特許異議申立
2022-700663
イチゴ苗の生育システム及び生育方法
- 審判番号
- 2022-700663
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-183896
- 登録番号
- 7004370
- 請求日
- 2022年07月15日
- 審決日
- 2022年12月22日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】株式会社恵葉&菜健康野菜
- 【権利者代理人】中村 雅典
- 【異議申立人】藤田 幸三郎
- 審判長/審判官
- 審判長 住田 秀弘
- 審判官 土屋 真理子
- 審判官 桐山 愛世
- 分類
- P1651.113-ZC (A01G) / P1651.121-ZC (A01G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7004370号発明「イチゴ苗の生育システム及び生育方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7004370号の請求項1ないし6に係る特許を取り消す。
同請求項7ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 特許第7004370号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、令和3年10月4日に出願した特願2021-163461号の一部を令和3年11月11日に新たな特許出願としたものであって、令和4年1月6日にその特許権の設定登録がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行された。その後、令和4年7月15日に、特許異議申立人 藤田 幸三郎(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において、令和4年9月16日付けで取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。
第2 本件発明
特許第7004370号の請求項1ないし9に係る発明(以下、請求項の番号により「本件発明1」等といい、全体を「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
親株が栽培される親株栽培用プランターと、
水が循環させられており、親株から伸長するランナーに発生した子株が水に浸されることにより栽培される子株栽培用プランターと、を備えることを特徴とするイチゴ苗の生育システム。
【請求項2】
親株が栽培される親株栽培用プランターと、
水が循環させられており、親株から伸長するランナーに発生した子株が水に浸されることにより栽培される子株栽培用プランターと、
前記親株栽培用プランターで栽培される親株と前記子株栽培用プランターで栽培される子株に光を照射する照明と、を備えることを特徴とするイチゴ苗の生育システム。
【請求項3】
親株が栽培される親株栽培用プランターと、
親株から伸長するランナーに発生する子株を定着させるスポンジ培地と、
水が循環させられており、子株を定着させたスポンジ培地が設置される子株栽培用プランターと、を備えることを特徴とするイチゴ苗の生育システム。
【請求項4】
親株が栽培される親株栽培用プランターと、
水が循環させられる子株栽培用プランターと、を設けて、
親株から伸長するランナーに発生した子株を、前記子株栽培用プランターで循環させられる水に浸すことにより栽培することを特徴とするイチゴ苗の生育方法。
【請求項5】
親株が栽培される親株栽培用プランターと、
水が循環させられる子株栽培用プランターと、を設けて、
親株から伸長するランナーに発生した子株を、前記子株栽培用プランターで循環させられる水に浸して照明で光を照射することにより栽培することを特徴とするイチゴ苗の生育方法。
【請求項6】
親株が栽培される親株栽培用プランターと、
水が循環させられる子株栽培用プランターと、を設けて、
親株から伸長するランナーに発生した子株をスポンジ培地に定着させて、子株を定着させた前記スポンジ培地を前記子株栽培用プランターに設置することにより栽培することを特徴とするイチゴ苗の生育方法。
【請求項7】
前記スポンジ培地に子株を定着させる際には、前記スポンジ培地が水中に浸されるように吸水させて設置し、
子株の根が前記培地スポンジの下側から発出した後は、前記スポンジ培地と前記子株栽培用プランターの底面との隙間を広げるように、前記スポンジ培地の下側に突起体を取り付けることを特徴とする請求項6記載のイチゴ苗の生育方法。
【請求項8】
前記スポンジ培地に子株を定着させる際には、前記スポンジ培地が水中に浸されるように吸水させて設置し、
子株の根が前記培地スポンジの下方に発出した後は、前記スポンジ培地と前記子株栽培用プランターの底面との隙間を広げるように、前記スポンジ培地と前記子株栽培用プランターの底面との間に介在物を設置することを特徴とする請求項6記載のイチゴ苗の生育方法。
【請求項9】
前記スポンジ培地に子株を定着させる際には、前記スポンジ培地が水中に浸されるように吸水させて設置し、
子株の根が前記培地スポンジの下側から発出した後は、前記スポンジ培地を水に浮かべられるように脱水することを特徴とする請求項6記載のイチゴ苗の生育方法。」
第3 特許異議申立理由及び取消理由通知で通知した取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、本件発明1ないし9に対して、証拠として下記甲第1号証ないし甲第9号証を提出し、次の特許異議申立理由を申し立てている。
理由1(新規性)本件発明1及び4は、本件特許出願前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、本件発明1及び4に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
理由2(進歩性)本件発明1ないし9は、本件特許出願前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第9号証に示される周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし9に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証:特公平3-8170号公報
