特許異議申立
2022-700443
カード
- 審判番号
- 2022-700443
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-224505
- 登録番号
- 6969314
- 請求日
- 2022年05月23日
- 審決日
- 2023年01月24日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】凸版印刷株式会社
- 【異議申立人】鈴木 佐知子
- 審判長/審判官
- 審判長 吉村 尚
- 審判官 藤本 義仁
- 審判官 比嘉 翔一
- 分類
- P1651.121-YAA(B42D) / P1651.536-YAA(B42D) / P1651.537-YAA(B42D) / P1651.851-YAA(B42D) / P1651.853-YAA(B42D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6969314号発明「カード」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6969314号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。
特許第6969314号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。
請求項3及び4に係る申立ては、却下する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第6969314号の請求項1乃至4に係る特許についての出願は、平成29年11月22日を出願日とする特許出願であって、令和3年11月1日にその特許権の設定登録がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和4年5月23日付けで特許異議申立人 鈴木佐知子(以下、「特許異議申立人」という。)より請求項1乃至4に対して特許異議の申立てがされ、同年7月5日付けで取消理由が通知され、同年8月25日に特許権者により意見書の提出及び訂正請求がされ、同年11月24日特許異議申立人により意見書が提出された。
2 訂正の適否についての判断(請求項1乃至4に係る一群の請求項に係る訂正)
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。(注:下線部分は訂正箇所を示す。)
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「金属材料からなるコア基材の表裏に外装シートを積層一体化してなるカードであって、積層構成である表裏の外装シートは、共に層内に磁気ストライプテープを含んでおり、表側外装シートの磁気ストライプテープは、その上層に金属が含まれる隠蔽層が部分的に形成され、目視により視覚出来ない様にされており、コア基材の最外面には、外装シートのコア基材側に形成される熱可塑性樹脂材料よりも軟化温度が低い熱可塑性樹脂材料からなる層が形成された構成であることを特徴とするカード。」と記載されているのを、「金属材料からなるコア基材の表裏に外装シートを積層一体化してなるカードであって、積層構成である表裏の外装シートは、共に層内に磁気ストライプテープを含んでおり、表側外装シートの磁気ストライプテープは、その上層に金属が含まれる隠蔽層が部分的に形成され、かつ、前記隠蔽層の上層に金属蒸着層を有する転写層が形成され目視により視覚出来ない様にされており、コア基材の最外面には、外装シートのコア基材上に前記外装シートのコア基材と別体で形成される熱可塑性樹脂材料よりも軟化温度が低い熱可塑性樹脂材料からなる層が形成された構成であることを特徴とするカード。」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。
イ 訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0005】に「本発明によるカードは、金属材料からなるコア基材の表裏に外装シートを積層一体化してなるカードであって、積層構成である外装シートは、層内に磁気ストライプテープを含んでおり、表側外装シートの磁気ストライプテープは、その上層に金属が含まれる隠蔽層が部分的に形成され、目視により視覚出来ない様にされており、コア基材の最外面には、外装シートのコア基材側に形成される熱可塑性樹脂材料よりも軟化温度が低い熱可塑性樹脂材料からなる層が形成された構成であることを特徴とする。コア基材に形成された熱可塑性樹脂材料からなる層は、外装シート内に封入された磁気ストライプテープによる厚みの段差を吸収していることが好ましい。表側の外装シートには、層内に含まれる磁気ストライプテープを隠蔽するための金属粒子の含まれるインキを用いた印刷層を形成しても良い。表側の外装シートには、金属粒子の含まれるインキを用いた印刷層上に金属蒸着層を有する転写層を形成しても良い。」と記載されているのを、「本発明によるカードは、金属材料からなるコア基材の表裏に外装シートを積層一体化してなるカードであって、積層構成である外装シートは、層内に磁気ストライプテープを含んでおり、表側外装シートの磁気ストライプテープは、その上層に金属が含まれる隠蔽層が部分的に形成され、かつ、前記隠蔽層の上層に金属蒸着層を有する転写層が形成され目視により視覚出来ない様にされており、コア基材の最外面には、外装シートのコア基材上に前記外装シートのコア基材と別体で形成される熱可塑性樹脂材料よりも軟化温度が低い熱可塑性樹脂材料からなる層が形成された構成であることを特徴とする。コア基材に形成された熱可塑性樹脂材料からなる層は、外装シート内に封入された磁気ストライプテープによる厚みの段差を吸収していることが好ましい。」に訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項について
ア 訂正事項1
(ア)訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「カード」の「表側外装シートの磁気ストライプテープ」について、「上層に金属が含まれる隠蔽層が部分的に形成され」から「上層に金属が含まれる隠蔽層が部分的に形成され、かつ、前記隠蔽層の上層に金属蒸着層を有する転写層が形成され」と更に限定するもの(以下「訂正事項1-1」という。)、「熱可塑性樹脂材料」について、「外装シートのコア基材側に形成される」から「外装シートのコア基材上に前記外装シートのコア基材と別体で形成される」と更に限定するもの(以下「訂正事項1-2」という。)である。
そうすると、訂正事項1-1及び1-2のいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
同様に、訂正後の請求項2は、訂正後の請求項1を引用することにより、訂正後の請求項2の「カード」をより具体的に特定し、上記訂正事項1-1及び1-2のとおり限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否か
上記アのとおり、訂正事項1-1及び1-2は、訂正前の請求項1に記載されていた「カード」の「表側外装シートの磁気ストライプテープ」及び「熱可塑性樹脂材料」について、限定するものであり、いずれの訂正事項も、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
同様に、訂正事項1-1及び1-2は、訂正前の請求項2が引用する請求項1に記載されていた「カード」の「表側外装シートの磁気ストライプテープ」及び「熱可塑性樹脂材料」について、限定するものであり、請求項2についても、同様に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そうすると、訂正事項1-1及び1-2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否か
訂正事項1-1の「隠蔽層の上層に金属蒸着層を有する転写層が形成され」について、願書に添付した明細書の【0027】の「隠蔽層8上に金属蒸着層を有する転写層(メタルフェイス箔)10を転写形成する。」との記載に基づいて導き出される事項である。
訂正事項1-2の「外装シートのコア基材上に前記外装シートのコア基材と別体で形成される」について、願書に添付した明細書の【0019】の「表側外装シート30の厚さの大半を占める「芯材」となる基材2としては、透明な二軸延伸PETが採用され、その表裏両面に熱可塑性樹脂層1がラミネートされる。」との記載に基づいて導き出される事項である。
そうすると、訂正事項1-1及び1-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的について
訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。
そうすると、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否か
上記アのとおり、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そうすると、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否か
