特許異議申立
2020-700032
遺伝子産物の発現を変更するためのCRISPR-Cas系および方法
- 審判番号
- 2020-700032
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-547555
- 登録番号
- 特許第6545621号(P6545621)
- 請求日
- 2020年01月17日
- 審決日
- 2021年02月04日
- 公報発行日
- 2021年05月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ザ・ブロード・インスティテュート・インコーポレイテッド
- 【権利者代理人】窪田 英一郎
- 【権利者代理人】乾 裕介
- 【権利者代理人】今井 優仁
- 【権利者代理人】中岡 起代子
- 【権利者代理人】矢野 恵美子
- 【権利者代理人】酒迎 明洋
- 【権利者代理人】本阿弥 友子
- 【権利者代理人】鈴木 佑一郎
- 【権利者代理人】堀内 一成
- 【権利者代理人】山田 康太
- 【権利者】マサチューセッツ・インスティトュート・オブ・テクノロジー
- 【権利者代理人】窪田 英一郎
- 【権利者代理人】乾 裕介
- 【権利者代理人】今井 優仁
- 【権利者代理人】中岡 起代子
- 【権利者代理人】矢野 恵美子
- 【権利者代理人】酒迎 明洋
- 【権利者代理人】本阿弥 友子
- 【権利者代理人】鈴木 佑一郎
- 【権利者代理人】堀内 一成
- 【権利者代理人】山田 康太
- 【異議申立人】岡 ヤエ子
- 審判長/審判官
- 審判長 田村 聖子
- 審判官 長井 啓子
- 審判官 小暮 道明
- 分類
- P1651.537-YAA(C12N) / P1651.561-YAA(C12N) / P1651.113-YAA(C12N) / P1651.121-YAA(C12N) / P1651.161-YAA(C12N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項、特許法第17条の2第3項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第29条の2
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6545621号発明「遺伝子産物の発現を変更するためのCRISPR-Cas系および方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6545621号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1~24〕について訂正することを認める。
特許第6545621号の請求項1~24に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6545621号の請求項1~24に係る特許についての出願は、平成25年12月12日(パリ条約による優先権主張 2012年12月12日 米国(US)、2013年1月2日 米国(US)、2013年3月15日 米国(US)、2013年6月17日 米国(US)、2013年7月2日 米国(US)、2013年10月15日 米国(US))に出願され、令和1年6月28日にその特許権の設定登録がされ、令和1年7月17日に特許公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年 1月17日 特許異議申立人岡ヤエ子による請求項1~24に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年 3月18日付け 取消理由通知書
令和2年 7月22日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
なお、令和2年7月22日付け訂正請求に対して、特許異議申立人は意見書を提出しなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和2年7月22日付け訂正請求書において特許権者が請求する訂正(以下、「本件訂正」という。)は、一群の請求項[1~24]について訂正事項1及び2の訂正を求める、次のとおりのものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と会合し」と記載されているのを、「前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロとスペーサー隣接モチーフ)配列と隣接しており」に訂正する。
請求項1を引用する請求項2~24も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
明細書の段落【0084】に「標的配列がPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ);すなわち、CRISPR複合体により認識される短い配列と会合するはずであることが考えられる。」と記載されているのを、「標的配列がPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ);すなわち、CRISPR複合体により認識される短い配列と関連付けられているはずであることが考えられる。」に訂正する。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、「標的配列」と「PAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列」との関係を、「会合し」から「隣接しており」に訂正するものである。
ここで、「PAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列」は、その名のとおり、プロトスペーサーすなわち標的配列に隣接するモチーフであって、標的配列と会合するものではないことが技術常識であるし、明細書(段落【0132】及び【0145】)及び図面(図1及び2)にもその旨記載されている。このとおり、訂正前請求項1の「前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と会合し」は、誤りであって、本来、「前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と隣接しており」の意味を表示するものと客観的に認めることができるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものといえ、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、「標的配列」と「PAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列」との関係を、「会合するはずである」から「関連付けられているはずである」に訂正するものである。
ここで、本件の出願当初明細書(国際出願PCT/US2013/074743、国際公開第2014/093661号)の、訂正事項2に係る部分に対応する部分には、「without wishing to be bound by theory, it is believed that the target sequence should be associated with a PAM (protospacer adjacent motif) ; that is, a short, sequence recognized by the CRISPR complex」と記載されており、「associated with」が「会合」と翻訳されたことがわかる。しかし、「PAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列」は、その名のとおり、プロトスペーサーすなわち標的配列に隣接するモチーフであって、標的配列と会合するものではないことが技術常識であるし、出願当初明細書の上記部分以外の「associated with」(段落[0021]、[0106]、[0111]等)は、本件特許明細書においてすべて「関連」と翻訳されている(段落【0020】、【0086】、【0108】等)。このとおり、訂正事項2に係る部分に対応する部分の「associated with」は、「会合」ではなく「関連」と翻訳すべきものであったことが明らかであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる誤訳の訂正を目的とするものといえ、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。したがって、訂正後の請求項[1~24]について訂正を認める。
第3 本件発明
本件訂正により訂正された請求項1~24に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~24に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)ベクター系であって、
a)1つ以上のエンジニアリングされたCRISPR-Cas系ガイドRNAをコードする1つ以上のヌクレオチド配列に作動可能に結合している第1の調節エレメントであって、前記ガイドRNAが、真核細胞中のポリヌクレオチドにおける標的配列にハイブリダイズし、前記ガイドRNAが、単一転写産物中にガイド配列、tracrメイト配列及びtracr配列を含むキメラRNAであり、前記tracr配列が、40以上のヌクレオチドの長さを含む、第1の調節エレメント;
b)II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント;
を含む1つ以上のベクターを含み;
成分(a)及び(b)が、前記系の同じ又は異なるベクター上に位置し、
それによって、真核細胞におけるインビボでの前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現が、前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進し、前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と隣接しており、それによって、前記標的配列における前記CRISPR複合体の形成が、前記ポリヌクレオチドを改変し;並びに、前記Cas9タンパク質及び前記1つ以上のガイドRNAは、いっしょに天然に存在しない、
