特許異議申立
2022-700899
遊技機
- 審判番号
- 2022-700899
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-235384
- 登録番号
- 7034693
- 請求日
- 2022年09月13日
- 審決日
- 2023年10月10日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社三共
- 【権利者代理人】木村 満
- 【権利者代理人】桜田 圭
- 【権利者代理人】杉本 和之
- 【権利者代理人】鈴木 洋雅
- 【権利者代理人】宮本 一浩
- 【異議申立人】日本電動式遊技機特許 株式会社
- 【異議申立人代理人】黒田 博道
- 審判長/審判官
- 審判長 長井 真一
- 審判官 ▲吉▼川 康史
- 審判官 藤澤 和浩
- 分類
- P1651.537-YAA(A63F) / P1651.55 -YAA(A63F) / P1651.572-YAA(A63F) / P1651.574-YAA(A63F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第17条の2第3項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第123条第1項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7034693号発明「遊技機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7034693号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。
特許第7034693号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7034693号(以下「本件特許」という。)は、平成29年12月7日に出願されたものであって(特願2017-235384)、令和4年3月4日に特許権の設定登録がなされ、同月14日にその特許掲載公報が発行された。
その後、同年9月13日に、特許異議申立人である日本電動式遊技機特許株式会社(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年11月22日付けで取消理由が通知され、特許権者からその指定期間内である令和5年1月26日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年2月15日付けで訂正拒絶理由が通知されたものの、特許権者からその指定期間内に応答がなかった。
その後、同年4月12日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、特許権者からその指定期間内である同年6月14日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年7月25日に申立人による意見書の提出がされたものである。
なお、特許権者が令和5年6月14日に提出した訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされたことにより、同年1月26日に提出した訂正請求書による訂正の請求は取り下げられたものとみなす(特許法第120条の5第7項)。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正することを求める、というものである。
請求人が求めている訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「遊技を行う遊技機であって、」の後に「数値を記憶する数値記憶手段と、」との記載を加える。
(2)訂正事項2
上記訂正事項1の「数値を記憶する数値記憶手段と、」の後に「前記数値記憶手段に記憶される数値である記憶数値に対応する数値である表示数値を表示する数値表示手段と、」との記載を加える。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、
「数値を更新する数値更新手段と、」と記載されているのを、
「前記数値記憶手段に記憶される前記記憶数値を更新するとともに、前記数値表示手段に表示される前記表示数値を更新する数値更新手段と、」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記数値更新手段が更新した数値に基づいて特典を付与するか否かを決定する特典付与決定手段と、」と記載されているのを、
「前記数値更新手段が更新した前記記憶数値に基づいて、特典を付与するか否かを決定する特典付与決定手段と、」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記数値更新手段は、所定タイミングに複数回数値を更新するときと、所定期間に亘って複数回数値を更新するときと、があり、
前記前兆演出実行制御手段は、前記所定タイミングに複数回数値が更新されて特定数値となったとき、前記所定期間に亘って複数回数値が更新されて前記特定数値となったときとは異なる制御態様で前記前兆演出の実行を制御する、遊技機。」と記載されているのを、
「前記数値更新手段は、一のゲームが開始するタイミングに前記表示数値を複数回更新するときと、複数回のゲームに亘って前記表示数値を複数回更新するときと、があり、
前記前兆演出実行制御手段は、前記一のゲームが開始するタイミングに前記表示数値が複数回更新されて特定数値となったとき、前記複数回のゲームに亘って前記表示数値が複数回更新されて前記特定数値となったときとは異なる制御態様で前記前兆演出の実行を制御する、遊技機。」に訂正する。
(6)訂正事項6
願書に添付した明細書の【0007】において、
「上記目的を達成するため、本発明に係る遊技機は、
遊技を行う遊技機であって、
数値を更新する数値更新手段と、
前記数値更新手段が更新した数値に基づいて特典を付与するか否かを決定する特典付与決定手段と、
前記特典が付与される可能性がある旨を報知する前兆演出の実行を制御する前兆演出実行制御手段とを備え、
