特許異議申立
2021-700831
ウイルス増殖阻害剤
- 審判番号
- 2021-700831
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-157619
- 登録番号
- 6836229
- 請求日
- 2021年08月24日
- 審決日
- 2021年11月25日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三井農林株式会社
- 【権利者代理人】上村 陽一郎
- 【権利者】国立大学法人 東京医科歯科大学
- 【権利者代理人】上村 陽一郎
- 【異議申立人】鈴木 一樹
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 浩子
- 審判官 渕野 留香
- 審判官 田中 耕一郎
- 分類
- P1651.113-Y (A61K) / P1651.121-Y (A61K) / P1651.537-Y (A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6836229号発明「ウイルス増殖阻害剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6836229号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6836229号の請求項1~4に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成28年8月10日を出願日とする特願2016-157619号についてのものであり、令和3年2月9日にその特許権の設定登録がされ、同年2月24日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年8月24日に特許異議申立人 鈴木一樹(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~4に係る発明は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。
「【請求項1】
式(I)で表わされるプロアントシアニジンガレート類及び式(II)で表わされるテアシネンシン類から選ばれる1種又は2種以上を有効成分として含有する、コロナウイルス又はカリシウイルスに対するウイルス増殖阻害剤。
【化1】
[図:0001384182000001.jpg]
(R1及びR3はそれぞれ独立に水素原子又は水酸基を表し、R1及びR3のうち少なくとも1つは水酸基である。R2及びR4は水素原子又はガロイル基を表し、R2及びR4のうち少なくとも1つはガロイル基である。)
【化2】
[図:0001384182000002.jpg]
(R5及びR6はそれぞれ独立に水素原子又はガロイル基を表す。)
【請求項2】
前記ウイルス増殖阻害剤の有効成分が、式(II)で表わされるテアシネンシン類である、請求項1に記載のウイルス増殖阻害剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のウイルス増殖阻害剤を含む、コロナウイルス又はカリシウイルスの増殖を阻害するための飲食品。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のウイルス増殖阻害剤を含む、コロナウイルス又はカリシウイルスの増殖を阻害するための医薬品又は医薬部外品。」
以下、本件特許の請求項1~4係る発明を、それぞれ請求項順に「本件発明1」等といい、これらをまとめて「本件発明」ということもある。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として、以下の甲第1号証(以下、「甲1」と略記する。)を提出するとともに、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において、以下の申立理由1~3により、請求項1~4に係る本件特許は取り消されるべき旨主張している。
<申立理由1(甲1に基づく新規性欠如及び甲1を主引例とする進歩性欠如)>
本件発明1~4は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるし、また、甲1に記載された発明及び甲1に記載の事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1~4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(以下、上記新規性欠如の申立理由及び進歩性欠如の申立理由を、それぞれ、「申立理由1-1」及び「申立理由1-2」という。)
[証拠]
・甲1:中山幹男ら,“紅茶エキスによるインフルエンザウイルス感染性の阻止 -in vivoにおける検討-”,感染症学雑誌,1994年,第68巻,第7号,824-829頁
(DOI: https://doi.org/10.11150/kansenshogakuzasshi1970.68.824、
URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/kansenshogakuzasshi1970/68/7/68_7_824/_pdf/-char/en)
<申立理由2(明確性要件違反)>
本件発明1~4に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
<申立理由3(サポート要件違反)>
本件発明1~4に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
第4 甲1の記載及び甲1に記載の発明
1.甲1の記載
本件特許の出願日前に公表された甲1には、以下の記載がある。以下において、図2、4、5の説明文は英語で記載されているので、合議体による和訳にて示す。
なお、下線は合議体が付した。以下、この決定において同様である。また、読みやすくするために適宜改行を加えた。
(1a)824頁のタイトル及び要旨
「紅茶エキスによるインフルエンザウイルス感染性の阻止 -in vivoにおける検討-」
「 要 旨
マウスのインフルエンザウイルス感染実験系を用いて,紅茶エキスによるインフルエンザウイルスの感染性の阻止を検討した.
ウイルス懸濁液のみを鼻腔内に吸入させたマウス群は,体重減少をおこし10日以内に100%が死亡したが,ウイルス懸濁液に2%(w/w)紅茶エキスを混合し5分後に吸入させたマウス群では,正常マウス群と同等の体重増加を示し,すべてのマウスが生残した.
生残マウスのインフルエンザウイルスに対する血中抗体価を調べたところ,10匹中9匹は抗体陰性であった.この実験結果から,日常飲用している紅茶エキス濃度(約2~3%)で,105.3PFU/マウス(101,3LD50)の高濃度のインフルエンザウイルスの感染性がほぼ100%阻止されることが明らかになった.
以上の成績は,MDCK細胞を用いたin vitroの成績を支持するとともに,紅茶エキスで処理されたウイルスの感染性が生体内で復帰しないことを示唆している.」
(1b)824頁右欄~826頁左欄の「材料と方法」の欄
「紅茶エキス:市販の紅茶(Lipton)を用いた.紅茶20gに,80mlのPBS(pH7.0)を加えて室温で3時間浸出した後,ガーゼで濾過し,2.5MNaOHでpHを7.0に修正した.これを15,000rpm 10分間遠心して得た上清を,メンブランフィルター(・・・)で濾過し,20%溶液を作成した.これを用時4%に希釈して実験に用いた.
カテキン:(-)エピガロカテキンガレート(EGCg)およびテアフラビンジガレート(TF3)は,緑茶3)および紅茶4)より分離精製したものを,それぞれ4mM濃度になるようにPBS(・・・)に溶解した.・・・
インフルエンザウイルス:A/WSN/33(H1N1)温度非感受性株を・・・分与を受け,実験に用いた.ウイルスは,MDBK(Madin-Darby bovine kidney)細胞に感染させ,35℃,26時間培養後の培養上清を1,500rpm 10分間遠心し,その上清を-80℃に保存した.これを用時融解して実験に用いた.
細胞培養:Madin-Darby canine kidney(MDCK)細胞およびMDBK細胞を用いた.・・・
Plaque assay:飛田らの方法5)によった.
・・・MDCK細胞をmonolayerとなるように培養した.約200PFUのウイルスと紅茶エキス,またはカテキンを等量混合し,一定時間反応させた後この細胞に接種し,37℃で吸着させた.ついで細胞をMEM培地で2回洗い,その後・・・overlay medium(3ml/well)を重層した.5%CO2の存在下で33.5℃,4日間培養後,・・・細胞を固定した.流水で寒天培地を除き,・・・染色した後,plaque数を数えた.plaque抑制率は,カテキン無添加のcontrol群と比較して%で表わした.
マウス:C3H/He 3週齢,雌,SPFマウスを用いた.A/WSN/33株に対するC3H/HeマウスのLD50は,103.87 PFU/マウスであった.101.8PFU/マウスを感染させた場合でも,すべてのマウスにおいて抗体の産生が認められ,C3H/Heマウスは,A/WSN/33株に対して高い感受性を示した.