CRISPR-Casベクター系。
【請求項2】
前記tracr配列が、67ヌクレオチドの長さを含む、請求項1に記載の系。
【請求項3】
前記tracr配列が、75ヌクレオチドの長さを含む、請求項1に記載の系。
【請求項4】
前記tracr配列が、89ヌクレオチドの長さを含む、請求項1に記載の系。
【請求項5】
前記Cas9タンパク質が、核局在化シグナル(NLS)を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の系。
【請求項6】
前記Cas9タンパク質が、触媒ドメインにおいて1つ以上の突然変異を含み、その結果、前記突然変異Cas9タンパク質が、前記ポリヌクレオチドの1の鎖を開裂する能力を欠き、ニッカーゼである、請求項1~5のいずれか一項に記載の系。
【請求項7】
前記1つ以上のベクターが、1つ以上のウイルスベクターを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の系。
【請求項8】
前記1つ以上のウイルスベクターが、1つ以上のレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴又は単純ヘルペスウイルスベクターを含む、請求項7に記載の系。
【請求項9】
前記Cas9タンパク質が、RuvC I、RuvC II又はRuvC III触媒ドメインにおいて1つ以上の突然変異を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の系。
【請求項10】
前記Cas9タンパク質が、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9(SpCas9)タンパク質の位置ナンバリングに対して、D10A、H840A、N854A及びN863Aからなる群から選択される突然変異を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の系。
【請求項11】
前記tracr配列と前記tracrメイト配列との間のハイブリダイゼーションが、二次構造を有する転写物をもたらす、請求項1に記載の系。
【請求項12】
前記二次構造が、ヘアピンを含む、請求項11に記載の系。
【請求項13】
前記真核細胞が、哺乳動物細胞である、請求項1~12のいずれか一項に記載の系。
【請求項14】
前記哺乳動物細胞が、ヒト細胞である、請求項13に記載の系。
【請求項15】
前記Cas9タンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列が、真核細胞における発現のためにコドン最適化されている、請求項1~14のいずれか一項に記載の系。
【請求項16】
修復テンプレートが、前記開裂ポリヌクレオチド中に挿入される、請求項1~15のいずれか一項に記載の系。
【請求項17】
(a)及び(b)が、同じベクター上に存在する、請求項1~16のいずれか一項に記載の系。
【請求項18】
(a)及び(b)が、異なるベクター上に存在する、請求項1~16のいずれか一項に記載の系。
【請求項19】
前記Cas9タンパク質が、ヌクレアーゼである、請求項1~5、7、8、及び11~18のいずれか一項に記載の系。
【請求項 20】
真核細胞中のポリヌクレオチドにおける標的配列を変更する方法であって、請求項1~19のいずれか一項に記載の系を前記真核細胞中に導入することを含み、前記ガイドRNAが、前記標的配列にハイブリダイズし、前記方法は、治療法によるヒト又は動物の身体の治療のための方法ではなく、人間の生殖系列の遺伝的同一性を改変するためのプロセスではなく、前記系をヒト体内の細胞中に導入する工程を含まない、方法。
【請求項 21】
真核細胞のポリヌクレオチドの少なくとも1つの遺伝子産物の発現を変更する方法であって、請求項1~19のいずれか一項に記載の系を前記真核細胞中に導入することを含み、前記ポリヌクレオチドが、標的配列を含有し、前記ガイドRNAが、前記標的配列にハイブリダイズし、前記方法は、治療法によるヒト又は動物の身体の治療のための方法ではなく、人間の生殖系列の遺伝的同一性を改変するためのプロセスではなく、前記系をヒト体内の細胞中に導入する工程を含まない、方法。
【請求項22】
a)部位特異的遺伝子ノックアウトのための;
b)部位特異的ゲノム編集のための;
c)DNA配列特異的干渉のための;又は
d)多重化ゲノムエンジニアリングのための;
請求項1~19のいずれか一項に記載の系の使用であって、
前記使用が、人間の生殖系列の遺伝的同一性を改変するためのプロセスを含まず;及び 前記使用が、(i)インビトロ若しくはエクスビボであり;又は(ii)治療法によるヒト又は動物の身体の治療のための方法ではなく、前記系をヒト体内の細胞中に導入する工程を含まない、使用。
【請求項23】
前記使用が、外因性テンプレートポリヌクレオチドとの相同組換えによって前記開裂標的ポリヌクレオチドを修復することをさらに含み、前記修復が、前記標的ポリヌクレオチドの1つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失又は置換を含む突然変異をもたらす、請求項22の使用。
【請求項24】
非ヒトトランスジェニック動物又はトランスジェニック植物の製造における、請求項1~19のいずれか一項に記載の系の使用であって、前記使用が、治療法による動物の身体の治療のための方法ではない、使用。」
(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」等という。これらをまとめて「本件発明」ということもある。)
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1~24に係る特許に対して、当審が令和2年3月18日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
請求項1の「前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進し、前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と会合し」は、技術的に正確でない記載であり、当該記載を含む請求項1及び請求項1を引用する請求項2~24は、特許を受けようとする発明が明確でないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 当審の判断
上記第3のとおり、本件訂正の訂正事項1により、請求項1の「前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進し、前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と会合し」は、「前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進し、前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と隣接しており」と、技術的に正確な記載に訂正され、その結果、請求項1~24において特許を受けようとする発明が明確となった。
したがって、上記取消理由は理由がない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由
訂正前の請求項1~24に係る特許に対して、異議申立人が申し立てたが、当審が取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は、次の通りである。
(1)特許異議申立理由1(新規事項追加)
請求項1の「それによって、真核細胞におけるインビボでの前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現が、前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進し、」は、平成29年1月13日付け手続補正書により追加されたものである。上記記載は、請求項1における「前記ポリヌクレオチドを改変」すなわち、DNA二本鎖切断に至るまでのステップであると解されるが、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「出願当初明細書等」という。)には、請求項1の「真核細胞におけるインビボ」という特定条件化でのDNA二本鎖切断に至るまでのステップは記載されていないから、請求項1の上記記載は、新たな技術的事項を追加するものである。
したがって、平成29年1月13日付け手続補正書でした補正は、出願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第1号の規定により取り消されるべきものである。
(2)特許異議申立理由2(明確性要件違反)
本件特許は、次のア及びイの点で、特許請求の範囲の請求項1及びそれを引用する請求項2~24、請求項22及びそれを引用する請求項23の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項1には、「真核細胞におけるインビボ」とある。「インビボ」とは、生体内のことを指すが、どの範囲までを生体とするかについて共通の技術常識は存在しないから、定義がない以上、組織を生体とするかどうかなど、その範囲が明確でない。
したがって、請求項1及びそれを引用する請求項2~24において特許を受けようとする発明が明確でない。
イ 請求項22には、「請求項1~19のいずれか一項に記載の系の使用であって、・・・前記使用が、(i)インビトロ若しくはエクスビボであり」と記載されているが、請求項1には、「真核細胞におけるインビボでの前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現が、前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進」することが記載されているから、請求項22の「前記使用が、(i)インビトロ若しくはエクスビボであり」とはどのような態様を指すものであるか、明確でない。
