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特許異議申立

2022-700827

撥水繊維用処理剤及びその利用

審判番号
2022-700827
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-197423外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
7025594
請求日
2022年08月23日
審決日
2023年07月11日
公報発行日
2023年10月27日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-YAA(D06M) / P1651.121-YAA(D06M) / P1651.851-YAA(D06M) / P1651.852-YAA(D06M) / P1651.853-YAA(D06M) / P1651.857-YAA(D06M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7025594号発明「撥水繊維用処理剤及びその利用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7025594号の明細書、特許請求の範囲を令和5年2月2日の訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。 特許第7025594号の請求項1~5に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7025594号の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和3年12月6日(優先権主張令和3年9月17日)に出願され、令和4年2月15日にその特許権の設定登録がされ、令和4年2月24日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1~5に係る特許に対し、令和4年8月23日に特許異議申立人内池智恵子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。それ以降の経緯は以下とおりである。 令和4年12月 7日付け 取消理由通知書 令和5年 2月 2日 訂正請求書及び意見書(特許権者)(以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。」) 令和5年 4月18日 意見書(申立人) 第2 訂正の請求について 1 訂正の内容 本件訂正請求は、「特許第7025594号の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容は、次の訂正事項を含むものである。なお、下線は、当審が訂正箇所に付したものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「下記一般式(1)で示される化合物(A)、下記一般式(2)で示される化合物(B)、下記一般式(3)で示される化合物(C)、下記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含む撥水繊維用処理剤であって、前記化合物(A)及び前記化合物(B)を必須に含み、 前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価が0.5~680(KOHmg/g)であり、前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)、前記化合物(D)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+D+IN)〕が20~100%である、撥水繊維用処理剤。」と記載されているのを、 「下記一般式(1)で示される化合物(A)、下記一般式(2)で示される化合物(B)、下記一般式(3)で示される化合物(C)、下記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含む撥水繊維用処理剤であって、前記化合物(A)及び前記化合物(B)を必須に含み、 前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価が0.5~680(KOHmg/g)であり、前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)、前記化合物(D)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+D+IN)〕が20~100%であり、下記条件1及び/又は下記条件2を満たす、撥水繊維用処理剤。 条件1:前記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(IN)の比率〔IN/(A+B+C+D+IN)〕が0~20%である 条件2:前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が4~75%である」に訂正する。 (請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~5も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が10~75%である、請求項1に記載の撥水繊維用処理剤。」と記載されているのを、 「下記一般式(1)で示される化合物(A)、下記一般式(2)で示される化合物(B)、下記一般式(3)で示される化合物(C)、下記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含む撥水繊維用処理剤であって、前記化合物(A)及び前記化合物(B)を必須に含み、 前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価が0.5~680(KOHmg/g)であり、前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)、前記化合物(D)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+D+IN)〕が20~100%であり、前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が10~75%である、撥水繊維用処理剤。 【化1】 [図:0001402750000001.jpg] (式中、R1は炭素数3~5の炭化水素基である。R1は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。) 【化2】 [図:0001402750000002.jpg] (式中、R2及びR3は炭素数3~5の炭化水素基である。R2及びR3は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。分子内に(AO)mが2つある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。) 