特許異議申立
2022-700532
偏光子、偏光フィルム、積層偏光フィルム、画像表示パネル、および画像表示装置
- 審判番号
- 2022-700532
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-118874
- 登録番号
- 6985555
- 請求日
- 2022年06月16日
- 審決日
- 2023年05月26日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日東電工株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
- 【異議申立人】松永 健太郎
- 審判長/審判官
- 審判長 松波 由美子
- 審判官 清水 康司
- 審判官 川口 聖司
- 分類
- P1651.113-YAA(G02B) / P1651.121-YAA(G02B) / P1651.537-YAA(G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6985555号発明「偏光子、偏光フィルム、積層偏光フィルム、画像表示パネル、および画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6985555号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認める。
特許第6985555号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6985555号(請求項の数7。以下,「本件特許」という。)に係る出願は,2019年(平成31年)3月22日(優先権主張 平成30年3月28日)を国際出願日とする特願2020-509959号の一部を令和3年7月19日に新たな特許出願としたものであって,令和3年11月29日にその特許権の設定登録がされ,令和3年12月22日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後,請求項1ないし7に係る特許について,令和4年6月16日に特許異議申立人(以下,「申立人」という。)により本件特許異議の申立てがされ,当審において,同年8月22日付けで取消理由が通知され,その指定期間内である同年10月21日に特許権者より訂正請求書(以下,当該訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい,本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)及び意見書が提出され,本件訂正請求に対して,申立人より令和5年2月13日に意見書が提出され,申立人より同年5月11日に上申書が提出された。
第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は,以下のとおりである(下線は,訂正箇所を示すために,合議体が付した。)。
また,本件訂正請求は,一群の請求項〔1ないし7〕に対して請求されたものである。
本件訂正の内容:
本件訂正前の請求項1に
「ポリビニルアルコール系フィルムから形成される偏光子であって,
前記偏光子は,ホウ素およびカリウムを含み,
前記偏光子中,前記ホウ素の含有量が4重量%以上6重量%以下であり,前記カリウムの含有量が0.32重量%以上であり,前記ホウ素の含有量(重量%)を前記カリウムの含有量(重量%)で除した値が8以上であり,かつ前記ホウ素の含有量(重量%)に前記カリウムの含有量(重量%)を乗じた値が1.2以上であることを特徴とする偏光子。」
と記載されているのを,
「ポリビニルアルコール系フィルムから形成されるヨウ素系偏光子であって,
前記偏光子は,ホウ素およびカリウムを含み,
前記偏光子中,前記ホウ素の含有量が4重量%以上6重量%以下であり,前記カリウムの含有量が0.32重量%以上であり,前記ホウ素の含有量(重量%)を前記カリウムの含有量(重量%)で除した値が8以上であり,かつ前記ホウ素の含有量(重量%)に前記カリウムの含有量(重量%)を乗じた値が1.2以上であることを特徴とする偏光子(但し,延伸処理及び染色処理がされたポリビニルアルコールフィルム中に,ホウ酸を24.0重量%,ヨウ化カリウムを1.8重量%含有するヨウ素系偏光子を除く。)。」
に訂正する。(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2ないし7も同様に訂正する。)
2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 本件訂正のうち,訂正前の請求項1の「偏光子であって」から,「ヨウ素系偏光子であって」に訂正する訂正事項は,訂正前の請求項1ないし7に記載の偏光子が,ヨウ素系偏光子以外の偏光子をも包含していたものを,ヨウ素系偏光子のみに限定する訂正であるから,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また,「ヨウ素系偏光子」であることは,本件訂正前の明細書の【0020】や【0069】等に記載されているから,請求項1ないし7に係る偏光子を「ヨウ素系偏光子」に限定する訂正は,新規事項を追加するものではない。
また,請求項1ないし7に係る偏光子を「ヨウ素系偏光子」に限定する訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことは明らかである。
(2) 訂正事項1による訂正のうち,「(但し,延伸処理及び染色処理がされたポリビニルアルコールフィルム中に,ホウ酸を24.0重量%,ヨウ化カリウムを1.8重量%含有するヨウ素系偏光子を除く。)」なる発明特定事項を付加する訂正は,訂正前の請求項1ないし7に係る偏光子において,延伸処理及び染色処理がされたポリビニルアルコールフィルム(すなわち偏光子)中に,ホウ酸やヨウ化カリウムを含有するのか否かや,含有する場合にホウ酸やヨウ化カリウムの含有量がいかほどであるのかは任意であったものを,ホウ酸を24.0重量%,ヨウ化カリウムを1.8重量%含有するヨウ素系偏光子以外のものに限定する訂正であるから,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また,請求項1ないし7に係る偏光子において,延伸処理及び染色処理がされたポリビニルアルコールフィルム(すなわち偏光子)中にホウ酸を24.0重量%,ヨウ化カリウムを1.8重量%含有するヨウ素系偏光子を除外することによって,出願当初明細書等に記載した事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものでないから,請求項1ないし7に係る偏光子について,ホウ酸を24.0重量%,ヨウ化カリウムを1.8重量%含有するヨウ素系偏光子以外のものに限定する訂正は,新規事項を追加するものではない。
