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特許異議申立

2022-700758

エポキシ樹脂組成物

審判番号
2022-700758
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-543121外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6996743
請求日
2022年08月03日
審決日
2023年01月25日
公報発行日
2023年03月31日
結論
維持
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-Y (C08G) / P1651.121-Y (C08G) / P1651.537-Y (C08G)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6996743号発明「エポキシ樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第6996743号の請求項1~14に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 14項目
理 由

第1 手続の経緯等

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1 手続の経緯について

特許第6996743号(請求項の数14。以下、「本件特許」という。)は、平成28年9月15日(優先権主張:平成27年9月30日、日本国(JP))を国際出願日とする特許出願(特願2017-543121号)に係るものであって、令和3年12月20日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和4年2月3日である。)。

その後、令和4年8月3日に、本件特許の請求項1~14に係る特許に対して、特許異議申立人である河原田隆(以下、「申立人A」という。)から、また、同日に、本件特許の請求項1~14に係る特許に対して、特許異議申立人である山田佳秀(以下、「申立人B」という。)から、それぞれ特許異議の申立てがなされた。

2 証拠方法

(1)申立人Aが提出した証拠方法

申立人Aが、特許異議申立書に添付して提出した証拠方法は以下のとおりである。

甲第1号証:特開2014-51621号公報
甲第2号証:特開2015-113426号公報
甲第3号証:特表2013-545868号公報
甲第4号証:国際公開2015/141347号
甲第5号証:国際公開2012/77377号
甲第6号証:国際公開2012/93510号
甲第7号証:国際公開2015/60439号
甲第8号証:特開平11-256013号公報
甲第9号証:特開2015-59099号公報
甲第10号証:特開2015-160830号公報
甲第11号証:加門隆、「エポキシ樹脂のポリメルカプタンによる硬化反応」、高分子論文集、Vol.43、No.9、pp565-571、1986年9月
甲第12号証:エポキシ樹脂技術協会編、「総説 エポキシ樹脂 基礎編I」、エポキシ樹脂技術協会、2003年11月19日(初版発行)
甲第13号証:特開2014-31461号公報
甲第14号証:国際公開2008/35791号

(以下、申立人Aが提出した上記甲第1号証~甲第14号証を「甲A1」~「甲A14」という。)

(2)申立人Bが提出した証拠方法

申立人Bが、特許異議申立書に添付して提出した証拠方法は以下のとおりである。

甲第1号証:特開2014-152236号公報
甲第2号証:国際公開2015/141347号
甲第3号証:特開2011-84597号公報
甲第4号証:特開2015-160830号公報
甲第5号証:特開2015-113426号公報

(以下、申立人Bが提出した上記甲第1号証~甲第5号証を「甲B1」~「甲B5」という。なお、甲B2と甲A4は同一の文献であるが、以下「甲B2」という。また、甲B4と甲A10は同一の文献であり、甲B5と甲A2は同一の文献であるが、以下、それぞれ「甲A10」、「甲A2」という。)

第2 本件発明

特許第6996743号の特許請求の範囲の記載は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~14に記載される以下のとおりのものである。(以下、請求項1~14に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」~「本件発明14」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)

「【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、
(B)チオール系硬化剤、
(C)有効成分として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane(DABCO))を含む、イソシアネートアダクト型マイクロカプセル化硬化促進剤を含み、
続きを表示(全36行)
前記(A)成分のエポキシ樹脂における、芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)が10:0~2:8であり、
前記(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、前記(C)成分中のDABCOの量が0.01~2質量部であり、
前記(B)成分の含有量は、前記(A)成分のエポキシ当量に対して、前記(B)成分のチオール当量比で、0.3~2.5であることを特徴とする、一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)成分のチオール系硬化剤が、一般式(I)で表されるメルカプトアルキルグリコールウリル類である、請求項1に記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【化1】
[図:0001395234000001.jpg]
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示し、R3、R4及びR5はそれぞれ独立に水素原子、メルカプトメチル基、2-メルカプトエチル基、3-メルカプトプロピル基及び4-メルカプトブチル基から選ばれるメルカプトアルキル基を示し、nは0~3である。)
【請求項3】
さらに(D)増粘抑制剤を含有する、請求項1または2に記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記(D)成分の増粘抑制剤は、ホウ酸エステル、アルミニウムキレート、および有機酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項3に記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)成分の含有量は、前記(A)成分のエポキシ当量に対して、前記(B)成分のチオール当量比で、0.5~2.0である、請求項1~4のいずれかに記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、前記(C)成分中のDABCOの量が0.01~1質量部である、請求項1~5のいずれかに記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、前記(C)成分中のDABCOの量が0.05~1質量部である、請求項1~6のいずれかに記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、前記(C)成分中のDABCOの量が0.1~0.5質量部である、請求項1~7のいずれかに記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の一液型エポキシ樹脂組成物を加熱することで得られる樹脂硬化物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載の一液型エポキシ樹脂組成物を含む一液型接着剤。
【請求項11】
請求項1~8のいずれかに記載の一液型エポキシ樹脂組成物を含む封止材。
【請求項12】
請求項10に記載の一液型接着剤を用いて製造されたイメージセンサーモジュール。
【請求項13】
請求項10に記載の一液型接着剤を用いて製造された電子部品。
【請求項14】
請求項11に記載の封止材を用いて封止されたフリップチップ型半導体素子を有する半導体装置。」

第3 異議申立ての理由の概要

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1 申立人Aによる特許異議申立理由の概要

申立人Aによる特許異議申立理由の概要は、以下のとおりである。

(1)申立理由A1(進歩性)

ア 本件発明1~14は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A1に記載された発明及び甲A3~甲A14に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由A1-1」という。)。

イ 本件発明1~14は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A2に記載された発明及び甲A3~甲A14に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由A1-2」という。)。

(2)申立理由A2(サポート要件)

本件発明1~14の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、概略以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものではない。

よって、本件発明1~14に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

記

(a)本件発明1の「前記(B)成分の含有量は、前記(A)成分のエポキシ当量に対して、前記(B)成分のチオール当量比で、0.3~2.5である」について、本件明細書の実施例において接着度の評価がなされているのは、チオール/エポキシ樹脂当量比=1.0の場合のみであり、「0.3~2.5」の範囲まで拡張できるとはいえない。とりわけ、甲A4及び甲A6の実施例等には、チオール/エポキシ当量比=0.3~0.5未満の場合は接着強度が著しく低下する、十分に硬化しないと記載されており、甲A9の段落【0094】や甲A10の段落【0096】の記載からみてチオール/エポキシ当量比=1.2を超えても接着強度を高めることができると認識するには、実施例にて立証されていない限り不可能である。なお、本件明細書の実施例8に倣った実験1及びチオール/エポキシ当量比を0.3とした実験2を行ったところ、実験2は実験1に比べて接着強度が著しく劣っており、本件発明の効果を奏すると言えるものではなかった。

(b)本件発明1の「前記(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、前記(C)成分中のDABCOの量が0.01~2質量部」であることについて、本件明細書の実施例のすべてがDABCOの量が0.3質量部の場合であり、「DABCOの量が0.01~2質量部」の範囲まで拡張できるとはいえない。

(c)本件発明1の「前記(A)成分のエポキシ樹脂における、芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)が10:0~2:8」であることについて、本件明細書の実施例として記載があるのは、10:0の場合以外には3:7の場合のみであり、2:8の場合のサポートはない。ここで、実施例3(3:7)のゲルタイムの結果が本件発明の課題(段落【0007】)である「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下」の臨界値に近いので、2:8の場合はこの60分、20分を超えることが容易に推測できる。

(d)本件発明1の「(B)チオール系硬化剤・・・を含み」と規定するものであるが、実施例として記載があるのは、一般式(I)で表されるメルカプトアルキルグリコールウリル類以外には、実施例7(PEMP:ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート))のみであり、一般式(I)で表されるメルカプトアルキルグリコールウリル類以外のチオール系硬化剤全般にまで拡張できるとはいえない。チオール系硬化剤の構造や物性等により接着強度が影響を受けることは明らかであるので、本件明細書に記載の実施例のみをもって、すべてのチオール系硬化剤について、課題解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されているということはできない。

2 申立人Bによる特許異議申立理由の概要

申立人Bによる特許異議申立理由の概要は、以下のとおりである。

(1)申立理由B1(新規性)

ア 本件発明1、3~11は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲B1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由B1」という。)。

(2)申立理由B2(進歩性)

ア 本件発明1~14は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲B1に記載された発明及び甲B2~甲B5に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由B2-1」という。)。

イ 本件発明1~14は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲B2に記載された発明及び甲B1、甲B3~甲B5に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである(以下「申立理由B2-2」という。)。

(3)申立理由B3(サポート要件)

本件発明1~14の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものではない。

よって、本件発明1~14に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

記

(a)本件発明は、本件明細書の段落【0007】の記載に基づけば「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能であり、さらに接着強度やポットライフに優れた一液型エポキシ樹脂組成物(以下、「エポキシ樹脂組成物」と略す場合がある)の提供を目的とする」ことを課題とし、本件発明1は「前記(A)成分のエポキシ樹脂における、芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)が10:0~2:8」であることを発明特定事項としているところ、本件明細書の実施例では、「接着強度」は実施例8についてのみ測定され、実施例4、6、7及び8はいずれも特定の「芳香族エポキシ樹脂」のみを用いた例であり、実施例4、6、7及び8以外の実施例1~3、5、9~13,比較例1~11については「接着強度」が測定された事実や結果は明示されていない。そうすると、「前記(A)成分のエポキシ樹脂における、芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)が10:0」以外の場合において、本件発明の課題の1つである「接着強度」に優れていることが裏付けられているとはいえない。

(b)本件発明1は「前記(B)成分の含有量は、前記(A)成分のエポキシ当量に対して、前記(B)成分のチオール当量比で、0.3~2.5である」を発明特定事項としているところ、実施例及び比較例には、実施例12及び13を除き、チオール当量比が1.0の場合しかなく、かつ、当量比を変更した実施例12及び13において接着強度の結果が示されているわけではない。このため、本件明細書の実施例で裏付けられているのは、特定の「芳香族エポキシ樹脂」のみを用い、かつチオール当量比が1.0とした場合のみであり、それ以外の場合まで裏付けられておらず、本件発明1に記載された事項は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載、又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。

第4 当審の判断

1 申立理由A1-1(進歩性)について

(1)甲A1に記載された発明について

甲A1には、段落【0232】~【0239】、【0245】の【表5】に着目すると、実施例4として、

「アミンアダクト(d1-4)160gとアミンアダクト(d2-4)40g、及びアミン化合物(E)として1、4-アザビシクロ[2.2.2]オクタン15gをフラスコに仕込み、180℃で加温しながら均一になるまで撹拌、混合を行った後、回収、冷却して室温で固体状のエポキシ樹脂用硬化剤(F-4)を得て、
エポキシ樹脂(e2)として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成イーマテリアルズ社製、「AER2603」、エポキシ当量189、全塩素量1800ppm、加水分解性塩素量50ppm)200g中に、エポキシ樹脂用硬化剤(F-4)100gを添加し、分散させた後、水0.5g、MR-200(日本ポリウレタン社製ポリメチレンフェニレンポリイソシアネート)2.5gを添加し、40~50℃で3時間、反応させ、キシレンで洗浄しながらろ過・分離を行った後、乾燥させることで、マイクロカプセル型アミン系硬化剤(C-4)を得て、
得られたマイクロカプセル型アミン系硬化剤(C-4)100g、
エポキシ樹脂(A-1)としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量189、全塩素量1800ppm、加水分解性塩素量50ppm、粘度1200mPa・s)200g、
熱硬化性液状樹脂(B)として1,4-シクロヘキサンジメタノールグリシジルエーテル(25℃の粘度60mPa・s、エポキシ当量145、分子量290、全塩素量5000ppm)20g
を用いて得た、液状樹脂組成物」

の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本件発明1について

ア 対比

本件発明1と甲A1発明とを対比する。

甲A1発明の「ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量189、全塩素量1800ppm、加水分解性塩素量50ppm、粘度1200mPa・s)」は、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」である「芳香族系エポキシ樹脂」に相当する。

甲A1発明の「1,4-シクロヘキサンジメタノールグリシジルエーテル(25℃の粘度60mPa・s、エポキシ当量145、分子量290、全塩素量5000ppm)」は、本件明細書の段落【0020】の「一方、脂肪族系エポキシ樹脂とは、ベンゼン環を有さないエポキシ樹脂を指し、例えば、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、・・・等が該当する」の記載からみて、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」である「脂肪族系エポキシ樹脂」に相当する。

そして、甲A1発明において、「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」は「200g」、「1,4-シクロヘキサンジメタノールグリシジルエーテル」は「20g」含まれているから、本件発明1と同様に、「(A)エポキシ樹脂」について「前記(A)成分のエポキシ樹脂における、芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)が10:0~2:8」の範囲内であるといえる。

甲A1発明の「アミンアダクト(d1-4)160gとアミンアダクト(d2-4)40g、及びアミン化合物(E)として1、4-アザビシクロ[2.2.2]オクタン15gをフラスコに仕込み、180℃で加温しながら均一になるまで撹拌、混合を行った後、回収、冷却して室温で固体状のエポキシ樹脂用硬化剤(F-4)を得て、エポキシ樹脂(e2)として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成イーマテリアルズ社製、「AER2603」、エポキシ当量189、全塩素量1800ppm、加水分解性塩素量50ppm)200g中に、エポキシ樹脂用硬化剤(F-4)100gを添加し、分散させた後、水0.5g、MR-200(日本ポリウレタン社製ポリメチレンフェニレンポリイソシアネート)2.5gを添加し、40~50℃で3時間、反応させ、キシレンで洗浄しながらろ過・分離を行った後、乾燥させる」ことで得た「マイクロカプセル型アミン系硬化剤(C-4)」は、本件発明1の「(C)有効成分として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane(DABCO))を含む、イソシアネートアダクト型マイクロカプセル化硬化促進剤」と、「(C)有効成分として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane(DABCO))」を含む「マイクロカプセル化」された硬化に関する物質である点で少なくとも一致する。

甲A1発明の「液状樹脂組成物」は、「ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量189、全塩素量1800ppm、加水分解性塩素量50ppm、粘度1200mPa・s)」及び「1,4-シクロヘキサンジメタノールグリシジルエーテル(25℃の粘度60mPa・s、エポキシ当量145、分子量290、全塩素量5000ppm)」の「エポキシ樹脂」を主成分として含んでいるといえるから、本件発明1と同様に、「エポキシ樹脂組成物」であるといえる。

そうすると、本件発明1と甲A1発明とは、

「(A)エポキシ樹脂、
(C)有効成分として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane(DABCO))を含む、マイクロカプセル化された硬化に関する物質を含み、
前記(A)成分のエポキシ樹脂における、芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)が10:0~2:8である、エポキシ樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点A1-1:「エポキシ樹脂組成物」について、本件発明1では、「(B)チオール系硬化剤」を含み、「(B)成分の含有量」を「前記(A)成分のエポキシ当量に対して、前記(B)成分のチオール当量比で、0.3~2.5」とするのに対し、甲A1発明では、「(B)チオール系硬化剤」を含んでいない点。

