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特許異議申立

2024-700004

DNAが編集された真核細胞を製造する方法、および当該方法に用いられるキット

審判番号
2024-700004
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-015319
登録番号
7301332
請求日
2024年01月04日
審決日
2025年02月20日
公報発行日
2025年06月27日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】国立大学法人大阪大学
  • 【権利者代理人】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
  • 【異議申立人】戸▲崎▼ 富哉
審判長/審判官
  • 審判長 長井 啓子
  • 審判官 上條 肇
  • 審判官 小暮 道明
分類
P1651.03 -YAA(C12N) / P1651.161-YAA(C12N) / P1651.536-YAA(C12N) / P1651.537-YAA(C12N) / P1651.851-YAA(C12N)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第29条の2、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第41条第3項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4項、特許法第36条第6項第2号、特許法第113条第4号
データ出所
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特許第7301332号発明「DNAが編集された真核細胞を製造する方法、および当該方法に用いられるキット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7301332号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕、〔6~9〕について訂正することを認める。 特許第7301332号の請求項1~9に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯及び証拠方法 1.手続の経緯 本件特許である特許第7301332号の請求項1~9に係る特許についての出願は、平成30年6月8日(平成29年6月8日を出願日とする特願2017-113747号に基づく優先権主張)を出願日とする特願2018-554598号の一部を新たな特許出願として平成31年1月31日に出願した特願2019-15319号に係るものであって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。 令和4年 6月14日付け 拒絶理由通知書 同年12月 2日付け 拒絶査定 令和5年 2月21日 審判請求書、手続補正書、手続補足書の提出 同年 4月17日付け 拒絶理由通知書 同年 5月18日 意見書、手続補正書の提出 同年 6月 2日付け 特許査定 同年 6月23日 特許権の設定登録(請求項の数9) 同年 7月 3日 特許掲載公報の発行 その後、令和 6年 1月 4日に、本件特許の請求項1~9(全請求項)に係る特許に対して、特許異議申立人である戸▲崎▼ 富哉(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされた。 手続の経緯は以下のとおりである。 令和6年 1月 4日 特許異議申立書の提出 令和6年 6月20日付け 取消理由通知書 令和6年 7月25日 意見書案の提出(特許権者) 令和6年 8月 7日 意見書案に対する合議体の見解の回答 (特許権者宛) 令和6年 8月15日 上申書の提出(特許権者) 令和6年 9月24日 訂正請求書、意見書の提出(特許権者) 令和6年10月30日付け 訂正請求があった旨の通知書(申立人宛) なお、令和6年10月30日付け訂正請求があった旨の通知書に対し申立人から期間内に意見書の提出はなされなかった。 2.証拠方法 申立人が特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に添付した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第1号証:Nature Reviews Microbiology, Vol.13, p.722-736 (公開日2015年)及び抄訳文 甲第2号証:国際公開第2019/039417号及び抄訳文 甲第3号証:特願2017-158876号 甲第4号証:特願2017-236518号 甲第5号証:Molecular Cell, Vol.82, p.852-867 (公開日2022年)及び抄訳文 甲第6号証:国際公開第2020/184723号 甲第7号証:特願2017-113747号 甲第8号証:Bioconjugate Chem. Vol.26, p.1004-1007 (公開日2015年)及び抄訳文 第2 訂正の適否 1.訂正前の特許請求の範囲の記載 訂正前(特許権設定登録時)の特許請求の範囲の記載は、次のとおりのものである。 【請求項1】 DNAが編集された真核細胞(ただし、ヒト体内に存在する状態の細胞、ヒト生殖細胞、およびヒト胚細胞を除く)または動物(ただし、ヒトを除く)を製造する方法であって、真核細胞(ただし、ヒト体内に存在する状態の細胞、ヒト生殖細胞、およびヒト胚細胞を除く)または動物(ただし、ヒトを除く)に、真核細胞内または動物内でDNAを編集できるCRISPR-Cas3システムを導入することを含み、CRISPR-Cas3システムが以下の(A)~(C)を含む方法(ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-Dの場合には、真核細胞は哺乳動物細胞であり、動物は哺乳動物である)。 (A)Cas3タンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、 (B)カスケードタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および (C)プレcrRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター 【請求項2】 DNAが編集された植物を製造する方法であって、植物に、植物内でDNAを編集できるCRISPR-Cas3システムを導入することを含み、CRISPR-Cas3システムが以下の(A)~(C)を含む方法(ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-Dの場合を除く)。 (A)Cas3タンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、 (B)カスケードタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および (C)プレcrRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター 【請求項3】 真核細胞、動物、または植物にCRISPR-Cas3システムを導入した後に、カスケードタンパク質を構成するタンパク質によりcrRNAが切断される工程を含む、請求項1または2に記載の方法。 【請求項4】 Cas3タンパク質および/またはカスケードタンパク質に核移行シグナルが付加されている、請求項1~3のいずれかに記載の方法。 【請求項5】 核移行シグナルがバイパルタイト核移行シグナルである、請求項4に記載の方法。 【請求項6】 DNAが編集された真核細胞または動物の製造に用いるためのキットであって、真核細胞内または動物内でDNAを編集できるCRISPR-Cas3システムを構成する以下の(A)から(C)を含むキット(ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-Dの場合には、真核細胞は哺乳動物細胞であり、動物は哺乳動物である)。 (A)Cas3タンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、 (B)カスケードタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および (C)プレcrRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチド含む発現ベクター 【請求項7】 DNAが編集された植物の製造に用いるためのキットであって、植物内でDNAを編集できるCRISPR-Cas3システムを構成する以下の(A)から(C)を含むキット(ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-Dの場合を除く)。 (A)Cas3タンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、 (B)カスケードタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および (C)プレcrRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチド含む発現ベクター 【請求項8】 Cas3タンパク質および/またはカスケードタンパク質に核移行シグナルが付加されている、請求項6または7に記載のキット。 【請求項9】 核移行シグナルがバイパルタイト核移行シグナルである、請求項8に記載のキット。 訂正前の特許請求の範囲に記載された本件発明を、「訂正前本件発明1」~「訂正前本件発明9」といい、これらを総称して、「訂正前本件発明」という。 2.訂正事項 令和6年 9月24日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりのものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1において「(ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-Dの場合には、真核細胞は哺乳動物細胞であり、動物は哺乳動物である)」と記載されているのを、「(ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-A~I-Dの場合を除く)」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~5も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2において「(ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-Dの場合を除く)」と記載されているのを、「(ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-A~I-Dの場合を除く)」に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~5も同様に訂正する)。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項6において「(ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-Dの場合には、真核細胞は哺乳動物細胞であり、動物は哺乳動物である)」と記載されているのを、「(ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-A~I-Dの場合を除く)」に訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8~9も同様に訂正する)。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項7において「(ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-Dの場合を除く)」と記載されているのを、「(ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-A~I-Dの場合を除く)」に訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8~9も同様に訂正する)。 3.一群の請求項について 訂正前の請求項3~5は、訂正前の請求項1又は2を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項によって、訂正される訂正前の請求項1又は2に連動して、訂正前の請求項3~5も訂正されるから、訂正前の請求項1~5は、一群の請求項に該当するものである。 