また,請求項1ないし7に係る偏光子について,ホウ酸を24.0重量%,ヨウ化カリウムを1.8重量%含有するヨウ素系偏光子以外のものに限定することによって,訂正前には,各請求項に包含されていなかったものが,訂正後の各請求項に包含されることはないから,ホウ酸を24.0重量%,ヨウ化カリウムを1.8重量%含有するヨウ素系偏光子以外のものに限定する訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
3 小括
以上のとおりであるから,本件訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認める。
第3 本件特許の各請求項に係る発明
前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるから,本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下,「本件訂正発明1」,「本件訂正発明2」等という。)は,本件訂正後の請求項1ないし7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ポリビニルアルコール系フィルムから形成されるヨウ素系偏光子であって,
前記偏光子は,ホウ素およびカリウムを含み,
前記偏光子中,前記ホウ素の含有量が4重量%以上6重量%以下であり,前記カリウムの含有量が0.32重量%以上であり,前記ホウ素の含有量(重量%)を前記カリウムの含有量(重量%)で除した値が8以上であり,かつ前記ホウ素の含有量(重量%)に前記カリウムの含有量(重量%)を乗じた値が1.2以上であることを特徴とする偏光子(但し,延伸処理及び染色処理がされたポリビニルアルコールフィルム中に,ホウ酸を24.0重量%,ヨウ化カリウムを1.8重量%含有するヨウ素系偏光子を除く。)。
【請求項2】
前記ホウ素の含有量が5.2重量%以下であることを特徴とする請求項1記載の偏光子。
【請求項3】
請求項1または2記載の偏光子の少なくとも一方の面に透明保護フィルムが貼り合わされていることを特徴とする偏光フィルム。
【請求項4】
前記透明保護フィルムは,透湿度が200g/(m2・24h)以下であることを特徴とする請求項3記載の偏光フィルム。
【請求項5】
請求項3または4記載の偏光フィルムが光学層に貼り合わされていることを特徴とする積層偏光フィルム。
【請求項6】
画像表示セルに,請求項3もしくは4記載の偏光フィルム,または請求項5記載の積層偏光フィルムが貼り合わされていることを特徴とする画像表示パネル。
【請求項7】
請求項6記載の画像表示パネルの偏光フィルムまたは積層偏光フィルム側に,透明板を備えることを特徴とする画像表示装置。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1ないし7に係る特許に対して通知された取消理由は,概略,次のとおりである。
取消理由(新規性・進歩性欠如):本件特許の請求項1ないし7に係る発明は,本件特許の優先権主張の基礎とされた先の出願の出願日(以下,「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり,特許法29条1項3号に該当するから,それらの特許は,同項の規定に違反してされたものである。又は,本件特許の請求項1ないし7に係る発明は,本件優先日前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,それらの特許は,同条2項の規定に違反してされたものである。
取消理由(新規性・進歩性欠如)において引用された引用例は,次のとおりである。
甲8:米国特許出願公開第2013/0141787号明細書
第5 甲8の記載及び甲8に記載された発明
1 甲8の記載
甲8は,本件優先日前である2013年(平成25年)6月6日に頒布された刊行物であって,当該甲8には,次の記載がある。(日本語訳における下線は,後述する甲8発明の認定等に特に関連する箇所を示すために,合議体が付した。)
(1) 「SUMMARY
[0003] Embodiments may be realized by providing a polarizer that includes boric acid and potassium iodide, and a ratio of weight percent of the boric acid to weight percent of the potassium iodide is from about 5 to about 10 in the polarizer.」
(日本語訳)
要約
[0003] 実施形態は,ホウ酸とヨウ化カリウムを含む偏光子を提供することによって実現することができ,偏光子中のヨウ化カリウムの重量%に対するホウ酸の重量%の比は約5~約10である。
(2) 「DETAILED DESCRIPTION
・・・中略・・・
[0018] According to an exemplary embodiment, a polarizer includes boric acid and potassium iodide. A ratio (WBA/WKI) of weight percent of boric acid (WBA) to weight percent of potassium iodide (WKI) ranges from about 5 to about 10. However, the t ratio range is not limited thereto, e.g., the ratio may range from about 6.5 to about 8.5, from about 5 to about 6, from about 7 to about 9, from about 5.5 to about 8.5, from about 6 to about 8, from about 7.5 to about 8.5, etc.
[0019] If the ratio of weight percent of boric acid to weight percent of potassium iodide (WBA/WKI) is greater than or equal to about 5, the polarizer may decrease and/or minimize a variation in orthogonal chromaticity and/or may increase, improve, and/or provide optical durability. If the ratio of weight percent of boric acid to weight percent of potassium iodide (WBA/WKI) is equal to or less than about 10, the polarizer may decrease and/or minimize a variation in orthogonal chromaticity and/or may increase, improve, and/or provide optical durability, external appearance, and/or transmittance.
