特許異議申立
2022-700310
クロロゲン酸ラクトン類を含む容器詰めコーヒー飲料
- 審判番号
- 2022-700310
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-193858
- 登録番号
- 6948212
- 請求日
- 2022年04月13日
- 審決日
- 2022年07月15日
- 公報発行日
- 2022年08月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サントリーホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】山本 修
- 【権利者代理人】宮前 徹
- 【権利者代理人】中西 基晴
- 【異議申立人】神谷 高伸
- 審判長/審判官
- 審判長 平塚 政宏
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 奥田 雄介
- 分類
- P1651.121-Y (A23F) / P1651.537-Y (A23F) / P1651.536-Y (A23F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6948212号発明「クロロゲン酸ラクトン類を含む容器詰めコーヒー飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6948212号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6948212号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成29年10月3日の出願であって、令和3年9月22日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年10月13日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年4月13日に特許異議申立人 神谷 高伸(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし9)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
クロロゲン酸ラクトン類(b)及びグアイアコール(a)を含有し、[(b)の含有量(mg/L)/(a)の含有量(μg/L)]>0.020を満たし、グアイアコール(a)の含有量が500μg/L以下である、容器詰めコーヒー飲料。
【請求項2】
さらに、フェノール(c)を含有し、[(b)の含有量(mg/L)/{(a)+(c)}の含有量(μg/L)]>0.0080を満たす、請求項1に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項3】
さらに、p-エチルフェノール(d)、p-クレゾール(e)及び2-アセチルピロール(f)を含有し、[(b)の含有量(mg/L)/{(a)+(c)+(d)+(e)+(f)}の含有量(μg/L)]≧0.0050を満たす、請求項2に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項4】
グアイアコール(a)の含有量が、100μg/L~500μg/Lである、請求項1~3のいずれか一項に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項5】
クロロゲン酸ラクトン類(b)の含有量が、3.0mg/L~15.0mg/Lである、請求項1~4のいずれか1項に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項6】
ブラックコーヒーである、請求項1~5のいずれか一項に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項7】
飲料のBrix値が0.4以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項8】
再栓可能な蓋付き容器に充填された、請求項1~7のいずれか一項に記載の容器詰めコーヒー飲料。
【請求項9】
容器詰めコーヒー飲料の製造方法であって、
(i)[クロロゲン酸ラクトン類(b)の含有量(mg/L)/グアイアコール(a)の含有量(μg/L)]>0.020、およびグアイアコール(a)の含有量が500μg/L以下の要件を満たすように、(a)及び(b)の含有量を調整する工程、及び、
(ii)容器詰めする工程、
を含む、前記製造方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年4月13日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許明細書において、本件特許発明の効果である開栓後に経時的に発生する後味の悪さの改善効果を奏することが実質的に記載されているのは、実施例1ないし7の「グアテマラ種の中煎り焙煎コーヒー豆を50℃の水で抽出したコーヒー抽出物を希釈して得られた容器詰めコーヒー飲料」のみであり、熱水抽出や高温高圧抽出等の他の抽出方法により得られた容器詰めコーヒー飲料も、本件特許発明の効果が得られるかどうか、本件特許明細書の記載からは当業者であっても理解できない。
よって、「グアテマラ種の中煎り焙煎コーヒー豆を50℃の水で抽出したコーヒー抽出物を希釈して得られた容器詰めコーヒー飲料」以外である態様を含む本件特許発明1ないし9は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・上記2で指摘した点で、本件特許発明1ないし9は、発明の詳細な説明に当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。
