特許異議申立
2021-700372
インセル液晶パネルおよび液晶表示装置
- 審判番号
- 2021-700372
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-193363
- 登録番号
- 6777384
- 請求日
- 2021年04月23日
- 審決日
- 2022年09月26日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日東電工株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
- 【異議申立人】松永 健太郎
- 審判長/審判官
- 審判長 山村 浩
- 審判官 瀬川 勝久
- 審判官 金高 敏康
- 分類
- P1651.121-YAA(G02F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6777384号発明「インセル液晶パネルおよび液晶表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6777384号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
特許第6777384号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第6777384号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成27年9月30日に出願され、令和2年10月12日にその特許権の設定登録がされ、令和2年10月28日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年 4月23日 : 特許異議申立人松永健太郎による請求項1 ~8に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年 9月24日付け : 取消理由通知書
令和3年12月 3日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提 出
令和4年 2月 1日 : 特許異議申立人による意見書の提出
令和4年 3月28日付け : 取消理由通知書(決定の予告)
令和4年 5月27日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提 出
令和4年 7月11日 : 特許異議申立人による意見書の提出
なお、令和3年12月3日付け訂正請求書による訂正の請求は、令和4年5月27日付け訂正請求書による訂正の請求がされたため、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされた。
2 訂正の適否
(1)訂正の内容
令和4年5月27日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、次のとおりである(下線部が訂正箇所である)。
なお、本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1~9〕について請求されている。
ア 訂正事項1
請求項1に「前記粘着剤層付偏光フィルムの粘着剤層側の表面抵抗値が1×108~1×1012Ω/□」とあるのを、「前記粘着剤層付偏光フィルムの粘着剤層側の表面抵抗値が1×108~1×1012Ω/□(但し、1×107~1×1010Ω/□を除く)」に訂正する。請求項1の記載を引用する請求項2~8も同様に訂正する。
イ 訂正事項2
請求項6に「請求項1~5記載」とあるのを、「請求項1~5のいずれかに記載」に訂正する。請求項6の記載を引用する請求項7、8も同様に訂正する。
ウ 訂正事項3
請求項7に「請求項1~6のいずれかに記載」とあるのを、「請求項2~6のいずれかに記載」に訂正する。請求項7の記載を引用する請求項8も同様に訂正する。
エ 訂正事項4
請求項7のうち、請求項1を引用する部分について、独立形式に改め、さらに「前記粘着剤層付偏光フィルムの表面処理層側の表面抵抗値が1×107~1×1011Ω/□(但し、1×107~1×1010Ω/□を除く)」との記載を追加し、新たな請求項9とする。
(2)訂正要件の判断
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的
訂正事項1は、請求項1の「前記粘着剤層付偏光フィルムの粘着剤層側の表面抵抗値」について、「1×108~1×1012Ω/□」であることから、「1×107~1×1010Ω/□を除く」ことにより、請求項1の構成を限定するものである。
訂正事項1は、請求項1の構成を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項追加の有無
訂正前の請求項1には、粘着剤層付偏光フィルムの粘着剤層側の表面抵抗値が「1×108~1×1012Ω/□」であることが記載されているところ、そのような値を選択した技術的意義は、本件特許の願書に添付された特許登録時の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の【0007】の「帯電防止機能が付与された粘着剤層は、前記偏光フィルムに設けた帯電防止層よりも静電気発生を抑制して、静電気ムラを防止するうえでは有効である。しかし、粘着剤層の帯電防止機能を重要視して、粘着剤層の導電機能を高めるとタッチセンサー感度が低下することが分かった。・・・また、導電機能を高めるために粘着剤層に配合された帯電防止剤は、加湿環境下(加湿信頼性試験後)において、偏光フィルムとの界面に偏析したり、または液晶セルの視認側界面に移行したりして、耐久性が十分ではないことが分かった。」の記載及び【0024】の「前記第1粘着剤層2の表面抵抗値は帯電防止機能とタッチセンサー感度の観点から、1×108~1×1012Ω/□であるのが好ましく、1×108~1×1011Ω/□であるのが好ましく、さらに1×108~1×1010Ωであるのが好ましい。」の記載によれば、静電気発生を抑制して、静電気ムラを防止しつつ、タッチセンサー感度の低下を避けること、さらには、耐久性が十分でないのを避けることにあるのが理解できる。
そして、粘着剤層付偏光フィルムの粘着剤層側の表面抵抗値について、【0104】からは、耐久性の観点について、1.9×109Ω/□以下のとき「◎」未満となる一方、4.3×1010Ω/□以上のとき「◎」となることが理解できるところ、このような傾向を踏まえると、当該表面抵抗値を、上記【0024】に明記された値の一つである「1×1010Ω/□」及びそれ以上とすれば、帯電防止機能及びタッチセンサー感度の観点と耐久性の観点に関して、後者をより優先することになるのも理解できる。
加えて、訂正後の「前記粘着剤層付偏光フィルムの粘着剤層側の表面抵抗値が1×108~1×1012Ω/□(但し、1×107~1×1010Ω/□を除く)」における「粘着剤層付偏光フィルムの表面処理層側の表面抵抗値」の範囲は、本件明細書等に記載された数値範囲を超えるものではない。
このように、訂正事項1は、粘着剤層付偏光フィルムの粘着剤層側の表面抵抗値について、静電気発生を抑制して、静電気ムラを防止しつつ、タッチセンサー感度の低下を避け、さらに、耐久性が十分でないのを避けるという観点で選択されていた値を、本件明細書等に記載された数値範囲を超えることなく、本件明細書等の記載から理解できる範囲で耐久性の観点を優先するにすぎないから、訂正事項1により、新たな技術的事項が導入されることはないといえる。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(ウ)特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記(ア)及び(イ)にも照らせば、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(エ)訂正事項1の小括
