2022-700285
翻訳促進剤、翻訳鋳型mRNA、転写鋳型DNA、翻訳鋳型mRNAの生産方法、および、タンパク質の生産方法
- 審判番号
- 2022-700285
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-033276外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6945902
- 請求日
- 2022年04月05日
- 審決日
- 2022年12月27日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】NUProtein株式会社
- 【権利者代理人】松本 征二
- 【異議申立人】渡辺 陽子
- 分類
- P1652.161-YAA(C12N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条の2、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 13項目
第1 手続の経緯
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特許第6945902号の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和3年3月3日に出願され、令和3年9月17日にその特許権の設定登録がされ、同年10月6日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和4年4月5日に、本件特許の請求項1~5に係る特許に対して、特許異議申立人である渡辺 陽子(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがされたものである。
よって、本件特許異議申立てに係る審理対象は、請求項1~5に係る特許についてであり、請求項6~8に係る特許は、本件審理の対象外である。
手続の経緯は以下のとおりである。
令和4年 4月 5日 特許異議申立書の提出
同年 6月22日 取消理由通知書
同年 8月24日 訂正請求書、意見書(特許権者)の提出
同年10月12日 意見書(申立人)の提出
第2 訂正の適否
1 訂正事項
令和4年8月24日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。また、本件訂正は、訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用する訂正前の請求項2~8を含む一群の請求項1~9についてされたものであり、さらに、訂正が認められた場合には、訂正後の請求項6~8、9については、一群の請求項である請求項1~5とは別の訂正単位とすることが求められているものである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域の5´末端に隣接して連結される5´非翻訳領域としての核酸である第1配列と、目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域の3´末端に隣接して連結される3´非翻訳領域としての核酸である第2配列と、の組合せであり」とあるのを、
「目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域の5´末端に隣接して連結される5´非翻訳領域としての核酸である第1配列と、目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域の3´末端に隣接して連結される3´非翻訳領域としての核酸である第2配列と、の組合せであり(ただし、第2配列がポリA配列を含まない場合は第2配列の核酸の長さと第1配列の核酸の長さが同じになること、第2配列がポリA配列を含む場合は第2配列からポリA配列を除いた核酸の長さと第1配列の核酸の長さが同じになること、を除く。)」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6に、
「無細胞タンパク質合成系に用いる転写鋳型DNAであって、該転写鋳型DNAは、請求項1~5の何れか一項に記載の翻訳鋳型mRNAをコードする領域と、第1配列の5´末端に配置されるプロモーター領域とを含む、転写鋳型DNA。」とあるうち、請求項1を引用するものについて独立形式に改め、
「無細胞タンパク質合成系に用いる転写鋳型DNAであって、該転写鋳型DNAは、翻訳鋳型mRNAをコードする領域と、第1配列の5´末端に配置されるプロモーター領域と、続きを表示(全16行)を含み、翻訳鋳型mRNAは、翻訳促進剤と、目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域と、を含み、翻訳促進剤は、目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域の5´末端に隣接して連結される5´非翻訳領域としての核酸である第1配列と、目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域の3´末端に隣接して連結される3´非翻訳領域としての核酸である第2配列と、の組合せであり、翻訳鋳型mRNAをMXfoldで解析した際に、第1配列および第2配列は、接合部を形成し、第1配列の接合部より3´側の核酸の数および第2配列の接合部より5´側の核酸の数の和が25以下である転写鋳型DNA。」に訂正する。
請求項6の記載を引用する請求項7および請求項8も同様に訂正する。
(3) 訂正事項3
(訂正事項3-1)
特許請求の範囲の請求項8に、
「タンパク質の生産方法であって、細胞の不存在下であってかつ翻訳鋳型mRNAをタンパク質に翻訳するための要素の存在下で、請求項1~5の何れか一項に記載の翻訳鋳型mRNAまたは請求項7に記載の翻訳鋳型mRNAの生産方法で生産した翻訳鋳型mRNAを用いてタンパク質を合成する工程、を備える、タンパク質の生産方法。」とあるうち、請求項7を引用するものについて、
「タンパク質の生産方法であって、細胞の不存在下であってかつ翻訳鋳型mRNAをタンパク質に翻訳するための要素の存在下で、請求項7に記載の翻訳鋳型mRNAの生産方法で生産した翻訳鋳型mRNAを用いてタンパク質を合成する工程、を備える、タンパク質の生産方法。」に訂正する。
(訂正事項3-2)
特許請求の範囲の請求項8に、
「タンパク質の生産方法であって、細胞の不存在下であってかつ翻訳鋳型mRNAをタンパク質に翻訳するための要素の存在下で、請求項1~5の何れか一項に記載の翻訳鋳型mRNAまたは請求項7に記載の翻訳鋳型mRNAの生産方法で生産した翻訳鋳型mRNAを用いてタンパク質を合成する工程、を備える、タンパク質の生産方法。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、