相違点A1-2:「マイクロカプセル化された硬化に関する物質」について、本件発明1では「イソシアネートアダクト型」の「硬化促進剤」であるのに対し、甲A1発明では、「アミンアダクト(d1-4)」と「アミンアダクト(d2-4)」を用いて「固体状のエポキシ樹脂用硬化剤(F-4)」を得て「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」と「MR-200(日本ポリウレタン社製ポリメチレンフェニレンポリイソシアネート)」とで「マイクロカプセル化」した「硬化剤」である点。

相違点A1-3:「(C)成分中のDABCOの量」について、本件発明1では、「(A)~(C)成分の合計100質量部」に対して「0.01~2質量部」であるのに対して、甲A1発明では、「(B)チオール系硬化剤」を含まないため、明らかでない点。
相違点A1-4:「エポキシ樹脂組成物」について、本件発明1は「一液型」であるのに対し、甲A1発明では、明らかでない点。

イ 判断

上記相違点A1-1及び相違点A1-3について、まず検討を行う。

(ア)本件発明1について

本件発明は、本件明細書の【0007】の記載からみて、「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能であり、さらに接着強度やポットライフに優れた一液型エポキシ樹脂組成物(以下、「エポキシ樹脂組成物」と略す場合がある)」することを課題とし、また、段落【0017】には当該課題に対応した「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能である。本発明のエポキシ樹脂組成物は、接着強度やポットライフも優れている」との効果を奏することが記載されている。

また、上記相違点A1-1及び相違点A1-3に関する本件発明1の「(B)チオール系硬化剤」及び「(C)成分中のDABCOの量」について、本件明細書の記載を確認すると、段落【0022】に「本発明のエポキシ樹脂組成物において、(B)成分の化合物は(A)成分のエポキシ樹脂の硬化剤として作用する」ことが記載され、段落【0028】には「本発明のエポキシ樹脂組成物において、(B)成分の化合物の含有量は、(A)成分(エポキシ樹脂)のエポキシ当量に対して、該(B)成分の化合物のチオール当量比で0.3~2.5である。これにより樹脂組成物の接着強度を高めることができる」ことが記載され、また、段落【0029】には「(C)成分のマイクロカプセル化硬化促進剤は、有効成分として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(・・・(DABCO))を含む」こと、「(C)成分のマイクロカプセル化硬化促進剤は、有効成分としてDABCOを含有することにより、(B)成分の化合物との組み合わせにより、100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能である」こと、段落【0030】には「(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、(C)成分中のDABCOの量が0.01~2質量部である。(C)成分中のDABCOの量が、(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、0.01質量部未満だと、100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が不可となる。一方、(C)成分中のDABCOの量が、(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、2質量部超だと、樹脂組成物の粘度が高くなり、作業性が悪化する。また、ポットライフも悪化しやすくなる」ことが記載されている。

当該記載から、本件発明1の「(B)チオール系硬化剤」は「(A)成分のエポキシ樹脂の硬化剤として作用する」ものであり、その含有量について、「(A)成分(エポキシ樹脂)のエポキシ当量に対して、該(B)成分の化合物のチオール当量比で0.3~2.5」とすることにより「樹脂組成物の接着強度を高めることができる」こと、「DABCO」を含む「(C)成分:マイクロカプセル化硬化促進剤」との組み合わせにより「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能である」こと、「DABCO」の量について「(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、(C)成分中のDABCOの量が0.01~2質量部」とすることにより「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」となり「作業性」及び「ポットライフ」が良好なものになることが理解できる。

そして、本件明細書の実施例を確認すると、本件発明1の発明特定事項を満たす実施例1~13は「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」なものになっているのに対し、「(B)チオール系硬化剤」ではなく「アリル化フェノール樹脂」を用いた比較例8~11及び「(C)成分:マイクロカプセル化硬化促進剤」として「DABCO」を含まないものを用いた比較例5~7では当該「低温短時間硬化」できないものとなったことが示されている。

したがって、本件発明1は、「(B)チオール系硬化剤」と「DABCO」を含む「(C)成分:マイクロカプセル化硬化促進剤」とを、本件発明1に規定される特定の量で組み合わせて用いることにより、本件発明の上記課題を解決するものであり、また、その効果として「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」なものになるといえる。

(イ)甲A1発明及び甲A1からの容易想到性について

甲A1の記載を確認すると、請求項1には「ビスフェノール型エポキシ樹脂、及びナフタレン型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種のエポキシ樹脂(A)と、25℃における粘度が0.03Pa・s以上3Pa・s未満である熱硬化性液状樹脂(B)と、マイクロカプセル型アミン系硬化剤(C)と、を含む液状樹脂組成物・・・」、請求項17には「酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤、グアニジン系硬化剤、及びチオール系硬化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂用硬化剤(h3)を、更に含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の液状樹脂組成物」が記載され、段落【0002】には「エポキシ樹脂組成物は、電気電子部品の絶縁材料、封止材料、接着剤、導電性材料等の幅広い用途に利用されている」ことが記載され、段落【0010】には課題について「貯蔵安定性と低温速硬化性と隙間浸透性に優れるとともに、硬化物としては接着強度と長期信頼性に優れる、液状樹脂組成物を提供することを目的とする」ことが記載されている。また、段落【0157】には「本実施形態の液状樹脂組成物には、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤、グアニジン系硬化剤、チオール系硬化剤より選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂用硬化剤(h3)を、更に含むことが好ましい」ことが記載され、段落【0158】~【0162】にはこれらの硬化剤の具体的な例示が多数記載され、段落【0163】には「実施形態の液状樹脂組成物中のエポキシ樹脂用硬化剤(h3)の含有量は、好ましくは0.1質量%以上99質量%以下%であり、より好ましくは1質量%以上80質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以上50質量%以下である」ことが記載されている。

甲A1には、「チオール系硬化剤」を含む「酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤、グアニジン系硬化剤、チオール系硬化剤より選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂用硬化剤(h3)を、更に含むことが好ましい」ことは記載されているものの、これらの中から特に「チオール系硬化剤」を選択する動機付けとなる記載はないし、実施例においてもこれらの「チオール系硬化剤」である「エポキシ樹脂用硬化剤(h3)」を用いた例は示されていない。

仮に、甲A1に「チオール系硬化剤」を添加することは容易に想到し得たと仮定しても、甲A1発明は「DABCO」を含む「マイクロカプセル型アミン系硬化剤(C-4)」を「硬化促進剤」ではなく「硬化剤」として用いるものであるところ、さらに、「チオール系硬化剤」の量について「(A)成分のエポキシ当量に対して、前記(B)成分のチオール当量比で、0.3~2.5」とし、さらに、「(C)成分中のDABCOの量」について、本件発明1のように「(A)~(C)成分の合計100質量部」に対して「0.01~2質量部」とすることまでも動機づけることはできないし、甲A1の記載から、「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」なものになるという本件発明の効果を具体的に予測できるとはいえない。

したがって、本件発明1は、甲A1発明及び甲A1に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(ウ)甲A1発明及び他の甲号証からの容易想到性について

a 甲A3について

甲A3の記載を確認すると、請求項1には「(a)少なくとも1つのジビニルアレーンジオキシド、(b)少なくとも1つのポリチオール化合物硬化剤、及び(c)少なくとも1つの触媒を含む、周囲条件で硬化させることのできる硬化性組成物」、請求項6には「該少なくとも1つの触媒が、以下の式Iのフラグメントを含む1又は複数の化合物を含む、請求項1に記載の硬化性組成物であって、・・・硬化性組成物」、請求項9には「該硬化触媒が、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン;N,N,N',N'',N''-ペンタメチルジエチレントリアミン;1,4-ジメチルピペラジン;1-メチル-4-(2-ジメチルアミノエチル)ピペラジン;ビス-(2-ジメチルアミノエチル)エーテル;N,N,N',N'',N''-ペンタメチルジプロピレントリアミン;N,N,N,-トリス-(3-ジメチルアミノプロピル)アミン;1,3,5-トリス(3-(ジメチルアミノ)プロピル)ヘキサヒドロ-s-トリアジン;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン;N,N,N',N'-テトラメチル-1,4-ブタンジアミン;N,N,N',N'-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミン;又はそれらの混合物を含む、請求項6に記載の硬化性組成物」、請求項10には「該硬化触媒の濃度が、約0.01質量パーセント~約20質量パーセントを含む、請求項6に記載の硬化性組成物」が記載されている。また、段落【0003】には課題について「周囲条件下(例えば、約20℃~約25℃の温度及び約1バールの圧力)で、組成物を配合する及び様々な基材へ組成物を適用する間の約24時間以内に硬化する、ジビニルアレーンジオキシド、ポリチオール、及び触媒を含む硬化性組成物を調製することが望ましいだろう」と記載され、「ポリチオール化合物硬化剤」について段落【0025】には「本発明の最も広い範囲において、少なくとも1つのチオール(-SH)部位を含む任意のポリチオール化合物を、本発明の硬化性組成物中に用いることができる。例えば、ポリチオール化合物の一つの実施形態において、本発明において有用な成分(b)は、例えば2以上のチオール(-SH)基を有する任意の有機化合物を含んでよい」こと、段落【0026】には「本発明において硬化性組成物の成分(b)として用いられるポリチオール化合物の濃度は一般に、一つの実施形態において約1wt%~約99wt%、別の実施形態において約2wt%~約98wt%、さらに別の実施形態において約5wt%~約95wt%、及びなお別の実施形態において約10wt%~約90wt%であってよい」ことが記載され、「触媒」について段落【0028】には「1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)」のほか多数のアミン化合物が例示され、段落【0029】には「本発明において用いられる触媒は、例えば単独成分として又は本技術分野において既知の他の触媒と組み合わせて用いてよい。本発明の配合中で用いられている触媒の濃度は、他の配合含有物の割合に依存して、一つの実施形態において約0.01wt%~約20wt%、別の実施形態において約0.1wt%~約10wt%、さらに別の実施形態において約1wt%~約10wt%、及びなお別の実施形態において約2wt%~約10wt%であってよい」ことが記載され、段落【0041】には「本発明の硬化性組成物は、コーティング、フィルム、接着剤、カプセル化、注型品、コンポジット、ラミネート、エレクトロニクス、電気用積層板、絶縁、土木建築などの分野のような、従来のエポキシ樹脂が用いられる用途において用いてよい」ことが記載され、実施例として、段落【0045】には「20mLのバイアルに、1.0gのDVBDO、4.0gのポリメルカプタン358(1.1のエポキシド/チオール当量比)及び0.1gのアミン触媒を添加した」ことが記載され、段落【0047】には「アミン触媒」として「1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)」のほか多数のアミン化合物」が列記されている。

甲A3には、「エポキシ樹脂」である「DVBDO」、「ポリメルカプタン358」、「1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)」を併用した例は記載されているものの、上記「b 甲A1発明及び甲A1からの容易想到性について」で述べたとおり、甲A1には「酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤、グアニジン系硬化剤、チオール系硬化剤」の中から特に「チオール系硬化剤」を選択する動機付けとなる記載はなく、甲A3を参酌しても「チオール系硬化剤」が他の「フェノール系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤、グアニジン系硬化剤」に比べて有意な点は記載されていないから、甲A3の記載からは甲A1発明において「チオール系硬化剤」を配合することを積極的に動機づけることはできない。

また、甲A3は、「1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)」等の「アミン化合物」である「触媒」について、甲A1発明のように「マイクロカプセル型アミン系硬化剤(C-4)」として用いるものではないため、甲A3の段落【0026】の「成分(b)として用いられるポリチオール化合物の濃度」の記載及び段落【0029】の「触媒の濃度」の記載を参酌しても、本件発明1のように「チオール系硬化剤」の量について「(A)成分のエポキシ当量に対して、前記(B)成分のチオール当量比で、0.3~2.5」とし、さらに、「(C)成分中のDABCOの量」について、「(A)~(C)成分の合計100質量部」に対して「0.01~2質量部」とすることまでも動機づけることはできないし、甲A3の記載から、「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」なものになるという本件発明の効果を具体的に予測できるとはいえない。

したがって、本件発明1は、甲A1発明及び甲A3に記載された技術的事項からも、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

b 甲A4~甲14Aについて

(a)甲A4~甲14Aの記載事項について

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甲A4の記載を確認すると、請求項1には「(A)エポキシ樹脂、(B)下記式(1)で示される化合物、【化1】・・・(C)硬化促進剤、(D)シランカップリング剤を含み、前記(B)成分の化合物の含有量が、前記(A)成分のエポキシ樹脂のエポキシ基と前記(B)成分の化合物のチオール基の当量比で1:0.5から1:2.5であり、前記(D)成分のシランカップリング剤の含有量が、前記(A)成分、前記(B)成分、前記(C)成分、および、前記(D)成分の合計量100質量部に対して0.2質量部から50質量部であり、前記(B)成分の化合物のチオール基と前記(D)成分のシランカップリング剤のSiとの当量比が1:0.002から1:1である、ことを特徴とする樹脂組成物」、請求項6には「請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物を含む一液型接着剤」、請求項9には「請求項6に記載の一液型接着剤を用いて製造された電子部品」が記載されている。また、課題について段落[0005]には「・・・80℃程度の温度で熱硬化可能であり、かつ、PCT耐性にも優れることから、イメージセンサーモジュールや電子部品の製造時に使用する一液型接着剤として好適な樹脂組成物の提供を目的とする」ことが記載され、段落[0017]には「(B)成分の化合物は、化合物中に4つのチオール基を有し、(A)成分のエポキシ樹脂の硬化剤として作用する。・・・これに対し、式(1)の化合物は、エステル結合を有していないため、PCTのような高温多湿環境下では、加水分解することがなく、接着強度の低下が起こりにくい。これにより、PCT耐性が向上する」こと、段落[0018]には「(B)成分の化合物の含有量は、(A)成分(エポキシ樹脂)のエポキシ当量に対して、該(B)成分の化合物のチオール当量比で0.6当量~2.3当量であることがより好ましい」ことが記載され、「(C)硬化促進剤」について、段落[0019]には「(C)成分の硬化促進剤は、(A)成分のエポキシ樹脂の硬化促進剤であれば、特に限定されず、公知のものを使用することができる。例えば、イミダゾール化合物からなるイミダゾール系硬化促進剤(マイクロカプセル型、エポキシアダクト型、包接型を含む)、第三級アミン系硬化促進剤、リン化合物系硬化促進剤等が挙げられる。これらの中でもイミダゾール系硬化促進剤、および、第三級アミン系硬化促進剤が、樹脂組成物の硬化速度が高く、80℃での熱硬化を実施するうえで好ましく、イミダゾール系硬化促進剤が特に好ましい」ことが記載され、実施例では、「ビスフェノールF型エポキシ樹脂」、「チオール系硬化剤」である「下記式(1)で示される化合物」、「(C)硬化促進剤」として「HX3088:ノバキュアHX3088(イミダゾール系潜在性硬化促進剤、旭化成ケミカルズ社製、(1/3イミダゾールアダクト品、2/3エポキシ樹脂)、エポキシ当量180)」、「HXA3922HP:ノバキュアHXA3922HP(イミダゾール系潜在性硬化促進剤、旭化成ケミカルズ社製、(1/3イミダゾールアダクト品、2/3エポキシ樹脂)、エポキシ当量180)」を用いた例が記載されている。しかしながら、「イミダゾール系潜在性硬化促進剤」の有効成分として「DABCO」を用いることまでは記載されていない(段落[0019]~[0021]を参照)。