訂正前の請求項8~9は、訂正前の請求項6又は7を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項によって、削除される訂正前の請求項6又は7に連動して、訂正前の請求項8~9も訂正されるから、訂正前の請求項6~9は、一群の請求項に該当するものである。 したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である請求項〔1~5〕、〔6~9〕に対してなされたものである。 4.訂正の目的について (1)訂正事項1 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「真核細胞内または動物内でDNAを編集できるCRISPR-Cas3システムを導入すること」を含む「DNAが編集された真核細胞(ただし、ヒト体内に存在する状態の細胞、ヒト生殖細胞、およびヒト胚細胞を除く)または動物(ただし、ヒトを除く)を製造する方法」において、「CRISPR-Cas3システム」から「タイプI-A~I-Dの場合」を除外することとし、除外された「タイプI-Dの場合」についての特定である「ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-Dの場合には、真核細胞は哺乳動物細胞であり、動物は哺乳動物である)」を削除するものであって、導入する「CRISPR-Cas3システム」の範囲を限定するものであるから、本件訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2)訂正事項2 訂正事項2は、訂正前の請求項2に記載されていた「植物内でDNAを編集できるCRISPR-Cas3システムを導入すること」を含む「DNAが編集された植物を製造する方法」において、「CRISPR-Cas3システム」から「タイプI-A~I-Dの場合」を除外することとし、導入するCRISPR-Cas3システムの範囲を限定するものであるから、本件訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (3)訂正事項3 訂正事項3は、訂正前の請求項6に記載されていた「DNAが編集された真核細胞または動物の製造に用いるためのキット」において、「CRISPR-Cas3システム」から「タイプI-A~I-Dの場合」を除外することとし、除外された「タイプI-Dの場合」についての特定である「ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-Dの場合には、真核細胞は哺乳動物細胞であり、動物は哺乳動物である)」を削除するものであって、導入する「CRISPR-Cas3システム」の範囲を限定するものであるから、本件訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (4)訂正事項4 訂正事項4は、訂正前の請求項7に記載されていた「DNAが編集された植物の製造に用いるためのキット」において、「CRISPR-Cas3システム」から「タイプI-A~I-Dの場合」を除外することとし、導入するCRISPR-Cas3システムの範囲を限定するものであるから、本件訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 5.実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更する訂正ではないこと (1)訂正事項1 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「真核細胞内または動物内でDNAを編集できるCRISPR-Cas3システムを導入すること」を含む「DNAが編集された真核細胞(ただし、ヒト体内に存在する状態の細胞、ヒト生殖細胞、およびヒト胚細胞を除く)または動物(ただし、ヒトを除く)を製造する方法」において、「CRISPR-Cas3システム」から「タイプI-A~I-Dの場合」を除外することとし、除外された「タイプI-Dの場合」についての特定である「ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-Dの場合には、真核細胞は哺乳動物細胞であり、動物は哺乳動物である)」を削除するものであって、導入する「CRISPR-Cas3システム」の範囲を限定するものであるから、本件訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。 (2)訂正事項2 訂正事項2は、訂正前の請求項2に記載されていた「植物内でDNAを編集できるCRISPR-Cas3システムを導入すること」を含む「DNAが編集された植物を製造する方法」において、「CRISPR-Cas3システム」から「タイプI-A~I-Dの場合」を除外することとし、導入するCRISPR-Cas3システムの範囲を限定するものであるから、本件訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。 (3)訂正事項3 訂正事項3は、訂正前の請求項6に記載されていた「DNAが編集された真核細胞または動物の製造に用いるためのキット」において、「CRISPR-Cas3システム」から「タイプI-A~I-Dの場合」を除外することとし、除外された「タイプI-Dの場合」についての特定である「ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-Dの場合には、真核細胞は哺乳動物細胞であり、動物は哺乳動物である)」を削除するものであって、導入する「CRISPR-Cas3システム」の範囲を限定するものであるから、本件訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。 (4)訂正事項4 訂正事項4は、訂正前の請求項7に記載されていた「DNAが編集された植物の製造に用いるためのキット」において、「CRISPR-Cas3システム」から「タイプI-A~I-Dの場合」を除外することとし、導入するCRISPR-Cas3システムの範囲を限定するものであるから、本件訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。 6.