特許訂正審判
2022-390164
乳がんの処置におけるエリブリンの使用
- 審判番号
- 2022-390164
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 訂正審判(訂正の審決)
- 出願番号
- 特願2015-544557
- 登録番号
- 6466339
- 請求日
- 2022年10月07日
- 審決日
- 2023年02月07日
- 公報発行日
- 2023年05月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【請求人】エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント 株式会社
- 【請求人代理人】小林 浩
- 【請求人代理人】北原 潤一
- 【請求人代理人】梶並 彰一郎
- 【請求人代理人】日野 真美
- 【請求人代理人】大森 規雄
- 【請求人代理人】植竹 友紀子
- 審判長/審判官
- 審判長 前田 佳与子
- 審判官 渕野 留香
- 審判官 藤原 浩子
- 分類
- P141 .851-Y (A61K) / P141 .852-Y (A61K) / P141 .853-Y (A61K) / P141 .854-Y (A61K) / P141 .855-Y (A61K) / P141 .856-Y (A61K) / P141 .841-Y (A61K) / P141 .832-Y (A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第126条第1項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6466339号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第6466339号の特許請求の範囲を、令和4年12月21日付け手続補正書により補正された本件審判請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔19〕について訂正することを認める。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第6466339号(以下「本件特許」という。)は、2013年12月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年12月4日 米国(US)、2013年9月16日 米国(US))を国際出願日とする特願2015-544557号の請求項1~26に係る発明について、平成31年1月18日に特許権の設定登録がされたものである。
そして、令和4年10月7日に本件訂正審判の請求がされ、同年11月16日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年12月21日に手続補正書が提出されたものである。
第2 請求の要旨
1 審判請求書の補正について
本件審判請求書についての令和4年12月21日提出の手続補正書による補正は、補正前の訂正事項1が、上記訂正拒絶理由において通知したとおりの訂正事項1a及び訂正事項1bからなるものであったのに対し、訂正事項1bに相当する部分を削除するものである。そして、訂正事項1bに相当する部分を削除する補正は、審理対象の拡張変更を伴わないため、上記手続補正書による補正を、審判請求書の要旨を変更しないものとして許可する。
2 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、令和4年12月21日提出の手続補正書により補正された本件訂正審判請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項19について訂正することを認める、との審決を求めるものである。
3 訂正の内容
令和4年12月21日提出の手続補正書の4.[1](3)「ア 訂正事項1」の記載は以下のとおりである。なお、下線は訂正審判請求人による。
「ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項19に「カペシタビンではなくエリブリンまたはビンではなくエリブリンまたはその薬学的に許容される塩が選択され、前記対象は、カペシタビンでの処置を受けたことがない」に訂正する。」
ここで、上記手続補正書の[2](3)ア「a 訂正の目的について」の記載、及び上記手続補正書に添付された訂正特許請求の範囲の記載から、上記「ビンではなくエリブリンまたは」という余事記載(重複記載)は誤記であること、そして、上記「カペシタビンではなくエリブリンまたは」の前に、「「カペシタビンではなくエリブリンまたはその薬学的に許容される塩が選択される」と記載されているのを、」という記載が欠落していることは、明らかである。