上記(ア)のとおり、訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲における請求項1の記載と、明細書において請求項1に対応する課題を解決するための手段が記載された段落【0005】の記載との整合を図るための訂正であるところ、上記訂正事項1が願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でするものであることからすれば、訂正事項2は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でするものである。
そうすると、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的について
訂正事項3は、請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否か
訂正事項3は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否か
訂正事項3は、請求項3を削除するものであるから、当該訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
エ 訂正事項4について
(ア)訂正の目的について
訂正事項4は、請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否か
訂正事項4は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否か
訂正事項4は、請求項4を削除するものであるから、当該訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
オ 明細書又は図面の訂正と関係する請求項についての説明
訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴うものであり、その記載内容と訂正後の請求項1の記載内容との間に実質的な差異はない。
したがって、訂正事項2は、請求項1を含む一群の請求項である請求項1及び2に関係する訂正である。
カ 一群の請求項について
訂正前の請求項1及び2について、請求項2は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1及び2に対応する訂正後の請求項1及び2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
キ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
特許法第120条の5第9項により読み替えて適用される同法126条第7項に規定する要件(所謂独立特許要件)については、本件訂正に係る本件特許の請求項1及び2に係る特許が特許異議の申立ての対象とされているものであるから、本件訂正請求による訂正後の請求項1及び2に係る発明については課されない。
(3)まとめ
上記のとおり、令和4年8月25日に特許権者が行った本件訂正における本件訂正前の請求項1乃至4に係る訂正事項1乃至4は、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするもの、であり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項1及び2について、訂正を認める。
3 訂正後の本件訂正特許発明
上記2で検討したとおり、訂正前の請求項1乃至4に係る一群の請求項に係る訂正を認めることができるから、訂正後の請求項1及び2に係る特許についての発明は本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(以下、それぞれ「本件訂正特許発明1」及び「本件訂正特許発明2」という。便宜的に各構成要件をA乃至Eと分節する。)
「【請求項1】
A 金属材料からなるコア基材の表裏に外装シートを積層一体化してなるカードであって、
B 積層構成である表裏の外装シートは、共に層内に磁気ストライプテープを含んでおり、
C 表側外装シートの磁気ストライプテープは、その上層に金属が含まれる隠蔽層が部分的に形成され、かつ、前記隠蔽層の上層に金属蒸着層を有する転写層が形成され目視により視覚出来ない様にされており、
D コア基材の最外面には、外装シートのコア基材上に前記外装シートのコア基材と別体で形成される熱可塑性樹脂材料よりも軟化温度が低い熱可塑性樹脂材料からなる層が形成された構成であることを特徴とするカード。
【請求項2】
E コア基材に形成された熱可塑性樹脂材料からなる層は、外装シート内に封入された磁気ストライプテープによる厚みの段差を吸収している請求項1記載のカード。」
4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
ア 取消理由1(特許法第36条第6項第2号違反)について
(ア)本件特許発明1乃至4について(以下「取消理由1-1」という。)
請求項1には、「表側外装シートの磁気ストライプテープは、その上層に金属が含まれる隠蔽層が部分的に形成され、目視により視覚出来ない様にされており、」と特定されている。
上記特定事項からすると、磁気ストライプ上には部分的には隠蔽層が形成されているものの、隠蔽層が形成されていない部分も存在することとなる。
そうすると、磁気ストライプの一部は目視できることとなるから、「目視により視覚出来ない様にされており」と矛盾することとなる。
よって、請求項1の「表側外装シートの磁気ストライプテープは、その上層に金属が含まれる隠蔽層が部分的に形成され、目視により視覚出来ない様にされており、」との記載は、技術的に矛盾した記載であることから明確でない。
本件特許発明1を直接的又は間接的に引用する本件特許発明2乃至4も同様の理由がある。
よって、請求項1乃至4に係る発明は明確でないから、請求項1乃至4の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(イ)本件特許発明1乃至4について(以下「取消理由1-2」という。)
請求項1には、「外装シートのコア基材側に形成される熱可塑性樹脂材料」と特定されている。
前記記載は、「熱可塑性材料」が「外装シートの基材」とは別に形成されたものであるのか、「外装シートの基材」が「熱可塑性材料」で形成されているのかが特定できない。
してみると、請求項1の「外装シートのコア基材側に形成される熱可塑性樹脂材料」との記載では、その構成が特定できないから明確でない。
本件特許発明1を直接的又は間接的に引用する本件特許発明2乃至4も同様の理由がある。
よって、請求項1乃至4に係る発明は明確でないから、請求項1乃至4の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(ウ)本件特許発明3及び4について(以下「取消理由1-3」という。)
請求項3には、「磁気ストライプテープを隠蔽するための金属粒子の含まれるインキを用いた印刷層」と特定されている。
これに対し、請求項3が引用する請求項1には、「金属が含まれる隠蔽層」と特定されており、「金属が含まれる」点で共通することから、請求項1の「金属が含まれる隠蔽層」と請求項3の「金属粒子の含まれるインキを用いた印刷層」とが同じ構成要素を指しているのか否かが不明である。
してみると、請求項3の「金属粒子の含まれるインキを用いた印刷層」との記載では、請求項1の「金属が含まれる隠蔽層」との差異が不明であるから、明確でない。
本件特許発明3を引用する本件特許発明4も同様の理由がある。
よって、請求項3及び4に係る発明は明確でないから、請求項3及び4の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
イ 取消理由2(特許法第36条第6項第1号違反)について
(ア)本件特許発明が解決しようとする課題と、その課題を解決するための手段について
本件特許明細書の段落【0004】、【0005】、【0010】~【0015】、【0025】、【0027】の記載によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、車載のような高温に曝された状況での使用に際しても熱変形が発生せず、さらには、薬品や溶剤に対しても強い耐久性を有するカードでありながらも高級感を有するカードにおいて、文字、絵柄等の装飾部が形成された表側に磁気ストライプテープによる磁気記録部が形成されてあっても、その存在を視覚的に認識させず、表側からの視覚に対して独特の高級感、重厚感の維持されたカードを提供すること、ミリング加工を施してカード内に接触型ICを組み込んだ構成を採用する場合においても、カードとリーダライタとの通信に支障のないカードを提供することであると認められる。
また、前記課題を解決する手段は、コア基材を金属材料で構成すること、磁気ストライプテープを視認させないための隠蔽層を設けること、転写層をその全面に渡って良好に電気的導通しない程度に金属蒸着層を断続的に形成することであると認められる。
(イ)本件特許発明1乃至4について(以下「取消理由2-1」という。)
