2022-700454
固体分散体用基剤、それを用いた固体分散体の製造方法及び固体分散体
- 審判番号
- 2022-700454
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-074427外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6972623
- 請求日
- 2022年05月23日
- 審決日
- 2023年08月24日
- 公報発行日
- 2023年11月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人栄光事務所
- 【異議申立人】大村 豊
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 22項目
第1 手続の経緯
折りたたみ中(クリックで表示)
特許第6972623号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成29年4月4日に出願された特願2017-74427号に係る出願であって、令和3年11月8日にその特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、同年11月24日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年5月23日に特許異議申立人 大村 豊(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後、令和4年8月22日付けで取消理由が通知された後に、同年10月21日に特許権者 三菱ケミカル株式会社(以下、「特許権者」という。)により訂正請求がされると共に意見書が提出され、同年11月7日付けで特許法第120条の5第5項の通知を行ったところ、同年12月9日に申立人より意見書が提出された。
その後、令和5年2月6日付けで取消理由(決定の予告)が通知された後に、同年4月7日に特許権者により意見書が提出された。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和4年10月21日付けの訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)及び(2)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「カルボン酸金属塩の含有量が0.8重量%以下のポリビニルアルコール系樹脂を含有し、」と記載されているのを、「カルボン酸金属塩の含有量が0.5重量%以下のポリビニルアルコール系樹脂を含有し、」に訂正する。請求項1を直接的に引用している請求項2及び3も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記ポリビニルアルコール系樹脂の含有量が、固体分散体用基剤全体に対して20重量%以上である」と記載されているのを、「前記ポリビニルアルコール系樹脂の含有量が、固体分散体用基剤全体に対して100重量%である」に訂正する。請求項1を直接的に引用している請求項2及び3も同様に訂正する。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項2及び3は、それぞれ請求項1を引用するものであって、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
よって、本件訂正は、一群の請求項に対してなされたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1による訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「カルボン酸金属塩の含有量」の数値範囲を「0.8重量%以下」から「0.5重量%以下」に狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記の限定した事項については、願書に添付した明細書の【実施例】の実施例2に記載されているから、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、請求項1を直接的に引用している請求項2及び3も同様である。
(2)訂正事項2による訂正について
訂正事項2による請求項1についての訂正は、「固体分散体用基剤全体に対」する「前記ポリビニルアルコール系樹脂の含有量」の数値範囲を「20重量%以上」から「100重量%」に狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記の限定した事項については、願書に添付した明細書の段落【0084】に「・・ ・ 得られたPVA系樹脂の粉末を90℃で揮発分が1%以下になるまで真空乾燥し、PVA系樹脂の乾燥粉末を得て、固体分散体用基剤とした。」という部分に記載されているから、訂正事項2による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、請求項1を直接的に引用している請求項2及び3も同様である。
4 むすび
以上のとおり、請求項1ないし3についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
そして、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし3に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし3について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2で示したとおり、本件訂正は認められるため、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、本件特許発明1ないし3を総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】カルボン酸金属塩の含有量が0.5重量%以下のポリビニルアルコール系樹脂を含有し、前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が80~95モル%であり、前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が200~2500であり、前記ポリビニルアルコール系樹脂の含有量が、固体分散体用基剤全体に対して100重量%であることを特徴とする固体分散体用基剤。【請求項2】請求項1に記載の固体分散体用基剤と薬物の混合物を溶融混練した後、冷却することを特徴とする固体分散体の製造方法。【請求項3】請求項1に記載の固体分散体用基剤と薬物を含有する固体分散体。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由、証拠方法等及び取消理由の概要
折りたたみ中(クリックで表示)
1 特許異議申立書に記載した申立理由の概要
令和4年5月23日に申立人が提出した特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は、以下のとおりである。
(1)申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1及び3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由3(甲第3号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(4)申立理由4(甲第4号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(5)申立理由5(甲第5号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(6)申立理由6(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由の概要は、以下のとおり。
ア 酢酸ナトリウムが溶出率においてどのように影響を及ぼすのか本件明細書には何ら開示がなく、もし、架橋等のような技術常識から認識できるものとは異なる現象によるものであるとすれば、酢酸ナトリウム含有量「0.8重量%」を充足するだけで、実施例で得られたポリビニルアルコール系樹脂以外においても総じて、上記課題を解決できるものとは認められない。
また、酢酸ナトリウムの含有量が溶出率に関与しているのだとしても、「0.8重量%以下」のあらゆる領域において、薬物の溶出率に「優れ」る(さらには、着色の「小さい」)という課題を解決できるものとは認められない(申立書第49ページ第5~19行)。
イ 本件発明は、固体分散体用基剤ないし固体分散体を対象とするものの、当該発明において、固体分散体の態様として、溶融法(本件明細書の【0004】)を経たもの以外においてまで、同様に上記課題を生じ、解決できるものとは認められない(申立書第49ページ第22~25行)。
ウ 例えば、甲9には、固体分散体のキャリアとして影響が大きい諸物性を検討しており、実際、次のようなこと等が開示されている。
・図2、5等から明らかなように、同系統のキャリア(例えば、HPMC, HPMCP, HPMCAS)であってさえ、少しでも導入される官能基等が異なると(本件発明では、「ポリビニルアルコール系樹脂」と規定されており 当該「樹脂」には、種々の共重合の態様等を含め、種々の「系」樹脂を包含していることに留意)、全く溶出性(溶出率)が異なる。
・同じキャリアでも薬物によっては全く溶出性(溶出率)が異なること[例えば図2、図5(例えば、HPMCPはジピリダモールでは優れた溶出率を実現しているのに対して、ニフェジピンやグリセオフルビンでは著しく溶出率が低くなる等)等]、そして、この要因が薬物との相互作用によるものであると推定されること
そうすると、ポリビニルアルコール系樹脂の中でも、特定のケン化度・重合度(しかもこれらは1種類のみ)及び酢酸ナトリウム含有量(しかもこれは0.1重量%と0.5重量%のもののみ)を充足するものを、特定の薬物(しかも、カルバマゼピンのみ)において確認した結果のみをもって、単にこれらを規定する(例えば、酢酸ナトリウム含有量を「0.8重量%」と規定する)だけで、あらゆる場合(例えば、相互作用においてカルバマゼピンとは全く異なることが容易に想定できる薬物)において、課題を解決できるものとは到底考えられない(申立書第50ページ第3~18行)。
(7)申立理由7(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由の概要は、以下のとおり。
本件特許発明1は、規定する固体分散体用基剤として、「前記ポリビニルアルコール系樹脂」以外の他の成分としてどのようなものを含むのか(さらには 当該他の成分を80重量%以下まで含む場合がどのような場合を指すのか)不明となっている(申立書第52ページ第1~4行)。
2 証拠方法
(1)申立人の提出した証拠方法
申立人は、申立書に添付して、以下の証拠を提出している。
甲第1号証:Hot melt extrusion of polyvinyl alcohol for oral immediate release applications, W. De Jaeghere et al., International Journal of Pharmaceutics 492, Issues 1-2 (2015) p1-9
また、申立人は、令和4年12月9日付けの意見書に添付して、以下の証拠を提出している。
以下、申立人が提出した証拠を、順に「甲1」等という。
(2)特許権者が提出した証拠方法
特許権者は、令和4年10月21日付けの意見書に添付して、以下の証拠を提出している。
また、特許権者は、令和5年4月7日付けの意見書に添付して、以下の証拠を提出している。
乙第2号証:第8版食品添加物公定書、B.一般試験法における12.強熱残分試験法 B一般試験法、14頁、[online]、平成19年、厚生労働省、[令和5年4月4日検索]、インターネット<URL:https://www.mhlw.go.jp/seisakuni tsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuten/kouteisho8e.html>
<URL:https://www.mh1w.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/s yokuten/dl/8e01.pdf>
<URL: https://jpdb.nihs.go.jp/jpl4/>
<URL: https://jpdb.nihs.go.jp/jp14/contents.htm>
<URL: https://jpdb.nihs.go.jp/jp14/pdf/0027-3.pdf>
<URL:https://www.usp.org/harmonization-standards/pdg/general-methods/residue-ignition>
<URL:https://www.usp.org/sites/default/files/usp/document/harmonization/gen-method/q1O_pf_31_5_2005.pdf>
<URL:http://www.st.rim.or.jp/"shw/MSDS/19224150.pdf>
<URL:https://kikakurui.com/k6/K6726-1994-01.html>
以下、特許権者が提出した証拠を、順に「乙1」等という。
3 令和5年2月6日付け取消理由(決定の予告)に記載した取消理由の概要
(1)取消理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第5 取消理由及び申立理由についての当審の判断
I 取消理由(決定の予告)について
1 取消理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)及び申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
令和5年2月6日付け取消理由通知(決定の予告)における取消理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)は、申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)と同旨であるため、併せて検討する。
(1)証拠に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項及び甲1発明
(ア)甲1に記載された事項
甲1には、「Hot melt extrusion of polyvinyl alcohol for oral immediate
release applications」に関して、次の事項が記載されている。
なお、下記記載事項は、当審訳のみを示す。また、下線は当審で付したものである。
(a1)「本研究の目的は、HMEにより部分加水分解したPVOHグレード(水酸基化度(DH):33-88%)を処理し、固体分散体の形成により部分加水分解したPVOHグレードを難水溶性薬物(HCTおよびCEL)の放出速度を向上させるための経口即放性製剤用担体として評価することである。PVOHグレード(DH>70%)はHCTおよびCELを15%まで可溶化することができたが、PVOHの結晶性のため、より高い押出温度を必要とした。最も高い薬物放出率を示したのは、高いDHを有するホットメルト押出PVOH試料であった。」(第1ページ要約)
(a2)「医薬用途に用いられる部分加水分解ポリビニルアルコール(PVOH)は、酢酸ビニルとビニルアルコールの共重合体で、酢酸ビニルの重合後に部分加水分解(水酸化ナトリウムの存在下)してポリマー骨格の酢酸基の一部を水酸基で置換して合成されます。合成条件(触媒濃度、反応温度、時間)は、PVOHの水酸基化度(通常、含有量は30と99mo|%の間で変化する)と分子量を決定し、これらは共に水溶性に影響する(Hallensleben,2000)。親水性、非毒性(DeMerlis and Schoneker, 2003)、非発癌性、生分解性(Theilen et al., 2013)の特性を持つ部分加水分解PVOHは、医薬用途として興味深いポリマーで、現在、乳化剤の安定剤、眼科製剤の増粘剤、人工涙液の潤滑目的で使用されている(Rowe et al. 2006)。」(第1ページ右欄第15行~第2ページ左欄第11行)
(a3)「2.材料と方法
2.1. 材料
水酸基化度の異なるいくつかのPVOHグレード(Kuraray, Hattersheim am Main, Germanyから入手)を評価した:タイプLM25(33-38%水酸基化度)、タイプLM22(47-53%水酸基化度)、タイプ505(72-75%水酸基化度)。さらに、医薬用PVOHグレード(タイプ4-88、88%水酸基化度、Merck, Darmstadt, Germany提供)も含まれた。LMgradesは、良好な水分散性を提供するために、カルボン酸で末端基が修飾されていた。モデル薬物として、BCSクラスIII薬物(Wu and Benet, 2005)のヒドロクロロチアジド(HCT) (Utag, Amsterdam, Netherlands)、BCSクラスII薬物(Turner et al, 2012)のセレコキシブ(CEL) (Sanico, Turnhout, Belgium)を使用した。ソルビトール(Fagron, Waregem, Belgium)をPVOHの水溶性可塑剤として使用した。
2.2.ホットメルト押出
純粋なPVOH、PVOH/HCTの混合物およびPVOH/ソルビトールの混合物を、共回転完全噛合式二軸押出機(Prism Eurolab 16, Thermo Fisher, Germany)を用い、lOOrpmのスクリュー速度および130-180℃の処理温度で作動させて処理した。押出機には、重量式フィーダー、3つの混合ゾーンを持つ2つのアルキメデススクリュー、および3mmの円筒形ダイが装備されていた。その後、押出物を外科用ブレードで長さ2mmのミニタブレットに手作業で切断するか、液体窒素で急冷し、凍結粉砕して300ミクロンの飾にかけた。低温粉砕したPVOH/ソルビトール押出物(300mm未満)とCELの混合物を、スクリュー速度60rpm、処理温度140℃で運転する共回転二軸押出機(Haake MiniLab II Micro Compounder, Thermo Electron, Karlsruhe, Germany)で処理した。押出機には、空気圧式フィーダー、2本のアルキメデススクリュー、2mmの円筒形ダイが装備されていた。押出物は液体窒素で急冷し、凍結粉砕し、300ミクロンの飾にかけられた。」(第2ページ左欄第21~54行)
(a4)「
[図:0001403622000001.jpg]
」(第4ページ表1)
(イ)甲1発明
甲1の(a1)には、「本研究の目的は、HMEにより部分加水分解したPVOHグレード(水酸基化度(DH):33-88%)を処理し、固体分散体の形成により部分加水分解したPVOHグレードを難水溶性薬物(HCTおよびCEL)の放出速度を向上させるための経口即放性製剤用担体として評価することである。」と記載されていることから、「部分加水分解したPVOHグレード(水酸基化度(DH):33-88%)からなる難水溶性薬物の放出速度を向上させるための経口即放性製剤用担体」について開示されている。
また、甲1発明の(a2)には、「医薬用途に用いられる部分加水分解ポリビニルアルコール(PVOH)は、酢酸ビニルとビニルアルコールの共重合体で、酢酸ビニルの重合後に部分加水分解(水酸化ナトリウムの存在下)してポリマー骨格の酢酸基の一部を水酸基で置換して合成されます。」と記載されている。
そして、甲1の(a4)には、部分加水分解したPVOHであるタイプ4-88のPVOH(Merck, Darmstadt, Germany)が、水酸基化度88%、Mw92881g/molであることが示されている。
そうすると、甲1には次の発明が記載されていると認める。
