特許異議申立
2022-700466
ポリスチレン系樹脂積層発泡シートからなる発泡成形品及びその製造方法
- 審判番号
- 2022-700466
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-170173
- 登録番号
- 6993818
- 請求日
- 2022年05月30日
- 審決日
- 2023年11月08日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】リスパック株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
- 【異議申立人】伊藤 道子
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 茂夫
- 審判官 山崎 勝司
- 審判官 筑波 茂樹
- 分類
- P1651.83 -YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6993818号発明「ポリスチレン系樹脂積層発泡シートからなる発泡成形品及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6993818号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり〔1~3〕、〔4~6〕について訂正することを認める。
特許第6993818号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6993818号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成29年9月5日に出願され、令和3年12月14日にその特許権の設定登録がされ、令和4年1月14日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年 5月30日 :特許異議申立人伊藤道子(以下「申立人」とい
う。)による請求項1~6に係る特許に対する
特許異議の申立て
令和4年11月 8日付け:取消理由通知書
令和5年 1月10日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和5年 2月15日 :申立人による意見書の提出
令和5年 6月 6日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和5年 8月 7日 :特許権者による意見書の提出
第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和5年1月10日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。また、訂正自体を「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものであり、その内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1) 訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1において、
「内側表面層を構成する無延伸ポリオレフィン系樹脂フィルム層と、を有する発泡シートの成形品であって、
前記無延伸ポリオレフィン系樹脂フィルム層側の表面の光沢度」とあるのを、
「内側表面層を構成する無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層と、を有する厚さが1~3mmの発泡シートの成形品であって、
前記無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層側の表面の光沢度」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。)。
(2) 訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2において、
「内側表面層を構成する無延伸ポリオレフィン系樹脂フィルム層とがこの順に積層された発泡シートの成形品であって、
前記無延伸ポリオレフィン系樹脂フィルム層側の表面の光沢度が70%以上であり、且つ前記無延伸ポリオレフィン系樹脂フィルム層」とあるのを、
「内側表面層を構成する無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層とがこの順に積層された厚さが1~3mmの発泡シートの成形品であって、
前記無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層側の表面の光沢度が70%以上であり、且つ前記無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。)。
(3) 訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4において、
「熱ロール温度165~175℃で、ポリスチレン系樹脂発泡シートの片面側に、無延伸ポリオレフィン系樹脂フィルムを積層させる工程を含むことを特徴とする、発泡シートの製造方法。」とあるのを、
「熱ロール温度165~175℃で、ポリスチレン系樹脂発泡シートの片面側に、無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムを積層させる工程を含むことを特徴とする、厚さが1~3mmの発泡シートの製造方法。」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5、6も同様に訂正する。)。