4 証拠方法
甲第1号証:特開2011-125283号公報
甲第2号証:Rodrigues and Bragagnolo,“Identification and quantification of bioactive compounds in coffee brews by HPLC-DAD-MSn”,Journal of Food Composition and Analysis, 2013,vol.32, Elsevier Inc. p.105-115<URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0889157513001166><DOI:https://doi.org/10.1016/j.jfca.2013.09.002>
甲第3号証:Fujioka and Shibamoto,“Quantitation of Volatiles and Nonvolatile Acids in an Extract from Coffee Beverages: Correlation with Antioxidant Activity”Journal of Agricultural and Food Chemistry, 2006,vol.54,American Chemical Society p.6054-6058<URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jf060460x><DOI:https://doi.org/10.1021/jf060460x>
甲第4号証:Clarke and Vitzthum(編集)、”COFFEE Recent Developments”,Blackwell Science Ltd.(発行)2001年、第68~79ページ
甲第5号証:田口護、「田口護のスペシャルティコーヒー大全」、NHK出版(発行)、2011年5月25日、第38~48ページ
甲第6号証:国際公開第2016/072114号
甲第7号証:特開2007-300807号公報
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
1 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「コーヒー抽出物」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。
・「【0013】
本発明によれば、香ばしい焙煎香が豊かで、かつ後味のキレの良好なコーヒー抽出物を提供することができる。また、当該コーヒー抽出物を用いることで、嗜好性の高いソリュブルコーヒー及び容器詰コーヒー飲料を提供することができる。」
・「【0050】
実施例1
グァテマラ産アラビカ種の焙煎コーヒー豆(焙煎度L19)400gを93℃の熱水にて抽出し、2400gの原料コーヒー抽出物を得た。次いで、得られた原料コーヒー抽出物を90℃、-90kPaゲージ圧の減圧下にて濃縮し、留分を液温8℃で凝縮させ、48.6質量%の濃縮液と51.4質量%の留分を得た。次いで、上記濃縮液のみを活性炭(白鷺WH2C 42/80LSS、日本エンバイロケミカルズ(株))にて処理を行った。なお、活性炭の使用量は、濃縮液の固形分に対して0.5質量倍とした。次いで、得られた活性炭処理濃縮液と上記留分を全量混合してコーヒー抽出物を調製した。
次いで、得られたコーヒー抽出物をイオン交換水で希釈してBrix1.85に調整し、缶容器に充填後、134℃、90秒の加熱殺菌を行い、容器詰コーヒー飲料を得た。次いで、得られた容器詰コーヒー飲料の成分分析、官能試験を行った。その結果を表1に示す。」
・「【0054】
【表1】
[図:0001387539000001.jpg]
【0055】
表1から、(A)フルフラールと、(B)グアヤコール類との含有質量比[(B)/(A)]を一定に制御したコーヒー抽出物を配合することで、香ばしい焙煎香に富み、渋味、エグ味が少なく、後味のキレの良好な容器詰コーヒー飲料が得られることが確認された。」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1発明」及び「甲1方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「グァテマラ産アラビカ種の焙煎コーヒー豆(焙煎度L19)400gを93℃の熱水にて抽出し、2400gの原料コーヒー抽出物を得、次いで、得られた原料コーヒー抽出物を90℃、-90kPaゲージ圧の減圧下にて濃縮し、留分を液温8℃で凝縮させ、48.6質量%の濃縮液と51.4質量%の留分を得、次いで、上記濃縮液のみを活性炭(白鷺WH2C 42/80LSS、日本エンバイロケミカルズ(株))にて処理を行い、なお、活性炭の使用量は、濃縮液の固形分に対して0.5質量倍とし、次いで、得られた活性炭処理濃縮液と上記留分を全量混合してコーヒー抽出物を調製し、次いで、得られたコーヒー抽出物をイオン交換水で希釈してBrix1.85に調整し、缶容器に充填後、134℃、90秒の加熱殺菌を行って得られた、グアヤコールを含有する容器詰コーヒー飲料。」
<甲1方法発明>
