特許異議申立
2022-700136
リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池
- 審判番号
- 2022-700136
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-550011
- 登録番号
- 6922927
- 請求日
- 2022年02月17日
- 審決日
- 2023年03月03日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】昭和電工マテリアルズ株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人太陽国際特許事務所
- 【異議申立人】前田 洋志
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 山本 佳
- 審判官 池渕 立
- 分類
- P1651.121-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6922927号発明「リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6922927号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
特許第6922927号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6922927号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2016年(平成28年)11月14日を国際出願日とする出願であって、令和 3年 8月 2日にその特許権の設定登録がなされ、同年 8月18日にその特許掲載公報が発行されたものであり、本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 4年 2月17日提出 : 特許異議申立人前田洋志(以下、「申
立人」という。)による請求項1~1
0(全請求項)に係る特許に対する特
許異議の申立て
同年 4月28日付 : 取消理由通知
同年 6月29日提出 : 特許権者による意見書及び訂正請求書
同年 8月16日提出 : 申立人による意見書
同年 9月29日付 : 取消理由通知(決定の予告)
同年10月21日提出 : 特許権者による意見書及び訂正請求書
(以下、「本件訂正請求書」といい、
当該請求書による訂正請求を「本件訂
正請求」という。)
なお、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)については、すでに申立人に意見書の提出の機会が与えられている場合であって、訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、事件において提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると合議体が判断したことから、申立人に意見書提出の機会を与える必要がないと認められる特別な事情がある場合に該当するため、令和 4年10月21日提出の上記意見書及び訂正請求書は申立人に送付されなかった。
第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容
(1)訂正請求の趣旨
本件訂正請求は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである。なお、下線は、訂正した箇所を表す。
また、令和 4年 6月29日提出の訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。
(2)訂正の内容
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「X線回折法より求めた平均面間隔d002が0.335nm~0.339nmであり、核となる第一の炭素相としての黒鉛材料と、前記第一の炭素相の表面の少なくとも一部に配置される第二の炭素相としての非晶質炭素と、を含み、かつ下記(1)及び(2)を満たす炭素材料を含む、リチウムイオン二次電池用負極材。
(1)個数基準の粒度分布において、差分の相対粒子量q0が最頻値となるときの粒子径が11.601μm以下である。
(2)個数基準の粒度分布において、粒子径11.601μmのときの差分の相対粒子量q0Aと、粒子径7.806μmのときの差分の相対粒子量q0Bとの比(q0A/q0B)が1.20~3.00である。」と記載されているのを、
「X線回折法より求めた平均面間隔d002が0.335nm~0.339nmであり、核となる第一の炭素相としての黒鉛材料と、前記第一の炭素相の表面の少なくとも一部に配置される第二の炭素相としての非晶質炭素(結晶性を有する炭素を除く)と、を含み、ラマン分光測定のR値が0.3~1.0であり、かつ下記(1)及び(2)を満たす炭素材料を含む、リチウムイオン二次電池用負極材。
(1)個数基準の粒度分布において、差分の相対粒子量q0が最頻値となるときの粒子径が11.601μm以下である。
(2)個数基準の粒度分布において、粒子径11.601μmのときの差分の相対粒子量q0Aと、粒子径7.806μmのときの差分の相対粒子量q0Bとの比(q0A/q0B)が1.20~3.00である。」に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に、
「ラマン分光測定のR値が0.1~1.0である」と記載されているのを、
「ラマン分光測定のR値が0.3~0.7である」に訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に、
「77Kでの窒素吸着測定より求めた比表面積が0.5m2/g~6.0m2/gである、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。」と記載されているのを、
「X線回折法より求めた平均面間隔d002が0.335nm~0.339nmであり、核となる第一の炭素相としての黒鉛材料と、前記第一の炭素相の表面の少なくとも一部に配置される第二の炭素相としての非晶質炭素(結晶性を有する炭素を除く)と、を含み、77Kでの窒素吸着測定より求めた比表面積が0.5m2/g~6.0m2/gであり、かつ下記(1)及び(2)を満たす炭素材料を含む、リチウムイオン二次電池用負極材。
(1)個数基準の粒度分布において、差分の相対粒子量q0が最頻値となるときの粒子径が11.601μm以下である。
(2)個数基準の粒度分布において、粒子径11.601μmのときの差分の相対粒子量q0Aと、粒子径7.806μmのときの差分の相対粒子量q0Bとの比(q0A/q0B)が1.20~3.00である。」に訂正する。
2 本件訂正の適否についての当審の判断
本件訂正の適否について検討する。
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1に係る訂正は、「第二の炭素相としての非晶質炭素」の材料を、「結晶性を有する炭素を除く」ものに限定するものであり、また、「炭素材料」について「ラマン分光測定のR値が0.3~1.0であ」る点で限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の有無
(ア)本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲(以下、「本件明細書等」という。)には、次の記載がある。(なお、下線は当審が付与し、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)
a「【0052】
炭素材料は、ラマン分光測定のR値が0.1~1.0であることが好ましく、0.2~0.8であることがより好ましく、0.3~0.7であることがさらに好ましい。R値が0.1以上であると、リチウムイオンの挿入及び脱離に用いられる黒鉛格子欠陥が充分存在し、入出力特性の低下が抑制される傾向にある。R値が1.0以下であると、電解液の分解反応が充分に抑制され、初回効率の低下が抑制される傾向にある。
【0053】