前記数値更新手段は、所定タイミングに複数回数値を更新するときと、所定期間に亘って複数回数値を更新するときと、があり、
前記前兆演出実行制御手段は、前記所定タイミングに複数回数値が更新されて特定数値となったとき、前記所定期間に亘って複数回数値が更新されて前記特定数値となったときとは異なる制御態様で前記前兆演出の実行を制御する。
(1)上記目的を達成するため、本発明の他の遊技機は、
遊技を行う遊技機(例えば、スロットマシン1)であって、
所定条件(例えば、メイン制御部41が1000ポイントを蓄積する条件)が成立したときに、特典(例えば、ATの制御)を付与するか否かを決定する特典付与決定手段(例えば、メイン制御部41が1000ポイントを蓄積する度にAT抽選を行う処理)と、
前記特典が付与される可能性がある旨を報知する前兆演出(例えば、枠ランプ61の点灯演出、各示唆演出の示唆ゲーム表示、AT抽選結果示唆演出、チャンスアップ示唆演出、キャラ登場演出、特訓演出、バトル演出)の実行を制御する前兆演出実行制御手段(例えば、サブ制御部91が実行するステップSc1~13、Sd1~Sd8、Sc51、Sc52、Se1~Se6、Sc101~Sc106、Sc151~Sc153の処理)とを備え、
前記所定条件は、所定タイミングに複数回成立するときと、所定期間に亘って複数回成立するときとがあり(例えば、メイン制御部41が一度に5000ポイント蓄積するときと、3ゲーム以内に1000ポイントずつ蓄積するときとがあり)、
前記前兆演出実行制御手段は、前記所定条件が前記所定タイミングに複数回成立したときには、前記所定条件が前記所定期間に亘って複数回成立したときとは異なる制御態様で前記前兆演出の実行を制御する(例えば、サブ制御部91がステップSc1~13、Sc51、Sc52、Se1~Se6、Sc101~Sc106、Sc151~Sc153の処理を実行する)。」と記載されているのを、
「上記目的を達成するため、本発明に係る遊技機は、
遊技を行う遊技機であって、
数値を記憶する数値記憶手段と、
前記数値記憶手段に記憶される数値である記憶数値に対応する数値である表示数値を表示する数値表示手段と、
前記数値記憶手段に記憶される前記記憶数値を更新するとともに、前記数値表示手段に表示される前記表示数値を更新する数値更新手段と、
前記数値更新手段が更新した前記記憶数値に基づいて、特典を付与するか否かを決定する特典付与決定手段と、
前記特典が付与される可能性がある旨を報知する前兆演出の実行を制御する前兆演出実行制御手段とを備え、
前記数値更新手段は、一のゲームが開始するタイミングに前記表示数値を複数回更新するときと、複数回のゲームに亘って前記表示数値を複数回更新するときと、があり、
前記前兆演出実行制御手段は、前記一のゲームが開始するタイミングに前記表示数値が複数回更新されて特定数値となったとき、前記複数回のゲームに亘って前記表示数値が複数回更新されて前記特定数値となったときとは異なる制御態様で前記前兆演出の実行を制御する。
(1)上記目的を達成するため、本発明の他の遊技機は、
遊技を行う遊技機(例えば、スロットマシン1)であって、
所定条件(例えば、メイン制御部41が1000ポイントを蓄積する条件)が成立したときに、特典(例えば、ATの制御)を付与するか否かを決定する特典付与決定手段(例えば、メイン制御部41が1000ポイントを蓄積する度にAT抽選を行う処理)と、
前記特典が付与される可能性がある旨を報知する前兆演出(例えば、枠ランプ61の点灯演出、各示唆演出の示唆ゲーム表示、AT抽選結果示唆演出、チャンスアップ示唆演出、キャラ登場演出、特訓演出、バトル演出)の実行を制御する前兆演出実行制御手段(例えば、サブ制御部91が実行するステップSc1~13、Sd1~Sd8、Sc51、Sc52、Se1~Se6、Sc101~Sc106、Sc151~Sc153の処理)とを備え、
前記所定条件は、所定タイミングに複数回成立するときと、所定期間に亘って複数回成立するときとがあり(例えば、メイン制御部41が一度に5000ポイント蓄積するときと、3ゲーム以内に1000ポイントずつ蓄積するときとがあり)、
前記前兆演出実行制御手段は、前記所定条件が前記所定タイミングに複数回成立したときには、前記所定条件が前記所定期間に亘って複数回成立したときとは異なる制御態様で前記前兆演出の実行を制御する(例えば、サブ制御部91がステップSc1~13、Sc51、Sc52、Se1~Se6、Sc101~Sc106、Sc151~Sc153の処理を実行する)。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正の目的の適否
ア 訂正事項1~4について
(ア)訂正前の特許請求の範囲の請求項1において、「数値更新手段」が「更新する」「数値」について、次のa、bの特定がなされている。
a 「前記数値更新手段が更新した数値に基づいて特典を付与するか否かを決定する特典付与決定手段と、」
b 「前記数値更新手段は、所定タイミングに複数回数値を更新するときと、所定期間に亘って複数回数値を更新するときと、があり、」
(イ)訂正前の特許請求の範囲の請求項1の上記(ア)a、bに示した発明特定事項に対応する実施例について検討する。なお、下線は当審において付した。
a 訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「前記数値更新手段が更新した数値に基づいて特典を付与するか否かを決定する特典付与決定手段」に対応する実施例について、本件特許の願書に添付した明細書又は図面には次の事項が記載されている。
「【0035】
[AT当選の前兆演出について]
サブ制御部91は、メイン制御部41によってAT抽選が行われた後に、前兆演出を実行することが可能となっている。本実施形態では、メイン制御部41は、チェリーやスイカ等のレア役やリプレイに内部当選したことに基づいてポイントを蓄積し、特定ポイントの一例として1000ポイントを蓄積する度にAT抽選を行う。また、サブ制御部91は、メイン制御部41に特定ポイントが蓄積される度に後述するポイント表示演出を実行するとともに、前兆演出を実行するか否かを決定することが可能となっている。
【0036】
