特許異議申立
2022-700517
向上した光学性能を有する中間膜
- 審判番号
- 2022-700517
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-551924外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6983173
- 請求日
- 2022年06月14日
- 審決日
- 2023年03月13日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.113-YAA(C03C) / P1651.121-YAA(C03C) / P1651.536-YAA(C03C) / P1651.851-YAA(C03C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6983173号発明「向上した光学性能を有する中間膜」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6983173号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第6983173号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第6983173号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)3月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2016年4月4日、2017年2月23日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、令和3年11月25日にその特許権の設定登録がされ、同年12月17日に特許掲載公報が発行された。その特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 4年 6月14日 :特許異議申立人 吉澤 悦子(以下「申立
人」という。)による請求項1~4に係る
特許に対する特許異議の申立て
同年 9月28日付け:取消理由通知
同年12月27日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提
出
令和 5年 2月17日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和4年12月27日提出の訂正請求書における訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、次の訂正事項1からなる(下線部は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、
「ここで、形成された中間膜はHUD領域を画定しており、形成は、形成された中間膜のHUD領域の全体にわたって、目標中間膜のHUD領域に関する規定の縦方向くさび角度プロファイルから0mradを超えて0.10mrad以下変動する縦方向くさび角度プロファイルを有するように行う上記方法。」
との記載を、
「ここで、形成された中間膜はHUD領域を画定しており、形成は、形成された中間膜のHUD領域の全体にわたって、目標中間膜のHUD領域に関する規定の縦方向くさび角度プロファイルから0mradを超えて0.10mrad以下変動する縦方向くさび角度プロファイルを有するように行い、形成された中間膜のHUD領域が少なくとも1つの変動角度の区域を含む、上記方法。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3も同様に訂正する。)。
(2)一群の請求項について
訂正前の請求項1の記載を請求項2、3が引用する関係にあるから、訂正前の請求項1~3は一群の請求項であるところ、訂正事項1に係る特許請求の範囲の本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項〔1~3〕を訂正の単位として請求されたものである。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件について)の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1において「形成された中間膜のHUD領域が少なくとも1つの変動角度の区域を含む」なる事項を追加して、「形成された中間膜のHUD領域」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記の追加された事項は本件特許に係る明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0107】に記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項1は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)独立特許要件について
特許異議申立ては、本件訂正前の請求項1~4についてされているので、訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件訂正請求により訂正された請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである(下線部は訂正箇所を示す。)。
「【請求項1】
中間膜又は中間膜を含むフロントガラスを製造する方法であって、
(a)目標中間膜のHUD領域に関する規定の縦方向くさび角度プロファイルを得て;そして
(b)中間膜を形成して形成された中間膜を与える;
ことを含み;
ここで、形成された中間膜はHUD領域を画定しており、形成は、形成された中間膜のHUD領域の全体にわたって、目標中間膜のHUD領域に関する規定の縦方向くさび角度プロファイルから0mradを超えて0.10mrad以下変動する縦方向くさび角度プロファイルを有するように行い、形成された中間膜のHUD領域が少なくとも1つの変動角度の区域を含む、上記方法。