よって、上記手続補正書により補正された本件訂正審判請求(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
また、以下の訂正事項1は、訂正拒絶理由通知において指摘した「訂正事項1a」に相当する。
<訂正事項1>
特許請求の範囲の請求項19に「カペシタビンではなくエリブリンまたはその薬学的に許容される塩が選択される」と記載されているのを、「カペシタビンではなくエリブリンまたはその薬学的に許容される塩が選択され、前記対象は、カペシタビンでの処置を受けたことがない」に訂正する。
第3 当審の判断
1 本件訂正前の請求項19及び本件訂正後の請求項19について
(1)本件訂正前の請求項19について
本件訂正前の請求項19は、
「前記対象の乳がんが(i)HER2陰性、(ii)エストロゲン受容体(ER)陰性、または(iii)HER2陰性、ER陰性およびプロゲステロン受容体(PR)陰性(三種陰性)であるという検出に基づいて、
前記対象を処置するために、カペシタビンではなくエリブリンまたはその薬学的に許容される塩が選択される、請求項1から18のいずれか一項に記載の医薬組成物。」
である。
また、本件訂正前の請求項19は、「請求項1から18のいずれか一項」を引用するものであるところ、請求項2~18は、請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項である。
そして、請求項1は、以下のとおりである。
「(i)HER2陰性乳がん、(ii)エストロゲン受容体(ER)陰性乳がんまたは(iii)HER2陰性、ER陰性およびプロゲステロン受容体(PR)陰性(三種陰性)乳がんを有するとして選択された対象の乳がんの処置のためのエリブリンまたはその薬学的に許容される塩を含み、
対象が受けたことのある再発性または転移性乳がんの以前の乳がん処置レジメンが2種までである、医薬組成物。」
なお、本件訂正前の請求項19及び下記(2)の本件訂正後の請求項19における下線は、本件訂正による訂正箇所を示すものである。
(2)本件訂正後の請求項19について
訂正後の請求項19は、
「前記対象の乳がんが(i)HER2陰性、(ii)エストロゲン受容体(ER)陰性、または(iii)HER2陰性、ER陰性およびプロゲステロン受容体(PR)陰性(三種陰性)であるという検出に基づいて、
前記対象を処置するために、カペシタビンではなくエリブリンまたはその薬学的に許容される塩が選択され、前記対象は、カペシタビンでの処置を受けたことがない、請求項1から18のいずれか一項に記載の医薬組成物。」
である。
そして、本件訂正後の請求項19が引用する請求項1~18は訂正されていない。
なお、以下、請求項1に記載されている「(i)HER2陰性乳がん、(ii)エストロゲン受容体(ER)陰性乳がんまたは(iii)HER2陰性、ER陰性およびプロゲステロン受容体(PR)陰性(三種陰性)乳がんを有するとして選択された対象」を「所定の乳がんを有する対象」ともいい、請求項19に記載されている「(i)HER2陰性、(ii)エストロゲン受容体(ER)陰性、または(iii)HER2陰性、ER陰性およびプロゲステロン受容体(PR)陰性(三種陰性)であるという検出」を「所定の検出」ともいう。
2 訂正の目的
本件訂正前の請求項19の「前記対象」は、請求項19が引用する請求項1に記載されている「所定の乳がんを有する対象」であるので、訂正事項1は、「所定の乳がんを有する対象」について、さらに、「カペシタビンでの処置を受けたことがない」という要件を付加する訂正である。
そして、本件訂正前の請求項19が引用する請求項1の記載によれば、訂正前の請求項19における「所定の乳がんを有する対象」は、「対象が受けたことのある再発性または転移性乳がんの以前の乳がん処置レジメンが2種までである」という特定がされていたところ、訂正事項1は、この対象に対し、更に「前記対象は、カペシタビンでの処置を受けたことがない」という特定を加えて限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
3 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
(1)上記のとおり、訂正事項1は、「所定の乳がんを有する対象」であって、「対象が受けたことのある再発性または転移性乳がんの以前の乳がん処置レジメンが2種までである」対象について、「カペシタビンでの処置を受けたことがない」という特定を加えて、(カペシタビンではなくエリブリンまたはその薬学的に許容される塩が選択されて処置される)対象を限定する訂正である。