したがって、請求項22及びそれを引用する請求項23において特許を受けようとする発明が明確でない。
(3)特許異議申立理由3(甲5に基づく新規性、進歩性欠如)
ア 本件特許の優先日
本件発明1の発明特定事項「b)II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント;を含む1つ以上のベクターを含み;」に関して、本件特許の第1~3優先明細書(甲1~3)には、「第2の調節エレメント」が核局在配列を有する場合は記載されているが、有さない場合については記載されていない。核局在配列を有さない場合は、第4優先明細書(甲4)で初めて記載された事項である。
また、本件発明1の発明特定事項「前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と会合し、それによって、前記標的配列における前記CRISPR複合体の形成が、前記ポリヌクレオチドを改変し」に関しても、本件特許の第1~3優先明細書には記載がなく、第4優先明細書で初めて記載された。
したがって、本件発明1及びそれを引用する本件発明2~24は、第1~3優先権主張の利益を享受することができず、それらの新規性等の判断基準日は、第4優先日(2013年6月17日)である。
イ 甲5に基づく新規性、進歩性欠如
本件発明1~24は、本件特許の第4優先日(2013年6月17日)よりも前の2013年1月3日に発行された甲5に記載された発明であるか、又は、当該発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同条第2項の規定により、特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(4)特許異議申立理由4(甲6に基づく新規性、進歩性欠如)
上記(3)アのとおり、本件発明1及びそれを引用する本件発明2~24は、第1~3優先権主張の利益を享受することができず、それらの新規性等の判断基準日は、第4優先日(2013年6月17日)である。
そして、本件発明1~24は、本件特許の第4優先日(2013年6月17日)よりも前の2013年3月4日に発行された甲6に記載された発明であるか、又は、当該発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同条第2項の規定により、特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(5)特許異議申立理由5(甲7に基づく進歩性欠如)
本件発明1~24は、本件特許の第1優先日(2012年12月12日)よりも前の2012年6月28日に発行された甲7に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(6)特許異議申立理由6(甲8に基づく新規性、進歩性欠如)
上記(3)アのとおり、本件発明1及びそれを引用する本件発明2~24は、第1~3優先権主張の利益を享受することができず、それらの新規性等の判断基準日は、第4優先日(2013年6月17日)である。
そして、本件発明1~24は、本件特許の第4優先日(2013年6月17日)よりも前の2013年1月29日に発行された甲8に記載された発明であるか、又は、当該発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同条第2項の規定により、特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(7)特許異議申立理由7(甲9に基づく新規性、進歩性欠如)
上記(3)アのとおり、本件発明1及びそれを引用する本件発明2~24は、第1~3優先権主張の利益を享受することができず、それらの新規性等の判断基準日は、第4優先日(2013年6月17日)である。
そして、本件発明1~24は、本件特許の第4優先日(2013年6月17日)よりも前の2013年3月26日に発行された甲9に記載された発明であるか、又は、当該発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同条第2項の規定により、特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(8)特許異議申立理由8(甲10に基づく拡大先願)
本件発明1~24は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた甲10出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(9)証拠方法
甲1:米国特許仮出願第61/736,527号明細書(2012年12月12日出願)
甲2:米国特許仮出願第61/748,427号明細書(2013年1月2日出願)
甲3:米国特許仮出願第61/791,409号明細書(2013年3月15日出願)
甲4:米国特許仮出願第61/835,931号明細書(2013年6月17日出願)
甲5:Science, vol.339, pp.823-826 (Published online 3 January 2013) & Supplementary Materials
甲6:Nucleic Acids Research, vol.41, pp.4336-4343 (Published online 4 March 2013)
甲7:Science, vol.337, pp.816-821 (Published online 28 June 2012) & Supplementary Materials
甲8:Nature Biotechnol., vol.31, pp.227-229 (Published online 29 January 2013) & Supplementary Materials
甲9:Cell Research, vol.23, pp.465-472 (Published online 26 March 2013) & Supplementary information
甲10:国際公開第2013/176772号
甲11:Science, vol.339, pp.819-823 (Published online 3 January 2013)
甲12:Science, vol.337, pp.808-809 (17 August 2012)
甲13:Cell Research, vol.23, pp.15-17 (Published online 4 September 2012)
甲14:Proc.Natl.Acad.Sci.USA., vol.93, pp.3094-3098 (1996)
2 当審の判断
(1)特許異議申立理由1(新規事項追加)について
ア 本件特許の出願当初の明細書及び図面の記載事項
本件特許の出願当初(PCT/US2013/074743)の明細書及び図面には次の事項が記載されている。(なお、英語で記載されているので、対応する日本語出願の公表公報である特表2016-500262号公報の記載に基づく翻訳で示し、記載箇所もその段落番号等で示す。)
(当初-ア) 「一部の実施形態において、tracr配列およびtractメイト配列は、単一転写物内に含有され、その結果、2つの間のハイブリダイゼーションが二次構造、例えば、ヘアピンを有する転写物を産生する。ヘアピン構造において使用される好ましいループ形成配列は、4ヌクレオチド長であり、最も好ましくは、配列GAAAを有する。・・・このようなヘアピン構造の例示的説明を、図11Bの下方位置に提供し、最後の「N」およびループの上流の5’側の配列の部分は、tracrメイト配列に対応し、ループの3’側の配列の部分は、tracr配列に対応する。」(段落【0063】)
(当初-イ) 「例示的なII型CRISPR系は、4つの遺伝子Cas9、Cas1、Cas2、およびCsn1のクラスター、ならびに2つの非コードRNAエレメント、tracrRNAおよび非反復配列の短いストレッチ(スペーサー、それぞれ約30bp)により間隔が空いている反復配列の特徴的アレイ(ダイレクトリピート)を含有する化膿性連鎖球菌(Streptococcuspyogenes)SF370からのII型CRISPR遺伝子座である。この系において、ターゲティングされるDNA二本鎖切断(DSB)を4つの連続ステップにおいて生成する(図2A)。第1に、2つの非コードRNA、プレcrRNAアレイおよびtracrRNAがCRISPR遺伝子座から転写される。第2に、tracrRNAがプレcrRNAのダイレクトリピートにハイブリダイズし、次いでそれが個々のスペーサー配列を含有する成熟crRNAにプロセシングされる。第3に、成熟crRNA:tracrRNA複合体がCas9を、crRNAのスペーサー領域とプロトスペーサーDNAとの間のヘテロ二本鎖形成を介してプロトスペーサーおよび対応するPAMからなるDNA標的に指向する。最後に、Cas9は、PAMの上流の標的DNAの開裂を媒介してプロトスペーサー内でDSBを創成する(図2A)。この例は、このRNAプログラマブルヌクレアーゼ系を適応させて真核細胞の核中のCRISPR複合体活性を指向する例示プロセスを記載する。」(段落【0132】)
(当初-ウ) 「図11は、SpCas9をリプログラミングして哺乳動物細胞中の複数のゲノム遺伝子座をターゲティングすることができることのさらなる説明を提供する。図11Aは、下線付き配列により示される5つのプロトスペーサーの局在を示すヒトEMX1遺伝子座の模式図を提供する。図11Bは、プレcrRNAおよびtracrRNAのダイレクトリピート領域間のハイブリダイゼーションを示すプレcrRNA/trcrRNA複合体の模式図(上図)および20bpのガイド配列、ならびにヘアピン構造にハイブリダイズしている部分ダイレクトリピートおよびtracrRNA配列からなるtracrメイトおよびtracr配列を含むキメラRNA設計の模式図(下図)を提供する。ヒトEMX1遺伝子座中の5つのプロトスペーサーにおけるCas9媒介開裂の効力を比較するSurveyorアッセイの結果を、図11Cに説明する。プロセシングされたプレcrRNA/tracrRNA複合体(crRNA)またはキメラRNA(chiRNA)のいずれかを使用してそれぞれのプロトスペーサーをターゲティングする。」(段落【0148】)
(当初-エ) 「