【請求項2】
形成を、形成された中間膜のHUD領域の全体にわたって、目標中間膜のHUD領域に関する規定の縦方向くさび角度プロファイルから0mradを超えて0.075mrad以下変動する縦方向くさび角度プロファイルを有するように行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
フロントガラスを製造する方法であって、1対のグレージングパネルの間に形成された中間膜を積層してフロントガラスを形成することを更に含み;
フロントガラスは、そのフロントガラスに関する標準取付条件において測定して、2分未満の上部アイボックス反射二重像分離距離、及び2分未満の下部アイボックス反射二重像分離距離の少なくとも1つを示し、
標準取付条件は、標準の高さの運転者がそのフロントガラスに関して最小の反射二重像分離距離を観察する与えられたフロントガラスに関する取付条件であり、
標準の高さの運転者は、そのアイボックスの中心線が、取り付けた状態のフロントガラスの内部上の最も低い位置から水平に引いた線から134.4mmの高さである運転者であり、
上部アイボックス反射二重像分離距離及び下部アイボックス反射二重像分離距離は以下の方法で測定される、請求項1に記載の方法。
光をHUD投影システムからフロントガラスを通して通過させることによって投影像を生成する。カメラレンズの中心線が182.4mm(上部アイボックス反射二重像分離距離の測定時)又は126.2mm(下部アイボックス反射二重像分離距離の測定時)の高さに位置するデジタルカメラを用いて投影像を撮像する。カメラによって撮像された得られた像をデジタル化して、複数のピクセルを含むデジタル投影像を形成する。デジタル化したら、撮像画像を定量分析して、少なくとも1つの一次像指標、及び少なくとも1つの二次像指標を含むプロファイルを形成する。分析は、デジタル投影像の少なくとも一部を、像のその部分におけるピクセルの強度を表す数値を含む垂直像マトリクスに変換することによって行う。マトリクスの列を抽出し、ピクセル数に対してグラフ化してプロファイルを与える。プロファイルに関する一次像指標をプロファイルに関する二次像指標と比較して差を求める。次に、この差に基づいて一次ピークと二次ピークの間の分離距離(ピクセル)を用いて、次式:
【数1】
[図:0001398262000001.jpg]
にしたがって反射二重像分離距離(D)(分(アーク分))を計算する。
【請求項4】
中間膜を含むフロントガラスを製造する方法であって、
(a)目標中間膜のHUD領域に関する規定の縦方向くさび角度プロファイルを得て;
(b)中間膜を形成して形成された中間膜を与え、ここで、形成された中間膜はHUD領域を画定しており、形成は、形成された中間膜のHUD領域の全体にわたって、目標中間膜のHUD領域に関する規定の縦方向くさび角度プロファイルから0mradを超えて0.10mrad以下変動する縦方向くさび角度プロファイルを有するように行い;そして
(c)形成された中間膜を1対のグレージングパネルの間に積層してフロントガラスを形成し、ここでフロントガラスは、そのフロントガラスに関する標準取付条件において測定して、2分未満の上部アイボックス反射二重像分離距離、及び2分未満の下部アイボックス反射二重像分離距離の少なくとも1つを示す;
ことを含み、
標準取付条件は、標準の高さの運転者がそのフロントガラスに関して最小の反射二重像分離距離を観察する与えられたフロントガラスに関する取付条件であり、
標準の高さの運転者は、そのアイボックスの中心線が、取り付けた状態のフロントガラスの内部上の最も低い位置から水平に引いた線から134.4mmの高さである運転者であり、
上部アイボックス反射二重像分離距離及び下部アイボックス反射二重像分離距離は以下の方法で測定される、上記方法。
光をHUD投影システムからフロントガラスを通して通過させることによって投影像を生成する。カメラレンズの中心線が182.4mm(上部アイボックス反射二重像分離距離の測定時)又は126.2mm(下部アイボックス反射二重像分離距離の測定時)の高さに位置するデジタルカメラを用いて投影像を撮像する。カメラによって撮像された得られた像をデジタル化して、複数のピクセルを含むデジタル投影像を形成する。デジタル化したら、撮像画像を定量分析して、少なくとも1つの一次像指標、及び少なくとも1つの二次像指標を含むプロファイルを形成する。分析は、デジタル投影像の少なくとも一部を、像のその部分におけるピクセルの強度を表す数値を含む垂直像マトリクスに変換することによって行う。マトリクスの列を抽出し、ピクセル数に対してグラフ化してプロファイルを与える。プロファイルに関する一次像指標をプロファイルに関する二次像指標と比較して差を求める。次に、この差に基づいて一次ピークと二次ピークの間の分離距離(ピクセル)を用いて、次式:
【数2】
[図:0001398262000002.jpg]
にしたがって反射二重像分離距離(D)(分(アーク分))を計算する。」
2 取消理由の概要
令和4年9月28日付けの取消理由通知で通知した取消理由の内容は、概略、以下のとおりである。
(1)取消理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明することができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<甲号証一覧>
甲第1号証:特表2012-503572号公報
(3)取消理由3(実施可能要件)