甲A5の記載事項を確認すると、請求項1には「以下の(A)~(D)成分を含有する樹脂組成物。(A)エポキシ樹脂 (B)長鎖アミン化合物 (C)チオール化合物 (D)潜在性硬化剤」、請求項6には「前記(A)成分と前記(C)成分との当量比が、チオール当量/エポキシ当量で0.6~2.0である、請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載の樹脂組成物」、請求項10には「請求項1から請求項9のうちいずれか1項に記載の樹脂組成物を含有する接着剤」、請求項11には「請求項1から請求項9のうちいずれか1項に記載の樹脂組成物を含有する半導体封止剤」が記載されている。また、課題について段落[0006]には「低温速硬化性に優れ、貯蔵安定性(保存安定性)が良好であるとともに、硬化物のTg(ガラス転移点)が低い樹脂組成物を提供することを目的とする」ことが記載され、「(D)潜在性硬化剤」について「(D)成分の潜在性硬化剤は、室温ではエポキシ樹脂に不溶の固体であり、加熱することにより可溶化してエポキシ樹脂の硬化促進剤として機能する化合物である。このような潜在性硬化剤の例として、常温で固体のイミダゾール化合物、及び、固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤を挙げることができる。固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤の例として、アミン化合物とエポキシ化合物との反応生成物(アミン-エポキシアダクト系)、及び、アミン化合物とイソシアネート化合物または尿素化合物との反応生成物(尿素型アダクト系)等を挙げることができる」ことが記載され、段落[0046]には「本発明の樹脂組成物において、エポキシ樹脂とチオール化合物との当量比は、チオール当量/エポキシ当量で0.6以上2.0以下であることが好ましい。エポキシ樹脂に対してチオール化合物がこの範囲内の当量比で加えられることによって、樹脂組成物の低温速硬化性と貯蔵安定性(保存安定性)を良好に維持しつつ、樹脂組成物を硬化させた硬化物のTg(ガラス転移点)を効果的に低下させることが可能である。なお、「チオール当量」とは、チオール化合物の分子量を1分子中のチオール基の数で割った数値のことである」ことが記載されている。また、実施例では、「エポキシ樹脂1~5」、「(B)長鎖アミン化合物:ハンツマン社製「D2000」、ポリオキシプロピレンジアミン(重量平均分子量Mw:2000前後)」、「チオール化合物C1~3」、「(D)潜在性硬化剤:味の素ファインテクノ社製「PN23J」、エポキシ樹脂アミンアダクト」を含む例が記載されている。しかしながら、「(D)潜在性硬化剤」の有効成分として「DABCO」を用いることまでは記載されていない(段落[0034]~[0035]を参照)。

甲A6の記載事項を確認すると、請求項1には「以下の(A)~(C)成分を含有する樹脂組成物。 (A)ベンゼン環を含まないエポキシ樹脂 (B)分子中に2個以上のチオール基を有するチオール化合物 (C)潜在性硬化剤」、請求項7には「前記(B)成分が、テトラエチレングリコール ビス3-メルカプトプロピオネート、トリメチロールプロパン トリス3-メルカプトプロピオネート、ペンタエリスリトール テトラキス3-メルカプトプロピオネート、及び、ジペンタエリスリトール テトラキス3-メルカプトプロピオネートから選択される少なくとも1つである請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載の樹脂組成物」、請求項9には「請求項1から請求項8のうちいずれか1項に記載の樹脂組成物を含有する封止剤により封止された電子部品」、請求項10には「請求項1から請求項8のうちいずれか1項に記載の樹脂組成物を含有する接着剤」が記載されている。課題について、段落[0006]には「低温速硬化性に優れており、硬化物のTg(ガラス転移点)が低く、硬化後に長時間経過しても硬化物のTgがほとんど変化しないエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする」ことが記載され、「(C)潜在性硬化剤」について段落[0032]には「上記(C)成分の潜在性硬化剤とは、室温ではエポキシ樹脂に不溶の固体で、加熱することにより可溶化し硬化促進剤として機能する化合物で、常温で固体のイミダゾール化合物や、固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤、例えば、アミン化合物とエポキシ化合物との反応生成物(アミン-エポキシアダクト系)、アミン化合物とイソシアネート化合物または尿素化合物との反応生成物(尿素型アダクト系)等が挙げられる」ことが記載され、段落[0046]~[0047]には「本発明の樹脂組成物において、上記(A)成分のエポキシ当量に対して、上記(B)成分がチオール当量比で1.0~2.0(1.0以上2.0以下)の割合で配合されていることが好ましい。・・・上記(A)成分と上記(B)成分の配合割合がこのような範囲に設定されることによって、樹脂組成物が硬化して硬化物となった後に長時間経過しても、その硬化物のTgがほとんど変化しない樹脂組成物を得ることができる。このような樹脂組成物が得られる理由は、上記(A)成分のエポキシ当量に対する上記(B)成分のチオール当量比が適切な範囲に設定されているためであると考えられる。すなわち、上記(A)成分のエポキシ当量に対する上記(B)成分のチオール当量比が1.0よりも小さい場合には、エポキシ基の一部がチオール基と反応せずに余ってしまうために、この余ったエポキシ基が原因となって硬化物の硬化がさらに進行するものと考えられる。一方、上記(A)成分のエポキシ当量に対する上記(B)成分のチオール当量比が2.0よりも大きい場合には、チオール基の一部がエポキシ基と反応せずに余ってしまうために、この余ったチオール基が原因となって硬化物の硬化がさらに進行するものと考えられる」ことが記載されている。また、実施例では、「エポキシ樹脂1~5」、「チオール化合物B1~3」、「(C)潜在性硬化剤:味の素ファインテクノ社製「PN40J」、エポキシ樹脂アミンアダクト」を含む例が記載されている。しかしながら、「(C)潜在性硬化剤」の有効成分として「DABCO」を用いることまでは記載されていない(段落[0036]を参照)。

甲A7の記載事項を確認すると、請求項1には「トリス(3-メルカプトプロピル)イソシアヌレートと、エポキシ樹脂が、式(1)または式(2):・・・で表されるエポキシ化合物またはそれらの重合体を含有する一液型熱硬化性樹脂組成物」、請求項10には「請求項1~9のいずれかに記載の樹脂組成物を含有する接着剤」、請求項11には「請求項1~9のいずれかに記載の樹脂組成物を含有する封止用材料」が記載されている。課題について段落[0004]には「本発明の目的は、低温硬化性、剥離強度、耐湿性のすべてを兼ね備えた一液型熱硬化性組成物を提供することである」と記載され、「トリス(3-メルカプトプロピル)イソシアヌレート(TMPIC)」について「トリス(3-メルカプトプロピル)イソシアヌレートの含有量は、本発明の一液型熱硬化性樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂を100質量部とした場合、例えば10~100質量部、好ましくは、20~90質量部、より好ましくは、30~80質量部、さらに好ましくは、40~70質量部である」ことが記載され、段落[0033]には「TMPIC以外のエポキシ樹脂用硬化剤としては、例えばイミダゾール系硬化剤やアミン系硬化剤を挙げることができる。さらに、TMPIC以外のチオール化合物、例えば、・・・等のポリオールとメルカプト有機酸のエステル化反応によって得られるチオール化合物もエポキシ樹脂用硬化剤として使用することができる」こと、段落[0034]には「本発明で用いることができる硬化促進剤としては、例えば固体分散型潜在性硬化促進剤を挙げることができる。固体分散型潜在性硬化促進剤とは、室温(25℃)では上述のエポキシ樹脂に不溶の固体で、加熱することにより可溶化し、エポキシ樹脂の硬化促進剤として機能する化合物であり、常温で固体のイミダゾール化合物、および固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤の例としては、アミン化合物とエポキシ化合物との反応生成物(アミン-エポキシアダクト系)、アミン化合物とイソシアネート化合物または尿素化合物との反応生成物(尿素型アダクト系)等が挙げられる。これらのうち、固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤が好ましい」ことが記載されている。また、実施例には、エポキシ樹脂、「TMPIC:味の素ファインテクノ社製、トリス(3-メルカプトプロピル)イソシアヌレート、チオール基合計当量117g/eq」及び/又は「TMTP:淀化学社製、トリメチロールプロパン トリス(3-メルカプトプロピオネート、チオール基合計当量133g/eq)、「FXR-1081:T&K TOKA社製、変性ポリアミン系潜在性硬化剤」を含む例が記載されている。しかしながら、「固体分散型潜在性硬化促進剤」の有効成分として「DABCO」を用いることまでは記載されていない(段落[0037]~[0038]を参照)。

甲A8の記載事項を確認すると、請求項1には「(1)分子内にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂、(2)分子内にチオール基を2個以上有するチオール化合物、(3)固体分散型潜在性硬化促進剤、及び(4)ホウ酸エステル化合物を必須成分とすることを特徴とするエポキシ樹脂組成物」、請求項2には「エポキシ樹脂とチオール化合物の混合比が、チオール化合物のSH当量数/エポキシ樹脂のエポキシ当量数比で0.5~1.2であり、かつエポキシ樹脂100重量部に対して、固体分散型潜在性硬化促進剤の添加量が1~60重量部、そしてホウ酸エステル化合物が0.1~30重量部であることを特徴とする請求項1記載のエポキシ樹脂組成物」が記載されている。課題について、段落【0007】には「本発明の目的は、従来のエポキシ樹脂組成物の能力をはるかに上回る低温速硬化性を示し、かつ保存安定性が良好なポリチオール系一液性エポキシ樹脂組成物を提供することである」ことが記載され、「(3)固体分散型潜在性硬化促進剤」について段落【0015】には「本発明に用いられる固体分散型潜在性硬化促進剤とは、室温ではエポキシ樹脂に不溶の固体で、加熱することにより可溶化し促進剤として機能する化合物で、常温で固体のイミダゾール化合物や、固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化促進剤、例えば、アミン化合物とエポキシ化合物との反応生成物(アミン-エポキシアダクト系)、アミン化合物とイソシアネート化合物または尿素化合物との反応生成物(尿素型アダクト系)等が挙げられる」ことが記載され、段落【0036】~【0037】には「本発明のポリチオール系エポキシ樹脂組成物は、40℃においても2週間以上の安定性を持つため、以前より混合後のポットライフに課題を残していたポリチオール系エポキシ樹脂組成物の一液化を可能にする。また、硬化においても、従来の一液性樹脂組成物では成し得なかった低温速硬化性を示し、特に、80~90℃で数十秒~数分で硬化する組成物の調製も可能である。・・・、低温速硬化性を要求されるエレクトロニクス関係をはじめとしたあらゆる分野の接着剤、封止剤、コーティング剤等の用途に適している」ことが記載されている。また、実施例には、「ビスフェノールA型エポキシ樹脂「エピコート(EP)-828」(油化シェルエポキシ社商品名)100部に、ポリチオール化合物として「TMTP(トリメチロールプロパン トリス(β-チオプロピオネート))」(淀化学社商品名)70部を加え、これに固体分散型潜在性硬化促進剤として「アミキュアPN-H」(味の素(株)商品名)および「ノバキュアHX-3721」(旭化成(株)商品名)のいずれかを用い、そしてホウ酸エステル化合物としてB(OBu)3(ホウ酸トリブチル)およびB(OEt)3(ホウ酸トリエチル)のいずれかを用いて、エポキシ樹脂組成物を調製し評価を行った」ことが記載されている。しかしながら、「固体分散型潜在性硬化促進剤」の有効成分として「DABCO」を用いることまでは記載されていない(段落【0018】~【0019】を参照)。

甲A9の記載事項を確認すると、請求項1には「一般式(I)・・・で表されるメルカプトアルキルグリコールウリル類」、請求項3には「請求項1又は2に記載のメルカプトアルキルグリコールウリル類を含むエポキシ樹脂組成物」、請求項4には「アミン類からなる硬化促進剤を含む請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物」、請求項6には「分子内に1個以上のイソシアネート基を有する化合物と分子内に少なくとも1個の第1級及び/又は第2級アミノ基を有する化合物との反応生成物を硬化促進剤として含む請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物」が記載されている。課題として段落【0011】には「本発明は、新規なメルカプトアルキルグリコールウリル類とそのエポキシ樹脂の硬化剤としての利用と上記メルカプトアルキルグリコールウリル類を含むエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする」ことが記載され、段落【0077】には「本発明によるメルカプトアルキルグリコールウリル類は、前述したように、新規な含硫黄化合物の合成中間体のほか、分子中に2個以上のメルカプトアルキル基を有するものは、例えば、エポキシ樹脂の硬化剤として有用である」こと、段落【0079】には「本発明によるエポキシ樹脂組成物は、前記一般式(I)で表されるメルカプトアルキルグリコールウリル類を硬化剤として含む。更に、本発明によるエポキシ樹脂組成物は、アミン類からなる硬化促進剤に代えて、又はアミン類からなる硬化促進剤と共に、アミン類とエポキシ化合物との反応生成物からなる硬化促進剤や、分子内に1個以上のイソシアネート基を有する化合物と分子内に少なくとも1個の第1級及び/又は第2級アミノ基を有する化合物との反応生成物からなる硬化促進剤を含んでもよい」ことが記載され、段落【0094】には「本発明によるエポキシ樹脂組成物において、本発明による前記メルカプトアルキルグリコールウリル類は、SH当量数/エポキシ当量数比が0.5~1.2となるように用いられる。また、前記潜在性硬化促進剤は、エポキシ樹脂100重量部に対して、通常、0.1~10重量部の範囲で用いられる」ことが記載され、段落【0103】には「本発明によるエポキシ樹脂組成物において、前記メルカプトアルキルグリコールウリル類は、SH当量数/エポキシ当量数が0.5~1.2となるように用いられ、上記分子内に1個以上のイソシアネート基を有する化合物と分子内に少なくとも1個の第1級及び/又は第2級アミノ基を有する化合物との反応によって得られる反応生成物である硬化促進剤は、エポキシ樹脂100重量部に対して1~10重量部の範囲で用いられる」ことが記載され、段落【0133】には「本発明によるエポキシ樹脂組成物は、接着、シーリング、封止、注型、成型、塗装、コーティング等の用途に好適であり、産業上の利用可能性は多大である」ことが記載されている。しかしながら、「硬化促進剤」の有効成分として「DABCO」を用いることまでは記載されていない(段落【0081】、【0085】~【0087】を参照)。

