特許拒絶査定不服審判
2022-021156
窒化物半導体発光素子
- 審判番号
- 2022-021156
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-071088外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年12月27日
- 審決日
- 2024年08月05日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ウシオ電機株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-WZ (H01S)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018- 71088「窒化物半導体発光素子」拒絶査定不服審判事件〔令和 元年10月24日出願公開、特開2019-186262〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1 手続の経緯
本願は、平成30年4月2日の出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和4年 1月31日付け:拒絶理由通知書
同年 4月 1日 :意見書及び手続補正書の提出
同年 6月30日付け:拒絶理由通知書
同年 9月 1日 :意見書及び手続補正書の提出
同年10月 3日付け:拒絶査定
同年12月27日 :審判請求書の提出
令和5年12月 7日付け:拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由通知書
」という。)
令和6年 1月31日 :意見書及び手続補正書の提出
2 本願発明
本願の請求項1~7に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)は、令和6年1月31日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)後の請求項1~7に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、その請求項1の記載は、次のとおりである。
<本願発明>
「窒化物半導体発光素子であって、
(0001)面に対して0.5°以上1.0°以下のオフ角を有してなる主面を含む窒化物半導体基板と、
前記窒化物半導体基板の前記主面の上層に形成された、n型又はp型の窒化物半導体からなる第一半導体層と、
前記第一半導体層の上層に形成され、In組成が2%以上の窒化物半導体からなる第二半導体層と、
前記第二半導体層の上層に形成され、前記第二半導体層よりもIn組成の高い窒化物半導体からなる井戸層、及び窒化物半導体からなる障壁層が積層されてなる活性層と、
前記活性層の上層に形成され、前記第一半導体層とは導電型の異なる第三半導体層と、
前記窒化物半導体基板の前記主面と前記第一半導体層との間であって、前記窒化物半導体基板の前記主面の直上に形成され、In組成が2%以上であって、且つ前記井戸層よりもIn組成の低い、窒化物半導体からなる第四半導体層とを備え、
前記井戸層は、Alを含む窒化物半導体からなり、
前記窒化物半導体発光素子がレーザ素子であることを特徴とする、窒化物半導体発光素子。」
3 当審拒絶理由通知書における拒絶理由の概要
本願発明は、本件補正前の請求項1の記載を引用する請求項2の記載を引用する請求項9に係る発明に対応するところ、当審拒絶理由通知書は、本件補正前の請求項1、2及び9に係る発明に対する、次の理由を含むものである。
この出願の請求項1、2及び9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である引用文献1に記載された発明及び引用文献2~6に記載された周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
1.特開2009-218623号公報
2.特開平10-117016号公報(周知技術を示す文献)
3.特開平11-251253号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2003-31552号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2011-138891号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2008-227103号公報(周知技術を示す文献)
4 当審の判断