本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者であれば特定の角度プロファイルを有する中間膜を製造できることを理解することができるし、当該中間膜を製造する方法を使用できることも当該方法により製造した中間膜を使用できることも理解できるが、発明の詳細な説明には、「中間膜を含むフロントガラス」に関し、特定の角度プロファイルを有する中間膜を含むフロントガラスを製造する際の製造条件について具体的な記載はなく、特定の角度プロファイルを有する中間膜を用いさえすれば、フロントガラスとした後の中間膜が特定の角度プロファイルを満たすとはいえないし、そのような技術常識があるともいえないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正前の請求項1~4に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえないため、本件特許は、発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由のうち、上記2の取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
(1)申立理由1(新規性)
本件訂正前の請求項3、4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものであり、当該請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(特許異議申立書第23頁下から第2行~第34頁第7行)。
(2)申立理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項3、4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、又は、本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、当該請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(特許異議申立書第19頁下から第1行~第34頁第7行)。
<甲号証一覧>
甲第1号証:特表2012-503572号公報
甲第2号証:国際公開第2015/086234号
(3)申立理由3(実施可能要件)
本件明細書の発明の詳細な説明には、どのように、「縦方向くさび角度プロファイルから0mradを超えて0.10mrad以下変動する縦方向くさび角度プロファイルを有するよう」、くさび角度プロファイルの変動を制御することができるかについては記載されておらず、また、このようなことは本件特許に係る出願時の技術常識でもないから、上記制御をするには、当業者に期待し得る程度を超える過度な試行錯誤や複雑高度な実験等が必要であるため、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正前の請求項1~4に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえず、本件特許は、発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(特許異議申立書第34頁第14行~第35頁第8行)。
4 甲号証の記載内容及び引用発明などについて
(1)甲第1号証の記載内容及び甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
ア 甲第1号証の記載内容
甲第1号証には、以下の記載がある(当審注:下線は当審による。「…」は当審による省略を意味する。以下、同様である。)。
(ア)「【請求項8】
合わせガラスに使用される中間材料層の事前成形方法であって、前記中間材料層の少なくとも一部は、前記中間材料層の少なくとも一部を延伸することによりウェッジ形の断面を有し、前記方法は
前記中間材料層の第1面に熱と水分とを供給し、第1加熱段階を実行する第1ステップと、
前記第1面と反対側にある、前記中間材料層の第2面に熱と水分とを供給し、第2加熱段階を実行する第2ステップと、
前記中間材料層を所望の形状に延伸する第3ステップと、
を含み、
前記第1ステップおよび前記第2ステップにおいて、熱と水分とを供給する速度は、前記中間材料層の形が均一になるように、かつ、前記中間材料層の前記ウェッジ形部分のウェッジ角度の大きさにおける標準偏差が0.05ミリラジアン未満となるように、制御される、
ことを特徴とする事前成形方法。
…
【請求項14】
事前成形された前記中間材料層を、2層のガラス材料の間に積層するステップをさらに含むことを特徴とする請求項8から13いずれかに記載の事前成形方法。」
(イ)「【0006】
十分に大きなウェッジ角度がHUD領域にある場合、またはウェッジ角度が小さくても視界領域にわたり変化する場合、投影された画像を識別することが困難になりうるため、画像生成は自動車の運転手にとって不快のみならず危険になりうる。
【0007】
この問題の1つの解決方法は、合わせガラス内に、少なくとも一部に特有のウェッジ形断面を有する中間材料層を使用することである。これは、図2で概略的に示すように、ガラス全体にわたるか(全体的ウェッジ形断面)、または、図3に概略的に示すように、HUDが視認される領域のみ(部分的ウェッジ形断面)であってもよい。図4は、中間材料が全体的ウェッジ形断面を有する合わせガラス内の特定のHUD領域の概略図である。合わせガラス40は、複雑な湾曲(xとyの両方向に湾曲)を有するアニールされたケイ酸塩フロートガラス等の、ガラス材料の第1面41および第2面42を備える。これらの面は、全体的ウェッジ形中間材料層43により、互いに接合される。拡大領域において、ウェッジ角度は、2つの複雑に湾曲した面を積層すること必要がある処理のため変化して表示されている。この変化は、HUDの一部として投影された画像の視認を困難にすることがある(説明のため、全体的効果は強調されている)。
【0008】
