特許異議申立
2022-700362
セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材、これを用いた成形体及びペレット、これらの製造方法、並びにセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片のリサイクル方法
- 審判番号
- 2022-700362
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-537491
- 登録番号
- 6961703
- 請求日
- 2022年04月27日
- 審決日
- 2023年03月02日
- 公報発行日
- 2023年05月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】古河電気工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
- 【権利者代理人】飯田 敏三
- 【権利者代理人】赤羽 修一
- 【異議申立人】岩城 裕司
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 大島 祥吾
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J) / P1651.536-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6961703号発明「セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材、これを用いた成形体及びペレット、これらの製造方法、並びにセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片のリサイクル方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6961703号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-29、39〕について訂正することを認める。
特許第6961703号の請求項1ないし39に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6961703号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし39に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)8月23日を国際出願日とする出願であって、令和3年10月15日にその特許権の設定登録(請求項の数39)がされ、同年11月5日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和4年4月27日に特許異議申立人 岩城 裕司(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年8月18日付で取消理由が通知されたところ、同年10月24日に特許権者 古河電気工業株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされるとともに意見書の提出がされ、同年11月11日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年12月15日に特許異議申立人より意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正請求について
1 本件訂正請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6961703号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-29、39について訂正することを求めるものである。
2 訂正の適否についての判断
(1) 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が25質量部以上50質量部未満であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材を成形したときの成形体の引張強度が20MPa以上である、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。」
と記載されているのを、
「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が25質量部以上50質量部未満であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材が下記セルロース繊維分散性試験により得られる10本の粗さ曲線においてピークトップが30μm以上でかつ表面から外側に向けて凸である山の個数が合計20個未満であるセルロース繊維分散性を示し、
前記複合材を成形したときの成形体の引張強度が20MPa以上である、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
[セルロース繊維分散性]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を80℃の温水に20日間浸漬した後に、温水から取り出した成形体表面の任意の箇所に、40mm×40mmの正方形を書き、さらにその正方形内部に4mm間隔で40mmの線分を9本書く。表面粗さ測定機を用いて、カットオフ値λc=8.0mmかつλs=25.0μmの条件の下、隣り合う2本の線分の中間線上の粗さを測定し、10本の粗さ曲線(JIS-B0601に準拠、評価長さ40mm)を得る。」
に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項10、15ないし29及び39も同様に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たし、前記セルロース繊維が繊維長1mm以上のセルロース繊維を含有する、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。」
と記載されているのを、
「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たし、前記セルロース繊維が繊維長1mm以上のセルロース繊維を含有する、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材が下記セルロース繊維分散性試験により得られる10本の粗さ曲線においてピークトップが30μm以上でかつ表面から外側に向けて凸である山の個数が合計20個未満であるセルロース繊維分散性を示す、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
[セルロース繊維分散性]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を80℃の温水に20日間浸漬した後に、温水から取り出した成形体表面の任意の箇所に、40mm×40mmの正方形を書き、さらにその正方形内部に4mm間隔で40mmの線分を9本書く。表面粗さ測定機を用いて、カットオフ値λc=8.0mmかつλs=25.0μmの条件の下、隣り合う2本の線分の中間線上の粗さを測定し、10本の粗さ曲線(JIS-B0601に準拠、評価長さ40mm)を得る。」
に訂正する。
請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項10ないし14、16ないし29及び39も同様に訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たし、前記ポリエチレン樹脂の50質量%以上が低密度ポリエチレンである、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。」
と記載されているのを、
「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たし、前記ポリエチレン樹脂の50質量%以上が低密度ポリエチレンである、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材が下記セルロース繊維分散性試験により得られる10本の粗さ曲線においてピークトップが30μm以上でかつ表面から外側に向けて凸である山の個数が合計20個未満であるセルロース繊維分散性を示す、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
[セルロース繊維分散性]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を80℃の温水に20日間浸漬した後に、温水から取り出した成形体表面の任意の箇所に、40mm×40mmの正方形を書き、さらにその正方形内部に4mm間隔で40mmの線分を9本書く。表面粗さ測定機を用いて、カットオフ値λc=8.0mmかつλs=25.0μmの条件の下、隣り合う2本の線分の中間線上の粗さを測定し、10本の粗さ曲線(JIS-B0601に準拠、評価長さ40mm)を得る。」
に訂正する。
請求項3の記載を直接又は間接的に引用する請求項10ないし15、18ないし29及び39も同様に訂正する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に
「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって
前記複合材がポリプロピレンを含有し、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部に対し、前記ポリプロピレンの含有量が20質量部以下であるセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。」
と記載されているのを、
「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって
前記複合材がポリプロピレンを含有し、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部に対し、前記ポリプロピレンの含有量が20質量部以下であり、
前記複合材が下記セルロース繊維分散性試験により得られる10本の粗さ曲線においてピークトップが30μm以上でかつ表面から外側に向けて凸である山の個数が合計20個未満であるセルロース繊維分散性を示す、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
[セルロース繊維分散性]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を80℃の温水に20日間浸漬した後に、温水から取り出した成形体表面の任意の箇所に、40mm×40mmの正方形を書き、さらにその正方形内部に4mm間隔で40mmの線分を9本書く。表面粗さ測定機を用いて、カットオフ値λc=8.0mmかつλs=25.0μmの条件の下、隣り合う2本の線分の中間線上の粗さを測定し、10本の粗さ曲線(JIS-B0601に準拠、評価長さ40mm)を得る。」
に訂正する。
請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項10ないし17、19ないし29及び39も同様に訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に
「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって
前記複合材がポリエチレンテレフタレート及びナイロンのいずれか1つ以上を含有し、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部に対し、前記ポリエチレンテレフタレートとナイロンとの総含有量が10質量部以下であるセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。」
と記載されているのを、
「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって
前記複合材がポリエチレンテレフタレート及びナイロンのいずれか1つ以上を含有し、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部に対し、前記ポリエチレンテレフタレートとナイロンとの総含有量が10質量部以下であり、
