特許異議申立
2022-700399
ポリウレタン接着剤組成物、及びこれを用いて製作される中空糸膜モジュール
- 審判番号
- 2022-700399
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-176607
- 登録番号
- 6965069
- 請求日
- 2022年05月06日
- 審決日
- 2023年09月07日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社
- 【権利者代理人】古谷 聡
- 【権利者代理人】義経 和昌
- 【異議申立人】松永 健太郎
- 審判長/審判官
- 審判長 関根 裕
- 審判官 門前 浩一
- 審判官 塩見 篤史
- 分類
- P1652.113-YAA(C09J) / P1652.121-YAA(C09J) / P1652.536-YAA(C09J) / P1652.537-YAA(C09J) / P1652.852-YAA(C09J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特許第6965069号発明「ポリウレタン接着剤組成物、及びこれを用いて製作される中空糸膜モジュール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6965069号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
特許第6965069号の請求項1、4ないし7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許(特許第6965069号)に係る出願は、平成29年9月14日の出願であって、令和3年10月22日に特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年11月10日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1、4~7に係る特許に対し、令和4年5月6日に特許異議申立人である松永健太郎により特許異議の申立てがされ、当審は、同年8月3日付けで取消理由を通知した(発送は同年同月9日)。この取消理由通知に対し、特許権者は、その指定期間内である同年10月6日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。当審は、同年10月25日付けで訂正拒絶理由を通知した(発送は同年同月28日)。この訂正拒絶理由通知に対し、特許権者は、その指定期間内に意見書を提出しなかった。
その後、当審は、令和4年12月21日付けで取消理由(決定の予告)を通知した(発送は同年同月26日)。この取消理由通知に対し、特許権者は、その指定期間内である令和5年2月22日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。当審は、同年3月8日付けで特許異議申立人に訂正請求があった旨を通知した(発送は同年同月14日)。この通知に対し、特許異議申立人は、その指定期間内に意見書を提出しなかった。
なお、令和4年10月6日になされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
令和5年2月22日にされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」ともいう。)の請求の趣旨は、「特許第6965069号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを認める、との審決を求める。」というものである。なお、請求の趣旨中の「・・・訂正することを認める、との審決を求める。」は、「・・・訂正することを求める。」の誤記であると解される。
2 本件訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」ともいう。)の内容は、特許請求の範囲の訂正に係る以下の訂正事項1~6、及び、明細書の訂正に係る以下の訂正事項7~13からなるものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「(B1)2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数8以上のポリオール化合物」を請求項2に記載の(B1)成分である「2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数8~22の脂肪族ポリオール化合物、及び2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数12~22の脂肪酸とジアミン化合物との縮合反応物から選択される1種以上であるもの」に限定する訂正をする。(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3~7も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の「1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)に対する、1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)の比(Te/Tu)が0.9未満」を「1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)に対する1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)の比(Tu/Te)が0.9未満」に訂正する。(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3~7も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(4)訂正事項4
訂正事項3によって請求項2が削除されることにともない、特許請求の範囲の請求項3の「・・・請求項1又は2に記載のポリウレタン接着剤組成物。」を「・・・請求項1に記載のポリウレタン接着剤組成物。」に訂正する。
(5)訂正事項5
訂正事項3によって請求項2が削除されることにともない、特許請求の範囲の請求項4の「・・・請求項1~3の何れか1項に記載のポリウレタン接着剤組成物の硬化物で一体化されている中空糸膜モジュール。」を「・・・請求項1又は3に記載のポリウレタン接着剤組成物の硬化物で一体化されている中空糸膜モジュール。」に訂正する。
(6)訂正事項6
訂正事項3によって請求項2が削除されることにともない、特許請求の範囲の請求項7の「・・・請求項1~3の何れか1項に記載のポリウレタン接着剤組成物を使用して、接着して一体化する、中空糸膜モジュールの製造方法。」を「・・・請求項1又は3に記載のポリウレタン接着剤組成物を使用して、接着して一体化する、中空糸膜モジュールの製造方法。」に訂正する。
(7)訂正事項7
願書に添付した明細書の段落番号【0008】に記載された「(A)芳香族ポリイソシアネートのウレトンイミン変性体、及びカルボジイミド変性体から選ばれる1種以上(以下、(A)成分という)、及び(B)硬化剤(以下、(B)成分という)を含むポリウレタン接着剤組成物であって、
(B)成分中、(B1)2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数8以上のポリオール化合物(以下、(B1)成分という)を50質量%以上含有し、
(A)成分と(B)成分との反応によって得られるポリウレタン接着剤硬化物の顕微フーリエ変換型赤外分光光度計(顕微FT-IR)測定において、1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)に対する、1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)の比(Te/Tu)が0.9未満である、ポリウレタン接着剤組成物。」を
「本発明は、(A)芳香族ポリイソシアネートのウレトンイミン変性体、及びカルボジイミド変性体から選ばれる1種以上(以下、(A)成分という)、及び(B)硬化剤(以下、(B)成分という)を含むポリウレタン接着剤組成物であって、
(B)成分中、(B1)2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数8~22の脂肪族ポリオール化合物、及び2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数12~22の脂肪酸とジアミン化合物との縮合反応物から選択される1種以上であるもの(以下、(B1)成分という)を50質量%以上含有し、
(A)成分と(B)成分との反応によって得られるポリウレタン接着剤硬化物の顕微フーリエ変換型赤外分光光度計(顕微FT-IR)測定において、1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)に対する1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)の比(Tu/Te)が0.9未満である、ポリウレタン接着剤組成物に関する。」に訂正する。
(8)訂正事項8
願書に添付した明細書の【0027】中の「本発明のポリウレタン接着剤組成物を反応により硬化して得られるポリウレタン接着剤硬化物において、前記ウレタン基の吸収ピークの透過率(Tu)に対するエステル基の吸収ピークの透過率(Te)の比(Te/Tu)が0.9未満であり、好ましくは0.8未満、より好ましくは0.7未満である。」を「本発明のポリウレタン接着剤組成物を反応により硬化して得られるポリウレタン接着剤硬化物において、前記エステル基の吸収ピークの透過率(Te)に対する前記ウレタン基の吸収ピークの透過率(Tu)の比(Tu/Te)が0.9未満であり、好ましくは0.8未満、より好ましくは0.7未満である。」に訂正する。
(9)訂正事項9
願書に添付した明細書の【0027】中の「また1720~1730cm-1のエステル基に由来する吸収ピークが確認できない場合、そのポリウレタン接着剤組成物中のエステル基を有する化合物の含有量が少ないことを示しているため、Te/Tuが本発明の範囲内であると見なすことができる。」を「また1720~1730cm-1のエステル基に由来する吸収ピークが確認できない場合、そのポリウレタン接着剤組成物中のエステル基を有する化合物の含有量が少ないことを示しているため、Tu/Teが本発明の範囲内であると見なすことができる。」に訂正する。
(10)訂正事項10
願書に添付した明細書の【0029】中の「室温化」を「室温下」に訂正する。
(11)訂正事項11
願書に添付した明細書の【0034】中の「ポリシリコン」を「ポリシリコーン」に訂正する。
(12)訂正事項12
願書に添付した明細書の【0035】中の「ポリシリコン」を「ポリシリコーン」に訂正する
(13)訂正事項13
願書に添付した明細書の【0039】の「結果、実施例1の円柱状接着硬化物のFT-IRスペクトルで、エステル基に由来する1720~1730cm-1の吸収ピークは確認できなかった。これは、ポリウレタン接着剤硬化物中のエステル基を有する化合物の含有量が少ないことを示しており、Te/Tuが本発明の範囲内であると見なすことができる。」を「結果、実施例1の円柱状接着硬化物のFT-IRスペクトルで、エステル基に由来する1720~1730cm-1の吸収ピークは確認できなかった。これは、ポリウレタン接着剤硬化物中のエステル基を有する化合物の含有量が少ないことを示しており、Tu/Teが本発明の範囲内であると見なすことができる。」に訂正する。
