特許異議申立
2022-700010
振動アクチュエータ
- 審判番号
- 2022-700010
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-156339
- 登録番号
- 6900565
- 請求日
- 2022年01月06日
- 審決日
- 2022年09月26日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】フォスター電機株式会社
- 【権利者代理人】木内 光春
- 【権利者代理人】大熊 考一
- 【権利者代理人】片桐 貞典
- 【権利者代理人】木内 加奈子
- 【異議申立人】伊東 沙織
- 審判長/審判官
- 審判長 佐々木 芳枝
- 審判官 小川 恭司
- 審判官 関口 哲生
- 分類
- P1652.113-YAA(B06B) / P1652.121-YAA(B06B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6900565号発明「振動アクチュエータ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6900565号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第6900565号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第6900565号の請求項1~6に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」~「本件特許6」といい、総称して「本件特許」という。)についての出願は、平成30年4月6日を出願日とする特願2018-73932号(以下、「原出願」という。)の一部を令和2年9月17日に新たな特許出願としたものであって、令和3年6月18日に特許権の設定の登録がされたものである。
本件特許について、令和3年7月7日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である令和4年1月6日に、請求項1~3に係る特許に対し、特許異議申立人 伊東沙織(以下「特許異議申立人」という。)から、特許異議の申立てがされた(異議2022-700010号、以下「本件」という。)。
本件事件についての、その後の手続等の概要は以下のとおりである。
令和4年 4月18日付け:取消理由通知書
令和4年 6月16日付け:意見書(特許権者)、訂正請求書
令和4年 8月 3日付け:意見書(特許異議申立人)
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
令和4年6月16日付け訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は、「特許第6900565号の明細書、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記可動子に固定された板ばね」とあるのを、「外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記可動子に固定され、前記可動子の上下に設けられた板ばね」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正し、請求項3及び請求項4の記載を引用する請求項5、請求項5の記載を引用する請求項6の記載も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記制振用の弾性部材は前記腕部の一部に設けられている」とあるのを、「前記制振用の弾性材は前記腕部の一部に設けられている」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正し、請求項3及び請求項4の記載を引用する請求項5、請求項5の記載を引用する請求項6の記載も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0006】に
「しかし、組立、部品のばらつきにより、振動アクチュエータ内部の磁場が不均一になることにより、ダンパにねじり共振が発生し、固有共振周波数以外で大きな振動が発生する問題点がある。
本発明は、上記問題点に鑑みて成されたもので、その課題は、固有共振周波数以外での大きな振動が抑制でき、更に、固有共振周波数の変化が少なく、十分な振動出力が得られる振動アクチュエータを提供することにある。」とあるのを、
「しかし、組立、部品のばらつきにより、振動アクチュエータ内部の磁場が不均一になることにより、ダンパにねじれ共振が発生し、固有共振周波数以外で大きな振動が発生する問題点がある。
本発明は、上記問題点に鑑みて成されたもので、その課題は、固有共振周波数以外での大きな振動が抑制でき、更に、固有共振周波数の変化が少なく、十分な振動出力が得られる振動アクチュエータを提供することにある。」に訂正する。
(4)訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0007】に
「課題を解決する請求項1に係る発明の振動アクチュエータは、
円筒状のケースと、
該ケースに設けられたコイルと、
該コイルにより前記ケースの振動軸線に沿って振動する可動子と、
外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記可動子に固定された板ばねと、
を有し、
前記板ばねは、前記ケースまたは前記可動子に対する固定部と、前記固定部と一体に設けられて弾性的に変形する腕部とを備え、
前記板ばねには、前記固定部と前記腕部に渡って設けられた制振用の弾性材
が設けられている
ことを特徴とする。」とあるのを、
「課題を解決する請求項1に係る発明の振動アクチュエータは、
円筒状のケースと、
該ケースに設けられたコイルと、
該コイルにより前記ケースの振動軸線に沿って振動する可動子と、
外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記可動子に固定され、前記可動子の上下に設けられた板ばねと、
を有し、
前記板ばねは、前記ケースまたは前記可動子に対する固定部と、前記固定部と一体に設けられて弾性的に変形する腕部とを備え、
前記板ばねには、前記固定部と前記腕部に渡って接触して制振用の弾性材が設けられ、
前記制振用の弾性材は前記腕部の一部に設けられている
ことを特徴とする。」に訂正する。
3 訂正の適否
(1)訂正事項1による訂正について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、板ばねと可動子の位置関係に関し、「前記可動子の上下に設けられた板ばね」に限定するものである。すなわち、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではないこと
訂正事項1により、板ばねと可動子の位置関係が限定された。したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に添付した明細書の【0014】には「第1カバーケース31のケース1と反対側の開口側の端面には、第1ダンパユニット153が配置されている。第1ダンパユニット153は、ステンレス(本実施形態では、SUS304)の薄板を加工してなり、ケース1の振動軸線Oに沿って可撓可能な板ばねである第1ダンパ51と、第1ダンパ51に設けられた第1弾性材150とからなっている。」と記載されており、【0015】には「第2カバーケース41のケース1と反対側の開口側の端面には、第2ダンパユニット353が配置されている。第2ダンパユニット353は、ステンレスの薄板を加工してなり、ケース1の振動軸線Oに沿って可撓可能な板ばねである第2ダンパ251と、第2ダンパ251に設けられた第2弾性材350とからなっている。」と記載されており、【0021】には「第1ダンパユニット153と第2ダンパユニット353との間には、コイル21に包囲され、振動軸線Oに沿って振動する可動子111が配置される。」と記載されており、【0037】には「図13の極性では、可動子111には下方(矢印A方向)への推力が発生し、第1コイル23、第2コイル25へ流す電流を反転させれば、可動子111には上方向(矢印B方向)への推力が発生する。」と記載されている。そして、これらの記載と、図1及び図13から、板ばねが可動子の上下に設けられていることがわかる。
そうすると、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
(ア)請求項1~3について
本件においては、訂正前の請求項1~3について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項1~3に係る訂正事項1に関して、独立特許要件は課されない。
(イ)請求項4~6について
第4及び第5において後述するように、訂正後の請求項1~3に係る発明は新規性及び進歩性を有するから、それを引用する訂正後の請求項4~6に係る発明も新規性及び進歩性を有する。また、その他に訂正後の請求項4~6に係る発明を拒絶するべき理由もないから、訂正後の請求項4~6に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
(2)訂正事項2による訂正について
ア 訂正の目的
訂正前の請求項1には「前記固定部と前記腕部に渡って接触して制振用の弾性材が設けられ、前記制振用の弾性部材は前記腕部の一部に設けられている」と記載されているが、訂正前の請求項2~4には「前記弾性材」との記載はあるものの、「弾性部材」との記載はない。また、願書に添付した明細書の全体を通して「弾性材」との記載は多数あるが、「弾性部材」という用語は記載されておらず、「弾性部材」という用語は訂正前の請求項1の上記記載以外には用いられていない。そして、明細書、特許請求の範囲又は図面の記載を総合すれば、訂正前の請求項1における「弾性部材」が「弾性材」を意味していることは明らかである。したがって、訂正事項2は誤記の訂正を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではないこと
上記アで検討したとおり、訂正前の「弾性部材」と訂正後の「弾性材」とは同じ意味であるから、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
ウ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に最初に添付した明細書の【0007】には「前記板ばねには、前記固定部と前記腕部に渡って設けられた制振用の弾性材が設けられている」と記載されており、【0009】には「前記第1板ばね、前記第2板ばねの隣接する腕部の中間部を橋絡する弾性材を設けたことにより、板ばねのねじれ共振が抑制され、固有共振周波数以外の周波数での大きな振動の発生がなくなる。」などと記載されており、制振用に板ばねに設けられているものは弾性材であると理解できる。また、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面において「弾性部材」という用語は使用されていない。したがって、訂正事項2は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
よって、訂正事項2は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
(ア)請求項1~3について
本件においては、訂正前の請求項1~3について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項1~3に係る訂正事項2に関して、独立特許要件は課されない。
(イ)請求項4~6について
上記(1)で検討したとおり、訂正後の請求項4~6に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
(3)訂正事項3による訂正について
ア 訂正の目的
訂正前の【0006】には「ダンパにねじり共振が発生し」と記載されているが、【0009】には「板ばねのねじれ共振が抑制され」と記載され、【0011】には「【図14】 図1に示す第1弾性ダンパ、第2弾性ダンパのねじれ共振を説明する図である。」と記載され、【0012】には「図14は図1に示す第1弾性ダンパ、第2弾性ダンパのねじれ共振を説明する図」と記載され、【0060】には「実線で示す弾性材とダンパとからなる第1ダンパユニット、第2ダンパユニットを用いた場合、ねじれ共振が抑制されていることがわかる。」と記載されおり、「ねじり共振」という用語は訂正前の【0006】の上記記載以外には用いられていない。そして、明細書、特許請求の範囲又は図面のの記載を総合すれば、訂正前の【0006】における「ねじり共振」が「ねじれ共振」を意味していることは明らかである。したがって、訂正事項3は誤記の訂正を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではないこと
上記アで検討したとおり、訂正前の「ねじり共振」と訂正後の「ねじれ共振」とは同じ意味であるから、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