前記複合材が下記セルロース繊維分散性試験により得られる10本の粗さ曲線においてピークトップが30μm以上でかつ表面から外側に向けて凸である山の個数が合計20個未満であるセルロース繊維分散性を示す、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
[セルロース繊維分散性]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を80℃の温水に20日間浸漬した後に、温水から取り出した成形体表面の任意の箇所に、40mm×40mmの正方形を書き、さらにその正方形内部に4mm間隔で40mmの線分を9本書く。表面粗さ測定機を用いて、カットオフ値λc=8.0mmかつλs=25.0μmの条件の下、隣り合う2本の線分の中間線上の粗さを測定し、10本の粗さ曲線(JIS-B0601に準拠、評価長さ40mm)を得る。」
に訂正する。
請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項10ないし18、20ないし29及び39も同様に訂正する。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に
「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって
前記複合材の、138℃の熱キシレン溶解質量比をGa(%)、105℃の熱キシレンへ溶解質量比をGb(%)、セルロース有効質量比をGc(%)としたとき、下記式を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
{(Ga-Gb)/(Gb+Gc)}×100≦20
ここで、
Ga={(W0-Wa)/W0}×100
Gb={(W0-Wb)/W0}×100
W0:熱キシレンに浸漬する前の複合材の質量
Wa:138℃の熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
Wb:105℃の熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
Gc={Wc/W00}×100
Wc:窒素雰囲気中で270℃~390℃に昇温する間の、乾燥複合材の質量減少量
W00:昇温前(23℃)の乾燥複合材の質量
である。」
と記載されているのを、
「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって
前記複合材が下記セルロース繊維分散性試験により得られる10本の粗さ曲線においてピークトップが30μm以上でかつ表面から外側に向けて凸である山の個数が合計20個未満であるセルロース繊維分散性を示し、
前記複合材の、138℃の熱キシレン溶解質量比をGa(%)、105℃の熱キシレンへ溶解質量比をGb(%)、セルロース有効質量比をGc(%)としたとき、下記式を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
{(Ga-Gb)/(Gb+Gc)}×100≦20
ここで、
Ga={(W0-Wa)/W0}×100
Gb={(W0-Wb)/W0}×100
W0:熱キシレンに浸漬する前の複合材の質量
Wa:138℃の熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
Wb:105℃の熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
Gc={Wc/W00}×100
Wc:窒素雰囲気中で270℃~390℃に昇温する間の、乾燥複合材の質量減少量
W00:昇温前(23℃)の乾燥複合材の質量
である。
[セルロース繊維分散性]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を80℃の温水に20日間浸漬した後に、温水から取り出した成形体表面の任意の箇所に、40mm×40mmの正方形を書き、さらにその正方形内部に4mm間隔で40mmの線分を9本書く。表面粗さ測定機を用いて、カットオフ値λc=8.0mmかつλs=25.0μmの条件の下、隣り合う2本の線分の中間線上の粗さを測定し、10本の粗さ曲線(JIS-B0601に準拠、評価長さ40mm)を得る。」
に訂正する。
請求項6の記載を直接又は間接的に引用する請求項10ないし19、21ないし29及び39も同様に訂正する。
キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に
「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材が、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を原料として得られ、
前記セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片が、
(a)紙及びポリエチレン薄膜層を有するポリエチレンラミネート加工紙、及び/又は
(b)前記ポリエチレンラミネート加工紙からなる飲料・食品パック
から紙部分を剥ぎ取り除去して得られたものである、
セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。」
と記載されているのを、
「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材が、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を原料として得られ、
前記セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片が、
(a)紙及びポリエチレン薄膜層を有するポリエチレンラミネート加工紙、及び/又は
(b)前記ポリエチレンラミネート加工紙からなる飲料・食品パック
から紙部分を剥ぎ取り除去して得られたものであり、
前記複合材が下記セルロース繊維分散性試験により得られる10本の粗さ曲線においてピークトップが30μm以上でかつ表面から外側に向けて凸である山の個数が合計20個未満であるセルロース繊維分散性を示す、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
[セルロース繊維分散性]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を80℃の温水に20日間浸漬した後に、温水から取り出した成形体表面の任意の箇所に、40mm×40mmの正方形を書き、さらにその正方形内部に4mm間隔で40mmの線分を9本書く。表面粗さ測定機を用いて、カットオフ値λc=8.0mmかつλs=25.0μmの条件の下、隣り合う2本の線分の中間線上の粗さを測定し、10本の粗さ曲線(JIS-B0601に準拠、評価長さ40mm)を得る。」
に訂正する。
請求項7の記載を直接又は間接的に引用する請求項10ないし21、24ないし29及び39も同様に訂正する。
ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に
「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材が無機質材を含有する、
セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。」
と記載されているのを、
「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材が無機質材を含有し、
前記複合材が下記セルロース繊維分散性試験により得られる10本の粗さ曲線においてピークトップが30μm以上でかつ表面から外側に向けて凸である山の個数が合計20個未満であるセルロース繊維分散性を示す、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
[セルロース繊維分散性]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を80℃の温水に20日間浸漬した後に、温水から取り出した成形体表面の任意の箇所に、40mm×40mmの正方形を書き、さらにその正方形内部に4mm間隔で40mmの線分を9本書く。表面粗さ測定機を用いて、カットオフ値λc=8.0mmかつλs=25.0μmの条件の下、隣り合う2本の線分の中間線上の粗さを測定し、10本の粗さ曲線(JIS-B0601に準拠、評価長さ40mm)を得る。」
に訂正する。
請求項8の記載を直接又は間接的に引用する請求項10ないし23、25ないし29及び39も同様に訂正する。
ケ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に
「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材の線膨張係数が1×10-4以下である、
セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。」
と記載されているのを、
「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材の線膨張係数が1×10-4以下であり、
前記複合材が下記セルロース繊維分散性試験により得られる10本の粗さ曲線においてピークトップが30μm以上でかつ表面から外側に向けて凸である山の個数が合計20個未満であるセルロース繊維分散性を示す、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
[セルロース繊維分散性]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を80℃の温水に20日間浸漬した後に、温水から取り出した成形体表面の任意の箇所に、40mm×40mmの正方形を書き、さらにその正方形内部に4mm間隔で40mmの線分を9本書く。表面粗さ測定機を用いて、カットオフ値λc=8.0mmかつλs=25.0μmの条件の下、隣り合う2本の線分の中間線上の粗さを測定し、10本の粗さ曲線(JIS-B0601に準拠、評価長さ40mm)を得る。」
に訂正する。
請求項9の記載を直接又は間接的に引用する請求項10ないし25、27ないし29及び39も同様に訂正する。
コ 一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし29及び39について、
請求項10、15ないし29及び39は請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、一群の請求項であり、
請求項10ないし14、16ないし29及び39は請求項2を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、一群の請求項であり、
請求項10ないし15、18ないし29及び39は請求項3を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、一群の請求項であり、
請求項10ないし17、19ないし29及び39は請求項4を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、一群の請求項であり、
請求項10ないし18、20ないし29及び39は請求項5を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、一群の請求項であり、
請求項10ないし19、21ないし29及び39は請求項6を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、一群の請求項であり、
請求項10ないし21、24ないし29及び39は請求項7を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、一群の請求項であり、
請求項10ないし23、25ないし29及び39は請求項8を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、一群の請求項であり、
請求項10ないし25、27ないし29及び39は請求項8を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、一群の請求項である。