「タンパク質の生産方法であって、細胞の不存在下であってかつ翻訳鋳型mRNAをタンパク質に翻訳するための要素の存在下で、翻訳鋳型mRNAを用いてタンパク質を合成する工程、を備え、翻訳鋳型mRNAは、続きを表示(全14行)翻訳促進剤と、目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域と、を含み、翻訳促進剤は、目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域の5´末端に隣接して連結される5´非翻訳領域としての核酸である第1配列と、目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域の3´末端に隣接して連結される3´非翻訳領域としての核酸である第2配列と、の組合せであり、翻訳鋳型mRNAをMXfoldで解析した際に、第1配列および第2配列は、接合部を形成し、第1配列の接合部より3´側の核酸の数および第2配列の接合部より5´側の核酸の数の和が25以下であるタンパク質の生産方法。」と記載し、新たに請求項9とする。
2 訂正の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、「・・・第1配列と、・・・第2配列と、の組み合わせ」である「翻訳促進剤」において、「第2配列がポリA配列を含まない場合は第2配列の核酸の長さと第1配列の核酸の長さが同じになること、第2配列がポリA配列を含む場合は第2配列からポリA配列を除いた核酸の長さと第1配列の核酸の長さが同じになること」を除く訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
本件明細書に記載された本件訂正前の発明は、比較的短い5’UTRにもかかわらず、目的タンパク質を合成できる翻訳促進剤、翻訳鋳型mRNA、転写鋳型DNA、翻訳鋳型mRNAの生産方法、および、タンパク質の生産方法を提供することを課題とするものであり(本件明細書【0012】)、目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域の5’末端側のUTRである第1配列および3’末端側のUTRである第2配列において、第1配列および第2配列が接合部を形成できるように設計することで上記課題を解決できることが記載されている(同【0011】)と認められる。そして、第1配列および第2配列が相補対を形成する領域を意味する接合部が形成されれば、第1配列及び第2配列の核酸の長さには制限がないことや、第2配列は、3’末端側にポリA配列を更に含んでもよいことが記載されていると認められる(同【0019】~【0024】、【0030】)。
そうすると、訂正事項1によって、「第2配列がポリA配列を含まない場合は第2配列の核酸の長さと第1配列の核酸の長さが同じになること、第2配列がポリA配列を含む場合は第2配列からポリA配列を除いた核酸の長さと第1配列の核酸の長さが同じになること」を除いた訂正後の発明においても、第1配列および第2配列が接合部を形成することで、上記課題は解決するものと認められるから、訂正事項1が本件明細書に開示された技術的事項に新たな技術的事項を付加したものでないことは明らかであり、訂正事項1は、当業者によって、本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであることが明らかであるということができる。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記アのとおり「・・・第1配列と、・・・第2配列と、の組み合わせ」である「翻訳促進剤」において、「第2配列がポリA配列を含まない場合は第2配列の核酸の長さと第1配列の核酸の長さが同じになること、第2配列がポリA配列を含む場合は第2配列からポリA配列を除いた核酸の長さと第1配列の核酸の長さが同じになること」を除くものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
エ 独立特許要件について
本件特許異議申立事件においては、訂正前の請求項1~5に係る特許に対して特許異議の申立てがされているから、訂正後の請求項1~5については、特許法第第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項1~5を引用していた訂正前の請求項6を、訂正前の請求項1のみを引用するように改めるとともに、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改めるための訂正である。
これは、請求項6を引用する請求項7、8についても同様である。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であるとともに、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、上記アで検討したとおり、訂正前の請求項1~5を引用していた訂正前の請求項6を、訂正前の請求項1のみを引用するように改めるとともに、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改めるための訂正であるから、本件特許明細書の記載から導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。
これは、請求項6を引用する請求項7、8についても同様である。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合している。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、上記アで検討したとおり、訂正前の請求項1~5を引用していた訂正前の請求項6を、訂正前の請求項1のみを引用するように改めるとともに、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改めるための訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
これは、請求項6を引用する請求項7、8についても同様である。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合している。
エ 独立特許要件について
訂正前の請求項6~8に係る訂正については、いずれも特許異議の申立てがされていないが、上記2(2)「訂正事項2について」に記載したとおり、請求項6~8についての訂正には、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものが含まれているから、訂正後の請求項6~8に係る特許について、独立特許要件について検討する。