なお、訂正前の請求項1~3は、請求項3が、訂正の請求の対象である請求項1又は2の記載を引用する関係にあり、訂正前の請求項4~6は、請求項5及び6が、訂正の請求の対象である請求項4の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1~3、4~6について請求されている。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
・訂正事項1~3について
(1) 訂正の目的
訂正事項1~3は、訂正前の請求項1、2、4に記載された「無延伸ポリオレフィン系樹脂フィルム層」について、「無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層」と限定し、「発泡シート」について、その「厚さが1~3mm」と限定するものである。
したがって、訂正事項1~3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1~3は、本件特許明細書の【0021】及び【0024】に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(3) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1~3は、上記(1)のように訂正前の請求項1、2、4における記載をさらに限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
3 むすび
以上のとおり、本件訂正の訂正事項1~3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第4項、並びに同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、訂正後の請求項〔1~3〕、〔4~6〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件特許の請求項1~6に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明6」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
外側表面層を構成するポリスチレン系樹脂発泡シート層と、該ポリスチレン系樹脂発泡シート層の片面に積層され、内側表面層を構成する無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層と、を有する厚さが1~3mmの発泡シートの成形品であって、
前記無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層側の表面の光沢度が70%以上であることを特徴とする、発泡成形品。
【請求項2】
ポリスチレン系樹脂発泡シート層と、該ポリスチレン系樹脂発泡シート層の片面に積層されたポリスチレン系樹脂層と、ポリスチレン系樹脂フィルム層と、内側表面層を構成する無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層とがこの順に積層された厚さが1~3mmの発泡シートの成形品であって、
前記無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層側の表面の光沢度が70%以上であり、且つ前記無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層と前記ポリスチレン系樹脂フィルム層との接着強度が2.5N/10mm以上であることを特徴とする、発泡成形品。
【請求項3】
前記発泡成形品が発泡容器であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の発泡成形品。
【請求項4】
熱ロール温度165~175℃で、ポリスチレン系樹脂発泡シートの片面側に、無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムを積層させる工程を含むことを特徴とする、厚さが1~3mmの発泡シートの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法により得られた発泡シートを、シート表面温度が110℃以上で熱成形することにより、発泡成形品を製造する工程を含むことを特徴とする、発泡成形品の製造方法。
【請求項6】
前記発泡成形品が発泡容器であることを特徴とする、請求項5に記載の発泡成形品の製造方法。」
第4 取消理由(決定の予告)の概要
本件特許の請求項4~6に係る特許に対して当審が令和5年6月6日付けで通知した取消理由は、以下の理由を含むものである。
(進歩性)本件特許の請求項4~6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
(証拠方法)
甲第10号証:特開平4-191043号公報
甲第11号証:特開昭61-137740号公報
(以下、甲第10号証、甲第11号証を、それぞれ「甲10」、「甲11」という。)
第5 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1 甲10の記載事項及び甲10発明
(1) 甲10の記載事項
「(1)発泡層と非発泡層から構成される積層シートに於いて、主成分がポリプロピレンとポリスチレンであり、ポリプロピレンの混合量が該主成分の5~50重量%である発泡層と樹脂製のフィルムまたはシートの非発泡層を熱接着したことを特徴とする積層シート。
