特許異議申立
2022-700156
振動アクチュエータ
- 審判番号
- 2022-700156
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-155308
- 登録番号
- 6923732
- 請求日
- 2022年02月24日
- 審決日
- 2023年06月28日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】フォスター電機株式会社
- 【権利者代理人】木内 光春
- 【権利者代理人】木内 加奈子
- 【権利者代理人】大熊 考一
- 【権利者代理人】片桐 貞典
- 【異議申立人】伊東 沙織
- 審判長/審判官
- 審判長 佐々木 芳枝
- 審判官 関口 哲生
- 審判官 小川 恭司
- 分類
- P1651.113-YAA(B06B) / P1651.121-YAA(B06B) / P1651.537-YAA(B06B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6923732号発明「振動アクチュエータ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6923732号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第6923732号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第6923732号の請求項1~7に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」~「本件特許7」といい、総称して「本件特許」という。)についての出願は、平成29年9月29日を出願日とする特願2017-190507号(以下、「原出願」という。)の一部を令和2年9月16日に新たな特許出願としたものであって、令和3年8月2日に特許権の設定の登録がされたものである。
本件特許について、令和3年8月25日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である令和4年2月24日に、本件特許1~7に対し、特許異議申立人 伊東沙織(以下「異議申立人」という。)から、特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立ての、その後の手続等の概要は以下のとおりである。
令和4年 4月27日付け:取消理由通知書
同年 6月29日 :意見書(特許権者)の提出及び訂正請求
同年 8月31日 :意見書(異議申立人)の提出
同年 9月28日付け:訂正拒絶理由通知書
同年11月 2日 :意見書(特許権者)の提出
同年11月25日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和5年 1月30日 :意見書(特許権者)の提出及び訂正請求
同年 2月27日付け:訂正拒絶理由通知書
同年 3月31日 :意見書(特許権者)の提出
同年 4月26日付け:取消理由通知書
同年 5月24日 :意見書(特許権者)の提出及び訂正請求
以下、令和5年5月24日付け訂正請求書に係る訂正を「本件訂正」という。なお、令和4年6月29日付け訂正請求書及び令和5年1月30日付け訂正請求書は取り下げられたものとみなす(特許法第120条の5第7項)。
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の請求は、「特許第6923732号の明細書、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める。」というものであって、その訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「円筒状のケースと、
前記ケースの開口側に取り付けられたダンパカバーと、
外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記ケースの振動軸線に沿って可撓可能なダンパと、
前記ケースに固定されたコイルと、
前記ケースの内部に配置され、前記ダンパの内周部において前記ケースの振動軸線に沿って振動可能に支持された可動子と、
前記可動子は、マグネット、ポールピース及びマスと、
を備え、
前記マスと前記ダンパには、それぞれ中心軸に沿って貫通した穴が設けられ、
前記マスの穴と前記ダンパの穴には、前記ダンパにおける前記マスと反対方向からピンが前記マグネットに接触しない長さまで挿入され、前記ピンによって前記マスと前記ダンパが固定されている、
ことを特徴とする振動アクチュエータ。」とあるのを、
「円筒状のケースと、
前記ケースの開口側に取り付けられたダンパカバーと、
外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記ケースの振動軸線に沿って可撓可能なダンパと、
円筒を異なる母線に沿って切断した短冊状の複数の分割ヨークと、
前記複数の分割ヨークの内周面に沿って巻回され、前記ケースに固定されたコイルと、
前記ケースの内部に配置され、前記ダンパの内周部において前記ケースの振動軸線に沿って振動可能に支持された可動子と、
前記可動子は、マグネット、ポールピース及びマスと、
を備え、
前記マスと前記ダンパには、それぞれ中心軸に沿って貫通した穴が設けられ、
前記マスの穴と前記ダンパの穴には、前記ダンパにおける前記マスと反対方向からピンが前記マグネットに接触しない長さまで挿入され、前記ピンによって前記マスと前記ダンパが固定され、
前記可動子は、前記コイルに包囲されている
ことを特徴とする振動アクチュエータ。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、4、5、7も同様に訂正し、請求項2の記載を引用する請求項3、請求項5の記載を引用する請求項6の記載も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
願書に添付した明細書の段落0005に
「課題を解決する請求項1に係る発明の振動アクチュエータは、円筒状のケースと、前記ケースの開口側に取り付けられたダンパカバーと、外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記ケースの振動軸線に沿って可撓可能なダンパと、前記ケースに固定されたコイルと、前記ケースの内部に配置され、前記ダンパの内周部において前記ケースの振動軸線に沿って振動可能に支持された可動子とを備え、前記可動子と前記ダンパには、それぞれ中心軸に沿って貫通した穴が設けられ、前記可動子の穴と前記ダンパの穴には、前記ダンパにおける前記可動子と反対方向からピンが挿入され、前記ピンによって前記可動子と前記ダンパが固定されていることを特徴とする。」とあるのを、