全体的ウェッジ形および部分的ウェッジ形中間材料を使用することは広く知られており、例えば特許文献1~4に開示されている。しかし、全体的ウェッジ形または部分的ウェッジ形中間材料を使用することは一般的である一方、フロントガラスの場合、x方向とy方向の少なくともいずれか一方に湾曲した合わせガラスを形成時に中間材料が一度処理されると、HUD領域内のウェッジ角度の変化を制御することは困難となる。その結果、上記で概説した2つの問題のうちの第2の問題は依然として存在する。
…
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、フロントガラスの特定領域内のウェッジ角度の変化が制御可能な、全体的または部分的ウェッジ形中間材料を採用したフロントガラスを製造できることが望ましい。
…
【0012】
中間材料層に、ウェッジ角度の標準偏差が最小化されたウェッジ形領域を与えることにより、このウェッジ形領域に優れた光学的品質を備えたガラスを得ることができる。
…
【0027】
…中間材料を延伸することで事前成形することにより、最終的な合わせガラスのウェッジ形は微細に制御可能であり、全体的またはHUD領域等の特定部分のいずれにおいてもより高い光学的性能を有するフロントガラスを提供する。延伸パラメータ、熱、拡径円錐の速度および半径によっては、本発明の事前成形の結果、中間材料のウェッジ角度が大きくなり、0.1から0.18ミリラジアンが達成可能である。このような小さな範囲は、所望のウェッジ角度に微調整が可能となるため有利である。…
…
【0037】
全体的および部分的ウェッジ形PVB製品の両方のうまく成形できると判断されると、フロントガラスのHUD領域内のウェッジ角度の標準偏差に対する成形効果を調べるために、事前成形された、もしくは成形されていない、全体的および部分的ウェッジ形PVBを含む積層サンプルを製造することが決定された。様々な中間材料(標準型つまり非ウェッジ形、全体的ウェッジ形および部分ウェッジ形)を使用して、同様の標準処理を用いて、5つ以上のサンプルを積層した。初めに、ガラスを形成するために使用される湾曲ガラス層の形にほぼ一致する、成形された中間材料のブランクを、ガラスの第1層上に載せた。次に、ガラスの第2層を中間材料の上に置き、ガラスの第1層と揃えて積層アセンブリを形成した。…
【0038】
ガラスのHUD領域にわたるウェッジ角度の標準偏差を測定するために、レーザー光線法を使用した。これにより、様々な位置でガラス越しにレーザーポイント光源を観察し、各ポイント光源のレーザーの偏差を記録した。
【0039】
測定はオブスキュレーションバンドの端部から0.05m、フロントガラスの左側端部から0.2mの距離から開始した。レーザー光線を0.01m毎に間隔をあけ、ラインに沿ってデータを収集した。表3は、全てのサンプルにおける、ガラス構造とミリラジアン単位で計算したウェッジ角度の値とをまとめたものである。全ての測定位置は、公称位置である。
【0040】
[図:0001398262000003.jpg]
」
(ウ)「【0046】
成形処理の光学的品質に対する有益な影響は、フロントガラスの実際のHUD領域に投影された一次像と二次像(または像の「ゴースト発生」)の間隔を測定することによってもまた観察される。フロントガラスの最上部がウェッジ形の厚い方の端部となるウェッジ形中間材料の使用は、2つの像の間隔を減らす。従って、成形されたウェッジ形中間材料の使用は、非成形ウェッジ形中間材料と比較すると、光学的品質を改善して像のゴースト発生を減少させる。
【0047】
図7は、HUD領域に投影された像のゴースト発生を測定するための実験的測定機構の概略的断面である。合わせガラス80は、自動車内に設置され場合と同じすくい角でスタンド(図示せず)上に配置されている。HUDプロジェクタ81は合わせガラス80の下に配置されて、自動車内に配置されているかのように、HUD領域に像を投影する。カメラ82は、いわゆる「アイボックス」領域の中心に配置される。なぜなら、これは大抵、運転中の運転手の目がある領域だからである。カメラ82は、分析する合わせガラス80によって、焦点距離が35mmまたは50mmのレンズを備える。一般的に、カメラは合わせガラス80の内面から600mmから1000mmの間の距離で、自動車の運転手がわずかに下を見ることに合わせて、水平方向から5度から8度の角度で配置される(実際の距離もまた、分析する合わせガラスにより異なる)。」
イ 甲第1号証に記載された発明
(ア)上記ア(ア)によれば、甲第1号証には、「合わせガラスに使用される中間材料層の事前成形方法」について、「前記中間材料層の少なくとも一部は、前記中間材料層の少なくとも一部を延伸することによりウェッジ形の断面を有し」、「かつ、前記中間材料層の前記ウェッジ形部分のウェッジ角度の大きさにおける標準偏差が0.05ミリラジアン未満となるように、制御される、こと」、及び「事前成形された前記中間材料層を、2層のガラス材料の間に積層」して合わせガラスを製造することが記載されている。
(イ)上記ア(イ)によれば、前記事前成形方法は、フロントガラスの特定領域内のウェッジ角度の変化が制御可能な、全体的または部分的ウェッジ形中間材料を採用したフロントガラスを製造するものであり(【0010】)、前記特定領域はHUD領域等であること(【0027】)が記載されている。
(ウ)加えて、上記ア(イ)によれば、前記事前成形により製造された様々な中間材料(標準型つまり非ウェッジ形、全体的ウェッジ形および部分ウェッジ形)を使用して、同様の標準処理を用いて合わせガラスの積層アセンブリを作製し(【0037】)、ガラスのHUD領域にわたるウェッジ角度の標準偏差を測定するために、レーザー光線を0.01m毎に間隔をあけてラインに沿ってデータを収集すること(【0038】、【0039】)、また、前記中間材料が「部分的ウェッジ形」で事前成形「有」の場合に、特定ウェッジ角度は0.36mrad、測定ウェッジ角度は0.369mrad、ウェッジ角度の標準偏差は0.015mradであったことが記載されている(【0040】【表3】)。
(エ)上記(ア)~(ウ)によれば、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる。