「グァテマラ産アラビカ種の焙煎コーヒー豆(焙煎度L19)400gを93℃の熱水にて抽出し、2400gの原料コーヒー抽出物を得、次いで、得られた原料コーヒー抽出物を90℃、-90kPaゲージ圧の減圧下にて濃縮し、留分を液温8℃で凝縮させ、48.6質量%の濃縮液と51.4質量%の留分を得、次いで、上記濃縮液のみを活性炭(白鷺WH2C 42/80LSS、日本エンバイロケミカルズ(株))にて処理を行い、なお、活性炭の使用量は、濃縮液の固形分に対して0.5質量倍とし、次いで、得られた活性炭処理濃縮液と上記留分を全量混合してコーヒー抽出物を調製し、次いで、得られたコーヒー抽出物をイオン交換水で希釈してBrix1.85に調整し、缶容器に充填後、134℃、90秒の加熱殺菌を行い、グアヤコールを含有する容器詰コーヒー飲料を得る方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「グアヤコール」は本件特許発明1における「グアイアコール(a)」に相当する。
甲1発明における「容器詰コーヒー飲料」は本件特許発明1における「容器詰めコーヒー飲料」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「グアイアコール(a)を含有する容器詰めコーヒー飲料。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-1>
本件特許発明1においては、「クロロゲン酸ラクトン類(b)」を含有することが特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点1-2>
本件特許発明1においては、「クロロゲン酸ラクトン類(b)の含有量(mg/L)/グアイアコール(a)の含有量(a)の含有量(μg/L)]>0.020」を満たすことが特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点1-3>
本件特許発明1においては、「グアイアコール(a)の含有量が500μg/L以下」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点1-2について検討する。
甲1には、「クロロゲン酸ラクトン類(b)」に関する記載はないし、当然、「クロロゲン酸ラクトン類(b)」の含有量と「グアイアコール(a)」の含有量の比に関する記載もない。
また、他の証拠にも、「クロロゲン酸ラクトン類(b)」の含有量と「グアイアコール(a)」の含有量の比に関する記載はない。
すなわち、甲1及び他の証拠のいずれにも、甲1発明において、相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1発明において、相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「開栓後に経時的に発生する後味の悪さが改善された容器詰めコーヒー飲料を提供することができる」(本件特許明細書の【0010】)という効果は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
なお、特許異議申立人は、甲1発明における「クロロゲン酸ラクトン類」の含有量は甲2に記載された7種類の焙煎コーヒー豆と同程度であり、およそ54~133mg/Lである可能性が高く、甲1発明における「グアイアコール」の含有量は甲3に記載されたコーヒー注出物に活性炭処理を行ったものと同程度であり、およそ1000μg/Lである蓋然性が高いから、「クロロゲン酸ラクトン類」の含有量と「グアイアコール」の含有量の比は0.054よりも大きくなり、相違点2は実質的な相違点ではない旨主張する(特許異議申立書第21ページ第31行ないし第23ページ第32行)。
そこで、該主張について検討する。
甲2には、7種類のコーヒー豆の種類や焙煎度について記載されておらず、コーヒー注出物の調製方法も甲1発明とは異なる。
したがって、甲1発明の「クロロゲン酸ラクトン類」の含有量が甲2に記載された7種類の焙煎コーヒー豆と同程度であるとはいえない。
また、甲3にも、コーヒー豆の種類や焙煎度について記載されておらず、コーヒー注出物の調製方法も甲1発明とは異なる。
したがって、甲1発明の「グアイアコール」の含有量が甲3に記載されたコーヒー注出物に活性炭処理を行ったものと同程度であるともいえない。
そうすると、甲1発明における「クロロゲン酸ラクトン類」の含有量と「グアイアコール」の含有量の比が0.054より大きくなるとはいえず、相違点2は実質的な相違点である。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし8について
本件特許発明2ないし8は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明9について
ア 対比
本件特許発明9と甲1方法発明を対比する。
両者の間には、本件特許発明1と甲1発明との間と同様の相当関係が成り立つ。
また、甲1方法発明は「得られたコーヒー抽出物をイオン交換水で希釈してBrix1.85に調整し、缶容器に充填」するものであるから、本件特許発明9における「(ii)容器詰めする工程」に相当する工程を含むことは明らかである。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「グアイアコール(a)を含有する容器詰めコーヒー飲料の製造方法であって、
(ii)容器詰めする工程、
を含む、前記製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点9>
本件特許発明9においては、「(i)[クロロゲン酸ラクトン類(b)の含有量(mg/L)/グアイアコール(a)の含有量(μg/L)]>0.020、およびグアイアコール(a)の含有量が500μg/L以下の要件を満たすように、(a)及び(b)の含有量を調整する工程」を含むことが特定されているのに対し、甲1方法発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点9について検討する。
