特許異議申立
2021-700143
蒸気による加熱効率向上方法及び抄紙方法
- 審判番号
- 2021-700143
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-181476
- 登録番号
- 6735717
- 請求日
- 2021年02月10日
- 審決日
- 2022年02月03日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】栗田工業株式会社
- 【権利者代理人】重野 剛
- 【異議申立人】奥村 真由
- 審判長/審判官
- 審判長 林 茂樹
- 審判官 松下 聡
- 審判官 槙原 進
- 分類
- P1651.113-YAA(F26B) / P1651.121-YAA(F26B) / P1651.537-YAA(F26B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6735717号発明「蒸気による加熱効率向上方法及び抄紙方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6735717号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1ないし5〕について訂正することを認める。
特許第6735717号の請求項1、3及び4に係る特許を維持する。
特許第6735717号の請求項2及び5に係る特許についての特許異議申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6735717号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成29年9月21日に出願され、令和2年7月16日にその特許権の設定登録がされ、令和2年8月19日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年2月10日:特許異議申立人 奥村 真由(以下、「特許異議申立人」という。)による請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年4月23日付け:取消理由通知書
令和3年6月25日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年7月1日付け:訂正があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)
令和3年8月16日:特許異議申立人による意見書の提出
令和3年9月16日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和3年11月18日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年11月24日付け:訂正があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)
令和3年12月20日:特許異議申立人による意見書の提出
第2 訂正の請求
1 訂正の内容
令和3年11月18日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項よりなる(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「向上させる方法であって、」とあるのを「向上させる方法であって、前記金属材料が回転しており、」と訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「下記一般式(1)で表されるポリアミンと中和性アミンとを存在させる」と記載されているのを「下記一般式(1)で表されるポリアミンと中和性アミンとを、蒸気量に対して一般式(1)で表されるポリアミンを0.1~10ppm、中和性アミンを0.1~50ppm存在させる」と訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2に記載の」とあるのを、「請求項1に記載の」と訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1ないし3のいずれか1項に記載の」とあるのを、「請求項3に記載の」と訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
2 訂正の目的の存否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の「金属材料」に対して、「金属材料が回転して」いることを限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること。
訂正事項1は、訂正前の請求項2の記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記アのように訂正前の請求項1に記載された事項をさらに限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の「一般式(1)で表されるポリアミンと中和性アミン」に対して、「蒸気量に対して一般式(1)で表されるポリアミンを0.1~10ppm、中和性アミンを0.1~50ppm存在させる」ことを限定するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること。
訂正事項2は、願書に添付した明細書の段落【0028】及び【0031】の記載に基づく補正であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、上記アのように訂正前の請求項1に記載された事項をさらに限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、請求項2を削除するというものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること。
