特許異議申立
2022-700357
ハブユニット軸受
- 審判番号
- 2022-700357
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-085210
- 登録番号
- 6957958
- 請求日
- 2022年04月27日
- 審決日
- 2022年07月13日
- 公報発行日
- 2022年08月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本精工株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人貴和特許事務所
- 【異議申立人】籾井 孝文
- 審判長/審判官
- 審判長 間中 耕治
- 審判官 保田 亨介
- 審判官 内田 博之
- 分類
- P1651.121-Y (F16C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6957958号発明「ハブユニット軸受」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6957958号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6957958号の請求項1~3に係る特許についての出願は、平成29年4月24日に出願され、令和3年10月11日にその特許権の設定登録がされ、同年11月2日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和4年4月27日に特許異議申立人籾井孝文(以下、「特許異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
特許第6957958号の請求項1~3の特許に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明3」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
静止側筒部と、該静止側筒部の外周面から径方向外方に伸長する、懸架装置に結合固定するための静止側フランジと、前記静止側筒部の内周面に設けられた複列の外輪軌道とを有し、前記複列の外輪軌道のうちの軸方向外側列の外輪軌道の軌道径が、前記複列の外輪軌道のうちの軸方向内側列の外輪軌道の軌道径よりも大きくなっている、外方部材と、
外周面に複列の内輪軌道を有する内方部材と、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に配置された複数個の転動体と、を備え、
前記静止側筒部は、全体が金属により一体に構成されており、かつ、前記静止側フランジよりも軸方向外側に位置する軸方向範囲のうちの少なくとも一部の軸方向範囲が、前記静止側フランジの軸方向外側面の径方向内端縁よりも外径が大きい大径筒部になっており、該大径筒部の軸方向内端縁は、前記軸方向外側列の外輪軌道のうちで最も径方向外側に位置する部位よりも軸方向内側に位置しており、前記大径筒部の軸方向外端縁は、前記軸方向外側列の外輪軌道よりも軸方向外側に位置しており、
前記軸方向外側列の外輪軌道の全体が、前記大径筒部の内周面に備えられており、
前記大径筒部のうちで前記軸方向外側列の外輪軌道よりも軸方向外側に位置する部位の外周面にのみ、径方向内方に凹入する樋溝が周方向に備えられており、
前記樋溝のうちで最も径方向内側に位置する部位の外径は、前記静止側フランジの軸方向外側面の径方向内端縁の直径よりも小さい、
ハブユニット軸受。
【請求項2】
前記静止側筒部の内周面のうちで前記複列の外輪軌道よりも軸方向外側に設けられた嵌合面部と、該嵌合面部に締り嵌めで内嵌された円環状の芯金を有するシールリングとを、さらに有し、
前記大径筒部の軸方向外端縁および前記樋溝のうちで最も径方向内側に位置する部位が、前記嵌合面部と前記芯金との嵌合部よりも軸方向外側に位置している、
請求項1に記載のハブユニット軸受。
【請求項3】
前記内方部材が、前記複列の内輪軌道よりも軸方向外側部に、車輪を支持固定するための回転側フランジをさらに有しており、
前記回転側フランジの円周方向複数箇所に透孔が備えられており、
前記内方部材の中心軸を中心とする前記透孔の内接円の直径が、前記静止側筒部の軸方向外端面の外径よりも小さくなっている、
請求項1または2に記載のハブユニット軸受。」
第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として特開2017-62019号公報(以下、「引用文献1」という。)、特開2015-227673号公報(以下、「引用文献2」という。)、特開2016-109293号公報(以下、「引用文献3」という。)、特開2007-211989号公報(以下、「引用文献4」という。)、特開2011-5963号公報(以下、「引用文献5」という。)を提出し、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1~3に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
第4 引用文献の記録
1 引用文献1に記載された事項及び引用発明1
