特許異議申立
2017-700219
少量の末梢血からの人工多能性幹細胞の作製
- 審判番号
- 2017-700219
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-515431
- 登録番号
- 特許第5984217号(P5984217)
- 請求日
- 2017年03月03日
- 審決日
- 2019年05月23日
- 公報発行日
- 2019年08月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】セルラー ダイナミクス インターナショナル, インコーポレイテッド
- 【権利者代理人】特許業務法人特許事務所サイクス
- 【異議申立人】谷口 真魚
- 【異議申立人】新井 誠一
- 【異議申立人代理人】大野 聖二
- 【異議申立人代理人】松任谷 優子
- 【異議申立人代理人】梅田 慎介
- 【異議申立人代理人】森田 裕
- 【異議申立人代理人】今野 智介
- 【異議申立人】田中 眞喜子
- 【異議申立人】ロンザ ウォーカーズヴィル, インコーポレイテッド
- 【異議申立人代理人】阿部 寛
- 【異議申立人代理人】池田 成人
- 【異議申立人代理人】酒巻 順一郎
- 【異議申立人代理人】木元 克輔
- 【異議申立人】大橋 直人
- 【異議申立人】矢田 啓悟
- 審判長/審判官
- 審判長 大宅 郁治
- 審判官 長井 啓子
- 審判官 小暮 道明
- 分類
- P1651.113-YAA(C12N) / P1651.121-YAA(C12N) / P1651.161-YAA(C12N) / P1651.536-YAA(C12N) / P1651.537-YAA(C12N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条の2、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5984217号発明「少量の末梢血からの人工多能性幹細胞の作製」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5984217号の明細書及び特許請求の範囲を平成31年1月15日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1~15]、[16、17]及び18について訂正することを認める。
特許第5984217号の請求項1及び3~17に係る特許を維持する。 特許第5984217号の請求項2及び18に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5984217号の請求項1~18に係る特許についての出願は、平成23年6月14日(パリ条約による優先権主張 2010年6月15日米国、2010年10月1日米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年8月12日にその特許権の設定登録がされ、平成28年9月6日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成29年 3月 3日付け 特許異議申立人谷口真魚(以下、「特許異
議申立人1」という。)による請求項1~
18に係る特許に対する特許異議の申立
平成29年 3月 6日付け 特許異議申立人新井誠一(以下、「特許異
議申立人2」という。)による請求項1~
18に係る特許に対する特許異議の申立
平成29年 3月 6日付け 特許異議申立人田中眞喜子(以下、「特許
異議申立人3」という。)による請求項1
~18に係る特許に対する特許異議の申立
平成29年 3月 6日付け 特許異議申立人ロンザ ウォーカーズヴィ
ル,インコーポレイテッド(以下、「特許
異議申立人4」という。)による請求項1
~18に係る特許に対する特許異議の申立
平成29年 3月 6日付け 特許異議申立人大橋直人(以下、「特許異
議申立人5」という。)による請求項1~
18に係る特許に対する特許異議の申立
平成29年 3月 6日付け 特許異議申立人矢田啓悟(以下、「特許異
議申立人6」という。)による請求項1~
18に係る特許に対する特許異議の申立
平成29年10月31日付け 取消理由通知書
平成30年 3月30日付け 特許権者による意見書及び訂正請求書
平成30年 4月27日付け 訂正拒絶理由通知書
平成30年 6月27日付け 特許権者による意見書及び手続補正書
平成30年 8月 9日付け 特許異議申立人1による意見書
平成30年 8月13日付け 特許異議申立人2による意見書
平成30年 8月13日付け 特許異議申立人3による意見書
平成30年 8月13日付け 特許異議申立人5による意見書
平成30年 8月13日付け 特許異議申立人6による意見書
平成30年10月11日付け 取消理由通知(決定の予告)
平成31年 1月15日付け 特許権者による意見書及び訂正請求書
平成31年 3月20日付け 特許異議申立人1による意見書
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成31年1月15日付け訂正請求書において特許権者が請求する訂正(以下、「本件訂正」又は単に「訂正」という。)は、一群の請求項[1~15]について訂正事項1~18、一群の請求項[16、17]について訂正事項19~21、及び請求項18について訂正事項22、それぞれの訂正を求める、次のとおりのものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において「造血前駆細胞を含むヒト末梢血細胞の細胞集団を提供し」と記載されているのを、「ヒト末梢血単核細胞の細胞集団から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1において「フィーダー非依存性培養」と記載されているのを、「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1において「カセットを含む」と記載されているのを、「カセットを含み、前記ヒト末梢血単核細胞の細胞集団が、外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3において「請求項1または請求項2」と記載されているのを、「請求項1」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4において「請求項1から請求項3の何れか」と記載されているのを、「請求項1または3」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5において「請求項1から請求項4の何れか」と記載されているのを、「請求項1、3及び4の何れか」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項6において「請求項1から請求項5の何れか」と記載されているのを、「請求項1及び請求項3から5の何れか」に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項7において「請求項1から請求項5の何れか」と記載されているのを、「請求項1及び請求項3から5の何れか」に訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項8において「請求項1から請求項7の何れか」と記載されているのを、「請求項1及び請求項3から7の何れか」に訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項9において「請求項1から請求項8の何れか」と記載されているのを、「請求項1及び請求項3から8の何れか」に訂正する。
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項10において「請求項1から請求項9の何れか」と記載されているのを、「請求項1及び請求項3から9の何れか」に訂正する。
(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項11において「請求項1から請求項10の何れか」と記載されているのを、「請求項1及び請求項3から10の何れか」に訂正する。
(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項12において「請求項1から請求項11の何れか」と記載されているのを、「請求項1及び請求項3から11の何れか」に訂正する。
(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項13において「請求項1から請求項12の何れか」と記載されているのを、「請求項12」に訂正する。
(16)訂正事項16
特許請求の範囲の請求項14において「請求項1から請求項13の何れか」と記載されているのを、「請求項12」に訂正する。
(17)訂正事項17
特許請求の範囲の請求項15において「請求項1から請求項14の何れか」と記載されているのを、「請求項1及び請求項3から14の何れか」に訂正する。
(18)訂正事項18
明細書の段落【0052】において「「末梢血細胞」は、赤血球細胞、白血球細胞及び血小板を含み、血液の循環プール内で見出される、血液の細胞成分を指す。」と記載されているのを、「「末梢血細胞」は、赤血球細胞、白血球細胞及び血小板を含む、細胞成分を指す。」に訂正する。
(19)訂正事項19
特許請求の範囲の請求項16において「体積が10mL以下である、造血前駆細胞を含む末梢血試料を提供し」と記載されているのを、「体積が10mL以下である末梢血試料から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し」に訂正する。
(20)訂正事項20
特許請求の範囲の請求項16において「フィーダー非依存性培養」と記載されているのを、「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養」に訂正する。
(21)訂正事項21
特許請求の範囲の請求項16において「カセットを含む」と記載されているのを、「カセットを含み、前記末梢血試料が、外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である」に訂正する。
(22)訂正事項22
特許請求の範囲の請求項18を削除する。
2 訂正の適否
(1)一群の請求項
訂正前の請求項2~15は、請求項1を引用するものであって、訂正事項1~3により訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、請求項[1~15]は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正前の請求項17は、請求項16を引用するものであって、訂正事項19~21により訂正される請求項16に連動して訂正されるものであるから、請求項[16、17]は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1
訂正事項1は、訂正前請求項1に記載された「造血前駆細胞」を発明の詳細な説明の段落【0068】等に記載された「CD34発現細胞」に特定し、訂正前請求項1に記載された「細胞集団を提供」することを段落【0069】、【0074】~【0077】、【0081】、【0083】、【0244】、【0246】及び【0266】等に記載された「ヒト末梢血単核細胞の細胞集団から、造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製」することに特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 訂正事項2
訂正事項2は、訂正前請求項1に記載された「フィーダー非依存性培養」を、発明の詳細な説明の段落【0023】、【0036】、【0106】、【0121】~【0124】、【0257】、【0258】に記載された「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中」で行うことに特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 訂正事項3
訂正事項3は、訂正事項1により請求項1に記載された「ヒト末梢血単核細胞の細胞集団」を、訂正前の請求項2に記載された「外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である」ものに特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ 訂正事項4
訂正事項4は、訂正前請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
オ 訂正事項5
訂正事項5は、訂正前請求項3が引用する請求項である「請求項1または請求項2」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
カ 訂正事項6
訂正事項6は、訂正前請求項4が引用する請求項である「請求項1から請求項3の何れか」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
キ 訂正事項7
訂正事項7は、訂正前請求項5が引用する請求項である「請求項1から請求項4の何れか」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ク 訂正事項8
訂正事項8は、訂正前請求項6が引用する請求項である「請求項1から請求項5の何れか」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ケ 訂正事項9
訂正事項9は、訂正前請求項7が引用する請求項である「請求項1から請求項5の何れか」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
コ 訂正事項10
訂正事項10は、訂正前請求項8が引用する請求項である「請求項1から請求項7の何れか」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
サ 訂正事項11
訂正事項11は、訂正前請求項9が引用する請求項である「請求項1から請求項8の何れか」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
シ 訂正事項12
訂正事項12は、訂正前請求項10が引用する請求項である「請求項1から請求項9の何れか」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ス 訂正事項13
訂正事項13は、訂正前請求項11が引用する請求項である「請求項1から請求項10の何れか」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
セ 訂正事項14
訂正事項14は、訂正前請求項12が引用する請求項である「請求項1から請求項11の何れか」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ソ 訂正事項15