本件特許明細書の段落【0002】、【0026】の記載からすると、本件特許発明1の「金属が含まれる隠蔽層」は、耐熱性の低いバインダー樹脂(塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体)を排除しないものを包含するから、上記「熱変形が発生せず、さらには、薬品や溶剤に対しても強い耐久性を有するカードを提供する」との本件特許が解決しようとする課題を解決する手段が反映しているとは認められない。
本件特許発明1を直接的又は間接的に引用する本件特許発明2乃至4も同様の理由がある。
よって、請求項1乃至4に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1乃至4の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(ウ)本件特許発明1乃至4について(以下「取消理由2-2」という。)
請求項1には、「表側外装シートの磁気ストライプテープは、その上層に金属が含まれる隠蔽層が部分的に形成され、目視により視覚出来ない様にされており、」と特定されている。
上記特定事項からすると、磁気ストライプ上には部分的には隠蔽層が形成されているものの、隠蔽層が形成されていない部分も存在することとなる。
してみると、請求項1に係る本件特許では、上記「磁気ストライプテープによる磁気記録部が形成されてあっても、その存在を視覚的に認識させず」との本件特許が解決しようとする課題を解決する手段が反映しているとは認められない。
本件特許発明1を直接的又は間接的に引用する本件特許発明2乃至4も同様の理由がある。
よって、請求項1乃至4に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1乃至4の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(エ)本件特許発明1乃至4について(以下「取消理由2-3」という。)
請求項4には、「金属粒子の含まれるインキを用いた印刷層上に金属蒸着層を有する転写層」と特定され、請求項1乃至3には、「金属粒子の含まれるインキを用いた印刷層上に金属蒸着層を有する転写層」については何ら特定されていない。
請求項4の上記特定事項からすると、全面に渡って良好に電気的に導通する金属蒸着層を有する転写層も包含することとなり、磁気ストライプテープの読み取り精度の低下や読み取りエラーに悪影響を及ぼすことは明らかである。
してみると、請求項4に係る本件特許では、上記「カードとリーダライタとの通信に支障のないカードを提供すること」との本件特許が解決しようとする課題を解決する手段が反映しているとは認められない。
ましてや、「金属粒子の含まれるインキを用いた印刷層上に金属蒸着層を有する転写層」が何ら特定されていない請求項1乃至3に係る特許は、上記「カードとリーダライタとの通信に支障のないカードを提供すること」との本件特許が解決しようとする課題を解決する手段が反映しているとは認められない。
よって、請求項1乃至4に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1乃至4の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
ウ 取消理由3(特許法第36条第4項第1号違反)について
(ア)本件特許発明1乃至4について(以下「取消理由3-1」という。)
上記「イ(イ)」のとおり、本件特許発明1乃至4は、「熱変形が発生せず、さらには、薬品や溶剤に対しても強い耐久性を有するカードを提供する」との本件特許が解決しようとする課題を解決する手段が反映しているとは認められないものであるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、本件特許発明1乃至4により、前記課題を解決することを当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(イ)本件特許発明1乃至4について(以下「取消理由3-2」という。)
上記「イ(ウ)」のとおり、本件特許発明1乃至4は、「磁気ストライプテープによる磁気記録部が形成されてあっても、その存在を視覚的に認識させず」との本件特許が解決しようとする課題を解決する手段が反映しているとは認められないものであるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、本件特許発明1乃至4により、前記課題を解決することを当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(ウ)本件特許発明4について(以下「取消理由3-3」という。)
上記「イ(エ)」のとおり、本件特許発明4は、「カードとリーダライタとの通信に支障のないカードを提供すること」との本件特許が解決しようとする課題を解決する手段が反映しているとは認められないものであるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、本件特許発明4により、前記課題を解決することを当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(2)当審の判断
ア 取消理由1(特許法第36条第6項第2号違反)について
(ア)取消理由1-1について
上記取消理由は、特許権の設定登録時の特許請求の範囲の請求項1乃至4に対して通知されたものであるところ、令和4年8月25日に提出された訂正請求により請求項1の「表側外装シートの磁気ストライプテープ」について、「上層に金属が含まれる隠蔽層が部分的に形成され、かつ、前記隠蔽層の上層に金属蒸着層を有する転写層が形成され」と更に限定され、隠蔽層の上にある層は金属蒸着層を有する転写層が形成されることとなった。
ここで、「隠蔽層の『上層』に金属蒸着層を有する転写層が『形成され』」とは、「目視により視覚できないようにされており」と磁気ストライプテープの状態が特定されていることからすると、隠蔽層の上のみならず、表側外装シートの磁気ストライプテープ上の全面に形成されていると解することで矛盾無く理解できる。
また、金属蒸着層を有する転写層が、隠蔽層の上層であって、表側外装シートの磁気ストライプテープ全面に形成されることを妨げる要素もないことから、上記解釈は、妥当な解釈といえる。
よって、本件訂正特許発明1の「表側外装シートの磁気ストライプテープは、その上層に金属が含まれる隠蔽層が部分的に形成され、かつ、前記隠蔽層の上層に金属蒸着層を有する転写層が形成され目視により視覚出来ない様にされており、」との記載は、技術的に矛盾した記載とはいえないことから、明確である。
本件訂正特許発明1を引用する本件訂正特許発明2も同様に明確である。
そうすると、本件訂正特許発明1及び2は、取消理由1-1による特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないとはいえないから、取消理由1-1により、本件特許請求の範囲の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
なお、令和4年8月25日に提出された訂正請求により訂正された請求項3及び4に係る発明は削除されたことから、当該請求項3及び4に係る発明に対する取消理由1-1はその対象が消滅したから、当該請求項3及び4に係る発明に対する取消理由1-1は解消した。
(イ)取消理由1-2について
上記取消理由は、特許権の設定登録時の特許請求の範囲の請求項1乃至4に対して通知されたものであるところ、令和4年8月25日に提出された訂正請求により請求項1の「熱可塑性樹脂材料」について、「外装シートのコア基材上に前記外装シートのコア基材と別体で形成される」と更に限定され、「熱可塑性材料」が「外装シートのコア基材」とは別体で形成されるものとなった。
よって、本件訂正特許発明1の「コア基材の最外面には、外装シートのコア基材上に前記外装シートのコア基材と別体で形成される熱可塑性樹脂材料よりも軟化温度が低い熱可塑性樹脂材料からなる層が形成された」との記載は、その構成が特定できる記載であるから、明確である。
本件訂正特許発明1を引用する本件訂正特許発明2も同様に明確である。
そうすると、本件訂正特許発明1及び2は、取消理由1-2による特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないとはいえないから、取消理由1-2により、本件特許請求の範囲の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
なお、令和4年8月25日に提出された訂正請求により訂正された請求項3及び4に係る発明は削除されたことから、当該請求項3及び4に係る発明に対する取消理由1-2はその対象が消滅したから、当該請求項3及び4に係る発明に対する取消理由1-2は解消した。
(ウ)取消理由1-3について
上記取消理由は、特許権の設定登録時の特許請求の範囲の請求項1乃至4に対して通知されたものであるところ、令和4年8月25日に提出された訂正請求により訂正された請求項3及び4に係る発明は削除されたことから、当該請求項3及び4に係る発明に対する取消理由1-3はその対象が消滅したから、当該請求項3及び4に係る発明に対する取消理由1-3は解消した。
イ 取消理由2(特許法第36条第6項第1号違反)について
(ア)取消理由2-1について
外装シートに磁気ストライプテープを含むカードにおいて、基材の厚さは数百μmであるところ、隠蔽層の厚さは数μmであることが一般的である。
