特許異議申立
2022-700652
乾燥装置、液体吐出装置、乾燥方法、及びプログラム
- 審判番号
- 2022-700652
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-068493
- 登録番号
- 7073854
- 請求日
- 2022年07月14日
- 審決日
- 2023年09月28日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社リコー
- 【権利者代理人】新川 圭二
- 【権利者代理人】伊東 忠重
- 【異議申立人】山本 秀樹
- 審判長/審判官
- 審判長 鈴木 充
- 審判官 白土 博之
- 審判官 間中 耕治
- 分類
- P1652.113-YAA(F26B) / P1652.121-YAA(F26B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7073854号発明「乾燥装置、液体吐出装置、乾燥方法、及びプログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7073854号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項7について訂正することを認める。
特許第7073854号の請求項7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7073854号の請求項1~9に係る特許についての出願は、平成30年3月30日に出願され、令和4年5月16日にその特許権の設定登録がされ、令和4年5月24日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、以下のとおりである。
令和4年 7月14日 :特許異議申立人山本秀樹(以下、「申立人」という。)による請求項7に係る特許についての特許異議の申立て
同年 8月16日 :上申書及び手続補正書の提出
令和5年 3月 2日付け:取消理由通知
同年 5月 1日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求(以下、この訂正請求を「本件訂正請求」といい、この訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)
同年 6月29日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項7に「前記第一の目標温度は、前記第二の目標温度よりも高い温度である」と記載されているのを、「前記第一の目標温度は、前記第二の目標温度よりも高い温度であり、140℃以上160℃以下である」に訂正する。
2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の目的について
訂正事項1は、「前記第二の目標温度よりも高い温度」である「第一の目標温度」を「140℃以上160℃以下」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)新規事項の有無について
本件特許明細書の段落【0045】に、「温風送風部121から送風される温風の温度が、予め設定された第一の目標温度(温風設定温度)となるように制御する。」と記載され、また、段落【0101】に、「このようなメカニズムにより、加熱ローラ127の表面温度を85℃未満に設定し、温風送風部121から送風される温風の温度を140℃以上160℃以下に設定することで、フィルム20の伸びを抑制しながら、フィルム20に付着した液体を高速乾燥させることができる。」と記載されている。
したがって、訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0045】、【0101】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(3)特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項1は、第一の目標温度を具体的に特定するものであって、発明特定事項を直列的に付加するものであり、発明のカテゴリーを変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない
3 小括