甲A10の記載事項を確認すると、請求項1には「一般式(I)・・・で表されるメルカプトアルキルグリコールウリル類」、請求項4には「請求項1又は2に記載のメルカプトアルキルグリコールウリル類を含むエポキシ樹脂組成物」、請求項5には「アミン類からなる硬化促進剤を含む請求項4に記載のエポキシ樹脂組成物」、請求項6には「アミン類とエポキシ化合物との反応生成物を硬化促進剤として含む請求項4に記載のエポキシ樹脂組成物」、請求項7には「分子内に1個以上のイソシアネート基を有する化合物と分子内に少なくとも1個の第1級及び/又は第2級アミノ基を有する化合物との反応生成物を硬化促進剤として含む請求項4に記載のエポキシ樹脂組成物」が記載されている。課題について、段落【0011】には「新規なメルカプトアルキルグリコールウリル類とその利用、特に、エポキシ樹脂用硬化剤としての利用と上記メルカプトアルキルグリコールウリル類を硬化剤として含むエポキシ樹脂組成物と、更には、そのようなエポキシ樹脂組成物を含む接着剤及びシール剤を提供することを目的とする」ことが記載され、段落【0079】には「本発明による1,3,4,6-テトラキス(メルカプトアルキル)グリコールウリル類を硬化剤として含むエポキシ樹脂組成物は、耐加水分解性にすぐれているのみならず、従来、知られているエポキシ樹脂組成物に比べて、架橋密度のより高いエポキシ樹脂硬化物、従って、例えば、硬度、耐熱性、耐湿性等によりすぐれたエポキシ樹脂硬化物を与える」ことが記載され、段落【0096】には「本発明によるエポキシ樹脂組成物において、本発明による前記メルカプトアルキルグリコールウリル類は、SH当量数/エポキシ当量数比が0.5~1.2となるように用いられる。また、前記潜在性硬化促進剤は、エポキシ樹脂100重量部に対して、通常、0.1~10重量部の範囲で用いられる」ことが記載され、段落【0105】には「本発明によるエポキシ樹脂組成物において、前記メルカプトアルキルグリコールウリル類は、SH当量数/エポキシ当量数が0.5~1.2となるように用いられ、上記分子内に1個以上のイソシアネート基を有する化合物と分子内に少なくとも1個の第1級及び/又は第2級アミノ基を有する化合物との反応によって得られる反応生成物である硬化促進剤は、エポキシ樹脂100重量部に対して1~10重量部の範囲で用いられる」ことが記載され、段落【0149】~【0150】には「本発明によるメルカプトアルキルグリコールウリル類は、新規な含硫黄化合物の合成中間体として有用であるほか、特に、分子中にメルカプトアルキル基を2個以上有するものは、エポキシ樹脂用硬化剤として有用である。・・・本発明によるメルカプトアルキルグリコールウリル類を硬化剤として含むエポキシ樹脂組成物は、接着、シーリング、封止、注型、成型、塗装、コーティング等の用途に好適に用いることができる」ことが記載されている。しかしながら、「硬化促進剤」の有効成分として「DABCO」を用いることまでは記載されていない(段落【0083】、【0089】を参照)。

甲A11には「ポリメルカプタン化合物はアミンなどの塩基を触媒としたとき,エポキシ樹脂を室温では急速に硬化し,0℃以下の低い温度でも硬化剤としてすでに知られており,接着剤や塗料用として一部実用化されている」(第565頁左欄第2~6行)ことが記載されている。

甲A12には「チオール(メルカプタン)系硬化剤の特筆すべき点はアミン系硬化剤に比べて,薄膜や常温以下でエポキシドと反応する速度が非常に速いことである(図2)。チオール基は3級アミンのような塩基性物質の存在下でオキシラン基と迅速に付加反応する。・・・この反応を利用して分子内に2個以上のチオール基を有する化合物がエポキシ樹脂の速効果あるいは低温硬化剤として実用化されている」(第204頁第10~20行)ことが記載されている。

甲A13の記載事項を確認すると、請求項1には「常温で液状のエポキシ樹脂、硬化剤並びに無機充填材を必須成分として含有する液状エポキシ樹脂組成物であって、前記エポキシ樹脂としてアミノグリシジルエーテルがエポキシ樹脂全体の20質量%以上を占め、かつ、アルケニル基を有するフェノール系硬化剤が硬化剤全体の30質量%以上を占めるとともに、トリアジン骨格を有するチオール化合物がエポキシ樹脂組成物全体量に対して0.1~5質量%の範囲内で配合されていることを特徴とする液状エポキシ樹脂組成物」が記載され、課題について段落【0008】には「本発明は、LCP等の基材に対しても高い密着性を有し、しかも室温での可使時間に優れ、作業性も良好な、新しい一液性の液状エポキシ樹脂組成物と、それを用いて接着、封止した複合部材および電子部品装置を提供することを課題としている」ことが記載され、段落【0053】には「また、本発明の電子部品装置は、上記のようにして得られた液状エポキシ樹脂組成物により、ICチップ、LSIチップのような半導体チップなどの電子部品を、LCPを材料とする回路基板上で封止することによって製造することができる」ことが記載されている。

甲A14の記載事項を確認すると、請求項1には「少なくとも 2つの物品を接着性樹脂組成物により接着する方法であって、前記組成物は、(a)熱硬化性樹脂成分、(b)潜在性硬化剤、(c)不飽和基を有する光重合性樹脂成分、および(dl)可視光重合開始剤を含有し、前記方法が、・・・方法」が記載され、段落[0002]には「一液型の熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、性能に優れ、ハンドリングが容易であることから、種々の用途にて使用されている。例えば、イメージセンサーのパッケージング、イメージセンサーモジュールの組み立て、光学デバイスの装着、および液晶ディスプレイのメインシール等の精密部品の組み立て・装着にも使用されている」ことが記載されている。

なお、甲A2の記載事項は、以下の「2 申立理由A1-2(進歩性)について」「(1)本件発明1について」「イ 判断」に記載したとおりである。

(b)甲1発明及び甲A4~甲A14に記載事項からの検討

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甲A4~甲A10の記載事項から、「エポキシ樹脂」及び「チオール系硬化剤」及び「潜在的硬化促進剤」を含む硬化性組成物、及び、「エポキシ樹脂」と「チオール系硬化剤」の配合について「エポキシ当量」に対して「チオール当量」比で「0.3~2.5」程度の範囲内とすることは、本件特許に係る出願の優先日前から知られていたと解される。また、甲A11及び甲A12の記載からみて、「アミン系硬化剤」に比べて「チオール系硬化剤」の硬化速度が速いことも知られていたと解される。

しかしながら、甲A4~甲A14のいずれにも、「チオール系硬化剤」が甲A1の段落【0157】の「酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤、グアニジン系硬化剤」に比べて優位な点は記載されていないし、また、「エポキシ樹脂組成物」において、「チオール系硬化剤」と「DABCO」を含む「イソシアネートアダクト型マイクロカプセル化硬化促進剤」を組み合わせて用いることまでは記載されていない。

さらに、上記「b 甲A1発明及び甲A1からの容易想到性について」で述べたとおり、甲A1発明は「DABCO」を含む「マイクロカプセル型アミン系硬化剤(C-4)」を「硬化促進剤」ではなく「硬化剤」として用いるものであるところ、仮に「低温速硬化性」を目的として「チオール系硬化剤」を更に添加することは動機付けられたとしても、甲A1発明は既に「硬化剤」として「DABCO」を含む「マイクロカプセル型アミン系硬化剤(C-4)」を含むものであり、一方、甲A4~甲A10に記載の「組成物」は「硬化剤」として「チオール系硬化剤」を用いアミン系化合物を「硬化促進剤」とすることを前提とするものであるところ、甲A1発明において、「エポキシ樹脂」と「チオール系硬化剤」の配合割合を甲A4~甲A10に記載の配合割合をそのまま採用すること、また、「(C)成分中のDABCOの量」について、本件発明1のように「(A)~(C)成分の合計100質量部」に対して「0.01~2質量部」とすることまでも直ちに動機づけることはできない。

また、本件発明の効果について、「チオール系硬化剤」の硬化速度が速くなることは予測できたとしても、本件発明1の発明特定事項によって特定される「エポキシ樹脂組成物」の具体的組成において「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」なものになるという本件発明の効果を具体的に予測できるとまではいえない。

したがって、相違点A1-1及び相違点A1-3は、甲A1発明及び甲A2~甲A14に記載された事項から容易に想到し得たということはできない。

ウ 特許異議申立書における申立人Aの主張について

特許異議申立書において、申立人Aは、本件発明1と甲1-1発明(特許異議申立書の第31~32頁に記載のもの。甲A1の一般的記載の他、実施例4、12~14を加味した発明)との相違点を、「相違点1:本件特許発明1は「(B)チオール系硬化剤」を含むが、甲1-1発明は(B)チオール系硬化剤を含んでいない点」及び「本件特許発明1は「前記(B)成分の含有量は、前記(A)成分のエポキシ当量に対して、前記(B)成分のチオール当量比で、0.3~2.5である」が、甲1-1発明は(B)成分のチオール系硬化剤を含んでいない点」とした上で、「甲1-1発明において、チオール系硬化剤を更に含み、その含有量を液状樹脂組成物中、好ましくは0.1質量%以上99質量%以下%であり、・・・更に好ましくは5質量%以上50質量%以下とすることは、当業者に容易に想到し得ることである。ここで、本件特許出願時(本件特許の優先権主張出願時を意味する 以下、同様。)の技術常識(チオールとエポキシとは1:1で反応する(例えば、甲11及び甲12(※)))を参酌すれば、チオール系硬化剤を上記好ましい含有量の範囲内で含有させるに際して、未反応物が多く残ったり、硬化不十分になったりすることを避けるべくエポキシ樹脂とチオール系硬化剤をチオール/エポキシ当量比が1又はその近傍となるように配合することは必然ないし当然のことであるから、チオール/エポキシ当量比= 1又はその近傍とすること(少なくともチオール/エポキシ当量比=1とすること)も記載されているに等しいか、あるいは設計的事項にすぎない。・・・また、チオール/エポキシ当量比が1又はその周辺(0.6~1.2乃至2程度)となるようにエポキシ樹脂とチオール系硬化剤を配合することは、例えば、下記表1に多数例示される通り(甲3~甲11)、本件特許発明や甲1-1発明と同一技術分野における周知技術及び/又は慣用技術であるから、これを甲1-1発明に適用する動機付けがあり、チオール系硬化剤を上記好ましい含有量の範囲内で含有させるに際して、エポキシ樹脂とチオール系硬化剤をチオール/エポキシ当量比が1又はその周辺(0.6~1.2乃至2程度)となるように配合することは当業者に容易想到である)と主張している(特許異議申立書第103~105頁を参照)。

しかしながら、上述したとおり、甲A1には、「本実施形態の液状樹脂組成物には、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤、グアニジン系硬化剤、チオール系硬化剤より選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂用硬化剤(h3)を、更に含むことが好ましい」ことが記載されているが、この中から、特に「チオール系硬化剤」を選択する動機付けとなる記載はなく、甲A3~甲A14を参酌しても、「チオール系硬化剤」は本願の優先日当時に周知の硬化剤であったことは認められるものの、「酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤、グアニジン系硬化剤」よりも「チオール系硬化剤」が優位であり、特に選択することの動機付けとなる記載があるとはいえない。

また、仮に、甲A1発明において「チオール系硬化剤」を選択して更に添加する動機付けがあったとしても、甲A1発明に相当する甲A1の実施例4は、甲A1の段落【0245】の【表5】の「低温硬化性」の評価をみると、「チオール系硬化剤」を含まない態様でも既に「◎」となっていることからすると、甲A1発明において、「チオール系硬化剤」を更に添加する際に、周知技術及び/又は慣用技術とされる「チオール/エポキシ当量比= 1又はその近傍とすること(少なくともチオール/エポキシ当量比= 1とすること)」あるいは「0.6~1.2乃至2程度」となる量をそのまま添加するとまでは直ち動機付けられるといえない。さらに、「チオール系硬化剤」を添加するとした場合に、甲A1発明における「DABCO」の量もそのままとすることも直ちに動機付けられるといえない。また、本件発明の効果について、「チオール系硬化剤」の添加により、硬化速度が速くなることは予測できたとしても、本件発明1の発明特定事項によって特定される「エポキシ樹脂組成物」の具体的組成において「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」なものになるという本件発明の効果を具体的に予測できるとまではいえない。

したがって、上記申立人Aの主張を採用することはできない。

エ 小括

以上のとおり、上記相違点A1-2、A1-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A1に記載された発明及び甲A3~甲A14に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本件発明2~14について

本件発明2~14は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2~14は、上記イ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲A1に記載された発明及び甲A3~甲A14に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ

以上のとおり、申立理由A1-1の理由によっては、本件発明1~14に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由A1-2(進歩性)について

(1)甲A2に記載された発明について

甲A2には、段落【0286】、【0290】、【0291】の【表3】、【0301】~【0302】、【0308】の【表4】、【0309】、【0312】、【0313】の【表5】の実施例4に着目すると、

「アミンアダクト(AD2-4)140g、及び低分子アミン化合物(B)として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(分子量:102、融点:155℃)25g及び4-アミノピリジン25g、溶剤としてトルエン100g及び1-ブタノール100gをフラスコに仕込み、100℃で加温しながら均一になるまで撹拌及び溶解させて溶液を得て、その後、得られた溶液を150℃に加温してトルエン及び1-ブタノールを蒸留によりフラスコ内から除去し、フラスコ内のトルエン及び1-ブタノールの残分を0.1質量%未満とした後、ナノサイズの無機化合物微粒子(C)として、日本アエロジル(株)の「AEROSIL RX300」を8gフラスコに添加して、均一になるまで攪拌混合を継続し、混合物を得て、得られた混合物を回収、冷却して、室温(25℃)で固体状のエポキシ樹脂用硬化剤(D-4)を得て、
分散媒兼エポキシ樹脂(e2)として、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(DIC製、「EXA-830CRP」、エポキシ当量:171g/eq、全塩素量:800ppm、加水分解性塩素量:10ppm、以下「e2-2」とも記す)200gを用い、該分散媒兼エポキシ樹脂(e2)中に、エポキシ樹脂用硬化剤(D-4)の微粉砕物100gを添加し、分散させた後、水0.1g、及びポリメチレンフェニレンポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製のMR-200)2.5gを添加し、25~50℃で3時間、反応させて、エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F-4)を含むエポキシ樹脂組成物を得て、キシレンで洗浄しながらろ過及び分離を行った後、乾燥させることで、エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F-4)を得て、
上記で得られたエポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F-4)100gと、
エポキシ樹脂(E)としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成イーマテリアルズ社製、「AER2603」、エポキシ当量:189g/eq、全塩素量:1800ppm、加水分解性塩素量:50ppm、粘度:12000mPa・s、以下「E-1」とも記す)200g
とを混合して得た、エポキシ樹脂組成物(M-1)」の発明(以下「甲A2発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本件発明1について

ア 対比

本件発明1と甲A2発明とを対比する。

甲A2発明の「ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成イーマテリアルズ社製、「AER2603」、エポキシ当量:189g/eq、全塩素量:1800ppm、加水分解性塩素量:50ppm、粘度:12000mPa・s、以下「E-1」とも記す)」は、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」である「芳香族系エポキシ樹脂」に相当する。