【化3】 [図:0001402750000003.jpg] (式中、R4は炭素数3~5の炭化水素基である。R4は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。Qは、M2又はR5(OA)mである。R5は炭素数3~5の炭化水素基である。R5は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。Yは1又は2である。分子内にM2又は(AO)mが2つ以上ある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。) 化合物(D):トリペンチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリプロピルホスフェート及びトリ(ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル)ホスフェートから選ばれる少なくとも1種」に訂正する。 (請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~5も同様に訂正する。) (3)訂正事項3 本件明細書の段落【0053】の記載について、「〔IN/(A+B+C+D+IN)〕は、P核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する上記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(D)の比率を示す。」と記載されているのを、 「〔IN/(A+B+C+D+IN)〕は、P核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する上記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(IN)の比率を示す。」に訂正する。 なお、訂正前の請求項1~5は、請求項2~5が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1~5について請求されている。 また、明細書に係る訂正は、一群の請求項1~5について請求されている。 2 訂正要件についての判断 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1について、「条件1」として「前記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(IN)の比率〔IN/(A+B+C+D+IN)〕」を特定し、その数値範囲を「0~20%である」と限定する、及び/又は、「条件2」として、「撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率」を特定し、その数値範囲を「4~75%である」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。 また、訂正事項1のうち、前者については、本件明細書の【0053】の「〔IN/A+B+C+D+IN〕は、・・・0~20%が好ましく」との記載に基づくものであり、後者については、本件明細書の【0055】の「本発明の撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率は、・・・10~75%がより好ましく」との記載並びに実施例24、25、31、37、39、42、43、45、46及び49の吸湿率(%)が4%であることに基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、本件訂正前の請求項2を、引用関係を解消し、請求項1を引用しない独立請求項へ改めるものであるから、他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正である。また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、本件明細書の【0053】について、「上記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(D)」との記載を「上記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(IN)」に改めるものであるから、誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。 また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 むすび したがって、本件訂正の訂正事項1~3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するから、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2の3のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 下記一般式(1)で示される化合物(A)、下記一般式(2)で示される化合物(B)、下記一般式(3)で示される化合物(C)、下記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含む撥水繊維用処理剤であって、前記化合物(A)及び前記化合物(B)を必須に含み、 前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価が0.5~680(KOHmg/g)であり、前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)、前記化合物(D)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+D+IN)〕が20~100%であり、下記条件1及び/又は下記条件2を満たす、撥水繊維用処理剤。 条件1:前記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(IN)の比率〔IN/(A+B+C+D+IN)〕が0~20%である 条件2:前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が4~75%である 【化1】 [図:0001402750000004.jpg] (式中、R1は炭素数3~5の炭化水素基である。R1は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。) 【化2】 [図:0001402750000005.jpg] (式中、R2及びR3は炭素数3~5の炭化水素基である。R2及びR3は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。分子内に(AO)mが2つある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。) 【化3】 [図:0001402750000006.jpg] (式中、R4は炭素数3~5の炭化水素基である。