以上のとおりであるから、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項7について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項7に係る発明(以下「本件発明7」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
[本件発明7]
「【請求項7】
液体を吐出させて記録媒体に付着させる液体吐出装置であって、
吐出された前記液体が付着した記録媒体を乾燥させる乾燥装置を有し、
前記乾燥装置は、
搬送される前記記録媒体において、吐出された前記液体が付着した面に温風を送風して加熱する非接触加熱部と、
前記記録媒体において、前記液体が付着した面の裏側の面と接触して前記裏側の面を加熱する接触加熱部と、
前記温風の温度が第一の目標温度となるように、前記非接触加熱部を制御する送風制御部と、
前記接触加熱部の表面温度が第二の目標温度となるように、前記接触加熱部を制御する温度制御部と、を有し、
前記第一の目標温度は、前記第二の目標温度よりも高い温度であり、140℃以上160℃以下である、液体吐出装置。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項7に係る特許に対して、当審が令和5年3月2日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(新規性)本件特許の請求項7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
記
甲第1号証:特開2016-114284号公報
(以下、「甲第1号証」を「甲1」という。)
第5 当審の判断
1 取消理由に記載した取消理由(新規性)について
(1)甲1について
ア 甲1の記載
甲1には、図面とともに次の記載がある(なお、下線は、理解の一助のために当審において付したものである。以下同様。)
(ア)「【0001】
本発明は、液体が塗布された媒体を乾燥させる技術に関する。」
(イ)「【0004】
印刷装置において、インクを乾燥させるためには、インク中の水分を蒸発させるための熱量を乾燥手段を用いてインクに投入する必要がある。ここで、印刷装置には耐熱性が異なる様々な印刷基材が用いられる場合がある。よって、乾燥手段を用いたインクの乾燥温度を一定温度に制御した場合、種々の不具合が生じる場合がある。例えば、印刷装置に用いられる印刷基材のうち、耐熱性の低い印刷基材を基準として乾燥手段の温度を一定に制御した場合、耐熱性の高い印刷基材では、制御された乾燥温度が実際用いることができる最大の乾燥温度よりも低いために乾燥速度が遅くなる。一方で、印刷装置に用いられる印刷基材のうち、耐熱性の高い印刷基材を基準として乾燥手段の温度を一定に制御した場合、耐熱性の低い印刷基材は熱によって損傷を受ける場合がある。」
(ウ)「【0021】
A.第1実施形態:
図1は、本発明の第1実施形態としての印刷装置10を示す概略図である。図2は、温度調節部48について説明するための図である。図2は、回転軸rx2を通り、かつ、回転軸rx2と平行な面で搬送ドラム41を切断した時の模式図である。本実施形態の印刷装置10(図1)は、媒体としての印刷基材12に対してインク滴を塗布して画像を形成するインクジェット方式のラインプリンターである。この印刷装置10は、長手方向に搬送される帯状の印刷基材12に対して連続印刷を実行する。印刷基材12の種類は特に限定されず、例えば、印刷基材12として、光沢紙、コート紙、OHPフィルム、インクジェット用紙、普通紙、和紙、布地などが用いられても良い。また、印刷基材12は、一層によって構成されても良いし、複数の異なる種類の層が積層された構成であっても良い。
【0022】
印刷装置10は、制御部11と、複数の搬送ローラー13と、複数の駆動ローラー14と、表示部65と、基材繰出ユニット20と、液体塗布ユニット30と、乾燥装置としての乾燥ユニット40と、基材巻取ユニット50と、を備えている。複数の搬送ローラー13と複数の駆動ローラー14とは、基材繰出ユニット20、液体塗布ユニット30、乾燥ユニット40、及び、基材巻取ユニット50の構成部としても捉えることができる。表示部65は、動作状況などの各種情報を表示するための部分である。また表示部65は、タッチパネルであり、利用者からの入力を受け付ける機能も有する。制御部11は、中央処理装置と主記憶装置とを備えるマイクロコンピューターによって構成されており、印刷装置10の各構成部を制御可能である。