「酢酸ビニルとビニルアルコールの共重合体で、酢酸ビニルの重合後に部分加水分解(水酸化ナトリウムの存在下)したポリビニルアルコール(PVOH)であるタイプ4-88(Merck, Darmstadt, Germany)水酸基化度88%、Mw92881g/mol」からなる難水溶性薬物の放出速度を向上させるための経口即放性製剤用担体」(以下、「甲1発明」という。)
イ 甲2に記載された事項
「請求の範囲[請求項1] ポリビニルアルコール微粒子の粒子表面から粒子内部に向かって0.8nmの範囲のポリビニルアルコール分子のゴーシュ構造が25モル%以上であるポリビニルアルコール微粒子。・・・[請求項6] 前記ポリビニルアルコール微粒子の平均重合度が200~4000である請求項1~5のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール微粒子。[請求項7] 前記ポリビニルアルコール微粒子がアルカリ金属塩をポリビニルアルコール微粒子に対して0.001~2質量%含有する請求項1~6のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール微粒子。[請求項8] 請求項1~7のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール微粒子を含有する医薬用結合剤。[請求項9] 薬効成分と請求項8に記載の医薬用結合剤とを含有する医薬錠剤。[請求項10] 薬効成分と請求項8に記載の医薬用結合剤とを含有する徐放性医薬錠剤。」
「[0010] しかしながら、特許文献1に記載の結合剤は打錠に適するとともに錠剤に良好な即崩壊性を付与することができ、短時間で有効成分を放出させる観点からは満足のできるものであるが、長時間の溶出コントロールはできないものであった。また、特許文献2に記載のマトリックス製剤用基材は、有効成分の徐放性には優れるものであったが、得られた錠剤の硬度や脆性についてはまだまだ満足のいくものではなく、錠剤の成形性と徐放性のいずれにおいても優れた効果を有する結合剤が求められている。そこで、本発明はこのような背景下において、特に医薬用結合剤として用いた場合に、徐放性に優れ、硬度が高く、脆性に優れ、さらには表面の滑らかな医薬錠剤を得ることができるPVA微粒子、更には医薬用結合剤、医薬錠剤を提供することを目的とするものである。課題を解決するための手段[0011] しかるに本発明者らは、上記事情に鑑み鋭意検討した結果、ポリビニルアルコール微粒子の表面のゴーシュ構造が従来よりも多いポリビニルアルコール微粒子を用いることによって上述の課題が解決されることを見出し、本発明を完成した。」
「[0040] なお、未変性PVA粉体には、ケン化時に用いるアルカリ触媒に由来する酢酸のアルカリ金属塩が含まれている。アルカリ金属塩の含有量は、未変性PVA粉体に対して通常0.001~2質量%、好ましくは0.005~1質量%であり、更に好ましくは0.01~0.1質量%である。アルカリ金属塩の含有量の調整方法としては、例えば、ケン化で用いる時のアルカリ触媒の量を調節したり、エタノールやメタノールなどのアルコールでPVAを洗浄する方法が挙げられる。本発明で用いるアルカリ金属塩の定量法としては、PVA粉体を水に溶かして、メチルオレンジを指示薬とし、塩酸にて中和滴定を行い求める方法が挙げられる。[0041] 本発明で用いられるPVAの平均重合度は、好ましくは200~4000であり、より好ましくは400~3500であり、更に好ましくは500~3000である。平均重合度が小さすぎると、錠剤にした際に十分な結合力や徐放性が得られなくなる場合があり、また、平均重合度が大きすぎると、有効成分や賦形剤などとの混合性が悪化し、成形性が悪化する場合がある。なお、本発明において、上記平均重合度は、JIS K6726に準拠する方法で求めた平均重合度を用いるものとする。[0042] また、PVAの20℃における4質量%水溶液粘度は、好ましくは1.5~100mPa・sであり、より好ましくは4~80mPa・sであり、更に好ましくは5~70mPa・sである。4質量%水溶液粘度が大きすぎると、製造時の溶媒によりゲル化して混合性が悪化し、成形性が悪化する場合があり、4質量%水溶液粘度が小さすぎると、十分な結合力や徐放性が得られなくなる場合がある。なお、本発明において、上記20℃における4質量%水溶液粘度は、JIS K6726に準拠する方法で測定された粘度である。[0043] 本発明に用いられるPVAのケン化度は、好ましくは70~100モル%であり、より好ましくは80~95モル%であり、更に好ましくは85~90%である。ケン化度が低すぎると、徐放性が保たれず、ケン化度が高すぎると結合力が足りず、すぐに崩壊する場合がある。なお、本発明において、上記ケン化度は、JIS K6726に準拠する方法で測定される。」
「[0074] <医薬錠剤>本発明の医薬錠剤は、上記した各種成分を配合し、直接または造粒した後打錠成形して製造される。かかる成形には、医薬品分野で通常行われるロータリー打錠機、単発式打錠機等を用いた固形製剤の圧縮成形による製造法の何れをも用いることができる。例えば、各種成分を均一に混合した後に打錠する直接粉末圧縮法、各種成分を湿式造粒あるいは乾式造粒し、得られた顆粒を打錠する湿式顆粒圧縮法や乾式顆粒圧縮法により製造することができる。中でも、流動性の改善および混合均一性の観点から、湿式顆粒圧縮法により製造することが好ましい。[0075] 湿式造粒の方法としては、上記の成分が造粒される限り、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法を適宜選択することができ、例えば、湿式破砕、押し出し、流動層、攪拌などが挙げられる。これらの中でも、攪拌造粒法、流動層造粒法等の湿式造粒法であることが好ましく、前記攪拌造粒法がより好ましい。[0076] 前記造粒に用いる装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、攪拌造粒装置(例えば、Gem Pharma Machineries社製「Rapid Mixer Granulator」、株式会社パウレック製「バーチカルグラニュレーター」)、流動層造粒装置(例えば、株式会社パウレック製「転動流動コーティング装置-MP-01」)などが挙げられる。[0077] 造粒工程において、各成分を秤量し、それを篩過/粉砕し、次いで、乾燥状態のまま造粒装置内で混合する。かかる混合粉末には、造粒のために水や溶剤、水と溶剤の混合物を添加することが好ましく、溶媒は有効成分の性質によって適宜選択すればよい。溶剤としては、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールが挙げられ、好ましくはイソプロピルアルコールが用いられる。」
「[0088] (実施例1)[ポリビニルアルコールの作成]還流冷却機、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1000部、メタノール140部、およびアゾビスイソブチロニトリル0.05モル%(対仕込み酢酸ビニル)を仕込み、窒素気流下で攪拌しながら温度を上昇させ、沸点下で5時間重合を行った。酢酸ビニルの重合率が65%となった時点で、m-ジニトロベンゼンを添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し、PVA重合体のメタノール溶液(樹脂分41%)を得た。続いて、上記メタノール溶液をさらにメタノールで希釈して、濃度33%に調整してニーダーに仕込んだ。溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの3.5%メタノール溶液を重合体中の酢酸ビニル構造単位1モルに対して2.0ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行するとともにケン化物が析出し、粒子状となった時点で固液分離により濾別した。続きを表示(全28行)得られたPVA乾燥粉末のケン化度は、残存酢酸ビニルの加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ、87.7モル%であり、4質量%水溶液の粘度は、41.5mPa・sであり、平均重合度は2400であった。[0089] 上記で得られたPVA乾燥粉末を浴比10倍のメタノール中に投入して3時間攪拌した後、固液分離し、得られたPVA粉末(50%粒子径500μm、酢酸ナトリウム含有量0.05部)を90℃で揮発分が1%以下になるまで真空乾燥した。酢酸ナトリウム含有量は、PVA粉体を水に溶かして、メチルオレンジを指示薬とし、塩酸にて中和滴定することにより求めた。これによって得られたPVA乾燥粉末をBIミル(ミクロパウテック製)を用いて、目標の大きさになるまで衝突粉砕し、PVA微粒子(粉砕品)を得た。得られたPVA微粒子の粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置(マルバーン社製LMS-3000)を用いて分散圧2-4bar、測定時間1秒で測定し、50%粒子径(D50)を求めたところ96μmであった。・・・[0092] [錠剤の作製]得られたPVA微粒子を100部、メトフォルミンハイドロクロライドを100部および結晶セルロース(旭化成ケミカルズ社製「PH102」)を70部混合し、造粒装置(Gem Pharma Machineries社製「Rapid Mixer Granulator」)を用いて、ポリビニルピロリドン(BASF社製「PVP K 30」)30部を溶媒としてIPA(イソプロピルアルコール)/水=50/50(質量比)に溶かして、適量加えて造粒し、Tray dryer(Bombay Machines社製)を用いて、残留水分が2~4w/w%になるまで乾燥し造粒物を得た。さらにこの造粒物と結晶セルロースPH102を30部、アエロジル3部、ステアリン酸マグネシウム1部を混合して、ロータリータブレットプレスを用いて楕円体の錠剤(縦1.9cm、横0.9cm、高さ0.5cm)を作製した。[0093] 得られた錠剤の硬さ、脆性、錠剤成形時の形状および溶出時間を測定し、結果を表3に示す。また、徐放性を評価し、結果を図4に示す。[0094] (比較例1)ポリビニルアルコール粉末(ケン化度87.7モル%、4質量%水溶液の粘度が41.5mPa.s)を粉砕し、さらに浴比10倍のメタノール中に投入して3時間攪拌した後、固液分離し、得られたPVA微粒子を90℃で揮発分が1%以下になるまで真空乾燥してPVA微粒子を得た。50%粒子径(D50)をレーザー回折式粒度分布測定装置で測定すると100μmであった。更に実施例1と同様にNMR測定をして、ゴーシュ構造とケン化度を算出た。得られた波形を図3に示す。得られたPVAを用いて実施例1と同様に錠剤を作製し、評価した。結果を表3に示す。また、徐放性試験の結果を図4に示す。[0095] (実施例2)メトフォルミンハイドロクロライド500部を、造粒装置(Gem Pharma Machineries社製「Rapid Mixer Granulator」)を用いて、ポリビニルピロリドン(BASF社製「PVP K 30」)100部を溶媒としてIPA/水=50/50(質量比)に溶かして、適量加えて造粒した。この造粒物と実施例1で得られたPVA微粒子500部と、ステアリン酸マグネシウム10部を混合して、ロータリータブレットプレスを用いて楕円体の錠剤(縦1.9cm、横0.9cm、高さ0.5cm)を作製した。得られた錠剤の評価を実施例1と同様に行った。結果を表3に示す。また、徐放性試験の結果を図5に示す。[0096] (比較例2)比較例1で作成したPVA微粒子を用いて、実施例2と同様に錠剤を作製し、評価した。結果を表3に示す。また、徐放性試験の結果を図5に示す。[0097][図:0001403622000002.jpg]」
ウ 甲3に記載された事項
「請求の範囲[1]ポリビニルアルコール系共重合体からなる固体分散体用基剤。[2]ポリビニルアルコール系共重合体が、ポリビニルアルコール及びその誘導体から選択される少なくとも1種と重合性ビニルモノマーの少なくとも1種を重合して得られるものである請求項1に記載の固体分散体用基剤。・・・続きを表示(全11行)[7]ポリビニルアルコール系共重合体の重量平均分子量が1万~50万である請求項1~6のいずれかに記載の固体分散体用基剤[8]難溶性成分及びポリビニルアルコール系共重合体を含有する固体分散体。[9]難溶性成分及びポリビニルアルコール系共重合体の混合物を加熱処理してなる請求項8に記載の固体分散体。[10]加熱処理が、超音波処理、二軸式混練処理、溶融処理、単軸及び二軸溶融押出し処理マイクロ波処理、サーマルメカノケミカル処理のいずれか又はこれらの組合わせである請求項9に記載の固体分散体。[11]難溶性成分に対するポリビニルアルコール系共重合体の重量比が0.5~20倍である請求項8~10のいずれかに記載の固体分散体。[12]請求項8~11のいずれかに記載された固体分散体を含有する医薬組成物。[13]難溶性成分及び固体分散体用基剤を含有する混合物を加熱処理する固体分散体の製造方法であって、固体分散体用基剤として請求項1~7のいずれかに記載の固体分散体用基剤を使用することを特徴とする固体分散体の製造方法。」
「[0002] 近年、経口用製剤の分野において、固体分散体が注目されている。固体分散体は、一般的に、難溶性の薬物に配合する成分、製剤の製造方法などを工夫することによって製造されるものであり、難溶性薬物の溶解度を上げ、バイオアベイラビリティーを向上させる製剤形態として期待されている。[0003] 固体分散体の製造法としては溶媒法がよく知られている。例えば、固体分散体用基剤として用いる高分子素材と薬物の両者を有機溶媒で溶解しこれを乾燥することにより難溶性薬物を非晶質化して高分子担体に分散させるものである。ところが、溶媒法は有機溶媒による環境への悪影響が問題となる。このため、有機溶媒を使用しない方法として乾式法が注目されている。[0004] 乾式法に基づく固体分散体製造法として、代表的には難溶性薬物と固体分散体用基剤(担体)を加熱し溶融させることにより薬物を非晶質化させる方法が知られている(ホットメルトエクストルーダ法)。また、難溶性薬物と固体分散体用基剤からなる混合物を成型臼に充填し、これに超音波照射をおこない、薬物を非晶質化する方法(例えば、非特許文献1参照)等が知られている。[0005] 前者の方法では、難溶性薬物と固体分散体用基剤担体の混合物に熱を供給する方法は直接加熱方式であり、後者では、超音波照射により混合物に超音波照射エネルギーが粉体の運動、摩擦を引き起こし結果として混合物は蓄熱し、非晶質化するものであり加熱方式としては間接加熱方式である。[0006] また、難溶性薬物(ニルバジピン、ニフェジピン)と水溶性高分子基剤(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン)とを、両者が溶融しない温度で加熱しながら混練するサーマルメカノケミカル法により固体分散体を製造する方法も知られている(例えば、特許文献1参照)。」
[0007] このような乾式法において使用される固体分散体用基剤としては、従来、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ポリビニルアルコール(PVA)等が知られている。しかしながら、加熱処理時の温度、難溶性薬物の溶解性の向上の程度、難溶性薬物の溶解性の安定性・再現性等の点において、より乾式法に適した固体分散体用基剤の提供が要望されていた。
発明が解決しようとする課題
[0008] 難溶性薬物をはじめとする難溶性成分の溶解性がより向上した固体分散体の提供が求められている。
[0009] 本発明者は、上記従来技術の問題点に鑑み鋭意検討を重ねた結果、固体分散体用基剤としてポリビニルアルコール系共重合体を難溶性成分と混合及び加熱して固体分散体を製造することによって、難溶性成分の溶解性に非常に優れた固体分散体が得られることを見出し、本発明を完成させた。」
「[0064] 本発明の固体分散体の製造方法は、難溶性成分及び本発明の固体分散体用基剤、すなわちポリビニルアルコール系共重合体の混合物を加熱処理し、必要に応じて加熱処理物の形態を調整(粉砕、粉末化、成形等)することによって得ることができる。[0065] 難溶性成分及びポリビニルアルコール系共重合体の混合物の加熱処理は、混合物全てを溶融する温度としてもよいし、両者の一部を溶融する温度としてもよいし、溶融に至らない場合でもその特性に応じて、難溶性成分の一部又は全部が非晶質化する温度条件を選択することが出来る。該混合物における難溶性成分及びポリビニルアルコール系共重合体の平均粒子径、混合割合等は上述のとおりである。[0066] 加熱処理に使用される加熱手段は特に限定されるものではなく、当業者により利用可能な適宜の加熱手段手法を採用することができ、より具体的には、乾燥器、オイルバス、電気炉等による加熱、超音波照射による加熱、二軸式混練処理による加熱、単軸及び二軸溶融押出し処理(エクストルーダ)による加熱、マイクロ波照射による加熱などである。[0067] 加熱処理物の形態を調整する手段は特に限定されるものではなく、当業者により利用可能な適宜の手段を粉砕手段、成形手段等を採用することができる。成形手段としては、押出成形(単軸押出、二軸押出、多軸押出、ホットメルトカレンダー法)、射出成形(例えば、二軸エクストルーダー)、圧縮成形(例えば、打錠、造粒)などが例示される。[0068] 加熱処理による固体分散体の製造と固体分散体の形態の調整を同時に行う場合には、加熱手段を備えた加熱処理物の形態を調整する方法を採用すればよい。[0069] 加熱処理の温度は必ずしも加熱対象が溶融する温度は必要ではない。溶融温度よりも低い加熱温度で固体分散体を製造できることが知られており、本発明においても、なるべく低い温度で固体分散体を製造することによって、高温で分解、劣化等が起こる難溶性成分も固体分散体とすることができる。通常、130~200℃、好ましくは140~190℃、より好ましくは150~180℃である。なお、超音波照射は超音波を粉体混合物に当てるものであり、超音波照射による加熱の場合、超音波照射エネルギーは通常600~2000J、好ましくは700~1800J、より好ましくは800~1300Jである。このような装置としては、テクネア・エンジニアリング社製の超音波成形機USTM/L20などを使用することができる。本装置は、難溶性成分、固体分散体用基剤及び必要に応じ添加剤の粉体混合物を本装置に備えられた臼内に充填し、この混合物に超音波を照射しつつ圧縮成形するものである。[0070] また、二軸押出成形機、二軸エクストルーダー等には加熱手段を備えたものがあり、本発明における加熱処理としては、超音波照射しつつ圧縮成形する手段、加熱手段を備えた二軸押出成形機、加熱手段を備えた二軸エクストルーダーによる処理が好ましい。」
「[0080] <実施例1~3:ポリビニルアルコール系共重合体を用いた難溶性薬物ニフェジピン製剤の超音波成形>以下の実施例及び比較例における超音波成形では、成形機としてテクネア・エンジニアリング社製の超音波成形機USTM/L-20を使用した。この成形機は、中央部(φ25.0mm)が上下貫通した円板状の臼、該中央部に整合した形状の下杵と上杵、さらに該上杵上部に、該上杵を介して該中央部に超音波照射可能に設置された超音波発振装置を備えている。臼の中央部下部に下杵をセットし、臼と下杵との空間に成形材料を投入後、超音波発振装置から上杵を介して成形材料に超音波をあてつつ下杵を空気圧により上方に押し上げることによって成形するものである。[0081] ニフェジピンは抗高血圧薬であり、その物性は、黄色の結晶性粉末、融点172~175℃、水溶解度7~8μg/mL(難溶性)である。また、結晶のニフェジピンは示差走査熱量計(DSC)による測定では174℃付近に融解ピークが確認される。このニフェジピンを、固体分散体用基剤としてポリビニルアルコール系粉体を使用し超音波成形機で成形した。固体分散体用基剤としてはPOVACOAT TypeF(大同化成工業社製;平均分子量約40,000;平均粒子径125μm;以下、POVAと称することがある)を使用した。[0082] ニフェジピンにその5重量倍の固体分散体用基剤を混合して、混合物の1gを成形材料とし、これを超音波成形機に供して、25mm径の錠剤(厚さ;約1mm)を成形した。一錠(1g)あたりのニフェジピン含有量は167mgである。下杵の押し上げ圧は0.4MPaとし、超音波の照射エネルギーは、670J(実施例1)、1000J(実施例2)及び1200J(実施例3)とした。」