R値は、ラマン分光測定において得られたラマン分光スペクトルにおいて、1580cm-1付近の最大ピークの強度Igと、1360cm-1付近の最大ピークの強度Idの強度比(Id/Ig)と定義する。ここで、1580cm-1付近に現れるピークとは、通常、黒鉛結晶構造に対応すると同定されるピークであり、例えば1530cm-1~1630cm-1に観測されるピークを意味する。また1360cm-1付近に現れるピークとは、通常、炭素の非晶質構造に対応すると同定されるピークであり、例えば1300cm-1~1400cm-1に観測されるピークを意味する。
【0054】
本明細書においてラマン分光測定は、レーザーラマン分光光度計(型番:NRS-1000、日本分光株式会社)を用い、リチウムイオン二次電池用負極材を平らになるようにセットした試料板にアルゴンレーザー光(励起波長:532nm)を照射して測定を行う。
【0055】
炭素材料の材質としては、黒鉛(人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化メゾフェーズカーボン、黒鉛化炭素繊維等)、低結晶性炭素、メゾフェーズカーボンなどの炭素材料が挙げられる。充放電容量を大きくする観点からは、炭素材料の少なくとも一部が黒鉛であることが好ましい。」
b「【0057】
炭素材料は、核となる第一の炭素相と、その表面の少なくとも一部に配置される(例えば、核を被覆する)第一の炭素相とは異なる第二の炭素相とを含む複合材料であってもよい。炭素材料を異なる複数種の炭素相から構成することにより、所望の物性又は性質をより効果的に発揮しうる炭素材料を得ることができる。
【0058】
炭素材料が核となる第一の炭素相と、その表面の少なくとも一部に配置される第二の炭素相とを含む複合材料である場合、第一の炭素相と第二の炭素相の組み合わせとしては、第一の炭素相と、第一の炭素相と結晶性の異なる第二の炭素相の組み合わせが挙げられ、第一の炭素相と、第一の炭素相よりも結晶性の低い(d002の値が第一の炭素相よりも大きい)第二の炭素相の組み合わせが好ましい。
【0059】
炭素材料が、核となる第一の炭素相と、第一の炭素相よりも結晶性の低い第二の炭素相とを含む複合材料である場合、核となる第一の炭素相の材質が上述した黒鉛から選択されることが好ましい。この場合、第二の炭素相は第一の炭素相よりも結晶性の低いもの(以下、低結晶炭素相とも称する)から選択されることが好ましい。
【0060】
第一の炭素相よりも結晶性が低い第二の炭素相の材質は特に制限されず、所望の性質に応じて適宜選択される。第二の炭素相の好ましい例としては、熱処理により炭素質に変化し得る有機化合物(炭素前駆体)から得られる炭素相が挙げられる。具体的には、エチレンヘビーエンドピッチ、原油ピッチ、コールタールピッチ、アスファルト分解ピッチ、ポリ塩化ビニル等の有機化合物を熱分解して生成するピッチ、ナフタレン等を超強酸の存在下で重合させて作製される合成ピッチなどが挙げられる。また、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール等の熱可塑性合成高分子、デンプン、セルロース等の天然高分子などを炭素前駆体として用いることもできる。」
c「【0075】
炭素材料が、核となる第一の炭素相と、その表面の少なくとも一部に配置される第二の炭素相とを含む複合材料である場合、その製造方法としては、例えば、炭素前駆体となる有機化合物を第一の炭素相となる核材の表面に付着させた後、750℃~1200℃の不活性雰囲気中で焼成して炭素前駆体を炭素化する方法が挙げられる。炭素前駆体として用いる有機化合物としては、炭素前駆体の例として上述した有機化合物が挙げられる。
・・・
【0079】
第一の炭素相の表面に炭素前駆体を付着させた後の状態のもの(中間製造物)は、さらに加熱焼成される。焼成温度は、炭素前駆体が炭素化しうる温度であれば特に制限されない。例えば、750℃~2000℃であることが好ましく、800℃~1800℃であることがより好ましく、900℃~1400℃であることがさらに好ましい。焼成温度が750℃以上であると、リチウムイオン二次電池の充放電効率、入出力特性及びサイクル特性が良好に維持される傾向にあり、焼成温度が2000℃以下であると、低結晶性炭素部分の結晶性が高くなりすぎることが抑制される傾向にある。・・・」
d「【実施例】
【0097】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0098】
[実施例1]
体積平均粒子径が10μmの球状天然黒鉛(d002=0.336nm、平均アスペクト比=0.8)100質量部と、コールタールピッチ(軟化点98℃、残炭率(炭化率)50%)5質量部とを混合して得た混合物を、回転翼を配置したシリンダー内に入れ、シリンダーの内壁と回転翼の間で擦り合わせることにより、球状天然黒鉛の表面にコールタールピッチを付着させた。擦り合わせの工程は24kWの負荷で5分間行った(負荷:1800kJ/kg)。次いで窒素流通下、20℃/時間の昇温速度で1000℃まで昇温し、1時間保持してコールタールピッチを炭素化した。その後、カッターミルで解砕し、300メッシュ篩で篩分けを行い、その篩下を複合材料1として得た。
【0099】
体積平均粒子径が10μmの球状天然黒鉛の代わりに体積平均粒子径が16μmの球状天然黒鉛(d002=0.336nm、平均アスペクト比=0.8)100質量部を用いた以外は複合材料1と同様にして、複合材料2を得た。
【0100】
複合材料1と複合材料2を質量比が5:5(複合材料1:複合材料2)となるように混合して、炭素材料を作製した。・・・」
e「【0119】
[実施例2]
複合材料1と複合材料2を質量比が4:6(複合材料1:複合材料2)となるように混合した以外は実施例1と同様にして炭素材料を作製し、その特性を調べた。また、コイン電池を作製してその性能を評価した。結果を表2に示す。
【0120】
[実施例3]
複合材料1と複合材料2を質量比が3:7(複合材料1:複合材料2)となるように混合した以外は実施例1と同様にして炭素材料を作製し、その特性を調べた。また、コイン電池を作製してその性能を評価した。結果を表2に示す。
【0121】
[実施例4]
複合材料1と複合材料2を質量比が6:4(複合材料1:複合材料2)となるように混合した以外は実施例1と同様にして炭素材料を作製し、その特性を調べた。また、コイン電池を作製してその性能を評価した。結果を表2に示す。
【0122】
[比較例1]
複合材料1と複合材料2を質量比が2:8(複合材料1:複合材料2)となるように混合した以外は実施例1と同様にして炭素材料を作製し、その特性を調べた。また、コイン電池を作製してその性能を評価した。結果を表2に示す。
【0123】
[比較例2]
複合材料2のみを用いた以外は実施例1と同様にして炭素材料を作製し、その特性を調べた。また、コイン電池を作製してその性能を評価した。結果を表2に示す。
【0124】
[比較例3]
複合材料1のみを用いた以外は実施例1と同様にして炭素材料を作製し、その特性を調べた。また、コイン電池を作製してその性能を評価した。結果を表2に示す。
【0125】
[比較例4]
体積平均粒子径が10μmの球状天然黒鉛の代わりに体積平均粒子径が22μmの球状天然黒鉛(d002=0.336nm、平均アスペクト比=0.7)100質量部を用いた以外は複合材料1と同様にして、複合材料3を得た。
複合材料3と複合材料2を質量比が5:5(複合材料3:複合材料2)となるように混合した以外は実施例1と同様にして炭素材料を作製し、その特性を調べた。また、コイン電池を作製してその性能を評価した。結果を表2に示す。
【0126】
[比較例5]
体積平均粒子径が22μmの球状天然黒鉛(d002=0.336nm、平均アスペクト比=0.7)を300メッシュの篩に通し、得られた篩下と複合材料2を質量比が5:5(篩下:複合材料2)となるように混合した以外は実施例1と同様にして炭素材料を作製し、その特性を調べた。また、コイン電池を作製してその性能を評価した。結果を表2に示す。
【0127】
[比較例6]
石炭系コールタールをオートクレーブにより400℃で熱処理し、生コークスを得た。この生コークスを粉砕した後、1200℃の不活性雰囲気中でカ焼を行い、コークス塊を得た。このコークス塊を分級機付きの衝撃粉砕機を用いて平均粒子径15μmに粉砕後、200メッシュの篩に通し、篩下を炭素粒子(d002=0.342nm)として得た。この炭素粒子100質量部とポリビニルアルコール(重合度1700、完全けん化型、炭化率15質量%)20質量部を混合して得た混合物を用いたこと以外は複合材料1と同様にして、複合材料4を得た。