3 訂正の適否
(1)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~7について、請求項2~7はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1、2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであって、本件訂正は、全ての請求項である請求項1~7について請求されているから、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求されたものである。
また、明細書を訂正する訂正事項7~13は、一群の請求項である請求項1~7に関係するものとされている。
(2)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1の「(B1)2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数8以上のポリオール化合物」を、「2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数8~22の脂肪族ポリオール化合物、及び2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数12~22の脂肪酸とジアミン化合物との縮合反応物から選択される1種以上であるもの」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことが明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
また、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」ともいう。)の段落【0015】に「(B1)成分は、加水分解への耐久性の観点から、2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数8~22の脂肪族ポリオール化合物、及び2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数12~22の脂肪酸と多官能アミン化合物の縮合反応物から選択される1種以上が好ましい。」と記載されているから、訂正事項1は、本件特許明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(3)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
(ア) 特許権者は、訂正請求書の6頁の7(3)イ(イ)aの項において、本件訂正前の請求項1にいう「1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)に対する、1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)の比(Te/Tu)が0.9未満」は、「1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)に対する1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)の比(Tu/Te)が0.9未満」の誤記である旨主張する。
そこで、訂正事項2が誤記の訂正を目的とするものといえるかについて、まず検討する。
(イ) 本件特許明細書の段落【0012】の「またポリウレタン接着剤組成物中のエステル基(-C(=O)-O-)を有する化合物の含有量が少ないため、これを用いて製作された中空糸膜モジュールの接着硬化部の加水分解への耐久性が優れており、中空糸膜モジュール接着部のシール性を保持できるため、蒸気滅菌や熱水殺菌洗浄を長期間にわたり繰返し実施する、エンドトキシン捕捉フィルター(ETRF)などの医療用中空糸膜モジュール用として好適である。」、段落【0014】の「(B1)成分は、加水分解への耐久性の観点から、エステル基(-C(=O)-O-)を有せず、且つ2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数8以上のポリオール化合物が好ましい。」、段落【0023】の「本発明のポリウレタン接着剤組成物は、優れた加水分解への耐久性を発現するために、以下の3点を留意して設計されたものである。・・・(2)該組成物中、エステル基(-C(=O)-O-)を有する化合物を含まない、もしくはその含有量が少ない。」、段落【0025】の「本発明のポリウレタン接着剤組成物において、エステル基(-C(=O)-O-)を有する化合物の含有率が小さいことが好ましい。」との記載を参酌すれば、本件特許明細書においては、エステル基(-C(=O)-O-)を有する化合物を含まないか、またはその含有量が少ないポリウレタン接着剤組成物が好ましいものとされていることが理解できる。
また、エステル基の含有量が少ないほどエステル基による吸収量が減ってその透過率が大きくなるという技術常識を勘案すると、本件特許明細書においては、本件訂正前の請求項1の「1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)」がより大きいものが好ましいとされていることや、Teの値の範囲は0~100%であるから、100%の場合が最も好ましいとされるはずであり、0%の場合が最も劣るとされるはずであることも理解できる。
(ウ) 本件訂正前の請求項1の「1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)に対する、1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)の比(Te/Tu)が0.9未満」という事項は、Teの値をTuの値の0.9倍よりもより小さい範囲に限定する事項であり、Teの値をより小さい範囲に限定するものである点で、上記(ウ)の「Teがより大きいものが好ましいとされている」との理解とは完全に逆の方向にTeの値の範囲を規定する事項となっている。また、Teが100%の場合にはTuの値がいかなる値であってもTe/Tuが0.9未満にはならないから、この事項を満足するTeの値の範囲には、Teの取り得る値の中で最も好ましいはずの100%が含まれておらず、逆に、最も劣るはずの0%を含むものとなっている点でも上記(ウ)の理解と整合しない。そうすると、この記載には、本来、Teの値がより大きいものが好ましい旨を規定し、また、Teの値が100%である場合を含み、0%の場合は除かれているような範囲を特定する事項であるはずのところ、逆の内容になってしまうような錯誤があると理解できる。
なお、段落【0008】、【0027】にも、それぞれ、「本発明は、・・・1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)に対する、1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)の比(Te/Tu)が0.9未満であり、好ましくは0.8未満、より好ましくは0.7未満である。」、「本発明のポリウレタン接着剤組成物を反応により硬化して得られるポリウレタン接着剤硬化物において、前記ウレタン基の吸収ピークの透過率(Tu)に対するエステル基の吸収ピークの透過率(Te)の比(Te/Tu)が0.9未満であり」という記載があるが、これらの記載にも、同様の理由で、同様の錯誤があると考えることが合理的である。
(エ) 本件特許明細書の段落【0033】、【0034】には、
「実施例1
(a)(B)成分の調製
ガラス製容器に、12-ヒドロキシステアリルアルコール(商品名「ソバモール912」、コグニスジャパン株式会社製、水酸基価:345~365KOH mg/g)240gと2,2,4,-トリメチル-1,3-ペンタンジオール60gを加え、90℃で溶融混合後、45℃まで冷却し、45℃で保管した。
混合ポリオールの水酸基価は、437 KOH mg/gであった。
(b)ポリウレタン接着剤硬化物の調製
ガラス製容器に、(A)成分として、特許3205977公報の段落0037に記載の方法と同様の方法で調製したMDIのウレトンイミン及びカルボジイミド変性体(NCO=27.8質量%)の45℃保管品300gと、(a)で調製した(B)成分の45℃保管品250gを均一混合((A)/(B)(モル比):1.02)し、その一部をポリシリコン製型容器に流し込み、45℃の恒温乾燥機中で30分反応させ、その後、徐々に90℃まで昇温させ、1時間ポストベイクした。」と記載されており、段落【0035】には
「比較例1
ガラス製容器に、芳香族ポリイソシアネートとして、実施例1で用いたMDIのウレトンイミン及びカルボジイミド変性体(NCO=27.8質量%)の45℃保管品150gと、硬化剤としてひまし油(伊藤製油製、ひまし油カクトクA、水酸基価156~165 KOH mg/g)の45℃保管品341gを均一混合((芳香族イソシアネート)/(硬化剤)(モル比):1.02)し、その一部をポリシリコン製型容器に流し込み、45℃の恒温乾燥機中で30分反応させ、その後、徐々に90℃まで昇温させ、1時間ポストベイクした。」と記載されている。
そうすると、実施例1のポリウレタン接着剤硬化物は、(B)成分としてエステル基を有する物質を含んでいないので、エステル基を含まず、ウレタン基のみを含むことから、「1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)」の値が大きくなり、「1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)」の値は小さくなるので、Te>Tuとなっているはずである。また、比較例1は、エステル基とウレタン基を含むものであるから、Te<Tuとなっているはずである。
(オ) 上記(ウ)、(エ)を総合すると、本件訂正前の請求項1の「1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)に対する、1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)の比(Te/Tu)が0.9未満」は、誤りで、「1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)に対する、1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)の比(Tu/Te)が0.9未満」が正しいことが、本件特許明細書、若しくは特許請求の範囲の記載又は当業者の技術常識から明らかで、当業者であればそのことに気づいて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるといえる。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであると認める。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