相違点9は、相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を含むものであり、その部分に関する判断は相違点1-2の判断と同じである。
したがって、甲1方法発明において、相違点9に係る本件特許発明9の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明9の奏する「開栓後に経時的に発生する後味の悪さが改善された容器詰めコーヒー飲料を提供することができる」という効果は、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明9の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
ウ まとめ
よって、本件特許発明9は、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし9は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当しないので申立理由1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明にはおおむね次の記載がある。
・「【技術分野】
【0001】
本発明は容器詰めコーヒー飲料に関する。より詳細には、開栓後に経時的に発生する後味の悪さが改善された容器詰めコーヒー飲料及び前記容器詰めコーヒー飲料の製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー飲料は嗜好品として広く愛好され、その需要もますます増大すると共にニーズの多様化が進んでいる。例えば、コーヒー特有の苦味や重厚な味わいを有するコーヒー飲料のニーズが存在する一方で、コーヒー特有の苦味が抑制され、後味のよいコーヒー飲料のニーズも存在する。また、コーヒー飲料の商品形態も、要冷蔵タイプから常温保存可能品まで多種多様に存在している。こうした状況の下、消費者は、自らの嗜好性や飲用の場所等の消費態様に応じた商品形態のコーヒーを選択することができる。
【0003】
レギュラーコーヒーと異なり、容器詰めコーヒー飲料は、特に再栓可能な容器詰め飲料においては、歩きながらコーヒー飲料を飲んだり、仕事中や休憩中に少しずつ長時間かけてコーヒー飲料を飲む態様も広く見受けられる。しかし、開栓から長時間経過すると、酸化と揮発の影響による成分変化によって、後味の悪さが生じていた。保存中の酸化の影響による香味変化は考慮されていたものの、開栓後の経時変化による後味の悪さの増大を考慮して、容器詰めコーヒー飲料を製造するという発想は知られていない。
【0004】
コーヒー飲料では製造後の時間経過に伴い、一部の香気成分が減少し、コーヒー飲料の香気バランスが変化することが報告されており(非特許文献1)、コーヒー飲料の香気に寄与する成分を添加することで、時間経過に伴うコーヒー飲料の香気バランスの変化を抑える試みも報告されている。例えば、特許文献1では、コーヒー飲料中のピラジン類とグアイアコール類との含有質量比を特定の範囲に制御することで、甘い香りが豊かで、かつ後味のキレの良好なコーヒー抽出物が得られることなどが報告されており、引用文献2では、低揮発性コーヒーアロマ化合物(グアイアコール等)に対する高揮発性コーヒーアロマ化合物(メタンチオール等)の比を高くすることで、コーヒー飲料の開封及び消費時のアロマが知覚されやすくなることが報告されている。また、特許文献3には、クロロゲン酸ラクトン類を選択的に低減して苦味を抑えた、焙煎豆コーヒー抽出物の製法が開示されている。
・・・(略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、いずれの文献にも、容器詰めコーヒー飲料の経時変化による後味の悪さの増大を考慮することは記載されていない。本発明の課題は、開栓後に経時的に発生する後味の悪さが改善された容器詰めコーヒー飲料を提供することなどである。」
・「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、クロロゲン酸ラクトン類(b)の含有量(mg/L)とグアイアコール(a)の含有量(μg/L)との含有量比[(b)/(a)]が特定の範囲となるように、コーヒー飲料中の(b)及び(a)の含有量を調整することで、容器詰めコーヒー飲料の開栓後に経時的に発生する後味の悪さを改善できることなどを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は以下に関するが、これらに限定されない。
(1)クロロゲン酸ラクトン類(b)及びグアイアコール(a)を含有し、[(b)の含有量(mg/L)/(a)の含有量(μg/L)]>0.020を満たす、容器詰めコーヒー飲料。
(2)さらに、フェノール(c)を含有し、[(b)の含有量(mg/L)/{(a)+(c)}の含有量(μg/L)]>0.0080を満たす、(1)に記載の容器詰めコーヒー飲料。
(3)さらに、p-エチルフェノール(d)、p-クレゾール(e)及び2-アセチルピロール(f)を含有し、[(b)の含有量(mg/L)/{(a)+(c)+(d)+(e)+(f)}の含有量(μg/L)]≧0.0050を満たす、(2)に記載の容器詰めコーヒー飲料。
(4)グアイアコール(a)の含有量が、100μg/L~500μg/Lである、(1)~(3)のいずれかに記載の容器詰めコーヒー飲料。
(5)ブラックコーヒーである、(1)~(4)のいずれかに記載の容器詰めコーヒー飲料。
(6)飲料のBrix値が0.4以上である、(1)~(5)のいずれかに記載の容器詰めコーヒー飲料。