そして、上記9つの一群の請求項は、請求項10、25、27ないし29及び39で共通するものであるから、請求項1ないし29及び39は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1ないし9に係る請求項1ないし9の訂正はいずれも、セルロース繊維分散性の試験法を特定するとともに、その結果に基づく条件を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1ないし9に係る請求項1ないし9の訂正は、本件特許の明細書の段落【0089】の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項1ないし9をそれぞれ直接又は間接的に引用して特定する他の請求項においても同様である。
3 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-29、39〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-29、39〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし39に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明39」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、令和4年10月24日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし39に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が25質量部以上50質量部未満であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材が下記セルロース繊維分散性試験により得られる10本の粗さ曲線においてピークトップが30μm以上でかつ表面から外側に向けて凸である山の個数が合計20個未満であるセルロース繊維分散性を示し、
前記複合材を成形したときの成形体の引張強度が20MPa以上である、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
[セルロース繊維分散性]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を80℃の温水に20日間浸漬した後に、温水から取り出した成形体表面の任意の箇所に、40mm×40mmの正方形を書き、さらにその正方形内部に4mm間隔で40mmの線分を9本書く。表面粗さ測定機を用いて、カットオフ値λc=8.0mmかつλs=25.0μmの条件の下、隣り合う2本の線分の中間線上の粗さを測定し、10本の粗さ曲線(JIS-B0601に準拠、評価長さ40mm)を得る。
【請求項2】
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たし、前記セルロース繊維が繊維長1mm以上のセルロース繊維を含有する、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材が下記セルロース繊維分散性試験により得られる10本の粗さ曲線においてピークトップが30μm以上でかつ表面から外側に向けて凸である山の個数が合計20個未満であるセルロース繊維分散性を示す、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
[セルロース繊維分散性]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を80℃の温水に20日間浸漬した後に、温水から取り出した成形体表面の任意の箇所に、40mm×40mmの正方形を書き、さらにその正方形内部に4mm間隔で40mmの線分を9本書く。表面粗さ測定機を用いて、カットオフ値λc=8.0mmかつλs=25.0μmの条件の下、隣り合う2本の線分の中間線上の粗さを測定し、10本の粗さ曲線(JIS-B0601に準拠、評価長さ40mm)を得る。
【請求項3】
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たし、前記ポリエチレン樹脂の50質量%以上が低密度ポリエチレンである、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材が下記セルロース繊維分散性試験により得られる10本の粗さ曲線においてピークトップが30μm以上でかつ表面から外側に向けて凸である山の個数が合計20個未満であるセルロース繊維分散性を示す、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
[セルロース繊維分散性]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を80℃の温水に20日間浸漬した後に、温水から取り出した成形体表面の任意の箇所に、40mm×40mmの正方形を書き、さらにその正方形内部に4mm間隔で40mmの線分を9本書く。表面粗さ測定機を用いて、カットオフ値λc=8.0mmかつλs=25.0μmの条件の下、隣り合う2本の線分の中間線上の粗さを測定し、10本の粗さ曲線(JIS-B0601に準拠、評価長さ40mm)を得る。
【請求項4】
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって
前記複合材がポリプロピレンを含有し、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部に対し、前記ポリプロピレンの含有量が20質量部以下であり、
前記複合材が下記セルロース繊維分散性試験により得られる10本の粗さ曲線においてピークトップが30μm以上でかつ表面から外側に向けて凸である山の個数が合計20個未満であるセルロース繊維分散性を示す、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
[セルロース繊維分散性]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を80℃の温水に20日間浸漬した後に、温水から取り出した成形体表面の任意の箇所に、40mm×40mmの正方形を書き、さらにその正方形内部に4mm間隔で40mmの線分を9本書く。表面粗さ測定機を用いて、カットオフ値λc=8.0mmかつλs=25.0μmの条件の下、隣り合う2本の線分の中間線上の粗さを測定し、10本の粗さ曲線(JIS-B0601に準拠、評価長さ40mm)を得る。
【請求項5】
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって
前記複合材がポリエチレンテレフタレート及びナイロンのいずれか1つ以上を含有し、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部に対し、前記ポリエチレンテレフタレートとナイロンとの総含有量が10質量部以下であり、
前記複合材が下記セルロース繊維分散性試験により得られる10本の粗さ曲線においてピークトップが30μm以上でかつ表面から外側に向けて凸である山の個数が合計20個未満であるセルロース繊維分散性を示す、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
[セルロース繊維分散性]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を80℃の温水に20日間浸漬した後に、温水から取り出した成形体表面の任意の箇所に、40mm×40mmの正方形を書き、さらにその正方形内部に4mm間隔で40mmの線分を9本書く。表面粗さ測定機を用いて、カットオフ値λc=8.0mmかつλs=25.0μmの条件の下、隣り合う2本の線分の中間線上の粗さを測定し、10本の粗さ曲線(JIS-B0601に準拠、評価長さ40mm)を得る。
【請求項6】
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって
前記複合材が下記セルロース繊維分散性試験により得られる10本の粗さ曲線においてピークトップが30μm以上でかつ表面から外側に向けて凸である山の個数が合計20個未満であるセルロース繊維分散性を示し、
前記複合材の、138℃の熱キシレン溶解質量比をGa(%)、105℃の熱キシレンへ溶解質量比をGb(%)、セルロース有効質量比をGc(%)としたとき、下記式を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
{(Ga-Gb)/(Gb+Gc)}×100≦20
ここで、
Ga={(W0-Wa)/W0}×100
Gb={(W0-Wb)/W0}×100
W0:熱キシレンに浸漬する前の複合材の質量
Wa:138℃の熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
Wb:105℃の熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
Gc={Wc/W00}×100
Wc:窒素雰囲気中で270℃~390℃に昇温する間の、乾燥複合材の質量減少量
W00:昇温前(23℃)の乾燥複合材の質量
である。
[セルロース繊維分散性]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を80℃の温水に20日間浸漬した後に、温水から取り出した成形体表面の任意の箇所に、40mm×40mmの正方形を書き、さらにその正方形内部に4mm間隔で40mmの線分を9本書く。表面粗さ測定機を用いて、カットオフ値λc=8.0mmかつλs=25.0μmの条件の下、隣り合う2本の線分の中間線上の粗さを測定し、10本の粗さ曲線(JIS-B0601に準拠、評価長さ40mm)を得る。
【請求項7】
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材が、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を原料として得られ、
前記セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片が、
(a)紙及びポリエチレン薄膜層を有するポリエチレンラミネート加工紙、及び/又は
(b)前記ポリエチレンラミネート加工紙からなる飲料・食品パック
から紙部分を剥ぎ取り除去して得られたものであり、
前記複合材が下記セルロース繊維分散性試験により得られる10本の粗さ曲線においてピークトップが30μm以上でかつ表面から外側に向けて凸である山の個数が合計20個未満であるセルロース繊維分散性を示す、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
[セルロース繊維分散性]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を80℃の温水に20日間浸漬した後に、温水から取り出した成形体表面の任意の箇所に、40mm×40mmの正方形を書き、さらにその正方形内部に4mm間隔で40mmの線分を9本書く。表面粗さ測定機を用いて、カットオフ値λc=8.0mmかつλs=25.0μmの条件の下、隣り合う2本の線分の中間線上の粗さを測定し、10本の粗さ曲線(JIS-B0601に準拠、評価長さ40mm)を得る。
【請求項8】
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材が無機質材を含有し、
前記複合材が下記セルロース繊維分散性試験により得られる10本の粗さ曲線においてピークトップが30μm以上でかつ表面から外側に向けて凸である山の個数が合計20個未満であるセルロース繊維分散性を示す、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
[セルロース繊維分散性]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を80℃の温水に20日間浸漬した後に、温水から取り出した成形体表面の任意の箇所に、40mm×40mmの正方形を書き、さらにその正方形内部に4mm間隔で40mmの線分を9本書く。表面粗さ測定機を用いて、カットオフ値λc=8.0mmかつλs=25.0μmの条件の下、隣り合う2本の線分の中間線上の粗さを測定し、10本の粗さ曲線(JIS-B0601に準拠、評価長さ40mm)を得る。
【請求項9】
ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって、