そして、以下に示すとおり、本件特許の出願時の技術常識を参酌すれば、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」ともいう。)に記載される、実施例1の「エリブリンの臨床試験」における(カペシタビンではなくエリブリンまたはその薬学的に許容される塩が選択されて処置される)対象は、「所定の乳がんを有する対象」であって、「対象が受けたことのある再発性または転移性乳がんの以前の乳がん処置レジメンが2種まで」であり、「カペシタビンで処置を受けたことがない」対象であったことが理解できるから、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
(2)本件明細書等の記載
本件明細書等には、処置対象の患者が以前に受けた処置に関し、以下の記載がある。
・【0007】
「一部の実施形態では、対象は局所進行性または転移性乳がんである。さらなる実施形態では、対象は、以前の乳がん処置レジメン、例えば、化学治療または生物学的治療を含む乳がん処置レジメンを、0種、1種または2種受けたことがある。・・・」
・【0016】
「本発明は、一定の乳がん患者が、現時点の標準治療薬、カペシタビンによる処置と比較して、エリブリンメシラートによる処置の方から多くの益を得ているという観察に、少なくとも基づいている」
・【0030】~【0031】
「【0030】
以前の処置に基づいて選択する患者の場合に、本発明の方法は、以前の処置レジメン・・・を全く受けたことがない患者の処置を含む。このような患者では、本発明の方法による処置を、種々の例において「一次」処置と呼ぶことができる。
【0031】
一部の実施形態では、本発明の方法は、以前の処置レジメン・・・を1種受けたことがある患者に使用することができ、この場合、本発明の方法による処置を、種々の例において「二次」処置と呼ぶことができる。このような患者は、通常、例えば、抗体(例えばトラスツズマブ)、ホルモン剤、カペシタビン、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシンまたはイダルビシン)、タキサン(例えばパクリタキセルまたはドセタキセル)、白金(例えばシスプラチンまたはカルボプラチン)、またはこれらの組合せの投与を要する1種のレジメンで以前に処置を受けたことがある。別の実施形態では、本発明の方法は、以前の処置レジメンを2種以下受けたことがある患者に使用することができる。他の実施形態では、本発明の方法は、以前の処置レジメンを2種以上受けたことがある患者に使用することができる(種々の例において「三次」と呼ぶことができる)。一部の実施形態では、以前のレジメンは、アントラサイクリン、タキサン、または両方を含んでいる。一部の実施形態では、HER2/neu過剰発現腫瘍とわかっている患者は、トラスツズマブでの処置を受けたことがあってもよい。別の実施形態では、エストロゲンおよび/またはプロゲステロン受容体陽性疾患とわかっている患者はホルモン治療を受けたことがあってもよい。」
・実施例1(【0036】~【0037】)
「【0036】
[実施例1]
エリブリンの臨床試験:乳がんの処置について、エリブリンの有効性を標準治療薬カペシタビンの有効性と比較する第III相臨床試験
エリブリン(エリブリンメシラート)とカペシタビンとの国際共同、無作為化、非盲検、2並行群間、第III相臨床試験を実施した。カペシタビンは、転移性乳がんの処置において、一次、二次および三次設定で広く使用されている。エリブリンメシラートは、転移性乳がんの処置のために、以前に少なくとも2種の化学治療レジメンを受け、その以前の治療にはアントラサイクリンおよびタキサンを含んでいたはずの患者を処置するのに承認されている。この試験は、一次、二次および三次レジメンにおいて、エリブリンでの乳がんの処置の方がカペシタビンでの処置と比較して有利であり、一定の患者集団では、エリブリンでの処置の方が優位な結果を導くことを示している。
【0037】
この試験では、以前の化学治療レジメンを3種まで、および進行疾患および/または転移性疾患に対して以前のレジメンを2種以下受けたことのある1102名の患者を無作為化した。以前のレジメンは、(ネオ)アジュバント設定において、または局所進行性もしくは転移性疾患に対して、アントラサイクリンおよびタキサンを含めていなければならない。患者は、直近の抗がん治療の途中または後での進行の証拠が記録されていなければならない。さらに、HER2/neu過剰発現腫瘍とわかっている患者は・・・トラスツズマブでの処置を受けたことがあってもよく、エストロゲンおよび/またはプロゲステロン受容体陽性疾患とわかっている患者はホルモン治療を受けたことがあってもよい。患者を無作為化して・・・エリブリンメシラートを、または・・・カペシタビンを投与した。」
・図1
図1には、「試験デザイン」として、「局所進行性またはMBC(合議体注:「転移性乳がん」を意味する。)」である患者について、「以前の化学治療レジメン≦3(進行疾患については≦2)」、「(ネオ)アジュバント設定における、または局所進行性もしくはMBC用の以前のアントラサイクリンおよびタキサン」と記載されている。
