特許異議申立
2022-700603
CMP研磨パッドのための研磨くず除去溝
- 審判番号
- 2022-700603
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-056833
- 登録番号
- 6993090
- 請求日
- 2022年07月08日
- 審決日
- 2023年03月29日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ローム アンド ハース エレクトロニック マテリアルズ シーエムピー ホウルディングス インコーポレイテッド
- 【権利者代理人】弁理士法人 津国
- 【異議申立人】松本 慎一郎
- 審判長/審判官
- 審判長 恩田 春香
- 審判官 鈴木 聡一郎
- 審判官 棚田 一也
- 分類
- P1651.113-YAA(H01L) / P1651.121-YAA(H01L) / P1651.537-YAA(H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6993090号発明「CMP研磨パッドのための研磨くず除去溝」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6993090号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
特許第6993090号の請求項1、2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6993090号の請求項1、2に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成29年3月23日(パリ条約による優先権主張 2016年(平成28年)3月24日 (US)アメリカ合衆国、以下「本願の優先日」という。)に出願され、令和3年12月13日にその特許権の設定登録がされ、令和4年1月13日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年 7月 8日 :特許異議申立人 松本 慎一郎(以下「申立
人」という)による特許異議の申立て
令和4年10月12日付け:取消理由通知書
令和5年 1月 6日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和5年 2月27日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和5年1月6日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「半径方向溝」と記載されているのを、「半径方向排流溝」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「(nf)は供給溝の数を表す」と記載されているのを、「(nf)は半径方向排流溝の両側に交わる供給溝の総数、すなわち供給溝の実際の数を2倍した数を表す」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「ここでnrは1~16であり」と記載されているのを、「ここでnrは1~12であり」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。
(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2は、請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項〔1、2〕は一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「半径方向排流溝」に関係する記載のうち、一箇所のみ「半径方向溝」と表現されていたものを、「半径方向排流溝」に訂正するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項1に係る「半径方向排流溝」は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載されていたものである。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「半径方向排流溝」に関係する記載の表現を統一したものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、供給溝の数を表す「(nf)」について、供給溝の実際の溝の数のことであるのか、本件特許に係る出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の【0035】に記載されたように実際の数の2倍のことであるのか不明瞭であったものを、供給溝の実際の数を2倍した数であることを明瞭化したものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項2は、本件明細書の【0035】に記載されていたものである。
よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、上記アのとおり、供給溝の実際の溝の数とも、その数を2倍した数とも解釈されうる記載を、供給溝の実際の溝の数を2倍した数に明瞭化したものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3は、半径方向排流溝の数であるnrの数値範囲を減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項3は、訂正前の請求項1に記載されていたnrの数値範囲を減縮するものであり、減縮された数値範囲は、訂正前の請求項1に記載された数値範囲に包含されていたものである。
よって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、訂正前の請求項1の発明特定事項を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1、3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1、2に係る発明(以下それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「 【請求項1】
半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つを、研磨流体及び研磨パッドと前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つとの間の相対運動によって研磨又は平坦化するのに適した研磨パッドであって、
ポリマーマトリックス及び厚さを有する研磨層であって、中心、周縁、前記中心から前記周縁まで延びる半径及び前記中心を包囲し、前記半径と交差する研磨トラックを含む研磨層であり、前記研磨トラックが、前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つを研磨又は平坦化するための前記研磨層の作用領域を表す、研磨層と、
前記半径と交差する複数の供給溝(δ)であって、供給溝(δ)が、前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つを前記研磨パッド及び前記研磨流体で研磨又は平坦化するためのランドエリアを供給溝(δ)の間に有し、複数の供給溝(δ)が、幅と深さを掛けて計算される平均供給断面積(δa)を有し、平均供給断面積(δa)が、各供給溝の合計断面積を供給溝(δ)の総数で割ったものである、複数の供給溝(δ)と、
前記研磨流体が前記複数の供給溝(δ)から少なくとも一つの半径方向排流溝(ρ)に流れることを許すための、前記複数の供給溝(δ)と交差する、前記研磨層中の少なくとも一つの半径方向排流溝(ρ)と、を含み、
前記少なくとも一つの半径方向排流溝(ρ)が幅と深さを掛けて計算される平均排流断面積(ρa)を有し、
前記少なくとも一つの半径方向排流溝の前記平均排流断面積(ρa)が、
2*δa≦ρa≦6*δa
(式中、(nr)は半径方向排流溝の数を表し、(nf)は半径方向排流溝の両側に交わる供給溝の総数、すなわち供給溝の実際の数を2倍した数を表す)
及び
(0.15)nf*δa≦nr*ρa≦(0.35)nf*δa
ここでnrは1~12であり、
にしたがって前記平均供給断面積(δa)よりも大きく、
前記少なくとも一つの半径方向排流溝(ρ)が前記研磨トラックを通過して延びて、前記研磨パッドの回転中、研磨くずを、前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つの下で、前記研磨トラックに通し、前記研磨トラックを越えさせて前記研磨パッドの前記周縁へと除去することを促進する、研磨パッド。
【請求項2】
前記供給溝が同心円弧であり、
nrは2~12である、
請求項1記載の研磨パッド。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由
訂正前の請求項1、2に係る特許に対して、当審において令和4年10月12日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1 取消理由1(明確性)