制御部11は、外部に接続されているコンピューターなどから印刷データPDを取得し、利用者からの指令に応じて当該印刷データPDに基づく印刷処理を実行する。画像データとしての印刷データPDは、例えば、文字や図形がレイアウトされた文書データや、写真画像などのラスターデータ、各種のアプリケーションプログラムにおいて作成された画像を表すデータであっても良い。また、制御部11には、制御テーブルTbが格納されている。この制御テーブルTbは、後述する加熱乾燥部42と温度調節部48のそれぞれの動作条件(例えば、温度条件)を規定するためのテーブルである。制御部11は、制御テーブルTbを参照することで、印刷基材12の耐熱性に応じて加熱乾燥部42と温度調節部48との動作をそれぞれ個別に制御する。」
(エ)「【0029】
乾燥ユニット40は、ガイドとしての搬送ドラム41と、加熱乾燥部42と、搬送ドラム41を有する温度調節部48と、2つの駆動ローラー14Bと、複数の搬送ローラー13Bと、第1温度センサー91と、第2温度センサー92と、を備える。搬送ドラム41は、円筒形状の支持部41Tを有し、印刷基材12の搬送に応じて回転軸rx2を中心に支持部41Tが回転する。搬送ドラム41の支持部41Tは、例えばステンレス鋼などの金属によって形成されている。支持部41Tは、その外周面41sにおいて印刷基材12の第1面12faとは反対側の第2面12fbと面接触して印刷基材12を支持する。つまり、印刷基材12は、外周面41sの一部に巻き付けられている。本実施形態では、印刷基材12は、円周方向において、外周面41sの円周のうち半分程度の部分に印刷基材12が巻き付けられている。搬送ドラム41の外周面41sのうち、印刷基材12との面接触が開始される地点を接触開始地点15sと呼び、印刷基材12との面接触が終了する地点を接触終了地点15eと呼ぶ。搬送ドラム41の外周面41sは、後述する加熱部47及び冷却部49によって温度が調節される。温度が調節された外周面41sに印刷基材12の第2面12fbが接触することで印刷基材12の第2面12fbの温度が調節される。なお、本実施形態では、印刷基材12を支持するガイドは搬送ドラム41の支持部41Tであったが、これに限定されるものではなく、印刷基材12を支持できる面を有する部材であれば良い。例えば、ガイドは、板状の部材であっても良いし、印刷基材12と面接触する凸状の曲面を有する部材であっても良い。」
(オ)「【0031】
加熱乾燥部42は、印刷基材12を挟んで外周面41sと対向する位置に設けられている。すなわち、加熱乾燥部42は、印刷基材12の面のうち第1面12fa側に設けられている。加熱乾燥部42は、外周面41sに当接する印刷基材12のうちインクが塗布された第1面12faを加熱することでインクを乾燥させる。具体的には、加熱乾燥部42は加熱ヒーター(例えば、電熱線)によって加熱した空気をファンなどを用いて空気出口(ノズル)42Tから印刷基材12の第1面12faに吹き付ける。これにより、印刷基材12の第1面12faに塗布されたインクの水分が加熱されて蒸発し、印刷基材12のインクが乾燥する。加熱乾燥部42は、印刷基材12の幅方向全域を加熱できるように構成されている。加熱乾燥部42が印刷基材12に吹き付ける空気の温度(加熱乾燥部42の空気出口の温度)は、印刷基材12の耐熱性(例えば、ガラス転移点や耐熱温度や融点)に応じて制御部11が設定する。加熱乾燥部42の空気出口42Tは印刷基材12の第1面12faに対して略垂直を向くように開口していることが好ましい。また、空気出口42Tと印刷基材12の第1面12faとの距離が略均一になるように空気出口42Tが構成されていることが好ましい。これにより、加熱乾燥部42が印刷基材12の第1面faに与える熱量が不均一になる可能性を低減できる。制御部11による加熱乾燥部42の具体的な制御方法については後述する。
【0032】
温度調節部48(図2)は、搬送ドラム41と、加熱装置としての加熱部47と、冷却装置としての冷却部49と、を備える。加熱部47は、複数のハロゲンランプによって構成されている。複数のハロゲンランプは、搬送ドラム41の支持部41Tのうち外周面41sとは反対側の内周面41wに固定されている。複数のハロゲンランプは、内周面41wに周方向に沿って均等間隔で配置されている。加熱部47は、支持部41Tを内周面41w側から加熱することで支持部41Tに接触している印刷基材12の第2面12fbを加熱する。加熱部47は、支持部41Tを介して印刷基材12の幅方向全域を加熱できる構成である。冷却部49は、冷風機であり、円筒形状の支持部41Tの内側に冷風を送ることで支持部41Tを内周面41w側から冷却する。これにより、支持部41Tに接触している印刷基材12の第2面12fbを冷却する。冷却部49は、支持部4Tを介して印刷基材12の幅方向全域を冷却できる構成である。上記のごとく、温度調節部48は、印刷基材12の第2面12fbの温度を調節する。加熱部47と冷却部49とが課題を解決するための手段に記載の「調節機構部」に相当する。