(7)再栓可能な蓋付き容器に充填された、(1)~(6)のいずれかに記載の容器詰めコーヒー飲料。
(8)容器詰めコーヒー飲料の製造方法であって、
(i)[クロロゲン酸ラクトン類(b)の含有量(mg/L)/グアイアコール(a)の含有量(μg/L)]>0.020を満たすように、(a)及び(b)の含有量を調整する工程、及び、
(ii)容器詰めする工程、
を含む、前記製造方法。」
・「【発明の効果】
【0010】
本発明により、開栓後に経時的に発生する後味の悪さが改善された容器詰めコーヒー飲料を提供することができる。」
・「【0012】
1.容器詰めコーヒー飲料
本発明の容器詰めコーヒー飲料は、クロロゲン酸ラクトン類(b)及びグアイアコール(a)を含有し、[(b)の含有量(mg/L)/(a)の含有量(μg/L)]>0.020を満たすものである。これにより、容器詰めコーヒー飲料の開栓後に経時的に発生する後味の悪さを改善することができる。なお、本明細書において「後味の悪さ」とは、コーヒーの苦みが飲用後に持続的に舌に違和感が残ることであり、後引きともいう。一方、コーヒーの苦味であっても、キレのある苦味は「後味の悪さ」とは異なるものである。
【0013】
1-1.クロロゲン酸ラクトン類
クロロゲン酸ラクトン類は、クロロゲン酸類のキナ酸残基の一部に、環状の構造ができた形をした化合物の総称であり、5-カフェオイル-1,3-キノラクトン、3-カフェオイル-1,5-キノラクトン、4-カフェオイル-1,3-キノラクトン、4-カフェオイル-1,5-キノラクトン、5-カフェオイル-1,4-キノラクトンなどが含まれる。本発明のクロロゲン酸ラクトン類の含有量は、実施例記載の方法によって測定された値をいう。クロロゲン酸ラクトン類は、コーヒーの苦味に寄与する成分であり、コーヒー生豆にはほとんど含まれておらず、焙煎によってクロロゲン酸類から生成することが知られている。なお、本明細書ではクロロゲン酸ラクトン類を(b)で表す場合がある。
【0014】
本発明のコーヒー飲料におけるクロロゲン酸ラクトン類の含有量は特に限定されないが、後味の悪さを改善するという観点から、好ましくは3.0mg/L~15.0mg/L、より好ましくは4.0mg/L~13.5mg/L、さらに好ましくは4.5mg/L~12.5mg/Lである。なお、本明細書においてクロロゲン酸ラクトン類の含有量は、5-カフェオイル-1,3-キノラクトン、3-カフェオイル-1,5-キノラクトン、4-カフェオイル-1,3-キノラクトン、4-カフェオイル-1,5-キノラクトン、5-カフェオイル-1,4-キノラクトンの含有量の合計を意味する。
【0015】
1-2.グアイアコール
本発明において、グアイアコールはコーヒー特有の後引きする苦味に寄与する成分である。なお、本明細書ではグアイアコールを(a)と表記する場合がある。
【0016】
本発明のコーヒー飲料はグアイアコールを含有するが、その含有量は特に限定されない。例えば、本発明のコーヒー飲料におけるグアイアコールの含有量は、好ましくは100μg/L~500μg/L、より好ましくは150μg/L~470μg/L、さらに好ましくは210μg/L~370μg/Lである。なお、コーヒー飲料中のグアイアコール含有量が高いと、容器詰めコーヒー飲料の開栓後に経時的に発生する後味の悪さを改善効果が十分に得られないことがある。
【0017】
グアイアコールの含有量はGC-MS法によりに測定することができる。
1-3.クロロゲン酸ラクトン類とグアイアコールとの含有量比
本発明のコーヒー飲料は、開栓後に経時的に発生する後味の悪さをより改善するという観点から、クロロゲン酸ラクトン類(b)の含有量とグアイアコール(a)の含有量との含有量比[(b)/(a)]が、[(b)/(a)]>0.020であり、好ましくは0.100>[(b)/(a)]>0.020であり、より好ましくは0.050>[(b)/(a)]>0.020である。」
・「【0018】
1-4.フェノール、p-エチルフェノール、p-クレゾール及び2-アセチルピロール
本発明において、フェノール、p-エチルフェノール、p-クレゾール及び2-アセチルピロールは、いずれもコーヒー特有の後引きする苦味に寄与する成分である。本発明のコーヒー飲料では、開栓後に経時的に発生する後味の悪さを効果的に抑制する観点から、さらに、フェノール、p-エチルフェノール、p-クレゾール及び2-アセチルピロールからなる群から選択される一以上の成分の含有量を調整することもできる。なお、本明細書ではフェノール、p-エチルフェノール、p-クレゾール及び2-アセチルピロールをそれぞれ、(c)、(d)、(e)及び(f)と表記する場合がある。
【0019】
本発明のコーヒー飲料中のフェノールの含有量は特に限定されないが、好ましくは50μg/L~700μg/L、より好ましくは100μg/L~500μg/L、さらに好ましくは120μg/L~370μg/Lである。また、本発明のコーヒー飲料中のp-エチルフェノールの含有量は、好ましくは0.5μg/L~15.0μg/L、より好ましくは1.0μg/L~10.0μg/L、さらに好ましくは2.0μg/L~6.5μg/Lである。また、本発明のコーヒー飲料中のp-クレゾールの含有量は、好ましくは3.0μg/L~19.0μg/L、より好ましくは5.0μg/L~16.0μg/L、さらに好ましくは7.0μg/L~13.0μg/Lである。また、本発明のコーヒー飲料中の2-アセチルピロールの含有量は、好ましくは200μg/L~1450μg/L、より好ましくは400μg/L~1250μg/L、さらに好ましくは600μg/L~1100μg/Lである。
【0020】
なお、フェノール、p-エチルフェノール、p-クレゾール及び2-アセチルピロールの含有量はそれぞれGC-MS法によりに測定することができる。