ウ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に最初に添付した明細書の【0009】には「板ばねのねじれ共振が抑制され」と記載され、【0011】には「【図14】 図1に示す第1弾性ダンパ、第2弾性ダンパのねじれ共振を説明する図である。」と記載され、【0012】には「図14は図1に示す第1弾性ダンパ、第2弾性ダンパのねじれ共振を説明する図」と記載され、【0060】には「実線で示す弾性材とダンパとからなる第1ダンパユニット、第2ダンパユニットを用いた場合、ねじれ共振が抑制されていることがわかる。」と記載されおり、ダンパに発生する振動はねじれ共振であると理解できる。したがって、訂正事項3は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
よって、訂正事項3は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
(ア)請求項1~3について
本件においては、訂正前の請求項1~3について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項1~3に係る訂正事項2に関して、独立特許要件は課されない。
(イ)請求項4~6について
上記(1)で検討したとおり、訂正後の請求項4~6に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
(4)訂正事項4による訂正について
ア 訂正の目的
訂正事項4は、訂正事項1及び訂正事項2に係る訂正に伴って、願書に添付した明細書の段落【0007】の記載を、訂正後の請求項1の記載に整合させるものであるから、訂正事項4は明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではないこと
訂正事項4は、訂正後の請求項1の記載に整合させるものであって、訂正事項1及び2に係る訂正と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲
訂正事項4は、願書に添付した明細書の段落【0007】の記載を、訂正後の請求項1の記載に整合させるものであり、上記(1)(2)で検討したとおり、訂正後の請求項1の記載は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、訂正事項4も、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
訂正事項4は明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であるから、独立特許要件は課されない。
(5)一群の請求項について
訂正事項1~4に係る訂正前の請求項1~6について、請求項2~6は直接的または間接的に請求項1を引用しているものであって、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6に係る本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。
4 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、全て、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号又は第3号に掲げる事項を目的とするものである。また、同訂正は、同法同条第9項において準用する同法第126条第4項~第7項の規定に適合する。
よって、結論に記載のとおり、特許第6900565号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~6に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
円筒状のケースと、
該ケースに設けられたコイルと、
該コイルにより前記ケースの振動軸線に沿って振動する可動子と、
外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記可動子に固定され、前記可動子の上下に設けられた板ばねと、
を有し、
前記板ばねは、前記ケースまたは前記可動子に対する固定部と、前記固定部と一体に設けられて弾性的に変形する腕部とを備え、
前記板ばねには、前記固定部と前記腕部に渡って接触して制振用の弾性材が設けられ、
前記制振用の弾性材は前記腕部の一部に設けられている
ことを特徴とする振動アクチュエータ。
【請求項2】
前記板ばねは、複数の前記腕部を備え、
前記弾性材は、隣接する前記複数の腕部に渡って取り付けられていることを特徴とする請求項1記載の振動アクチュエータ。
【請求項3】
前記弾性材は、板状の部材である請求項1又は請求項2記載の振動アクチュエータ。
【請求項4】
前記可動子の中心軸に沿って設けられた貫通穴と、
前記板ばねの中心軸に沿って設けられた貫通穴と、
前記弾性材の中心軸に沿って設けられた貫通穴と、
前記可動子の貫通穴と前記板ばねの貫通穴と前記弾性材の貫通穴に挿入されたピンと、
を備え、
前記板ばねと前記弾性材は、両者が重ねあわされた状態で、前記ピンによって前記可動子に対して固定されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の振動アクチュエータ。
【請求項5】
前記板ばねは、複数の前記腕部を備え、
前記弾性体には前記固定部に積層される円環状の支持部が設けられ、
前記円環状の前記支持部に対して、前記複数の腕部と同数の橋絡部が一体に設けられている
ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の振動アクチュエータ。
【請求項6】
前記複数の腕部と、同数の前記橋絡部が重ね合わされ、
前記複数の腕部間に設けられた空隙部と、前記同数の橋絡部間に設けられた空隙部が連通している
ことを特徴とする請求項5に記載の振動アクチュエータ。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1及び3に係る特許に対して、当審が令和4年4月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)(新規性)本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証(特開2009-33864号公報)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、当該請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)(進歩性)本件特許の請求項1及び3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、当該請求項4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 各証拠の記載
(1)甲第1号証(以下、「甲1」という。)
ア 甲1の記載事項
特許異議申立人が特許異議の申立ての理由に引用するとともに、令和4年4月18日付け取消理由通知に引用した甲1には、図面とともに以下の事項が記載又は示されている(下線は、当審で付与した。以下、同様。)。