前記複合材の線膨張係数が1×10-4以下であり、
前記複合材が下記セルロース繊維分散性試験により得られる10本の粗さ曲線においてピークトップが30μm以上でかつ表面から外側に向けて凸である山の個数が合計20個未満であるセルロース繊維分散性を示す、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
[セルロース繊維分散性]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を80℃の温水に20日間浸漬した後に、温水から取り出した成形体表面の任意の箇所に、40mm×40mmの正方形を書き、さらにその正方形内部に4mm間隔で40mmの線分を9本書く。表面粗さ測定機を用いて、カットオフ値λc=8.0mmかつλs=25.0μmの条件の下、隣り合う2本の線分の中間線上の粗さを測定し、10本の粗さ曲線(JIS-B0601に準拠、評価長さ40mm)を得る。
【請求項10】
温度230℃、荷重5kgfにおけるメルトフローレート(MFR)が、0.05~50.0g/10minである、請求項1~9のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
【請求項11】
前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が5質量部以上50質量部未満である、請求項2~9のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
【請求項12】
前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が25質量部以上50質量部未満であり、前記複合材を成形したときの成形体の引張強度が20MPa以上である、請求項2~9のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
【請求項13】
前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上15質量部未満であり、前記複合材を成形したときの成形体の曲げ強度が8~20MPaである、請求項2~9のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
【請求項14】
前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が15質量部以上50質量部未満であり、前記複合材を成形したときの成形体の曲げ強度が15~40MPaである、請求項2~9のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
【請求項15】
繊維長1mm以上のセルロース繊維を含有する、請求項1、3~9のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
【請求項16】
前記ポリエチレン樹脂が低密度ポリエチレンを含む、請求項1、2、4~9のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
【請求項17】
前記ポリエチレン樹脂の50質量%以上が低密度ポリエチレンである、請求項16に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
【請求項18】
前記複合材がポリプロピレンを含有し、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部に対し、前記ポリプロピレンの含有量が20質量部以下である、請求項1~3、5~9のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
【請求項19】
前記複合材がポリエチレンテレフタレート及びナイロンのいずれか1つ以上を含有し、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部に対し、前記ポリエチレンテレフタレートとナイロンとの総含有量が10質量部以下である、請求項1~4、6~9のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
【請求項20】
前記複合材の、138℃の熱キシレン溶解質量比をGa(%)、105℃の熱キシレンへ溶解質量比をGb(%)、セルロース有効質量比をGc(%)としたとき、下記式を満たす、請求項1~5、7~9のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
{(Ga-Gb)/(Gb+Gc)}×100≦20
ここで、
Ga={(W0-Wa)/W0}×100
Gb={(W0-Wb)/W0}×100
W0:熱キシレンに浸漬する前の複合材の質量
Wa:138℃の熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
Wb:105℃の熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
Gc={Wc/W00}×100
Wc:窒素雰囲気中で270℃~390℃に昇温する間の、乾燥複合材の質量減少量
W00:昇温前(23℃)の乾燥複合材の質量
である。
【請求項21】
前記ポリエチレン樹脂及び/又は前記ポリプロピレンの少なくとも一部が再生材に由来する、請求項4又は18に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
【請求項22】
前記複合材が、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を原料として得られる、請求項請求項1~6、8及び9のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
【請求項23】
前記セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片が、
(a)紙及びポリエチレン薄膜層を有するポリエチレンラミネート加工紙、及び/又は
(b)前記ポリエチレンラミネート加工紙からなる飲料・食品パック
から紙部分を剥ぎ取り除去して得られたものである、請求項22に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
【請求項24】
前記複合材が無機質材を含有する、請求項1~7及び9のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
【請求項25】
前記複合材が、23℃の水に20日間浸漬した後の吸水率が0.1~10%であり、かつ耐衝撃性が、23℃の水に20日間浸漬する前よりも浸漬した後の方が高い、請求項1~24のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
【請求項26】
線膨張係数が1×10-4以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
【請求項27】
含水率が1質量%未満である、請求項1~26のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
【請求項28】
形状がペレット状である、請求項1~27のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
【請求項29】
請求項1~28のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を用いた成形体。
【請求項30】
少なくとも、セルロース繊維が付着してなるセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を水の存在下で溶融混練し、ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなる複合材を得ることを含む、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法であって、
前記複合材が、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中の前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、
セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法。
【請求項31】
前記セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片が、紙の表面にポリエチレン薄膜が貼着されたポリエチレンラミネート加工紙から紙部分を剥ぎ取り除去して得られる薄膜片であり、水を含んだ状態である、請求項30に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法。
【請求項32】
前記溶融混練が、前記セルロース繊維を変質させない温度と大気圧以上の圧力下で行われる、請求項30又は31に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法。
【請求項33】
前記溶融混練がバッチ式閉鎖型混練装置を用いて行われる、請求項30~32のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法。
【請求項34】
前記溶融混練がバッチ式閉鎖型混練装置を用いて行われ、前記薄膜片と、水とを該バッチ式閉鎖型混練装置に投入して、該装置の回転軸の外周に突設された撹拌羽根を回転させて撹拌し、この撹拌により装置内の温度を高めて溶融混練を行う、請求項30~33のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法。
【請求項35】
前記溶融混練を、前記撹拌羽根の先端の周速を20~50m/秒として行う、請求項34に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法。
【請求項36】
前記溶融混練を亜臨界状態の水の存在下で行う、請求項30~35のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法。
【請求項37】
前記溶融混練を、セルロース材を混合して行う、請求項30~36のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法。
【請求項38】
請求項30~37のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法によりセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を得ることを含む、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片のリサイクル方法。
【請求項39】
請求項1~28のいずれか1項に記載のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材と、高密度ポリエチレン及びポリプロピレンのいずれか1つ以上とを混合し、該混合物を成形して成形体を得ることを含む、成形体の製造方法。」
第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について
特許異議申立人が特許異議申立書において、本件特許の請求項1ないし39に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨は、次の1ないし5のとおりである。
1 申立理由1(新規性)
本件特許の請求項1、3、9、10、12、25及び27に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由2(進歩性)
本件特許の請求項1ないし5、9ないし19及び25ないし29に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし6、8ないし21及び24ないし29に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由3の具体的な理由は概略次のとおりである。
(1) 申立理由3-1(原料としてセルロース薄膜片以外を用いる場合)