訂正前の請求項6に係る発明は、拒絶理由を発見しないとして特許されたものであり、訂正後の請求項6が、訂正前の請求項1のみを引用する態様に限定し、また独立形式としたことにより、新たな拒絶理由が生じるものではなく、また、異議申立書とともに提出された証拠をみても、訂正後の請求項6に係る発明について記載ないし示唆はないから、請求項6に係る発明については、特許を取り消すべき理由を発見しない。
これは、請求項6を引用する請求項7、8についても同様である。
よって、訂正事項2は、特許法第第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすものである。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3の訂正事項3-1は、訂正前の請求項1~5及び請求項7を引用していた訂正前の請求項8を、請求項7のみを引用するように改めるものであるから、訂正事項3-1は、特許法第120条の5第2項ただし書1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
訂正事項3の訂正事項3-2は、訂正前の請求項1~5及び請求項7を引用していた訂正前の請求項8を、訂正前の請求項1のみを引用するように改めるとともに、請求項間の引用関係を解消し、訂正前の請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改め、新たに請求項9とする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であるとともに、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記アで検討したとおり、訂正事項3の訂正事項3-1は、訂正前の請求項1~5及び請求項7を引用していた訂正前の請求項8を、請求項7のみを引用するように改めものであり、訂正事項3-2は、訂正前の請求項1~5及び請求項7を引用していた訂正前の請求項8を、訂正前の請求項1のみを引用するように改めるとともに、請求項間の引用関係を解消し、訂正前の請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改め、新たに請求項9とする訂正であるから、本件特許明細書の記載から導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合している。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アで検討したとおり、訂正事項3の訂正事項3-1は、訂正前の請求項1~5及び請求項7を引用していた訂正前の請求項8を、請求項7のみを引用するように改めものであり、訂正事項3-2は、訂正前の請求項1~5及び請求項7を引用していた訂正前の請求項8を、訂正前の請求項1のみを引用するように改めるとともに、請求項間の引用関係を解消し、請求項7の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改め、新たに請求項9とする訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合している。
エ 独立特許要件について
訂正前の請求項8に係る訂正については、いずれも特許異議の申立てがされていないが、上記2(3)「訂正事項3について」に記載したとおり、請求項8についての訂正には、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものが含まれているから、訂正後の請求項8、9に係る特許について、独立特許要件について検討する。
訂正前の請求項8に係る発明は、拒絶理由を発見しないとして特許されたものであり、訂正後の請求項8が、請求項7のみを引用する態様に限定したことにより、新たな拒絶理由が生じるものではなく、また、異議申立書とともに提出された証拠をみても、訂正後の請求項8に係る発明について記載ないし示唆はないから、請求項8に係る発明については、特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、訂正後の請求項9が、訂正前の請求項1のみを引用する態様に限定し、また独立形式としたことにより、新たな拒絶理由が生じるものではなく、異議申立書とともに提出された証拠をみても、訂正後の請求項9に係る発明について記載ないし示唆はないから、請求項9に係る発明については、特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、訂正事項2は、特許法第第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすものである。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1及び4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5~7項の規定に適合する。
また、訂正が認められた場合に、請求項6~8、9については、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とする求めがされているので、これを認める。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕、〔6~8〕、9について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件特許の請求項1~9に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、本件審理の対象である本件特許の請求項1~5に係る発明は、以下のとおりのものである。(下線は、訂正箇所を示す。なお、第1で述べたとおり、訂正前の請求項6~8に係る特許は、本件審理の対象外であるため、これらに対応する訂正後の請求項6~9も、本件審理の対象ではない。)
以下、訂正後の請求項1に係る発明を、項番に従い、「本件発明1」などという。また、訂正前の本件発明を、「訂正前本件発明1」などという。