」(図2A)
(当初-オ) 「
」(図11)
イ 判断
本件特許の出願当初の図2Aには、天然の化膿性連鎖球菌のCRISPR遺伝子座にコードされるCRISPR系の作用機序として、CRISPR遺伝子座から転写されプロセシングされて生じた成熟crRNA:tracrRNA複合体が、CRISPR遺伝子座から発現したCas9タンパク質とCRISPR複合体を形成すること、CRISPR複合体中のcrRNAのスペーサー領域と標的DNAのプロトスペーサーとの間の二本鎖形成により、CRISPR複合体が標的DNA上に指向されること、CRISPR複合体中のCas9タンパク質が標的DNAの開裂を媒介することが記載されている(上記(当初-イ)、(当初-エ))。また、図11Bには、ガイド配列、tracrメイトRNA及びtracr配列を含むキメラRNAの構造が記載され(上記(当初-ア)、(当初-オ))、図11Cには、図11Aに記載されたヒトEMX1遺伝子座のプロトスペーサー1~5のいずれかを標的とするガイド配列を有するキメラRNA(chiRNA)とSpCas9を哺乳動物細胞に適用することにより、プロトスペーサー1及び5を標的とした場合に、それぞれ5.6%及び3.3%で、プロセシングされたプレcrRNA:tracrRNA複合体(crRNA)と同様のインデルが生じたことが記載されている(上記(当初-ウ)、(当初-オ))。
ここで、上記図11の実験の「哺乳動物細胞」、「ヒトEMX1遺伝子座のプロトスペーサー1~5」、「キメラRNA」、「SpCas9」及び「インデル」は、それぞれ、本件特許の請求項1の「真核細胞」、「真核細胞中のポリヌクレオチドにおける標的配列」、「キメラRNA」、「II型Cas9タンパク質」及び「ポリヌクレオチドを改変」に該当する。そして、上記図11及びその説明には、キメラRNAによる「インデル」(ポリヌクレオチドの改変)が引き起こされた機序については記載されていないものの、用いたキメラRNAは、化膿性連鎖球菌等の天然のCRISPR系のRNA成分のうちの必要部分である、crRNAに由来するガイド配列及びtracrメイト配列と、tracr配列の部分配列とを連結してなるものであり(上記(当初-オ)の特にB)、しかも、上記図11の実験で、crRNA:tracrRNA複合体を用いたときと同様の「インデル」(ポリヌクレオチドの改変)がキメラRNAにより引き起こされたのであるから、その機序は、上記図2Aの作用機序と同様であることが自明である。
このとおり、本件特許の請求項1の「それによって、真核細胞におけるインビボでの前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現が、前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進し、」は、出願当初明細書の図11の実験において哺乳動物細胞に適用されたCRISPR系について、同図2Aに記載された天然のCRISPR系から自明な作用機序を記載したものにすぎないから、出願当初明細書等の記載から自明な事項であり、新たな技術的事項を追加するものとはいえない。
したがって、特許異議申立理由1は理由がない。
(2)特許異議申立理由2(明確性要件違反)について
ア 上記理由アについて
請求項1は、上記第3のとおり、「クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)ベクター系であって、
a)1つ以上のエンジニアリングされたCRISPR-Cas系ガイドRNAをコードする1つ以上のヌクレオチド配列に作動可能に結合している第1の調節エレメントであって、前記ガイドRNAが、真核細胞中のポリヌクレオチドにおける標的配列にハイブリダイズし、前記ガイドRNAが、単一転写産物中にガイド配列、tracrメイト配列及びtracr配列を含むキメラRNAであり、前記tracr配列が、40以上のヌクレオチドの長さを含む、第1の調節エレメント;
b)II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント;
を含む1つ以上のベクターを含み;
成分(a)及び(b)が、前記系の同じ又は異なるベクター上に位置し、
それによって、真核細胞におけるインビボでの前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現が、前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進し、前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と隣接しており、それによって、前記標的配列における前記CRISPR複合体の形成が、前記ポリヌクレオチドを改変し;並びに、前記Cas9タンパク質及び前記1つ以上のガイドRNAは、いっしょに天然に存在しない、
CRISPR-Casベクター系。」
というものである(下線は、当審による。)。
ここで、異議申立人が指摘する「真核細胞におけるインビボ」とは、文理上、「前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現」が行われる場のことと解される。
そして、上記下線部の記載から、「前記ガイドRNA」は、「真核細胞中のポリヌクレオチドにおける標的配列にハイブリダイズ」するものであって、「前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現」は、「前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進し、・・・前記標的配列における前記CRISPR複合体の形成が、前記ポリヌクレオチドを改変し」という作用を発揮するものであるから、ガイドRNA及びCas9タンパク質は、真核細胞中でCRISPR複合体を形成してポリヌクレオチドを改変するものであると理解できる。
また、上記「(a)」及び「(b)」のとおり、「ガイドRNAをコードする1つ以上のヌクレオチド配列」及び「Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列」は「ベクター」に含まれており、ベクターとは、外来遺伝物質を別の細胞に人為的に運ぶために利用される核酸分子を意味することが技術常識であるから、「ガイドRNAをコードする1つ以上のヌクレオチド配列」及び「Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列」はベクターにより真核細胞内に導入され、真核細胞内で「前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現」が行われると理解できる。
このとおり、異議申立人が指摘する「真核細胞におけるインビボ」、すなわち「前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現」が行われる場とは、真核細胞内であることが明らかである。
したがって、請求項1の「真核細胞におけるインビボ」は、その範囲が不明確であるということはできない。
イ 上記理由イについて
請求項22には、「請求項1~19のいずれか一項に記載の系の使用」の発明が記載され、「前記使用が、(i)インビトロ若しくはエクスビボであり」との記載は、請求項1~19のいずれか一項に記載の「CRISPR-Casベクター系」の「使用」の態様を特定するものであると解すべきである。ここで、請求項1~19に記載の「CRISPR-Casベクター系」は、請求項1の「前記ガイドRNAが、真核細胞中のポリヌクレオチドにおける標的配列にハイブリダイズし」及び「真核細胞におけるインビボでの前記ガイドRNAの転写」の記載に照らすと、真核細胞に作用するものであることが明らかであるから、請求項22の「前記使用が、(i)インビトロ若しくはエクスビボであり」とは、請求項1~19のいずれか一項に記載の「CRISPR-Casベクター系」が「インビトロ若しくはエクスビボ」に存在する真核細胞に対して使用されることを意味すると優に理解できる。
したがって、請求項22の「前記使用が、(i)インビトロ若しくはエクスビボであり」の態様は不明確とはいえない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、特許異議申立理由2は、理由がない。
(3)本件特許の優先日について
異議申立人は、異議申立理由3、4、6及び7の前提として、本件発明1の構成要件「b)II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント;を含む1つ以上のベクターを含み;」及び「前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と会合し、それによって、前記標的配列における前記CRISPR複合体の形成が、前記ポリヌクレオチドを改変し」は第1~3優先明細書に記載されていないから、本件発明は第1~3優先権主張の利益が享受できず、新規性・進歩性等の判断基準日は早くとも第4優先日である旨主張するので、以下に検討する。
ア 本件第1優先明細書(甲1)の記載事項
本件第1優先明細書(甲1)には、次の事項が記載されている。(英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。)
(甲1-ア) 「1またはそれ以上のベクターを含むベクター系であって、ここで系は、
a.tracrメイト配列に作動可能に連結された第1の調節エレメント、及びtracrメイト配列の上流にガイド配列を挿入するための1つ又は複数の挿入部位を含み、ここで、発現されると、ガイド配列は真核細胞の標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向し、ここでCRISPR複合体は、(1)標的配列にハイブリダイズするガイド配列、及び(2)tracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列と複合したCRISPR酵素を含み、
b. 核局在化配列を含む前記CRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に連結された第2の調節エレメント
を含む。」(第277頁特許請求の範囲の請求項1)