よって、訂正事項1は、訂正要件を満たす。
イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的
訂正事項2は、請求項6の「請求項1~5記載」を、「請求項1~5のいずれかに記載」とするものである。
訂正事項2は、記載内容を明瞭にするためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)新規事項追加の有無
訂正事項2は、記載内容を明瞭にするためのものであって、訂正前の請求項6の「請求項1~5記載」が「請求項1~5のいずれかに記載」を意味していることが明らかであるから、これによって、新たな技術的事項が導入されることはない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(ウ)特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記(ア)及び(イ)にも照らせば、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(エ)訂正事項2の小括
よって、訂正事項2は、訂正要件を満たす。
ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的
訂正事項3は、請求項7の「請求項1~6のいずれかに記載」を、「請求項2~6のいずれかに記載」とするものである。
訂正事項3は、請求項7が引用する請求項の数を減らすものであり、請求項7を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項追加の有無
訂正事項3は、他の請求項を引用する請求項において、引用する請求項の数を減らすものであるから、これによって、新たな技術的事項が導入されることはない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(ウ)特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記(ア)及び(イ)にも照らせば、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(エ)訂正事項3の小括
よって、訂正事項3は、訂正要件を満たす。
エ 訂正事項4について
(ア)訂正の目的
訂正事項4は、次の内容、すなわち、
(i) 請求項7のうち、請求項1を引用する部分について、独立形式に改め、新たに請求項9とすること。
(ii) 「粘着剤層付偏光フィルムの表面処理層側の表面抵抗値」を「1×107~1×1011Ω/□(但し、1×107~1×1010Ω/□を除く)」に限定すること。
からなるものである。
そして、(i)は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、また、(ii)は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項追加の有無
a 上記(ア)(i)について
上記(ア)(i)は、請求項7のうち、請求項1を引用する部分について、独立形式に改めたものであるから、これによって、新たな技術的事項が導入されることはない。
b 上記(ア)(ii)について
訂正前の請求項4には、粘着剤層付偏光フィルムの表面処理層側の表面抵抗値が「1×107~1×1010Ω/□」であることが記載されているところ、そのような値を選択した技術的意義は、本件明細書等の【0019】の「本発明のインセル型液晶パネルにおける視認側の粘着剤層付偏光フィルムは、表面処理層に帯電防止機能が付与されているため、インセル液晶パネルにおいて表面処理層で導通構造と接触することができる。」の記載及び【0023】の「前記表面処理層4の表面抵抗値は帯電防止機能とタッチセンサー感度の観点から、1×107~1×1011Ω/□であるのが好ましく、1×107~1×1010Ω/□であるのが好ましく、さらに1×107~1×109Ωであるのが好ましい。」の記載によれば、帯電防止機能を一定程度以上に確保しつつも、タッチセンサー感度を一定程度以下に低下するのを防ぐことにあるのが理解できる。
そして、当該表面抵抗値を、上記【0023】に明記された値の一つである「1×1010Ω/□」及びそれ以上とすれば、帯電防止機能の確保の観点とタッチセンサー感度の確保の観点に関して、後者をより優先することになるのも理解できる。
加えて、訂正後の「粘着剤層付偏光フィルムの表面処理層側の表面抵抗値が1×107~1×1011Ω/□(但し、1×107~1×1010Ω/□を除く)」における「粘着剤層付偏光フィルムの表面処理層側の表面抵抗値」の範囲は、本件明細書等に記載された数値範囲を超えるものではない。
このように、上記(ア)(ii)の訂正は、粘着剤層付偏光フィルムの表面処理層側の表面抵抗値について、帯電防止機能を一定程度以上に確保しつつも、タッチセンサー感度が一定程度以下に低下するのを防ぐという観点で選択されていた値を、本件明細書等に記載された数値範囲を超えることなく、本件明細書等の記載から理解できる範囲でタッチセンサー感度の観点を優先するにすぎないから、当該訂正により、新たな技術的事項が導入されることはないといえる。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(ウ)特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記(ア)及び(イ)にも照らせば、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(エ)訂正事項4の小括
よって、訂正事項4は、訂正要件を満たす。
(3)小括
上記のとおり、訂正事項1~4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
3 本件発明の認定
本件訂正は上記2のとおり認められたので、本件訂正後の請求項1~9に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明9」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
[本件発明1]
電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層、前記液晶層を両面で挟持する第1透明基板および第2透明基板、並びに、前記液晶層と第1透明基板との間に設けられたタッチセンサー部および前記液晶層と第2透明基板との間に設けられた駆動電極兼センサー部を有するインセル型液晶セルと、
前記インセル型液晶セルの視認側の第1透明基板の側に、導電層を介することなく第1粘着剤層を介して配置された粘着剤層付偏光フィルムを有するインセル型液晶パネルであって、
前記粘着剤層付偏光フィルムが、表面処理層、第1偏光フィルム、第1粘着剤層をこの順で有し、
前記表面処理層はイオン性界面活性剤、導電性微粒子及び導電性ポリマーから選ばれるいずれか少なくとも1種類の帯電防止剤を含有し、
前記粘着剤層付偏光フィルムの粘着剤層側の表面抵抗値が1×108~1×1012Ω/□(但し、1×107~1×1010Ω/□を除く)であることを特徴とするインセル型液晶パネル。
[本件発明2]
前記粘着剤層付偏光フィルムの前記表面処理層および第1粘着剤層の側面に導通構造を有することを特徴とする請求項1記載のインセル型液晶パネル。
[本件発明3]