(3)上記(2)によれば、訂正事項1に関し、本願明細書等の実施例1には、エリブリン(エリブリンメシラート)の有効性を標準治療薬カペシタビンの有効性と比較する第III相臨床試験を行ったことが記載され、「以前の化学治療レジメンを3種まで、および進行疾患および/または転移性疾患に対して以前のレジメンを2種以下受けたことのある」患者を無作為化し、エリブリン(エリブリンメシラート)とカペシタビンのいずれかで処置したこと、処置には、一次~三次レジメンでの処置が含まれ、いずれにおいても、エリブリンまたはその薬学的に許容される塩で処置する場合の方が、カペシタビンで処置する場合よりも、有利であったこと(【0036】~【0037】)、つまり、カペシタビンではなく、エリブリンまたはその薬学的に許容される塩による処置の方が、「一次」(以前の処置レジメンを全く受けたことがない患者を対象とする処置)、「二次」(以前の処置レジメンを1種受けたことがある患者を対象とする処置)及び「三次」(以前の処置レジメンを2種受けたことがある患者を対象とする処置)(【0030】~【0031】)のいずれのレジメンにおいても、カペシタビンでの処置に比べて有利であったことが記載されている。
(4)ここで、乳がんの治療において、一次治療(処置)の効果が乏しくなったときに、二次治療に切り替え、二次治療の効果が乏しくなったときに三次治療に切り替えることは技術常識である(例えば、訂正審判請求人が甲5号証として提出した、The New England Journal of Medicine,1998,Vol.339,No.14,p974-984のFigure2.参照)。
また、乳がんの治療レジメンが切り替えられる対象であって、カペシタビンでの治療歴がある対象は、カペシタビンが奏功しなかった患者であるから、そのような対象をカペシタビンで処置しても効果は期待できず、当然、臨床試験の目的であるエリブリンとカペシタビンの有効性の比較ができなくなるといえる。
そうすると、上記実施例1の試験は、エリブリン(エリブリンメシラート)とカペシタビンの有効性を比較するための臨床試験であり、臨床試験において、無作為化された対象がエリブリン(エリブリンメシラート)又はカペシタビンで処置される以上、当然に、処置対象の患者は、これまでにエリブリン(エリブリンメシラート)での治療歴もカペシタビンでの治療歴もない、すなわち、エリブリン(エリブリンメシラート)での治療(処置)もカペシタビンでの治療(処置)も受けたことがない対象であることが前提となるといえる。
なお、訂正審判請求人が、実施例1の根拠であると主張する甲7号証の臨床試験(301試験)のプロトコールには、実際、臨床試験の対象患者の除外基準として、カペシタビンの治療歴のある患者が挙げられている(7/10頁)(甲7:ClinicalTrials.gov Identifier: NCT00337103.;URL
https://clinicaltrials. gov/ct2/show/NCT00337103?term=eribulin+30l&draw=2&rank=l オンラインによるアクセス・出力日:2022年11月24日)。
(5)以上のとおりであるから、本件特許の出願時の技術常識を参酌すれば、本件明細書等には、(カペシタビンではなくエリブリンまたはその薬学的に許容される塩が選択されて処置される)対象に、「所定の乳がんを有する対象」であって、「対象が受けたことのある再発性または転移性乳がんの以前の乳がん処置レジメンが2種まで」であり、「カペシタビンで処置を受けたことがない」対象が記載されていると認められる。
したがって、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項の規定に適合する。
4 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記2で記載したとおり、訂正事項1は訂正前の発明に、「前記対象は、カペシタビンでの処置を受けたことがない」という特定を加えて限定するものであり、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではないから、特許法第126条第6項の規定に適合する。
5 独立して特許を受けることができるものであること
本件訂正後の請求項19に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとする理由は見当たらないので、訂正事項1は、特許法第126条第7項の規定に適合する。
第4 むすび
以上のとおり、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、かつ同条第5項ないし第7項に規定される要件に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
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