「中間材料層の少なくとも一部を延伸してウェッジ形の断面を有し、前記ウェッジ形部分のウェッジ角度の大きさにおける標準偏差が0.05ミリラジアン未満となるように事前成形し、
前記事前成形された中間材料層を2層のガラス材料の間に積層して合わせガラスを製造する方法であって、
前記中間材料層は、フロントガラスのHUD領域のウェッジ角度の変化が制御可能なウェッジ形中間材料であり、
前記ウェッジ角度の大きさにおける標準偏差は、前記ガラスのHUD領域にわたり、レーザー光線を0.01m毎に間隔をあけてラインに沿って収集したデータに基づくもので、前記事前成形した部分的ウェッジ形の中間材料層は、特定ウェッジ角度は0.36mradであり、測定ウェッジ角度は0.369mradであり、ウェッジ角度の標準偏差は0.015mradである、合わせガラスの製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)
(2)甲第2号証の記載内容及び甲第2号証に記載された技術的事項
ア 甲第2号証の記載内容
甲第2号証には、以下の記載がある(なお、甲第2号証に係る外国語特許出願の翻訳文が国内公表されたものである特表2017-502124号公報の記載を摘記する。)
(ア)「【請求項1】
垂直方向で非線形に連続する楔形挿入部材を含む、積層ガラスパネル(1)用の熱可塑性フィルム(F)であって、
前記積層ガラスパネル(1)は、垂直方向において、観察者の視界の下端側のほうが上端側よりも前記観察者から遠ざかるように配置されており、
前記熱可塑性フィルム(F)が設けられた前記積層ガラスパネル(1)では、該熱可塑性フィルム(F)は2つのガラス層(GS1,GS2)間に配置されており、
・前記熱可塑性フィルム(F)は、垂直方向で少なくともセクションごとに連続する非線形の楔角度プロフィルを有しており、
・前記非線形の楔角度プロフィルは、透過時の二重像を回避するために、一定の又は少なくともセクションごとに可変の楔角度を有する第1のセクション(A1)を有しており、
・前記非線形の楔角度プロフィルはさらに、前記第1のセクション(A1)に接し、かつ、反射時のゴースト像を回避するための可変の楔角度を有する第2のセクション(A2)を有しており、下端から上端までの楔角度は下端までの距離もしくは上端までの距離の関数であり、該関数は少なくとも2次の関数であり、前記第2のセクション(A2)は主としてヘッドアップディスプレイのゴースト像を最小化し、
・前記楔角度プロフィルはさらに、前記第2のセクション(A2)に接し、かつ、透過時の二重像を回避するために一定の又は少なくともセクションごとに可変の楔角度を有する第3のセクション(A3)を有しており、該第3のセクション(A3)の楔角度は、実質的に、前記第1のセクション(A1)の下端での楔角度以上である、
熱可塑性フィルム(F)。」
(イ)「【0014】
こうした状況から出発して、本発明の課題は、二重像及びゴースト像に関する改善手段を提供することである。
…
【0016】
楔形挿入部材とは、一定でない厚さを有し、特に熱可塑性フィルムから成る、挿入部材を云う。当該分野ではこの呼称が通用している。ここで、楔角度とは、挿入部材の表面間の所定位置で測定される角度である。楔形挿入部材は、厚さに関して非線形の連続性を有する。楔形挿入部材又は熱可塑性フィルムは、厚さにつき非線形に連続する経過/変化を有する。線形に連続する変化とは、従来の一定の楔角度に相当する。非線形に連続する変化は、位置依存性の楔角度を有する、一定でない楔角度プロフィルから得られる。この場合、楔角度プロフィルは線形であっても非線形であってもよい。
…
【0053】
しかし、このことが従来技術で通常そうであるように唯一の視点位置に対してしか行われない場合、ここから求められた楔角度は最適な結果をもたらさない。これは特に、ヘッドアップディスプレイに主に指定されている運転者の体格及び座席位置が大きく相違するため、多数の可能な視点位置が生じることによって説明できる。…こうして、仮想ディスプレイは、視点位置に応じて種々の箇所に生じ、相応に、あらゆる視点位置に対して、状況に応じた最適な楔角度のための値がそれぞれ生じる。また、楔角度はふつう専らゴースト像に対してしか最適化されず、二重像の過補償を生じさせるので、生じた二重像が観察者の知覚及び/又は法的なテストプロトコルの遵守及び/又は二重像に関するユーザスペックの遵守の点で再び問題となることもここで指摘しておかなければならない。
…
【0067】
基本的には、図8に示されているような楔角度プロフィルが望ましい。なぜなら、この場合、第1のセクションA1及び第3のセクションA3において、楔角度が例示されている積層ガラスパネル1の二重像の補償にとって最適に選択され、第2のセクションA2において楔角度が例示されている積層ガラスパネル1のゴースト像を補償するための視点位置の数にとって最適に選択されるはずだからである。
…
【0079】
種々の視点位置を考慮できるようにするために、より大きな個数で、所定の視点位置に対するゴースト像に関する楔角度が最適化される。求められた値から、例えば図7から図11に示されているように、楔角度プロフィルが2次以上の関数として近似される。この場合、求められた値は二重像に関する最適化の際にも引き継がれ、これにより、第2のセクションA2及び/又はセクションA1及び/又はセクションA3に対する近似曲線を決定することができる。」
(ウ)「【図8】
[図:0001398262000004.jpg]
」
イ 甲第2号証に記載された技術的事項
上記ア(ア)~(ウ)(【請求項1】、【0016】、【図8】)によれば、甲第2号証には、以下の技術的事項が記載されている。
「積層ガラスパネル用の熱可塑性フィルムにおいて、前記熱可塑性フィルムは、反射時のゴースト像を回避するための可変の楔角度を有する第2のセクション(A2)を有しており、下端から上端までの楔角度は下端までの距離もしくは上端までの距離の関数であり、該関数は少なくとも2次の関数であり、前記第2のセクション(A2)はヘッドアップディスプレイのゴースト像を最小化すること。」