請求項1、2に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
2 取消理由2(新規性)
請求項1に係る発明は、以下の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
3 取消理由3(進歩性)
請求項1、2に係る発明は、以下の甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
4 甲号証
申立人が提出し、上記取消理由通知において引用された甲第1号証は次のとおりである。
甲第1号証:特開2007-81322号公報
第5 取消理由についての当審の判断
1 取消理由1(明確性)について
(1)供給溝の数nfについて
本件訂正後の請求項1には「(nf)は半径方向排流溝の両側に交わる供給溝の総数、すなわち供給溝の実際の数を2倍した数を表す」と記載されているから、nfは、「供給溝の実際の数を2倍した数を表す」点で明確である。
(2)取消理由について
令和4年10月12日付け取消理由通知に記載した取消理由1においては、本件訂正前の請求項1~2に記載されたnfが、供給溝の実際の数のことを意味するのか、供給溝の実際の数の2倍のことを意味するのか、いずれに解すべきか不明であるから、本件訂正前の請求項1~2に係る発明が明確でないとする。
これに対し、本件訂正により、nfが「供給溝の実際の数を2倍した数を表す」ものに明確化された結果、当該取消理由1は解消した。
(3)特許異議申立書における主張
申立人は、請求項1~2に係る発明における「供給溝の数」について、実際の本数として数えるのか、本件明細書の【0035】に記載されているように供給溝の本数を2倍にして数えるのか不明である旨を主張する。(特許異議申立書の第51ページ第2~29行。)
しかしながら、上記(2)のとおり、本件訂正により供給溝の数nfは明確になったといえる。
よって申立人の上記主張は採用できない。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件発明1~2は明確である。
したがって、請求項1~2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。
2 取消理由2(新規性)及び取消理由3(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1
本件発明1は、上記「第3 本件発明」に記載したとおりの事項により特定されるものであると認める。
イ 甲第1号証の記載事項及び甲1発明
(ア)甲第1号証について
a 本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証には、次の記載がある。(当審注:下線は当審による。以下、同様である。)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、化学機械研磨工程に好適に使用することができる化学機械研磨パッドの製造方法に関する。」
「【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造において、優れた平坦性を有する表面を形成することができる研磨方法として、化学機械研磨(ChemicalMechanical Polishing=”CMP”)が注目されている。・・・」
「【発明を実施するための最良の形態】
・・・
【0020】
・・・第2溝群の第2溝の数は、好ましくは4~65本であり、更に好ましくは8~48本である。
・・・
【0022】
第2溝群がいずれも中心部から発し、周辺部へ伸びる溝である場合には、第2溝群は、中心部の領域において他の第2溝と接していない第2溝と、中心部の領域において他の第2群の溝と接している第2溝とからなることが好ましい。中心部の領域において他の第2溝と接していない第2溝は、パッドの中心から10~200mmの位置から発し、そこから周辺部へ向かう方向に伸びる溝であることが好ましく、パッドの中心から20~100mmの位置から発し、そこから周辺部へ向かう方向に伸びる溝であることがより好ましい。」
「【0028】
図2のパッドは、32本の直線溝2からなる第2溝群と、直径の異なる10本の同心円溝3からなる第1溝群とを有している。32本の直線溝のうち4本は互に接し中心から発しているのに対し、他の28本の直線溝は中心から幾分周辺部へ後退した部分(この部分が中心部であることは、第1溝群のうち最も小さな円溝にもこの直線溝が交差していることで判定できる)から発している。図2のパッドでも、32本の直線溝は全てパッドの側面に達している。」
「【実施例】
【0060】
実施例1
(1)化学機械研磨パッドの製造
1,2-ポリブタジエン(JSR(株)製、商品名「JSR RB830」)80体積部(72質量部に相当)と、水溶性粒子であるβ-サイクロデキストリン((株)横浜国際バイオ研究所製、商品名「デキシパールβ-100」、平均粒径20μm)20体積部(28質量部に相当)とを160℃に調温されたルーダーにより混練した。その後、ジクミルパーオキシドとして「パークミルD40」(商品名、日本油脂(株)製、ジクミルパーオキシドを40質量%含有する。)1.0体積部(純ジクミルパーオキシドに換算して0.44質量部に相当)を配合して、120℃にて更に混練し、化学機械研磨パッド用組成物のペレットを得た。次いで、このペレットを金型内に仕込み、170℃で18分加熱し、架橋させて、直径600mm、厚さ2.5mmの円盤状の成形体(パッド概形)を得た。
【0061】
次いでこの成形体の研磨面側に加藤機械(株)製の切削加工機を用いて、幅が0.5mm、深さが1.0mmの同心円状の溝を、ピッチが2.0mmとなるように形成した(第1溝群の溝)。更に、研磨面側に、パッドの中心から外周端に至る直線状の溝16本(それぞれの幅は1.0mmであり、深さは1.0mmである。)を、パッド研磨面の中心で互いに接し、隣接する直線溝となす角度はいずれも22.5°となるように、角度割り出し位置決め可能な駆動機構を備えた切削加工装置を用いて、第2溝を形成し(第2溝群の溝)、化学機械研磨パッドを製造した。なお、フライスカッターは、直径125mm、刃数70のもの一個を装着して使用した。切削の際、フライスカッターの各刃のすくい角は30°、刃物角は70°、刃幅1.0mm、側面切刃角は-7°であった。ここで形成した溝群の構成は、図1に示した概略図に相当する。なお、ここで形成した溝群につき三次元表面構造解析顕微鏡(型式「ZygoNew View 5032,」キヤノン(株)製)で内面の表面粗さを測定したところ、第1溝群の溝、第2溝群の溝とも、表面粗さは4.2μmであった。」
「【図1】
[図:0001399365000001.jpg]
」
「【図2】
[図:0001399365000002.jpg]
」
b 甲第1号証の記載事項
(a)前記aの【0001】には、「本発明は、化学機械研磨工程に好適に使用することができる化学機械研磨パッドの製造方法に関する。」と記載され、同【0002】には、背景技術として、「半導体装置の製造において、優れた平坦性を有する表面を形成することができる研磨方法として、化学機械研磨(ChemicalMechanical Polishing=”CMP”)が注目されている。」と記載されているから、甲第1号証の記載は、「半導体装置の製造」における「化学機械研磨工程に好適に使用することができる化学機械研磨パッド」に関するものであるといえる。
(b)同【0061】に「次いでこの成形体の研磨面側に加藤機械(株)製の切削加工機を用いて、幅が0.5mm、深さが1.0mmの同心円状の溝を、ピッチが2.0mmとなるように形成した(第1溝群の溝)。更に、研磨面側に、パッドの中心から外周端に至る直線状の溝16本(それぞれの幅は1.0mmであり、深さは1.0mmである。)を、パッド研磨面の中心で互いに接し、隣接する直線溝となす角度はいずれも22.5°となるように、角度割り出し位置決め可能な駆動機構を備えた切削加工装置を用いて、第2溝を形成し(第2溝群の溝)、化学機械研磨パッドを製造した。」と記載されているから、「化学機械研磨パッド」は、「成形体」を有し、当該「成形体」の研磨面側には、幅が0.5mm、深さが1.0mmの同心円状の溝である第1溝群の溝がピッチが2.0mmとなるように形成されるとともに、幅が1.0mm、深さが1.0mmであり、パッドの中心から外周端に至る直線状の16本の溝である第2溝群の溝が形成される、といえる。
(c)同【0060】には、「1,2-ポリブタジエン(JSR(株)製、商品名「JSRRB830」)80体積部(72質量部に相当)と、水溶性粒子であるβ-サイクロデキストリン((株)横浜国際バイオ研究所製、商品名「デキシパールβ-100」、平均粒径20μm)20体積部(28質量部に相当)とを160℃に調温されたルーダーにより混練した。その後、ジクミルパーオキシドとして「パークミルD40」(商品名、日本油脂(株)製、ジクミルパーオキシドを40質量%含有する。)1.0体積部(純ジクミルパーオキシドに換算して0.44質量部に相当)を配合して、120℃にて更に混練し、化学機械研磨パッド用組成物のペレットを得た。次いで、このペレットを金型内に仕込み、170℃で18分加熱し、架橋させて、直径600mm、厚さ2.5mmの円盤状の成形体(パッド概形)を得た。」と記載されているから、「化学機械研磨パッド」の「成形体」は、「直径600mm、厚さ2.5mmの円盤状」であり、1,2-ポリブタジエン80体積部及びβ-サイクロデキストリン20体積部を160℃で混練し、その後、ジクミルパーオキシドを120℃で混練して得られたペレットを170℃18分加熱し、架橋させて得られたものである、といえる。
