌流した後、解剖して肝臓を摘出した。・・・得られた結果を図16に示す。
【0112】
図16に示す通り、相補鎖にトコフェロールを結合させることにより、ASO/Toc-cRNA(G)は特異的に効率良く肝臓に送達、集積され、ASO/cRNA(G)と比較しても、顕著なアンチセンス効果を有していることが明らかになった。特に13塩基の鎖長を有するASO/Toc-cRNAにおけるその効果は格別のものであった。」(段落【0108】~【0112】)
甲1シ
「【0128】
(実施例8)
LNA/DNAギャップマー及びToc-cRNAを含む二重鎖核酸複合体については前述の通り、高いアンチセンス効果を有しつつ、肝臓等へ特異的に効率良く送達できることが明らかになった。
【0129】
このように、トコフェロール等の脂質を結合させることにより肝臓等への送達性は飛躍的に増大するが、他の臓器への送達は逆に困難となることが知られている。現在、他臓器への送達方法として最もよく用いられているのは、各臓器の細胞表面にある各種タンパク質に結合するような、一種の標的ペプチドを利用する方法である。いくつかの実施形態においては、上述のようなRNAを含む相補鎖を有する二重鎖複合体にて、核酸と送達性部分としてのペプチドとを直接結合させることが検討され得る。」(段落【0128】~【0129】)
甲1ス
「【0157】
(実施例12)
ここで開示した二重鎖核酸複合体は、配列特異性及び普遍的な適用性を有していることを実証するため、異なる遺伝子、ヒトのトランスチレチン(hTTR)の転写産物を標的とするアンチセンスプローブを調製した。・・・そして、13-mer/13-mer二重鎖複合体と20-mer/20-mer二重鎖複合体とを試験に供した。また、該複合体が肝臓に送達されるよう、5’-トコフェロール機能性部分を備えた相補鎖を調製した。また、hTTRは、最終的には血中で検出されるタンパク質として産生されるので、その発現タンパク質の血清濃度を分析した。そして、二重鎖複合体注入後に生じる発現の減少を検出した。以下に示す様々な核酸鎖の配列及び複合体を設計して作製し、試験に供した。
【0158】
アンチセンスLNA/DNAギャップマー核酸鎖
1.ASO 13-mer:5’-TGtctctgccTGG-3’(配列番号:19)
2.ASO 20-mer:5’-TTATTgtctctgcctGGACT-3’(配列番号:21)
(大文字:LNA,小文字:DNA,核酸間の全ての結合は、ホスホロチエート結合である)
相補鎖
1.13-mer Toc-cRNA(G):5’-cscsasGGCAGAGAscsa-3’(配列番号:20)
2.20-mer Toc-cRNA(G):5’-asgsuscscsAGGCAGAGACsasasusasa-3’(配列番号:22)
(大文字:RNA,小文字:2’-OMe-RNA,s:核酸間の結合がホスホロチエート結合である)
・・・次に、13塩基のアンチセンス単一鎖と、アニーリングした13塩基の二重鎖複合体とを、各々トランスジェニックマウスの尾静脈から0.75mg/kgずつ静脈注射した。同様に、20塩基のアンチセンス単一鎖と、アニーリングした20塩基の二重鎖複合体とを、6mg/kgずつ注射した。・・・そして、注射してから3日後に、当該マウスをPBSにて灌流した後、肝臓を摘出した。・・・hTTRの相対的発現レベルを、mGAPDH(内部標準遺伝子)と比較して算出した。13塩基の核酸鎖に関する結果を図27Aに、20塩基の核酸鎖に関する結果を図27Bに示す。
【0159】
hTTRは肝臓で合成され、血中へと分泌される。従って、もしアンチセンスプローブが肝臓に送達され、hTTRの発現を効率的に抑制できるのなら、この抑制の結果、該タンパク質の血清中の濃度は低減されるはずである。血清中の濃度レベルは、13塩基の核酸鎖を注射する前、該注射の3日後に、民間試験所にて測定した。得られた血清濃度を図28に示す。
【0160】
図27Aに示す通り、13塩基の二重鎖核酸複合体は効果的にmRNA転写を95%以上抑制した。・・・。
【0161】
処置前後の血清濃度レベルを図28に示す。その結果から、13塩基の二重鎖複合体により、~40mg/dl~<5mg/dlという、13塩基の単一鎖の場合(~44mg/dl~~28mg/dl)及びPBSコントロール(ほぼ変化なし)と比較して、顕著な低減が認められた。」(段落【0157】~【0161】)
甲1セ
「【0162】
(実施例13)