・・・中略・・・
[0034] In a further aspect, FIG. 1 illustrates a sectional view of a polarizing plate including a polarizer according to an exemplary embodiment. In this embodiment, the polarizing plate 100 includes a protective film 20 formed on at least one side of the polarizer 10. The protective film may act as a phase retardation film, a brightness enhancing film, a reflective film, a translucent reflection film, a diffusive film, an optical compensation film, and the like. According to another exemplary embodiment, at least one of as a phase retardation film, a brightness enhancing film, a reflective film, a translucent reflection film, a diffusive film, an optical compensation film, and the like, may be further stacked on the protective film 20.」
(日本語訳)
詳細な説明
・・・中略・・・
[0018] 例示的な実施形態によれば,偏光子はホウ酸及びヨウ化カリウムを含む。ヨウ化カリウムの重量%(WKI)に対するホウ酸の重量%(WBA)の比(WBA/WKI)は約5~約10の範囲である。しかし,比の範囲はこれに限定されず,例えば,比は,約6.5~約8.5,約5~約6,約7~約9,約5.5~約8.5,約6~約8,約7.5~約8.5などの範囲であってもよい。
[0019] ヨウ化カリウムの重量%に対するホウ酸の重量%の比(WBA/WKI)が約5以上である場合,偏光子は,直交色度の変化を減少及び/又は最小化することができ,及び/又は光学的耐久性を増加,改善及び/又は提供することができる。ヨウ化カリウムの重量%に対するホウ酸の重量%の比(WBA/WKI)が約10以下である場合,偏光子は,直交色度の変化を減少及び/又は最小化することができ,及び/又は光学的耐久性,外観及び/又は透過率を増加,改善及び/又は提供することができる。
・・・中略・・・
[0034] 図1は,本発明の一実施形態に係る偏光子を含む偏光板の断面図である。本実施形態において,偏光板100は,偏光子10の少なくとも一面に形成された保護フィルム20を含む。保護フィルムは,位相差フィルム,輝度向上フィルム,反射フィルム,半透過反射フィルム,拡散フィルム,光学補償フィルムなどとして作用することができる。他の実施形態によれば,保護フィルム20上に位相差フィルム,輝度向上フィルム,反射フィルム,半透過反射フィルム,拡散フィルム,光学補償フィルムなどのうちの少なくとも1つをさらに積層することができる。
(3) 「Comparative Example 3
[0044] A PVA film having a thickness of 75μm (VF-PS #7500, polymerization degree: 2,400, width: 3,000 mm, saponification degree: 99.9 mol % or more, Kuraray Co., Ltd.) was swollen to a cumulative stretching ratio of 2.3 in a swelling bath filled with deionized water at 30°C., in which the film was maintained in a tensioned state. Then, the resultant film was dyed and stretched to a cumulative stretching ratio of 2.8 in a dyeing bath filled with an aqueous dyeing solution containing iodine and potassium iodide in a weight ratio of 1:23 at 30°C. Then, the dyed film was stretched to a stretching ratio of 2.0 in an aqueous stretching solution containing 3.0 wt % of boric acid and 3.0 wt % of potassium iodide at 54°C., followed by uniaxial stretching to a total stretching ratio of 6.0 in a color correction bath containing 1.0 wt % of boric acid and 3.0 wt % of potassium iodide at 40°C. Then, the stretched film was dried at 50°C. for 4 minutes, thereby preparing an iodine-based polarizer having a thickness of 28μm. With adhesives applied to both sides of the prepared polarizer, 80μm thick triacetylcellulose films each subjected to surface saponification (Fujitack T80UNL, Fuji Film Corporation) were attached to both sides of the polarizer and dried at 60°C. for 5 minutes, thereby preparing a polarizing plate.」
(日本語訳)
比較例3
[0044] 厚さ75μmのPVAフィルム(VF-PS #7500,重合度2400,幅3000mm,ケン化度99.9mol%以上,Kuraray Co., Ltd.)を30℃の脱イオン水で満たした膨潤浴で,累積延伸倍率2.3倍まで膨潤し,フィルムを緊張状態に維持した。そして,得られたフィルムは,30℃で1:23の重量比でヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色水溶液で満たした染色浴中で染色し,累積延伸倍率2.8倍まで延伸した。次に,この染色フィルムを,54℃でホウ酸3.0wt%及びヨウ化カリウム3.0wt%を含む水系延伸液で延伸倍率2.0倍に延伸し,その後,40℃でホウ酸1.0wt%及びヨウ化カリウム3.0wt%を含む色補正浴で全延伸倍率6倍まで一軸延伸を行った。その後,50℃で4分間乾燥し,厚さ28μmのヨウ素系偏光子を作製した。作製した偏光子の両面に接着剤を塗布し,表面鹸化処理を施した厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(Fujitack T80UNL, Fuji Film Corporation)を貼り付けて60℃で5分間乾燥させ,偏光板を作製した。
(4) 「[0046] Evaluation of Properties
[0047] (1)Content of boric acid and potassium iodide (KI): 1 g of the polarizer and 50 g of deionized water were placed in a beaker and heated for complete dissolution. Then, 10 g of a mannitol solution (mannitol: distilled water=1:7 in terms of weight) was added to the resultant, followed by titration with 0.1N aqueous NaOH solution to measure weight percent of boric acid (WBA). In addition, 1 g of the polarizer and 50 g of deionized water were placed in a beaker and heated for complete dissolution, followed by titration with 0.1N aqueous AgNO3 solution to measure weight percent of potassium iodide (KI) (WKI). Then, the ratio (WBA/WKI) of weight percent of boric acid (WBA) to weight percent of potassium iodide (KI) (WKI) was obtained. Results are shown in Table 2.
table2
・・・(中略)・・・
table3
[0054] In Table 2 and Table 3, it can be seen that the polarizing plates prepared in Examples 1 to 4, which have a ratio (WBA/WKI) of weight percent of boric acid (WBA) to weight percent of potassium iodide (WKI) in the range of 5 to 10, exhibited good optical durability and low chromaticity variation under high temperature conditions. On the contrary, the polarizing plates prepared in Comparative Examples 1 to 3, which have a ratio (WBA/WKI) of less than 5 or greater than 10, exhibited high chromaticity variation.