エ 甲4に記載された事項
(ア)「尚、本発明で言うケン化物とは、部分ケン化物及び完全ケン化物の両者を含むものとする。該ポリビニルアルコール系ポリマーは熱安定性に乏しく、溶融成形不能であるか、あるいは可能であっても、溶融成形時極めて着色、熱劣化しやすい特性がある。また溶融成形時のみならず熱処理、熱延伸、熱接着、乾燥等、要するに加熱時、容易に着色し、また分解したり、あるいは逆に架橋現象を呈しやすく、溶融粘度が変化したり、溶剤に対して不溶化するなど、いわゆる熱安定性に劣る欠点があり、工業上重大な問題点となっている。本発明者等は、ポリビニルアルコール系ポリマーのかかる欠点を克服し、アイシュ・アイが少なく、着色し難く、分解や架橋を起こし難い、熱安定性良好なポリビニルアルコール系ポリマーを製造する方法について<鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、ポリビニルアルコール系ポリマーに対して続きを表示(全12行)○a(当審注:丸囲みのaを表す。)酢酸ナトリウムを0.005~1重量%と○b(当審注:丸囲みのbを表す。)酢酸を、次式を満足するように含有させ、[図:0001403622000003.jpg]更に○c(当審注:丸囲みのcを表す。) 25°Cにおけるpkaが式※後で式を貼り付け[図:0001403622000004.jpg]を満足する多塩基酸であって、該多塩酸のpk1に相当する酸基がアルカリ金属塩を形成し、pk2に相当する酸基が遊離状態にある様な多塩基酸の部分アルカリ金属塩の1種または2種以上を0.001~0.5重量%含有させることによって、アイシュ・アイが少なく、着色し難く、分解や架橋を起こし難い、熱安定性良好なポリビニルアルコール系ポリマーを得ることができることを認め本発明を完成した。」(第2欄第31行~第3欄第28行)
(イ)「一方、該ポリビニルアルコール系ポリマー中の酢酸ナトリウムの含有率が0.1重量%を越える程度に多い場合には、該ポリビニルアルコール系ポリマーの着色、分解を促進する傾向があるし、また酢酸ナトリウム含有率が0.005重量%を下まわる程度に少なくなると、本発明の効果は極めて小さいものとなるのでこの場合もまた、該ポリビニルアルコール系ポリマーの熱劣化を防止することができない。」(第5欄第16~24行)
(ウ)「本発明は、該ポリビニルアルコール系ポリマーを加熱成型する場合に、特に、顕著に、その効果を発揮するが、その他、熱処理、熱延伸、熱接着、乾燥等、要するに加熱時、その効果を発揮するものである。・・・本発明によって作成されたポリビニルアルコール系ポリマーは溶融成型法、湿式成型法、乾式成型法、等によって成型物、フィルム、繊維、等に成型されるほか、エマルジョンや溶液にして、塗料、接着剤、繊維加工剤あるいは紙加工剤などの各種処理剤等に使用することができる。」(第7欄第24~39行)
(エ)「実施例1エチレン-酢酸ビニル共重合体(エチレン成分含有率33モル%、酢酸ビニル成分含有率67モル%、重合度2150)40部(重量)をメタノール60部に溶解し、これに苛性ソーダの10重量%メタノール溶液20部を加え60℃で3時間ケン化した。該ケン化原液を500部の水中に投入して、ポリマーを析出させ次いで、析出したポリマーを脱液後、大型ソックスレ一式抽出機で50°Cにて水で1週間、連続抽出して洗浄した。この抽出、洗浄したエチレンー酢酸ビニル共重合体ケン化物(ケン化度99.5モル%)100部をメタノール-水混合物(メタノール70重量%+水30重量%)400部に60℃で溶解させた。続きを表示(全16行)該溶液に酢酸ナトリウム0.04部、酢酸0.15部及び25℃におけるpkaが、前記した0式を満足するコハク酸(pk1=4.21、pk2=5.64、X値4.93)のモノナトリウム塩(コハク酸水素ナトリウム)0.05部を添加し60℃で十分攪拌して溶解した。該組成物を室温まで冷却してゲル化させこれをミキサーで粉砕後、20時間風乾し、更に熱風循環式乾燥器にて100℃、16時間加熱して乾燥させた。かくして得られた該共重合体ケン化物中の酢酸ナトリウム含有率は0.0364重量%、酢酸含有率は0.1231重量%(α値3.38)、コハク酸水素ナトリウム含有率は0.0486重量%であった。該共重合体ケン化物3gを230℃に加熱した熱板(シンドー式卓上型テストプレスYS-5)の間にはさみ、熱板間の間隙を5m/mに保って、10分間及び30分間加熱(加熱着色試験)し、この加熱着色試験後の試料の黄色度(YI、日本重色工業製ND-K5型)を測定した。一方、溶融粘度の熱劣化特性を見るために、該共重合体ケン化物の溶融指数(メルト・インデックス)をASTMD1238(E)に準じて、190℃、荷重2160gにて測定(宝工業製メルト・インデクサーMX-101-A型オリフィス外径9.5m/m、オリフィス内径2.095m/m、長さ8.0m/m)した。但し、該共重合体ケン化物をメルト・インデクサーに仕込み、荷重をかけないで30分間、190℃で予熱した後、荷重をかけて測定した。測定結果を表-1に示す。・・・[図:0001403622000005.jpg]酢酸、酢酸ナトリウム及びコハク酸水素ナトリウムを含有させた実施例1の場合には、加熱時の着色が極めて小さく、また溶融特性の目安であるメルト・インデックスも正常であって、溶融成形加工に施した値を示した。一方、酢酸、酢酸ナトリウムのみを添加し、コハク酸水素ナトリウムを添加しない対照例1の場合は、厳しい加熱条件下(230℃、30分間加熱)での着色が著しく、また、メルト・インデックスの値も太きく、やや分解傾向を示した。また、酢酸、酢酸ナトリウムを添加せず、コハク酸水素ナトリウムのみを添加した対照例2の場合には、メルト・インデックスの値は、はぼ正常であるが、加熱時の着色の点で不満足である。更に、酢酸、酢酸ナトリウム及びコハク酸水素ナトリウムのいずれも添加しない対照例3の場合は、加熱時の着色、溶融特性共に劣悪であった。」(第8欄第1行~第10欄第25行)
(オ)「実施例5及び対照例9ポリ酢酸ビニルをメタノール溶液中、苛性ソーダを用いて公知の方法でケン化し、母液分離後、粉砕し、メタノールで洗浄後、風乾してポリビニアルコール(ケン化度98,5モル%、重合度1700)のチップを作成した。該チップ100部を水200部に溶解して水溶液とし、該水溶液に、酢酸0.2部を添加し該チップ中に残存していた苛性アルカリを中和して酢酸ナトリウムとし、次いで25°Cにおけるpkaが前記した○2(当審注:丸囲みの2を表す。)式を満足するリン酸(酸基がすべて遊離状態のもの)0.04部を添加して、リン酸のpklに相当する酸基を酢酸ナトリウムと反応せしめた。かくして、実質的に、酢酸、酢酸ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムを含有するポリビニルアルコールの水溶液をシャーレ上に流延して風乾後ミキサーで粉砕して、チップを作成し、次いで80℃、16時間、熱風循環式乾燥器で乾燥した。該ポリビニルアルコール中の酢酸含有率は0.1413重量%、酢酸ナトリウム含有率は0.0364重量%(α値3.88、リン酸二水素ナトリウムの含有率は0.0458重量%であった。該ポリビニルアルコールの乾燥チップの水に対する溶解性は極めて良好であった。更に該乾燥チップを実施例1に示した加熱着色試験を230℃、5分間加熱の条件で実施したところ、着色は認められず、良好な熱安定性を示した。一方、対照例(対照例9)として実施例5におけるリン酸の添加を行なわない場合の試料(酢酸含有率0.1204重量%、酢酸ナトリウム含有率0.0685重量%、α値1.76)の水に対する溶解性はやや劣り、また実施例5で示した加熱着色試験を行なったところ、黄色に着色した。」(第15欄第15行~第16欄第30行)
オ 甲5に記載された事項
「【特許請求の範囲】【請求項1】固体状態の樹脂の 集合体もしくは固体状態の樹脂を含むスラリーを押し出し流れさせつつ、該押し出し流れ方向とは向流方向から洗浄液を流すことにより、前記樹脂中の不純物を除去することを特徴とする樹脂の洗浄方法。【請求項2】続きを表示(全13行)固体状態の樹脂の集合体もしくは固体状態の樹脂を含むスラリーを傾斜型スクリューコンベヤの下部近傍から供給して上方へ搬送しつつ、洗浄液を該傾斜スクリューコンベヤの上部近傍から流し入れて下部近傍を経由して排出することにより、前記樹脂中の不純物を除去することを特徴とする樹脂の洗浄方法。【請求項3】竪型移動層装置と傾斜型スクリューコンベヤとからなり、該竪型移動層装置の下部において該傾斜型スクリューコンベヤの下部近傍と結合してなる装置を用いて、固体状態の樹脂の集合体もしくは固体状態の樹脂を含むスラリーを前記竪型移動層装置の上部から供給し、下部を経由させて前記傾斜型スクリューコンベヤの上方へ搬送しつつ、洗浄液を前記傾斜型スクリューコンベヤの上部近傍から流し入れて前記竪型移動層装置の上部近傍から排出することにより、前記樹脂中の不純物を除去することを特徴とする樹脂の洗浄方法。【請求項4】樹脂がポリビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか1に記載の樹脂の洗浄方法。【請求項5】請求項1~請求項3のいずれか1に記載の洗浄方法により洗浄して得られた、不純物が除去された樹脂。【請求項6】請求項4に記載の洗浄方法により洗浄して得られた、不純物が除去されたポリビニルアルコール系樹脂。」
「【0003】例えば、ポリビニルアルコール(以下PVAと略記する場合がある)系樹脂は、造膜性、接着性、ガスバリア性、粒子分散性、乳化性等に優れた水溶性高分子であるため、繊維加工用の糊剤、紙、木材の接着剤、また、上質紙、板紙や段ボールライナー用紙等の表面強度向上剤や剥離紙のアンダーコート剤として、さらにはフィルム、各種無機材料のバインダー、乳化安定剤、懸濁重合の分散安定剤などの広い分野で幅広く使用されているが、工業的に生産されているポリビニルアルコール系樹脂には、製造の過程で使用される重合開始剤や鹸化触媒から副生する例えば、開始剤分解物や酢酸ナトリウム等の不純物が含まれている。これら不純物はポリビニルアルコール系樹脂の例えば酢酸臭などの不快な臭気の原因となったり、ポリビニルアルコール系樹脂の耐熱性を低下させたり、用途によっては、育苗阻害の原因となったり、皮膚に炎症を起こさせたりと問題視されることがある。【0004】そこで、樹脂中の不純物を除去するための洗浄方法や、もともと不純物の少ない樹脂を製造する方法が種々検討されている。」
「【0042】また、実施例1、2および比較例1~3の洗浄用樹脂試料として用いたポリビニルアルコール系樹脂は、次の方法により製造した。[ポリビニルアルコール系樹脂の製造例]攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、圧力計を備えた反応器を窒素置換した後、脱酸素した酢酸ビニルモノマー2800質量部、メタノール800質量部を仕込み、攪拌下で昇温を開始し内温が60℃となったところで、別途メタノール50質量部に開始剤としての2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1重量部を溶解させて調製した開始剤溶液を添加して重合を開始した。60℃で5時間重合した後、冷却して重合を停止した。このときの重合溶液中の固形分濃度は55.1%であった。得られた重合溶液を、塔内に多孔板を多段数有する脱モノマー塔に供給しつつ、塔下部よりメタノール蒸気を吹き込んで、重合溶液をメタノール蒸気と接触させることにより、未反応の酢酸ビニルモノマーを除去した。この酢酸ビニルモノマーを除去後のポリ酢酸ビニル-メタノール溶液の固形分濃度は42%であった。このポリ酢酸ビニル-メタノール溶液の温度を40℃に保ち、水酸化ナトリウムを添加してケン化反応を行ってポリビニルアルコール樹脂を得た。ケン化反応終了時のポリビニルアルコール樹脂の形態は、溶媒のメタノールおよび副生成物の酢酸メチルを含有した固体状のゲルになっており、鹸化度は88モル%、揮発分は58%であった。また、副生成物である酢酸ナトリウムの含有量は、ポリビニルアルコール樹脂の固形分のうちの0.8%であった。このゲル状ポリビニルアルコール樹脂を3mm角の大きさに粉砕したものを洗浄用樹脂試料として供した。続きを表示(全25行)【0043】[実施例1]図2に示す装置の樹脂供給口2から、前記ポリビニルアルコール系樹脂の製造例で製造したゲル状ポリビニルアルコール樹脂からなる洗浄用樹脂試料を毎分200gの速度で連続供給した。樹脂供給口2に入った洗浄用樹脂試料が樹脂排出口4から出て来るまでに要した時間は30分であった。前記の樹脂試料の供給と並行して、洗浄液としてのメタノールを洗浄液注入口5から毎分50gの流量で流して洗浄液排出口6から排出した。樹脂試料の供給開始から1時間後、樹脂排出口4から洗浄後の樹脂試料を採取し、ポリビニルアルコール中の酢酸ナトリウム量を測定したところ、洗浄前に0.8%であったものが0.3%にまで低下していることがわかった。【0044】[実施例2]図1に示す装置の樹脂供給口2から、前記ポリビニルアルコール系樹脂の製造例で製造したゲル状ポリビニルアルコール樹脂からなる洗浄用樹脂試料を毎分500gの速度で連続供給した。樹脂供給口2に入った洗浄用樹脂試料が樹脂排出口4から出て来るまでに要した時間は20分であった。前記の樹脂試料の供給と並行して、洗浄液としてのメタノールを洗浄液注入口5から毎分500gの流量で流して洗浄液排出口6から排出した。樹脂試料の供給開始から1時間後、樹脂排出口4から洗浄後の樹脂試料を採取し、ポリビニルアルコール中の酢酸ナトリウム量を測定したところ、洗浄前に0.8%であったものが0.1%に低下していた。【0045】[実施例3]マレイン酸変性度2.0モル%、重合度1700、ポリビニルアルコール部分のケン化度96モル%、揮発分5%、酢酸ナトリウムの含有量1.1%のポリビニルアルコール系樹脂を3mm角の大きさに粉砕したものを洗浄用樹脂試料とした。この洗浄用樹脂試料を、実施例1で用いたのと同じ図2に示す装置の樹脂供給口2から毎分100gの速度で連続供給した。樹脂供給口2に入った洗浄用樹脂試料が樹脂排出口4から出て来るまでに要した時間は30分であった。前記の樹脂試料の供給と並行して、洗浄液としてのメタノールを洗浄液注入口5から毎分300gの流量で流して洗浄液排出口6から排出した。樹脂試料の供給開始から1時間後、樹脂排出口4から洗浄後の樹脂試料を採取し、酢酸ナトリウム量を測定したところ、洗浄前に1.1%であったものが0.1%にまで低下していることがわかった。【0046】[実施例4]エチレンを1モル%共重合した重合度1500、ポリビニルアルコール部分のケン化度99モル%、揮発分4%、酢酸ナトリウムの含有量1.3%のエチレン変性ポリビニルアルコール樹脂を3mm角の大きさに粉砕したものを洗浄用樹脂試料とした。この洗浄用樹脂試料を、実施例1で用いたのと同じ図2に示す装置の樹脂供給口2から毎分150gの速度で連続供給した。樹脂供給口2に入った洗浄用樹脂試料が樹脂排出口4から出て来るまでに要した時間は25分であった。前記の樹脂試料の供給と並行して、洗浄液としてのメタノールを洗浄液注入口5から毎分400gの流量で流して洗浄液排出口6から排出した。樹脂試料の供給開始から1時間後、樹脂排出口4から洗浄後の樹脂試料を採取し、酢酸ナトリウム量を測定したところ、洗浄前に1.3%であったものが0.1%にまで低下していることがわかった。【0047】[比較例1]2Lのビーカーに前記ポリビニルアルコール系樹脂の製造例で製造したゲル状ポリビニルアルコール樹脂からなる洗浄用樹脂試料500gを投入し、洗浄液としてのメタノールを500g添加し、タービン翼を有する攪拌機を用いて20分間攪拌(回転数:60回転/分)することにより回分洗浄した。ビーカーから取り出した洗浄後のポリビニルアルコール中の酢酸ナトリウム量を測定したところ、0.5%であった。【0048】[比較例2]実施例1で用いたのと同じ図2に示す装置の洗浄液排出口6を塞いだ状態で、樹脂供給口2から、前記ポリビニルアルコール系樹脂の製造例で製造したゲル状ポリビニルアルコール樹脂からなる洗浄用樹脂試料を毎分200gの速度で連続供給した。樹脂供給口2に入った洗浄用樹脂試料が樹脂排出口4から出て来るまでに要した時間は30分であった。前記の樹脂試料の供給と並行して、洗浄液としてのメタノールを樹脂供給口2から毎分50gの流量で流した。このとき、洗浄液排出口6を塞いだ状態であるので、洗浄用樹脂試料および洗浄液は併行流れとなり共に樹脂排出口4から排出された。樹脂試料の供給開始から1時間後、樹脂排出口4から洗浄後の樹脂試料を採取し、ポリビニルアルコール中の酢酸ナトリウム量を測定したところ、0.7%であった。【0049】[比較例3]実施例2で用いたのと同じ図1に示す装置の廃洗浄液排出口6を塞いだ状態で、樹脂供給口2から、前記ポリビニルアルコール系樹脂の製造例で製造したゲル状ポリビニルアルコール樹脂からなる洗浄用樹脂試料を毎分500gの速度で連続供給した。樹脂供給口2に入った洗浄用樹脂試料が樹脂排出口4から出て来るまでに要した時間は20分であった。前記の樹脂試料の供給と並行して、洗浄液としてのメタノールを樹脂供給口2から毎分500gの流量で流した。このとき、洗浄液排出口6を塞いだ状態であるので、洗浄用樹脂試料および洗浄液は併行流れとなり共に樹脂排出口4から排出された。樹脂試料の供給開始から1時間後、樹脂排出口4から洗浄後のポリビニルアルコールを採取し酢酸ナトリウム量を測定したところ、0.5%であった。」
カ 甲6に記載された事項
「【0017】かくして、側鎖に1,2-グリコール結合を有する本発明のポリビニルアルコール系樹脂が得られるのであるが、本発明では、かかるポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)が150~4000(さらには300~2600、特には500~2200)のものが好ましく、かかる平均重合度が150未満ではフィルム用途等に用いたときには機械的強度が低下する恐れがあり、逆に平均重合度が4000を越えるときは1,2-グリコール結合を多く導入することが困難となる場合があり好ましくない。【0018】また、かかるポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、60モル%以上(さらには70モル%以上、特には80モル%以上、殊に90モル%以上)が好ましく、かかるケン化度が60モル%未満では水溶性が低下して好ましくない。なお、本発明におけるケン化度とは、ビニルエステル系モノマーのエステル部分及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテンのアセトキシ部分の総量の水酸基への変化率(モル%)で表示される(ケン化反応において、3,4-ジアセトキシ-1-ブテンのアセトキシ部分はほぼ完全にケン化される)。かかるケン化度の上限については用途によって多少変動し、水性ビニルウレタン用接着剤、紙加工剤(サイジング剤)、インクジェット用紙のインク受理層等への使用を目的とするときには99.0モル%未満とすることが好ましく、農薬や洗剤等の酸性、若しくはアルカリ性包装材料への適用へは、ケン化度が、99.0モル%以上が、フィルムの水溶解性が経時的に殆ど変化しないという特有の作用効果を示す点で大変好ましい実施態様である。」