メイン制御部41は、図6に示すポイント蓄積処理を実行する。先ず、メイン制御部41は、レア役やリプレイに内部当選可能な遊技状態(例えば、通常遊技状態)において内部抽選処理が行われたか否かを判定することにより、ポイントを蓄積してAT抽選を行うことが可能な状態であるか否かを判別する(ステップSa1)。・・・メイン制御部41は、レア役に内部当選した場合(ステップSa2;Y)、ポイント数選択テーブルを用いて蓄積するポイント数を選択し(ステップSa3)、図示しないRAMに選択したポイント数を蓄積(記憶)する(ステップSa4)。ここで、ポイント数選択テーブルとは、蓄積するポイント数を選択するためのテーブルである。本実施形態のポイント数選択テーブルでは、図7(A)に示すように、内部当選役がレア役のときに、1000ポイントの選択率が90%、5000ポイントの選択率が10%となるように設定されている。よって、本実施形態では、レア役に内部当選したときには一度に5000ポイント蓄積される可能性があり、一度に5回のAT抽選が行われる可能性がある。
【0037】
図6に戻り、メイン制御部41は、レア役に内部当選していない場合(ステップSa2;N)リプレイに内部当選したか否かを判定する(ステップSa5)。メイン制御部41は、リプレイに内部当選した場合(ステップSa5;Y)、ポイントが既に蓄積されているか否かを判定する(ステップSa6)。メイン制御部41は、ポイントが既に蓄積されていない場合(ステップSa6;N)、ポイント付与抽選テーブルを用いてポイントを付与するか否かを抽選し(ステップSa7)、ポイントを付与するか否かの抽選に当選したか否かを判定する(ステップSa8)。ここで、ポイント付与抽選テーブルとは、ポイントを付与するか否かを抽選するためのテーブルである。本実施形態のポイント付与抽選テーブルでは、図7(B)に示すように、内部当選役がリプレイのときに抽選に5%の割合で当選して95%の割合で非当選となるように当選率が予め設定されている。
図6に戻り、メイン制御部41は、ポイントが既に蓄積されている場合(ステップSa6;Y)、または、ポイントを蓄積するか否かの抽選に当選した場合(ステップSa8;Y)、1000ポイントを蓄積する(ステップSa9)。
【0038】
ポイント蓄積後、または、ポイントが蓄積されなかった場合、すなわち、ポイントを蓄積するか否かの抽選に当選しなかった場合(ステップSa8;N)、メイン制御部41は、前回のポイント蓄積から3ゲームが経過したか否かを判定し(ステップSa10)、前回のポイント蓄積から3ゲームが経過していない場合(ステップSa10;N)、5000ポイント以上蓄積したか否かを判定する(ステップSa11)。メイン制御部41は、5000ポイント以上蓄積していない場合(ステップSa11;N)、処理を終了する。一方、メイン制御部41は、前回のポイント蓄積から3ゲームが経過した場合(ステップSa10;Y)、または、5000ポイント以上蓄積した場合(ステップSa11;Y)、ポイント蓄積を0ポイントにリセットし(ステップSa12)、処理を終了する。」
「
[図:0001406678000001.jpg]
」
上記の記載より、本件特許の願書に添付された明細書又は図面には、メイン制御部41が実行するポイント蓄積処理について、
メイン制御部41は、レア役に内部当選した場合、ポイント数選択テーブルを用いて蓄積するポイント数を選択しRAMに選択したポイント数を蓄積するものであり、ポイント数選択テーブルでは、内部当選役がレア役のときに、1000ポイントの選択率が90%、5000ポイントの選択率が10%となるように設定され、レア役に内部当選したときには一度に5000ポイント蓄積される可能性があり、
メイン制御部41は、リプレイに内部当選した場合、ポイントが既に蓄積されているか否かを判定して、ポイントが既に蓄積されている場合、または、ポイントが蓄積されていない場合においてポイントを付与するか否かの抽選に当選した場合、1000ポイントを蓄積し、
前回のポイント蓄積から3ゲームが経過するか又は5000ポイント以上蓄積するまでリセットせずにポイントを蓄積するという実施例が記載されているといえる。
b 訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「前記数値更新手段は、所定タイミングに複数回数値を更新するときと、所定期間に亘って複数回数値を更新するときと、があ」ることに対応する実施例について、本件特許の願書に添付した明細書又は図面には次の事項が記載されている。
「【0040】
また、サブ制御部91は、図8に示すポイント表示演出実行処理を実行する。先ず、サブ制御部91は、メイン制御部41から受信したコマンドに基づいて、メイン制御部41がレア役やリプレイに内部当選してポイントを蓄積したか否かを判定する(ステップSb1)。なお、このように制御するために、本実施形態のメイン制御部41は、ポイントを蓄積したことや蓄積したポイント数を特定可能な情報を含むコマンド(例えば、内部当選コマンドや遊技状態コマンド等)をサブ制御部91に送信する必要がある。サブ制御部91は、メイン制御部41がポイントを蓄積していない場合(ステップSb1;N)、ポイントを蓄積するまでステップSb1の処理を繰り返し、メイン制御部41がポイントを蓄積した場合(ステップSb1;Y)、レア役に内部当選して一度に5000ポイントを蓄積したか否かを判定する(ステップSb2)。サブ制御部91は、一度に5000ポイントを蓄積していない場合(ステップSb2;N)、1000ポイント増加する単発演出を実行し(ステップSb3)、処理を終了する一方、一度に5000ポイントを蓄積した場合(ステップSb2;Y)、5000ポイントまで1000ポイントずつ増加する連続演出を実行し(ステップSb4)、処理を終了する。
【0041】
ここで、ポイント表示演出とは、蓄積されたポイント数を表示する演出である。本実施形態のポイント表示演出は、図9に示すように、蓄積されたポイント数を液晶表示器51の表示領域左側上部に表示する演出であり、1000ポイント蓄積される度に、1000ポイント(図9(A)参照)、2000ポイント(図9(B)参照)、3000ポイント(図9(C)参照)、4000ポイント(図9(D)参照)、5000ポイント(図9(E)参照)の各画像を表示し、5000ポイント以上蓄積されてポイント数が0ポイントにリセットされると表示を終了する演出である。よって、本実施形態では、例えば、ポイント表示演出として0ポイントから1000ポイント増加する単発演出を実行するときには、図9(A)に示す画像を表示する。また、本実施形態では、例えば、ポイント表示演出として0ポイントから5000ポイントまで1000ポイントずつ増加する連続演出を実行するときには、図9(A)~図9(E)に示す画像を順番に表示する。」