R4は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。Qは、M2又はR5(OA)mである。R5は炭素数3~5の炭化水素基である。R5は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。Yは1又は2である。分子内にM2又は(AO)mが2つ以上ある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。) 化合物(D):トリペンチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリプロピルホスフェート及びトリ(ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル)ホスフェートから選ばれる少なくとも1種 【請求項2】 下記一般式(1)で示される化合物(A)、下記一般式(2)で示される化合物(B)、下記一般式(3)で示される化合物(C)、下記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含む撥水繊維用処理剤であって、前記化合物(A)及び前記化合物(B)を必須に含み、 前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価が0.5~680(KOHmg/g)であり、前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)、前記化合物(D)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+D+IN)〕が20~100%であり、前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が10~75%である、撥水繊維用処理剤。 【化1】 [図:0001402750000007.jpg] (式中、R1は炭素数3~5の炭化水素基である。R1は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。) 【化2】 [図:0001402750000008.jpg] (式中、R2及びR3は炭素数3~5の炭化水素基である。R2及びR3は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。分子内に(AO)mが2つある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。) 【化3】 [図:0001402750000009.jpg] (式中、R4は炭素数3~5の炭化水素基である。R4は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。Qは、M2又はR5(OA)mである。R5は炭素数3~5の炭化水素基である。R5は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。Yは1又は2である。分子内にM2又は(AO)mが2つ以上ある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。) 化合物(D):トリペンチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリプロピルホスフェート及びトリ(ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル)ホスフェートから選ばれる少なくとも1種 【請求項3】 ノニオン界面活性剤(E)をさらに含む、請求項1又は2に記載の撥水繊維用処理剤。 【請求項4】 前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値と前記化合物(B)に帰属されるP核NMR積分値との比率(A/B)が1~50である、請求項1~3のいずれかに記載の撥水繊維用処理剤。 【請求項5】 原料撥水繊維に対して、請求項1~4のいずれかに記載の撥水繊維用処理剤が付与されてなる、撥水性繊維。」 第4 取消理由通知の概要 当審において令和4年12月7日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 取消理由1(新規性) 本件特許の請求項1、4に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 取消理由2(進歩性) 本件特許の請求項1、3~5に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、3~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 <引用文献一覧> 甲第1号証:特表2004-502885号公報 甲第2号証:「QUADRASTAT PBK」の安全データシート、Manufacturers Chemicals、第2版、2022年6月24日 甲第3号証:「QUADRASTAT PBK」の酸価測定結果報告書、株式会社DJK、2022年8月8日 甲第4号証:「QUADRASTAT PBK」のNMR測定の実施報告書、国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 ナノマテリアルテクノロジーセンター、令和4年8月8日 [図:0001402750000010.jpg] 甲第6号証:特許第6906822号公報 甲第7号証:米国特許第5972497号明細書 (以下、甲第1号証等を「甲1」等という。) 第5 取消理由通知についての当審の判断 1 各甲号証の記載 (1)甲1について ア 甲1の記載 甲1には以下の記載がある。 (ア)「【要約】 帯電防止剤と保湿剤とを含む帯電防止組成物が提供される。例えば、帯電防止剤は、有機リン酸塩又は無機塩とすることができる。さらに、好適な保湿剤の例は、グリセリン、プロピレングリコールなどである。保湿剤は、布に適用された時に結果としてその添加レベルが約0.05wt.%より少なくなるような量で存在する。このような量の保湿剤を使用することによって、結果として得られる布は、撥水性を保持していながら導電性が改善されることになる。」 (イ)「【請求項1】 帯電防止組成物が適用された布であって、前記帯電防止組成物が、帯電防止剤と、 保湿剤と、 を含み、前記保湿剤が、布に適用された時に該保湿剤の添加レベルが前記布の約0.05wt.%より少なくなるような量だけ前記帯電防止組成物中に含まれていることを特徴とする布。 ・・・ 【請求項16】 帯電防止組成物が適用された不織布であって、前記帯電防止組成物が、 不織布に適用された時にその添加レベルが前記不織布の約1wt.%より少なくなるような量だけ前記帯電防止組成物中に含まれている帯電防止剤と、 不織布に適用された時にその添加レベルが前記不織布の約0.02wt.%から約0.05wt.%までの間となるような量だけ前記帯電防止組成物中に含まれている保湿剤と、を含むことを特徴とする不織布。」(「・・・」は文の省略を意味する。以下同様。) (ウ)「【0018】 具体的には、好適な帯電防止剤は、これらに限定する意味ではないが、有機リン酸エステル、無機塩類(例えば硝酸リチウム)などを含む。