c 甲第1号証に記載された発明
前記bの記載事項から、甲第1号証には、図1に示された実施例1の化学機械研磨パッドに関して次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「半導体装置の製造における化学機械研磨工程に好適に使用することができる化学機械研磨パッドにおいて、
成形体を有し、
前記成形体の研磨面側には、幅が0.5mm、深さが1.0mmの同心円状の溝である第1溝群の溝がピッチが2.0mmとなるように形成されるとともに、幅が1.0mm、深さが1.0mmであり、パッドの中心から外周端に至る直線状の16本の溝である第2溝群の溝が形成され、
前記成形体が、直径600mm、厚さ2.5mmの円盤状であり、
前記成形体が、1,2-ポリブタジエン80体積部及びβ-サイクロデキストリン20体積部を160℃で混練し、その後、ジクミルパーオキシドを120℃で混練して得られたペレットを170℃18分加熱し、架橋させて得られたものである、
という化学機械研磨パッド。」
ウ 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明は、「半導体装置の製造における化学機械研磨工程に好適に使用することができる化学機械研磨パッド」であるから、本件発明1と甲1発明とは、「半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つを、研磨流体及び研磨パッドと前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つとの間の相対運動によって研磨又は平坦化するのに適した研磨パッド」である点で一致する。
(イ)甲1発明の「成形体」は、「前記成形体が、1,2-ポリブタジエン80体積部及びβ-サイクロデキストリン20体積部を160℃で混練し、その後、ジクミルパーオキシドを120℃で混練して得られたペレットを170℃18分加熱し、架橋させて得られたものである」ところ、技術常識からすれば、これは本件発明1の「ポリマーマトリックス」に対応するものといえる。
また、甲1発明の「成形体」は、「研磨面」を有するといえる。
さらに、甲1発明の「成形体」は、「直径600mm、厚さ2.5mmの円盤状」であるところ、技術常識からすれば、研磨面を有し、円盤状である、化学機械研磨パッドの成形体は、当然、「中心、周縁、前記中心から前記周縁まで延びる半径及び前記中心を包囲し、前記半径と交差する研磨トラックを含む研磨層であり、前記研磨トラックが、前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つを研磨又は平坦化するための前記研磨層の作用領域を表す、研磨層」を有するものといえる。
以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、「ポリマーマトリックス及び厚さを有する研磨層であって、中心、周縁、前記中心から前記周縁まで延びる半径及び前記中心を包囲し、前記半径と交差する研磨トラックを含む研磨層であり、前記研磨トラックが、前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つを研磨又は平坦化するための前記研磨層の作用領域を表す、研磨層」を含む点で一致する。
(ウ)甲1発明の「第1溝群の溝」は、「成形体」の「研磨面側」に形成され、「幅が0.5mm、深さが1.0mmの同心円状の溝」が「ピッチが2.0mmとなるように形成される」ものである。
ここで、甲1発明の「成形体」は、「直径600mm、厚さ2.5mmの円盤状」であるところ、円盤状の成形体の研磨面側に形成された同心円状の溝であれば当然、当該研磨面の半径と交差するものであるといえる。
また、幅が0.5mmでピッチが2.0mmの同心円状の溝で有れば当然、溝と溝の間に、溝でない部分(本件発明1における「ランドエリア」に相当)が形成されているといえる。
さらに、溝の「幅が0.5mm、深さが1.0mm」であるところ、その幅と深さをかけたものが断面積となり、また、合計断面積を溝の数で割れば平均断面積となることは当然のことである。
以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、「前記半径と交差する複数の供給溝(δ)であって、供給溝(δ)が、前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つを前記研磨パッド及び前記研磨流体で研磨又は平坦化するためのランドエリアを供給溝(δ)の間に有し、複数の供給溝(δ)が、幅と深さを掛けて計算される平均供給断面積(δa)を有し、平均供給断面積(δa)が、各供給溝の合計断面積を供給溝(δ)の総数で割ったものである、複数の供給溝(δ)」を含む点で一致する
(エ)甲1発明の「第2溝群の溝」は、「成形体」の「研磨面側」に形成され、「幅が1.0mmであり、深さが1.0mm」であり、「パッドの中心から外周端に至る直線状の16本の溝」である。
ここで、上記(ウ)によれば、「第1溝群の溝」は、半径と交差するように形成されるものであるところ、「第2溝群の溝」は、「パッドの中心から外周端に至る直線」、すなわち、半径方向に形成されたものであることからすれば、「第1溝群の溝」と「第2溝群の溝」とは交差するといえる。
そして、「第1溝群の溝」と「第2溝群の溝」とが交差していれば、当然、研磨流体は、それぞれの溝に流れ込むことが可能であるといえる。
また、溝の「幅が1.0mm、深さが1.0mm」であるところ、その幅と深さをかけたものが断面積となり、また、合計断面積を溝の数で割れば平均断面積となることは当然のことである。
以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、「前記研磨流体が前記複数の供給溝(δ)から少なくとも一つの半径方向排流溝(ρ)に流れることを許すための、前記複数の供給溝(δ)と交差する、前記研磨層中の少なくとも一つの半径方向排流溝(ρ)と、を含み」、「前記少なくとも一つの半径方向排流溝(ρ)が幅と深さを掛けて計算される平均排流断面積(ρa)を有し、」という点で一致する。
(オ)甲1発明の「第1溝群の溝」は、「幅が0.5mm、深さが1.0mm」であるところ、その断面積は、0.5mm×1.0mm=0.5mm2である。
また、「第2溝群の溝」は、「幅が1.0mm、深さが1.0mm」であるところ、その断面積は、1.0mm×1.0mm=1.0mm2である。
よって、甲1発明の第2溝群の溝の断面積は、第1溝群の溝の断面積の2倍である。
以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、「前記少なくとも一つの半径方向排流溝の前記平均排流断面積(ρa)が、2*δa≦ρa≦6*δa」にしたがう点で一致する。
(カ)甲1発明の「第2溝群の溝」は、外周端に至る溝であることからすれば、「化学機械研磨パッド」の回転中に、研磨くずを外周端へと除去することができるものといえる。
よって、本件発明1と甲1発明とは、「前記少なくとも一つの半径方向排流溝(ρ)が前記研磨トラックを通過して延びて、前記研磨パッドの回転中、研磨くずを、前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つの下で、前記研磨トラックに通し、前記研磨トラックを越えさせて前記研磨パッドの前記周縁へと除去することを促進する」点で共通する。
以上の(ア)~(カ)によれば、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つを、研磨流体及び研磨パッドと前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つとの間の相対運動によって研磨又は平坦化するのに適した研磨パッドであって、
ポリマーマトリックス及び厚さを有する研磨層であって、中心、周縁、前記中心から前記周縁まで延びる半径及び前記中心を包囲し、前記半径と交差する研磨トラックを含む研磨層であり、前記研磨トラックが、前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つを研磨又は平坦化するための前記研磨層の作用領域を表す、研磨層と、
前記半径と交差する複数の供給溝(δ)であって、供給溝(δ)が、前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つを前記研磨パッド及び前記研磨流体で研磨又は平坦化するためのランドエリアを供給溝(δ)の間に有し、複数の供給溝(δ)が、幅と深さを掛けて計算される平均供給断面積(δa)を有し、平均供給断面積(δa)が、各供給溝の合計断面積を供給溝(δ)の総数で割ったものである、複数の供給溝(δ)と、