上記の記載より、本件特許の願書に添付された明細書又は図面には、サブ制御部91が実行するポイント表示演出実行処理について、
ポイント表示演出は、蓄積されたポイント数を液晶表示器51の表示領域左側上部に表示する演出であり、1000ポイント蓄積される度に、1000ポイント、2000ポイント、3000ポイント、4000ポイント、5000ポイントの各画像を表示し、5000ポイント以上蓄積されてポイント数が0ポイントにリセットされると表示を終了する演出であり、
サブ制御部91は、メイン制御部41から受信したコマンドに基づいて、メイン制御部41がレア役やリプレイに内部当選してポイントを蓄積したか否かを判定し、一度に5000ポイントを蓄積していない場合、1000ポイント増加する単発演出を実行する一方、一度に5000ポイントを蓄積した場合、5000ポイントまで1000ポイントずつ増加する連続演出を実行するという実施例が記載されているといえる。
(ウ)そうすると、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「数値更新手段」が「更新する」「数値」についてみれば、本件特許の願書に添付した明細書又は図面に記載された実施例の「メイン制御部41が実行するポイント蓄積処理」におけるメイン制御部41が蓄積したポイント数、及び、「サブ制御部91が実行するポイント表示演出実行処理」により実行されるポイント表示演出で表示される蓄積されたポイント数のいずれもが対応すると認められる。
しかし、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「数値更新手段」が、本件特許の願書に添付した明細書又は図面に記載された実施例の「メイン制御部41」及び「サブ制御部91」が具備するポイントに関わる上記処理の機能を併せたものであり、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「数値」が、メイン制御部41が蓄積したポイント数及びポイント表示演出で表示される蓄積されたポイント数のいずれも包含したものであることが特許請求の範囲の記載から直ちに理解することが困難であったため、訂正前の特許請求の範囲の請求項1と本件特許の願書に添付した明細書又は図面の記載との関係で不合理を生じて不明瞭となっていた。
そこで、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「数値更新手段」及び「数値」という記載の本来の意味を明らかにするために、「数値」が「記憶数値」及び「表示数値」の2種類の数値であることを限定するとともに(訂正事項2、3)、「数値を記憶する数値記憶手段」(訂正事項1)及び「前記数値記憶手段に記憶される数値である記憶数値に対応する数値である表示数値を表示する数値表示手段」(訂正事項2)を備えることを限定し、「数値更新手段」が、「前記数値記憶手段に記憶される前記記憶数値を更新するとともに、前記数値表示手段に表示される前記表示数値を更新する」(訂正事項3)ことを限定し、さらに、「特典付与決定手段」による特典を付与するか否かの決定が、「記憶数値」に基づいてなされることを限定する(訂正事項4)ことにより不合理を解消するものである。
したがって、訂正事項1~4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 訂正事項5について
訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「前記数値更新手段は、所定タイミングに複数回数値を更新するときと、所定期間に亘って複数回数値を更新するときと、があり、」という記載は、「所定タイミング」は、「所定の期間に亘」るものと区別されることからみて、1つの時期を意味していると解されるので、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「数値」の「更新」について、「所定タイミング」であることと、「複数回」であることとは矛盾しているように解され、整合的に理解し難いものであった。
訂正事項5は、上記記載の矛盾を解消するために、上記ア(ウ)で検討した、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「数値更新手段」及び「数値」という記載の本来の意味を明らかにするために、「所定タイミング」が「一のゲームが開始するタイミング」であることを限定し、「所定期間」が「複数回のゲーム」であることを限定するとともに、「数値」が「記憶数値」及び「表示数値」の2種類の数値であることを限定する(訂正事項2、3)ことに伴って、「数値」が、「記憶数値」及び「表示数値」のうち、「表示数値」であることを限定するものである。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
ウ 訂正事項6について
訂正事項6は、訂正事項1~訂正事項5に係る訂正により、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0007】の記載が請求項1の記載と整合が取れなくなったことを是正するものである。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
エ 小括
上記ア~ウより、本件訂正請求による訂正事項1~5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、訂正事項6は同法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(2)新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)の【0035】に、