(甲1-イ) 「7. CRISPR酵素がII型 CRISPR系酵素である、請求項1記載のベクター系。」(第277頁特許請求の範囲の請求項7)
(甲1-ウ) 「8. CRISPR酵素がCas9酵素である、請求項1記載のベクター系。」(第277頁特許請求の範囲の請求項8)
(甲1-エ) 「一部の実施形態において、tracr配列およびtractメイト配列は、単一転写物内に含有され、その結果、2つの間のハイブリダイゼーションが二次構造、例えば、ヘアピンを有する転写物を産生する。ヘアピン構造において使用される好ましいループ形成配列は、4ヌクレオチド長であり、最も好ましくは、配列GAAAを有する。・・・このようなヘアピン構造の例示的説明を、図12Bの下方位置に提供し、最後の「N」およびループの上流の5’側の配列の部分は、tracrメイト配列に対応し、ループの3’側の配列の部分は、tracr配列に対応する。」(段落[0067])
(甲1-オ) 「例示的なII型CRISPR系は、4つの遺伝子Cas9、Cas1、Cas2、およびCsn1のクラスター、ならびに2つの非コードRNAエレメント、tracrRNAおよび非反復配列の短いストレッチ(スペーサー、それぞれ約30bp)により間隔が空いている反復配列の特徴的アレイ(ダイレクトリピート)を含有する化膿性連鎖球菌(Streptococcuspyogenes)SF370からのII型CRISPR遺伝子座である。この系において、ターゲティングされるDNA二本鎖切断(DSB)を4つの連続ステップにおいて生成する(図2A)。第1に、2つの非コードRNA、プレcrRNAアレイおよびtracrRNAがCRISPR遺伝子座から転写される。第2に、tracrRNAがプレcrRNAのダイレクトリピートにハイブリダイズし、次いでそれが個々のスペーサー配列を含有する成熟crRNAにプロセシングされる。第3に、成熟crRNA:tracrRNA複合体がCas9を、crRNAのスペーサー領域とプロトスペーサーDNAとの間のヘテロ二本鎖形成を介してプロトスペーサーおよび対応するPAMからなるDNA標的に指向する。最後に、Cas9は、PAMの上流の標的DNAの開裂を媒介してプロトスペーサー内でDSBを創成する(図1A)。この例は、このRNAプログラマブルヌクレアーゼ系を適応させて真核細胞の核中のCRISPR複合体活性を指向する例示プロセスを記載する。」(段落[00150])
(甲1-カ) 「図12は、SpCas9をリプログラミングして哺乳動物細胞中の複数のゲノム遺伝子座をターゲティングすることができることのさらなる説明を提供する。図12Aは、下線付き配列により示される5つのプロトスペーサーの局在を示すヒトEMX1遺伝子座の模式図を提供する。図12Bは、プレcrRNAおよびtracrRNAのダイレクトリピート領域間のハイブリダイゼーションを示すプレcrRNA/trcrRNA複合体の模式図(上図)および20bpのガイド配列、ならびにヘアピン構造にハイブリダイズしている部分ダイレクトリピートおよびtracrRNA配列からなるtracrメイトおよびtracr配列を含むキメラRNA設計の模式図(下図)を提供する。ヒトEMX1遺伝子座中の5つのプロトスペーサーにおけるCas9媒介開裂の効力を比較するSurveyorアッセイの結果を、図12Cに説明する。プロセシングされたプレcrRNA/tracrRNA複合体(crRNA)またはキメラRNA(chiRNA)のいずれかを使用してそれぞれのプロトスペーサーをターゲティングする。」(段落[00178])
(甲1-キ) 「
」(図1A)
(甲1-ク) 「
」(図12)
イ 構成要件「b)II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント;を含む1つ以上のベクターを含み;」について
本件第1優先明細書の上記(甲1-ア)に記載された「ベクター系」は、本件発明1の「ベクター系」に相当し、上記(甲1-ア)に「b.」として記載されたとおり、「第2の調節エレメント」は、「CRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に連結された」ものである。そして、上記(甲1-ウ)には、上記(甲1-ア)の「CRISPR酵素」が「Cas9酵素」である場合が記載され、「Cas9酵素」は、上記(甲1-イ)に記載されたようなII型のものであることが広く知られていたから、本件第1優先明細書には、II型Cas9酵素をコードする配列に作動可能に結合している第2の調節エレメントを含む1つ以上のベクターを含むベクター系、すなわち、本件発明1の構成要件「b)II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント;を含む1つ以上のベクターを含み;」が記載されているといえる。
異議申立人は、本件第1優先明細書には、「II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント」として、核局在配列を有する場合しか記載されていないから、核局在配列を有さない場合をも含む「II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント」は、第1優先権主張の利益を享受することができない旨主張する。
しかし、核局在配列は、「II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列」とも「第2の調節エレメント」とも異なる別個の構成成分であって、その存在の有無が「第2の調節エレメント」が「II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している」ことに影響を及ぼすものではない。したがって、核局在配列の有無は、本件第1優先明細書に、II型Cas9酵素をコードする配列に作動可能に結合している第2の調節エレメントを含む1つ以上のベクターを含むベクター系が記載されている事実を左右しないから、異議申立人の上記主張は失当である。
ウ 構成要件「前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と会合し、それによって、前記標的配列における前記CRISPR複合体の形成が、前記ポリヌクレオチドを改変し」について
本件発明1の上記構成要件は、上記第2のとおり、訂正事項1により、「前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と隣接しており、それによって、前記標的配列における前記CRISPR複合体の形成が、前記ポリヌクレオチドを改変し」と訂正された。
本件第1優先明細書の図1Aには、天然の化膿性連鎖球菌のCRISPR系の作用機序、すなわち、成熟crRNA、プロセシングされたtracrRNA及びCas9からなる複合体が、PAM配列と隣接したプロトスペーサー(標的配列)を認識して、Cas9により標的DNAの二本鎖切断(DSB)が引き起こされることが記載されている(上記(甲1-オ)、(甲1-キ))。また、図12Bには、ガイド配列、tracrメイトRNA及びtracr配列を含むキメラRNAの構造が記載され、図12Cには、当該キメラRNAを用いて図12Aに記載されたヒトEMX1遺伝子座のプロトスペーサー配列を標的としたCas媒介開裂の実験結果が記載されているところ、PAMに隣接したプロトスペーサー(1)を標的とした場合に、5.6%で、プロセシングされたプレcrRNA:tracrRNA複合体(crRNA)と同様のインデルが生じたことが記載されている(上記(甲1-カ)、(甲1-ク))。そして、上記図12及びその説明には、キメラRNAによるインデル(ポリヌクレオチドの改変)が引き起こされた機序については記載されていないものの、用いたキメラRNAは、化膿性連鎖球菌等の天然のCRISPR系のRNA成分のうちの必要部分である、crRNAに由来するガイド配列及びtracrメイト配列と、tracr配列の部分配列とを連結してなるものであり(上記(甲1-ク)の特にB)、しかも、上記図12の実験で、crRNA:tracrRNA複合体を用いたときと同様のインデル(ポリヌクレオチドの改変)がキメラRNAにより引き起こされたのであるから、その機序は、上記図1Aの作用機序と同様であることが自明である。
したがって、本件第1優先明細書には、本件発明1の構成要件「前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と隣接しており、それによって、前記標的配列における前記CRISPR複合体の形成が、前記ポリヌクレオチドを改変し」という事項が記載されているといえる。
エ 小括
以上のとおりであるから、異議申立人が指摘する本件発明1の構成要件「b)II型Cas9タンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント;を含む1つ以上のベクターを含み;」及び「前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と会合し、それによって、前記標的配列における前記CRISPR複合体の形成が、前記ポリヌクレオチドを改変し」は、いずれも本件第1優先明細書に記載されており、本件発明は第1優先権主張の利益を享受できるものであるから、その新規性・進歩性等の判断基準日は第1優先日(2012年12月12日)である。
(4)特許異議申立理由3(甲5に基づく新規性、進歩性欠如)について
上記(3)のとおり、本件発明は第1優先権主張の利益を享受できるものであって、その新規性・進歩性等の判断基準日は第1優先日である。
これに対して、甲5は、本件第1優先日である2012年12月12日よりも後の2013年1月3日に発行された刊行物であるから、本件発明が新規性・進歩性を欠如することの根拠とすることはできない。
したがって、特許異議申立理由3は理由がない。
(5)特許異議申立理由4(甲6に基づく新規性、進歩性欠如)について
上記(3)のとおり、本件発明は第1優先権主張の利益を享受できるものであって、その新規性・進歩性等の判断基準日は第1優先日である。
これに対して、甲6は、本件第1優先日である2012年12月12日よりも後の2013年3月4日に発行された刊行物であるから、本件発明が新規性・進歩性を欠如することの根拠とすることはできない。
したがって、特許異議申立理由4は理由がない。
(6)特許異議申立理由5(甲7に基づく新規性、進歩性欠如)について