訂正事項15は、訂正前請求項13が引用する請求項である「請求項1から請求項12の何れか」を「請求項12」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
タ 訂正事項16
訂正事項16は、訂正前請求項14が引用する請求項である「請求項1から請求項13の何れか」を「請求項12」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
チ 訂正事項17
訂正事項17は、訂正前請求項15が引用する請求項である「請求項1から請求項14の何れか」から訂正事項4により削除された請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ツ 訂正事項18
訂正事項18は、訂正前の発明の詳細な説明の段落【0052】の「末梢血細胞」の定義を不明瞭にする「血液の循環プール内で見出される、血液の」を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
テ 訂正事項19
訂正事項19は、訂正前請求項16に記載された「末梢血試料を提供」する工程に、発明の詳細な説明の段落【0069】、【0074】~【0077】、【0083】、【0084】、【0244】、【0246】、【0266】に記載されたように、当該末梢血試料から「CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製」する工程を加えたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ト 訂正事項20
訂正事項20は、訂正前請求項16に記載された「フィーダー非依存性培養」を、発明の詳細な説明の段落【0023】、【0036】、【0106】、【0121】~【0124】、【0257】、【0258】に記載された「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中」で行うことに特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ナ 訂正事項21
訂正事項21は、訂正前請求項16に記載された「末梢血試料」を、訂正前の請求項2に記載された「外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である」ものに特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ニ 訂正事項22
訂正事項22は、訂正前請求項18を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。したがって、訂正後の請求項[1~15]、[16、17]及び18について訂正を認める。
第3 本件訂正発明
本件特許の請求項1及び3~17に係る発明は、本件訂正特許請求の範囲の請求項1及び3~17に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(なお、上記第2のとおり、請求項2及び18は削除された。)
「【請求項1】
a)ヒト末梢血単核細胞の細胞集団から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し、
b)その造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件下でその集団を培養し、
c)iPS再プログラミング因子を発現する1以上の発現カセットを含む1以上の染色体外で複製するエピソーム性ベクターをその増殖造血前駆細胞に導入し、
d)既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養においてその造血前駆細胞を培養し、それにより造血前駆細胞からヒトiPS細胞を作製させ、
e)iPS細胞について選択する、
段階を含む、造血前駆細胞からヒトiPS細胞を作製するためのインビトロの方法であって、前記1以上の発現カセットが、1以上のポリシストロニックなカセットを含み、
前記ヒト末梢血単核細胞の細胞集団が、外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である、方法。
【請求項3】
前記細胞集団が、体積約10mL以下の血液試料中に含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記増殖条件が、幹細胞因子(SCF)、Flt-3リガンド(Flt3L)、トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン3(IL-3)又はインターロイキン6(IL-6)を含む1以上のサイトカインを含む増殖培地を含む、請求項1または3に記載の方法。
【請求項5】
前記増殖条件がNotch-1リガンドを含まない、請求項1、3及び4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
段階b)の前記増殖条件が、既知組成の細胞外マトリクスを含む、請求項1及び請求項3から5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
段階b)の前記増殖条件がマトリクスを含まない、請求項1及び請求項3から5の何れかに記載の方法。
【請求項8】
段階b)における条件の又は段階d)の培養の酸素分圧が7%以下である、請求項1及び請求項3から7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
前記再プログラミング因子が、Sox、Oct、Nanog、Lin-28、Klf4、C-myc(又はL-myc)、SV40ラージT抗原又はそれらの組み合わせである、請求項1及び請求項3から8の何れかに記載の方法。
【請求項10】
前記段階c)が、前記増殖段階b)の第3、4、5又は6日前後に行われる、請求項1及び請求項3から9の何れかに記載の方法。
【請求項11】
前記段階c)の増殖造血前駆細胞の出発数が、約104個から約105個である、請求項1及び請求項3から10の何れかに記載の方法。
【請求項12】
前記段階d)の培養が、既知組成の細胞外マトリクスを含む、請求項1及び請求項3から11の何れかに記載の方法。
【請求項13】
前記既知組成の細胞外マトリクスが、単一タイプの細胞外マトリクスペプチドを有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記既知組成の細胞外マトリクスがヒトフィブロネクチン断片である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記段階の1以上における培地が化学的に既知組成である、請求項1及び請求項3から14の何れかに記載の方法。
【請求項16】
a)体積が10mL以下である末梢血試料から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し;
b)iPS再プログラミング因子を発現する1以上の発現カセットを含む1以上の染色体外で複製するエピソーム性ベクターをその造血前駆細胞に導入し;
c)既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養においてその造血前駆細胞を培養し、それによってその末梢血試料からヒトiPS細胞を生成させる、
段階を含む、末梢血試料からヒトiPS細胞を作製するためのインビトロでの方法であって、前記1以上の発現カセットが、1以上のポリシストロニックなカセットを含み、
前記末梢血試料が、外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である、方法。
【請求項17】
前記段階b)の前に前記造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件下でその造血前駆細胞を培養することをさらに含む、請求項16に記載の方法。」
(以下、それぞれ「本件訂正発明1」、「本件訂正発明3」等という。)
第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立人1が申し立てた特許異議申立理由の概要
特許異議申立人1が訂正前請求項1~18に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の概要及び主たる証拠方法は、次のとおりである。(以下、訂正前請求項1~18に係る発明を「本件発明1」等という。また、特許異議申立理由については、異議申立人番号と理由番号により「異議1理由1」等といい、証拠方法についても同様に、異議申立人番号と証拠番号により「異議1甲1」等という。)
(1)異議1理由1(異議1甲1を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1~18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議1甲1に記載された発明及び異議1甲4~9に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(2)異議1理由2(異議1甲2を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1~18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議1甲2に記載された発明及び異議1甲4~9に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(3)異議1理由3(異議1甲3を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1~18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議1甲3に記載された発明及び異議1甲4~9に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(4)異議1理由4(実施可能要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記ア~ウの点で当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものということができないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項1及び17の「造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件」の点。
イ 請求項3の「体積約10mL以下の血液試料」及び請求項16の「体積が10mL以下である、造血前駆細胞を含む末梢血試料」の点。
ウ 請求項18の「フィーダー非依存性細胞外マトリクス」の点。
(5)異議1理由5(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記アの点で発明の詳細な説明に記載したものということができないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項16の「体積が10mL以下である、造血前駆細胞を含む末梢血試料」の点。
(6)異議1理由6(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記ア~ウの点で明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項1及び17の「造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件」の点。
イ 請求項13及び14の「前記既知組成の細胞外マトリクス」の点。
ウ 請求項18の「フィーダー非依存性細胞外マトリクス」の点。
(7)主たる証拠方法
異議1甲1:国際公開第2009/148057号
異議1甲2:Blood, vol.113, pp.5476-5479 (2009)及びその補充データ(http://www.bloodjournal.org/content/113/22/5476/tab-figures-only)
異議1甲3:Blood, vol.114, pp.5473-5480 (2009)
異議1甲4:国際公開第2009/149233号
異議1甲5:Science, vol.324, pp.797-801 (2009)
異議1甲6:Int.J.Dev.Biol.,vol.54, pp.877-886 (2010) Epub 2009 Oct.2
異議1甲7:国際公開第2008/118820号
異議1甲8:Nature Biotech., vol.28, pp.611-615 (2010) Epub 2010 May 30
異議1甲9:FEBS Letters, vol.441, pp.39-42 (1998)
2 特許異議申立人2が申し立てた特許異議申立理由の概要
特許異議申立人2が訂正前請求項1~18に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の概要及び主たる証拠方法は、次のとおりである。
(1)異議2理由1(異議2甲1を引用例とする新規性欠如)
本件発明1~18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議2甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(2)異議2理由2(異議2甲2を引用例とする新規性欠如)
本件発明1~12、15~18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議2甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(3)異議2理由3(異議2甲1を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1~18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議2甲1に記載された発明及び異議2甲2~5、13、14に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(4)異議2理由4(異議2甲6を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1~18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議2甲6に記載された発明及び異議2甲7~14に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(5)異議2理由5(実施可能要件違反及びサポート要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記ア~ウの点で当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものということができず、特許請求の範囲の記載が下記の点で発明の詳細な説明に記載したものということができないから、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項1~18の「フィーダー非依存性培養」の点。