(1) 引用文献の記載及び引用発明の認定
ア 当審拒絶理由通知書で引用された特開2009-218623号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は当審合議体が付した、以下同じ。)。
「【0072】
(実施例1)
図3(a)~図3(c)は、本実施の形態に係る実施例の半導体レーザの構造を示す図面である。図4(a)~図4(c)は、図3に示された半導体レーザのバンドダイアグラムを示す図面である。
【0073】
図5は、半導体レーザLD1の作製のための主要な工程フローを示す図面である。図3(a)に示された半導体レーザLD1の作製を図5を参照しながら説明する。半導体レーザLD1は、有機金属気相成長法により作製された。原料にはトリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMI)、アンモニア(NH3)、シラン(SiH4)、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CP2Mg)を用いた。工程フロー100の工程S101では、GaNウエハを準備する。GaNウエハはn型GaNからなり、オフ角0.3度の主面を有する。GaNウエハを有機金属気相成長炉(以下、成長炉として参照する)に配置した。成長炉にアンモニア及び水素を供給して、これらのガスを含む雰囲気中、摂氏1050度の温度で、GaNウエハの熱処理工程を行った。工程S102では、摂氏1150度の温度で、GaNウエハ上にAlGaNクラッド層を成長した。AlGaNクラッド層は、例えば厚さ2μmのn型Al0.04Ga0.96Nである。
【0074】
工程S103では、成膜温度TG1で、AlGaNクラッド層上にInGaN光ガイド層を成長した。成膜温度TG1は例えば摂氏840度の温度である。InGaN光ガイド層は、例えば厚さ100nmのアンドープIn0.04Ga0.96Nである。このInGaN光ガイド層のインジウム組成は、後ほど成長されるInGaN障壁層のインジウム組成よりも大きい。工程S104では、成膜温度TB2で、InGaN光ガイド層上にInGaN障壁層を成長した。成膜温度TB2は、本実施例では成膜温度TG1はよりも高く、例えば摂氏860度の温度である。InGaN障壁層は、例えば厚さ15nmのアンドープIn0.02Ga0.98Nである。工程S105では、摂氏800度の温度で、InGaN障壁層上にInGaN井戸層を成長した。InGaN井戸層は、例えば厚さ3nmのアンドープIn0.18Ga0.82Nである。工程S106では、成膜温度TB1で、InGaN光ガイド層上にInGaN障壁層を成長した。成膜温度TB1は、成膜温度TG1はよりも高く、また本実施例では成膜温度TB2と同じであり、例えば摂氏860度の温度である。InGaN障壁層は、例えば厚さ15nmのアンドープIn0.02Ga0.98Nである。次いで、工程S105と同様に、摂氏800度の温度で、InGaN障壁層上にInGaN井戸層を成長した。この後に、工程S106と同様に、成膜温度TB1で、InGaN井戸層上にInGaN障壁層を成長した。そして、工程S105と同様に、摂氏800度の温度で、InGaN障壁層上にInGaN井戸層を成長した。このように、工程S105及びS106を所望の回数(例えば2回)繰り返した後に、工程S107では、成膜温度TB3で、InGaN井戸層上にInGaN障壁層を成長した。成膜温度TB3は、本実施例では成膜温度TG1はよりも高く、例えば摂氏860度の温度である。InGaN障壁層は、例えば厚さ15nmのアンドープIn0.02Ga0.98Nである。これによって、3層の井戸層を含むInGaN活性層が作製された。
【0075】
工程S108では、温度TB2よりも低い成膜温度TG2の温度で、InGaN活性層上にInGaN光ガイド層を成長した。成膜温度TG2は例えば摂氏840度である。InGaN光ガイド層は、例えば厚さ100nmのアンドープIn0.04Ga0.96Nである。このInGaN光ガイド層のインジウム組成は、InGaN障壁層のインジウム組成よりも大きい。光導波領域の形成において、インジウム組成が高いほど、成長温度は低い。光ガイド層の成長温度(例えば、摂氏840度)よりも、障壁層の成長温度(例えば摂氏860度)よりも高いので、障壁層の形成の際に結晶品質の回復が可能になる。回復された結晶品質の障壁層上に井戸層を形成するので、井戸層の結晶品質も良好になる。
【0076】