一実施形態においては、帯電防止剤は、例えばアルキルリン酸エステルである。市販の好適なアルキルリン酸エステルの例は、Stepan Chemicalの「ZELEC KC」(モノリン酸塩、及び二置換カリウムn-ブチルリン酸塩)、Stepan Chemicalの「ALKANOL MP」(モノリン酸塩、及び二置換カリウムn-プロピルリン酸塩)、Schill&Seilacherの「POLYFIX N」(モノリン酸塩、及び二置換カリウムi-ブチルリン酸塩)、Manufacturers Chemicalの「QUADRASTAT PBK」(モノリン酸塩、及び二置換カリウムn-ブチルリン酸塩)、及びManufacturers Chemicalの「QUADRASTAT 1662」(モノリン酸塩、及び二置換カリウムl-ブチルリン酸塩)を含む。・・・」 (エ)「【0028】 実施例1 本発明の帯電防止組成物で処理された不織布の能力を実証した。1.8オンス毎平方ヤードの坪量を有し、(キンバリー・クラーク社からWORKWEAR(登録商標)という商標名で入手可能な)ポリプロピレンから形成されたSMS不織ラミネートを、帯電防止組成物の種々の溶液で処理した。・・・」 イ 甲1に記載された発明 上記アの記載事項を総合すると、帯電防止剤と、保湿剤と、を含む帯電防止組成物(請求項1)について、帯電防止剤として「Manufacturers Chemicalの「QUADRASTAT PBK」(【0018】)が例示されていること、帯電防止剤は布の撥水性を保持しながら導電性を改善するために用いること(【要約】)、布の具体例として「ポリプロピレンから形成されたSMS不織ラミネート」(【0028】)が用いられていることから、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 「帯電防止剤としてのManufacturers Chemicalの「QUADRASTAT PBK」と保湿剤とを含む、撥水性を保持していながら導電性が改善された、不織布ラミネート用帯電防止組成物。」 (2)甲2について 商品名「QUADRASTAT PBK」の安全データシートである甲2には以下の記載がある。 ア 「Product Name: QUDRASTAT PBK Chemical Name: SALT OF A PHOSPHATED ALKYL ESTER」(1ページ) イ 「Component Name CAS Number SALT OF A PHOSPHATED ALKYL ESTER 53126-06-0」(2ページ) ウ 「Manufacturer's/Supplier's Identification:Manufacturers Chemicals」(1ページ) (3)甲3について ア 甲3の記載 甲3には以下の記載がある。 「 [図:0001402750000011.jpg] 」(2ページ) イ 甲3記載事項 上記アから、甲3には次の事項(以下「甲3記載事項」という。)が記載されているといえる。 「「QUAQDRASTAT PBK」の乾燥品の酸価の平均値は102である。」 (4)甲4について ア 甲4の記載 甲4には以下の記載がある。 (ア)「9.設備名:核磁気共鳴スペクトル測定装置 400MHz(NMR400MHz) 10.測定試料名:QUDRASTAT PBK」(1ページ下から8行~7行) (イ)「実施内容: ・・・試料乾燥後、サンプル瓶に不揮発分30mgの試料を量り取り、・・・31P-NMR測定装置・・・で測定した。より具体的には、試料1点(QUAQDRASTAT PBK)について、室温における1次元31P CPD-NMRスペクトルを測定した。」(別紙1の1~7行) (ウ)「測定結果のQUADRASTAT PBKの1次元31P CPD-NMRスペクトルを別紙2に記した。」(別紙1の11~12行) (エ)「 [図:0001402750000012.jpg] [図:0001402750000013.jpg] 」(化学シフトの範囲:-25~10ppm) (オ)「 [図:0001402750000014.jpg] [図:0001402750000015.jpg] 」(化学シフトの範囲:0~2ppm) (カ)「 [図:0001402750000016.jpg] [図:0001402750000017.jpg] 」(化学シフトの範囲:-12~-9ppm) (キ)上記(エ)から、化学シフト+4~-1ppmの領域に3つのピーク(以下、左からそれぞれ「第1ピーク」、「第2ピーク」、「第3ピーク」という。)が看取でき、化学シフト-5~-15ppmの領域に複数のピーク(以下「第4ピーク群」という。)が看取できる。 (ク)上記(オ)及び(カ)から、第1ピーク、第2ピーク、第3ピーク及び第4ピーク群のP核NMR積分値はそれぞれ、「45.3」、「22.1」、「16.7」及び「15.9」(3.61+0.54+11.75)であることがわかる。 (5)甲5について 甲5には以下の記載がある。 ア 甲5の記載 (ア)「 [図:0001402750000018.jpg] 」(16~17ページ) 「リン酸モノエステル・ジエステルとポリエステルは異なる繊維応用性能を有し、リン酸エステルのその他領域用途と異なり、制電剤用リン酸エステルには相応しいモノ・ジエステル比率を有し、更には一定のポリエステル含有量を含み、それでやっと生産と加工の各工程の異なる要求を満足させる事ができる。 その中で、モノエステルは二つの親水基を持ち、吸湿性が良いので良好な制電性及び集束性がある:ジエステルは分子中に一つしか親水基が無いため吸湿性がモノエステルよりも小さく、制電性及び集束性が劣るが、乳化性及び平滑性は良い:ポリエステルはモノ・ジエステルの混和性を向上でき、原油をバランスよく安定させる作用がある。」(当審仮訳。以下同様。) (イ)「 [図:0001402750000019.jpg] 」(23ページ) 「3.1 高炭素アルコールリン酸エステル調合の研究 エステル化反応に影響する要素にC18脂肪アルコールとP2O5のモル比(要素A)、反応温度(要素B)、反応時間(要素C)、及び加水分解温度(要素D)がある。これらの四つの要素について、三水準のオルソゴナル実験L9(34)を実施した。オルソゴナル実験の結果を表3-1に示した。各要素のリン酸エステル指標への影響は表3-2に示した通りであつた。」 (ウ)「 [図:0001402750000020.jpg] 」(23ページの表3-1) (表題)「表3-1 オルゾゴナル実験の結果」 (見出し行)「番号」、「A」、「B(℃)」、「C(h)」、「D(℃)」、「転化率(%)」、「モノ/ジエステル比率」、「H3PO4合有量(%)」、「色相」 (エ)「 [図:0001402750000021.jpg] 」(25ページ) 「3.1,1.4 加水分解工程の影響 加水分解の目的はリン酸エステルのモノ/ジエステル比率、ポリエステル量の調整である。一般的に、加水分解に十分な時間は2時間であり、加水分解温度は調整可能であり、加水分解温度を上げると、ポリエステルが加水分解し、モノエステルに変化し、モノ/ジエステル比率が増えるが、リン酸合量も増加する、また反応生成物が受ける温度が上がり、アルコールの脱水反応が増加し、酸化が激しくなり、反応生成物の色相は濃くなる。