甲第2号証:特開2014-82995号公報
甲第3号証:特開2019-41694号公報
甲第4号証:特開平11-275993号公報
甲第5号証:特開2013-153691号公報
甲第6号証:特許第6864138号公報
甲第7号証:特開2018-13号公報
甲第8号証:特開2019-162095号公報
甲第9号証:特開2019-115261号公報
以下、甲第1号証等を「甲1」等ということがある。
2 取消理由の概要
本件発明1ないし6に係る特許に対して、当審において、令和4年9月16日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
理由1(新規性)本件発明1及び4は、本件特許出願前に日本国内において頒布された甲1に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、本件発明1及び4に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
理由2(進歩性)本件発明1ないし6は、本件特許出願前に日本国内において頒布された甲1に記載された発明及び甲2、甲3、甲5、甲6及び甲9に示される周知技術に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1ないし6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
第4 取消理由通知で通知した取消理由についての判断
1 各証拠の記載
(1)甲1
ア 甲1の記載
甲1には次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
(ア)「[実施例]
以下、本発明に係るいちごの育苗装置の構成について説明する。
第1図及び第2図に示すように、本発明の要部である水耕ベツド1の養液パレツト部2と水パレツト部3とは、後述するように、それぞれ別体として構成され、それぞれ地面Eに立設された2組の支持体4,5に支えられている。」(第4欄第10~17行)
(イ)「第4図に示すように、水耕ベツド1は、いちごの親株14が植えられる養液パレツト部2と、親株14から伸びてきたランナ15に派生する多数の子株16を育苗するための幅の広い水パレツト部3とによつて構成されているが、本実施例では、両パレツト部2,3は別体として形成されている。」(第5欄第8~14行)
(ウ)「図示はしないが、水パレツト部3にも、以上説明した養液の供給手段と略同様の水循環供給手段が設けられているが、気温が高く、循環水の温度を所定値以下に保つことができない時は、水温の低い地下水を流しつぱなしにして、子株16に水を供給するようにしてもよい。」(第7欄第30~35行)
(エ)「次に、以上説明した育苗装置を使用して行う、いちごの育苗方法について説明する。
・・・
次に、前記ランナ15から出た子株を養液パレツト部2の隣に設置された水パレツト部3に仮植する。
このとき、前記養液パレツト部2と同様に、水パレツト部3の供給手段も駆動させておき、水パレツト部3の水路シート19表面には、所定温度以下に保たれた水の膜が、循環して流れ落ちているようにする。
ランナ15から出た子株を水パレツト部3のアルミ蒸着シート25の切れ目26から差込み、これを固定ネツト24によつて安定的に保持させ、根がでてくる子株部分が、流水層に常に一定の深さで浸るようにする。」(第7欄第36行~第8欄第43行)
イ 甲1に記載された発明
上記アからみて、甲1には、次の2の発明が記載されていると認められる。
(ア)甲1発明
「いちごの育苗装置であって、
その要部である水耕ベツド1は、いちごの親株14が植えられる養液パレツト部2と、親株14から伸びてきたランナ15に派生する多数の子株16を育苗するための水パレツト部3とによつて構成され、
水パレツト部3に、水循環供給手段が設けられており、
育苗装置を使用していちごの育苗を行うにあたっては、
水パレツト部3には、水の膜が、循環して流れ落ちているようにし、ランナ15から出た子株を、根がでてくる子株部分が、流水層に常に一定の深さで浸るようにする、
いちごの育苗装置。」
(イ)甲1方法発明
「いちごの育苗装置を使用して行う、いちごの育苗方法であって、
育苗装置の要部である水耕ベツド1は、いちごの親株14が植えられる養液パレツト部2と、親株14から伸びてきたランナ15に派生する多数の子株16を育苗するための水パレツト部3とによつて構成され、
水パレツト部3にも、水循環供給手段が設けられており、
育苗装置を使用して行う、いちごの育苗方法は、
水パレツト部3には、水の膜が、循環して流れ落ちているようにし、ランナ15から出た子株を、根がでてくる子株部分が、流水層に常に一定の深さで浸るようにする、
いちごの育苗方法。」
(2)甲2
ア 甲2の記載
甲2には次の事項が記載されている。
(ア)「【0009】
植物栽培装置は、空気調和システムと、栽培棚11とを含んで構成される。この栽培棚11は、複数段の棚を有していて、各段の棚上には、植栽された植物12が載置される。図1では、栽培棚11は、薄膜水耕(NFT)用の多段型栽培棚とされている。ここで、NFTとは、約1%の緩やかな傾斜をもつ棚上に、植物の栄養分となる養液を薄く少量ずつ流す水耕栽培である。なお、NFTに限定されるものではなく、養液を溜め、その養液のみで栽培を行う湛液型水耕(DFT)にも適用できるものである。
【0010】
例えば、栽培棚11の各段の棚上には、複数の樋13が隣接して、あるいは一定の間隔で平行に並ぶように、上記角度で傾斜して載置され、複数の樋13上に、互いに隣接するように複数の栽培トレイ14が載置される。樋13としては、例えば、住宅建築において用いられる雨樋を採用することができる。雨樋は、筒をその長手方向に半分に切断した形状を有するものである。
【0011】
栽培トレイ14は、一定の厚さを有するポリエチレンやポリプロピレン等のプラスチック樹脂製あるいはセラミック製の平板に、一定間隔で穴が設けられたものとされる。植物12は、ポリウレタン製の植栽用スポンジに植えられ、このスポンジをその穴に嵌め込むことにより栽培トレイ14に植栽される。栽培トレイ14に植栽された植物12は、根が栽培トレイ14の下方に伸び、葉が栽培トレイ14の上方に拡がっている。
【0012】