願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項1~4はいずれも、訂正前の請求項1に記載されていた「ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-Dの場合には、真核細胞は哺乳動物細胞であり、動物は哺乳動物である)」/「ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-Dの場合を除く」とあるところ、「CRISPR-Cas3システム」から「タイプI-A~I-Dの場合」を除外することとし、除外された「タイプI-Dの場合」についての特定である「ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-Dの場合には、真核細胞は哺乳動物細胞であり、動物は哺乳動物である)」を削除するものであって、導入する「CRISPR-Cas3システム」の範囲を限定するものであるから、導入するCRISPR-Cas3システムの範囲をさらに特定する訂正である。 そして、願書に添付した明細書には、 「【0026】 (A)Cas3タンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、 (B)カスケードタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および (C)crRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター クラス1のCRISPR-Casシステムは、タイプIおよびタイプIIIに分類され、さらに、タイプIは、カスケードを構成するタンパク質(以下、単に「カスケード」または「カスケードタンパク質」と称する。)の種類によって、タイプI-A、タイプI-B、タイプI-C、タイプI-D、タイプI-E、およびタイプI-Fの6種類、並びにタイプI-BのサブタイプであるタイプI-Gに分類される・・・。」(【0026】段落、下線は、当審による。以下同様。) 「本発明のCRISPR-Cas3システムは、タイプIの6種類のサブタイプのすべてを包含する。すなわち、CRISPR-Cas3システムを構成するタンパク質は、サブタイプにより、若干その構成などが異なる場合がある(例えば、カスケードを構成するタンパク質が異なる)が、本発明は、これらのタンパク質の全てを包含する。実際、本実施例において、タイプI-Eのみならず、タイプ1-GやタイプI-Fのシステムにおいても、ゲノム編集が可能であることが判明した(図15)。」(【0033】段落) 「タイプI-Aのシステムでは、カスケードとしてCas8a1、Csa5(Cas11)、Cas5、Cas6、およびCas7を構成要素とし、タイプI-Bでは、カスケードとしてCas8b1、Cas5、Cas6、およびCas7を構成要素とし、タイプI-Cでは、カスケードとしてCas8c、Cas5、およびCas7を構成要素とし、タイプI-Dでは、カスケードとしてCas10d、Csc1(Cas5)、Cas6、およびCsc2(Cas7)を構成要素とし、タイプI-Fでは、カスケードとしてCsy1(Cas8f)、Csy2(Cas5)、Cas6、およびCsy3(Cas7)を構成要素とし、タイプI-Gのシステムでは、カスケードとしてCst1(Cas8a1)、Cas5、Cas6、およびCst2(Cas7)を構成要素とする。本発明においては、Cas3およびカスケードを総称して「Casタンパク質群」と称する。」(【0035】段落) と記載されている。 したがって、願書に添付した明細書の【0026】【0033】【0035】には、CRISPR-Cas3システムは、タイプI-A、タイプI-B、タイプI-C、タイプI-D、タイプI-E、およびタイプI-Fの6種類並びにタイプI-BのサブタイプであるタイプI-Gのサブタイプを含むこと、本実施例において、タイプI-Eのみならず、タイプ1-GやタイプI-Fのシステムにおいても、ゲノム編集が可能であることが判明したことが記載されているから、CRISPR-Cas3システムとしてタイプI-A~I-Dの場合を除くタイプI-E、タイプI-FおよびタイプI-Gのサブタイプで実施することは記載されていたということができる。 したがって、本件訂正事項1~4は、願書に添付した明細書に記載された範囲のものである。 7.独立特許要件 本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項1~9に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 8.小括 以上のとおり、本件訂正請求による訂正事項1~4は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合している。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件特許の請求項1~9に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された、以下の事項によって特定されるとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。 【請求項1】 DNAが編集された真核細胞(ただし、ヒト体内に存在する状態の細胞、ヒト生殖細胞、およびヒト胚細胞を除く)または動物(ただし、ヒトを除く)を製造する方法であって、真核細胞(ただし、ヒト体内に存在する状態の細胞、ヒト生殖細胞、およびヒト胚細胞を除く)または動物(ただし、ヒトを除く)に、真核細胞内または動物内でDNAを編集できるCRISPR-Cas3システムを導入することを含み、CRISPR-Cas3システムが以下の(A)~(C)を含む方法(ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-A~I-Dの場合を除く)。 (A)Cas3タンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、 (B)カスケードタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および (C)プレcrRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター 【請求項2】 DNAが編集された植物を製造する方法であって、植物に、植物内でDNAを編集できるCRISPR-Cas3システムを導入することを含み、CRISPR-Cas3システムが以下の(A)~(C)を含む方法(ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-A~I-Dの場合を除く)。 (A)Cas3タンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、 (B)カスケードタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および (C)プレcrRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター 【請求項3】 真核細胞、動物、または植物にCRISPR-Cas3システムを導入した後に、カスケードタンパク質を構成するタンパク質によりcrRNAが切断される工程を含む、請求項1または2に記載の方法。 【請求項4】 Cas3タンパク質および/またはカスケードタンパク質に核移行シグナルが付加されている、請求項1~3のいずれかに記載の方法。 【請求項5】 核移行シグナルがバイパルタイト核移行シグナルである、請求項4に記載の方法。 【請求項6】 DNAが編集された真核細胞または動物の製造に用いるためのキットであって、真核細胞内または動物内でDNAを編集できるCRISPR-Cas3システムを構成する以下の(A)から(C)を含むキット(ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-A~I-Dの場合を除く)。 (A)Cas3タンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、 (B)カスケードタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および (C)プレcrRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチド含む発現ベクター 【請求項7】 DNAが編集された植物の製造に用いるためのキットであって、植物内でDNAを編集できるCRISPR-Cas3システムを構成する以下の(A)から(C)を含むキット(ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-A~I-Dの場合を除く)。 (A)Cas3タンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、 (B)カスケードタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および (C)プレcrRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチド含む発現ベクター 【請求項8】 Cas3タンパク質および/またはカスケードタンパク質に核移行シグナルが付加されている、請求項6または7に記載のキット。 【請求項9】 核移行シグナルがバイパルタイト核移行シグナルである、請求項8に記載のキット。 以下、訂正後の本件発明を、項番に従い、「本件発明1」~「本件発明9」といい、これらを総称して、「本件発明」という。 第4 当審が通知した取消理由及び特許異議申立ての理由の概要 1.当審が通知した取消理由通知の概要 当審が令和6年6月20日付け取消理由通知書で通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は、以下のとおりである。 (1)取消理由1(拡大先願) 「プレcrRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター」を発明特定事項とする訂正前本件発明1、2、6及び7並びにそれらのいずれかを引用する訂正前本件発明3~5、8~9は、これらの優先権主張の基礎となる特願2017-113747号の明細書(甲7)には記載されておらず、当該優先権基礎出願を根拠とする優先権の利益を享受することはできない。 一方、本件特許の原出願である特願2018-554598号の明細書には、「プレcrRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター」を含むCRISPR-Cas3システムを用いてDNAが編集された真核細胞、植物または動物を製造することが記載されているものと認められるから、訂正前本件発明1~9の拡大先願等の判断の基準日は、原出願の国際出願日である平成30年6月8日である。 訂正前本件発明1、3~6、8~9は、その出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に下記の文献3によって特許法第41条第3項の規定により国際公開がされたものとみなされた下記の特許出願(先願1及び先願2)のそれぞれの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲または図面(以下「先願1明細書」及び「先願2明細書」という。)に記載された発明(以下「先願発明1」及び「先願発明2」という。)と 「DNAが編集された真核細胞(ただし、ヒト体内に存在する状態の細胞、ヒト生殖細胞、およびヒト胚細胞を除く)または動物(ただし、ヒトを除く)を製造する方法であって、真核細胞(ただし、ヒト体内に存在する状態の細胞、ヒト生殖細胞、およびヒト胚細胞を除く)または動物(ただし、ヒトを除く)に、真核細胞内または動物内でDNAを編集できるCRISPR-Cas3システムを導入することを含み、CRISPR-Cas3システムが以下の(A)~(C)を含む方法(ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-Dであり、真核細胞は哺乳動物細胞であり、動物は哺乳動物である)。 (A)Cas3タンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、 (B)カスケードタンパク質、該タンパク質をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および (C)プレcrRNA、該crRNAをコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター」 及び、当該製造方法に用いる「キット」 である点で一致し、相違点はなく、かつ、本件特許の発明者が先願1及び先願2に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、本件特許の出願の時において、その出願人が先願1及び先願2の出願人と同一でもないので、同法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである(同法第184条の13参照)。 ・引用文献等 先願1:特願2017-158876号(特許異議申立書の「甲3」) 先願2:特願2017-236518号(特許異議申立書の「甲4」) 文献3:国際公開第2019/039417号 (特許異議申立書の「甲2」) (2)取消理由2(サポート要件)及び取消理由3(実施可能要件) 訂正前本件発明は、「DNAが編集された真核細胞(ただし、ヒト体内に存在する状態の細胞、ヒト生殖細胞、およびヒト胚細胞を除く)または動物(ただし、ヒトを除く)を製造する方法であって、真核細胞(ただし、ヒト体内に存在する状態の細胞、ヒト生殖細胞、およびヒト胚細胞を除く)または動物(ただし、ヒトを除く)に、真核細胞内または動物内でDNAを編集できるCRISPR-Cas3システムを導入することを含み」というものであって、発明の詳細な説明(段落[0033]~[0036])の記載及び本件出願日当時の技術常識に照らすと、「CRISPR-Cas3システム」はタイプI-A、I-B、I-C、I-D、I-E、I-F及びI-Gの7つのタイプを含むと解される。 そして、訂正前本件発明の解決しようとする課題は、「真核細胞においてCRISPR-Cas3システムを確立すること、すなわち真核細胞においてCRISPR-Cas3を機能させること」と認められる。 これに対して、発明の詳細な説明に記載された「一方、Cas3およびカスケード複合体を用いてDNAを切断する、クラス1のCRISPR-Casシステム(以下、「CRISPR-Cas3システム」と呼ぶこともある。)については、多くの努力にも拘らず、真核細胞においてゲノム編集の成功例の報告はなされていない。」という前提を踏まえれば、訂正前本件発明に係る発現ベクターによって、DNAが編集された真核細胞、植物または動物が得られることについての技術常識はないと認められるところ、発明の詳細な説明には、課題を解決しうることを明らかにするに足る理論的な説明の記載もなく、CRISPR-Cas3システムのうちタイプI-A、タイプI-B、タイプI-C、タイプI-Dについては、実際の実験結果を伴う実施例の記載と評価しうる記載は一切存在しない。 このような発明の詳細な説明の記載及び出願日当時の技術常識の下では、タイプI-B、タイプI-C、タイプI-DのCRISPR-Cas3システムによって、真核細胞内または動物内でDNAを編集するためには、出願当時明らかにされていなかった、非従来型Cas11の内部翻訳が必要であり、それは真核細胞ではリボソームエントリーの違いのため、そのままでは翻訳されなかったことも実験的に明らかにされているから、訂正前本件発明のうち、タイプI-B、タイプI-C、タイプI-DのCRISPR-Cas3システムの場合については、当業者といえども、出願日当時課題を解決すると認識できなかったものである。 また、タイプI-AのCRISPR-Cas3システムによって、真核細胞内または動物内でDNAを編集するためには、出願当時明らかにされていなかった、これまで特徴づけられてきたI型システムとは全く異なる一連のメカニズムを利用していること、極端な高温環境(85℃以上)で生育する古細菌にのみ存在することから、Cas3ヘリカーゼが促進する分解は急峻な温度依存性を示し、42℃の温度処理や5日間の培養処理(反応期間)を行った上で、分解活性が示されたことが実験的に明らかにされており、発明の詳細な説明に記載された「37℃、5%CO2雰囲気下にて24時間又は48時間培養」することではDNAを編集することができなかったといえるから、訂正前本件発明のうち、タイプI-AのCRISPR-Cas3システムの場合についても、当業者といえども、出願日当時課題を解決することができるとは認識できなかったものであり、かつ出願日当時の技術常識からそれを補うこともできなかったものである。 以上のとおり、訂正前本件発明のうち「CRISPR-Cas3システム」が、タイプI-A、タイプI-B、タイプI-C、及びタイプI-Dの場合は、発明の詳細な説明の記載により当業者が前記課題を解決できると認識できる範囲のものではないものであったといえる。 また、上述のとおりの理由により、発明の詳細な説明には、訂正前本件発明の「タイプI-A、タイプI-B、タイプI-C、タイプI-DについてのCRISPR-Cas3システム」を用いるための、各発明特定事項についての温度処理・培養条件や用いる必要があるカスケードタンパク質等の具体的な記載が誤っているか不足しており、発明の詳細な説明は、訂正前本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものと認めることはできない。 したがって、本件特許は、訂正前本件発明について、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4項に該当し、取り消されるべきものである。 2.特許異議申立ての理由の概要 申立人が特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した特許異議申立ての理由(以下、「申立理由」という。)は、以下のとおりである。 (1)申立理由A(実施可能要件及びサポート要件) 発明の詳細な説明の実施例では、CRISPR-Cas3システムのタイプI-Eについてはヒト細胞の内因性DNAの切断を確認しているものの(実施例A-3等)、該システムのタイプI-FとI-Gについては、外因性DNAの切断活性を確認したにとどまる(実施例B―5等)。そのため、実際にゲノム編集が可能であることを確認したCRISPR-Cas3システムのタイプは、7種類のうち、I-Eの1種類のみである。 CRISPR-Cas3システムのサブタイプ(I-A~I-F)のカスケードタンパク質は全て異なり、CRISPR-Cas3システムのタイプIでは、標的とするDNAの切断のためには、カスケードタンパク質を含めた全体の構成が重要となる。 本件特許権者が主張するCRISPR-Cas3システムのサブタイプの「原理」があり、且つ発明の詳細な説明に記載されるような該サブタイプ(I-A~I-F)のカスケードタンパク質が公知であったとしても、タイプI-E以外のCRISPR-Cas3システムのサブタイプ(I-A~I-D、I-F及びI-G)に関しては、当業者が細胞においてDNAの編集を行って、DNAが編集された細胞を製造することを企図した場合、該サブタイプごとに過度の試行錯誤や多大な労力が必要となるものであることを意味するに他ならない。 また、CRISPR-Cas3のタイプI-Dでは、Cas10dを用いることで真核細胞内においてDNA切断を伴う変異が誘発されるが、発明の詳細な説明にはその開示はない。 CRISPR-Cas3システムのタイプI-BとタイプI-Cに関しては、Cas8あるいはCas10dの内部翻訳産物であるCas11配列の発現がゲノム編集に必要であるが、上記内容は、2022年に初めて発表されたような事項であり、本件特許の出願時における技術常識とはいえない。 