前記アでも述べたとおり、本件訂正前の請求項1の「1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)に対する、1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)の比(Te/Tu)が0.9未満」は、誤りで、「1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)に対する、1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)の比(Tu/Te)が0.9未満」が正しいことが、本件特許明細書、若しくは特許請求の範囲の記載又は当業者の技術常識から明らかで、当業者であればそのことに気づいて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるといえるものである。
そうすると、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものとはいえないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合する。
ウ 新規事項の追加の有無
上記アでも述べたとおり、本件訂正前の請求項1の「1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)に対する、1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)の比(Te/Tu)が0.9未満」は、誤りで、「1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)に対する、1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)の比(Tu/Te)が0.9未満」が正しいことが、本件特許明細書、若しくは特許請求の範囲の記載又は当業者の技術常識から明らかで、当業者であればそのことに気づいて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるといえるところ、本件特許明細書と本件特許の願書に最初に添付した明細書の記載は一致している。そうすると、訂正事項2は、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でするものであるといえるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。
(4)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項2の削除を目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3は、本件特許明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。
(5)訂正事項4~6について
訂正事項4~6は、それぞれ、請求項3、4、7が、それよりも前の請求項を引用する形式で記載されるとともに、その引用する請求項に請求項2を含むものであったところ、訂正事項3によって請求項2が削除されることにともない、請求項2を引用しないものとすることを目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3は、本件特許明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。
(6)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正事項1及び2によって請求項1の記載が訂正されると、本件特許明細書の段落【0008】の記載と整合しなくなるので、訂正事項1及び2と同様の訂正をすることによって、これを回避することを目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項1及び2について、それぞれ、上記(2)及び(3)イ、ウで述べたのと同様の理由により、訂正事項7は、本件特許明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。
(7)訂正事項8について
訂正事項8は、訂正事項2によって請求項1の記載が訂正されると、本件特許明細書の段落【0027】の記載と整合しなくなるので、訂正事項2と同様の訂正をすることによって、これを回避することを目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項2について、上記(3)イ、ウで述べたのと同様の理由により、訂正事項8は、本件特許明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。
したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。
(8)訂正事項9、13について
訂正事項9、13は、訂正事項2によって請求項1の「1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)に対する、1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)の比(Te/Tu)」が「1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)に対する1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)の比(Tu/Te)」に訂正されると、本件特許明細書の段落【0027】、及び、【0039】の「Te/Tuが本発明の範囲内である」という記載と整合しなくなるので、訂正事項2と同様の訂正をすることによって、これを回避することを目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項2について、上記(3)イ、ウで述べたのと同様の理由により、訂正事項9、13は、本件特許明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。
したがって、訂正事項9、13は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。
(9)訂正事項10について
本件特許明細書の段落【0029】には、「本発明のポリウレタン接着剤組成物を反応により硬化して得られるポリウレタン接着剤硬化物は、具体的には、(A)成分と(B)成分を混合して、本発明のポリウレタン接着剤組成物を室温化で調製し、好ましくは40℃~80℃、より好ましくは40℃~50℃の温度条件下で、(A)成分と(B)成分とを反応・硬化させることにより好適に形成することができる。」と記載されているが、「室温化」という用語の前後に「(A)成分と(B)成分を混合して・・・調製し」、「好ましくは40℃~80℃・・・の温度条件下で、(A)成分と(B)成分とを反応・硬化させる」と記載されていることを勘案すると、「室温化」という用語の正しい表記が「室温下」であることは明らかである。
そうすると、訂正事項10は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。
また、実質上特許請求の範囲を変更するものとはいえないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合し、また、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でするものであるといえるので、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。
(10)訂正事項11、12について
本件特許明細書の段落【0034】、【0035】には、それぞれ、「ガラス製容器に、(A)成分として、特許3205977公報の段落0037に記載の方法と同様の方法で調製したMDIのウレトンイミン及びカルボジイミド変性体(NCO=27.8質量%)の45℃保管品300gと、(a)で調製した(B)成分の45℃保管品250gを均一混合((A)/(B)(モル比):1.02)し、その一部をポリシリコン製型容器に流し込み、45℃の恒温乾燥機中で30分反応させ、その後、徐々に90℃まで昇温させ、1時間ポストベイクした。」、「ガラス製容器に、芳香族ポリイソシアネートとして、実施例1で用いたMDIのウレトンイミン及びカルボジイミド変性体(NCO=27.8質量%)の45℃保管品150gと、硬化剤としてひまし油(伊藤製油製、ひまし油カクトクA、水酸基価156~165 KOH mg/g)の45℃保管品341gを均一混合((芳香族イソシアネート)/(硬化剤)(モル比):1.02)し、その一部をポリシリコン製型容器に流し込み、45℃の恒温乾燥機中で30分反応させ、その後、徐々に90℃まで昇温させ、1時間ポストベイクした。」と記載されている。
また、「ポリシリコン」は、金属であり、「ポリシリコーン」は、樹脂であって、全く性質の違う材料であり、「型容器」を構成する素材として前者を用いることはありえず、「ポリシリコン」が「ポリシリコーン」を意味することは明らかである。
そうすると、訂正事項11、12は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。
また、実質上特許請求の範囲を変更するものとはいえないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合し、また、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でするものであるといえるので、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。
(11) 独立特許要件について
ア 本件特許異議申立てについては、請求項2、3が特許異議申立ての対象とされていないが、上記2(3)、(4)のとおり、本件訂正は、請求項2、3を訂正する訂正事項3、4を含むものである。また、請求項1を訂正する訂正事項である訂正事項1、2(上記2(1)、(2))に連動して請求項3が訂正され、また、請求項2、3を含む全ての請求項に関係する明細書の訂正に係る訂正事項7~13(上記2(7)~(13))を含むものである。
そして、請求項2は削除される(上記2(3)の訂正事項3)ので、その独立特許要件の検討を要さないが、請求項3は、上記(2)、(5)のとおり、その訂正に直接又は間接的に関連する訂正事項1、4が、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、上記(3)ア(カ)、(9)、(10)のとおり、その訂正に直接又は間接的に関連する訂正事項2が、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。
したがって、請求項3は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項(独立特許要件)を適用する対象となる請求項であるので、請求項3について、独立特許要件を検討する。
イ 請求項3に係る発明
本件訂正後の請求項3に係る発明(以下「本件発明3」ともいう。)は、後記第3のとおりであり、これを請求項1を引用しない形式で記載すると、以下のとおりである。
「(A)芳香族ポリイソシアネートのウレトンイミン変性体、及びカルボジイミド変性体から選ばれる1種以上(以下、(A)成分という)、及び(B)硬化剤(以下、(B)成分という)を含むポリウレタン接着剤組成物であって、