ア 甲7の記載事項
本件第1優先日よりも前に発行された学術論文である甲7には、次の事項が記載されている。(英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。)
(甲7-ア) 「クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)/CRISPR関連(Cas)系は、侵入する核酸の抑制を誘導するために、CRISPRRNA(crRNA)を利用するウイルスやプラスミドに対する獲得免疫を、細菌や古細菌に提供するものである。この系の一部分において、成熟crRNAが、トランス活性化crRNA(tracrRNA)と塩基対を組むことで、標的DNAに二本鎖切断を導入するようにCRISPR関連タンパク質Cas9を誘導する2つのRNAからなる構造を形成することを示す。このデュアル-tracrRNA:crRNAは、一本鎖RNAキメラとして設計されたときも、配列特異的なCas9による二本鎖DNA切断を誘導する。私たちの研究は、部位特異的DNA切断のためにデュアル-RNAを使用するエンドヌクレアーゼのファミリーを明らかにし、RNAでのプログラムが可能なゲノム編集のためにこのシステムを利用する可能性を強調する。」(第816頁要約)
(甲7-イ) 「ここで私たちは、II型の系において、Cas9タンパク質が、標的二本鎖DNAを切断するために、活性化tracrRNAと標的指向crRNAの間の塩基対構造を必要とする酵素ファミリーを構成するものであることを示す。位置特異的切断は、標的であるプロトスペーサーDNAとcrRNAの間の塩基対を形成する相補性と、標的DNAの領域に並置される短いモチーフ[プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と呼ばれる]により定められる場所で生じる。私たちの研究は、さらに、Cas9エンドヌクレアーゼファミリーが単一のRNA分子でプログラムされて特定のDNA部位を切断できることを示している。これにより、ゲノムのターゲティングと編集のために二本鎖DNA破壊を生成するシンプルで多用途のRNA指向システムを開発する可能性が高まる。」(第816頁中欄第25行~右欄第3行)
(甲7-ウ) 「tracrRNAの全長が位置特異的なCas9に触媒されるDNA切断において必要かどうかを決定するために、全長の成熟(42ヌクレオチドの)crRNAと、5’あるいは3’末端を欠く様々な切断型のtracrRNAを用いて再構成されたCas9-tracrRNA:crRNA複合体を試験した。・・・野生型配列のヌクレオチド23から48を保持する大幅に切断された型のtracrRNAが、頑強なデュアルRNA誘導性のCas9に触媒されるDNA切断を支持することができた(図3A・・・)。」(第818頁左欄下から5行~中欄第8行)
(甲7-エ) 「図3 Cas9に触媒される標的DNAの切断は、tracrRNAの活性化ドメインを必要とし、crRNAのシード配列により制御される。(A)Cas9-tracrRNA:crRNA複合体は、42ヌクレオチド長のcrRNA-sp2と切断型のtracrRNA構成体を用いて再構築され、図1Bと同様に切断活性についてアッセイされた。・・・(C)Cas9仲介性DNA切断を誘導することができるtracrRNAとcrRNAの最小領域(青い陰が付された領域)。
」(第818頁図3)
(甲7-オ) 「私たちは、標的認識配列を5’末端に含み、その下流にtracrRNAとcrRNAの間に生じる塩基対相互作用を保持するヘアピン構造を含む2つのバージョンのキメラRNAを設計した。・・・プラスミドDNAを用いた切断アッセイにおいて、長い方のキメラRNAは、切断tracrRNA:crRNA複合体を用いた場合に観察された場合と同じような挙動でCas9によるDNA切断を誘導できることを観察によって確認した(図5B及び図S14、A及びC)。短い方のキメラRNAは、このアッセイでは効果的に機能せず、tracrRNA:crRNA塩基対相互作用を超えた5~12位のヌクレオチドが効率的なCas9結合及び/又は標的認識に重要であることが確認された。短いdsDNAを基質として用いる切断アッセイでも同様の結果が得られ、標的DNAの切断部位の位置が二重tracrRNA:crRNAをガイドとして用いた場合の観察結果と同一であることがさらに示された(図5C及び図S14、B及びC)。」(第820頁左欄第5行~第29行)
(甲7-カ) 「図5 Cas9は、tracrRNAとcrRNAの特徴を組み合わせた単一のエンジニアリングされたRNA分子を使用して、プログラムすることができる。
(A)(上)II型CRISPR/Casシステムにおいて、Cas9は、活性化しているtracrRNA及び標的化crRNAにより形成される2つのRNA構造により誘導されて、部位特異的に標的となった二本鎖DNAを切断する。(下)crRNAの3’末端をtracrRNAの5’末端に融合することにより生成されたキメラRNA。(B)プロトスペーサー4標的配列と野生型PAMを備えるプラスミドが、tracrRNA(4-89):crRNA-sp4複合体によって、あるいは、crRNAの3’末端をGAAAテトラループとともにtracrRNAの5’末端に付加することで設計されインビトロ転写されたキメラRNAによってプログラムされたCas9による切断の標的となった。切断反応はXmnIによる制限マッピングにより分析された。キメラRNAAとBの配列は、DNA標的指向配列(黄色)、crRNAリピート由来配列(オレンジ)、そしてtracrRNA由来配列(水色)とともに示される。(C)プロトスペーサー4二本鎖DNA切断反応は図1Bのように行った。
」
(甲7-キ) 「図S14 デュアル-tracrRNA:crRNAを模した一本鎖キメラRNAにガイドされたCas9はプロトスペーサーDNAを切断する。図5を参照。・・・
」
(甲7-ク) 「ジンク-フィンガーヌクレアーゼや転写活性化様エフェクターヌクレアーゼは、ゲノムを操作するために設計された人工酵素として、大きな関心を集めた。私たちは、遺伝子ターゲティングとゲノム編集への応用に向けた大きな潜在能力をもたらし得るRNAによりプログラムされたCas9に基づく代替的な手法を提案する。」(第820頁右欄第2行~第9行)
(甲7-ケ) 「プラスミドDNA切断アッセイ
・・・未処理の、あるいは制限酵素処理により鎖状化されたプラスミドDNA(30 0ng(~8nM))は、精製されたCas9タンパク質(50-500nM)とtracrRNA:crRNA複合体(50-500nM、 1:1)とともに、Cas9プラスミド切断緩衝液(20mM HEPES pH7.5、 150mM KCl、 0.5mM DTT、 0.1mM EDTA)中で、10mM MgCl2を加えて、あるいは加えずに、37℃で60分間インキュベートした。」(SUPPLEMENTARY MATERIALS AND METHODS)
イ 甲7発明の認定
上記(甲7-ア)、(甲7-イ)、(甲7-オ)、(甲7-カ)、(甲7-ク)から、甲7では、CRISPR-Cas系を構成するtracrRNAとcrRNAに基づいて設計されたキメラRNAとII型Cas9タンパク質を用いたCRISPR-Cas系により、緩衝液中でPAM配列に隣接する標的配列が開裂されることが実験により確認されている。よって、甲7には、Cas9タンパク質及び前記1つ以上のキメラRNAが、いっしょに天然に存在しないCRISPR-Cas系が記載されているといえる。また、図5Bに示されたキメラAは、上述のキメラRNAの1つの態様であり、tracrRNA由来の26ヌクレオチドの長さの配列を有するものであるから、甲7には以下の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。
「クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)系であって、
a)tracrRNAとcrRNAに基づいて設計されたキメラRNAであって、前記キメラRNAは、緩衝液中のポリヌクレオチドにおける標的配列にハイブリダイズし、前記キメラRNAは、標的認識配列を5’末端に含み、その下流にtracrRNAとcrRNAの間に生じる塩基対相互作用を保持するヘアピン構造を含む、キメラRNAであるキメラAと、
b)II型Cas9タンパク質、
を含み、
前記tracrRNAが、26のヌクレオチドの長さを有し、
前記緩衝液中で前記Cas9タンパク質及び前記キメラRNAが、前記標的配列においてCRISPR複合体を形成して前記標的配列を開裂し、
前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と隣接しており、
前記Cas9タンパク質及び前記キメラRNAが、いっしょに天然に存在しない、
CRISPR-Cas系。」
ウ 対比
本件発明1の「ガイド配列」に関して、本件明細書の段落【0060】には、「一般に、ガイド配列は、標的配列とハイブリダイズし、標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指向するために標的ポリヌクレオチド配列との十分な相補性を有する任意のポリヌクレオチド配列である」と記載されている。
また、本件発明1の「tracr配列及びtracrメイト配列」に関して、本件 明細書の段落【0019】には、「CRISPR複合体は、前記ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズされるガイド配列と複合体形成しているCRISPR酵素を含み、前記ガイド配列は、次いでtracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列に結合している」、段落【0017】には、「一部の実施形態において、CRISPR酵素は、Cas9酵素である」、段落【0063】には、「一部の実施形態において、tracr配列およびtractメイト配列(当審注:「tracrメイト配列」の誤記と認める。引用部分について以下同じ。)は、単一転写物内に含有され、その結果、2つの間のハイブリダイゼーションが二次構造、例えば、ヘアピンを有する転写物を産生する。ヘアピン構造において使用される好ましいループ形成配列は、4ヌクレオチド長であり、最も好ましくは、配列GAAAを有する」と記載されている。