5 当審の判断
(1)取消理由1、2及び申立理由1、2について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「中間材料層」は、本件発明1の「中間膜」に相当するから、甲1発明の「中間材料層」を「事前成形」することは、本件発明1の「(b)中間膜を形成して形成された中間膜を与える」ことに相当する。
甲1発明の「合わせガラス」は「フロントガラス」となるものだから、甲1発明の「中間材料層」を含む「合わせガラスの製造方法」は、本件発明1の「中間膜を含むフロントガラスを製造する方法」に相当する。
甲1発明の「フロントガラスのHUD領域」に対応して「中間材料層」にも「HUD領域」が配置されるところ、甲1発明の「中間材料層」に「HUD領域」が配置されることは、本件発明1の「ここで、形成された中間膜はHUD領域を確定しており」に相当する。
以上をふまえると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおり整理される。
<一致点>
「中間膜を含むフロントガラスを製造する方法であって、
(b)中間膜を形成して形成された中間膜を与える;
ことを含み;
ここで、形成された中間膜はHUD領域を画定している方法。」
<相違点1>
本件発明1は、「(a)目標中間膜のHUD領域に関する規定の縦方向くさび
角度プロファイルを得」るのに対し、甲1発明には、そのような特定がない点。
<相違点2>
本件発明1は、「形成は、形成された中間膜のHUD領域の全体にわたって、目標中間膜のHUD領域に関する規定の縦方向くさび角度プロファイルから0mradを超えて0.10mrad以下変動する縦方向くさび角度プロファイルを有するように行」うのに対し、甲1発明には、そのような特定がない点。
<相違点3>
本件発明1は、「形成された中間膜のHUD領域が少なくとも1つの変動角度の区域を含む」のに対し、甲1発明には、そのような特定がない点。
(イ)事案に鑑み、相違点3について検討する。
a まず、相違点3が実質的なものであるか検討する。
本件明細書には、「変動角度の区域」に関し、次の記載がある。
「【0041】
[0066]図6は、テーパー状の区域32及び水平の端部区域33を含む中間膜30を示す。…テーパー状の区域32は、一定角度の区域36及び変動角度の区域37を含む。一定角度の区域36は線状の厚さプロファイル及び一定のくさび角度:θcを有し、一方で変動角度の区域37は曲線状の厚さプロファイル及び連続的に変化するくさび角度を有する。…」
「【0050】
[0075]幾つかの態様においては、テーパー状中間膜は少なくとも1つの変動角度の区域を含んでいてよい。変動角度の区域の幅はテーパー状の区域全体の全体的な幅よりも小さくてよく、或いはそれはテーパー状の区域の幅と同じであってよい。…変動角度の区域は曲線状の厚さプロファイルを有していてよく、或いは場合によっては上記で詳細に記載したように1以上の一定角度の区域を含んでいてよい。中間膜は、少なくとも2つ、少なくとも3つ、又は4つ、或いはそれ以上の変動角度の区域を含んでいてよい。」
「【0112】
[0143]厚さ2.3mmのガラスの2つのシートの間に遮音3層PVB中間膜を積層することによって、幾つかのフロントガラスW-1~W-4を調製した。それぞれの中間膜は、テーパー状の厚さプロファイルを含むHUD領域を有していた。フロントガラスW-1を形成するのに用いた1つの中間膜は0.7mradのくさび角度を有する一定角度の区域を有しており、フロントガラスW-2~W-4を形成するのに用いた他の3つの中間膜は変動角度の区域を有していた。フロントガラスW-2~W-4を形成するのに用いた中間膜のそれぞれは、単一の目標プロファイルに基づくプロファイルを有していたが、これらのフロントガラスを形成するのに用いたそれぞれの中間膜の実際のプロファイルは、目標プロファイルから異なる量だけ変動していた。
【0113】
[0144]…フロントガラスW-1~W-4のそれぞれの中間膜のHUD領域に関して測定されたくさび角度プロファイルを図15に与える。」
「【図15】
[図:0001398262000005.jpg]
」
上記記載からすれば、本件発明1における「変動角度の区域」とは、曲線状の厚さプロファイル及び連続的に変化するくさび角度を有する区域であると理解でき(【0041】、【0050】)、一定の角度で形成することを目標とした「一定角度の区域」について、実際に測定されたくさび角度プロファイルに変動があったとしても、これを「変動角度の区域」とはみなさないことが理解できる(【0112】、【0113】、【図15】)から、「変動角度の区域」とは、曲線状の厚さプロファイル及び連続的に変化するくさび角度を有することを目標とした区域であると解するのが妥当である。
他方、甲第1号証には、上記4(1)ア(イ)にて摘記しているように、ウェッジ角度の変化は望ましくないことが記載されており(【0006】~【0008】)、甲1発明は、このような不具合を回避するために、「前記中間材料層の前記ウェッジ形部分のウェッジ角度の大きさにおける標準偏差が0.05ミリラジアン未満となるように、制御される」という発明特定事項を具備するものであることからすれば、甲1発明は、ウェッジ角度を一定にすることを目標としたものであるといえる。
したがって、相違点3は、実質的なものである。
b 次に、相違点3に係る発明特定事項の容易想到性について検討する。
甲第2号証には、上記4(2)イのとおり、「積層ガラスパネル用の熱可塑性フィルムにおいて、前記熱可塑性フィルムは、反射時のゴースト像を回避するための可変の楔角度を有する第2のセクション(A2)を有しており、下端から上端までの楔角度は下端までの距離もしくは上端までの距離の関数であり、該関数は少なくとも2次の関数であり、前記第2のセクション(A2)はヘッドアップディスプレイのゴースト像を最小化すること」という技術的事項が記載されているが、上記aのとおり、甲1発明は、ウェッジ角度を一定にすることを目標としたものであるといえるから、甲1発明において、可変の楔角度を有するものとする甲第2号証に記載の技術的事項を採用する動機付けはない。