本件特許の出願前に頒布された引用文献1には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付した。以下同様。)
(1)「【0018】
図2に示すように、外方部材2は、内方部材(ハブ輪3と内輪4)を支持するものである。外方部材2は、略円筒状に形成されたS53C等の炭素0.40~0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。外方部材2の一側(インナー側)端部には、一側シール部材6が嵌合可能な一側開口部2aが形成されている。外方部材2の他側(アウター側)端部には、他側シール部材8が嵌合可能な他側開口部2bが形成されている。外方部材2の内周面には、一側開口部2aの近傍に一側ボール列5aが転走する環状の一側の外側転走面2cが形成されている。同様に、外方部材2の内周面には、他側開口部2bの近傍に他側ボール列5bが転走する環状の他側(後述の車輪取り付けフランジ3b側)の外側転走面2dが形成されている。一側の外側転走面2cと他側の外側転走面2dとは、周方向に互いに平行になるように形成されている。他側の外側転走面2dは、一側の外側転走面2cよりもピッチ円直径が大きくなるように形成されている。なお、一側の外側転走面2cと他側の外側転走面2dとのピッチ円直径を等しく構成してもよい。一側の外側転走面2cと他側の外側転走面2dとには、高周波焼入れによって表面硬さを58~64HRCの範囲とする硬化層が形成されている。外方部材2の一側の外周面には、図示しない懸架装置のナックルに取り付けるための車体取り付けフランジ2eが一体に形成されている。車体取り付けフランジ2eの取り付け面である一側面および他側面は、切削加工等の機械加工が施されている。外方部材2の他側(アウター側、後述の車輪取り付けフランジ3b側)の外周面には、他側開口部2bの端部から軸方向一側に向かって所定幅で径方向に所定量だけ突出した環状の帯状部2fが一体的に形成されている。
【0019】
内方部材を構成するハブ輪3は、図示しない車両の車輪を回転自在に支持するものである。ハブ輪3は、有底円筒状に形成されたS53C等の炭素0.40~0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。ハブ輪3の一側端部(インナー側)には、外周面に縮径された小径段部3aが形成されている。ハブ輪3の他側端部(アウター側)には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に形成されている。ハブ輪3の他側(車輪取り付けフランジ3b側)の外周面には、周方向に環状の内側転走面3cと環状のシール摺動面3dとが形成されている。車輪取り付けフランジ3bには、円周等配位置にハブボルト3eが設けられている。
【0020】
ハブ輪3の一側端部の小径段部3aは、内方部材を構成する内輪4が圧入されている。内輪4は、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼からなり、ズブ焼入れにより芯部まで58~64HRCの範囲で硬化処理されている。内輪4の外周面には、周方向に環状の内側転走面4aが形成されている。ハブ輪3の内側転走面3cは、内輪4の内側転走面4aよりもピッチ円直径が大きくなるように形成されている。なお、内側転走面3cと内側転走面4aとのピッチ円直径を等しく構成してもよい。内輪4は、圧入により所定の予圧が付与された状態でハブ輪3の一側端部に一体的に固定されている。つまり、ハブ輪3の一側には、内輪4によって内側転走面4aが構成されている。ハブ輪3は、一側の小径段部3aから他側の内側転走面3cまでを高周波焼入れにより表面硬さを58~64HRCの範囲に硬化処理されている。これにより、ハブ輪3は、車輪取り付けフランジ3bに付加される回転曲げ荷重に対して充分な機械的強度を有し、ハブ輪3の耐久性が向上する。ハブ輪3は、一側端部の内輪4に形成されている内側転走面4aが外方部材2の一側の外側転走面2cに対向し、他側に形成されている内側転走面3cが外方部材2の他側の外側転走面2dに対向するように配置されている。」
(2)「【0027】
外方部材2の帯状部2fは、外方部材2の他側端から他側の外側転走面2dの最大外径Dの位置までの軸方向の幅である最大外径幅Waよりも大きい幅w1に形成されている(Wa<w1)。つまり、帯状部2fは、外方部材2の他側の外側転走面2dの最大外径Dの位置と径方向で(外方部材2の軸方向に垂直な方向の側面視で)重複する幅w1に形成されている。これにより、帯状部2fは、外方部材2の他側の外側転走面2dの底部を覆うように形成されている。本実施形態において、帯状部2fは、外方部材2の他側の外側転走面2dが形成されている部分のうち最も肉厚が薄い部分を覆うように形成されている。また、帯状部2fは、他側の外側転走面2dの最大外径Dの位置での外方部材2の肉厚t1が基準値以上(例えば5mmから8mm程度)になる所定量である突出量p1だけ径方向の外側に突出して形成されている。これにより、外方部材2は、他側の外側転走面2dが形成されている部分で最も薄い肉厚t1が基準値以上になる。このような帯状部2fが形成されている車輪用軸受装置1は、帯状部2fが形成されていない従来の車輪用軸受装置に比べて他側の外側転走面2dの真円度劣化量が約21%改善されている。この結果、本実施形態における車輪用軸受装置1の軸受転動疲労寿命は、従来の車輪用軸受装置に比べて約6%改善されている。」