(B)成分中、(B1)2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数8~22の脂肪族ポリオール化合物、及び2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数12~22の脂肪酸とジアミン化合物との縮合反応物から選択される1種以上であるもの(以下、(B1)成分という)を50質量%以上含有し、
(A)成分と(B)成分との反応によって得られるポリウレタン接着剤硬化物の顕微フーリエ変換型赤外分光光度計(顕微FT-IR)測定において、1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)に対する、1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)の比(Tu/Te)が0.9末満であり、
(B1)成分が、12-ヒドロキシステアリルアルコール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオール、及びリシノール酸と多官能アミン化合物との多官能アミド縮合反応物から選択される1種以上である、
ポリウレタン接着剤組成物。」
ウ 進歩性についての検討
(ア)引用する刊行物等
甲8~11は、それぞれ、後記第5の2に記載した特許異議申立人が提出した証拠方法の甲8~11である。
甲8:特開2000-297134号公報
甲9:実験結果報告書(令和4年4月28日)
甲10:透析会誌第44巻第9号、第977~990頁(2011年)
甲11:特開平11-47267号公報
(イ)刊行物等に記載されている事項
a 甲8の記載
甲8には、次の記載がある。
(a)「【請求項1】 下記一般式で示されるアルキルアミンにアルキレンオキサイドを付加させたポリオール(a)を含有するポリオール成分(A)と、ポリイソシアネート成分(B)とからなる注型用ポリウレタン樹脂形成性組成物。
【化1】
[図:0001404739000001.jpg]
(式中、R1は炭素数2以上のアルキル基を示す。R2、R3はそれぞれ同じでも異なっていてもよいアルキレン基を示す。m、nは、m+n=2~200を満たす整数を示す。)
【請求項2】 請求項1記載の注型用ポリウレタン樹脂形成性組成物を用いた中空糸型血液処理器又は浄水器のシール材。」
(b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は注型用ポリウレタン樹脂形成性組成物及びこれを用いたシール材に関し、特に血液処理器又は浄水器のシール材用として好適な注型用ポリウレタン樹脂形成性組成物及びこれを用いたシール材に関するものである。」
(c)「【0026】芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(2,4-TDI、2,6-TDI、粗製TDI及びこれらの混合物)、ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI、2,4’-MDI及びこれらの混合物)、ナフチレンジイソシアネート(NDI)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等が挙げられる。」
(d)「【0035】本発明の注型用ポリウレタン樹脂形成性組成物は、血液処理器又は浄水器のシール材として特に好適に使用される。対象となる血液処理器としては、例えば中空糸型、膜型もしくはコイル型の人工腎臓及び血奬分離用モジュール等がある。また、人工肺等の人工臓器にも使用できる。
【0036】本発明の組成物を血液処理器のシール材として使用する場合の具体的使用法を例示する。ポリオール成分(A)とポリイソシアネート成分(B)とを個別に減圧脱泡(0.1mmHg×2時間)する。この二液を所定量計量後混合し、遠心成型法により中空糸を容器に埋封する。遠心成型法の例は、例えば特公昭57-58963号公報に記載されている。埋封される中空糸としては一般に、セルロース系、アクリル系、ポリビニルアルコール系、ポリアミド系、ポリスルホン系等の中空糸が使用される。容器としては一般に、ポリカーボネート製、ABS製、ポリスチレン製等のものが使用される。樹脂は注入から3~60分後にはゲル化し、モジュールを成型機から取り出すことができる。ついで室温~60℃で養生を行い硬化を完了させる。その後、オートクレーブを使用して121℃で1時間の蒸気加熱により滅菌処理を行い製品化する。滅菌処理は蒸気加熱以外の方法、例えばエチレンオキサイドガス又はγ線射等によっても実施することができる。
【0037】本発明の組成物から形成されるポリウレタン樹脂を用いたシール材は、硬化時の収縮も少なく血液処理器中の中空糸が圧し潰される心配がない。また中空糸への付着もきわめて良好であり、硬化樹脂からの溶出物量も少ない。」
(e)「【0038】
【実施例】以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において部は質量部を、%は質量%を示す。
【0039】製造例1(A-1)
攪拌機、温度計及び窒素導入管を付した2L容積の4つ口フラスコに、ターシャリーブチルアミンのエチレンオキサイド2モル付加物(分子量161、水酸基価=696mgKOH/g)180部とヒマシ油(分子量950、水酸基価=160mgKOH/g)820部とを仕込み、窒素気流下50℃で2時間混合攪拌し、ポリオール成分(A-1)を得た。A-1の水酸基価は257mgKOH/g、粘度は570mPa・s(25℃)であった。
・・・
【0041】製造例1(A-3)
製造例1と同様の反応容器に、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン(分子量295、水酸基価=760mgKOH/g)120部とヒマシ油(分子量950、水酸基価=160)880部とを仕込み、窒素気流下50℃で2時間混合攪拌し、ポリオール成分(A-3)を得た。A-3の水酸基価は232mgKOH/g、粘度は960mPa・s(25℃)であった。
【0042】実施例1~2
セルロース中空糸を挿入したポリカーボネート容器に、製造例1~2で得られたポリオール成分(A-1)~(A-2)各々と、カルボジイミド変性MDI(NCO:28.5%)をポリイソシアネート成分(B-1)とからなる混合液(NCO/OH当量比=1.05/1)を遠心成型法により注型し、40℃で養生した。以下の試験方法により各混合液の混合粘度及び各モジュールのシール部の樹脂硬度を測定した。その結果を表1に示す。
【0043】比較例1
セルロース中空糸を挿入したポリカーボネート容器に、製造例3で得られたポリオール成分(A-3)と、カルボジイミド変性MDI(NCO:28.5%)をポリイソシアネート成分(B-1)とからなる混合液(NCO/OH当量比=1.05/1)を遠心成型法により注型し、40℃で養生した。以下の試験方法により各混合液の混合粘度及び各モジュールのシール部の樹脂硬度を測定した。その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
[図:0001404739000002.jpg]
【0045】(試験方法)
混合粘度:ポリオール成分(A)とポリイソシアネート成分(B)とを25℃で均一混合し、混合開始2分後の粘度(mPa・s)を測定。
硬度:上記混合注型後25℃で養生したとき(2時間目、24時間目、完全硬化時)の硬化樹脂の硬度(JIS A、瞬間値)を測定。硬度はJIS K-6253(1997)により測定。
線収縮率:金型内に樹脂を注入し、注入後40℃で2日間硬化させ、金型から取り出した樹脂の直径を測定。
線収縮率(%)=(金型内径-樹脂直径)/(金型内径)×100」
(f)「【0046】
【発明の効果】本発明の注型用ポリウレタン樹脂形成性組成物は下記の効果を有する。
(1)低粘度であり、注型性が優れている。
(2)低線収縮率であり、血液処理器中の中空糸が圧し潰される心配がない。上記効果を奏することから本発明の注型用ポリウレタン樹脂形成性組成物は、血液処理器等の人工臓器もしくは浄水器のシール材用として特に有用である。また、電子回路基板の封止等の電気絶縁用途、光ファイバーケーブル接続部の封止等の止水用途、断熱アルミサッシの接着やアルミハニカムパネルの接着等の建材用途、自動車のエンブレムやサイドモール用ポッティング材用途等にも使用できる。」
b 甲9の記載
甲9には、次の記載がある。
(a)「特許第6965069号(本件)公報に記載された実施例1(本件実施例1)の再現実験及び特開2000-297134号公報(甲8)に記載された実施例1(甲8実施例1)及び比較例1(甲8比較例1)の本件請求項1でいう「ポリウレタン接着剤硬化物の顕微フーリエ変換型赤外分光光度計(顕微FT-IR)測定」実験について以下のとおり報告する。」(第1頁第6~9行)
(b)「また、本実験は、甲8実施例1及び甲8比較例1について、本件請求項1でいう「ポリウレタン接着剤硬化物の顕微フーリエ変換型赤外分光光度計(顕微FT-IR)測定」を行ったときの1720~1730cm-1の吸収ピークの吸光度に対する、1708~1712cm-1の吸収ピークの吸光度の比を確認することを目的する。」(第1頁第18~21行)
(c)「(2.2)甲8実施例1及び甲8比較例1
ア.ポリウレタン接着剤硬化物の調製
甲8段落0039及び0042に記載どおり混合液を調製し、これを本件公報段落0034に記載どおり処理して、甲8実施例1のポリウレタン接着剤硬化物を調製した。
また、甲8段落0041及び0042に記載どおり混合液を調製し、これを本件公報段落0034に記載どおり処理して、甲8実施例1のポリウレタン接着剤硬化物を調製した。
なお、調製に使用した試薬は以下のとおりである。
ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-体含有量99%)のウレトンイミン及びカルボジイミド変性体[商品名ミリオネートMTL-C(東ソー社製)]
N-t-ブチルジエタノールアミン(富士フィルムワコーケミカル社製)
N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン
[商品名EDP-300(ADEKA社製)]
ひまし油[商品名ひまし油LAV(伊藤製油社製)]
イ.顕微FT-IR測定
甲8実施例1及び甲8比較例1のポリウレタン接着剤硬化物について顕微FT-IRスペクトルを測定した。測定装置等は以下のとおりである。
測定装置:Thermo SCIENTIFIC社製NICOLET iS5
測定条件:顕微全反射測定法(顕微ATR法)
測定波長領域:400~4000cm-1
積算回数:64回
ウ.測定結果
甲8実施例1の「ポリウレタン接着剤硬化物の顕微フーリエ変換型赤外分光光度計(顕微FT-IR)測定」では、1720~1730cm-1の吸収ピークの吸光度は0.311であり、1708~1712cm-1の吸収ピークの吸光度は0.368であった。
甲8比較例1の「ポリウレタン接着剤硬化物の顕微フーリエ変換型赤外分光光度計(顕微FT-IR)測定」では、1720~1730cm-1の吸収ピークの吸光度は0.316であり、1708~1712cm-1の吸収ピークの吸光度は0.357であった。」(第3頁第1~27行)
c 甲10の記載
甲10には、次の記載がある。
(a)「序 エンドトキシン捕捉フィルタ(endotoxin retentive filter:ETRF)管理基準の概要
背景と目的
透析液の汚染は透析治療の生体適合性を損なう重要な因子であり,とくに生物学的汚染はエンドトキシン(endotoxin:ET)などの強力な生理活性により,透析アミロイド症や栄養障害などを惹起する重要な要因の一つであると認識されている.・・・ET捕捉フィルタ(endotoxin retentive filter)は透析液の生物学的水質を高めるために必須であるが,適切に取り扱われないと汚染源となるリスクがある.」(第977頁第1~9行)