[0055] By way of summation and review, a polarizing plate may be arranged on an outside the LCD panel as part of an LCD display device. The polarizing plate may control polarization of light by selectively transmitting a light component in a specific direction therethrough among light emitted from a backlight unit and light having passed through a liquid crystal layer of the LCD panel.」
(日本語訳)
[0046] 特性の評価
[0047] (1)ホウ酸及びヨウ化カリウム(KI)の含有量:偏光子1g及び脱イオン水50gをビーカーに入れ,完全に溶解させるために加熱した。次いで,マンニトール溶液(重量比でマンニトール:蒸留水=1:7)10gを加え,0.1NのNaOH水溶液で滴定し,ホウ酸(WBA)の重量%を測定した。さらに,偏光子1g及び脱イオン水50gをビーカーに入れ,完全に溶解させるために加熱し,続いて,0.1NのAgNO3溶液で滴定して,ヨウ化カリウム(KI)の重量%(WKI)を測定した。次いで,ヨウ化カリウム(KI)の重量%(WKI)に対するホウ酸の重量%(WBA)の比(WBA/WKI)を得た。結果を表2に示す。
・・・中略(表2,表3の訳は省略)・・・
[0054] 表2及び表3から,ホウ酸の重量%(WBA)とヨウ化カリウムの重量%(WKI)の比(WBA/WKI)が5~10の範囲である実施例1~4で製造された偏光板は,高温条件下で良好な光学的耐久性及び低い色度変化を示すことが分かる。これに対し,比較例1~3で製造された偏光板は,比(WBA/WKI)が5未満または10を超える場合,高い色度変化を示した。
[0055] また,液晶表示装置の一部として,液晶表示パネルの外側に偏光板を配置してもよい。偏光板は,バックライトユニットから出射された光及び液晶表示パネルの液晶層を通過した光のうち特定方向の光成分を選択的に透過させて光の偏光を制御することができる。
(5) 「What is claim is:
1. A polarizer, comprising:
boric acid and potassium iodide, a ratio of weight percent of the boric acid to weight percent of the potassium iodide being from about 5 to about 10 in the polarizer.
・・・中略・・・
7. The polarizer as claimed in claim 1, wherein the boric acid and the potassium iodide are dispersed in an elongated polyvinyl alcohol film.」
(日本語訳)
請求の範囲
請求項1.偏光子であって,前記偏光子において,前記ヨウ化カリウムの重量%に対する前記ホウ酸の重量%の比が約5~約10である偏光子。
・・・中略・・・
請求項7.ホウ酸及びヨウ化カリウムが,延伸ポリビニルアルコールフィルム中に分散されている,請求項1に記載の偏光子。)
2 甲8に記載された発明
甲8の[0047]の表2から,比較例3におけるホウ酸の含有量が24.0重量%,ヨウ化カリウムの含有量が1.8重量%であることが看取されるから,前記1(1)ないし(5)で摘記した甲8の記載に照らせば,甲8には,比較例3に係る偏光子に係る発明として,次の発明が記載されていると認められる。
「延伸処理及び染色処理がされたポリビニルアルコールフィルム中に,ホウ酸を24.0重量%,ヨウ化カリウムを1.8重量%含有するヨウ素系偏光子。」(以下「甲8発明」という。)
第6 判断
1 取消理由(新規性・進歩性欠如)について
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
(ア) 甲8発明は,延伸処理及び染色処理がされたポリビニルアルコールフィルム中に,ホウ酸を24.0重量%,ヨウ化カリウムを1.8重量%含有するヨウ素系偏光子であるから,ポリビニルアルコール系フィルムから形成されるヨウ素系偏光子であるといえる。
したがって,本件訂正発明1と甲8発明は,「ポリビニルアルコール系フィルムから形成されるヨウ素系偏光子」である点で一致する。
(イ) 甲8発明のヨウ素系偏光子は,ホウ酸を24.0重量%,ヨウ化カリウムを1.8重量%含有するから,ホウ素及びカリウムを含んでいる。
したがって,本件訂正発明1と甲8発明は,「ホウ素およびカリウムを含」む点で一致する。
(ウ) 甲8発明のヨウ素系偏光子は,ホウ酸を24.0重量%含有するところ,ホウ酸の分子量が約61.8,ホウ素の原子量が約10.8であるから,甲8発明のヨウ素系偏光子におけるホウ素の含有量は,約4.19(≒24.0×10.8/61.8)重量%と算出される。
したがって,本件訂正発明1と甲8発明は,「前記偏光子中,前記ホウ素の含有量が4重量%以上6重量%以下であ」る点で一致する。
(エ) 甲8発明のヨウ素系偏光子は,ヨウ化カリウムを1.8重量%含有するところ,ヨウ化カリウムの分子量が約166,カリウムの原子量が約39.1であるから,甲8発明のヨウ素系偏光子におけるカリウムの含有量は,約0.42(≒1.8×39.1/166)重量%と算出される。
したがって,本件訂正発明1と甲8発明は,「前記カリウムの含有量が0.32重量%以上であ」る点で一致する。
(オ) 前記(ウ),(エ)で述べたとおり,甲8発明のヨウ素系偏光子におけるホウ素の含有量は,約4.19重量%,カリウムの含有量は,約0.42重量%であるから,ホウ素の含有量(重量%)をカリウムの含有量(重量%)で除した値は,約9.98(≒4.19÷0.42)である。
したがって,本件訂正発明1と甲8発明は,「前記ホウ素の含有量(重量%)を前記カリウムの含有量(重量%)で除した値が8以上であ」る点で一致する。
(カ) 前記(ウ),(エ)で述べたとおり,甲8発明のヨウ素系偏光子におけるホウ素の含有量は,約4.19重量%,カリウムの含有量は,約0.42重量%であるから,ホウ素の含有量(重量%)にカリウムの含有量(重量%)を乗じた値は,約1.76(≒4.19×0.42)である。