(3)「【0043】
次に、図7を用いて、車輪用軸受装置の第四実施形態である車輪用軸受装置13について説明する。
【0044】
図7に示すように、車輪用軸受装置13は、外方部材14、ハブ輪3、内輪4、転動列である二列の一側ボール列5a、他側ボール列5b等を具備する。車輪用軸受装置13は、外方部材14とハブ輪3と内輪4と一側ボール列5aと他側ボール列5bとから複列アンギュラ玉軸受が構成されている。一側ボール列5aは、内輪4に形成されている内側転走面4aと、それに対向している外方部材14の一側の外側転走面14cとの間に転動自在に挟まれている。他側ボール列5bは、ハブ輪3に形成されている内側転走面3cと、それに対向している外方部材14の他側の外側転走面14dとの間に転動自在に挟まれている。つまり、一側ボール列5aと他側ボール列5bとは、外方部材14に対してハブ輪3と内輪4とを回転自在に支持している。」
(4)「【0046】
外方部材14の外周面の他側の外側転走面14dの近傍には、帯状部14f(薄墨部分)が形成されている。外方部材14の帯状部14fは、外方部材14の他側端から外周面と接触角線Lとが交わる位置までの軸方向の幅である接触角幅Weよりも大きい幅w5に形成されている(We<w5)。つまり、帯状部14fは、外方部材14の外周面に他側の外側転走面14dと接触角線Lとに径方向で(外方部材14の軸方向に垂直な方向の側面視で)重複する幅w5に形成される。これにより、帯状部14fは、外方部材14の他側の外側転走面14dが形成されている部分および外方部材14が他側ボール列5bからの力を受ける部分を覆うように形成されている。
【0047】
このように構成される車輪用軸受装置13の外方部材14のうち幅w5の範囲については、帯状部14fによって一定以上の軸受剛性が確保されている。従って、車輪用軸受装置13は、帯状部14fを設けることで外方部材14の他側開口部14bの変形による他側の外側転走面14dの転走面真円度の劣化が抑制される。また、車輪用軸受装置13は、外方部材14の他側端から幅w5の範囲のみが帯状部14fで覆われている。これにより、全体重量の増加を最小限に抑制しつつ外方部材14の他側開口部14bの変形量を低減させ転動疲労寿命の低下を防ぐことができる。」
(5)「【図2】
[図:0001387542000001.jpg]
」
(6)「【図3】
[図:0001387542000002.jpg]
」
(7)「【図7】
[図:0001387542000003.jpg]
」
(8)【0043】~【0047】、【図7】に記載された第四実施形態の車輪用軸受装置13は、【0018】~【0020】、【図3】に記載された第一実施形態に対して、外方部材2に換えて帯状部14fの形状のみを変更した外方部材14を用いている点を除き、車輪用軸受装置1と共通の構成であると認められる。
(9)【図7】より、帯状部14fが形成された外方部材14の他端側は、他側の外側転走面14dよりも軸方向他側に配置されていることが看取できる。
上記摘記事項及び認定事項から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明1>
「車輪用軸受装置13であって、
内方部材、外方部材14、転動列である二列の一側ボール列5a、他側ボール列5bを具備し、
外方部材14は、略円筒状に形成された中高炭素鋼で構成されており、
外方部材14の内周面には、一側の外側転走面14cと他側の外側転走面14dとが形成されており、
他側の外側転走面14dは、一側の外側転走面14cよりもピッチ円直径が大きくなるように形成されており、
外方部材14の一側の外周面には、懸架装置のナックルに取り付けるための車体取り付けフランジ14eが一体に形成されており、
内方部材は、ハブ輪3と内輪4とからなり、
ハブ輪3の他側の外周面には、内側転走面3cが形成されており、
ハブ輪3の一側に圧入された内輪4の外周面には、内側転走面4aが形成されており、
一側ボール列5aは、内輪4に形成されている内側転走面4aと、それに対向している外方部材14の一側の外側転走面14cとの間に転動自在に挟まれており、
他側ボール列5bは、ハブ輪3に形成されている内側転走面3cと、それに対向している外方部材14の他側の外側転走面14dとの間に転動自在に挟まれており、
外方部材14には、他側の外側転走面14dの最大外径Dの位置での外方部材14の肉厚t1が径方向の外側に突出して形成された帯状部14fが設けられ、
外方部材14の帯状部14fは、他側の外側転走面14dよりも軸方向他側に配置された他端側から外周面と接触角線Lとが交わる位置までの軸方向の幅である接触角幅Weよりも大きい幅w5に形成されている、
車輪用軸受装置13。」
2 引用文献2に記載された事項
本件特許の出願前に頒布された引用文献2には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0025】
図1に示す車輪用軸受装置は駆動輪用の第3世代と称され、ハブ輪1と、このハブ輪1に圧入された内輪2とからなる内方部材3と、この内方部材3に複列の転動体(ボール)4、4を介して外挿された外方部材5とを備えている。」
(2)「【0030】