イ 請求項1~18の「造血前駆細胞」の点。
ウ 請求項1~18の「造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件」の点。
(6)主たる証拠方法
異議2甲1:国際公開第2010/141801号
異議2甲2:国際公開第2011/032166号
異議2甲3:PLoS ONE, vol.6, pp.e17557 (2011)
異議2甲4:国際公開第2011/016588号
異議2甲5:Cell Res., vol.21, pp.518-529 (2011)
異議2甲6:国際公開第2009/148057号
異議2甲7:国際公開第2010/048567号
異議2甲8:Science, vol.324, pp.797-801 (2009)
異議2甲9:米国特許公開第2009/203545号公報
異議2甲10:Stem Cells Dev., vol.20, pp.159-168 (2011)
異議2甲11:国際公開第2010/013845号
異議2甲12:Blood, vol.113, pp.5476-5479 (2009)
異議2甲13:生化学,第81巻第5号,第349頁(2009)
異議2甲14:特許第3351471号公報
異議2甲15:Stem Cells Dev., vol.19, pp.229-238 (2010)
3 特許異議申立人3が申し立てた特許異議申立理由の概要
特許異議申立人3が訂正前請求項1~18に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の概要及び主たる証拠方法は、次のとおりである。
(1)異議3理由1(異議3甲1を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1~18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議3甲1に記載された発明及び異議3甲2又は4に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(2)異議3理由2(異議3甲28に基づく拡大先願)
本件発明1~18は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特願2012-523493号(公表公報は、異議3甲28)の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(3)異議3理由3(実施可能要件違反及びサポート要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記ア及びイの点で当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものということができず、特許請求の範囲の記載が下記の点で発明の詳細な説明に記載したものということができないから、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項1~18の「造血前駆細胞」の点。
イ 請求項1~18の「フィーダー非依存性培養」の点。
(4)異議3理由4(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記アの点で明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項13及び14の「前記既知組成の細胞外マトリクス」の点。
(5)主たる証拠方法
異議3甲1:国際公開第2009/148057号
異議3甲2:Science, vol.324, pp.797-801 (2009)及びSupporting Online Material
異議3甲4:国際公開第2010/048567号
異議3甲28:特表2013-501505号公報
4 特許異議申立人4が申し立てた特許異議申立理由の概要
特許異議申立人4が訂正前請求項1~18に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の概要及び主たる証拠方法は、次のとおりである。
(1)異議4理由1(異議4甲1を引用例とする新規性欠如)
本件発明1、6、9、12~15、18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議4甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(2)異議4理由2(異議4甲2を引用例とする新規性欠如)
本件発明1~4、6、9、10、12、14、16~18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議4甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(3)異議4理由3(異議4甲1を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1~18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議4甲1に記載された発明及び異議4甲2~6に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(4)異議4理由4(異議4甲2を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1~18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議4甲2に記載された発明及び異議4甲1、3~6に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(5)主たる証拠方法
異議4甲1:国際公開第2011/056971号
異議4甲2:国際公開第2010/141801号
異議4甲3:国際公開第2011/016588号
異議4甲4:国際公開第2011/032166号
異議4甲5:Cell Res. Vol.21, pp.518-529 (2011)
異議4甲6:PLoS ONE, vol.6, pp.e17557 (2011)
5 特許異議申立人5が申し立てた特許異議申立理由の概要
特許異議申立人5が訂正前請求項1~18に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の概要及び主たる証拠方法は、次のとおりである。
(1)異議5理由1(異議5甲1を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1~18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議5甲1に記載された発明及び異議5甲4、5、8に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(2)異議5理由2(異議5甲2を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1~18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議5甲2に記載された発明及び異議5甲4、5、8に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(3)異議5理由3(異議5甲3を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1~18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議5甲3に記載された発明及び異議5甲4、5、8に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(4)異議5理由4(実施可能要件違反及びサポート要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記ア~エの点で当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものということができず、特許請求の範囲の記載が下記の点で発明の詳細な説明に記載したものということができないから、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項1~18の「フィーダー非依存性培養」の点。
イ 請求項1~18の「造血前駆細胞」の点。
ウ 請求項1~18の投入細胞数の点。
エ 請求項1~18の「再プログラミング因子」の点。
(5)異議5理由5(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項1~15、18の「末梢血細胞」の点。
イ 請求項1~18の「造血前駆細胞」の点。
ウ 請求項10の「第3、4、5又は6日前後」の点。
(6)主たる証拠方法
異議5甲1:国際公開第2009/148057号
異議5甲2:Blood, vol.113, pp.5476-5479 (2009)
異議5甲3:Cell Stem Cell, vol.5, pp.353-357 (2009)
異議5甲4:Science, vol.324, pp.797-801 (2009)
異議5甲5:Int.J.Dev.Biol., vol.54, pp.877-886 (2010)
異議5甲8:Cell Stem Cell, vol.5, pp.434-441 (2009)
6 特許異議申立人6が申し立てた特許異議申立理由の概要
特許異議申立人6が訂正前請求項1~18に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の概要及び主たる証拠方法は、次のとおりである。
(1)異議6理由1(異議6甲1を引用例とする新規性欠如)
本件発明1~10、12~18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議6甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(2)異議6理由2(異議6甲1を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1~18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である異議6甲1に記載された発明及び異議6甲2~7、13~15に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(3)異議6理由3(異議6甲1に基づく拡大先願)
本件発明1~10、12~18は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特願2012-523493号(公表公報は、異議6甲1)の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(4)異議6理由4(実施可能要件違反及びサポート要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記ア~ウの点で当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものということができず、特許請求の範囲の記載が下記の点で発明の詳細な説明に記載したものということができないから、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項1~18の「造血前駆細胞」の点。
イ 請求項1~18の「再プログラミング因子」の点。
ウ 請求項1~18の「フィーダー非依存性培養」の点。
(5)主たる証拠方法
異議6甲1:特表2013-501505号公報
異議6甲2:国際公開第1997/33592号
異議6甲3:日本造血細胞移植学会、日本輸血・細胞治療学会「造血細胞移植 同種末梢血幹細胞移植のための健常人ドナーからの末梢血幹細胞動員・採取に関するガイドライン(改訂第4版)」(2010年6月30日)
異議6甲4:Cell Stem Cell, vol.7, pp.11-14 (2010)
異議6甲5:日産婦誌,第53巻第9号,N305-N309(2001年9月)
異議6甲6:Blood, vol.91, pp.3263-3272 (1998)
異議6甲7:タカラバイオ株式会社「ヒトiPS細胞作製用試薬を新発売」(平成21年3月3日)
異議6甲13:国際公開第2009/148057号
異議6甲14:Blood, vol.75, pp.1941-1946 (1990)
異議6甲15:STEMCELL TECHNOLOGIES "Frequencies of Cell Types in Human Peripheral Blood"
7 当審が平成29年10月31日付け取消理由通知で通知した取消理由の概要
当審が、訂正前請求項1~18に係る特許に対して平成29年10月31日付け取消理由通知で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1(引用文献1を主引用例とする進歩性欠如/異議1理由1、異議2理由4、異議3理由1、異議5理由1に対応)
本件発明1~18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明、引用文献4~7に記載された発明及び技術常識に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(2)取消理由2(引用文献2を主引用例とする進歩性欠如/異議1理由2、異議5理由2に対応)
本件発明1~18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である引用文献2に記載された発明、引用文献4~7に記載された発明及び技術常識に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(3)取消理由3(引用文献3を主引用例とする進歩性欠如/異議1理由3に対応)
本件発明1~18は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である引用文献3に記載された発明、引用文献4~7に記載された発明及び技術常識に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
(4)取消理由4(実施可能要件違反及びサポート要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記ア及びイの点で当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものということができず、特許請求の範囲の記載が下記の点で発明の詳細な説明に記載したものということができないから、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項1~18の「造血前駆細胞」の点。(異議2理由5イ、異議3理由3ア、異議5理由4イ、異議6理由4アに対応)