「[AT当選の前兆演出について]
サブ制御部91は、メイン制御部41によってAT抽選が行われた後に、前兆演出を実行することが可能となっている。本実施形態では、メイン制御部41は、チェリーやスイカ等のレア役やリプレイに内部当選したことに基づいてポイントを蓄積し、特定ポイントの一例として1000ポイントを蓄積する度にAT抽選を行う。」と記載されているから、訂正事項1は、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとともに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
イ 訂正事項2~4について
訂正事項2~4は、上記(1)ア(イ)a、bで摘記した明細書等の【0035】~【0038】、【0040】、【0041】、【図6】の記載に基づき、上記(1)ア(ウ)に示したとおり、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「数値更新手段」及び「数値」という記載の本来の意味を明らかにするために、「数値」が「記憶数値」及び「表示数値」の2種類の数値であることを限定するとともに(訂正事項2、3)、・・・「前記数値記憶手段に記憶される数値である記憶数値に対応する数値である表示数値を表示する数値表示手段」(訂正事項2)を備えることを限定し、「数値更新手段」が、「前記数値記憶手段に記憶される前記記憶数値を更新するとともに、前記数値表示手段に表示される前記表示数値を更新する」(訂正事項3)ことを限定し、さらに、「特典付与決定手段」による特典を付与するか否かの決定が、「記憶数値」に基づいてなされることを限定する(訂正事項4)ことにより不合理を解消するものであるから、訂正事項2~4は、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとともに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
よって、訂正事項2~4は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
ウ 訂正事項5について
(ア)明細書等の【0027】に「ゲームが開始可能な状態でスタートスイッチ7の操作(スタート操作、レバーオン)が行われると」と、【0032】に「また、メイン制御部41は、ゲーム制御処理を行って1回のゲームを制御する。ゲーム制御処理では、・・・スタート操作が行われると乱数抽選により入賞の発生を許容するか否かを決定する内部抽選処理が行われる。」と、【0033】に「また、メイン制御部41は、内部抽選処理実行中において、AT抽選処理を行い、」と記載され、
【0054】に「また、メイン制御部41は、レア役に内部当選したときに一度に5000ポイント蓄積すると一度に5回のAT抽選を繰り返し行うようになっている。このとき、サブ制御部91は、ポイント表示演出および前兆演出を実行する。」と、【0055】に「例えば、図14に示すポイント表示演出および前兆演出の実行例2のように、レア役当選して5000ポイント蓄積した場合について考える。・・・この場合、図14(A)に示すように、第1タイミング(1回目のAT抽選実行時)には1000ポイント蓄積を表示するポイント表示演出(連続演出)が実行され、枠ランプ61の点灯演出(青色点灯)が開始され、12個目および20個目のLEDが赤色で点灯される各示唆演出の示唆ゲーム表示がなされる。そして、ポイント表示演出は、連続演出であるため、第2タイミング(2回目のAT抽選実行時)に2000ポイント蓄積が表示され(図14(B)参照)、第3タイミング(3回目のAT抽選実行時)に3000ポイント蓄積が表示され(図14(C)参照)、第4タイミング(4回目のAT抽選実行時)に4000ポイント蓄積が表示され(図14(D)参照)、第5タイミング(5回目のAT抽選実行時)に5000ポイント蓄積が表示される(図14(E)参照)。・・・」と記載されているから、
明細書等には、
メイン制御部41は、ゲームが開始可能な状態でスタートスイッチ7の操作が行われると乱数抽選により入賞の発生を許容するか否かを決定する内部抽選処理が行われ、内部抽選処理実行中において、AT抽選処理を行い、レア役に内部当選したときに一度に5000ポイント蓄積すると一度に5回のAT抽選を繰り返し行うようになっていて、
このとき、サブ制御部91は、ポイント表示演出および前兆演出を実行し、第1タイミング(1回目のAT抽選実行時)には1000ポイント蓄積を表示するポイント表示演出(連続演出)が実行され、ポイント表示演出は、連続演出であるため、第2タイミング(2回目のAT抽選実行時)に2000ポイント蓄積が表示され、第3タイミング(3回目のAT抽選実行時)に3000ポイント蓄積が表示され、第4タイミング(4回目のAT抽選実行時)に4000ポイント蓄積が表示され、第5タイミング(5回目のAT抽選実行時)に5000ポイント蓄積が表示されるという実施例が記載されている。
そうすると、明細書等に記載の実施例の「メイン制御部41」及び「サブ制御部91」は、訂正事項5の「数値更新手段」に対応している。
そして、明細書等に記載の実施例において、「メイン制御部41」が、「スタートスイッチ7の操作が行われ」て、「レア役に内部当選したときに一度に5000ポイント蓄積すると一度に5回のAT抽選を繰り返し行う」「内部抽選処理実行中」の「AT抽選処理」を行うときに、「サブ制御部91は、ポイント表示演出および前兆演出を実行し、第1タイミング(1回目のAT抽選実行時)には1000ポイント蓄積を表示するポイント表示演出(連続演出)が実行され、ポイント表示演出は、連続演出であるため、第2タイミング(2回目のAT抽選実行時)に2000ポイント蓄積が表示され、第3タイミング(3回目のAT抽選実行時)に3000ポイント蓄積が表示され、第4タイミング(4回目のAT抽選実行時)に4000ポイント蓄積が表示され、第5タイミング(5回目のAT抽選実行時)に5000ポイント蓄積が表示される」ことは、訂正事項5の「一のゲームが開始するタイミングに前記表示数値を複数回更新するとき」があることに対応している。