したがって,本件訂正発明1と甲8発明は,「前記ホウ素の含有量(重量%)に前記カリウムの含有量(重量%)を乗じた値が1.2以上である」点で一致する。
(キ) 前記(ア)ないし(カ)に照らせば,本件訂正発明1と甲8発明は,
「ポリビニルアルコール系フィルムから形成されるヨウ素系偏光子であって,
前記偏光子は,ホウ素およびカリウムを含み,
前記偏光子中,前記ホウ素の含有量が4重量%以上6重量%以下であり,前記カリウムの含有量が0.32重量%以上であり,前記ホウ素の含有量(重量%)を前記カリウムの含有量(重量%)で除した値が8以上であり,かつ前記ホウ素の含有量(重量%)に前記カリウムの含有量(重量%)を乗じた値が1.2以上である偏光子。」
である点で一致し,次の点で相違する。
相違点1-1:
本件訂正発明1は,「延伸処理及び染色処理がされたポリビニルアルコールフィルム中に,ホウ酸を24.0重量%,ヨウ化カリウムを1.8重量%含有するヨウ素系偏光子を除く」ものであるのに対し,
甲8発明の「延伸処理及び染色処理がされたポリビニルアルコールフィルム中」のホウ酸及びヨウ化カリウムの含有量は,ホウ酸が24.0重量%であり,ヨウ化カリウムが1.8重量%である点。
イ 相違点1-1について
(ア) 相違点1-1は実質的な相違点である。本件訂正発明1と甲8発明の間に,実質的な相違点1-1が存在する以上,本件訂正発明1は甲8発明であるとはいえない。
(イ) そもそも,甲8は,ヨウ素系偏光子において,ヨウ化カリウムの重量%(WKI)に対するホウ酸の重量%(WBA)の比(WBA/WKI)が5ないし10である場合に,高温条件下で良好な光学的耐久性及び低い色度変化を示すことを見出した点に技術的特徴を有する文献である([0003],[0018],[0019],[0054],請求項1)。
そして,甲8発明は,甲8における比較例3であって,ポリビニルアルコールフィルム中の,ヨウ化カリウムの重量%(WKI)に対するホウ酸の重量%(WBA)の比(WBA/WKI)が前記好適な範囲を満たさず,13.3である場合には,実施例と比較して高い色度変化を示し,好ましくないことを示すものである([0054])。
そうすると,甲8に,比較例3として,たまたま,本件訂正発明1の発明特定事項に係る,ホウ素の含有量,カリウムの含有量,ホウ素の含有量をカリウムの含有量で除した値,及び,ホウ素の含有量にカリウムの含有量を乗じた値を充足するものが記載されているにしても,本件訂正発明1と,甲8の比較例3の重なりは,いわゆる「除くクレーム」として除かれている以上,前述した技術的特徴を有する甲8に接した当業者が,あえて高い色度変化という好ましくない特性を有する比較例3である甲8発明を改良しようとする動機付けは見出し難い。また,甲8には,他に,ホウ素の含有量,カリウムの含有量,ホウ素の含有量をカリウムの含有量で除した値,及び,ホウ素の含有量にカリウムの含有量を乗じた値をそれぞれ所定範囲とすることにより,高温環境下におけるポリエン化を防止し,偏光子の光学特性の低下を抑制し得る点について,指針となる記載は何らされていない。
したがって,甲8発明において,「延伸処理及び染色処理がされたポリビニルアルコールフィルム中に,ホウ酸を24.0重量%,ヨウ化カリウムを1.8重量%含有するヨウ素系偏光子」以外の偏光子であって,かつ,ホウ素及びカリウムの含有量を,それぞれ4重量%以上6重量%以下及び0.32重量%以上であり,前記ホウ素の含有量(重量%)を前記カリウムの含有量(重量%)で除した値が8以上であり,かつ前記ホウ素の含有量(重量%)に前記カリウムの含有量(重量%)を乗じた値が1.2以上であるという要件を満足するような値に設計変更することは,当業者が容易に想到し得たことではない。
そして,本件訂正発明1は,ホウ素の含有量,カリウムの含有量,ホウ素の含有量(重量%)を前記カリウムの含有量(重量%)で除した値,及びホウ素の含有量(重量%)に前記カリウムの含有量(重量%)を乗じた値を本件訂正特許請求の範囲に特定された範囲とする構成を備えることにより,高温環境下における耐久性が向上するという格別な効果が奏されるものである。
(ウ) 申立人は,令和5年2月13日付け意見書において,甲8発明が甲8で比較例として記載されているということは,甲8発明は,甲8の出願当時の技術水準を表すものとして当業者間で認識されていたものといえるから,当業者は,甲8で特許が請求されている発明にとらわれることなく,ホウ素及びカリウムの含有量について甲8発明での含有量の近傍において適宜実施することが可能であったといえ,本件訂正発明1は甲8発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである等と主張し,同年5月11日に提出した上申書においても同旨の主張をする。
しかしながら,甲8において,従来の技術水準とされている範囲がどの範囲までを想定しているかにかかわらず,甲8に接した当業者が,好ましくない特性を有する甲8発明を改良の出発点とするように動機づけられることがないことは,前記(イ)で述べたとおりである。
したがって,申立人の前記主張は採用できない。
ウ 小括
前記イで述べたとおりであって,本件訂正発明1は,甲8発明ではなく,甲8発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって,取消理由通知に記載した取消理由によって,本件訂正発明1に係る特許を取り消すことはできない。
(2)本件訂正発明2ないし7について
本件訂正後の請求項2ないし7は,いずれも,請求項1の記載を直接又は間接的に引用する形式で記載されたものであって,本件訂正発明2ないし7は,本件訂正発明1の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに該当する。
そうすると,前記(1)で述べたように,本件訂正発明1が,甲8発明ではなく,甲8発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上,本件訂正発明2ないし7も,同様の理由で,甲8発明ではなく,甲8発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって,取消理由通知に記載した取消理由によって,本件訂正発明2ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