これらの記載からみて、本件発明1の「tracr配列」と「tracrメイト配列」は、互いにハイブリダイズして、「ガイド配列」や「Cas9」とともに、「CRISPR複合体」を形成するものであり、「tracr配列」と「tracrメイト配列」が単一転写物内に含有される場合は、互いにハイブリダイゼーションすることでヘアピン構造を形成するものといえる。
一方、甲7発明の「キメラRNA」も、「標的認識配列を5’末端に含み、その下流にtracrRNAとcrRNAの間に生じる塩基対相互作用を保持するヘアピン構造」を含むものであって、Cas9タンパク質と複合体を形成し、「標的認識配列」が「標的配列にハイブリダイズする」ことで「前記標的配列の開裂する」ものである。
よって、甲7発明の「a)tracrRNAとcrRNAに基づいて設計されたキメラRNAであって、前記キメラRNAは、・・・ポリヌクレオチドにおける標的配列にハイブリダイズし、前記キメラRNAは、標的認識配列を5’末端に含み、その下流にtracrRNAとcrRNAの間に生じる塩基対相互作用を保持するヘアピン構造を含む、キメラRNAであるキメラA」は、本件発明1の「標的配列にハイブリダイズし」「ガイド配列、tracrメイト配列及びtracr配列を含むキメラRNA」である「エンジニアリングされたCRISPR-Cas系ガイドRNA」に相当する。
以上のことから、本件発明1と甲7発明とは、
「クラスター化等間隔短鎖回分リピート(CRISPR)-CRISPR関連(Cas)(CRISPR-Cas)系であって、
a)1つ以上のエンジニアリングされたCRISPR-Cas系ガイドRNAであって、前記ガイドRNAが、ポリヌクレオチドにおける標的配列にハイブリダイズし、前記ガイドRNAが、ガイド配列、tracrメイト配列及びtracr配列を含むキメラRNAである、ガイドRNA;
b)II型Cas9タンパク質;
を含み、
前記Cas9タンパク質及び前記ガイドRNAが前記標的配列においてCRISPR複合体を形成し、
前記標的配列が、前記CRISPR複合体によって認識されるPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)配列と隣接しており、
前記Cas9タンパク質及び前記1つ以上のガイドRNAが、いっしょに天然に存在しない、
CRISPR-Cas系。」
である点で一致し、次の相違点1~4で相違する。
[相違点1]
本件発明1は、「ガイドRNAが、真核細胞中のポリヌクレオチドにおける標的配列にハイブリダイズ」し、「真核細胞におけるインビボでの前記ガイドRNAの転写及び前記Cas9タンパク質の発現が、前記標的配列におけるCRISPR複合体の形成を促進」するのに対して、甲7発明では、「キメラRNAは、緩衝液中のポリヌクレオチドにおける標的配列にハイブリダイズ」し、「前記緩衝液中で前記Cas9タンパク質及び前記キメラRNAが、前記標的配列においてCRISPR複合体を形成」する点。
[相違点2]
本件発明1は、「前記ポリヌクレオチドを改変」するのに対して、甲7発明では、「前記標的配列を開裂」するにとどまる点。
[相違点3]
本件発明1は、CRISPR-Cas系ガイドRNAを「コードする1つ以上のヌクレオチド配列に作動可能に結合している第1の調節エレメント」と、II型Cas9タンパク質を「コードするヌクレオチド配列に作動可能に結合している第2の調節エレメント」を含む「1つ以上のベクターを含み;成分(a)及び(b)が、前記系の同じ又は異なるベクター上に位置」する、CRISPR-Cas「ベクター」系であるのに対して、甲7発明は、「キメラRNA」と「Cas9タンパク質」とを含むCRISPR-Cas系である点。
[相違点4]
tracr配列が、本件発明1は、「40以上のヌクレオチドの長さを含む」のに対して、甲7発明は、「26のヌクレオチドの長さを有し」ている点。
エ 判断
まず、上記相違点4について検討すると、甲7には、全長成熟crRNA(cr-RNA-sp2)と、5’又は3’末端で配列が欠如した様々な切断型のtracrRNAを組み合わせて再構成された二本鎖のCas9-tracrRNA:crRNA複合体を用いた試験において、天然配列のヌクレオチド23-48(tracr配列のヌクレオチド長は26)を共通に保持したtracrRNA(4-89、15-89、23-89、15-53、23-53、及び23-48)がCas9によるDNA切断に有効であることが示されている(甲7-エ)。
また、tracrRNA:crRNAは一本鎖のキメラRNAに設計でき(甲7-ア)、tracr配列のヌクレオチド長が26(天然配列のヌクレオチド23-48)の長いキメラAが、二本鎖のtracrRNA:crRNA複合体を用いた場合と同じような挙動でCas9によるDNA切断を誘導したこと、他方、tracr配列のヌクレオチド長が18(天然配列のヌクレオチド23-40)の短いキメラBの場合には、DNA切断を誘導できなかったこと(甲7-オ、甲7-カ)が示されている。
以上の甲7の実験結果に接した本件優先日の当業者は、26ヌクレオチド長よりも短いtracr配列は、Cas9の開裂効果が劣ることから、Cas9タンパク質による標的配列の開裂には、少なくとも天然配列のヌクレオチド23-48を保持した26ヌクレオチド長のtracr配列を含む必要があることは理解するといえる。しかし、甲7には、26ヌクレオチドより長いtracr配列の方が好ましいことを示す記載は見当たらないし、本件優先日当時、tracr配列の長さが大きければ大きいほど好ましいという技術常識が存在したとも認めることができない。
一方、本件明細書の図16及び図17には、ヒト細胞中のゲノムのEMX1遺伝子座のプロトスペーサー1~3、PVALB遺伝子座のプロトスペーサー4及び5を標的とした場合に、tracr配列の長さが45及び63のキメラRNA(それぞれ「+67」及び「+85」と表示されたもの)は、tracr配列の長さが26のキメラRNA(「+48」と表示されたもの)よりもゲノム改変効率が高いことが具体的データにより示され、これらの結果について段落【0162】には「EMX1およびPVALB遺伝子座中の5つ全ての標的について、tracr配列長さの増加に伴うゲノム改変効率の一貫した増加が観察された」と記載されている。
そうすると、甲7の記載や本件優先日の技術常識を勘案しても、ゲノムの改変効率を向上させる観点で、甲7発明のtracr配列の長さについて、甲7に具体的に開示されている26から40以上に変更することを、当業者が動機付けられていたということはできない。また、tracr配列の長さを40以上に設定するという技術手段を採用することで、真核細胞におけるゲノム改変効率が向上するという効果を当業者が予測できたと認めることもできない。
したがって、相違点4に係る本件発明1の構成要件、すなわち「tracr配列が、40以上のヌクレオチドの長さを含む」とすることは、甲7の記載や本件優先日の技術常識を参酌しても、当業者が容易に想到し得たとはいえないものである。
オ 異議申立人の主張について
異議申立人は、相違点4に関して、甲7の図5Cに示された、(i)crRNA(42nt)とtracrRNA(23-48)の併用よりも、それらを連結してなるキメラAの方が高いDNA切断活性を示したこと、及び、(ii)tracrRNA(23-48)及びtracrRNA(23-89)のそれぞれを同一のcrRNAと併用した場合、tracrRNAが長い方(23-89)が高いDNA切断活性を示したこと、に基づけば、当業者であれば、より高いDNA切断活性を得る目的で、キメラRNAを用い、それに含まれるtracrRNAに由来する配列の3’側配列を伸ばすことを容易に想到し得る旨主張する。
しかし、上記(i)に関しては、図5Cにおいて、crRNA(42nt)及びtracrRNA(23-48)の併用の場合とキメラAを用いた場合とで、後者の方がDNA切断活性が高いと判断できるほど明確な差があるわけではない。実際、甲7本文でも、図5Cの結果に関して、「長い方のキメラRNAは、切断tracrRNA:crRNA複合体を用いた場合に観察された場合と同じような挙動でCas9によるDNA切断を誘導できることを観察によって確認した(図5B及び図S14、A及びC)。短い方のキメラRNAは、このアッセイでは効果的に機能せず、tracrRNA:crRNA塩基対相互作用を超えた5~12位のヌクレオチドが効率的なCas9結合及び/又は標的認識に重要であることが確認された。短いdsDNAを基質として用いる切断アッセイでも同様の結果が得られ・・・(図5C及び図14、B及びC)」(甲7-オ)のとおり、crRNA(42nt)とtracrRNA(23-48)の併用と、それらを連結してなるキメラAを用いた場合とは、「同じような挙動」と考察されているにすぎない。また、図5と同様の実験の結果を示す図S14においても、crRNA(sp1又はsp2)とtracrRNA(23-48)の併用の場合と、それらを連結してなるキメラAを用いた場合とでは、同等のDNA切断活性が示されている(甲7-キのB)。したがって、異議申立人が指摘する上記(i)は、甲7から導き出される事項であるとはいえない。
また、上記(ii)に関しても、図5Cにおいて、crRNA(42nt)及びtracrRNA(23-48)の併用の場合とcrRNA(42nt)及びtracrRNA(23-89)の併用の場合とで、後者の方がDNA切断活性が高いと判断できるほど明確な差があるわけではない。実際、甲7本文では、図5Cの結果に関して、crRNA及びtracrRNAの併用の場合のtracrRNAに着目した考察は記載されていない(甲7-オ)。また、図5と同様の実験の結果を示す図S14においては、crRNA(sp2)と併用するtracrRNAが長い方(23-89)が短い方(23-48)よりもDNA切断活性が低いと読み取れるデータも記載されている(甲7-キのBの右図)。したがって、異議申立人が指摘する上記(ii)も、甲7から導き出される事項であるとはいえない。
このとおり、異議申立人の上記主張は、その前提(上記(i)及び(ii))において失当であるから、採用することはできない。
カ 小括
以上のとおりであるから、相違点1~3について検討するまでもなく、本件発明1は甲7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。また、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2~24についても同様である。