「課題を解決する請求項1に係る発明の振動アクチュエータは、円筒状のケースと、前記ケースの開口側に取り付けられたダンパカバーと、外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記ケースの振動軸線に沿って可撓可能なダンパと、円筒を異なる母線に沿って切断した短冊状の複数の分割ヨークと、前記複数の分割ヨークの内周面に沿って巻回され、前記ケースに固定されたコイルと、前記ケースの内部に配置され、前記ダンパの内周部において前記ケースの振動軸線に沿って振動可能に支持された可動子と、前記可動子は、マグネット、ポールピース及びマスと、を備え、前記マスと前記ダンパには、それぞれ中心軸に沿って貫通した穴が設けられ、前記マスの穴と前記ダンパの穴には、前記ダンパにおける前記マスと反対方向からピンが前記マグネットに接触しない長さまで挿入され、前記ピンによって前記マスと前記ダンパが固定され、前記可動子は、前記コイルに包囲されていることを特徴とする。」に訂正する。
2 本件訂正の適否について
(1)訂正事項1による訂正について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、振動アクチュエータが「円筒を異なる母線に沿って切断した短冊状の複数の分割ヨーク」を備えることを限定し、また、複数の分割ヨークとコイルの位置関係に関して「前記複数の分割ヨークの内周面に沿って巻回され、」と限定し、更に、可動子とコイルの位置関係に関し「前記可動子は、前記コイルに包囲されている」と限定するものである。すなわち、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1により、振動アクチュエータが「円筒を異なる母線に沿って切断した短冊状の複数の分割ヨーク」を備えることが限定され、また、複数の分割ヨークとコイルの位置関係に関して「前記複数の分割ヨークの内周面に沿って巻回され、」と限定され、更に、可動子とコイルの位置関係に関し「前記可動子は、前記コイルに包囲されている」と限定された。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 新規事項の追加の有無
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)には、以下の点が記載されている。(下線部は当審で付与した。)
(ア)「第1ダンパ51と第2ダンパ61との間には、コイル21に包囲され、振動軸線Oに沿って振動する可動子111が配置される。可動子111は、円板状のマグネット113と、マグネット113を挟むように配置された円板状の第1ポールピース115、第2ポールピース117と、マグネット113,第1ポールピース115,第2ポールピース117を挟むように配置される第1マス(錘)119,第2マス(錘)121からなっている。」(段落0017)
(イ)「本実施形態のヨーク11は、円筒を異なる母線に沿って切断された短冊状の複数(本実施形態では3つ)の分割ヨーク13で構成されている。」(段落0021)
(ウ)「また、本実施形態のコイル21は、振動軸線Oに沿って配置され、第1コイル23、第2コイル25からなっている。第1コイル23、第2コイル25は、ヨーク11の内周面に沿って巻回されている。ケース1の内周面には、振動軸線O方向に突出し、振動軸線O方向に延びるリブ5が等ピッチ間隔で3か所形成されている。」(段落0022)
(エ)「各リブ5の振動軸線O方向の2つの端面には、分割ヨーク13の母線に沿った端面が当接する分割ヨーク当接面5aが形成されている。本実施形態では、リブ5は樹脂でなっているので、弾性を有している。よって、分割ヨーク13の母線に沿った2つの端面が当接する。」(段落0023)
(オ)「分割ヨーク13の母線に沿った端面が、リブ5の分割ヨーク当接面5aに当接することで、分割ヨーク13のケース1の周方向の位置決めが成される。」(段落0024)
(カ)「第1コイル23の開口側の端部が、リブ5の突起7の第1コイル当接面7aに当接し、第1コイル23のケース1の振動軸線O方向の位置決めがなされた状態で、接着剤等を用いて第1コイル23のヨーク11への取り付けがなされる。第2コイル25の開口側の端部が、リブ5の突起7の第2コイル当接面7bに当接し、第2コイル25のケース1の振動軸線O方向の位置決めがなされた状態で、接着剤等を用いて第2コイル25のヨーク11への取り付けがなされる。」(段落0025)
(キ)「【図1】
[図:0001401601000001.jpg]
【図7】
[図:0001401601000002.jpg]
【図8】
[図:0001401601000003.jpg]
【図9】
[図:0001401601000004.jpg]
」
このように、本件特許明細書の段落0021には、ヨーク11が、円筒を異なる母線に沿って切断した短冊状の複数の分割ヨーク13で構成されることが示されている。
また、本件特許明細書等の段落0021~0025には、コイルが複数の分割ヨークの内周面に沿って巻回されることが示されている。
さらに、本件特許明細書等の段落0017には、可動子がコイルに包囲されることが示されている。
そうすると、訂正事項1は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
エ 独立特許要件について
本件においては、本件訂正前の請求項1~7について特許異議の申立てがされているので、本件訂正後の請求項1~7に係る発明に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
(2)訂正事項2による訂正について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴って、本件特許明細書等の段落0005の記載を、訂正後の請求項1の記載に整合させるものであるから、訂正事項2は明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、訂正後の請求項1の記載に整合させるものであって、訂正事項1に係る訂正と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
ウ 新規事項の追加の有無