前記研磨流体が前記複数の供給溝(δ)から少なくとも一つの半径方向排流溝(ρ)に流れることを許すための、前記複数の供給溝(δ)と交差する、前記研磨層中の少なくとも一つの半径方向排流溝(ρ)と、を含み、
前記少なくとも一つの半径方向排流溝(ρ)が幅と深さを掛けて計算される平均排流断面積(ρa)を有し、
前記少なくとも一つの半径方向排流溝の前記平均排流断面積(ρa)が、
2*δa≦ρa≦6*δa
にしたがい、
前記少なくとも一つの半径方向排流溝(ρ)が前記研磨トラックを通過して延びて、前記研磨パッドの回転中、研磨くずを、前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つの下で、前記研磨トラックに通し、前記研磨トラックを越えさせて前記研磨パッドの前記周縁へと除去することを促進する、研磨パッド。」
<相違点1>
本件発明1は、半径方向排流溝の数「(nr)」について、「nrは1~12」であるのに対し、甲1発明のパッドの中心から外周端に至る直線状の溝である第2溝群の溝の数が16本である点。
<相違点2>
本件発明1は、平均排流断面積(ρa)が「(0.15)nf*δa≦nr*ρa≦(0.35)nf*δa」「(式中、(nr)は半径方向排流溝の数を表し、(nf)は半径方向排流溝の両側に交わる供給溝の総数、すなわち供給溝の実際の数を2倍した数を表す)」「にしたがって平均供給断面積(δa)よりも大き」いのに対し、甲1発明が、上記の式を満たすか否かが不明である点。
エ 判断
以下、相違点について検討する。
(ア)相違点1及び2について
a 相違点1の検討
甲第1号証の【0020】(前記イ(ア)a)には、「第2溝群の第2溝の数は、好ましくは4~65本であり、更に好ましくは8~48本である。」と記載されているから、この示唆にしたがって、甲1発明の「16」である第2溝群の溝の数を甲第1号証の【0020】に記載された「4~65」の範囲内である「4~12」とし、相違点1に係る本件発明1の構成を導き出すようにすることは、当業者が容易に想到し得たことであるといえる。
b 相違点2の検討
(a)甲1発明における「第1溝群の溝」の数について
甲1発明の「第1溝群の溝」は、直径600mmの円盤状の成形体の研磨面に形成された同心円状の溝であり、かつ、ピッチが2.0mmとなるように形成されたものである。
ここで、甲1発明においては、「第1溝群の溝」が中心からどの程度の距離をおいて形成されているか不明であるため、「第1溝群の溝」の数が不明である。
これに対し、甲第1号証の【0022】(前記イ(ア)a)には、「第2溝群がいずれも中心部から発し、周辺部へ伸びる溝である場合には、第2溝群は、中心部の領域において他の第2溝と接していない第2溝と、中心部の領域において他の第2群の溝と接している第2溝とからなることが好ましい。中心部の領域において他の第2溝と接していない第2溝は、パッドの中心から10~200mmの位置から発し、そこから周辺部へ向かう方向に伸びる溝であることが好ましく、パッドの中心から20~100mmの位置から発し、そこから周辺部へ向かう方向に伸びる溝であることがより好ましい。」というように、第2溝群の一部である中心部の領域において他の第2溝と接していない第2溝がパッドの中心から20~100mmの位置から発することが記載されている。
そして、同【0028】に、「図2のパッドは、32本の直線溝2からなる第2溝群と、直径の異なる10本の同心円溝3からなる第1溝群とを有している。32本の直線溝のうち4本は互に接し中心から発しているのに対し、他の28本の直線溝は中心から幾分周辺部へ後退した部分(この部分が中心部であることは、第1溝群のうち最も小さな円溝にもこの直線溝が交差していることで判定できる)から発している。」というように、第2溝群の一部が発する位置が「中心部」であり、かつ、「中心部」に第1溝群の最も小さな円溝が形成されることが記載されている。
以上によれば、甲1発明における「第1溝群の溝」のうち、最も小さな円状の溝は、パッドの中心から20~100mmの位置から形成されているものといえる。
そうすると、甲1発明における「第1溝群の溝の数」は、100~140本であるものといえる。(半径300mmの円盤の中心から20~100mmの位置から、ピッチ2.0mmで円状の溝が形成されるものとして計算した。)
(b)相違点2の式「(0.15)nf*δa≦nr*ρa≦(0.35)nf*δa」について
上記相違点2の式のδaは、「供給溝(δ)」における「幅と深さを掛けて計算される平均供給断面積(δa)」であるところ、これに対応する甲1発明における「第1溝群の溝」の断面積は、「0.5mm2」である。(0.5mm×1.0mm)
また、上記相違点2の式のnfは「半径方向排流溝の両側に交わる供給溝の総数、すなわち供給溝の実際の数を2倍した数を表す」ものであるところ、これに対応する甲1発明における「第1溝群の溝」の数の2倍は、「200~280」である。
更に、上記相違点2の式のρaは「半径方向排流溝(ρ)」について「幅と深さを掛けて計算される平均排流断面積(ρa)」であるところ、これに対応する甲1発明における「第2溝群の溝」の断面積は、1.0mm2である。(1.0mm×1.0mm)
また、上記相違点2の式のnrは「半径方向排流溝の数を表」すものであるところ、これに対応する甲1発明における「第2溝群の溝」の数は、「16」であるが、上記aのとおり、相違点1の判断において「4~12」とすることが当業者が容易に想到し得たことであるとしているから、ここでは、「4~12」であるとして計算を行う。
以上の各数値を代入すると、下記表のとおり、上記相違点2の式が満たされないことが分かる。(下記表は、「第2溝群の溝」の数が「12」の場合を表しているが、「4~11」の場合も同様に上記、上記相違点2の式を満たさない。)
[図:0001399365000003.jpg]
そして、甲1発明において、上記相違点2の式を満たすように各数値を変更しようという動機付けはない。
よって、上記aのとおり、相違点1の判断において甲1発明における「第2溝群の溝」の数を「4~12」にした場合には相違点2の式が満たされなくなるから、甲1発明において、相違点1及び2に係る本件発明1の構成を導き出すようにすることは、当業者にとっても容易に想到し得たことであるとはいえない。
(イ)以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)申立人の主張について
a 特許異議申立書における主張
申立人は、特許異議申立書において、甲1号証に記載された発明について、同心円状溝(第1溝群の溝)の数を125本、直線状溝(第2溝群の溝)の数を16本(実施例1、2)とすると、訂正前の請求項1の式を満たすこと、及び、甲第1号証の【0020】の記載に基づいて、直線状溝(第2溝群の溝)の数を4~65本とすることが当業者が容易に想到しうるものであることを主張する。(特許異議申立書の第34ページ第26行~第40ページ第28行。)
しかしながら、甲1発明において、第2溝群の溝の数について本件発明1の範囲を満たすようにした場合、本件発明1の式を満たさなくなることは上記(ア)のとおりである。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
b 意見書における主張
申立人は、令和5年2月27日に提出した意見書において、甲1発明において、相違点2の式を満たすように甲1発明の第2溝群の溝の数を、4~12本とすることは当業者が適宜なし得る事項である旨を主張する。(同意見書の第2ページ第1行~第3ページ第11行。)
しかしながら、甲1発明において、第2溝群の溝の数について本件発明1の範囲を満たすようにした場合、本件発明1の式を満たさなくなることは上記(ア)のとおりである。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
また、申立人は、同意見書において、甲第1号証の実施例4には、幅0.5mm、深さ1.4mm、ピッチ2.0mmの同心円状溝(第1溝群の溝)、及び、幅1.0mm、深さ1.4mmの32本の直線溝(第2溝群の溝)、すなわち、第1溝群の溝の断面積が0.5mm2であり、第2溝群の溝の断面積が1.4mm2であるものが記載されており、この実施例4の研磨パッドにおいて、第2溝群の溝の数を32本から12本に減じた場合には、本件発明1の不等式を満たすこと、及び、そのように減じることは当業者が適宜なし得たことである旨を主張する。(同意見書の第3ページ第12行~第4ページ第29行。)
しかしながら、甲第1号証の実施例4の第1溝群の溝の断面積は、0.5mm2ではなく、0.7mm2(0.5mm×1.4mm)であり、これを、第2溝群の溝の数を12本に減じた場合の本件発明1の上記相違点2の式に代入すると、下記のとおり、式が満たされないといえる。
21 > 16.8 ≦ 49
(0.15×200×0.7) (12×1.4) (0.35×200×0.7)
よって、本件発明1は、甲第1号証の実施例4の第2溝群の溝の数を単に減じただけのものとはいえず、甲第1号証において、上記相違点2の式を満たすようにする動機付けもないことからすれば、甲第1号証の実施例4において、本件発明1の構成を導き出すようにすることは当業者にとっても容易に想到しえたものとはいえない。