したがって、甲1発明において、甲第2号証に記載の技術的事項を採用することは当業者といえども容易に想到し得たものではない。
(ウ)よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2、3について
請求項2、3は請求項1を引用するものであるから、本件発明2、3は本件発明1と事情は同じである。
よって、本件発明2、3は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明4について
(ア)本件発明4と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「事前成形された中間材料層を2層のガラス材料の間に積層して合わせガラスを製造する」ことは、本件発明4の「形成された中間膜を1対のグレージングパネルの間に積層してフロントガラスを形成する」ことに相当する。
そして、その他、上記アと同様に対比すると、本件発明4と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおり整理される。
<一致点>
「中間膜を含むフロントガラスを製造する方法であって、
(b)中間膜を形成して形成された中間膜を与え、ここで、形成された中間膜はHUD領域を画定しており、
(c)形成された中間膜を1対のグレージングパネルの間に積層してフロントガラスを形成する方法。」
<相違点4>
本件発明4は、「(a)目標中間膜のHUD領域に関する規定の縦方向くさび角度プロファイルを得」るのに対し、甲1発明には、そのような特定がない点。
<相違点5>
本件発明4は、「形成は、形成された中間膜のHUD領域の全体にわたって、目標中間膜のHUD領域に関する規定の縦方向くさび角度プロファイルから0mradを超えて0.10mrad以下変動する縦方向くさび角度プロファイルを有するように行」うのに対し、甲1発明には、そのような特定がない点。
<相違点6>
本件発明1は、「フロントガラスは、そのフロントガラスに関する標準取付条件において測定して、2分未満の上部アイボックス反射二重像分離距離、及び2分未満の下部アイボックス反射二重像分離距離の少なくとも1つを示す;
ことを含み、
標準取付条件は、標準の高さの運転者がそのフロントガラスに関して最小の反射二重像分離距離を観察する与えられたフロントガラスに関する取付条件であり、
標準の高さの運転者は、そのアイボックスの中心線が、取り付けた状態のフロントガラスの内部上の最も低い位置から水平に引いた線から134.4mmの高さである運転者であり、
上部アイボックス反射二重像分離距離及び下部アイボックス反射二重像分離距離は以下の方法で測定される」
「光をHUD投影システムからフロントガラスを通して通過させることによって投影像を生成する。カメラレンズの中心線が182.4mm(上部アイボックス反射二重像分離距離の測定時)又は126.2mm(下部アイボックス反射二重像分離距離の測定時)の高さに位置するデジタルカメラを用いて投影像を撮像する。カメラによって撮像された得られた像をデジタル化して、複数のピクセルを含むデジタル投影像を形成する。デジタル化したら、撮像画像を定量分析して、少なくとも1つの一次像指標、及び少なくとも1つの二次像指標を含むプロファイルを形成する。分析は、デジタル投影像の少なくとも一部を、像のその部分におけるピクセルの強度を表す数値を含む垂直像マトリクスに変換することによって行う。マトリクスの列を抽出し、ピクセル数に対してグラフ化してプロファイルを与える。プロファイルに関する一次像指標をプロファイルに関する二次像指標と比較して差を求める。次に、この差に基づいて一次ピークと二次ピークの間の分離距離(ピクセル)を用いて、次式:
【数2】
[図:0001398262000006.jpg]
にしたがって反射二重像分離距離(D)(分(アーク分))を計算する」
のに対し、甲1発明には、そのような特定がない点。
(イ)事案に鑑み、相違点6について検討する。
a 相違点6が実質的なものであるか検討する。
甲第1号証には、上記4(1)ア(ウ)にて摘記しているように、HUD領域に投影された像のゴースト発生を測定するためにカメラを「アイボックス」領域の中心に配置することが記載されているが(【0047】)、「上部アイボックス反射二重像分離距離」又は「下部アイボックス反射二重像分離距離」を測定することについては記載されおらず、まして、これらのいずれかを2分未満にすることは記載されていない。
したがって、相違点6は、実質的なものである。
b 次に、相違点6に係る発明特定事項の容易想到性について検討する。
甲第2号証には、上記4(2)ア(イ)にて摘記しているように、ヘッドアップディスプレイに主に指定されている運転者の体格及び座席位置と大きく相違する多数の可能な視点位置が生じることから、種々の視点位置を考慮できるようにするために、より大きな個数で、所定の視点位置に対するゴースト像に関する楔角度が最適化されることが記載されているが(【0053】、【0067】、【0079】)、「上部アイボックス反射二重像分離距離」又は「下部アイボックス反射二重像分離距離」を測定することについては記載されおらず、まして、これらのいずれかを2分未満にすることは記載されていない。
したがって、相違点6に係る発明特定事項は、甲第1号証及び甲第2号証のいずれにも記載されておらず、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 申立人の主張について