訂正事項2は、本件特許明細書等の段落0005の記載を、訂正後の請求項1の記載にそろえる整合させるものであり、上記(1)で検討したとおり、訂正後の請求項1の記載は、新規事項を追加するものでなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであるから、訂正事項2も、新規事項を追加するものでなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
エ 独立特許要件について
訂正事項2は明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であるから、独立特許要件は課されない。
(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~7は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係であるから、請求項1~7は、一群の請求項である。そして、本件訂正は、請求項1~7について訂正することを求めるものであるから、特許法第120条の5第4項で規定する一群の請求項ごとに訂正の請求をするものである。
(4)以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正後の請求項1~7に係る発明(以下、請求項順に「本件発明1」、「本件発明2」などといい、また、本件発明1~7を総称して「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
円筒状のケースと、
前記ケースの開口側に取り付けられたダンパカバーと、
外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記ケースの振動軸線に沿って可撓可能なダンパと、
円筒を異なる母線に沿って切断した短冊状の複数の分割ヨークと、
前記複数の分割ヨークの内周面に沿って巻回され、前記ケースに固定されたコイルと、
前記ケースの内部に配置され、前記ダンパの内周部において前記ケースの振動軸線に沿って振動可能に支持された可動子と、
前記可動子は、マグネット、ポールピース及びマスと、
を備え、
前記マスと前記ダンパには、それぞれ中心軸に沿って貫通した穴が設けられ、
前記マスの穴と前記ダンパの穴には、前記ダンパにおける前記マスと反対方向からピンが前記マグネットに接触しない長さまで挿入され、前記ピンによって前記マスと前記ダンパが固定され、
前記可動子は、前記コイルに包囲されている
ことを特徴とする振動アクチュエータ。
【請求項2】
前記ピンの頭部には前記ダンパの表面に密着するフランジが設けられ、前記フランジと前記マスにより前記ダンパが挟持されている請求項1に記載の振動アクチュエータ。
【請求項3】
前記フランジは、前記ピンと一体に形成されている請求項2に記載の振動アクチュエータ。
【請求項4】
前記ピンは、振動軸線方向の2分の1の箇所において中心軸と直交する対称面を境界として対になっている請求項1から請求項3のいずれかに記載の振動アクチュエータ。
【請求項5】
前記ダンパが、内周部と外周部、及び内周部と外周部の間に渦巻き状に設けられた複数の腕を有する板状の部材である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の振動アクチュエータ。
【請求項6】
前記可動子の非振動時において、前記ダンパの内周部、前記マスにおける前記ダンパと接触する部分及び前記フランジが平らである請求項5に記載の振動アクチュエータ。
【請求項7】
前記可動子と前記ダンパの穴及び前記ピンが振動軸線を中心として同軸に設けられ、前記ピンが前記可動子と前記ダンパの位置を規制している請求項1から請求項6のいずれかに記載の振動アクチュエータ。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
(1)取消理由1
訂正前の請求項1~7に係る特許に対して、当審が令和4年11月25日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
ア 本件発明1、2、3、7は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第2号証に記載された発明であって、特許法29条1項3号の規定に該当するから、本件発明1、2、3、7に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
イ 本件発明1~7は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~7に係る特許は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
<甲号証一覧>
甲第2号証:特開2012-13221号公報
甲第3号証:特開平9-117721号公報
(以下、各甲号証を証拠番号に従って、「甲2」などという。)
(2)取消理由2
また、訂正前の請求項1~7に係る特許に対して、当審が令和5年4月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
ア 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、「円筒を異なる母線に沿って切断した短冊状の複数の分割ヨーク」を有しているのか不明であるため、発明が不明確である。
したがって、請求項1ないし7に係る発明は明確でない。
2 各証拠の記載
(1)甲2について
ア 甲2には、図面とともに以下の事項が記載又は示されている。
(ア)「【0001】
本発明は車両用電動式アクティブ動吸振装置に係り、より詳しくは、コイル部を上下に配置して性能がより向上した電動式アクティブ動吸振装置に関する。」
(イ)「【0006】
このようなアクティブ動吸振装置は、電気的信号によって振動するように内部にコイルが巻かれたコイル部と、コイルで電気が発生すれば電気的な力によって動いて一定の質量を有するヨーク部とを内蔵する。ヨーク部は互いに異なる方向に向かって連続的に力を受けて上下に動き、このような動きが振動に転換されるようにヨーク部の上部面と下部面にそれぞれ板スプリングが装着される。
【0007】
図1(b)は、従来の動吸振装置において、ヨーク部3に板スプリング2a、2bが装着された様子を示す断面図である。図に示す通り、ヨーク部3は上側および下側それぞれが膨らむように突出して板スプリング2a、2bと結合し、板スプリング2a、2bがハウジング4に締結されて振動を伝達する構造を有する。しかしながら、このような構造は磁場を発生させ、ヨーク部3を振動させるコイル部1が上側にのみ配置され、磁場が一側にのみ偏る構造を有するため、この点を改善する必要があった。」