栽培トレイ14を複数の樋13に跨るように載置すると、各植物12の根が各樋13の内部に収納される。各樋13内には、傾斜に沿って養液が薄く流されていて、その養液に根の先端が浸漬するようになっている。このため、植物12は、根の先端から栄養分や水を吸収し、その成長のために使用することができる。
【0013】
栽培トレイ14が載置される棚の1段上の棚の下面には、植物12の葉に光を照射するための照明装置15が取り付けられる。照明装置15は、光を照射することができればいかなる光源を用いてもよいが、例えば、蛍光灯、発光ダイオード(LED)を用いることができる。消費電力を少なくし、光源から発生する熱を極力少なくすることができる点で、LEDが好ましい。照明装置15から発生した熱を植物12が受けると、熱による障害を引き起こすからである。」
(イ)「【0038】
本発明の植物栽培装置により栽培することができる植物12としては、サラダ菜、サニーレタス、リーフレタス、チンゲン菜、小松菜、スイートバジル、ニチニチソウ、トマト、イチゴ、ねぎ等を挙げることができる。なお、これは一例であるので、これに限られるものではない。また、養液としては、植物の成長に必要とされる窒素、リン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウム等を含む水溶液を挙げることができる。各物質の濃度は、栽培する植物に応じて適宜決定することができる。」
イ 甲2発明
上記アからみて、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。
(甲2発明)
「栽培棚11を含んで構成される植物栽培装置であって、
栽培棚11の各段の棚上には、複数の樋13が載置され、複数の樋13上に、複数の栽培トレイ14が載置され、
栽培トレイ14は、平板に、一定間隔で穴が設けられたものとされ、
植物12は、ポリウレタン製の植栽用スポンジに植えられ、このスポンジをその穴に嵌め込むことにより栽培トレイ14に植栽され、各植物12の根が各樋13の内部に収納され、各樋13内に養液が薄く流されていて、その養液に根の先端が浸漬するようになっているため、植物12は、根の先端から栄養分や水を吸収し、その成長のために使用することができるものであり、
栽培トレイ14が載置される棚の1段上の棚の下面には、植物12の葉に光を照射するための照明装置15が取り付けられ、
植物栽培装置により栽培することができる植物12としては、イチゴを挙げることができる、
植物栽培装置。」
(3)甲3
ア 甲3の記載
甲3には次の事項が記載されている。
(ア)「【0014】
図1に示すように、植物栽培装置2は、複数の支柱4と、支柱4間にわたって架設される複数の梁6を備えた骨組みから成る多段式の構造物である。この植物栽培装置2においては、支柱4と梁6によって構成された複数の単位空間8が層状に積層されている。
【0015】
ここで、各単位空間8の底面には、植物9を栽培するための栽培パネル10が配置され、各栽培パネル10の下方には、水耕栽培を行う際の養液が流れる栽培プール11が備えられている。
【0016】
また、単位空間8の上方には、人工光を照射する照明装置12を固定する照明カセット13が配置されている。照明カセット13は、図2に示すように、照明装置12の光の反射板としての役割を有する板状部分13aと、板状部分13aに固定された横桟13bからなり、照明装置12は、横桟13bを介して照明カセット13に固定される。また、照明カセット13の上面には、照明装置12の電源コードなどが配置される。また、照明カセット13は、植物栽培装置2から脱着可能に設計されている。これは、照明装置12の交換や、照明の条件を変更する時などに、取り外して作業できるようにするためである。」
(イ)「【0054】
従って、対象となる植物9としては葉菜類、果菜類、根菜類、果樹類、穀類、コケ類、シダ類、観葉植物類、薬草類等が挙げられる。
・・・
【0057】
果菜類としては、ウリ科のメロン、キュウリ、カボチャ、スイカ、シロウリ、マクワウリ、ニガウリ、ズッキーニ、トウガンなど;マメ科のサヤインゲン、ソラマメ、サヤエンドウ、エダマメなど;ナス科のトマト、ナス、ピーマン、シシトウ、トウガラシ、パプリカなど;バラ科のイチゴなど;アオイ科のオクラなど;イネ科のトウモロコシなどが挙げられる。」
イ 甲3発明
上記アからみて、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。
(甲3発明)
「複数の支柱4と、支柱4間にわたって架設される複数の梁6を備えた骨組みから成る多段式の構造物であって、支柱4と梁6によって構成された複数の単位空間8が層状に積層されている植物栽培装置2であって、
各単位空間8の底面には、植物9を栽培するための栽培パネル10が配置され、各栽培パネル10の下方には、水耕栽培を行う際の養液が流れる栽培プール11が備えられており、
単位空間8の上方には、人工光を照射する照明装置12を固定する照明カセット13が配置されており、
対象となる植物9としては果樹類が挙げられ、果菜類としては、イチゴが挙げられる、
植物栽培装置2。」
(4)甲5
ア 甲5の記載
甲5には次の事項が記載されている。
(ア)「【0020】
本発明を適用する植物栽培システムの一例を、図1(a)に正面図、図1(b)に側面図で示す。この植物栽培システム1は、コンテナや建屋内で使用されるものである。植物栽培システム1は、一例として、枠組みされたフレーム30に、上下2段の棚11を有しており、各棚11で植物を栽培可能になっている。また、フレーム30の上には、制御ユニット20が配置されていて、各棚11における栽培は各々独立して制御ユニット20に制御される。フレーム30に設けられた棚11の数は1段であってもよく、2段以上の複数段であってもよい。各棚11に備えられた構成は同様であるので、以下では、1つの棚11の構成について説明する。
【0021】
棚11には、培地台15、植物栽培用の照明4、照明の昇降装置2、ビーム光源6、受光器7、及び光量センサ5が備えられている。
【0022】
棚11は、地面と水平になるようにフレーム30に固定されている。棚11の上には、植物90の培地となる複数の培地台15が、等間隔の列(例えば5列)となるように載置されている。培地台15は、一例として、水漏れしない上部開口容器に吸水性スポンジ培地を入れたものである。培地台15には、図示しないが、養液を循環させるための養液タンク及び循環ポンプが配管を介して接続されている。
【0023】