上記アに記載したとおり、訂正事項3は、請求項2を削除するというものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アに記載したとおり、訂正事項3は、請求項2を削除するというものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、訂正前の請求項3が、請求項1又は2のいずれかを引用する記載であるところ、請求項1のみを引用する記載とすることにより、引用する請求項数を削減するものであるから、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること。
上記アに記載したとおり、訂正事項4は、訂正前の請求項3が、請求項1又は2のいずれかを引用する記載であるところ、請求項1のみを引用する記載とすることにより、引用する請求項数を削減するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アに記載したとおり、訂正事項4は、訂正前の請求項3が、請求項1又は2のいずれかを引用する記載であるところ、請求項1のみを引用する記載とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(5)訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、訂正前の請求項4が、請求項1ないし3のいずれかを引用する記載であるところ、請求項3のみを引用する記載とすることにより、引用する請求項数を削減するものであるから、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること。
上記アに記載したとおり、訂正事項5は、訂正前の請求項4が、請求項1ないし3のいずれかを引用する記載であるところ、請求項3のみを引用する記載とすることにより、引用する請求項数を削減するものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アに記載したとおり、訂正事項5は、訂正前の請求項4が、請求項1ないし3のいずれかを引用する記載であるところ、請求項3のみを引用する記載とすることにより、引用する請求項数を削減するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(6)訂正事項6
ア 訂正の目的について
訂正事項6は、請求項5を削除するというものである。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること。
上記アに記載したとおり、訂正事項6は、請求項5を削除するというものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アに記載したとおり、訂正事項6は、請求項5を削除するというものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
3 一群の請求項について
訂正事項1ないし6に係る訂正前の請求項1ないし5について、請求項2ないし5はそれぞれ請求項1を引用して記載したものであるから、請求項2ないし5は請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正は、訂正前の請求項〔1ないし5〕の一群の請求項について請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし5〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
本件訂正により訂正された請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明5」という。また、これらを総称して「本件訂正発明」という。は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載した事項により特定される次のとおりのものである。)
「【請求項1】
金属材料を介して蒸気により被加熱物を加熱する加熱工程において、該蒸気による加熱効率を向上させる方法であって、前記金属材料が回転しており、
該蒸気系内に、下記一般式(1)で表されるポリアミンと中和性アミンとを、蒸気量に対して一般式(1)で表されるポリアミンを0.1~10ppm、中和性アミンを0.1~50ppm存在させることを特徴とする蒸気による加熱効率向上方法。
R1-[NH-(CH2)m]n-NH2 …(1)
(式中、R1は炭素数10~22の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、mは1~8の整数であり、nは1である。)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記加熱工程は、蒸気ドライヤにより、前記被加熱物を加熱する工程であり、該蒸気ドライヤに蒸気を供給する蒸気配管または蒸気ヘッダの該蒸気ドライヤ直前の箇所に前記ポリアミンを添加することを特徴とする請求項1に記載の蒸気による加熱効率向上方法。
【請求項4】
前記蒸気ドライヤは抄紙設備に設けられた蒸気ドライヤであることを特徴とする請求項3に記載の蒸気による加熱効率向上方法。
【請求項5】(削除)」
第4 特許異議申立理由の概要及び証拠方法
特許異議申立書における特許異議申立理由の概要及び証拠方法は以下のとおりである。
1 特許異議申立理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)について
本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、又は甲第3号証に記載された発明と同一である。