「【0030】実施例1還流冷却器、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル1300g、メタノール650g、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン78.1g(3モル%)を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.06モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、撹拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ重合を行った。その後、酢酸ビニルの重合率が87.5%となった時点で、重合禁止剤としてm-ジニトロベンゼン50ppm(対仕込酢酸ビニル)を仕込み、重合を終了した。続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。続きを表示(全19行)【0031】次いで、該溶液をメタノールで希釈して濃度40%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を40℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテンの総量に対して8ミリモル%となる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出して、粒子状となった時点で、濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、ポリビニルアルコール系樹脂を得た。上記のポリビニルアルコール系樹脂の製造において、ケン化終了後の廃液をGC-MS(agilent社製「597N GC/MSD」システム)により、以下の条件で副生成物の有無を調べた。〔カラム条件〕カラム:HP-WAX(crosslinked polyethyleneglycol)キャピラリカラムカラム温度:40℃×5分固定して10℃/minで昇温し、240℃×10分放置注入口温度:240℃キャリアーガス:Heカラム流量:1.0ml/min〔MS部条件〕使用機器:agilent社製「5973MSD」システムmass range:10-600threshold:20scan/sec.:2.54その結果、炭酸ジメチルは検出されず。また、塩類として、酢酸ナトリウム以外は検出されなかった。得られたポリビニルアルコール系樹脂(I)のケン化度は、残存酢酸ビニル及び残存3,4-ジアセトキシ-1-ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ、99.5モル%であり、平均重合度は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ、870であった。また、該ポリビニルアルコール系樹脂の4%水溶液の粘度は、ヘプラー粘度計により測定したところ、8.6mPa・s(20℃)であり、1,2-グリコール結合の導入量は1H-NMR(内部標準物質:テトラメチルシラン、溶媒:d6-DMSO)で測定して算出したところ3.1モル%であった。なお、NMR測定には日本ブルカー社製「AVANCE DPX400」を用いた。」
キ 甲7に記載された事項
「[0002] ポリビニルアルコールに代表されるポリビニルアルコール系樹脂(以下PVA系樹脂と略記する場合がある)は水溶性合成高分子として知られており、ビニロン繊維の原料、紙のコート・サイズ剤或いは繊維のサイジング剤、紙用接着剤、乳化重合用・懸濁重合用の分散安定剤、セラミック等の無機物質バインダー、水溶性フィルム、偏光膜等の光学フィルム用、医療材料等多くの用途に使用されている。[0003] ポリビニルアルコール系樹脂の代表的な工業的製造法としては、下記スキーム(I)のように酢酸ビニルをメタノール溶媒中においてラジカル重合し、得られたポリ酢酸ビニルをメタノール溶液中で水酸化ナトリウムを用いケン化反応を行ない製造する方法である(特許文献1~3参照)。[化1][図:0001403622000006.jpg]続きを表示(全12行)(スキーム中、l、m及びnは1以上の整数を表す。)[0004] その製造方法においては、重合時にアゾ系或いは過酸化物系等の開始剤を用いてラジカル重合させるが、この時下記スキーム(II)のように一部連鎖移動反応によって酢酸ビニルのエステル基の末端に連鎖反応が移動する。これは長鎖分岐と呼ばれているが、この分岐はケン化反応の際に切断される。その際分岐したポリマー鎖の末端構造が水酸化ナトリウムを使用してケン化を行なった場合、カルボン酸ナトリウムが末端に残る構造となっている。[化2][図:0001403622000007.jpg](スキーム中、o及びpは1以上の整数を表す。)[0005] また、ケン化反応においては水酸化ナトリウムを用いた場合、その副生物として酢酸ナトリウムが生じ、一部不純物として製品中に混在する。[0006] これらナトリウム成分については、不純物であることから従来より様々な分野において抑制することが望まれており、アルコール又は水による洗浄を行なった製品もしばしば製造されている。[0007] 特に電子材料分野、医療材料分野で用いる場合には出来得る限りナトリウム成分を減らす若しくは除去した製品が望まれている。」
ク 甲8に記載された事項
「【0014】更に、かかるポリビニルアルコール系樹脂はフイルムの着色防止、強度低下防止のために樹脂中に含有される酢酸ナトリウムの量を0.8重量%以下、好ましくは0.5重量%以下に調整するのが有利である。かかる酢酸ナトリウムの含有量の調整については、メタノール等のアルコール又は水により洗浄する方法等が一般的である。【0015】ポリビニルアルコール系樹脂フイルムを製造するに当たっては、ドラム、エンドレスベルト等の金属面上にポリビニルアルコール系樹脂溶液を流延してフイルムを形成したり、あるいは押出機により溶融押出される。通常は製膜用の原液として、ポリビニルアルコール系樹脂濃度が15~60重量%、好ましくは20~50重量%のポリビニルアルコール系樹脂-水の組成物を調製する。」
ケ 甲9に記載された事項
甲9には、「固体分散体キャリヤとしての添加剤HPMCAS(ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル)の物性に関する考察
-in vitro溶出改善性データを基に-」について以下の事項が記載されている。
(ア)「1. はじめに弊社が医薬品添加物のヒプロメロース(一般名:ヒドロキシプロピルメチルセルロース:HPMC)の製造を開始して以来,丁度半世紀が経過したが,未だに本製品を「完全に分子レベルでグルコース単位あたりの置換度(含有量)および置換位置,さらに粘度(分子量)に関して設計・製造し,得られた製品の物性を確認する」ことは不可能である.この背景・理由は,出発原料のセルロースが木材や木綿リンター(種実部分の絨毛繊維)から採取される天然高分子であるために,‘ゆらぎ’を有しており,さらには生産地,生育・採取時の気候,パルプ製造過程によっても品質が完全に均ーになることはないと考えられるためである.以下,固体分散体のキャリヤとして影響が大きいと考えられる諸物性について.我々の実験データを基に紹介する.」(第214ページ左欄第1~16行)
(イ)「2. 固体分散体と高分子のキャリヤについて2.1 固体分散体固体分散体は新薬候補化合物が難水溶性の特性を示し必要な薬物吸収が得られない場合に,製剤技術によって薬物の水への溶出・溶解特性を改善し,上記課題を克服するためのアプローチの一つである.初めの研究論文は古く1960年代に報告された.固体分散体中の薬物の物理的状態によりいくつかの解釈があるが,一般には,薬物が非晶化し不活性担体(キャリヤ)中に分子レベルで分散している状態の固体を示しており,非晶化(amorphous)固体分散体とも表現される.固体分散体の製造方法は,薬物とキャリヤが分子レベルで均ーに混合する過程を経る.例えば,薬物とキャリヤを溶媒に溶解させた後,噴霧乾燥し固化する方法(スプレードライ法),薬物とキャリヤの混合末をエクストルーダーに投入し,薬物の融点以上の温度に加熱しながらせん断力を加えて共溶融させた後にダイから押し出し,冷却,固化する方法(Melt Extrusion法),あるいは薬物とキャリヤを溶媒で溶解後,貧溶媒中に添加して析出,乾燥固化させる共沈法などが現在実施されている.」(第214ページ左欄第17行~右欄第17行)
(ウ)「3. HPMCAS固体分散体のスクリーニング実験以上,ポリマーの基本的な物理化学特性を紹介したので,次に難溶性薬物とHPMCASの固体分散体について,いくつかの基礎的な実験データを基に紹介する.3.1 スクリーニング試験3種のモデル薬物,ニフェジピン(NP,溶解度=12 μg/mL (pH 6.8 : JP2液)),グリセオフルビン (GRF, 容解度=8.4 μg/mL (pH 6.8 : JP2液)),ジピリダモール(DIP,溶解度=3.7 μg/mL (pH 6.8; JP2液))を用いてHPMCASおよび,比較のためにHPMC, HPMCP, PVP, MAEA-Lの4種類のポリマーを選定し,固体分散体を調製してスクリーニング試験を行った.[図:0001403622000008.jpg]それぞれ,主薬:キャリヤ= 1:2(重量比)の混合末を塩化メチレン/エタノール(1: 1,重量比)の混合溶媒に溶解し,簡易スプレードライ法にて固体分散体を調製した.得られた固体分散体のJP2液中における薬物溶出試験の結果を図2 (NP,既出)および図5 (GRF,DIP)に示す.なお,3モデル薬物とも,薬物溶出試験における薬物の投与濃度は,薬物で100mg/L相当量,すなわち固体分散体として300mg/Lとした.各溶出試験結果より,薬物を固体分散体化することで,原末(結晶)の溶解度を上回る溶解濃度が達成され,過飽和状態にあることが確認された.また,中でもHPMCASの溶出改善性は優れており,NP, GRFでは,初期の薬物溶出(10分)において最も高い溶解度を示し,2時間後も高い過飽和状態が維持されていた.DIPに関しては,HPMCAS固体分散体の初期溶出は優れていたが,その後速やかに再結晶して薬物溶解濃度が低下し,過飽和状態が維持されなかった.全般的に,合成ポリマーよりもヒプロメロース類の溶出改善性が,初期の溶出および過飴和維持の点において優れていることが示されたが,特にHPMCPにおいて過飽和が保たれていることが分かった.これはおそらく,他の二薬物と比較してDIPの塩基性が強いため,カルボキシル基の解離度の高いCB基を有するHPMCPの方が,HPMCASよりも水素結合による相互作用が強く,薬物の再結晶抑制効果が機能したと考えられる.」(第218ページ右欄第14行~第219ページ左欄第27行)
コ 甲10に記載された事項
試験成績書(Merck社が発行するMOWIOLTM4-88の分析証明書(Certificate of Analysis))
「[図:0001403622000009.jpg][図:0001403622000010.jpg][図:0001403622000011.jpg][図:0001403622000012.jpg][図:0001403622000013.jpg]」
サ 乙1に記載された事項
タイプ4-88の酢酸ナトリウム含有量に関する実験成績証明書
「[図:0001403622000014.jpg][図:0001403622000015.jpg]」
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1の(1)ア (a1)に、「HMEにより部分加水分解したPVOHグレード(水酸基化度(DH):33-88%)を処理し、固体分散体の形成により部分加水分解したPVOHグレードを難水溶性薬物(HCTおよびCEL)の放出速度を向上させるための経口即放性製剤用担体として評価することである。」と記載されているように、甲1発明の「経口即放性製剤用担体」は、難水溶性薬物と共に「固体分散体」を形成するものでもあるから、本件特許発明1の「固体分散体用基剤」に相当する。そして、甲1発明の「経口即放性製剤用担体」は、「部分加水分解したポリビニルアルコール(PVOH)」のみからなるものであるから、甲1発明は、本件特許発明1の「前記ポリビニルアルコール系樹脂の含有量が、固体分散体用基剤全体に対して100重量%である」事項を充足する。
甲1発明の「酢酸ビニルとビニルアルコールの共重合体で、酢酸ビニルの重合後に部分加水分解(水酸化ナトリウムの存在下)したポリビニルアルコール(PVOH)」の「水酸基化度」88%とは、当業者の技術常識を参酌すると、「ケン化度」88モル%を意味すると解されるから、甲1発明の「酢酸ビニルとビニルアルコールの共重合体で、酢酸ビニルの重合後に部分加水分解(水酸化ナトリウムの存在下)したポリビニルアルコール(PVOH)」は、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール系樹脂」に相当し、甲1発明は、本件特許発明1の「前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が80~95モル%」である事項を充足する。
また、甲1発明の「酢酸ビニルとビニルアルコールの共重合体で、酢酸ビニルの重合後に部分加水分解(水酸化ナトリウムの存在下)したポリビニルアルコール(PVOH)」の「Mwが92881g/mol」は、モノマーであるビニルアルコールの分子量が44.05、酢酸ビニルの分子量が86.09で、水酸基化度が88%であるから、ビニルアルコール単位88モル%、酢酸ビニル単位12モル%であることより、「平均重合度が1890」となる。 よって、甲1発明は、本件特許発明1の「前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が200~2500」である事項を充足する。
そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
ポリビニルアルコール系樹脂を含有し、
前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が80~95モル%であり、
前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が200~2500であり、
前記ポリビニルアルコール系樹脂の含有量が、固体分散体用基剤全体に対して100重量%である固体分散体用基剤。
<相違点1-1>
ポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸金属塩の含有量について、本件特許発明1が「0.5重量%以下」であるのに対し、甲1発明はその点が不明である点
そこで、<相違点1-1>について検討する。
甲1には、ポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸金属塩の含有量について、「0.5重量%以下」とすることは記載も示唆もされていない。
よって、当該点は実質的な相違点であり、本件特許発明1は、甲1発明ではない。
ついで、当該相違点の容易想到性について検討する。
本件特許発明1は、本件特許明細書の段落【0009】等より、「薬物の溶出率に優れ、更に着色の小さい固体分散体を得るための固体分散体用基剤を提供すること」を課題とするものである。そして、本件特許発明1は、「ポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸金属塩の含有量が0.5重量%以下」とすることにより、上記課題、すなわち「薬物の溶出率に優れ、更に着色の小さい固体分散体を得ることができる」ものである。
一方、甲1には、「ポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸金属塩の含有量が0.5重量%以下」とすることにより、「薬物の溶出率に優れ、更に着色の小さい固体分散体を得ることができる」ことについて記載も示唆もされていない。
また、ポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸金属塩の含有量に関し、甲2の段落[0040] に、「未変性PVA粉体には、ケン化時に用いるアルカリ触媒に由来する酢酸のアルカリ金属塩が含まれている。アルカリ金属塩の含有量は、未変性PVA粉体に対して通常0.001~2質量%、好ましくは0.005~1質量%であり、更に7好ましくは0.01~0.1質量%である。」と記載され、甲4に、「ポリビニルアルコール系ポリマー中の酢酸ナトリウムの含有率が0.1重量%を越える程度に多い場合には、該ポリビニルアルコール系ポリマーの着色、分解を促進する傾向があるし、また酢酸ナトリウム含有率が0.005重量%を下まわる程度に少なくなると、本発明の効果は極めて小さいものとなるのでこの場合もまた、該ポリビニルアルコール系ポリマーの熱劣化を防止することができない。」(第5欄第16~24行)と記載され、甲7の段落[0007] に、「特に電子材料分野、医療材料分野で用いる場合には出来得る限りナトリウム成分を減らす若しくは除去した製品が望まれている。」と記載され、さらに、甲8の段落【0014】に「かかるポリビニルアルコール系樹脂はフイルムの着色防止、強度低下防止のために樹脂中に含有される酢酸ナトリウムの量を0.8重量%以下、好ましくは0.5重量%以下に調整するのが有利である。」と記載されている。
しかしながら、甲4及び甲8では、「ポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸金属塩の含有量を少なくすることにより、ポリマーの着色を小さくすること」について記載されているにとどまり、申立人の提出したいずれの証拠にも、「ポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸金属塩の含有量が0.5重量%以下」とすることにより、特に「薬物の溶出率に優れる固体分散体を得ることができる」ことについては記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1発明において、「薬物の溶出率に優れる固体分散体を得ることができる」ように、「ポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸金属塩の含有量が0.5重量%以下」とする動機付けはない。
よって、当該相違点に係る事項は、甲1発明及び甲1ないし甲10から当業者が容易に想到し得たものではない。
また、本件特許発明1の「薬物の溶出率に優れる固体分散体を得ることができる」という効果は、甲1及び甲1ないし甲10から予測し得るものではない。
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲1ないし甲10から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
イ 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明2及び3は甲1に記載された発明とはいえないし、また、甲1に記載された発明及び甲1ないし甲10から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(3)申立人の主張について
ア 申立人の主張
申立人は、令和4年12月9日付け意見書において、以下の主張を行っている。
(ア)主張ア 「取消理由通知における、相違点1-1「カルボン酸金属塩の含有量が0.8重量%以下」が実質的な相違点でないとするご指摘に対し、特許権者は、「Mowiol 4-88」の4ロットの酢酸ナトリウム含有量について測定し、「0.81~0.92重量%」であったとする結果(乙第1号証)を示し、「カルボン酸金属塩の含有量が0.8重量%以下」を充足しない旨を説明しています。
しかし、当該実験結果は、全く信ぴょう性がないものと言わざるを得ません。」(第1ページ下から第3~8行)
(イ)主張イ 「今般新たに提出します、甲第10号証(甲10)は、「Mowiol□4-88」の試験成績書(分析証明書、Certificate of Analysis)として製造販売者たるメルク(MERCK)のロゴを有するホームページ[同ホームページのシグマアルドリッチはメルクのグループ・関連会社であり、「Mowiol□4-88」を試薬レベル(少量)のものとして販売]から検索できるものですが、強熱残分(RESIDUE ON IGNITION)の仕様(規格、SPECIFICATION)として「<5%」が、強熱残分の実測値(RESULT)として乙1に記載のすべてのロット番号のもの(すなわち、STBJ1234、STBJ8596、STBJ7986、STBH4727)が記載されています。
ここで、強熱残分(RESIDUE ON IGNITION)は、試料に硫酸(H2SO4)を加えて強熱した後、残留する物質の質量です。・・・