培地台15の上方には、培地台15を照らすように培地台15に対向させて、植物栽培用の照明4が設けられている。この照明4は、昇降装置2(照明の移動手段の一例)によって昇降可能になっている。照明4は、LEDで構成されていることが好ましいが、例えば有機エレクトロルミネッセンス(EL)照明などの他の照明に変えてもよい。」
(イ)「【0038】
栽培者は、苗を培地台15(図1参照)に植え付けてから、植物栽培システム1の栽培動作を開始させる。」
イ 甲5発明
上記アから、甲5には、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲5発明)
「棚11で植物を栽培可能になっている植物栽培システム1であって、
棚11には、苗を植え付ける培地台15、植物栽培用の照明4が備えられ、
培地台15は、水漏れしない上部開口容器に吸水性スポンジ培地を入れたものであり、
培地台15の上方には、培地台15を照らすように培地台15に対向させて、植物栽培用の照明4が設けられている、
植物栽培システム1。」
(5)甲6
ア 甲6の記載
甲6には次の事項が記載されている。
(ア)「【背景技術】
【0002】
植物を栽培する方法としては、水耕栽培が知られており、水耕栽培では、育成床又は発芽床とも呼ばれる固形培地を水又は養液に浸した状態で、固形培地上で植物の種子を発芽させたり苗を育成させたりする(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、ウレタンスポンジ等の連続気泡発泡体からなる培地(具体的には、図8に示す発芽床100)を培養液に浸し、水耕栽培方式にて植物を栽培することが記載されている。発芽床100は、図8に示すように一辺の長さが30mmの略立方体形状であり、上面(天面)の中央には略半球状の凹部102が形成されている。凹部102は、播かれた植物の種を保持する。また、凹部102には、植物の根を培養液に向けて延び易くするために、凹部102の底部から発芽床100の底面まで貫通された切り込み104が形成されている。
・・・
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の固形培地は、栽培用の固形培地であって、固形培地の上面を下側に窪ませて形成され、植物の種子又は苗が入り込む凹みと、上面よりも下側の位置で固形培地の側面から延びた穿孔と、を有し、固形培地を、上面から見て、凹みが形成された第1部分と、第1部分以外の第2部分とに分けたときに、穿孔が第2部分に存在することを特徴とする。
上記のように構成された本発明の固形培地によれば、水耕栽培において固形培地内に浸み込んだ水又は養液が固形培地内で上昇するのを上記の穿孔によって遮ることができる。これにより、水又は養液が固形培地の上面に到達し難くなる(つまり、乾き易くなる)ので、結果として、固形培地の上面のうち、凹み以外の領域での藻の繁殖を抑えることができる。」
(イ)「【0019】
本実施形態の固形培地(以下、固形培地10)は、図1に示すように植物Pの水耕栽培に用いられ、具体的に説明すると、植物Pの種子を発芽させるための発芽床として、あるいは、植物Pの苗を育成するための育成床(苗床)として利用される。植物Pは、例えば、栽培後に収穫された後に商品として出荷される植物であり、具体的には野菜等の可食用植物又は花卉等の鑑賞用植物である。
【0020】
固形培地10は、その上部にて植物Pを栽培し、栽培期間中、固形培地10の下部が水又は養液(以下、養液等W)に浸される。より詳しく説明すると、養液等Wが溜められた不図示の栽培パレット内に、複数の固形培地10が所定方向に整列されて配置されている(図1では、図示の便宜上、一つの固形培地10のみが描かれている)。各固形培地10の下部は、養液等Wに浸かっており、養液等Wは、固形培地10内に浸み込むと、毛管現象及び植物Pの吸上げ力等によって上昇し、固形培地10の上部で植物Pに供給(吸収)される。
【0021】
固形培地10の上方には、図1に示すように照明機器Qが配置されており、栽培期間中、固形培地10上で栽培される植物Pに向けて照明機器Qから光(人工光)が照射される。なお、植物Pに照射される光は、人工光に限られず、太陽光でもよく、あるいは人工光と太陽光とを併用して照射してもよい。
【0022】
固形培地10は、図2に示すように所定の立体形状に成形された多孔質材料からなり、吸水性(吸液性)を有し、例えばスポンジ、発泡体又は繊維マット等によって構成されている。固形培地10の形状は、立体形状であれば特に限定されないが、例えば、立方体、直方体、柱形状(例えば円柱形状)、半球形状及び樽型形状等が好ましい。固形培地10のサイズ(すなわち、XYZの各方向における長さ)は、特に限定されず、固形培地10上で栽培する植物Pの苗の大きさ及び個数、あるいは固形培地10に播かれる植物Pの種子数に応じて適宜設計すればよい。
なお、以下では、一辺が30mmである立方体形状の固形培地10を例に挙げて説明することとする。」
(ウ)図1の記載は以下のとおり。
「
[図:0001396289000001.jpg]
」
図1より、固定培地10は養液等Wに浮かんで設置されていることが看取される。
イ 甲6に記載された技術事項
上記アから、甲6には、次の3の技術事項(以下、それぞれ、「甲6技術事項1」、「甲6技術事項2」及び「甲6技術事項3」という。)が記載されていると認められる。
(甲6技術事項1)
「水耕栽培で、水又は養液に浸した状態で、植物の種子を発芽させたり苗を育成させたりする固形培地を、ウレタンスポンジ等の連続気泡発泡体からなる培地とすること。」
(甲6技術事項2)
「上部にて植物Pを栽培し、栽培期間中、下部が水又は養液(以下、養液等W)に浸される固形培地10であって、
固形培地10は、栽培パレット内に配置され、その下部は、養液等Wに浸かって使用され、スポンジによって構成されていること。」
(甲6技術事項3)
「上部にて植物Pを栽培し、栽培期間中、下部が水又は養液等に浸されかつ浮かんで設置される固形培地10であって、
固形培地の上面を下側に窪ませて形成され、植物の種子又は苗が入り込む凹みと、上面よりも下側の位置で固形培地の側面から延びた穿孔と、を有し、固形培地を、上面から見て、凹みが形成された第1部分と、第1部分以外の第2部分とに分けたときに、穿孔が第2部分に存在するので、水耕栽培において固形培地内に浸み込んだ水又は養液が固形培地内で上昇するのを穿孔によって遮ることができ、これにより、水又は養液が固形培地の上面に到達し難くなる(つまり、乾き易くなる)ので、結果として、固形培地の上面のうち、凹み以外の領域での藻の繁殖を抑えることができる、