(ア) 「【0008】
前記振動の共振周波数のQ値の改善効果を高めるには、前記弾性体の厚さを大きくすることが考えられるが、この場合は、弾性体の使用量(塗着量)が増加する。又、弾性体の厚さに対応して、板バネと可動子の位置決め精度(組み付け精度を含む)を厳密に管理しなければならないという問題がある。
【0009】
そこで、前記位置決め精度の厳密な管理を不要にし、且つ、良好な作業性を確保しつつ、振動の共振周波数のQ値を向上させるために解決せられるべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明は該課題を解決することを目的とする。」
(イ) 「【0025】
尚、本実施例は、筐体内の可動子を円環状の板バネにより弾性支持すると共に、該板バネに円弧形状の振動変形部(中間円弧部)を形成し、該振動変形部の根元部又は中間部に弾性体を貼着若しくは塗着の手段で固着することにより、弾性体の固着作業性を向上させ、且つ、該振動変形部の振動抑制作用を増大させたものであるが、該振動変形部の大きさや個数などにより振動変形部の根元部及び中間部の双方に弾性体を固着することもできる。
【0026】
図において、11は振動発生装置10の筐体であり、該筐体11は、扁平な円筒状のカバー12と円板状の底部ケース(固定子)13とを互いに一体に結合して形成されている。該底部ケース13の上面中央には、図2に示すように、円筒状の駆動用のコイル14が固定され、該コイル14には図示しないリード線が接続されている。」
(ウ) 「【0028】
更に、第1可動部ヨーク16下部の外周段差部には円環状の板バネ19が固着されている。又、該板バネ19の外周部は、筐体11の側壁に固着されている。又、第1可動部ヨーク16の内周面と前記マグネット17及び第2可動部ヨーク18の外周面との間にはリング状の空間Sが形成され、該空間Sに前記コイル14の上部が装入されている。」
(エ) 「【0031】
図示例では、3個の各中間円弧部23,24,25の内周縁及び外周縁と、前記内周リング部21及び外周リング部22とは、スリット26,27,28の内周円弧部26a,27a,28a及び外周円弧部26b,27b,28bによって夫々分離区分されている。」
(オ) 「【0033】
従って、各中間円弧部23,24,25は両持ち構造に形成され、前記内周側根元部23a,24a,25a及び外周側根元部23b,24b,25bを支点として、板バネ19の厚さ方向に振動できるように構成されている。上記振動発生装置10では、通電によりコイル14に発生する電磁力と、前記マグネット15より発生する磁束とによって、可動子15に上下方向の振動が発生する。そして、該可動子15に発生した振動は、板バネ19を介して筐体11のカバー12に伝達される。」
(カ) 「【0035】
図4に示す実施例では、3つの弾性体31,32,33は、各内周側根元部23a,24a,25aにおいて、前記スリット26,27,28の一端部を跨ぐように取り付けられている。依って、3つの弾性体31,32,33は、板バネ19の内周方向に沿って120度の等間隔(回転対称)を有して配置されている。
【0036】
又、3つの弾性体34,35,36は、各外周側根元部23b,24b,25bにおいて、前記スリット26,27,28の他端部を跨ぐように取り付けられている。依って、3つの弾性体34,35,36も上記同様に、板バネ19の外周方向に沿って120度間隔(回転対称)を有して配置されている。」
(キ) 「【0038】
このように、前記中間円弧部23,24,25の内周側根元部23a,24a,25a及び外周側根元部23b,24b,25bにおいて、弾性体31,32,33及び弾性体34,35,36によって前記振動の振れを直接吸収除去できるので、該振動の共振周波数のQ値が改善され、動作周波数として使用可能な有効帯域が大幅に拡大する。」
(ク) 「
[図:0001392043000001.jpg]
」
(ケ) 図3からは、可動子15の第1可動部ヨーク16下部の外周段差部には板バネ19の内周部が固着されていることが看取され、図4からは、板バネ19の内周部が内周リング部21であり、板バネ19の外周部が外周リング部22であり、これらを中間円弧部23~25が接続していること、弾性体31~36は中間円弧部23~25の一部に設けられていることが看取されること、上記(ウ)には「第1可動部ヨーク16下部の外周段差部には円環状の板バネ19が固着されている。又、該板バネ19の外周部は、筐体11の側壁に固着されている。」と記載されていることから、板バネ19の外周部である外周リング部22が筐体11に固着され、板バネ19の内周部である内周リング部21が可動子15に固着されていることがわかる。
(コ) 上記(エ)及び(カ)から、板バネ19には、外周リング部22または内周リング部21と中間円弧部23~25とを分離区分しているスリットを跨ぐように弾性体31~36が取り付けられていることがわかる。
イ 甲1発明
上記アを総合すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「円筒状のカバー12と円板状の底部ケース13とから形成される筐体11と、
該筐体11を形成する底部ケース13に固定されたコイル14と、
該コイル14への通電により板バネ19の厚さ方向である上下方向に振動する可動子15と、
前記板バネ19の外周部である外周リング部22が前記筐体11に固着され、板バネ19の内周部である内周リング部21が前記可動子15に固着され、前記可動子15の第1可動部ヨーク16の下部に設けられた前記板バネ19と、
を有し、
前記板バネ19は、前記筐体11または前記可動子15に対して固着されている前記外周リング部22または前記内周リング部21と、前記外周リング部22及び前記内周リング部21を接続し、可動子を弾性支持する板バネの振動変形部である中間円弧部23~25とを備え、
前記板バネ19には、前記外周リング部22または前記内周リング部21と前記中間円弧部23~25とを分離区分しているスリットを跨ぐように弾性体31~36が取り付けられ、
前記弾性体31~36は前記中間円弧部23~25の一部に設けられている
振動発生装置10。」
(2)甲第2号証(特開昭57-117133号公報。以下、「甲2」という。)
ア 甲2の記載事項
特許異議申立人が特許異議の申立ての理由に引用した甲2には、図面とともに以下の事項が記載又は示されている。
(ア) 「本発明は記録媒体上に螺旋あるいは同心円状に記録された情報トラツクに読取り光スポツトを投影して情報を読取る装置において対物レンズを、その光軸方向に駆動する対物レンズ駆動装置に関るものである。」(1頁右下欄9行~13行)