前記第1粘着剤層が帯電防止剤を含有することを特徴とする請求項1または2記載のインセル型液晶パネル。
[本件発明4]
前記粘着剤層付偏光フィルムの表面処理層側の表面抵抗値が1×107~1×1011Ω/□であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のインセル型液晶パネル。
[本件発明5]
前記第1粘着剤層の帯電防止剤が、アルカリ金属塩及び/または有機カチオン-アニオン塩であることを特徴とする請求項3または4記載のインセル型液晶パネル。
[本件発明6]
前記表面処理層が、ハードコート層であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のインセル型液晶パネル。
[本件発明7]
前記インセル型液晶セルの第2透明基板の側に、第2粘着剤層を介して配置された第2偏光フィルムを有することを特徴とする請求項2~6のいずれかに記載のインセル型液晶パネル。
[本件発明8]
請求項7記載のインセル型液晶パネルを有する液晶表示装置。
[本件発明9]
電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層、前記液晶層を両面で挟持する第1透明基板および第2透明基板、並びに、前記液晶層と第1透明基板との間に設けられたタッチセンサー部および前記液晶層と第2透明基板との間に設けられた駆動電極兼センサー部を有するインセル型液晶セルと、
前記インセル型液晶セルの視認側の第1透明基板の側に、導電層を介することなく第1粘着剤層を介して配置された粘着剤層付偏光フィルムを有するインセル型液晶パネルであって、
前記インセル型液晶セルの第2透明基板の側に、第2粘着剤層を介して配置された第2偏光フィルムを有し、
前記粘着剤層付偏光フィルムが、表面処理層、第1偏光フィルム、第1粘着剤層をこの順で有し、
前記表面処理層はイオン性界面活性剤、導電性微粒子及び導電性ポリマーから選ばれるいずれか少なくとも1種類の帯電防止剤を含有し、
前記粘着剤層付偏光フィルムの粘着剤層側の表面抵抗値が1×108~1×1012Ω/□であり、
前記粘着剤層付偏光フィルムの表面処理層側の表面抵抗値が1×107~1×1011Ω/□(但し、1×107~1×1010Ω/□を除く)であることを特徴とするインセル型液晶パネル。
4 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由について
令和3年12月3日付け訂正請求書による訂正(以下「第1次訂正」という。)後の請求項1~8に係る特許に対して、当審が令和4年3月28日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告に係るものであり、以下、単に「取消理由」という。)の要旨は、以下のとおりである。
ここで、第1次訂正後の請求項は次のとおりであった(下線は、第1次訂正において訂正された箇所である。)。
[請求項1]
電界が存在しない状態でホモジニアス配向した液晶分子を含む液晶層、前記液晶層を両面で挟持する第1透明基板および第2透明基板、並びに、前記液晶層と第1透明基板との間に設けられたタッチセンサー部および前記液晶層と第2透明基板との間に設けられた駆動電極兼センサー部を有するインセル型液晶セルと、
前記インセル型液晶セルの視認側の第1透明基板の側に、導電層を介することなく第1粘着剤層を介して配置された粘着剤層付偏光フィルムを有するインセル型液晶パネルであって、
前記粘着剤層付偏光フィルムが、表面処理層、第1偏光フィルム、第1粘着剤層をこの順で有し、
前記表面処理層はイオン性界面活性剤、導電性微粒子及び導電性ポリマーから選ばれるいずれか少なくとも1種類の帯電防止剤を含有し、
前記表面処理層が、厚さ0.5~20μmのハードコート層であり、
前記粘着剤層付偏光フィルムの粘着剤層側の表面抵抗値が1×108~1×1012Ω/□であることを特徴とするインセル型液晶パネル。
[請求項2]
前記粘着剤層付偏光フィルムの前記表面処理層および第1粘着剤層の側面に導通構造を有することを特徴とする請求項1記載のインセル型液晶パネル。
[請求項3]
前記第1粘着剤層が帯電防止剤を含有することを特徴とする請求項1または2記載のインセル型液晶パネル。
[請求項4]
前記粘着剤層付偏光フィルムの表面処理層側の表面抵抗値が1×107~1×1011Ω/□であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のインセル型液晶パネル。
[請求項5]
前記第1粘着剤層の帯電防止剤が、アルカリ金属塩及び/または有機カチオン-アニオン塩であることを特徴とする請求項3または4記載のインセル型液晶パネル。
[請求項6]
前記ハードコート層が、バインダーとして放射線硬化型樹脂を含有することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のインセル型液晶パネル。
[請求項7]
前記インセル型液晶セルの第2透明基板の側に、第2粘着剤層を介して配置された第2偏光フィルムを有することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のインセル型液晶パネル。
[請求項8]
請求項7記載のインセル型液晶パネルを有する液晶表示装置。
請求項1~4、6~8に係る発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献1に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、請求項5に係る発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献4に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1~8に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
引用文献
引用文献1:米国特許出願公開第2011/0285640号明細書(甲 第1号証)
引用文献2:特開2014-38625号公報(甲第2号証)
引用文献3:特開2014-81935号公報(甲第3号証)
引用文献4:特表2011-528447号公報(甲第4号証)
5 当審の判断
(1)引用文献の記載内容、引用発明
ア 引用文献1には次の記載がある。
(ア)「ELECTRIC FIELD SHIELDING FOR IN-CELL TOUCH TYPE THIN-FILM-TRANSISTOR LIQUID CRYSTAL DISPLAYS」
当審訳
インセルタッチ型薄膜トランジスタ液晶ディスプレイのための電界遮蔽(タイトル)
(イ)「[0009]It may sometimes be desirable to construct a display with different touch sensor configurations. For example, it may be desirable to incorporate a touch sensor electrodes into a display at a location that is below the liquid crystal layer. This type of display is sometimes referred to as an in-cell display. 」
当審訳
[0009]異なるタッチセンサー構成を有するディスプレイを構築することが望ましい場合がある。例えば、タッチセンサー電極を液晶層の下の位置でディスプレイに組み込むことが望ましい場合がある。このタイプのディスプレイは、インセルディスプレイと呼ばれることがある。