そうすると、カードを熱変形させないよう耐熱性の特性を持たせる場合、厚さの大部分を占める基材の熱特性を向上させることが、常套手段といえ、隠蔽層を耐熱性としたところで、カードの熱変形を防ぐことはできないことは明らかである。
ここで、本件訂正特許発明1の「カード」の「コア基材」は金属材料からなるものと特定されており、当該コア基材がカードの厚さの大部分を占めているのであるから、本件訂正特許発明1の「カード」は耐熱性の特性が付与されている、すなわち、上記「4(1)イ(ア)」で認定した本件訂正特許発明が解決しようとする課題である“車載のような高温に曝された状況での使用に際しても熱変形が発生せず”との課題を解決する手段が反映されているといえる。
してみると、本件訂正特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
本件訂正特許発明1を引用する本件訂正特許発明2も同様に発明の詳細な説明に記載されたものである。
そうすると、本件訂正特許発明1及び2は、取消理由2-1による特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないとはいえないから、取消理由2-1により、本件特許請求の範囲の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
なお、令和4年8月25日に提出された訂正請求により訂正された請求項3及び4に係る発明は削除されたことから、当該請求項3及び4に係る発明に対する取消理由2-1はその対象が消滅したから、当該請求項3及び4に係る発明に対する取消理由2-1は解消した。
(イ)取消理由2-2について
上記「ア(ア)」のとおり、「隠蔽層の『上層』に金属蒸着層を有する転写層が『形成され』」とは、表側外装シートの磁気ストライプテープ上の全面に形成されていると解することで矛盾無く理解できる。
また、金属蒸着層を有する転写層が、隠蔽層の上層であって、表側外装シートの磁気ストライプテープ全面に形成されることを妨げる要素もないことから、上記解釈は、妥当な解釈といえる。
してみると、本件訂正特許発明1には、上記「磁気ストライプテープによる磁気記録部が形成されてあっても、その存在を視覚的に認識させず」との本件特許が解決しようとする課題を解決する手段が反映されているといえる。
本件訂正特許発明1を引用する本件訂正特許発明2も同様に本件特許が解決しようとする課題を解決する手段が反映されているといえる。
そうすると、本件訂正特許発明1及び2は、取消理由2-2による特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないとはいえないから、取消理由2-2により、本件特許請求の範囲の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
なお、令和4年8月25日に提出された訂正請求により訂正された請求項3及び4に係る発明は削除されたことから、当該請求項3及び4に係る発明に対する取消理由2-2はその対象が消滅したから、当該請求項3及び4に係る発明に対する取消理由2-2は解消した。
(ウ)取消理由2-3について
本件訂正特許発明1及び2は、「カードとリーダライタとの通信に支障のないカードを提供すること」との課題を解決する手段は反映されていないものの、上記(ア)のとおり、本件訂正特許発明1及び2は、上記「4(1)イ(ア)」で認定した本件訂正特許発明が解決しようとする課題である“車載のような高温に曝された状況での使用に際しても熱変形が発生せず”との課題を解決する手段が反映されているといえる。
してみると、本件訂正特許発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
そうすると、本件訂正特許発明1及び2は、取消理由2-3による特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないとはいえないから、取消理由2-3により、本件特許請求の範囲の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
令和4年8月25日に提出された訂正請求により訂正された請求項3及び4に係る発明は削除されたことから、当該請求項3及び4に係る発明に対する取消理由2-3はその対象が消滅したから、当該請求項3及び4に係る発明に対する取消理由2-3は解消した。
ウ 取消理由3(特許法第36条第4項第1号違反)について
(ア)取消理由3-1について
本件訂正特許発明1及び2の「カード」の「コア基材」は金属材料からなるものと特定されていることから、上記「4(1)イ(ア)」で認定した本件訂正特許発明が解決しようとする課題である“車載のような高温に曝された状況での使用に際しても熱変形が発生せず”との課題を解決する手段が反映されているといえる。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、
「【0010】
<コア基材>
図1(b)は、コア基材20の層構成を拡大して示す断面図である。
【0011】
厚さ,重さの大半を占める金属層4の両面に接着剤層5を介して熱可塑性樹脂層3が積層一体化される。」
「【0043】
<コア基材>
7:コア基材20の主材料である金属層4(板)を準備する。
8:金属層4の表裏に積層一体化される熱可塑性樹脂層3(ポリ塩化ビニル樹脂)を2枚(おもて用,うら用)準備し、それぞれの片面に接着剤層5を形成する。
9:金属層4の表裏に、接着剤層5により熱可塑性樹脂層3を接合させて貼り合わせる
10:貼り合わせたコア基材を熱ラミネートして積層一体化されたコア基材20とする。
【0044】
<カード>
11:コア基材20の表裏におもて側外装シート30,うら側外装シート40を、それぞれの外装シートの磁気ストライプテープ6,7を形成していない側でコア基材と面する様に配置して接合させて貼り合わせる。おもて側外装シート30の隠蔽層8が形成された表面に金属蒸着層を有する転写層(メタルフェイス箔)10を配置する。
12:貼り合わせたコア基材,外装シートを熱ラミネートして積層一体化する。この際、転写層(メタルフェイス箔)10も隠蔽層8上に感熱転写形成される。
13:転写層(メタルフェイス箔)10上に、カードのおもて面に形成される文字,絵柄,ロゴなどによる装飾画像となる印刷層11を形成し、さらに保護層12を形成する。
14:所定のカード形状に打ち抜き、アンテナ,ICモジュールを組み込む,ホログラムなどのセキュリティ(真贋判別)要素を付加するなどの所望のオプション加工を施す。」
と、「カード」の「コア基材」を金属材料から形成することが記載されているのであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、本件訂正特許発明1及び2を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
そうすると、本件訂正特許発明1及び2は、取消理由3-1による特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさないとはいえないから、取消理由3-1により、本件特許請求の範囲の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
令和4年8月25日に提出された訂正請求により訂正された請求項3及び4に係る発明は削除されたことから、当該請求項3及び4に係る発明に対する取消理由3-1はその対象が消滅したから、当該請求項3及び4に係る発明に対する取消理由3-1は解消した。
(イ)取消理由3-2について
上記「イ(イ)」のとおり、本件訂正特許発明1には、上記「磁気ストライプテープによる磁気記録部が形成されてあっても、その存在を視覚的に認識させず」との本件特許が解決しようとする課題を解決する手段が反映されているといえる。
本件訂正特許発明1を引用する本件訂正特許発明2も同様に本件特許が解決しようとする課題を解決する手段が反映されているといえる。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、
「【0025】
本発明では、カードの「おもて面に配置される磁気ストライプ」を隠蔽して、メタリックで重厚感のある質感を演出する目的で、磁気ストライプテープ6を表側に視認させないための隠蔽層8を形成する。
【0026】
隠蔽層8の形成手法として、バインダー樹脂(塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体)にアルミ粉末を分散してなるインキを用いたベタ印刷を熱可塑性樹脂層1(磁気ストライプテープ6)上に施す。
【0027】
さらに、隠蔽層8上に金属蒸着層を有する転写層(メタルフェイス箔)10を転写形成する。金属蒸着層としてはスズ蒸着層がメタリック感を持たせる上で好適に採用されるが、スズに限定されるものではない。本発明においては、カードをリーダライタに通して磁気ストライプテープ6の読み取りを行なった上で使用する用途も考慮して、磁気ストライプテープ6上を覆う導体が読み取り精度の低下や読み取りエラーに悪影響を及ぼさない様にするため、転写層(メタルフェイス箔)10がその全面に渡って良好に電気的導通しない程度に金属蒸着層を断続的に形成することが望ましい。例えば、海島状にするなど局所的な断線による非導通箇所が設けられた、一見して全面ベタ状の金属蒸着層とする手法である。海島状とした場合、金属蒸着層の付着率(100-開口率[%])が低すぎると、転写層(メタルフェイス箔)10単体の効果によるメタリック感は低下するが、下層の隠蔽層8,コア基材20の金属層が透過して見えることによるテクスチャー効果の発現にも期待される。」