(2)特許法第29条第2項(同法第113条第2号)について
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証ないし甲第7号証にみられるような周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである。
(3)特許法第36条第6項第2号(同法第113条4号)について
本件特許の請求項1、4及び5に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確ではなく、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 証拠方法
・甲第1号証(引用例2):Technical Guidance Document: Application of Film Forming Amines in Fossil, Combined Cycle, and Biomass Power Plants, International Association for the Properties of Water and Steam, IAPWS TGD8-16, The International Association for the Properties of Water and Steam, 2016年9月, p.1-43
・甲第2号証:カナダ国特許出願公開第2800545号明細書
・甲第3号証:All-Volatile Treatment with Film Forming Amines-A First Suggestion for an Application Guidance, Power Plant Chemistry 2015年、第17巻、第6号 p.342-353
・甲第4号証:特開昭60-89583号公報
・甲第5号証:特表2012-524882号公報
・甲第6号証(引用例1):特開2011-12921号公報
・甲第7号証:A.V. Ryzhenkov et.al, Prospects for the application of film-forming amines in power engineering, WIT Transactions on Engineering Sciences, 2015年, 第91巻, p.127-137
(以下「甲第1号証」ないし「甲第7号証」を、「甲1」ないし「甲7」と略していう。)
第5 取消理由について
1 取消理由の概要
請求項1ないし5に係る特許に対して当審が特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
[理由1](進歩性)本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された引用例1(甲6)及び引用例2(甲1)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
[理由2](明確性)本件特許請求の範囲の請求項4及び5における記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
第6 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由の理由1(進歩性)及び理由2(明確性)について
(1)引用例の記載等
ア 引用例1(甲6)
(ア)引用例1の記載
引用例1には次の記載がある(なお、下線は、当審において付したものである。また、・・・は省略を表す。)。
1a)「【請求項1】
蒸気ドライヤのドラム内に存在する水に、ドラム内周面と水との接触角を増大させる接触角増大剤を含有させることを特徴とする蒸気ドライヤの伝熱効率改善方法。
【請求項2】
請求項1において、接触角増大剤が長鎖脂肪族アミンであることを特徴とする蒸気ドライヤの伝熱効率改善方法。
【請求項3】
請求項2において、長鎖脂肪族アミンは、一般式CH3(CH2)mNH2(m=9~23)で表わされる直鎖状長鎖脂肪族アミンであることを特徴とする蒸気ドライヤの伝熱効率改善方法。
【請求項4】
請求項2又は3において、ドラムに導入される水蒸気又はこの水蒸気を発生させるボイラの給水に長鎖脂肪族アミンを添加することを特徴とする蒸気ドライヤの伝熱効率改善方法。」
1b)「【技術分野】
【0001】
本発明は、回転式のドラム内に水蒸気を供給し、ドラム外面と接触する被乾燥物を乾燥するようにした蒸気ドライヤの伝熱効率改善方法に関する。 【背景技術】
【0002】
回転式のドラムを備えた蒸気ドライヤは抄紙設備等において広く用いられている。紙を生産する抄紙機(ペーパーマシン)は、一般に紙料流出部、脱水部、圧搾・搾水部、乾燥部、サイズ部(表面強度・耐水性を持たせる加工部)、光沢部、及び巻取り部から構成される。乾燥部では水分含有率50%前後の湿紙をカンバスなどで保持して数十本の直径1.2~1.8mの円筒形の乾燥機表面に接触させて水分を蒸発させて水分含有率5~10%程度まで乾燥させる。
【0003】
また、ティッシュペーパー・トイレットペーパー・キッチンペーパー・紙おむつなどの家庭紙用原料紙や片艶包装紙などの製造では、圧搾・搾水部を出た湿紙を、ヤンキードライヤと称される直径3~5.5mの円筒形で円周部外表面を鏡面仕上げした1本の乾燥機に張り付け、乾燥機内側を蒸気で加熱し、外側の湿紙に熱風を吹きつけて乾燥させる。」
1c)「【発明の効果】
【0013】
本発明では、ドラム内の凝縮水に、ドラム内周面と水との接触角を増大させる接触角増大剤を含有させるので、水膜のリフトが抑制され、ドラム内周面と水蒸気との接触面積が大きくなり、伝熱効率が改善される。
【0014】
また、水膜が形成され難く、形成された水膜の剥離も容易になることで、ドラムの回転速度を増大させてもドラム内周面と水蒸気との接触面積を確保できるところから、単位時間当りの乾燥量の増大例えば湿紙の生産性の向上も可能となる。