(2)非発泡層が厚さ0.01~0.1mmのポリプロピレン製のフィルムまたはシートである請求項1の積層シート。」(第1頁左欄特許請求の範囲)
「〔発明が解決しようとする課題〕
本発明の目的は、発泡ポリスチレンシートの有する断熱性を生かしつつ、加温されたオイルに対する耐油性を付与したシートを提供することにある。更に、具体的にはポリプロピレンフィルムを発泡シートの熱成形工程上で貼り合せることの可能な発泡シートを提供することにある。」(第2頁左上欄第2~8行)
「発泡層の厚さは、好ましくは1.0~3.0mmである。これは、本発明の積層シートを使用して容器に成形する際の成形性あるいは成形品の実用物性上から制約される。また、発泡層の見掛け密度は0.05~0.3g/ccが好ましいが、おおきくはポリプロピレンの混合量で決まる。」(第2頁右下欄第2~7行)
「本発明で非発泡層として用いられるポリプロピレン製のフィルムまたはシートは、通常のもので一向に構わないが、未延伸のフィルムまたはシートが好ましく、更に好ましくはエチレンやブテン等とプロピレンとの共重合体から製造される。厚さが0.01mm未満では、積層する際フィルムに穴があき易くなり、また0.1mmを越えると接着強度が低下する。また、フィルムまたはシートに印刷等の加工を施してあったり、発泡シートとの接触面がポリプロピレン製のフィルムまたはシートであれば複層フィルムまたはシートであっても何ら差し支えない。
本発明の積層シートは、前記の発泡シートとポリプロピレン製のフィルムまたはシートを重ね合わせ、フィルムまたはシートを通して熱を加えることにより得られる。一般的には加熱ロール間を通すことにより、連続して積層シートを得るが、加熱ロールの温度は通常150~250℃であり、ライン速度により選択される。」(第3頁左上欄第9行~右上欄第7行)
「熱接着強度厚さ0.025mmのCPPのフィルムを、その上から250℃のシールバーを1秒間圧着して、発泡シートに接着する。巾10mmのサンプルを90°剥離してその強度を測定する。
その結果も表-Iに記載した。
得られた発泡シートを230℃に加熱した熱ロールで0.025mmのCPPフィルムをラミネートした後、引き続き真空成形機で100×200×25mmのオーバル状容器を成形し、貼り合わせ面の剥離もなく良好であった。」(第3頁左下欄第6~16行)
「
[図:0001406668000001.jpg]
」
(2) 甲10に記載された発明
上記(1)を総合すると、甲10には、以下の発明(以下「甲10発明」という。)が記載されていると認められる。
「1.0~3.0mmの厚さである発泡層と0.01~0.1mmの厚さである非発泡層から構成される積層シートの製造方法であって、
主成分がポリプロピレンとポリスチレンであり、ポリプロピレンの混合量が該主成分の5~50重量%である発泡層シートと、
ポリプロピレン製の未延伸の非発泡層フィルムとを重ね合わせ、
フィルムまたはシートを加熱ロール間に通して熱を加え、
加熱ロールの温度は通常150~250℃であり、ライン速度により選択される、
積層シートの製造方法。」
2 甲11の記載事項
「(1)スチレン系ーアクリル酸系共重合体からなる発泡シートの片面に、接着剤層を介して、ポリオレフイン系樹脂か、又はポリエステル系樹脂のいずれか一方からなる無発泡フイルムを有する積層シートであり、該積層シートを恒温層内で115℃にて90秒間加熱し、同じく恒温槽内でJISK6871に規定された引張試験に準じ試験速度20mm/minの条件にて引張試験を行なつたとき、該積層シートは縦方向に50~350%の伸び率を示すことを特徴とする成形用積層シート。」(特許請求の範囲)
「電子レンジ用食品容器を形成する成形用シートには、
(1)容器の成形時にはおよそ130~190℃ぐらいのシートヘの加熱温度にて熱変形し(成形可能であり)」(第1頁右欄第15~19行)
3 当審の判断
(1) 本件発明4について
本件発明4と甲10発明とを、各特定事項の機能や技術上の意義を考慮して、以下対比する。
甲10発明の「加熱ロール」は、本件発明4の「熱ロール」に相当する。
甲10発明の「主成分がポリプロピレンとポリスチレンであり、ポリプロピレンの混合量が該主成分の5~50重量%である発泡層シート」は、ポリプロピレンの混合量が比較的に少ない割合である場合に、ポリスチレン系といえるもので、本件発明4の「ポリスチレン系樹脂発泡シート」に相当する。
甲10発明の「ポリプロピレン製の未延伸の非発泡層フィルム」は、本件発明4の「無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム」に相当する。
甲10発明の「発泡層シート」と「非発泡層フィルム」とを重ね合わせて得られる「積層シート」は、本件発明4の「発泡シート」に相当する。
そして、甲10発明の「主成分がポリプロピレンとポリスチレンであり、ポリプロピレンの混合量が該主成分の5~50重量%である発泡層シートと、ポリプロピレン製の未延伸の非発泡層フィルムとを重ね合わせ」ることは、発泡層シートの少なくとも片面に非発泡層フィルムが積層されるものであるから、本件発明4の「ポリスチレン系樹脂発泡シートの片面側に、無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムを積層させる工程を含むこと」に相当する。
甲10発明の「フィルムまたはシートを加熱ロール間に通して熱を加え、加熱ロールの温度は通常150~250℃であり、ライン速度により選択される」ことと、本件発明4の「熱ロール温度165~175℃で」処理することとは、その態様からみて、「熱ロールで」処理する限りで一致する。