この実施例においては、送達機能性部分としてペプチドを用い、神経系の細胞に二重鎖核酸複合体が送達されることを実証した。図28に一般的な構造を示した、アンチセンス鎖、相補鎖及びPNA鎖の3つの核酸鎖を含む二重鎖複合体を用いた。後神経節(DRG)細胞に該複合体を局在させるための薬剤として機能させるため、ドデカペプチド DRG1を、9塩基のPNA鎖のN末端に結合させた。・・・
【0163】
・・・LNA/DNAギャップマー、相補鎖及びペプチド-PNA鎖を、等モル量にて混合し、この混合物を95℃で5分間加熱した。・・・8週齢、平均体重27gの雌ICRマウスに、髄腔内注射にて、PBS、ds-TRPV1又はts-TRPV1を2.66μgずつ投与した。・・・
・・・
【0166】
・・・また、この実施例において、送達を誘導するペプチドを用いることにより、他の実施例に示したものと異なる細胞の種類(DRG)及び組織にも(肝臓の代わりに神経系にも)、アンチセンス鎖を送達できることも示された。」(段落【0162】~【0166】)
甲1ソ
「【0170】
・・・特筆すべきは、miRNAレベルを低減させるための典型的な方法では、ミックスマー(mixmer)型プローブ構造が用いられ、そのプローブにより50%の減少を達成するためには、~10mg/kgの投与量(ED50)にて送達する必要がある。前述の通り、この実施例において示した、いくつかの実施形態における二重鎖複合体によれば、相当に低い投与量をED50とすることができる。」(段落【0170】)
甲1タ
「
[図:0001402753000003.jpg]
」(図9)
甲1チ
「
[図:0001402753000004.jpg]
」(図15)
イ.甲1に記載された発明
甲1には、第2の核酸鎖がアニーリングしている第1の核酸鎖を含む二本鎖核酸複合体であって、標的遺伝子の発現をアンチセンス効果によって抑制する活性を有する二本鎖核酸複合体が記載され(甲1ア~ウ)、上記第1の核酸鎖は、標的転写産物に相補的なアンチセンス核酸であって、標的転写産物レベルを抑制することができ、上記第2の核酸鎖は、上記第1の核酸鎖と相補的な核酸であることが記載されている(甲1ウ、カ、キ)。さらに、上記第1の核酸鎖はLNA/DNAギャップマーの構造を有することや、上記第2の核酸鎖に、標的への送達機能を付与するための機能性部分を結合させることが記載され、肝臓等に特異性高く効率的に二本鎖核酸複合体を送達できるという観点から、上記機能性部分としてコレステロールやビタミンE(トコフェロール類、トコトリエノール類)を使用することが記載されるとともに(甲1ウ~オ、ケ、タ、チ)、上記二本鎖核酸複合体を含む組成物を製剤化し、静脈内投与や皮下投与によって対象に投与することも記載されている(甲1コ)。そして、上記二本鎖核酸複合体の具体的な実施形態として、実施例3、12には、LNA/DNAギャプマー(アンチセンス鎖)と、トコフェロールを結合させた相補鎖RNAをアニーリングさせることにより、間接的にトコフェロールをアンチセンス鎖に結合させ、調製したLNA/DNAギャップマーとトコフェロール結合RNAからなる二本鎖核酸複合体をマウスに静脈投与したところ、当該二重鎖核酸複合体が効率良く肝臓に送達されて標的転写産物の発現を抑制できたことが記載されている(甲1サ~ス)。
そうすると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「第2の核酸鎖がアニーリングしている第1の核酸鎖を含む二本鎖核酸複合体を含む製剤であって、該第1の核酸鎖は標的転写産物に相補的なアンチセンス核酸であって、標的転写産物レベルを抑制することができ、該第2の核酸鎖は該第1の核酸鎖と相補的な核酸であって、コレステロール、トコフェロール類およびトコトリエノール類から選択される機能性部分と結合しており、該第1の核酸鎖がLNA/DNAギャップマーである、静脈内投与用または皮下投与用の製剤。」(以下、「甲1発明」という。)
(2)甲3~4、6,乙5の記載事項
ア.甲3の記載事項
甲3には、以下の記載がある。なお、下線は合議体による。
甲3ア
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンE誘導体、陰イオン性リン脂質結合タンパク質、陰イオン性リン脂質、およびステロールを含む医薬組成物。
【請求項2】
輸送される輸送物をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ビタミンE誘導体がトコフェロールである、請求項1または請求項2に記載の組成物。