「【請求項1】翻訳促進剤と、目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域と、を含む翻訳鋳型mRNAであって、続きを表示(全23行)翻訳促進剤は、目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域の5´末端に隣接して連結される5´非翻訳領域としての核酸である第1配列と、目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域の3´末端に隣接して連結される3´非翻訳領域としての核酸である第2配列と、の組合せであり(ただし、第2配列がポリA配列を含まない場合は第2配列の核酸の長さと第1配列の核酸の長さが同じになること、第2配列がポリA配列を含む場合は第2配列からポリA配列を除いた核酸の長さと第1配列の核酸の長さが同じになること、を除く。)翻訳鋳型mRNAをMXfoldで解析した際に、第1配列および第2配列は、接合部を形成し、第1配列の接合部より3´側の核酸の数および第2配列の接合部より5´側の核酸の数の和が25以下である翻訳鋳型mRNA。【請求項2】第1配列の核酸の長さが3以上である請求項1に記載の翻訳鋳型mRNA。【請求項3】第2配列の核酸の長さが20以上である請求項1または2に記載の翻訳鋳型mRNA。【請求項4】第2配列が接合部より3´側にA(アデニン)が連続するポリA配列を更に含む請求項1~3の何れか一項に記載の翻訳鋳型mRNA。【請求項5】第1配列および/または第2配列が、1個以上のステムまたはステムループを含む請求項1~4の何れか一項に記載の翻訳鋳型mRNA。」
第4 当審が通知した取消理由及び特許異議申立ての理由の概要
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1 取消理由通知書に記載した取消理由の概要
当審が令和4年6月22日付けの取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。
訂正前本件発明1~5は、本件特許出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた他の特許出願であるPCT/JP2020/039160(先願1)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(下記甲1)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が他の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記他の特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本件発明1~5に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
2 特許異議申立理由の概要
申立人が特許異議申立書に記載した申立理由の概要及び添付した証拠方法は、以下に示すとおりである。
訂正前本件発明1~5は、本件特許出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた他の特許出願であるPCT/JP2020/039160の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(下記甲1)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が他の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記他の特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本件発明1~5に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
(証拠方法)
甲第2号証の1:甲第1号証の[0114]に記載の「GAPDHの5´UTR配列を有し、GAPDHの5´UTR配列に対して100%の相補性を有する3´UTR配列を有する人工合成mRNA」において、EGFPを有するORFの代わりに5×Flagをコードする塩基配列に置き換えた人工合成mRNAの2次構造をMXfoldで予測した結果
甲第3号証:Nogimoriら、「Dom34 mediates targeting of exogenous RNA in the antiviral OAS/RNase L pathway」、Nucleic Acids Research、2019、Vol.47、Issue 1、pp.432-449
(上記甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証を「甲1」、「甲3」、「甲4」といい、甲第2号証の1~甲第2号証の5を「甲2の1」~「甲2の5」という。「甲2の1」~「甲2の5」は、まとめて「甲2」ということがある。)
第5 当審の判断
本件発明1~5に係る特許は、当審が通知した取消理由通知書に記載した取消理由及び申立人による申立理由によっては、取り消すことができない、と判断する。
その理由は以下のとおりである。
1 取消理由について
(1)甲号証の記載事項
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ア 甲1の記載事項
本件特許の出願日である令和3年3月3日より前の令和1年10月17日を優先日とし、令和2年10月16日に出願され、本願の出願日より後の令和3年4月22日に国際公開された先願1の国際出願日における明細書等(甲1)には、以下の事項が記載されている。
「[請求項1] タンパク質をコードするmRNAの5´非翻訳領域と、前記5´非翻訳領域に対する相補性が40%以上80%以下である3´非翻訳領域と、を備える、人工合成mRNA。」
「[0025] 本発明の一実施形態のmRNAは、タンパク質をコードするmRNAの5´UTRと、5´UTRとの相補性が40%以上80%以下である3´UTRと、を備える。換言すると、本発明の実施形態のmRNAは、目的タンパク質をコードする翻訳領域と、目的タンパク質とは異なるタンパク質をコードするmRNAの5´UTRと、5´UTRとの相補性が40%以上80%以下である3´UTRと、を備える。この形態とすることにより、翻訳効率を向上させることができる。翻訳効率をより向上させる観点から、3´UTRにおける5´UTRとの相補性が50%以上75%以下であることが好ましい。翻訳効率を向上させることができる結果、目的タンパク質の発現効率を向上させることができる。」