イ 請求項1~18の「フィーダー非依存性培養」の点。(異議2理由5ア、異議3理由3イ、異議5理由4ア、異議6理由4ウに対応)
(5)取消理由5(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記ア~ウの点で明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
ア 請求項1~15、18の「末梢血細胞」及び請求項16、17の「末梢血試料」の点。(異議5理由5アに対応)
イ 請求項13及び14の「前記既知組成の細胞外マトリクス」の点。(異議1理由6イ、異議3理由4アに対応)
ウ 請求項18の「フィーダー非依存性細胞外マトリクス」の点。(異議1理由6ウに対応)
(6)引用文献
引用文献1:国際公開第2009/148057号(異議1甲1、異議2甲6、異議3甲1、異議5甲1)
引用文献2:Blood, vol.113, pp.5476-5479 (2009)及びその補充データ(http://www.bloodjournal.org/content/113/22/5476/tab-figures-only)(異議1甲2、異議5甲2)
引用文献3:Blood, vol.114, pp.5473-5480 (2009)(異議1甲3)
引用文献4:国際公開第2009/149233号(異議1甲4、異議3甲6のファミリー)
引用文献5:国際公開第2010/048567号(異議2甲7)
引用文献6:Science, vol.324, pp.797-801 (2009)(異議1甲5、異議2甲8、異議3甲2、異議5甲4、異議6甲16)
引用文献7:Int.J.Dev.Biol., vol.54, pp.877-886 (2010)(ePub.2009.10.2)(異議1甲6、異議5甲5)
8 当審が平成30年10月11日付け取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要
当審が、平成30年6月27日付け手続補正書により補正された平成30年3月30日付け訂正請求書により訂正された請求項1~17に係る特許に対して平成30年10月11日付け取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。なお、請求項18は、上記訂正請求により削除された。
(1) 取消理由1(引用文献1を主引用例とする進歩性欠如)
上記7(1)と同趣旨である。
(2)取消理由2(引用文献2を主引用例とする進歩性欠如)
上記7(2)と同趣旨である。
(3)取消理由3(引用文献3を主引用例とする進歩性欠如)
上記7(3)と同趣旨である。
(4)取消理由4(実施可能要件違反及びサポート要件違反)
上記7(4)イと同趣旨である。
第5 当審の判断
1 引用文献の記載事項
(1)引用文献1(国際公開第2009/148057号)
本件第1優先日前に頒布された刊行物である引用文献1は、「血球細胞の初期化法」の発明を開示する国際公開公報であって、次の事項が記載されている。
ア 請求の範囲
「[請求項1] 体細胞から多能性幹細胞を製造する方法であって、
(a)体細胞を、
(i)IL-6シグナル伝達因子刺激因子もしくはこれと同等の活性を示す物質、
(ii)SCFもしくはこれと同等の活性を示す物質、
(iii)TPOもしくはこれと同等の活性を示す物質、
(iv)IL-3もしくはこれと同等の活性を示す物質、および
(v)Flt-3リガンドもしくはこれと同等の活性を示す物質 から選択される少なくとも2種のサイトカイン類を含む細胞培養培地中で培養する工程、ならびに
(b)体細胞を脱分化させる工程
を含んでなり、工程(a)の後に工程(b)が行われるか、または工程(a)と工程(b)が同時に行われるか、または工程(a)と工程(b)が同時に行われた後に工程(a)が行われる、方法。」
「[請求項8] 工程(b)における体細胞の脱分化が、該体細胞の核初期化処理によって行われる、請求項1に記載の方法。」
「[請求項9] 体細胞の核初期化処理が、Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子、およびMycファミリー遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子を、発現可能な形で体細胞に導入することを含む、請求項8に記載の方法。」
イ 発明の分野
「[0002] 本発明は、分化した体細胞、特に血球系細胞を初期化または脱分化することにより多能性幹細胞を製造するための方法およびキットに関する。」
ウ 発明の概要
「[0010] 本発明者らは、IL-6シグナル伝達因子(IL6ST)刺激因子とサイトカインカクテルとの存在下での培養と、細胞の脱分化とを組み合わせることにより、体細胞から多能性幹細胞を効率的に樹立できることを見出した。」
エ 発明の具体的説明
「[0047] 培養に用いるフィーダー細胞としては、マウス胚性線維芽細胞(MEF)、SNL細胞(A.P.McMahon and A.Bradley, Cell, 62, pp-1073-1085, 1990)、STO細胞などを用いることができる。フィーダー細胞の増殖を抑える方法としては、マイトマイシンC処理や放射線照射などの方法を用いることができる。また、フィーダー細胞に替えて、BDマトリゲル(BDバイオサイエンス社)などのマトリゲル、あるいはコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンなどの細胞外マトリックス蛋白質、あるいはゼラチンなどにより培養基材をコーティングする方法を用いることもできる。」
「[0055] さらに、核初期化因子としては、Lin28遺伝子、Nanog遺伝子、UTF1遺伝子、Esrr遺伝子ファミリーを使用することもできる。」
「[0062] 本発明の好ましい実施態様によれば、前記体細胞は血球細胞とされる。・・・さらに、本明細書において、血液(特に末梢血)由来の単核球細胞を用いることにより、同様に多能性幹細胞を樹立できることが見出されている。よって、本発明の好ましい実施態様によれば、前記血球細胞は血液(特に末梢血)由来単核球細胞とされる。」
「[0064] 本発明の他の好ましい実施態様によれば、前記体細胞(特に血球細胞)は、IL6STを発現する細胞とされる。具体的には、IL6STはいずれの血球細胞においても発現しているが、中でも発現の高いT細胞、単球(Monocyte)、DC細胞、CD34陽性細胞などを用いることが考えられる。」
「[0073] 本発明に従って製造された多能性幹細胞は、各種分化細胞に誘導することが可能であるため、細胞再生医療に利用することができる。」
オ 実施例
「[0076] 例1:ヒト骨髄由来単核球細胞からの多能性細胞の誘導(1)
A.ヒト骨髄由来単核球細胞の培養
凍結保存されたヒト骨髄由来単核球細胞(hBMMNCs)2.5×106細胞(Allcells社)を100mmペトリディッシュ2枚に播種し、37℃、5% CO2 下、10%FBS入りDMEM培地で培養を開始した。一方のディッシュには、ヒトSCF(100ng/ml)、ヒトTPO(100ng/ml)、およびヒトIL-3(100ng/ml)を添加し、他方のディッシュにはSCF、TPOおよびIL-3に加えてFP6(20ng/ml)を添加した。ここで、SCF、TPOおよびIL-3からなるサイトカインカクテルを「ST3」と呼び、ST3にFP6を加えたカクテルを「ST3FP6」と呼ぶ(以下同様)。培養開始24時間後に、それぞれのディッシュにそれぞれのサイトカインカクテルを同濃度で再び添加した。培養開始48時間後にそれぞれの細胞を回収し、10%FBS入りDMEM培地500μlで懸濁した。ST3存在下で培養した細胞懸濁液にはST3を各300ng/mlの濃度で添加し、ST3FP6存在下で培養した細胞懸濁液には、ST3(各300ng/ml)に加えてFP6を60ng/mlの濃度で添加した。調製したhBMMNCsを次のウィルス感染実験に用いた。
[0077] B.核初期化遺伝子を含む組換えレトロウィルスベクターの作製
・・・用いた核初期化遺伝子は、ヒトOct3/4、ヒトSox2、ヒトKlf4、およびヒトc-mycの4種類であった。核初期化遺伝子発現レトロウィルスベクター:pMXshOct3/4、pMXshSox2、pMXshKlf4、およびpMXshc-mycの構築は、山中らの方法に従って行った(K. Takahashi, S. Yamanaka, Cell, 131, pp.861-872, 2007)。・・・
[0078] C.ヒト骨髄由来単核球細胞のウィルス感染処理
[0079] ・・・ウィルス感染開始から約48時間後にトリプシンEDTA液(GIBCO社)で各ウェルの細胞を回収し、予め5×105個/ディッシュのマウス胚性線維芽細胞をフィーダー細胞としたゼラチンコート100mmディッシュに10%FBS入りDMEM培地を用いて細胞を播き直した。それぞれのディッシュにはサイトカインを再び添加した。さらに、約24時間後および約72時間後に、サイトカイン入りの10%FBS入りDMEM培地で培地交換を実施した。その後、ウィルス感染開始から6日後からは、ST3またはST3FP6を含まないヒトES細胞培養用の培地に交換した。用いた培地の組成は、DMEM-F12培地(SIGMA社)500ml、非必須アミノ酸液(SIGMA社)5ml、200mM L-Glutamine(SIGMA社)6.25ml、KNOCKOUTTM Serum Replacement(KSR)(Invitorgen社)125ml、2-メルカプトエタノール(SIGMA社)5μl、5N NaOH 638μl、Human bFGF(UBI社)終濃度5ng/mlであった。
[0080] その後、毎日培地交換を実施した。ウィルス感染開始から10日後には、両方のディッシュでいくつかのコロニーを確認した(図1B)。・・・以上より、ST3FP6存在下で培養したhBMMNCsを用いた場合、多能性幹細胞の出現時期、細胞数において、ST3存在下で培養したhBMMNCsを用いた場合を顕著に上回っていることが明らかとなった。」
「[0119] 例11:ヒト末梢血由来単核球細胞からの多能性細胞の誘導
凍結保存されたヒト末梢血由来単核球細胞(hPBMNCs)(Allcells社)に対して、例1および例2と同様にウイルス感染前の前培養を実施した。その際添加したサイトカインは表5に記載し、サイトカインの組合せおよび各濃度は例1のST3、ST3FP、例4のGM培養系、TB培養系あるいはGM培養系からFP6を除いたGM-FP培養系を用いた。DNAメチル化阻害剤である5-Azacytidine 500nM(5AzaC)を添加した場合も表5に記載した。核初期化遺伝子発現レトロウイルスの調製および感染方法は例1、例2と同様に実施した。但し、感染前培養時のhPBMNCsの細胞数および感染時の細胞数については表5に記載の通りとした。ウイルス感染後の培養は、例1、例2と同様に実施し、いずれの誘導もウイルス感染開始6日後からはいずれのサイトカインも含まないヒトES細胞培養用の培地に交換し、以後毎日培地交換を実施した。ウイルス感染開始から20日後頃までに出現、ピックアップしたES細胞様コロニー数を表5に示す。ウイルス感染効率は例3と同様に評価し、感染2日後のウイルス感染細胞の割合を表5に示した。解析の結果、ST3FP存在下での培養を組み合わせることで、高い頻度かつ短期間に多能性幹細胞が誘導できることが明らかとなった。ただし、ST3FPを含む場合でもTB培養系のような組合せでは逆に多能性幹細胞が誘導されにくくなることも判明した。
[0120] 本実験の結果取得した多能性幹細胞クローンあるいはサブクローンについて、幹細胞特異的遺伝子のmRNAの発現を例6と同様にRT-PCR法を用いて解析した(図17)。但し、例6と異なるPCR用プライマーは桜田らの報告(H. Masaki et al., Stem Cell Res., 1, pp.105-115, 2008)を参照し、各プライマーの塩基配列を表6に示す。各PCR反応は各遺伝子についてフォワード(Fw)プライマーとリバース(Rv)プライマーとの組合せを用いて実施した。また、アニーリング温度については、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-myc、Nanog、hTERTについては65℃、TDGF、Dnmt3b、FoxD3、CYP26A1については60℃でPCR反応を実施した。解析の結果、多くのクローン、サブクローンで幹細胞マーカー遺伝子が発現していることを確認した。」
(2)引用文献2(Blood, vol.113, pp.5476-5479 (2009)及びその補充データ(http://www.bloodjournal.org/content/113/22/5476/tab-figures-only))
本件第1優先日前に頒布された刊行物である引用文献2は、「ヒト血液からの人工多能性幹細胞の樹立」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。(なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。)
ア 要約
「ここに、私たちは、OCT4/SOX2/KLF4/MYCのレトロウイルスによる導入法を用いて、動員されたヒト末梢血のCD34発現細胞から人工多能性幹細胞を作製したことを記載する。」(第5476頁要約左欄第5行~中欄第1行)
イ 方法
「簡潔にいえば、Allcells(エメリービル、CA)から入手した動員された末梢血細胞は、26才の男性ドナーから得られたもので、CD34発現細胞(mPB014F)が単離された。」(第5476頁右欄第1~6行)
ウ 結果と考察
「形質導入の3日後、細胞を回収し、フィーダーMEF細胞上に播種した(図1A)。10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子を補充したヒトES細胞培地を5日目に添加した(図1A)。私たちは、形質導入の約14日後に初めてコロニーを検出した。ほとんどがヒトES細胞特性を有さない顆粒化細胞クラスターに発達したが(図1C)、一方で、他の細胞はヒトES細胞に特徴的な明瞭な丸いエッジを有する、明らかに平坦でコンパクトな形態を示した(図1D)。3回の独立した実験で、常に、5×104個のCD34発現細胞から約5-10個のヒトES細胞様コロニーが観察された。レトロウイルス導入遺伝子はGfpマーカーを有しているため、導入細胞は当初GFP陽性であったが、以前記載されたとおり、私たちは再プログラムに成功したコロニーにおいてはGFPが消えるのを観察した(図S2)。私たちは8つの独立したGFP陰性コロニーを選択して増殖し、CD34iPS1およびCD34iPS2という2系統について十分に特徴付けをした。」(第5477頁左欄第1行~右欄第4行)
「動員した末梢血は、造血移植、免疫治療及び遺伝子治療のための細胞の主要な供給源である。私たちの研究は、iPS細胞作製における、動員された末梢血の新たな応用について述べている。」(第5478頁右欄第17~20行)
エ 補充データ