【0015】
この接触角増大剤としては、CH3(CH2)mNH2(m=9~23)で表わされる直鎖状長鎖脂肪族アミンが好適である。この長鎖脂肪族アミン分子のアミノ基-NH2がドラム内周面を構成する金属材料に吸着する。この長鎖脂肪族アミンは、水分子と親和性の低い疎水基である炭素数10~24の直鎖状アルキル基を有しているため、ドラム内周面に撥水性が付与され、ドラム内周面と水との接触角が増大する。」
1d)「【0018】
本発明は、蒸気ドライヤの回転式のドラム内の凝縮水に、ドラム内周面と水との接触角を増大させる接触角増大剤を含有させるようにしたものである。
【0019】
接触角増大剤は、ドラムに供給される水蒸気に添加されてもよく、この水蒸気を発生させるボイラの給水に添加されてもよく、双方に添加されてもよい。ドラム内に直接に接触角増大剤を添加してもよいが、設備がやや複雑になると共に、接触角増大剤が凝縮水と均一に混合しない可能性もあるので、ボイラ給水又は水蒸気に添加するのが好ましい。
【0020】
接触角増大剤は、この水蒸気又は給水に連続的に添加されてもよく、間欠的に添加されてもよい。また、蒸気ドライヤの運転開始時に所定時間継続して水蒸気又はボイラ給水に添加し、その後は間欠的に添加するようにしてもよい。蒸気ドライヤの運転開始時に接触角増大剤を多く添加し、その後は添加量を減少させるようにしてもよい。
【0021】
本発明で用いる接触角増大剤としては、長鎖脂肪族アミン特にCH3(CH2)mNH2(m=9~23)で表わされる直鎖状長鎖脂肪族アミンが好適である。なお、mが9よりも小さいと接触角増大作用が不足することがあり、mが24よりも大きいとゲル化し易くなることがある。」
1e)「【0026】
蒸気ドライヤは各種産業設備のいずれに設置されたものであってもよい。蒸気ドライヤは、湿紙の乾燥工程に広く用いられているので、ヤンキードライヤを用いた湿紙乾燥設備に本発明方法を適用した場合の一例を第1図に示す。
【0027】
補給水装置1、給水槽2、配管3及び給水ヘッダ4を介してボイラ5へ給水が供給される。ボイラ5で発生した水蒸気は、水蒸気配管6、水蒸気ヘッダ7、配管8、流量調節バルブ9及び配管10を介してヤンキードライヤのドラム11内に供給される。
【0028】
このドラム11は、第1図において時計方向に回転駆動されており、湿紙Pは、このドラム11の外周面に接触して乾燥され、該外周面から剥離された後、製品巻取り工程へ送られる。乾燥された紙の含水率とドラム外周面の温度とがセンサによって測定され、これらに基づいて前記バルブ9によって水蒸気流量が調節される。」
1f)「【0031】
この実施の形態では、ボイラ給水又は発生した水蒸気に対し前記接触角増大剤を添加する。この接触角増大剤の添加位置としては、給水に添加する場合は前記配管3が好適であり、水蒸気に添加する場合は水蒸気ヘッダ7が好適である。・・・」
1g)「【0034】
[実施例1]
第1図に示す抄紙乾燥設備において、ヤンキードライヤのドラム直径3m、供給水蒸気圧力0.6MPa、水蒸気供給量約900kg/hとし、ドラムの外表面温度が100℃となり、乾燥後の製品(紙)の含水率が20~30%となるように、ヤンキードライヤへの水蒸気供給量を流量調節弁9で制御した。」
1h)
[図:0001384067000001.jpg]
(イ)引用発明
上記(ア)を総合すると、引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「蒸気ドライヤの回転式のドラム内に水蒸気を供給し、ドラム外面と接触する被乾燥物を乾燥する工程において、蒸気ドライヤの伝熱効率を向上させる方法であって、
蒸気ドライヤの回転式ドラム内の凝縮水に一般式CH3(CH2)mNH2(m=9~23)で表わされる直鎖状長鎖脂肪族アミンを含有させることにより蒸気ドライヤの伝熱効率を向上させる方法。」
イ 引用例2(甲1)
(ア)引用例2の記載
引用例2には次の記載がある。
なお、日本語訳は異議申立人が提出した訳文を援用した。
2a)”Summary
This Technical Guidance ... power plants.”(第1ページ本文第7ないし9行)
(訳:要約
この技術ガイダンスは、火力、コンバインドサイクル、バイオマスの発電プラントの水/蒸気循
[図:0001384067000002.jpg]
環系における皮膜形成アミンの適用に関する。)
2b)”3.Terminology
IAPWS recognizes ...and dispersants (eg.,polycarboxylates).”(第6ページ第18ないし35行)
(訳:3 用語
被膜形成化合物は特殊な疎水性被膜形成特性を有する化学物質とこれらの化学物質を含む市販製品の両方が、文献において参照されてきたとIAPWSは認識している。誤解を招かないように、この技術ガイダンスでは次の用語を用いる。
・皮膜形成アミン:特別の官能基を有する有機物質として定義されたグループ:化学的定義は広範囲のアミン分子を包含するため、この技術ガイダンスでは3つの物質を挙けるが、それらは集中的な研究課題となっており、またどこかで十分な適用実績がある。化学分子の命名法は異なる物質名を導くことができるため、3つの皮膜形成アミンはケミカルアブストラクトサービス
(CAS)によって割り当てられた番号と識別名によって定義される:
オクタデシルアミン(ODA)CAS No:124-30-1
オレイルアミン(OLA)CAS No:112-90-3
オレイルプロピレンジアミン(OLDA) CAS No:7173-62-8
・皮膜形成アミン製品:皮膜形成アミンを含む商業的に人手可能な製品であり、中和性アミン、乳化剤、還元剤、分散剤(例えばポリカルボン酸塩)のような更なる物質を含むことができる。)
2c)”5.2 Application
Film forming amines ...