(ウ)「【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、より効果的かつ効率的に振動を発生させる動吸振装置を提供することを目的とする。」
(エ)「【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態による電動式アクティブ動吸振装置の構造についてより詳しく説明する。本発明の動吸振装置は車両のシャーシまたはサブフレームに装着され、上述したようなコントローラおよび増幅器から電気的信号の印加を受けて振動するように構成される。図2に示す動吸振装置は図1(b)に示すようにハウジングに板スプリングおよびヨーク部を内蔵するが、ハウジングは図面をより簡潔かつ明確に示すために省略した。
【0019】
動吸振装置はハウジングに板スプリング60、70が平行に固定設置され、板スプリング60、70の間に内部ヨーク10、外部ヨーク20のヨーク部が装着される。また、内部ヨーク10、外部ヨーク20を振動させる上側コイル部40、下側コイル部50のコイル部もハウジングに固定設置される。ヨーク部は、円筒状であり、中間位置に円板形の内部磁性体10cを備えて上端と下端でそれぞれの板スプリング60、70と結合した内部ヨーク10と、内部ヨーク10が内側に挿入が可能となるように上面と下面が開口した円筒状の外部ヨーク20とを含んで構成される。
【0020】
内部ヨーク10は上端と下端の縦方向の中心が上下にそれぞれ突出してそれぞれの板スプリング60、70にボルト結合され、板スプリング60、70はハウジング内に固定結合されている。また、内部磁性体10cは永久磁石であり、内部磁性体10cの上面および下部面に結合された上側ヨーク部10aと下側ヨーク部10bは磁化されるように金属材質で形成される。上側ヨーク部10aと下側ヨーク部10bおよび内部磁性体10cは、外部ヨーク20の支持部材21が挟まれて固定されるように凹凸部分が形成される。参考までに、支持部材21の内周面に雌ねじ山を形成し、上側ヨーク部10aおよび下側ヨーク部10bに枠に雄ねじ山を形成すれば、図2に示すように内部磁性体10cを間に置いて上側ヨーク部10aと下側ヨーク部10bを容易に結合させることができる。」
(オ)「【0022】
一方、内部ヨーク10と外部ヨーク20の間には上側と下側にそれぞれ所定の空間が形成され、空間にコイル部が装着される。すなわち、上側コイル部40および下側コイル部50が上下に羅列するように装着される。上側コイル部40と下側コイル部50は振動しないようにハウジングに固定設置される。コイル部ではコイルが所定の巻数で巻かれており、上述したようなコントローラと増幅器を経て電流が流れるように構成される。」
(カ)「【0026】
一方、図7に示すように、ヨーク部の上端と下端においてより具体的には、板スプリング60、70と締結する内部ヨーク10の上端と下端部分を非磁性体12a、12bで形成し、磁場の形成範囲を縮小することもできる。これは周辺装置が磁場の影響を受けないようにするものであり、設計に応じて非磁性体の大きさおよび形態は多様に構成される。」
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明の動吸振装置の作動状態についてより詳しく説明する。図2に示す通り、上側コイル部40と下側コイル部50は、上述したようなコントローラおよび増幅器を経て電源の印加を受けるように構成される。また、ヨーク部は、内部ヨーク10の中間に位する内部磁性体10cおよび外部ヨーク20の外郭に挟まれた外部磁性体22によって磁化されている。すなわち、内部ヨーク10は、永久磁石である内部磁性体10cが上面と下面に結合した上部ヨーク10aと下部ヨーク10bをN極が上を向くように磁化させ、内部磁性体10cと反対方向に結合した外部磁性体22は外部ヨーク20をS極が上を向くように磁化させた状態である。このとき、図2のような磁気力線の模様に近い磁気力線が形成されるように、支持部材21は非磁性体で製造されることが好ましい。
【0028】
このように構成されたヨーク部は、ハウジング(図示せず)内部で閉回路を構成し、図2において矢印で表記したように磁場が構成される。内部磁性体10cを含んだ内部ヨーク10および外部磁性体22を含んだ外部ヨーク20は1つの作動質量(moving mass)であり、コイル部が電流の流れによって上下に振動して慣性力を発生させ、このような慣性は上側および下側の板スプリング60、70を経てハウジングが装着されたシャーシまたはサーブフレームに伝達される。」
(キ)「【0031】
一方、参考までに、図7に示すように内部ヨークの上端と下端に非磁性体12a、12bが備えられる構成の場合、作動質量の減少による伝達力FTの低下を抑制するために、非磁性体は可能な限り密度が大きい材質で製造されることが好ましい。さらに、従来の動吸振装置構造と比べれば、下側コイル部および下側コイルハウジングを形成するため、ヨーク部は下側部分で作動質量の重量が減少されるため、これを償うために非磁性体材質の選定時に可能な限りヨーク部の材質よりも密度が高い材質を選定することが好ましい。」
(ク)「【図1】
[図:0001401601000005.jpg]
【図2】
[図:0001401601000006.jpg]
【図7】
[図:0001401601000007.jpg]
」
(ケ)図1(b)の記載から、板スプリング2a、2b及びヨーク部3は、ハウジング内に配置され、また、ハウジングの上部が開口し、板スプリング2aを覆うカバーが設けられていることが看取されるから、カバーがハウジングの開口側に取り付けられていることが理解できる。
そして、前記(イ)の記載もあわせみれば、板スプリング2a、2bの外周部はハウジングに固定されているといえる。
また、前記(エ)及び図3~6の記載から、外部ヨーク及びコイルハウジングが円筒状であることが分かるところ、それらをちょうど覆うように配置されるハウジングの形状も円筒状であると解するのが合理的であるといえる。
(コ)図7の記載から、板スプリング60、70の中心、そして非磁性体12a、12bの中心にはそれぞれ穴が形成あるいは貫通して形成され、また、前記(カ)の記載もあわせみれば、穴に挿入されるボルトにより、板スプリング60と非磁性体12aとが、また、板スプリング70と非磁性体12bとが締結されることは明らかである。