(ウ)「[0043]A perspective view of a typical touch panel is shown in FIG. 3 . As shown in FIG. 3 , panel 24 may include a upper touch sensor electrodes 28 that run perpendicular to lower touch sensor electrodes 30 . Electrodes 28 and 30 may be mounted to the upper and lower surfaces of substrate 26 or may be supported using other arrangements.」
当審訳
[0043]代表的なタッチパネルの斜視図を図3に示す。図3に示すように、パネル24は、下側タッチセンサー電極30に対して垂直に延びる上側タッチセンサー電極28を含むことができる。電極28および30は、基板26の上面および下面に取り付けられてもよく、または他の構成を使用して支持されてもよい。
(エ)「[0046]A perspective view of illustrative liquid crystal display structures 32 that may be used in display 14 is shown in FIG. 4 . As shown in FIG. 4 , liquid crystal display structures 32 may include color filter (CF) layer 40 and thin-film-transistor (TFT) layer 36 . Color filter layer 40 may include an array of colored filter elements. In a typical arrangement, the pixels of layer 40 each include three colored subpixels (e.g., red, green, and blue subpixels). Liquid crystal (LC) layer 38 includes liquid crystal material and is interposed between color filter layer 40 and thin-film-transistor layer 36 . Thin-film-transistor layer 36 may include electrical components 44 such as transistors coupled to electrodes for controlling the electric fields that are applied to liquid crystal layer 38 . If desired, components 44 may include touch sensor components such as touch sensor electrodes 28 and 30 .」(当審注:「Liquid crystal (LC) layer 36」及び「liquid crystal layer 36」は、FIG.4に照らして、それぞれ、「Liquid crystal (LC) layer 38」及び「liquid crystal layer 38」の明らかな誤記であると認められるので、誤記を正して摘記した。)
当審訳
[0046]ディスプレイ14において使用され得る例示的な液晶ディスプレイ構造32の斜視図が図4に示されている。図4に示すように、液晶ディスプレイ構造32は、カラーフィルタ(CF)層40及び薄膜トランジスタ(TFT)層36を含むことができる。カラーフィルタ層40は、カラーフィルタ素子のアレイを含むことができる。典型的な構成では、層40のピクセルはそれぞれ、3つの着色サブピクセル(例えば、赤色、緑色、および青色サブピクセル)を含む。液晶(LC)層386は、液晶材料を含み、カラーフィルタ層40と薄膜トランジスタ層36との間に配置される。薄膜トランジスタ層36は、液晶層38に印加される電界を制御するための電極に結合されたトランジスタなどの電気部品44を含むことができる。必要に応じて、構成要素44は、タッチセンサー電極28および30などのタッチセンサー構成要素を含むことができる。
(オ)「[0049]In situations such as those in which display 14 does not have a touch panel above its liquid crystal layer, there is a risk that electrostatic charges that are imposed on the cover glass layer of the display will create electric fields in the liquid crystal layer that disrupt proper operation of the display. This risk can be addressed by providing display 14 with one or more electric field shielding layers above liquid crystal layer 38 .
[0050]To ensure that the electric field shielding layer prevents electrostatic charges on the surface of display 14 from interfering with the operation of liquid crystal layer 38 , this shielding layer should have sufficient conductivity. At the same time, care should be taken that the shielding layer is not too conductive, because this would interfere with the capacitive sensing functions of the touch sensor. Preferably the resistivity of the shielding layer is between 10 M-ohm/square to 10 G-ohm/square. Shielding layer films with a resistivity in this range may sometimes be referred to as having a medium-high resistance. The shielding layer is not insulating (because that would prevent the shielding layer form being effective at blocking the effects of electrostatic charge). At the same time, the shielding layer is only moderately conductive, because a highly conductive conductor would provide too much shielding and would block the touch sensor.」
当審訳