よって申立人の上記主張は採用できない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を減縮した発明であり、相違点1、2に係る本件発明1の構成を有しているから、上記(1)で検討したのと同様の理由により、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明ではないから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえない。
また、以上のとおり、本件発明1~2は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、請求項1~2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 甲第2号証を主引例とする特許法第29条第1項第3号及び同第2項の規定違反(新規性、進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1
本件発明1は、上記「第3 本件発明」に記載したとおりの事項により特定されるものであると認める。
イ 甲第2号証の記載事項及び甲2発明
(ア)甲第2号証について
a 本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証:特開2006-5339号公報(平成18年1月5日公開)には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、化学機械研磨工程に好適に使用することができる化学機械研磨パッド、及び該研磨パッドを用いる化学機械研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造において、優れた平坦性を有する表面を形成することができる研磨方法として、化学機械研磨(ChemicalMechanical Polishing=”CMP”)が注目されている。・・・」
「【発明を実施するための最良の形態】
・・・
【0011】
同心に配置された、直径の異なる複数本の溝(環)の数は例えば20~400本であることができ、また複数本の螺旋状溝の数は例えば2~10本であることができる。・・・
・・・
【0015】
・・・第2溝群の第2溝の数は、好ましくは4~65本であり、更に好ましくは8~48本である。」
「【実施例】
【0054】
実施例1
(1)化学機械研磨パッドの製造
架橋されて非水溶性マトリックスとなる1,2-ポリブタジエン(JSR(株)製、商品名「JSR RB830」)80体積部(72質量部に相当)と、水溶性粒子であるβ-サイクロデキストリン((株)横浜国際バイオ研究所製、商品名「デキシパールβ-100」、平均粒径20μm)20体積部(28質量部に相当)とを160℃に調温されたルーダーにより混練した。その後、ジクミルパーオキシド(日本油脂(株)製、商品名「パークミルD」)1.0体積部(1.1質量部に相当)を配合して、120℃にて更に混練し、ペレットを得た。次いで、混練物を金型内において170℃で18分加熱し、架橋させて、直径600mm、厚さ2.5mmの円盤状の成形体を得た。その後、この成形体の研磨面側に加藤機械(株)製の切削加工機を用いて、幅が0.5mm、深さが1.0mmの同心円状の溝を、ピッチが2.0mmとなるように形成した(第1溝群の溝)。更に、研磨面側に、パッドの中心から外周端に至る直線状の溝16本(それぞれの幅は1.0mmであり、深さは1.0mmである。)を、パッド研磨面の中心で互いに接し、隣接する直線溝となす角度はいずれも22.5°となるように形成した(第2溝群の溝)。ここで形成した溝群の構成は、図1に示した概略図に相当する。なお、ここで形成した溝群につき三次元表面構造解析顕微鏡(型式「Zygo New View 5032,」キヤノン(株)製)で内面の表面粗さを測定したところ、4.2μmであった。
・・・
【0056】
実施例2
実施例1において、第2溝群の溝として、パッドの中心から外周端に至る直線状の溝4本(それぞれの幅は1.0mmであり、深さは1.0mmである。)を、パッド研磨面の中心で互いに接し、隣接する直線溝となす角度はいずれも90°となるように形成し、更に、パッド中心から25mmの点から外周端に至る直線溝を、いずれも隣接する直線溝となす角度が11.25°となるように、28本の直線溝を形成した他は、実施例1と同様にして化学機械研磨パッドを製造した。ここで形成した溝群の構成は、図2に示した概略図に相当する。なお、ここで形成した溝群の、内面の表面粗さは3.9μmであった。
上記で作成した研磨パッドを使用した他は実施例1と同様にして研磨速度、スクラッチ数を評価した。その結果、研磨速度は220nm/分であり、スクラッチは確認されなかった。
・・・
【0058】
実施例4
1,2-ポリブタジエン(JSR(株)製、商品名「JSR RB830」)56体積部(48質量部に相当)と、ポリスチレン(エー・アンド・エンスチレン(株)製、商品名「GPPSHF55」)14体積部(12質量部に相当)と、水溶性粒子であるβ-サイクロデキストリン((株)横浜国際バイオ研究所製、商品名「デキシパールβ-100」、平均粒径20μm)30体積部(40質量部に相当)とを160℃に調温されたルーダーにより混練した。その後、ジクミルパーオキシド(日本油脂(株)製、商品名「パークミルD」)0.5体積部(0.56質量部に相当)を配合して、120℃にて更に混練し、ペレットを得た。次いで、混練物を金型内において180℃で10分加熱し、架橋させて、直径600mm、厚さ2.8mmの円盤状の成形体を得た。その後、この成形体の研磨面側に加藤機械(株)製の切削加工機を用いて、幅が0.5mm、ピッチが2.0mm、深さが1.4mmの同心円状の溝を形成した(第1溝群の溝)。更に第2溝群の溝として、溝深さを1.4mmとする以外は実施例2における第2溝群の溝と同様に形成した。ここで形成した溝群の、内面の表面粗さは3.5μmであった。
・・・
【0060】
実施例6
1,2-ポリブタジエン(JSR(株)製、商品名「JSR RB830」)80体積部(72質量部に相当)と、水溶性粒子であるβ-サイクロデキストリン((株)横浜国際バイオ研究所製、商品名「デキシパールβ-100」、平均粒径20μm)20体積部(28質量部に相当)とを160℃に調温されたルーダーにより混練した。その後、ジクミルパーオキシド(日本油脂(株)製、商品名「パークミルD」)0.12体積部(0.13質量部に相当)を配合して、120℃にて更に混練し、ペレットを得た。次いで、混練物を金型内において170℃で18分加熱し、架橋させて、直径800mm、厚さ2.5mmの円盤状の成形体を得た。その後この成形体に実施例1と同様の溝群を形成した。ここで形成した溝群の構成は、ここで形成した溝群の、内面の表面粗さは3.5μmであった。この直径800mmの研磨パッドの中心部分を直径600mmに切り取り、実施例1と同様にして研磨速度、スクラッチ数を評価した。その結果、研磨速度は254nm/分であり、スクラッチは確認されなかった。」
「【図1】
[図:0001399365000004.jpg]
」
b 甲第2号証の記載事項
(a)前記aの【0001】には、「本発明は、化学機械研磨工程に好適に使用することができる化学機械研磨パッド、及び該研磨パッドを用いる化学機械研磨方法に関する。」と記載され、同【0002】には、背景技術として、「半導体装置の製造において、優れた平坦性を有する表面を形成することができる研磨方法として、化学機械研磨(ChemicalMechanical Polishing=”CMP”)が注目されている。」と記載されているから、甲第2号証の記載は、「半導体装置の製造」における「化学機械研磨工程に好適に使用することができる化学機械研磨パッド」に関するものであるといえる。
(b)同【0054】に「(1)化学機械研磨パッドの製造 ・・・その後、この成形体の研磨面側に加藤機械(株)製の切削加工機を用いて、幅が0.5mm、深さが1.0mmの同心円状の溝を、ピッチが2.0mmとなるように形成した(第1溝群の溝)。更に、研磨面側に、パッドの中心から外周端に至る直線状の溝16本(それぞれの幅は1.0mmであり、深さは1.0mmである。)を、パッド研磨面の中心で互いに接し、隣接する直線溝となす角度はいずれも22.5°となるように形成した(第2溝群の溝)。」と記載されているから、「化学機械研磨パッド」は、「成形体」を有し、当該「成形体」の研磨面側には、幅が0.5mm、深さが1.0mmの同心円状の溝である第1溝群の溝がピッチが2.0mmとなるように形成されるとともに、幅が1.0mm、深さが1.0mmであり、パッドの中心から外周端に至る直線状の16本の溝である第2溝群の溝が形成される、といえる。