1-5.クロロゲン酸ラクトン類と、グアイアコール及びフェノールの含有量の合計との比
本発明のコーヒー飲料は、開栓後に経時的に発生する後味の悪さをより改善するという観点から、クロロゲン酸ラクトン類(b)の含有量と、グアイアコール(a)及びフェノール(c)の含有量の合計との比[(b)/{(a)+(c)}]が、[(b)/{(a)+(c)}]>0.0080であることが好ましく、0.050>[(b)/{(a)+(c)}]>0.008であることがより好ましく、0.025>[(b)/{(a)+(c)}]>0.012であることがさらにより好ましい。
【0021】
1-6.クロロゲン酸ラクトン類と、グアイアコール、フェノール、p-エチルフェノール、p-クレゾール及び2-アセチルピロールの含有量の合計との比
本発明のコーヒー飲料は、開栓後に経時的に発生する後味の悪さをより効果的に改善するという観点から、クロロゲン酸ラクトン類(b)の含有量と、グアイアコール(a)、フェノール(c)、p-エチルフェノール(d)、p-クレゾール(e)及び2-アセチルピロール(f)の含有量の合計との比[(b)/{(a)+(c)+(d)+(e)+(f)}]が、[(b)/{(a)+(c)+(d)+(e)+(f)}]≧0.0050であることが好ましく、0.050>[(b)/{(a)+(c)+(d)+(e)+(f)}]≧0.0050であることがより好ましく、0.010>[(b)/{(a)+(c)+(d)+(e)+(f)}]≧0.0050であることがさらにより好ましい。」
・「【0022】
1-7.コーヒー飲料
本明細書において「コーヒー飲料」とは、コーヒー分を原料として使用し、加熱殺菌処理がなされた飲料製品のことをいう。製品の種類は特に限定されないが、1977年に認定された「コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約」の定義である「コーヒー」、「コーヒー飲料」、及び「コーヒー入り清涼飲料」が主に挙げられる。・・・(略)・・・
【0024】
本発明のコーヒー飲料には、必要に応じて乳、牛乳及び乳製品等の乳分を添加してもよいが、乳分を含まないブラックコーヒーであることが好ましい。
また、本発明のコーヒー飲料は任意の容器に充填された容器詰めコーヒー飲料である。本発明のコーヒー飲料が充填される容器としては、殺菌方法や保存方法に合わせて適宜選択すればよく、アルミ缶、スチール缶、PETボトル、ガラス瓶、紙容器など、通常用いられる容器のいずれも用いることができる。また、本発明のコーヒー飲料は長時間かけて飲用する形態に適していることから、再栓可能な蓋付き容器、すなわちボトル缶やPETボトルが好ましい。」
・「【0026】
1-8.Brix値
Brix値は、糖度計や屈折計などを用いて20℃で測定された屈折率を、ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)の換算表に基づいてショ糖溶液の質量/質量パーセントに換算した値であり、飲料中の可溶性固形分含有量を表す。単位は「Bx」、「%」又は「度」と表記する場合もある。飲料のBrix値が低ければ、糖質を含めた飲料中の可溶性固形分の含有量が低いこととなる。
【0027】
本発明のコーヒー飲料のBrix値は特に限定されないが、0.4以上であることが好ましく、0.4~3.0であることがより好ましく、0.4~1.8であることがより好ましい。」
・「【0030】
本実施の形態に係る発明において、pHは4.0~7.0の範囲が好ましく、5.0~6.5の範囲がより好ましく、5.2~6.2の範囲がさらにより好ましい。
2.容器詰めコーヒー飲料の製造方法
ある態様では、本発明は容器詰めコーヒー飲料の製造方法である。より具体的には、本発明の一態様は容器詰めコーヒー飲料の製造方法であって、(i)[クロロゲン酸ラクトン類(b)の含有量(mg/L)/グアイアコール(a)の含有量(μg/L)]>0.020を満たすように、(a)及び(b)の含有量を調整する工程、及び、(ii)容器詰めする工程、を含む、前記製造方法である。」
・「【実施例】
【0033】
以下、実施例をもって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
1.サンプルコーヒー飲料の製造
本実施例では、グアイアコール、クロロゲン酸ラクトン類、フェノール、p-エチルフェノール、p-クレゾール及び2-アセチルピロールの含有量が異なるサンプル飲料(実施例1~7及び比較例1~3)を調製した。各サンプル飲料の具体的な調製方法を以下に記載する。なお、各成分の標準品も準備し、必要に応じて、添加した。
<実施例1>
中煎りに焙煎したコーヒー豆(グアテマラ種:L値20)を粉砕し、コーヒー豆の量に対して9倍の質量の湯を抽出湯として用い、抽出機で50℃にて抽出を行った。また、抽出工程の途中で蒸らし時間を3分間設けた。そして、回収する抽出湯量がコーヒー豆量の約3倍の質量となったところで抽出を終了した。その後、抽出液に対して遠心分離、膜ろ過を実施した。その後、得られた抽出液を約3倍希釈し、さらに重曹を添加して実施例1用の調合液を得た。前記ベース飲料を缶に充填し、F0=4以上でレトルト殺菌を実施して、実施例1のコーヒー飲料を得た。
<実施例2>
実施例1用の調合液を10/12倍希釈して、実施例2用の調合液を調製した。その後、実施例2用の調合液を400g容量のボトル缶に充填し、F0=4以上でレトルト殺菌を実施して、実施例2のコーヒー飲料を得た。
<実施例3、実施例4、比較例2>
実施例2の調合液に、グアイアコールを所定の含有量となるように配合して、実施例3、4及び比較例2用の調合液を調製した。その後、実施例3、4及び比較例2用の調合液を缶に充填し、F0=4以上でレトルト殺菌を実施して、実施例3、4及び比較例2のコーヒー飲料を得た。