感染性阻止実験:感染ウイルス量は,2×105PFU/マウス(101.3LD50)となるように調製した.マウスは,4群に分け各10匹ずつ用いた.第1群は,ウイルス液とMEM培地,第2群は,ウイルス液と4%紅茶エキス,第3群は,4%紅茶エキスとMEM培地をそれぞれ等量混合し,5分間室温にて反応させた.第4群は,MEM培地のみを用いた.混合液30μlをエーテル麻酔下で吸入させたマウスは,毎日体重測定を行い14日間観察した.生残マウスは,40日後に採血し,A/WSN/33株に対するHI抗体価を測定した.
HI抗体価の測定:マウス血清をRDE〔武田薬品工業(株)〕で処理しニワトリ赤血球による吸収後,抗体価の測定を行った.」
(1c)826頁左欄~827頁右欄の「成績」の欄及びFig.2,4,5
「 成 績
紅茶エキスおよびカテキンによるA/WSN/33株のPlaque形成の抑制
紅茶エキスのA/WSN/33株に対するplaque形成抑制濃度を確認する目的で,plaque assayを行った.また,EGCgおよびTF3についても同様の実験を行った.約200PFUのウイルスのPlaque形成を100%抑制する紅茶エキスの濃度は,5秒間の作用時間では250μl/ml(0.5%),5分間では4μl/ml(0.008%)であった(Fig.2).・・・.」
「Fig.2 茶抽出物によるインフルエンザA/WSN/33(H1N1)ウイルスのプラーク形成の阻害.ウイルスは2×102PFU ml-1に希釈され、MDCK細胞へのウイルス吸着の前に、37℃で5秒間(○)又は5分間(●)、様々な濃度の茶抽出物と共にインキュベートされた。
[図:0001384182000003.jpg]
」
「紅茶エキスによるインフルエンザウイルス感染性の阻止-マウス体重の推移と死亡率-
C3H/Heマウスは,A/WSN/33株の感染により肺にconsolidationが起きると,急激な体重の減少が見られる.そのため体重の減少はconsolidationのマーカーとなっている.このことから,混合液吸入後のマウス体重を測定した.ウイルス液とMEM培地の混合液を吸入したマウス群は急激な体重減少が吸入4日目より始まり,5日目にはすべてのマウスの体重は吸入時以下になり,8日以後は20%以上の体重減少を示した(Fig.4).また6日目には50%,10日目には100%のマウスが死亡した(Fig.5).一方,ウイルス液と紅茶エキスの混合液を吸入したマウス群では,すべてのマウスで体重低下は見られず,MEM培地のみを吸入したcontro1マウス群と同等の体重増加を示し,すべてのマウスが生残した.また,紅茶エキスとMEM培地の混合液を吸入したマウス群においても,controlマウス群と同等の体重増加を示し,2%紅茶エキスの鼻腔内吸入による毒性は認められなかった.さらにウイルス液と紅茶エキスの混合液を吸入後,40日目に生残マウスから採血し,A/WSN/33インフルエンザウイルスに対する血清中のHI抗体価を測定した(data not shown).その結果,A/WSN/33株に対する抗体産生は10匹中9匹に於て認められなかったが,1匹のみ若干の抗体産生を認めた.」
「Fig.4 インフルエンザ感染に対するマウスの茶抽出物による防御.マウスは105.3PFU/マウス(101.3LD50)のWSNウイルスを投与された.体重は14日間観察された.
(○):MEM培地,(□):ウイルス,(△):2%紅茶エキス,(●):2%紅茶エキス及びウイルス.
[図:0001384182000004.jpg]
Fig.5 インフルエンザ感染に対するマウスの茶抽出物による防御.マウスは105.3PFU/マウス(101.3LD50)のWSNウイルスを投与された.生存を14日間観察された.
(○):MEM培地,(□):ウイルス,(△):2%紅茶エキス,(●):2%紅茶エキス及びウイルス.
[図:0001384182000005.jpg]
」
(1d)827頁右欄~828頁左欄の「考察」の欄
「 考 察
緑茶エキス,紅茶エキスおよびこれらから抽出,精製したカテキンが,病原性細菌に対して抗菌活性6)~14),細菌性外毒素に対して抗毒素活性8)13)15)16)および各種ウイルスに対して抗ウイルス活性1)2)17)を有することを我々は報告した。・・・最近我々は,インフルエンザウイルスの感染性を茶およびカテキンが阻止する機序について,MDCK細胞を用いたin vitroの系で検討した2).その結果,茶エキスまたはカテキンによるインフルエンザウイルスの感染性阻止機構は,ウイルス粒子の表在糖蛋白であるHAスパイクの先端にカテキンが結合することによって,細胞表面のレセプターへのウイルス吸着が阻害されることが示唆された.・・・そこで我々は,インフルエンザウイルスに感受性を示すマウスを用いてin vivoで検討した.今回使用したA/WSN/33株のC3H/Heマウスに対する病原性は,今までの報告21)にもあるようにきわめて高く,1LD50=103.87PFU/マウスであった.感染性においても高感受性で,101.8PFU/マウスのような感染ウイルス量の少ない場合でも,すべてのマウスにおいて抗体産生が認められた.今回の実験に用いたウイルス量は,101.3LD50(105.3PFU)/マウスと高濃度であり,紅茶エキスによるA/WSN/33株の感染性の阻止を,マウスの生死で判定するためであった.
ウイルス液とMEM培地混合液を吸入させたマウス群は,体重減少を伴い,6日目に50%そして10日目までに100%のマウスが死亡した.死亡したマウスの肺にはすべてconsolidationが認められた.ウイルス液と紅茶エキスの混合液を吸入させたマウス群では100%すべてのマウスが生残し,体重減少は無く,control群のマウスと変わらない体重増加を示した.ウイルス感染を確認するために行った血中抗体のHI試験成績では,10匹中9匹のマウスで陰性(<1:16)であった.このことは,紅茶エキスがインフルエンザウイルスの鼻粘膜細胞への吸着を阻止し,しかもマウス生体内におけるウイルス感染性の復帰がなかったことを示唆している.・・・紅茶エキスとMEM培地混合液を与えたマウス群の体重増加率は,正常マウス群と差が無く,肺への吸入による紅茶エキスの毒性は認められなかった.