固形培地。」
(6)甲9
ア 甲9の記載
甲9には次の事項が記載されている。
(ア)「【0025】
この第1実施形態の植物栽培装置は、図1,図2に示すように、植物Pを栽培するための養液(水と肥料を混ぜた混合液)を貯留する貯留部1と、貯留部1から供給された養液により植物Pを栽培する栽培部2と、植物Pが搭載される植物搭載部3と、貯留部1の内部と栽培部2の内部とを連通する連通部4と、貯留部1から連通部4を介して栽培部2の内部に流入した養液を吸い込んで貯留部1に戻す液ポンプ5と、液ポンプ5の吐出側に一端が接続され、他端が貯留部101内に配置された戻り配管6とを備える。上記連通部4は、栽培部2の側壁の底2a側に設けられた貫通孔である。
・・・
【0028】
また、植物搭載部3は、栽培部2内の底2aから間隔をあけて配置されている。また、植物搭載部3は、発泡樹脂製の長方形状のフロート板31と、フロート板31の底面31bから下方に向かって立設された発泡樹脂製の支持体32,32とを有する。上記フロート板31と支持体32,32の材料は、発泡樹脂に限らず、養液に浮く材料であればよい。なお、支持体32,32の底部には、フロート板31の長手方向に沿って溝や貫通孔を設けて、連通部4側から液ポンプ5側への養液の流路を確保している。
【0029】
また、植物搭載部3のフロート板31の中央に設けられた植栽孔31aに、植物Pが植栽されたキャリア10を差し込んでいる。このキャリア10としては、一般的に水耕栽培に使用されるキャリアであればよく、ウレタン、ロックウール、綿状素材、スポンジなどが用いられる。」
(イ)「【0040】
栽培部2内を流れる薄膜状の養液の深さは、栽培する植物Pの品種に応じて適宜設定すると共に、植物Pの成長する根の形態に合わせて、水中根と空中根との割合が最適になるように植物搭載部3の支持体32,32の高さを調整する。」
イ 甲9技術事項
上記アから、甲9には、次の技術事項(以下「甲9技術事項」という。)が記載されていると認められる。
(甲9技術事項)
「貯留部1から供給された養液により植物Pを栽培する栽培部2と、植物Pが搭載される植物搭載部3と、貯留部1の内部と栽培部2の内部とを連通する連通部4と、貯留部1から連通部4を介して栽培部2の内部に流入した養液を吸い込んで貯留部1に戻す液ポンプ5と、を備える植物栽培装置において、
植物搭載部3の植栽孔31aに、植物Pが植栽されたキャリア10を差し込んでおり、このキャリア10として、一般的に水耕栽培に使用されるスポンジが用いられるものであり、
植物搭載部3は、栽培部2内の底2aから間隔をあけて配置されており、発泡樹脂製の長方形状のフロート板31と、フロート板31の底面31bから下方に向かって立設された発泡樹脂製の支持体32,32とを有し、
植物Pの成長する根の形態に合わせて、水中根と空中根との割合が最適になるように植物搭載部3の支持体32,32の高さを調整すること。」
2 請求項1
(1)対比・判断
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「いちごの親株14が植えられる養液パレツト部2」は、本件発明1の「親株が栽培される親株栽培用プランター」に相当する。
イ 甲1発明の「水循環供給手段が設けられて」おり、「親株14から伸びてきたランナ15に派生する多数の子株16を育苗するための水パレツト部3」は、本件発明1の「水が循環させられており、親株から伸長するランナーに発生した子株が水に浸されることにより栽培される子株栽培用プランター」に相当する。
ウ 甲1発明の「いちごの育苗装置」は、「いちごの親株14が植えられる養液パレツト部2」と「水循環供給手段が設けられて」おり、「親株14から伸びてきたランナ15に派生する多数の子株16を育苗するための水パレツト部3」とを備えるものであるから、本件発明1の「イチゴ苗の生育システム」に相当する。
エ そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
(一致点)
「親株が栽培される親株栽培用プランターと、
水が循環させられており、親株から伸長するランナーに発生した子株が水に浸されることにより栽培される子株栽培用プランターと、を備えるイチゴ苗の生育システム。」の点で一致し、相違点はない。
仮に相違点があったとしても、設計事項程度のことである。
(2)小括
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明である。
また、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 請求項2
(1)対比
本件発明2と甲1発明とを対比する。
ア 上記2(1)アないしウにおける本件発明1と甲1発明との対比は、本件発明2と甲1発明との対比においても同様である。
イ そうすると、本件発明2と甲1発明とは、上記2(1)エの一致点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明2は、「前記親株栽培用プランターで栽培される親株と前記子株栽培用プランターで栽培される子株に光を照射する照明」を備えるものであるのに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。
(2)判断
上記相違点1について検討する。
ア 甲2発明は、「植物栽培装置」において「植物12の葉に光を照射するための照明装置15が取り付けられ」るものであり、甲3発明は、「各単位空間8の底面には、植物9を栽培するための栽培パネル10が配置され」る「植物栽培装置2」において、「単位空間8の上方には、人工光を照射する照明装置12」が「配置され」るものであり、甲5発明は、「植物栽培システム1」に「苗を植え付け」る「培地台15を照らすように」「植物栽培用の照明4が設けられている」ものである。
イ 甲2発明、甲3発明、甲5発明に示されるように、植物に対して光を照射する照明を設けることは周知技術(以下「周知技術1」という。)である。
また、甲2発明、甲3発明に示されるように、栽培のために光を照射する植物として「イチゴ」を選択することも当然に想定されることである。