本実施例におけるInGaN光ガイド層の成長温度は、摂氏760度以上であることが好ましい。InGaN光ガイド層の成長温度は、摂氏880度以下であることが好ましい。また、本実施例におけるInGaN井戸層の成長温度は、摂氏700度以上であることが好ましい。また、InGaN井戸層の成長温度は、摂氏840度以下であることが好ましい。さらに、本実施例における障壁層の成長温度は、摂氏800度以上であることが好ましい。障壁層の成長温度は、摂氏920度以下であることが好ましい。障壁層の成長温度は光ガイド層の成長温度よりも大きい光ガイド層の成長温度は、井戸層の成長温度より大きい。
【0077】
工程S109で、摂氏1100度の温度で、InGaN光ガイド層上にAlGaN電子ブロック層を成長した。AlGaN電子ブロック層は、例えば厚さ20nmのp型Al0.12Ga0.88Nである。工程S110では、摂氏1100度の温度で、AlGaN電子ブロック層上にAlGaNクラッド層を成長した。AlGaNクラッド層は、例えば厚さ400nmのp型Al0.04Ga0.96Nである。工程S111では、摂氏1100度の温度で、AlGaNクラッド層上にGaNコンタクト層を成長した。GaNコンタクト層の厚さは、例えば50nmである。これによって、エピタキシャルウエハが作製された。成長炉からエピタキシャルウエハを取り出した後に、工程S112では、コンタクト層上に絶縁膜を成長した。絶縁膜は、例えばCVD法で成長されたシリコン酸化物からなる。幅10μmコンタクト窓を形成した。」
「【0097】
図8は、カソードルミネッセンスを測定するためのエピタキシャルウエハの構造を示す図面である。電子線を用いて発光層の電子線像を得るためには、エピタキシャルウエハEは、実施例1、2等のエピタキシャルウエハと異なり、p側InGaN光ガイド層及びp型クラッド層を含まない。a軸の方向に2度オフした主面のGaNウエハと、c面ジャストの主面を有するGaNウエハとを準備して、これらのウエハ上にエピタキシャル成長を行った。図9はカソードルミネッセンス(CL)像を示す図面である。図9(a)を参照すると、島状のCL像が観察された。この像は、多重量子井戸構造が島状に成長されたことを示している。図9(b)を参照すると、筋状のCL像が観察された。この像は、多重量子井戸構造がステップフロー成長により形成されたことを示している。オフ角度が大きくなるにつれて、ステップ密度が高くなる。このため、島状成長が抑制される。発明者らの実験によれば、GaN、InGaNといったIII族窒化物半導体からなるウエハ主面のオフ角は、III族窒化物半導体のc面に対して1度以上の角度で傾斜していることが好ましく、III族窒化物半導体のc面に対して50度以下の角度で傾斜していることが好ましい。このIII族窒化物半導体レーザによれば、c面から傾斜した表面は、高いインジウム組成のInGaNを成長することに好適である。また、オフ角は10度以上であるとき、ピエゾ電界を低減できるという利点がある。」
「【0099】
(実施例4)
a軸方向に2度、20度、40度のオフ角を有するGaNウエハを準備した。これらのGaNウエハ上に実施例1と同じレーザ構造を上に作製した。レーザ導波路をm軸の方向に形成した。電極を形成した後に、m面で劈開してレーザバーを作製した。
オフ角 閾値電流
0.3度 550mA(実施例1)
2度 500mA
20度 550mA
40度 550mA
2度オフのGaNウエハ上に作製された半導体レーザのしきい値電流は約500mAであり、実施例1に比べて低くなった。ステップフロー成長で結晶品質や表面平坦性が改善された効果と考えられる。20度、40度のオフ角のGaNウエハ上に作製された半導体レーザのしきい値電流は、実施例1と同等又は僅かに高かった。オフ角が大きくなると、InGaN層の成長においてインジウムの取り込みにくくなる。このため、InGaNの成長温度を下げることが必要であった。しかしながら、しきい値電流が実施例1とほぼ同等であることは、更なる改善が可能であると考えられる。これらのオフ角のウエハでは、ピエゾ電界が小さいので、実施例1に比べてレーザ発振までのブルーシフトが小さい。」
「【0112】
さらに、オフ角を有する自立GaNウエハを用いる。InGaN領域が厚くなっても、結晶品質の低下が生じにくい。InGaN領域が厚くなると島状の表面モフォロジが生じやすい。大きなオフ角のGaN基板の使用により、基板主面のステップ密度が多くなる。このため、島状の表面モフォロジが抑制される。」
「図3(a)
[図:0001414603000001.jpg]
」
「図5
[図:0001414603000002.jpg]
」
イ 前記アの記載より把握できる技術事項の認定
実施例1に係る半導体レーザLD1について、当業者は次の技術事項を把握できると認められる。