【0033】
第1温度センサー91(図1)は、加熱乾燥部42の空気出口42Tの温度を検出するためのセンサーである。第2温度センサー92は、温度調節部48を構成する支持部41Tの外周面41sのうち、接触開始地点15sの直前部分の温度(ドラム表面温度)を検出するためのセンサーである。第1温度センサー91及び第2温度センサー92は、測定対象の温度を測定できれば良く、例えば、放射温度計等の非接触温度センサーや、熱電対などの接触式の温度センサーであっても良い。第1温度センサー91及び第2温度センサー92で検出された温度情報は、制御部11に出力される。」
(カ)「【0035】
図3は、制御部11が有する制御テーブルTbを説明するための図である。制御テーブルTbは、印刷基材12の種類(耐熱性)に応じて、第1面12fa側の目標温度値である温度Tfaと、第2面12fb側の目標温度値である温度Tfbが設定されている。温度Tfaは第1温度センサー91(図1)によって検出される温度である。すなわち、本実施形態では、温度Tfaは空気出口42T(図1)の温度である。温度Tfbは第2温度センサー92によって検出される温度である。すなわち、温度Tfbは、支持部41Tの外周面41sのうち、接触開始地点15sの直前部分の温度である。ここで、温度Tfaが課題を解決するための手段に記載の「第1目標値」でり、温度Tfbが課題を解決するための手段に記載の「第2目標値」に相当する。なお、温度Tfaは、印刷基材12の第1面12faのうち搬送方向において接触開始地点15sから接触終了地点15eまでの中間地点の温度であっても良い。この場合、第1温度センサー91は、第1面12faの中間地点の温度を検出する。また、温度Tfbは、印刷基材12の第2面12のうち搬送方向において接触開始地点15sから接触終了地点15eまでの中間地点の温度であっても良い。この場合、第2温度センサー92は、第2面12fbの中間地点の温度を検出する。」
(キ)「【0037】
制御テーブルTbは分類M1~M3毎に、第1面12fa側の温度Tfaが温度T1~T3に設定され、第2面12fb側の温度Tfbが温度T4~T6に設定されている。すなわち、制御テーブルTbには、印刷基材12の耐熱性(分類M1~M3)に応じて温度Tfaと温度Tfbとのセットが異なるように設定されている。温度T1~T6はそれぞれ異なる温度である。制御部11は、制御テーブルTbを参照して、温度Tfa及び温度Tfbが設定された温度となるように、加熱乾燥部42及び温度調節部48(詳細には、加熱部47と冷却部49)の動作を制御する。温度Tfaにおいて、温度T1<温度T2<温度T3の関係を満たす。また、温度Tfbにおいて、温度T4<温度T5<温度T6の関係を満たす。また、分類毎に温度Tfa≧温度Tfbの関係を満たす。うまた、分類毎において、温度Tfaと温度Tfbとの差である温度差Tc(=Tfa-Tfb)は、耐熱性が低い分類M1から耐熱性が高い分類M3になるに従い小さくなるように各温度T1~T6は設定されている。上記のごとく、制御テーブルTbは、印刷基材12の耐熱性毎に、加熱乾燥部42及び温度調節部48が印刷基材12に与える熱量を規定したテーブルである。温度T1~T3は、例えば、水分(溶媒)の沸点(例えば、100℃)前後の範囲で、かつ、印刷基材12の熱による損傷(変形等)を抑制できる範囲に設定することが好ましい。例えば、温度T1~T3は、80℃~120℃の範囲で設定しても良い。また、温度T4~T6は、対応する温度T1~T3に対して20℃~60℃の範囲だけ低くなるように設定しても良い。また、温度差Tcは、分類M1,M2,M3の順に5℃~25℃の範囲で次第に大きくなっても良い。例えば、分類M1の温度差Tcが60℃の場合、分類M2の温度差Tcが40℃であり、分類M3の温度差Tcが20℃であっても良い。なお、加熱乾燥部42の風量は分類M1~M3によらず一定である。このように印刷基材12の第1面12fa側から印刷基材12を加熱して乾燥する工程と、第2面12fb側から印刷基材12の温度を調節する工程とは、第1面12fa側の温度目標値である温度Tfaと第2面12fb側の温度目標値である温度Tfbとのセットであって印刷基材12の耐熱性に応じて異なるセットに基づいて個別に実行される。