さらに、甲10発明の「1.0~3.0mmの厚さである発泡層と0.01~0.1mmの厚さである非発泡層から構成される積層シート」は、それぞれの層の厚さを適宜選択することにより、発泡層と非発泡層とを合わせた厚さを調整でき、本件発明4の「厚さが1~3mmの発泡シート」に相当する。
以上踏まえると、本件発明4と甲10発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
[一致点]
「熱ロールで、ポリスチレン系樹脂発泡シートの片面側に、無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムを積層させる工程を含む、厚さが1~3mmの発泡シートの製造方法。」
[相違点]
熱ロールについて、本件発明4は、「熱ロール温度165~175℃で」あるのに対して、甲10発明は、「加熱ロールの温度は通常150~250℃であり、ライン速度により選択される」とされている点。
以下に、上記相違点について、検討する。
甲10発明は、加熱ロールの温度が150~250℃と比較的に広い範囲を特定しているため、甲10発明に接した当業者は、一見すると本件発明4と相違しないようにも見える。
しかしながら、甲10の熱接着温度として、実施例において、具体的に採用されている温度は、250℃であって、熱ロールの温度範囲の上限が採用されている。
他方、本件発明4の、「熱ロール温度165~175℃で、ポリスチレン系樹脂発泡シートの片面側に、無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムを積層させる工程を含む」、「厚さが1~3mmの発泡シート」により得られた成形品は、CPP/PSラミフィルムとPSPシート層よりなる発泡シート(A)と、CPP/PSラミフィルムとPS層とPSPシート層よりなる発泡シート(C)から製造された発泡容器(A)と発泡容器(C)についてまとめた、【0053】の【表1】の実施例によれば、
・上ラミロール温度170℃、下ラミロール温度165℃では、発泡容器(A)の光沢度70~80%、発泡容器(C)の光沢度75~90%のものが、
・上ラミロール温度175℃、下ラミロール温度165℃では、発泡容器(A)の光沢度50~70%、発泡容器(C)の光沢度70~80%のものが、それぞれ得られているのに対し、
・上ラミロール温度180℃、下ラミロール温度165℃では、発泡容器(A)の光沢度20~30%、発泡容器(C)の光沢度35~45%にとどまり、
180℃の熱ロール温度であるものと比較して、本件発明4による発泡シートは、熱成形しても比較的高い光沢度が得られており、本件発明4は、顕著に優れた効果を奏しているといえる。
さらに、甲10発明の課題は、「本発明の目的は、発泡ポリスチレンシートの有する断熱性を生かしつつ、加温されたオイルに対する耐油性を付与したシートを提供することにある。更に、具体的にはポリプロピレンフィルムを発泡シートの熱成形工程上で貼り合せることの可能な発泡シートを提供することにある。」(第2頁左上欄第2~8行)というもので、本件発明4の「熱成形を行っても光沢性が失われないポリスチレン系樹脂積層発泡シートからなる成形品及びその製造方法を提供すること」(【0007】)を何ら示唆するものではない。
そうすると、本件発明4は、本件特許出願時の技術水準から、当業者といえども予測することができない顕著な効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明4は、甲10発明から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
以上のとおり、本件発明4は、甲10発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2) 本件発明5、6について
本件発明5及び6は、本件発明4の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(1)と同じ理由で、本件発明5及び6は、甲10発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第29条第2項について
(1) 申立人は、本件発明1~3は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している(申立書第12頁末行~第55頁第15行)。
(2) しかしながら、甲1には、「外側表面層を構成するポリスチレン系樹脂発泡シート層と、該ポリスチレン系樹脂発泡シート層の片面に積層され、内側表面層を構成する無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層と、を有する厚さが1~3mmの発泡シートの成形品」において、「前記無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層側の表面の光沢度が70%以上であること」については記載されていない。
甲1の実施例10(【0109】表1)に、表面光沢度が80%のものが示されているが、これは成形品を得る前の積層シートの表面光沢を示すもので(【0072】)、印刷が施されたポリプロピレンフィルムを用いていることで(【0108】)、発泡積層シートの表面の光沢度が高いことを示すに過ぎず、容器に成形された後の表面の光沢度を示すものではない。そして、無延伸のポリプロピレンで作成されたフィルムが熱成形されると、通常は表面光沢度が相当程度低下することが技術常識である(特開2002-103541号公報(乙第2号証【0049】)、特開2008-62524号公報(乙第1号証【0016】)ことからすると、甲1の実施例10の積層シートの表面の光沢度80%は、これを熱成形して発泡成形体とした際には、相当程度低下しているものといえ、70%以上あるとはいうことができない。