・Corrosion protection during shutdown/layup.” (第9ページ第5ないし14行)
(訳:5.2適用
皮膜形成アミンは固形あるいはペースト状の物質であり、僅かに水に溶ける。それらは溶液、エマルジョン、水懸濁液として供給され、アンモニア、中和性アミン、水酸化ナトリウム、りん酸塩のようなアルカリ性物質と混合することができる。単体の成分あるいは異なる物質との混合物として注入することができる。
[図:0001384067000003.jpg]
皮膜形成アミン処理の目的は、
・連続運転時の腐食低減
・腐食生成物の移動の最小化
・清浄で滑らかな伝熱表面の形成
・定期修理と保管の間の腐食からの保護)
2d)”5.3 Advantages and Benefits
Some of the possible ...
・Improvement of heat transfer (Section 5.5).”(第9ページ第18ないし33行)
(訳:5.3 利点と利益
皮膜形成アミンを使用することによる可能な利点と利益は以下に述べられる。
・伝熱表面を清浄かつ滑らかにする(第5.4節)
・伝熱表面や蒸気タービンブレードから既存のゆるく付着したデポジットを除去する(第5.4節、第5.5節)
・過渡的な負荷、頻繁な始動/停止、定期修理期間に影響されない(第9.9節)
・定期修理/保管の間の湿り/乾燥状態での保護を改善する(第9.9節)
・汚染、pH変動等に影響されない(第9.2節)
・給水等の腐食生成物を少なくする可能性がある(第8章)
・排熱回収ボイラ(HRSG)や空冷式復水器における流れ加速型腐食(FAC)、特に2相FACを低減する(第8.2節、第9.4節、第9.7節)
・始動時の腐食生成物を低減する(第9.4節)
・多くの異なるシステムヘの適用可能性(第9節)
・伝熱の改善(第5.5節))
2e)”Heat Transfer
FFA form a firm ... in the condenser.”(第14ページ第1ないし13行)
(訳:・熱伝導
皮膜形成アミンは水/蒸気循環系の内部表面と伝熱表面に皮膜を形成する。それらの表面活性特性により、皮膜形成アミンは金属表面近傍の核沸騰点における伝熱を改善する理論的可能性がある。泡沸騰における皮膜形成アミンの影響は、りん酸塩ベースの水化学と比較して定性的あるいは定量的に実証された[34]。りん酸塩ベース処理と比較して皮膜形成アミン製品で処理した鋼管には十分高い熱伝達係数が得られた[49]。
ODA濃度の関数として銅表面の熱伝達係数が測定されたが、評価された濃度範囲で熱伝達係数の改善が認められた[50]。さらに復水器の疎水性表面上の改質された水滴の形成により凝縮プロセスにおける伝熱の改善が報告された[51]。)
2f)”FFAP sometimes ... in the water.”(第15ページ第28ないし30行)
(訳:皮膜形成アミン製品はしばしば中和剤の混合物を含むか、あるいは皮膜形成アミンとアンモニアは一緒に添加される。そのため、皮膜形成アミン製品の使用は、異なったイオンのより複雑な混合物となる。)
2g)”8.4 How and Where to Dose the FFA/FFAP
It is generally ... they should be dosed into the drum.”(第25ページ第18ないし34行)
(訳:8.4 皮膜形成アミン/皮膜形成アミン製品をどういう方法でどこに注入するのか?