「[0030] 本実施形態のmRNAは、その翻訳に必要な5´キャップ構造(m7G(7-メチルグアノシン)が5´末端ヌクレオシドに5´-5´三リン酸橋を介して結合した構造)及びポリ(A)鎖を備えてもよい。ポリ(A)鎖の長さは、特に限定されないが、例えば、30~200塩基である。5´キャップ構造には翻訳開始因子eIF4Eが結合し、ポリ(A)鎖にはポリ(A)鎖結合タンパク質PABP(poly(A)-binding protein)が結合することによって、両者が足場タンパク質である翻訳開始因子eIF4Gを介して複合体を形成することにより、mRNAは環状構造を形成する(Wells SE, et al. Mol Cell. 1998;2:135-140)。さらに、翻訳終結因子eRF3はPABP-eIF4Gと複合体を形成することにより、3´UTRをループアウトする(Uchida N, et al. J Biol Chem. 2002; 277: 50286-50292)。このようなmRNAの環状化は、翻訳終結部位と翻訳開始部位を物理的に近づけ、翻訳を終えたリボソームを、3´UTRを経ることなく終止コドンから次の翻訳開始にリサイクルすることで、翻訳開始の効率に大きく寄与する。5´末端キャップ構造とポリ(A)鎖は、このような翻訳の効率化だけでなく、エキソヌクレアーゼによる末端からのmRNA分解を阻害することでmRNAを安定化し、翻訳の効率化とmRNA安定化の両過程において転写後の遺伝子発現制御に大きく貢献する。」
「[0044] 2.研究材料及び方法(1)プラスミドRNAトランスフェクション用のベクターとして、pBK-5F-EGFP-pA72を用いた。pBK-5F-EGFP-pA72の作製方法としては、Nogimori et al.,“Dom34 mediates targeting of exogenous RNA in the antiviral OAS/RNase L pathway” Nucleic Acids Research, Volume 47,Issue 1,10 January 2019,Pages 432-449に記載された方法を用いた。[0045] (2)非翻訳領域の挿入続きを表示(全48行)・GAPDHの5´UTRの挿入GAPDHの5´UTR配列に関しては、配列番号1と配列番号2に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のKpnI、XhoIサイトに挿入した。ここで、GAPDHの5´UTR配列は、配列番号27に示す。・・・[0049] ・LDHBの5´UTRの挿入LDHBの5´UTR配列に関しては、HeLa細胞から抽出したtotal RNAと、配列番号9と配列番号10に示すオリゴヌクレオチドとを用いた逆転写PCR法により単離した。単離した配列は、pBK-5F-EGFP-pA72のKpnI、XhoIサイトに挿入した。ここで、LDHBの5´UTR配列は、配列番号31に示す。・・・[0054] ・GAPDHの5´UTR配列と相補性が75%である3´UTRの挿入GAPDHの5´UTR配列と相補性が75%である3´UTR配列に関しては、配列番号19と配列番号20に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のKpnI、XhoIサイトに挿入した。ここで、GAPDHの5´UTR配列と相補性が75%である3´UTR配列は、配列番号36に示す。[0055] ・GAPDHの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTRの挿入GAPDHの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTR配列に関しては、配列番号21と配列番号22に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のKpnI、XhoIサイトに挿入した。ここで、GAPDHの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTR配列は、配列番号37に示す。・・・[0057] ・β-globinの5´UTRの挿入β-globinの5´UTR配列に関しては、配列番号41と配列番号42に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のKpnI、XhoIサイトに挿入した。ここで、β-globinの5´UTR配列は、配列番号94に示す。・・・[0061] ・β-globinの5´UTR配列と相補性が74%である3´UTRの挿入β-globinの5´UTR配列と相補性が74%である3´UTRに関しては、配列番号49と配列番号50に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、β-globinの5´UTR配列と相補性が74%である3´UTR配列は、配列番号98に示す。[0062] ・β-globinの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTRの挿入β-globinの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTRに関しては、配列番号51と配列番号52に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、β-globinの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTR配列は、配列番号99に示す。・・・[0064] ・RPS8の5´UTRの挿入RPS8の5´UTR配列に関しては、配列番号55と配列番号56に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のKpnI、XhoIサイトに挿入した。ここで、RPS8の5´UTR配列は、配列番号101に示す。・・・[0068] ・RPS8の5´UTR配列と相補性が71%である3´UTRの挿入RPS8の5´UTR配列と相補性が71%である3´UTRに関しては、配列番号63と配列番号64に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、RPS8の5´UTR配列と相補性が71%である3´UTR配列は、配列番号105に示す。[0069] ・RPS8の5´UTR配列と相補性が50%である3´UTRの挿入RPS8の5´UTR配列と相補性が50%である3´UTRに関しては、配列番号65と配列番号66に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、RPS8の5´UTR配列と相補性が50%である3´UTR配列は、配列番号106に示す。・・・[0075] ・LDHBの5´UTR配列と相補性が75%である3´UTRの挿入LDHBの5´UTR配列と相補性が75%である3´UTRに関しては、配列番号77と配列番号78に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、LDHBの5´UTR配列と相補性が75%である3´UTR配列は、配列番号112に示す。