(イ) 「従来このような情報読取り装置のフオーカツシング制御を行なうための対物レンズ駆動装置は種種提案されているが、その一例を第1図に示す。対物レンズ1を中枠に固着する。この中枠2は第2図で示すような環状の周辺部とうずまき状腕部とを有する一対の板ばね3、4により外枠3に取り付ける。」(2頁左上欄17行~右上欄3行)
(ウ) 「このような対物レンズ駆動装置によれば、コイル7にフオーカツシング誤差に対応した電流を流すことにより中枠2を光軸方向に所定の量だけ移動させ、フオーカツシングを行うことができる。
しかし、この従来の対物レンズ駆動装置に用いるうず巻き状板ばねの周波数特性は第3図に示すように、500Hz附近に、この板ばねのうず巻き状腕部が共振して生ずる乱れ(共振点)があり、このため対物レンズの制御が困難になるという欠点があつた。
本発明の目的は、上述した欠点を除去し、従来のばね特件を大きく変えることなく、対物レンズの移動を案内する板ばねの共振を押え良好な周波数特性を得るよう適切に構成した対物レンズ駆動装置を提供することにある。」(2頁右上欄11行~左下欄6行)
(エ) 「以下図面を参照して本発明を詳細に説明する。
第4図Aおよび第4図Bは、本発明の対物レンズ駆動装置の一例の構成を示す平面図および一部断面正面図である。簡明のため第1図と同一部分を同一符号で表わし、同一の構成および動作の説明を省略する。
中枠2はうず巻き状板ばね12、13により外枠5に取り付ける。この板ばね12、13は中心から外周に向かうに従がい腕14の幅が一様に変化しており、内周側で太く、外周側で細くなつている。この板ばね12、13に中心孔を有し円板状で振動吸収可能な弾性部材より成るリングダンパー15、16を設ける。この対物レンズ駆動装置の作動は、コイル7に電流を流すことにより中枠2を進退させフオーカツシングを行なうことができる。この際板ばね12、13は、コイル7に流す電流の周波数がこの板ばねの共振周波数付近になると共振を起こそうとするが、リングダンパー15、16で抑えるので共振を起こさない。」(2頁左下欄14行~右下欄12行)
(オ) 「
[図:0001392043000002.jpg]
」
(カ) 第4図Bからは、対物レンズ1が固着されている中枠2の上下に、うず巻き状板ばね12、13が設けられていることが看取される。
イ 甲2に記載の技術的事項
上記アを総合すると、甲2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
「対物レンズ1が固着されている中枠2の上下に、うず巻き状板ばね12、13を設け、コイル7に電流を流すことにより中枠2を光軸方向に所定の量だけ移動させてフオーカツシングを行う対物レンズ駆動装置。」
(3)甲第3号証(特開2013-126299号公報。以下、「甲3」という。)
ア 甲3の記載事項
特許異議申立人が特許異議の申立ての理由に引用した甲3には、図面とともに以下の事項が記載又は示されている。
(ア) 「【0002】
上記リニアアクチュエータは、固定子への通電により振動子を往復移動(振動)させて、例えば防振用や加振用のアクチュエータとして利用される。 従来のリニアアクチュエータは、アクチュエータのうちの振動子が設けられた機構部と、制御基板等が収容されている制御部とが別個に構成されていた(例えば、特許文献1参照)。」
(イ) 「【0004】
このために、リニアアクチュエータを設けた機構部と制御基板を設けた制御部とに対して、夫々別々に防水・防塵処理を施さなければならず構成が煩雑なものとなっていた。また、取付対象位置に対して夫々の部品を取り付けなければならず、一定の取付工数が必要であった。さらに、双方の部品が占める体積が大きくなってアクチュエータの取付箇所が制約されるなどの問題も生じていた。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、防塵性と防水・防滴性とを備え、各種機器に対する取り付けの手間を軽減することができ、コンパクト化も図り易いリニアアクチュエータを提供することを目的とする。」
(ウ) 「【0006】
本構成のリニアアクチュエータは、ケースの内部に備えた筒状の固定子と、固定子の内部に配置された状態で弾性体を介してケースに弾性支承された振動子と、振動子の移動領域を規制するよう振動子と当接可能に設けられた一対の規制部と、ケースの内部の振動子と干渉しない位置に設けてある制御基板とを備えている。
このため、リニアアクチュエータの防塵性と防水・防滴性を備えさせることができると共に、制御基板をリニアアクチュエータと一体に機器に取り付けることができるので、各種機器に対する取り付けの手間を軽減することができる。」
(エ) 「【0015】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1~図3は、本発明によるリニアアクチュエータを示す。
リニアアクチュエータは、ケース1の内部に備えた円筒状の固定子2と、固定子2の内部に同芯状に配置された振動子(可動子)3と、振動子3をケース1に弾性支承する弾性体4と、ケース1の内部のうちの振動子3の往復移動方向(ケース1の中心軸芯Xに沿う方向)の両外側に設けられた一対の規制部5と、アクチュエータ制御用の電子回路を設けてある制御基板6とを備えている。」
(オ) 「【0019】
固定子2は、ケース1の中心軸芯Xと同芯状に並設された2つのコイル12a,12bと、これらのコイル12a,12bを各別に収容する上下二つの円環状のコア13a,13bとを有する。
コア13a,13bは、鉄や磁性ステンレスなどの磁性金属で形成してある断面が外向きコの字状の円環状部材14を胴部7aの内周面に圧入により固定して、その一部をケース本体7の胴部7aで形成してある。
コイル12aとコイル12bは、巻き線方向が互いに逆向きになるように設けて直列に接続してあり、通電時に生じる交番磁界により振動子3を固定子2に対して同芯状に往復移動させる。」
(カ) 「【0021】
振動子3を弾性支承する弾性体4は、外周部が上側コア13aと蓋部7bとの間に挟み込んで固定され、かつ、内周側が上部ヨーク15aと非磁性シャフト17の軸部17aとの間に挟み込まれた平面視で環状の上部板バネ4aと、外周部が下側コア13bと区画板8との間に挟み込んで固定され、かつ、内周側が下部ヨーク15bと非磁性シャフト17の軸部17bとの間に挟み込まれた平面視で環状の下部板バネ4bとで構成してある。
したがって、振動子3は、コイル12a,12bに通電することにより、上部板バネ4a及び下部板バネ4bを弾性的に撓み変形させながら、中心軸芯Xの方向に往復移動する。」
(キ) 「
[図:0001392043000003.jpg]
」
イ 甲3発明及び甲3に記載の技術的事項
上記アを総合すると、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)及び技術的事項が記載されていると認められる。
(甲3発明)
「円筒状のケース1と、
該ケース1に並設されたコイル12a、12bと、