・・・
【請求項13】
対象に輸送物を送達するための組成物を調製する方法であって、
a)ビタミンE誘導体、アネキシンなどの陰イオン性リン脂質結合タンパク質、ホスファチジルセリンなどの陰イオン性リン脂質、およびステロールからリポソームを形成すること、ならびに
b)リポソーム組成物中に前記輸送物をカプセル化すること
を含む方法。
・・・
【請求項17】
血液脳関門を通過して、または血液網膜関門を通過して作用物質を送達するための担体としての、ビタミンE誘導体または請求項1から12のいずれかに記載の組成物の使用。」(【特許請求の範囲】)
甲3イ
「【0010】
本明細書では、ビタミンE誘導体という用語は、α-トコフェロールに類似した生物活性を有するトコールまたはトコトリエノール誘導体を指すものとして使用される。特に、その用語は、トコフェロールおよびトコトリエノールを指す。・・・」(段落【0010】)
甲3ウ
「【0022】
本発明の組成物は、輸送物の封入の前に、リポソームの形に調製される。その後、輸送物は、好ましくはエレクトロポレーションを使用して、リポソーム組成物中にカプセル化されるが、凍結融解などの代替方法も適切である場合がある。」(段落【0022】)
甲3エ
「【0027】
血液脳関門を通過して、または血液網膜関門を通過して作用物質を送達するための担体としての、特に本発明の組成物の形をとる、ビタミンE誘導体の使用も提供される。」(段落【0027】)
甲3オ
「【0060】
A.ユニバーサルドラッグデリバリーシステム(UDDS)テクノロジーの開発
1.輸送物を送達するためのUDDSの改良
輸送物送達の成功のための成分は、ビタミンE誘導体、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、コレステロール、およびアネキシンを含む。異なる輸送物/構成物比を可能にするためのプロセスの改良において、精製方法およびカプセル化方法を、下記のように最適化した:
・・・
【0067】
b)カプセル化
精製のための最も適切な方法を決定したので、低分子量の化合物のカプセル化のための異なる方法も調べた。これらの方法には、以下の工程を含む:
(i)化合物の存在下でリポソームを作製する工程、
(ii)ボルテックス工程、
(iii)超音波処理、
(iv)凍結融解工程、および
(v)エレクトロポレーション。
【0068】
フルオレセインの高イオン性の性質により、それは、低塩環境に依存するエレクトロポレーションと適合しないことがわかった。
【0069】
ボルテックスされた試料はほんの少しのカプセル化しか生じなかったが、超音波処理、凍結融解、および予め形成されたリポソームはすべて、顕著なカプセル化を生じた(図5参照)。」(段落【0060】~【0069】)
甲3カ
「【0107】
B.血液脳関門
フルオレセインの脳への静脈内送達
300μlの5%フルオレセインナトリウムまたは1mlの0.2%カプセル化フルオレセインナトリウムを、ラットに尾静脈を通して投与し、網膜をモニターした。遊離フルオレセインを、前に概要を示したように、超遠心およびPD-10カラムを使用することによって除去した。2時間後、一般的な麻酔下で、動物は、4%パラホルムアルデヒドでの固定灌流を受けた。脳を4%パラホルムアルデヒド中に一晩、保存し、その後、800umのスライスに切断し、共焦点蛍光顕微鏡下で調べた。
【0108】
フルオレセインナトリウムは、無傷の血液脳関門を通過することができない。これは、Natah,S.S.ら、J Appl Physiol 107:1348~1356 2009によって以前に言及された研究を含むいくつかの実験の根拠になっている。
【0109】
図24における画像は、通常の静脈注射のフルオレセインナトリウムを用いた動物(C~D)と比較した、カプセル化フルオレセインナトリウムの静脈注射を用いた動物(A~B)由来の脳における同様の領域から得られた。蛍光画像(A、C)および透過画像(B、D)の両方が示されている。明らかに、カプセル化材料のみが蛍光を示し(A)、通常のフルオレセインナトリウム静脈注射を用いた脳からのシグナルは全くない(C)。これは、カプセル化が、フルオレセインナトリウムがBBBを通過するのを可能にするという事実を確認している。」(段落【0107】~【0109】)
イ.甲4の記載事項
甲4には、以下の記載がある。なお、甲4は英文であるので、翻訳文のみ摘記する。下線は、合議体による。
甲4ア
「血液脳関門を通過する低分子化合物の輸送:生物特性と方法論」(1頁の表題)