そうすると、試料中に、酢酸ナトリウム(CH3COONa)が含まれていれば硫酸ナトリウム(Na2SO4)として強熱残分が測定されることになります。
より具体的には、ナトリウム量としては、CH3COONa (Mw : 82.03) :Na2SO4(Mw : 142.04)=1:2の関係にあるので、仮に強熱残分が1.00重量%であった場合、1.OO×82.03/(142.04×1/2)の計算式から、酢酸ナトリウムは概ね1.15重量%と算出できます。
つまり、強熱残分がすべて酢酸ナトリウムに由来する場合、酢酸ナトリウムの含有割合は、強熱残分×1.15重量%で表されることになります。
ポリビニルアルコールにおいて酢酸ナトリウム以外の強熱残分は、通常想定できないため、「強熱残分」≒硫酸ナトリウム量として測定される「酢酸ナトリウム」と解釈できますし、万が一「≒」と言えないようなケースがあるとしても、酢酸ナトリウムは必ず硫酸ナトリムとして「強熱残分」に含まれるわけですから、酢酸ナトリウムの含有量は、その「最大値」において、強熱残分×1.15重量%ということになります。
つまり、「MOWIOL4-88」は、その「強熱残分」量として「0.5重量%以下」、ひいては、酢酸ナトリウム量がいくら含まれていても最大で「0.575重量%」(0.5×l.15) までとするものが推奨・販売されている(入手できる)という事実があり、しかも、その実測値は、いずれも明らかに酢酸ナトリウム量として0.5重量%を明らかに下回るものとなります。」(第2ページ第6行~第3ページ第8行)
(ウ)主張ウ 「もし万が一仮に、特許権者による測定値(乙1)を信用され、「0.5重量%以下」を充足することをご認定されないとしましても・・・ポリビニルアルコールとしてカルボン酸金属塩の含有量が「0.5重量%以下」 のものを使用する動機は十分にありますし、そのことによる効果も何ら予想外でないか(本件発明の効果たる着色(YI)低減効果が酢酸ナトリウムの含有量を低減することにより得られることは周知、また本件発明の効果たる「溶出率の向上」が架橋によるものであれば酢酸ナトリウムの含有量を低減することにより当該効果が得られることは周知)又は本件発明全体(例えば「0.5重量%以下全体」や「薬物全体」)において得られるものでもありません。」(第4ページ第2~13行)
イ 申立人の主張の検討
そこで、上記主張について検討する。
(ア)主張アについて
乙1は、「1.実験の目的」として、「甲1に開示されているポリビニルアルコール「タイプ4-88」の酢酸ナトリウムの含有量が、本件特許発明で規定したカルボン酸金属塩の含有量に包含されないことを確認することを目的として、実験を行った。」もので、「5.実験内容」としては、「Merck KGaA社製のポリビニルアルコール(タイプ4-88)を4ロット用いて、ポリビニルアルコールにおけるカルボン酸金属塩(酢酸ナトリウム)の含有量を、本件特許明細書の段落【0084】の2段落目に記載の方法にて測定した。各ロットにおいて、2サンプルずつ測定を行った。」ものである。
そして、以下の結果が得られている。
「 ロット名 サンプル 酢酸ナトリウムロット番号STBJ1234 サンプル1 0.87重量%サンプル2 0.88重量%ロット番号STBJ8596 サンプル1 0.89重量%サンプル2 0.91重量%ロット番号STBJ7986 サンプル1 0.91重量%サンプル2 0.92重量%ロット番号STBH4727 サンプル1 0.81重量%サンプル2 0.83重量%」
乙1によれば、「タイプ4-88」を4ロット用いて、ポリビニルアルコールにおけるカルボン酸金属塩(酢酸ナトリウム)の含有量を、本件特許明細書の段落【0084】の2段落目に記載の方法にて測定しているところ、その含有量は、0.81~0.92重量%の範囲にあり、いずれも0.5重量%を超えている。
そして、甲1発明の「タイプ4-88」の「PVOH」はMerck, Darmstadt, Germanyから入手されたものであるところ、乙1記載の「タイプ4-88」の「PVOH」はMerck KGaA社製のもので、入手先名が完全に同一ではないものの、両者とも「Merck」という同じ企業グループを冠しており、製品名が「タイプ4-88」と同じであることから、乙1記載の「タイプ4-88」は、甲1発明の「タイプ4-88」と同じものと解するのが相当である。
よって、乙1に示された実験結果は信ぴょう性がないものとはいえず、申立人の主張を首肯することができない。
(イ)主張イについて
本件特許発明1の「カルボン酸金属塩の含有量」は、本件特許明細書の段落【0084】【0085】に記載されるとおり、中和に要した0.1N-HCl量から算出されるものである。また、段落【0085】の記載から、加熱は水に溶解させるための昇温である。
一方、申立人の甲10に基づくカルボン酸金属塩の含有量は、強熱残分を酢酸ナトリウム量に換算したもので、本件特許発明と異なる方法で測定したものであるため、本件特許発明におけるカルボン酸金属塩の含有量の数値を表すものではない。
よって、申立人の主張は首肯することができない。
(ウ)主張ウについて
上記(2)アで説示したように、申立人の提出したいずれの証拠にも、「カルボン酸金属塩の含有量が0.5重量%以下」とすることにより、「薬物の溶出率に優れる固体分散体を得ることができる」ことについて記載も示唆もされていない。特に、申立人が「本件発明の効果たる「溶出率の向上」が架橋によるものであれば酢酸ナトリウムの含有量を低減することにより当該効果が得られることは周知」と述べているが、申立人は、周知であることを示す証拠を何ら示していない。
よって、申立人の主張は首肯することができない。
(4)取消理由1及び申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし3は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、取消理由1及び申立理由1によっては取り消すことはできない。
II 取消理由(決定の予告)で採用しなかった申立理由について
1 申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)
(1)証拠に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項及び甲2発明
(ア)甲2に記載された事項
上記I 1(1)イに示したとおり。
(イ)甲2に記載された発明
甲2の請求の範囲には、「[請求項1] ポリビニルアルコール微粒子の粒子表面から粒子内部に向かって0.8nmの範囲のポリビニルアルコール分子のゴーシュ構造が25モル%以上であるポリビニルアルコール微粒子。
・・・
[請求項8] 請求項1~7のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール微粒子を含有する医薬用結合剤。」について記載され、その実施態様である実施例1には、「ケン化度が87.7モル%であり、4質量%水溶液の粘度は、41.5mPa・sであり、平均重合度は2400であるPVA乾燥粉末を浴比10倍のメタノール中に投入して3時間攪拌した後、固液分離し、得られたPVA粉末(50%粒子径500μm、酢酸ナトリウム含有量(酢酸ナトリウム含有量は、PVA粉体を水に溶かして、メチルオレンジを指示薬とし、塩酸にて中和滴定することにより求めた)0.05部)を90℃で揮発分が1%以下になるまで真空乾燥して得られたPVA乾燥粉末」が記載されている。
そして、上記で得られたPVA乾燥粉末をBIミル(ミクロパウテック製)を用いて、目標の大きさになるまで衝突粉砕して得られたPVA微粒子(粉砕品)を100部、メトフォルミンハイドロクロライドを100部および結晶セルロース(旭化成ケミカルズ社製「PH102」)を70部混合し、造粒装置(Gem Pharma Machineries社製「Rapid Mixer Granulator」)を用いて、ポリビニルピロリドン(BASF社製「PVP K 30」)30部を溶媒としてIPA(イソプロピルアルコール)/水=50/50(質量比)に溶かして、適量加えて造粒し、Tray dryer(Bombay Machines社製)を用いて、残留水分が2~4w/w%になるまで乾燥し造粒物を得、さらにこの造粒物と結晶セルロースPH102を30部、アエロジル3部、ステアリン酸マグネシウム1部を混合して、ロータリータブレットプレスを用いて楕円体の錠剤(縦1.9cm、横0.9cm、高さ0.5cm)を作製している。
PVA微粒子と共に配合して錠剤を形成している上記「メトフォルミンハイドロクロライド」は「血糖降下剤」である「医薬」であり、上記「結晶セルロース」は「賦形剤」である。
そうすると、甲2には、上記実施例1のPVA乾燥粉末を含有する「医薬用結合剤」について記載されているといえるから、以下の発明が記載されていると認められる。
「ケン化度が87.7モル%であり、4質量%水溶液の粘度が41.5mPa・sであり、平均重合度は2400であるPVA(ポリビニルアルコール)乾燥粉末を浴比10倍のメタノール中に投入して3時間攪拌した後、固液分離し、得られたPVA粉末(50%粒子径500μm、酢酸ナトリウム含有量(酢酸ナトリウム含有量は、PVA粉体を水に溶かして、メチルオレンジを指示薬とし、塩酸にて中和滴定することにより求めた)0.05部)を90℃で揮発分が1%以下になるまで真空乾燥して得られたPVA乾燥粉末を含有する医薬用結合剤」(以下、「甲2発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「PVA(ポリビニルアルコール)」は、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール系樹脂」に相当する。
甲2発明の「PVA(ポリビニルアルコール)」のケン化度が「87.7モル%」は、本件特許発明1の「前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が80~95モル%」を充足する。また、甲2発明の「PVA(ポリビニルアルコール)」の「平均重合度が2400」は、本件特許発明1の「前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が200~2500」を充足する。
また、甲2発明の「医薬用結合剤」は、本件特許発明1の「固体分散体用基剤」と「剤」である限りにおいて一致する。
そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
ポリビニルアルコール系樹脂を含有し、
前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が80~95モル%であり、
前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が200~2500であり、
前記ポリビニルアルコール系樹脂の含有量が、剤全体に対して100重量%である剤。
<相違点2-1>
剤が、本件特許発明1が「固体分散体用基剤」であるのに対し、甲2発明は「医薬用結合剤」である点
<相違点2-2>
ポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸金属塩の含有量が、本件特許発明1は「0.5重量%以下」であるのに対し、甲2発明は「0.05部」である点
そこで、<相違点2-1>について検討する。
甲9に、「一般には,薬物が非晶化し不活性担体(キャリヤ)中に分子レベルで分散している状態の固体を示しており,非晶化(amorphous)固体分散体とも表現される.」と記載されているように、固体分散体用基剤とは、「薬物が非晶化し不活性担体(キャリヤ)中に分子レベルで分散させる機能を奏する剤」である。そして、甲2発明は「医薬用結合剤」であり、「固体分散体用基剤」とは作用機能が異なるものである。
そうすると、当該点は実質的な相違点である。
ついで、当該相違点の容易想到性について検討する。
甲2発明は「医薬用結合剤」であり、「固体分散体用基剤」とは作用機能が異なるものである。
そうすると、甲2発明である「医薬用結合剤」を「固体分散体用基剤」とする動機付けはない。
よって、当該相違点に係る事項は、甲2発明及び甲1ないし甲10から当業者が容易に想到し得たものではない。
ついで、<相違点2-2>について検討する。
甲2は、「PVA(ポリビニルアルコール)」の酢酸ナトリウムの含有量が、「0.05部」であるところ、当該「部」とは、生成されたの「PVA(ポリビニルアルコール)」(酢酸ビニル1000部×65%(重合率)650部に対するものか、100部に対するものか、1部に対するものか不明である。
ところで、甲2の段落[0040]に、「未変性PVA粉体には、ケン化時に用いるアルカリ触媒に由来する酢酸のアルカリ金属塩が含まれている。アルカリ金属塩の含有量は、未変性PVA粉体に対して通常0.001~2質量%、好ましくは0.005~1質量%であり、更に好ましくは0.01~0.1質量%である。」と記載されている。
しかしながら、上記で説示したように、甲2をはじめ、申立人の提出したいずれの証拠にも、「ポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸金属塩の含有量が0.5重量%以下」とすることにより、特に「薬物の溶出率に優れる固体分散体を得ることができる」ことについて記載も示唆もされておらず、本件特許発明1の「薬物の溶出率に優れる固体分散体を得ることができる」という効果は、甲2及び甲1ないし甲10から予測し得るものではなく、格別顕著なものである。
したがって、本件特許発明1は、甲2に記載された発明及び甲1ないし甲10から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
イ 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明3は、甲2に記載された発明とはいえないし、本件特許発明2及び3は、甲2に記載された発明及び甲1ないし甲10から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(3)申立人の主張について
申立人は、申立書において、以下の主張を行っている。
「甲2発明が、厳密には「固体分散体」とは言えないとの認定がなされたとしても、甲2で想定している「結合剤」用途を想定したとき、甲2において、広範な分散体を含む「固体分散体」とも言える態様で、結合剤を「固体分散体」と言える態様にて使用することは容易に想定できたことである。例えば、甲2では、前記のように、実施例を含めて、湿式造粒を想定しているが、この湿式造粒において、ポリビニルアルコール系樹脂が溶融ないし溶解する形態にて造粒される場合は容易に想定されるし、その他の造粒方法(例えば、[0074]では乾式造粒等も想定している)においても同様のことが言える。・・・そうすると、本件発明1及び3は、仮に新規性を有するとしても、甲2発明(さらにはその他の証拠に記載された発明)に基づいて容易に想到できたものであり、進歩性を欠如する。そして、本件発明2もまた、甲発明(さらにはその他の証拠に記載された発明)に基づいて容易に想到できたものであり、進歩性を欠如する。」(申立書第44~45ページ)
そこで、申立人の上記主張について検討するに、上記(2)でも説示したように、甲2発明は「医薬用結合剤」であり、「固体分散体用基剤」とは作用機能が異なるものである。
そうすると、甲2発明である「医薬用結合剤」を「固体分散体用基剤」とする動機付けはない。
よって、申立人の主張は首肯することができない。
(4)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1及び3は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、申立理由2によっては取り消すことはできない。
2 申立理由3(甲3に基づく進歩性)
(1)証拠に記載された事項等
ア 甲3に記載された事項及び甲3発明
(ア)甲3に記載された事項
上記I 1(1)ウに示したとおりである。
(イ)甲3に記載された発明
甲3の請求項1には、「ポリビニルアルコール系共重合体からなる固体分散体用基剤。」について記載され、その実施態様である実施例1には、「固体分散体用基剤としてはPOVACOAT TypeF(大同化成工業社製;平均分子量約40,000;平均粒子径125μm;以下、POVAと称することがある)を使用した。」ことが記載されている。
そこで、甲3の実施例1に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「ポリビニルアルコール系共重合体であるPOVACOAT TypeF(大同化成工業社製;平均分子量約40,000;平均粒子径125μm)からなる固体分散体用基剤」(以下、「甲3発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「ポリビニルアルコール系共重合体であるPOVACOAT TypeF(大同化成工業社製)」は、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール系樹脂」に相当する。
甲3発明の「固体分散体用基剤」は、本件特許発明1の「固体分散体用基剤」に相当する。
また、甲3発明の「固体分散体用基剤」は、甲3発明の「ポリビニルアルコール系共重合体であるPOVACOAT TypeF(大同化成工業社製)」のみからなるものであるから、本件特許発明1の「前記ポリビニルアルコール系樹脂の含有量が、剤全体に対して100重量%」である事項を充足する。
そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
ポリビニルアルコール系樹脂を含有し、
前記ポリビニルアルコール系樹脂の含有量が、剤全体に対して100重量%である固体分散体用基剤。
<相違点3-1>
ポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸金属塩の含有量が、本件特許発明1は「0.5重量%以下」であるのに対し、甲3発明はその点不明である点
<相違点3-2>
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が、本件特許発明1は「80~95モル%」であるのに対し、甲3発明はその点不明である点
<相違点3-3>
ポリビニルアルコール系樹脂について、本件特許発明1は「平均重合度が200~2500」であるのに対し、甲3発明は「平均分子量約40,000」である点
そこで、<相違点3-1>について検討する。
上記I の1(2)で説示したように、甲3をはじめ、申立人の提出したいずれの証拠にも、「ポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸金属塩の含有量が0.5重量%以下」とすることにより、特に「薬物の溶出率に優れる固体分散体を得ることができる」ことについて記載も示唆もされていない。
そうすると、甲3発明において、「薬物の溶出率に優れる固体分散体を得ることができる」ように、「ポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸金属塩の含有量が0.5重量%以下」とする動機付けはない。
よって、当該相違点に係る事項は、甲3発明及び甲1ないし甲10から当業者が容易に想到し得たものではない。
また、本件特許発明1の「薬物の溶出率に優れる固体分散体を得ることができる」という効果は、甲3及び甲1ないし甲10から予測し得るものではない。
したがって、本件特許発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、甲3に記載された発明及び甲1ないし甲10から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
イ 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明2及び3は、甲3に記載された発明及び甲1ないし甲10から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(3)申立人の主張について