[0049]ディスプレイ14がその液晶層上にタッチパネルを有しないような状況では、ディスプレイのカバーガラス層に印加される静電荷がディスプレイの適切な動作を妨害する電界を液晶層に生成する危険性がある。このリスクはディスプレイ14に、液晶層38の上に1つ以上の電界遮蔽層を設けることによって対処することができる。
[0050]電界遮蔽層が、ディスプレイ14の表面上の静電荷が液晶層38の動作を妨害することを確実に防止するために、この遮蔽層は十分な導電性を有するべきである。同時に、遮蔽層は、タッチセンサーの静電容量感知機能を妨げるので、導電性が高すぎないように注意すべきである。好ましくは、遮蔽層の抵抗率は、10MΩ/□~10GΩ/□である。この範囲の抵抗率を有する遮蔽フィルムは、時に、中高抵抗を有すると称される。遮蔽層は絶縁性ではない(これは、遮蔽層が静電荷の影響を遮断するのに有効であることを妨げるためである)。同時に、遮蔽層は高導電性の導体は過度のシールドを提供しタッチセンサーを遮断するので、中程度の導電性を有するのみである。
(カ)「[0053]Shielding layer materials may be deposited on dedicated films (e.g., glass substrates, ceramic substrates, plastic substrates, or other dielectric substrates) or may be deposited on other layers of material in display 14 (e.g., on top of or beneath a color filter substrate, a polarizer layer, a thin-film-transistor substrate, other optical film layers, etc.).
・・・
[0060]If desired, layer 48 may be regular (non-conducting) pressure sensitive adhesive (or liquid adhesive) and shielding layer 46 may be a layer of transparent conductive pressure sensitive adhesive. Shielding layer 46 may also be formed from other transparent conductive structures (e.g., conductive polymers, metal oxides, conductive inks, conductive nanomaterials, etc.).」
当審訳
[0053]遮蔽層材料は、専用フィルム(例えば、ガラス基板、セラミック基板、プラスチック基板、または他の誘電体基板)上に堆積されるか、またはディスプレイ14内の材料の他の層(例えば、カラーフィルタ基板、偏光子層、薄膜トランジスタ基板、他の光学フィルム層などの上または下)上に堆積される。
・・・
[0060]必要に応じて層48は通常の(非導電性の)感圧接着剤(または液体接着剤)であってもよく、遮蔽層46は透明導電性ポリマー、金属酸化物、導電性インク、導電性ナノ材料など)から形成されてもよい。
(キ)「[0064]If desired, display 14 may be provided with multiple shielding layers. This type of arrangement is shown in FIG. 10 . As shown in FIG. 10 , upper shielding layer 46 A may be formed on top of polarizer 42 and lower shielding layer 46 B may be formed beneath polarizer 42 . Conductive structure 62 may include upper conductive dot 62 A and lower conductive dot 62 B. Conductive structure 62 A may electrically connect shielding layer 46 A to conductive ring 64 . Shielding layer 46 B may be electrically connected to conducting ring 64 . Conductive structure 62 B may electrically connect conductive ring 64 and therefore shielding layers 46 A and 46 B to ground contact 56 on TFT layer 36 . Shielding layers 46 A and 46 B may be formed from conductive adhesive, conductive polymers, conductive metal oxides, conductive inks, conductive nanomaterials, or other suitable materials.」
当審訳
[0064]必要に応じて、ディスプレイ14に複数の遮蔽層を設けてもよい。このタイプの配置が図10に示されている。図10に示されるように、上側遮蔽層46Aは偏光子42の上に形成されてもよく、下側遮蔽層46Bは偏光子42の下に形成されてもよい。導電性構造体62は、上部導電性ドット62A及び下部導電性ドット62Bを含むことができる。導電性構造62Aは、遮蔽層46Aを導電性リング64に電気的に接続することができる。遮蔽層46Bは、導電リング64に電気的に接続されてもよい。導電性構造62Bは導電性リング64、したがって遮蔽層46Aおよび46BをTFT層36上の接地コンタクト56に電気的に接続することができる。遮蔽層46Aおよび46Bは、導電性接着剤、導電性ポリマー、導電性金属酸化物、導電性インク、導電性ナノ材料、または他の適切な材料から形成され得る。
(ク)また、引用文献1のFIG.3、FIG.4、FIG.10は次のものである。
図3
[図:0001393051000001.jpg]
図4
[図:0001393051000002.jpg]
図10
[図:0001393051000003.jpg]
(ケ)図10からは、偏光子42がカラーフィルタ(CF)層上に配置されていることが見て取れる。
イ 上記アから、引用文献1には、図10に係るディスプレイ14([0064])であって、それに含まれる液晶ディスプレイ構造32が図4([0046]~[0055])に係るディスプレイ14について、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「カラーフィルタ(CF)層40及び薄膜トランジスタ(TFT)層36を含み、液晶材料を含む液晶(LC)層38が、カラーフィルタ層40と薄膜トランジスタ層36との間に配置される液晶ディスプレイ構造32を含むディスプレイ14であって、
カラーフィルタ(CF)層40は、カラーフィルタ素子のアレイを含み、薄膜トランジスタ層36は、液晶層38に印加される電界を制御するための電極に結合されたトランジスタなどの電気部品44に含まれるタッチセンサー電極28および30などのタッチセンサー構成要素を含み、