(b)「3.ISO/FDIS 23500,B.2.9 ETRFの運用
・ETRFを設置すべき箇所:透析用水の製造工程中の脱イオン(RO)後の下流域ならびに透析液の最終ライン
・膜形状:スパイラル状か中空糸状で,スパイラル状フィルタは通常クロスフロー濾過法(供給液の一部が濾過され,残りがドレイン),中空糸状フィルタは,クロスフロー方式もしくはデッドエンド方式にて使用する.」(第986頁第2~10行)
d 甲11の記載
甲11には、次の記載がある。
(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、水道水、逆浸透水(RO水)などの施設水、透析液、血液濾過排液あるいは腹膜透析排液などの処理液体から、エンドトキシン、β2ミクログロブリン、ミオグロビンなど、分子表面に疎水性部分を有する対象物質を除去、分離するためのセルロース系中空糸濾過膜および濾過器に関する。
【0002】
【従来の技術】水道水、RO水などの施設水、透析液、血液濾過排液あるいは腹膜透析排液などの処理液体から、エンドトキシン、β2ミクログロブリン、ミオグロビンなどの分子表面に疎水性部分を有する対象物質を除去、分離する試みが種々検討されている。
【0003】発熱物質として知られるエンドトキシンは、グラム陰性菌の表皮の構成成分であり、生菌では通常ミセル状態で存在し、その分子量は数百万ダルトンにも及ぶ。しかし、グラム陰性菌、またはその死骸から生じたエンドトキシンは分子量数千~数万ダルトンの小片(フラグメント)であり、水道水、RO水等の施設水等に多く存在することが知られている。その分子量から血液透析、血液透析濾過、持続的血液透析、持続的血液透析濾過等で用いられる透析液中のエンドトキシンのフラグメント(以下フラグメント)がこれらの療法において半透膜を通過して血液中に混入することが懸念されている。」
(b)「【0014】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記問題点を解決した、エンドトキシンおよびβMGの吸着による透水性能の実質的な低下がなく、モジュールを小型化することができる、膜間圧力差に対する十分な強度を有するセルロース系中空糸膜および濾過器を提供するものである。」
(c)「【0031】中空糸膜を用いた濾過器は、血液透析や血液濾過等に用いられる形態が利用できる。図1を用いて具体的に説明する。このような濾過器は、ハウジング2を有し、該ハウジング2内の両端には、それぞれ第1および第2液体室31、32が形成され、両液体室の内側には第3液体室4が形成され、これら各室は、隔壁61、62により区画されている。また、ハウジング2内には、適当な長さに切断された前述の中空糸膜5を複数本束ねた中空糸膜束が、前記第3液体室4を挿通するように、かつ中空糸膜束の両端部が、隔壁61、62を貫通し、第1および第2液体室31、32が各中空糸膜の内側(内腔)を介して連通するように収納されている。またハウジング2には、前記第1および第2液体室31、32にそれぞれ連通する第1液体入口ポート33および第1液体出口ポート34と、前記第3液体室に連通する第2液体入口ポート41および第2液体出口ポート42が形成されている。」
(d)「【0089】
【実施例2】
(濾過器組立例)図1に示す形状で最小内径約4cm、有効長約23.8cmのポリカーボネート製ハウジングに実施例1の中空糸膜を285,375本挿入し、ウレタン樹脂により中空糸両端をポッティングした。前記により作製したモジュールは有効膜面積が約10.7m2であった。」
(e)「【0093】前記濾過器402に試験液として水道水(エンドトキシン濃度:約1200EU/L)を用い、送液ポンプ403を用いて流量505ml/minで流入し、出口側を排液ポンプ493により5ml/minでドレインし、濾液側は開放系で500ml/minになるように設定した。水道水の流れの方向は中空糸膜の外側から内腔へ流した。このときの膜間圧力差(TMP)は約195mmHgであった。循環1、2、6、12、18、24時間後に濾液をサンプリングした。どのサンプルにおいても濾液中にエンドトキシンは検出されなかった。エンドトキシン濃度はエンドスペーシー法により測定した。(検出限界0.75EU/L)。」
(f)「【0100】さらに、本発明は上記の構成を有するので、病院や在宅等の施設水または水道水、あるいは透析液に含まれるエンドトキシン等の疎水性部分を有する物質の除去が可能である。」
(g)「【図1】
[図:0001404739000003.jpg]
」
(ウ) 甲8に記載された発明の認定
a 甲8の実施例1に基づく発明の認定
甲8の実施例1では、ターシャリーブチルアミンのエチレンオキサイド2モル付加物(分子量161、水酸基価=696mgKOH/g)180質量部とヒマシ油(分子量950、水酸基価=160mgKOH/g)820質量部を混合攪拌して得られるポリオール成分(A-1)と、ポリイソシアネート成分(B-1)であるカルボジイミド変性MDI(NCO:28.5%)からなる混合液(NCO/OH当量比=1.05/1)を、セルロース中空糸を挿入したポリカーボネート容器に遠心成型法により注型し、40℃で養生することで、モジュールを作製している(前記(イ)a(e)の段落【0038】~【0039】、【0042】参照)。ここで注型に使用される、前記ポリオール成分(A-1)と前記ポリイソシアネート成分(B-1)からなる前記混合液は、【請求項1】の「注型用ポリウレタン樹脂形成性組成物」(前記(イ)a(a)参照)の具体的な実施形態である。
そうすると、次の発明(以下「甲8発明1」という)が認定できる。
甲8発明1
「ターシャリーブチルアミンのエチレンオキサイド2モル付加物180質量部とヒマシ油820質量部を混合攪拌して得られるポリオール成分(A-1)と、ポリイソシアネート成分(B-1)であるカルボジイミド変性MDI(NCO:28.5%)からなり、中空糸型血液処理器のシール材として用いられる、注型用ポリウレタン樹脂形成性組成物。」
b 甲8の比較例1に基づく発明の認定
甲8の比較例1では、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン(分子量295、水酸基価=760mgKOH/g)120質量部とヒマシ油(分子量950、水酸基価=160)880質量部を混合攪拌して得られるポリオール成分(A-3)と、ポリイソシアネート成分(B-1)であるカルボジイミド変性MDI(NCO:28.5%)からなる混合液(NCO/OH当量比=1.05/1)を、セルロース中空糸を挿入したポリカーボネート容器に遠心成型法により注型し、40℃で養生することで、モジュールを作製している(前記(イ)a(e)段落【0038】、【0041】、【0043】参照)。ここで注型に使用される、前記ポリオール成分(A-3)と前記ポリイソシアネート成分(B-1)からなる前記混合液は、甲8の【請求項1】の「注型用ポリウレタン樹脂形成性組成物」(前記(イ)a(a)参照)の比較実施形態である。
そうすると、次の発明(以下「甲8発明2」という)が認定できる。
甲8発明2
「N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン120質量部とヒマシ油880質量部を混合攪拌して得られるポリオール成分(A-3)と、ポリイソシアネート成分(B-1)であるカルボジイミド変性MDI(NCO:28.5%)からなり、中空糸型血液処理器のシール材として用いられる、注型用ポリウレタン樹脂形成性組成物。」
(エ) 甲8発明1、2と本件発明3との対比、判断
a 対比
甲8発明1、2の「MDI」は、ジフェニルメタンジイソシアネートの略称であり、芳香族ポリイソシアネートの一種である(前記(イ)a(c)の段落【0026】参照)から、甲8発明1、2の「カルボジイミド変性MDI」は、本件発明3の「(A)芳香族ポリイソシアネートのウレトンイミン変性体、及びカルボジイミド変性体から選ばれる1種以上(以下、(A)成分という)」を充足する。
また、甲8発明1の「ポリオール成分(A-1)」、甲8発明2の「ポリオール成分(A-3)」は、本件発明3の「(B)硬化剤(以下、(B)成分という)」に相当する。
甲8発明1、2の「注型用ポリウレタン樹脂形成性組成物」は、「シール材として用いられる」ものであり、一種の接着剤といえるから、本件発明3の「ポリウレタン接着剤組成物」に相当する。
b 一致点及び相違点
上記aを踏まえると、甲8発明1、2と本件発明3は、「(A)芳香族ポリイソシアネートのウレトンイミン変性体、及びカルボジイミド変性体から選ばれる1種以上(以下、(A)成分という)、及び(B)硬化剤(以下、(B)成分という)を含むポリウレタン接着剤組成物。」の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明3では、「(B)成分中、(B1)2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数8~22の脂肪族ポリオール化合物、及び2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数12~22の脂肪酸とジアミン化合物との縮合反応物から選択される1種以上であるもの(以下、(B1)成分という)を50質量%以上含有し」、「(B1)成分が、12-ヒドロキシステアリルアルコール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオール、及びリシノール酸と多官能アミン化合物との多官能アミド縮合反応物から選択される1種以上である」と特定されているのに対し、甲8発明1では、「ターシャリーブチルアミンのエチレンオキサイド2モル付加物180質量部とヒマシ油820質量部を混合攪拌して得られるポリオール成分(A-1)」特定されており、また、甲8発明2では、「N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン120質量部とヒマシ油880質量部を混合攪拌して得られるポリオール成分(A-3)」と特定されている点。
(相違点2)
本件発明3では、「(A)成分と(B)成分との反応によって得られるポリウレタン接着剤硬化物の顕微フーリエ変換型赤外分光光度計(顕微FT-IR)測定において、1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)に対する、1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)の比(Tu/Te)が0.9末満」に特定されているのに対し、甲8発明1、2では、このような特定を備えていない点。
c 相違点1の検討