<実施例5>
実施例3用の調合液を7/10倍希釈して、実施例5用の調合液を調製した。その後、実施例5用の調合液を缶に充填し、F0=4以上でレトルト殺菌を実施して、実施例5のコーヒー飲料を得た。
<実施例6>
実施例5用の調合液に、グアイアコールを所定の含有量となるように配合して、実施例6用の調合液を調製した。その後、実施例6用の調合液を缶に充填し、F0=4以上でレトルト殺菌を実施して、実施例6のコーヒー飲料を得た。
<実施例7>
実施例6用の調合液を4.7/8倍希釈して、実施例7用の調合液を調製した。その後、実施例7用の調合液を缶に充填し、F0=4以上でレトルト殺菌を実施して、実施例7のコーヒー飲料を得た。
<比較例3>
実施例7用の調合液に、グアイアコールを所定の含有量となるように配合して、比較例3用の調合液を調製した。その後、比較例3用の調合液を缶に充填し、F0=4以上でレトルト殺菌を実施して、比較例3のコーヒー飲料を得た。
<比較例1>
超深煎りに焙煎したコーヒー豆(グアテマラ種:L値16)を粉砕し、コーヒー豆の量に対して9倍の質量の水を抽出水として用い、抽出機で20℃の低温で抽出を行った。また、抽出工程の途中で蒸らし時間を3分設けた。そして、回収する抽出湯量がコーヒー豆量の約3倍の質量となったところで抽出を終了した。その後、得られた抽出液を約3倍希釈し、さらに重曹を添加して調合液を得た。前記調合液を缶に充填し、F0=4以上でレトルト殺菌を実施して、比較例1のコーヒー飲料を得た。
・・・(略)・・・
【0038】
・・・(略)・・・
3.官能評価
3名の訓練された専門パネラー間で、官能評価結果(市販品1の常温開栓時)を使用してそれに対応する点数との関係を確認し、点数付けがなるべく共通化するようにした後、上記1で調製したコーヒー飲料及び市販品1~3の官能評価を3名の専門パネラーによって行い、コーヒー飲料の後味の悪さについて評価した。具体的には、各専門パネラーごとに下記基準に基づいて0.1点刻みで点数付けを行い、その平均点を表1に示した。なお、官能評価においては、グアイコール含有量がある程度低い市販品1の常温開栓時の官能評価結果(官能評価点:4.0点)を基準とし、平均点4.0点を超えるものが好ましいコーヒー飲料であると判定した。
【0039】
<評価点の基準>
5.0点:後味の悪さが全くない。
4.0点:後味の悪さがほとんどない。
【0040】
3.0点:後味の悪さが少しある。
2.0点:後味の悪さがある。
1.0点:後味の悪さが強すぎて、飲料として適さない。
【0041】
結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
[図:0001387539000002.jpg]
【0043】
表1に記載の通り、クロロゲン酸ラクトン類(b)の含有量とグアイアコール(a)の含有量との含有量比((b)/(a))が本発明の所定の範囲内にあるコーヒー飲料(実施例1~7)では、常温2時間後における官能評価点がいずれも4.0点を超えており、後引きする苦味が抑制され、後味の悪さも改善されていることが示された。従って、本発明によると、コーヒー飲料中のクロロゲン酸ラクトン類(b)の含有量(mg/L)とグアイアコール(a)の含有量(μg/L)との含有量比((b)/(a))が特定の範囲となるように、クロロゲン酸ラクトン類及びグアイアコールの含有量を調整することで、液温にかかわらずコーヒー特有の後引きする苦味が抑制され、良好な後味を有する容器詰めコーヒー飲料を実現できることが明らかとなった。」
(4)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0007】によると、本件特許発明1ないし8の解決しようとする課題は、「開栓後に経時的に発生する後味の悪さが改善された容器詰めコーヒー飲料」を提供することであり、本件特許発明9の解決しようとする課題は、「開栓後に経時的に発生する後味の悪さが改善された容器詰めコーヒー飲料の製造方法」を提供することである(以下、総称して「発明の課題」という。)。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0008】、【0009】及び【0016】には、本件特許発明1ないし9に対応する記載がある。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【0002】ないし【0006】には背景技術について、【0012】には「容器詰めコーヒー飲料」について、同【0013】及び【0014】には「クロロゲン酸ラクトン類」及びその含有量について、同【0015】及び【0016】には「グアイアコール」及びその含有量について、同【0017】には「クロロゲン酸ラクトン類とグアイアコールとの含有量比」について、【0018】には「フェノール、p-エチルフェノール、p-クレゾール及び2-アセチルピロール」について、【0020】には「クロロゲン酸ラクトン類と、グアイアコール及びフェノールの含有量の合計との比」について、【0021】には「クロロゲン酸ラクトン類と、グアイアコール、フェノール、p-エチルフェノール、p-クレゾール及び2-アセチルピロールの含有量の合計との比」について、【0022】には「コーヒー飲料」について、【0024】には「ブラックコーヒー」及び「再栓可能な蓋付き容器」について、【0026】には「Brix値」について、【0030】には「容器詰めコーヒー飲料の製造方法」について、それぞれ具体的に記載されている。