「【0044】
<カード>
11:コア基材20の表裏におもて側外装シート30,うら側外装シート40を、それぞれの外装シートの磁気ストライプテープ6,7を形成していない側でコア基材と面する様に配置して接合させて貼り合わせる。おもて側外装シート30の隠蔽層8が形成された表面に金属蒸着層を有する転写層(メタルフェイス箔)10を配置する。
12:貼り合わせたコア基材,外装シートを熱ラミネートして積層一体化する。この際、転写層(メタルフェイス箔)10も隠蔽層8上に感熱転写形成される。
13:転写層(メタルフェイス箔)10上に、カードのおもて面に形成される文字,絵柄,ロゴなどによる装飾画像となる印刷層11を形成し、さらに保護層12を形成する。
14:所定のカード形状に打ち抜き、アンテナ,ICモジュールを組み込む,ホログラムなどのセキュリティ(真贋判別)要素を付加するなどの所望のオプション加工を施す。」
と、「隠蔽層」の「上層」に「金属蒸着層を有する転写層」を全面に形成することが記載されているのであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、本件訂正特許発明1及び2を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
そうすると、本件訂正特許発明1及び2は、取消理由3-2による特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさないとはいえないから、取消理由3-2により、本件特許請求の範囲の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
令和4年8月25日に提出された訂正請求により訂正された請求項3及び4に係る発明は削除されたことから、当該請求項3及び4に係る発明に対する取消理由3-2はその対象が消滅したから、当該請求項3及び4に係る発明に対する取消理由3-2は解消した。
(ウ)本件訂正特許発明4について(以下「取消理由3-3」という。)
令和4年8月25日に提出された訂正請求により訂正された請求項4に係る発明は削除されたことから、当該請求項4に係る発明に対する取消理由3-3はその対象が消滅したから、当該請求項4に係る発明に対する取消理由3-3は解消した。
5 取消理由通知で採用しなかった申立理由について
(1)申立理由の概要
(進歩性)
請求項1乃至4に係る特許は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証乃至甲第11号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1乃至4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)各甲号証
ア 甲第1号証
(ア)甲第1号証に記載した事項
本願の出願日前の平成9年4月15日に頒布された特開平9-99678号公報(以下「甲第1号証」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、比較的過酷な環境条件のもとで使用できる耐熱性に優れた、磁気ストライプ付きの、ICカード、キャッシュカード、クレジットカード等のようなプラスチックカードに関する。」
「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の磁気ストライプ付き耐熱カードは、単層又は多層構造からなるカードコアの両面に、接着剤層を介してオーバーシートを積層したプラスチックカードであって、少なくとも一方の前記オーバーシートの表面側には磁気ストライプが形成されており、カードコア及びオーバーシートが耐熱性プラスチックにより形成され、且つ接着剤層が、該耐熱性プラスチックよりも低い軟化点を有する熱可塑性樹脂と、熱硬化剤とを有する熱硬化性接着剤により形成されてなり、オーバーシートの磁気ストライプ部分の表面が略平滑である構成とする。」
「【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明の磁気ストライプ付き耐熱カード及びその製造方法の実施の形態を図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の磁気ストライプ付き耐熱カードの一実施例であるICカード1の斜視図であり、また図2は図1のA-A線での磁気ストライプ部分及びICモジュール埋設部の要部断面図である。図1及び図2に示すICカード1は、耐熱性プラスチックからなるカードコア4に透明な接着剤層3を介して、磁気ストライプ5が転写形成された耐熱性プラスチックからなる透明なオーバーシート2が、積層されている。なお、図示はしないが、カードコア4の裏面側も透明な接着剤層3を介して耐熱性プラスチックからなる透明なオーバーシートが積層されており、カードコアの表面には印刷絵柄が形成されている。カードコア4は、単層構造の場合は、耐熱性プラスチックからなるコアシートで構成し、多層構造の場合は、耐熱性プラスチックからなる2枚の白色のコアシートを、白色の接着剤層を介して積層したもの等を使用する。そして、上記各接着剤層は、上記各耐熱性プラスチックよりも低い軟化点を有する熱可塑性樹脂と、熱硬化剤とを有する熱硬化性接着剤により形成する。
【0011】本発明でコアシート及びオーバーシートに用いる耐熱性プラスチックは、例えば、熱変形温度が100℃以上である、ポリカーボネート、ポリアリレート、及び、ポリカーボネートとABS(アクリロニトリルーブタジエンースチレン共重合体)、ポリカーボネートとPET(ポリエチレンテレフタレート)等のポリマーアロイ、或いは、ABSやPET等にガラス繊維を充填したもの等が挙げられる。なかでも、ポリカーボネートは、耐折強度、耐衝撃強度、耐熱性、透明性に優れる点で好ましい材料の一つである。なお、本発明では、必要に応じてコアシート及びオーバーシートを別種の耐熱性プラスチックとしても良い。
【0012】接着剤層3としては、オーバーシート及びコアシートに用いる耐熱性プラスチックの軟化点よりも低い軟化点を有する熱可塑性樹脂と、熱硬化剤とを有する熱硬化性接着剤を用いる。かかる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂等の単独重合体又は共重合体が挙げられる。また、熱可塑性樹脂の軟化点は110~150℃の範囲が好ましい。110℃未満であると、比較的過酷な条件下にカードが放置されたうえ、何らかの外力が加わった場合に接着面でのずれ、剥離が生ずるという心配があり、150℃を越えると目的とする熱平プレス温度条件範囲内では、樹脂が十分軟化せず、硬化反応も進まないことから、接着力が発現しないこととなり好ましくない。熱硬化剤としては、用いる熱可塑性樹脂の反応基によって、イソシアネート類、エポキシ樹脂、ポリアミン等のアミン系化合物或いはこれらの変性物を使い分ける。例えば、熱可塑性樹脂のポリエステル樹脂にエポキシ樹脂の熱硬化剤、熱可塑性樹脂の共重合ポリエステル樹脂にイソシアネートの熱硬化剤、熱可塑性樹脂のエポキシ樹脂に芳香族ポリアミンの硬化剤等といった具合にである。
【0013】以上のような特定の熱可塑性樹脂と熱硬化剤を用いる熱硬化性の接着剤の適用形態としては、これらを溶剤に溶解した溶液を、或いはフィルム状に加工したものを使用する。そして、接着剤層3として、上記熱硬化性接着剤の熱硬化物を用いることで、加工時間の短縮と初期接着力の向上、及び接着完了後の高温での接着力の保持性に優れ剥がれにくいカードが得られる。なお、ここでの熱可塑性樹脂の意味は、上述の説明にも有るように、エポキシ樹脂は一般には熱硬化剤と共に使用される熱硬化性樹脂でもあるが、熱硬化剤が共存しない状態で(或いは熱硬化させる前の状態で)熱可塑性を有する樹脂の意味である。
【0014】接着剤層3の厚みとしては、室温での剥離接着強度(T形剥離)に4kgf/cm以上を確保でき、しかも積層したカード基材にICモジュールの埋設加工を施す際に影響のないコアシートの(総)厚が確保でき、また、熱硬化後の収縮がカードの変形を誘因したり、表面状態に影響しない様にし、且つ磁気ストライプの厚みを吸収するに十分な厚みである、15~30μmの範囲が好ましい。」
「【0017】そして、図2の様な構成の磁気ストライプ付き耐熱カードを製造するには、図3に示す様に、コアシート4a,4b及びオーバーシート2a,2bに耐熱性プラスチックを用い、そして少なくとも一枚のオーバーシート(図面では2a)には磁気ストライプ5を転写形成しておき、そしてこれらコアシート及びオーバーシートを上記した特定の熱硬化性の接着剤(3a,3b,3c)を介して重ねて、ステンレス鏡面板49a及び49bで挟み、熱板48a及び48bによる熱平プレスで熱圧をかけて、積層接着させればよい。接着剤がフィルム状であれば、必要に応じてシートと仮止めするなどした上で重ね合わせて熱平プレスをする。熱平プレス条件は、従来公知の塩化ビニル樹脂製の磁気ストライプ付きプラスチックカードの製造条件と同様で良い。また、接着剤が液状であれば、例えば印刷絵柄を形成済みのコアシートにスクリーン印刷法や公知の塗工方法で接着剤を塗工し、このコアシートをオーバーシートと重ねて熱平プレスする。或いは、塗工面はオーバーシート側であっても良い。このように、接着剤が溶液の場合の塗工面は特に限定されない。また、塗工順も特に限定されない。そして、同図の様にICカードの場合には、このようにして得られたカード基材8に、さらにICモジュール埋設用の凹部を切削加工した後、該凹部にICモジュール6を埋め込み接着剤で固定する。」