【0038】
図4は、効果の1つを説明するための図である。耐熱性の低い分類M1の印刷基材12を用いた場合、制御部11は、制御テーブルTbを参照して、空気出口42Tの温度(第1面12fa側の温度)Tfaが、温度T1となるように加熱乾燥部42の動作を制御する。また、制御部11は、制御テーブルTbを参照して、ドラム表面温度(第2面12fb側の温度)Tfbが温度T1よりも低い温度T4になるように温度調節部48の動作を制御する。ここで、分類M1の印刷基材12を用いたときの第1面12fa近傍の雰囲気温度を温度THとし、印刷基材12の温度(平均温度)を温度TLとする。この場合、温度差Tc(=温度T1-温度T4)は、分類M1のときに最も大きいことから、印刷基材12の厚み方向(図4の上下方向)において、空気出口42Tと外周面41sとの間における温度勾配は高くなる。すなわち、温度T1>温度TH>温度TL>温度T4の関係を満たす。これにより、インク中の水分が蒸発するための熱量を加熱乾燥部42によって与えつつ、印刷基材12に投入された熱を第2面12fbを介して支持部41T側に逃がすことができる。よって、インク中の水分の蒸発を促進しつつ、耐熱性の低い印刷基材12が熱によって損傷する可能性を低減できる。
【0039】
一方で、耐熱性の高い分類M3の印刷基材12を用いた場合、制御部11は、制御テーブルTbを参照して、空気出口42Tの温度(第1面12fa側の温度)Tfaが、温度T3となるように加熱乾燥部42の動作を制御する。また、制御部11は、制御テーブルTbを参照して、ドラム表面温度(第2面12fb側の温度)Tfbが温度T3よりも低い温度T6になるように温度調節部48の動作を制御する。ここで、分類M3の印刷基材12を用いたときの第1面12fa近傍の雰囲気温度を温度THaとし、印刷基材12の温度(平均温度)を温度TLaとする。この場合、温度差Tc(=温度T3-温度T6)は、分類M1のときよりも小さい。よって、温度T1>温度TH>温度TL>温度T4の関係を満たすものの、印刷基材12の厚み方向(図4の上下方向)において、空気出口42Tと外周面41sとの間における温度勾配は小さくなる。すなわち、インク中の水分が蒸発するために必要な熱量を加熱乾燥部42によって与えつつ、印刷基材12に投入された熱が第2面12fbを介して支持部41T側に逃げることを抑制できる。これにより、加熱乾燥部42から第1面12faに与えられた熱を効率良くインク中の水分の蒸発に利用できる。分類M3の場合は、支持部41T側へと熱が逃げることを極力抑制するために、制御テーブルTbの温度T3と温度T6の温度差Tcを30℃以下に設定することが好ましく、20℃以下に設定することがより好ましく、10℃以下に設定することがより一層好ましい。」
(ク)「【図1】
[図:0001404749000001.jpg]
」
(ケ)「【図4】
[図:0001404749000002.jpg]
」
(コ)段落【0033】、【0035】の記載より、第1温度センサー91は、加熱乾燥部42の空気出口42Tの温度Tfaを検出するものであることが理解でき、段落【0031】の「加熱乾燥部42が印刷基材12に吹き付ける空気の温度(加熱乾燥部42の空気出口の温度)」という記載を合わせて参酌すると、第1温度センサー91は、加熱乾燥部42が印刷基材12に吹き付ける空気の温度Tfaを検出するものであることが理解できる。
イ 甲1発明
上記アを総合すると、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
[甲1発明]
「印刷基材12に対してインク滴を塗布して画像を形成する印刷装置10であって、
インクが塗布された印刷基材12を乾燥させる乾燥ユニット40を有し、
乾燥ユニット40は、
印刷基材12のうちインクが塗布された第1面12faに加熱した空気を吹き付けることでインクを乾燥させる加熱乾燥部42と、
支持部41Tを内周面41w側から加熱することで支持部41Tに接触している印刷基材12の第2面12fbを加熱する加熱部47と、
加熱乾燥部42が印刷基材12に吹き付ける空気の温度であって第1面12fa側の温度Tfaが温度T1またはT3となるように加熱乾燥部42の動作を制御するとともに、
第2面12fb側のドラム表面温度Tfbが温度T1またはT3よりも低い温度T4またはT6になるように加熱部47を含む温度調節部48の動作を制御する、制御部11と、を有し、温度T1、T3は、80℃~120℃の範囲で設定される、印刷装置10。」