申立人は,特許異議申立書において,本件訂正前の請求項1ないし7に係る特許について,以下の特許異議申立理由(以下,「申立理由」という。)を主張している。
申立理由1:本件特許の請求項1ないし7に係る発明は,甲1に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当するから,それらの特許は,同項の規定に違反してされたものである。又は,本件特許の請求項1ないし7に係る発明は,甲1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,請求項7に係る発明は,甲1に記載された発明及び周知の技術(周知例:甲5ないし甲7)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもあるから,それらの特許は,同条2項の規定に違反してされたものである。
申立理由2:本件特許の請求項1ないし7に係る発明において,カリウムの含有量は,0.32重量%以上0.75重量%以下であると解されるところ,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例を参照すると,カリウムの含有量が0.32重量%と0.34重量%という近接した二点でしか実験が行われておらず,カリウムの含有量が0.34重量%を超え0.75重量%以下という範囲においても発明の課題を解決できると当業者が認識することはできないから,請求項1ないし7に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものとはいえず,それらの特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
申立人が申立理由1において引用する引用例及び周知例は次のとおりである。
甲1:特開2013-105036号公報
甲5:特開2013-11853号公報
甲6:特開2014-102353号公報
甲7:特開2016-99532号公報
2 甲1に記載された発明
甲1は,本件優先日前である平成25年5月30日に頒布された刊行物であるところ,当該甲1の【0029】の「ヨウ化化合物としては,ヨウ化カリウムが好適である。本発明で用いるヨウ化化合物は,他の工程で用いる場合についても,前記同様である。」という記載から,各工程で用いる処理液中に含有させるヨウ化化合物としては,ヨウ化カリウムが好適であることが把握できるから,甲1(特に,【0025】ないし【0038】,【0044】ないし【0047】等の記載を参照。)には,次の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「ポリビニルアルコール系フィルムに,膨潤工程,染色工程,架橋工程および洗浄工程をこの順に施すという方法によって製造される偏光子であって,
前記膨潤工程では,処理液として,通常,水,蒸留水,純粋を用い,処理温度を25~40℃,処理時間を20~240秒間として,前記ポリビニルアルコール系フィルムを浸漬し,当該膨潤工程では,延伸倍率1.5から2.2倍で延伸を施し,前記処理液は,主成分が水であれば添加物を少量入れても良く,添加物としてヨウ化カリウムを用いる場合,その濃度は0.2~5重量%とし,
前記染色工程では,ヨウ素濃度が0.02~0.5重量%,ヨウ化カリウムの濃度が0.2~8重量%で,温度が25~40℃のヨウ素水溶液に,20~240秒間浸漬して,ヨウ素染色を行い,当該染色工程は,延伸工程とともに行うことができ,
前記架橋工程は,最終ホウ酸処理工程と,当該最終ホウ酸処理工程より1つ前までの初期ホウ酸処理工程とからなる,少なくとも2つのホウ酸処理浴によるホウ酸処理工程を有し,
前記初期ホウ酸処理工程では,ホウ酸濃度が3~5重量%でヨウ化カリウムの濃度が0.2~5重量%のホウ酸水溶液に,処理温度を30~50℃,処理時間を8~500秒間程度として,前記ポリビニルアルコール系フィルムを浸漬して,前記ポリビニルアルコール系フィルム中のホウ酸含有量が24重量%以上30重量%以下になるようにし,当該初期ホウ酸処理工程では,延伸工程を行っても行わなくともよく,初期ホウ酸処理工程が終了した時点での前記ポリビニルアルコール系フィルムの総延伸倍率が3.0~3.6倍となるようにし,
前記最終ホウ酸処理工程では,ホウ酸濃度が2~5重量%でヨウ化カリウムの濃度が0.2~5重量%のホウ酸水溶液に,処理温度を50~70℃,処理時間を8~500秒間程度として,前記ポリビニルアルコール系フィルムを浸漬して,前記ポリビニルアルコール系フィルム中のホウ酸含有量が24重量%以上30重量%以下になるようにするとともに,前記ポリビニルアルコール系フィルムの総延伸倍率が5.8~6.3倍になるように一軸延伸処理を施し,
前記洗浄工程は,濃度が1.5~7重量%のヨウ化カリウム水溶液で行い,当該ヨウ化カリウム水溶液の温度を20~35℃,前記ポリビニルアルコール系フィルムとの接触時間を3~25秒とし,
前記洗浄工程の後に,加熱温度を30~60℃とし,乾燥時間を1~10分程度として,加熱乾燥することによって得られ,
ホウ酸の含有量が20重量%以上27重量%以下の偏光子。」
3 判断
(1)申立理由1について
ア 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲1発明を対比すると,甲1発明における,偏光子中のホウ素の含有量は,ホウ酸の分子量約61.8及びホウ素の原子量約10.8から,約3.50(≒20×10.8/61.8)重量%以上約4.72(≒27×10.8/61.8)重量%以下と算出されるから,両者は,
「ポリビニルアルコール系フィルムから形成されるヨウ素系偏光子であって,
前記偏光子は,ホウ素およびカリウムを含む偏光子(但し,延伸処理及び染色処理がされたポリビニルアルコールフィルム中に,ホウ酸を24.0重量%,ヨウ化カリウムを1.8重量%含有するヨウ素系偏光子を除く。)。」
である点で一致し,次の点で相違する。
相違点2-1:
本件訂正発明1では,偏光子中,ホウ素の含有量が4重量%以上6重量%以下であり,カリウムの含有量が0.32重量%以上であり,前記ホウ素の含有量(重量%)を前記カリウムの含有量(重量%)で除した値が8以上であり,かつ前記ホウ素の含有量(重量%)に前記カリウムの含有量(重量%)を乗じた値が1.2以上であるのに対して,