複合材料4と複合材料2を質量比が5:5(複合材料4:複合材料2)となるように混合した以外は実施例1と同様にして炭素材料を作製し、その特性を調べた。また、コイン電池を作製してその性能を評価した。結果を表2に示す。
【0128】
[比較例7]
体積平均粒子径10μmの球状天然黒鉛(d002=0.336nm、平均アスペクト比=0.8)と体積平均粒子径16μmの球状天然黒鉛(d002=0.336nm、平均アスペクト比=0.8)を質量比が5:5となるように混合した以外は実施例1と同様にして炭素材料を作製し、その特性を調べた。また、コイン電池を作製してその性能を評価した。結果を表2に示す。
【0129】
[比較例8]
比較例6で作製した炭素粒子(d002=0.342nm)100質量部とコールタールピッチ30質量部と酸化鉄粉末5質量部を250℃で1時間混合した。得られた塊状物をピンミルで粉砕した後、型込みプレスで、密度1.52g/cm3のブロック状に成形加工した。得られたブロックをマッフル炉で最高温度800℃にて焼成したのち、アチソン炉で自己分解ガス雰囲気下、2900℃にて黒鉛化を行った。次いで、黒鉛化したブロックを、ハンマーで粗砕した後、ピンミルで平均粒子径30μmの黒鉛粉末を得た。さらにこの黒鉛粉末を、球形化処理装置(ホソカワミクロン製、ファカルティ)を使用し、粉砕回転数1800回転/分(rpm)、分級回転数7000回転/分(rpm)で10分間の処理を行い、球形化人造黒鉛粉末を作製した。この球形化人造黒鉛粉末を200メッシュの篩に通し、篩下を炭素材料として得た。この炭素材料の特性を実施例1と同様にして調べた。また、コイン電池を作製してその性能を評価した。結果を表2に示す。
【0130】
【表2】
[図:0001398236000001.jpg]
【0131】
表2に示す結果から明らかなように、本実施形態の炭素材料を含む負極材を用いて作製した実施例1~4のリチウムイオン二次電池は、高い充放電効率を維持しながら、入出力特性と寿命特性にも優れていた。」
(イ)上記(ア)aから、炭素材料のR値(Id/Ig)が0より大きく算出されることは、当該算出の基礎となるIdが測定されていることを前提としており、このことはすなわち、炭素の非晶質構造に対応すると同定される1360cm-1付近に現れるピークが存在することを意味するから、当該炭素材料中には、炭素の非晶質構造が存在すると認められる。
(ウ)さらに、上記(ア)eの表2を参照すると、実施例の炭素材料において、R値が0.4と算出されているから、炭素の非晶質構造が存在しているといえる。
(エ)上記(イ)、(ウ)から、実施例の「炭素材料」が「非晶質炭素(結晶性を有する炭素を除く)」である「第二の炭素相」を「含む」ことは明らかである。
(オ)さらに、上記(ア)aの【0052】から、「ラマン分光測定のR値」の下限が「0.3」であって、上限が「1.0」である「炭素材料」が記載されていると認められる。
(カ)したがって、上記(イ)~(オ)から、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アのとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2に係る訂正は、「ラマン分光測定のR値」について、「0.1~1.0」であったものを「0.3~0.7」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の有無
(ア)上記(1)イ(ア)aの【0052】には、「ラマン分光測定のR値」が「0.3~0.7である」「炭素材料」が記載されている。
(イ)請求項3においては「ラマン分光測定のR値」が「炭素材料」の物性であることを明示しているものではないが、請求項3が引用する請求項1には「炭素材料」の「ラマン分光測定のR値」が記載されており、また、上記(1)イ(ア)aの他に、本件明細書等において他の物質に対して「ラマン分光測定のR値」を具体的数値範囲に調整するとの記載はないから、訂正前の請求項3における「ラマン分光測定のR値」が「炭素材料」の物性であると認められる。
(ウ)したがって、上記(ア)~(イ)から、訂正事項2に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アのとおり、訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
(ア)訂正事項3に係る訂正のうち、「X線回折法より求めた平均面間隔d002が0.335nm~0.339nmであり、核となる第一の炭素相としての黒鉛材料と、前記第一の炭素相の表面の少なくとも一部に配置される第二の炭素相としての非晶質炭素」「と、を含み、」、「かつ下記(1)及び(2)を満たす炭素材料を含む、」
「(1)個数基準の粒度分布において、差分の相対粒子量q0が最頻値となるときの粒子径が11.601μm以下である。
(2)個数基準の粒度分布において、粒子径11.601μmのときの差分の相対粒子量q0Aと、粒子径7.806μmのときの差分の相対粒子量q0Bとの比(q0A/q0B)が1.20~3.00である。」という記載を追加した訂正は、訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったのを、請求項間の引用関係を解消し、独立形式の記載に改めたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
(イ)訂正事項3に係る訂正のうち、「第二の炭素相としての非晶質炭素」に「(結晶性を有する炭素を除く)」を追加する訂正は、訂正前の請求項2が引用する請求項1が上記訂正事項1によって「第二の炭素相としての非晶質炭素」を、「第二の炭素相としての非晶質炭素(結晶性を有する炭素を除く)」に訂正されたことに連動して訂正されたものであって、「第二の炭素相としての非晶質炭素」の材料を、「結晶性を有する炭素を除く」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第4号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
(ウ)訂正事項3に係る訂正のうち、「77Kでの窒素吸着測定より求めた比表面積が0.5m2/g~6.0m2/g」である「炭素材料」とする訂正は、訂正前の請求項2は「77Kでの窒素吸着測定より求めた比表面積が0.5m2/g~6.0m2/g」が「炭素材料」についての特定であることが明示されていなかった点を明示的に特定したものである。
(エ)一方、本件明細書等には、「77Kでの窒素吸着測定より求めた比表面積」に関し、以下の記載がある。
「【0028】
炭素材料の77Kでの窒素吸着測定より求めた比表面積(以下、N2比表面積と呼ぶ場合がある)は、0.5m2/g~6.0m2/gである。
炭素材料のN2比表面積が上記範囲内であると、入出力特性と初回効率のバランスが良好に維持される傾向にある。
炭素材料のN2比表面積は、77Kでの窒素吸着測定より得た吸着等温線からBET法を用いて求めることができる。
【0029】
リチウムイオン二次電池の入出力特性と初回効率のバランスの観点からは、N2比表面積は1.0m2/g~5.0m2/gであることが好ましい。
N2比表面積は、例えば、炭素材料の体積平均粒子径を大きくする、炭素材料に対して行う熱処理の温度を高くする、炭素材料の表面を改質する等の方法により値を小さくできる傾向にあるため、この性質を利用してN2比表面積を上記範囲内に設定することができる。」
(オ)上記(エ)の摘記によれば、本件明細書等には「炭素材料」の「77Kでの窒素吸着測定より求めた比表面積」について記載はあるものの、当該記載によって、訂正前の請求項2の「77Kでの窒素吸着測定より求めた比表面積」が「炭素材料」の物性であることが定義されているとまではいえないから不明確であったところ、訂正によって上記「77Kでの窒素吸着測定より求めた比表面積」が「炭素材料」の物性であることを明確にしたものである。
(カ)よって、上記(エ)~(オ)の点を考慮すると、上記(ウ)の訂正は、「77Kでの窒素吸着測定より求めた比表面積が0.5m2/g~6.0m2/g」が「炭素材料」についての特定であることを明確にしたものであり、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。