[0076] ・LDHBの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTRの挿入LDHBの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTRに関しては、配列番号79と配列番号80に示すオリゴヌクレオチドをハイブリダイズし、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入した。ここで、LDHBの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTR配列は、配列番号113に示す。・・・[0078] ・Cas9 mRNA合成プラスミドの作製Cas9のcDNA配列はMail et al “RNA-guided human genome engineering via Cas9” Science. 2013 Feb 15;339(6121):823-6 に記載されているhCas9プラスミド(Addgene plasmid # 41815)と、配列番号83と配列番号84に示すオリゴヌクレオチドとを用いたPCR法により単離した。単離した配列をpBK-5F-EGFP-pA72のHindIIIサイトに挿入したプラスミドと、配列番号83と配列番号85に示すオリゴヌクレオチドを用いたインバースPCR法によりpBK-F-hCas9-pA72プラスミドを得た。ここでhCas9のcDNA配列は配列番号115に示し、hCas9のアミノ酸配列は配列番号116に示す。[0079] ・Cas9 mRNA合成プラスミドへのGAPDHの5´UTRの挿入pBK-F-hCas9-pA72プラスミドと、配列番号86と配列番号87に示すオリゴヌクレオチドを用いたインバースPCR法により、GAPDHの5´UTRを挿入した。ここで、GAPDHの5´UTRは、配列番号27に示す。[0080] ・Cas9 mRNA合成プラスミドへのGAPDHの5´UTR配列と相補性が75%である3´UTRの挿入pBK-F-hCas9-pA72プラスミドと、配列番号88と配列番号89に示すオリゴヌクレオチドを用いたインバースPCR法により、GAPDHの5´UTR配列と相補性が75%である3´UTRを挿入した。ここで、GAPDHの5´UTR配列と相補性が75%である3´UTR配列は、配列番号36に示す。[0081] ・Cas9 mRNA合成プラスミドへのGAPDHの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTRの挿入pBK-F-hCas9-pA72プラスミドと、配列番号90と配列番号91に示すオリゴヌクレオチドを用いたインバースPCR法により、GAPDHの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTRを挿入した。ここで、GAPDHの5´UTR配列と相補性が50%である3´UTR配列は、配列番号37に示す。[0082] ・p53のcDNAの挿入p53のcDNA配列は、U20S細胞から抽出したtotal RNAと、配列番号25と配列番号26に示すオリゴヌクレオチドとを用いた逆転写PCR法により単離した。単離したp53のcDNA配列は、pBK-5F-EGFP-pA72のHindIIIサイトに挿入した。ここで、p53のcDNA配列は配列番号39に示し、p53のアミノ酸配列は配列番号40に示す。[0083] (3)RNA合成各種pBK-5F-EGFP-pA72、各種pBK-5F-p53-pA72および各種pBK-F-hCas9-pA72プラスミドを、BsmBIで処理したものを鋳型として、5xFlag-EGFP-pA72、5xFlag-p53-pA72およびFlag-hCas9-pA72 mRNAを合成した。RNA合成は、T7 RNAポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社)を用い、このT7 RNAポリメラーゼの取扱い説明書に従って行った。」
「[0111] (vi)実験6図17は、作製した人工合成mRNAを示す図である。・・・」
「[0120] 図23は、得られた効果の推定メカニズムを説明するための図である。本実施形態の人工合成mRNAは、GAPDHの5´非翻訳領域と、GAPDHの3´非翻訳領域と、を備える。もしくは、本実施形態の人工合成mRNAは、5´非翻訳領域と、5´非翻訳領域との相補性が40%以上80%以下である3´非翻訳領域と、を備える。換言すると、本実施形態の人工合成mRNAは、GAPDHの5´UTR配列に対して、3´UTR配列は、いずれも部分的な相補性を有する。このような部分的な相補性がmRNAの環状化を促進することにより、リボソームを効率的にリサイクルさせるため、翻訳効率が向上すると考えられる。」
「[図:0001395211000001.jpg]」
イ 甲2の記載事項
甲2の1~甲2の5には、甲1の[0114]及び[0111]に記載される、GAPDHの5´UTR配列を有し、GAPDHの5´UTR配列に対して、それぞれ100%、94%、88%、75%、50%の相補性を有する3´UTR配列を有する人工合成mRNAにおいて、EGFPを有するORFの代わりに5×Flagをコードする塩基配列に置き換えた人工合成mRNAの2次構造をMXfoldで予測した結果が示されている。
(ア)「[図:0001395211000002.jpg]」(甲2の1)
(イ)「[図:0001395211000003.jpg]」(甲2の2)
(ウ)「[図:0001395211000004.jpg]」(甲2の3)
(エ)「[図:0001395211000005.jpg]」(甲2の4)
(オ)「[図:0001395211000006.jpg]」(甲2の5)
ウ 甲3の記載事項
甲1の実施例において、RNAトランスフェクション用のベクターの作製方法を記載したものとして引用された学術論文である甲3には、以下の事項が記載されている(翻訳は申立人が提出した抄訳を援用した。)。
「mRNAのインビトロ合成の鋳型であるpBK-5F-EGFPを以下のように構築した。プライマー対NH733/NH732及びpCMV-5×Flag-EGFP(30)を鋳型として使用してEGFP cDNAをPCR増幅し、pBluscript II SK(-)(Agilent Technologies)のXhoIサイト及びEcoRIサイトに挿入してpBK-5×Flag-EGFPを構築した。次に、72ヌクレオチドのポリ(A)テールを含むβ-グロビン3´UTRを、プライマー対NH734/NH770及びpFlag-CMV/TO-BGG(6)を鋳型として使用してPCR増幅し、pBK-5×Flag-EGFPのEcoRIサイト及びBamHIサイトに挿入した。」(第433頁左欄下から19~9行)
エ 甲4の記載事項