さらに、図1(b)、図7の記載から、非磁性体12a、12bの穴と板スプリング60、70の穴には、前記板スプリング60、70における前記非磁性体12a、12bと反対方向からボルトが挿入され、ボルトは内部磁性体10cに向かって、内部磁性体10cには接触しない長さまで挿入されることが看取される。
(サ)図7の記載から、ボルトの頭部には、板スプリング60、70の表面に密着するフランジが設けられ、フランジと非磁性体12a、12bにより板スプリング60、70が挟持されていることが看取される。
イ 甲2に記載された発明
前記(ア)~(サ)の記載を総合して、本件発明1の表現に倣って整理すると甲2には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲2発明)
「円筒状のハウジングと、
前記ハウジングの開口側に取り付けられたカバーと、
外周部が前記ハウジングに固定され、穴周辺部が前記ハウジングの上下方向に可撓可能な板スプリング60、70と、
円筒状の内部ヨーク10及び円筒状の外部ヨーク20と、
前記内部ヨーク10と前記外部ヨーク20の間に装着され、前記ハウジングに固定されたコイル部と、
前記ハウジングの内部に配置され、前記板スプリング60、70の穴周辺部において前記ハウジングの上下方向に振動可能に支持された作動質量と、
前記作動質量は、内部磁性体10c、内部ヨーク10、外部ヨーク20及び非磁性体12a、12bと、
を備え、
前記非磁性体12bと前記板スプリング70には、それぞれ中心軸に沿って貫通した穴が設けられ、
前記非磁性体12a、12bの穴と前記板スプリング60、70の穴には、前記板スプリング60、70における前記非磁性体12a、12bと反対方向からボルトが内部磁性体10cに接触しない長さまで挿入され、前記ボルトによって前記非磁性体12a、12bと前記板スプリング60、70が締結され、
前記コイル部は、前記作動質量の前記内部ヨーク10と前記外部ヨーク20の間に装着される
アクティブ動吸振装置。」
(2)甲3について
ア 甲3には、図面とともに以下の事項が記載又は示されている。
(ア)「【0055】〔実施例2〕本発明の別の実施例を、図面に基づいて説明する。図4において、1枚のバネ310は、加振重量100とカシメピン130の打ち込み等により接合され、駆動コイルブロック200に溶着等の接合により固着される。駆動コイルブロック200は、駆動コイル220を樹脂製のボビン210に巻き付けることで構成される。なお、加振重量100は、駆動コイルブロック200の内周に配設されている。
【0056】また、加振重量100を構成しているラジアル方向に着磁された磁石110と、駆動コイルブロック200の駆動コイル220は、微小な間隙を有して、各々の径方向で対向しており、駆動コイル220に端子510を通して供給される駆動電流と磁石により縦軸方向の電磁力を発生し、加振重量100の重量とバネ310により決定される80Hz~150Hzの共振周波数近辺で、振動モジュールの縦軸方向に振動する。
【0057】ケース410、ケース420は、前記バネと加振重量と駆動コイルブロック200を収納する。端子510は駆動コイルブロック200に設けられ、駆動コイル220の端末と接続されて、外部より駆動コイルに駆動電流を供給する。加振重量100は、前記実施例1で詳述した単一のラジアル方向に配向し、ラジアル方向に着磁したリング状の磁石110を使用し、重り120に接着剤等で接合する。」
(イ)「【0071】図10は、本発明の基本的なバネの構造を示す図であり、図10では、バネの梁部313は直線的な形状で構成したが、本発明のφ25mm以下の小径の振動モジュールでは必要なバネの梁部の有効長を得ることが困難であり、設計された周波数に合わせるためにはバネの梁部の幅を狭くするか、または、バネの厚みを薄くしなければならず、強度的に弱いという問題が生じる。従って、本発明ではバネの梁部313の有効長を長くする方法として、バネの梁部313に中心方向に対して角度を持たせるか、湾曲部を設ける構成とした。
【0072】図8は、バネの梁部313に中心方向に対して角度を持たせた実施例であり、図9は、バネの梁部313に湾曲部を持たせた実施例であり、図11は、中心方向に対して角度を持たせ、さらに湾曲部をも持たせた扇形バネの実施例であり、単純な形状にもかかわらず有効長を長くしたり、有効長を設計に合わせて任意に設定することが容易であるという長所を有す。」
(ウ)「【図4】
[図:0001401601000008.jpg]
【図9】
[図:0001401601000009.jpg]
【図10】
[図:0001401601000010.jpg]
」
(3)参考資料1(実公昭61-45745号公報。以下、「参考1」という。)
ア 異議申立人が令和4年8月31日付け意見書に添付した参考1には、図面とともに以下の事項が記載又は示されている。
(ア)「しかるに上記のアクチユエータを組立てる場合、筒状ヨーク1の外周に溝1aを形成し、溝1aに端子支持ピン10を突設してなる端子部材9を接着剤等により固定た後、コイル2,2′を予め装着した絶縁体からなるケース8をヨーク1内に嵌装している。したがつて、端子支持部材のヨークへの固定に手間がかかるなどの問題が有つた。またヨーク1は板状の粗材に所定の加工を施した後プレス等により円筒状に形成されるため、ヨーク1の継ぎ目には溝1bが形成される。しかるにヨーク1に支持部材7,7′を固定するため、ヨーク1に支持部材7,7′を挿入した後ヨーク1の両端をカシメているが、溝1bが広がるのを防ぐため接着剤等により継ぎ目を接合する必要があつた。
本考案の目的は、上記の従来技術の欠点を解消し、組立てが容易でしかも信頼性の高いアクチユエータを提供することである。」(2頁3欄1~18行)
(イ)「まず第3図および第4図において、1′は軟磁性体からなる筒状ヨーク、2,2′は筒状電磁コイル、3は永久磁石、4および4′は磁極片、5は可動子6および6′は軸、7および7′は円板状のゴム部材8′は絶縁体からなるケース、9′は端子支持部材、10は端子をそれぞれ示す。」(2頁3欄27~32行)
(ウ)「次に第3図および第4図に示すアクチユエータは以下のようにして組立られる。まずヨークとしては第5図および第6図に示すものを準備する。このヨーク1′は、中央部に溝1′a、一端に凸部1′b、他端に凹部1′cを形成した板状粗材をプレス等により折曲げ、凸部1′bを凹部1′cに嵌装して継ぎ目が接合されている。次にコイルケース8′としては第7図および第8図に示すものを準備する。このコイルケース8′は、その外径がヨーク1′の内径よりわずかに小さく形成され、中央にリング状の仕切8′aが設けられており、さらにその外周面には端子支持部材9′が突設して固定されている。」(2頁3欄36行~同頁4欄4行)