有効なモノ/ジエステル比率と良好な色相のためには70℃で2hの加水分解が好ましい。」 (オ)「 [図:0001402750000022.jpg] 」(46ページ) 「3.4.3 中和剤KOHのポリエステル短繊維制電性に対する影響 中和剤の加入量はリン酸エステルの総酸値に基づいて計算でき、その中和程度の測定はアルカリを加えた後のリン酸エステル塩乳液のpH値によって判断する。KOHの加入量が多いとアルキルリン酸エステル塩乳液のpH値が大きくなる。KOH加入量の違いでジン酸エステル塩の性能も異なってくる。 P2O5法で合成するアルキルリン酸エステルの生成物は主にモノエステルとジエステルで組成され、KOHとリン酸エステルの反応もその中のモノエステル・ジエステル・ポリエステルとリン酸を中和しなければならない。中和ジン酸エステルの等価点はpH値の6くらいで、中和リン酸エステルジエステルの等価点pHは8.5以上。もしpH値が8.5より小さい時は、リン酸エステルがまだ完全に中和されていない。それ故、その制電性は必ず影響を受ける(図3-17)。図から分かるように、pH値の上昇に伴い、繊維抵抗率値が下がり、制電性が向上する。」 (カ)「 [図:0001402750000023.jpg] 」(47ページの図3-17) 「図3-17 pH値のポリエステル短繊維制電性に対する影響」 イ 甲5記載事項 上記アの記載事項を総合すると、甲5には以下の各事項が記載されているといえる。 (ア)リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの吸湿性が異なること、リン酸エステルの吸湿性に対して親水基の数が支配的に影響を与えること、及び、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの吸湿性の違いにともなって両者の制電性、収束性、乳化性及び平滑性が異なること(上記「ア(ア)」参照。)。 (イ)「リン酸エステル組成物中のモノエステルとジエステルとの比率を、反応条件によって制御できること(上記「ア(イ)及び(ウ)」参照。)。 (ウ)上記事項(ア)及び(イ)が実験的に裏付けられていること(上記ア(エ)及び(オ)参照。)。 (6)甲6及び甲7について ア 甲6の記載 甲6には以下の記載がある。 (ア)「【請求項1】 下記の成分(A)、下記の成分(B)、及び下記の成分(C)を含有し、前記成分(A)、前記成分(B)、及び前記成分(C)の含有割合の合計を100質量部とすると、前記成分(A)を50質量部以上含有する短繊維用処理剤であって、前記短繊維用処理剤中に占める前記成分(A)の含有量の割合が40質量%を超えることを特徴とする短繊維用処理剤。 成分(A):炭素数12~22の炭化水素基を有する1価アルコールと、炭素数12~22の炭化水素基を有する1価脂肪酸とのエステル化合物。 成分(B):炭素数16~22のアルキル基を有するアルキルリン酸エステル塩、及び炭素数4~8のアルキル基を有するアルキルリン酸エステル塩から選ばれる少なくとも一つ。 成分(C):炭素数12~22の炭化水素基を有する脂肪酸、及びその塩から選ばれる少なくとも一つ。 (ただし、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸(またはジカルボン酸誘導体)との縮合物および/またはその縮合物の少なくとも1つ以上の水酸基を脂肪酸で封鎖したエステルを前記短繊維用処理剤中に10質量%以上45質量%以下含有する態様を除く。) ・・・ 【請求項3】 更に、成分(D)として、ポリオキシアルキレン誘導体を含有する請求項1又は2に記載の短繊維用処理剤。」 (イ)「【0001】 本発明は、短繊維用処理剤、合成繊維、及び不織布の製造方法に関する。」 (ウ)「【0038】 上記処理剤は、更に、成分(D)として、ポリオキシアルキレン誘導体を含有することが好ましい。 処理剤が、ポリオキシアルキレン誘導体を含有することにより、処理剤の溶液安定性がより向上する。」 (エ)「【0042】 上記ポリオキシアルキレン誘導体としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、ポリオキシアルキレンアルケニルエステル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリオキシアルキレンアルケニルアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミンと無機酸との塩、及びポリオキシアルキレンアルケニルアミノエーテルと無機酸との塩が挙げられる。」 (オ)上記(エ)に列挙されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル等の化合物は、ノニオン界面活性剤であることは技術常識から明らかである。 イ 甲7の記載 甲7には以下の記載がある(以下、当審仮訳。)。 (ア)「本発明の仕上げ剤を水中油型(o/w)乳化剤として適用する場合、PEOHエステルを高い割合で含有するストック乳化剤から調製することができる。ストック乳化剤は、乳化性及び/又は乳化液の安定性を向上する一つ又は複数の界面活性剤を合むことが好ましい。」(9欄26~31行) (イ)「実施例1 フレーク状のポリプロピレン(結晶化度60%;分子量3.5×105;分子量分布5.7:メルトフローレート9.5グラム/10分)をインパクトブレンダーで、ポリマーの重量に対して0.05%のホスファイト安定剤(チバガイギー社、タリータウン、ニューヨークからIrgafos(登録商標)168として入手可能。)と混合した。十分に混合した後、混合物を1.5インチ(3.81cm)押出機に供給し、300℃で1068穴の紡糸口金を通して紡糸し、空気冷却し、それによって平均メルトフローレート35g/10分のマルチフィラメント繊維を形成させた。このマルチフィラメント繊維を、スピンフィニッシュ組成物のタンクに部分的に浸されたフィードロール又はキスロール上に通過させた。スピンフィニッシュ組成物は、1.67%のPEOHエステル#1、0.83%のリン酸ブチルカリウム(LUROL(登録商標)AS一Y,George A.Goulston Co.,INc,Monroe,N.C.)及び0.017%のTWEEN(登録商標)85(ICI Surfactants,WilmINgton,Del.)をDISPERSMAT CV(VMA―GetzmannGMBH)を用いて水を100%になるように添加することで乳化して調製したものである。繊維とキスロールとの間の接触は、乾燥繊維の重量を基準にして約0.25重量%の仕上げを施すのに十分な時間及び速度であった。」(14欄8~28行) (ウ)「TWEEN(登録商標)85」は、ポリオキシエチレンソルビタントリオレートであり、界面活性剤として汎用されている商品の商品名である。 ウ 甲6及び甲7記載事項 上記ア及びイの記載事項を総合すると、甲6及び甲7には以下の事項(以下「ノニオン界面活性剤に関する慣用技術」という。)が記載されているといえる。 「処理剤の溶液安定性を向上させる等の目的のためにノニオン界面活性剤を添加すること。」 