該コイル12a、12bにより前記ケースの中心軸芯Xに沿う方向に往復移動する振動子3と、
外周部が前記ケース1の蓋部7bと上側コア13aとの間に固定され、内周側が前記振動子3の上部ヨーク15aと非磁性シャフト17の軸部17aとの間に挟み込まれた上部板バネ4aと、外周部が下側コア13bと区画板8との間に固定され、内周側が前記振動子3の下部ヨーク15bと非磁性シャフト17の軸部17bとの間に挟み込まれた下部板バネ4bと、
を有し、
前記上部板バネ4a及び下部板バネ4bは、外周部または内周側が前記ケース1または前記振動子3に固定され平面視で環状に構成してある、
リニアアクチュエータ。」
(甲3に記載の技術的事項)
「振動子3を弾性支持する上部板バネ4aと下部板バネ4bとを備えるリニアアクチュエータ。」
(4)参考資料1(特開2007-203227号公報。以下、「参考1」という。)
ア 参考1の記載事項
特許異議申立人が令和4年8月3日付け意見書に添付した参考1には、図面とともに以下の事項が記載又は示されている(下線は、当審で付与した。以下、同様。)。
(ア) 「【0008】
しかしながら従来技術の一対の板バネ30a、30bは、駆動子9を挟んで対向配設されているため、それぞれの腕部33a、33bは互いに面対称をなすことになる。したがって、それぞれの腕部33a、33bの渦巻きの方向は、駆動子9が往復運動する軸心方向の一方から見た場合、互いに異なる方向となる。このため、駆動子9が往復運動するにともない一対の板バネ30a、30bは共に同じ方向に僅かに回転する。例えば、図6に示すように駆動子9が矢印Aの方向に移動すると一方の板バネ30aは、矢印Aの方向に伸張され、腕部33aの渦巻きの方向、即ち矢印Fの方向に僅かに回転する外力が作用する。また、他方の板バネ30bは矢印Aの方向に圧縮され腕部33bの渦巻きの方向と反対の方向、即ち矢印Eの方向に僅かに回転する外力が作用する。このとき、矢印Fの方向と矢印Eの方向とは同一方向となり、駆動子9が往復運動する軸心方向の一方から見た場合、一対の板バネ30a、30bは共に同じ方向(矢印E、Fの方向)に僅かに回転する。また、図示していないが、駆動子9が矢印Aの方向と反対方向に移動した場合には、一対の板バネ30a、30bは矢印E、Fの方向とは反対の方向で共に同じ方向に僅かに回転する。
【0009】
このため、駆動子9を一対のリング状の板バネ30a、30bで弾性的に支持した従来の振動体においては、共振が発生する周波数にばらつきが生じるという問題があった。図7は入力電圧に対する従来の振動体の周波数と加速度との関係を表わしたグラフである。図7に示す様に従来の振動体は入力電圧の変化によって共振周波数が変化し安定した振動動作を得ることが困難であった。これは、一対のリング状の板バネ30a、30bが同じ方向に回転することによって、一対の板バネ30a、30bに作用する外力と撓み量の関係が非線形となったためと推定される。」
「【0019】
図1に示すように、本実施形態における振動体は、円筒形状のコイル10と、コイル10内に挿入される駆動子20と、駆動子20を弾性的に支持するサスペンションとしての第1の板バネ3と第2の板バネ5とを備え、コイル10に交流電流を供給することにより駆動子20をコイル10の軸心方向に往復運動させて振動を発生させるものである。また、コイル10と、駆動子20と、第1、第2の板バネ3、5とは、ケース15に納められており、ケース15は駆動子20を囲む枠体4と、コイル10を固定すると共に枠体4の一方の開口側を塞ぐ基板1と、枠体4の他方の開口側を塞ぐプロテクター6とを備えている。」
(イ) 「【0022】
このように、第1、第2の板バネ3、5は駆動子20を挟んで対向配置した場合、それぞれの腕部13、23の渦巻きの方向が駆動子9が往復運動する軸心方向の一方から見たとき互いに同じ方向となるように形成されている。このため、第1、第2の板バネ3、5は駆動子20の往復運動にともなって変位するときにそれぞれ僅かに回転する外力が作用するが、その回転方向が互いに反対の方向となり回転作用は相殺され回転は生じない。
」
(ウ)「
[図:0001392043000004.jpg]
」
イ 参考1に記載の技術的事項
上記アを総合すると、参考1には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
(参考1に記載の技術的事項)
「第1、第2の板バネ3、5の腕部13、23の渦巻きの方向が駆動子9が往復運動する軸方向から見たとき互いに同じ方向となるように形成され、第1、第2の板バネ3、5が駆動子20を挟んで対向配置された振動体。」
3 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とをその機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲1発明の「円筒状のカバー12と円板状の底部ケース13とから形成される筐体11」は本件発明1の「円筒状のケース」に相当し、以下同様に、「該筐体11を形成する底部ケース13に固定された」という事項は「該ケースに設けられた」という事項に、「コイル14」は「コイル」に、「該コイル14への通電により」という事項は「該コイルにより」という事項に、「板バネ19の厚さ方向である上下方向に振動する」という事項は「前記ケースの振動軸線に沿って振動する」という事項に、「可動子15」は「可動子」に、「前記板バネ19の外周部である外周リング部22」は「外周部」に、「固着」は「固定」に、「板バネ19の内周部である内周リング部21」は「内周部」に、それぞれ相当する。
甲1発明の「前記可動子15の第1可動部ヨーク16の下部に設けられた」という事項と本件発明1の「前記可動子の上下に設けられた」という事項は「前記可動子の下に設けられた」という点で共通する。
甲1発明の「板バネ19」は本件発明1の「板バネ」に相当し、以下同様に、「前記筐体11または前記可動子15に対して固着されている前記外周リング部22または前記内周リング部21」は「前記ケースまたは前記可動子に対する固定部」に、「前記外周リング部22及び前記内周リング部21を接続し、可動子を弾性支持する板バネの振動変形部である中間円弧部23~25」あるいは「中間円弧部23~25」は「前記固定部と一体に設けられて弾性的に変形する腕部」あるいは「腕部」に、「前記外周リング部22または前記内周リング部21と前記中間円弧部23~25とを分離区分しているスリットを跨ぐように弾性体31~36が取り付けられ」という事項は「前記固定部と前記腕部に渡って接触して制振用の弾性材が設けられ」という事項に、「弾性体31~36」は「制振用の弾性材」に、「振動発生装置」は「振動アクチュエータ」に、それぞれ相当する。
したがって、両者は、
「円筒状のケースと、
該ケースに設けられたコイルと、
該コイルにより前記ケースの振動軸線に沿って振動する可動子と、