ウ そうすると、甲1発明において、上記周知技術1を採用することは当業者が容易になし得ることである。また、甲1発明は、親株栽培用プランターで栽培される親株と子株栽培用プランターで栽培される子株とを備えるものであるから、甲1発明において、上記周知技術1を採用すれば、照明は、「親株栽培用プランターで栽培される親株と子株栽培用プランターで栽培される子株に光を照射する」ものとなると認められる。
エ よって、甲1発明において上記周知技術1を採用し、相違点1に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明2は、甲1発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 請求項3
(1)対比
本件発明3と甲1発明とを対比する。
ア 上記2(1)ア及びウにおける本件発明1と甲1発明との対比は、本件発明3と甲1発明との対比においても同様である。
イ 本件発明3の「水が循環させられており、子株を定着させたスポンジ培地が設置される子株栽培用プランター」と甲1発明の「水循環供給手段が設けられて」おり、「親株14から伸びてきたランナ15に派生する多数の子株16を育苗するための水パレツト部3」とは、「水が循環させられて」いる「子株栽培用プランター」の点で共通する。
ウ そうすると、本件発明3と甲1発明とは、
「親株が栽培される親株栽培用プランターと、
水が循環させられている子株栽培用プランターと、を備えるイチゴ苗の生育システム。」の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点2)
本件発明3は、「親株から伸長するランナーに発生する子株を定着させるスポンジ培地」を備え、子株栽培用プランターに「子株を定着させたスポンジ培地が設置される」ものであるのに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。
(2)判断
上記相違点2について検討する。
ア 甲5発明は、「苗を植え付ける培地台15」を備え、「培地台15は、水漏れしない上部開口容器に吸水性スポンジ培地を入れたも」のであり、甲6技術事項1は、「水耕栽培」で「苗を育成」させる「固形培地」を備え、これを「ウレタンスポンジ等の連続気泡発泡体からなる培地とする」ものであり、甲6技術事項2は、「栽培パレット内」に、「配置」されて「上部にて植物Pを栽培」し「下部が水に浸される固形培地10」を備え、培地は「スポンジによって構成」されるものであり、甲9技術事項は、「養液」により「植物P」の「栽培」に、「一般的に水耕栽培に使用されるキャリアであるスポンジが用いられる」ものである。
イ 甲5発明、甲6技術事項1、甲6技術事項2、甲9技術事項に示されるように、苗等の育成に容器に設置されるスポンジ培地を用いることは、周知技術(以下「周知技術2」という。)である。
ウ そうすると、甲1発明において、子株の育成にスポンジ培地を用いるものとし、「親株から伸長するランナーに発生する子株を定着させるスポンジ培地」を備え、子株栽培用プランターに「子株を定着させたスポンジ培地が設置される」ものとして、上記相違点2に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明3は、甲1発明及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 請求項4
(1)対比・判断
本件発明4と甲1方法発明とを対比する。
ア 甲1方法発明の「いちごの親株14が植えられる養液パレツト部2」及び水循環供給手段が設けられ」る「親株14から伸びてきたランナ15に派生する多数の子株16を育苗するための水パレツト部3」は、それぞれ、本件発明4の「親株が栽培される親株栽培用プランター」及び「水が循環させられている子株栽培用プランター」に相当する。
イ 甲1方法発明の「水パレツト部3には、水の膜が、循環して流れ落ちているようにし、ランナ15から出た子株を、根がでてくる子株部分が、流水層に常に一定の深さで浸るようにする」ことは、本件発明4の「親株から伸長するランナーに発生した子株を、前記子株栽培用プランターで循環させられる水に浸すことにより栽培する」ことに相当する。
ウ 上記アで検討したとおり、甲1方法発明に使用される育苗装置は、本件発明4の「親株が栽培される親株栽培用プランター」及び「水が循環させられている子株栽培用プランター」に相当する構成を備えるものであるから、甲1方法発明の「いちごの育苗方法」が「育苗装置を使用して」、いちごの育苗を行うにあたり、「親株が栽培される親株栽培用プランターと、水が循環させられる子株栽培用プランターと、を設け」る工程を備えることは自明である。
エ そうすると、本件発明4と甲1方法発明とは、
(一致点)
「親株が栽培される親株栽培用プランターと、
水が循環させられる子株栽培用プランターと、を設けて、
親株から伸長するランナーに発生した子株を、前記子株栽培用プランターで循環させられる水に浸すことにより栽培することを特徴とするイチゴ苗の生育方法。」の点で一致し、相違点はない。
仮に相違点があったとしても、設計事項程度のことである。
(2)小括
よって、本件発明4は、甲1に記載された発明である。
また、本件発明4は、甲1方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
6 請求項5
(1)対比
本件発明5と甲1方法発明とを対比する。
ア 上記5(1)アないしウにおける本件発明4と甲1方法発明との対比は、本件発明5と甲1方法発明との対比においても同様である。
イ そうすると、本件発明5と甲1方法発明とは、上記5(1)エの一致点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1’)
本件発明5は、親株から伸長するランナーに発生した子株を、循環させられる水に浸して栽培する際に「照明で光を照射する」ものであるのに対し、甲1方法発明は、そのように特定されていない点。
(2)判断
上記相違点1’について検討する。
上記3(2)で検討したように、植物に対して光を照射する照明を設けることは周知技術(「周知技術1」)であり、甲1方法発明において、子株の栽培に上記周知技術1を適用し、相違点1’に係る本件発明5の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(3)小括
よって、本件発明5は、甲1方法発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
7 請求項6
(1)対比
本件発明6と甲1方法発明とを対比する。