一般に皮膜形成アミン製品は系に希釈せず(出荷状態のまま)注入することが提案される。もし製品の希釈が望まれるとき、薬品の供給業者はその溶液の安定性に関する助言を与えるべきである。ほとんどの適用では、復水ポンプ出口や復水ポリッシャー出口のような理想的な場所のような、一つの注入箇所に皮膜形成アミン/皮膜形成アミン製品を導人すれば十分である。別の注入点はボイラ/HRSGの給水ポンプの入口である。火力プラントでは、脱気器出口が最も一般的である。コンバインドサイクル/HRSGプラントでは、給水ポンプ人口と脱気器出口に注人することができるが、脱気器のない装置における好ましい箇所はLP(低圧)、IP(中圧)、HP(高圧)のエコノマイザー回路への供給ポンプ入口である。皮膜形成アミン/皮膜形成アミン製品をドラムや蒸気ヘッダーに注入するのは、高温の過熱蒸気は皮膜形成アミン/皮膜形成アミン製品や中和性アミンを熱分解するため好ましくない。しかし、ポリカルボン酸や水酸化ナトリウムやりん酸塩のような非揮発性化合物を含む皮膜形成アミン製品は、給水が過熱低減水に使用されるため給水に添加してはいけない。このような場合、それらはドラムに注入すべきである。)
(イ)引用例2に記載された技術
上記(ア)を総合すると、引用例2には次の技術(以下「引用例2技術」という。)が記載されている。
「中和性アミンを添加したオレイルプロピレンジアミン(OLDA) CAS No:7173-62-8などの皮膜形成アミンを水/蒸気循環系に予め注入することにより、水/蒸気循環系の内部表面と伝熱表面に皮膜を形成して、疎水性表面上の改質された水滴の形成により凝縮プロセスによる伝熱の改善を行う技術。」
(2)[理由1]についての判断
ア 請求項1
(ア)対比
本件訂正発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「水蒸気」は、本件訂正発明1における「蒸気」に相当し、以下同様に、「被乾燥物」は「被加熱物」に、「ドラム外面と接触する被乾燥物を乾燥する工程」は「被加熱物を加熱する加熱工程」に、「蒸気ドライヤの伝熱効率を向上させる方法」は「該蒸気による加熱効率を向上させる方法」または「蒸気による加熱効率向上方法」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明における「蒸気ドライヤの回転式のドラム」は、上記(1)ア(ア)1c)【0015】の記載からみて、ドラムは金属材料からなり、かつ上記(1)ア(ア)1e)【0028】の記載からみて時計方向に回転するものであるから、本件訂正発明1における「金属材料」であってかつ「回転」するものに相当する。
さらに、引用発明における「蒸気ドライヤの回転式のドラム内に水蒸気を供給し、ドラム外面と接触する被乾燥物を乾燥する」ことは、蒸気ドライヤの回転式ドラムを介して水蒸気によりドラム外面と接触する被乾燥物を乾燥することに他ならないから、本件訂正発明1における「金属材料を介して蒸気により被加熱物を加熱する」ことに相当する。
また、引用発明における「蒸気ドライヤの回転式ドラム内の凝縮水に一般式CH3(CH2)mNH2(m=9~23)で表わされる直鎖状長鎖脂肪族アミンを含有させる」と、本件訂正発明1における「該蒸気系内に、下記一般式(1)で表されるポリアミンと中和性アミンとを、蒸気量に対して一般式(1)で表されるポリアミンを0.1~10ppm、中和性アミンを0.1~50ppm存在させる
R1-[NH-(CH2)m]n-NH2 …(1)
(式中、R1は炭素数10~22の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、mは1~8の整数であり、nは1である。)」とは、「蒸気系内にアミン類を存在させる」という限りにおいて一致する。
したがって、両者は、
「金属材料を介して蒸気により被加熱物を加熱する加熱工程において、該蒸気による加熱効率を向上させる方法であって、前記金属材料が回転しており、蒸気系内にアミン類を存在させることによる蒸気による加熱効率向上方法。」である点において一致し、次の点で相違している。
[相違点1]
「蒸気系内にアミン類を存在させる」ことに関して、本件訂正発明1においては、「該蒸気系内に、下記一般式(1)で表されるポリアミンと中和性アミンとを、蒸気量に対して一般式(1)で表されるポリアミンを0.1~10ppm、中和性アミンを0.1~50ppm存在させる
R1-[NH-(CH2)m]n-NH2 …(1)