「【0023】
【発明の効果】本発明の磁気ストライプ付き耐熱カードは、シート材料の優れた耐熱性と熱硬化性接着剤による接着剤層の耐熱性により、耐熱性、高温での寸法安定性に優れたカードが得られ、また外観的にも従来の塩化ビニル樹脂製のカードと何ら違和感がないカードが得られる。そして、例えば100℃以上の比較的過酷な環境下となる、例えば車載用途等のICカードとして使用できる。特に、特定の接着剤による接着剤層で耐熱性プラスチックのシートを積層しているために、耐熱性に優れる上に、磁気ストライプの表面部分に段差が無いので磁気データの信頼性も良い。
【0024】また、本発明の磁気ストライプ付き耐熱カードの製造方法によれば、上記ポリカーボネート等の耐熱性プラスチックで軟化・融着しにくいシートをオーバシートやカードコアに使用するにもかかわらず、磁気ストライプが形成されたオーバーシートとカードコアとの積層接着に、特定の軟化点を持った熱可塑性樹脂と熱硬化剤とを有する熱硬化性の接着剤を特定の厚みで使用することにより、オーバーシート表面上に磁気ストライプの段差が、接着剤層に吸収されるので、カード表面の磁気ストライプ部分を従来と同様に平滑にできる上、さらにオーバーシート及びカードコアを積層するために、特別な設備を必要とせず、従来と同じ通常の塩化ビニル樹脂製のプラスチックカードの製造に用いる積層装置及び製造条件でカードの製造ができ、しかも優れた耐熱性、磁気データの信頼性を持つプラスチックカードが得られる。」
「
[図:0001396280000001.jpg]
」
「
[図:0001396280000002.jpg]
」
「
[図:0001396280000003.jpg]
」
(イ)甲1発明
そうすると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が示されているものと認められる。
「(A)耐熱性プラスチックからなるカードコア4の両面に、接着剤層3を介してオーバーシート2を積層一体化してなるICカード1であって(【0007】、【0010】、【図2】)、
(B)少なくとも一方のオーバーシート2の表面側には、磁気ストライプ5が形成され(【0007】、【0010】、【図2】)、
(D)カードコア4及びオーバーシート2が、ポリカーボネートなどの耐熱性プラスチックにより形成され、且つ、接着剤層3が、耐熱性プラスチックよりも低い軟化点を有する熱軟化性樹脂と熱硬化剤とを有する熱硬化性接着剤により形成されてなり(【0007】、【0012】、【図2】)、
(E)接着剤層3は、オーバーシート2の表面側に形成された磁気ストライプ5の厚みの段差を吸収している(【0014】、【0024】、【図2】)
ICカード1。」
また、甲1には、次の各技術事項(それぞれ「甲1-1技術事項」及び「甲1-2技術事項」という。)が示されているものと認められる。
「接着剤層3の熱硬化剤は、加工時間の短縮と初期接着力の向上及び接着完了後の高温での接着力の保持性などのために用いられるものであること(【0013】)」
「磁気ストライプ5が形成されたオーバーシート2とカードコア4との間の接着剤層3を、オーバーシート2を形成する耐熱性プラスチックよりも低い軟化点を有する熱可塑性樹脂と熱硬化剤とを有する熱硬化性接着剤によって形成することによって、オーバーシート2の表面側に形成された磁気ストライプの厚みの段差を吸収すること(【0012】、【0014】、【0024】、【図2】)」
イ 甲第2号証
(ア)甲第2号証に記載した事項
本願の出願日前の平成9年10月8日に頒布された特許第2661101号公報(以下「甲第2号証」という。)には、次の事項が記載されている。
「〔産業上の利用分野〕
本発明は、ICチップを内蔵したカードの構造に関する。」(第2欄7~9行)
「〔課題を解決するための手段〕
本発明のICカードは、ICチップを内部に有するICカードにおいて、第1カード基材と、前記ICチップを一方の面にマウントし、かつ前記第1のカード基材を覆い、高剛性の金属基板から構成されている第2のカード基材と、を有することを特徴とする。この場合において、前記カード基材に実装された磁気記録体を有するICカードにおいて、前記金属基板は帯磁性の弱い金属により構成すればよい。また、前記第1カード基材を金属板から構成し、前記第2カード基材との積層体とすることができる。さらに、前記カード基材に実装された磁気記録体を有するICカードにおいて、前記第1カード基材は帯磁性の弱い金属とすることができる。」(第3欄24~37行)
「〔実施例〕
第1図は本発明の実施例における主要断面図であって、ICモジュール1は磁気記録体への影響を与えない帯磁性の弱い金属をコアとしたメタル基板5にICチップ2を接続し、封止樹脂3にて接続部及びICチップ2の封止及び保護を行ったものであり、このメタル基板5のICチップ2を実装した反対側の面にはスルーホールにより導通せしめた外部入出力端子が形成されている。又このメタル基板5はカード形状とほぼ同一の形状とし、やはり帯磁性の弱い金属を使用したカード基材4と接着剤10によりラミネートされ剛性の高い積層体とし、ICチップ2の配置部分への曲げ応力の集中を防ぎ、曲げに対して曲がりにくい構造としている。尚、ここでの接着剤には硬化タイプの接着剤を使用しさらに剛性を高めている。」(第3欄38行~第4欄9行)
「第4図は本発明の実施例2の主要断面図であり、第1図のカード基材4をICチップ2の封止樹脂3の厚さで分割し、2体の金属板として、接着剤10を2層に狭んだ3枚の金属板の積層体として、さらに剛性を高めた構造としている。
〔発明の効果〕
以上述べたように本発明によれば、メタル基板を使用し、基板サイズをカードサイズとすることにより、ICチップ配置部とその他の部分の剛性の差が少なく、曲げ応力の集中しにくいカードが得られ、又、カード基材にも金属板を用いてラミネートによる積層体とし、メタル基板自体がカード基材をかねるための金属板の厚さを厚くすることができ、より剛性の高い、曲げに対して曲がりにくいカードを得ることができ、金属板には帯磁性の弱い金属を使用しているため磁気記録体との併用も可能であるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明のICカード構造の一実施例を示す主要断面図。
第2図は従来のICカード構造を示す主要断面図。
第3図はICカードの平面図。
第4図は本発明の実施例2の主要断面図。
1……ICモジュール
2……ICチップ
3……封止樹脂
4……カード基材
5……メタル基板
6……磁気記録体
7……絵柄
8……オーバーコート
9……オーバーシート
10……接着剤」(第4欄10~41行)
「
[図:0001396280000004.jpg]
」
「
[図:0001396280000005.jpg]
」
「
[図:0001396280000006.jpg]
」
(イ)甲2発明
そうすると、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が示されているものと認められる。
「(A)金属をコアとしたカード基材4と金属を用いたメタル基板5との積層体の表裏にオーバーコート8が積層されたICカードであって(第3欄24~第4欄25行、第1図、第4図)、
(B)表裏のオーバーコート8は、その一方が層内に磁気記録体6を含んでいる(第3欄24~37行、第1図、第4図)
ICカード。」
(3)当審の判断
ア 本件訂正特許発明1について
(ア)甲1発明を主引用発明とした判断について
a 対比
そこで、本件訂正特許発明1と甲1発明とを対比する。
(a)構成要件Aについて
甲1発明の「ICカード1」、「カードコア4」、「オーバーシート2」「磁気ストライプ5」及び「接着剤層3」は、それぞれ、本件訂正特許発明1の「カード」、「コア基材」、「外装シート」、「磁気ストライプテープ」及び「コア基材の最外面に形成された層」に相当する。
このことから、甲1発明のICカード1 は、耐熱性プラスチックからなるコア基材の表裏に外装シートを積層一体化してなるカードであるといえる。
(b)構成要件Bについて
甲1発明の「磁気ストライプ5」は、本件訂正特許発明1の「磁気ストライプテープ」に相当する。また、甲1発明のICカード1は、少なくとも一方のオーバーシート2の表面側に磁気ストライプ5が形成されたものであることから、カードコア4の両面に積層されたオーバーシート2の少なくとも一方が層内に磁気ストライプ5を含んでいるといえる。
つまり、甲1発明のICカード1において、積層構成である表裏の外装シートは、少なくともその一方が層内に磁気ストライプテープを含んでいるといえる。
(c)構成要件Dについて
甲1発明のICカード1では、カードコア4及びオーバーシート2が、ポリカーボネートなどの耐熱性プラスチックにより形成され、且つ、接着剤層3が、耐熱性プラスチックよりも低い軟化点を有する熱軟化性樹脂と熱硬化剤とを有する熱硬化性接着剤により形成されている。そして、甲1発明のオーバーシート2を形成するポリカーボネートなどの耐熱性プラスチックは、オーバーシート2(外装シート)のカードコア4(コア基材)側に形成された熱可塑性樹脂材料に相当する。