本件特許発明1は、本件特許発明7のように、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の原料としてセルロース繊維が付着したポリエチレン薄膜片であることは規定されていない。そのため、本件特許発明1には、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片以外の原料から製造されたセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材も権利範囲に包含している。したがって、本件特許発明1が実施可能要件を充足するためには、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片以外の原料、例えば、セルロース繊維とポリエチレンとを別々に原料とした場合に、本件明細書の記載や本件特許の出願日当時の技術常識から当業者が過度な試行錯誤を要することなく、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を製造することができる必要がある。
そこで、検討するに、原料の一つであるセルロース繊維に関して、本件明細書にはセルロース材として紙、古紙、紙粉、再生パルプ、ペーパースラッジ、ラミネート加工紙の損紙等が用いられることが記載され、複合材に含まれるセルロース繊維は、繊維長1mm以上のものを含むことが好ましいことが記載されているのみであって、セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長、アスペクト比等の基本的な情報が記載されていない。また、ポリエチレンに関しても、密度に関して低密度ポリエチレン及び高密度ポリエチレンを用いることができることが記載されているのみであって、平均分子量、分子量分布、メルトフローレート等の基本的な情報が記載されていない。さらには、溶融混練方法として温度や圧力に関する記載はあるものの、これらの条件はセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を原料として用いた場合のものであり、別々の材料であるセルロース繊維とポリエチレンを用いる場合に、本件明細書に記載の条件でセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を原料として用いたセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材と同じ複合材ができるか否かは不明である。
(2) 申立理由3-2(原料としてセルロース薄膜片を用いる場合)
本件明細書の段落【0043】には、本件特許発明1の分子量パターンを有するポリエチレン樹脂の製造方法として、水の存在下で、ポリエチレン樹脂を含む原料を高速溶融混練すればよいと記載されており、表5及び表6の実施例と比較例との比較から、亜臨界水で溶融混練することにより、分子量パターンを実現できることが記載されている。さらに、本件明細書の段落【0032】や【0045】の記載を考慮すると、前記溶融混練によってポリエチレン樹脂の一部が低分子化することが記載されている。
しかし、ポリエチレン樹脂は、熱可塑性樹脂の中でも、溶媒に対する溶解性が低いことは周知であり、分子構造から疎水性が高いため、特に、水に対する溶解性は低く、水系において低分子化させるのは困難であることが容易に予測できる。なお、本件明細書の段落【0032】では、複合材のメルトフローレートが調整される理由として、溶融混練中に発生する熱水や亜臨界状態の水の作用によって、ポリエチレン樹脂やセルロース繊維の分子の一部が低分子化することが一因と推定されると記載されている。しかし、甲第5号証の資料1の17ページ及び資料5の3ページには、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂及びポリスチレン樹脂は亜臨界水処理では、細粒化はできても、加水分解されないことが記載されている。すなわち、甲第5号証から、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂などの疎水性樹脂は、化学構造(分子構造)が変化しないことが確認されている。これらの樹脂の中でも、ポリエチレン樹脂が最も耐溶剤性が高いことを考慮すると、ポリエチレン樹脂は亜臨界水処理で低分子化しないことは明らかである。そのため、熱水や亜臨界状態の水の作用によってポリエチレン樹脂の分子の一部低分子化するという本件明細書の段落【0032】の記載は、科学的な根拠を欠く。従って、当業者であれば、亜臨界水で溶融混練することにより、ポリエチレン樹脂の分子量パターンを調整することは非常に困難な処理であることが容易に理解できる。このような技術常識の下では、溶融混練について原料の種類や製造条件は詳細かつ明確に記載されていないと、当業者であっても、過度の試行錯誤なく本件特許発明を容易に実施することはできない。これに対して、本件明細書の実施例では、溶融混練について、周速40m/sで高速撹拌することが記載されているのみであり、亜臨界状態における温度、圧力は記載されていない。また、原料である紙性飲料容器の詳細も記載されていない。従って、本明細書の実施例に接した当業者であっても、亜臨界水で溶融混練することにより、ポリエチレン樹脂の分子量を調整するのは容易ではない。このように、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を原料とした場合であっても、ポリエチレン樹脂の分子量を調整するのは容易ではないため、ポリエチレン同士が凝集し易い状況にある場合では、樹脂の分解状況が大きく異なり、過度の試行錯誤を要するのは明らかである。
4 申立理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし39に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由4の具体的な理由は概略次のとおりである。
(1) 申立理由4-1(原料の種類)
本件特許発明の課題を解決する方法として、本件明細書の段落【0013】には、牛乳パック等の紙製飲料容器を構成しているポリエチレンラミネート加工紙を水中で撹拌し、この撹拌により紙部分を剥ぎ取り除去して、セルロース繊維が付着したポリエチレン薄膜片を得、この薄膜片を、水の存在下で溶融混練することにより、ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を十分均ーな状態で分散させることができること、さらにこの溶融混練により水分を取り除くことができ、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維とがいわば一体化した複合材を、優れたエネルギー効率で得ることができることを見出したことが記載され、その具体例として実施例1~24が記載されている。
ここで、本件特許発明7が原料をセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片に特定しているのに対して、本件特許発明1は原料を特定していない。そのため、本件特許発明1がサポート要件を充足するためには、原料としてセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片以外の原料を用いた場合でも、ポリエチレン樹脂が発明特定事項である所定の分子量パターンを満たしさえすれば、本件特許発明の課題が解決できることが必要となる。
そこで、検討するに、甲第2号証の記載から明らかなように、市販の低密度ポリエチレン及び市販の直鎖状低密度ポリエチレン、すなわち一般的なポリエチレン樹脂も本件特許発明1の分子量パターンを充足している。また、例えば、単純に前記所定の分子量パターンを有するポリエチレン樹脂に所定量のセルロース繊維を添加し、溶融混合して得たセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材は、本件特許発明1の技術的範囲に属するものではあるが、甲第4号証に記載のとおり、疎水性のポリエチレン樹脂に親水性のセルロース繊維を添加して溶融混合しても、凝集物ができて強度が大幅に低下することが技術常識として知られている。そのため、このようなセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材では耐衝撃性も低下し、本件特許発明の課題が解決できないことは明らかである。
また、甲第6号証に記載のとおり、牛乳パック等の紙製飲料容器を構成しているポリエチレンラミネート加工紙はその用途から耐圧性、耐水性、耐気体透過性及び耐衝撃性を備えるため、その材料であるパルプ(セルロース繊維)及びポリエチレン樹脂には一定の基準を満たす品質又はグレードの原料が用いられることは明らかである(甲第6号証の84~92ページ、本件明細書の段落【0024】)。このような高品質なセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を原料として用いて、ポリエチレン樹脂を所定の分子量パターンに調整した場合に実施例1~24に示されるような耐衝撃性等の機械的物性を有するセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を得ることができると理解することはできても、その他のいかなる品質の原料を用いても実施例1~24に示されるような耐衝撃性等の機械的物性を有するセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を得ることができると当業者が理解することはできない。特に、前述のように、分子量パターンは特徴とはならないため、市販の低密度ポリエチレンなどを含むポリエチレン樹脂自身の特性だけでは、本件発明の効果を奏さないことは明らかである。さらに、牛乳パック等の紙製飲料容器では、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維とが一体化しているだけでなく、甲第6号証にも記載されているように、インキなど他の成分を含有している。そのため、このような一体化物に含まれる他の成分について何ら特定せず、法令で決められた限定された紙パックの原料にも限定されておらず、かつ独立したポリエチレン樹脂とセルロース繊維とを用いて得られる態様も包含する本件特許発明1が本件特許発明の課題を解決できない範囲を包含しているのは明らかである。
よって、原料としてセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を規定していない本件特許発明1~6、8~21、24~29がサポート要件を充足していないことは明らかである。
(2) 申立理由4-2(分子量パターン)
本件特許発明1の発明特定事項として、GPC測定で得られる分子量パターンが1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たすことが規定されている。本件明細書に記載された実施例1~19及び比較例1~7では、ポリエチレン樹脂の分子量パターンが測定されているところ、本件明細書の表1~6には○及び×の記載があるものの、具体的な半値幅(Log(MH/ML))の測定値は記載されていない。この○及び×の意味は、本件明細書の段落【0090】によると、分子量パターンが1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たすものを○、満たさないものを×とする旨が記載されている。
しかしながら、実施例1~19及び比較例1~7における半値幅(Log(MH/ML))の数値が記載されていないため、当業者は半値幅(Log(MH/ML))が1.7~1.0の数値範囲全体で本件特許発明の課題が解決できることを理解できない。
ところで、特許権者の別出願である甲第7号証には、本件特許発明と同じセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材、それを用いた成形体及びペレット、並びに、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片のリサイクル方法に関する発明が記載されている。その具体例として、甲第7号証には、本件特許発明と同様にセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片をバッチ式閉鎖型混練装置に投入し、水を亜臨界状態にして溶融混練して調製したセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材に関する実施例1~22が記載されている。このうち、甲第7号証の実施例1~19と本件明細書の実施例1~19とを比較すると、原料であるセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片の含水率が甲第7号証では0%で本件明細書では0.2質量%の違いはあるものの、反応に必要な水が別途添加されており、実質的に同じ条件でセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を調製しており、このことは調製されたセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材のメルトフローレート、耐衝撃性、曲げ強度、吸水率及び吸水後耐衝撃残率の測定値が全て一致していることからも明らかである。