(エ)「このように上記のアクチユエータにおいては、コイルを端子部材付ケースに予め収納しておきしかもケースのヨークへの装着をワンタツチで行なえる構造となつているため、組立を極めて容易に行なうことができる。またヨーク1の継ぎ目は上記のように確実に接続されているので、支持部材7,7′をヨーク1に挿入後ヨーク1をカシメても何ら不具合は生じない。」(2頁4欄16~24行)
(オ)「
[図:0001401601000011.jpg]
[図:0001401601000012.jpg]
[図:0001401601000013.jpg]
」
第5 当審の判断
1 取消理由1について
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明とをその機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲2発明の「(円筒状の)ハウジング」は本件発明1の「(円筒状の)ケース」に相当し、以下同様に、「カバー」は、「ダンパカバー」に、「穴周辺部」は「内周部」に、「上下方向に」という事項は「振動軸線に沿って」という事項に、「板スプリング60、70」は「ダンパ」に、「コイル部」は「コイル」に、「作動質量」は「可動子」に、「内部磁性体10c」は「マグネット」に、「内部ヨーク10」は「ポールピース」に、「非磁性体12a、12b」は「マス」に、「ボルト」は「ピン」に、「締結」は「固定」に、「アクティブ動吸振装置」は「振動アクチュエータ」に、それぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、以下の「一致点1」で一致し、以下の「相違点1」で相違する。
(一致点1)
「円筒状のケースと、
前記ケースの開口側に取り付けられたダンパカバーと、
外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記ケースの振動軸線に沿って可撓可能なダンパと、
前記ケースに固定されたコイルと、
前記ケースの内部に配置され、前記ダンパの内周部において前記ケースの振動軸線に沿って振動可能に支持された可動子と、
前記可動子は、マグネット、ポールピース及びマスと、
を備え、
前記マスと前記ダンパには、それぞれ中心軸に沿って貫通した穴が設けられ、
前記マスの穴と前記ダンパの穴には、前記ダンパにおける前記マスと反対方向からピンが前記マグネットに接触しない長さまで挿入され、前記ピンによって前記マスと前記ダンパが固定されている、
振動アクチュエータ。」
(相違点1)
本件発明1は、「円筒を異なる母線に沿って切断した短冊状の複数の分割ヨーク」を備え、また、コイルは「前記複数の分割ヨークの内周面に沿って巻回され」、「前記可動子は、前記コイルに包囲されている」のに対し、
甲2発明は、円筒状の内部ヨーク10及び円筒状の外部ヨーク20は、円筒を異なる母線に沿って切断した短冊状の複数の分割ヨークではなく、また、コイル部が、前記作動質量の前記内部ヨーク10と前記外部ヨーク20の間に装着される点。
イ 相違点1について
(ア)甲2発明において、円筒状の内部ヨーク10及び円筒状の外部ヨーク20が、「円筒を異なる母線に沿って切断した短冊状の複数の分割ヨーク」でないことは明らかであり、また、甲2に、そのような分割ヨークが記載されていないことは明らかである。
したがって、相違点1は、実質的な相違点であるといえる。
よって、本件発明1は、甲2発明であるとはいえない。
(イ)また、上記第4の2(3)に示される参考1には、筒状ヨークの外周に溝1aを形成したものが記載されているものの、参考1や上記第4の2(2)に示される甲3、また、後述の第6の2(1)に示される甲1をみても、いずれにも、「円筒を異なる母線に沿って切断した短冊状の複数の分割ヨーク」は、記載も示唆もされていない。
さらに、「円筒を異なる母線に沿って切断した短冊状の複数の分割ヨーク」を備えることが単なる設計事項であるともいえない。
そうすると、甲2発明において、仮に、甲1、甲3、参考1に記載された技術を適用し得たとしても、本件発明1の上記相違点1に係る構成には至らない。
(ウ)したがって、甲2発明において、前記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者であっても容易になし得たことではない。
そして、本件発明1は、前記相違点1に係る構成を備えることにより、「ヨーク11は、円筒を異なる母線に沿って切断された短冊状の複数の分割ヨーク13で構成されている。分割ヨーク13は、プレス加工等のコストが安く、寸法精度が良い製造方法で形成可能なので、低コストで、寸法精度がよいヨークを有する振動アクチュエータを実現できる。」(本件特許明細書等の段落0030)という格別の効果を奏するものである。
ウ 以上によれば、本件発明1は、甲2発明ではなく、また、当業者であっても、甲2発明に基いて容易に発明することができたものではない。
エ 異議申立人の主張に対して
異議申立人は、令和4年8月31日付け意見書で、可動子の外周はコイルの内側に配置され、周方向に隙間を有するヨークがコイルの外側に配置されることは、参考1に記載される通り周知の技術であり、甲2発明及び上記周知の技術により本件発明1は進歩性を有しない旨主張する。
しかし、上記イ(イ)で検討したように、参考1には、「円筒を異なる母線に沿って切断した短冊状の複数の分割ヨーク」は記載も示唆もない。そして、上記イ、ウで検討したように、本件発明1は、当業者であっても、甲2発明に基いて容易に発明することができたものではない。
したがって、異議申立人の上記主張は、採用できない。
(2)本件発明2~7について
本件発明2~7は、本件発明1を、直接的又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明2~7と、甲2発明とをそれぞれ対比すると、両者は、少なくとも、上記で示した、相違点1で相違する。
そして上記で検討したとおり、甲2発明において、相違点1に係る構成は、容易に想到し得たものでない。
以上によれば、その余の点について検討するまでもなく、本件発明2~7は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
2 取消理由2について
取消理由2は、前記第4の1(2)に示したように、本件特許の請求項1~7において、「円筒を異なる母線に沿って切断した短冊状の複数の分割ヨーク」を有しているのか不明であったため、発明が不明確であった。