pBluescript IIファージミドベクターの取扱説明書である甲4には、甲3で用いられたpBluscript II SK(-)の構造について以下の事項が記載されている(翻訳は申立人が提出した抄訳を援用した。)。
「[図:0001395211000007.jpg]」(第3頁の図1)
(2)甲1に記載された発明
甲1には、特有の構造をとることにより、翻訳効率が向上したmRNAの発明が記載されており([請求項1]、[0025])、[0025]にも記載されているとおり、mRNAがタンパク質をコードする翻訳領域を有することは技術常識であるから、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「目的タンパク質をコードする翻訳領域と、タンパク質をコードするmRNAの5´非翻訳領域と、前記5´非翻訳領域に対する相補性が40%以上80%以下である3´非翻訳領域と、を備える、人工合成mRNA」(以下、「甲1発明」という。)
(3)本件発明1と甲1発明との対比・判断
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
まず、甲1発明の「目的タンパク質をコードする翻訳領域」は、本件発明1の「目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域」に相当する。
甲1発明の「タンパク質をコードするmRNAの5´非翻訳領域と、前記5´非翻訳領域に対する相補性が40%以上80%以下である3´非翻訳領域」は、甲1の[0025]によると翻訳効率を向上させることができるから、本件発明1の「目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域の5’末端に隣接して連結される5’非翻訳領域としての核酸である第1配列と、目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域の3’末端に隣接して連結される3’非翻訳領域としての核酸である第2配列と、の組合せであ」る「翻訳促進剤」に相当する。
甲1発明の「人工合成mRNA」は目的タンパク質の翻訳の鋳型となることは明らかであるから、本件発明の「翻訳鋳型mRNA」に相当する。
また、本件明細書によると本件発明の「接合部」とは「第1配列2および第2配列3が相補対を形成する領域を意味する」(本件明細書【0023】)ものであるところ、甲1発明のmRNAが有する5´非翻訳領域と3´非翻訳領域とは、十分に高い相同性を有しているから、相補対を形成する領域、すなわち「接合部」を形成すると解するのが自然である。甲1発明の具体例である実施例でも、図17に実験6の人工合成mRNAが接合部を有するものとして示されているとおりである(甲2も参照。)。
そうすると、両者は、「翻訳促進剤と、
目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域と、
を含む翻訳鋳型mRNAであって、
翻訳促進剤は、
目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域の5´末端に隣接して連結される5´非翻訳領域としての核酸である第1配列と、
目的タンパク質のアミノ酸配列をコードするコード領域の3´末端に隣接して連結される3´非翻訳領域としての核酸である第2配列と、
の組合せであり、
翻訳鋳型mRNAをMXfoldで解析した際に、第1配列および第2配列は、接合部を形成する、
翻訳鋳型mRNA。」で一致し、以下の点で一応相違する。
一応の相違点1:
本件発明1では、「・・・第1配列と、・・・第2配列と、の組み合わせ」である「翻訳促進剤」において、「第2配列がポリA配列を含まない場合は第2配列の核酸の長さと第1配列の核酸の長さが同じになること、第2配列がポリA配列を含む場合は第2配列からポリA配列を除いた核酸の長さと第1配列の核酸の長さが同じになること」を除くことが特定されているのに対し、甲1発明では、第2配列((ポリA配列を含む場合にはそれを除く)の核酸の長さと第1配列の核酸の長さの関係が特定されていない点
一応の相違点2:
本件発明1では「第1配列の接合部より3´側の核酸の数および第2配列の接合部より5´側の核酸の数の和が25以下である」ことが特定されているのに対し、甲1発明では、第1配列の接合部より3´側の核酸の数および第2配列の接合部より5´側の核酸の数の和が特定されていない点
イ 判断
まず、上記一応の相違点1について検討するに、甲1には、第1配列及び第2配列(ポリA配列を含む場合にはそれを除く)の核酸の長さの異同に関する一般的な記載はなく、それを規定するという技術思想は認められない。
また、上記一応の相違点2については、甲1発明は、[0030]、[0120]からみて、5´UTR配列に対し部分的な相補性を3´UTR配列に付与することで、mRNAの環状化を促進し、翻訳終結部位と翻訳開始部位とを物理的に近づけることにより翻訳効率を向上させるものと解されるから、「第1配列の接合部より3´側の核酸の数および第2配列の接合部より5´側の核酸の数の和」は小さいものと認められるが、甲1には、当該数の和に関する一般的な記載はなく、それを規定するという技術思想は認められない。
そこで、上記一応の相違点1、2を、甲1発明の具体物として記載された実験6~10の人工合成mRNAの構造が共に満たすか否か、以下で検討する。(なお、甲1には、[0127]~[0130]に異なる2つの実験10が記載されていることから、以下、[0127]~[0128]に記載される実験10を「実験10-1」、[0129]~[0130]に記載される実験10を「実験10-2」という。)
(ア)一応の相違点1について
まず、甲1に記載される実験6~10-2の人工合成mRNAは、RNAトランスフェクション用ベクター内で構築されていることから([0044]~[0045]、[0049]、[0054]、[0055]、[0057]、[0061]、[0062]、[0064]、[0068]、[0069]、[0075]、[0076]、[0078]~[0083])、人工合成mRNAの具体的な構造、特に、5´UTR配列と目的タンパク質をコードする翻訳領域、また、目的タンパク質をコードする翻訳領域と3´UTR配列との連結態様を明らかとするため、RNAトランスフェクション用ベクターの構造を検討する。