(a) 甲8発明1は、甲8の実施例1に基づいて認識された発明であり、実施例は、その特許を取得しようとしている発明の好ましい態様を記載するものであるから、「ポリオール成分(A-1)」についても好ましいものが選択された結果、甲8発明1では、「ターシャリーブチルアミンのエチレンオキサイド2モル付加物180質量部とヒマシ油820質量部を混合攪拌して得られるポリオール成分(A-1)」が採用されていると考えることが妥当である。そして、甲8には、好ましいものとして選択された甲8発明1の「ターシャリーブチルアミンのエチレンオキサイド2モル付加物180質量部とヒマシ油820質量部を混合攪拌して得られるポリオール成分(A-1)」をあえて変更することを着想させるとともに、本件発明3で採用されている「(B)成分中、(B1)2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数8~22の脂肪族ポリオール化合物、及び2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数12~22の脂肪酸とジアミン化合物との縮合反応物から選択される1種以上であるもの(以下、(B1)成分という)を50質量%以上含有し」を充足するものに変更することを動機づけるような記載も示唆もないし、「(B1)成分が、12-ヒドロキシステアリルアルコール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオール、及びリシノール酸と多官能アミン化合物との多官能アミド縮合反応物から選択される1種以上である」を充足するものに変更することを動機づけるような記載も示唆もない。また、甲9~11にも、そのような変更を動機づけるような記載も示唆もない。
(b) また、甲8発明2は、甲8の比較例1に基づいて認識された発明であるから、当業者は、その「ポリオール成分(A-1)」について、実施例1で採用されている「ターシャリーブチルアミンのエチレンオキサイド2モル付加物180質量部とヒマシ油820質量部を混合攪拌して得られるポリオール成分(A-1)」がより好ましいものであると認識し、これに変更することを動機づけられることはあるとしても、甲8に記載も示唆もない「(B)成分中、(B1)2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数8~22の脂肪族ポリオール化合物、及び2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数12~22の脂肪酸とジアミン化合物との縮合反応物から選択される1種以上であるもの(以下、(B1)成分という)を50質量%以上含有し」、及び、「(B1)成分が、12-ヒドロキシステアリルアルコール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオール、及びリシノール酸と多官能アミン化合物との多官能アミド縮合反応物から選択される1種以上である」を充足するものにあえて変更することを動機づけられることはないといえる。また、甲9~11にも、そのような変更を動機づけるような記載も示唆もない。
そうすると、当業者といえども、甲8発明1の「ターシャリーブチルアミンのエチレンオキサイド2モル付加物180質量部とヒマシ油820質量部を混合攪拌して得られるポリオール成分(A-1)」、あるいは、甲8発明2の「N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン120質量部とヒマシ油880質量部を混合攪拌して得られるポリオール成分(A-3)」を、本件発明3に係る「(B)成分中、(B1)2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数8~22の脂肪族ポリオール化合物、及び2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数12~22の脂肪酸とジアミン化合物との縮合反応物から選択される1種以上であるもの(以下、(B1)成分という)を50質量%以上含有し」、「(B1)成分が、12-ヒドロキシステアリルアルコール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオール、及びリシノール酸と多官能アミン化合物との多官能アミド縮合反応物から選択される1種以上である」を充足するものに変更することを容易になし得たとはいえない。
d 効果について
本件発明3は、加水分解への耐久性に優れ、硬化反応時における接着剤組成物の流動可能時間(低粘度状態の時間)が十分に長い、ポリウレタン接着剤組成物を提供することができるという効果を奏するものである(本件特許明細書の段落【0011】)。
e 判断
以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明3は、甲8~11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
エ 独立特許要件についてのまとめ
上記ウのとおり、本件発明3は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。また、他に、本件発明3が独立して特許を受けることができないものであるといえる理由を発見しない。
よって、本件訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合する。
(12) 本件訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1~3号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合するものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定にも適合するものである。
したがって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正請求は認められたので、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~7の記載は以下のとおりのものであり、それらのうち、特許異議の申立てのあった請求項1、4~7に係る発明(以下、項番にしたがって「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1、4~7に記載された事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
(A)芳香族ポリイソシアネートのウレトンイミン変性体、及びカルボジイミド変性体から選ばれる1種以上(以下、(A)成分という)、及び(B)硬化剤(以下、(B)成分という)を含むポリウレタン接着剤組成物であって、
(B)成分中、(B1)2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数8~22の脂肪族ポリオール化合物、及び2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数12~22の脂肪酸とジアミン化合物との縮合反応物から選択される1種以上であるもの(以下、(B1)成分という)を50質量%以上含有し、
(A)成分と(B)成分との反応によって得られるポリウレタン接着剤硬化物の顕微フーリエ変換型赤外分光光度計(顕微FT-IR)測定において、1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)に対する、1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)の比(Tu/Te)が0.9末満である、ポリウレタン接着剤組成物。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
(B1)成分が、12-ヒドロキシステアリルアルコール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオール、及びリシノール酸と多官能アミン化合物との多官能アミド縮合反応物から選択される1種以上である、請求項1に記載のポリウレタン接着剤組成物。
【請求項4】
ケースハウジング内に中空糸膜束が収容された中空糸膜モジュールであって、
前記中空糸膜束の少なくとも一端部側と前記ケースハウジングの内壁面が、請求項1又は3に記載のポリウレタン接着剤組成物の硬化物で一体化されている中空糸膜モジュール。
【請求項5】
前記中空糸膜モジュールが医療用である、請求項4に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項6】
前記中空糸膜モジュールがエンドトキシン捕捉フィルター用である、請求項4に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項7】
ケースハウジング内に中空糸膜束が収容された中空糸膜モジュールの製造方法であって、
前記中空糸膜束の少なくとも一端部側と前記ケースハウジングの内壁面を、請求項1又は3に記載のポリウレタン接着剤組成物を使用して、接着して一体化する、中空糸膜モジュールの製造方法。」
第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が令和4年12月21日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)取消理由1(明確性)
本件訂正前の本件発明1、4~7は、「(B1)2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数8以上のポリオール化合物(以下、(B1)成分という)」という事項を、発明を特定するための事項として含むものであり、この発明特定事項は、文言上、(ア)2級又は3級水酸基を1つ以上有すること、(イ)炭素数が8以上であること、(ウ)複数の水酸基を有すること、の3条件を満たす化合物であれば充足すると解されるが、本件特許明細書には、「ひまし油系ポリオール」や「ポリブタジエン系ポリオール」のような、前記3条件を満たす化合物が「(B1)成分以外の硬化剤」として挙げられているので、「(B1)成分」に包含される化合物の範囲が明確ではない。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件訂正前の本件発明1、4~7の特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
(2)取消理由2(サポート要件)
本件特許明細書の記載によれば、本件訂正前の本件発明がその課題を解決するための手段は、接着剤組成物中にエステル基を有する化合物を含まない、若しくはその含有量を少なくすることであるが、本件訂正前の本件発明1、4~7は、当該手段とは方向性が逆の規定(「1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)に対する、1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)の比(Te/Tu)が0.9未満である」という事項)を備えているから、本件訂正前の本件発明1、4~7は、その課題を解決できると認識できる範囲のものではない。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件訂正前の本件発明1、4~7の特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
2 取消理由1(明確性)について
上記第2のとおり、本件訂正が認められて、「(B1)2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数8以上のポリオール化合物(以下、(B1)成分という)」という事項が、「(B1)2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数8~22の脂肪族ポリオール化合物、及び2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数12~22の脂肪酸とジアミン化合物との縮合反応物から選択される1種以上であるもの(以下、(B1)成分という)」に限定された。この記載に基づいて理解される(B1)成分の範囲は明確であり、かつ、本件特許明細書において、「(B1)成分以外の硬化剤」として挙げられている「ひまし油系ポリオール」や「ポリブタジエン系ポリオール」が、文言上、(B1)成分に該当するということもなくなった。