ここで、甲第7号証の実施例1~19の分子量パターンは◎及び○で評価されているところ、甲第7号証の段落【0071】によると分子量パターンが1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.3を満たすものが◎又は○で評価されていると記載されている。前記のとおり、甲第7号証の実施例1~19と本件明細書の実施例1~19とは、実施的に同一の条件でセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を調製し、メルトフローレート等の物性値が全て一致しているため、分子量パターンも一致している蓋然性が極めて高いといえる。そうすると、本件明細書の実施例1~19のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の分子量パターンも、甲第7号証の実施例1~19と同様1.7>(Log(MH/ML))>1.3を満たしていることは明らかである。
そうすると、本件明細書の実施例1~19のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材は1.7~1.3の数値範囲に値を持つところ、なぜこの数値範囲より広い1.7~1.0の間で本件特許発明の課題が解決できるか、当業者が理解することはできない。
そもそも、半値幅(Log(MH/ML))は、本件明細書の段落【0043】や【0090】に測定方法が明記されており、実施例1~19及び比較例1~7においても半値幅(Log(MH/ML))が実際に測定されているのであるから、その測定値を本件明細書に記載するのに、何らの困難性もなければ記載できない合理的理由も考えられない。仮に測定値を記載できるにもかかわらず○×評価で代替可能であるとすれば、例えば、半値幅(Log(MH/ML))が1.5前後の測定値であっても、これらの測定値を○×評価でブラックボックス化し、半値幅(Log(MH/ML))の数値範囲を5.0~0.5にすることも可能となってしまい、不合理であることは明らかである。したがって、本件特許発明1の具体例である実施例1~19及び比較例1~7は実質的に記載されていないものである。また、異議決定について争われた判決(平成17年(行ケ)第10015号)においても、顕著な作用効果が看過されたか否かが審理されているが、その中で、以下のように結論付けている。すなわち、耐塩ビ可塑剤性(耐塩ビ汚染性)の評価基準について「△(やや問題あり)と〇(実用可能)との差がどの程度のものなのか,◎とどれほど異なるのか,などといった事項が全く不明である。したがって,耐塩ビ可塑剤性が著しく改善したとも,異質な効果が生じたともいい難いところである」と結論付けており、本件明細書の実施例についても、数値が明確にされておらず、分子量パターンが効果に直結するのであれば事情は同様である。
そうすると、本件明細書の他の記載を参酌しても、分子量パターンが1.7>(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たすことで課題を解決できると理解できるだけの記載はなく、またこれを補う技術常識も存在しない。
よって、本件特許発明1はサポート要件を充足しておらず、また本件特許発明2~29も同様の理由により、サポート要件を充足していないことは明らかである。
(3) 申立理由4-3(製造方法)
本件特許発明30はセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の製造方法に関する発明であるところ、発明特定事項としてセルロース繊維が付着してなるセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を水の存在下で溶融混練し、ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなる複合材を得ることが規定されている。
本件特許発明30では溶融混練をどのような状態で行うかに関しては規定されていないが、本件明細書の実施例1~24ではバッチ式閉鎖型混練装置を用いて水を亜臨界状態にして溶融混練しているのに対して、比較例3ではニーダーを用いて溶融混練している。すると、水を亜臨界状態にして溶融混練した場合は、本件発明の課題である所定の分子量パターンを有し、すぐれた動性、射出成形性、耐衝撃特性等の機械的特性を有するセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を製造できることは理解できても、亜臨界状態以外の場合に単に水の存在下で溶融混練しただけで、機械的特性に優れたセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を製造できるか否か、当業者は理解することができない。
また、本件特許発明30ではセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の原料として、少なくとも、セルロース繊維が付着してなるセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を用いることが記載されており、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片の他に他の原料を使用してもよいことが記載されている。本件明細書の実施例20~22ではセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片の他に再生高密度ポリエチレンを使用した具体例が記載されているものの、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片の他にセルロース繊維を添加した具体例は記載されていない。前記アに記載のとおり、親水性のセルロース繊維を疎水性のポリエチレン中に一様に分散させることは困難であるのが技術常識であるところ、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片とセルロース繊維を原料とした場合に、どのようにして本件発明のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を調製するかについて、本件明細書には何らの記載もない。
よって、本件特許発明30はサポート要件を充足していない。また、これを引用する本件特許発明31~39も同様の理由によりサポート要件を充足していない。
ところで、本件特許発明30には発明特定事項として、複合材が、ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中のセルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たすことが規定されているが、この発明特定事項は製造されたセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の物性等を特定するものであり、具体的な製造方法を特定するものではないから、製造されるセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の目標となる物性値等が規定されることによって、サポート要件を満たすことにならないのは明らかである。
5 申立理由5(明確性要件)
本件特許の請求項6、10ないし19及び21ないし29に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由5の具体的な理由は概略次のとおりである。
本件特許発明6の発明特定事項である熱キシレン溶解質量比の関係式{(Ga-Gb)/(Gb+Gc)}×100≦20について、段落【0059】には例えば「ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部に対し、ポリプロピレンの含有量が20質量部以下である」場合に、前記関係式が満たされることが記載されている。
一方、本件特許発明6はポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散したセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の発明であり、通常ポリエチレン樹脂にはポリプロピレン等の他の合成樹脂が含まれていないことは技術常識である。
すると、本件特許発明6の熱キシレン溶解質量比に関する不等式と他の発明特定事項が技術的にどのような関係にあるか理解することができず、明確性要件を充足していないことは明らかである。また、本件特許発明6を引用する本件特許発明10~19、21~29及び熱キシレン溶解質量比を発明特定事項とする本件発明20も、同様の理由により明確性要件を充足していないことは明らかである。
6 証拠方法
・甲第1号証:特開2011-116838号公報
・甲第2号証:技術レポート No.T1107【技術資料】光劣化させたポリエチレン(PE)の分子量測定、2011.11.04。株式会社東ソー分析センター、p.1-3
・甲第3号証:技術レポート No.1408【技術資料】高温GPC(SEC)-FTIRによる高分子の解析~エチレン-αオレフィン共重合体の短鎖分岐度分析分布~、2014.11.28、株式会社東ソー分析センター、p.1
・甲第4号証:日本ゴム協会誌、高分子分散剤による木材由来ナノセルロースの界面機能制御と樹脂複合材料への応用、2015年、第88巻、第11号、p.443-446
・甲第5号証:農林水産省 食品等のリサイクルの新たな展開を目指す亜臨界水処理技術の導入検討、第2回検討委員会の資料1(亜臨界水処理技術の実機試験)、p.1-18、資料5(亜臨界水処理技術の導入検討(まとめ))、p.1-9、https://ww.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/arinkai.html
・甲第6号証:紙パック宣言、(株)日本評論社、2009年8月25日、p.84-92、表紙、奥付
・甲第7号証:特許第6210582号公報
なお、証拠の表記については、おおむね特許異議申立書における記載にしたがった。
第5 令和4年8月18日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の概要
請求項1ないし29及び39に係る特許に対して、当審が令和4年8月18日付け取消理由通知で特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。なお、取消理由には、申立理由4-1に係る部分が包含される。
取消理由(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし29及び39に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、取消理由の具体的理由は、おおむね次のとおりである。
本件特許発明1ないし29及び39の課題(以下、単に「本件特許発明の課題」という。)は、明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】の記載からみて、「セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片の再利用技術において、ポリエチレン樹脂中に、特定量のセルロース繊維が十分均一な状態で分散してなり、樹脂製品の原料として有用な、ポリエチレンが所定の分子量分布を有するセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材、この複合材を用いたペレット及び成形体を提供すること」と認められる。