(キ)したがって、上記(ア)~(カ)で検討したとおり、訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、第3号及び第4号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、「明瞭でない記載の釈明」、及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の有無
上記アで述べたことによれば、訂正事項3に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アのとおり、訂正事項3に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明、及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(6)一群の請求項について
訂正前の請求項2~10は、それぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるから、訂正前の請求項1~10は一群の請求項である。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的として含む訂正事項3を含むものであるが、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めはないから、訂正後の請求項〔1~10〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。
(7)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項である請求項1~10に対してされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
3 訂正の適否についての結言
上記のとおり、本件訂正による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項乃至第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の記載のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
本件特許の請求項1~10に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本願の請求項1~10に係る発明を「本件特許発明1」~「本件特許発明10」といい、これらをまとめて「本件特許発明」という。
「【請求項1】
X線回折法より求めた平均面間隔d002が0.335nm~0.339nmであり、核となる第一の炭素相としての黒鉛材料と、前記第一の炭素相の表面の少なくとも一部に配置される第二の炭素相としての非晶質炭素(結晶性を有する炭素を除く)と、を含み、ラマン分光測定のR値が0.3~1.0であり、かつ下記(1)及び(2)を満たす炭素材料を含む、リチウムイオン二次電池用負極材。
(1)個数基準の粒度分布において、差分の相対粒子量q0が最頻値となるときの粒子径が11.601μm以下である。
(2)個数基準の粒度分布において、粒子径11.601μmのときの差分の相対粒子量q0Aと、粒子径7.806μmのときの差分の相対粒子量q0Bとの比(q0A/q0B)が1.20~3.00である。
【請求項2】
X線回折法より求めた平均面間隔d002が0.335nm~0.339nmであり、核となる第一の炭素相としての黒鉛材料と、前記第一の炭素相の表面の少なくとも一部に配置される第二の炭素相としての非晶質炭素(結晶性を有する炭素を除く)と、を含み、77Kでの窒素吸着測定より求めた比表面積が0.5m2/g~6.0m2/gであり、かつ下記(1)及び(2)を満たす炭素材料を含む、リチウムイオン二次電池用負極材。
(1)個数基準の粒度分布において、差分の相対粒子量q0が最頻値となるときの粒子径が11.601μm以下である。
(2)個数基準の粒度分布において、粒子径11.601μmのときの差分の相対粒子量q0Aと、粒子径7.806μmのときの差分の相対粒子量q0Bとの比(q0A/q0B)が1.20~3.00である。
【請求項3】
ラマン分光測定のR値が0.3~0.7である、請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項4】
前記炭素材料は、体積基準の粒度分布において、小粒子径側から体積累積分布曲線を描いた場合に、粒子径が9.516μmのときの積算値Q3が全体の4.0%以上である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項5】
前記炭素材料は、体積基準の粒度分布において、小粒子径側から体積累積分布曲線を描いた場合に、累積が50%となるときの粒子径(50%D)が1μm~20μmである請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項6】
前記炭素材料は、体積基準の粒度分布において、小粒子径側から体積累積分布曲線を描いた場合に、累積が99.9%となるときの粒子径(99.9%D)が63μm以下である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項7】
前記炭素材料は、タップ密度が0.90g/cm3~2.00g/cm3である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項8】
前記炭素材料は、ペレット密度が1.55g/cm3以下である請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層と、集電体と、を含むリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項10】
請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、正極と、電解質と、を含むリチウムイオン二次電池。」
第4 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、甲第1号証~甲第2号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、以下の申立理由により、本件訂正前の請求項1~10に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
(証拠方法)
甲第1号証(甲1):特開2007-227367号公報
甲第2号証(甲2):国際公開第2012/015054号
1 申立理由1(進歩性)
(1)申立理由1-1
本件訂正前の請求項1~5、7~10に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由1-2
本件訂正前の請求項6に係る発明は、甲1に記載された発明、及び甲2の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。
第5 取消理由の概要
1 令和 4年 4月28日付けで通知した取消理由において、上記第4の申立理由は採用せず、職権によって次の取消理由1,2を通知した。
(1)取消理由1(明確性要件)
ア 取消理由1-1
訂正前の請求項1における「第二の炭素相としての非晶質炭素」との記載は、本件明細書等の段落【0004】、【0005】、【0058】、【0059】の記載を参酌すると、第二の炭素相である「非晶質炭素」が純粋に非晶質状態の炭素を意味するのか、結晶性を有する炭素まで含む意味であるのか不明であるために、「第二の炭素相としての非晶質炭素」という記載の意味するところが一義的に定まらないため、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。
したがって、本件訂正前の請求項1~10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
イ 取消理由1-2