(c)同【0054】には、「架橋されて非水溶性マトリックスとなる1,2-ポリブタジエン(JSR(株)製、商品名「JSR RB830」)80体積部(72質量部に相当)と、水溶性粒子であるβ-サイクロデキストリン((株)横浜国際バイオ研究所製、商品名「デキシパールβ-100」、平均粒径20μm)20体積部(28質量部に相当)とを160℃に調温されたルーダーにより混練した。その後、ジクミルパーオキシド(日本油脂(株)製、商品名「パークミルD」)1.0体積部(1.1質量部に相当)を配合して、120℃にて更に混練し、ペレットを得た。次いで、混練物を金型内において170℃で18分加熱し、架橋させて、直径600mm、厚さ2.5mmの円盤状の成形体を得た。」と記載されているから、「化学機械研磨パッド」の「成形体」は、「直径600mm、厚さ2.5mmの円盤状」であり、1,2-ポリブタジエン80体積部及びβ-サイクロデキストリン20体積部を160℃で混練し、その後、ジクミルパーオキシドを120℃で混練して得られたペレットを170℃18分加熱し、架橋させて得られたものである、といえる。
c 甲第2号証に記載された発明
前記bの記載事項から、甲第2号証には、図1に示された実施例1の化学機械研磨パッドに関して次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「半導体装置の製造における化学機械研磨工程に好適に使用することができる化学機械研磨パッドにおいて、
成形体を有し、
前記成形体の研磨面側には、幅が0.5mm、深さが1.0mmの同心円状の溝である第1溝群の溝がピッチが2.0mmとなるように形成されるとともに、幅が1.0mm、深さが1.0mmであり、パッドの中心から外周端に至る直線状の16本の溝である第2溝群の溝が形成され、
前記成形体が、直径600mm、厚さ2.5mmの円盤状であり、
前記成形体が、1,2-ポリブタジエン80体積部及びβ-サイクロデキストリン20体積部を160℃で混練し、その後、ジクミルパーオキシドを120℃で混練して得られたペレットを170℃18分加熱し、架橋させて得られたものである、
という化学機械研磨パッド。」
ウ 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明は、「半導体装置の製造における化学機械研磨工程に好適に使用することができる化学機械研磨パッド」であるから、本件発明1と甲2発明とは、「半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つを、研磨流体及び研磨パッドと前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つとの間の相対運動によって研磨又は平坦化するのに適した研磨パッド」である点で一致する。
(イ)甲2発明の「成形体」は、「前記成形体が、1,2-ポリブタジエン80体積部及びβ-サイクロデキストリン20体積部を160℃で混練し、その後、ジクミルパーオキシドを120℃で混練して得られたペレットを170℃18分加熱し、架橋させて得られたものである」ところ、技術常識からすれば、これは本件発明1の「ポリマーマトリックス」に対応するものといえる。
また、甲2発明の「成形体」は、「研磨面」を有するといえる。
さらに、甲2発明の「成形体」は、「直径600mm、厚さ2.5mmの円盤状」であるところ、技術常識からすれば、研磨面を有し、円盤状である、化学機械研磨パッドの成形体は、当然、「中心、周縁、前記中心から前記周縁まで延びる半径及び前記中心を包囲し、前記半径と交差する研磨トラックを含む研磨層であり、前記研磨トラックが、前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つを研磨又は平坦化するための前記研磨層の作用領域を表す、研磨層」を有するものといえる。
以上によれば、本件発明1と甲2発明とは、「ポリマーマトリックス及び厚さを有する研磨層であって、中心、周縁、前記中心から前記周縁まで延びる半径及び前記中心を包囲し、前記半径と交差する研磨トラックを含む研磨層であり、前記研磨トラックが、前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つを研磨又は平坦化するための前記研磨層の作用領域を表す、研磨層」を含む点で一致する。
(ウ)甲2発明の「第1溝群の溝」は、「成形体」の「研磨面側」に形成され、「幅が0.5mm、深さが1.0mmの同心円状の溝」が「ピッチが2.0mmとなるように形成される」ものである。
ここで、甲2発明の「成形体」は、「直径600mm、厚さ2.5mmの円盤状」であるところ、円盤状の成形体の研磨面側に形成された同心円状の溝であれば当然、当該研磨面の半径と交差するものであるといえる。
また、幅が0.5mmでピッチが2.0mmの同心円状の溝で有れば当然、溝と溝の間に、溝でない部分(本件発明1における「ランドエリア」に相当)が形成されているといえる。
さらに、溝の「幅が0.5mm、深さが1.0mm」であるところ、その幅と深さをかけたものが断面積となり、また、合計断面積を溝の数で割れば平均断面積となることは当然のことである。
以上によれば、本件発明1と甲2発明とは、「前記半径と交差する複数の供給溝(δ)であって、供給溝(δ)が、前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つを前記研磨パッド及び前記研磨流体で研磨又は平坦化するためのランドエリアを供給溝(δ)の間に有し、複数の供給溝(δ)が、幅と深さを掛けて計算される平均供給断面積(δa)を有し、平均供給断面積(δa)が、各供給溝の合計断面積を供給溝(δ)の総数で割ったものである、複数の供給溝(δ)」を含む点で一致する
(エ)甲2発明の「第2溝群の溝」は、「成形体」の「研磨面側」に形成され、「幅が1.0mmであり、深さが1.0mm」であり、「パッドの中心から外周端に至る直線状の16本の溝」である。
ここで、上記(ウ)によれば、「第1溝群の溝」は、半径と交差するように形成されるものであるところ、「第2溝群の溝」は、「パッドの中心から外周端に至る直線」、すなわち、半径方向に形成されたものであることからすれば、「第1溝群の溝」と「第2溝群の溝」とは交差するといえる。
そして、「第1溝群の溝」と「第2溝群の溝」とが交差していれば、当然、研磨流体は、それぞれの溝に流れ込むことが可能であるといえる。
また、溝の「幅が1.0mm、深さが1.0mm」であるところ、その幅と深さをかけたものが断面積となり、また、合計断面積を溝の数で割れば平均断面積となることは当然のことである。
以上によれば、本件発明1と甲2発明とは、「前記研磨流体が前記複数の供給溝(δ)から少なくとも一つの半径方向排流溝(ρ)に流れることを許すための、前記複数の供給溝(δ)と交差する、前記研磨層中の少なくとも一つの半径方向排流溝(ρ)と、を含み」、「前記少なくとも一つの半径方向排流溝(ρ)が幅と深さを掛けて計算される平均排流断面積(ρa)を有し、」という点で一致する。
(オ)甲2発明の「第1溝群の溝」は、「幅が0.5mm、深さが1.0mm」であるところ、その断面積は、0.5mm×1.0mm=0.5mm2である。
また、「第2溝群の溝」は、「幅が1.0mm、深さが1.0mm」であるところ、その断面積は、1.0mm×1.0mm=1.0mm2である。
よって、甲2発明の第2溝群の溝の断面積は、第1溝群の溝の断面積の2倍である。
以上によれば、本件発明1と甲2発明とは、「前記少なくとも一つの半径方向排流溝の前記平均排流断面積(ρa)が、2*δa≦ρa≦6*δa」にしたがう点で一致する。
(カ)甲2発明の「第2溝群の溝」は、外周端に至る溝であることからすれば、「化学機械研磨パッド」の回転中に、研磨くずを外周端へと除去することができるものといえる。
よって、本件発明1と甲2発明とは、「前記少なくとも一つの半径方向排流溝(ρ)が前記研磨トラックを通過して延びて、前記研磨パッドの回転中、研磨くずを、前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つの下で、前記研磨トラックに通し、前記研磨トラックを越えさせて前記研磨パッドの前記周縁へと除去することを促進する」点で共通する。
以上の(ア)~(カ)によれば、本件発明1と甲2発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つを、研磨流体及び研磨パッドと前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つとの間の相対運動によって研磨又は平坦化するのに適した研磨パッドであって、
ポリマーマトリックス及び厚さを有する研磨層であって、中心、周縁、前記中心から前記周縁まで延びる半径及び前記中心を包囲し、前記半径と交差する研磨トラックを含む研磨層であり、前記研磨トラックが、前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つを研磨又は平坦化するための前記研磨層の作用領域を表す、研磨層と、
前記半径と交差する複数の供給溝(δ)であって、供給溝(δ)が、前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つを前記研磨パッド及び前記研磨流体で研磨又は平坦化するためのランドエリアを供給溝(δ)の間に有し、複数の供給溝(δ)が、幅と深さを掛けて計算される平均供給断面積(δa)を有し、平均供給断面積(δa)が、各供給溝の合計断面積を供給溝(δ)の総数で割ったものである、複数の供給溝(δ)と、
前記研磨流体が前記複数の供給溝(δ)から少なくとも一つの半径方向排流溝(ρ)に流れることを許すための、前記複数の供給溝(δ)と交差する、前記研磨層中の少なくとも一つの半径方向排流溝(ρ)と、を含み、