外方部材5は、外周に懸架装置を構成するナックル(図示せず)に取り付けられるための車体取付フランジ5bを一体に有し、内周に内方部材3の内側転走面1a、2aに対向する複列の外側転走面5a、5aが一体に形成されている。これら転走面5a、1aおよび5a、2a間には保持器7を介して複列の転動体4、4が転動自在に収容されている。」
(3)「【0043】
一方、外方部材16の端部外周が旋削等の機械加工によって小径部16aが形成され、堰部18の内径部が弾性接触されると共に、露出した小径部16aの外周に断面半円状の環状溝19が形成されている。これにより、前述した実施形態より環状溝19の深さ分だけさらに堰部18の高さを低く抑えることができると共に、小径部16aの環状溝19とシール部材17の堰部18とで環状の樋が形成され、車両の走行中に外方部材16の外周面から伝って来た雨水や泥水をスムーズに路面側に排出して車輪取付フランジ6と外方部材16との間に流動するのを防止することができ、雨水や泥水等の異物が多量に存在する環境下においてもシール15の泥水性の向上を図ることができる。」
(4)「【図1】
[図:0001387542000004.jpg]
」
(5)「【図3】
[図:0001387542000005.jpg]
」
(6)【図1】、【図3】より、環状溝19は、外側転走面5aよりも軸方向外側にのみ位置していることが看取される。
上記摘記事項及び認定事項から、引用文献2には、次の事項が記載されていると認められる。
「車輪用軸受装置であって、
外方部材16には、環状の樋が形成される環状溝19が設けられ、
環状溝19は、外側転走面5aよりも軸方向外側にのみ位置し、
外方部材16の外周面から伝って来た雨水や泥水をスムーズに路面側に排出して車輪取付フランジ6と外方部材16との間に流動するのを防止することができる、
車輪用軸受装置。」
3 引用文献3に記載された事項及び引用発明2
本件特許の出願前に頒布された引用文献3には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0014】
[実施の形態の第1例]
図1~3は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例の車輪支持用転がり軸受ユニット1aは、外輪2aと、ハブ3aと、それぞれが転動体である複数個の玉4a、4bとを備える。このうちの外輪2aは、内周面に複列の外輪軌道5c、5dを、外周面の軸方向中間部に静止側フランジ6を、それぞれ設けている。これら複列の外輪軌道5c、5dのうち、軸方向外側列の外輪軌道5cの内径は、軸方向内側列の外輪軌道5dの内径よりも大きくしている。この為に、前記外輪2aの軸方向中間部内周面で前記軸方向内側列の外輪軌道5dよりも軸方向外側に寄った部分に、軸方向内側に向かう程内径が小さくなる方向に傾斜した、内周面側段差部20を設けている。又、前記静止側フランジ6の円周方向複数箇所に、前記外輪2aを懸架装置を構成するナックルに結合固定する為のボルト(図示省略)を挿通する、貫通孔36を、それぞれ形成している。
【0015】
又、前記ハブ3aは、ハブ本体14aと内輪15とを組み合わせて成り、外周面の軸方向外端寄り部分に、ロータ又はドラム等の制動用回転体35(図3参照)及び車輪を支持する為の回転側フランジ9aを、同じく中間部及び内端部に複列の内輪軌道8c、8dを、それぞれ形成している。これら複列の内輪軌道8c、8dのうち、軸方向外側列の内輪軌道8cの外径は、軸方向内側列の内輪軌道8dよりも大きくしている。又、前記回転側フランジ9aの円周方向複数箇所に、この回転側フランジ9aに前記制動用回転体35及び車輪を支持固定する為のスタッド12の基端部を圧入する為の取付孔11を設け、前記回転側フランジ9aのうち、円周方向に隣り合う取付孔11同士の間部分のうちの少なくとも1箇所に、それぞれが特許請求の範囲に記載した異物排出孔である透孔13aを設けている。本例の場合、前記車輪支持用転がり軸受ユニット1aの中心軸を中心とする前記各透孔13aの径方向内端部の内接円の直径D13aを、前記外輪2aの軸方向外端面の外径D2aよりも小さくしている(D13a<D2a)。尚、本例の場合、前記各透孔13aは、貫通孔であり、単なる円孔としている。」
(2)「【0017】
前記各玉4a、4bは、前記複列の外輪軌道5c、5dと、前記複列の内輪軌道8c、8dとの間に、保持器10a、10bに保持された状態で、両列毎に複数個ずつ、転動自在に設けている。この状態で、複列に配置された前記各玉4a、4bには、予圧と共に背面組み合わせ型の接触角を付与している。又、これら各列の玉4a、4bのピッチ円直径は、前記複列の外輪軌道5c、5dの内径及び前記複列の内輪軌道8c、8dの外径の差に応じて互いに異なっている。即ち、軸方向外側列の玉4a、4aのピッチ円直径が、軸方向内側列の玉4b、4bのピッチ円直径よりも大きくなっている。尚、本例の場合、前記軸方向外側列の玉4a、4aの直径を、前記軸方向内側列の玉4b、4bの直径よりも小さくしている。但し、これら軸方向外側列の玉4a、4aの直径と軸方向内側列の玉4b、4bの直径とを互いに等しくする事もできる。又、重量が嵩む車輪支持用転がり軸受ユニットの場合、両列のうちの一方又は双方の列に関して、玉に代えて円すいころを使用する事もできる。」
(3)「【0030】
[実施の形態の第4例]