(式中、R1は炭素数10~22の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、mは1~8の整数であり、nは1である。)」のに対して、引用発明においては、「蒸気ドライヤの回転式ドラム内の凝縮水に一般式CH3(CH2)mNH2(m=9~23)で表わされる直鎖状長鎖脂肪族アミンを含有させる」点。
(イ)相違点1についての判断
上記相違点1について検討する。
引用例2技術は、「中和性アミンを添加したオレイルプロピレンジアミン(OLDA) CAS No:7173-62-8などの皮膜形成アミンを水/蒸気循環系に予め注入することにより、水/蒸気循環系の内部表面と伝熱表面に皮膜を形成して、疎水性表面上の改質された水滴の形成により凝縮プロセスによる伝熱の改善を行う技術」であって、引用例2技術における「オレイルプロビレンジアミン(OLDA) CAS No:7173-62-8」は、C18H35-[NH-(CH2)3]1-NH2であって、C18H35は炭素数18の飽和または不飽和炭化水素基であり、mは3、nは1であるから、本件訂正発明1における一般式(1)で表されるポリアミンに相当する。
そして、本件訂正発明1における「該蒸気系内に、下記一般式(1)で表されるポリアミンと中和性アミンとを、蒸気量に対して一般式(1)で表されるポリアミンを0.1~10ppm、中和性アミンを0.1~50ppm存在させる」の数値範囲について検討すると、本件特許明細書の段落【0028】には、「上記のポリアミンは、蒸気量に対して0.01~10ppm、特に0.1~1ppmの割合で存在させることが好ましい。この範囲よりもポリアミン量が少な過ぎるとポリアミンによる凝縮水膜形成抑制効果、加熱効率向上効果を十分に得ることができず、多過ぎると系内に粘着性の付着物が生じるおそれがある。」と記載されている。すなわち、系内に粘着性の付着物が生じるのを防止するために、蒸気系内のポリアミン濃度を0.1~10ppmとし、その上限を10ppmと定めたことにつき記載され、さらにその上限を定めたことに伴い本件訂正発明1は、ポリアミン添加による系内の詰まり発生を防止するという顕著な効果を奏するものといえる。
しかし、引用例2には、本件訂正発明1における一般式(1)で表されるポリアミンと中和性アミンとを、蒸気量に対して一般式(1)で表されるポリアミンを0.1~10ppm、中和性アミンを0.1~50ppm存在させることについての記載はなく、ポリアミンの蒸気量に対する量の上限を10ppmと定めることにより、系内に粘着性の付着物が生じることを防止すること、さらにポリアミン添加による系内の詰まり発生を防止するという顕著な効果を奏することについての示唆もない。
そうすると、本件訂正発明1は、引用発明と引用例2技術とに基いて当業者が容易に発明し得たものとはいえない。
イ 請求項3、4について
本件訂正発明3、4は、本件訂正発明1を直接あるいは間接的に引用するものであるから、本件訂正発明3、4と引用発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1において相違する。
そうすると、本件訂正発明3、4は、本件訂正発明1と同様に、引用発明と引用例2技術とに基いて当業者が容易に発明し得たものとはいえない。
(3)[理由2]についての判断
ア 請求項4について
訂正前の請求項4の記載における「蒸気ドライヤ」について、訂正前の請求項4が引用する請求項1ないし3のいずれか1項のうち、請求項1及び2の記載において「蒸気ドライヤ」が「前記」されていないので、請求項4が請求項1または2を引用した場合に請求項4の記載が不明瞭であった。
しかし、本件訂正により請求項4が「蒸気ドライヤ」が記載された請求項3のみを引用することとなったので、訂正後の請求項4の記載は不明瞭であるとはいえない。
イ 請求項5について
本件訂正により請求項5は削除された。よって、請求項5の記載が不明瞭であるという取消理由は解消した。
第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議理由について
(1)特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)について
本件特許の請求項1に係る発明は、甲1、甲2、又は甲3に記載された発明と同一である。
[判断]
甲1ないし甲3においては、いずれも本件訂正発明1において特定された「該蒸気系内に、下記一般式(1)で表されるポリアミンと中和性アミンとを、蒸気量に対して一般式(1)で表されるポリアミンを0.1~10ppm、中和性アミンを0.1~50ppm存在させる