申立人は意見書において、甲2には、HUD領域が少なくとも1つの変動角度の区域を含む中間膜が記載されており、甲1発明が、HUD領域における優れた光学的品質を備えたものを得ることを目的とする以上、ゴースト像、二重像を最小化するために、甲2に記載のHUD領域が少なくとも1つの変動角度の区域を含むものを採用することは、当業者であれば容易に想到し得ることである旨を主張する。
しかしながら、上記ア(イ)で検討したとおり、甲1発明において、甲第2号証に記載の技術的事項を採用する動機付けはないから、甲1発明において、甲第2号証に記載の技術的事項を採用することは当業者といえども容易に想到し得たものではないため、申立人の上記主張は、採用することができない。
オ 小括
以上のとおりであるから、取消理由1、2及び申立理由1、2に理由はない。
(2)取消理由3及び申立理由3について
ア 発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に係る規定(いわゆる「実施可能要件」)に適合するというためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要すると解される。
そして、物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明の記載は、当業者が、その物を生産し、使用することができる程度のものでなければならない。
また、物を生産する方法の発明における発明の実施とは、その物を生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(同項第2号及び第3号)、物を生産する方法の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明の記載は、当業者が、その物を生産する方法を使用することができ、その方法により生産した物を使用することができる程度のものでなければならない。
以下、この観点に立って検討する。
イ 本件発明1~4は、上記1で認めるとおりのものであるところ、本件発明1及びこれを引用する本件発明2、3は、「(b)中間膜を形成して形成された中間膜を与える;ことを含み;ここで、形成された中間膜はHUD領域を画定しており、形成は、形成された中間膜のHUD領域の全体にわたって、目標中間膜のHUD領域に関する規定の縦方向くさび角度プロファイルから0mradを超えて0.10mrad以下変動する縦方向くさび角度プロファイルを有するように行」うこと(以下、「特定の角度プロファイル」という。)が特定された「中間膜又は中間膜を含むフロントガラスを製造する方法」の発明である。また、本件発明4も、上記「特定の角度プロファイル」が特定された「中間膜を含むフロントガラスを製造する方法」の発明である。
ウ まず、「中間膜」の製造に関し、本件明細書の発明の詳細な説明の【0063】には、「共押出プロセスにおいて押出ダイから排出される複数のポリマー層の厚さは、一般に、押出ダイを通る溶融体の相対速度を調節すること、及びそれぞれの溶融した熱可塑性樹脂材料を処理する個々の押出機の寸法によって制御することができる。」と、押出プロセスで製造する場合を例に挙げて、押出機の寸法や押出ダイを通る溶融体の相対速度を調節することで中間膜となるポリマー層の厚さを制御できることが記載されているから、当業者であれば、当該記載に基づきポリマー層の厚さを制御することにより、特定の角度プロファイルを有する中間膜を製造できることを理解することができるし、当該中間膜を製造する方法を使用できることも当該方法により製造した中間膜を使用できることも理解できる。
エ 次に、「中間膜を含むフロントガラス」の製造に関し、発明の詳細な説明の【0068】には、「フロントガラス及び他のタイプの多層パネルは、任意の好適な方法によって本明細書に記載する中間膜及びグレージングパネルから形成することができる。通常のガラス積層プロセスは、…工程を含む。」と記載されているから、当業者であれば、当該記載に基づき、特定の角度プロファイルを有する中間膜を用いて、通常のガラス積層プロセスにおいて条件を適宜制御することにより、特定の角度プロファイルを有する中間膜を含むフロントガラスを製造する方法を使用できることも当該方法により製造した中間膜を含むフロントガラスを使用できることも理解できる。
オ 当審で改めて取消理由3の内容を検討したところ、本件発明1~4は、中間膜を形成した時点で特定のプロファイルを有することを特定するものであるから、フロントガラスとした後の中間膜が特定のプロファイルを有するか否かは実施可能要件の判断に直接影響するものではない。
カ そうではあるが、仮に、フロントガラスとした後の中間膜が特定のプロファイルを有する必要があるとしても、特許権者は、意見書において、「仮にグレージングパネルが複雑に湾曲した面を有していたとしても、又は、平坦な面を有していたとしても、これらのグレージングパネルで中間膜を挟んで得られるフロントガラスの中間膜のくさび角度プロファイルや厚さプロファイルは変化せず、維持される。これは、中間膜はガラス状ポリマーで構成され、その形状を維持するためである。」と主張しており、この主張を覆す技術常識等の根拠もないことから、特定のプロファイルを有する中間膜を製造することができれば、フロントガラスとした後にも概ねその特定のプロファイルを維持させることができると解される。
キ したがって、いずれにしても、発明の詳細な説明には、当業者が、発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1~4を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるいえる。
ク 以上のとおりであるから、取消理由3及び申立理由3に理由はない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~4に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由、及び、取消理由に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700517