請求項1においては、「個数基準の粒度分布」における「差分の相対粒子量q0」の「最頻値」、「個数基準の粒度分布」における「粒子径11.601μmのときの差分の相対粒子量q0A」、及び「個数基準の粒度分布」における「粒子径7.806μmのときの差分の相対粒子量q0B」について、「個数基準の粒度分布」における「差分の相対粒子量」や「最頻値」は、「粒子径」をどのような単位で区分するのかによって変化するため、係る区分の単位が明らかでない限りその意味するところは一義的に定まらない。しかしながら、本件明細書等の段落【0034】、【0035】の記載によれば、差分の相対粒子量q0の値のデータ数は、対数比での分割数に応じて50個得られるかのように理解されるのに対して、同段落【0103】~【0106】に差分の相対粒子量q0の値のデータ数が51個であるかのような内容となっているため、「個数基準の粒度分布」における「対数比」での「分割数」が一義的に定まらないため、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。
したがって、本件訂正前の請求項1~10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
(2)取消理由2(サポート要件)
本件発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、本件明細書等の段落【0008】に記載によれば、「高い充放電効率を維持しながら、入出力特性と寿命特性にも優れるリチウムイオン二次電池を製造可能なリチウムイオン二次電池用負極材及びリチウムイオン二次電池用負極、並びにこれを用いて製造されるリチウムイオン二次電池を提供すること」であると認められる。
一方、本件訂正前の請求項1、3~10に係る発明の技術的範囲には比較例7の電池が含まれるものであるところ、比較例7の入出力特性と寿命特性は優れているとはいえないから、本件訂正前の請求項1、3~10に係る発明は上記課題を解決することができない発明を含むものである。
したがって、本件訂正前の請求項1、3~10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
2 令和 4年 9月29日付けで通知した取消理由(決定の予告)は、令和 4年 6月29日に提出された意見書及び訂正請求書によっては解消されていないと判断されたことにより上記取消理由2と同旨の取消理由を通知した。
第6 当審の判断
1 取消理由について
(1)取消理由1(明確性)について
ア 取消理由1-1について
本件訂正により、「第二の炭素相としての非晶質炭素」との記載は「第二の炭素相としての非晶質炭素(結晶性を有する炭素を除く)」との記載に訂正され、当該訂正によれば、「非晶質炭素」は純粋に非晶質状態の炭素を意味することが明らかであるから、「第二の炭素相としての非晶質炭素」という記載の意味するところが明確でないとの取消理由は解消された。
イ 取消理由1-2について
令和 4年 6月29日提出の意見書の「(4)取消理由1について」において、本件特許における「差分の相対粒子量」を求めるための個数基準の粒度分布は、本件明細書等の段落【0034】に記載されているように粒子径0.1μm~2000μmを対数比で50分割するものであり、粒子径の対象範囲をn分割するとは当該範囲をn+1個の領域に分けることを意味するから、51個のデータを含む本件明細書等の表1の記載と整合している旨の説明があり、この説明は妥当なものと判断されるので、「個数基準の粒度分布」における「対数比」での「分割数」が一義的に定まらないために不明確であるとの取消理由1-2は解消された。
(2)取消理由2(サポート要件)について
ア 本件訂正によって、本件特許発明1は、「炭素材料」は「ラマン分光測定のR値が0.3~1.0」であると訂正された。
イ 上記アによれば、本件明細書等の段落【0128】及び【0130】の表2に記載されている、「炭素材料」の「ラマン分光測定のR値」が0.2であり、入出力特性と寿命特性が優れた状態に該当しない比較例7は、本件特許発明1の技術的範囲に含まれないものとなった。
ウ 本件特許発明1は
a「リチウムイオン二次電池用負極材」に含まれる「炭素材料」について、
b「X線回折法より求めた平均面間隔d002が0.335nm~0.339nmであり、核となる第一の炭素相としての黒鉛材料と、前記第一の炭素相の表面の少なくとも一部に配置される第二の炭素相としての非晶質炭素(結晶性を有する炭素を除く)と、を含」むこと、
c「ラマン分光測定のR値が0.3~1.0であ」ること、
d「下記(1)及び(2)を満たす」こと
「(1)個数基準の粒度分布において、差分の相対粒子量q0が最頻値となるときの粒子径が11.601μm以下である。
(2)個数基準の粒度分布において、粒子径11.601μmのときの差分の相対粒子量q0Aと、粒子径7.806μmのときの差分の相対粒子量q0Bとの比(q0A/q0B)が1.20~3.00である。」
が特定されているものである。
エ そして、表2の実施例1~4の電池は、上記ウの全ての条件を満たすものであるから本件特許発明1の技術的範囲に含まれるものであるとともに、入出力特性と寿命特性が優れている。
オ したがって、本件特許発明1は、上記第5の1(2)に記載した課題を解決し得るものとなったため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているとはいえない。
カ また、請求項3~10は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件特許発明3~10はいずれも本件特許発明1に係る発明特定事項を全て備えている。よって、上記ア~オにおいて本件特許発明1について検討したことを踏まえると、本件特許発明3~10も上記第5の1(2)に記載した課題を解決できることは明らかである。
キ したがって、本件特許発明1、3~10は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているとはいえないから、取消理由2は解消された。
2 申立理由について
取消理由に採用しなかった申立理由1(進歩性)について、採用できない理由は以下のとおりである。
(1)甲1の記載及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載
甲1には、「リチウムイオン二次電池」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(1ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関するものであり、更に詳細には、特定の非水系電解液と特定の負極活物質とを用いたリチウムイオン二次電池に関するものである。」
(1イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、サイクル特性と低温出力が共に良好であるリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意研究した結果、サイクル特性と低温出力が共に良好である性能については、負極内にそれぞれの機能をバランスよくもった負極活物質を配置することが重要であると考えられ、いくつかの異なった物性を有する負極活物質を混合することがよいという結果を導いた。更に、同時に非水系電解液中に特定の化合物を含有させることにより、サイクル特性と低温出力の何れもが良好となることを見出して本発明を完成した。」
(1ウ)「【0054】
<負極>
以下に本発明のリチウムイオン二次電池に使用される負極について説明する。
[負極活物質]
以下に負極に使用される負極活物質について述べる。
【0055】
本発明に用いられる負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものが用いられる。本発明のリチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質は、性質の異なる2種類以上の負極活物質を含有することを特徴としている。」
(1エ)「【0057】
[形状、物性等の違い]
これらの中でも、本発明に用いられる負極活物質は、体積基準平均粒径(メジアン径)が異なる2種類以上の負極活物質を含有することで、低温出力を維持しながら、サイクル特性を向上することが可能となる。体積基準平均粒径(メジアン径)の差としては、通常1μm以上、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上差があることが望ましい。上限としては、通常30μm以下、好ましくは25μm以下である。この範囲を上回ると、メジアン径の大きい側の粒子径が大きくなりすぎる傾向があり、そのため電極作製時に塗工面の筋引き等の問題が起こる場合がある。一方、この範囲を下回ると、2種類を混合した効果が発現しにくくなる場合がある。