そして、甲A2発明の「エポキシ樹脂組成物(M-1)」には、「エポキシ樹脂(E)」として他のエポキシ樹脂は含まれていないことから、本件発明1の「前記(A)成分のエポキシ樹脂における、芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)」は「10:0」の場合に相当する。

甲A2発明の「アミンアダクト(AD2-4)140g、及び低分子アミン化合物(B)として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(分子量:102、融点:155℃)25g及び4-アミノピリジン25g、溶剤としてトルエン100g及び1-ブタノール100gをフラスコに仕込み、100℃で加温しながら均一になるまで撹拌及び溶解させて溶液を得て、その後、得られた溶液を150℃に加温してトルエン及び1-ブタノールを蒸留によりフラスコ内から除去し、フラスコ内のトルエン及び1-ブタノールの残分を0.1質量%未満とした後、ナノサイズの無機化合物微粒子(C)として、日本アエロジル(株)の「AEROSIL RX300」を8gフラスコに添加して、均一になるまで攪拌混合を継続し、混合物を得て、得られた混合物を回収、冷却して、室温(25℃)で固体状のエポキシ樹脂用硬化剤(D-4)を得て、分散媒兼エポキシ樹脂(e2)として、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(DIC製、「EXA-830CRP」、エポキシ当量:171g/eq、全塩素量:800ppm、加水分解性塩素量:10ppm、以下「e2-2」とも記す)200gを用い、該分散媒兼エポキシ樹脂(e2)中に、エポキシ樹脂用硬化剤(D-4)の微粉砕物100gを添加し、分散させた後、水0.1g、及びポリメチレンフェニレンポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製のMR-200)2.5gを添加し、25~50℃で3時間、反応させて、エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F-4)を含むエポキシ樹脂組成物を得て、キシレンで洗浄しながらろ過及び分離を行った後、乾燥させる」ことで得た「エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F-4)」は、本件発明1の「(C)有効成分として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane(DABCO))を含む、イソシアネートアダクト型マイクロカプセル化硬化促進剤」と、「(C)有効成分として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane(DABCO))」を含む「マイクロカプセル化」された硬化に関する物質である点で少なくとも一致する。

そうすると、本件発明1と甲A2発明とは、

「(A)エポキシ樹脂、
(C)有効成分として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane(DABCO))を含む、マイクロカプセル化された硬化に関する物質を含み、
前記(A)成分のエポキシ樹脂における、芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)が10:0~2:8である、エポキシ樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点A2-1:「エポキシ樹脂組成物」について、本件発明1では、「(B)チオール系硬化剤」を含み、「(B)成分の含有量」を「前記(A)成分のエポキシ当量に対して、前記(B)成分のチオール当量比で、0.3~2.5」とするのに対し、甲A2発明では、「(B)チオール系硬化剤」を含んでいない点。

相違点A2-2:「マイクロカプセル化された硬化に関する物質」について、本件発明1では「イソシアネートアダクト型」の「硬化促進剤」であるのに対し、甲A2発明では、「アミンアダクト(AD2-4」を用いて「固体状のエポキシ樹脂用硬化剤(D-4)」を得て「ビスフェノールF型エポキシ樹脂(DIC製、「EXA-830CRP」、エポキシ当量:171g/eq、全塩素量:800ppm、加水分解性塩素量:10ppm、以下「e2-2」とも記す)」と「ポリメチレンフェニレンポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製のMR-200)」とで「マイクロカプセル化」した「硬化剤」である点。

相違点A2-3:「(C)成分中のDABCOの量」について、本件発明1では、「(A)~(C)成分の合計100質量部」に対して「0.01~2質量部」であるのに対して、甲A2発明では、「(B)チオール系硬化剤」を含まないため、明らかでない点。
相違点A2-4:「エポキシ樹脂組成物」について、本件発明1は「一液型」であるのに対し、甲A2発明では、明らかでない点。

イ 判断

上記相違点A2-1及び相違点A2-3について、まず検討を行う。

上記「1 申立理由A1-1(進歩性)について」「(2)本件発明1について」「イ 判断」「(ア)本件発明1について」で検討したとおり、本件発明1は、「(B)チオール系硬化剤」と「DABCO」を含む「(C)成分:マイクロカプセル化硬化促進剤」とを、本件発明1に規定される特定の量で組み合わせて用いることにより、「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」という効果を奏するものになるといえる。

甲A2発明及び甲A2の記載事項からの容易想到性について検討すると、甲A2の請求項1には「アミンアダクト(A)と低分子アミン化合物(B)とナノサイズの無機化合物微粒子(C)とを含有するエポキシ樹脂用硬化剤(D)」、請求項14には「コア及びシェルを含み、該コアが請求項1~13のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂用硬化剤(D)を含む、エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F)」、請求項16には「請求項14又は15に記載のエポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F)を100質量部、及びモノエポキシ樹脂及び多価エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂(E)を10~50000質量部含む、エポキシ樹脂組成物」、請求項22には「請求項14又は15に記載のエポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F)、又は請求項16~21のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を含有する材料」、請求項23には「接着剤、接合用ペースト、導電性材料、異方導電性材料、絶縁性材料、封止材料、コーティング用材料、塗料組成物、プリプレグ、熱伝導性材料、燃料電池用セパレータ材及びフレキシブル配線基板用オーバーコート材の群から選ばれる一つである、請求項22に記載の材料」が記載されている。また、課題として段落【0012】には「エポキシ樹脂組成物の隙間浸透性及び液流れ性を向上させると共に、Tg、弾性率及び接着強度が高い硬化物が得られる、低温硬化が可能なエポキシ樹脂用硬化剤を提供することを目的とする。また、該エポキシ樹脂用硬化剤をカプセル化することにより、エポキシ樹脂組成物において、優れた貯蔵安定性を得ることができる、エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤を提供することを目的とする」ことが記載され、段落【0185】には「また、本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤、グアニジン系硬化剤、及びチオール系硬化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂用硬化剤(h2)を、更に含有することができる」ことが記載され、段落【0186】~【0190】にはこれらの硬化剤の具体的な例示が多数記載され、段落【0191】には「本実施形態のエポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂用硬化剤(h2)の含有量は、好ましくは0.1質量%以上99質量%以下%であり、より好ましくは1質量%以上80質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以上50質量%以下である」ことが記載されている。

甲A2には、「チオール系硬化剤」を含む「本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤、グアニジン系硬化剤、及びチオール系硬化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂用硬化剤(h2)を、更に含有することができる」ことは記載されているものの、これらの中から特に「チオール系硬化剤」を選択する動機付けとなる記載はないし、実施例においてもこれらの「チオール系硬化剤」である「エポキシ樹脂用硬化剤(h2)」を用いた例は示されていないから、甲A2発明において、「硬化剤」として、段落【0185】に記載の「硬化剤」のうち特に「チオール系硬化剤」を選択して添加する動機付けがあるとはいえない。

仮に、甲A2に「チオール系硬化剤」を添加することは容易に想到し得たと仮定しても、甲A2発明は「DABCO」を含む「マイクロカプセル型アミン系硬化剤(C-4)」を「硬化促進剤」ではなく「硬化剤」として用いるものであるところ、さらに、「チオール系硬化剤」の量について本件発明1のように「(A)成分のエポキシ当量に対して、前記(B)成分のチオール当量比で、0.3~2.5」とし、さらに、「(C)成分中のDABCOの量」についても「(A)~(C)成分の合計100質量部」に対して「0.01~2質量部」とすることまでも動機づけることはできないし、甲A2の記載から、「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」なものになるという本件発明の効果を具体的に予測できるとはいえない。

したがって、本件発明1は、甲A2発明及び甲A2に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

次に、甲A2発明及び他の甲号証からの容易想到性について検討すると、甲A1、甲A3~甲A14には、上記「1 申立理由A1-1(進歩性)について」「(2)本件発明1について」「イ 判断」「(ウ)甲A1発明及び他の甲号証からの容易想到性について」に記載した事項が記載されている。

甲A2発明は「DABCO」を含む「マイクロカプセル型アミン系硬化剤(C-4)」を「触媒」や「硬化促進剤」ではなく「硬化剤」として用いるものであるところ、甲A3~14を参酌しても、「チオール系硬化剤」の量について本件発明1のように「(A)成分のエポキシ当量に対して、前記(B)成分のチオール当量比で、0.3~2.5」とし、さらに、「(C)成分中のDABCOの量」についても「(A)~(C)成分の合計100質量部」に対して「0.01~2質量部」とすることまでも動機づけることはできないし、甲A2の記載から、「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」なものになるという本件発明の効果を具体的に予測できるとはいえない。

したがって、相違点A2-1及び相違点A2-3は、甲A2発明及び甲A3~甲A14に記載された事項から容易に想到し得たということはできない。

ウ 特許異議申立書における申立人Aの主張

特許異議申立書において、申立人Aは、本件発明1と甲2-1発明(特許異議申立書の第49頁に記載のもの。甲A2の一般的記載の他、実施例3~6、10~11を加味した発明)との相違点を、「相違点1:本件特許発明1は「(B)チオール系硬化剤」を含むが、甲2-1発明は(B)チオール系硬化剤を含んでいない点」及び「本件特許発明1は「前記(B)成分の含有量は、前記(A)成分のエポキシ当量に対して、前記(B)成分のチオール当量比で、0.3~2.5である」が、甲2-1発明は(B)成分のチオール系硬化剤を含んでいない点」とした上で、「甲2-1発明において、チオール系硬化剤を更に含み、その含有量を液状樹脂組成物中、好ましくは0.1質量%以上99質量%以下%であり、・・・更に好ましくは5質量%以上50質量%以下とすることは、当業者に容易に想到し得ることである。ここで、本件特許出願時の技術常識(チオールとエポキシとは1:1で反応する(例えば、甲11及び甲12(※)))を参酌すれば、チオール系硬化剤を上記好ましい含有量の範囲内で含有させるに際して、未反応物が多く残ったり、硬化不十分になったりすることを避けるべくエポキシ樹脂とチオール系硬化剤をチオール/エポキシ当量比が1又はその近傍となるように配合することは必然ないし当然のことであるから、チオール/エポキシ当量比= 1又はその近傍とすること(少なくともチオール/エポキシ当量比= 1とすること)も記載されているに等しいか、あるいは設計的事項にすぎない。また、チオール/エポキシ当量比が1又はその周辺(0.6~1.2乃至2程度)となるようにエポキシ樹脂とチオール系硬化剤を配合することは、例えば、前記表1に多数例示される通り(甲3~甲11)、本件特許発明や甲2-1発明と同一技術分野における周知技術及び/又は慣用技術であるから、これを甲2-1発明に適用する動機付けがあり、チオール系硬化剤を上記好ましい含有量の範囲内で含有させるに際して、エポキシ樹脂とチオール系硬化剤をチオール/エポキシ当量比が1又はその周辺(0.6~1.2乃至2程度)となるように配合することは当業者に容易想到である」と主張している(特許異議申立書第135~136頁を参照)。

しかしながら、上記「1 申立理由A1-1(進歩性)について」「(2)本件発明1について」「ウ 特許異議申立書における申立人Aの主張」で述べた理由と同様の理由により、甲A2発明において、「チオール系硬化剤」を選択して添加することは直ちに動機付けることはできないし、また、仮に「チオール系硬化剤」を選択して添加することが動機付けられたとしても、「チオール系硬化剤」及び「DABCO」の量を本件発明1に特定される量とすることを直ちに動機付けることはできない。また、本件発明の効果について、「チオール系硬化剤」の添加により、硬化速度が速くなることは予測できたとしても、本件発明1の発明特定事項によって特定される「エポキシ樹脂組成物」の具体的組成において「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」なものになるという本件発明の効果を具体的に予測できるとまではいえない。

したがって、上記申立人Aの主張を採用することはできない。

エ 小括

以上のとおり、上記相違点A2-2、A2-4について検討するまでもなく本件発明1は、甲A2に記載された発明及び甲A3~甲A14に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本件発明2~14について

本件発明2~14は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2~14は、上記「イ 判断」で示した理由と同じ理由により、甲A2に記載された発明及び甲A3~甲A14に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ まとめ

以上のとおり、申立理由A1-2の理由によっては、本件発明1~14に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由B1(新規性)、B2-1(進歩性)について

(1)甲B1に記載された発明について

甲B1には、段落【0232】、【0235】の【表3】、【0240】、【0244】の【表5】、【0247】、【0250】の【表8】に着目すると、実施例2として、

「アミンアダクト(E-2)100gとアミンアダクト(F-2)50g、及び低分子アミン化合物(G-2)として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(分子量102、3級アミノ基の数2個、3級アミノ基1個当たりの分子量51、融点158℃)15gをフラスコに仕込み、150℃で加温しながら均一になるまで撹拌、混合を行った後、回収、冷却して室温で固体状のエポキシ樹脂用硬化剤(D-2)を得て、
n-ヘキサン150gに、エポキシ樹脂用硬化剤(D-2)の微粉砕物70gを添加し、n-ヘキサン中に分散させた後、水1.0g、ヘキサメチレンジイソシアネート5.5g、及びエポキシ樹脂(e2)としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成イーマテリアルズ社製、「AER2603」、エポキシ当量189、全塩素量1800ppm、加水分解性塩素量50ppm)3.0gを添加し、40℃で2時間、反応させ、反応終了後、ろ過、洗浄及び乾燥を行うことで、マイクロカプセル型アミン系硬化剤(B-2)を得て、
上記得られたマイクロカプセル型アミン系硬化剤(B-2)50g、
液状エポキシ樹脂(A)としてビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量175、全塩素量1500ppm、加水分解性塩素量300ppm、粘度3500mPa・s)100g、
含窒素複素環化合物(C)として、2,3-ピリジンジカルボン酸1.5g
を用いて得た、エポキシ樹脂組成物(M2)」の発明(以下「甲B1発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本件発明1について

ア 対比

本件発明1と甲B1発明とを対比する。

甲B1発明の「ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量175、全塩素量1500ppm、加水分解性塩素量300ppm、粘度3500mPa・s)」は、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」である「芳香族系エポキシ樹脂」に相当する。

そして、甲B1発明の「エポキシ樹脂組成物(M2)」には、「液状エポキシ樹脂(A)」として他のエポキシ樹脂は含まれていないことから、本件発明1の「前記(A)成分のエポキシ樹脂における、芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)」が「10:0」の場合に相当するといえる。