甲1発明では,偏光子中,ホウ素の含有量が約3.50重量%以上約4.72重量%以下であり,カリウムの含有量,ホウ素の含有量をカリウムの含有量で除した値,及びホウ素の含有量にカリウムの含有量を乗じた値がいずれも定かでない点。
(イ)相違点2-1について
a 少なくとも,甲1発明におけるカリウムの含有量,ホウ素の含有量をカリウムの含有量で除した値,及びホウ素の含有量にカリウムの含有量を乗じた値が定かでない以上,本件訂正発明1は甲1発明でないといわざるを得ない。
申立人は,特許異議申立書において,甲1発明の偏光子を製造する際の各工程に用いている処理液について,偏光子中のカリウムの含有量の決定要因として重要なヨウ化カリウム濃度,処理温度,処理時間の数値範囲が,本件明細書に記載された偏光子の製造方法におけるそれらと重複一致していることから,甲1発明のカリウムの含有量は,本件特許の請求項1に係る発明のカリウムの含有量を満たしている蓋然性が高い旨主張している。
そこで検討するに,本件明細書の【0029】,【0030】,【0032】,【0033】,【0035】,【0036】,【0038】,【0039】,【0042】,【0043】には,甲1発明の膨潤工程,染色工程,初期ホウ酸処理工程,最終ホウ酸処理工程及び洗浄工程にそれぞれ相当すると申立人が主張する膨潤工程,染色工程,架橋工程,延伸工程及び洗浄工程における各処理液のヨウ化カリウム濃度,処理温度及び処理時間について,好ましいとされた数値範囲が示されている。
しかしながら,各工程における各処理液のヨウ化カリウム濃度,処理温度及び処理時間が,本件明細書に記載された各数値範囲を満たしているからといって,必ず,ホウ素の含有量,カリウムの含有量,ホウ素の含有量をカリウムの含有量で除した値,及びホウ素の含有量にカリウムの含有量を乗じた値がそれぞれ4重量%以上6重量%以下,0.32重量%以上,8以上及び1.2以上になるわけではないことは,各工程における各処理液のヨウ化カリウム濃度,処理温度及び処理時間が,本件明細書において好ましいとされた各数値範囲を満たしている方法で製造された実施例2及び実施例5におけるカリウム含有量が,ともに0.28重量%であって,本件訂正発明1の発明特定事項を満たさないことから,明らかである。
ましてや,甲1発明の膨潤工程,染色工程,初期ホウ酸処理工程,最終ホウ酸処理工程及び洗浄工程における各処理液のヨウ化カリウム濃度,処理温度及び処理時間の数値範囲は,本件明細書において好ましいとされた各処理液のヨウ化カリウム濃度,処理温度及び処理時間の数値範囲と,一部が重複しているのみであって,完全に一致しているわけではないから,それぞれの製造方法からみて,甲1発明のカリウムの含有量が,本件特許の請求項1に係る発明のカリウムの含有量を満たしている蓋然性が高いとは到底いえない。
以上のとおりであるから,申立人の前記主張は,採用できない。
b また,甲1には,ホウ素の含有量,カリウムの含有量,ホウ素の含有量をカリウムの含有量で除した値,及び,ホウ素の含有量にカリウムの含有量を乗じた値をそれぞれ所定範囲とすることにより,高温環境下におけるポリエン化を防止し,偏光子の光学特性の低下を抑制するという技術思想が開示されておらず,申立人が提出した甲5ないし甲7を含む各証拠にも,同技術思想が開示されていない以上,甲1発明において,各工程における各処理液のホウ酸濃度,ヨウ化カリウム濃度,処理温度及び処理時間を,偏光子が相違点2-1に係る本件訂正発明1の発明特定事項を満たすこととなるような数値に調整することに,動機付けは見当たらないから,本件訂正発明1は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件訂正発明2ないし7について
本件訂正後の請求項2ないし7は,請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであって,本件訂正発明2ないし7は,本件訂正発明1の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに該当する。
そして,前記アで述べたとおり,本件訂正発明1が,甲1発明ではなく,かつ,たとえ申立人が提出した甲5ないし甲7を含む各証拠を考慮しても,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上,本件訂正発明2ないし7も,同様の理由で,甲1発明ではなく,甲1発明に基づいて,又は甲1発明及び周知技術(周知例:甲5ないし甲7)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 小括
前記ア及びイで述べたとおり,本件訂正発明1ないし7は,甲1発明ではなく,甲1発明に基づいて,又は甲1発明及び周知技術(周知例:甲5ないし甲7)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,申立理由1によって,本件訂正発明1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
(2)申立理由2について
ア 本件明細書の発明の詳細な説明の【0002】ないし【0007】の記載等によれば,本件訂正発明1ないし7が解決しようとする課題は,高温環境下において,ポリビニルアルコールのポリエン化が進行することにより,偏光子に着色が生じ,光学特性が低下してしまうことであると理解される。
そして,本件明細書の【0009】,【0015】,【0016】には,偏光子中,ホウ素の含有量を4重量%以上6重量%以下とし,かつ,前記ホウ素の含有量(重量%)にカリウムの含有量(重量%)を乗じた値を1.2以上とするという構成を採用することによって,優れた耐熱性を奏し,前述した発明の課題を解決できること,当該構成を採用することによる課題解決に至る作用機序が,従前の偏光子よりも,ホウ素の含有量が多く,カリウムの含有量が少ないため,ホウ酸架橋により偏光子中のポリビニルアルコールの水酸基末端が保護されていること,また,適量なカリウム含有率によって,偏光子中で対イオンとなるヨウ素イオンが安定化されていることから,高温環境下におけるポリエン化を抑制できるものと推定されることが記載されている。