日常飲用する紅茶濃度は約2~3%である.この濃度でインフルエンザウイルス感染性を効率よく,しかも即時に阻止することが明らかになった.しかしインフルエンザウイルスが一旦細胞内に侵入し,感染が成立した後では紅茶エキスの効果はみられない2).インフルエンザ流行期に紅茶エキスで咽頭部をうがいすれば,口腔内のフリーのウイルスの感染性を即時に阻止する可能性があると思われる.」
2.甲1に記載の発明
上記1.の(1a)~(1d)の記載、特に、(1b)~(1c)の実験結果の記載を受けて、(1a)のタイトルに「紅茶エキスによるインフルエンザウイルス感染性の阻止」と記載されていること、及び、同要旨において、マウスのインフルエンザウイルス感染実験系で、紅茶エキスによるインフルエンザウイルスの感染性の阻止を検討したところ、日常飲用している紅茶エキス濃度(約2~3%)で,高濃度のインフルエンザウイルスの感染性がほぼ100%阻止されることが明らかになった旨が記載されていることから、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「インフルエンザウイルスの感染性を阻止するための紅茶エキス。」(以下、「甲1発明」という。)
なお、申立人は申立書の8頁(4-3)ア.(ア)において、甲1の824頁の要旨7行及び827頁右欄5行の記載から、甲1には、「紅茶エキスがもつ、インフルエンザおよび各種ウイルスに対する抗ウイルス効果」に係る発明が記載されていると主張しているが、申立人が主張する記載箇所及び甲1全体の記載を参酌しても、「紅茶エキス」が「各種ウイルス」に対する抗ウイルス効果を有することを裏付けるデータは記載されておらず、斯かる発明は認定できないので、当該発明は甲1発明としては採用していない。
第5 当審の判断
事案に鑑み、申立理由2、3、1の順に検討する。
1.申立理由2(明確性要件違反)について
申立人は、申立書の4頁及び11頁において、ウイルスが「不活化」されていれば「増殖阻害」も達成できるから、本件発明1~4の「ウイルス増殖阻害剤」には、ウイルスを「不活化」する場合が包含され得ると解される一方、本件明細書では「不活化」と「増殖阻害」が異なるように記載がされているものの、本件明細書に、両者の明確な定義づけがされていないから、本件発明1~4は明確でない旨主張する。
しかしながら、「ウイルス増殖阻害剤」を文字のとおりに解釈すれば、ウイルスの増殖を阻害する薬剤であって、これは、対象にウイルスが存在していること、つまり、細胞にウイルスが感染し細胞内にウイルスが入りこんでいることを前提として、細胞内でウイルスが増殖しないことを意味すると解されるし、「不活化」が「微生物が感染力を失う現象もしくはその処理」を意味することは、技術常識である(必要なら、「岩波 生物学辞典 第4版」、岩波書店、第4版第5刷発行日2000年3月8日、1197頁「不活化」の項目参照))。
そうすると、本件発明1~4の「ウイルス増殖阻害剤」には、ウイルスの感染自体を防ぐ薬剤である「ウイルスの不活化剤」は含まれないと解される。
そして、ウイルスが不活化していれば、感染せず、ウイルスの増殖阻害も達成できることから、仮に、「ウイルス増殖阻害」という用語が、概念上、ウイルスの「不活化」により増殖阻害する場合を含み得るとしても、本件明細書の【0004】では、ウイルスを「不活化」する場合と「増殖阻害」する場合を別に記載しているし、本件明細書では、本件発明の「ウイルスの増殖阻害剤」の薬理活性を確認する[試験例1]及び[試験例2]において、SARSコロナウイルス等に感染させた細胞を用いて、ウイルスの増殖阻害活性を確認しており、これら本件明細書の記載から、当業者は、本件発明の「ウイルスの増殖阻害剤」が、感染後のウイルスの増殖を阻害する薬剤であり、これに、「ウイルスの不活化剤」が含まれていないことを明確に理解できる。
したがって、当業者は、本件発明1~4の「ウイルス増殖阻害剤」なる用語の意味を、「不活化剤」との違いも含めて明確に理解できるといえ、本件発明1~4は明確であるといえる。
また、ほかに、本件発明1~4に関し、不明確な点はない。
よって、本件発明1~4についての申立理由2には理由がない。
2.申立理由3(サポート要件違反)について
(1)本件明細書の発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)には、以下の記載がある。
・技術分野
「【0001】
本発明は、プロアントシアニジンガレート類やテアシネンシン類を有効成分とするウイルス増殖阻害剤に関する。」
・背景技術及び発明が解決しようとする課題
「【背景技術】
【0002】
ウイルス感染症の予防・治療には、抗原抗体反応を利用したワクチンの開発が主流であるが、ウイルスは変異速度が速いために新興ウイルスや再興ウイルスが現れ、ワクチンの開発が対応できていないのが現状である。また、ワクチン以外の手段としては、ヘルペスウイルスに対するチミジンキナーゼ阻害剤、ヒト免疫不全ウイルスに対する逆転写酵素阻害剤やプロテアーゼ阻害剤、インフルエンザウイルスに対するノイラミニダーゼ阻害剤などの酵素阻害剤が挙げられる。しかし、これら酵素阻害剤が適用できるウイルスは極めて限定的である。
【0003】
一方、植物由来成分であるポリフェノールは種々の生理活性を有し、ウイルスに対しては、ウイルスと直接に接触して細胞への吸着を防ぐことでその感染力を奪う不活化効果や、ウイルス感染した後のウイルスの増殖を阻害する効果が知られている。例えば、カテキン類の一種である(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレートがインフルエンザウイルスの増殖を阻害すること(特許文献1)、リンゴやブドウ由来のプロアントシアニジン類(カテキン類の重合体)がSARSコロナウイルスの増殖を阻害すること(特許文献2)が報告されている。また、プロアントシアニジン類を含むピーナッツ種皮抽出物がヒト免疫不全ウイルスやSARSコロナウイルスの増殖を阻害すること(特許文献3)、エピカテキン四量体がSARSコロナウイルス、ネコカリシウイルス、インフルエンザウイルスの増殖を阻害すること(特許文献4)などが報告されている。しかし、プロアントシアニジン類に没食子酸が結合することで、種々のウイルスに対する増殖阻害活性が著しく向上することは何ら報告されていない。
【0004】
また、烏龍茶や紅茶に含まれるテアシネンシン類(プロアントシアニジン類とは異なるカテキン類の二量体)が単純ヘルペスウイルスを不活化すること(非特許文献1)が報告されているが、ウイルスの増殖を阻害する効果については全く報告されていない。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、新興ウイルスや再興ウイルス感染症にも対抗し得る、種々のウイルスに対して効果を示す、より効果の高い新たなウイルス増殖阻害剤を提供することにある。」
・発明の効果
「【0012】
本発明のウイルス増殖阻害剤は種々のウイルスに対して高い増殖阻害活性を有し、かつ、茶由来のポリフェノールに含まれる成分のため安全性が高い。また、該ウイルス増殖阻害剤はカテキン類二量体と低分子のため、他のプロアントシアニジン類と比較して合成が容易である。また、本発明のウイルス増殖阻害剤は、医薬品、サプリメント、飲食品などにも含有させることができ、これらを投与又は摂取することにより、ウイルスの増殖を抑制し、ウイルス感染症の予防又は軽減が期待できる。」
・発明を実施するための形態
「【0014】