外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記可動子に固定され、前記可動子の下に設けられた板ばねと、
を有し、
前記板ばねは、前記ケースまたは前記可動子に対する固定部と、前記固定部と一体に設けられて弾性的に変形する腕部とを備え、
前記板ばねには、前記固定部と前記腕部に渡って接触して制振用の弾性材が設けられ、
前記制振用の弾性材は前記腕部の一部に設けられている
振動アクチュエータ。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1では、板バネが可動子の「上下」に設けられているのに対し、甲1発明では、板バネが可動子の「下」にのみ設けられている点。
イ 判断
相違点1について検討する。
甲1発明は、上記2(1)ア(キ)で摘記した【0038】に記載されているとおり、板バネ19の所定箇所に弾性体31~36を取り付けることによって、振動の共振周波数のQ値を向上させ、動作周波数として使用可能な有効帯域を拡大したものであるところ、板バネ19を可動子の上に追加すべき課題の開示等は無い。
参考1には、上記2(4)で検討したとおり、第1、第2の板バネ3、5が駆動子20を挟んで対向配置された振動体が記載されている。しかし、参考1の振動体は、上記2(4)アの(ア)及び(ウ)で摘記した【0008】【0009】【0022】に記載されているとおり、駆動子を挟んで対向配置されている一対の板バネが同じ方向に回転することで共振周波数にばらつきが生じるという問題を解決するために、第1、第2の板バネ3、5の腕部13、23の渦巻きの方向を互いに同じ方向となるように形成して、回転作用を相殺させたものであって、そもそも第1、第2の板バネ3、5が駆動子20を挟んで対向配置されるようにしたことの根拠は記載されていない。
そうすると、板バネを可動子15の下部のみに設けている甲1発明において、一対の板バネが同じ方向に回転することに起因する問題は生じ得ず、参考1に記載された技術的事項を適用する動機付けはないから、甲1発明の板バネ19に参考1に記載された技術的事項を適用して板バネ19を可動子15の上下に設けるようにすることは当業者といえども容易になし得たこととはいえない。
また、甲2には、上記2(2)で検討したとおり、中枠2の上下に、うず巻き状板ばね12、13を設ける技術的事項が記載されているが、甲2の対物レンズ駆動装置は、上記2(2)アの(ア)及び(ウ)で摘記したとおり、フオーカツシングのために対物レンズを所定の量だけ移動させる装置であって、うず巻き状板ばね12,13が共振よって振動を起こさないようにすることを目的としており、甲1発明の振動を発生させるための装置とは基本的な機能が異なる。また、うず巻き状板ばね12、13を中枠2の上下に設けた根拠については記載が無い。
さらに、甲3には、上記2(3)で検討したとおり、振動子3を弾性支持するために上部板バネ4aと下部板バネ4bとを備えているリニアアクチュエータが記載されているが、振動子3を弾性支持する板バネを、上部板バネ4aと下部板バネ4bの2つとしたことの根拠は記載されていない。
そうすると、参考1、甲2、甲3から、板ばねを可動子の上下に設けること自体が周知技術であっとしても、これらの文献には、板ばねを可動子の上下に設ける目的や、その結果奏される作用効果に関する記載は無く、上述したとおり甲1発明においても板バネ19を可動子の上に追加すべき課題の開示等は無いから、甲1発明に周知技術を適用する動機付けはない。また、甲1発明は、板バネを可動子15の下部に設けることを前提とした構造となっているため、板バネを可動子15の上部に追加するためには大幅な改造が必要となる。これらのことから、甲1発明の板バネ19に周知技術を適用して板バネ19を可動子15の上下に設けるようにすることは当業者といえども容易になし得たこととはいえない。
そして、本件発明1は、相違点1に係る発明特定事項を備えることにより、「十分な振動出力が得られる」(本件特許公報段落【0042】)という格別の効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は甲1発明ではないし、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)本件発明3について
本件発明3も、本件発明1の相違点1に係る発明特定事項と同一の構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、令和4年8月3日付けの意見書において、「板ばねを可動子の上下に設ける点については、例えば参考資料1に記載の通り周知の技術である。参考資料1には、駆動子の軸心方向両側に板ばねを設けて軸心方向の往復運動安定化を図る技術が、記載されている。ここで、携帯端末等の機器内で振動により使用者への報知を行う振動発生装置の分野において、可動子の振動動作の安定支持という課題は、具体例を示すまでもなく周知且つ普遍的な課題であり、甲第1号証に記載の発明においても当然に、可動子の振動動作の安定支持が求められていると解すべきである。したがって、甲第1号証に記載の発明においては、当該周知の技術の適用の動機付けがあり、また、その適用を阻害する要因はない。してみれば、本件特許発明の請求項1、3は、依然として、甲第1号証に記載の発明により進歩性を有さず、取り消されるべきものである。」と主張している。
しかし、上記3(1)イで検討したとおり、参考1の振動体は、駆動子を挟んで対向配置されている一対の板バネが同じ方向に回転することで共振周波数にばらつきが生じるという問題を解決するために、第1、第2の板バネ3、5の腕部13、23の渦巻きの方向を互いに同じ方向となるように形成することで回転作用を相殺させたものであるから、参考1には、特許異議申立人が主張する「駆動子の軸心方向両側に板ばねを設けて軸心方向の往復運動安定化を図る技術」は記載されていない。
また、上記3(1)イで検討したように参考1、甲2、甲3から、板ばねを可動子の上下に設けること自体が周知技術であっとしても、これらの文献には、板ばねを可動子の上下に設ける目的や、その結果奏される作用効果に関する記載は無い。したがって、可動子の振動動作の安定支持という課題を解決するために、駆動子の軸心方向両側に板ばねを設けることが周知であるとの証拠は無い。
そのため、可動子の振動動作の安定支持という課題が周知の課題であったとしても、駆動子の軸心方向両側に板ばねを設けることの動機付けにはなり得ない。
よって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。
(4)取消理由通知に記載した取消理由についてのまとめ
以上のとおりであるから、令和4年4月18日付けの取消理由通知書に記載した取消理由によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 本件訂正前の本件特許に対する取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由は、次のとおりである。