また,本件明細書の発明の詳細な説明の【0069】ないし【0087】には,ホウ素の含有量が3.9重量%及び2.4重量%である比較例1及び4や,ホウ素の含有量(重量%)にカリウムの含有量(重量%)を乗じた値が1.11及び1.12である比較例2及び3では,高温環境下(95℃×500h)でポリエン化が生じるのに対し,ホウ素の含有量が4ないし5.3重量%の範囲にあり,ホウ素の含有量(重量%)にカリウムの含有量(重量%)を乗じた値が1.34ないし1.48の範囲にある実施例1ないし5(なお,実施例2,5はカリウムの含有量が0.32重量%を下回っていることから,本件訂正発明1ないし7の実施例ではない。)では,ポリエン化が生じないことが示されている。
イ 本件明細書の発明の詳細な説明に記載された課題解決に至る作用機序(十分なホウ酸架橋によるポリビニルアルコールの水酸基末端の保護,及び適量なカリウムによるヨウ素イオンの安定化)は,技術的にみて,ポリエン化を抑制する機構として十分に納得できるものであり,また,ホウ素の含有量を4重量%以上6重量%以下とし,かつ,前記ホウ素の含有量(重量%)にカリウムの含有量(重量%)を乗じた値を1.2以上とするという構成を採用することによって,高温環境下におけるポリエン化が抑制できることは,発明の詳細な説明に記載された各実施例及び各比較例の対比によって,十分に実証されているといえる。
そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,当業者は,ホウ素の含有量を4重量%以上6重量%以下とし,かつ,前記ホウ素の含有量(重量%)にカリウムの含有量(重量%)を乗じた値を1.2以上とするという構成を採用することによって,発明の課題を解決することができると認識できるものといえる。
そして,本件訂正発明1ないし7は,ポリエン化を抑制する機構として納得できるものであり,また,ホウ素の含有量を4重量%以上6重量%以下とし,かつ,前記ホウ素の含有量(重量%)にカリウムの含有量(重量%)を乗じた値を1.2以上とすることを,発明特定事項として具備しているのであるから,本件訂正発明1ないし7は,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものと認められる。
ウ 申立人は,特許異議申立書において,本件特許の請求項1に記載された発明特定事項からみて,カリウムの含有量は0.32重量%以上0.75重量%以下であるところ,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例には,当該範囲の下限に近い一部分についてのみ効果が確認されるにとどまり,カリウムの含有量が0.34重量%を超え0.75重量%以下の範囲で,発明の課題を解決できるとは認識できない旨主張し,令和5年2月13日に提出した意見書及び同年5月11日に提出した上申書においても同旨の主張をしている。
そこで検討するに,発明の詳細な説明に記載された課題解決に至る作用機序,及び,本件特許出願当時の当業者の技術常識からみて,カリウムの含有量は,偏光子中で対イオンとなるヨウ素イオンを安定化することによってポリエン化を抑制することができれば足り,これができないほど少量である場合には,課題を解決することができないものの,ヨウ素イオンを安定化できる最低量以上の量であれば,発明の課題を解決できると考えられる。
そして,実施例1ないし5のカリウムの含有量からみて,少なくともカリウムの含有量が,実施例5に開示された0.28重量%以上であれば,ヨウ素イオンが安定化し,ポリエン化は生じないと考えられる。この点は,請求人も,「カリウムの含有量が0.32重量%である場合(実施例1)と,これに近接する0.34重量%である場合(実施例3及び4)でしか発明の効果が確認されていない。」と,下限値近傍においては,課題を解決し得ることを認めているとおりである。
そうすると,たとえ本件明細書の発明の詳細な説明に,カリウムの含有量について,0.34重量%を超え0.75重量%以下の範囲で実施した実施例が開示されていなくても,本件特許出願当時の当業者の技術常識によれば,当業者は,ホウ素の含有量を4重量%以上6重量%以下とし,カリウムの含有量を0.32重量%以上とし,ホウ素の含有量をカリウムの含有量で除した値を8以上とし,かつ,前記ホウ素の含有量(重量%)にカリウムの含有量(重量%)を乗じた値を1.2以上とするという構成を具備する偏光子であれば,カリウムの含有量が0.34重量%を超え0.75重量%以下の範囲にある場合でも,ヨウ素イオンを安定化することによってポリエン化を抑制することにより課題を解決することができると認識できるというべきである。
したがって,申立人の前記主張は採用できない。
エ 以上のとおりであって,本件訂正発明1ないし7は,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから,申立理由2によって,それらの特許を取り消すことはできない。
(3)上申書における申立人の主張について
申立人は,令和5年5月11日に提出した上申書において,本件特許の請求項1ないし7に係る発明において,「前記ホウ素の含有量(重量%)を前記カリウムの含有量(重量%)で除した値」及び「前記ホウ素の含有量(重量%)に前記カリウムの含有量(重量%)を乗じた値」の技術的意義が不明確であるから,それらの特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張するが,当該主張は,特許異議申立書における特許異議の申立ての理由に記載されていなかった理由を主張するものであって,実質上,特許異議申立書の要旨を変更するものである。
また,当該主張が記載された上申書は,特許異議申立期間が経過する時又は取消理由の通知がある時のいずれか早い時よりも後に提出されたものである。
したがって,当該主張を,特許異議申立書において申立人が主張する申立理由として審理することはできない。
なお,仮に,当該主張を検討してみても,「前記ホウ素の含有量(重量%)を前記カリウムの含有量(重量%)で除した値」及び「前記ホウ素の含有量(重量%)に前記カリウムの含有量(重量%)を乗じた値」なる発明特定事項は,いずれも,どのように算出される値なのかを明確に把握できることから,この点で明確性要件違反であるとする申立人の主張は失当である。
第8 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
さらに,他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
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2022-700532