(イ)加えて、明細書等の【0052】に「例えば、図13に示すポイント表示演出および前兆演出の実行例1のように、1ゲーム目にレア役当選して1000ポイントが蓄積し、3ゲーム目、5ゲーム目、6ゲーム目、7ゲーム目にそれぞれリプレイに内部当選して5000ポイントまで1000ポイントずつ蓄積した場合について考える。・・・この場合、図13(A)に示すように、1ゲーム目(1回目のAT抽選実行時)には1000ポイント蓄積を表示するポイント表示演出(単発演出)が実行され、図13(B)に示すように、3ゲーム目(2回目のAT抽選実行時)には2000ポイント蓄積を表示するポイント表示演出が実行される一方、前兆演出としての枠ランプ61の点灯演出が実行されない。・・・」と記載され、【0053】に「また、図13(D)に示すように、6ゲーム目(4回目のAT抽選実行時)には4000ポイント蓄積を表示するポイント表示演出が実行されるとともに、20個目のLEDの点灯色が緑色から赤色に変更され、1個目のLEDが消灯される。このとき、遊技者は、AT抽選結果示唆演出の示唆ゲーム表示が変更されたことにより、AT抽選に当選している可能性が更に高くなっており、20ゲーム目にAT抽選結果示唆演出としてAT当選示唆演出が実行される可能性が高いことを認識できる。
そして、図13(E)に示すように、7ゲーム目(5回目のAT抽選実行時)には5000ポイント蓄積を表示するポイント表示演出が実行されるとともに、12個目のLEDの点灯色が青色から赤色に変更されるチャンスアップ示唆演出の示唆ゲーム表示がなされ、2個目のLEDが消灯される。・・・」と記載されているから、
明細書等には、
1ゲーム目にレア役当選して1000ポイントが蓄積し、3ゲーム目、5ゲーム目、6ゲーム目、7ゲーム目にそれぞれリプレイに内部当選して5000ポイントまで1000ポイントずつ蓄積した場合、1ゲーム目(1回目のAT抽選実行時)には1000ポイント蓄積を表示するポイント表示演出(単発演出)が実行され、3ゲーム目(2回目のAT抽選実行時)には2000ポイント蓄積を表示するポイント表示演出が実行され、6ゲーム目(4回目のAT抽選実行時)には4000ポイント蓄積を表示するポイント表示演出が実行され、7ゲーム目(5回目のAT抽選実行時)には5000ポイント蓄積を表示するポイント表示演出が実行されるという実施例が記載されている。
明細書等に記載の実施例の「1ゲーム目(1回目のAT抽選実行時)には1000ポイント蓄積を表示するポイント表示演出(単発演出)が実行され、3ゲーム目(2回目のAT抽選実行時)には2000ポイント蓄積を表示するポイント表示演出が実行され、6ゲーム目(4回目のAT抽選実行時)には4000ポイント蓄積を表示するポイント表示演出が実行され、7ゲーム目(5回目のAT抽選実行時)には5000ポイント蓄積を表示するポイント表示演出が実行される」ことは、訂正事項5の「複数回のゲームに亘って前記表示数値を複数回更新するとき」があることに対応している。
(ウ)そうすると、訂正事項5の「前記数値更新手段は、一のゲームが開始するタイミングに前記表示数値を複数回更新するときと、複数回のゲームに亘って前記表示数値を複数回更新するときと、があり、」という事項は、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(エ)また、「前兆演出の実行を制御する」「前兆演出実行制御手段」について、「前記一のゲームが開始するタイミングに前記表示数値が複数回更新されて特定数値となったとき、前記複数回のゲームに亘って前記表示数値が複数回更新されて前記特定数値となったときと」があることを訂正した点についても、上記(ア)、(イ)と同様である。
(オ)してみれば、訂正事項5は、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとともに、上記(1)イに示したとおり、訂正事項5は、本件特許発明の「数値更新手段」及び「数値」という記載の本来の意味を明らかにするために、「所定タイミング」が「一のゲームが開始するタイミング」であり、「所定期間」が「複数回のゲーム」であることを限定するとともに、「数値」が「記憶数値」及び「表示数値」の2種類の数値であることを限定する(訂正事項2、3)ことに伴って、「数値」が、「記憶数値」及び「表示数値」のうち、「表示数値」であることを限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項6について
訂正事項6は、訂正事項1~訂正事項5に係る訂正により、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0007】の記載が請求項1の記載と整合が取れなくなったことを是正するものであるから、訂正事項1~訂正事項5と同様に、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとともに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)小括
上記(1)、(2)で検討したとおり、本件訂正請求による訂正事項1~6は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1について訂正を認める。
第3 本件発明について
1 本件発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項1について本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1に係る発明は、本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、本件特許の請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。
「遊技を行う遊技機であって、
数値を記憶する数値記憶手段と、
前記数値記憶手段に記憶される数値である記憶数値に対応する数値である表示数値を表示する数値表示手段と、
前記数値記憶手段に記憶される前記記憶数値を更新するとともに、前記数値表示手段に表示される前記表示数値を更新する数値更新手段と、
前記数値更新手段が更新した前記記憶数値に基づいて、特典を付与するか否かを決定する特典付与決定手段と、