2 本件発明1について (1)対比 本件発明1と甲1発明を、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲1発明の「撥水性を保持していながら導電性が改善された、不織布ラミネート用帯電防止組成物」は、本件発明1の「撥水繊維用処理剤」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明は、以下の点で一致し、相違する。 [一致点1-1] 「撥水繊維用処理剤。」 [相違点1-1] 撥水繊維用処理剤が、本件発明1では、「下記一般式(1)で示される化合物(A)、下記一般式(2)で示される化合物(B)、下記一般式(3)で示される化合物(C)、下記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含」み、「前記化合物(A)及び前記化合物(B)を必須に含み、」「 【化1】 [図:0001402750000024.jpg] (式中、R1は炭素数3~5の炭化水素基である。R1は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。) 【化2】 [図:0001402750000025.jpg] (式中、R2及びR3は炭素数3~5の炭化水素基である。R2及びR3は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。分子内に(AO)mが2つある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。) 【化3】 [図:0001402750000026.jpg] (式中、R4は炭素数3~5の炭化水素基である。R4は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。Qは、M2又はR5(OA)mである。R5は炭素数3~5の炭化水素基である。R5は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。Yは1又は2である。分子内にM2又は(AO)mが2つ以上ある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。) 化合物(D):トリペンチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリプロピルホスフェート及びトリ(ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル)ホスフェートから選ばれる少なくとも1種」であるのに対し、 甲1発明では、これらの化合物を含むか不明である点。 [相違点1-2] 撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価が、本件発明1では「0.5~680(KOHmg/g)」であるのに対し、甲1発明では不明である点。 [相違点1-3] 本件発明1では、「前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)、前記化合物(D)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+D+IN)〕が20~100%であ」るのに対し、 甲1発明では、化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)、化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)を含むか否かが不明であるため、P核NMR積分値(A)の比率も不明である点。 [相違点1-4] 撥水繊維用処理剤について、本件発明1では、「下記条件1及び/又は下記条件2を満たす」、「条件1:前記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(IN)の比率〔IN/(A+B+C+D+IN)〕が0~20%である 条件2:前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が4~75%である」とされているのに対し、 甲1発明では、化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)、化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)を含むか否かが不明であるため、P核NMR積分値(IN)の比率も不明であるとともに、不揮発分の吸湿率も不明である点。 (2)判断 事案に鑑み[相違点1-4]について判断する。 最初に「条件1」について検討する。 上記1(4)アで摘記した甲4の記載事項を参酌すると、甲1発明の「QUADRASTAT PBK」のP核NMRの測定結果の第1のピーク~第3のピーク及び第4のピーク群として検出されている「無機燐酸塩(IN)」、「化合物(A)」、「化合物(B)」及び「化合物(C)」、「化合物(D)」のP核NMR積分値はそれぞれ、「45.3」、「22.1」、「16.7」、「15.9」及び「0」である。そうすると、比率〔IN/(A+B+C+D+IN)〕を計算すると、45.3%となる。したがって、甲1発明は「条件1」を満たさない。そして、甲1発明の「QUADRASTAT PBK」は、上記1(2)で摘記した甲2の「Manufacturer's/Supplier's Identification:Manufacturers Chemicals」との記載からみて、Manufacturers Chemical社が販売する製品であるから、最適化された既存の製品にあえて成分調整を行う動機はなく、P核NMR積分値(IN)を相違点1-4に係る本件発明1の数値範囲内とすることにはむしろ阻害要因があるともいえる。 次に「条件2」について検討する。甲1には甲1発明の「QUADRASTAT PBK」の吸湿率に関しては記載も示唆もないから、吸湿率に着目して、これを調整する動機はない。さらに、甲1発明の「QUADRASTAT PBK」はManufacturers Chemical社が販売する製品であるから、甲5記載事項が公知であるとしても、最適化された既存の製品にあえて成分調整を行う動機はなく、吸湿率を相違点1-4に係る本件発明1の数値範囲内とすることにも、条件1と同様に、阻害要因があるともいえる。 したがって、甲1発明において、相違点1-4に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 (3)申立人の主張について ア 申立人は、令和5年4月18日提出の意見書(以下「意見書」という。)において、甲1発明のリン酸ブチルエステルのカリウム塩である「QUADRASTAT PBK」の吸湿率に関して、意見書に添付した甲9(小田良平ほか、「繊維用油剤」、日本繊維機械学会、昭和44年9月1日発行、p70~73、90~91)、甲10(高橋越民ほか2名、「帯電防止剤の研究(第4報)イオン性界面活性剤,非イオン性(ポリオキシエチレン系)界面活性剤の併用による帯電防止効果」、油化学、1961年、第10巻、第4号、p232-236)及び甲11(特開昭57-128267号公報)からみて、本件発明1の「4~75%」の範囲内であると主張する。