甲4イ
「3.低分子薬の血液脳関門輸送の薬理学に基づく方法」(18頁左欄19~20行)
甲4ウ
「3.2. 脂質化方法」(18頁右欄14行)
甲4エ
「3.2.3 脂肪酸及びコレステロールエステル
他の脂質化ストラテジーは、遊離脂肪族アシル基又は遊離コレステロール基の結合と脂肪酸エステル又はコレステロールエステルの形成である。このような化合物は、静脈内注射後には、BBBを介した輸送を促進するが、経口投与後には、同様の脳への取り込みを保証し得ない。」(19頁右欄下から8~1行)
ウ.甲6の記載事項
甲6には、以下の記載がある。なお、下線は合議体による。
甲6ア
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
投与部位よりも遠位の神経系細胞における標的遺伝子の発現を下方制御する方法であって、該方法は、
iRNA剤と神経系細胞とを、該iRNA剤の該細胞内への取り込みと該iRNA剤の軸索輸送とが可能な十分な時間接触させることを含み、
(i)iRNA剤はRNA二重鎖を形成するセンス鎖およびアンチセンス鎖を含み、
(ii)iRNA剤は親油性部分を含み、かつ
(iii)iRNA剤のアンチセンス鎖の配列は、標的遺伝子から発現されるRNAのうち約18~25ヌクレオチドの標的配列に対し十分相補的なヌクレオチド配列を含むことを特徴とする方法。」(特許請求の範囲)
甲6イ
「【0005】
・・・1つの実施形態では、iRNA剤は神経系細胞内への該iRNA剤の取り込みを促進する結合物を含む。好ましい実施形態において、結合物は親油性部分であり、例えばコレステロールである。・・・」(段落【0005】)
甲6ウ
「【0008】
ある実施形態では、iRNA剤はhtt RNAを標的とし、表1または表2に列挙されたセンス配列またはアンチセンス配列のうち少なくともいずれかを含みうる。好ましい実施形態において、iRNA剤は、神経系細胞内への取り込み強化のための親油性部分に加えて少なくとも1つの修飾を含む。この少なくとも 1つの追加修飾は、例えばホスホロチオエートまたは2’O-メチル(2’OMe)修飾の場合がある。
【0009】
【表1】
[図:0001402753000005.jpg]
」(段落【0008】~【0009】)
甲6エ
「【0047】
・・・より好ましい実施形態において、対象はヒトであり、例えば、健常人、あるいは、神経疾患もしくは神経障害を有するか、神経疾患もしくは神経障害を有すると診断されるか、または神経疾患もしくは神経障害になる素因を有する人である。
【0048】
神経疾患または神経障害は、神経系(中枢神経系または末梢神経系)に影響するあらゆる疾患または障害である。・・・」(段落【0047】~【0048】)
甲6オ
「【0535】
親油性部分が結合しているiRNA剤を脳の神経系細胞に送達することができる。組成物が血液脳関門を通過する必要のない送達方法を利用することができる。例えば、iRNA剤を含む医薬組成物を、疾患の影響を受けた細胞を含む領域へ直接注射することによって患者に送達可能である。例えば、医薬組成物を、脳内への直接的注射によって送達可能である。この注射は、脳の特定の領域(例えば、黒質、皮質、海馬、線条体、または淡蒼球)への定位的な注射であり得る。iRNA剤は、中枢神経系の複数の領域に(例えば、脳の複数の領域に、および/または脊髄に)送達可能である。iRNA剤は、脳の広範な領域に送達可能である(例えば、脳の皮質への拡散性送達)。
・・・
【0537】
親油性部分(例えばコレステロール)に結合されたiRNA剤は、血液脳関門を通過できるようにさらに修飾可能である。例えば、iRNA剤は、該薬剤が血液脳関門を通過できるようにする分子に結合されてもよい。このような修飾iRNA剤は、任意の所望の方法によって、例えば、脳室内もしくは筋肉内注射によって、または肺送達によって投与可能である。」(段落【0535】~【0537】)
甲6カ
「【実施例2】
【0568】
コレステロールが結合したsiRNAをin vivoでニューロンに投与した。
GFPを標的とするChol-siRNA-Cy3を、単回の直接注射により、ならびにAlzet(R)ポンプ(米国カリフォルニア州クパチーノ所在のデュレクト株式会社(DURECT Corporation))によって7日間にわたり、マウス線条体中に投与した。直接注射にはPBS中50μM溶液1μlを含め、Alzetポンプは1日当たり1μl中50μMを送達するものとした。Chol-siRNAを、高用量の非結合型siRNA-Cy3と、同じ投薬量で比較した。蛍光顕微鏡法によって、いずれのsiRNAセットも多くの脳細胞に入ることが見出された。観察の結果、Chol-siRNA-Cy3は、Alzetポンプによる投与において非結合型siRNAよりも細胞に入る頻度が高かった。・・・」(段落【0568】)