そして、明細書の発明の詳細な説明の段落【0024】ないし【0026】、【0041】、【0043】、【0045】の記載及び実施例・比較例の記載からみて、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を再利用するものであって、セルロース繊維分散性として段落【0089】の条件、分子量パターンとして段落【0090】の条件をともに満たすものである場合には、当業者は、本件特許発明の課題を解決するものと認識できるものの、セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片以外のものを再利用した場合や、セルロース繊維が十分に分散しないものを包含しているもの(要するに、段落【0089】の条件を満たさないもの)まで本件特許発明の課題を解決するものとは認識することができない。
そして、本件特許発明1ないし29及び39はいずれも、分子量パターンの条件を満たす特定事項を有するものの、原料(セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片)やセルロース繊維分散性の条件を満たす特定事項を有するものではない。
したがって、本件特許発明1ないし29及び39に関して、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているものとはいえない。
第6 当審の判断
1 取消理由(サポート要件)についての判断
(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2) サポート要件についての判断
本件特許発明1ないし29及び39の課題(以下、「発明の課題1」という。)は、「ポリエチレン樹脂中に、特定量のセルロース繊維が十分均一な状態で分散してなり、樹脂製品の原料として有用な、ポリエチレンが所定の分子量分布を有するセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材、この複合材を用いたペレット及び成形体を提供すること」(【0012】)である。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明のセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材(以下、単に「本発明の複合材」とも称す。)は、ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす」(【0041】)ものであること、「ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中に占めるセルロース繊維の割合を70質量部以下とする。この割合を70質量部以下とすることにより、この複合材の調製における溶融混練により、セルロース繊維をより均一に分散させることができ、得られる複合材の吸水性をより抑えることが可能となる」(【0042】)こと、「本発明の複合材を構成するポリエチレン樹脂が、・・・GPC測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たすことにより、複合材の流動性、射出成形性をより向上させることができ、また耐衝撃性をより高めることができる」(【0043】)こと、さらに、セルロース繊維分散性の試験に基づきセルロース分散性の評価を行うこと(【0089】)、及び実施例が記載されている。
これらの記載に接した当業者であれば、「ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中に占めるセルロース繊維の割合を70質量部以下」とし、「ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす」ものであって、特定のセルロース繊維分散性試験で所定の条件を満たす、との特定事項を満たすものであれば、発明の課題1を解決するものと認識できる。
そして、本件特許発明1ないし9はいずれも、上述の特定事項を全て有するものであるから、当然に発明の課題1を解決する。
本件特許発明1ないし9の全ての発明特定事項を有する本件特許発明10ないし29及び39も同様である。
したがって、本件特許発明1ないし29及び39に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件を満たすものといえる。
(3) 特許異議申立人の意見書における主張について
特許異議申立人は、令和4年12月15日に提出した意見書において、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の原料を特定する必要がある旨主張する。
しかしながら、本件特許発明1ないし29及び39は物についての発明であり、かつ、そのものの性状が特定されているものであって、上記(2)のとおり判断されるのであり、特許異議申立人の当該主張は、その判断に影響しない。
(4) 取消理由についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、取消理由は、その理由がない。
2 令和4年8月18日付けの取消理由において採用しなかった特許異議申立理由についての判断
(1) 申立理由1及び2(新規性・進歩性)について
ア 主な証拠における記載事項等
(ア) 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「セルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法、セルロース含有熱可塑性樹脂およびその成形体」に関し、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は繊維状セルロースを含有したセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法、セルロース含有熱可塑性樹脂およびその成形体に関するものである。」
「【0012】
そこで、本発明の課題は、繊維状セルロースの取り扱いが容易で、成形時の加熱により成形体が変色したり、臭気を発生することがなく、さらに、繊維状セルロースと熱可塑性樹脂との界面における親和性が良好であるため、外観もよく、成形体の強度特性が良好であり、かつ、再成形可能な、すなわちリサイクル性のあるセルロース含有熱可塑性樹脂の製造方法、セルロース含有熱可塑性樹脂およびその成形体を提供することである。」
「【0043】
(実施例1)
セルロース集合体として、広葉樹晒クラフトパルプ(L-BKP)のパルプシートを用意し、(株)ホーライ製粉砕機(商品名:BO-2572、30mmスクリーン装着)で粗粉砕した。次に、ターボ工業(株)製解繊機(商品名:ターボミルT-250)に粗粉砕物を投入し、該パルプシートを解繊し、本発明におけるセルロースを得た。なお、該セルロースの水分含有率は18質量%であった。該セルロース/熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V)/無水マレイン酸変性ポリプロピレン(三菱化学(株)、商品名:モディック(登録商標)P928)=50/45/5(質量比)となるように調製し、予備混合した後にバッチ式密閉型混練装置((株)エムアンドエフ・テクノロジー製)の撹拌室に投入した。その後、回転数2700rpmで回転羽根を回転させた。回転開始と同時に水蒸気の解放機構部より水蒸気が漏れだしたが、30秒後に漏れは停止し、水蒸気の解放機構部にて均衡が保たれた状態で溶融混合が進行した。水蒸気の漏れが停止してから30秒後、モーターの回転トルク値が最大値に達した後、減少しだし、最小値を示し上昇に転じてから3秒後に、モーターのスイッチを切り、回転羽根の回転を止めた。なお、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間、撹拌室内部の温度は250℃、圧力は2.00MPaを示していた。」
「【0049】
(実施例7)
回転羽根の回転数を3800rpmに変更し、さらに、水蒸気の解放機構部を調節して、水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間の撹拌室内部の温度が370℃を示し、圧力が0.20MPaを示すようにした以外は実施例1と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。」
「【0051】
(実施例9)
水蒸気の漏れが停止してから回転羽根の回転停止までの間の撹拌室内部の温度が370℃を示し、圧力が21.00MPaを示すように水蒸気の解放機構部を調節した以外は実施例7と同様にして本発明のセルロース含有熱可塑性樹脂を得た。なお、この温度圧力条件は水の亜臨界状態に相当する。」
「【0100】
【表1】
[図:0001397185000001.jpg]
」
「【0102】
【表3】
[図:0001397185000002.jpg]
」
(イ) 甲第1号証に記載された発明
上記(ア)の記載中の実施例9により得られた「セルロース含有熱可塑性樹脂」を「甲1発明」とする。
イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「セルロース含有熱可塑性樹脂」は、本件特許発明1の「セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材」のうち、「セルロース繊維分散樹脂複合材」の限りにおいて相当する。
また、甲1発明のセルロース含有熱可塑性樹脂は、「セルロース/熱可塑性樹脂((株)プライムポリマー製、商品名:プライムポリプロ(登録商標)F109V)/無水マレイン酸変性ポリプロピレン(三菱化学(株)、商品名:モディック(登録商標)P928)=50/45/5(質量比)」となるように調製したものであって、「セルロースの水分含有率は18質量%」であるから、本件特許発明1における「前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が25質量部以上50質量部未満」との特定事項のうち、「前記樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が25質量部以上50質量部未満」との限りにおいて満たす。
してみると、両者は、
「樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が25質量部以上50質量部未満である、セルロース繊維分散樹脂複合材。」
で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
樹脂に関し、本件特許発明1は「ポリエチレン樹脂」であるのに対し、甲1発明は「ポリプロピレン樹脂」である点。
(相違点2)
本件特許発明1は「前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす」と特定するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
(相違点3)
複合材を成形したときの成形体の引張強度について、本件特許発明1は「20MPa以上」と特定するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
(相違点4)
本件特許発明1はセルロース分散性についてその試験法及びセルロース繊維分散性の程度を特定するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
甲第1号証及び他の全ての証拠をみても、甲1発明におけるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定における分子量パターンが特定の値となることを推定させる記載はないから、相違点2は実質的な相違点である。
よって、本件特許発明1は、甲1発明ではない。
また、甲第1号証及び他の全ての証拠をみても、甲1発明におけるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定における分子量パターンが特定の値となるように調整し、相違点2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとする動機付けがあるともいえない。
してみると、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(イ) 本件特許発明2ないし5及び9について
本件特許発明2ないし5及び9と甲1発明とを対比すると、上記(ア)と同様の相当関係が成り立つから、少なくとも上記の相違点1、2及び4の点で相違する。
そして、相違点2については上記(ア)と同様に判断されるから、本件特許発明2ないし5及び9はいずれも、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(ウ) 本件特許発明10ないし19及び25ないし29について