プロアントシアニジン類は、(+)-カテキン[(+)-C]、(+)-ガロカテキン[(+)-GC]、(-)-エピカテキン[(-)-EC]、(-)-エピガロカテキン[(-)-EGC]、(-)-エピカテキン-3-O-ガレート[(-)-ECg]、(-)-エピガロカテキン-3-O-ガレート[(-)-EGCg]などのカテキン類を構成ユニットとして、それらが複数個結合した重合ポリフェノールとして知られている。その結合様式の違いから、プロアントシアニジン類は、A型(構成ユニット間に4→8及び2→O→7、又は4→6及び2→O→7の結合を有する)と、B型(構成ユニット間に4→8又は4→6の結合を有する)とに分類される。B型プロアントシアニジン類は茶、ブドウ種子、リンゴ、松樹皮、カカオなど多くの植物に含まれることが知られており、茶生葉、緑茶、烏龍茶、紅茶からは以下の式(III)~(V)で表わされる二量体のB型プロアントシアニジン類(R1乃至R4の具体例は、式の下方に列挙する)が単離されている。
【0015】
【化4】
[図:0001384182000006.jpg]
【0016】
【化5】
[図:0001384182000007.jpg]
・・・
【0018】
本発明のウイルス増殖阻害剤は、二量体のB型プロアントシアニジン類に没食子酸が結合した式(I)で表わされるプロアントシアニジンガレート類を有効成分とする。・・・
・・・
【0023】
・・・
テアシネンシン類は、カテキン類がB環同士で結合した二量体であり、烏龍茶や紅茶に含まれる。良く知られたテアシネンシン類としては以下の式(VII)や(VIII)で表わされるテアシネンシンA、テアシネンシンB、テアシネンシンC、テアシネンシンD、テアシネンシンEが挙げられる。
【0024】
【化9】
[図:0001384182000008.jpg]
【0025】
【化10】
[図:0001384182000009.jpg]
【0026】
上記式中の結合態様を示す「S」、「R」は、それぞれS体、R体をそれぞれ表す。」
「【0032】
本発明のウイルス増殖阻害剤の有効成分であるプロアントシアニジンガレート類、及びテアシネンシン類は、細胞内でのウイルス増殖を阻害する作用を有するため、これらの有効成分を含有するウイルス増殖阻害剤を経口的あるいは非経口的に、ヒトを含む哺乳動物に投与し、ウイルス感染症の予防・治療、ウイルス産生抑制が期待できる。ウイルス増殖阻害剤を経口的に投与する場合の剤形としては、錠剤、顆粒剤、細粒剤、丸剤、散剤、カプセル剤、トローチ剤、チュアブル剤、液剤(ドリンク剤)などが挙げられる。また、該有効成分に薬学的に許容される担体を添加して外用の製剤とすることもできる。製剤の形態としては、液剤、ローション剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、テープ剤、パッチ剤、エアゾール剤、スプレー剤、乳液剤などが挙げられ、皮膚表面や粘膜などから作用するものであれば、どのような形態でもよい。
【0033】
また、本発明のウイルス増殖阻害剤を飲食品に含有して摂取することもできる。飲食品としては特に制限はされないが、具体的に対象となる飲食品としては、茶系飲料、コーヒー飲料、炭酸飲料、果実飲料、果実酒類、野菜飲料、清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、ドリンク剤、スポーツドリンク、豆乳などの飲料類;アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓、ヨーグルト、プリン、ゼリーなどのデザート類;饅頭、羊羹、キャラメル、キャンディー、錠菓、スナック、クラッカー、ビスケット、クッキー、パイ、チョコレート、チューインガムなどの菓子類;和風スープ、洋風スープ、中華スープ、味噌汁などのスープ類;パン類;ジャム類;マヨネーズ、ドレッシングなどの調味料類;レトルトカレーなどのレトルト食品などを挙げることができる。さらに、本発明のウイルス増殖阻害剤を少なくとも一種以上を飲食品に含ませることによってその食品を、ウイルス増殖を阻害する効果を目的とした機能性食品にすることができる。」
・実施例
「【0034】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
[製造例1]プロアントシアニジンガレート類の調製
・・・
【0040】
・・・(-)-EGCg-(4β→8)-(-)-EGCgを11mg得た。
【0041】
[製造例2](-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCの調製
・・・(-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCを5mg得た。
【0042】
[製造例3]テアシネンシンAの合成
・・・テアシネンシンAを286mg得た。
【0043】
[製造例4]テアシネンシンBの合成
・・・テアシネンシンBを188mg得た。
【0044】
[製造例5]テアシネンシンCの合成
・・・テアシネンシンCを369mg得た。
【0045】
[試験例1]SARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性の測定
製造例1~5で得られた画分、プロアントシアニジン類、テアシネンシン類のSARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性の測定を行った。また、カテキン類((-)-EC、(-)-EGC、(-)-ECg、(-)-EGCg・・・)についても活性の測定を行った。SARSコロナウイルスはFFM-1株(・・・)を用いた。培養細胞はVero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来)を用い、培地には10重量%ウシ胎児血清、ストレプトマイシン(100μg/mL)、ペニシリン(100U/mL)を添加したダルベッコ変法イーグル最小必須培地・・・を用いて・・・培養した。
【0046】
・・・90%単層を形成したVero細胞に、SARSコロナウイルスのストック液0.2mLを添加して25℃で60分間感染させた。次いで、被験物質を培養液1mL当たり0、1、3、10、30、100μg/mL(ポリフェノンGの場合のみ0、10、30、100、200、400μg/mL)となるように加え、1重量%メチルセルロースを加えたダルベッコ変法イーグル最小必須培地(5%ウシ胎児血清含有)で4日間培養した。培養後、メチルセルロースを取り除き、Vero細胞を2.5重量%クリスタルバイオレットで染色し、0.05Mリン酸緩衝生理食塩水・・・で3回洗浄した。形成されたプラーク数から1mL当たりのウイルス量をPFU(Plaque Forming Unit)/mLとして求め、さらに被験物質のIC50(ウイルスの増殖を50%阻害する濃度(阻害数から算出))を算出し、表1及び表2に示した。
【0047】
緑茶抽出物粉末であるポリフェノンGに含まれるSARSコロナウイルスの増殖阻害成分の特定を行った(調製方法は製造例1を参照)。DIAION HP20を用い、ポリフェノンG(IC50=150μg/mL)を6つの画分(水画分、20%・40%・60%・80%メタノール画分、アセトン画分)に分画した。次いで、SARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性が最も高かった40%メタノール画分(IC50=25μg/mL)を、TOYOPEARL HW-40Cにて3つの画分(画分1~3)に分画した。次いで、増殖阻害活性が最も高かった画分3(IC50=15μg/mL)を、Mightysil RP-18 GP IIを用いた分取HPLCにて8つの画分(画分3-1~3-8)に分画した。さらに、増殖阻害活性が高い3つの画分、画分3-2(IC50=20μg/mL)、画分3-3(IC50=20μg/mL)、画分3-4(IC50=15μg/mL)を同様の分取HPLCにて精製を行った。画分3-2より(-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCg及び(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCgを、画分3-3より(+)-GC-(4α→8)-(-)-ECgを、画分3-4より(-)-EGCg-(4β→8)-(-)-EGCgを得た。