図7、8は、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の車輪支持用転がり軸受ユニット1dの場合、外輪2dの軸方向外端部に、軸方向内側に隣接する部分よりも外径及び内径が大きい大径部37を設けている。そして、この大径部37の軸方向外端面、即ち、前記外輪2dの軸方向外端面の外径を、前記車輪支持用転がり軸受ユニット1dの中心軸を中心とする、回転側フランジ9aに形成された透孔13aの径方向内端部の内接円の直径よりも大きくしている。前記大径部37は、炭素鋼等の金属材料に、鍛造加工等の塑性加工を施して前記外輪2dを造る際に、円筒状に形成されたこの金属材料の一端部(この外輪2dの軸方向外端部に相当する端部であって、図8の左端部)を押し広げる様に塑性変形させる事により形成する。即ち、図8に示す様に、金属製で円筒状の中間素材38を、一端部(開口側端部)の内径が、他方側に隣接する部分の内径よりも大きい段付円筒状の内周面形状を有するダイス39内にセットし、前記中間素材38の中間部乃至他端部の外径を拘束する。この状態で、拡径パンチ40を、この中間素材38の径方向内側に一端側開口から押し込み、この中間素材38の一端部を径方向外方に塑性変形させ、外径及び内径を拡げる事により前記大径部37を形成する。この様な大径部37を形成する加工は、例えば前記外輪2dの製造工程のうちの最終工程で行う事ができる。又、好ましくは、前記ダイス39として、円周方向に分割可能なものを使用する。」
(4)「【0033】
[実施の形態の第5例]
図9、10は、本発明の実施の形態の第5例を示している。本例の車輪支持用転がり軸受ユニット1eの場合、外輪2eの軸方向外端寄り部分に、径方向内方に凹んだ凹部42を全周に亙って設けている。この様な本例によれば、この凹部42を設けた分、前記外輪2eの重量、延いては、ばね下荷重の増大を抑える事ができて、前記車輪支持用転がり軸受ユニット1eを搭載した車両の走行性能の向上を図れる。又、前記外輪2eの外周面に付着した泥水等の水分が、この外輪2eの外周面を伝ってこの外輪2eの軸方向外側開口から転動体設置空間19(図1参照)に侵入する事を、前記凹部42により防止できる。」
(5)「【図1】
[図:0001387542000006.jpg]
」
(6)「【図9】
[図:0001387542000007.jpg]
」
(7)【図1】より、外輪2aは、筒状であることが看取される。
(8)外輪2a、外輪2eの素材について明記がないが、【0030】の外輪2d同様に金属材料であると認められる。
(9)【図1】、【図9】より、凹部42は、外輪軌道5cよりも軸方向外側にのみ位置していることが看取される。
(10)外輪2eは、凹部42を設けている点を除き、外輪2aと共通の構成を有していると認められる。
上記摘記事項及び認定事項から、引用文献3には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明2>
「車輪支持用転がり軸受ユニットであって、
筒状の外輪2eは、内周面に複列の外輪軌道5c、5dを、外周面の軸方向中間部に静止側フランジ6を、それぞれ設けており、
前記静止側フランジ6の円周方向複数箇所に、前記外輪2eを懸架装置を構成するナックルに結合固定する為のボルトを挿通する、貫通孔36を、それぞれ形成しており、
複列の外輪軌道5c、5dのうち、軸方向外側列の外輪軌道5cの内径は、軸方向内側列の外輪軌道5dの内径よりも大きくしており、
ハブ3aは、中間部及び内端部に複列の内輪軌道8c、8dを、それぞれ形成しており、
各玉4a、4bは、前記複列の外輪軌道5c、5dと、前記複列の内輪軌道8c、8dとの間に、転動自在に設けており、
外輪2eは、金属材料に、鍛造加工等の塑性加工を施して造られており、
外輪2eの軸方向外端寄り部分に、外輪軌道5cよりも軸方向外側にのみ位置するように、径方向内方に凹んだ凹部42を全周に亙って設け、
前記凹部42により、前記外輪2eの外周面に付着した泥水等の水分が、この外輪2eの外周面を伝ってこの外輪2eの軸方向外側開口から転動体設置空間に侵入する事を防止できる、
車輪支持用転がり軸受ユニット。」
4 引用文献4に記載された事項
本件特許の出願前に頒布された引用文献4には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0015】
この車輪用軸受装置は、内周に複列の軌道面3,4を形成した外方部材1と、これら各軌道面3,4に対向する軌道面5,6を外周に形成した内方部材2と、これら外方部材1および内方部材2の対向する軌道面3,5間および軌道面4,6間に介在した複列の転動体7,8とで構成される。この車輪用軸受装置は、複列のアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体7,8はボールからなり、各列毎に保持器9,10で保持されている。上記各軌道面3~6は断面円弧状であり、これら軌道面3~6は、接触角θが背面合わせとなるように形成されている。すなわち、各列Lo,Liの軸受部11,12がアンギュラ玉軸受とされ、背面合わせとされている。外方部材1と内方部材2との間の軸受空間におけるアウトボード側端はシール13で密閉され、インボード側端は軸受端面の全体を覆うキャップ(図示せず)により密閉される。内方部材2のインボード側端に外周には、回転速度検出用の磁気エンコーダ14が取付けられている。」
(2)「【図2】