特に、【0003】には「開栓から長時間経過すると、酸化と揮発の影響による成分変化によって、後味の悪さが生じていた」こと、【0004】には「グアイアコール」が低揮発性コーヒーアロマ化合物であること、【0013】には「クロロゲン酸ラクトン類は、コーヒーの苦味に寄与する成分」であること、【0015】には「グアイアコールはコーヒー特有の後引きする苦味に寄与する成分」であること、【0016】には「コーヒー飲料中のグアイアコール含有量が高いと、容器詰めコーヒー飲料の開栓後に経時的に発生する後味の悪さを改善効果が十分に得られない」こと、【0017】には「開栓後に経時的に発生する後味の悪さをより改善するという観点から、クロロゲン酸ラクトン類(b)の含有量とグアイアコール(a)の含有量との含有量比[(b)/(a)]が、[(b)/(a)]>0.020」であることが、それぞれ記載されている。
さらに、【0033】ないし【0043】において、クロロゲン酸ラクトン類(b)の含有量とグアイアコール(a)の含有量との含有量比((b)/(a))が0.020より大きい範囲内にあり、グアイアコール(a)の含有量が500μg/L以下であるコーヒー飲料(実施例1ないし7)では、常温2時間後における官能評価点がいずれも4.0点を超えており、後引きする苦味が抑制され、後味の悪さも改善されていることを確認している。
そうすると、上記記載から、当業者は、開栓から長時間経過すると、酸化と揮発の影響により、グアイアコールよりも揮発しやすい成分は揮発し、後引きする苦味に寄与する成分であるグアイアコールは揮発せずに残るという成分変化が生じ、グアイアコールの影響が大きくなるため、後味の悪さが生じることになること及びクロロゲン酸ラクトン類の影響を大きく、グアイアコールの影響を小さくなるようにすれば、後味の悪さが改善されることを理解するから、「クロロゲン酸ラクトン類(b)及びグアイアコール(a)を含有し、[(b)の含有量(mg/L)/(a)の含有量(μg/L)]>0.020を満たし、グアイアコール(a)の含有量が500μg/L以下である、容器詰めコーヒー飲料」及びその「製造方法」は発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1及び9は上記発明の課題を解決できると認識できる「容器詰めコーヒー飲料」及びその「製造方法」であり、本件特許発明2ないし8は上記発明の課題を解決できると認識できる「容器詰めコーヒー飲料」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし9は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1ないし9に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(5)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 2の主張について検討する。
上記(4)のとおりであるから、実施例1ないし7以外の容器詰めコーヒー飲料の場合に、他の苦みに寄与する成分の影響のため後味の悪さの改善の程度に差が生じるかもしれないが、多少は改善されると当業者は理解する。
したがって、特許異議申立人の上記第3 2の主張は採用できない。
(6)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当しないので申立理由2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件特許発明1ないし8は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
また、本件特許発明9は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法を使用し、その方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、上記2(3)のとおりであり、発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし8及び本件特許発明9の各発明特定事項について具体的に記載され、実施例についてもその製造方法を含め具体的に記載されている。また、本件特許の発明の詳細な説明の【0033】には、各成分の標準品を準備し、必要に応じて添加することも記載されている。
したがって、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし8を生産し、使用することができる程度の記載があるといえるし、本件特許発明9を使用し、本件特許発明9により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし9に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 3の主張について検討する。
実施可能要件を充足するかどうかの判断は、上記(1)の判断基準により行うものであり、実施例1ないし7以外の容器詰めコーヒー飲料の場合に本件特許発明の効果が得られるかどうかは、関係がない。
なお、上記2(3)の記載からみて、実施例1ないし7以外の容器詰めコーヒー飲料の場合でも、後味の悪さの改善の程度に差が生じるかもしれないとしても、多少は改善され、本件特許発明の効果が得られると当業者は理解する。
したがって、特許異議申立人の上記第3 3の主張は採用できない。
(4)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当しないので申立理由3によっては取り消すことはできない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700310