前記少なくとも一つの半径方向排流溝(ρ)が幅と深さを掛けて計算される平均排流断面積(ρa)を有し、
前記少なくとも一つの半径方向排流溝の前記平均排流断面積(ρa)が、
2*δa≦ρa≦6*δa
にしたがい、
前記少なくとも一つの半径方向排流溝(ρ)が前記研磨トラックを通過して延びて、前記研磨パッドの回転中、研磨くずを、前記半導体基材、光学基材及び磁性基材の少なくとも一つの下で、前記研磨トラックに通し、前記研磨トラックを越えさせて前記研磨パッドの前記周縁へと除去することを促進する、研磨パッド。」
<相違点1>
本件発明1は、半径方向排流溝の数「(nr)」について、「nrは1~12」であるのに対し、甲2発明のパッドの中心から外周端に至る直線状の溝である第2溝群の溝の数が16本である点。
<相違点2>
本件発明1は、平均排流断面積(ρa)が「(0.15)nf*δa≦nr*ρa≦(0.35)nf*δa」「(式中、(nr)は半径方向排流溝の数を表し、(nf)は半径方向排流溝の両側に交わる供給溝の総数、すなわち供給溝の実際の数を2倍した数を表す)」「にしたがって平均供給断面積(δa)よりも大き」いのに対し、甲2発明が、上記の式を満たすか否かが不明である点。
エ 判断
(ア)相違点2について
事案に鑑み、相違点2から検討する。
甲2発明において、相違点2の式を導き出すようにする動機付けはない。
一方、本件発明1は、相違点2に係る構成を有することで、「低すぎる排流比は、十分な研磨副生成物を除去せず、欠陥を減らさない。高すぎる排流比は、流体力学に影響を及ぼし(ウェーハ不均一性の増大によって示される)、排流溝が用いられない場合よりも欠陥を増加させた。」(本件明細書の【0035】)という欠陥を減らす効果を得られるものである。
そうすると、甲2発明において、相違点2に係る本件発明1の構成を導き出すことが当業者にとって容易に想到しうるものであったとはいえない。
(イ)以上のとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明でなく、また、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)申立人の主張について
a 特許異議申立書における主張
申立人は、特許異議申立書において、甲第2号証に記載された発明について、同心円状溝(第1溝群の溝)の数を125本、直線状溝(第2溝群の溝)の数を16本(実施例1、6)又は32本(実施例2、4)とすると、訂正前の請求項1の式を満たすこと、及び、甲第2号証の【0015】の記載に基づいて、直線状溝(第2溝群の溝)の数を4~65本とすることが当業者が容易に想到しうるものであることを主張する。(特許異議申立書の第41ページ第1行~第47ページ第25行。)
しかしながら、本件訂正により、請求項1が訂正された結果、甲第2号証の実施例1、2、4、6は、いずれも、上記相違点2の式を満たさなくなった。
そして、上記(ア)のとおり、甲2発明において、相違点2の式を導き出すようにする動機付けはなく、甲2発明に基づいて、相違点2に係る本件発明1の構成を導き出すようにすることは当業者にとっても容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を減縮した発明であり、相違点1、2に係る本件発明1の構成を有しているから、上記(1)で検討したのと同様の理由により、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲2発明ではないから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえない。
また、本件発明1~2は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、請求項1~2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
よって、甲第2号証を主引例とする特許法第29条第1項第3号及び同第2項の規定違反の申立理由には理由がない。
2 特許法第36条第6項第1号の規定違反(サポート要件違反)について
(1)特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かについては、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
(2)本件明細書の【0007】によれば、本件発明が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、「欠陥を減らし、研磨パッド耐用寿命を延ばす溝」を有する研磨パッドを提供することである。
(3)発明の詳細な説明の記載について
ア 本件明細書には以下の記載がある。(下線は当審による。)
「【発明を実施するための形態】
・・・
【0016】
ウェーハ接触中、ランドエリアへのスラリー輸送は溝を介して起こる。残念ながら、溝は二つの目的:新鮮なスラリーを供給する目的及び使用済みスラリーを除去する目的を果たす。・・・パッド寿命中の欠陥率変化は以下のような三つの領域を有する。(a)新品パッドが導入されたとき(ならし時)の高い初期欠陥率;(b)ならし欠陥率がその使用の分だけ低い定常状態へと低下する領域;及び(c)欠陥率及びウェーハ不均一性が望ましくなく高いレベルまで増大する寿命の終わり状態。上記から、領域(c)を防ぐ、又は遅らせることがパッドの耐用研磨寿命を改善することは明らかである。
・・・
【0019】
図1を参照すると、研磨パッド10は、円形溝12と半径方向溝16との組み合わせを含む。平坦な、一般には多孔性のランドエリア14が円形溝12及び半径方向溝16を分けている。研磨中、円形溝12が半径方向溝16と組み合わさって、研磨スラリー又は研磨溶液をランドエリア14に分配して、基材、たとえば半導体基材、光学基材又は磁性基材の少なくとも一つと相互作用させる。円形溝12及び半径方向溝16は均一な断面を有する。これらの溝パターンに伴う問題は、時間とともに、研磨くずが溝12及び16中に集まり、その後、定期的にランドエリア14に移動し、そこで欠陥、たとえば基材のスクラッチ欠陥を付与するということである。
・・・
【0031】
本発明に関し、供給溝(δ)は平均供給断面積(δa)を有し、平均供給断面積(δa)は、各供給溝の合計断面積を供給溝(δ)の総数で割ったものである。半径方向排流溝(ρ)は平均排流断面積(ρa)を有し、半径方向排流溝の平均排流断面積(ρa)は、次式にしたがって、平均供給断面積(δa)の少なくとも2倍かつ供給断面積(δa)の8倍未満の大きさである。
2*δa≦ρa≦8*δa
式中、(nr)は半径方向溝の数を表し、(nf)は供給溝の数を表し、次式にしたがって、半径方向排流溝の各側からの合計を表す。
(0.15)nf*δa≦nr*ρa≦(0.35)nf*δa
一般に、nr*は1~16である。もっとも好都合には、nrは2~12である。」
「【実施例1】
・・・
【0038】
0.15未満の相対排流面積比は効果がない。パッドの上面への新鮮なスラリーの過剰な送り出しのせいで、半径方向溝の数は、スラリー送り出し速度を含むいくつかの変数に依存する。排流能力が高すぎるならば、これは、溝の中で利用可能なスラリーを不十分にしてしまい、結果的にパッドの乾燥を生じさせるおそれがある。これが、スクラッチ欠陥のような欠陥の有害な発生源である。本発明の排流溝は欠陥を減らす。同様に、低すぎる排流比は、十分な研磨副生成物を除去せず、欠陥を減らさない。高すぎる排流比は、流体力学に影響を及ぼし(ウェーハ不均一性の増大によって示される)、排流溝が用いられない場合よりも欠陥を増加させた。
【実施例2】
【0039】
最適範囲を評価するために、以下の実験を実施した。五つの異なる半径方向溝を一連の独立気泡ポリウレタン研磨パッドに適用した。これらのパッドは、幅20mil、深さ30mil及びピッチ120mil(0.051cm×0.076cm×ピッチ0.305cm)の円形溝を有するものであった。呼称ならびに半径方向溝の寸法及び数を表1に示す。
【0040】
【表1】
[図:0001399365000005.jpg]
【0041】
【表2】
[図:0001399365000006.jpg]
【0042】
研磨条件は以下のように要約される。
MDC Mirra、K1505-50μmコロイダルスラリー
Saesol AK45(8031cl)ダイアモンドディスク、パッドならし30分7psi(48kPa)、全インサイチュー条件7psi(48kPa)
プロセス:パッドダウンフォース3psi(20.7kPa)
プラテン速度93rpm
キャリヤ速度87rpm
スラリー流量200ml/m
11、37、63、89、115、141、167及び193のウェーハカウントで研磨されたウェーハをモニタ。
KLA-TencorからのSurfscan SP1アナライザを用いて欠陥カウントを実施。
【0043】
各パッドをならし運用して始動効果を排除し、200個のウェーハを研磨して速度及び欠陥率安定性を評価した。パッド間の速度に大きな差はなかった。しかし、図11及び12に示すように、欠陥率に有意な差があった。幅90mil(0.229cm)/8半径方向溝及び幅120mil(0.305cm)/8半径方向溝のパッドサンプルが、低く安定した欠陥レベルを示した。対照を含む他すべては、試験の期間とともに変化し、研磨時間の増大とともに増大する、より高い欠陥レベルを示した。これは、対照パッドの挙動を90mil(0.229cm)溝パッドと比較した図11で特に明らかである。