本件特許発明10ないし19及び25ないし29はいずれも、本件特許発明1ないし5及び9のいずれかの全ての特定事項を有するものである。
そして、本件特許発明1ないし5及び9は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明1ないし5及び9のいずれかの全ての特定事項を有するものである本件特許発明10ないし19及び25ないし29も、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 申立理由1及び2についてのまとめ
上記イのとおりであるから、申立理由1及び2は、その理由がない。
(2) 申立理由3(実施可能要件)について
ア 実施可能要件の判断基準
本件特許発明1ないし6、8ないし21及び24ないし29は、上記第3のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、発明の詳細な説明にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たすと言うことができる。
イ 実施可能要件についての判断
本件特許発明1ないし6、8ないし21及び24ないし29に関し、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明は、ポリエチレン樹脂中に、特定量のセルロース繊維が十分均一な状態で分散してなり、樹脂製品の原料として有用な、ポリエチレンが所定の分子量分布を有するセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材」(【0012】)であって、「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす」(【0041】)ものであること及びその製造方法(【0023】ないし【0040】)の記載があり、具体的な実施例の記載もある。
してみれば、発明の詳細な説明には本件特許発明1ないし6、8ないし21及び24ないし29を生産することができる具体的な記載があるといえるから、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たすものといえる。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、要するに、原料としてセルロース薄膜片でないものまで適用できない、さらには、原料としてセルロース薄膜片を用いたとしても過度の試行錯誤を要する旨主張する。
しかしながら、上記イの検討のとおり、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、その製造方法について一応の指針が示されており、具体的な実施例の記載もあることからすれば、特許異議申立人の上記主張はいずれも、実施可能要件の判断に影響しない。
エ 申立理由3についてのまとめ
上記イ及びウのとおりであるから、申立理由3は、その理由がない。
(3) 申立理由4(サポート要件)のうち、申立理由4-2及び4-3について
ア サポート要件の判断基準
サポート要件の判断基準については、上記1(1)のとおりである。
イ サポート要件の判断について
(ア) 本件特許発明1ないし29及び39について
上記1(2)で判断したとおりである。
(イ) 本件特許発明30ないし38について
本件特許発明30ないし38の課題(以下、「発明の課題2」という。)は、「紙及びポリエチレン薄膜層を有するポリエチレンラミネート加工紙からなる飲料パックないし食品パック等から得られる、セルロース繊維がポリエチレン薄膜片に付着してなるセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、簡単な処理工程で一体的に処理し、樹脂製品の原料として有用なセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を製造する方法を提供すること」(【0012】)である。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明の製造方法では、原料として、セルロース繊維が付着してなるポリエチレン薄膜片を用いる」(【0023】)こと、「セルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、水の存在下で溶融混練する。すなわち、水の存在下で溶融混練することによって、セルロース繊維が分散してなるポリエチレン樹脂複合材を得ることができる」(【0027】)こと、「ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中に占めるセルロース繊維の割合を70質量部以下とする。この割合を70質量部以下とすることにより、この複合材の調製における溶融混練により、セルロース繊維をより均一に分散させることができ、得られる複合材の吸水性をより抑えることが可能となる」(【0042】)こと、「本発明の複合材を構成するポリエチレン樹脂が、・・・GPC測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たすことにより、複合材の流動性、射出成形性をより向上させることができ、また耐衝撃性をより高めることができる」(【0043】)こと、及び実施例が記載されている。
これらの記載に接した当業者であれば、「原料として、セルロース繊維が付着してなるポリエチレン薄膜片を用い」、「水の存在下で溶融混練する」製造方法であって、「ポリエチレン樹脂とセルロース繊維の総含有量100質量部中に占めるセルロース繊維の割合を70質量部以下」とし、「ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす」、との特定事項を満たすものであれば、発明の課題2を解決するものと認識できる。
そして、本件特許発明30は、上述の特定事項を全て有するものであるから、当然に発明の課題2を解決する。
本件特許発明30の全ての発明特定事項を有する本件特許発明31ないし38も同様である。
したがって、本件特許発明30ないし38は、サポート要件を満たすものといえる。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は特許異議申立書において、概略、亜臨界状態以外の場合において機械的特性に優れたセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を製造できるか否か、当業者は理解することができないこと(申立理由4-2)、他にセルロース繊維を添加した具体例の記載がないこと、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たすことが規定されているが、この発明特定事項は製造されたセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材の物性等を特定するものであり、具体的な製造方法を特定するものではないこと(申立理由4-3)などをあげ、本件特許発明30ないし38に関し、発明の詳細な説明の記載は、サポート要件を満たさない旨主張する。
しかしながら、「セルロース繊維がポリエチレン薄膜片に付着してなるセルロース繊維付着ポリエチレン薄膜片を、簡単な処理工程で一体的に処理し、樹脂製品の原料として有用なセルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材を製造する方法を提供する」との課題は、上記イのとおりの原料・方法・性状に関する特定事項を満たすことで解決するものと判断されるのであり、そのことは具体的な実施例においても裏付けられているといえるし、実施例以外の条件、方法では発明の課題2を解決することができないとする具体的な証拠が示されているものでもない。
したがって、特許異議申立人の上記主張はいずれも採用しない。
エ 申立理由4のうち、申立理由4-2及び4-3についてのまとめ
上記イ及びウのとおりであるから、申立理由4-2及び4-3は、その理由がない。
(4) 申立理由5(明確性要件)について
ア 明確性要件についての判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
イ 明確性要件についての判断
本件特許発明6は、
「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してなり、前記ポリエチレン樹脂と前記セルロース繊維の総含有量100質量部中、前記セルロース繊維の割合が1質量部以上70質量部以下であり、前記ポリエチレン樹脂が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおいて、1.7>半値幅(Log(MH/ML))>1.0の関係を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材であって
前記複合材が下記セルロース繊維分散性試験により得られる10本の粗さ曲線においてピークトップが30μm以上でかつ表面から外側に向けて凸である山の個数が合計20個未満であるセルロース繊維分散性を示し、
前記複合材の、138℃の熱キシレン溶解質量比をGa(%)、105℃の熱キシレンへ溶解質量比をGb(%)、セルロース有効質量比をGc(%)としたとき、下記式を満たす、セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材。
{(Ga-Gb)/(Gb+Gc)}×100≦20
ここで、
Ga={(W0-Wa)/W0}×100
Gb={(W0-Wb)/W0}×100
W0:熱キシレンに浸漬する前の複合材の質量
Wa:138℃の熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
Wb:105℃の熱キシレンに浸漬後、キシレンを乾燥除去した後の複合材の質量
Gc={Wc/W00}×100
Wc:窒素雰囲気中で270℃~390℃に昇温する間の、乾燥複合材の質量減少量
W00:昇温前(23℃)の乾燥複合材の質量
である。
[セルロース繊維分散性]
事前に含水率0.5質量%以下になるまで、80℃の温風乾燥機で乾燥した複合材を、プレスで100mm×100mm×1mmのシート状に成形して成形体を得、この成形体を80℃の温水に20日間浸漬した後に、温水から取り出した成形体表面の任意の箇所に、40mm×40mmの正方形を書き、さらにその正方形内部に4mm間隔で40mmの線分を9本書く。表面粗さ測定機を用いて、カットオフ値λc=8.0mmかつλs=25.0μmの条件の下、隣り合う2本の線分の中間線上の粗さを測定し、10本の粗さ曲線(JIS-B0601に準拠、評価長さ40mm)を得る。」
と特定されるものであるが、「ポリエチレン樹脂中にセルロース繊維を分散してな」る「セルロース繊維分散ポリエチレン樹脂複合材」であること、セルロース繊維の割合、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定で得られる分子量パターンにおける半値幅の範囲、138℃の熱キシレン溶解質量比をGa(%)、105℃の熱キシレンへ溶解質量比をGb(%)、セルロース有効質量比をGc(%)としたときの関係式、セルロース繊維分散性試験の方法及びその条件がそれぞれ特定されており、その発明特定事項は明確である。
同様に、本件特許発明10ないし19及び21ないし29についても、その発明特定事項は明確である。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件特許発明6の熱キシレン溶解質量比に関する不等式と他の発明特定事項が技術的にどのような関係にあるか理解することができず、明確性要件を充足していない旨主張するが、本件特許発明6は、その特定事項を全て満たすことを要するものであることは明らかであり、その点において明確である。
本件特許発明10ないし19及び21ないし29についても同様である。
よって、特許異議申立人の上記の主張は採用しない。
エ 申立理由5についてのまとめ
上記イ及びウのとおりであるから、申立理由5は、その理由がない。
第7 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし39に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし39に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700362