本件訂正後の本件発明1は、前記第2の1(1)に示されるように、「円筒を異なる母線に沿って切断した短冊状の複数の分割ヨーク」という事項が追加される訂正がされたから、発明は明確となり、前記第4の1(2)に示した取消理由2は解消している。また、請求項1の記載を引用する請求項2~7についても同様である。
第6 取消理由通知において採用しなかった異議申立人の申立理由について
1 申立理由の概要
本件特許の請求項1~7に係る発明は、本件特許出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第2~3号証に記載された事項に基いて、本件特許出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<証拠方法>
甲1:特開2013-126299号公報
甲2:特開2012-13221号公報
甲3:特開平9-117721号公報
2 証拠の記載
(1)甲1について
ア 甲1には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付与した。)
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子と、弾性体を介して弾性支承され、前記固定子への通電によって生じる交番磁界により前記固定子に対して往復移動可能な振動子と、を備えたリニアアクチュエータに関する。」
(イ)「【背景技術】
【0002】
上記リニアアクチュエータは、固定子への通電により振動子を往復移動(振動)させて、例えば防振用や加振用のアクチュエータとして利用される。
従来のリニアアクチュエータは、アクチュエータのうちの振動子が設けられた機構部と、制御基板等が収容されている制御部とが別個に構成されていた(例えば、特許文献1参照)。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このために、リニアアクチュエータを設けた機構部と制御基板を設けた制御部とに対して、夫々別々に防水・防塵処理を施さなければならず構成が煩雑なものとなっていた。また、取付対象位置に対して夫々の部品を取り付けなければならず、一定の取付工数が必要であった。さらに、双方の部品が占める体積が大きくなってアクチュエータの取付箇所が制約されるなどの問題も生じていた。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、防塵性と防水・防滴性とを備え、各種機器に対する取り付けの手間を軽減することができ、コンパクト化も図り易いリニアアクチュエータを提供することを目的とする。」
(エ)「【0015】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1~ 図3は、本発明によるリニアアクチュエータを示す。
リニアアクチュエータは、ケース1の内部に備えた円筒状の固定子2と、固定子2の内部に同芯状に配置された振動子(可動子)3と、振動子3をケース1に弾性支承する弾性体4と、ケース1の内部のうちの振動子3の往復移動方向(ケース1の中心軸芯Xに沿う方向)の両外側に設けられた一対の規制部5と、アクチュエータ制御用の電子回路を設けてある制御基板6とを備えている。
【0016】
ケース1は、振動子3の往復移動方向の一方側に開口1aを有する有蓋円筒状のケース本体7と、ケース1の内部空間を区画する平面視で円形の区画板8と、ケース本体7の開口1aを塞ぐ蓋体9とを備えている。
【0017】
ケース本体7及び区画板8は、鉄や磁性ステンレスなどの磁性金属で形成してある。
ケース本体7は、円筒状の胴部7aと、胴部7aの上方側を閉じる蓋部7bと、開口1aを形成してある円筒状の口部7cとを同芯状に一体に備え、口部7cの内径を胴部7aの内径よりも大径に形成してある。
【0018】
蓋体9は樹脂材料で形成してあり、蓋板部9aと、口部7cの内周面に嵌合する円筒状の嵌合部9bとを一体に備え、電力供給用ソケット10の接続端子10aをインサート成形してある。
蓋体9とケース本体7との隙間を密封するシールリング(シール材)11を嵌合部9b の外周側に形成した周溝9cに装着すると共に、蓋体9とケース本体7とをビス7dで互いに固定して、開口1aを密封してある。
シールリング11の圧縮方向が、ビス7dによる蓋体9とケース本体7の締め付け方向に対して直交するケース本体7の径方向であるため、仮にビス7dが緩むことがあっても、シール性を確保することができる。」
(オ)「【0019】
固定子2は、ケース1の中心軸芯Xと同芯状に並設された2つのコイル12a,12bと、これらのコイル12a,12bを各別に収容する上下二つの円環状のコア13a,13bとを有する。
コア13a,13bは、鉄や磁性ステンレスなどの磁性金属で形成してある断面が外向きコの字状の円環状部材14を胴部7aの内周面に圧入により固定して、その一部をケース本体7の胴部7aで形成してある。
コイル12aとコイル12bは、巻き線方向が互いに逆向きになるように設けて直列に接続してあり、通電時に生じる交番磁界により振動子3を固定子2に対して同芯状に往復移動させる。
【0020】
振動子3は、磁性金属からなる円環状の一対のヨーク15a,15bと、これらのヨーク15a,15bに挟み込まれた円環状の永久磁石16と、ヨーク15a,15b及び永久磁石16の中心部を貫通する非磁性シャフト17とを備えている。
非磁性シャフト17は、ヨーク15a,15bから振動子3 の往復移動方向に突出する軸部17a,17bを有する。
【0021】
振動子3を弾性支承する弾性体4は、外周部が上側コア13aと蓋部7bとの間に挟み込んで固定され、かつ、内周側が上部ヨーク15aと非磁性シャフト17の軸部17aとの間に挟み込まれた平面視で環状の上部板バネ4aと、外周部が下側コア13bと区画板8との間に挟み込んで固定され、かつ、内周側が下部ヨーク15bと非磁性シャフト17の軸部17bとの間に挟み込まれた平面視で環状の下部板バネ4bとで構成してある。
したがって、振動子3は、コイル12a,12bに通電することにより、上部板バネ4a及び下部板バネ4bを弾性的に撓み変形させながら、中心軸芯Xの方向に往復移動する。
【0022】
規制部5は、ケース本体7の蓋部7bと区画板8との夫々に一体形成して、上下の軸部17a,17bの端面との当接により、振動子3の蓋部7bの側への移動領域と区画板8の側への移動領域とを規制している。
蓋部7bに形成した上部規制部5aは、当該蓋部7bのうちの中心領域を上向き円形状に突出させた部分で構成してあり、区画板8に形成した下部規制部5bは、当該区画板8のうちの中心領域を下向き円形状に突出させた部分で構成してある。