甲B1発明の「アミンアダクト(E-2)100gとアミンアダクト(F-2)50g、及び低分子アミン化合物(G-2)として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(分子量102、3級アミノ基の数2個、3級アミノ基1個当たりの分子量51、融点158℃)15gをフラスコに仕込み、150℃で加温しながら均一になるまで撹拌、混合を行った後、回収、冷却して室温で固体状のエポキシ樹脂用硬化剤(D-2)を得て、

n-ヘキサン150gに、エポキシ樹脂用硬化剤(D-2)の微粉砕物70gを添加し、n-ヘキサン中に分散させた後、水1.0g、ヘキサメチレンジイソシアネート5.5g、及びエポキシ樹脂(e2)としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成イーマテリアルズ社製、「AER2603」、エポキシ当量189、全塩素量1800ppm、加水分解性塩素量50ppm)3.0gを添加し、40℃で2時間、反応させ、反応終了後、ろ過、洗浄及び乾燥を行う」ことで得た「マイクロカプセル型アミン系硬化剤(B-2)」は、本件発明1の「(C)有効成分として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane(DABCO))を含む、イソシアネートアダクト型マイクロカプセル化硬化促進剤」と、「(C)有効成分として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane(DABCO))」を含む「マイクロカプセル化」された硬化に関する物質である点で少なくとも一致する。

そうすると、本件発明1と甲B1発明とは、

「(A)エポキシ樹脂、
(C)有効成分として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane(DABCO))を含む、マイクロカプセル化された硬化に関する物質を含み、
前記(A)成分のエポキシ樹脂における、芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)が10:0~2:8である、エポキシ樹脂組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点B1-1:「エポキシ樹脂組成物」について、本件発明1では、「(B)チオール系硬化剤」を含み、「(B)成分の含有量」を「前記(A)成分のエポキシ当量に対して、前記(B)成分のチオール当量比で、0.3~2.5」とするのに対し、甲B1発明では、「(B)チオール系硬化剤」を含んでいない点。

相違点B1-2:「マイクロカプセル化された硬化に関する物質」について、本件発明1では「イソシアネートアダクト型」の「硬化促進剤」であるのに対し、甲B1発明では、「アミンアダクト(E-2)」と「アミンアダクト(F-2)」を用いて固体状のエポキシ樹脂用硬化剤(D-2)」を得て「ヘキサメチレンジイソシアネート」及び「ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成イーマテリアルズ社製、「AER2603」、エポキシ当量189、全塩素量1800ppm、加水分解性塩素量50ppm)」とで「マイクロカプセル化」した「硬化剤」である点。

相違点B1-3:「(C)成分中のDABCOの量」について、本件発明1では、「(A)~(C)成分の合計100質量部」に対して「0.01~2質量部」であるのに対して、甲B1発明では、「(B)チオール系硬化剤」を含まないため、明らかでない点。
相違点B1-4:「エポキシ樹脂組成物」について、本件発明1は「一液型」であるのに対し、甲B1発明では、明らかでない点。

イ 判断

上記相違点B1-1及び相違点B1-3について、まず検討を行う。

(ア)本件発明1について

上記「1 申立理由A1-1(進歩性)について」「(2)本件発明1について」「イ 判断」「(ア)本件発明1について」で検討したとおり、本件発明1は、「(B)チオール系硬化剤」と「DABCO」を含む「(C)成分:マイクロカプセル化硬化促進剤」とを、本件発明1に規定される特定の量で組み合わせて用いることにより、「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」という効果を奏するものになるといえる。

(イ)甲B1発明及び甲B1からの容易想到性について

甲B1発明は、「(B)チオール系硬化剤」を含むものではないため、相違点B1-1及び相違点B1-3は実質的な相違点であるといえる。

したがって、本件発明1は、甲B1に記載された発明であるとはいえない。

次に、甲B1発明及び甲B1の記載事項からの容易想到性について検討すると、甲B1の請求項1には「エポキシ樹脂(A)、マイクロカプセル型潜在性硬化剤(B)及び含窒素複素環化合物(C)を含有し、前記含窒素複素環化合物(C)の含有量が、前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、0.01質量部以上15質量部以下である、エポキシ樹脂組成物」、請求項7には「前記マイクロカプセル型潜在性硬化剤(B)が、平均粒径が0.3μmを超えて12μm以下であるエポキシ樹脂用硬化剤(D)をコアとして、該コアの表面を合成樹脂及び/又は無機酸化物からなるシェル(S)によって被覆されている構造を有し、前記エポキシ樹脂用硬化剤(D)が、低分子アミン化合物(G)を含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物」、請求項15には「更に酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤、グアニジン系硬化剤、及びチオール系硬化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂用硬化剤(h3)を含む、請求項1~14のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物」、請求項16には「請求項1~15いずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を含有する材料」、請求項17には「接着剤、接合用ペースト、導電性材料、異方導電性材料、絶縁性材料、封止材料、コーティング用材料、塗料組成物、プリプレグ、熱伝導性材料、燃料電池用セパレータ材、又はフレキシブル配線基板用オーバーコート材である、請求項16に記載の材料」が記載されている。また、課題として、段落【0009】には「貯蔵安定性と低温短時間硬化性とに優れるとともに、高弾性率、高Tg及び高接着強度となる硬化物が得られるエポキシ樹脂組成物、及びその加工品を提供することを目的とする」ことが記載され、段落【0156】には「また、本実施形態のエポキシ樹脂組成物には、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤、グアニジン系硬化剤、及びチオール系硬化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂用硬化剤(h3)を、更に含むことが好ましい」ことが記載され、段落【0157】~【0161】にはこれらの硬化剤の具体的な例示が多数記載され、段落【0162】には「本実施形態のエポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂用硬化剤(h3)の含有量は、好ましくは0.1質量%以上99質量%以下%であり、より好ましくは1質量%以上80質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以上50質量%以下である」ことが記載されている。

甲B1には「本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、ヒドラジド系硬化剤、グアニジン系硬化剤、及びチオール系硬化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ樹脂用硬化剤(h2)を、更に含有することができる」ことは記載されているものの、これらの「エポキシ樹脂用硬化剤(h2)」のうち、特に「チオール系硬化剤」を選択する動機付けとなる記載はないし、実施例においてもこれらの「チオール系硬化剤」である「エポキシ樹脂用硬化剤(h2)」を用いた例は示されていない。

仮に、甲B1発明において「チオール系硬化剤」を添加することは容易に想到し得たと仮定しても、甲B1発明は「DABCO」を含む「マイクロカプセル型アミン系硬化剤(C-4)」を「硬化促進剤」ではなく「硬化剤」として用いるものであるところ、さらに添加される「チオール系硬化剤」の量について本件発明1のように「(A)成分のエポキシ当量に対して、前記(B)成分のチオール当量比で、0.3~2.5」とし、さらに、「(C)成分中のDABCOの量」についても「(A)~(C)成分の合計100質量部」に対して「0.01~2質量部」とすることまでも動機づけることはできないし、甲B1の記載から、「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」なものになるという本件発明の効果を具体的に予測できるとはいえない。

したがって、本件発明1は、甲B1発明及び甲B1に記載された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(ウ)甲B1発明及び他の甲号証からの容易想到性について

甲B2、甲B4、甲B5はそれぞれ甲A4、甲A10、甲A2と同じ文献であり、甲B2(甲A4)及び甲B4(甲A10)には、上記「1 申立理由A1-1(進歩性)について」「(2)本件発明1について」「イ 判断」「(ウ)甲A1発明及び他の甲号証からの容易想到性について」「b 甲A4~甲14Aについて」で記載した事項が記載されている。また、甲B5(甲A2)には上記「2 申立理由A1-2(進歩性)について」「(1)甲A2に記載された発明について」及び「(2)本件発明1について」「イ 判断」に記載した事項が記載されている。

甲B3の記載事項を確認すると、請求項1には「ナフタレン型エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂(A)と、潜在性硬化剤を含むエポキシ樹脂硬化剤(B)と、応力緩和剤(C)と、を含む封止用液状エポキシ樹脂組成物」、請求項2には「前記潜在性硬化剤が、マイクロカプセル型潜在性硬化剤である請求項1に記載の封止用液状エポキシ樹脂組成物」、請求項4には「前記潜在性硬化剤がイミダゾール化合物を含む請求項1~3のいずれか一項に記載の封止用液状エポキシ樹脂組成物」、請求項6には「請求項1~5のいずれか一項に記載の封止用液状エポキシ樹脂組成物を含むアンダーフィル材」、「請求項1~5のいずれか一項に記載の封止用液状エポキシ樹脂組成物、又は請求項6に記載のアンダーフィル材を用いた半導体装置」が記載されている。課題について、段落【0007】には「硬化性及び保存安定性に優れ、かつボイドの発生がなく充填性に優れるとともに、低反りを維持し、熱衝撃性にも優れた封止用液状エポキシ樹脂組成物、アンダーフィル材、及びそれらを用いた半導体装置を提供することを主な目的とする」ことが記載され、「潜在性硬化剤を含むエポキシ樹脂硬化剤(B)」について段落【0018】には「本実施形態のエポキシ樹脂硬化剤(B)は、潜在性硬化剤を含むものであればよく、その種類は特に限定されない。潜在性硬化剤とは、熱、光、圧力等を加えることで硬化するものをいう。潜在性硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド、ジヒドラジド化合物、イミダゾール化合物、アミンアダクト系硬化剤等の固体分散-加熱溶解型硬化剤や尿素化合物、オニウム塩類、ハロゲン化ホウ素アミン錯体、ブロックカルボン酸化合物等の反応性基ブロック型硬化剤等が挙げられる。また、通常用いられるエポキシ樹脂硬化剤をシェル等によって被覆した、マイクロカプセル型潜在性硬化剤も、本実施形態の潜在性硬化剤に包含される」ことが記載され、段落【0042】には「アミン系硬化剤としては、例えば、一級、二級及び/又は三級アミノ基を有する化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい」ことが記載され、段落【0043】~【0045】には「トリエチレンジアミン」のほか多数のアミン化合物が列記され、段落【0077】には「エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)との硬化反応をさらに促進させる観点から、エポキシ樹脂硬化剤(B)は、硬化促進剤をさらに含むことが好ましい。ここで、硬化促進剤とは、硬化温度をより低下させる効果を有するものをいう」ことが記載され、段落【0078】には「硬化促進剤」について「トリエチレンジアミン」の他多数の化合物が列記され、段落【0119】には「本発明に係る封止用液状エポキシ樹脂組成物は、フリップチップ実装用のアンダーフィル材等をはじめとする各種封止材として用いることができ、特に各種半導体装置に好適に用いることができる」ことが記載されている。

甲B1発明及び他の甲号証からの容易想到性について検討すると、甲B1発明は「DABCO」を含む「マイクロカプセル型アミン系硬化剤(C-4)」を「硬化促進剤」ではなく「硬化剤」として用いるものであるところ、甲B2~甲B5、さらには甲A1~甲A14を参酌しても、「チオール系硬化剤」の量について本件発明1のように「(A)成分のエポキシ当量に対して、前記(B)成分のチオール当量比で、0.3~2.5」とし、さらに、「(C)成分中のDABCOの量」についても「(A)~(C)成分の合計100質量部」に対して「0.01~2質量部」とすることまでも動機づけることはできないし、甲B1及び甲B2~甲B5、さらには甲A1~14の記載から、「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」なものになるという本件発明の効果を具体的に予測できるとはいえない。

したがって、相違点B1-1及び相違点B1-3は、甲B1発明及び甲B2~甲B5、さらには甲A1~14に記載された事項から容易に想到し得たということはできない。

ウ 特許異議申立書における申立人Bの主張

特許異議申立書において、申立人Bは、甲B1に記載された発明について、「エポキシ樹脂(A)と、エポキシ樹脂用硬化剤(h3)としてチオール系硬化剤と、有効成分として、低分子アミン化合物(G)である1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンを含み、イソシアネートアダクト型のアミンアダクト(E)と低分子アミン化合物(G)とを含むエポキシ樹脂用硬化剤(D)をコアとするマイクロカプセル型潜在性硬化剤(B)と、を含有する一液型のエポキシ樹脂組成物であり、エポキシ樹脂(A)は、芳香族エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂との少なくとも一方を含み、マイクロカプセル型潜在性硬化剤(B)におけるエポキシ樹脂用硬化剤(D)の100質量部に対する1,4-ジアザビシクロ[2.2.2] オクタンの量が0.5質量部以上35質量部以下であり、チオール系硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂組成物に対して0.1質量%以上99質量%以下である一液型のエポキシ樹脂組成物」と認定した上で、本件発明1と甲B1に記載された発明との相違点について、「甲1発明において、「芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)」の数値範囲を「10:0~2:8」とすることについて具体的に記載されていない点において、甲1発明と本件特許発明1とは一見相違する」、「甲1号証には、エポキシ樹脂(A)と、チオール系硬化剤と、マイクロカプセル型潜在性硬化剤(B)と合計量100質量部に対する、マイクロカプセル型潜在性硬化剤(B)中の1,4-ジアザビシクロ[2.2.2] オクタンの割合が「0.01~2質量部」であることについて、直接明示されてはいない点において、本件特許発明1とは一見相違する」、「甲1号証には、エポキシ樹脂のエポキシ基とチオール系硬化剤のチオール基との当量比が明示されていない点において、甲1発明と本件特許発明1とは、一見相違する」とし、これらの相違点について実質的に同一である、ないしは、設計事項である旨主張している(特許異議申立書の第126~131頁)。

しかしながら、申立人の認定した甲B1に記載された発明は、甲B1にバラバラに記載された技術的事項を本件発明1に合わせて寄せ集めた発明に過ぎず、甲B1に具体的に記載された発明と認定することはできない。

したがって、甲B1に記載された発明について、申立人Bが認定した「甲1発明」を前提とした主張を直ちに採用することはできない。そして、甲B1に記載された発明(甲B1発明)、及び、本件発明1と甲B1発明との間の相違点B1-1及び相違点B1-3については、上記の判断のとおりである。

エ 小括

以上のとおり、上記相違点B-2及び相違点B1-4について検討するまでもなく、本件発明1は甲B1に記載された発明とはいえず、また、本件発明1は、甲B1発明及び甲B2~甲B5、さらには甲A1~甲A14に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本件発明2~14について

本件発明2~14は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明3~11は、上記(2)イ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲B1に記載された発明とはいえず、また、本件発明2~14は甲B1発明及び甲B2~甲B5、さらには甲A1~甲A14に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ

以上のとおり、申立理由B1(新規性)、B2-1(進歩性)の理由によっては、本件発明1~14に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立理由B2-2(進歩性)について

(1)甲B2に記載された発明について

甲B2には、段落[0043]、[0045]の実施例1-1に着目すると、

「(A)成分として、EXA835LV(ビスフェノールF型エポキシ樹脂・ビスフェノールA型エポキシ樹脂混合物(DIC株式会社製、エポキシ当量165)) 69.6質量部
(B)成分として、TS-G(下記式(1)で示される化合物(四国化成工業株式会社製、チオール基当量94)) 24.8質量部
【化3】
[図:0001395234000002.jpg]
(C)成分として、HX3088(ノバキュアHX3088(イミダゾール系潜在性硬化促進剤、旭化成ケミカルズ社製、(1/3イミダゾールアダクト品、2/3エポキシ樹脂)、エポキシ当量180) 5.0質量部
(D)成分として、KBM403(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤、信越化学株式会社製、Si当量236.3) 0.5質量部
を混合して得た、チオール/エポキシ等量比が0.6であり、(C)成分/(A)成分質量比が2.3である樹脂組成物」の発明(以下「甲B2発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本件発明1について