【0048】
【表1】(合議体注:表1の記載は省略する。)
【0049】
これらの単離した化合物は、プロアントシアニジン類の二量体に没食子酸が結合したプロアントシアニジンガレート類であった。プロアントシアニジンガレート類のSARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性を、単量体であるカテキン類や、烏龍茶や紅茶に含まれる異なる結合様式を持つ二量体であるテアシネンシン類の活性と比較した(表2)。
【0050】
【表2】
[図:0001384182000010.jpg]
【0051】
表2に示すように、単量体であるカテキン類の内、(-)-ECと(-)-EGCではIC50は100μg/mLを超え、SARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性は認められなかった。また、単量体であるカテキン類の内、ガロイル基を有する(-)-ECgと(-)-EGCgは1~30μg/mLの試験濃度ではウイルスの増殖阻害率が50%より低く、100μg/mLでは細胞変性が認められたためIC50の算出ができなかった。
【0052】
一方、二量体であるプロアントシアニジン類、テアシネンシン類ではSARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性が認められ、特にガロイル基を有するプロアントシアニジンガレート類、テアシネンシンガレート類で高い増殖阻害活性が認められた。ガロイル基を持たないプロアントシアニジン類である(-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCに対し、プロアントシアニジンガレート類((-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCg、(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCg、(+)-GC-(4α→8)-(-)-ECg、(-)-EGCg-(4β→8)-(-)-EGCg)は2.5~3.3倍の活性が認められた。またガロイル基を持たないテアシネンシン類であるテアシネンシンCに対し、テアシネンシンガレート類(テアシネンシンA、テアシネンシンB)は3.3~5.0倍の活性が認められた。
【0053】
[試験例2]ネコカリシウイルスに対する増殖阻害活性の測定
プロアントシアニジンガレート類である(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCgとテアシネンシン類のネコカリシウイルスに対する増殖阻害活性の測定を行った。SARSコロナウイルスに代えてネコカリシウイルスF9株、Vero細胞に変えてCRFK細胞(ネコ腎臓由来)を使用した以外は試験例1と同様の方法で、ネコカリシウイルスに対する被験物質のIC50を算出した。
【0054】
プロアントシアニジンガレート類である(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCgのIC50は30μg/mL、テアシネンシンA、テアシネンシンB及びテアシネンシンCのIC50はそれぞれ20μg/mL、10μg/mL、70μg/mLであった。ガロイル基を持たないテアシネンシンCに対し、ガロイル基を持つ(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCg、テアシネンシンA及びテアシネンシンBは2.3~7.0倍の強いウイルス増殖阻害活性が認められた。」
(2)サポート要件について
ア 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるかを検討して判断すべきものである。
イ 本件発明が解決しようとする課題
上記(1)の発明の詳細な説明の【0002】~【0007】の記載、特に、【0007】の記載及び特許請求の範囲の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題(以下、「本件発明の課題」という。)は、「コロナウイルス又はカリシウイルス感染症に対抗し得る、より効果の高い新たなウイルス増殖阻害剤を提供すること」であると認められる。
ウ サポート要件についての判断
以下、本件発明1~4が、上記(1)の発明の詳細な説明の記載から、本件特許の出願時の技術常識を考慮して、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲内のものであるかについて検討する。
(ア)本件明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が理解できる事項
上記(1)の発明の詳細な説明、特に、実施例の記載によれば、以下のことが理解できる。
・SARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性の測定の結果([試験例1](【0050】~【0052】))として、
本件発明1、3、4のウイルス増殖阻害剤の有効成分である「式(I)で表わされるプロアントシアニジンガレート類」である(-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCg、(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCg、(+)-GC-(4α→8)-(-)-ECg、(-)-EGCg-(4β→8)-(-)-EGCgは、IC50が15~20μg/mLであり、一方、類似のプロアントシアニジンガレート類である(-)-EGC-(4β→8)-(-)-EGCでは、IC50が50μg/mLであり増殖阻害活性が劣ること、及び、
式(I)の化合物(これは、カテキン類の二量体に相当する化合物である。)と基本構成要素は同じであるが、単量体カテキン類である点で異なる(-)-ECと(-)-EGCではSARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性がなく、また、(-)-ECgや(-)-EGCgでは100μg/mLで細胞変性が生じること
が、記載されているから、
発明の詳細な説明の記載から、当業者は、本件発明1、3、4の「式(I)で表わされるプロアントシアニジンガレート類」を有効成分として含むウイルス増殖阻害剤は、コロナウイルスに対する高い増殖阻害活性を有しており、コロナウイルス感染症に対する効果がより高いものであることを理解できる。
・本件発明1~4のウイルス増殖阻害剤の有効成分である「式(II)で表わされるテアシネンシン類」であるテアシネンシンA、テアシネンシンBは、SARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性の測定の結果([試験例1])、IC50が20~30μg/mLであり、一方、ガロイル基が存在しないものの基本骨格が同じテアシネンシンCでは、IC50が100μg/mLであることが記載されているから、当業者は、発明の詳細な説明の記載から、本件発明1~4の「式(II)で表わされるテアシネンシン類」を有効成分として含むウイルス増殖阻害剤は、コロナウイルスに対する高い増殖阻害活性を有しており、コロナウイルス感染症に対する効果がより高いものであることを理解できる。