しかしながら、甲9~甲11に記載されているリン酸エステル類は、甲1発明の「QUADRASTAT PBK」と同一成分とはいえないから、甲1発明の「QUADRASTAT PBK」の吸湿率を示すものとはいえない。したがって、当該主張は採用できない。 イ 申立人は、意見書において、数値限定に係る本件発明は、審査基準に照らして進歩性を有しない旨も主張している。しかしながら、甲1発明の「QUADRASTAT PBK」は既存の製品であり、吸湿率に着目してこれに成分調整を行う動機はない。したがって、当該主張も採用できない。 ウ 申立人は、意見書において、本件発明1については「条件1」及び「条件2」をいずれも満たす場合について、本件発明2については本件発明1の「条件1」及び本件発明2の「吸湿率が10~75%である」を満たす場合について、課題を解決できることを当業者は理解できる(サポートされている)旨も主張している。しかしながら、本件訂正前の請求項1に係る発明においても課題を解決できることを当業者は理解できるのであるから、本件訂正によって発明特定事項が追加された本件発明1についても課題を解決できるので、当該主張も採用できない。 (4)小括 以上のとおりであるから、他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 3 本件発明2について (1)対比 本件発明2と甲1発明を、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、両者は、上記2(1)で示した[一致点1-1]で一致し、[相違点1-1]~[相違点1-3]において相違することに加え、次の[相違点1-5]において相違する。 [相違点1-5] 本件発明2では、「前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が10~75%である」のに対し、甲1発明では、不揮発分の吸湿率が不明である点。 (2)判断 [相違点1-5]については上記2(2)において「条件2」について判断したのと同じ理由により、甲1発明において、相違点1-5に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 (3)申立人の主張について 上記2(3)で示したとおりである。 (4)小括 以上のとおりであるから、他の相違点について判断するまでもなく、本件発明2は甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 4 本件発明3~5について 本件発明3~5は、本件発明1又は2の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加えて限定するものであるから、上記2及び3で検討したのと同じ理由により、本件発明3~5は甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(甲8を主引例とする新規性、進歩性)について 1 甲8(特開平8-3227454号公報)の記載、発明 甲8には以下の記載がある。 (1)「本発明は防水性を有すると共に制電性の優れたシートに関する。より詳しくは包装材料、保護衣、ウインドブレーカー、雨衣、寝袋等のシートとして好んで用いることができる優れた防水性と制電性を有するポリオレフィン不織シートに関する。」(1ページ左下欄末行~右下欄4行) (2)「本発明で用いられる繊維処理剤は、又、リン酸塩や他の無機塩類を含んでいても効果に支障を来たさない場合はさしつかえない。このような他の化合物を混合使用しても問題のないように化学式・・・・で示される化合物のモノビスアルキルアルキレンオキサイドフオスフェート塩はpH3~9好ましくは5~8に調整して使用するのが望ましい。繊維処理剤溶液のpHが低すぎる場合には制電効果が出にくいとか、機械まわりが錆やすいとかの問題が起る。又、pHが高すぎる場合には取扱時に皮膚障害等を起す。」(3ページ左下欄9行~末行) (3)「実施例1~3、比較例1~3 ・・・。この不織シートに、コロナ放電処理を施し、表-1に示す如き種々の繊維処理剤0.2重量%の水溶液にて処理をした。なお、これらの繊維処理剤は、すべて表-1に示したアルキル基を有するモノアルキルセロソルブフオスフェートカリウム及びビスアルキルセロソルブフオスフェートカリウムの混合物(1対1モル比率)であった。」(4ページ左下欄3~17行) (4)「 [図:0001402750000027.jpg] 」(5ページの表-1) (5)「実施例4~8、比較例4 実施例1で得たポリエチレン不織シートに繊維処理剤としてブチルアルコールエチレンオキサイド付加物のフオスフェートカリウムのエチレンオキサイドの付加モル数を変えた場合の制電性、耐水圧の効果を調べた。尚、繊維処理剤溶液の水素イオン濃度(pH)は5~8の間(第1と第2当量点の間)に調整して、不織シートにそれぞれ0.1重量%付与した。」(5ページ左下欄5行~末行) 上記(1)~(5)の記載事項を総合し、特に実施例2に着目すると、甲8には以下の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されている。 「モノブチルセロソルブフオスフェートカリウムとビスブチルセロソルブフオスフェートカリウムをモル比1:1で混合した、ポリオレフィン不織シート用処理剤。」 2 本件発明1について (1)対比 本件発明1と甲8発明を、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。甲8発明の「ポリオレフィン不織シート用処理剤」は、本件発明1の「撥水繊維用処理剤」に相当する。 甲8発明の「モノブチルセロソルブフオスフェートカリウム」は、本件発明1の「【化1】 [図:0001402750000028.jpg] (式中、R1は炭素数3~5の炭化水素基である。R1は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。)」において、R1が炭素数4の炭化水素基であり、AOが炭素数2のオキシアルキレン基であり、mが1であり、M1及びM2がカリウム(アルカリ金属)である場合に相当する。 同様に、甲8発明の「ビスブチルセロソルブフオスフェートカリウム」は、本件発明1の「【化2】 [図:0001402750000029.jpg] (式中、R2及びR3は炭素数3~5の炭化水素基である。R2及びR3は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。分子内に(AO)mが2つある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。)」において、R2及びR3がいずれも炭素数4の炭化水素基であり、AOが炭素数2のオキシアルキレン基であり、mが1であり、M1がカリウム(アルカリ金属)である場合に相当する。 甲8発明は、「モノブチルセロソルブフオスフェートカリウムとビスブチルセロソルブフオスフェートカリウムとをモル比1:1で混合した」ものであるから、本件発明1において含むことが任意の成分である「下記一般式(3)で示される化合物(C)、下記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)」を含まない態様に相当する。 