エ.乙5の記載事項
乙5には、以下の記載がある。なお、乙5は英文であるので、翻訳文のみ摘記する。下線は合議体による。
乙5ア
「コレステロール結合型siRNAは、in vivoでの遺伝子発現を抑制することができる。ここでは、様々な親油性siRNAを合成し、それを用いて、生体内でのsiRNA送達に必要な条件を明らかにする。コレステロールに加えて、胆汁酸や長鎖脂肪酸との結合が、in vivoでのsiRNAの細胞への取り込みと遺伝子サイレンシングを媒介することを示した。これらのsiRNAコンジュゲートの効率的かつ選択的な取り込みは、リポタンパク質粒子、リポタンパク質受容体、膜貫通タンパク質との相互作用に依存する。高密度リポタンパク質(HDL)は肝臓、腸、腎臓及びステロイド形成臓器にsiRNAを運搬するのに対し、低密度リポタンパク質(LDL)は主に肝臓にsiRNAを運搬する。・・・」(1149頁 要旨)
乙5イ
「
[図:0001402753000006.jpg]
」(図4)
乙5ウ
「コレステロール-siRNAは、特定のリポタンパク質との結合に依存して、異なる組織に取り込まれる。C57BL/6マウスに、HDL、LDL又はアルプミンに結合した32P標識コレステロール-siRNAを尾静脈注射した。(a, b) 液体シンチレーションカウントにより、全組織重量に対する32P標識コレステロール-siRNAの組織内取り込みの総量を測定した。」(1152頁、図4の説明)
乙5エ
「リポタンパク質結合型siRNAの異なる輸送
リポタンパク質粒子は、アポタンパク質又は受容体を介したプロセスにより、脂質を異なる特定の細胞へと送達する。我々は、HDLとLDLに結合した32P-コレステロール-siRNAの静脈内投与後の組織における取り込み分布を調査した。精製HDL及びLDL粒子をコレステロール-siRNA-apoB1で飽和させ、シリアンハムスターに注射した。動物は注射の4時間後に屠殺され、血液中の放射性シグナルが循環するのを防止するために生理食塩水で完全に灌流された。注射4時間後に肝臓、腎臓、副腎、肺、心臓、精巣、卵巣、脾臓、胃、腸及び脳を含むいくつかの組織において放射能を測定した。HDL及びLDL結合型32P-コレステロール-siRNAの放射能の大部分は肝臓で検出されたが(Fig.4a)、他の臓器でも低レベルの放射能が検出された。組織lmgあたりの32Pカウントの正規化により、LDL粒子を介した32P-コレステロール-siRNAの取り込みは主に肝臓で、HDL結合32 P-コレステロール-siRNAは主に副腎、卵巣、腎臓、肝臓、小腸で認められた(Fig.4b)。保護されたコレステロール-siRNAが注射中に分解されるかどうかを評価するために、組織から抽出したRNAのノーザンブロットを行ったところ、放射活性リン酸がまだコレステロール-siRNAと結合していた(データは示されていない)。」(1153頁左欄7行~右欄16行)
(3)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
本件発明1に係る「アンチセンス効果」とは、本件明細書の段落【0014】に記載されるとおり、「標的転写産物(RNAセンス鎖)の、例えばDNA鎖との、またはより一般的には転写産物等の部分配列に相補的な、アンチセンス効果を引き起こすように設計された鎖との、ハイブリダイゼーションの結果として生じる、標的遺伝子の発現または標的転写産物のレベルを抑制する」効果であると認められるところ、甲1発明の「第1の核酸鎖」は、「標的転写産物に相補的なアンチセンス核酸」鎖であって、「標的転写産物レベルを抑制することができ」る効果を有するものであるから、本件発明1の「標的転写産物の少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な塩基配列を含み、かつ、標的転写産物に対してアンチセンス効果を有」する「第1の核酸鎖」に相当する。そして、甲1発明の「第1の核酸鎖がLNA/DNAギャップマーである」という特定は、本件発明1の「第1の核酸鎖がギャップマー・・・である」に相当するから、甲1発明の「第1の核酸鎖」と本件発明1の「第1の核酸鎖」は、同一の構造および機能を有するものであるといえる。