ア 上記5(1)アないしウにおける本件発明4と甲1方法発明との対比は、本件発明6と甲1方法発明との対比においても同様である。
イ 本件発明6の「親株から伸長するランナーに発生した子株をスポンジ培地に定着させて、子株を定着させた前記スポンジ培地を前記子株栽培用プランターに設置することにより栽培する」ことと、甲1方法発明の「親株から伸長するランナーに発生した子株を、前記子株栽培用プランターで循環させられる水に浸すことにより栽培する」こととは、「親株から伸長するランナーに発生した子株」を「子株栽培用プランター」で「栽培する」点で共通する。
ウ そうすると、本件発明6と甲1方法発明とは、
「親株が栽培される親株栽培用プランターと、
水が循環させられる子株栽培用プランターと、を設けて、
親株から伸長するランナーに発生した子株を、前記子株栽培用プランターで栽培するイチゴ苗の生育方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点2’)
本件発明6は、親株から伸長するランナーに発生した子株を「スポンジ培地に定着させて、子株を定着させた前記スポンジ培地を前記子株栽培用プランターに設置する」ものであるのに対し、甲1方法発明は、そのように特定されていない点。
(2)判断
上記相違点2’について検討する。
上記4(2)で検討したように、苗等の育成に容器に設置されるスポンジ培地を用いることは、周知技術(「周知技術2」)であり、甲1方法発明において、子株の栽培に上記周知技術2を適用し、親株から伸長するランナーに発生した子株を「スポンジ培地に定着させて、子株を定着させた前記スポンジ培地を前記子株栽培用プランターに設置する」ことは、当業者が容易になし得たことである。
(3)小括
よって、本件発明6は、甲1方法発明及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は特許異議申立書(以下、単に「申立書」という。)において、本件発明7ないし9に対して、甲第6号証、甲第8号証及び甲第9号証の記載から、植物を支持するスポンジ等の培地と、培地が設置される容器との間に隙間を設けることは、周知の技術事項であって、如何にして隙間を設けるかは当業者が適宜選択できるものであるところ、スポンジ培地の下側に突起体を取り付けて隙間を設けること(本件発明7)、子株栽培用プランターの底面との間に介在物を設置して隙間を設けること(本件発明8)、スポンジ培地を水に浮かべられるように脱水すること(本件発明9)はいずれも当業者の通常の創作能力の発揮の範疇であり、設計的事項に過ぎない旨、主張する(申立書28頁6行~30頁下から2行)。
以下、本件発明7ないし9について検討する。
2 各証拠の記載
(1)甲1、甲6及び甲9の記載は、上記第4の1(1)、(5)及び(6)のとおりである。
(2)甲8
ア 甲8の記載
甲8には次の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、食用植物を水耕栽培させる植物育成床において、藻を付着させにくい植物育成床、および予め植物を発芽させる発芽床と植物育成床とからなる植物育成床セットに関する。より詳細には、藻を付着させにくくかつ除去しやすく、軽く、移動容易であることに加えて、耐久性に優れた植物育成床および植物育成床セットに関する。」
(イ)「【発明を実施するための形態】
【0046】
植物育成床が平滑な樹脂板からなり、発芽床を保持させる複数の鉢部と、培養液に浮かぶ空気溜空間と、周囲側壁の変形を抑制させる変形抑制手段をなす鍔部とを備えさせた。樹脂板が薄く成形されていても、周囲側壁が変形されにくく、耐久性に優れ、軽くて取り扱いやすい植物育成床とした。以下の実施例では、真空成形により、一枚の薄い樹脂板から植物育成床を成形させた例を説明する。」
(ウ)「【0054】
次に、植物育成床1の使用状態を、図2を参照して説明する。水耕栽培場で使用されている培養液槽200の大きさは、幅が約1.2m、長さが約45mとされる。植物育成床1は、培養液槽200の幅方向に沿って2枚が並べられ、長さ方向に沿って50枚が並べられ、合計で100枚の植物育成床1が並べられて浮かべられている(図2(A)図参照)。また、培養液槽200の高さが、0.2mとされる場合には、培養液201の水深は0.15mとされている(図2(B)図参照)。
【0055】
ここで、予め植物を発芽させる発芽床20について、図3を参照して簡単に説明する。植物の種をまく発芽床20は、ウレタンスポンジ等の連続気泡発泡体とされる(図3(A)図参照)。発芽床20の形状は、平面視で一辺の長さが30mmの略正方形形状とされている。発芽床20の天面の中央には略半球形状の凹部22が備えられ、まかれた植物の種を保持する。更に、前記凹部22には、植物の根が培養液に向けて成長されやすいように、凹部22の底部から発芽床の底面まで貫通された十字の切込み23が備えられている。この発芽床20と植物育成床1とが植物育成床セットとされる。
【0056】
食用植物は、多数の前記発芽床20が連なってなる苗床21に、植物の種がまかれ発芽されるまで育成される(図3(B)図参照)。各々の発芽床20を、苗床21から容易に手で切り離すことができるように、苗床21には30mmの間隔をあけて格子状に切込み24が設けられている。食用植物の種が発芽されると、苗床21から発芽床20が切り離され、食用植物と発芽床20とが一体とされた状態で、発芽床20が鉢部に嵌め込まれて定植される。なお、食用植物が薬味ネギの場合には、ひとつの鉢部に嵌め込まれる発芽床20の凹部22には、複数個の種がまかれ、販売される際に、薬味ネギが束となって見栄えがよくなるようにされている(図2(B)図参照)。
【0057】
鉢部11において、上方側の開放部16の直径は35mmとされ、発芽床20の一辺の長さよりも長いため、発芽床20を鉢部に容易に嵌め込むことができる(図2(B)図参照)。一方、下方側の開放部17の直径は28mmとされ、発芽床20の一辺の長さよりも短くされ、鉢部全体は下方が窄まった逆円錐台形状をなしている。そのため、鉢部11の表面が、藻が付着しにくいように平滑にされていても、発芽床20が培養液201中に抜け落ちることがない(図2(B)図参照)。また、発芽床20が鉢部11に嵌め込まれると、ウレタンスポンジの復元力により、発芽床20が鉢部の側壁14に接して安定された状態で保持される(図2(B)図参照)。発芽床20の高さは、鉢部11の高さと略同一とされ、食用植物300の茎が上に向かって成長できるように保持される。