(ア) 半導体レーザLD1は、図3(a)に記載された構造並びに図5及び【0073】~【0077】に記載された作製工程に照らして、次の構造を有すると認められる(工程フローに係る工程名を参考までに括弧内に付してある。)。
「オフ角0.3度の主面を有するGaN基板(GaNウエハ)と、(S101)
GaN基板上に形成されたn型AlGaNクラッド層と、(S102)
n型AlGaNクラッド層上に形成されたアンドープInYGa1-YN光ガイド層と、(S103)
アンドープInYGa1-YN光ガイド層上に形成されたInGaN障壁層及びInGaN井戸層を含むInGaN活性層と、(S104~S107)
InGaN活性層上に形成されたアンドープInZGa1-ZN光ガイド層と、(S108)
アンドープInZGa1-ZN光ガイド層上に形成されたp型AlGaN電子ブロック層と、(S109)
p型AlGaN電子ブロック層上に形成されたp型AlGaNクラッド層と、(S110)
p型AlGaN上に形成されたp型GaNコンタクト層と、(S111)
を有する半導体レーザ。」
(イ) 半導体レーザLD1のオフ角0.3度の主面を有するGaN基板(前記(ア))において、オフ角はc面に対するものであり、したがって、当該「主面」は、c面に対して傾斜した面であること。
すなわち、半導体レーザLD1の「GaN基板(GaNウエハ)」は、【0073】の記載のとおり、「オフ角0.3度の主面」を有しているところ、引用文献1には、このオフ角がどの面に対するものなのかの明記はない。
しかしながら、窒化物半導体発光素子の技術分野では、基板の主面がc面であることが一般的であり、当該発光素子が半導体レーザであっても同様であることに照らせば、特段の記載がなければ、「オフ角」もc面に対するものと解するのが自然であり、したがって、半導体レーザLD1の「オフ角0.3度の主面」も、c面に対するものと解するのが自然である。そして、この理解は、【0097】の「c面から傾斜した表面は、高いインジウム組成のInGaNを成長することに好適である。」との記載からみても首肯できる。
ウ 引用発明の認定
前記ア及びイより、引用文献1には、実施例1に係る半導体レーザLD1について、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考までに、引用発明の認定に用いた引用文献1の記載等に係る段落番号等を括弧内に付してある。
<引用発明>
「オフ角0.3度の主面を有するGaN基板と、
GaN基板上に形成されたn型AlGaNクラッド層と、
n型AlGaNクラッド層上に形成されたアンドープInYGa1-YN光ガイド層と、
アンドープInYGa1-YN光ガイド層上に形成されたInGaN障壁層及びInGaN井戸層を含むInGaN活性層と、
InGaN活性層上に形成されたアンドープInZGa1-ZN光ガイド層と、
アンドープInZGa1-ZN光ガイド層上に形成されたp型AlGaN電子ブロック層と、
p型AlGaN電子ブロック層上に形成されたp型AlGaNクラッド層と、
p型AlGaN上に形成されたp型GaNコンタクト層と、を有する半導体レーザであって、(前記イ(ア))
GaN基板のオフ角0.3度の主面は、c面に対して傾斜した面であり、(前記イ(イ))
n型AlGaNクラッド層は、n型Al0.04Ga0.96Nであり、(【0073】)
アンドープInYGa1-YN光ガイド層は、In0.04Ga0.96Nであり、
InGaN障壁層は、アンドープIn0.02Ga0.98Nであり、
InGaN井戸層は、アンドープIn0.18Ga0.82Nである、(【0074】)
半導体レーザ。」
(2) 本願発明と引用発明の対比(一致点及び相違点の認定)
ア 本願発明の「(0001)面に対して0.5°以上1.0°以下のオフ角を有してなる主面を含む窒化物半導体基板と、」との特定事項について
引用発明は、「オフ角0.3度の主面を有するGaN基板」を有し、「GaN基板のオフ角0.3度の主面は、c面に対して傾斜した面であり」との構成を備えているところ、引用発明の「GaN基板」は、本願発明の「窒化物半導体基板」に相当し、本願発明と引用発明は「(0001)面に対して」「オフ角を有してなる主面を含む窒化物半導体基板」を備える点で共通するといえる。
イ 本願発明の「前記窒化物半導体基板の前記主面の上層に形成された、n型又はp型の窒化物半導体からなる第一半導体層と、」との特定事項について
引用発明の「n型AlGaNクラッド層」は、本願発明の「第一半導体層」に相当し、「GaN基板上に形成された」層であるから、本願発明でいう「前記窒化物半導体基板の前記主面の上層に形成された、n型又はp型の窒化物半導体からなる」ものといえる。