実験6~10-2で使用されたRNAトランスフェクション用ベクターは、pBK-5F-EGFP-pA72を用いたことが記載され、当該pBK-5F-EGFP-pA72は、甲3に記載された方法を用いて作製したこと、5´UTR配列はpBK-5F-EGFP-pA72のKpnI、XhoIサイトに挿入し、5´UTR配列と部分的な相補性がある3´UTR配列は、pBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入したことが記載されている([0044]~[0045]、[0049]、[0054]、[0055]、[0057]、[0061]、[0062]、[0064]、[0068]、[0069]、[0075]、[0076]、[0078]~[0081])。なお、甲1の[0054]、[0055]には、GAPDHの5´UTR配列と所定の相補性を有する3´UTR配列をpBK-5F-EGFP-pA72のKpnI、XhoIサイトに挿入したと記載されているものの、KpnI、XhoIサイトは、5´UTR配列挿入箇所と重複するものであり、当該KpnI、XhoIサイトへ3´UTR配列を挿入すると、目的タンパク質をコードする翻訳領域の3´側に3´UTR配列を挿入できないこと、実験6~10で用いられた他の3´UTR配列は全てpBK-5F-EGFP-pA72のEcoRI、XbaIサイトに挿入していることからすると、[0054]、[0055]に記載される3´UTR配列の挿入箇所はEcoRI、XbaIサイトの誤記であると認められる。
そして、甲3によれば、RNAトランスフェクション用のベクターであるpBK-5F-EGFP-pA72は、pBluscript II SK(-)のXhoI、EcoRIサイトへ5×Flag-EGFPを挿入して作製したものであり、pBluscript II SK(-)のマルチクローニングサイト領域は、KpnIサイト、XhoIサイト、EcoRIサイト、XbaIサイトの順に位置しているから、甲1の実験6~10-2で用いられた人工合成mRNAは、5´UTR配列と目的タンパク質をコードする翻訳領域、また、目的タンパク質をコードする翻訳領域と3´UTR配列のそれぞれが直結するものである。(pBluscript II SK(-)については甲4を参照。)。
続いて、甲1の実験6~10-2で使用された人工合成mRNAの5´UTR配列及び3´UTR配列の構造について検討する。
実験6~10-2で使用された人工合成mRNAは、上記のとおり、5´UTR配列と目的タンパク質をコードする翻訳領域、また、目的タンパク質をコードする翻訳領域と3´UTR配列のそれぞれが直結しているため、実験6~8に示されるGAPDHの5´UTR配列、該5´UTR配列と部分的な相補性がある3´UTR配列はそれぞれ64塩基、実験9のβ-globinの5´UTR配列、該5´UTR配列と部分的な相補性がある3´UTR配列はそれぞれ50塩基、実験10-1のRPS8の5´UTR配列、該5´UTR配列と部分的な相補性がある3´UTR配列はそれぞれが56塩基からなるものである([0045]、[0054]、[0055]、[0057]、[0061]、[0062]、[0064]、[0068]、[0069])。
そうすると、上記実験6~10-1に示された人工合成mRNAは、「第2配列の核酸の長さと第1配列の核酸の長さ」が同じとなり、また、5´UTR配列と3´UTR配列との核酸の長さを異なるものとする技術思想も甲1には記載されていないから、一応の相違点1は、実質的な相違点である。
一方、実験10-2に示された人工合成mRNAは、LDHBの5´UTR配列が111塩基、該5´UTR配列と部分的な相補性がある3´UTR配列が60塩基でそれぞれ構成されているから([0049]、[0075]、[0076])、当該人工合成mRNAは、「第2配列の核酸の長さと第1配列の核酸の長さ」が異なるものであることは明らかであり、該人工合成mRNAに関しては、一応の相違点1は、実質的な相違点ではない。
(イ)一応の相違点2について
上記のとおり、実験10-2に示される人工合成mRNAにおいて、一応の相違点1は実質的な相違点ではないから、続いて、一応の相違点2について検討する。
本件明細書【0025】の記載からすると、「接合部」は相補対を形成する核酸の端部から端部までの領域を意味するから、実験10-2のLDHBの5´UTR配列、該5´UTR配列と部分的な相補性がある3´UTR配列を用いた人工合成mRNAは、5´UTR配列の15番目から73番目までの塩基、3´UTR配列の1番目から59番目までの塩基が接合部を形成しているものである([0049]、[0075]、[0076])。
そうすると、実験10-2に示される人工合成mRNAは、5´UTR配列の74番目から111番目までの38塩基が「第1配列の接合部より3´側の核酸」となるから、「第1配列の接合部より3´側の核酸の数および第2配列の接合部より5´側の核酸の数の和」が25より大きくなることは明らかである。また、「第1配列の接合部より3´側の核酸の数および第2配列の接合部より5´側の核酸の数の和」を25以下とする技術思想も甲1には記載されていないから、一応の相違点2は、実質的な相違点となる。
(ウ)小括
したがって、甲1発明の具体物として記載された実験6~10-2に示される人工合成mRNAの構造を検討しても、本件発明1は甲1発明と実質的に同一であるとはいえない。
よって、本件発明1は、甲1による取消理由が存在しない。
また、本件発明1を引用する本件発明2~5についても、本件発明1と同様の理由により、甲1による取消理由は存在しない。
2 申立人による意見について
申立人が特許異議申立書に記載した申立理由は、令和4年6月22日付けの取消理由通知で通知した取消理由と同趣旨のものであるところ、令和4年10月12日付け意見書において、申立人は以下のとおり主張している。
甲1の[0129]及び[0130](並びに図28)に記載の実験10(合議体注:上記実験10-2のことである。)では、5´UTR配列および3´UTR配列は同じ長さではないし、甲1には、5´UTR配列および3´UTR配列は同じ長さが好ましい実施形態であることを示唆する記載もない。
したがって、訂正後の請求項1に係る発明は、依然として甲1に記載された発明と同一である。
上記主張について検討すると、上記1(3)イで判断したとおり、甲1には、第1配列及び第2配列(ポリA配列を含む場合にはそれを除く)の核酸の長さの異同に関する一般的な記載はない。そして、上記1(3)イ(イ)のとおり、当該実験10-2で示された人工合成mRNAにおいては、「第1配列の接合部より3´側の核酸の数および第2配列の接合部より5´側の核酸の数の和」が25より大きくなることは明らかであり、一応の相違点2は実質的な相違点であるといえるから、本件発明1は実験10-2の人工合成mRNAsと実質的に同一であるとはいえない。
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張を採用することはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、当審で通知した取消理由及び申立人による申立理由によっては、本件発明1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700285