R1-[NH-(CH2)m]n-NH2 …(1)
(式中、R1は炭素数10~22の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、mは1~8の整数であり、nは1である。)」における「ポリアミンと中和性アミンとを、蒸気量に対して一般式(1)で表されるポリアミンを0.1~10ppm、中和性アミンを0.1~50ppm存在させる」ことについての記載や示唆はないから、本件訂正発明1と、甲1、甲2、又は甲3に記載された発明とは相違する。
したがって、本件訂正発明1は、甲1、甲2、又は甲3に記載された発明と同一であるとはいえない。
(2)特許法第29条第2項(同法第113条第2号)について
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、甲1ないし甲4に記載された発明及び甲5ないし甲7にみられるような周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである。
[判断]
・本件訂正発明1について
本件訂正発明1と甲1ないし甲7に記載された発明とを対比すると、本件訂正発明1においては、「該蒸気系内に、下記一般式(1)で表されるポリアミンと中和性アミンとを、蒸気量に対して一般式(1)で表されるポリアミンを0.1~10ppm、中和性アミンを0.1~50ppm存在させる
R1-[NH-(CH2)m]n-NH2 …(1)
(式中、R1は炭素数10~22の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、mは1~8の整数であり、nは1である。)」のに対して、甲1ないし7に記載された発明においては、上記「ポリアミンと中和性アミンとを、蒸気量に対して一般式(1)で表されるポリアミンを0.1~10ppm、中和性アミンを0.1~50ppm存在させる」ことについての記載や示唆はない点において少なくとも相違(以下、「相違点2」という。)し、その点は自明または技術常識であるとはいえない。
したがって、本件訂正発明1は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証ないし甲第7号証にみられるような周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
・本件訂正発明3、4について
本件訂正発明3、4は、本件訂正発明1を直接あるいは間接的に引用するものであって、本件訂正発明1と同様に少なくとも上記相違点2を有するものであるから、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証ないし甲第7号証にみられるような周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(3)特許法第36条第6項第2号(同法第113条4号)について
本件特許の請求項1に係る発明は、特許を受けようとする発明が以下の理由ア、イにより明確ではなく、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア 請求項1には「該蒸気系内」との文言の前に「蒸気系内」が登場しておらず、「該蒸気系内」が何を示すのか不明確である。
イ 請求項1に係る発明は蒸気系内に、特定ポリアミンと中和性アミンとを存在させることでの蒸気による加熱効率向上方法であるが、この方法において「系内」とは如何なる系内であるのか、発明の詳細な説明の記載を見ても不明確である。
[判断]
ア 「該蒸気系内」について、「蒸気」なる文言が「該蒸気系内」より前記されており、「該蒸気系内」の「該」は、前記された「蒸気」を受けたものと解されるから、「該蒸気系内」の記載は明確である。
イ 「蒸気系内」の「蒸気系」とは、技術常識からみて、蒸気配管、蒸気ヘッダなどを含む系と解されるから、「蒸気系内」の記載は明確である。
第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件請求項1、3及び4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、3及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2及び5に係る特許は、訂正により削除された。これにより、本件特許の請求項2及び5に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-700143