【0044】
排流溝の数の倍増(供給溝に対する排流溝の面積比が0.225から0.45に増大)は、対照と比べてさえ、全体欠陥率を有意に増大させた。これは、排流効率比にとって決定的な範囲があるという暗示と考えられる。この決定的な範囲は、供給溝のサイズ及び数ならびに半径方向排流溝のサイズとともに変化することができる。
【0045】
また、HFエッチング後の欠陥データを調べて、全欠陥率をスクラッチ密度と比較した。HFエッチングは、粒子を除去するのに効果的であり、スクラッチに対する感度を高めた。理由は、HFが、クラックそのもの(デコレーション)の周囲のひずみ領域の除去によってスクラッチ深さを拡大するからである。図13に示すように、90mil(0.229cm)/8及び120mil(0.305cm)/8パッドの場合でも同じ低く安定な欠陥応答が認められたが、60mil(0.152cm)/8パッド応答がさらに近似し、そのパッドサンプル中の全欠陥の大きな割合が、大きな損傷性の凝集塊ではなく、小さな粒状物であることを示した。これは、排流効率比には下限もあるという指示である。これらの結果に基づくと、供給溝に対する半径方向排流溝の面積比の決定的範囲0.2~0.3がもっとも好都合である。」
「【図11】
[図:0001399365000007.jpg]
【図12】
[図:0001399365000008.jpg]
【図13】
[図:0001399365000009.jpg]
」
(4)発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲について
ア 本件明細書の【0016】には、「パッド寿命中の欠陥率変化は以下のような三つの領域を有する。・・・(c)欠陥率及びウェーハ不均一性が望ましくなく高いレベルまで増大する寿命の終わり状態。上記から、領域(c)を防ぐ、又は遅らせることがパッドの耐用研磨寿命を改善することは明らかである。」と記載されているから、本件課題のうち、「研磨パッド耐用寿命を延ばす」点は、欠陥を減らすことにより得られる効果であるといえる。
よって、欠陥を減らすことができるものであれば、本件課題を解決できると当業者が認識できるといえる。
イ 同【表1】に記載されたパッド1~5についての実験結果である同【0043】~【0045】及び【図11】~【図13】においては、次のことがいえる。
同【0043】によると、【図11】は200個のウェーハを研磨した際の欠陥安定性を示すものである。ここで、【図11】から、パッド2(120mil、3.05mm)及びパッド4(90mil、2.29mm)の全欠陥カウント数が、パッド3(180mil、4.57mm)及びパッド5(mil、2.29mm、半径方向溝16本)の全欠陥カウント数よりも全てのウェーハカウントにおいて少ないことが見て取れる。
同【0045】によると、【図13】は、HFエッチング後の欠陥率を示すものである。ここで、【図13】から、パッド1(60mil、152mm)、パッド2(120mil、3.05mm)及びパッド4(90mil、2.29mm)の全欠陥カウント数が、パッド3(180mil、4.57mm)の全欠陥カウント数よりも全てのウェーハカウントにおいて少ないことが見て取れる。
以上によれば、同【表1】に記載されたパッド1~5のうち、パッド1、2及び4は、パッド3及び5より欠陥を減らすことができるものといえ、上記アによれば、欠陥を減らすことができるものは、本件課題を解決できると当業者が認識できるといえるから、パッド1、2及び4は、本件課題を解決できると当業者が認識できるといえる。
ウ ここで、同【表2】には、パッド1~5の排流/供給面積比が示されているところ、本件課題を解決できると当業者が認識できるものであるパッド1、2及び4の排流/供給面積比は、それぞれ0.15、0.30及び0.225である。また、本件課題を解決できると当業者が認識できないパッド3及び5の排流/供給面積比は、それぞれ0.45、0.45である。
エ また、同【0038】には、「0.15未満の相対排流面積比は効果がない。パッドの上面への新鮮なスラリーの過剰な送り出しのせいで、半径方向溝の数は、スラリー送り出し速度を含むいくつかの変数に依存する。排流能力が高すぎるならば、これは、溝の中で利用可能なスラリーを不十分にしてしまい、結果的にパッドの乾燥を生じさせるおそれがある。これが、スクラッチ欠陥のような欠陥の有害な発生源である。本発明の排流溝は欠陥を減らす。同様に、低すぎる排流比は、十分な研磨副生成物を除去せず、欠陥を減らさない。高すぎる排流比は、流体力学に影響を及ぼし(ウェーハ不均一性の増大によって示される)、排流溝が用いられない場合よりも欠陥を増加させた。」と記載されているから、排流能力が高すぎる場合も低すぎる場合も欠陥が減らないものといえる。
オ 一方、同【0031】には、「本発明に関し、・・・(0.15)nf*δa≦nr*ρa≦(0.35)nf*δa」と記載されているところ、この式は、上記ウにおける排流/供給面積比に対応するものであり、その範囲は、0.15~0.35である。
ここで、上記ウにおいて、本件課題を解決できると当業者が認識できるものであるパッド1、2及び4の排流/供給面積比がいずれも、同【0031】の上記式の範囲に含まれている一方、本件課題を解決できると当業者が認識できないパッド3及び5の排流/供給面積比は、上記式の範囲に含まれておらず、かつ、上記エにおける排流能力が高すぎる場合も低すぎる場合も欠陥が減らない旨の記載を考慮すれば、排流能力が高すぎる範囲と低すぎる範囲を除く範囲においては欠陥が減るものと理解できることからすれば、同【0031】の上記式の範囲において、欠陥を減らすことができ、本件課題を解決できると当業者が認識できるといえる。
カ また、同【0038】の記載からすれば、特定の範囲の排流/供給面積比が欠陥の減少に寄与していると理解されるから、その範囲の排流/供給面積比が満たされるのであれば、溝の断面積及び溝の本数について、上記パッド1~5以外のものでも本件課題を解決できると当業者が認識できるといえる。
(5)本件発明1~2について
本件発明1、2は、いずれも「(0.15)nf*δa≦nr*ρa≦(0.35)nf*δa」にしたがうものであるところ、上記(4)によれば、本件発明1~2は、本件課題を解決することができると当業者が認識できる範囲にあるものといえる。
(6)申立人の主張について
ア 申立人は、本件発明の要件を満たすのは本件明細書の実施例2のパッド1のみであり、実施例を本件発明まで拡張ないし一般化できない旨を主張する。(特許異議申立書第48ページ第9行~第49ページ第18行。)
しかしながら、上記(4)イによれば、パッド1、2及び4が本件発明に包含され、かつ、上記(4)オによれば、本件発明の式の範囲まで、本件課題を解決することができると当業者が認識できるものといえる。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
イ 申立人は、排流溝(半径方向溝)の数が8以外の数について実施例がなく、実施例を本件発明まで拡張ないし一般化できない旨を主張する。(特許異議申立書第49ページ第19行~第50ページ第2行。)
しかしながら、上記(4)カのとおり、溝の本数について、実施例以外のものでも本件課題を解決できると当業者が認識できるといえる。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
ウ 申立人は、供給溝の断面積が0.0039cm2以外のものについて実施例がなく、実施例を本件発明まで拡張ないし一般化できない旨を主張する。(特許異議申立書第50ページ第3行~第50ページ第16行。)
しかしながら、上記(4)カのとおり、溝の断面積について、実施例以外のものでも本件課題を解決できると当業者が認識できるといえる。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 申立人は、実施例2のパッド1は本件発明の要件を満たすが、【図11】を見ると明らかに全欠陥カウントが多いから、本件発明は、本件発明の効果を奏しないものを含み、よって、実施例を本件発明まで拡張ないし一般化できない旨を主張する。(特許異議申立書第50ページ第17行~第50ページ第26行。)
しかしながら、上記(4)イのとおり、パッド1は、パッド3よりもHFエッチング後の欠陥率がよいことが【図13】から見て取れるから、パッド1は、欠陥を減らすことができるものと理解される。よって、パッド1は、本件課題を解決できると当業者が認識できるといえる。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(7)小括
以上のとおりであるから、本件発明1、2は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、特許法第36条第6項第1号の規定違反の申立理由には理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700603