・ネコカリシウイルスに対する増殖阻害活性の測定の結果([試験例2](【0053】~【0054】))として、本件発明1~4のウイルス増殖阻害剤の有効成分である「式(I)で表わされるプロアントシアニジンガレート類」である(+)-GC-(4α→8)-(-)-EGCgは、IC50が30μg/mLであったことが記載されているから、発明の詳細な説明の記載から、当業者は、本件発明1、3、4の「式(I)で表わされるプロアントシアニジンガレート類」を有効成分として含むウイルス増殖阻害剤は、カリシウイルスに対する高い増殖阻害活性を有しており、カリシウイルス感染症に対する効果がより高いものであることを理解できる。
・本件発明1~4のウイルス増殖阻害剤の有効成分である「式(II)で表わされるテアシネンシン類」であるテアシネンシンA、テアシネンシンBは、ネコカリシウイルスに対する増殖阻害活性の測定の結果([試験例2])、IC50がそれぞれ20μg/mL、10μg/mLであり、一方、ガロイル基が存在しないものの基本骨格が同じテアシネンシンCでは70μg/mLであることが記載されているから、当業者は、発明の詳細な説明の記載から、本件発明1~4の「式(II)で表わされるテアシネンシン類」を有効成分として含むウイルス増殖阻害剤は、カリシウイルスに対する高い増殖阻害活性を有しており、カリシウイルス感染症に対する効果がより高いものであることを理解できる。
(イ)上記(ア)で説示したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者は、本件発明1、3、4の「式(I)で表わされるプロアントシアニジンガレート類」あるいは本件発明1~4の「式(II)で表わされるテアシネンシン類」を有効成分として含む、ウイルス増殖阻害剤が、コロナウイルス又はカリシウイルス感染症に対抗し得るより効果の高い新たなウイルス増殖阻害剤であることを理解できる。
そうすると、当業者は、発明の詳細な説明の記載から、本件発明1~4のウイルス増殖阻害剤(及び当該ウイルス増殖阻害剤を含む飲食品、医薬品又は医薬部外品)により、本件発明の課題を解決できることを、認識することができるといえる。
したがって、本件発明1~4は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
(ウ)申立人は、申立書の11頁で、「ウイルス増殖阻害剤」という言葉には消毒剤が含まれ得るところ、実施例に記載されているのはウイルスの増殖を阻害する実験例のみであり、消毒剤として使用されるには効果が低いから、本件発明はサポート要件を満たさない旨主張する。
しかしながら、すでに、上記1.において、申立理由2(明確性要件違反)についての判断で説示したとおり、 本件発明1~4の「ウイルス増殖阻害剤」を文字のとおりに解釈すれば、ウイルスの増殖を阻害する薬剤であって、これは、対象にウイルスが存在していること、つまり、細胞にウイルスが感染し細胞内にウイルスが入りこんでいることを前提とし、細胞内でウイルスが増殖しないことを意味すると解される。
一方、「消毒剤」は、化学的方法により、体表や環境中の病原性微生物を殺して感染を防止する薬剤であり、これには、感染して細胞内に入り込んだウイルスの細胞内での増殖を防ぐ「ウイルス増殖阻害剤」は含まれないと解される(必要なら、技術常識を示す文献として、「岩波 生物学辞典 第4版」、岩波書店、第4版第5刷発行日2000年3月8日、647頁「消毒」の項目参照)。
そして、「コロナウイルス又はカリシウイルスに対するウイルス増殖阻害剤」及び当該ウイルス増殖阻害剤を含む飲食品、医薬品又は医薬部外品の発明である本件発明1~4が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえることは上記(ア)(イ)で説示したとおりである。
したがって、申立人の主張は採用できない。
エ 小括
よって、本件発明1~4についての申立理由3には理由がない。
3.申立理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)及び申立理由1-2(甲1を主引例とする進歩性欠如)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「インフルエンザウイルスの感染性を阻止するための紅茶エキス」は、ウイルスを阻止(これは、「阻害」と同義)する薬剤であるといえるし、本件発明1の「ウイルス増殖阻害剤」もウイルスを阻害する剤であるから、本件発明1の「コロナウイルス又はカリシウイルスに対するウイルス増殖阻害剤」と甲1発明の「インフルエンザウイルスの感染性を阻止するための紅茶エキス」は、「ウイルスを阻害する剤」である限りにおいて一致する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
ウイルスを阻害する剤。
<相違点1>
ウイルスを阻害する剤が、本件発明1では、「式(I)で表わされるプロアントシアニジンガレート類及び式(II)(合議体注:式(I)及び式(II)の記載、それらの置換基定義の記載は省略する。以下、この決定において同様である。)で表わされるテアシネンシン類から選ばれる1種又は2種以上を有効成分として含有する」ものであると特定されているのに対し、甲1発明では、かかる特定はされておらず、「紅茶エキス」であると特定されている点。
<相違点2>
ウイルスを阻害する剤が、本件発明1では、「コロナウイルス又はカリシウイルスに対するウイルス増殖阻害」のためのものであるのに対し、甲1発明では、「インフルエンザウイルスの感染性を阻止(阻害)するための」ものである点。
イ 申立理由1-1について
上記のとおり、本件発明1と甲1発明は、相違点1及び相違点2で相違しているところ、少なくとも相違点2が実質的な相違点であることは当業者に明らかである。
よって、相違点2で実質的に甲1発明と異なる本件発明1について、甲1発明(甲1に記載された発明)であるということはできない。
ウ 申立理由1-2について
(ア)事案に鑑み、相違点2から検討する。
甲1には、甲1発明の紅茶エキスがコロナウイルス又はカリシウイルスに対するウイルス増殖を阻害することは記載されていないし、インフルエンザウイルスの感染性を阻止するための薬剤であれば、コロナウイルス又はカリシウイルスに対するウイルス増殖を阻害できることが本件特許の出願時の技術常識であったともいえない。
そうすると、当業者は、甲1発明を相違点2に係る本件発明1の構成を有するものとすることを動機付けられるとはいえない。
(イ)一方、本件明細書には、本件発明(本件発明1~4)のウイルス増殖阻害剤に関し、医薬品、サプリメント、飲食品などにも含有させることができ、これらを投与又は摂取することにより、ウイルスの増殖を抑制し、ウイルス感染症の予防又は軽減が期待できることが記載され(【0012】)、本件発明のウイルス増殖阻害剤の有効成分である「式(I)で表わされるプロアントシアニジンガレート類」及び「式(II)で表わされるテアシネンシン類」が、SARSコロナウイルスに対する増殖阻害活性([試験例1](【0050】~【0052】))及びネコカリシウイルスに対する増殖阻害活性([試験例2](【0053】~【0054】))を有することが具体的な試験結果をもって記載されている。さらに、試験例1においては、本件発明の式(I)の化合物(これは、カテキン類の二量体に相当する化合物である。)が、単量体カテキン類であり、IC50が100μm/mLを超える(-)-EC及び(-)-EGCや、100μg/mLでの細胞変性を認める(-)-ECg及び(-)-EGCgとは異なり、高い増殖阻害活性を有すること、及び、式(II)の化合物が、ガロイル基が存在しないものの基本骨格が同じテアシネンシンCに比較して高い増殖阻害活性を有することを示す結果も記載されている(【0050】【表2】)。