【0058】
また、本発明に用いられる負極活物質は、体積基準粒度分布の偏った材料も上述と同様の理由で良好な特性を発現することが可能である。「体積基準粒度分布が偏っている」とは、横軸対数目盛としたときの体積基準粒度分布が、体積基準平均粒径(メジアン径)を中心としたときに左右対称とならないことを意味し、左右対称でない程度としては、下記式(1)で示されるZの値が、通常0.3μm以上、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上である。Zがこの値を下回ると、粒度分布が偏っていることによるサイクル特性向上の効果が得にくい場合がある。
Z = |(モード径)-(メジアン径)| (1)
式(1)中、モード径とメジアン径は何れも単位は「μm」であり、「| |」は絶対値を示す。
【0059】
本発明において、体積基準平均粒径(メジアン径)及びモード径は、界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの0.2質量%水溶液(約1mL)に負極活物質を分散させて、レーザー回折式粒度分布計(堀場製作所社製LA-700)を用いて測定した値で定義する。「メジアン径」とは、一般にd50とも言われ、体積基準で粉体をある粒子径から2つに分けたときに大きい側と小さい側が等量となるその粒子径を指し、「モード径」とは、体積基準の粒度分布にて、分布の極大値を示す粒径を指し、何れも、堀場製作所社製LA-700では、単に、「メジアン径」、「モード径」という名称の値で、それぞれ一義的に装置に表示されるものである。
【0060】
また、負極活物質の少なくとも1種に、メジアン径が10μm以下である負極活物質を用いることが、低温出力を維持しながら、サイクル特性の向上効果が得られる点で好ましい。特に好ましくは8μm以下である。メジアン径が10μm以下である負極活物質は、負極活物質全体に対して、0.5~10質量%の範囲で用いることが特に好ましい。」
(1オ)「【0062】
本発明において、ラマンスペクトルの測定は、ラマン分光器(例えば、日本分光社製ラマン分光器)を用い、試料を測定セル内へ自然落下させることで試料充填し、測定はセル内のサンプル表面にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、セルをレーザー光と垂直な面内で回転させながら行なう。得られたラマンスペクトルについて、1580cm-1のピークPAの強度IAと、1360cm-1のピークPBの強度IBとを測定し、その強度比R(R=IB/IA)を算出して、これを黒鉛質炭素粒子のラマンR値と定義する。また、得られたラマンスペクトルの1580cm-1のピークPAの半値幅を測定し、これを黒鉛質炭素粒子のラマン半値幅と定義する。」
(1カ)「【0065】
また、本発明に用いられる負極活物質として用いられる負極活物質は、結晶性の異なる2種類以上の負極活物質を含有することでも、サイクル特性を維持しながら低温出力を向上することが可能となる。結晶性とは、ここでは、炭素の六角網面の積層体の繰り返し構造の厚さ、間隔等の積層構造をいう。結晶性の違いを示す具体的物性値は特に限定はないが、例えば、面間隔、結晶子サイズ等があり、それらが、本発明のリチウムイオン二次電池で用いられる2種類以上の負極活物質で異なっていることが好ましい。結晶性の差が小さすぎると、混合による効果が得にくい場合がある。」
(1キ)「【0075】
本発明においてBET比表面積は、表面積計(大倉理研製全自動表面積測定装置)を用い、試料に対して窒素流通下350℃で15分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定した値で定義する。」
(1ク)「【0104】
(2)X線面間隔、結晶子サイズ
炭素質材料は、学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離)が、0.335nm以上であることが好ましく、上限は、通常0.36nm以下、好ましくは0.35nm以下、更に好ましくは0.345nm以下であることが望まれる。
また、学振法によるX線回折で求めた炭素質材料の結晶子サイズ(Lc)は、1nm以上であることが好ましく、中でも1.5nm以上であることが更に好ましい。」
(1ケ)「【実施例】
【0176】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0177】
(負極活物質の作製1)
天然黒鉛粉末(d002:0.336nm、Lc:100nm以上、ラマンR値:0.11、タップ密度:0.46g/cm3、真密度:2.27g/cm3、体積基準平均粒径:35.4μm)を、ハイブリダイゼーションシステム((株)奈良機械製作所製ハイブリダイゼーションシステムNHS-1型)を用いて、処理量90g、ローター周速度60m/s、処理時間3分にて処理することによって球形化を行い、更に、粗大粒子の混入を防ぐため、ASTM400メッシュの篩いを5回繰り返した。ここで得られた負極活物質を炭素質物(A)とした。この操作を繰り返すことで、電池作製に必要な量を確保した。」
「【0179】
(負極活物質の作製3)
キノリン不溶分が0.05質量%以下のコールタールピッチを、反応炉にて460℃で10時間熱処理し、軟化点385℃の、溶融性のある塊状の炭化処理前駆体を得た。得られた塊状の炭化処理前駆体を金属製の容器に詰め、箱形の電気炉で窒素ガス流通下、1000℃で2時間、熱処理を行なった。得られた非晶質の塊を粗砕機(吉田製作所製ロールジョークラッシャー)で粉砕、更に微粉砕機(マツボー社製ターボミル)を用いて微粉砕した後、風力分級装置にて微粉を除去し、得られた粉末を粗大粒子の混入を防ぐため、ASTM400メッシュの篩いを5回繰り返して、体積基準平均径9μmの非晶質粉末を得た。ここで得られた負極活物質を炭素質物(C)とした。
【0180】
(負極活物質の作製4)
炭素質物(A)にナフサ熱分解時に得られる石油系重質油を混合し、不活性ガス中で1300℃の炭化処理を施し、しかる後に焼結物を分級処理することにより、炭素質物(A)粒子表面に異なる結晶性を有する炭素質物が被着した炭素質物を得た。分級処理に際しては、粗大粒子の混入を防ぐため、ASTM400メッシュの篩いを5回繰り返し、炭素質物(D)を得た。残炭率から、得られた負極活物質粉末は、黒鉛95重量部に対して5重量部の石油系重質油に由来する炭素質で被覆されていることが確認された。」
「【0183】
(負極活物質の作製7)
炭素質物(D)80質量%と炭素質物(A)20質量%を均一になるまで混合し、混合炭素質物(G)とした。
【0184】
負極活物質の作製1~7で作製した、炭素質物(A)、(B)、(C)、及び、混合炭素質物(E)、(F)、(G)の物性、形状等を、上記方法で求めた。結果を表1にまとめて示す。
【0185】
【表1】
[図:0001398236000002.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
(ア)上記(1ア)によれば、甲1には、特定の非水系電解液と特定の負極活物質とを用いたリチウムイオン二次電池の発明が記載されており、特定の負極活物質とは、上記(1イ)~(1エ)の記載によれば、性質の異なる2種類以上の負極活物質を含有するものであり、例えば体積基準平均粒径(メジアン径)が異なる2種類以上の負極活物質を含有することを特徴とする。
(イ)上記(1ケ)によれば、d002が0.336nm、体積基準平均粒径35.4μmである天然黒鉛粉末を球形化し、篩いによって粗大粒子の混入を防いで得られた炭素質物(A)と、炭素質物(A)に石油系重質油を混合し、不活性ガス中で1300℃の炭化処理を施した後に分級処理することによって得られた、炭素質物(A)粒子表面に異なる結晶性を有する炭素質物が被着した炭素質物(D)を得、次いで、炭素質物(D)と炭素質物(A)を、炭素質物(D)が80質量%、炭素質物(A)が20質量%となるように混合して得られた混合炭素質物(G)は、表1に開示されているように、「ラマンR値」は0.31、「BET比表面積」は3.7m2/gであって、「メジアン径」が13.8μm、「モード径」が14.8μmである負極活物質である。
(ウ)上記(1ケ)の表1によれば、上記炭素質物(A)、炭素質物(D)のメジアン径は、それぞれ、14.7μm、15.2μmである。