したがって、特許異議申立理由5は理由がない。
(7)特許異議申立理由6(甲8に基づく新規性、進歩性欠如)について
上記(3)のとおり、本件発明は第1優先権主張の利益を享受できるものであって、その新規性・進歩性等の判断基準日は第1優先日である。
これに対して、甲8は、本件第1優先日である2012年12月12日よりも後の2013年1月29日に発行された刊行物であるから、本件発明が新規性・進歩性を欠如することの根拠とすることはできない。
したがって、特許異議申立理由6は理由がない。
(8)特許異議申立理由7(甲9に基づく新規性、進歩性欠如)について
上記(3)のとおり、本件発明は第1優先権主張の利益を享受できるものであって、その新規性・進歩性等の判断基準日は第1優先日である。
これに対して、甲9は、本件第1優先日である2012年12月12日よりも後の2013年3月26日に発行された刊行物であるから、本件発明が新規性・進歩性を欠如することの根拠とすることはできない。
したがって、特許異議申立理由7は理由がない。
(9)特許異議申立理由8(拡大先願)について
ア 上記(3)のとおり、本件発明は第1優先権主張の利益を享受することができるものであるから、その拡大先願についての判断基準日は、第1優先日である2012年12月12日である。
一方、2013年3月15日に出願された甲10出願は、4つの優先権主張を伴うものであるところ、第1優先日(2012年5月25日)及び第2優先日(2012年10月19日)が本件第1優先日よりも前であるから、甲10出願の当初明細書等と甲10第1優先明細書(米国特許仮出願61/652、086号)又は第2優先明細書(米国特許仮出願61/716、256号)とに共通して記載された発明が本件発明と同一である場合には、特許異議申立理由8は理由があることになる。この観点から、以下、検討する。
イ 甲10出願の当初明細書等の記載事項
甲10出願(PCT/US2013/032589)の出願当初の明細書及び図面には次の事項が記載されている。(なお、英語で記載されているので、対応する日本語出願の公表公報である特表2015-523856号公報の記載に基づく翻訳で示し、記載箇所もその段落番号等で示す。また、下線は当審にて付記したものである。)
(甲10-ア) 「【請求項12】
(i)
(a)標的DNA内の配列に対し相補的なヌクレオチド配列を含む第一セグメント;および
(b)部位特異的修飾ポリペプチドと相互作用する第二セグメント
を含むDNA標的化RNAをコードするヌクレオチド配列;並びに
(ii)
(a)前記DNA標的化RNAと相互作用するRNA結合部位;および
(b)部位特異的酵素活性を示す活性部位であって、酵素活性の部位が前記DNA標的化RNAによって決定される、活性部位
を含む前記部位特異的修飾ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列
を含む、組み換え発現ベクター。」(特許請求の範囲の請求項12)
(甲10-イ) 「【請求項122】
宿主細胞において標的DNAの転写を選択的に調節する方法であって、前記宿主細胞に、
a)
i)前記標的DNA内の標的配列に対し相補的なヌクレオチド配列を含む第一セグメント;
ii)部位特異的ポリペプチドと相互作用する第二セグメント;および
iii)安定性制御配列
を含むDNA標的化RNA、または前記DNA標的化RNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸;並びに
b)
i)前記DNA標的化RNAと相互作用するRNA結合部位;および
ii)低減されたエンドデオキシリボヌクレアーゼ活性を示す活性部位
を含む変異型Cas9部位特異的ポリペプチド、または前記変異型Cas9部位特異的ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸
を導入することを含み、
前記DNA標的化RNAおよび前記変異型Cas9ポリペプチドが前記細胞内で複合体を形成し、前記複合体が前記細胞内の標的DNAの転写を選択的に調節する、上記方法。」(特許請求の範囲の請求項122)
(甲10-ウ) 「【請求項130】
前記宿主細胞が真核細胞である、請求項122に記載の方法。」(特許請求の範囲の請求項130)
(甲10-エ) 「【請求項140】
前記DNA標的化RNAが単一分子DNA標的化RNAである、請求項122に記載の方法。」(特許請求の範囲の請求項140)
(甲10-オ) 【図9】二つの種からの例示tracrRNA(活性化RNA)およびcrRNA(標的化RNA)配列を示す。・・・また、標的化RNAおよび活性化RNAの特色を組み込む単一分子DNA標的化RNAの設計も示される。」(段落【0033】)
(甲10-カ) 「
」
(甲10-キ) 「主題のDNA標的化RNAは単一RNA分子(単一RNAポリヌクレオチド)であり、「単一分子DNA標的化RNA」、「単一誘導RNA」、または「sgRNA」と称される。」(段落【0080】)
(甲10-ク) 「実施例2:ヒト細胞でのRNAプログラムゲノム編集
下で提供されるデータは、Cas9がヒト細胞の核に発現および局在し得るここと、およびCas9がヒト細胞内で単一誘導RNA(「sgRNA」;Cas9結合およびDNA標的化部位認識の双方に必要な特色を含む)と集合することを示す。これら複合体は、二重鎖切断を形成し得、Cas9およびsgRNAの双方を必要とする活性である、sgRNA配列に相補的な部位におけるゲノムDNAにおける非相同性末端結合(NHEJ)修復を刺激し得る。RNA配列の3’末端における伸展は、生細胞のDNA標的活性を強化する。・・・
【0508】 生細胞内でのCas9:sgRNA集合を強化する手段として、次に、誘導RNAの推定Cas9結合領域を伸展する効果を試験した。CLTA1sgRNAの二つの新しいバージョンを、crRNAとtracrRNAとの間の塩基対形成相互作用を模倣する6または12の塩基対をらせん体にさらに含むように設計した(図31A)。さらに、S.ピオゲネスtracrRNAの天然配列を基に、誘導RNAの3’末端を五つのヌクレオチドで伸展した[9]。U6またはH1PolIIIプロモーターのいずれかの制御下でこれらの3’伸長sgRNAをコードするベクターを、Cas9-HA-NLS-GFP発現ベクターと一緒に細胞に形質移入し、部位特異的ゲノム切断を、Surveyorアッセイを用いて試験した(図31B)。結果によって、切断は、Cas9およびCLTA1sgRNAの双方を必要とするが、Cas9またはsgRNAのいずれかが単独で発現された場合には起こらなかったことが確認された。さらに、Cel-1ヌクレアーゼ切断によって検知された通り、NHEJの実質的に増大した頻度を観察し、一方で、対照ZFN対で得られたNHEJ変異誘発の頻度は大きく変わらなかった。
【0509】 図31は、sgRNA構築物の3’伸展が部位特異的NHEJ媒介性変異誘発を強化することを示す。(A)CLTA1sgRNA発現のための構築物(上)を、本来のCas9結合配列(v1.0)または4個の塩基対で伸展されたdsRNA二重鎖(v2.1)もしくは10個の塩基対で伸展されたdsRNA二重鎖(v2.2)を含む転写物を生成するように設計した。(B)Cas9および/またはCLTAsgRNAv1.0、v2.1またはv2.2を発現するHEK293T細胞から単離されたゲノムDNAのSurveyorヌクレアーゼアッセイ。CLTA座位を標的とするために以前使用されたZFN構築物[10]を、非相同性末端結合によるDSB誘導性DNA修復を検知するための陽性対照として使用した。」(段落【0495】~【0509】)
(甲10-ケ) 「
」(図31A)
(甲10-コ) 「
」(図31B)
ウ 判断
上記(甲10-ア)~(甲10-オ)のとおり、甲10出願の当初明細書等には、本件発明と同様のCRISPR-Cas系が記載されている。また、実施例2には、ヒト細胞中のゲノムを標的とする、3’側の長さの異なる3種類のsgRNA(甲10-ケのv1.0、v2.1及びv2.2)を用いた実験が記載され、このうちv2.2のtracr配列部分の長さが41であること(甲10-ケ)から、甲10出願の当初明細書等の実施例2には、本件発明1の構成要件「前記ガイドRNAが、単一転写産物中にガイド配列、tracrメイト配列及びtracr配列を含むキメラRNAであり、前記tracr配列が、40以上のヌクレオチドの長さを含む」が記載されているといえる。また、実施例2の結果(甲10-コ)に基づいて「sgRNA構築物の3’伸展が部位特異的NHEJ媒介性変異誘発を強化することを示す。」(甲10-コ)という考察が記載されており、tracr配列が長いほど部位特異的変異誘発が強化されるという技術思想も読み取れる。
しかしながら、甲10出願の当初明細書等の実施例2は、甲10第1優先明細書にも甲10第2優先明細書にも、記載されていない。また、甲10出願の当初明細書等と甲10第1優先明細書又は甲10第2優先明細書に共通して記載されたsgRNAは、上記(甲10-カ)のストレプトコッカス・ピオゲネスの配列に基づく、tracr配列の長さが26ヌクレオチドのもの(甲10第1優先明細書の図9A、甲10第2優先明細書の図9A)及びリステリア・イノキュアの配列に基づく、tracr配列の長さが27ヌクレオチドのもの(甲10第1優先明細書の図9B、甲10第2優先明細書の図9B)のみであって、甲10第1優先明細書及び甲10第2優先明細書には、tracr配列の長さが40ヌクレオチド以上のsgRNAは具体的に記載されていないし、tracr配列部分の長さに着目すること、ましてtracr配列部分の長さを長くすることによりDNA標的活性(部位特異的NHEJ媒介性変異誘発)を強化するという技術思想は表れていない。
したがって、本件発明と同一の発明が、甲10出願の当初明細書等と甲10第1優先明細書又は第2優先明細書とに共通して記載されているということはできないから、特許異議申立理由8は理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1~24に係る特許を取り消すことはできない。
他に請求項1~24に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-700032