前記特典が付与される可能性がある旨を報知する前兆演出の実行を制御する前兆演出実行制御手段とを備え、
前記数値更新手段は、一のゲームが開始するタイミングに前記表示数値を複数回更新するときと、複数回のゲームに亘って前記表示数値を複数回更新するときと、があり、
前記前兆演出実行制御手段は、前記一のゲームが開始するタイミングに前記表示数値が複数回更新されて特定数値となったとき、前記複数回のゲームに亘って前記表示数値が複数回更新されて前記特定数値となったときとは異なる制御態様で前記前兆演出の実行を制御する、遊技機。」
2 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1に係る特許に対して、当審において令和5年4月12日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
ア 取消理由1(新規事項)
令和3年9月8日付け手続補正書でした補正(以下「本件補正」という。)は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、同法第113条第1号に該当し、取り消すべきものである。
イ 取消理由2(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
ウ 取消理由3(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(2)取消理由についての当審の判断
取消理由1~取消理由3は、いずれも、訂正前の請求項1における「前記数値更新手段は、所定タイミングに複数回数値を更新するときと、」「があ」るという記載、及び、「前記所定タイミングに複数回数値が更新されて特定数値となったとき、」という記載に対する指摘であり、加えて、取消理由1(新規事項)は、訂正前の明細書の【0007】における同様の記載に対しても指摘を行い、取消理由3(明確性)は、訂正前の請求項1における「前記所定タイミングに複数回数値が更新されて特定数値となったとき」という記載に対する指摘であった。
これらの記載は、本件訂正請求による訂正事項5及び訂正事項6において削除されたのに併せて、第2の1(5)、(6)に示したとおりの訂正がされ、第2の2(2)ウ、エに示したとおり、訂正事項5及び訂正事項6は、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであって、当該説示で摘記した段落に記載された事項は、補正されておらず、当初明細書等の記載と同じ記載であるから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでもある。
してみれば、当審において令和5年4月12日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)は解消した。
(3)申立人の意見について
ア 申立人は、本件訂正請求について、概略次の主張をしている。
(ア)主張1(申立人が令和5年7月25日に提出した意見書「4-1 前提」の項目を参照。)
請求の範囲に補正で新規事項Xが追加され、新規事項追加であることが問題とされずに特許され、特許異議申立あるいは特許無効審判が請求され、新規事項追加が異議理由あるいは無効理由とされた場合、特許権者がとりえる手段としては、「新規事項の追加でない。」との主張以外あり得ない。
訂正請求を行っても、請求の範囲にXが残れば依然新規事項が存在している状態(特許法第123条第1項第1号)であり、請求の範囲からXを削除すれば特許請求の範囲の変更(特許法第126条第6項違反)に相当し、いずれであっても訂正請求は認められない。
更に、新規事項XをX’として訂正した場合X’が当初明細書に記載されていない場合には、X’の追加が訂正による新規事項追加として、特許法第126条第5項違反とされる。
従って、新規事項Xの追加との判断が正しければ、この判断を訂正によって治癒することができないのであるから、今回の特許権者による訂正請求の意味が理解できない。
(イ)主張2(上記意見書「4-2-1 特許請求の範囲の変更」の項目を参照。)
訂正事項5の「表示数値」「更新」「数値更新手段」は、いずれも今回の訂正請求書において作られた造語であり、特許請求の範囲及び対応する【0007】のみに記載され、発明の実施の形態では別の語が用いられているので、「明細書全体で用語が統ーされていない。」といえる。
また、今回の訂正によって、「メイン制御部で行っているポイントの蓄積」が、「サブ制御部で行っているポイント表示演出で表示された数値の蓄積」に訂正されたことについて、まず制御主体が「メイン制御部」から「サブ制御部」に変更されたので、特許請求の範囲の変更であり、更に、「AT抽選に係るポイントの蓄積」から「ポイント表示演出で表示された数値の蓄積」に変更されたので、特許請求の範囲の変更である。
従って、今回の訂正は、特許請求の範囲の変更に相当し、特許法第126条第6項に違反し、訂正は認められない。
(ウ)主張3(上記意見書「4-2-2 新規事項の追加」の項目を参照。)
今回訂正によって、「所定タイミング」を「一のゲームが開始するタイミング」に訂正した。ここで「一のゲームが開始するタイミング」とは、メダルを投入した後に行う「スタートスイッチの押下時」であり、訂正した請求項に記載されている、「一のゲームが開始するタイミングに前記表示数値を複数回更新」することは、「スタートスイッチの押下時に表示数値を複数回更新する」となり、明細書に記載されていない事項の追加である。
明細書の【0055】に記載されている内容は、「一のゲームが開始するタイミングにメイン制御部でポイントを獲得し、その後メイン制御で獲得したポイントに至るまで、サブ制御部で一のゲームが開始するタイミングの後に、サブ制御部で前記表示数値を複数回更新」であり、訂正事項となっている、「一のゲームが開始するタイミングに前記表示数値を複数回更新」することは記載されていない。
従ってこの訂正は、新規事項の追加であり、特許法第126条第5項に違反し、訂正は認められない。
イ 当審の判断
(ア)主張1、2について
主張2は、主張1について具体的に言及するものであるからまとめて検討する。