「動員された末梢血CD34発現細胞(AllCells、mPB014F)は、15%ウシ胎児血清(StemCell Technologies)を含み、ヒトSCF(100ng/ml)、ヒトFlt3L(100ng/ml)およびインターロイキンー3(20ng/ml)(Peprotech)を添加したIMDM(Invitrogen)中で維持した。4日間の培養で増殖されたCD34発現細胞がレトロウイルス導入に用いられた。」(補充データの「細胞培養」の第1~4行)
「ヒトOCT4、SOX2、KLF4およびMYCレトロウイルスベクターは、以前、線維芽細胞の再プログラミングに用いられたものである。・・・フィブロネクチン断片CH-296(レトロネクチン:タカラ酒造、大津、日本)で被覆した6―マルチウェルプレートにおいてCD34発現細胞への導入が行われた。ウイルスは5のMOI(感染多重度)で添加され、12時間後に感染が繰り返された。・・・感染の3日後、細胞は、予めマウス胚性線維芽細胞(MEFs)を播種したプレートに分割された。感染の5日後に培地をヒトES培地に交換した。」(補充データの「レトロウイルス産生およびヒトiPS細胞導入」の第1~12行)
(3)引用文献3(Blood, vol.114, pp.5473-5480 (2009))
本件第1優先日前に頒布された刊行物である引用文献3は、「健常ドナー及び後天性血液疾患患者の血液細胞由来のヒト人工多能性幹細胞」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。(なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。)
ア 要約
「体細胞に由来するヒト誘導多能性幹(iPS)細胞は、患者に特異的な細胞療法や遺伝性及び後天性の疾患のための研究モデルを開発する見込みがある。・・・今回、私たちは、出生後ヒト血液細胞からのiPS細胞作製及びこれらの多能性細胞の疾患モデルとしての可能性を報告する。冷凍された臍帯血又は健常ドナーの成人CD34発現細胞から複数のiPS細胞株が作製され、造血系へと再び分化させることができた。血液細胞にJAK2-V617F体細胞変異を有する骨髄増殖性疾患(MPDs)の患者2人の末梢血CD34発現細胞からも複数のiPS細胞株が作製された。変異を有するMPDに由来するiPS細胞は、表現型、核型、及び多能性の点で正常に見えた。造血系へ分化させた後、MPD-iPS細胞に由来する造血系前駆細胞(CD34+CD45+)は、そのiPS細胞が由来する対応患者の一次CD34+細胞の特徴を再現するように、赤血球形成及び特定の遺伝子発現の増加を示した。これらのiPS細胞は、MPDの病因を研究するための再生可能な細胞供給源と将来の造血モデルを提供する。」(第5473頁要約)
イ 方法
「山中博士の研究室によって構築された(マウス)再プログラミング因子をコードする4つの古典的レトロウイルスベクターpMXs-Oct4、pMXs-Sox2、pMXs-Klf4及びpMXs-c-Mycをアドジーン社から入手した。・・・CD34発現細胞は、解凍後、サイトカイン類SCF100ng/ml、Flt-3リガンド50-100ng/ml、及びTPO20ng/mlとともに2~4日間培養した後、レトロウイルス導入を行った。刺激したCD34発現細胞(2×105個)を4ng/mlポリブレンを添加したレトロウイルス上清と混合し、同じ培地及び上記3つのサイトカインを用いて培養した。導入の2-3日後および培養後、導入5日後の導入細胞を4×105細胞/ウェル密度で6ウェルプレートに播種した。それらは、予め播種しておいた胚性線維芽フィーダー細胞上で我々が以前記述したのと同様のプログラミングのための培養に供した。」(第5474頁左欄第22~37行)
ウ 結果
「臍帯血及び成人CD34発現細胞の再プログラミング
出生後のヒト血液細胞が通常の4つの再プログラミング因子で再プログラム化できるかどうかを試験するために、培養における広範囲な増殖能を示す臍帯血および成人骨髄から精製したCD34発現細胞を用いた。解凍後、CD34発現細胞を2~4日間、培養および活性化して細胞増殖を刺激した後、4つの標準的なレトロウイルスベクターで遺伝子導入した、臍帯血試料では遺伝子導入から約16日後に、成人骨髄CD34発現細胞では約21日後に、ヒトES/iPS細胞様コロニーが現れた。1週間後、全培養物を未分化ヒトES細胞およびiPS細胞の細胞表面エピトープを認識するTRA-1-60抗体で生きたまま染色した(図1A)。また、TRA-1-60染色がヒト血液細胞由来のiPS候補のコロニーを同定するために便利で信頼性のある方法であることがわかった(図1B)。増殖後、選択したTRA-1-60陽性コロニーは、特徴的なヒトES/iPS細胞形態およびTRA-1-60以外の多能性マーカーの発現を示した。」(第5475頁左欄第3~19行)
「MPD患者のPB細胞から作製したヒトiPS細胞株
次に、2人の骨髄増殖性疾患患者の末梢血(G-CSF動員なし)から単離したCD34陽性細胞を用いた。・・・健常ヒトCD34陽性細胞に用いたのと同じ再プログラミングプロトコールを適用して、2人の患者のそれぞれから複数のiPS細胞コロニーを誘導した。」(第5475頁右欄第12行~第5476頁右欄第1行)
エ 考察
「現在のiPS技術についての大きな懸念の一つは、レトロウイルスの使用及びゲノムへの組み込みである。私たちは、永続的なゲノム変化を伴わないヒト繊維芽細胞の再プログラミングを達成する改良方法が、おそらくヒト血液細胞にも適用できると予測する。これらの方法により、後天的または遺伝的変異を伴う様々な血液疾患の研究のために、血液細胞から適切な患者又は疾患特異的なiPS細胞を誘導することが可能になるはずである。」(第54789頁左欄第29~33行)
(4)引用文献7(Int.J.Dev.Biol., vol.54, pp.877-886 (2010)(ePub.2009.10.2))
本件第1優先日前に頒布された刊行物である引用文献7は、「フィーダー及び血清非依存性のヒト人工多能性幹細胞の作製及び増殖」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。(なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。)
ア 要約
「ヒト人工多能性幹細胞(hiPSCs)は、治療に非常に影響する分化細胞の原料として非常に有望であるが、これが現実のものとなり得るまでには多くの障害を乗り越える必要がある。その障害の一つは、hiPSCsを作製し、増殖するための頑強なフィーダー及び血清非依存性のhiPSCsの培養系が未だ得られていないことである。今回、私たちは、初めて、血清及びフィーダー非依存性条件下でKlf4、Oct4、Sox2及びc-Mycの4因子を導入することによりヒト皮膚繊維芽細胞からhiPSCsを作製する、新しい作製および維持培養技術を記述する。私たちは、マトリゲルの非存在下または存在下で、血清代替物、馴化培地(CM)、又は高濃度の塩基性線維芽細胞増殖因子を添加した無フィーダー培地(FEM)を用いた。私たちのマトリゲル存在下のFEM系は、フィーダー細胞上の従来法よりも少なくとも10倍高い頻度でアルカリホスファターゼ陽性コロニーの効率を増大させた。作製したhiPSCsは、形態、継代、表面及び多能性マーカー、正常な核型、遺伝子発現、超微細構造、及びin vitroでの分化を含む多くの点でES細胞と同様である。」(第877頁要約)
イ 序論
「しかし、iPS細胞由来の細胞又は組織の将来の応用のためには、ヒトiPS細胞のいくつかの生物学的側面を評価しなくてはならない。例えば、未分化状態でヒトiPS細胞をルーティンで大規模に増殖させる条件を特定しなくてはならず、ヒト移植に適した無フィーダー培養を得る必要があり、とりわけ、そのようなそのような細胞株の長期安定性を決定する必要がある。」(第878頁左欄第10~17行)
「フィーダー細胞無しでヒトiPS細胞を誘導したとの報告は未だなく、それは依然として動物製品の使用を避けるための臨床的に意義のある目標である。」(第878頁左欄第24~27行)
ウ 結果
「血清及びフィーダー非依存性条件下でのhiPSCsの作製
・・・CMを用いると、フィーダー細胞存在下(FC)の場合と比較して、5×104個の線維芽細胞から、より多くのALP活性を有するhESC様コロニーを観察した(図1)。しかし、ALP陽性コロニーの数は、CM又はFEMを用いるとより増加した。CMとFEMの両方において、ディッシュをマトリゲルで被覆するとALP陽性コロニーの数が有意に増加した(FCに対して10倍超、被覆していないディッシュに対して2倍。少なくともP<0.01。図1)」(第878頁左欄第37~53行)
エ 考察
「ESC条件は多くの細胞タイプからiPSCsを得るのに十分であるので、ESC作製を促進するのに用いられた条件はiPSCs作製をも促進するであろうと推測される。例えば、牛胎児血清の替わりにノックアウト血清代替物を用いると、マウスESC作製が大きく促進され(Chengら,2004)、マウス線維芽細胞の再プログラミングが改善されること(Blellochら,2007)が報告されている。・・・重要なことに、血清のような未知組成の培地成分を使用するとバッチごとに変動し、再現性のある効果を導き出せないおそれがある。」(第882頁右欄第3~15行)
「マトリゲルは非ヒト由来成分を含むので、臨床目的でこれらの細胞の培養に使用する可能性が制限される。マトリゲルを代替物に置換するために、いくつかのグループは、ヒトES細胞培養におけるフィーダー細胞の代替物としてラミニン(Beattieら、2005;・・・)、フィブロネクチン(Amitら,2004)及びヒト血清被覆(Stojkovicら,2005)を使用した。これらのより規定された被覆マトリックスも、バッチ毎の変動の課題を有しており、それにより、多能性幹細胞の長期間培養のためにこれらの材料を使用する試みの失敗が部分的に説明される。より最近では、化学的に規定されたゼノフリーな培地やそれとの組み合わせを用いて、Harbら(Harbら,2008)は、単一の合成マトリックス(ポリ-D-リジン)、牛血清アルブミンの使用以外は全動物非含有培地と同等である規定培地mTeSR(Luら,2006)、及びROCK阻害剤の組み合わせが、動物由来マトリックスに依存しないhESCの自己再生を完全に保証したことを報告した。マトリゲル、ノックアウト血清代替物、及びGMP品質グレードのhiPSCsの動物由来物の課題の最適な解決策は、既知組成の細胞外マトリックス又は精製されたヒトマトリックス成分と、精製されたヒトまたはヒト組み換え成分を含む規定された血清代替物とを使用することであろう。」(第882頁右欄第19行~第883頁左欄第19行)
オ 材料と方法
「成人HDFsからのhiPSCsの作製
・・・6ウェルプレートの1ウェルあたり約80×103個の線維芽細胞を48時間にわたって、2回形質導入した(毎日更新)。それらをFP培地中で3日間培養し、次いで5日目に形質導入した細胞をマトリゲル(Sigma,E1270,1:30)で被覆した又は被覆していないディッシュ上に(60mmあたり5×104細胞)、フィーダー細胞の非存在下で、トリプシン処理により継代し、FP培地中で培養した。・・・6日目に、FP培地は、(i)MEFで馴化した、100ng/ml塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF,Royan Institute)を補充したhESC支持培地(CM)、(ii)無血清及び無フィーダー層培養培地(FEM)、すなわち100ng/mlbFGFを補充した単なるhESC培地で置換した。培地は一日おきに交換した。
hESC培地は、20%ノックアウト血清代替物(KOSR,Gibco,10828-028)、2mML-グルタミン(Gibco,25030-024)、0.1mMβ-メルカプトエタノール(Sigma;M7522)、1%非必須アミノ酸(Bibco,11140-035)、100ユニット/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、及びインスリン-トランスフェリン-セレン(ITS,Gibco,41400-045)を補充したDMEM/F12培地(Gibco,21331-020)である。馴化培地は、hESC培地をコンフルエントなMEFフィーダー層(マイトマイシンC(Sigma,M0503)により不活性化したNMRI株に由来する)で一晩インキュベートすることで調整した。」(第883頁右欄第5~40行)
2 当審が通知した取消理由についての判断
(1)取消理由1(引用文献1を主引用例とする進歩性欠如)についての判断
ア 本件訂正発明1についての判断
(ア)引用発明1の認定
上記1(1)、特にオの例11によれば、引用文献1には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「A)ヒト末梢血由来単核球細胞を提供し、
B)その単核球細胞を、SCF、TPO及びIL-3を含む培地を用いて培養し、
C)核初期化因子であるヒトOct3/4、Sox2、Klf4及びc-mycをそれぞれ発現するレトロウイルスベクターの混合物をその単核球細胞に導入し、
D)フィーダー細胞上、かつKNOCKOUTTM Serum Replacement(KSR)(Invitorgen社)及びHuman bFGF(UBI社)を含む培地中でその単核球細胞を培養し、それによりその単核球細胞からヒトiPS細胞を作製させ、
E)ES細胞様コロニーをピックアップする、
段階を含む、単核球細胞からヒトiPS細胞を作製するためのインビトロの方法。」 (以下、「引用発明1」という。)
(イ)対比
本件訂正発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の段階B)で用いる「SCF、TPO及びIL-3」は、本件訂正発明1においてCD34発現細胞である造血前駆細胞の増殖を促進するための培養で用いるサイトカイン類と同様であること(本件訂正後の本件特許明細書(以下、単に「本件特許明細書」という。)の請求項4、実施例1)に照らすと、引用発明1の段階B)は本件訂正発明1の段階b)に相当する。また、引用発明1の「ヒト末梢血由来単核球細胞」、「核初期化因子」、「KNOCKOUTTM Serum Replacement(KSR)(Invitorgen社)」及び「Human bFGF(UBI社)」は、それぞれ本件訂正発明1の「ヒト末梢血単核細胞」、「iPS再プログラミング因子」、「血清代替物」及び「FGF」に相当するから、本件訂正発明1と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおりのものとなる。
一致点: ヒト末梢血単核細胞を、それに含まれる造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件下で培養し、iPS再プログラミング因子を発現するベクターをその培養後の細胞に導入し、血清代替物及びFGFを含む培地中における培養においてその細胞を培養し、それによりヒトiPS細胞を作製させ、iPS細胞について選択する、段階を含む、ヒト末梢血単核細胞からヒトiPS細胞を作製するためのインビトロの方法。