(1)理由A(進歩性)
本件発明2及び3は、甲1に記載された発明及び甲2に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(2)理由B(進歩性)
本件発明1は、甲3に記載された発明及び甲1に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(3)理由C(進歩性)
本件発明2及び3は、甲3に記載された発明、甲1に記載の技術事項及び甲2に記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
2 当審の判断
(1)理由Aについて
本件発明2は、本件発明1に対し、さらに「前記板ばねは、複数の前記腕部を備え、前記弾性材は、隣接する前記複数の腕部に渡って取り付けられている」という技術的事項を追加したものである。また、本件発明3は、本件発明1又は本件発明2に対し、さらに「前記弾性材は、板状の部材である」という技術的事項を追加したものである。
そうすると、上記第4・3(1)と同様の理由により、本件発明2及び本件発明3は、甲1発明、甲2に記載の技術的事項、甲3に記載の技術的事項及び参考1に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)理由Bについて
ア 対比
本件発明1と、上記第4・2(3)イにおいて認定した甲3発明とをその機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲3発明の「ケース1」は本件発明1の「ケース」に相当し、以下同様に、「並設された」という事項は「設けられた」という事項に、「コイル12a,12b」は「コイル」に、「前記ケースの中心軸芯Xに沿う方向に往復移動する」という事項は「前記ケースの振動軸線に沿って振動する」という事項に、「振動子3」は「可動子」に、「外周部が前記ケース1の蓋部7bと上側コア13aとの間に固定され、内周側が前記振動子3の上部ヨーク15aと非磁性シャフト17の軸部17aとの間に挟み込まれた上部板バネ4aと、外周部が下側コア13bと区画板との間に固定され、内周側が前記振動子3の下部ヨーク15bと非磁性シャフト17の軸部17bとの間に挟み込まれた下部板バネ4b」は「外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記可動子に固定され、前記可動子の上下に設けられた板ばね」に、「前記上部板バネ4a及び下部板バネ4bは、外周部または内周側が前記ケース1または前記振動子3に固定され」という事項は「前記板ばねは、前記ケースまたは前記可動子に対する固定部」「を備え」という事項に、「リニアアクチュエータ」は「振動アクチュエータ」に、それぞれ相当する。
したがって、両者は、
「円筒状のケースと、
該ケースに設けられたコイルと、
該コイルにより前記ケースの振動軸線に沿って振動する可動子と、
外周部が前記ケースに固定され、内周部が前記可動子に固定され、前記可動子の上下に設けられた板ばねと、
を有し、
前記板ばねは、前記ケースまたは前記可動子に対する固定部を備える、
振動アクチュエータ。」である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点3>
本件発明1の板バネは、「前記固定部と一体に設けられて弾性的に変形する腕部」を備えているのに対し、甲3発明の上部板バネ4a及び下部板バネ4bは、平面視で環状に構成されているものの、腕部を備えているか不明な点。
<相違点4>
本件発明1では、「前記板ばねには、前記固定部と前記腕部に渡って接触して制振用の弾性材が設けられ、前記制振用の弾性材は前記腕部の一部に設けられている」のに対し、甲3発明は制振用の弾性材を備えていない点。
イ 判断
相違点3、4について検討する。
甲1には、上記第4・2(1)検討したとおり、固定部と一体に設けられて弾性的に変形する腕部を備えている板ばねの、固定部と腕部に渡って接触して制振用の弾性材を設けるという技術的事項が開示されている。
しかし、甲3発明は、「従来のリニアアクチュエータは、アクチュエータのうちの振動子が設けられた機構部と、制御基板等が収容されている制御部とが別個に構成されていた」(【0002】参照)ため、「リニアアクチュエータを設けた機構部と制御基板を設けた制御部とに対して、夫々別々に防水・防塵処理を施さなければならず構成が煩雑なものとなっていた」(【0003】参照)という課題を解決するために、「本構成のリニアアクチュエータは、ケースの内部に備えた筒状の固定子と、固定子の内部に配置された状態で弾性体を介してケースに弾性支承された振動子と、振動子の移動領域を規制するよう振動子と当接可能に設けられた一対の規制部と、ケースの内部の振動子と干渉しない位置に設けてある制御基板とを備えている。」(【0006】参照)という構成を採用することで、「防塵性と防水・防滴性とを備え、各種機器に対する取り付けの手間を軽減することができ」た(【0006】参照)ものであって、甲3には、上部板バネ4aと下部板バネ4b形状を、腕部を備えた形状としなければならない課題や、当該腕部に制振用の弾性材を設けなければいけない課題等は開示されていない。
また、甲1の、振動の共振周波数のQ値が改善されて動作周波数として使用可能な有効帯域を大幅に拡大するという課題が、甲3においても当然に考慮されるべき課題であるともいえない。
そうすると、甲3発明に、甲1に記載された技術的事項を適用する動機付けはないから、甲3発明の上部板バネ4a及び下部板バネ4bに、甲1に記載された技術的事項を適用して、上部板バネ4a及び下部板バネ4bが腕部を備えている形状とし、更に、上部板バネ4a及び下部板バネ4bの固定部と当該腕部に渡って接触して制振用の弾性材が設けられ、前記制振用の弾性材は当該腕部の一部に設けられているようにすることは、当業者といえども容易になし得たこととはいえない。
(3)理由Cについて
本件発明2は、本件発明1に対し、さらに「前記板ばねは、複数の前記腕部を備え、前記弾性材は、隣接する前記複数の腕部に渡って取り付けられている」という技術的事項を追加したものである。また、本件発明3は、本件発明1又は本件発明2に対し、さらに「前記弾性材は、板状の部材である」という技術的事項を追加したものである。
そうすると、上記(2)と同様の理由により、本件発明2及び本件発明3は、甲3発明、甲1に記載の技術的事項及び甲2に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 まとめ
以上のとおりであるから、令和4年4月18日付け取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700010