液晶ディスプレイ構造32のカラーフィルタ(CF)層40上には偏光子42が配置され、上側遮蔽層46Aが偏光子42の上に形成され、下側遮蔽層46Bが偏光子42の下に形成され、遮蔽層46Aおよび46Bは、導電性接着剤、導電性ポリマー、導電性金属酸化物、導電性インク、導電性ナノ材料、または他の適切な材料から形成され、遮蔽層の抵抗率は、10MΩ/□~10GΩ/□であり、導電性構造体62は、上部導電性ドット62A及び下部導電性ドット62Bを含み、上部導電性ドット62Aは、遮蔽層46Aを導電性リング64に電気的に接続し、遮蔽層46Bを導電リング64に電気的に接続し、上部導電性ドット62Bは、導電性リング64を接地コンタクト56に電気的に接続することで、遮蔽層46Aおよび46BをTFT層36上の接地コンタクト56に電気的に接続するディスプレイ14。」
(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と引用発明とを対比する。
a 引用発明の「液晶材料を含む液晶(LC)層38」、「液晶層38に印加される電界を制御するための電極に結合されたトランジスタなどの電気部品44に含まれるタッチセンサー電極28および30などのタッチセンサー構成要素を含」む「薄膜トランジスタ層36」を含む「液晶ディスプレイ構造32」、「偏光子42」、当該「液晶ディスプレイ構造32」を含む「ディスプレイ14」は、本件発明1の「液晶分子を含む液晶層」、「インセル型液晶セル」、「第1偏光フィルム」、「インセル型液晶パネル」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「下側遮蔽層46B」、「偏光子42」及び「上側遮蔽層46A」を順に形成した構造は、本件発明1の「粘着剤層付き偏光フィルム」とは、偏光積層構造である点で共通する。
また、引用発明の「液晶層38に印加される電界を制御するための電極に結合されたトランジスタなどの電気部品44に含まれるタッチセンサー電極28および30などのタッチセンサー構成要素」は、本件発明1の「駆動電極兼センサー部」と「タッチセンサー部」とを含むものであるといえる。
b 引用発明の「カラーフィルタ(CF)層40」は、カラーフィルタ素子のアレイを含んだ「液晶ディスプレイ構造32」の一部であるから、液晶ディスプレイの技術分野において、カラーフィルタを含む構造が「カラーフィルタ基板」として実装されるという技術常識も踏まえれば、透明な基板にカラーフィルタ素子のアレイを含んだもの(いわゆる「カラーフィルタ基板」)であることは明らかである。また、引用発明の「薄膜トランジスタ(TFT)層36」は、電極に結合されたトランジスタやタッチセンサー構成要素などの電気部品44を含んでいるから、液晶ディスプレイの技術分野において、TFTを含む構造がいわゆる「TFT基板」として実装されるという技術常識も踏まえれば、透明な基板に、透明導電材料からなる電気部品を形成したものであることは明らかである。また、「カラーフィルタ(CF)層40」は、「薄膜トランジスタ(TFT)層36」よりも視認側に位置することは、液晶ディスプレイとしては、明らかである。
そうすると、引用発明の「カラーフィルタ(CF)層40」、「薄膜トランジスタ(TFT)層36」は、それぞれ、本件発明1の「(視認側の)第1透明基板」、「第2透明基板」に相当する。
c 引用発明の「上側遮蔽層46A」、「下側遮蔽層46B」は、「十分な導電性を有」し、「抵抗率は、10MΩ/□~10GΩ/□」であるところ、本件発明1の「表面処理層」、「粘着剤層」も、十分な導電性を有する層である点で両者は共通する。
(イ)以上のことから、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
液晶分子を含む液晶層、前記液晶層を両面で挟持する第1透明基板および第2透明基板、並びに、タッチセンサー部および駆動電極兼センサー部を有するインセル型液晶セルと、
前記インセル型液晶セルの視認側の第1透明基板の側に、偏光積層構造を有するインセル型液晶パネルであって、偏光積層構造が、十分な導電性を有する層、第1偏光フィルム、十分な導電性を有する層をこの順で有するインセル型液晶パネル。
<相違点1>
液晶分子を含む液晶層が、本件発明1では、電界が存在しない状態でホモジニアス配向したものであるのに対し、引用発明ではそのようなものかどうか明らかでない点。
<相違点2>
駆動電極兼センサー部とタッチセンサー部が、本件発明1では、液晶層と第1透明基板との間にタッチセンサー部を設け、液晶層と第2透明基板との間に駆動電極兼センサー部を設けたものであるのに対し、引用発明では、薄膜トランジスタ層36(本件発明1の「第1透明基板」に相当。)に含まれる液晶層38に印加される電界を制御するための電極に結合されたトランジスタなどの電気部品44に含まれるタッチセンサー電極28および30である点。
<相違点3>
インセル型液晶セルの視認側の第1透明基板の側に偏光積層構造を配置するに際して、本件発明1が偏光積層構造として粘着剤付偏光フィルムを用い、導電層を介することなく粘着剤付偏光フィルムに含まれる第1粘着剤層を介することとしたのに対し、引用発明がそのような構成を採用しているかどうか明らかでない点。
<相違点4>
偏光積層構造に含まれる十分な導電性を有する層につき、本件発明1が、表面処理層と第1粘着剤層としており、表面処理層は、イオン性界面活性剤、導電性微粒子及び導電性ポリマーから選ばれるいずれか少なくとも1種類の帯電防止剤を含有するようにし、また、粘着剤層付偏光フィルムの粘着剤層側の表面抵抗値が1×108~1×1012Ω/□(但し、1×107~1×1010Ω/□を除く)であるようにしたのに対し、引用発明が、上側遮蔽層46Aと下側遮蔽層46Bとしており、これらは、導電性接着剤、導電性ポリマー、導電性金属酸化物、導電性インク、導電性ナノ材料、または他の適切な材料から形成され遮蔽層の抵抗率は、10MΩ/□~10GΩ/□(1×107~1×1010Ω/□)である点。
(ウ)判断
事案に鑑み、相違点4について先に検討する。
a 相違点4について
まず、相違点4に係る本件発明1の「粘着剤層付偏光フィルムの粘着剤層側の表面抵抗値が1×108~1×1012Ω/□である」における「粘着剤層付偏光フィルムの粘着剤層側の表面抵抗値」とは、その文言に照らして、粘着剤層付偏光フィルムの粘着剤層側の「表面」における抵抗値であると解するのが自然であり、その理解は、本件特許の願書に添付された本件訂正後の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件訂正明細書等」という。)の【0099】の「粘着剤層の表面抵抗値は、粘着剤層付き偏光フィルムからセパレータフィルムを剥がした後に粘着剤層表面について測定した」との記載にも沿うものである。
そして、引用文献1の[0050]には、「電界遮蔽層が、ディスプレイ14の表面上の静電荷が液晶層38の動作を妨害することを確実に防止するために、この遮蔽層は十分な導電性を有するべきである。同時に、遮蔽層は、タッチセンサーの静電容量感知機能を妨げるので、導電性が高すぎないように注意すべきである。好ましくは、遮蔽層の抵抗率は、10MΩ/□~10GΩ/□である。」との記載があり(上記5(1)ア(オ))、引用発明における「下側遮蔽層46B」は、静電荷が液晶層38の動作を妨害することを確実に防止するとともに、タッチセンサーの静電容量感知機能を妨げることがないように表面抵抗率を設定すること、具体的には、10MΩ/□~10GΩ/□(1×107~1×1010Ω/□)とする必要があることが理解できる。
そうすると、引用発明において、「下側遮蔽層46B」の表面抵抗率を、1×108~1×1012Ω/□(但し、1×107~1×1010Ω/□を除く)とすることは、「引用文献1において好ましいとされる範囲」からはずれるようにすることを意味するが、技術常識を参酌しても、当業者がこのような変更をする動機はない。また、引用文献1のその余の記載及び取消理由において提示した他の引用文献の記載を検討しても、引用発明において上記の変更をすることが、当業者にとって容易であるとは認められない。