相違点1: iPS細胞を作製する出発材料が、本件訂正発明1では、「a)ヒト末梢血単核細胞の細胞集団から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し」たものであって、「前記ヒト末梢血単核細胞の細胞集団が、外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である」ものであるのに対して、引用発明1では、「ヒト末梢血由来単核球細胞」である点。
相違点2: iPS再プログラミング因子を発現するベクターが、本件訂正発明1では、「1以上のポリシストロニックな発現カセットを含む」、「1以上の染色体外で複製するエピソーム性ベクター」であるのに対して、引用発明1では、「再プログラミング因子であるヒトOct3/4、Sox2、Klf4及びc-mycをそれぞれ発現するレトロウイルスベクターの混合物」である点。
相違点3: iPS再プログラミング因子を発現するベクターを導入した細胞からiPS細胞を作製するための培養が、本件訂正発明1では、「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養」であるのに対して、引用発明1では「フィーダー細胞上、かつKNOCKOUTTM Serum Replacement(KSR)(Invitorgen社)及びHuman bFGF(UBI社)を含む培地中」における培養である点。
(ウ)判断
a 相違点1について
引用文献1は、血球系細胞のような分化した体細胞を初期化するにあたって、初期化を、IL-6シグナル伝達因子(IL6ST)刺激因子とサイトカインカクテルとの存在下での培養と組み合わせることで効率を向上させることができるという知見に基づく発明を開示するものであって(上記1(1)ア~ウ)、本件訂正発明1に最も近い実施例であって引用発明の認定の基礎とした例11は、出発細胞として「ヒト末梢血由来単核球細胞」を用いたものである(上記1(1)オ)。末梢血単核球細胞は、好ましい出発細胞として記載されているものであり(上記1(1)エ)、これからあえてCD34発現細胞を濃縮して用いることの動機付けは見いだせない。
一方、引用文献1には、好ましい出発材料であるIL6ST高発現細胞としてCD34陽性細胞も一応挙げられてはいるものの、T細胞、単球及びDC細胞といったその他のヒト末梢血単核球細胞成分と同列に記載されているにすぎず(上記1(1)エ)、これらの中からとりわけCD34陽性細胞に着目する理由はない。仮に、この記載に基づいて出発材料としてCD34陽性細胞を用いることにしたとしても、末梢血中にCD34陽性細胞はわずか0.5%以下しか含まれておらず、それを得るためには顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で動員して増加させるのが通常であるから(例えば、「南山堂医学大辞典 第19版」(2006年南山堂発行)第1059頁、第2391頁、Clin.Immunol.Immunopathol., vol.70, pp.10-18 (1994)、J.Translational Medicine, vol.5, 37 (2007))、本件訂正発明1のようにあえて「前記ヒト末梢血単核細胞の細胞集団が、外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である」ものとすることまで、当業者が容易に導き出すことができたとは認められない。
以上のとおりであるから、相違点1に係る本件訂正発明1の構成は、当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。
b 相違点3について
引用文献1には、iPS再プログラミング因子を発現するベクターを導入した細胞からiPS細胞を作製するための培養を行うのに、フィーダー細胞に替えて、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンなどの細胞外マトリックス蛋白質(本件訂正発明1の「既知組成又はゼノフリーの細胞外マトリックス」に該当する。)を用いることができることが一般的に記載されているが(上記1(1)エ[0047])、その際にどのような成分の培地を用いればよいかについては記載がない。また、引用文献7には、臨床での使用を念頭において、フィーダー細胞を用いずに、マトリゲルの存在下でbFGF及び血清代替物を含む培地を用いてヒトiPS細胞を作製したことが具体的データとともに記載され(上記1(4)ア~ウ、オ)、考察部分には、マトリゲルに替えて既知組成またはヒト由来のマトリクスを用いればよいことが記載され、iPS細胞作製に利用できる可能性のある情報として、特定の組成の培地にROCK阻害剤を補充するとヒトES細胞の自己再生が保証できたことが記載されている(上記1(4)エ)が、血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地を用いることを示唆する記載はない。
iPS再プログラミング因子を発現するベクターを導入した細胞からiPS細胞を作製するための培養の条件がiPS細胞作製の成否や効率に大きく影響することは技術常識であって、本件優先日当時、フィーダー細胞を用いることが通常で(例えば、引用文献2、3)、フィーダー非依存性培養の報告はごく限られていたこと(引用文献7)、及びフィーダー細胞はiPS細胞が接着する足場を提供するのみならず、その生存、増殖及び未分化性維持のための液性因子を提供する役割も果たすものであることに照らすと、フィーダー細胞を用いなくともiPS細胞を作製できる培地組成を決定することには、一定以上の創意工夫が必要であると認められる。この点、本件訂正発明1は、「血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地」を用いることにより、高い効率でiPS細胞を作製することができたものである(図5D)。
それに対して、引用発明1はフィーダー細胞を用いるものであるうえ、培地には、シグナル伝達阻害剤が1種類も添加されていない。本件優先日当時、培地にMEK阻害剤やTGF-β受容体阻害剤を添加することでiPS細胞作製効率を向上できるとの報告はあったものの(Nature Methods, vol.6, pp.805-808 (2009)、Cell Stem Cell, vol.4, pp.301-312 (2009))、GSK阻害剤及びROCK阻害剤も合わせて添加したうえでフィーダー非依存性培養を採用することは、引用文献7も考慮に入れたとしても、当業者にとって容易に推考しうることとは認められない。
したがって、相違点3に係る本件訂正発明1の構成は、引用文献1に記載された発明及び引用文献7に記載された発明に基づき当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。
c 取消理由1で引用した引用文献4~6は相違点2に係る本件訂正発明1の構成に関するものであるところ、相違点1及び3についての判断は上記a及びbのとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、当業者といえども、引用文献1に記載された発明、引用文献4~7に記載された発明及び技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものとは認めることができない。
イ 本件訂正発明3~17についての判断
本件訂正発明3~17も、上記相違点1及び3に係る本件訂正発明1の構成を備えるものであるから、上記アと同様の理由により、当業者といえども、引用文献1に記載された発明、引用文献4~7に記載された発明及び技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものとは認めることができない。
ウ 以上のとおりであるから、本件訂正発明1及び3~17に係る特許は、取消理由1によって取り消されるべきものではない。
(2)取消理由2(引用文献2を主引用例とする進歩性欠如)についての判断
ア 本件訂正発明1についての判断
(ア)引用発明2の認定
上記1(2)によれば、引用文献2には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「A)動員されたヒト由来末梢血からCD34発現細胞を単離し、
B)そのCD34発現細胞を、SCF、Flt3リガンドおよびIL-3を含む培地で培養して増殖し、
C)再プログラミング因子であるヒトOCT4、SOX2、KLF4およびMYCをそれぞれ発現するレトロウイルスベクターの混合物をその増殖CD34発現細胞に導入し、
D)フィーダー細胞上、かつ塩基性線維芽細胞増殖因子を補充したヒトES細胞培地中でその増殖CD34発現細胞を培養し、それによりそのCD34発現細胞からヒトiPS細胞を作製させ、
E)GFP陰性のヒトES細胞様コロニーを選択する、
段階を含む、CD34発現細胞からヒトiPS細胞を作製するためのインビトロの方法。」(以下、「引用発明2」という。)
(イ)対比
本件訂正発明1と引用発明2とを対比すると、本件特許明細書(段落【0015】、【0030】等)の記載に照らすと、引用発明2の段階B)は本件訂正発明1の段階b)に相当する。また、引用発明2の「塩基性線維芽細胞増殖因子」は本件訂正発明1の「FGF」に該当するから、本件訂正発明1と引用発明2との一致点及び相違点は次のとおりのものとなる。
一致点: ヒト末梢血細胞の細胞集団から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し、その造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件下でその集団を培養し、iPS再プログラミング因子を発現する1以上の発現カセットを含む1以上のベクターをその増殖造血前駆細胞に導入し、FGFを含む培地中における培養においてその造血前駆細胞を培養し、それにより造血前駆細胞からヒトiPS細胞を作製させ、iPS細胞について選択する、段階を含む、造血前駆細胞からヒトiPS細胞を作製するためのインビトロの方法。
相違点1: CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団が、本件訂正発明1では「外部から加えられた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で細胞が動員されていない1以上の対象由来である」「ヒト末梢血単核細胞の細胞集団」から分離精製されるのに対して、引用発明2では「動員されたヒト由来末梢血」から分離精製される点。
相違点2: iPS再プログラミング因子を発現するベクターが、本件訂正発明1では、「1以上のポリシストロニックな発現カセットを含む」、「1以上の染色体外で複製するエピソーム性ベクター」であるのに対して、引用発明2では、「再プログラミング因子であるヒトOCT4、SOX2、KLF4およびMYCをそれぞれ発現するレトロウイルスベクターの混合物」である点。
相違点3: iPS再プログラミング因子を発現するベクターを導入した細胞からiPS細胞を作製するための培養が、本件訂正発明1では、「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養」であるのに対して、引用発明2では「フィーダー細胞上、かつ塩基性線維芽細胞増殖因子を補充したヒトES細胞培地中」における培養である点。
(ウ)判断
a 相違点1について
引用文献2は、それまで造血移植、免疫治療及び遺伝子治療のために用いられてきた動員されたヒト末梢血由来のCD34発現細胞を、iPS細胞作製という新たな用途に適用できることを示した学術論文であって(上記1(2)ア、ウ)、出発材料を動員していない末梢血由来のものにする動機付けはない。むしろ、末梢血中にCD34発現細胞はわずか0.5%以下しか含まれていないことから、それを得るためには顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で動員して増加させるのが通常であることに照らすと(例えば、「南山堂医学大辞典 第19版」(2006年南山堂発行)第1059頁、第2391頁、Clin.Immunol.Immunopathol., vol.70, pp.10-18 (1994) J.Translational Medicine, vol.5, 37 (2007))、引用発明2において、動員は必須と考えるのが自然で、それを行わないことは予定していないというべきである。また、動員の有無により末梢血細胞の生物学的性質が変化しうることが知られているから(例えば、Curr.Opin.Hematol., vol.16, pp.35-40 (2009)、British J.Hamatol., vol.97, pp.146-152 (1997)、)、この点からも、首尾よくiPS細胞が作製できた引用発明2において出発材料をあえて変更することには動機付けがないといえる。
したがって、相違点1に係る本件訂正発明1の構成は、当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。
b 相違点3について
引用文献2は、動員されたヒト末梢血由来のCD34発現細胞をiPS細胞作製という新たな用途に適用できることを示した学術論文であって、再プログラミング工程自体は、従前から線維芽細胞の再プログラミングに日常的に用いられていたフィーダー細胞上でのプロトコールを踏襲するにすぎず(上記1(2)ウ、エ)、それをことさらフィーダー細胞を用いないことに変更する動機付けを与えるものではない。また、引用文献7には、臨床での使用を念頭において、フィーダー細胞を用いずに、マトリゲルの存在下でbFGF及び血清代替物を含む培地を用いてヒトiPS細胞を作製したことが具体的データとともに記載され(上記1(4)ア~ウ、オ)、考察部分には、マトリゲルに替えて既知組成またはヒト由来のマトリクスを用いればよいことが記載され、iPS細胞作製に利用できる可能性のある情報として、特定の組成の培地にROCK阻害剤を補充するとヒトES細胞の自己再生が保証できたことが記載されている(上記1(4)エ)が、血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地を用いることを示唆する記載はない。
仮に、作製したiPS細胞を臨床治療に用いることを念頭において、フィーダー細胞に替えて「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックス」を用いることを想起したとしても、iPS再プログラミング因子を発現するベクターを導入した細胞からiPS細胞を作製するための培養の条件がiPS細胞作製の成否や効率に大きく影響することは技術常識であって、本件優先日当時、フィーダー細胞を用いることが通常で(例えば、引用文献1、3)、フィーダー非依存性培養の報告はごく限られていたこと(引用文献7)、及びフィーダー細胞はiPS細胞が接着する足場を提供するのみならず、その生存、増殖及び未分化性維持のための液性因子を提供する役割も果たすものであることに照らすと、フィーダー細胞を用いなくともiPS細胞を作製できる培地組成を決定することには、一定以上の創意工夫が必要であると認められる。この点、本件訂正発明1は、「血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地」を用いることにより、高い効率でiPS細胞を作製することができたものである(図5D)。