申立人は、申立書において以下の主張を行っている。
「ポリビニルアルコール系樹脂における酢酸ナトリウムの含有量については、前記(A1)や(B1)において詳述したように、「0.8重量%以下」のものは必然といえる程の広範なものであるし、万が一仮にそうでないとしても、甲3において前提となる固体分散体においても当然に要求される、着色、分割、架橋、耐熱性の低下等を抑制する等の観点(周知課題を改善する観点)で、酢酸ナトリウムの含有量が「0.8重量%以下」を充足するポリビニルアルコール系共重合体を使用する動機もまた、極めて強い。そして、これらの相違等により得られる格別な効果も無い。すなわち、平均重合度及びケン化度については、その相違による効果の差は本件明細書には何ら示されていないし、酢酸ナトリウム濃度による効果も容易に想到できたものであるか、本件発明全体において奏するものでもない。」(申立書第46ページ)
そこで、申立人の上記主張について検討するに、上記(2)でも説示したように、甲3をはじめ、申立人の提出したいずれの証拠にも、「ポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸金属塩の含有量が0.5重量%以下」とすることにより、特に「薬物の溶出率に優れる固体分散体を得ることができる」ことについて記載も示唆もされていない。
よって、申立人の主張は首肯することができない。
(4)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、申立理由3によっては取り消すことはできない。
3 申立理由4(甲4に基づく進歩性)
(1)証拠に記載された事項等
ア 甲4に記載された事項及び甲4発明
(ア)甲4に記載された事項
上記I 1(1)エに示したとおりである。
(イ)甲4に記載された発明
甲4の実施例5には、「ポリ酢酸ビニルをメタノール溶液中、苛性ソーダを用いて公知の方法でケン化し、母液分離後、粉砕し、メタノールで洗浄後、風乾してポリビニアルコール(ケン化度98.5モル%、重合度1700)のチップを作成した。
該チップ100部を水200部に溶解して水溶液とし、該水溶液に、酢酸0.2部を添加し該チップ中に残存していた苛性アルカリを中和して酢酸ナトリウムとし、次いで25°Cにおけるpkaが前記した○2式を満足するリン酸(酸基がすべて遊離状態のもの)0.04部を添加して、リン酸のpklに相当する酸基を酢酸ナトリウムと反応せしめた。
かくして、実質的に、酢酸、酢酸ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムを含有するポリビニルアルコールの水溶液をシャーレ上に流延して風乾後ミキサーで粉砕して、チップを作成し、次いで80℃、16時間、熱風循環式乾燥器で乾燥した。
該ポリビニルアルコール中の酢酸含有率は0.1413重量%、酢酸ナトリウム含有率は0.0364重量%(α値3.88、リン酸二水素ナトリウムの含有率は0.0458重量%であった。」ことが記載されている。
そこで、甲4の実施例5のポリビニアルコールのチップに着目し、上記下線部を整理すると以下の発明が記載されていると認められる。
「ケン化度98.5モル%、重合度1700、酢酸ナトリウム含有率0.0364重量%であるポリビニアルコールのチップ」(以下、「甲4発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「ポリビニルアルコール」は、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール系樹脂」に相当する。
甲4発明は、「ポリビニルアルコール」の酢酸ナトリウム含有率は0.0364重量%であることから、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸金属塩の含有量が、0.5重量%以下」である事項を充足する。
また、甲4発明は、「ポリビニルアルコール」の重合度が1700であることから、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が200~2500」である事項を充足する。
そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
ポリビニルアルコール系樹脂を含有し、
カルボン酸金属塩の含有量が0.5重量%以下のポリビニルアルコール系樹脂を含有し、
前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が200~2500である、ポリビニルアルコール系樹脂。
<相違点4-1>
本件特許発明1は、「固体分散体用基剤」であり、「ポリビニルアルコール系樹脂の含有量が、固体分散体用基剤全体に対して100重量%である」のに対し、甲4発明はそのような特定がされていない点
<相違点4-2>
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が、本件特許発明1は「80~95モル%」であるのに対し、甲4発明は「98.5モル%」である点
そこで、<相違点4-1>について検討する。
甲4(第7欄第34~39行)には、ポリビニアルコールの用途として、成型物等に成型されるほか、塗料などの各種処理剤等に使用することができることは記載されているものの、固体分散体が用いられる、薬物を含有する製剤に用いることは記載されていない。
また、上記I の1(2)で説示したように、甲4をはじめ、申立人の提出したいずれの証拠にも、「ポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸金属塩の含有量が0.5重量%以下」とすることにより、特に「薬物の溶出率に優れる固体分散体を得ることができる」ことについて記載も示唆もされていない。
そうすると、甲4発明を「固体分散体用基剤」とする動機付けはない。
よって、当該相違点に係る事項は、甲4発明及び甲1ないし甲10から当業者が容易に想到し得たものではない。
また、本件特許発明1の「薬物の溶出率に優れる固体分散体を得ることができる」という効果は、甲4及び甲1ないし甲10から予測し得るものではない。
したがって、本件特許発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、甲4に記載された発明及び甲1ないし甲10から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
イ 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明2及び3は、甲4に記載された発明及び甲1ないし甲10から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(3)申立人の主張について
申立人は、申立書において、以下の主張を行っている。
「甲4は、ポリビニルアルコール系ポリマーが種々の用途に使用され、その中で溶融成形を主たる用途として想定しているし、ポリビニルアルコール系ポリマーは、従来より、溶融法による固体分散体用の基剤として汎用である[甲1 (「1.はじめに」等)、甲3(【0007】等)]。また、医薬用途において、酢酸ナトリウム含量の少ないポリビニルアルコール系樹脂が好適に使用されることも周知である(甲7の【0007】等)。さらに、前記(B3)においても説明したように、固体分散体用基剤として使用するポリビニルアルコール系樹脂として、ケン化度として、88モル%といったケン化度のものが好ましいことも周知である(甲1)。その他、甲2の[OO43]や実施例(さらには甲6の【0018】)においても記載されているように、そもそも、医薬用途等に使用するポリビニルアルコール系樹脂のケン化度として、「80~95%」程度のものは極めて一般的な汎用のものであるという事情もある。そうすると、溶融成形を主として想定する甲4において、ポリビニルアルコール系ポリマーを、医薬用途で、かつ溶融処理を経る固体分散体用途に適用することは容易に想到できることであるし、その際、ケン化度として「88モル%」のようなものを使用することも容易に想到できることである。」(申立書第46~47ページ)
そこで、申立人の上記主張について検討する。
甲4発明のポリビニルアルコールが、成型方法として溶融成形を想定しているものの、実際の製品の用途は多岐にわたるものであるし、溶融成形すれば、必ず固体分散体用の基剤となるものでもない。
そして、上記(2)で説示したように、甲4をはじめ、申立人の提出したいずれの証拠にも、「ポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸金属塩の含有量が0.5重量%以下」とすることにより、特に「薬物の溶出率に優れる固体分散体を得ることができる」ことについて記載も示唆もされていない以上、仮に、ポリビニルアルコール系ポリマーが固体分散体用の基剤として汎用のものであっても、甲4発明を「固体分散体用基剤」とする動機付けは乏しいものである。
よって、申立人の主張は首肯することができない。
(4)申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、申立理由4によっては取り消すことはできない。
4 申立理由5(甲5に基づく進歩性)
(1)証拠に記載された事項等
ア 甲5に記載された事項及び甲5発明
(ア)甲5に記載された事項
上記I 1(1)オに示したとおりである。
(イ)甲5に記載された発明
甲5の実施例1には、
「[ポリビニルアルコール系樹脂の製造例]攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、圧力計を備えた反応器を窒素置換した後、脱酸素した酢酸ビニルモノマー2800質量部、メタノール800質量部を仕込み、攪拌下で昇温を開始し内温が60℃となったところで、別途メタノール50質量部に開始剤としての2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1重量部を溶解させて調製した開始剤溶液を添加して重合を開始した。60℃で5時間重合した後、冷却して重合を停止した。このときの重合溶液中の固形分濃度は55.1%であった。得られた重合溶液を、塔内に多孔板を多段数有する脱モノマー塔に供給しつつ、塔下部よりメタノール蒸気を吹き込んで、重合溶液をメタノール蒸気と接触させることにより、未反応の酢酸ビニルモノマーを除去した。この酢酸ビニルモノマーを除去後のポリ酢酸ビニル-メタノール溶液の固形分濃度は42%であった。このポリ酢酸ビニル-メタノール溶液の温度を40℃に保ち、水酸化ナトリウムを添加してケン化反応を行ってポリビニルアルコール樹脂を得た。ケン化反応終了時のポリビニルアルコール樹脂の形態は、溶媒のメタノールおよび副生成物の酢酸メチルを含有した固体状のゲルになっており、鹸化度は88モル%、揮発分は58%であった。また、副生成物である酢酸ナトリウムの含有量は、ポリビニルアルコール樹脂の固形分のうちの0.8%であった。このゲル状ポリビニルアルコール樹脂を3mm角の大きさに粉砕したものを洗浄用樹脂試料として供した。[実施例1]図2に示す装置の樹脂供給口2から、前記ポリビニルアルコール系樹脂の製造例で製造したゲル状ポリビニルアルコール樹脂からなる洗浄用樹脂試料を毎分200gの速度で連続供給した。樹脂供給口2に入った洗浄用樹脂試料が樹脂排出口4から出て来るまでに要した時間は30分であった。前記の樹脂試料の供給と並行して、洗浄液としてのメタノールを洗浄液注入口5から毎分50gの流量で流して洗浄液排出口6から排出した。樹脂試料の供給開始から1時間後、樹脂排出口4から洗浄後の樹脂試料を採取し、ポリビニルアルコール中の酢酸ナトリウム量を測定したところ、洗浄前に0.8%であったものが0.3%にまで低下していることがわかった。」と記載されている。
そこで、甲5の実施例1のメタノール洗浄後のポリビニアルコール系樹脂に着目し、上記下線部を整理すると以下の発明が記載されていると認められる。
「鹸化度88モル%、酢酸ナトリウムの含有量が0.3%であるポリビニルアルコール樹脂」(以下、「甲5発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「ポリビニルアルコール樹脂」は、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール系樹脂」に相当する。
また、甲5発明は、「ポリビニルアルコール」の「鹸化度88モル%」であることから、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が80~95モル%」である事項を充足する。
そして、甲5発明の「ポリビニルアルコール」の酢酸ナトリウム含有量「0.3%」は、甲5の段落【0040】に、「以下の実施例および比較例において「部」および「%」は、特に断りのない限り質量基準を意味する。」と記載されており、当該値は「0.3重量%」となるため、甲5発明は、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸金属塩の含有量が、0.5重量%以下」である事項を充足する。
そうすると、両者は、以下の<一致点>で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
ポリビニルアルコール系樹脂を含有し、
カルボン酸金属塩の含有量が0.5重量%以下のポリビニルアルコール系樹脂を含有し、
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が80~95モル%である、
ポリビニルアルコール系樹脂。
<相違点5-1>
本件特許発明1は、「固体分散体用基剤」であり、「ポリビニルアルコール系樹脂の含有量が、剤全体に対して100重量%である」のに対し、甲5発明はそのような特定がされていない点
<相違点5-2>
前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が、本件特許発明1は「200~2500」であるのに対し、甲5発明はその点不明である点
そこで、<相違点5-1>について検討する。
上記I の1(2)で説示したように、甲5をはじめ、申立人の提出したいずれの証拠にも、「ポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸金属塩の含有量が0.5重量%以下」とすることにより、特に「薬物の溶出率に優れる固体分散体を得ることができる」ことについて記載も示唆もされていない。
そうすると、甲5発明を「固体分散体用基剤」とする動機付けはない。
よって、当該相違点に係る事項は、甲5発明及び甲1ないし甲10から当業者が容易に想到し得たものではない。
また、本件特許発明1の「薬物の溶出率に優れる固体分散体を得ることができる」という効果は、甲5及び甲1ないし甲10から予測し得るものではない。
したがって、本件特許発明1は、他の相違点を検討するまでもなく、甲5に記載された発明及び甲1ないし甲10から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
イ 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、請求項1を直接引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明2及び3は、甲5に記載された発明及び甲1ないし甲10から当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(3)申立人の主張について
申立人は、申立書において、以下の主張を行っている。
「甲5は、ポリビニルアルコール系ポリマーが種々の用途に使用され、その中で溶融成形を主たる用途として想定しているし、ポリビニルアルコール系ポリマーは、従来より、溶融法による固体分散体用の基剤として汎用である[甲1 (「1.はじめに」等)、甲3(【0007】等)]。また、医薬用途において、酢酸ナトリウム含量の少ないポリビニルアルコール系樹脂が好適に使用されることも周知である(甲7の【0007】等)。さらに、固体分散体用基剤として使用するポリビニルアルコール系樹脂として、平均重合度200~2500を充足するものは周知である(甲1、甲3)。その他、甲2の[0041]や実施例(さらには、甲6の【0017】、甲7の【0023】等)においても記載されているように、そもそも、医薬用途等に使用するポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度として、「200~2500」程度のものは極めて一般的な汎用のものであるという事情もある。そうすると、耐熱性の改善等のために酢酸ナトリウムを極力低減しようとする甲5において、ポリビニルアルコール系樹脂を、医薬用途で、かつ溶融処理を経る固体分散体用途に適用することは容易に想到できることであるし、その際、平均重合度として「200~2500」のようなものを使用することも容易に想到できることである。」(申立書第47~48ページ)
そこで、申立人の上記主張について検討する。
甲5発明のポリビニルアルコール樹脂が、成型方法として溶融成形を想定しているものの、甲5には、ポリビニルアルコール樹脂を用いる用途について何ら例示されていないし、一般に、ポリビニルアルコール樹脂は多岐にわたる用途に用いられるものであり、溶融成形すれば、必ず固体分散体用の基剤となるものでもない。
そして、上記(2)で説示したように、甲5をはじめ、申立人の提出したいずれの証拠にも、「ポリビニルアルコール系樹脂のカルボン酸金属塩の含有量が0.5重量%以下」とすることにより、特に「薬物の溶出率に優れる固体分散体を得ることができる」ことについて記載も示唆もされていない以上、ポリビニルアルコール系ポリマーが固体分散体用の基剤として汎用のものであっても、甲5発明を「固体分散体用基剤」とする動機付けは乏しいものである。
よって、申立人の主張は首肯することができない。
(4)申立理由5についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、申立理由5によっては取り消すことはできない。
5 申立理由6(サポート要件)
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細の記載は次のとおりである。