2 対比・判断
(1)対比
本件発明7と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「印刷基材12」、「インク滴」、「印刷装置10」は、それぞれ、本件発明7の「記録媒体」、「液体」、「液体吐出装置」に相当し、甲1発明において「印刷基材12に対してインク滴を塗布して画像を形成する」ことは、本件発明7において「液体を吐出させて記録媒体に付着させる」ことに相当する。
甲1発明の「乾燥ユニット40」は、本件発明7の「乾燥装置」に相当する。
甲1発明の「インクが塗布された第1面12fa」、「加熱した空気」は、それぞれ、本件発明7の「吐出された前記液体が付着した面」、「温風」に相当する。
そして、甲1発明における、「印刷基材12のうちインクが塗布された第1面12faに加熱した空気を吹き付けることでインクを乾燥させる」、「加熱乾燥部42」は、本件発明7における、「搬送される前記記録媒体において、吐出された前記液体が付着した面に温風を送風して加熱する」、「非接触加熱部」に相当する。
甲1発明の「印刷基材12の第2面12fb」は、本件発明7の「前記液体が付着した面の裏側の面」に相当する。
そして、甲1発明における、「支持部41Tを内周面41w側から加熱することで支持部41Tに接触している印刷基材12の第2面12fbを加熱する」、「加熱部47」は、本件発明7における、「前記記録媒体において、前記液体が付着した面の裏側の面と接触して前記裏側の面を加熱する」、「接触加熱部」に相当する。
甲1発明の「加熱乾燥部42が印刷基材12に吹き付ける空気の温度であって第1面12fa側の温度Tfa」、「温度T1またはT3」、「第2面12fb側のドラム表面温度Tfb」、「温度T4またはT6」は、それぞれ、本件発明7の「温風の温度」、「第一の目標温度」、「接触加熱部の表面温度」、「第二の目標温度」に相当し、甲1発明の「第1面12fa側の温度Tfaが温度T1またはT3となる」「とともに、第2面12fb側のドラム表面温度Tfbが温度T1またはT3よりも低い温度T4またはT6になる」ことは、温度T1またはT3が、温度T4またはT6よりも高い温度であることに他ならないから、本件発明7の「前記第一の目標温度は、前記第二の目標温度よりも高い温度である」ことに相当する。
そして、甲1発明の「制御部11」は、本件発明7の「送風制御部」と「温度制御部」とを併せたものに相当する。
そうすると、甲1発明において、「加熱乾燥部42が印刷基材12に吹き付ける空気の温度であって第1面12fa側の温度Tfaが温度T1またはT3となるように加熱乾燥部42の動作を制御するとともに、第2面12fb側のドラム表面温度Tfbが温度T1又はT3よりも低い温度T4またはT6になるように加熱部47を含む温度調節部48の動作を制御する、制御部11、とを有」することは、本件発明7において、「前記温風の温度が第一の目標温度となるように、前記非接触加熱部を制御する送風制御部と、前記接触加熱部の表面温度が第二の目標温度となるように、前記接触加熱部を制御する温度制御部と、を有し、前記第一の目標温度は、前記第二の目標温度よりも高い温度であ」ることに相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
[一致点]
「液体を吐出させて記録媒体に付着させる液体吐出装置であって、
吐出された前記液体が付着した記録媒体を乾燥させる乾燥装置を有し、
前記乾燥装置は、
搬送される前記記録媒体において、吐出された前記液体が付着した面に温風を送風して加熱する非接触加熱部と、
前記記録媒体において、前記液体が付着した面の裏側の面と接触して前記裏側の面を加熱する接触加熱部と、
前記温風の温度が第一の目標温度となるように、前記非接触加熱部を制御する送風制御部と、
前記接触加熱部の表面温度が第二の目標温度となるように、前記接触加熱部を制御する温度制御部と、を有し、
前記第一の目標温度は、前記第二の目標温度よりも高い温度である、液体吐出装置。」
[相違点]
本件発明7は、第一の目標温度が「140℃以上160℃以下である」のに対し、甲1発明は、温度T1、T3が「80℃~120℃の範囲で設定される」点。
(2)判断
本件発明7と甲1発明とは、上記相違点において相違するので、本件発明7が甲1発明であるということはできない。
(3)小括
したがって、本件特許の請求項7に係る発明は、甲1発明ではなく、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
3 申立人の意見について