それに対して、引用発明2はフィーダー細胞を用いるものであるうえ、培地には、シグナル伝達阻害剤が1種類も添加されていない。本件優先日当時、培地にMEK阻害剤やTGF-β受容体阻害剤を添加することでiPS細胞作製効率を向上できるとの報告はあったものの(Nature Methods, vol.6, pp.805-808 (2009)、Cell Stem Cell, vol.4, pp.301-312 (2009))、GSK阻害剤及びROCK阻害剤も合わせて添加したうえでフィーダー非依存性培養を採用することは、引用文献7も考慮に入れたとしても、当業者にとって容易に推考しうることとは認められない。
したがって、相違点3に係る本件訂正発明1の構成は、引用文献2に記載された発明及び引用文献7に記載された発明に基づき当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。
c 取消理由1で引用した引用文献4~6は相違点2に係る本件訂正発明1の構成に関するものであるところ、相違点1及び3についての判断は上記a及びbのとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、当業者といえども、引用文献2に記載された発明、引用文献4~7に記載された発明及び技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものとは認めることができない。
イ 本件訂正発明3~17についての判断
本件訂正発明3~17も、上記相違点1及び3に係る本件訂正発明1の構成を備えるものであるから、上記アと同様の理由により、当業者といえども、引用文献2に記載された発明、引用文献4~7に記載された発明及び技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものとは認めることができない。
ウ 以上のとおりであるから、本件訂正発明1及び3~17に係る特許は、取消理由2によって取り消されるべきものではない。
(3)取消理由3(引用文献3を主引用例とする進歩性欠如)についての判断
ア 本件訂正発明1についての判断
(ア)引用発明3の認定
上記1(3)によれば、引用文献3には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「A)動員されていない、血液細胞にJAK2-V617F体細胞変異を有するヒト骨髄増殖性疾患(MPDs)患者由来末梢血から、CD34発現細胞を単離し、
B)そのCD34発現細胞を、SCF、Flt-3リガンド及びTPOを含む培地で培養して増殖し、
C)再プログラミング因子であるOct4、Sox2、Klf4及びc-Mycをそれぞれ発現するレトロウイルスベクターの混合物をその増殖CD34発現細胞に導入し、
D)フィーダー細胞上における引用文献3の著者らが以前記述したのと同様のプログラミングのための培養に供し、それによりそのCD34発現細胞からヒトiPS細胞を作製させ、
E)ヒトES/iPS細胞様の形態を示し、TRA-1陽性のコロニーを選別する、
段階を含む、CD34発現細胞からヒトiPS細胞を作製するためのインビトロの方法。」(以下、「引用発明3」という。)
(イ)対比
本件訂正発明1と引用発明3とを対比すると、本件特許明細書(段落【0015】、【0030】等)の記載に照らせば、引用発明3の段階B)は本件訂正発明1の段階b)に相当するから、本件訂正発明1と引用発明3との一致点及び相違点は次のとおりのものとなる。
一致点: 動員されていない対象由来のヒト末梢血細胞の細胞集団から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し、その造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件下でその集団を培養し、iPS再プログラミング因子を発現する1以上の発現カセットを含む1以上のベクターをその増殖造血前駆細胞に導入し、その造血前駆細胞を培養し、それにより造血前駆細胞からヒトiPS細胞を作製させ、iPS細胞について選択する、段階を含む、造血前駆細胞からヒトiPS細胞を作製するためのインビトロの方法。
相違点1: iPS再プログラミング因子を発現するベクターが、本件訂正発明1では、「1以上のポリシストロニックな発現カセットを含む」、「1以上の染色体外で複製するエピソーム性ベクター」であるのに対して、引用発明3では、「再プログラミング因子であるOct4、Sox2、Klf4及びc-Mycをそれぞれ発現するレトロウイルスベクターの混合物」である点。
相違点2: iPS再プログラミング因子を発現するベクターを導入した細胞からiPS細胞を作製するための培養が、本件訂正発明1では、「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養」であるのに対して、引用発明3では「フィーダー細胞上における引用文献3の著者らが以前記述したのと同様のプログラミングのための培養」である点。
(ウ)判断
a 相違点2について
本件優先日当時、iPS細胞の作製にはフィーダー細胞上での培養が通常であって(例えば、引用文献1、2)、動物由来成分や未知成分の混入を避けるべき治療用途においてはフィーダー非依存性培養の必要性が認識されていたものの、フィーダー細胞は、iPS細胞が接着する足場を提供するのみならず、その生存、増殖及び未分化性維持のための液性因子を提供する重要な役割を果たしていることから、それに代わる培養条件を決定することには一定以上の創意工夫が必要であり、フィーダー非依存性培養の報告はごく限られているという技術水準にあった(引用文献7)。
一方、引用発明3は、骨髄増殖性疾患(MPDs)の体細胞変異を有する血液細胞からiPS細胞を作製する方法であって、これはもっぱらMPDの病因等を研究するための造血モデルを提供するという有用性を有するものである(上記1(3)ア、エ)。それに加えて、一般に、疾患の体細胞変異を有するiPS細胞を治療用途に用いることは考えられないことに照らしても、上述のとおりの技術水準の下で、引用発明3においてあえて困難なフィーダー非依存性培養を採用することに動機付けは見いだせない。まして、「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養」という特定の細胞外マトリックス及び培地を用いることが当業者にとって容易であるということはできない。
したがって、相違点2に係る本件訂正発明1の構成は、引用文献3に記載された発明及び引用文献7に記載された発明に基づき当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。
b 取消理由3で引用した引用文献4~6は相違点1に係る本件訂正発明1の構成に関するものであるところ、相違点2についての判断は上記aのとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、当業者といえども、引用文献3に記載された発明、引用文献4~7に記載された発明及び技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものとは認めることができない。
イ 本件訂正発明3~17についての判断
本件訂正発明3~17も、上記相違点2に係る本件訂正発明1の構成を備えるものであるから、上記アと同様の理由により、当業者といえども、引用文献3に記載された発明、引用文献4~7に記載された発明及び技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものとは認めることができない。
ウ 以上のとおりであるから、本件訂正発明1及び3~17に係る特許は、取消理由3によって取り消されるべきものではない。
(4)取消理由4(実施可能要件違反及びサポート要件違反)についての判断
ア 訂正前請求項1~18の「造血前駆細胞」の点
(ア)取消理由の具体的内容
訂正前請求項1は、「a)造血前駆細胞を含むヒト末梢血細胞の細胞集団を提供し、 b)その造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件下でその集団を培養し」た後に、「その増殖造血前駆細胞」を再プログラミングするものである。ここで「造血前駆細胞」には造血系に分化可能な様々な種類の細胞が包含されるにもかかわらず、発明の詳細な説明において具体的な結果が示されているのは、CD34発現細胞のみである。また、上記工程a)及びb)として具体的に記載されているのは、ヒト末梢血細胞からCD34発現細胞を純度20~96%まで精製してなる細胞集団を提供し、CD34発現細胞の増殖条件下で培養した場合のみである。ヒト末梢血中にCD34発現細胞はわずか0.5%以下しか含まれておらず(例えば、「南山堂医学大辞典 第19版」(2006年南山堂発行)第1059頁)、他のリンパ球が存在すると増殖しにくいとの報告もあることに照らすと、再プログラミングに供するのに足りる量のCD34発現細胞を入手するには、増殖工程の前に分離精製工程が必要であると考えられる。
したがって、訂正前請求項1には、造血前駆細胞がCD34発現細胞であること、及び増殖する前に末梢血細胞の細胞集団からCD34発現細胞を分離精製すること、という課題解決のための手段が反映されていない。また、CD34発現細胞以外の造血前駆細胞を用いる場合や、CD34発現細胞を用いるとしても末梢血から分離精製しないで増殖する場合については、再プログラミングのための条件設定をすることは当業者にとって過度な負担を強いることと認められる。訂正前請求項2~18についても同様である。
(イ)判断
本件訂正により、請求項1、3~15の工程a)は「a)ヒト末梢血単核細胞の細胞集団から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し、」と、請求項16及び17の工程a)は「a)体積が10mL以下である末梢血試料から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し」と訂正され、造血前駆細胞が「CD34発現細胞」であり、その増殖前に「分離精製」されることが特定されたため、本取消理由は解消した。
イ 訂正前請求項1~18の「フィーダー非依存性培養」の点
(ア)取消理由の具体的内容
訂正前請求項1の「フィーダー非依存性培養」には、フィーダー細胞を用いない限度であらゆる条件の培養が包含されるのに対して、発明の詳細な説明において具体的な結果が示されているのは、レトロネクチン(登録商標)又はビトロネクチンといった細胞外マトリクスで被覆したプレート上で表2記載の組成の再プログラミング培地を用いて培養した場合のみである。本件出願日当時、再プログラミング因子を導入した体細胞からiPS細胞を生じさせるには、フィーダー細胞上で血清代替物や増殖因子を含むES細胞用培地中で培養するのが一般的であったところ、訂正前請求項1ではフィーダー細胞のない条件下で培養を行うのだから、フィーダー細胞存在下で用いる培地以上に増殖因子やサイトカイン等の補充が必要であると考えられる。細胞外マトリックス及び培地組成について限定のない訂正前請求項1は、発明の詳細な説明においてヒトiPS細胞を作製することができると当業者が認識できるように記載された範囲を超えている。また、フィーダー非依存性培養の条件を決定することは当業者にとって過度な負担を強いることである。訂正前請求項2~18についても同様である。
(イ)判断
本件訂正により、請求項1、3~17「フィーダー非依存性培養」は「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養」と訂正され(請求項2及び18は削除された。)、用いる細胞外マトリックス及び培地添加剤が特定されたため、本取消理由は解消した。
ウ 以上のとおり、本件特許は、「造血前駆細胞」の点及び「フィーダー非依存性培養」の点で、発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載に不備はなく、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。
したがって、本件訂正発明1及び3~17に係る特許は、取消理由4によって取り消されるべきものではない。
(5)取消理由5(明確性要件違反)についての判断
ア 訂正前請求項1~15、18の「末梢血細胞」及び訂正前請求項16、17の「末梢血試料」の点
(ア)取消理由の具体的内容
訂正前請求項1~18の「末梢血細胞」について、発明の詳細な説明の「II.定義」の項には「「末梢血細胞」は、赤血球細胞、白血球細胞及び血小板を含み、血液の循環プール内で見出される、血液の細胞成分を指す。」(段落[0052])と定義されており、臍静脈や臍動脈も「血液の循環プール」に包含され、「末梢血細胞」に臍帯血細胞も包含されると解釈する余地がある。
しかし、「末梢血細胞」は臍帯血細胞とは別の細胞として区別されるのが技術常識であって、発明の詳細な説明の上記定義は技術常識と整合しないといえるから、訂正前請求項1~15、18の「末梢血細胞」及び訂正前請求項16、17の「末梢血試料」が指す範囲が不明確になっている。
(イ)判断
本件訂正により、発明の詳細な説明の段落[0052]の上記記載は、「「末梢血細胞」は、赤血球細胞、白血球細胞及び血小板を含む、細胞成分を指す。」と訂正され、臍帯血細胞を含むとは解されないものとなったため、本取消理由は解消した。
イ 訂正前請求項13及び14の「前記既知組成の細胞外マトリクス」の点
(ア)取消理由の具体的内容
訂正前請求項13及び14に「前記既知組成の細胞外マトリクス」と記載されているが、先行する請求項に「既知組成の細胞外マトリクス」は記載されていないから、上記記載は不明確である。
(イ)判断
本件訂正により、請求項13及び14が引用する請求項12に「既知組成の細胞外マトリクス」が記載されたから、本取消理由は解消した。
ウ 訂正前請求項18の「フィーダー非依存性細胞外マトリクス」の点
(ア)取消理由の具体的内容
「細胞外マトリクス」という成分は、フィーダーとの依存関係により特定できるものではないから、「フィーダー非依存性細胞外マトリクス」がどのようなものを意味するのかが明らかでない。
(イ)判断
本件訂正により請求項18は削除されたため、本取消理由は解消した。
エ 以上のとおり、本件特許は、「末梢血細胞」の点、「前記既知組成の細胞外マトリクス」の点及び「フィーダー非依存性培養」の点で、特許請求の範囲の記載に不備はなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。
したがって、本件訂正発明1及び3~17に係る特許は、取消理由5によって取り消されるべきものではない。
3 取消理由で採用しなかった特許異議申立理由についての判断
(1)本件の優先権主張が無効であることを前提とする特許異議申立理由(異議2理由1~3、異議4理由1~4、異議6理由1、2)についての判断