「【背景技術】【0002】経口投与用製剤の設計において、生物学的利用能(Bioavailability)を十分高く設計することが、有効性、安全性の面から重要視されている。医薬品の生物学的利用能に影響を与える重要な因子の1つとして、薬物の溶解性が挙げられ、これ迄にも溶解性と消化管吸収の関係に関する多くの研究が行われている。特に難溶性薬物では、その溶解速度が吸収の律速段階となる事が知られている。難溶性薬物の溶解性を改善するための製剤方法としては、種々の方法が知られているが、特に注目されるものに固体分散体がある。続きを表示(全41行)固体分散体は、難溶性薬物が固体分散体用基剤(不活性担体)に固体状態で分散したものであり、その製造方法としては、溶媒法、溶融法および混合粉砕法(メカノケミカル法)等がある。【0003】溶媒法は、薬物と担体である固体分散体用基剤の両方を溶解する有機溶媒に両者を溶解した後に溶媒を除去するか、または薬物を有機溶媒に溶解し、基剤中に分散させた後に溶媒を除去して固体分散体を製造する方法である。【0004】溶融法は、薬物と固体分散体用基剤の融点降下を利用するものであり、両者を加熱して溶融させた後、これを冷却・固化・粉砕して固体分散体を得る方法や、薬物を比較的融点の低い水溶性高分子に加熱溶解させ、これを冷却・固化・粉砕して固体分散体を得る方法がある。【0005】混合粉砕法は、難溶性薬物と固体分散体用基剤とを加熱せずにボールミルにより混合粉砕したり、ロール混合などにより混合粉砕して、難溶性薬物を非晶質化させ固体分散体を製造する方法である。メカノケミカルとは機械的エネルギー(圧縮、剪断、摩擦)が物質の物理化学的性質に変化を起こす現象である。この方法では、機械的操作による格子欠陥、格子不整、比表面積・表面エネルギーの増大等の諸因子が固体の活性を向上させ、薬物の非晶質化促進、非晶質化した薬物の担体中への分散促進をもたらすものと考えられる。【0006】従来から、特定の水溶解度を有する化合物及びイオン性又は非イオン性ポリマーを用いた固体分散体用基剤が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。特に近年では、PVA系樹脂のガラス転移温度が高いことから薬物の非晶部の安定性が高くなることが期待され、PVA系樹脂を用いることが検討されている。例えば、PVA系共重合体からなる固体分散体用基剤が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。【先行技術文献】【特許文献】【0007】【特許文献1】特表2010-536848号公報【特許文献2】国際公開第2008/133102号【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0008】しかしながら、特許文献1及び2に開示の固体分散体用基剤では、薬物の溶出率の点で不充分であり、更なる改良が望まれるものであった。【0009】そこで、本発明ではこのような背景下において、薬物の溶出率に優れ、更に着色の小さい固体分散体を得るための固体分散体用基剤を提供することを目的とするものである。【課題を解決するための手段】【0010】しかるに、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、カルボン酸金属塩を少量ながら含有するPVA系樹脂を固体分散体用基剤として用いることにより、薬物の溶出率に優れる固体分散体を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は下記<1>~<5>に関するものである。<1>カルボン酸金属塩の含有量が0.8重量%以下のポリビニルアルコール系樹脂を含有してなることを特徴とする固体分散体用基剤。<2>前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が80~95モル%であることを特徴とする<1>に記載の固体分散体用基剤。<3>前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が200~2500であることを特徴とする<1>又は<2>に記載の固体分散体用基剤。<4><1>~<3>のいずれか1つに記載の固体分散体用基剤と薬物の混合物を溶融混練した後、冷却することを特徴とする固体分散体の製造方法。<5><1>~<3>のいずれか1つに記載の固体分散体用基剤と薬物を含有する固体分散体。【発明の効果】【0011】本発明によれば、薬物の溶出率が高い固体分散体を得るための固体分散体用基剤を得ることができ、かかる固体分散体用基剤を用いた固体分散体では、生体が吸収可能である有効成分の量が増え、更には着色の小さい固体分散体が得られることとなり、大いに期待されるものである。【0012】ここで、本発明においては、カルボン酸金属塩を少量ながら含有するPVA系樹脂を用いることを最大の特徴とするものである。通常、市場から入手できるPVA系樹脂は、そのカルボン酸金属塩(一般的には酢酸ナトリウム)の含有量は1重量%を超えるようなものである。カルボン酸金属塩は、PVA系樹脂の製造工程での副生成物であるが、PVA系樹脂に含有させることにより溶融粘度を安定させることができたり、防腐効果が得られるといったメリットがあるため、必要以上にカルボン酸金属塩の含有量を少なくすることは行なわれていなかった。しかしながら、本発明の目的においては、上記のメリットも損なうことなく、着色もしにくく、薬物の溶出率の向上が図られた固体分散体が得られる固体分散体用基剤となることを見出したものである。」
「【発明を実施するための形態】【0013】以下、本発明の固体分散体用基剤について更に詳しく説明する。本発明の固体分散体用基剤は、カルボン酸金属塩の含有量が0.8重量%以下のPVA系樹脂を含有してなるものである。続きを表示(全24行)【0014】<PVA系樹脂>まず、PVA系樹脂について説明する。PVA系樹脂は、ビニルエステル系モノマーを重合して得られるポリビニルエステル系樹脂をケン化して得られる、ビニルアルコール構造単位を主体とする樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位とビニルエステル構造単位から構成される。【0015】本発明で用いられるPVA系樹脂は、カルボン酸金属塩の含有量が0.8重量%以下である。かかるカルボン酸金属塩のカルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミスチリン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ソルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸等が挙げられ、中でも水への溶解性の点からギ酸、酢酸、プロピオン酸、カプリル酸が好ましく、特には酢酸が好ましい。また、金属塩としては、例えば、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウムなどの2価金属塩等が挙げられ、中でも使用量に対する効果が大きい点からアルカリ金属塩が好ましく、特にはナトリウム塩が好ましい。具体的には、酢酸ナトリウムが最も好ましい。【0016】本発明の固体分散体用基剤は、PVA系樹脂に上記のカルボン酸金属塩が0.8重量%以下含有されるものであり、好ましくは0.4重量%以下、特に好ましくは0.2重量%以下である。かかる含有量が多すぎると本発明の効果が得られにくくなる。また、溶融粘度の安定性の点から含有量の下限値は0.01重量%、特には0.02重量%、更には0.03重量%であることが好ましい。【0017】カルボン酸金属塩の含有方法については、通常、ケン化時の副生成物として酢酸ナトリウムなどのカルボン酸金属塩が1.0~2.0重量%程度含有されるため、含有量を0.8重量%以下とするのに、メタノール等のアルコール系有機溶剤で洗浄する方法が好ましい。【0018】また、本発明に用いられるPVA系樹脂のケン化度は80~95モル%であることが好ましく、83~93モル%であることがより好ましく、85~90モル%であることが更に好ましい。PVA系樹脂のケン化度が低すぎても高すぎても、薬物の溶出率が低下する傾向がある。なお、本発明において、PVA系樹脂のケン化度は、JIS K 6726に準拠する方法で求められた値とする。【0019】本発明に用いられるPVA系樹脂の平均重合度は、200~2500であることが好ましく、400~1500がさらに好ましく、300~1000が特に好ましい。PVA系樹脂の平均重合度が低すぎると、強度が低下し脆くなる傾向があり、平均重合度が高すぎると、融点が高くなり、溶融法で固体分散体を製造することが困難となる傾向がある。なお、本発明において、ポリビニルアルコールの平均重合度は、JIS K 6726に準拠する方法で求めた平均重合度を用いるものとする。」
「【0020】ここで、本発明で使用されるPVA系樹脂の製造方法を更に詳しく説明する。PVA系樹脂は、例えば、ビニルエステル系モノマーを重合して得られたポリビニルエステル系重合体をケン化することにより得られる。かかるビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられ、経済性の点で酢酸ビニルが好適である。続きを表示(全31行)【0021】また、本発明の効果を阻害しない程度に、上記ビニルエステル系モノマーと共重合性を有するモノマーを共重合させることもでき、このような共重合モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類及びそのアシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル等のエステル類、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類、その塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、1,4-ジヒドロキシ-2-ブテン、ビニレンカーボネート、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシメチルビニリデンジアセテート等が挙げられる。かかる共重合モノマーの含有量は、重合体全量を基準として、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下、特に好ましくは1モル%以下である。本発明においては安全性の点で、ビニルアルコール構造単位と未ケン化部分のビニルエステル構造単位のみからなる未変性PVAが好ましい。【0022】上記ビニルエステル系モノマー及び共重合モノマーを重合するにあたっては特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、又は乳化重合等の公知の方法を採用することができるが、通常は溶液重合が行われる。【0023】かかる重合で用いられる溶媒としては、通常、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロパノール、ブタノール等の炭素数1~4の脂肪族アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられ、工業的にはメタノールが好適に使用される。また、重合反応は、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの公知のラジカル重合触媒や公知の各種低温活性触媒を用いて行われる。また、反応温度は、35℃以上、公知のラジカル重合触媒や公知の各種低温活性触媒の沸点以下の範囲から選択される。【0024】得られたポリビニルエステル系重合体は、次いで連続式又はバッチ式にてケン化される。かかるケン化にあたっては、アルカリケン化又は酸ケン化のいずれも採用できるが、工業的には重合体をアルコールに溶解してアルカリ触媒の存在下に行われるアルカリケン化が好適である。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロパノール、ブタノール等の炭素数1~4の脂肪族アルコールが好ましく、中でもメタノールやエタノールがより好ましい。アルコール中の重合体の濃度は20~60重量%の範囲から選ばれる。また、必要に応じて、0.3~10重量%程度の水を加えてもよく、更には、酢酸メチル等の各種エステル類やベンゼン、ヘキサン、DMSO(ジメチルスルホキシド)等の各種溶剤類を添加してもよい。【0025】上記のアルカリ触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を具体的に挙げることができ、かかる触媒の使用量はモノマーに対して1~100ミリモル当量にすることが好ましい。【0026】ケン化後、得られたPVA系樹脂を、洗浄液で洗浄する。洗浄液としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類が挙げられ、洗浄効率と乾燥効率の観点からメタノールが好ましい。【0027】洗浄方法としては、バッチ式洗浄方法と連続式洗浄方法が挙げられ、通常はバッチ式洗浄方法が採用される。洗浄時の撹拌方式(装置)としては、スクリュー翼、リボンブレンダー、ニーダー等が挙げられる。また、洗浄装置としては、円筒型洗浄装置、向流接触型洗浄装置、遠心分離洗浄装置などが挙げられる。浴比(洗浄液の質量/ポリビニルエステル系重合体粒子の質量)は、通常、1~30であり、特に2~20が好ましい。浴比が大きすぎると、大きな洗浄装置が必要となり、コスト増につながる傾向があり、浴比が小さすぎると、洗浄効果が低下し、洗浄回数を増加させる傾向がある。【0028】洗浄時の温度は、通常、10~80℃であり、特に20~70℃が好ましい。温度が高すぎると、洗浄液の揮発量が多くなり、還流設備を必要とする傾向がある。温度が低すぎると、洗浄効率が低下する傾向がある。洗浄時間は、通常、5分~12時間であり、特に30分~4時間が好ましい。洗浄時間が長すぎると、生産効率が低下する傾向があり、洗浄時間が短すぎると、洗浄が不十分となり、カルボン酸金属塩が多く残留する傾向がある。また、洗浄回数は、通常、1~10回であり、特に1~5回が好ましい。洗浄回数が多すぎると、生産性が低下し、コストがかかる傾向がある。【0029】洗浄されたポリビニルエステル系重合体ケン化物の粒子を連続式又はバッチ式にて熱風などで乾燥し、本発明で用いられるPVA系樹脂の粉体を得る。乾燥温度は、通常、50~150℃であり、特に60~130℃、殊に70~110℃が好ましい。乾燥温度が高すぎると、PVA系樹脂が熱劣化する傾向があり、乾燥温度が低すぎると、乾燥に長時間を要する傾向がある。乾燥時間は、通常、1~48時間であり、特に2~36時間が好ましい。乾燥時間が長すぎると、PVA系樹脂が熱劣化する傾向があり、乾燥時間が短すぎると、乾燥が不十分となったり、高温乾燥を要したりする傾向がある。【0030】乾燥後のPVA系樹脂の粉体中に含まれる溶媒の含有量は、通常、0~10重量%であり、特に0.01~5重量%、殊に0.1~1重量%とするのが好ましい。【0031】かくして本発明で用いられるPVA系樹脂が得られ、これを含有することにより本発明の固体分散体用基剤となる。本発明の固体分散体用基剤において、PVA系樹脂の含有量は、固体分散体用基剤全体に対して20重量%以上であることが好ましく、30~90重量%がより好ましく、40~80重量%が更に好ましい。かかる含有量が少なすぎると、薬物の非晶状態を維持できなくなる傾向がある。なお、PVA系樹脂の含有量が多すぎると、薬物の含有量が少なくなり、薬効を発揮させるために投与する薬物の量が増加してしまう傾向がある。」
「【0032】また、本発明の固体分散体は、本発明の固体分散体用基剤と薬物を含有してなるものである。<薬物>次に、薬物について説明する。続きを表示(全16行)本発明の固体分散体に含有される薬物としては以下のものが挙げられる。・・・【0060】また、溶解性向上の観点から難溶性薬物が好ましく、そういった難溶性薬物としては、例えば、カルバマゼピン、インドメタシン、ナプロキセン、イブプロフェン、フェナセチン、フェニルブタゾン、グリセオフルビン、アゾール系化合物、フェニトイン、二硝酸イソソルビット、ニトロフェニルピリジン系化合物などが挙げられる。ニトロフェニルピリジン系化合物はニトロフェニル基とピリジン環構造を有する難溶性化合物を包含する。ニトロフェニルピリジン系化合物としては、ピリジン環の2位~4位のいずれかにニトロフェニル基が結合した構造を有する化合物が好ましい。具体的な化合物としては、ニフェジピン、ニルバジピンなどが挙げられる。【0061】上記の薬物の含有量は、バイオアベイラビリティーに応じて適宜調整される。薬物は、一般に医療、食品分野などで用いられる希釈剤などによって希釈されたものであってもよい。また薬物の苦味のマスキングを目的として処理したものを用いてもよい。【0062】<その他の添加剤>本発明の固体分散体には、本発明の効果を損なわない範囲において、各種添加剤を添加することができる。添加剤としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、pH調整剤、流動化剤、界面活性剤、着色剤、甘味剤及びコーティング剤などが挙げられる。【0063】賦形剤としては、例えば、糖アルコール類、糖類、リン酸カルシウム類、結晶セルロース類、デンプン類、リン酸ナトリウム類及びゼラチンなどから選ばれた1種又は2種以上の成分が用いられる。好ましい賦形剤としては糖アルコール類や糖類が挙げられる。糖アルコール類としては、例えば、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール及びマルチトールなどが挙げられる。糖類としては、例えば、ブドウ糖、果糖、乳糖、白糖、トレハロース、麦芽糖及びオリゴ糖などが挙げられる。」
「【0071】<固体分散体の製造方法>本発明の固体分散体の製造方法は、下記の方法等が挙げられる。(i)溶媒法:薬物と基剤を有機溶媒に溶解した後、その溶媒を除去する方法。続きを表示(全92行)(ii)溶融法:薬物と基剤を加熱溶融混練させた後、冷却固化させる方法。(iii)混合粉砕法(メカノケミカル法):圧縮、剪断、摩擦などの機械エネルギーを用いて、薬物を微細化または基剤へ分散させる方法。上記の中でも、結晶制御の観点から(ii)の溶融法が好ましい。以下に、溶融法について詳述する。【0072】溶融法とは、薬物及び固体分散体用基剤の混合物を加熱処理し、必要に応じて加熱処理物の形態を調整(粉砕、粉末化、成形等)することによって固体分散体を得る方法である。【0073】薬物及び本発明の固体分散体用基剤の混合物の加熱処理は、混合物全てを溶融する温度としてもよいし、両者の一部を溶融する温度としてもよいし、溶融に至らない場合でもその特性に応じて、薬物の一部又は全部が非晶質化する温度条件を選択することが出来る。なお、溶融に至らない場合であっても、薬物の一部又は全部を非晶質化させることにより固体分散体を得ることができ、本発明においては、この場合も溶融法に含めることとする。【0074】また、薬物及び固体分散体用基剤の混合物とは、溶融した固体分散体用基剤に薬物を配合する方法により得られる混合物や、固体分散体用基剤と薬物をドライブレンドした後に溶融混練する方法により得られる混合物などを含むものである。【0075】加熱処理に使用される加熱手段は特に限定されるものではなく、当業者により利用可能な適宜の加熱手段を採用することができ、より具体的には、乾燥器、オイルバス、電気炉等による加熱、超音波照射による加熱、二軸式混練処理による加熱、単軸及び二軸溶融押出し処理(エクストルーダ)による加熱、マイクロ波照射による加熱などである。【0076】加熱処理物の形態を調整する手段は特に限定されるものではなく、当業者により利用可能な適宜の手段を採用することができ、例えば、粉砕手段、成形手段等を採用することができる。成形手段としては、押出成形(例えば、単軸押出、二軸押出、多軸押出、ホットメルトカレンダー法)、射出成形(例えば、二軸エクストルーダー)、圧縮成形(例えば、打錠、造粒)などが例示される。【0077】加熱処理による固体分散体の製造と固体分散体の形態の調整を同時に行う場合には、加熱手段を備えた加熱処理物の形態を調整する装置を採用すればよい。【0078】加熱処理の温度は必ずしも加熱対象が溶融する温度は必要ではない。溶融温度よりも低い加熱温度で固体分散体を製造できることが知られており、本発明においても、なるべく低い温度で固体分散体を製造することによって、高温で分解、劣化等が起こる薬物も固体分散体とすることができる。通常、80~220℃、好ましくは120~200℃、より好ましくは150~200℃である。なお、超音波照射は超音波を粉体混合物に当てるものであり、超音波照射による加熱の場合、超音波照射エネルギーは通常600~2000J、好ましくは700~1800J、より好ましくは800~1300Jである。このような装置としては、テクネア・エンジニアリング社製の超音波成形機USTM/L20などを使用することができる。かかる装置は、薬物、固体分散体用基剤及び必要に応じ添加剤の粉体混合物をかかる装置に備えられた臼内に充填し、この混合物に超音波を照射しつつ圧縮成形するものである。【0079】また、二軸押出成形機、二軸エクストルーダー等には加熱手段を備えたものがあり、本発明における加熱処理としては、超音波照射しつつ圧縮成形する手段、加熱手段を備えた二軸押出成形機、加熱手段を備えた二軸エクストルーダーによる製造が好ましい。【0080】かくして本発明の固体分散体用基剤を用いた固体分散体を得ることができ、得られる固体分散体は薬物の溶出率に優れ、着色の小さいものとなるのである。【実施例】【0081】以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。尚、例中「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。