b そして、本件発明1は、相違点4に係る「粘着剤層付偏光フィルムの粘着剤層側の表面抵抗値が1×108~1×1012Ω/□(但し、1×107~1×1010Ω/□を除く)であるようにした」構成を備えるとともに、粘着層付偏光フィルムの表面処理層が帯電防止剤を含有することにより、加湿環境下での耐久性が悪くならないように制御しながら、帯電防止機能及びタッチセンサー感度を満足することができる(【0020】)という作用効果を奏するものと認められる。
c したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明並びに引用文献1に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1を減縮した発明であるから、引用発明との間には少なくとも相違点4が存在し、よって、上記アと同様の理由で、引用発明並びに引用文献1に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明9について
(ア)本件発明9と引用発明とを対比すると、上記ア(ア)も踏まえれば、両者は、次の点で一致し、本件発明1と引用発明との相違点1~3(ただし、「本件発明1」は「本件発明9」に読み替える。)のほか、次の点で相違する。
<一致点>
液晶分子を含む液晶層、前記液晶層を両面で挟持する第1透明基板および第2透明基板、並びに、タッチセンサー部および駆動電極兼センサー部を有するインセル型液晶セルと、
前記インセル型液晶セルの視認側の第1透明基板の側に、偏光積層構造を有するインセル型液晶パネルであって、偏光積層構造が、十分な導電性を有する層、第1偏光フィルム、十分な導電性を有する層をこの順で有するインセル型液晶パネル。
<相違点5>
本件発明9が、インセル型液晶セルの第2透明基板の側に、第2粘着剤層を介して配置された第2偏光フィルムを有しているのに対し、引用発明にはそのような特定がない点。
<相違点6>
偏光積層構造に含まれる十分な導電性を有する層につき、本件発明9が、表面処理層と第1粘着剤層としており、表面処理層は、イオン性界面活性剤、導電性微粒子及び導電性ポリマーから選ばれるいずれか少なくとも1種類の帯電防止剤を含有するようにし、粘着層付偏光フィルムの粘着剤層側の表面抵抗値が1×108~1×1012Ω/□であり、粘着剤層付偏光フィルムの表面処理層側の表面抵抗値が1×107~1×1011Ω/□(但し、107~1×1010を除く)であるようにし、また、粘着剤層付偏光フィルムの粘着剤層側の表面抵抗値が1×108~1×1012Ω/□であるようにしたのに対し、引用発明が、上側遮蔽層46Aと下側遮蔽層46Bとしており、これらは、導電性接着剤、導電性ポリマー、導電性金属酸化物、導電性インク、導電性ナノ材料、または他の適切な材料から形成され遮蔽層の抵抗率は、10MΩ/□~10GΩ/□(1×107~1×1010Ω/□)である点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点6について先に検討する。
a 相違点6について
まず、相違点6に係る本件発明9の「粘着剤層付偏光フィルムの表面処理層側の表面抵抗値が1×107~1×1011Ω/□である」における「粘着剤層付偏光フィルムの表面処理層側の表面抵抗値」とは、その文言に照らして、粘着剤層付偏光フィルムの表面処理層側の「表面」における抵抗値であると解するのが自然であり、その理解は、本件訂正明細書等の【0099】の「表面処理層の表面抵抗値は、粘着層付偏光フィルムの表面処理層について測定した。」との記載にも沿うものである。
そして、引用文献1の[0050]には、「電界遮蔽層が、ディスプレイ14の表面上の静電荷が液晶層38の動作を妨害することを確実に防止するために、この遮蔽層は十分な導電性を有するべきである。同時に、遮蔽層は、タッチセンサーの静電容量感知機能を妨げるので、導電性が高すぎないように注意すべきである。好ましくは、遮蔽層の抵抗率は、10MΩ/□~10GΩ/□である。」との記載があり(上記5(1)ア(オ))、引用発明における「上側遮蔽層46A」は、静電荷が液晶層38の動作を妨害することを確実に防止するとともに、タッチセンサーの静電容量感知機能を妨げることがないように表面抵抗率を設定すること、具体的には、10MΩ/□~10GΩ/□(1×107~1×1010Ω/□)とする必要があることが理解できる。
そうすると、引用発明において、「上側遮蔽層46A」の表面抵抗率を、1×107~1×1011Ω/□(但し、1×107~1×1010Ω/□を除く)とすることは、「引用文献1において好ましいとされる範囲」からはずれるようにすることを意味するが、技術常識を参酌しても、当業者がこのような変更をする動機はない。また、引用文献1のその余の記載及び取消理由において提示した他の引用文献の記載を検討しても、引用発明において上記の変更をすることが、当業者にとって容易であるとは認められない。
b そして、本件発明9は、相違点6に係る「粘着層付偏光フィルムの粘着剤層側の表面抵抗値が1×108~1×1012Ω/□であり、粘着剤層付偏光フィルムの表面処理層側の表面抵抗値が1×107~1×1011Ω/□(但し、107~1×1010を除く)である」との構成を備えることにより、加湿環境下での耐久性が悪くならないように制御しながら、帯電防止機能及びタッチセンサー感度を満足することができる(本件訂正明細書等の【0020】)という作用効果を奏するものと認められる。
c したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明9は、引用発明並びに引用文献1に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
6 異議申立人の主張について
(1)異議申立人は、引用文献4(特表2011-528447号公報)には、「【0047】・・・偏光板に含まれる上記導電性粘着剤は、表面抵抗が1012Ω/□以下・・・であることができる。」とあり、偏光板の導電粘着剤の表面抵抗値の上限を1012Ω/□とすることが開示されているから、引用発明において、導電粘着剤の表面抵抗値を、1×108~1×1012Ω/□(但し、1×107~1×1010Ω/□を除く)の範囲に調整することは、当業者が適宜なし得たことである旨主張する。(令和4年7月11日付け意見書2ページ15行~末行)
まず、引用文献4に記載された技術的事項は、「静電気による機器の誤作動及び静電気むら発生などの問題を解決することができ、且つ高温または高湿条件での耐久信頼性及び光学特性などの諸物性にすぐれた液晶表示装置を提供」(【0019】)するべく、「偏光フィルムまたは偏光素子と;上記偏光フィルムまたは偏光素子の上部及び下部に形成された保護フィルムと;上記下部保護フィルムの下部に形成された粘着剤層と;を含み、上記保護フィルムの上部または下部に静電気防止層が形成されている偏光板を提供」(【0020】)することであり、さらに、「静電気防止層は、表面抵抗が1010Ω/□以下」(【請求項3】)、「粘着剤層は、表面抵抗が1012Ω/□以下の導電性粘着剤層」(【請求項12】)とすることである。
一方、引用文献1に記載されているのは、「下側遮蔽層46Bが、静電荷が液晶層38の動作を妨害することを確実に防止するとともに、タッチセンサーの静電容量感知機能を妨げることがないように、その表面抵抗率を設定すること、具体的には、10MΩ/□~10GΩ/□(1×107~1×1010Ω/□)とする。」ということである。