また、甲1発明の「コレステロール、トコフェロール類およびトコトリエノール類から選択される機能性部分」は、本件発明1の「トコフェロール、コレステロール、α-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、δ-トコトリエノールから選択されるいずれかの脂質」に相当する。そして、甲1発明の「第2の核酸鎖」は「第1の核酸鎖と相補的な核酸」であるところ、本件発明1の「第2の核酸鎖」も「第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含」むものであるから、甲1発明の「第2の核酸鎖」と本件発明1の「第2の核酸鎖」も同一の構造を有するものであるといえる。
そうすると、両者は、
「第1核酸鎖と第2核酸鎖とからなる静脈内投与用または皮下投与用二本鎖核酸剤であって、
該第1核酸鎖は、標的転写産物の少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な塩基配列を含み、かつ、標的転写産物に対してアンチセンス効果を有し、
該第2核酸鎖は、該第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含み、かつ、トコフェロール、コレステロール、α-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、δ-トコトリエノール、コレスタノール、ラノステロール、セレブロステロール、デヒドロコレステロールおよびコプロスタノールからなる群から選択されるいずれか一の脂質と結合しており、
該第1核酸鎖は、該第2核酸鎖にアニールしており、
該第1核酸鎖がギャップマーまたはミックスマーである、二本鎖核酸剤。」である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)
本件発明1は、被験体の中枢神経系において標的転写産物の発現量を減少させるための二本鎖核酸剤と規定しているのに対し、甲1発明は、中枢神経系の標的転写産物の発現量を減少させるためのものであることの特定がない点。
(相違点2)
本件発明1は、二本鎖核酸剤が血液脳関門(BBB)を通過するのに対し、甲1発明は、二本鎖核酸剤が血液脳関門(BBB)を通過するものであることの特定がない点。
イ.相違点1の検討
相違点1について検討する。
甲1(下線は当審で付与した。)の段落【0054】には、「「標的への送達機能」を有する部分として、例えば、肝臓等に特異性高く効率的にある実施形態における二重鎖核酸複合体を送達できるという観点から、脂質が挙げられる。このような脂質としては、コレステロール、脂肪酸等の脂質(例えば、ビタミンE(トコフェロール類、トコトリエノール類)、ビタミンA,ビタミンD)、ビタミンK等の脂溶性ビタミン(例えば、アシルカルニチン)、アシルCoA等の中間代謝物、糖脂質、グリセリド、並びにそれらの誘導体等を例示することができるが、これらの中では、より安全性が高いという観点から、ある実施形態において、コレステロール、ビタミンE(トコフェロール類、トコトリエノール類)を利用することが好ましい。また、脳に特異性高く効率的に本発明の二重鎖核酸を送達できるという観点から、ある実施形態における「機能性部分」としては、糖(例えば、グルコース、スクロース)が挙げられる。」(甲1ケ)、同段落【0112】には、「図16に示す通り、相補鎖にトコフェロールを結合させることにより、ASO/Toc-cRNA(G)は特異的に効率良く肝臓に送達、集積され、ASO/cRNA(G)と比較しても、顕著なアンチセンス効果を有していることが明らかになった。」(甲1サ)、同段落【0128】には、「LNA/DNAギャップマー及びToc-cRNAを含む二重鎖核酸複合体については前述の通り、高いアンチセンス効果を有しつつ、肝臓等へ特異的に効率良く送達できることが明らかになった。」、同段落【0129】には、「このように、トコフェロール等の脂質を結合させることにより肝臓等への送達性は飛躍的に増大するが、他の臓器への送達は逆に困難となることが知られている。」(甲1シ)と記載されており、甲1には、コレステロール、トコフェロール類およびトコトリエノール類から選択される機能性部分が、二重鎖核酸複合体の肝臓等への送達性の促進に寄与すること、脳に特異性高く効率的に二重鎖核酸を送達するには「機能性部分」として糖(例えば、グルコース、スクロース)を使用すべきことが記載されている。