(エ)ここで、上記(1オ)、(1ク)によれば、「d002の面間隔」とは、X線回折で求めた格子面(002)面のd値(層間距離)であり、「ラマンR値」とは、ラマンスペクトルについて、1580cm-1のピークPAの強度IAと、1360cm-1のピークPBの強度IBとを測定し、その強度比R(R=IB/IA)である。また、上記(1エ)によれば、「メジアン径」は、一般にd50とも言われ、体積基準で粉体をある粒子径から2つに分けたときに大きい側と小さい側が等量となる粒径を、「モード径」は体積基準の粒度分布にて分布の極大値を示す粒径を意味する。
(オ)したがって、上記(ア)~(エ)に基づいて、混合炭素質物(G)に注目すると、甲1には、次の「リチウムイオン二次電池」用「負極活物質」が記載されているものと認められる(以下、「甲1発明」という。)。
「X線回折で求めた格子面(002)面のd値であるd002の面間隔が0.336nmの黒鉛である炭素質物(A)(以下、「炭素質物(A)-1」という。)に石油系重質油を混合し、不活性ガス中で1300℃の炭化処理を施した後に分級処理することによって得られた、炭素質物(A)-1粒子表面に異なる結晶性を有する炭素質物が被着した体積基準平均粒径(以下、「メジアン径」という)が15.2μmである炭素質物(D)に、さらにメジアン径が14.7μmである炭素質物(A)(以下、「炭素質物(A)-2」という。)を混合して得られた混合炭素質物(G)であって、混合炭素質物(G)は、ラマンR値が0.31、BET比表面積が3.7m2/gであって、体積基準の粒度分布において、メジアン径が13.8μm、モード径が14.8μmである、リチウムイオン二次電池用負極活物質。」
なお、上記甲1発明の「混合炭素質物(G)」には、「炭素質物(D)」中に含まれる「炭素質物(A)」と、炭素質物(D)の他に単体で含まれる「炭素質物(A)」が存在することから、これら炭素質物(A)を明確に区別するために、上記のとおり「炭素質物(A)-1」、「炭素質物(A)-2」と記載することとする。
(2)甲2の記載
甲2には、「リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池」(発明の名称)に含まれる炭素材料について以下の記載がある。
「[0014] 前記負極材に含まれる炭素材料における最大粒子径Dmaxは、74μm以下である。前記最大粒子径Dmaxが74μmを超えると、電極作製の際に極板の薄膜化が困難となり、入出力特性やハイレートサイクル特性が損なわれる。前記負極材に含まれる炭素材料における最大粒子径Dmaxは、入出力特性の点で、70μm以下であることが好ましく、63μm以下であることがより好ましく、45μm以下であることが更により好ましい。また、前記最大粒子径Dmaxは、一般に10μm以上とすることができ、入出力特性の点で、好ましくは38μm以上とすることができる。
前記最大粒子径Dmaxは、例えば、篩の目開きを90μm、74μm、63μm、53μm、45μm、及び38μmと順に小さくして篩分けを行い、各目開きでの篩における篩上(篩を通過しない試料)の有無によって決定することができる。具体的には、試料を上記各目開きの篩で篩い分けをし、篩上が出る直前の目開きを最大粒子径Dmaxとする。
但し、前記最大粒子径Dmaxを特定できる限り、篩の目開きはこれらに限定されるものではない。」
(3)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
(ア)甲1発明の「X線回折で求めた格子面(002)面のd値であるd002の面間隔が0.336nmの黒鉛である炭素質物(A)-1」は、「炭素質物(A)-1」の「粒子表面に異なる結晶性を有する炭素質物が被着」している黒鉛であるから、本件特許発明1の「X線回折法より求めた平均面間隔d002が0.335nm~0.339nmであり、核となる第一の炭素相としての黒鉛材料」に相当する。
(イ)甲1発明の「ラマンR値が0.31」とは、本件特許発明1の「ラマン分光測定のR値が0.3~1.0」に相当する。
(ウ)本件明細書等【0058】~【0060】、【0079】によれば、第一の炭素相の表面に炭素前駆体を付着させた後の状態のものは、炭素前駆体が炭素化しうる温度である750℃~2000℃で加熱焼成することで、第一の炭素相よりも結晶性が低い第二の炭素相が得られるものである。また、本件明細書等【0052】、【0053】によれば、R値が0より大きい場合には、炭素の非晶質構造を有することを意味する。
そうすると、甲1発明の「炭素質物(A)-1に石油系重質油を混合し、不活性ガス中で1300℃の炭化処理を施した後に分級処理することによって得られた」「炭素質物(A)-1粒子表面に」「被着した」「異なる結晶性を有する炭素質物」とは、「石油系重質油」である炭素前駆体が炭素化しうる温度であって、第一の炭素相よりも結晶性が低い第二の炭素相が得られる温度範囲である750℃~2000℃の範囲を満たす1300℃で炭化処理されたものであるから、炭化処理後に得られる「炭素質物(A)-1」と「異なる結晶性を有する炭素質物」とは、「炭素質物(A)-1」よりも結晶性が低いものと認められる。
そして、「混合炭素質物(G)」は「ラマンR値が0.31」であって0より大きいので炭素の非晶質構造を有することが明らかであることを考慮すると、「炭素質物(A)-1」よりも結晶性が低い「炭素質物(A)-1粒子表面に」「被着した」「異なる結晶性を有する炭素質物」には、本件特許発明1の「前記第一の炭素相の表面の少なくとも一部に配置される第二の炭素相としての非晶質炭素(結晶性を有する炭素を除く)」が含まれるものと認められる。
(エ)甲1発明の「混合炭素質物(G)」とは、本件特許発明1の「炭素材料」に相当する。
(オ)甲1発明の「リチウムイオン二次電池用負極活物質」とは、本件特許発明1の「リチウムイオン二次電池用負極材」に相当する。
(カ)以上によれば、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の一致点において一致するとともに、以下の相違点1~2において相違する。
<一致点>
「X線回折法より求めた平均面間隔d002が0.335nm~0.339nmであり、核となる第一の炭素相としての黒鉛材料と、前記第一の炭素相の表面の少なくとも一部に配置される第二の炭素相としての非晶質炭素(結晶性を有する炭素を除く)と、を含み、ラマン分光測定のR値が0.3~1.0である炭素材料を含む、リチウムイオン二次電池用負極材」である点。
<相違点1>
本件特許発明1では、「炭素材料」は「(1)個数基準の粒度分布において、差分の相対粒子量q0が最頻値となるときの粒子径が11.601μm以下である」のに対して、甲1発明では、「混合炭素質物(G)」は「体積基準の粒度分布において、メジアン径が13.8μm、モード径が14.8μmである」点。
<相違点2>
本件特許発明1では、「炭素材料」は「(2)個数基準の粒度分布において、粒子径11.601μmのときの差分の相対粒子量q0Aと、粒子径7.806μmのときの差分の相対粒子量q0Bとの比(q0A/q0B)が1.20~3.00である」のに対して、甲1発明では、「混合炭素質物(G)」は「体積基準の粒度分布において、メジアン径が13.8μm、モード径が14.8μmである」点。
イ 相違点2の検討
(ア)甲1には、体積基準平均粒径(メジアン径)が異なる2種類以上の負極活物質を含有することで、低温出力を維持しながら、サイクル特性を向上することが可能となること、体積基準平均粒径(メジアン径)の差としては、より好ましくは5μm以上差があることが好ましいことが記載されている(段落【0057】)。
(イ)甲1発明の「混合炭素質物(G)」に含まれる「炭素質物(D)」と「炭素質物(A)-2」はそれぞれメジアン径が15.2μm、14.7μmであって類似のメジアン径を有する。
(ウ)一方、甲1の表1には、「炭素質物(D)」のメジアン径と5μm以上異なるメジアン径を有する材料としてメジアン径が9.7μmである「炭素質物(C)」が開示されている。
(エ)そうすると、上記(ア)の記載に基づいて、甲1発明において、さらに低温出力を維持しながら、サイクル特性を向上するために、「炭素質物(D)」と混合する「炭素質物(A)-2」に代えて「炭素質物(D)」のメジアン径と5μm以上差があるメジアン径を有する他の炭素材料を用いること、例えば「炭素質物(C)」を用いること、あるいは、「炭素質物(D)」と「炭素質物(A)-2」に加えて「炭素質物(D)」のメジアン径と5μm以上差があるメジアン径を有する他の炭素材料を混合すること、例えば「炭素質物(C)」を混合して新たな混合炭素質物を得ることは、当業者が容易になし得るものといえる。