a 上記第2の2(1)ア(ウ)に示したとおり、本件訂正請求は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「数値更新手段」が、願書に添付した明細書又は図面に記載された実施例の「メイン制御部41」及び「サブ制御部91」が具備するポイントに関わる上記処理の機能を併せたものであったのに、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「数値」が、メイン制御部41が蓄積したポイント数及びポイント表示演出で表示される蓄積されたポイント数のいずれも包含したものであることが特許請求の範囲の記載から直ちに理解することが困難であったため、訂正前の特許請求の範囲の請求項1と本件特許の願書に添付した明細書又は図面の記載との関係で不合理を生じて不明瞭となっていたのを明瞭にするものである。
すなわち、本件訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「数値更新手段」及び「数値」という記載の本来の意味を明らかにするために、「数値」が「記憶数値」及び「表示数値」の2種類の数値であることを限定するとともに(訂正事項2、3)、「数値を記憶する数値記憶手段」(訂正事項1)及び「前記数値記憶手段に記憶される数値である記憶数値に対応する数値である表示数値を表示する数値表示手段」(訂正事項2)を備えることを限定し、「数値更新手段」が、「前記数値記憶手段に記憶される前記記憶数値を更新するとともに、前記数値表示手段に表示される前記表示数値を更新する」(訂正事項3)ことを限定し、さらに、「特典付与決定手段」による特典を付与するか否かの決定が、「記憶数値」に基づいてなされることを限定する(訂正事項4)ことにより不合理を解消するとともに、訂正事項5は、上記記載の矛盾を解消するために、上記ア(ウ)で検討した、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「数値更新手段」及び「数値」という記載の本来の意味を明らかにするために、「所定タイミング」が「一のゲームが開始するタイミング」であることを限定し、「所定期間」が「複数回のゲーム」であることを限定するとともに、上記第2の2(1)イに示したとおり、「数値」が「記憶数値」及び「表示数値」の2種類の数値であることを限定する(訂正事項2、3)ことに伴って、「数値」が、「記憶数値」及び「表示数値」のうち、「表示数値」であることを限定するものを含んでいる。
b そうすると、本件訂正請求は、当審において令和5年4月12日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)で新規事項の追加であると指摘した事項を単に削除して別の用語に置き換えるというものではなく、訂正前の特許請求の範囲の「数値更新手段」及び「数値」という記載について、明細書等の記載との関係で生じていた不合理を解消し、当該「数値更新手段」及び「数値」という記載の本来の意味を明らかにするために、訂正前の特許請求の範囲の請求項1を限定することにより不合理を解消するものである。
そして、本件訂正請求が、新規事項の追加にも、特許請求の範囲の変更にもあたらないことは上記第2の2(2)で検討したとおりである。
c さらに、訂正事項5の「表示数値」、「更新」、「数値更新手段」という用語はいずれも本件訂正請求において初出の用語であるが、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との関係についていえば、請求項に係る発明と、明細書に発明として記載されたものとの表現上の整合性にとらわれることなく、実質的な対応関係について検討すれば足りるものである。
そして、訂正事項5の「表示数値」、「更新」、「数値更新手段」が、明細書等に記載の実施例と対応していることは、上記第2の2(2)に示したとおりであるから、発明の実施の形態では特許請求の範囲とは別の語が用いられていることを以て、直ちに「明細書全体で用語が統一されていない。」ということはできない。
(イ)主張3について
a 上記第2の2ウに示したとおり、明細書等に記載の実施例において、「メイン制御部41」が、「スタートスイッチ7の操作が行われ」て、「レア役に内部当選したときに一度に5000ポイント蓄積すると一度に5回のAT抽選を繰り返し行う」「内部抽選処理実行中」の「AT抽選処理」を行うときに、「サブ制御部91は、ポイント表示演出および前兆演出を実行し、第1タイミング(1回目のAT抽選実行時)には1000ポイント蓄積を表示するポイント表示演出(連続演出)が実行され、ポイント表示演出は、連続演出であるため、第2タイミング(2回目のAT抽選実行時)に2000ポイント蓄積が表示され、第3タイミング(3回目のAT抽選実行時)に3000ポイント蓄積が表示され、第4タイミング(4回目のAT抽選実行時)に4000ポイント蓄積が表示され、第5タイミング(5回目のAT抽選実行時)に5000ポイント蓄積が表示される」ことは、訂正事項5の「一のゲームが開始するタイミングに前記表示数値を複数回更新するとき」があることに対応しているので、新規事項の追加には当たらない。
b 申立人の主張は、「サブ制御部91が「ポイント表示演出」を実行する期間である、「メイン制御部41」が、「レア役に内部当選したときに一度に5000ポイント蓄積すると一度に5回のAT抽選を繰り返し行う」「内部抽選処理実行中」の「AT抽選処理」を行うときは、「スタートスイッチ7の操作が行われ」た後であるから、訂正事項5の「一のゲームが開始するタイミング」に対応しないという趣旨である。
しかし、スロットマシンの制御において、スタートスイッチが操作されることは、「一のゲームが開始する」ことに対応し、スタートスイッチの操作の検出と内部抽選処理とは時間的にきわめて近接し、かつ、連続して実行される処理であるから、スタートスイッチの操作の検出と内部抽選処理とをまとめて「一のゲームが開始するタイミング」と表現することにより、新たな技術的事項が導入されるものではない。
(ウ)小括
したがって、申立人のかかる主張は、採用することができない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-700899