[図:0001387542000008.jpg]
」
(3)【図2】より、外方部材1の軸方向外側の軌道面3よりも軸方向外側にのみ、径方向内側に凹む溝が看取される。
上記摘記事項及び認定事項から、引用文献4には、次の事項が記載されていると認められる。
「車輪用軸受装置であって、
外方部材1の軸方向外側の軌道面3よりも軸方向外側にのみ、径方向内側に凹む溝が設けられた、
車輪用軸受装置。」
5 引用文献5に記載された事項
本件特許の出願前に頒布された引用文献5には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0042】
この車輪用軸受装置は第3世代と呼称される従動輪用であって、内方部材14と外方部材15、および両部材14、15間に転動自在に収容された複列のボール3a、3bとを備えている。内方部材14は、ハブ輪16と、このハブ輪16に所定のシメシロを介して圧入された内輪5とからなる。」
(2)「【0044】
一方、外方部材15は、外周に車体取付フランジ2bを一体に有し、内周に内方部材14の内側転走面16a、5aに対向する複列の外側転走面15a、15bが一体に形成されている。これら両転走面間に複列のボール3a、3bが収容され、保持器22、9によって転動自在に保持されている。そして、ピッチ円直径PCDo、PCDiの違いに伴い、アウター側の外側転走面15aがインナー側の外側転走面15bよりも拡径され、アウター側の外側転走面15aから円筒状の肩部20と段部20aを介して小径側の肩部21に続き、インナー側の外側転走面15bが形成されている。また、この外側転走面15bの溝底径と大径側の肩部20の内径が略同一寸法に設定されている。」
(3)「【図3】
[図:0001387542000009.jpg]
」
(4)【図3】より、外方部材15の軸方向外側の外側転走面15aよりも軸方向外側にのみ、径方向内側に凹む溝が看取される。
上記摘記事項及び認定事項から、引用文献5には、次の事項が記載されていると認められる。
「車輪用軸受装置であって、
外方部材15の軸方向外側の外側転走面15aよりも軸方向外側にのみ、径方向内側に凹む溝が設けられた、
車輪用軸受装置。」
第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)引用発明1との対比・判断
本件発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。
引用発明1の「外方部材14」は、本件発明1の「外方部材」に相当する。
引用発明1の「外方部材14」における「略円筒状に形成された」部分は、本件発明1の「静止側筒部」に相当する。
引用発明1の「外方部材14の一側の外周面」に「一体に形成」された「懸架装置のナックルに取り付けるための車体取り付けフランジ14e」は、本件発明1の「該静止側筒部の外周面から径方向外方に伸長する、懸架装置に結合固定するための静止側フランジ」に相当する。
引用発明1の「外方部材14の内周面には、一側の外側転走面14cと他側の外側転走面14dとが形成されて」いることは、本件発明1の「前記静止側筒部の内周面に設けられた複列の外輪軌道とを有し」ていることに相当する。
引用発明1の「一側の外側転走面14c」、「他側の外側転走面14d」は、それぞれ本件発明1の「軸方向内側列の外輪軌道」、「軸方向外側列の外輪軌道」に相当する。
引用発明1の「他側の外側転走面14dは、一側の外側転走面14cよりもピッチ円直径が大きくなるように形成されて」いることは、本件発明1の「前記複列の外輪軌道のうちの軸方向外側列の外輪軌道の軌道径が、前記複列の外輪軌道のうちの軸方向内側列の外輪軌道の軌道径よりも大きくなっている」ことに相当する。
引用発明1の「ハブ輪3と内輪4とから」なる「内方部材」は、本件発明1の「内方部材」に相当する。
引用発明1の「ハブ輪3の他側の外周面には、内側転走面3cが形成されており、ハブ輪3の一側に圧入された内輪4の外周面には、内側転走面4aが形成されて」いることは、本件発明1の「内方部材」の「外周面に複列の内輪軌道を有する」ことに相当する。
引用発明1の「内輪4に形成されている内側転走面4aと、それに対向している外方部材14の一側の外側転走面14cとの間に転動自在に挟まれて」いる「一側ボール列5a」と、「ハブ輪3に形成されている内側転走面3cと、それに対向している外方部材14の他側の外側転走面14dとの間に転動自在に挟まれて」いる「他側ボール列5b」とは、本件発明1の「前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に配置された複数個の転動体」に相当する。
引用発明1の「外方部材14は、略円筒状に形成された中高炭素鋼で構成されて」いることは、本件発明1の「前記静止側筒部は、全体が金属により一体に構成されて」いることに相当する。
引用発明1の「他側の外側転走面14dの最大外径Dの位置での外方部材14の肉厚t1が径方向の外側に突出して形成された帯状部14fが設けられ」ていることは、本件発明1の「前記静止側フランジよりも軸方向外側に位置する軸方向範囲のうちの少なくとも一部の軸方向範囲が、前記静止側フランジの軸方向外側面の径方向内端縁よりも外径が大きい大径筒部になって」いることに相当する。