また、甲1発明の接着剤層3は、カードコア4(コア基材)の最外面に形成された熱可塑性樹脂材料を含有する点で本件訂正特許発明1の「熱可塑性樹脂材料からなる層」と、共通する。
以上のことから、本件訂正特許発明1と甲1発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
「A コア基材の表裏に外装シートを積層一体化してなるカードであって、
B 積層構成である外装シートは、(少なくともその一方が)層内に磁気ストライプテープを含んでおり、
D コア基材の最外面には、外装シートのコア基材側に形成される熱可塑性樹脂材料よりも軟化温度が低い熱可塑性樹脂材料を含有する層が形成された構成であるカード。」
<相違点1-1>
本件訂正特許発明1は、コア基材が金属材料からなるのに対し、甲1発明は、コア基材が耐熱性プラスチックからなる点。
<相違点1-2>
本件訂正特許発明1は、表裏の外装シートが、共に層内に磁気ストライプテープを含んでいるのに対し、甲1発明は、表裏の外装シートの少なくとも一方が層内に磁気ストライプテープを含むことを特定するのみである点。
<相違点1-3>
本件訂正特許発明1は、表側外装シートの磁気ストライプテープが、その上層に金属が含まれる隠蔽層が部分的に形成され、目視により視覚出来ないようされているのに対し、甲1発明は、そのような特定がなされていない点。
<相違点1-4>
本件訂正特許発明1は、コア基材の最外面には、外装シートのコア基材側に形成される熱可塑性樹脂材料よりも軟化温度が低い「熱可塑性樹脂材料」からなる層が形成されているのに対し、甲1発明は、「熱可塑性樹脂と熱硬化剤とを有する熱硬化性接着剤」から形成されている点。
b 判断
上記各相違点について、以下、検討する。
(a)<相違点1-1>について
コア基材に磁気ストライプテープを含む外装シートを積層してなるICカードにおいて、耐熱性などを向上させるために、金属材料からなるコア基材を用いることは周知の技術手段(以下、「周知技術1」という。)であるといえる。
例えば、上記(2)イ(イ)のとおり、甲第2号証(特許第2661101号公報)には、「金属をコアとしたカード基材4と金属を用いたメタル基板5との積層体の表裏にオーバーコート8が積層されたICカードであって、表裏のオーバーコート8は、その一方が層内に磁気記録体6を含んでいるICカード。」(甲2発明)が記載されている(第3欄24~第4欄25行、第1図、第4図)。
ここで、甲2発明の「金属をコアとしたカード基材4と金属を用いたメタル基板5との積層体」、「オーバーコート8」及び「磁気記録体6」は、それぞれ、本件訂正特許発明1の「コア基材」、「外装シート」及び「磁気ストライプテープ」に相当する。
また、甲第3号証(特開昭60-193134号公報)には、「高温度下での使用に耐え大きな曲げ応力にも耐えうるような金属板使用磁気カードであって、金属板基体10と、金属板基体10の表面に設けられた樹脂膜12と、樹脂膜12の表面に設けられた磁気ストライプ13と、を備えた金属板使用磁気カード。」(以下、「甲3技術事項」という。)が記載されている(3頁右上欄9行~左下欄18行、4頁左下欄7行~右下欄2行、第4図)。
ここで、甲3技術事項の「金属板基体10」、「樹脂膜12」及び「磁気ストライプ13」は、それぞれ、本件訂正特許発明1の「コア基材」、「外装シート」及び「磁気ストライプテープ」に相当する。
また、甲第4号証(特開平10-35164号公報)には、「カード基板21とカード基板21の両面にそれぞれ積層されているオーバシート層22及びアンダシート層23とを有するICカードにおいて、ICカードの熱的、電気的及び機械的な安定性を改善するために、カード基板21としてメタルコアプレートを用いたICカード。」(以下、「甲4技術事項」という。)が記載されている(【0017】、【0017】-【0021】、【図2】)。
ここで、甲4技術事項の「カード基板21」及び「オーバシート層22及びアンダシート層23」は、それぞれ、本件訂正特許発明1の「コア基材」及び「外装シート」に相当する。
また、甲第5号証(特開平1-218893号公報)には、「磁気ストライプを備えた多機能ICカードであって、外形枠3の両面部に1対のステンレス製の外板1、2が溶接により接合されて金属製カード基体が形成され、外板1の表面部に、合成樹脂層となる合成樹脂フィルム4を介して磁気ストライプ5が形成された多機能ICカード。」(以下、「甲5技術事項」という。)が記載されている(2頁右上欄16行~左下欄1行、第1図、第2図)。
ここで、甲5技術事項の「金属製カード基体」、「合成樹脂フィルム4」及び「磁気ストライプ5」は、それぞれ、本件訂正特許発明1の「コア基材」、「外装シート」及び「磁気ストライプテープ」に相当する。
以上のとおり、ICカードにおいて、耐熱性などを向上させるために、コア基材として金属材料からなるものを用いることは、周知の技術手段(「周知技術1」)である。
そして、甲1発明は、耐熱性の向上のために、コア基材として耐熱性プラスチックを用いるものであることから、耐熱性などを向上させるための技術である上記周知技術1を適用する動機付けが存在する。
そうすると、甲1発明のICカード1に上記周知技術1を適用して、その耐熱性プラスチックからなるカードコア4(コア基材)を金属材料からなるものに変更することは、当業者にとって容易想到である。
(b)<相違点1-2>について
コア基材の表裏に外装シートを積層してなるカードにおいて、表裏の外装シートが共に層内に磁気ストライプテープを含んでいるものとすることは、JIS規格(本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0002】参照。)にも規定されているように周知の技術手段(以下、「周知技術2」という。)であるといえる。
また、甲第6号証(特開2012-45720号公報)には、「コアシート2の両面にオーバーコート基材4が配置された磁気カード1において、両面に配置されたオーバーコート基材4が共に磁気ストライプ3を含む磁気カード1。」(以下、「甲6-1技術事項」という。)が記載されている(【0023】-【0024】、【図1】)。
ここで、甲6-1技術事項の「コアシート2」、「オーバーコート基材4」及び「磁気ストライプ3」は、それぞれ、本件訂正特許発明1の「コア基材」、「外装シート」及び「磁気ストライプテープ」に相当する。
また、甲第7号証(特開2008-200895号公報)には、「コアシート11,12の両面に透明オーバーシート13,14が配置された光輝性カード1において、透明オーバーシート13,14が、転写された磁気テープ5,6を備える光輝性カード1。」(以下、「甲7-1技術事項」という。)が記載されている(【0014】、【図1】)。
ここで、甲7-1技術事項の「コアシート11,12」、「透明オーバーシート13,14」及び「磁気テープ5,6」は、それぞれ、本件訂正特許発明1の「コア基材」、「外装シート」及び「磁気ストライプテープ」に相当する。
また、甲第8号証(特開2014-69323号公報)には、「コアシート11,12の両面に透明オーバーシート13,14が配置された磁気隠蔽カード10において、透明オーバーシート13,14の外面に磁気テープ15,16が転写された磁気隠蔽カード10。」(以下、「甲8技術事項」という。)が記載されている(【0012】、【図1】)。
ここで、甲8技術事項の「コアシート11,12」、「透明オーバーシート13,14」及び「磁気テープ15,16」は、それぞれ、本件訂正特許発明1の「コア基材」、「外装シート」及び「磁気ストライプテープ」に相当する。
また、甲第9号証(特開2013-252652号公報)には、「コア基材(4)と外装基材(5a)、(5b)と磁気テープ(6)を備えたカード基材(2)において、外装基材(5a)、(5b)の磁気テープ(6)が加熱圧着されたカード基材(2)。」(以下、「甲9-1技術事項」という。)が記載されている(【0016】、【0022】、【図1】)。
ここで、甲9-1技術事項の「コア基材(4)」、「外装基材(5a)、(5b)」及び「磁気テープ(6)」は、それぞれ、本件訂正特許発明1の「コア基材」、「外装シート」及び「磁気ストライプテープ」に相当する。
以上のとおり、コア基材の表裏に外装シートを積層してなるカードにおいて、表裏の外装シートが共に層内に磁気ストライプテープを含んでいるものとすることは、JIS規格であるとともに、周知の技術手段(「周知技術2」)である。
そして、甲1発明のICカード1も、使用に際しては、当然、JIS規格に適合したものとするのであるから、上述の周知技術2を適用する動機付けが存在するといえる。
そうすると、甲1発明のICカード1に上記周知技術2を適用して、カードコア4の両面に積層されたオーバーシート2が共に磁気ストライプ5を含んでいるものとすることは、当業者にとって容易想到である。
(c)<相違点1-3>について
表側に磁気ストライプテープを有するカードにおいて、意匠性の観点から、磁気ストライプテープの上層に金属が含まれる隠蔽層を形成して、磁気ストライプテープを目視により視覚出来ない様にすることは周知の技術手段(以下、「周知技術3」という。)であるといえる。