一方、コレステロール、トコフェロール類およびトコトリエノール類から選択される機能性部分が、二重鎖核酸複合体(以下では、「二本鎖核酸」ということがある。)に結合することで、二重鎖核酸複合体を脳等の中枢神経系への送達性が促進することが、本件特許の優先日前における周知技術ないしは技術常識より当業者に明らかであったか否かについて、以下で検討する。
甲3には、トコフェロールやトコトリエノールなどのビタミンE誘導体を、フルオレセイン等の作用物質を送達するための担体成分として使用することが記載されているものの(甲3ア、イ、カ)、血液脳関門を通過する物質としては、「ビタミンE誘導体、陰イオン性リン脂質結合タンパク質、陰イオン性リン脂質、およびステロールを含む」「リポソーム組成物」が記載されているに過ぎず(甲3ア~カ)、甲3に、二本鎖核酸等をビタミンE誘導体と結合することだけで、脳等の中枢神経系へ二本鎖核酸等を送達できる旨の記載や示唆があるとは認められない。
甲4には、脂肪酸エステル又はコレステロールエステルの形成が、静脈内注射後のBBB(血液脳関門)を介した低分子化合物の輸送を促進することが記載されているが(甲4ア~エ)、輸送対象の化合物名は、具体的に記載されておらず(甲4エ)、甲4に、二本鎖核酸等について脂肪酸エステル又はコレステロールエステルを形成するだけで、二本鎖核酸のBBBを介した輸送(送達)が促進する旨の記載や示唆があるとは認められない。
甲6には、コレステロール等の親油性部分が、神経系細胞内へのiRNA剤の取り込みを促進することが記載されているものの(甲6イ)、脳へ直接送達したiRNA剤が脳細胞(神経系細胞)に入ることが記載されているにすぎないから(甲6オ、カ)、甲6に、親油性部分が脳等の中枢神経系へのiRNA剤の送達を促進する旨の記載や示唆があるとは認められない。
乙5には、合成した様々な親油性siRNAを用いて生体内でのsiRNA送達に必要な条件を明らかにすること、HDLまたはLDLに結合したコレステロール結合siRNAを静脈内投与後、脳を含むいくつかの組織において測定した結果、LDL結合型のコレステロール結合siRNAの取り込みは主に肝臓で、HDL結合型のコレステロール結合siRNAの取り込みは主に副腎、卵巣、腎臓、肝臓、小腸で認められたことが記載され(乙5ア~エ)、これらの記載事項によると、静脈注射された、コレステロール結合siRNAは、副腎、卵巣、腎臓、肝臓、小腸等で取り込みが認められる一方、脳にはほとんど送達されないことが示されている。
そうすると、甲3~4、6の記載からでは、二本鎖核酸をコレステロール等の脂質と結合しても、脳等の中枢神経系への二本鎖核酸の送達が促進するか否かは不明であり、むしろ、乙5の記載によれば、二本鎖核酸については、コレステロール等の脂質と結合しても脳にほとんど送達されない可能性があるものと認められる。
なお、申立人が提出した甲7~9、11、12の記載や令和5年3月29日提出の意見書における申立人の主張を参酌しても、生物活性物質の構造や特性等に関わらず、生物活性物質をコレステロール等の脂質に結合するだけで、脳等の中枢神経系への生物活性物質の送達性が促進することが、本件特許の優先日前における周知技術ないしは技術常識であったとは認められない。
そうすると、甲1の記載より、甲1発明のコレステロール、トコフェロール類およびトコトリエノール類から選択される機能性部分が、肝臓等への二重鎖核酸複合体の送達性の促進に寄与することは当業者が理解できるものの、上記の機能性部分が、脳等の中枢神経系への二重鎖核酸複合体の送達性の促進に寄与するか否かは、本件特許の優先日前における周知技術ないしは技術常識より当業者に明らかであったとはいえないので、甲1発明の二本鎖核酸複合体を含む製剤を、被験体の中枢神経系において標的転写産物の発現量を減少させるために用いることを当業者が容易に想到し得たとは認められない。
したがって、本件発明1は、相違点2について検討するまでもなく、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.小括
本件発明1は、甲1に記載された発明に、甲3~4、6に記載された周知技術ないしは技術常識を適用しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明13について
ア.対比
本件発明13と甲1発明を対比すると、両者は、上記(2)アで検討した一致点と同じ点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点3)