ア 対比

本件発明1と甲B2発明とを対比する。

甲B2の「樹脂組成物」は、主成分が「EXA835LV(ビスフェノールF型エポキシ樹脂・ビスフェノールA型エポキシ樹脂混合物(DIC株式会社製、エポキシ当量165))」であるといえるから、本件発明1と同様に「エポキシ樹脂組成物」であるといえる。

甲B2発明における「EXA835LV(ビスフェノールF型エポキシ樹脂・ビスフェノールA型エポキシ樹脂混合物(DIC株式会社製、エポキシ当量165))」は、本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」である「芳香族系エポキシ樹脂」に相当する。

甲B2発明の「樹脂組成物」には、「エポキシ樹脂」として他のエポキシ樹脂は含まれていないことから、本件発明1の「前記(A)成分のエポキシ樹脂における、芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)」は「10:0」の場合に相当する。

甲B2発明における「TS-G(下記式(1)で示される化合物(四国化成工業株式会社製、チオール基当量94))」は、本件発明1における「(B)チオール系硬化剤」に相当する。

そして、甲B2発明の「樹脂組成物」の「チオール/エポキシ等量比」は「0.6」であることから、本件発明1と同様に、「前記(B)成分の含有量は、前記(A)成分のエポキシ当量に対して、前記(B)成分のチオール当量比で、0.3~2.5」の範囲内であるといえる。

甲B2発明における「HX3088(ノバキュアHX3088(イミダゾール系潜在性硬化促進剤、旭化成ケミカルズ社製、(1/3イミダゾールアダクト品、2/3エポキシ樹脂)、エポキシ当量180))」は、本件発明1の「(C)有効成分として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane(DABCO))を含む、イソシアネートアダクト型マイクロカプセル化硬化促進剤」とは、「硬化促進剤」である限りにおいて一致する。

そうすると、本件発明1と甲B2発明とは、

「(A)エポキシ樹脂、
(B)チオール系硬化剤、
(C)硬化促進剤を含み、
前記(A)成分のエポキシ樹脂における、芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)が10:0~2:8であり、
前記(B)成分の含有量は、前記(A)成分のエポキシ当量に対して、前記(B)成分のチオール当量比で、0.3~2.5であることを特徴とする、一液型エポキシ樹脂組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点B2-1:「硬化促進剤」について、本件発明1は「有効成分として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane(DABCO))」を、「(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、前記(C)成分中のDABCOの量が0.01~2質量部」の範囲で含むのに対し、甲B2発明では、「DABCO」を含んでいない点。

相違点B2-2:「硬化促進剤」について、本件発明1は「イソシアネートアダクト型マイクロカプセル化硬化促進剤」であるのに対し、甲B2発明では「1/3イミダゾールアダクト品、2/3エポキシ樹脂」の「イミダゾール系潜在性硬化促進剤」である点。

イ 判断

上記相違点B2-1について、まず検討を行う。

甲B2における「硬化促進剤」について、甲B2の記載事項を確認すると、段落[0019]には「(C)成分の硬化促進剤は、(A)成分のエポキシ樹脂の硬化促進剤であれば、特に限定されず、公知のものを使用することができる。例えば、イミダゾール化合物からなるイミダゾール系硬化促進剤(マイクロカプセル型、エポキシアダクト型、包接型を含む)、第三級アミン系硬化促進剤、リン化合物系硬化促進剤等が挙げられる。これらの中でもイミダゾール系硬化促進剤、および、第三級アミン系硬化促進剤が、樹脂組成物の硬化速度が高く、80℃での熱硬化を実施するうえで好ましく、イミダゾール系硬化促進剤が特に好ましい」ことが記載され、段落[0020]には「イミダゾール系硬化促進剤」の具体例が記載され、「第三級アミン系硬化促進剤」については段落[0021]に「第三級アミン系硬化促進剤の具体例としては、フジキュアFXR-1020、フジキュアFXR-1030(富士化成工業株式会社製、商品名)、アミキュアMY-24(味の素ファインテクノ株式会社製、商品名)等を挙げることができる」と記載されているのみであり、「硬化促進剤」の有効成分として「DABCO」を用いることは具体的に記載されていない。

したがって、本件発明1は、甲B2発明及び甲B2の記載事項から容易に発明をすることができたとはいえない。

次に、他の甲号証の記載事項を確認すると、甲B1には、「マイクロカプセル型アミン系硬化剤(B)」の「低分子アミン化合物(G)」について段落【0083】~【0086】に多数の「アミン化合物」とともに「1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン」(DABCO)が例示され、段落【0235】~【0236】の【表3】~【表4】には、製造例において、他のアミン化合物とともに「1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン」は示されている。

甲B3には、「潜在性硬化剤を含むエポキシ樹脂硬化剤(B)」の「アミン系硬化剤」について、段落【0042】~【0045】には、「トリエチレンジアミン」(DABCOに相当する。)のほか多数のアミン化合物が列記されている。

甲B5(甲A2)には、「エポキシ樹脂用マイクロカプセル型潜在性硬化剤(F)」の「低分子アミン化合物(B)」について段落【0075】~【0080】に多数の「アミン化合物」とともに「1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン」(DABCO)が例示され、段落【0291】の【表3】には、製造例において、他のアミン化合物とともに「1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン」は示されている。

また、甲A1には「マイクロカプセル型アミン系硬化剤(C)」の「アミン化合物(E)」について、段落【0095】~【0098】に多数の「アミン化合物」とともに「1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン」(DABCO)が例示され、段落【0243】~【0244】の【表3】~【表4】には、製造例において、他のアミン化合物とともに「1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン」は示されている。

甲A3には、上記「1 申立理由A1-1(進歩性)について」「(2)本件発明1について」「イ 判断」「(ウ)甲A1発明及び他の甲号証からの容易想到性について」に記載したとおり、請求項1に「(a)少なくとも1つのジビニルアレーンジオキシド、(b)少なくとも1つのポリチオール化合物硬化剤、及び(c)少なくとも1つの触媒を含む、周囲条件で硬化させることのできる硬化性組成物」、請求項6に「該少なくとも1つの触媒が、以下の式Iのフラグメントを含む1又は複数の化合物を含む、請求項1に記載の硬化性組成物であって、・・・硬化性組成物」、請求項9に「該硬化触媒が、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン;N,N,N',N'',N''-ペンタメチルジエチレントリアミン;1,4-ジメチルピペラジン;1-メチル-4-(2-ジメチルアミノエチル)ピペラジン;ビス-(2-ジメチルアミノエチル)エーテル;N,N,N',N'',N''-ペンタメチルジプロピレントリアミン;N,N,N,-トリス-(3-ジメチルアミノプロピル)アミン;1,3,5-トリス(3-(ジメチルアミノ)プロピル)ヘキサヒドロ-s-トリアジン;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン;N,N,N',N'-テトラメチル-1,4-ブタンジアミン;N,N,N',N'-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミン;又はそれらの混合物を含む、請求項6に記載の硬化性組成物」が記載され、実施例として、段落【0045】には「20mLのバイアルに、1.0gのDVBDO、4.0gのポリメルカプタン358(1.1のエポキシド/チオール当量比)及び0.1gのアミン触媒を添加した」ことが記載され、段落【0047】には「アミン触媒」として「1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)」のほか多数の「アミン化合物」が列記されている。

これらの甲号証からみて、「アミン系硬化剤」として「DABCO」は本願の優先日前から知られていたことは理解できるものの、甲B2発明において、段落[0019]に「・・・イミダゾール系硬化促進剤が特に好ましい」ことが記載されているにもかかわらず、「HX3088(ノバキュアHX3088(イミダゾール系潜在性硬化促進剤・・・」に代えて、「アミン系硬化剤」とされるものを採用し、さらに、甲A1~A3、甲B1、甲B3に記載されている多数の「アミン系硬化剤」の中から特に「DABCO」を選択する動機付けがあるとはいえない。

また、他の甲号証をみても、甲B2発明において、「HX3088(ノバキュアHX3088(イミダゾール系潜在性硬化促進剤・・・」に代えて、「DABCO」を選択する動機付けとなる記載はない。

したがって、相違点B2-1は、甲B2発明及び甲B1、甲B3~甲B5、さらには甲A1~甲A14に記載された事項から容易に想到し得たということはできない。

ウ 特許異議申立書における申立人Bの主張

特許異議申立書において、申立人Bは、甲B2に記載された発明について、「(A)エポキシ樹脂と、(B)式(1)で示される化合物であるチオール系硬化剤と、(C)硬化促進剤と、を含有する一液型のエポキシ樹脂組成物であり、(C)硬化促進剤として第三級アミン系硬化促進剤を含み、かつイソシアネート化合物でアダクトされマイクロカプセル化した潜在性硬化剤を含み、エポキシ樹脂(A)は、芳香族系エポキシ樹脂と脂肪族系エポキシ樹脂とのうち少なくとも一方を含み、(A)エポキシ樹脂100質量部に対する(C)硬化促進剤の量が0.3~4.0質量部の範囲であり、チオール系硬化剤の(B)成分の含有量が(A)エポキシ樹脂のエポキシ当量に対して、(B)成分の化合物の当量比で、0.5当量~2.5当量である、一液型のエポキシ樹脂組成物」と認定している(特許異議申立書の第138~139頁)。

しかしながら、申立人の認定した甲B2に記載された発明は、甲B2にバラバラに記載された技術的事項を本件発明1に合わせて寄せ集めた発明に過ぎず、甲B2に具体的に記載された発明と認定することはできない。

また、申立人Bは、「本件特許発明1は、(C)成分であるマイクロカプセル型硬化促進剤が「有効成分として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン・・・ (DABCO)を含む、」との構成を備えるのに対し、甲2発明は、マイクロカプセル型硬化促進剤が「第三級アミン系硬化促進剤」である点で一見相違する)と相違点とした上で、「しかし、甲1号証の段落0086、0233、甲3号証の段落0045、0078、及び甲5号証の段落0080,0286等にも記載されているように、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン・・・ (DABCO)は、第三級アミン系硬化促進剤であり、硬化促進剤として有効な成分であることは公知である。・・・これらの記載に基づけば、甲2発明において、硬化促進剤として「1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン・・・(DABCO)」という公知の化合物を選択することは、当業者がなし得る最適材料の選択にすぎない」と主張している(特許異議申立書の第140頁)。

しかしながら、上記「イ 判断」で検討したとおり、硬化促進剤として「1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)」が有効な成分であることが公知であるとしても、甲B1、甲B3、甲B5には、「DABCO」以外の「マイクロカプセル型硬化促進剤」の有効成分が多数列記されており、甲B1、甲B3、甲B5、さらに他の甲号証を参酌しても、多数の「マイクロカプセル型硬化促進剤」の有効成分の中から特に「DABCO」を特に選択する動機付けとなる記載があるとはいえない。また、本件発明の効果について、甲B1、甲B3、甲B5、さらに他の甲号証を参酌しても、本件発明1の発明特定事項によって特定される「チオール系硬化剤」と「DABCO」とを併用する「エポキシ樹脂組成物」の具体的組成において「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」なものになるという本件発明の効果を具体的に予測できるとまではいえない。

エ 小括

以上のとおり、上記相違点B2-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B2号証に記載された発明及び甲B1、甲B3~甲B5、さらには甲A1~甲A14に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本件発明2~14について

本件発明2~14は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2~14は、上記(2)イで示した理由と同じ理由により、甲B2に記載された発明及び甲B1、甲B3~甲B5、さらには甲A1~甲A14に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ

以上のとおり、申立理由B2-2(進歩性)の理由によっても、本件発明1~14に係る特許を取り消すことはできない。

5 申立理由A2、申立理由B3(サポート要件)について

(1)特許法第36条第6項第1号の考え方について

特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

以下、この観点に立って検討する。

(2)本件発明の課題について

本件発明の課題は、本件明細書の【0007】の記載からみて、「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能であり、さらに接着強度やポットライフに優れた一液型エポキシ樹脂組成物(以下、「エポキシ樹脂組成物」と略す場合がある)の提供」することであるといえる。

また、本件明細書には、技術分野として、段落【0001】に「本発明は、100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が求められる用途の一液型接着剤に好適な樹脂組成物に関する」と記載され、背景技術として、段落【0003】に「・・・電子部品の製造時においても、100℃程度の温度で熱硬化する一液型接着剤の使用が望まれる場合がある」ことが、段落【0005】に「生産性向上の観点からは、さらに硬化速度を向上することが求められている。具体的には、100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が求められている」ことが記載されていることからすると、特に、課題として「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」であることに着目したものであり、「接着強度やポットライフ」についてはある定程度優れていればよいものと解される。

(3)当審の判断

上記「(2)本件発明の課題について」で検討した本件発明の課題を勘案しつつ、本件明細書の本件発明1の発明特定事項に関する記載を確認する。

まず、本件明細書の一般的記載を確認すると、本件明細書の段落【0019】~【0020】には「(A)成分:エポキシ樹脂」について記載されており、段落【0020】には「ベンゼン環を有する芳香族系エポキシ樹脂は、硬化速度の向上に寄与する。・・・本発明のエポキシ樹脂組成物では、(A)成分のエポキシ樹脂が芳香族系エポキシ樹脂を含有し、(A)成分のエポキシ樹脂における芳香族系エポキシ樹脂の割合が高い。具体的には、(A)成分のエポキシ樹脂において、芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)が10:0~2:8である。・・・脂肪族系エポキシ樹脂は、反応性希釈剤として作用し、エポキシ樹脂組成物の粘度を下げることができる。(A)成分のエポキシ樹脂において、芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)が10:0~3:7であることが好ましい」ことが記載されており、「ベンゼン環を有する芳香族系エポキシ樹脂」が「硬化速度の向上に寄与する」ものであり、「芳香族系エポキシ樹脂」を一定以上含むことが必要であることが理解できる。

本件明細書の段落【0021】~【0028】には「(B)チオール系硬化剤」について記載されており、段落【0021】には「(B)成分のチオール系硬化剤としては、脂肪族ポリチオール類、芳香族ポリチオール類、チオール変性反応性シリコーンオイル類等を使用できる。但し、下記一般式(I)で表されるメルカプトアルキルグリコールウリル類の使用が、耐湿性の観点から好ましい」ことが記載され、段落【0022】には「本発明のエポキシ樹脂組成物において、(B)成分の化合物は(A)成分のエポキシ樹脂の硬化剤として作用する」ことが記載され、段落【0028】には「本発明のエポキシ樹脂組成物において、(B)成分の化合物の含有量は、(A)成分(エポキシ樹脂)のエポキシ当量に対して、該(B)成分の化合物のチオール当量比で0.3~2.5である。これにより樹脂組成物の接着強度を高めることができる」ことが記載されており、「(B)成分のチオール系硬化剤」は「(A)成分のエポキシ樹脂の硬化剤として作用」するものであり、その種類について「脂肪族ポリチオール類、芳香族ポリチオール類、チオール変性反応性シリコーンオイル類等」を使用できること、「耐湿性」の観点から「一般式(I)で表されるメルカプトアルキルグリコールウリル類」の使用が好ましいことが理解できる。また、(B)成分の化合物の含有量」は「樹脂組成物の接着強度」の観点から「(A)成分(エポキシ樹脂)のエポキシ当量に対して、該(B)成分の化合物のチオール当量比で0.3~2.5である」ことが必要であることが理解できる。