したがって、取消理由1によって、本件発明1、4~7の特許を取り消すべきものとすることはできない。
3 取消理由2(サポート要件)について
上記第2のとおり、本件訂正が認められて、「1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)に対する、1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)の比(Te/Tu)が0.9未満である」という事項が、「1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)に対する、1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)の比(Tu/Te)が0.9末満である」に訂正された。
その結果、本件発明1、4~7は、その課題を解決するための手段とは方向性が逆の規定を備えるものではなくなるとともに、その方向性が一致する手段(1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)に対する、1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)の比(Tu/Te)が0.9末満である)を備えるものとなった。
そうすると、取消理由2によって、本件発明1、4~7の特許を取り消すべきものとすることはできない。
4 特許異議申立人の主張について
上記第1のとおり、当審が令和4年12月21日付けで通知した取消理由(上記1の取消理由)に対し、特許権者が意見書の提出及び訂正の請求を行ったことを、同年3月8日付けで特許異議申立人に通知したが、特許異議申立人は、意見書を提出しなかった。
第5 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立の理由について
1 特許異議申立の理由
特許異議申立人が申し立てた特許異議申立の理由は、以下のとおりである。
(1)申立理由1(明確性要件)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は明確ではない。また、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項4~7に係る発明も同様である。したがって、本件の請求項1、4~7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきである。
(2)申立理由2(実施可能要件)
本件の請求項1、4~7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきである。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件の請求項1、4~7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきである。(4)
(4)申立理由4(新規性)
本件の請求項1、4、7に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第8号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。したがって、本件の請求項1、4、7に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきである。
(5)申立理由5(進歩性)
本件の請求項1、4~7に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、本件の請求項1、4~7に係る特許は、同法第113条第2号(申立書4頁1行や28頁16行などでは123条1項との誤記があるが、5頁末行では正しく記載)の規定により取り消されるべきである。
2 特許異議申立人が提出した証拠方法
特許異議申立人が提出した証拠方法は、次のとおりである。なお、甲第1号証を甲1などという。
甲1:カーク・オスマー化学大辞典、丸善株式会社、第1140~1141頁(昭和63年9月20日発行)
甲2:「Cray Valley Products For Polyurethanes-Liquid Polybutadienes」と題するカタログ、第4~7頁、最終頁(2001年10月)
甲3:日本ゴム協会誌、第84巻第4号、第124~131頁(2011年)
甲4:日本ゴム協会誌、第55巻第3号、第143~150頁(1982年)
甲5:カーク・オスマー化学大辞典、丸善株式会社、第536~543頁(昭和63年9月20日発行)
甲6:高分子大辞典、丸善株式会社、第850~853頁(平成6年9月20日発行)
甲7:日本接着学会誌、第40巻第6号、第241~252頁(2004年)
甲8:特開2000-297134号公報
甲9:実験結果報告書(令和4年4月28日)
甲10:透析会誌第44巻第9号、第977~990頁(2011年)
甲11:特開平11-47267号公報
3 特許権者が提出した証拠方法
特許権者が令和5年2月22日に提出した意見書に添付して提出した証拠方法は、以下のとおりである。なお、乙第1号証を乙1などという。
乙1:顕微フーリエ変換型赤外分光光度計(顕微FT-IR)測定」(顕微ATR法)のチャート
乙2:顕微フーリエ変換型赤外分光光度計(顕微FT-IR)測定」(顕微ATR法)のチャート
乙3:顕微フーリエ変換型赤外分光光度計(顕微FT-IR)測定」(顕微ATR法)のチャート
乙4:顕微フーリエ変換型赤外分光光度計(顕微FT-IR)測定」(顕微ATR法)のチャート
4 申立理由1(明確性要件)について
(1)申立理由1の概要
申立理由1は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「(B1)2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数8以上のポリオール化合物(以下、(B1)成分という)」に包含される化合物の範囲が明確ではない、というもの(以下、「申立理由1-1」ともいう。)、及び、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「1720~1730cm-1の吸収ピーク」について、本件特許明細書の段落【0027】には、エステル基に由来するピークである旨の説明が記載されているが、1720~1730cm-1の範囲には、ウレタン基のνC=Ofreeの吸収ピークが重複するので、その定義が明確でない、というもの(以下、「申立理由1-2」ともいう。)である。
(2)申立理由1-1の検討
申立理由1-1は、取消理由1と同じものである。
したがって、上記第4の2に説示したとおり、申立理由1-1を採用することはできない。
(3)申立理由1-2の検討
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の「1720~1730cm-1の吸収ピーク」を、その記載のとおりに解釈すれば、その波数が1720~1730cm-1である吸収ピークを意味すること、及び、当該吸収ピークが、どのような官能基に由来するものであるのかについては何ら特定がないことを明確に理解できる。
また、本件特許明細書の段落【0027】には、「本発明のポリウレタン接着剤組成物に含まれるエステル基(-C(=O)-O-)を有する化合物の含有量は、ポリウレタン接着剤組成物を反応により硬化して得られるポリウレタン接着剤硬化物の顕微フーリエ変換型赤外分光光度計(顕微FT-IR)測定によって判断することが可能である。
本発明のポリウレタン接着剤硬化物の顕微フーリエ変換型赤外分光光度計(顕微FT-IR)測定において、ウレタン基(-O-C(=O)-NH-)の吸収ピークは、1708~1712cm-1に、エステル基(-C(=O)-O-)の吸収ピークは、1720~1730cm-1に現われるものと見なす。」と記載されているが、この記載は、本件発明においては、1708~1712cm-1の吸収ピークをウレタン基(-O-C(=O)-NH-)に由来するものと見なし、また、1720~1730cm-1に現われる吸収ピークをエステル基(-C(=O)-O-)に由来するものと見なすと述べているだけであって、いわゆる赤外分光分析において、ウレタン基に由来する吸収ピークが1720~1730cm-1に現われる場合があることと矛盾するものではないし、上記理解とも矛盾しない。
そうすると、請求項1の「1720~1730cm-1の吸収ピーク」という記載は明確であり、したがって、請求項1の記載を引用する請求項4~7の記載も明確であるから、申立理由1-2によって、本件発明1、4~7に係る特許を取り消すべきものとすることはできない。
5 申立理由2(実施可能要件)について
(1)申立理由2の概要
申立理由2は、(B1)成分がエステル基を有する化合物でないが、ポリウレタン接着剤硬化物のTe/Tuが0.9未満であるポリウレタン接着剤組成物を製造することはできないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正前の請求項1、4~7に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない、というものである。
(2)申立理由2の検討
申立理由2は、本件訂正前の請求項1に係るポリウレタン接着剤組成物の発明が、「Te/Tuが0.9未満である」と特定されていることを前提とするものであるところ、上記第2のとおり、本件訂正が認められた結果、本件訂正後の請求項1に係る発明は、当該特定を備えていない。したがって、申立理由2は、その前提を欠くものとなった。
また、本件発明1は、「Tu/Teが0.9未満である」と特定されているから、(B1)成分がエステル基を有する化合物でない場合には、1720~1730cm-1の吸収ピークが現れず、その透過率(Te)が大きくなり、Tu/Teの値が小さくなるものである。そうすると、本件発明1のポリウレタン接着剤組成物を製造することができないということはない。
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明4~7についても同様である。
したがって、申立理由2によって、本件発明1、4~7に係る特許を取り消すべきものとすることはできない。
6 申立理由3(サポート要件)について
(1)申立理由3の概要