そして、これら、本件明細書に記載される、本件発明のウイルス増殖阻害剤が、コロナウイルス又はカリシウイルスのウイルス増殖に対して高い増殖活性を有し、当該ウイルスによる感染症の予防又は軽減ができるという効果は、甲1から当業者が予測できない効果である。
エ 申立人の主張について
(ア)申立人は、上記相違点2(これは、申立人が申立書で記載する相違点2及び3に対応する。)に関し、申立書の9頁で、主に以下の旨主張している。
(主張1)甲1はインフルエンザウイルス、または各種ウイルスに効果があるとしているのに対し、本件発明1は、コロナウイルス又はカリシウイルスに限定している(申立人が申立書の9頁で主張する相違点2)が、甲1をもって、対象のウイルスを「コロナウイルス又はカリシウイルス」に適用することは、当業者であれば容易に想到できるから、この相違点は実質的な相違点ではない。
(主張2)本件発明1では、抗ウイルス効果が「ウイルス増殖阻害」活性であるとし(申立人が申立書で主張する相違点3)、「不活化」を記載した文献との違いを主張している(本件明細書の【0004】)。しかしながら、一般的に「不活化」と「増殖阻害」については、ウイルスが不活化していれば、感染もせず、増殖もしないから、ウイルスが不活化していれば、当然に増殖阻害効果は達成できていることになる。したがって、この点の相違点も実質的な相違点ではない。
(イ)申立人の主張についての検討
まず、主張1について検討する。
申立人の「各種ウイルスに効果がある」との主張に関し、申立人は、申立書の8頁において、その根拠として、甲1の827頁右欄(5~9行)の以下の記載を挙げている。
「緑茶エキス,紅茶エキスおよびこれらから抽出,精製したカテキンが,病原性細菌に対して抗菌活性6)~14),細菌性外毒素に対して抗毒素活性8)13)15)16)および各種ウイルスに対して抗ウイルス活性1)2)17)を有することを我々は報告した.」
しかしながら、甲1の上記記載からは、上記で記載される抗ウイルス活性が、「緑茶エキス」「紅茶エキス」「これらから抽出,精製したカテキン」の全てについて確認された結果であることは理解できない。また、甲1には、上記「各種ウイルス」が、「コロナウイルス又はカリシウイルス」であることは記載されていないし、むしろ、「各種ウイルスに対して抗ウイルス活性」を有することの根拠とされている参考文献1)( Nakayama, M., Toda, M., Okubo, S.&Shimamura, T.: Inhibition of influenza virus infection by tea. Letters Appl. Micrbiol., 11: 38-40, 1990.)、参考文献2)(Nakayama, M., Suzuki, K., Toda, M., Okubo,S., Hara, Y.& Shimamura, T.: Inhibition of the infectivity of influenza viruses by tea polyphenols.Antiviral Res., 21: 289-299, 1993.)、参考文献17)(Mukoyama, A., Ushijima, H., Nishimura, S.,Koike, H., Toda, M., Hara, Y.& Shimamura,T.: Inhibition of rotavirus and enterovirus infections by tea extracts. Jpn. J. Med. Sci.Biol., 44: 181-186, 1991.)によれば、甲1で抗ウイルス活性を有することが報告されているウイルスは、インフルエンザウイルス、ロタウイルス、エンテロウイルスであって、本件発明1の「コロナウイルス又はカリシウイルス」ではない。
そして、インフルエンザウイルス、ロタウイルスあるいはエンテロウイルスウイルスに対する抗ウイルス活性がある薬剤であれば、「コロナウイルス又はカリシウイルス」にも活性があることが出願時の技術常識であるということもできない。
したがって、申立人の主張する相違点2は実質的な相違点であって、上記ウ(ア)で記載したとおり、当業者は、甲1発明の紅茶エキスを「コロナウイルス又はカリシウイルス」に対するウイルス増殖を阻害するものとすることを動機付けられるとはいえない。
よって、上記主張1は採用できない。
主張2について検討する。
上記1.で説示したとおり、「不活化」が「微生物が感染力を失う現象もしくはその処理」を意味することは本願の出願時の技術常識であり、一方、本件発明1の「ウイルス増殖阻害」は、「ウイルスの増殖を阻害する」という意味であり、これは、対象にウイルスが存在していること(つまり、細胞にウイルスが感染して細胞内にウイルスが入りこんでいること)が前提となっていると解されるし、また、本件明細書の記載から、当業者は、本件発明1の「ウイルス増殖阻害剤」が、 感染後のウイルスの増殖を阻害する薬剤であり、これに、「ウイルスの不活化剤」が含まれていないことを明確に理解できることも、上記1.で説示したとおりである。
そうすると、本件発明1の「ウイルス増殖阻害剤」に「ウイルス不活化剤」が含まれることを前提とする主張2は、その前提において誤っており、採用できない。
オ 以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、甲1発明と相違点2で相違する本件発明1について、甲1発明及び甲1の記載から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明2について
ア 本件発明2は、本件発明1において、ウイルス増殖阻害剤の有効成分が、「式(II)で表わされるテアシネンシン類である」点を限定した発明である。
イ そして、本件発明2と甲1発明を対比すると、両者は、少なくとも、上記(1)アで記載した相違点1及び相違点2で相違しているし、上記(1)イで記載したとおり、相違点2は、実質的な相違点である。
よって、本件発明2について、甲1に記載された発明であるということはできない。
ウ 本件発明2と甲1発明とは、少なくとも、上記(1)アで記載した相違点1及び相違点2で相違しているところ、上記(1)ウ(ア)で説示したとおり、当業者は、甲1発明を相違点2に係る本件発明2の構成を有するものとすることを動機付けられるとはいえないし、同(イ)で記載したとおり、本件明細書の記載によれば、本件発明は、甲1から当業者が予測できない効果を奏する。
よって、相違点1について検討するまでもなく、甲1発明と相違点2で相違する本件発明2について、甲1発明及び甲1の記載から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明3について
ア 対比
本件発明3は、「請求項1又は2に記載のウイルス増殖阻害剤を含む、コロナウイルス又はカリシウイルスの増殖を阻害するための飲食品。」であり、請求項1を引用する本件発明3を、請求項1を引用しない形式で記載すると、以下のとおりとなる。
「式(I)で表わされるプロアントシアニジンガレート類及び式(II)で表わされるテアシネンシン類から選ばれる1種又は2種以上を有効成分として含有する、コロナウイルス又はカリシウイルスに対するウイルス増殖阻害剤を含む、コロナウイルス又はカリシウイルスの増殖を阻害するための飲食品。」