(1)申立人の意見
申立人は、令和5年6月29日に、甲第2号証~甲第5号証(以下、「甲2」~「甲5」という。)を添付した意見書を提出し、当該意見書の「3 意見の内容」において、周知事項の例示とされる甲2~甲5の具体的記載を示しつつ、「加えて、本件発明7が、第一の目標温度を「140℃以上160℃以下」に限定した点については、液体噴射装置等において、乾燥時間の短縮や記録媒体に与えるダメージを低減させることなどを考慮して、温風の温度を本件発明7で限定した温度範囲を含む温度範囲にすることも本件発明7の出願時において既に周知であった。」と主張し、「本件発明7は、仮に今回の訂正により甲第1号証発明であることを免れたとしても、甲第1号証発明と上記従来周知の事項に基づき当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」と主張する。
申立て理由とされたのは、請求項7の新規性欠如であるが、以下、職権により、請求項7の進歩性欠如について検討する。
(2)甲2~甲5の記載
ア 甲2
「【0033】
〈指触乾燥〉
プリンタで画像が印字された後、前述の熱定着装置で画像を定着処理するまでに、インク中のキャリアをある程度浸透させておく必要がある。とりわけ、インク中の水や低粘度な溶剤を浸透させ、メディア上の色材が加熱部材に転写しない状態まで粘度を上げておく必要がある。そのため、印字直後から数秒間は指触乾燥時間を確保する必要がある。
この指触乾燥時間は本発明のメディアを使用する場合、インクがメディア上に着弾してから、25℃50%環境下で5秒以上確保することが望ましく、より望ましくは15秒以上である。この時間は長く取る分には構わないが、生産性に影響を与えるため、短い方が望ましい。この時間を短縮するためには外部から熱を加えることが有効であり、熱風乾燥機やドライヤー、マイクロ波など公知の非接触加熱が利用可能である。熱風の発生装置は市販のものでもよく、熱風発生装置(綱島製作所製)やヘアドライヤーなども使用できる。
熱風を使用する場合、40℃以下では効果が期待できない。一方、風温が高すぎるとメディアにダメージを与えてしまうため、180℃以下であることが望ましい。」
イ 甲3
「【0041】
加熱手段6は、記録媒体2上のインク層を加熱して、光照射によりインク層中に発生した酸を触媒とした架橋反応を促進する。例えば、赤外線ランプ、(遠赤外線)ハロゲンヒーター、遠赤外線セラミックヒーター、発熱体を内蔵したローラ(熱ローラ)、IHヒーター、温風または熱風を吹き出すブロワなどを使用することができる。遠赤外線セラミックヒーターとしては、例えば、(株)ノリタケカンパニーリミテッド製の遠赤外線セラミックヒーターPLC-32シリーズなどが挙げられる。特に、印刷速度が数十m/minという高速な印刷装置において、ステンレス、アルミ、銅などの金属製の記録媒体が用いられる場合には、記録媒体の表面温度を瞬的に昇温することが望まれる。非接触タイプの集光型ハロゲンヒーター、例えば、インフリッヂ工業(株)社製ハロゲンラインヒーター 集光型NIL-2などを用いることによって、これを達成することができる。」
「【0056】
続いて、記録媒体2は、加熱手段6内あるいはその近傍へ搬送される。記録媒体2が加熱手段6内あるいはその近傍を通過する際、加熱手段6は記録媒体2上に形成されたインク層を加熱して、インク層中での架橋反応を促進する。なお、図1に示すインクジェット記録装置1においては、通常、加熱手段6による加熱時間は、0.数秒~数10秒程度と比較的短い。したがって、加熱手段6によりインク層の硬化をほぼ完全に進行させる場合は、最高到達温度が例えば200℃程度以下、特に、80℃~200℃程度の比較的高い温度となるように加熱を行なうことが望まれる。あるいは、インクの種類によっては、60℃~180℃程度の温度範囲としてもよい。」
ウ 甲4
「【0027】
(6)加熱部107
加熱部107は、記録媒体102の表面上のインク層を加熱し、酸を触媒とした架橋反応を促進する。加熱部107としては、例えば、赤外ランプ、セラミックヒーター、発熱体を内蔵したローラ(熱ローラ)、温風または熱風を吹き出すブロワなどを使用することができる。」
「【0041】
続いて、記録媒体102が加熱部107を通過するに際して、記録媒体102の表面上に形成されたインク層が加熱される。これにより、インク層中での架橋反応が促進される。この際、加熱部107による加熱時間は、数秒ないし数10秒程度と比較的短い。したがって、加熱部107の加熱によってインク層の硬化をほぼ完全に進行させるには、最高到達温度が例えば200℃程度以下、望ましくは80℃ないし200℃、あるいは60℃ないし180℃程度の比較的高い温度となるように加熱を行なう。」