また、本件特許明細書によると(【0035】)、熱成形後も、発泡容器の表面の光沢度を70%以上に維持できるのは、本件発明4の製造方法による発泡シートを用いるからである。そうすると、熱ロール温度165~175℃で、ポリスチレン系樹脂発泡シートの片面側に、無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムを積層させる工程に着目するものではない甲1に記載の事項に基づいて、本件発明1を当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
さらに、「前記無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層側の表面の光沢度が70%以上であ」る「発泡成形品」であることを発明特定事項として有する本件発明2並びに本件発明1及び2を引用する本件発明3についても、甲1に記載の事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
(3) 以上のとおりであるから、本件発明1~3は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 特許法第36条第6項第1号について
(1) 申立人は、訂正前の本件発明1は、その発明特定事項として「前記無延伸ポリオレフィン系樹脂フィルム層側の表面の光沢度が70%以上である」を有しており、同じく本件発明2は、その発明特定事項として「無延伸ポリオレフィン系樹脂フィルム層と前記ポリスチレン系樹脂フィルム層との接着強度が2.5N/mm以上である」を有しているが、これらの特定事項は、達成すべき結果を数値化したものである旨を主張している。
そして、本件特許明細書の【0007】には、「本発明は、熱成形を行っても光沢性が失われないポリスチレン系樹脂積層発泡シートからなる成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。」とあり、本件発明1~3は、光沢性の優れた発泡成形品を提供することを課題としており、実施例において、発泡成形品の材料として用いられている、ポリスチレン系樹脂発泡シート(【0043】~【0044】)、CPP/PSラミフィルム(【0045】)、CPPフィルム(【0046】)及びPSラミフィルム(【0047】)は何れも一種類に過ぎず、ポリスチレン系樹脂積層発泡シートの成形時において、ポリスチレン系樹脂積層発泡シートの各層を構成している材料の種類や厚みなどが、無延伸ポリオレフィン系樹脂フィルム層に加えられる熱量の大小に影響を与えると共に、無延伸ポリオレフィン系樹脂フィルム層自体もその厚みやこれを構成しているポリオレフィン系樹脂の種類によって熱に対する耐性が変化し、これらが発泡成形品の無延伸ポリオレフィン系樹脂フィルム層側の表面の光沢度に影響を及ぼすことは明らかであるとし、しかるに、訂正前の本件発明1~3は、各層を構成している材料がポリスチレン系樹脂及びポリオレフィン系樹脂など上位概念で規定されており、特定の材料に限定されていないと共に、各層の厚みなども限定されていないところ、発明の詳細な説明には、特定の材料を用いた発泡成形品の実施例が開示されているのみであり、出願時の技術常識に照らしても、訂正前の本件発明1~3の全範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるものではなく、訂正前の本件発明1~3は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超える旨の主張をしている(申立書第57頁下から第5行~第60頁第5行)。
(2) さらに、申立人は、本件発明4~6について、本件特許明細書の表1(【0053】)の光沢度をみると、例えば、70~80%、50~70%といったように、範囲をもって記載され、光沢度が70%未満の発泡容器が含まれることになり、上ラミロール温度が165~175℃で、ポリスチレン系樹脂発泡シートの片面側に、無延伸ポリオレフィン系樹脂フィルムを積層させて得られるポリスチレン系樹脂積層発泡シートを熱成形したとしても、光沢性が失われない(光沢度が70%以上の)発泡成形品を必ずしも成形できない旨の主張をしている(申立書第60頁第6行~第62頁第12行)。
(3) そこで、以下に検討する。
ア 上記(1)について
本件特許明細書には、「前記スチレン系樹脂として具体的には、例えば、スチレン単独重合体若しくはスチレンを主成分とするスチレン系共重合体、又はこれらの混合物、或いは上記スチレン単独重合体及びスチレン系共重合体の群から選択される1種又は2種以上を主成分とし、これに他の樹脂やゴムを副成分として混合した混合樹脂が挙げられる。前記スチレン系共重合体として具体的には、例えば、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-アクリロニトリル共重合体が挙げられる。前記副成分として混合される樹脂やゴムとして具体的には、例えば、ポリフェニレンオキシド、ブタジエンゴム、ブタジエン-スチレン共重合体ゴムが挙げられる。」(【0018】)と記載されている。
そして、実施例において、「(1)PSPシートの製造