(オ)しかしながら、混合炭素質物に含有される各炭素材料、例えば「炭素質物(D)」、「炭素質物(A)-2」、「炭素質物(C)」の含有割合によって、得られる混合炭素質物の粒径分布は大きく異なるものであるから、上記(エ)のように新たな混合炭素質物を得ることによれば、自ずと混合炭素質物が「(2)個数基準の粒度分布において、粒子径11.601μmのときの差分の相対粒子量q0Aと、粒子径7.806μmのときの差分の相対粒子量q0Bとの比(q0A/q0B)が1.20~3.00である」粒度分布を有するものとは認められない。
(カ)さらに、甲1発明は、粒度分布を「体積基準平均粒径」である「メジアン径」で特定しているのに対し、本件特許発明1は、「個数基準の粒度分布」を発明特定事項としている点で両者は異なる点、また、上記(ア)における「体積基準平均粒径(メジアン径)が異なる2種類以上の負極活物質を含有させる」という記載及び甲1の他の記載を考慮しても、甲1発明に基いて、上記(エ)のように混合炭素質物を得る場合に、「(2)個数基準の粒度分布において、粒子径11.601μmのときの差分の相対粒子量q0Aと、粒子径7.806μmのときの差分の相対粒子量q0Bとの比(q0A/q0B)が1.20~3.00である」粒度分布を有するように混合炭素質物に含有される各炭素材料の含有割合を決定する動機も認められない。
(キ)したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件特許発明1の特定事項とすることは、当業者にとって容易になし得ることであるとは言えない。
(ク)上記(2)のとおり、甲2には、負極材に含まれる炭素材料の最大粒径について、入出力特性の点で制御すべきことが記載されているに過ぎず、負極材に含まれる炭素材料の「(2)個数基準の粒度分布において、粒子径11.601μmのときの差分の相対粒子量q0Aと、粒子径7.806μmのときの差分の相対粒子量q0Bとの比(q0A/q0B)が1.20~3.00である」粒度分布とする点について何ら記載されていないから、上記(キ)の判断は、甲2の記載を参照しても同様である。
(ケ)また、本件明細書等には、「(2)個数基準の粒度分布において、粒子径11.601μmのときの差分の相対粒子量q0Aと、粒子径7.806μmのときの差分の相対粒子量q0Bとの比(q0A/q0B)」が3.83であって、その他の特性は本件特許発明1の特定事項を満たす炭素材料を含む、比較例3の電池は、実施例1~4と比較して寿命特性が低いことが示されている(表2)。したがって、本件特許発明1は、「炭素材料」が「(2)個数基準の粒度分布において、粒子径11.601μmのときの差分の相対粒子量q0Aと、粒子径7.806μmのときの差分の相対粒子量q0Bとの比(q0A/q0B)が1.20~3.00である」粒度分布とすることにより、優れた寿命特性を有するという効果を奏することができる(【0033】、表2)。
ウ 小括
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件特許発明2について
ア 本件特許発明2と甲1発明との対比
本件特許発明2と甲1発明を対比する。
(ア)上記(3)ア(ア)と同様に、甲1発明の「X線回折で求めた格子面(002)面のd値であるd002の面間隔が0.336nmの黒鉛である炭素質物(A)-1」は、本件特許発明2の「X線回折法より求めた平均面間隔d002が0.335nm~0.339nmであり、核となる第一の炭素相としての黒鉛材料」に相当する。
(イ)上記(3)ア(ウ)と同様に、甲1発明の「炭素質物(A)-1に石油系重質油を混合し、1300℃の炭化処理を施した後に分級処理することによって得られた」「炭素質物(A)-1粒子表面に」「被着した」「異なる結晶性を有する炭素質物」には、本件特許発明2の「前記第一の炭素相の表面の少なくとも一部に配置される第二の炭素相としての非晶質炭素(結晶性を有する炭素を除く)」が含まれるものと認められる。
(ウ)上記(3)ア(エ)、(オ)のとおり、甲1発明の「混合炭素質物(G)」、「リチウムイオン二次電池用負極活物質」は、それぞれ、本件特許発明2の「炭素材料」、「リチウムイオン二次電池用負極材」に相当する。
(エ)甲1発明の「BET比表面積」は、上記(1)ア(1キ)によれば、「試料に対して窒素流通下350℃で15分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定した値」である一方、本件特許発明2の「77Kでの窒素吸着測定より求めた比表面積」は、本件明細書等の段落【0102】によれば「液体窒素温度(77K)での窒素吸着を多点法で測定し、BET法(相対圧範囲:0.05~0.2)より算出」されるものであるから、両者は測定方法が異なる。
(オ)以上によれば、本件特許発明2と甲1発明とは、以下の一致点において一致するとともに、以下の相違点3~5において相違する。
<一致点>
「X線回折法より求めた平均面間隔d002が0.335nm~0.339nmであり、核となる第一の炭素相としての黒鉛材料と、前記第一の炭素相の表面の少なくとも一部に配置される第二の炭素相としての非晶質炭素(結晶性を有する炭素を除く)と、を含む、リチウムイオン二次電池用負極材」である点。
<相違点3>
本件特許発明2では、「液体窒素温度(77K)での窒素吸着を多点法で測定し、BET法(相対圧範囲:0.05~0.2)より算出」された「炭素材料」の「77Kでの窒素吸着測定より求めた比表面積が0.5m2/g~6.0m2/gである」のに対して、甲1発明では、「試料に対して窒素流通下350℃で15分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定した値」である「混合炭素質物(G)」の「BET比表面積は3.7m2/g」である点。
<相違点4>
本件特許発明2では、「炭素材料」は「(1)個数基準の粒度分布において、差分の相対粒子量q0が最頻値となるときの粒子径が11.601μm以下である」のに対して、甲1発明では、「混合炭素質物(G)」は「体積基準の粒度分布において、メジアン径が13.8μm、モード径が14.8μmである」点。
<相違点5>
本件特許発明2では、「炭素材料」は「(2)個数基準の粒度分布において、粒子径11.601μmのときの差分の相対粒子量q0Aと、粒子径7.806μmのときの差分の相対粒子量q0Bとの比(q0A/q0B)が1.20~3.00である」のに対して、甲1発明では、「混合炭素質物(G)」は「体積基準の粒度分布において、メジアン径が13.8μm、モード径が14.8μmである」点。
イ 相違点5の検討
相違点5は相違点2と同様であるから、上記(3)イで検討したとおり、甲1に記載された発明及び甲2の記載に基いて、相違点5に係る本件特許発明2の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。
ウ 小括
したがって、相違点3,4について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲1に記載された発明及び甲2の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)本件特許発明3~10について
本件特許発明3~10は、本件特許発明1または2の発明特定事項を全て備えたものであるが、上記(3)、(4)で述べたとおり、本件特許発明1または2が、甲1に記載された発明及び甲2の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件特許発明3~10についても同様に、甲1に記載された発明及び甲2の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(6)申立理由のまとめ
したがって、申立理由1によっては、本件特許発明1~10に係る特許を取り消すことはできない。
第5 まとめ
以上のとおりであるから、当審から通知した取消理由及び特許異議の申立ての理由によっては、請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700136