したがって、引用発明は、本願発明の前記特定事項を満たしている。
ウ 本願発明の「前記第一半導体層の上層に形成され、In組成が2%以上の窒化物半導体からなる第二半導体層と、」との特定事項について
引用発明の「アンドープInYGa1-YN光ガイド層」は、本願発明の「第二半導体層」に相当し、「n型AlGaN上に形成された」層であって、その組成は「In0.04Ga0.96N」であるから、本願発明でいう「前記第一半導体層の上層に形成され、In組成が2%以上の窒化物半導体からなる」ものといえる。
したがって、引用発明は、本願発明の前記特定事項を満たしている。
エ 本願発明の「前記第二半導体層の上層に形成され、前記第二半導体層よりもIn組成の高い窒化物半導体からなる井戸層、及び窒化物半導体からなる障壁層が積層されてなる活性層と、」との特定事項について
(ア) 引用発明の「InGaN障壁層」、「InGaN井戸層」及び「InGaN活性層」は、それぞれ本願発明の「障壁層」、「井戸層」及び「活性層」に相当する。
(イ) 引用発明の「InGaN活性層」は、「アンドープInYGa1-YN上に形成されたInGaN障壁層及びInGaN井戸層を含む」層であるから、本願発明でいう「前記第二半導体層の上層に形成され」た「井戸層、及び窒化物半導体からなる障壁層が積層されてなる」ものといえる。
(ウ) 引用発明の「InGaN井戸層」は、「アンドープIn0.18Ga0.82N」であって、In組成が18%であり、また、前記ウのとおり、引用発明の「アンドープInYGa1-YN光ガイド層」(本願発明の「第二半導体層」に相当。)は、「In0.04Ga0.96N」であって、In組成が4%である。そうすると、当該「InGaN井戸層」は、本願発明でいう「前記第二半導体層よりもIn組成の高い窒化物半導体からなる」ものといえる。
(エ) したがって、引用発明は、本願発明の前記特定事項を満たしている。
オ 本願発明の「前記活性層の上層に形成され、前記第一半導体層とは導電型の異なる第三半導体層と、」との特定事項について
引用発明の「p型AlGaNクラッド層」は、本願発明の「第三半導体層」に相当する。そして、当該「p型AlGaNクラッド層」は、「p型」であり、「p型AlGaN電子ブロック層上に形成された」層であるところ、当該「p型AlGaN電子ブロック層」は、「InGaN活性層上に形成されたアンドープInZGa1-ZN光ガイド層」「上に形成された」層であるから、本願発明でいう「前記活性層の上層に形成され、前記第一半導体層とは導電型の異なる」ものといえる。
したがって、引用発明は、本願発明の前記特定事項を満たしている。
カ 本願発明の「前記窒化物半導体基板の前記主面と前記第一半導体層との間であって、前記窒化物半導体基板の前記主面の直上に形成され、In組成が2%以上であって、且つ前記井戸層よりもIn組成の低い、窒化物半導体からなる第四半導体層とを備え、」との特定事項について
引用発明は、そのような層を備えていない。
キ 本願発明の「前記井戸層は、Alを含む窒化物半導体からなり、」との特定事項について
引用発明の「井戸層」は、「InGaN」である。
ク 本願発明の「窒化物半導体発光素子であって」、「前記窒化物半導体発光素子がレーザ素子である」との特定事項について
引用発明は、「InGaN活性層」「を有する半導体レーザ」であるから、本願発明の前記特定事項を満たしている。
ケ 以上を総合すると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「窒化物半導体発光素子であって、
(0001)面に対してオフ角を有してなる主面を含む窒化物半導体基板と、
前記窒化物半導体基板の前記主面の上層に形成された、n型又はp型の窒化物半導体からなる第一半導体層と、
前記第一半導体層の上層に形成され、In組成が2%以上の窒化物半導体からなる第二半導体層と、
前記第二半導体層の上層に形成され、前記第二半導体層よりもIn組成の高い窒化物半導体からなる井戸層、及び窒化物半導体からなる障壁層が積層されてなる活性層と、
前記活性層の上層に形成され、前記第一半導体層とは導電型の異なる第三半導体層とを備え、
前記井戸層は、Alを含む窒化物半導体からなり、
前記窒化物半導体発光素子がレーザ素子である、窒化物半導体発光素子。」
<相違点>
・相違点1
(0001)面に対する「オフ角」について、本願発明は「0.5°以上1.0°以下」であるのに対し、引用発明は「0.3度」である点。
・相違点2