そして、本件発明3の「コロナウイルス又はカリシウイルスの増殖を阻害するための飲食品」は「ウイルスを阻害するためのもの」であるし、甲1発明の「インフルエンザウイルスの感染性を阻止するための紅茶エキス」も、「ウイルスを阻害するためのもの」であるといえるから、上記(1)アにおける本件発明1と甲1発明との対比も踏まえて、本件発明3と甲1発明とを対比すると、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点3~5で相違する。
<一致点>
ウイルスを阻害するためのもの。
<相違点3>
ウイルスを阻害するためのものが、本件発明3では、「式(I)で表わされるプロアントシアニジンガレート類及び式(II)で表わされるテアシネンシン類から選ばれる1種又は2種以上を有効成分として含有する、コロナウイルス又はカリシウイルスに対するウイルス増殖阻害剤を含む」ものであると特定されているのに対し、甲1発明では、かかる特定はされていない点。
<相違点4>
ウイルスを阻害するためのものが、本件発明3では、「コロナウイルス又はカリシウイルスの増殖を阻害するため」のものであるのに対し、甲1発明では、「インフルエンザウイルスの感染性を阻止(阻害)するための」ものである点。
<相違点5>
ウイルスを阻害するためのものが、本件発明3では、「飲食品」の形態であるのに対し、甲1発明では、「紅茶エキス」である点。
イ 申立理由1-1について
上記のとおり、本件発明3と甲1発明は、相違点3~5で相違しているところ、少なくとも相違点4が実質的な相違点であることは当業者に明らかである。
よって、本件発明3について、甲1発明(甲1に記載された発明)であるということはできない。
ウ 申立理由1-2について
(ア)事案に鑑み、相違点4から検討する。
甲1には、甲1発明の紅茶エキスがコロナウイルス又はカリシウイルスのウイルス増殖を阻害することは記載されていないし、インフルエンザウイルスの感染性を阻止するための薬剤であれば、コロナウイルス又はカリシウイルスのウイルス増殖を阻害できることが本件特許の出願時の技術常識であったともいえない。
そうすると、当業者は、甲1発明を相違点4に係る本件発明3の構成を有するものとすることを動機付けられるとはいえない。
(イ)一方、本件明細書の[試験例1](【0050】~【0052】)及び[試験例2](【0053】~【0054】)には、上記(1)ウ(イ)で記載したとおりの記載があり、本件明細書の記載から、当業者は、本件発明3のウイルス増殖阻害剤がコロナウイルス又はカリシウイルスのウイルス増殖に対して高い増殖活性を有することを理解できるし、また、【0012】及び【0033】に、本件発明3のウイルス増殖阻害剤を飲食品に含ませることができる旨が記載されているから、当業者は、本件発明3のウイルス増殖阻害剤を含む、相違点3~5を備えた本件発明3の飲食品が、コロナウイルス又はカリシウイルスの増殖を阻害でき、これらのウイルスによる感染症の予防又は軽減ができるという効果が奏されることを理解できる。
そして、これらの効果は、甲1から当業者が予測できない効果である。
(ウ)よって、他の相違点について検討するまでもなく、相違点4で甲1発明と相違する本件発明3について、甲1発明及び甲1の記載から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件発明4について
ア 対比
本件発明4は、「請求項1又は2に記載のウイルス増殖阻害剤を含む、コロナウイルス又はカリシウイルスの増殖を阻害するための医薬品又は医薬部外品。」であり、請求項1を引用する本件発明4を、請求項1を引用しない形式で記載すると、以下のとおりとなる。
「式(I)で表わされるプロアントシアニジンガレート類及び式(II)で表わされるテアシネンシン類から選ばれる1種又は2種以上を有効成分として含有する、コロナウイルス又はカリシウイルスに対するウイルス増殖阻害剤を含む、コロナウイルス又はカリシウイルスの増殖を阻害するための医薬品又は医薬部外品。」
そして、本件発明4の「コロナウイルス又はカリシウイルスの増殖を阻害するための医薬品又は医薬部外品」は「ウイルスを阻害するためのもの」であるし、甲1発明の「インフルエンザウイルスの感染性を阻止するための紅茶エキス」も、「ウイルスを阻害するためのもの」であるといえるから、上記(1)アにおける本件発明1と甲1発明との対比も踏まえて、本件発明4と甲1発明とを対比すると、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点3’~5’で相違する。
<一致点>
ウイルスを阻害するためのもの。
<相違点3’>
ウイルスを阻害するためのものが、本件発明4では、「式(I)で表わされるプロアントシアニジンガレート類及び式(II)で表わされるテアシネンシン類から選ばれる1種又は2種以上を有効成分として含有する、コロナウイルス又はカリシウイルスに対するウイルス増殖阻害剤を含む」ものであると特定されているのに対し、甲1発明では、かかる特定はされておらず、「紅茶エキス」であると特定されている点。
<相違点4’>
ウイルスを阻害するためのものが、本件発明4では、「コロナウイルス又はカリシウイルスの増殖を阻害するため」のものであるのに対し、甲1発明では、「インフルエンザウイルスの感染性を阻止(阻害)するため」のものである点。
<相違点5’>
ウイルスを阻害するためのものが、本件発明4では、「医薬品又は医薬部外品」の形態であるのに対し、甲1発明では、「紅茶エキス」である点。
イ 申立理由1-1について
上記のとおり、本件発明4と甲1発明は、相違点3’~5’で相違しているところ、少なくとも相違点4’が実質的な相違点であることは当業者に明らかである。
よって、本件発明4について、甲1発明(甲1に記載された発明)であるということはできない。
ウ 申立理由1-2について
(ア)事案に鑑み、相違点4’から検討する。
甲1には、甲1発明の紅茶エキスがコロナウイルス又はカリシウイルスのウイルス増殖を阻害することは記載されていないし、インフルエンザウイルスの感染性を阻止するための薬剤であれば、コロナウイルス又はカリシウイルスのウイルス増殖を阻害できることが本件特許の出願時の技術常識であったともいえない。
そうすると、当業者は、甲1発明を相違点4’に係る本件発明4の構成を有するものとすることを動機付けられるとはいえない。
(イ)一方、本件明細書の[試験例1](【0050】~【0052】)及び[試験例2](【0053】~【0054】)、並びに【0012】には、上記(1)ウ(イ)で記載したとおりの記載があり、本件明細書の記載から、当業者は、本件発明4のウイルス増殖阻害剤がコロナウイルス又はカリシウイルスのウイルス増殖に対して高い増殖活性を有することを理解できるし、また、【0032】に、本件発明4のウイルス増殖阻害剤を錠剤等の形態や外用製剤の形態として、経口的あるいは非経口的に、ヒトを含む哺乳動物に投与することで、ウイルス感染症の予防・治療等が期待できる旨が記載されているから、当業者は、相違点3’~5’を備えた本件発明4の医薬品又は医薬部外品により、コロナウイルス又はカリシウイルスの増殖を阻害でき、コロナウイルス又はカリシウイルスによるウイルス感染症の予防・治療が行えることを理解できる。
そして、これらの効果は、甲1から当業者が予測できない効果である。
(ウ)よって、他の相違点について検討するまでもなく、相違点4’で甲1発明と相違する本件発明4について、甲1発明及び甲1の記載から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)小括
以上のとおりであるから、本件発明1~4についての申立理由1-1及び申立理由1-2には理由がない。
第6 むすび
以上のとおり、申立理由1(申立理由1-1及び申立理由1-2)、申立理由2及び申立理由3にはいずれも理由がなく、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700831