ポリスチレン樹脂(東洋スチレン社製高耐熱性ポリスチレン「TFP」;ポリフェニレンエーテル(PPE)9%とスチレン-メタクリル酸共重合体(メタクリル酸8.5%、スチレン91.5%)91%とのアロイ)99.5質量%及びタルクパウダー0.5質量%を含む原料樹脂組成物100質量部に対し、発泡剤であるブタンガスを2~4質量部用いた。」(【0043】)と記載され、当該PSPシートを用いて、熱ロール温度165~175℃で、ポリスチレン系樹脂発泡シートの片面側に、無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムを積層させた発泡シートを用いることで、前記無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層側の表面の光沢度が70%以上であるものを得ることができている。
そうすると、本件発明において、ポリスチレン系樹脂は、種々のものが採用できるものであり、そのうちの一例として、上記【0043】に記載のものについて、「前記無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層側の表面の光沢度が70%以上である」ことが示されており、また、他のポリスチレン系樹脂の場合には、
「前記無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層側の表面の光沢度が70%以上である」ものが得られないという証拠もない。
さらに、本件訂正により、「厚さが1~3mmの発泡シート」であることが特定された。
そうすると、本件発明1~3は、「本発明は、熱成形を行っても光沢性が失われないポリスチレン系樹脂積層発泡シートからなる成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。」(【0007】)との課題を解決できるものと当業者であれば理解でき、本件発明1~3は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、上記申立人の主張は、採用できない。
イ 上記(2)について
本件発明4は、「熱ロール温度165~175℃で、ポリスチレン系樹脂発泡シートの片面側に、無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムを積層させる工程を含むことを特徴とする、厚さが1~3mmの発泡シートの製造方法」であり、その課題とするところは、「本発明は、熱成形を行っても光沢性が失われないポリスチレン系樹脂積層発泡シートからなる成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。」(【0007】)である。
そして、CPP/PSラミフィルムとPSPシート層よりなる発泡シート(A)と、CPP/PSラミフィルムとPS層とPSPシート層よりなる発泡シート(C)から製造された発泡容器(A)と発泡容器(C)についてまとめた、【0053】の【表1】によれば、
・上ラミロール温度170℃、下ラミロール温度165℃では、発泡容器(A)の光沢度70~80%、発泡容器(C)の光沢度75~90%のものが、
・上ラミロール温度175℃、下ラミロール温度165℃では、発泡容器(A)の光沢度50~70%、発泡容器(C)の光沢度70~80%のものが、それぞれ得られているのに対し、
・上ラミロール温度180℃、下ラミロール温度165℃では、発泡容器(A)の光沢度20~30%、発泡容器(C)の光沢度35~45%にとどまり、
180℃の熱ロール温度であるものと比較して、本件発明4による発泡シートは、熱成形しても比較的高い光沢度が得られている。
そうすると、本件発明4~6は、「本発明は、熱成形を行っても光沢性が失われないポリスチレン系樹脂積層発泡シートからなる成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。」(【0007】)との課題を解決できるものと当業者であれば理解でき、本件発明4~6は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、上記申立人の主張は、採用できない。
3 特許法第36条第6項第2号について
(1) 申立人は、本件発明2は、発明特定事項として、ポリスチレン系樹脂層及びポリスチレン系樹脂フィルム層は、単層又は複層であるかが特定されておらず、複層である場合も含まれており、ポリスチレン系樹脂層はフィルム層であってもよいことから、ポリスチレン系樹脂層及びポリスチレン系樹脂フィルム層のうちの何れか一方又は双方が複層である場合、一方の層が他方の層を含むこととなり、ポリスチレン系樹脂層とポリスチレン系樹脂フィルム層が互いに区別されていないことになり、本件発明2及びこれを引用する本件発明3は明確ではない旨の主張をしている(申立書第62頁14行~第63頁第8行)。
(2) そこで、以下に検討する。
本件発明2は、「ポリスチレン系樹脂発泡シート層と、該ポリスチレン系樹脂発泡シート層の片面に積層されたポリスチレン系樹脂層と、ポリスチレン系樹脂フィルム層と、内側表面層を構成する無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層とがこの順に積層され」た「発泡シート」であり、「且つ前記無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層と前記ポリスチレン系樹脂フィルム層との接着強度が2.5N/10mm以上であること」から、「ポリスチレン系樹脂フィルム層」は、「前記無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層」と接着する層として理解できる。また、用語としても「ポリスチレン系樹脂層」と「ポリスチレン系樹脂フィルム層」とは区別されており、「ポリスチレン系樹脂フィルム層」が、「前記無延伸ポリプロピレン系樹脂フィルム層」と接着するフィルムのものをいい、当該フィルムに積層されるポリスチレン系樹脂からなる層の部分が「ポリスチレン系樹脂層」となるから不明確とするところはない。