例えば、甲第7号証(特開2008-200895号公報)には、「光輝性カード1において、透明オーバーシート13及び磁気テープ5面に、磁気テープ5が本来的に有している黒又は茶系色の色を隠蔽するために、金属アルミ粉末の入った印刷インキを用いたシルクスクリーン印刷による隠蔽銀印刷層4を施した光輝性カード1。」(以下、「甲7-2技術事項」という。)が記載されている(【0015】、【図1】)。
ここで、甲7-2技術事項の「磁気テープ5」及び「隠蔽銀印刷層4」は、それぞれ、本件訂正特許発明1の「磁気ストライプテープ」及び「隠蔽層」に相当する。
また、甲第9号証(特開2013-252652号公報)には、「表面に、磁気テープ(6)を隠蔽するために、アルミニウム、鉄、錫等の金属材料を含む顔料のインキを用いて形成された隠蔽層(10)を設けたカード基材(2)。」(以下、「甲9-2技術事項」という。)が記載されている(【0022】、【図1】)。
ここで、甲9-2技術事項の「磁気テープ(6)」及び「隠敵層(10)」は、それぞれ、本件訂正特許発明1の「磁気ストライプテープ」及び「隠蔽層」に相当する。
また、甲第10号証(特開2015-98150号公報)には、「磁気カード1において、磁気テープ3上に、磁気テープ3を隠蔽するために、アルミニウム粉末を樹脂コーティングしたインキで形成された隠蔽層4を積層した磁気カード1。」(以下、「甲10技術事項」という。)が記載されている(【0026】、【0033】、【図1】)。
ここで、甲10技術事項の「磁気テープ3」及び「隠蔽層(10)」は、それぞれ、本件訂正特許発明1の「磁気ストライプテープ」及び「隠蔽層」に相当する。
また、甲第6号証(特開2012-45720号公報)には、「磁気カード1において、オーバーコート基材4の磁気ストライプ3が配置された面をスクリーン印刷することにより磁気テープを隠蔽した磁気カード1。」(以下、「甲6-2技術事項」という。)することが記載されている(【0046】)。
ここで、甲6-2技術事項の「磁気ストライプ3」は、本件訂正特許発明1の「磁気ストライプテープ」に相当する。
以上のとおり、表側に磁気ストライプテープを有するカードにおいて、意匠性の観点から、磁気ストライプテープの上層に金属が含まれる隠蔽層を形成して、磁気ストライプテープを目視により視覚出来ない様にすることは、周知の技術手段(「周知技術3」)である。
そこで、甲1発明について見ると、甲1発明の磁気ストライプ5は、オーバーシート2の表面側に形成されているところ、当該磁気ストライプ5を目視により視覚出来ない様にすることは記載も示唆もされていないし、目視により視覚出来ない様にする動機付けもない。
このことは、磁気ストライプ5は、オーバーシート2の表面側に形成されていることから裏付けられる。
そうすると、甲1発明に上記周知技術3を適用する動機付けは見いだせないのであるから、上記相違点1-3に係る本件訂正特許発明1の発明特定事項は、甲1発明及び上記周知技術3から容易に構成できるものとはいえない。
(d)<相違点1-4>について
甲1発明の「熱硬化性接着剤」は、熱可塑性樹脂と熱硬化剤とを有するところ、当該「熱硬化性接着剤」の接着機能を損なわない限度において、熱硬化剤を熱可塑性樹脂に代替させることは、当業者であれば、適宜なし得るものである。
c 小括
以上のとおり、本件訂正特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術1乃至3から、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(イ)甲2発明を主引用発明とした判断について
a 対比
そこで、本件訂正特許発明1と甲1発明とを対比する。
(a)構成要件Aについて
甲2発明の「ICカード」、「金属をコアとしたカード基材4と金属を用いたメタル基板5との積層体」(以下、「積層体4、5」という。)及び「オーバーコート8」は、それぞれ、本件訂正特許発明1の「カード」、「コア基材」及び「外装シート」に相当する。
そして、甲2発明の積層体4、5を構成するカード基材4及びメタル基板5は、ともに金属材料からなる。
このことから、甲2発明のICカードは、金属材料からなるコア基材の表裏に外装シートを積層一体化してなるカードであるといえる。
(b)構成要件Bについて
甲2発明の「磁気記録体6」は、本件訂正特許発明1の「磁気ストライプテープ」に相当する。
このことから、甲2発明のICカードは、積層構成である表裏の外装シートは、その一方が、層内に磁気ストライプテープを含んでいるといえる。
以上のことから、本件訂正特許発明1と甲2発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
「A コア基材の表裏に外装シートを積層一体化してなるカードであって、
B 積層構成である外装シートは、(少なくともその一方が)層内に磁気ストライプテープを含んでいるカード。」
<相違点2-1>
本件訂正特許発明1は、表裏の外装シートが、共に層内に磁気ストライプテープを含んでいるのに対し、甲2発明は、表裏の外装シートの一方が層内に磁気ストライプテープを含むことを特定するのみである点。
<相違点2-2>
本件訂正特許発明1は、表側外装シートの磁気ストライプテープが、その上層に金属が含まれる隠蔽層が部分的に形成され、目視により視覚出来ない様にされているのに対し、甲2発明は、そのような特定がなされていない点。
<相違点2-3>
本件訂正特許発明1は、コア基材の最外面には、外装シートのコア基材側に形成される熱可塑性樹脂材料よりも軟化温度が低い熱可塑性樹脂材料からなる層が形成された構成であるのに対し、甲2発明は、そのような特定がなされていない点。
b 判断
上記各相違点について、以下、検討する。
(a)<相違点2-1>について
上記ア(ア)b(b)のとおり、コア基材の表裏に外装シートを積層してなるカードにおいて、表裏の外装シートが共に層内に磁気ストライプテープを含んでいるものとすることは、JIS規格(本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0002】参照。)にも規定されているように周知の技術手段(以下、「周知技術2」という。)であるといえる。
そして、甲2発明のICカードも、使用に際しては、当然、JIS規格に適合したものとするのであるから、上述の周知技術2を適用する動機付けが存在するといえる。
そうすると、甲2発明のICカードに上記周知技術2を適用して、表裏のオーバーコート8が共に磁気記録体6を含んでいるものとすることは、当業者にとって容易想到である。
(b)<相違点2-2>について
上記ア(ア)b(c)のとおり、表側に磁気ストライプテープを有するカードにおいて、意匠性の観点から、磁気ストライプテープの上層に金属が含まれる隠蔽層を形成して、磁気ストライプテープを目視により視覚出来ない様にすることは周知の技術手段(以下、「周知技術3」という。)であるといえる。
そこで、甲2発明について見ると、甲2発明の磁気記録体6は、オーバーコート8の表面側に形成されているところ、当該磁気記録体6を目視により視覚出来ない様にすることは記載も示唆もされていないし、目視により視覚出来ない様にする動機付けもない。
このことは、磁気記録体6は、オーバーコート8の表面側に形成されていることから裏付けられる。
そうすると、甲2発明に上記周知技術3を適用する動機付けは見いだせないのであるから、上記相違点2-2に係る本件訂正特許発明1の発明特定事項は、甲2発明及び上記周知技術3から容易に構成できるものとはいえない。
(c)<相違点2-3>について
上記ア(ア)a(c)のとおり、甲1発明の接着剤層3は、カードコア4(コア基材)の最外面に形成された熱可塑性樹脂材料を含有する点で本件訂正特許発明1の「熱可塑性樹脂材料からなる層」と共通する。
しかし、甲1発明の「接着剤層3」の「熱硬化性接着剤」は、熱可塑性樹脂と熱硬化剤とを有するところからすると、甲2発明において甲1発明の「接着剤層3」を適用し、その上で、「接着剤層3」の「熱硬化性接着剤」を熱可塑性樹脂のみとしなければならず、所謂、容易の容易の論理構成となってしまう。
よって、上記相違点2-3に係る本件訂正特許発明1の発明特定事項は、甲2発明及び甲1発明から容易に構成できるものとはいえない。
c 小括
以上のとおり、本件訂正特許発明1は、甲第2号証に記載された発明、並びに周知技術2及び3から、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
イ 本件訂正特許発明2について
本件訂正特許発明2は、本件訂正特許発明1を引用し、さらに、限定を付加したものであるから、上記アの検討のとおり、甲第1号証に記載された発明から、当業者が容易に発明できたものとも、甲第2号証に記載された発明から、当業者が容易に発明できたものともいえない。
ウ そうすると、本件訂正特許発明1及び2は、特許法第29条第2項に該当するものではないから、申立理由により、本件特許請求の範囲の請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項3及び4は、本件訂正請求により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議申立てについて、請求項3及び4に係る申立ては、申立ての対象が存在しなくなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-700443