【0058】
各々の鉢部11に食用植物が定植された後には、植物育成床1が培養液槽200に浮かべられ、食用植物300が育成される(図2(B)図参照)。植物育成床1が培養液槽200に浮かべられる際には、周囲側壁12の一部が培養液に没して、空気溜空間15に空気が溜められるように培養液槽に浮かべられる。培養液槽に浮かべられた植物育成床1は、鉢部11に保持された食用植物の重量により、変形抑制手段をなす鍔部10が培養液201に沈んだ状態となる(図2(B)図参照)。」
イ 甲8技術事項
上記アから、甲8には、次の技術事項(以下「甲8技術事項」という。)が記載されていると認められる。
(甲8技術事項)
「発芽床を保持させる複数の鉢部を備える植物育成床は、水耕栽培場で使用されている培養液槽200の幅方向に沿って並べられ、浮かべられるものであり、
植物の種をまく発芽床20は、ウレタンスポンジ等の連続気泡発泡体とされ、食用植物は、多数の前記発芽床20が連なってなる苗床21に、植物の種がまかれ発芽されるまで育成され、発芽されると、苗床21から発芽床20が切り離され、食用植物と発芽床20とが一体とされた状態で、発芽床20が鉢部に嵌め込まれて定植され、
各々の鉢部11に食用植物が定植された後には、植物育成床1が培養液槽200に浮かべられ、食用植物300が育成されること。」
3 請求項7
(1)本件発明7と甲1方法発明を対比すると、少なくとも、本件発明7は「前記スポンジ培地に子株を定着させる際には、前記スポンジ培地が水中に浸されるように吸水させて設置し、子株の根が前記培地スポンジの下側から発出した後は、前記スポンジ培地と前記子株栽培用プランターの底面との隙間を広げるように、前記スポンジ培地の下側に突起体を取り付ける」のに対し、甲1方法発明は、そのような構成を備えていない点で相違している。
(2)そこで申立人が提示する甲6、甲8及び甲9についてみると、申立人が主張するように、スポンジ等の培地と培地が設置される容器との間に隙間を設けることが周知技術であることは理解できるものの、甲6、甲8及び甲9は、子株の根が発出した後に、スポンジ培地と容器との隙間を広げるようにするための方法の構成を有しておらず、スポンジ培地の下側に突起体を取り付けることについても同様である。
また、申立人が提示するその他の文献をみても、上記の方法の構成は記載も示唆もされていない。
(3)よって、甲1方法発明において、甲6、甲8及び甲9に記載された事項を参酌しても、「前記スポンジ培地に子株を定着させる際には、前記スポンジ培地が水中に浸されるように吸水させて設置し、子株の根が前記培地スポンジの下側から発出した後は、前記スポンジ培地と前記子株栽培用プランターの底面との隙間を広げるように、前記スポンジ培地の下側に突起体を取り付ける」ことが、当業者が容易になし得たことということはできない。
4 請求項8
(1)本件発明8と甲1方法発明を対比すると、少なくとも、本件発明8は「前記スポンジ培地に子株を定着させる際には、前記スポンジ培地が水中に浸されるように吸水させて設置し、子株の根が前記培地スポンジの下方に発出した後は、前記スポンジ培地と前記子株栽培用プランターの底面との隙間を広げるように、前記スポンジ培地と前記子株栽培用プランターの底面との間に介在物を設置する」のに対し、甲1方法発明は、そのような構成を備えていない点で相違している。
(2)そして、上記3で検討したように、甲6、甲8及び甲9は、子株の根が発出した後に、スポンジ培地と容器との隙間を広げるようにするための方法の構成を有していない。
また、申立人が提示するその他の文献をみても、上記の方法の構成は記載も示唆もされていない。
(3)よって、甲1方法発明において、甲6、甲8及び甲9に記載された事項を参酌しても、「前記スポンジ培地に子株を定着させる際には、前記スポンジ培地が水中に浸されるように吸水させて設置し、子株の根が前記培地スポンジの下側から発出した後は、前記スポンジ培地と前記子株栽培用プランターの底面との隙間を広げるように、前記スポンジ培地の下側に介在物を取り付ける」ことが、当業者が容易になし得たことということはできない。
5 請求項9
(1)本件発明9と甲1方法発明を対比すると、少なくとも、本件発明9は「前記スポンジ培地に子株を定着させる際には、前記スポンジ培地が水中に浸されるように吸水させて設置し、子株の根が前記培地スポンジの下側から発出した後は、前記スポンジ培地を水に浮かべられるように脱水する」のに対し、甲1方法発明は、そのような構成を備えていない点で相違している。
(2)そして、上記3で検討したように、甲6、甲8及び甲9は、子株の根が発出した後に、(スポンジ培地と容器との隙間を広げるようにするための)スポンジ培地を水に浮かべられるように脱水する方法の構成を有していない。
また、申立人が提示するその他の文献をみても、上記の方法の構成は記載も示唆もされていない。
(3)よって、甲1方法発明において、甲6、甲8及び甲9に記載された事項を参酌しても、「前記スポンジ培地に子株を定着させる際には、前記スポンジ培地が水中に浸されるように吸水させて設置し、子株の根が前記培地スポンジの下側から発出した後は、前記スポンジ培地を水に浮かべられるように脱水する」ことが、当業者が容易になし得たことということはできない。
第6 むすび
以上のとおり、本件発明1及び4は、甲1に記載された発明であるか、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1及び4に係る特許は特許法29条1項または同条2項の規定に違反してされたものであり、本件発明2、3、5及び6は、甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2、3、5及び6に係る特許は同条2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1ないし6に係る特許は、特許法29条1項又は2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当するから、取り消されるべきものである。
また、本件発明7ないし9に係る特許は、特許異議申立人が申立てた理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件発明7ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700663