申立理由3は、(B1)成分がエステル基を有する化合物でないが、ポリウレタン接着剤硬化物のTe/Tuが0.9未満であるポリウレタン接着剤組成物を製造することはできないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないというもの(以下、「申立理由3-1」ともいう。特許異議申立書の特に13頁22~25行)、(B1)成分としてクレイゾールLBHを用いると低粘度状態にはならないので硬化反応時における接着剤組成物の流動可能時間が十分に長くはならず、また、(B1)成分がケン化PVAやスクロースなどの親水性の化合物である場合はその疎水性を高めることで加水分解への耐久性を高めることができるとはいえず、また、(B1)成分がスクロースである場合は、そのポリウレタンが砕けやすいので、常温での可撓性、接着性に優れているポリウレタン接着剤になるとはいえないので、本件発明は、加水分解への耐久性に優れ、硬化反応時における接着剤組成物の流動可能時間が十分に長い、ポリウレタン接着剤組成物を提供できるという課題を解決することができるものであると認識するはずがないというもの(以下、「申立理由3-2」ともいう。特許異議申立書の特に13頁26行~14頁18行)、及び、当業者は、(B1)成分におけるエステル基(-C(=O)-O-)を有する化合物の割合が多いとTe/Tuが小さくなり、また、加水分解への耐久性が劣化すると予測するから、(B1)成分としてエステル基(-C(=O)-O-)を有する化合物を50質量%以上含有し、Te/Tuが0.9未満である場合が本件発明に含まれているが、そのような場合には加水分解への耐久性に優れるとは認識せず、したがって、本件発明は、その課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないというもの(以下、「申立理由3-3」ともいう。特許異議申立書の特に14頁21行~15頁11行)である。
(2)申立理由3-1、3-3の検討
申立理由3-1、3-3は、いずれも、本件訂正前の請求項1に係るポリウレタン接着剤組成物の発明が、「Te/Tuが0.9未満である」と特定されていることを前提とするものであるが、上記第2のとおり、本件訂正が認められた結果、本件発明は、当該特定を備えていない。したがって、申立理由3-1、3-3は、その前提を欠くものとなった。
また、申立理由3-1、3-3の内容は、取消理由2と軌を一にするものであるから、上記第4の3に説示したとおりであり、採用することはできない。
したがって、申立理由3-1、3-3によって、本件発明1、4~7に係る特許を取り消すべきものとすることはできない。
(3)申立理由3-2の検討
上記第2のとおり、本件訂正が認められた結果、本件訂正後の請求項1に係る発明の(B1)成分には、クレイゾールLBH、及び、ケン化PVAが含まれていないから、(B1)成分がクレイゾールLBH、又は、ケン化PVAである場合の申立理由3-2はその前提を欠くものとなった。また、(B1)成分がスクロースである場合には、そもそも、その課題を解決することができないことを主張するものになっていない。また、仮に検討したとしても、申立理由3-2は、いずれも単に課題を解決することができない可能性があると述べているだけであって、例えば、(B1)成分がスクロースである態様における加水分解への耐久性を実際に測定し、あるいは、具体的な根拠に基づいて予測した結果を示すことなどによって、その課題を解決することができないことを立証しているわけではない。
そうすると、本件発明1がその課題を解決することができないものであるとまではいえないから、申立理由3-2によって、本件発明1に係る特許を取り消すべきものとすることはできない。本件発明4~7についても同様である。
7 申立理由4(新規性)、5(進歩性)について
(1)申立理由4、5の概要
申立理由4、5は、本件訂正前の請求項1の「1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)に対する、1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)の比(Te/Tu)が0.9未満」が「1708~1712cm-1の吸収ピークの吸収率(Au)に対する、1720~1730cm-1の吸収ピークの吸収率(Ae)の比(Ae/Au)が0.9未満」の誤記であったことを前提として、本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲8の実施例1、あるいは、比較例1から認識できる発明と同一であり、また、これらの発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、というもの(以下、「申立理由4、5-1」ともいう。)、及び、甲8には、これらの発明をモジュールにすることやモジュールを得ることについても記載されているので、本件訂正前の請求項1に係る発明を発明特定事項として含むモジュールの発明である本件訂正前の請求項4~6に係る発明、及び、当該モジュールの製造方法に係る発明である本件訂正前の請求項7に係る発明も、甲8に記載された発明であるか、甲8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、というもの(以下、「申立理由4、5-2」ともいう。)である。
(2)申立理由4、5の検討
ア 申立理由4、5は、本件訂正前の請求項1の「1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)に対する、1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)の比(Te/Tu)が0.9未満」が「1708~1712cm-1の吸収ピークの吸収率(Au)に対する、1720~1730cm-1の吸収ピークの吸収率(Ae)の比(Ae/Au)が0.9未満」の誤記であったことを前提とするものであるところ、上記第2のとおり、当該記載は、「1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)に対する1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)の比(Tu/Te)が0.9未満」の誤記であり、したがって、申立理由4、5は、その前提を欠くものとなった。
イ また、申立理由4、5-1は、甲8の実施例1、あるいは、比較例1から認識できる発明、すなわち、甲8発明1あるいは甲8発明2(上記第2の3(10)ウ(ウ)a、b)と同一であり、また、これらの発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、というものであるから、上記第2の3(10)ウ(エ)a、bを参照すると、本件発明1と甲8発明1あるいは甲8発明2の一致点、相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「(A)芳香族ポリイソシアネートのウレトンイミン変性体、及びカルボジイミド変性体から選ばれる1種以上(以下、(A)成分という)、及び(B)硬化剤(以下、(B)成分という)を含むポリウレタン接着剤組成物。」
(相違点3)
本件発明1では、「(B)成分中、(B1)2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数8~22の脂肪族ポリオール化合物、及び2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数12~22の脂肪酸とジアミン化合物との縮合反応物から選択される1種以上であるもの(以下、(B1)成分という)を50質量%以上含有し」と特定されているのに対し、甲8発明1では、「ターシャリーブチルアミンのエチレンオキサイド2モル付加物180質量部とヒマシ油820質量部を混合攪拌して得られるポリオール成分(A-1)」特定されており、また、甲8発明2では、「N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン120質量部とヒマシ油880質量部を混合攪拌して得られるポリオール成分(A-3)」と特定されている点。
(相違点4)
本件発明1では、「(A)成分と(B)成分との反応によって得られるポリウレタン接着剤硬化物の顕微フーリエ変換型赤外分光光度計(顕微FT-IR)測定において、1720~1730cm-1の吸収ピークの透過率(Te)に対する、1708~1712cm-1の吸収ピークの透過率(Tu)の比(Tu/Te)が0.9末満」に特定されているのに対し、甲8発明1、2では、このような特定を備えていない点。
ウ そして、相違点3について、上記第2の3(10)ウ(エ)cに説示した事項を参照すると、甲8には、甲8発明1の「ターシャリーブチルアミンのエチレンオキサイド2モル付加物180質量部とヒマシ油820質量部を混合攪拌して得られるポリオール成分(A-1)」をあえて変更することを着想させるとともに、本件発明1で採用されている「(B)成分中、(B1)2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数8~22の脂肪族ポリオール化合物、及び2級又は3級水酸基を1つ以上有する炭素数12~22の脂肪酸とジアミン化合物との縮合反応物から選択される1種以上であるもの(以下、(B1)成分という)を50質量%以上含有し」を充足するものに変更することを動機づけるような記載も示唆もないし、甲9~11にも、そのような変更を動機づけるような記載も示唆もない。したがって、当業者といえどもそのような変更をすることを容易になし得たとはいえない。
エ なお、相違点4について、特許異議申立人は、甲9の実験結果報告書を提出して、甲8発明1の1720~1730cm-1の吸収ピークの吸光度が0.311であり、1708~1712cm-1の吸収ピークの吸光度が0.368であった(上記第2の3(10)ウ(イ)b(c))と主張している。そこで、吸光度をランベルト/ベールの法則(A=-log(T/100))を用いて透過率に換算すると、Te=48.9%(=10-0.311×100)、Tu=42.9%(=10-0.368×100)であるから、甲8発明1のTu/Teの値は、一応、0.88と計算でき、また、同様の換算によって、甲8発明2のTu/Teの値は一応0.91(=44.0%/48.3%=(10-0.357×100)/(10-0.316×100))と計算できる。しかし、本件発明1のTuについて、本件特許明細書の段落【0027】には「但し、1708~1712cm-1のウレタン基に由来する吸収ピークの透過率が75~90%の範囲内にあり、顕微フーリエ変換型赤外分光光度計(顕微FT-IR)測定における適正な測定条件範囲内にあることが必要である。」と記載されている。そうすると、そもそも、甲9に係る測定は、適正な測定条件で行われておらず、したがって、甲9に基づく主張は採用できない。
オ また、上記第2の3(10)ウ(エ)dのとおり、本件発明1は、加水分解への耐久性に優れ、硬化反応時における接着剤組成物の流動可能時間(低粘度状態の時間)が十分に長い、ポリウレタン接着剤組成物を提供することができるという効果を奏するものである(本件特許明細書の段落【0011】)。
カ そうすると、相違点4についてさらに検討するまでもなく、本件発明1は、甲8に記載された発明ではないし、甲8~11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、本件発明1に係る特許を、申立理由4、5-1によって取り消すべきものとすることはできない。
キ また、申立理由4、5-2は、申立理由4、5-1が採用できるものであることを前提とするものであるところ、上記カのとおり、申立理由4、5-1は採用することができないものである。そうすると、本件発明3~6に係る特許を申立理由4、5-2によって取り消すべきものとすることができない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件請求項1、4~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、他に本件請求項1、4~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700399