エ 甲5
「【0003】従来のドライヤ部5に設備されるドライヤとしては、図6に示すような構造の熱風ドライヤ8がある。この熱風ドライヤ8の内部には、通常、印刷紙2を間に挟んで上下に複数個の熱風吹出用ノズル9が取付けられている。これらノズル9は、図6に示すように、印刷紙2に沿ってその表裏両側で交互となるよう上下千鳥状に配設されており、印刷紙2に対する吹出部10には丸穴やスリット穴加工(図示せず)が施されている。このような熱風ドライヤ8では、上記の丸穴部やスリット穴部から数十m/sで150~200℃の熱風が供給されており、この熱風による印刷紙2の昇温とそれに続くインキ中の溶剤の蒸発により印刷紙2を乾燥させるように構成されている。」
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した従来のドライヤ部5の長さL1は、図5で示す如く、印刷機全体長L2の約1/3のスペースを占めており、今後予想される生産の高速化に対して現状のままでは機長を長くせざるを得ない状況にある。また、脱臭装置についても、環境問題の観点から装置の改善などの見直しが迫られている。すなわち、従来の熱風ドライヤ8においては、印刷紙2の全体を加熱昇温させてインキ全体の温度を上げ、インキ中の溶剤を蒸発させる方式であるため、紙とインキの変質並びに変性の許容温度により加熱温度が150~200℃程度と限定されており、これ以上の温度上昇が見込めない。したがって、生産性の増大に対応するためには、ドライヤ部5の長さL1を長くせざるを得ないという問題があった。また、蒸発した溶剤がドライヤ系外に洩れる等により作業環境を悪くする懸念もあった。」
(3)判断
本件発明7と甲1発明との一致点及び相違点は、上記「第5 2(1)」のとおりである。
以下、相違点について検討する。
甲2に記載の事項は、印字されたメディアの乾燥を、40℃~180℃の熱風により行うものであり、甲3に記載の事項及び甲4に記載の事項は、記録媒体上のインク層の乾燥を、200℃程度以下、特に、80℃~200℃程度、あるいは、インクの種類によっては、60℃~180℃程度の温風または熱風により行うものであり、いずれも、相違点に係る温風の温度範囲の「140℃以上160℃以下」よりも広い温度範囲を開示するに過ぎないから、甲1発明において、甲2~4に記載の事項に基いて、温風の温度範囲を「140℃以上160℃以下」とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことということはできない。
甲5に記載の事項は、印刷された印刷紙の乾燥を、150~200℃の熱風により行うものであるから、その下限について、相違点に係る温風の温度範囲の「140℃以上160℃以下」の範囲内となるものであるが、甲5に記載の事項は、印刷紙の上下から熱風を吹き付けるものであるから、印刷紙の両面に同じ温度の熱風を吹き付けるものであると認められる。
一方、甲1発明は、「第2面12fb側のドラム表面温度Tfbが温度T1またはT3よりも低い温度T4またはT6になる」もの、すなわち、温風温度がドラム表面温度よりも高いものであり、印刷媒体の両面に異なる温度を付加するものであるから、甲5に記載の事項は、甲1発明の前提となる構成を欠くものである。よって、甲1発明に甲5に記載の事項を適用して、温風の温度範囲を「140℃以上160℃以下」とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことということはできない。
さらに、甲1の段落【0037】(上記「第5 1(1)ア(キ)」を参照)の「温度T1~T3は、例えば、水分(溶媒)の沸点(例えば、100℃)前後の範囲で、かつ、印刷基材12の熱による損傷(変形等)を抑制できる範囲に設定することが好ましい。例えば、温度T1~T3は、80℃~120℃の範囲で設定しても良い。」という記載からみて、温度T1~T3を80℃~120℃の範囲外とすることについて阻害要因があることを示唆するものであるから、甲1発明において、温風の温度範囲を「140℃以上160℃以下」とすることは、当業者といえども容易に想到し得たことということはできない。
したがって、本件発明7の進歩性欠如に係る申立人の主張は、採用することができない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700652