そうすると、引用発明と引用文献4に記載された技術的事項とは、タッチセンサーの有無において前提が異なるものであるから、引用文献4に記載された技術的事項を引用発明に適用する動機はない。すなわち、静電荷が液晶層38の動作を妨害することを確実に防止するとともに、タッチセンサーの静電容量感知機能を妨げることがないように、その表面抵抗率を設定するという、引用発明に接した当業者が、もっぱら、静電気による機器の誤作動及び静電気むら発生などの問題を解決する引用文献4に記載された「粘着剤層」と「静電気防止層」とを適用することはないというべきである。
また、異議申立人は、引用文献1に記載された「10MΩ/□から10GΩ/□」の表面抵抗値は、開示されている構成材料に応じたものにすぎない一方、帯電防止機能を発揮させるために用いる物質と表面抵抗値との間の関係は知られており、表面抵抗値が1×108~1×1012Ω/□(但し、1×107~1×1010Ω/□を除く)の範囲となる物質を選択することに創作性はない旨の主張をする。(令和4年7月11日付け意見書3ページ7行~末行)
しかしながら、引用文献1には、上記表面抵抗値が、ディスプレイ14の表面上の静電荷が液晶層38の動作を妨害することを確実に防止しつつ、タッチセンサーの静電容量感知機能を妨げない観点で選択されていることが記載されている([0050])のであり、異議申立人が主張するような、開示されている構成材料に応じた値である旨の記載はない。そして、引用発明において、下側遮蔽層46Bの表面抵抗値を、1×108~1×1012Ω/□(但し、1×107~1×1010Ω/□を除く)の範囲に調整することが、当業者が適宜なし得たこととはいえないのは、上述のとおりであるから、異議申立人の上記主張は採用できない。
(2)異議申立人は、本件発明1の「粘着剤層付偏光フィルムの粘着剤層側の表面抵抗値」を「1×108~1×1012Ω/□(但し、1×107~1×1010Ω/□を除く)」とすることの効果として耐久性(の向上)が挙げられているが、これは、以下a、bの点から、引用発明に対する有利な効果とはいえない旨主張する。
a 本件発明1の課題は、少なくとも「タッチセンサー感度」、「導通信頼性」、「耐久性」の三つがある(本件訂正明細書等の【0008】)ところ、「導電粘着剤の表面抵抗値を、1×108~1×1012Ω/□(但し、1×107~1×1010Ω/□を除く)」とする実施例の「タッチセンサー感度」、「導通信頼性」は、(「導電粘着剤の表面抵抗値を、1×108~1×1012Ω/□(但し、1×107~1×1010Ω/□を除く)」としない)他の実施例と比較して必ずしもいいとはいえない点。
b 本件訂正明細書等の【0024】には、「前記第1粘着剤層2の表面抵抗値は帯電防止機能とタッチセンサー感度の観点から、1×108~1×1012Ω/□であるのが好ましく、1×108~1×1011Ω/□であるのが好ましく、さらに1×108~1×1010Ωであるのが好ましい。」と記載されており、導電粘着剤の表面抵抗値は、除かれた範囲である1×107~1×1010Ω/□が好ましいことが理解できる点。(令和4年7月11日付け意見書4ページ1行~5ページ6行)
しかしながら、本件発明1の技術的意義は、本件発明1の特定事項及び本件訂正明細書等の記載によれば、インセル型液晶パネルにおいて、静電気発生を抑制するべく粘着剤層付偏光フィルムの粘着剤層の導電機能を高めた構成(本件訂正明細書等の【0104】の比較例2及び3に対応すると解される。)におけるタッチセンサー感度低下及び耐久性の不十分さという課題(同【0007】)を解決するために、当該粘着剤層付偏光フィルムに偏光フィルムからみて粘着剤層とは反対側に表面処理層を設けるとともに、当該表面処理層に帯電防止剤を含有させ(同【0011】)、さらに、粘着剤層の導電機能を高くしないことにより、所定の帯電防止機能を付与しつつ、タッチセンサー感度及び耐久性を満足させる(同【0020】)ことにあると解するのが相当であるから、上記技術的意義を奏するか否かは、他の実施例に対してではなく、比較例2及び3に対する観点から評価すべきである。よって、異議申立人による本件発明1が実施例5及び6よりも優れていないから、有利な効果を奏さないとの主張は、失当である。
そして、本件発明1が、引用発明に比して有利な効果を奏していることは、上記5(2)ア(ウ)bで説示したとおりである。
(3)異議申立人は、本件発明9につき、甲第5~7号証を提出し、表面装置に積層する光学フィルムにおいて、表示装置から最も遠い側の表面抵抗値を「1×107~1×1011Ω/□(但し、107~1×1010Ω/□を除く)」とすることは、従来行われていたことであり、引用発明において、上側遮蔽層46Aの表面抵抗値を「1×107~1×1011Ω/□(但し、107~1×1010を除く)」とすることは、当業者が容易になし得たことである旨主張する。
そこで、甲第5~7号証について検討する。
甲第5号証(特開2003-131009号公報)は、「透明基板の片面に、ハードコート層およびハードコート層より低い屈折率材料よりなる反射防止層が、この順に透明基板側から積層されている反射防止フィルムにおいて、前記ハードコート層の表面抵抗率が1×1011Ω/□以下」(【請求項1】)となるようにしたものであり、このような構成とすることにより、「反射防止フィルムに帯電防止効果を付与しており防汚染性がよく、埃付着性を低下させ、また埃拭き取り性を向上」(【0008】)させるものである。
甲第6号証(特開2011-175081号公報)には、「ハードコート層の表面抵抗率を好ましくは1013Ω/□以下、より好ましくは1012Ω/□以下とし、帯電防止性能を付与することができる。」(【0029】)と記載されている。
甲第7号証(特開2011-154352号公報)は、「テレビやパソコンのディスプレイの表示面に静電気がたまると、埃が付着し、視認性が落ちる。それを防ぐため、ディスプレイに使用される透明表面フィルムにある程度の導電性を持たせ、静電気を逃がす」(【0002】)ために、「ハードコート層の表面抵抗値が、1.0×1013Ω/□以下」(【請求項5】)のものを採用するものである。
一方、引用発明における「上側遮蔽層46A」は、静電荷が液晶層38の動作を妨害することを確実に防止するとともに、タッチセンサーの静電容量感知機能を妨げることがないように表面抵抗率を設定すること、具体的には、10MΩ/□~10GΩ/□(1×107~1×1010Ω/□)とする必要があるのであって、その観点において引用発明の「上側遮蔽層46A」の表面抵抗値は「10MΩ/□~10GΩ/□(1×107~1×1010Ω/□)」とされているのであるから、甲第5~7号証に、表面装置に積層する光学フィルムにおいて、表示装置から最も遠い側の表面抵抗値を「1×107~1×1011Ω/□(但し、107~1×1010Ω/□を除く)」とする例が開示されているとしても、当業者がこのような技術的事項を引用発明に適用することはない。
(4)異議申立人は、本件発明9において粘着剤層付偏光フィルムの表面処理層側の表面抵抗値を1×107~1×1011Ω/□(但し、1×107~1×1010Ω/□を除く)ことにする効果が格別ではないと主張し、その根拠として、本件訂正明細書等に記載された実施例9(本件発明9が特定する表面処理層側の表面抵抗値の値を満たしている。)が、他の実施例と比べて効果が劣っていることを挙げるが、上記(2)で説示したことと同様の理由で、本件発明9の効果の有無を、本件訂正明細書等に記載された他の実施例と比べて検討することに意味はないから、異議申立人の主張は、失当である。
7 むすび
以上のとおり、本件発明1~9に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由(特許異議申立書に記載した特許異議申立理由)によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700372