本願発明は、「前記窒化物半導体基板の前記主面と前記第一半導体層との間であって、前記窒化物半導体基板の前記主面の直上に形成され、In組成が2%以上であって、且つ前記井戸層よりもIn組成の低い、窒化物半導体からなる第四半導体層」を備えているのに対し、引用発明は、そのような層を備えていない点。
・相違点3
「井戸層」について、本願発明は「Al」を含むのに対し、引用発明は「InGaN」である点。
(3) 判断
ア 相違点1について
(ア) 引用発明を開示する引用文献1には、「オフ角度が大きくなるにつれて、ステップ密度が高くなる。このため、島状成長が抑制される。」(【0097】)、「さらに、オフ角を有する自立GaNウエハを用いる。InGaN領域が厚くなっても、結晶品質の低下が生じにくい。InGaN領域が厚くなると島状の表面モフォロジが生じやすい。大きなオフ角のGaN基板の使用により、基板主面のステップ密度が多くなる。このため、島状の表面モフォロジが抑制される。」(【0112】)と記載されているところ、これらの記載によれば、当業者は、オフ角度が大きくなるにつれて、InGaNの結晶品質の低下が生じにくくなることを理解できるといえる。
また、同じく引用文献1(【0099】)には、実施例4として、a軸方向に2度のオフ角を有するGaNウエハ上に実施例1と同じレーザ構造を作製した例が記載されているところ、しきい値電流が、オフ角0.3度の実施例1では550mAであるのに対し、オフ角2度の当該実施例4では500mAであって、実施例1に比べて低くなったことが記載されているとともに、この作用機序が、ステップフロー成長で結晶品質や表面平坦性が改善された効果と考えられると記載されている。そうすると、前記理解をも踏まえると、当業者は、オフ角が0.3度から2度に向けて大きくなるにつれて、閾値電流が低減されていくものと理解できるといえる。
(イ) 前記(ア)によれば、引用発明から出発した当業者であれば、InGaNからなる層の結晶品質の低下を抑制し、閾値電流を低くするために、そのオフ角を、0.3度から2度の範囲において適宜設計し得るものといえる。その際、オフ角は、角度が小さい方が加工性が向上するのが明らかである(必要があれば、例えば、当審拒絶理由通知書で引用した特開2006-156958号公報の【0040】を参照。)ことからすると、相違点1に係る本願発明のように「0.5°以上1.0°以下」のオフ角とすることも当業者が適宜選択し得たことといえる。
イ 相違点2について
GaN基板上にAlGaN層を形成するに際して、GaN基板とAlGaN層との間に、Inの組成比がAlGaN層のクラック発生を抑制し得る程度の値であるInGaNクラック防止層を配置することは周知技術であると認められる。すなわち、例えば、当審拒絶理由通知書で引用した特開平10-117016号公報の【0057】及び【0058】では、SiドープGaNよりなるn型コンタクト層1ウェーハに、SiドープIn0.1Ga0.9Nよりなるクラック防止層を成長させ、その上にAlGaN(Siドープn型Al0.2Ga0.8N)を成長させている。同じく特開平11-251253号公報の【0042】~【0044】では、GaNよりなるn側コンタクト層5上に、In0.06Ga0.94Nよりなるクラック防止層22を成長させ、アンドープAl0.16Ga0.84N層及びn型GaN層を交互に積層した超格子よりなるn側クラッド層23を成長させている。同じく特開2003-31552号公報の【0038】では、n型GaN基板100の上に、n型In0.07Ga0.93Nクラック防止層101、n型Al0.1Ga0.9Nクラッド層102を形成している。
そして、引用発明において、「GaN基板」と「n型AlGaNクラッド層」(n型Al0.04Ga0.96N)との間の格子不整合に起因して「n型AlGaN」にクラックが生じ得ることは、当業者にとって明らかなことといえるから、引用発明に前記周知技術を適用する動機はあるといえる。
したがって、引用発明の「GaN基板」と「n型AlGaNクラッド層」との間に、そのInの組成比が、「n型AlGaNクラッド層」のクラック発生を抑制し得る程度の値である「InGaNクラック防止層」を形成することは、当業者が容易になし得たことといえる。そして、その際のIn組成を2%以上かつ(InGaN井戸層のIn組成である)18%以下とすることは、前記各周知例で用いられるInGaNクラック防止層のIn組成の値からみても、格別のものとはいえない。
ウ 相違点3について
井戸層の材料やその組成比は、当該井戸層より得られる光の発光波長等を踏まえ、当業者が適宜設計し得るものといえるところ、井戸層をAlInGaNで構成することは周知技術である(例えば、当審拒絶理由通知書で引用した特開2011-138891号公報の【0043】、特開2008-227103号公報の【0017】参照。)と認められる。