引用発明1の「外方部材14の帯状部14fは、他側の外側転走面14dよりも軸方向他側に配置された他端側から外周面と接触角線Lとが交わる位置までの軸方向の幅である接触角幅Weよりも大きい幅w5に形成されている」ことは、本件発明1の「該大径筒部の軸方向内端縁は、前記軸方向外側列の外輪軌道のうちで最も径方向外側に位置する部位よりも軸方向内側に位置しており、前記大径筒部の軸方向外端縁は、前記軸方向外側列の外輪軌道よりも軸方向外側に位置しており、前記軸方向外側列の外輪軌道の全体が、前記大径筒部の内周面に備えられて」いることに相当する。
引用発明1の「車輪用軸受装置13」は、本件発明1の「ハブユニット軸受」に相当する。
したがって、本件発明1と引用発明1とは、以下の一致点1で一致し、相違点1~2で相違する。
【一致点1】
「静止側筒部と、該静止側筒部の外周面から径方向外方に伸長する、懸架装置に結合固定するための静止側フランジと、前記静止側筒部の内周面に設けられた複列の外輪軌道とを有し、前記複列の外輪軌道のうちの軸方向外側列の外輪軌道の軌道径が、前記複列の外輪軌道のうちの軸方向内側列の外輪軌道の軌道径よりも大きくなっている、外方部材と、
外周面に複列の内輪軌道を有する内方部材と、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に配置された複数個の転動体と、を備え、
前記静止側筒部は、全体が金属により一体に構成されており、かつ、前記静止側フランジよりも軸方向外側に位置する軸方向範囲のうちの少なくとも一部の軸方向範囲が、前記静止側フランジの軸方向外側面の径方向内端縁よりも外径が大きい大径筒部になっており、該大径筒部の軸方向内端縁は、前記軸方向外側列の外輪軌道のうちで最も径方向外側に位置する部位よりも軸方向内側に位置しており、前記大径筒部の軸方向外端縁は、前記軸方向外側列の外輪軌道よりも軸方向外側に位置しており、
前記軸方向外側列の外輪軌道の全体が、前記大径筒部の内周面に備えられている、
ハブユニット軸受。」
【相違点1】
本件発明1は、「前記大径筒部のうちで前記軸方向外側列の外輪軌道よりも軸方向外側に位置する部位の外周面にのみ、径方向内方に凹入する樋溝が周方向に備えられて」いるのに対し、引用発明1は、そのような構成を有していない点。
【相違点2】
本件発明1は、「前記樋溝のうちで最も径方向内側に位置する部位の外径は、前記静止側フランジの軸方向外側面の径方向内端縁の直径よりも小さい」との構成を有するのに対し、引用発明1は、そのような構成を有していない点。
以下、上記相違点1~2について検討する。
まず、相違点1について、引用文献2の環状溝19、引用文献3の凹部42、引用文献4~5の環状の凹溝のように、軸方向外側の外輪軌道よりも軸方向外側にのみ環状の溝を設けたものは、当業者における周知技術であって、それにより泥水等が内部に侵入することを防止できるものである。
そして、引用文献1に記載のような車輪用軸受装置において、内部に泥水等が侵入しないようにすることは、当業者における自明の課題であるから、引用発明1に上記周知技術を適用して、上記相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
一方、相違点2について検討すると、引用文献1の【0027】、【0046】、【0047】の記載を参照すると、引用発明1は、外方部材14の他側端から幅w5の範囲について、帯状部14fによって肉厚を増加させることによって、剛性を確保しようとするものであるといえる。
してみると、引用発明1の外方部材14に上記のような環状の溝を設ける場合、剛性を確保するためにできるだけ浅く形成すべきであると考えられ、車体取り付けフランジ14eの軸方向外側面の径方向内端縁の直径よりも小さくなるような深い溝径とすることは、剛性が確保できなくなり、引用発明1の外方部材14の作用・効果が発揮できなくなるから、引用発明1の帯状部14fに、車体取り付けフランジ14eの軸方向外側面の径方向内端縁の直径よりも小さくなるような外径を有した溝を設けることには、阻害要因がある。
したがって、本件発明1は、引用発明1及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)引用発明2との対比・判断
本件発明1と引用発明2とを対比すると、次のことがいえる。
引用発明2の「外輪2e」は、本件発明1の「外方部材」に相当する。
引用発明2の「外輪2e」における「筒状」の部分は、本件発明1の「静止側筒部」に相当する。
引用発明2の「外輪2e」の「外周面の軸方向中間部」に形成された「静止側フランジ6」は、本件発明1の「静止側フランジ」に相当する。
引用発明2の「静止側フランジ6」に「円周方向複数箇所に、前記外輪2eを懸架装置を構成するナックルに結合固定する為のボルト(図示省略)を挿通する、貫通孔36を、それぞれ形成して」いることは、本件発明1の「懸架装置に結合固定するため」のことに相当する。
引用発明2の「外輪2e」に「内周面に複列の外輪軌道5c、5d」を形成し、「複列の外輪軌道5c、5dのうち、軸方向外側列の外輪軌道5cの内径は、軸方向内側列の外輪軌道5dの内径よりも大きくして」いることは、本件発明1の「前記複列の外輪軌道のうちの軸方向外側列の外輪軌道の軌道径が、前記複列の外輪軌道のうちの軸方向内側列の外輪軌道の軌道径よりも大きくなっている」ことに相当する。