従って、訂正前本件発明1~9は、本件特許の出願当初の発明の詳細な説明に記載された範囲を超える。 また、発明の詳細な説明には、当業者が訂正前本件発明1~9を実施できる程度に明確且つ十分に記載されたものとはいえない。 訂正前本件発明1~9は、実施可能要件及びサポート要件を充足しないため、特許法第36条第4項第1号、及び同法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものである。よって、同法第113条第4号により取り消されるべきものである。 なお、申立理由AのうちCRISPR-Cas3システムのタイプI-A~I-Dに係るものについては取消理由2(サポート要件)及び取消理由3(実施可能要件)と同旨である。 (2)申立理由B(拡大先願) 本件特許出願の原出願日は、平成30年6月8日、優先権主張日は、平成29年6月8日(特願2017-113747)であり、(国際)公開日は、平成30年12月13日である。一方、出願人、及び発明者が、本件特許出願の出願人、及び発明者ではない甲第2号証(国際公開第2019/039417号公報)の出願日は、平成30年8月20日、優先権主張日は、平成29年8月21日(最先の優先日)(特願2017-158876;甲第3号証)及び平成29年12月8日(第2優先日)(特願2017-236518;甲第4号証)であり、(国際)公開日は、平成31年2月28日である。 訂正前本件発明に優先権の効果が及ばず、かつ甲第2号証のいずれかの優先権の効果が及ぶから、甲第2号証は、29条の2における、訂正前本件発明に対する拡大された先願に該当する。訂正前本件発明1、3-6、8、9は、甲2発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定に違反し、同法第113条第2号により取り消されるべきものである。 なお、申立理由Bは取消理由1(拡大先願)と同旨である。 (3)申立理由C(明確性) 甲第2号証及び甲第6号証の段落[0014]等によると、CRISPR-Cas3システムのタイプI-Dでは、Cas10dがヌクレアーゼ活性を有し、Cas3dは有していないことが示されている。 したがって、Cas3はヌクレアーゼ活性を有するタンパク質を意味する(段落[0027])という発明の詳細な説明における定義と、訂正前本件発明のCRISPR-Cas3システムは、タイプIの6種類のサブタイプのすべてを包含する(段落[0033])(即ち、タイプI-Dも包含する)という内容、ヌクレアーゼ活性を有するCas10dが、カスケードタンパク質に含まれることになるという発明の詳細な説明における記載(段落[0035])が技術的に矛盾する。 従って、訂正前本件発明1、2及び6、並びにこれらに直接的又は間接的に従属する訂正前本件発明3~5及び7~9は、明確ではなく、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 第5 取消理由に係る当審の判断 本件発明1~9に係る特許は、以下のとおり、当審が通知した取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない、と判断する。 1.取消理由1(拡大先願)について 取消理由1は、先願1明細書(甲3)及び先願2明細書(甲4)のそれぞれに記載された以下の発明が、文献3(甲2)により公開されたことに基づくものである。 「CRISPRタイプI-Dシステムを利用したゲノム編集技術であって、非ヒト動物細胞またはイン・ビボの非ヒト動物細胞に、CRISPRタイプI-Dシステムを導入することを含み、CRISPRタイプI-Dシステムが以下の(A)~(C)を含む方法。 (A)Cas3dタンパク質、またはこのタンパク質をコードする核酸、 (B)、Cas5d、Cas6d、Cas7d、およびCas10dタンパク質、またはこれらのタンパク質をコードする核酸、および (C)CRISPRタイプI-D遺伝子座に存在する共通繰り返し配列とを含むgRNAまたは該gRNAをコードするDNA」(以下、「先願発明1」という。) 上記第3及び第4で述べたとおり、「ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-A~I-Dの場合を除く」と訂正する本件訂正により、訂正前本件発明1、3~6、8~9のうちCRISPR-Cas3システムがCRISPRタイプI-Dシステムである発明は全て削除され、取消理由1の対象が存在しなくなった。 一方、甲2~4のいずれにも、CRISPR-Cas3システムとしてタイプI-A~I-Dの場合を除くCRISPR-Cas3システムであるタイプI-E~I-Gシステムを利用した「DNAが編集された真核細胞(ただし、ヒト体内に存在する状態の細胞、ヒト生殖細胞、およびヒト胚細胞を除く)または動物(ただし、ヒトを除く)を製造する方法」及び、当該製造方法に用いる「キット」に係る構成が記載されていないので、本件発明1、6は、甲3及び甲2又は甲4及び甲2に記載された発明であるとはいえない。 また、本件発明3~5、8~9は、本件発明1、6を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1、6と同様の理由により、上記甲3及び甲4のそれぞれに記載され、甲2により公開された発明であるとはいえない。 したがって、本件発明1、3~6、8~9に係る特許は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとはいえないから、取消理由1によって、本件特許を取り消すことはできない。 2.取消理由2(サポート要件)及び取消理由3(実施可能要件)について 取消理由2及び3は、訂正前本件発明1のうち「CRISPR-Cas3システム」が、タイプI-A、タイプI-B、タイプI-C、及びタイプI-Dの場合は、発明の詳細な説明の記載により当業者が課題を解決できるとは認識できないというものである。 しかし、上記第3及び第4で述べたとおり、「ただし、CRISPR-Cas3システムがタイプI-A~I-Dの場合を除く」と訂正する本件訂正により、訂正前本件発明1~9から、CRISPR-Cas3システムがCRISPRタイプI-A~I-Dシステムである発明は全て削除され、取消理由2および3の対象が存在しなくなった。 