上部規制部5a及び下部規制部5bの夫々には、軸部17a,17bが当接する際の衝撃を吸収する衝撃吸収シート5cを貼着してある。」
(カ)「
【図1】
[図:0001401601000014.jpg]
【図2】
[図:0001401601000015.jpg]
【図3】
[図:0001401601000016.jpg]
」
(キ)上記(オ)及び図2の記載から、板バネ4a,4b、ヨーク15a,15b及び永久磁石16には、中心軸芯Xに沿って貫通した穴が設けられていること、また、前記板バネ4a,4bの穴、前記ヨーク15a,15bの穴及び前記永久磁石16の穴には、非磁性シャフト17が上下に貫通して挿入され、前記非磁性シャフト17によって前記板バネ4a,4b、前記ヨーク15a,15b及び前記永久磁石16が固定されていることは、明らかであるといえる。
(ク)図2の記載から、振動子3は、コイル12a,12bに包囲されていることは、明らかであるといえる。
イ 甲1発明
上記アを総合すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「円筒状のケース本体7と、
前記ケース本体7の開口1a側に取り付けられた区画板8と、
外周部が前記ケース本体7に固定され、内周側が前記ケースの中心軸芯Xに沿って撓み変形可能な板バネ4a,4bと、
前記ケース本体7に固定されたコイル12a,12bと、
前記ケース本体7の内部に配置され、前記板バネ4a,4bの内周側において前記ケース本体7の中心軸芯Xに沿って振動可能に支承された振動子3と、
前記振動子3は、永久磁石16及びヨーク15a,15bと、
を備え、
前記板バネ4a,4b、前記ヨーク15a,15b及び前記永久磁石16には、中心軸芯Xに沿って貫通した穴が設けられ、
前記板バネ4a,4bの穴、前記ヨーク15a,15bの穴及び前記永久磁石16の穴には、非磁性シャフト17が上下に貫通して挿入され、前記非磁性シャフト17によって前記板バネ4a,4b、前記ヨーク15a,15b及び前記永久磁石16が固定され、
前記振動子3は、前記コイル12a,12bに包囲されている、
リニアアクチュエータ。」
3 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ケース本体7」は本件発明1の「ケース」に相当し、同様に、「開口1a」は「開口」に、「区画板8」は「ダンパカバー」に、「内周側」は「内周部」に、「中心軸芯X」は「振動軸線」に、「撓み変形可能」は「可撓可能」に、「板バネ4a,4b」は「ダンパ」に、「コイル12a,12b」は「コイル」に、「支承」は「支持」に、「振動子3」は「可動子」に、「永久磁石16」は「マグネット」に、「ヨーク15a,15b」は「ポールピース」に、「非磁性シャフト17」は「ピン」に、「リニアアクチュエータ」は「振動アクチュエータ」に、それぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の「一致点2」で一致し、以下の「相違点2-1」、「相違点2-2」で相違する。
(一致点2)
円筒状のケースと、
前記ケースの開口側に取り付けられたダンパカバーと、
外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記ケースの振動軸線に沿って可撓可能なダンパと、
前記ケースに固定されたコイルと、
前記ケースの内部に配置され、前記ダンパの内周部において前記ケースの振動軸線に沿って振動可能に支持された可動子と、
前記可動子は、マグネット及びポールピースと、を備え、
前記可動子は、前記コイルに包囲されている
振動アクチュエータ。
(相違点2-1)
本件発明1は、「円筒を異なる母線に沿って切断した短冊状の複数の分割ヨークと、前記複数の分割ヨークの内周面に沿って巻回され、前記ケースに固定された」コイルと、を備えているのに対し、甲1発明は、コイル12a,12bの外側にそのような分割ヨークを備えていない点。
(相違点2-2)
本件発明1は、可動子に「マス」も備え、また、「前記マスと前記ダンパには、それぞれ中心軸に沿って貫通した穴が設けられ、前記マスの穴と前記ダンパの穴には、前記ダンパにおける前記マスと反対方向からピンが前記マグネットに接触しない長さまで挿入され、前記ピンによって前記マスと前記ダンパが固定され」るのに対し、
甲1発明は、振動子3にマスは備えておらず、また、永久磁石16にも穴が設けられ、板バネ4a,4bの穴、ヨーク15a,15bの穴及び永久磁石16の穴には、非磁性シャフト17が上下に貫通して挿入され、前記非磁性シャフト17によって前記板バネ4a,4b、前記ヨーク15a,15b及び前記永久磁石16が固定される点。
イ 相違点2-1について
上記第4の2(1)~(3)に示される甲2、甲3、参考1をみても、上記相違点2-1に係る、「円筒を異なる母線に沿って切断した短冊状の複数の分割ヨーク」を備えることは、記載も示唆もされていない。また、「円筒を異なる母線に沿って切断した短冊状の複数の分割ヨーク」を備えることが単なる設計事項であるともいえない。
そうすると、甲1発明において、仮に、甲2、甲3、参考1に記載された技術を適用し得たとしても、本件発明1の上記相違点2-1に係る構成には至らない。
したがって、甲1発明において、前記相違点2-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者であっても容易になし得たことではない。
ウ 以上によれば、その余の点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、甲1発明に基いて容易に発明することができたものではない。
(2)本件発明2~7について
本件発明2~7は、本件発明1を、直接的又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明2~7と、甲1発明とをそれぞれ対比すると、両者は、少なくとも、上記で示した、相違点2-1、相違点2-2で相違する。
そして、上記で検討したとおり、甲1発明において、相違点2-1に係る構成は、容易に想到し得たものでない。
以上によれば、その余の点について検討するまでもなく、本件発明2~7は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
第7 まとめ
以上のとおりであるから、本件請求項1~7に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-700156