本件発明13は、被験体の網膜において標的RNAの発現または編集を調節するための二本鎖核酸剤と規定しているのに対し、甲1発明は、網膜の標的RNAの発現または編集を調節するためのものであることの特定がない点。
(相違点4)
本件発明13は、二本鎖核酸剤が血液脳関門(BBB)を通過するのに対し、甲1発明は、二本鎖核酸剤が血液脳関門(BBB)を通過するものであることの特定がない点。
イ.相違点3の検討
相違点3について検討する。
甲1の記載より、甲1発明のコレステロール、トコフェロール類およびトコトリエノール類から選択される機能性部分が、肝臓等への二重鎖核酸複合体の送達性の促進に寄与することは当業者が理解できるものの、上記の機能性部分が、被験体の網膜への二重鎖核酸複合体の送達性の促進に寄与するか否かは、甲3~4、6~9、11~12、乙5に記載されておらず、このことが、本件特許の優先日前における周知技術ないしは技術常識より当業者に明らかであったとはいえない。
そうすると、甲1発明の二本鎖核酸複合体を含む製剤を、被験体の網膜において標的RNAの発現または編集を調節するために用いることを当業者が容易に想到し得たとは認められない。
したがって、本件発明13は、相違点4について検討するまでもなく、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.小括
本件発明13は、甲1に記載された発明に甲3~4、6に記載された周知技術ないしは技術常識を適用しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)本件発明2~11、15の進歩性の検討
本件発明2~11、15は、本件発明1、13を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1、13と同様の理由により、甲1に記載された発明に甲3~4、6に記載された周知技術ないしは技術常識を適用しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(6)検討のまとめ
以上の(3)~(5)で検討したところによると、取消理由1(甲1、3~4、6に基づく進歩性の欠如)は、理由がない。
2.取消理由通知書で採用しなかった申立理由の検討
申立人の申立理由のうち申立理由2(甲1、6~9に基づく進歩性の欠如)は、取消理由通知書で採用した取消理由1(甲1、3~4、6に基づく進歩性の欠如)と実質的に同じであり、甲7~9の記載を参酌しても、結論に影響がないことは、上記の1(3)イ、1(4)イで示したとおりである。
一方、申立理由1(甲1に基づく新規性の欠如)は、取消理由通知書で採用しなかったものなので、検討を要する。
しかし、上記の1(3)ア及び1(4)アで検討したとおり、本件発明1、13は、甲1発明と相違点1~4を有しており、甲1発明と同一であると解すべき理由はない。
また、本件発明1、13を直接又は間接的に引用するものである本件発明2~11、15についても同様である。
なお、申立人は、令和5年3月29日提出の意見書において、相違点1~4の認定について、両発明の二本鎖核酸(二本鎖核酸複合体)は同一の構造を有し、同一の投与方法で用いられているから、本質的に同一の作用効果を奏し、両者に相違点があるとは認められないと主張する。
しかし、甲1には、相違点1として挙げた本件発明1の「被験体の中枢神経系において標的転写産物の発現量を減少させるため」という用途、相違点3として挙げた本件発明13の「被験体の網膜において標的RNAの発現または編集を調節するため」という用途が記載されていないから、両発明は、用途発明として明確に相違すると認められる。
よって、申立人の上記主張は、理由がない。
そうすると、申立理由1(甲1に基づく新規性の欠如)は採用することができないので、本件発明1~11、13、15に係る特許は、申立理由1(甲1に基づく新規性の欠如)により取り消すことはできない。
第6 まとめ
本件特許の請求項1~11、13、15に係る発明の特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~11、13、15に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項12、14に係る発明の特許は、訂正により削除され、特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700928