そうすると、本件発明1と甲8発明は、以下の点で一致し、相違する。 [一致点2-1] 「下記一般式(1)で示される化合物(A)、下記一般式(2)で示される化合物(B)、下記一般式(3)で示される化合物(C)、下記化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)から選ばれる少なくとも1種を含む撥水繊維用処理剤であって、前記化合物(A)及び前記化合物(B)を必須に含む、撥水繊維用処理剤。 【化1】 [図:0001402750000030.jpg] (式中、R1は炭素数3~5の炭化水素基である。R1は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。) 【化2】 [図:0001402750000031.jpg] (式中、R2及びR3は炭素数3~5の炭化水素基である。R2及びR3は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム、有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。分子内に(AO)mが2つある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。) 【化3】 [図:0001402750000032.jpg] (式中、R4は炭素数3~5の炭化水素基である。R4は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であって、mは0~15の整数である。M1及びM2は、それぞれ独立して、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム又は有機アミン塩又は4級アンモニウム塩である。Qは、M2又はR5(OA)mである。R5は炭素数3~5の炭化水素基である。R5は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。Yは1又は2である。分子内にM2又は(AO)mが2つ以上ある場合には、お互いに同じでも異なっていてもよい。) 化合物(D):トリペンチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリプロピルホスフェート及びトリ(ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル)ホスフェートから選ばれる少なくとも1種」 [相違点2-1] 撥水繊維用処理剤の不揮発分の酸価が、本件発明1では「0.5~680(KOHmg/g)」であるのに対し、甲8発明では不明である点。 [相違点2-2] 本件発明1では、「前記化合物(A)、前記化合物(B)、前記化合物(C)、前記化合物(D)及び前記無機燐酸塩(IN)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値の合計(A+B+C+D+IN)に対する前記化合物(A)に帰属されるP核NMR積分値(A)の比率〔A/(A+B+C+D+IN)〕が20~100%であ」るのに対し、 甲8発明では、P核NMR積分値(A)の比率が不明である点。 [相違点2-3] 本件発明1では、「下記条件1及び/又は下記条件2を満たす、撥水繊維用処理剤。 条件1:前記無機燐酸塩(IN)に帰属されるP核NMR積分値(IN)の比率〔IN/(A+B+C+D+IN)〕が0~20%である 条件2:前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が4~75%である」のに対し、 甲8発明では、化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)、化合物(D)及び無機燐酸塩(IN)を含むか否かが不明であるため、P核NMR積分値(IN)の比率も不明であるとともに、不揮発分の吸湿率も不明である点。 (2)判断 事案に鑑み[相違点2-1]について判断する。 甲8発明の「ポリオレフィン不織シート処理剤」の不揮発分の酸価について、甲8には、直接的な記載はない。しかしながら、甲8の表-1には、実施例2として「ブチルセロソルブフオスフオスフェート塩」と記載されているから、実施例2のモノブチルセロソルブフオスフェートカリウムとビスブチルセロソルブフオスフェートカリウムをモル比1:1で混合したポリオレフィン不織シート用処理剤は、中和されており、酸価は0であると認められる。 ここで、上記1(2)及び(5)に示したように、甲8には、pHを好ましくは5~8に調整して使用することが望ましい旨記載されているものの、これらの記載は他の化合物を混合する場合にpHを調整することが示唆されているに過ぎないものであり、甲8の実施例2を参照しても甲8発明においてpHを調整することを示唆するものとまではいえず、かえって、甲8発明自体の組成は一定であるから、一定のpHを有するはずである。 そうすると、相違点2-1は実質的な相違点である。 そして、上記1(5)ア(オ)に示したように、甲5に「中和リン酸エステルジエステルの等価点pHは8.5以上」であることが記載されているとしても、これら甲8の記載及び甲5の記載をもって、甲8発明において、相違点2-1に係る本件発明1の構成とすることが、当業者が容易に想到し得たことであったとまではいえない。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲8発明ではなく、また、甲8発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 3 本件発明2について (1)対比 本件発明2と甲8発明を、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、両者は、上記アで示した[一致点2-1]で一致し、[相違点2-1]及び[相違点2-2]において相違することに加え、次の[相違点2-4]においても相違する。 [相違点2-4] 本件発明2では、「前記撥水繊維用処理剤の不揮発分の吸湿率が10~75%である」のに対し、甲8発明では、不揮発分の吸湿率が不明である点。 (2)判断 [相違点2-1]については上記1(2)で示したとおりである。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は甲8発明ではなく、甲8発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 4 本件発明3~5について 本件発明3~5は、本件発明1又は2の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を加えて限定するものであるから、上記2及び3で検討したのと同じ理由により、本件発明3~5は甲8発明ではなく、甲8発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700827

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