引用発明2の「ハブ3aは、中間部及び内端部に複列の内輪軌道8c、8dを、それぞれ形成して」いることは、本件発明1の「外周面に複列の内輪軌道を有する内方部材」を備えていることに相当する。
引用発明2の「各玉4a、4bは、前記複列の外輪軌道5c、5dと、前記複列の内輪軌道8c、8dとの間に、転動自在に設けて」いることは、本件発明1の「前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に配置された複数個の転動体と、を備え」ていることに相当する。
引用発明2の「外輪2eは、金属材料に、鍛造加工等の塑性加工を施して造られて」いることは、本件発明1の「前記静止側筒部は、全体が金属により一体に構成されて」いることに相当する。
引用発明2の「凹部42」は、「前記外輪2eの外周面に付着した泥水等の水分が、この外輪2eの外周面を伝ってこの外輪2eの軸方向外側開口から転動体設置空間に侵入する事を防止できる」ものであるから、本件発明1の「樋溝」に相当する。
引用発明2の「外輪2eの軸方向外端寄り部分に、外輪軌道5cよりも軸方向外側にのみ位置するように、径方向内方に凹んだ凹部42を全周に亙って設け」ていることは、「筒部のうちで前記軸方向外側列の外輪軌道よりも軸方向外側に位置する部位の外周面にのみ、径方向内方に凹入する樋溝が周方向に備えられて」いる限りにおいて、本件発明1の「前記大径筒部のうちで前記軸方向外側列の外輪軌道よりも軸方向外側に位置する部位の外周面にのみ、径方向内方に凹入する樋溝が周方向に備えられて」いることと一致する。
引用発明2の「車輪支持用転がり軸受ユニット」は、本件発明1の「ハブユニット軸受」に相当する。
したがって、本件発明1と引用発明2とは、以下の一致点2で一致し、相違点3~4で相違する。
【一致点2】
「静止側筒部と、該静止側筒部の外周面から径方向外方に伸長する、懸架装置に結合固定するための静止側フランジと、前記静止側筒部の内周面に設けられた複列の外輪軌道とを有し、前記複列の外輪軌道のうちの軸方向外側列の外輪軌道の軌道径が、前記複列の外輪軌道のうちの軸方向内側列の外輪軌道の軌道径よりも大きくなっている、外方部材と、
外周面に複列の内輪軌道を有する内方部材と、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に配置された複数個の転動体と、を備え、
前記静止側筒部は、全体が金属により一体に構成されており、
前記筒部のうちで前記軸方向外側列の外輪軌道よりも軸方向外側に位置する部位の外周面にのみ、径方向内方に凹入する樋溝が周方向に備えられている、
ハブユニット軸受。」
【相違点3】
本件発明1は、「前記静止側フランジよりも軸方向外側に位置する軸方向範囲のうちの少なくとも一部の軸方向範囲が、前記静止側フランジの軸方向外側面の径方向内端縁よりも外径が大きい大径筒部になっており、該大径筒部の軸方向内端縁は、前記軸方向外側列の外輪軌道のうちで最も径方向外側に位置する部位よりも軸方向内側に位置しており、前記大径筒部の軸方向外端縁は、前記軸方向外側列の外輪軌道よりも軸方向外側に位置しており、前記軸方向外側列の外輪軌道の全体が、前記大径筒部の内周面に備えられており、前記大径筒部のうちで前記軸方向外側列の外輪軌道よりも軸方向外側に位置する部位の外周面にのみ、径方向内方に凹入する樋溝が周方向に備えられて」いるのに対し、引用発明2は、そのような構成を有しない点。
【相違点4】
「径方向内方に凹入する樋溝」に関して、本件発明1は、「前記樋溝のうちで最も径方向内側に位置する部位の外径は、前記静止側フランジの軸方向外側面の径方向内端縁の直径よりも小さい」構成を有するのに対し、引用発明2は、そのような構成を有しない点。
以下、相違点3について検討する。
引用文献1の【0027】、【0043】~【0047】、【図3】、【図7】には、外方部材14の軸方向外端側から他側の外側転走面14dよりも軸方向内側部分まで軸方向範囲を、外径が大きい大径の筒部にした事項が記載されていると認められる(以下、「引用文献1に記載された技術的事項」という。)。
一方、引用文献3の【0033】には、「凹部42を設けた分、前記外輪2eの重量、延いては、ばね下荷重の増大を抑える事ができ」るとの記載がなされている。
そして、引用文献3の外輪2eの軸方向外端寄り部分を、引用文献1に記載されるような大径のものとしてしまった場合、その部分の重量が大きくなってしまい、「重量、延いては、ばね下荷重の増大を抑える事ができ」るようにする引用文献3の目的に反することになる。
してみれば、引用発明2に引用文献1に記載された技術的事項を採用することには阻害要因がある。
したがって、上記相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明2及び引用文献1に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 本件発明2~3について
本件発明2~3は、本件発明1の構成を全て含む発明であるから、上記1と同様の理由により、引用発明1及び上記周知技術に基いて、または、引用発明2及び引用文献1に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 小括
上記1及び2のとおりであるから、本件発明1~3は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700357