異議2理由1~3、異議4理由1~4、異議6理由1、2は、本件の優先権主張が無効であるとの前提のもと、本件優先日後かつ出願日前に公開された刊行物を主引用例として、訂正前請求項1~18に係る発明の新規性欠如及び/又は進歩性欠如を主張するものである。なお、異議6理由1、2の主引用例である異議6甲1(特表2013-501505号公報)は本件国際出願日(2011年6月14日)よりも後の平成25年1月17日に公表されたものであるが、その国際公開公報(国際公開第2011/016588号)は本件国際出願日よりも前の2011年2月10日に公開されたものであるから、念のため、ここで合わせて検討することにする。
そこで、本件の優先権主張の成否について検討する。まず、第1優先明細書(2010年6月15日出願のUS61/355,046)には、図5(その説明は段落[0040])として本件発明の再プログラミングプロセスの概略が記載され、これは本件当初明細書(本件特許明細書も同様である。以下も同じ。)の図1に一致する。また、第1優先明細書には、上記再プログラミングプロセスを具体的に行った実施例1において、再プログラミングの結果が、図3、4(iPSコロニーの出現を示す写真)及びそれらの説明の記載(段落[0038]、[0039])により開示されている。それに対して、本件当初明細書の実施例1は、図3及び4が記載されておらず、段落【0259】の第8~13行に文章で再プログラミングの結果が記載されている点でのみ第1優先明細書の実施例1と異なるが、これらの実験結果は同等のものであるから、第1優先明細書にも本件当初明細書にも、実施例1として、ヒト非動員化末梢血から回収した単核細胞からCD34発現細胞を濃縮し、サイトカイン富化培地においてそれを増殖し、oriP-レプリコンとポリシストロニックなカセットを有するプラスミド組み合わせ(第1優先明細書の図2、本件当初明細書の図3)を用いて再プログラミング因子を導入し、レトロネクチン(登録商標)で被覆したプレート上かつ表2に記載された組成の再プログラミング培地中におけるフィーダー非依存性培養においてヒトiPS細胞を作製したことが、具体的な手順及び結果を伴って記載されているといえる。そして、これは、訂正前及び訂正後の特許請求の範囲に記載された発明の構成要件をすべて備えたものであるから、第1優先明細書には、訂正前及び訂正後の特許請求の範囲に記載された発明が開示されているといえる。
また、第2優先明細書(2010年10月1日出願のUS61/388,949)にも第1優先明細書と同様の記載がある。
以上のとおり、訂正前及び訂正後の特許請求の範囲に記載された発明は、第1優先明細書に記載された技術的事項の範囲内のものであり、第2優先明細書に記載された技術的事項の範囲内のものでもあるから、第1及び第2優先権主張の効果を享受することができ、新規性及び進歩性判断の基準日は第1優先日である2010年6月15日とすべきである。
そうすると、異議2理由1~3、異議4理由1~4、異議6理由1、2は、いずれもその前提を欠くものであるから、本件訂正発明1及び3~17に係る特許は、これらの理由によって取り消されるべきものではない。
(2)異議3甲28(異議6甲1)に基づく拡大先願(異議3理由2、異議6理由3)についての判断
異議3甲28(異議6甲1でもある。特願2012-523493号の当初明細書等である公表公報)は、外来核酸因子をゲノムに組み込まず、ウイルスおよび異種成分を用いることなく、高い効率でiPS細胞を作製することを目的とした発明を開示するものであって(段落【0008】)、【発明を実施するための形態】には、出発材料である体細胞、核初期化物質の体細胞への導入方法、培養条件等それぞれについて、多岐に及ぶ記載がされているところ、本件訂正発明の構成要件に対応するものとして、出発材料として造血幹細胞を用いることができること(段落【0020】)、核初期化に先立って細胞の種類に応じた前培養をしてもよいこと(段落【0023】)、2種類以上の核初期化遺伝子を組み込んだ発現ベクター、好ましくはエピソーマルベクターを用いること(段落【0038】、【0045】)、iPS細胞作製をフィーダー細胞を用いず、ゼノフリーなコーティング剤でコートした容器内で行うことができること(段落【0098】)が、それぞれ断片的に記載されている。しかしながら、これら多岐にわたる記載の中から、ことさら本件訂正発明の構成要件に対応するものを積極的あるいは優先的に選択して組み合わせる事情は見いだせない。また、異議3甲28(異議6甲1)には、iPS細胞作製のための培地として、本件訂正発明1及び3~17で用いる特定の成分を有する培地を用いることや、出発細胞がG-CSF又はGM-CSFで動員されていない対象由来であることは記載も示唆もされていない。
したがって、本件訂正発明1及び3~17は、特願2012-523493号の当初明細書等に記載された発明と同一であるとはいえないから、本件訂正発明1及び3~17に係る特許は、異議3理由2及び異議6理由3によって取り消されるべきものではない。
(3)異議5甲3を主引用例とする進歩性欠如(異議5理由3)についての判断
異議5甲3(Cell Stem Cell, vol.5, pp.353-357 (2009))は、臍帯血からiPS細胞を作製したことを報告する学術論文であって、具体的には、臍帯血細胞からCD133発現細胞を精製し、SCF、TPO、FLT-3及びIL-6を含む培地で増殖した後、ポリシストロニックな発現カセットを有するレトロウイルスベクターで再プログラミング因子を導入し、フィーダー細胞上かつヒトES細胞用培地中での培養でiPS細胞を作製したことが記載されている。
しかしながら、異議5甲3には、臍帯血由来細胞は、動員や生検などをせずにすぐに利用可能である、遺伝的変異の可能性が低い、免疫的情報とともにバンク化されているなどの点で、iPS細胞作製の出発材料として、末梢血細胞よりも優れていることが記載されているから(第356頁左欄第37行~中欄第37行)、異議5甲3に記載された発明において、出発材料を臍帯血由来CD133発現細胞から末梢血細胞由来細胞に変更することに動機付けがあるとはいえない。また、特許異議申立で提出されたいずれの証拠からも、本件訂正発明1及び3~17の「既知組成またはゼノフリーの細胞外マトリックスの存在下、かつ血清代替物、FGF、MEK阻害剤、GSK3阻害剤、TGF-β受容体阻害剤、及びROCK阻害剤の全てを含む培地中におけるフィーダー非依存性培養」という発明構成要件を導き出すことができないことは、上記2(1)~(3)で判断したとおりである。
したがって、本件訂正発明1及び3~17は、異議5甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1及び3~17に係る特許は、異議5理由3によって取り消されるべきものではない。
(4)実施可能要件違反及びサポート要件違反についての判断
ア 訂正前請求項1及び17の「造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件」の点(異議1理由4ア、異議2理由5ウ)
(ア)異議申立理由の具体的内容
訂正前請求項1及び17において、「造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件」は具体的に特定されていない。それに対して、発明の詳細な説明において具体的に増殖が確認されたのは、TPO、Flt3、SCF、IL6及びIL3を含む培地を用いてヒトフィブロネクチン断片上で3~6日培養した場合のみであって、それ以外の条件を特定することは当業者に過度の試行錯誤を要求することである。
(イ)判断
発明の詳細な説明(段落【0015】~【0017】、【0030】、【0088】~【0097】)には、造血前駆細胞の増殖を促進するための培養条件として、培地添加物、培養容器、培養様式、温度、酸素濃度、培養期間、細胞濃度等について、当業者にとって十分な情報が記載されている。
イ 訂正前請求項3の「体積約10mL以下の血液試料」及び請求項16の「体積が10mL以下である、造血前駆細胞を含む末梢血試料」の点(異議1理由4イ、異議1理由5ア)
(ア)異議申立理由の具体的内容
訂正前請求項3及び16では、体積が約10mL以下という少ない量の試料からiPS細胞を作製することが特定されている。それに対して、発明の詳細な説明の実施例では、10mL以下という少量の血液試料から実際にiPS細胞を作製できることは明らかにされておらず、そのための条件を決定することは当業者にとって過度な負担である。
(イ)判断
実施例1には、出発試料について「ヒト全血をバキュテナー中で回収した(ここで含まれるべき体積の範囲は1から50mL)。」(段落【0245】)と記載されているから、発明の詳細な説明に10mL以下の場合について記載されていないということはできない。また、本件訂正により、請求項3が引用する請求項1には「a)ヒト末梢血単核細胞の細胞集団から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し」、請求項16には「a)体積が10mL以下である末梢血試料から、CD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を分離精製し」という工程が加えられ、いずれの場合もCD34発現細胞である造血前駆細胞が濃縮された細胞集団を再プログラミングに供することが特定された。そして、CD34発現細胞の純度が高められた細胞集団において再プログラミングを行えば、CD34発現細胞から相当程度のiPS細胞を作製できると考えられるから、訂正後請求項3及び17に係る発明に特有の条件設定のために当業者が過度な負担を強いられるとは認められない。
ウ 訂正前請求項1~18の投入細胞数の点(異議5理由4ウ)
(ア)異議申立理由の具体的内容
訂正前請求項1~18においては、投入細胞数(ベクター導入に供する細胞の数)が特定されていない。それに対して、実施例2の図5EからはiPS細胞作製効率には投入細胞数が重要な要素であることが見て取れる。よって、請求項1~18は、発明の詳細な説明により裏付けられ、当業者が容易に実施をすることができる程度に記載された範囲を超えている。
(イ)判断
iPS細胞作製効率は、再プログラミング因子の種類や数、原料となる細胞の種類、ベクターの種類や送達方法、細胞とベクターの数比等に応じて変化するものであり、それらを最適化することは当業者が適宜行う程度のことにすぎないから、特許請求の範囲において投入細胞数を特定する必要があるとまではいえない。
エ 訂正前請求項1~18の「再プログラミング因子」の点(異議5理由4エ、異議6理由4イ)
(ア)異議申立理由の具体的内容
訂正前請求項1~18において、再プログラミング因子の種類及び組み合わせは特定されていない。それに対して、発明の詳細な説明によれば、発明が解決しようとする課題は、末梢血細胞を再プログラミングするためのより効率的な方法を開発することにあり、実施例において高効率でiPS細胞を作製できることが示されたのは、図4右のプラスミドセット2、すなわち、再プログラミング因子としてOct4、Sox2、T-抗原、Klf4、Nanog、L-myc、及びLin28の7因子を用いた場合のみである。再プログラミング因子の種類や組み合わせがiPS細胞作製効率に重要であることが知られているから、訂正前請求項1~18は、上記課題を解決することができるように発明の詳細な説明により裏付けられた範囲を超えている。
(イ)判断
発明の詳細な説明に、課題解決手段として明記され(段落【0009】)、実施例でも示されたとおり、本件発明は末梢血からのCD34発現細胞を増加させることにより増加させない場合よりも高い効率でiPS細胞を作製できたというものである。本件優先日当時、既に様々な再プログラミング因子の種類及び組み合わせが知られていたうえ、CD34発現細胞を増加させることによる効果が、用いる再プログラミング因子の種類及び組み合わせによっては失われるとする理由は見いだせないから、再プログラミング因子の種類及び組み合わせが実施例のもの以外では課題が解決できなくなるとまではいえない。
オ 訂正前請求項18の「フィーダー非依存性細胞外マトリクス」の点(異議1理由4ウ)
(ア)異議申立理由の具体的内容
発明の詳細な説明の記載を参酌しても、「フィーダー非依存性細胞外マトリクス」がどのようなものを指すのか理解できないから、発明の詳細な説明は訂正前請求項18に係る発明を実施することができる程度に記載したものとはいえない。
(イ)判断
本件訂正により請求項18は削除されたため、本異議申立理由は対象となる請求項が存在しないこととなった。
カ 以上のとおり、本件訂正発明1及び3~17に係る特許は、実施可能要件違反及びサポート要件違反を指摘するいずれの異議申立理由(取消理由で採用しなかったもの)によっても、取り消されるべきものではない。
(5)明確性要件違反についての判断
ア 訂正前請求項1及び17の「造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件」の点(異議1理由6ア)
(ア)異議申立理由の具体的内容
訂正前請求項1及び17の「造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件」は所望の結果を記載したにすぎず、技術内容が明らかでない。
(イ)判断
細胞の増殖について最も大きな影響を与える条件の一つは培地組成であるところ、発明の詳細な説明(段落【0091】)に米国特許第5,728,581号を例示して記載されている通り、造血前駆細胞の増殖を促進するための培地組成は周知であるし、増殖に適したその他の培養条件(温度や細胞密度など)の最適化は当業者が通常なし得る程度のことであるから、当業者であれば「造血前駆細胞の増殖を促進するための増殖条件」の技術内容を理解することができる。
イ 訂正前請求項1~18の「造血前駆細胞」の点(異議5理由5イ)
(ア)異議申立理由の具体的内容
訂正前請求項1~18の「造血前駆細胞」について、発明の詳細な説明の定義(段落【0053】)を参照しても、造血系に拘束されているがさらなる造血系分化が可能であるあらゆる細胞を指すのか、それともCD34発現細胞を指すのかが明確でない。
(イ)判断
本件訂正により、請求項1~17における「造血前駆細胞」は「CD34発現細胞である」ことが明確になった。
ウ 訂正前請求項10の「第3、4、5又は6日前後」の点(異議5理由5ウ)
(ア)異議申立理由の具体的内容
訂正前請求項10の「第3、4、5又は6日前後」とあるが、第何日目を意味するのか明確でない。
(イ)判断
請求項10が引用する請求項1のb)の培養を始めた3~6日目頃のことを意味すると解され、当業者にとって不明確とまではいえない。
エ 以上のとおり、本件訂正発明1及び3~17に係る特許は、明確性要件違反を指摘するいずれの異議申立理由(取消理由で採用しなかったもの)によっても、取り消されるべきものではない。
第6 むすび
上記第5のとおり、請求項1及び3~17に係る特許は、当審が通知した取消理由及び特許異議申立人1~6が申し立てた特許異議申立理由によっては取り消すことができない。
また、他に請求項1及び3~17に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。
さらに、請求項2及び18は本件訂正により削除され、それらに対して特許異議申立人1~6がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しないこととなったため、却下する。
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2017-700219