そして、発明の詳細な説明の実施例A-2、A-3ではヒト細胞において塩基配列を改変し、核移行シグナルを付加したCas3、Cse1(Cas8)、Cse2(Cas11)、Cas5、Cas6およびCas7と、プレcrRNAとを発現させ、上記細胞の内因性CCR5遺伝子及び内因性EMX1遺伝子の配列が切断されるか否かを評価し、実施例B-5では、タイプI-Fのシュワネラ・プトレファシエンスのCas3、Cas5-7、およびタイプI-Gのピュロコックス・フリオススのCas5-8をコドンオプティマイズしクローニングし、DNA切断活性の強さに差異はあるものの、293T細胞を用いたSSAアッセイにおいて、これらのタイプ1のCRISPR-Cas3システムにもDNA切断活性が認められたことが、実験結果により確認され、Casタンパク質群に核移行シグナルを付加することにより、細胞内で核への局在が促進され、その結果、DNAの編集が効率的に行われること(段落【0033】~【0041】)が記載され、動物細胞から動物個体を作製する方法、植物細胞から植物体を再生する方法が本件出願時に確立され、キットとすること(段落【0085】~【0098】)も記載されているから、当該方法を採用すれば、CRISPR-Cas3システムがタイプI-A~I-Dの場合を除くCRISPRタイプI-E~I-GシステムについてもDNAが編集された真核細胞または動物、植物を製造することも、それに用いる構成要素をキットとすることも可能であることを当業者が認識できるといえる。 そうすると、本件発明1~9は、発明の詳細な説明の記載によると、当業者が上記課題を解決し得ると認識できる範囲のものであると認められ、本件発明1~9は、発明の詳細な説明の記載より、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、実施し得るものと認められる。 したがって、本件発明1~9に係る特許は、取消理由3(実施可能要件)、取消理由4(サポート要件)によって取り消すことはできない。 3.小括 以上のとおりであるから、本件発明1~9に係る特許は、取消理由1(拡大先願)、取消理由2(サポート要件)、取消理由3(実施可能要件)のいずれについても取り消すべきものではない。 第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1.申立理由A(実施可能要件及びサポート要件)のうちCRISPR-Cas3システムのタイプI-FとタイプI-Gに関して 申立人は、訂正前本件発明1~9について、発明の詳細な説明の実施例では、CRISPR-Cas3システムのタイプI-Eについてはヒト細胞の内因性DNAの切断を確認しているものの(実施例A-3等)、該システムのタイプI-FとI-Gについては、外因性DNAの切断活性を確認したにとどまる(実施例B―5等)こと、そのため、実際にゲノム編集が可能であることを確認したCRISPR-Cas3システムのタイプは、7種類のうち、I-Eの1種類のみであること、本件特許権者が主張するCRISPR-Cas3システムのサブタイプの「原理」があり、且つ発明の詳細な説明に記載されるような該サブタイプ(I-A~I-F)のカスケードタンパク質が公知であったとしても、タイプI-E以外のCRISPR-Cas3システムのサブタイプ(I-A~I-D、I-F及びI-G)に関しては、当業者が細胞においてDNAの編集を行って、DNAが編集された細胞を製造することを企図した場合、該サブタイプごとに過度の試行錯誤や多大な労力が必要となるものであることを意味するに他ならないこと、従って、訂正前本件発明1~9は、出願当初の発明の詳細な説明に記載された範囲を超え、発明の詳細な説明には、当業者が訂正前本件発明1~9を実施できる程度に明確且つ十分に記載されたものとはいえないことを主張する。 しかし、上記第5 2.で述べたとおり、本件出願時にはCasタンパク質群に核移行シグナルを付加することにより、細胞内で核への局在が促進され、その結果、DNAの編集が効率的に行われることは周知であって、外因性DNAの切断活性を確認したタイプI-FとI-Gについても、核移行シグナルを付加することにより、内因性DNAの切断を行うことは可能であるといえる。 これに対して、その他に本件発明1~9が対象とするCRISPR-Cas3のうち「タイプI-FとI-G」を真核細胞において機能させることが裏付けられていないこと、容易に実施することができないことをうかがわせる客観的証拠(本件特許の出願時の技術常識等や実験的証拠)は申立人より提示されていない。 そうすると、本件発明1~9は、サポート要件、実施可能要件を満たすものであり、申立理由A(サポート要件、実施可能要件)によって、本件特許を取り消すことはできない。 2.申立理由C(明確性)について 申立人は、CRISPR-Cas3システムのタイプI-Dでは、Cas10dがヌクレアーゼ活性を有し、Cas3dは有していないことと、Cas3はヌクレアーゼ活性を有するタンパク質を意味するという発明の詳細な説明における定義と、訂正前本件発明のCRISPR-Cas3システムは、タイプIの6種類のサブタイプのすべてを包含する(即ち、タイプI-Dも包含する)という内容、ヌクレアーゼ活性を有するCas10dが、カスケードタンパク質に含まれることになるという発明の詳細な説明における記載が技術的に矛盾し、不明確であると主張する。 しかしながら、発明の詳細な説明には、「また、本発明のCRISPR-Cas3システムにおいて、例えば、Cas3のヌクレアーゼ活性の一部もしくは全部を欠失させた変異体を利用する場合、他のヌクレアーゼ活性を有するタンパク質をCas3またはカスケードと融合してもよい。このような態様も、本発明に含まれる。なお、本発明のCRISPR-Cas3システムにおいて、Cas3のヌクレアーゼ活性の一部もしくは全部を欠失させた変異体を利用し、DNAの編集において、他のタンパク質の活性を利用する場合には、本明細書における「DNAの切断活性」は、適宜、当該他のタンパク質が有する各種活性に読み替えるものとする。」(段落【0080】~【0081】)と記載されており、Cas3はヌクレアーゼ活性を有するタンパク質に限られないことは明らかである。 したがって、Cas3はヌクレアーゼ活性を有するタンパク質を意味すると発明の詳細な説明に定義されていることを前提とする申立人の主張は、その前提において誤っている。 また、本件訂正により訂正前本件発明においてCRISPR-Cas3システムのタイプI-Dを引用する発明は全て削除されたから、申立人が技術的な矛盾について主張の対象とする発明は、特許請求の範囲には存在しなくなった。 したがって、申立理由Cによって、本件特許を取り消すことはできない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700004

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