そうすると、本件発明2及び3は、不明確とするところはないから、上記申立人の主張は、採用できない。
4 特許法第36条第4項第1号について
(1) 申立人は、本件発明2及び3は、発明特定事項「無延伸ポリオレフィン系樹脂フィルム層とポリスチレン系樹脂フィルム層との接着強度が2.5N/10mm以上である」を有しているが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記接着強度を調整する手段について何ら具体的に記載されておらず、材料の種類及び接着剤の具体的な調整手段についても何ら開示されていない旨、
また、本件発明2及び3は、ポリスチレン系樹脂積層発泡シートの成形品であり、ポリスチレン系樹脂積層発泡シートには成形時に熱及び圧力が加えられ、加熱時間及び成形圧力が、無延伸ポリオレフィン系樹脂フィルム層とポリスチレン系樹脂フィルム層との接着強度に影響を及ぼすところ、接着強度を調整する具体的な成形条件、制御方法などについて何ら開示されておらず、どのようにして上記接着強度を調整するのか、当業者は、過度の試行錯誤や複雑高度な実験などを行わざるを得ない旨の主張をしている(申立書第63頁第10行~第64頁第7行)。
(2) そこで、以下に検討する。
本件特許明細書には、接着剤について以下のとおり記載されている。
「【0026】
図1に示すCPPフィルム層12は通常、接着剤によりPSPシート層11又はPSフィルム層13に積層されている。前記接着剤は、無延伸ポリオレフィン系樹脂フィルム層とPSPシート層又はPSフィルム層とを接着させることができる限り特に限定はない。前記接着剤として具体的には、例えば、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエーテル系、アクリル系、酢酸ビニル系の接着剤が挙げられる。」
「【0037】
本方法において、無延伸ポリオレフィン系樹脂フィルムをPSPシートの片面側に接着させる具体的方法には特に限定はない。また、他の樹脂を介して無延伸ポリオレフィン系樹脂フィルムをPSPシートの片面側に接着させる場合、前記他の樹脂と無延伸ポリオレフィン系樹脂フィルム又はPSPシートとの間を接着させる方法にも特に限定はない。このような接着方法としては、例えば、熱融着、押出しラミネート及びドライラミネートが挙げられる。接着剤については、上記発泡成形品の項における説明が妥当する。」
「【0053】
接着強度(N/10mm)は、JIS Z0237に準拠した方法で測定した。具体的には、発泡容器(A)及び(C)の容器底面から幅10mm×長さ50mmの試験片を切り出した。該試験片の片端を持って180℃折り返し、25mm剥がした。剥がした部分の片端を固定し、試験機を300mm/分で運転することにより、接着強度を求めた。」
また、成形品を得ることについては、以下のとおり記載されている。
「【0011】
本発明の発泡成形品の製造方法は、本発明の発泡シートの製造方法により得られた発泡シートを、シート表面温度が110℃以上で加熱賦形することにより、発泡成形品を製造する工程を含むことを特徴とする。」
「【0040】
(3)発泡成形品の製造方法
本発明の発泡成形品の製造方法では、シート表面温度が110℃以上で、本発明の発泡シートの製造方法により得られた発泡シートを熱成形することにより、発泡成形品を製造する。上記シート表面温度が110℃以上であると、発泡シートを十分に軟化させることができ、発泡シートの割れを発生することなく外観をきれいに保ちつつ熱成形を行なうことができるから好ましい。上記シート表面温度は、各層の材質等により適宜変更することができる。例えば、通常のPSPシートでは110℃以上とすることができ、耐熱PSPシートであれば、130℃以上とすることができる。
【0041】
上記熱成形の具体的方法には特に限定はない。上記熱成形は、樹脂成形品を得るのに一般に採用されている公知の熱成形方法、例えば真空成形により行うことができる。また、上記シート表面温度以外の成形条件についても特に限定はない。成形条件は必要に応じて適宜決定することができる。」
「【0049】
(3)発泡容器(A)~(C)の製造
両面真空成形法(特公昭59-1184号公報参照)により、上記方法により得られた発泡シート(A)~(C)を熱成形して、発泡容器(A)~(C)(容器サイズ;200mm×100mm×30mm)を製造した。真空成形における上ヒータ温度及び下ヒータ温度を表1に併記する。」
以上を踏まえると、接着剤の種類や塗布について格別な特定はなく、通常採用される程度のものとすればよいことが分かる。
また、成形品を得ることについては、本件特許明細書の表1に与えられた温度条件を参考に、真空成形により作成すればよく、他に格別な特定はなされていないことから、通常採用される程度のものとすればよいことが分かる。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、過度の試行錯誤を必要とするとはいえず、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、上記申立人の主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700466