【0082】実施例1〔固体分散体用基剤の作製〕還流冷却機、滴下漏斗、撹拌機を備えた反応缶に、酢酸ビニル280部、メタノール300部、およびアゾビスイソブチロニトリル0.10モル%(対仕込み酢酸ビニル)を仕込み、窒素気流下で撹拌しながら還流が開始するまで温度を上昇させ、還流が開始してから30分後に酢酸ビニル720部を9.5時間等速で滴下させ重合を行った。滴下終了後、酢酸ビニルの重合率が92%となった時点で、m-ジニトロベンゼンを添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し、酢酸ビニル重合体のメタノール溶液(樹脂分53%)を得た。【0083】続いて、上記メタノール溶液をさらにメタノールで希釈して、濃度50%に調整してニーダーに仕込んだ。溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの4%メタノール溶液を重合体中の酢酸ビニル構造単位1モルに対して6.0ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行するとともにケン化物が析出し、粒子状となった時点で固液分離により濾別し、乾燥した。得られたPVA系樹脂の乾燥粉末のケン化度は、残存酢酸ビニルの加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ、88モル%であり、4%水溶液の粘度は、5.6mPa・sであり、平均重合度は600であった。【0084】上記で得られたPVA系樹脂の乾燥粉末を浴比10のメタノール中に投入して3時間撹拌し、洗浄した。その後、固液分離し、得られたPVA系樹脂の粉末を90℃で揮発分が1%以下になるまで真空乾燥し、PVA系樹脂の乾燥粉末を得て、固体分散体用基剤とした。酢酸ナトリウム含有量は、PVA系樹脂の乾燥粉末を水に溶かして、メチルオレンジを指示薬とし、塩酸にて中和滴定することにより求めた。酢酸ナトリウムの含有量は0.1%であった。【0085】以下に中和滴定の方法を詳細に説明する。まず、三角フラスコにPVA系樹脂の乾燥粉末3.00gと水100mlを投入し、加熱撹拌溶解機に置き、PVA系樹脂の乾燥粉末が完全に溶解するまで加熱撹拌した。次に、空冷管を外し、30分間放置し、PVA系樹脂の乾燥粉末中の残存溶剤を追い出し、室温まで冷却した。得られたPVA系樹脂水溶液100mlと純水(空試験、基準色)100mlに、それぞれメチルオレンジを3滴滴下した。PVA系樹脂水溶液のほうに0.1N-HClを1滴ずつ滴下し、純水と同じ色を呈するまで滴定を続け、中和に要した0.1N-HCl量から酢酸ナトリウムの量を算出した。【0086】〔固体分散体の作製〕上記の固体分散体用基剤44部、薬物として、カルバマゼピン11部を混合し、これを二軸混練機(Brabender社製 プラストグラフ)にて下記条件で溶融混練し、混練完了後に内部から溶融混練物を取り出し、室温で冷却して本発明の固体分散体を取得した。【0087】(溶融混練条件)スクリュー回転数:50rpm設定温度 :200℃予熱時間 :3分混練時間 :5分得られた固体分散体について、以下の評価を行った。【0088】〔溶出率評価〕溶出率測定は日本薬局方外医薬品規格第三部『カルバマゼピン細粒』に準拠し、溶出試験第2法に従って測定した。溶出率を算出するためにUV吸光度計(紫外可視分光光度計、株式会社島津製作所製「V-560」)で吸光度を測定した。具体的には、撹拌翼付のガラス容器に水を900mL投入し、上記で得られた固体分散体1.2gを投入後、撹拌し、180分後にサンプルを20mL抜き取り、メンブランフィルター(DISMIC 0.45μm φ25mm ADVANTEC社製)でろ過し、そのうちの2mLを採取し、更に50mLに希釈して測定サンプルとした。【0089】また、別に、純度98%以上で、既知のカルバマゼピン(和光純薬工業製)を105℃で2時間乾燥し、その約0.022gを量り、メタノール10mLに溶解し、水を加えて正確に100mLにした。この液4mLを水で100mLに希釈し標準溶液とした。標準溶液と試料溶液と水をリファレンスとし、紫外可視吸光度測定法(紫外可視分光光度計、株式会社島津製作所製「V-560」)で波長285nmの測定を実施し、吸光度At、Asを測定した。【0090】カルバマゼピンの溶出率は以下の式で算出した。結果を表1に示す。溶出率(%)=(Ws/Wt)×(At/As)×(1/C)×900Ws:カルバマゼピン標準品の採取量(mg)Wt:溶出率測定時のサンプル採取量(g)C:サンプル1g中のカルバマゼピンの量(mg)At:試料の285nmの吸光度(abs.)As:カルバマゼピン標準溶液の285nmの吸光度(abs.)【0091】〔着色評価〕下記の条件にて、上記の固体分散体をプレート状にしてYI(イエローインデックス)値を測定し、着色の評価をした。(プレート作製方法)装置 :NSF-37型単動圧縮成型機(株式会社神藤金属工業所製)温度 :220℃予熱 :8分プレス時間 :10分プレートサイズ:30mm×50mm×0.8mm【0092】(YI測定条件)装置 :分光色差計 SE-6000 (日本電色工業株式会社製)測定方法 :反射法測定回数 :2回【0093】実施例2実施例1において、PVAの洗浄浴比を5、洗浄時間を1時間にした以外は、実施例1と同様にして、同様に評価した。結果を表1に示す。【0094】比較例1実施例1において、PVA系樹脂の洗浄工程を無くした以外は、実施例1と同様にして、同様に評価した。結果を表1に示す。【0095】【表1】[図:0001403622000016.jpg]【0096】本発明の固体分散体用基剤を用いた固体分散体(実施例1及び2)においては、溶出率が高く、生物学的利用能に優れるものであった。一方、酢酸ナトリウム含有量の多い比較例1は、溶出率が低く、生物学的利用能が低いものであった。また、本発明の固体分散体用基剤を用いた固体分散体においては、YI値が小さく着色の小さいものであった。一方、酢酸ナトリウム含有量の多い比較例1は、着色が大きいものであった。」
(4) サポート要件の判断
ア 本件特許発明の課題
本件特許明細書の段落【0009】等によると、本件特許発明の解決しようとする課題(以下、「本件特許発明の課題」という。)は、「薬物の溶出率に優れ、更に着色の小さい固体分散体を得るための固体分散体用基剤」を提供することである。
イ 検討
(ア)発明の詳細な説明の一般的記載
本件特許明細書の段落【0010】には、「しかるに、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、カルボン酸金属塩を少量ながら含有するPVA系樹脂を固体分散体用基剤として用いることにより、薬物の溶出率に優れる固体分散体を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記<1>~<5>に関するものである。
<1>カルボン酸金属塩の含有量が0.8重量%以下のポリビニルアルコール系樹脂を含有してなることを特徴とする固体分散体用基剤。
<2>前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が80~95モル%であることを特徴とする<1>に記載の固体分散体用基剤。
<3>前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が200~2500であることを特徴とする<1>又は<2>に記載の固体分散体用基剤。
<4><1>~<3>のいずれか1つに記載の固体分散体用基剤と薬物の混合物を溶融混練した後、冷却することを特徴とする固体分散体の製造方法。
<5><1>~<3>のいずれか1つに記載の固体分散体用基剤と薬物を含有する固体分散体。」と記載されており、段落【0016】に、「本発明の固体分散体用基剤は、PVA系樹脂に上記のカルボン酸金属塩が0.8重量%以下含有されるものであり、好ましくは0.4重量%以下、特に好ましくは0.2重量%以下である。かかる含有量が多すぎると本発明の効果が得られにくくなる。また、溶融粘度の安定性の点から含有量の下限値は0.01重量%、特には0.02重量%、更には0.03重量%であることが好ましい。」と記載されている。
そうすると、上記記載より「カルボン酸金属塩を少量、具体的には、0.8重量%以下含有するPVA系樹脂を固体分散体用基剤として用いることにより、薬物の溶出率に優れる固体分散体を得ることができる」ことを読み取ることができる。
また、段落【0018】【0019】に、「また、本発明に用いられるPVA系樹脂のケン化度は80~95モル%であることが好ましく、83~93モル%であることがより好ましく、85~90モル%であることが更に好ましい。PVA系樹脂のケン化度が低すぎても高すぎても、薬物の溶出率が低下する傾向がある。
なお、本発明において、PVA系樹脂のケン化度は、JIS K 6726に準拠する方法で求められた値とする。
本発明に用いられるPVA系樹脂の平均重合度は、200~2500であることが好ましく、400~1500がさらに好ましく、300~1000が特に好ましい。
PVA系樹脂の平均重合度が低すぎると、強度が低下し脆くなる傾向があり、平均重合度が高すぎると、融点が高くなり、溶融法で固体分散体を製造することが困難となる傾向がある。
なお、本発明において、ポリビニルアルコールの平均重合度は、JIS K 6726に準拠する方法で求めた平均重合度を用いるものとする。」と記載されている。
そうすると、当該記載より、「ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が80~95モル%とすることにより、薬物の溶出率が良好となることを読み取ることができる。
(イ)実施例について
本件特許明細書の【実施例】には、ケン化度88モル%、4%水溶液の粘度は、5.6mPa・sであり、平均重合度は600のPVA系樹脂の乾燥粉末を浴比10のメタノール中に投入して3時間撹拌し、洗浄した。その後、固液分離し、得られたPVA系樹脂の粉末を90℃で揮発分が1%以下になるまで真空乾燥して得たPVA系樹脂からなるものであって、酢酸ナトリウムの含有量が0.1重量%と0.5重量%の固体分散体用基剤を用いた固体分散体(実施例1及び2)においては、薬物の溶出率がそれぞれ91.2%、87.6%と高く、YI値がそれぞれ76、84と低い一方、酢酸ナトリウム含有量が1重量%の比較例1は、薬物の溶出率が83.4%と低く、YI値が128と高い結果が示されている。
この3点の結果から、酢酸ナトリウムの含有量を少なくするにつれ、薬物の溶出率が高く、YI値が低くなる傾向を読み取ることができ、酢酸ナトリウムの含有量が0.5重量%のポリビニルアルコール系樹脂が具体的に示されている。
(ウ)本件特許発明と発明の詳細な説明との対比
上記(ア)及び(イ)を勘案すると、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の一般的記載及び実施例・比較例の対比から、「カルボン酸金属塩の含有量が0.5重量%以下のポリビニルアルコール系樹脂を含有し、
前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が80~95モル%であり、
前記ポリビニルアルコール系樹脂の含有量が、固体分散体用基剤全体に対して
100重量%であることを特徴とする固体分散体用基剤」という技術的事項を満たすことにより、「薬物の溶出率に優れ、更に着色の小さい固体分散体を得ることができる」ことが理解できる。
そして、本件特許発明1は、上記技術的事項を備えるものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件特許発明の課題を解決できることを認識できるものである。
また、本件特許発明1を引用する本件特許発明2及び3についても同様である。
(5)申立人の主張について
ア 申立人の主張
申立人は、上記第4 1(6)の具体的理由アないしウに付随し、令和4年12月9日に提出された意見書において以下の主張を行っている。
・「酢酸ナトリウムが課題にどのように関与するのか全く不明な前提では、たった、実施例1及び2の結果だけでは、「0.1重量%」と「0.5重量%」の間の含有量でさえ、同様の溶出率やYI値が得られるものと認められません。すなわち、同様の溶出率やYI値が得られると認識するためには、「0.1重量%」と「0.5重量%」との間で、比例的ないし連続的に溶出率やYI値が変化するとの認識が必要となりますが、そのように認識できる合理性がありません。
たった2点の結果だけで、しかもメカニズム等も全く不明な(さらには、溶出性や着色には、単に、酢酸ナトリウムが少なければ良いわけではないとする技術常識も存在する)状況では、0.5重量%や0.1重量%付近において、たまたま、溶出率やYI値のピークがあったに過ぎないとも想定できますし、0.3重量%のようなこれらの間の値では溶出率やYI値が大きく悪化することも想定できます。
以上のように、本件発明は、訂正後においても、依然としてサポート要件を充足しません。」
(上記第4 1(6)の具体的理由アと共に主張アという。)
・「「0.5重量%」における溶出率は「優れ」たものではありませんが、特許異議申立書においても詳述しましたように、課題解決のメカニズム等が全く不明な中、実施例の結果から、「0.5重量%以下」を充足しさえすれば、課題を解決できるものとも認められません。
例えば、薬物の種類や他の成分の存在・その量等の様々な要因によっても溶出率は大きく影響を受けるはずですし、そもそも「0.5重量%以下」の全範囲においてさえ課題を解決できるものと認められません。 ・・・しかも、0.5重量%「以下」は、酢酸ナトリウムの含有量が少ない領域であれば際限なく課題を解決できるということを意味しますが、そのようなこともありません。
例えば、特許異議申立書においてもご説明しましたように、本件明細書にも、メカニズム等は全く不明なものの「【0010】しかるに、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、カルボン酸金属塩を少最ながら含有するPVA系樹脂を固体分散体用基剤として用いることにより、薬物の溶出率に優れる固体分散体を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。」との記載や、樹脂自体の安定性(ひいては、溶出性や着色)に関する「【0017】・・・溶融粘度の安定性の点から含有量の下限値は0.01重量%・・・であることが好ましい」との記載があり、カルボン酸金属塩を所定量含有することが課題の解決につながることを示唆していますし、酢酸ナトリウムが含まれない(少なすぎる)ことで課題を解決できないことを裏付ける技術常識もあります[例えば、甲4にも、本件発明の課題たる「着色の小さい」に関して、「また酢酸ナトリウム含有率が0.005重量%を下まわる程度に少なくなると、本発明の効果は極めて小さいものとなるのでこの場合もまた、該ポリビニルアルコール系ポリマーの熱劣化を防止することができない」と記載されています]。
(上記第4 1(6)の具体的理由ウと共に主張ウという。)
また、上記第4 1(6)の具体的理由イを主張イという。
イ 申立人の主張の検討
そこで、上記主張について検討する。
(ア)主張アについて
本件特許明細書には、酢酸ナトリウムの含有量を少なくするにつれ、薬物の溶出率が高くなる作用機序は記載されていないものの、上記(4)で説示したように、実施例2点と比較例1点の3点の結果から、酢酸ナトリウムの含有量を少なくするにつれ、薬物の溶出率が高く、YI値が低くなる傾向を読み取ることができる。
一方、申立人は、「0.5重量%や0.1重量%付近において、たまたま、溶出率やYI値のピークがあったに過ぎない」ことや、「0.3重量%のようなこれらの間の値では溶出率やYI値が大きく悪化する」ことが想定されることを主張するものの、具体的証拠をもって主張するような事象が生じることを立証しているわけではない。
よって、申立人の上記主張は首肯できない。
(イ)主張イについて
固体分散体の製造方法は、本件特許明細書に記載されているように、溶融法のほかに、溶媒法やメカノケミカル法等があり、これらの製造方法は、甲3(段落[0003]ないし[0005])や甲9(上記I 1(1)ケ(イ))に示されるように周知の製造方法であり、いずれの方法によっても「固体分散体」は製造可能なものである。
そして、上記(4)イで説示したように、本件特許発明1、特には、「カルボン酸金属塩の含有量が0.5重量%以下のポリビニルアルコール系樹脂」を用いることにより、本件特許発明の課題を解決し得るものである。
すなわち、本件特許発明の課題を解決する手段として、「溶融法」は必須なものではない。
よって、「本件発明は、固体分散体用基剤ないし固体分散体を対象とするものの、当該発明において、固体分散体の態様として、溶融法(本件明細書の【0004】)を経たもの以外においてまで、同様に上記課題を生じ、解決できるものとは認められない。」とする申立人の主張は首肯できない。
(ウ)主張ウについて
カルボン酸金属塩の下限値について、本件特許明細書の段落【0016】に、「本発明の固体分散体用基剤は、PVA系樹脂に上記のカルボン酸金属塩が0.8重量%以下含有されるものであり、好ましくは0.4重量%以下、特に好ましくは0.2重量%以下である。かかる含有量が多すぎると本発明の効果が得られにくくなる。また、溶融粘度の安定性の点から含有量の下限値は0.01重量%、特には0.02重量%、更には0.03重量%であることが好ましい。」と記載されているように、当該下限値は、溶融粘度の安定性の観点から設定されるものであり、本件特許発明の課題である薬物の溶出率や着色性とは直接的に関係しない。
ところで、甲4の表1について見てみるに、酢酸ナトリウム含有率が0.0364重量%の実施例のYI値(加熱着色試験 230℃、30分間)が「12」に対し、酢酸ナトリウム含有率0%(添加せず)の対象例4のYI値が「26」と大きくなっているものの、本件特許明細書の比較例1のYI値「128」(加熱着色試験 220℃、8分)と比べれば小さい値となっていることから、酢酸ナトリウムの含有率が非常に少ない場合であっても、本件特許発明の課題(着色性)は解決し得ると認識できるものである。
また、甲9は、「固体分散体キャリヤとしての添加剤HPMCAS(ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル」に関するもので、本件特許発明の「ポリビニルアルコール系樹脂」と直接関係するものではない。
そして、申立人は、「例えば、薬物の種類や他の成分の存在・その量等の様々な要因によっても溶出率は大きく影響を受けるはずですし、そもそも「0.5重量%以下」の全範囲においてさえ課題を解決できるものと認められません。」と主張するものの、具体的証拠をもって主張するような事象が生じることを立証しているわけではない。
よって、申立人の上記主張は首肯できない。
(6)申立理由6についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由6によっては取り消すことはできない。
6 申立理由7(明確性要件)
上記第2及び第3に示すように、訂正により、本件特許発明1は、「前記ポリビニルアルコール系樹脂の含有量が、固体分散体用基剤全体に対して100重量%である」ものとなった。
そのため、訂正前の本件特許発明1が、「前記ポリビニルアルコール系樹脂の含有量が、固体分散体用基剤全体に対して20重量%以上である」と規定されていたことにより、「前記ポリビニルアルコール系樹脂」以外の他の成分としてどのようなものを含むのか(さらには 当該他の成分を80重量%以下まで含む場合がどのような場合を指すのか)不明である。」という申立理由は解消された。
したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由7によっては取り消すことはできない。
第6 むすび
上記第5のとおり、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、当審が通知した取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
さらに、他に本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2022-700454