そして、引用発明の「井戸層」は「InGaN」であるところ、当該「井戸層」の材料は、発光波長等を考慮して、当業者が適宜設計し得るものといえるから、前記のとおり、引用発明の「InGaN井戸層」をAlInGaNによって構成することは、当業者が適宜なし得る設計事項ということができる。
エ 総合検討
本願発明の効果は、活性層内における面状欠陥の発生を抑制して、発光素子の発光効率を向上させることである(本願の明細書の【0021】)ところ、そのような効果は、オフ角を有するGaN基板に半導体レーザを作成すると、ステップフロー成長で結晶品質や表面平坦性が改善され、半導体レーザの閾値電流が低くなるという引用発明の奏する効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということもできない。
オ 請求人の主張について
(ア) 請求人は、引用文献1には、オフ角を1.0度以下にすることの示唆について言及がない旨を主張し、本願発明においてオフ角を「1.0°以下」とする理由について、本願発明はレーザ素子に係るものであり、導波路を構成する活性層の傾斜が大きくなり過ぎると、活性層の端面における光の反射時に内部損失が発生してしまうことを挙げている。また、請求人は、引用文献1の「オフ角は10度以上であるとき、ピエゾ電界を低減できるという利点がある。」(【0097】)との記載を挙げ、そうである以上、引用発明から出発した当業者が、オフ角を1.0度以下にする理由がない旨を主張していると解される。
しかしながら、引用文献1には、実施例1としてオフ角が0.3度の態様が記載されているし、当該文献のオフ角が10度以上のときの利点に係る記載は、ピエゾ電界の低減という結晶性の向上とは異なる観点に係るものであるから、請求人が主張する理由によって、引用発明から出発した当業者が、1.0度以下のオフ角を採用しないとはいえない。
また、請求人が主張する「導波路を構成する活性層の端面における光の反射時に内部損失が発生してしまう」との事象は、オフ角が(0001)面に対して何度であるかのみを特定すれば生じるのではなく、そのオフ角が0度であると仮定したときの方向(そのオフ面と(0001)面の交線に直交する直線の当該面への正射影の方向)が導波路端面の面方位と一致するときに生じる事象であるといえる。しかるところ、本願発明において、導波路端面の面方位及び上記の方向は特定されていないことから、当該事象を防ぐという効果は、本願発明の特定事項に基づかない主張である。仮に、請求人の主張する効果が奏される構成が、必然的に定まる構成により奏されるものであったとしても、そのような技術事項は、当審拒絶理由通知書で引用した特開2006-156958号公報の【0041】に記載されている。
(イ) 請求人は、井戸層がAlを含む窒化物半導体で構成されているため、結晶成長時にInの表面拡散長が低下し、Inの偏析に伴う暗点の発生を抑制する効果が更に高められる旨を主張している。
この点、本願の明細書の【0073】に請求人が主張する効果の記載はあるものの、当該効果についての検証はなされておらず、そのような事象が技術常識であるともいえないから、請求人の前記主張は、前記ウの説示を左右するものではない。
(ウ) 請求人は、第四半導体層を備えているから、In組成の高い活性層を含む窒化物半導体を形成するに際して基板の反りが低減できると共に、部分的な結晶の緩和の導入により、活性層や第二半導体層の成長中におけるInの偏析の抑制に繋がるという効果が得られる旨を主張している。
この点、本願の明細書の【0014】に請求人が主張する効果の記載はあるものの、当該効果についての検証はなされていない。
また、これを措くとしても、上記効果は、当業者が予測し得るものである。すなわち、前記イのとおり、GaN基板上にAlGaN層を形成するに際して、GaN基板とAlGaN層との間に、Inの組成比がAlGaN層のクラック発生を抑制し得る程度の値であるInGaNクラック防止層を配置することは周知技術であるところ、このクラック防止層は、クラックが応力により生じることに照らせば、その上にあるAlGaN層に掛かる応力を小さくするためのものと解される。そして、AlGaN層に掛かる応力が小さくなる以上、応力に起因すると考えられる現象(基板の反りやInの偏析)が低減することは、明らかなことといえる。
(エ) 以上のとおりであるから、請求人の前記(ア)~(ウ)の主張は、採用し得ないものである。
カ 小括
よって、本願発明は、引用発明及び前記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-021156