また、本件明細書の段落【0029】~【0030】には「(C)成分:マイクロカプセル化硬化促進剤」について記載されており、段落【0029】には「(C)成分のマイクロカプセル化硬化促進剤は、有効成分として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane(DABCO))を含む」こと、「(C)成分のマイクロカプセル化硬化促進剤は、有効成分としてDABCOを含有することにより、(B)成分の化合物との組み合わせにより、100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能である」こと、「イソシアネートアダクト型マイクロカプセル化硬化促進剤を用いることで、エポキシ樹脂組成物の、100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化を可能にする一方で、エポキシ樹脂組成物のポットライフが向上する」ことが記載され、段落【0030】には「(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、(C)成分中のDABCOの量が0.01~2質量部である。(C)成分中のDABCOの量が、(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、0.01質量部未満だと、100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が不可となる。一方、(C)成分中のDABCOの量が、(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、2質量部超だと、樹脂組成物の粘度が高くなり、作業性が悪化する。また、ポットライフも悪化しやすくなる」ことが記載されており、「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化」を実現するためには「(C)成分のマイクロカプセル化硬化促進剤」の有効成分として「DABCO」を含有し「(B)成分の化合物」との組み合わせで用いること、「イソシアネートアダクト型マイクロカプセル化硬化促進剤を用いる」こと、「(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、(C)成分中のDABCOの量が0.01」以上で用いることが必要であることが理解できる。また、「ポットライフ」の向上のためには、「イソシアネートアダクト型マイクロカプセル化硬化促進剤を用いる」こと、「(C)成分中のDABCOの量が、(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、2質量部」以下とすることが理解できる。

次に、本件明細書の段落【0041】~【0051】の実施例1~13及び比較例1~11のデータを確認すると、本件発明1の発明特定事項を満たす実施例1~13の「エポキシ樹脂組成物」はいずれも「100℃で20分以下」及び「80℃60分以下」の低温短時間硬化を達成しており、また、「ポットライフ」についても12h~72hと一定の範囲とものとなっている。「接着強度」については、段落【0050】の【表1】に実施例8のデータが示され、また、段落【0051】には「実施例8について評価した接着強度は、70℃10min熱硬化、80℃10min熱硬化のいずれも80N/chip以上であった。(B)成分として、比較的Tgが低いPEMPを使用した実施例7は、80℃10minでの接着強度が100N/chipであったが、Tgの高いTS-GとC3 TS-Gを使用した実施例4,6は、80℃10minでの接着強度が250N/chipと高い値を示した」ことが記載され、実施例4、6~8は一定以上の接着強度を得られたことが記載されている。実施例1~3、5、9~13については、具体的なデータは示されていないものの、それらの組成及び実施例4、6~8のデータを参酌すれば、一定程度以上の「接着強度」が得られることは推認できる。

一方、比較例1~11のデータを確認すると、「(A)成分:エポキシ樹脂」として「芳香族系エポキシ樹脂」を含有しない比較例1~2、及び「(A)成分のエポキシ樹脂における、芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)」が1:9である比較例3~4は、「エポキシ樹脂組成物の調製中にゲル化した」こと(段落【0051】)が記載され、また、「(C)成分:マイクロカプセル化硬化促進剤」として「DABCO」を含まないものを用いた比較例5~7は「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化を達成できなかった」こと(段落【0051】)が示され、また、「硬化剤」として「(B)チオール系硬化剤」ではなく「アリル化フェノール樹脂」を用いた比較例8~11も「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化を達成できなかった」こと(段落【0051】)が示されている。

以上を踏まえると、本件発明1の発明特定事項を満たせば、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると理解できるといえる。

(4)申立人がする申立理由について

ア 申立人がする申立理由

申立人A及びBがする申立理由は、上記「第3 異議申立ての理由の概要」「1 申立人Aによる特許異議申立理由の概要」「(2)申立理由A2(サポート要件)」及び「2 申立人Bによる特許異議申立理由の概要」「(3)申立理由B3(サポート要件)」で述べたとおりであり、以下に再掲する。

(ア)申立理由A2(サポート要件)

(a)本件発明1の「前記(B)成分の含有量は、前記(A)成分のエポキシ当量に対して、前記(B)成分のチオール当量比で、0.3~2.5である」について、本件明細書の実施例において接着度の評価がなされているのは、チオール/エポキシ樹脂当量比=1.0の場合のみであり、「0.3~2.5」の範囲まで拡張できるとはいえない。とりわけ、甲A4及び甲A6の実施例等の記載からチオール/エポキシ当量比=0.3~0.5未満の場合は接着強度が著しく低下する、十分に硬化しないと記載されており、甲A9の段落【0094】や甲A10の段落【0096】の記載からみてチオール/エポキシ当量比=1.2を超えても接着強度を高めることができると認識するには、実施例にて立証されていない限り不可能である。なお、本件明細書の実施例8に倣った実験1及びチオール/エポキシ当量比を0.3とした実験2を行ったところ、実験2は実験1に比べて接着強度が著しく劣っており、本件発明の効果を奏すると言えるものではなかった。

(b)本件発明1の「前記(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、前記(C)成分中のDABCOの量が0.01~2質量部」であることについて、本件明細書の実施例のすべてがDABCOの量が0.3質量部の場合であり、「DABCOの量が0.01~2質量部」の範囲まで拡張できるとはいえない。

(c)本件発明1の「前記(A)成分のエポキシ樹脂における、芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)が10:0~2:8」であることについて、本件明細書の実施例として記載があるのは、10:0の場合以外には3:7の場合のみであり、2:8の場合のサポートはない。ここで、実施例3(3:7)のゲルタイムの結果が本件発明の課題(段落【0007】)である「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下」の臨界値に近いので、2:8の場合はこの60分、20分を超えることが容易に推測できる。

(d)本件発明1の「(B)チオール系硬化剤・・・を含み」と規定するものであるが、実施例として記載があるのは、一般式(I)で表されるメルカプトアルキルグリコールウリル類以外には、実施例7(PEMP:ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート))のみであり、一般式(I)で表されるメルカプトアルキルグリコールウリル類以外のチオール系硬化剤全般にまで拡張できるとはいえない。チオール系硬化剤の構造や物性等により接着強度が影響を受けることは明らかであるので、本件明細書に記載の実施例のみをもって、すべてのチオール系硬化剤について、課題解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されているということはできない。

(イ)申立理由B3(サポート要件)

(a)本件発明は、本件明細書の段落【0007】の記載に基づけば「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能であり、さらに接着強度やポットライフに優れた一液型エポキシ樹脂組成物(以下、「エポキシ樹脂組成物」と略す場合がある)の提供を目的とする」ことを課題とし、本件発明1は「前記(A)成分のエポキシ樹脂における、芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)が10:0~2:8」であることを発明特定事項としているところ、本件明細書の実施例では、「接着強度」は実施例8についてのみ測定され、実施例4、6、7及び8はいずれも特定の「芳香族エポキシ樹脂」のみを用いた例であり、実施例4、6、7及び8以外の実施例1~3、5、9~13,比較例1~11については「接着強度」が測定された事実や結果は明示されていない。そうすると、「前記(A)成分のエポキシ樹脂における、芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)が10:0」以外の場合において、本件発明の課題の1つである「接着強度」に優れていることが裏付けられているとはいえない。

(b)本件発明1は「前記(B)成分の含有量は、前記(A)成分のエポキシ当量に対して、前記(B)成分のチオール当量比で、0.3~2.5である」を発明特定事項としているところ、実施例及び比較例には、実施例12及び13を除き、チオール当量比が1.0の場合しかなく、かつ、当量比を変更した実施例12及び13において接着強度の結果が示されているわけではない。このため、本件明細書の実施例で裏付けられているのは、特定の「芳香族エポキシ樹脂」のみを用い、かつチオール当量比が1.0とした場合のみであり、それ以外の場合まで裏付けられておらず、本件発明1に記載された事項は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載、又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。

イ 申立人がする申立理由の検討

上記「(4)申立人がする申立理由について」「(ア)申立理由A2(サポート要件)」及び「(イ)申立理由B3(サポート要件)」に記載した申立理由について、以下に検討する。

(ア)申立理由A2(a)及び申立理由B3(b)について

申立理由A2(a)及び申立理由B3(b)で述べられているとおり、本件明細書の実施例をみると、実施例1~11は「チオール/エポキシ当量比」が「1.0」であり、実施例12は「0.5」、実施例13は「2.0」となっており、このうち、「接着強度」について具体的に記載されているのは実施例4、6~8のみであり(本件明細書の段落【0051】)、具体的なデータが示されているのは実施例8のみである(本件明細書の段落【0050】の【表5】)。

しかしながら、上記「(2)本件発明の課題について」で述べたとおり、本件発明は、課題として特に、「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」であることに着目したものであり、「接着強度やポットライフ」についてはある定程度優れていればよいものと解されるところ、本件明細書の段落【0046】~【0047】の【表1】~【表2】をみると、実施例12及び実施例13を含めて、本件発明の課題である「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」であることが示されている。また、「接着強度」について、実施例11~12については具体的な値が示されていないものの、それらの組成及び実施例4、6~8のデータを参酌すれば、一定程度以上の「接着強度」が得られることは推認できるし、また、「チオール/エポキシ当量比」が「0.3~2.5」であれば、「0.3」より小さい場合や「2.5」より大きい場合に比べて、接着強度が優れたものとなることは当業者であれば推認できるといえる。

なお、申立人Aが主張する「とりわけ、甲A4及び甲A6の実施例等の記載からチオール/エポキシ当量比=0.3~0.5未満の場合は接着強度が著しく低下する、十分に硬化しないと記載されており、甲A9の段落【0094】や甲A10の段落【0096】の記載からみてチオール/エポキシ当量比=1.2を超えても接着強度を高めることができると認識するには、実施例にて立証されていない限り不可能である」との点については、甲A4、甲A6、甲A9、甲A10は、「DABCO」を含む「イソシアネートアダクト型マイクロカプセル化硬化促進剤」を用いるものではないため、本件発明1とは異なる組成の樹脂組成物に関する記載であるから、当該主張をそのまま採用することはできない。

したがって、上記申立理由A2(a)及び申立理由B3(b)を採用することはできない。

(イ)申立理由A2(b)について

申立理由A2(b)で述べられているとおり、本件明細書の実施例1~13では、「(C)有効成分として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane(DABCO))を含む、イソシアネートアダクト型マイクロカプセル化硬化促進剤」の「DABCO」の量が「0.3」質量部の例しか記載されていないが、本件明細書の段落【0030】には「(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、(C)成分中のDABCOの量が0.01~2質量部である。(C)成分中のDABCOの量が、(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、0.01質量部未満だと、100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が不可となる。一方、(C)成分中のDABCOの量が、(A)~(C)成分の合計100質量部に対し、2質量部超だと、樹脂組成物の粘度が高くなり、作業性が悪化する。また、ポットライフも悪化しやすくなる」ことが記載されており、「DABCO」の量が「0.01~2質量部」の範囲内であれば、本件発明の上記課題を解決できることが推認できるといえる。

これに対して、申立人Aは、「DABCO」の量が「0.01~2質量部」の範囲内であっても、本件発明の課題が解決できない例があることについて、具体的な反証を示していない。

したがって、申立理由A2(b)を採用することはできない。

(ウ)申立理由A2(c)及び申立理由B3(a)について

申立理由A2(c)で述べられているとおり、本件明細書の実施例では、「芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)」について、実施例1、4~13には「10:1」の場合であり、実施例2~3は、約「3:7」の場合のみであり、「2:8」の例は示されておらず、申立理由B3(a)で述べられているとおり、実施例2~3については「接着強度」について具体的なデータは示されていない。

上述のとおり、本件発明は、課題として特に、「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」であることに着目したものであり、「接着強度やポットライフ」についてはある定程度優れていればよいものと解されるところ、「接着強度」について、実施例2~3の具体的な値が示されていないものの、それらの組成及び実施例4、6~8のデータを参酌すれば、一定程度以上の「接着強度」が得られることは推認できるし、また、「芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)が10:0~2:8」であれば、そうでない場合に比べて、接着強度が優れることは当業者であれば理解できるといえる。

また、実施例3は「80℃のゲルタイム」は「56sec」(当審注:本件明細書の段落【0051】の「これらの実施例はいずれも、100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能であった」、「比較例5~7は、100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化を達成できなかった」との記載からみて「56min」の誤記と解される)、「100℃のゲルタイム」は「17sec」(当審注:「17min」の誤記と解される)であるが、実施例2では「80℃のゲルタイム」は「49sec」(当審注:「49min」の誤記と解される)、「100℃のゲルタイム」は「14sec」(当審注:「14min」の誤記と解される)となっており、実施例2のデータからは「芳香族系エポキシ樹脂と、脂肪族系エポキシ樹脂と、の割合(質量比)」が「2:8」であっても、本件発明の課題である「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」である態様があることは当業者であれば推認できるといえる。

そうすると、申立理由A2(c)及び申立理由B3(a)についても採用することはできない。

(エ)申立理由A2(d)について

申立理由A2(d)で述べられているとおり、本件明細書の実施例では、「(B)チオール系硬化剤」として、実施例1~6、8~13では「一般式(I)で表されるメルカプトアルキルグリコールウリル類」が用いられ、実施例7では「ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)」が示されているのみである。また、比較例5~7では「硬化剤」として「アリル化フェノール樹脂」を用いた例が示されており、本件発明の課題の「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化」を達成できなかったことが示されている。

申立理由A2(d)で述べられているとおり、「チオール系硬化剤の構造や物性等により接着強度が影響を受ける」ことは推認できるものの、上述したとおり、本件発明は、課題として特に、「100℃で20分以下、若しくは、80℃60分以下の低温短時間硬化が可能」であることに着目したものであり、「接着強度やポットライフ」についてはある定程度優れていればよいものと解されるところ、実施例1~13及び比較例5~7のデータをみれば、「(B)チオール系硬化剤」を用いれば、他の硬化剤を用いた場合に比べて、本件発明の課題の「低温短時間硬化」に優れたものになることは理解できるし、また、「接着強度」も同等以上のものになることは当業者であれば理解できるといえる。

これに対して、申立人Aは、「(B)チオール系硬化剤」として、接着強度を劣る例があることについて、具体的な反証を示していない。

したがって、申立理由A2(d)も採用することはできない。

(5)まとめ

以上のとおりであるから、申立理由A2、申立理由B3(サポート要件)によっても、本件発明1~14に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび

以上のとおり、申立人Aが主張する異議申立ての理由A1~A2及び証拠、申立人Bが主張する申立理由B1~B3及び証拠によっては、本件発明1~14に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件発明1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2022-700758

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